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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B05D
管理番号 1381906
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-10 
確定日 2022-02-02 
事件の表示 特願2017−500027「装飾被膜を製造するための塗装法と塗装設備」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日国際公開、WO2016/000826、平成29年 8月 3日国内公表、特表2017−521247〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年7月4日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
平成31年 4月24日付け:拒絶理由通知
令和 1年 8月 6日: 意見書、手続補正書の提出
令和 2年 1月15日付け:拒絶査定
同年 4月10日: 審判請求書、手続補正書の提出
同年10月15日: 上申書の提出

第2 令和2年4月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 令和2年4月10日付けの手続補正の内容
令和2年4月10日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、令和1年8月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載である、
「【請求項1】
部品(2)に装飾(4)を塗装するための(特に、自動車車体部品を塗装するための)塗装法であって、
a)前記部品(2)上に下地塗装層(3)を塗布する工程と、
b)特に、風乾(例えば、+60℃から+80℃の空気温度の風乾)により、前記部品(2)の全体上で前記下地塗装層(3)を中間乾燥する工程、
c)中間乾燥した前記下地塗装層(3)上に限定区域装飾層(4)(特に、装飾ストライプ、グラフィック、コントラスト表面、又はパターン)を塗布する工程であって、
c1)前記装飾層(4)は、前記部品(2)上に限定区域装飾領域を含み、
c2)前記装飾層(4)は、シャープなエッジでオーバースプレーなく被膜剤を塗布する塗布器により塗布される、
工程と、
d)揮発性成分の含量を減らすために乾燥領域(5、8)内の前記装飾層(4)を区域を限定して乾燥させる工程であって、
d1)前記乾燥領域(5、8)は、前記装飾領域を少なくとも部分的に包含し、
d2)前記部品(2)は、前記乾燥領域(5、8)内の限定された区域内でのみ乾燥され、
d3)前記乾燥領域(5、8)は、特に、乾燥ユニット(1)を前記部品(2)の上で移動させる多軸乾燥ロボットにより、前記部品(2)の上で移動させられる、
工程と、
e)前記下地塗装層(3)及び前記装飾層(4)上に仕上げ塗装層を塗布する工程と、
を備える、
ことを特徴とする塗装法。」
を、
「【請求項1】
部品(2)に装飾(4)を塗装するための(特に、自動車車体部品を塗装するための)塗装法であって、
a)前記部品(2)上に下地塗装層(3)を塗布する工程と、
b)特に、風乾(例えば、+60℃から+80℃の空気温度の風乾)により、前記部品(2)の全体上で前記下地塗装層(3)を中間乾燥する工程と、
c)中間乾燥した前記下地塗装層(3)上に限定区域装飾層(4)(特に、装飾ストライプ、グラフィック、コントラスト表面、又はパターン)を塗布する工程であって、
c1)前記装飾層(4)は、前記部品(2)上に限定区域装飾領域を含み、
c2)前記装飾層(4)は、シャープなエッジでオーバースプレーなく被膜剤を塗布する塗布器により塗布される、
工程と、
d)揮発性成分の含量を減らすために乾燥領域(5、8)内の前記装飾層(4)を区域を限定して乾燥させる工程であって、
d1)前記乾燥領域(5、8)は、前記装飾領域を少なくとも部分的に包含し、
d2)前記部品(2)は、前記乾燥領域(5、8)内の限定された区域内でのみ乾燥され、
d3)前記乾燥領域(5、8)は、乾燥ユニット(1)を前記部品(2)の上で移動させる多軸乾燥ロボットにより、前記部品(2)の上で移動させられる、
工程と、
e)前記下地塗装層(3)及び前記装飾層(4)上に仕上げ塗装層を塗布する工程と、
を備え、
前記部品(2)は突出した部品縁を有し、前記乾燥ユニット(1)は前記部品縁を有する前記部品(2)の形状に適合された形状を有する、
ことを特徴とする塗装法。」
と補正する事項を含むものである(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。また、本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)。

2 本件補正の適否
(1)新規事項の追加について
本件補正は、請求項1におけるd3)に関し、その特定事項から「特に」を削除することにより、「特に」によって限定されていた事項につき、当該事項以外を含まないように限定したものであって、本件補正前の請求項1には、「特に」によって限定されていた事項が記載されている。
また、請求項1における乾燥ユニット(1)及び部品(2)に関し、審判請求書によると、明細書の段落【0088】における「図8Dに係る本発明の変形例では、部品2は図面上方に向けて突出した部品縁を備え、そして、乾燥ユニット1はこれに応じて適合して形成されている。」との記載に根拠を有する。
そうすると、本件補正が当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないといえるため、本件補正は、新規事項を追加する補正ではない。

(2)本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、d3)において、その特定事項から「特に」を削除することにより、「特に」によって限定されていた事項につき、当該事項以外を含まないように限定したものである。
また、本件補正前の「乾燥ユニット(1)」に関し、「部品(2)の形状に適合された形状を有する」こと、及び、装飾(4)を塗装する対象の部品(2)に関し、「突出した部品縁を有」することを、更に限定するものである。
そして、いずれの限定においても、本件補正の前後で請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、いわゆる限定的減縮を目的とするものを含むものである。

(3)独立特許要件の検討
そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

明確性について
(ア)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下検討する。

(イ)判断
本件補正発明に係る本件補正後の請求項1には、「前記部品(2)は突出した部品縁を有し、前記乾燥ユニット(1)は前記部品縁を有する前記部品(2)の形状に適合された形状を有する」と記載されている。
当該記載から、「部品(2)」は、その「突出した部品縁」を有した形状を有するものと解される。
しかしながら、「縁(へり)」とは「ふち。はし。また、そこにつけた布など。「机の―」「―をとる」」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)と一般的に解されるところ、本件補正発明において部品縁と呼ぶべき場所が、どのように、どの向きに突出し、結果としてどのような形状をなしているのか、この記載では不明であるから、この部品の形状が明確に特定されず、その結果、「前記乾燥ユニット(1)は前記部品縁を有する前記部品(2)の形状に適合された形状を有する」という記載で特定される、本件補正発明の塗装法で用いる「乾燥ユニット(1)」が不明なものとなっている。
なお、本願の明細書の記載及び図面を参酌するに、対応箇所である、段落【0088】には、「図8Dに係る本発明の変形例では、部品2は図面上方に向けて突出した部品縁を備え、そして、乾燥ユニット1はこれに応じて適合して形成されている。」と記載され、下に摘記したように該【図8D】として、部品(2)の中央部分が図面の上方に、への字状に屈曲している記載は看視できるが、突出した縁、すなわち「ふち」や「はし」の存在は看視できず、突出した部品縁の形状は依然不明である。
「【図8D】


よって、特許請求の範囲の記載は明確でなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

(ウ)明確性についてのまとめ
したがって、本件補正発明は、明確でないから、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を充足するとはいえず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえない。

新規性及び進歩性について
仮に、本件補正発明における、「前記部品(2)は突出した部品縁を有し、前記乾燥ユニット(1)は前記部品縁を有する前記部品(2)の形状に適合された形状を有する」という特定事項が、【図8D】から読み取れる、部品(2)の中央部分が図面の上方に、への字状に屈曲している状態を意味しており、明確であるとして、以下、新規性及び進歩性について検討する。

(ア)各引用文献等に記載された事項等
a 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2014−50832号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「対象物の表面を画像形成及び/又は塗装する方法」に関して、次の記載がある。
なお、下線は当審で付したものである。以下同様。

・「【請求項1】
流体を、コンピュータ制御されて移動可能な第1の工具(5;105)を用いて塗布し、次いでコンピュータ制御されて移動可能な第2の工具(15;115)を用いて後続処理する、流体を用いて対象物/車両等の表面を処理する方法であって、
対象物表面への流体の塗布と引き続き行われる後続処理との間の時間遅れ(ts)を、流体の広がり特性に適合させることを特徴とする、流体を用いて対象物/車両等の表面を処理する方法。
・・・
【請求項14】
流体を塗布するための工具(5,105)は、インクジェットプリントヘッドであり、第2の工具(15,115)は、乾燥工具である、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を、コンピュータ制御されて移動可能な第1の工具により塗布し、次いでコンピュータ制御されて移動可能な第2の工具により後続処理し、例えば乾燥するか、硬化するか、又は別の材料層で被覆する、流体を用いて対象物、例えば車両等の表面を処理する方法に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の課題は、光学反応式に、後続処理しようとする流体から形成されるベタ面も、インクジェットヘッドを用いて、平らでない対象物に塗布することができる方法および装置を提供することである。」

・「【0033】
流体の「処理」又は「後続処理」の概念とは、流体の特性がなんらかの形で積極的に変化されるあらゆるプロセスを意味するものである。「乾燥」の概念とは、積極的な乾燥のあらゆる態様と解されるものであり、つまり例えば赤外線又は高温空気を用いた乾燥、紫外線又は電子線を用いた硬化、及びいわゆる「セット」と解され、「セット」の際には、塗料は、第2ステップで最終的に完全に硬化されるまえに、例えば紫外線により先ず表面で乾燥される。」

・「【発明を実施するための形態】
【0045】
次に、本発明の実施の形態を、図示の態様につき詳説する。
【0046】
図1には、片側から車両1を示している。車両1は、ジョイントアームロボット2を用いてプリントされる。ジョイントアームロボット2は、ベース3と、可動の複数の構成要素から成るロボットアーム4とを備える。ロボットアーム4の端部に、プリントヘッド5が固定されている。ベース3は、回動可能かつ移動可能に支持することができるので、プリントヘッド5を備えるアーム4は、車両1のあらゆる箇所に達することができる。場合によっては、車両は、図示していない収容部に保持されており、収容部を介して、車両は、垂直線を中心に回動するか、又は水平軸線を中心に傾動することができる。
【0047】
・・・
【0048】
車両1は、プリントすべき対象物としてカーブした表面、例えばフェンダ8を有し、フェンダ8は、サイドパネルから外方に湾曲していて、したがって凸状のカーブだけでなく凹状のカーブを有する。カーブは、極めて小さな半径を有するだけでなく、屈曲部(急角度のカーブ)として提供されてもよい。この場合、車両1の表面のより大きく広がる領域を単色でプリントすることもでき、したがっていわゆる塗装を施してもよい。但し好適には、車両は既に塗装されており、画像は、局所的に装飾を施すため、又は例えば広告のための情報を支持するために塗布され、又、テキストメッセージ用の適切な活字と共に塗布される。
・・・
【0050】
プリントヘッド5は、図2に詳しく示されており、プリントヘッド5からUVインク滴を40kHZの周波数で吐出することができる。プリントヘッド5に関して、例えばレバノン、ニューハンプシャーのFuji Dimatix Inc.社の名称:Spectra Galaxy ja256/80AAAを用いることができる。このプリントヘッドは、256個のノズル17を備える。プリントヘッド5自体は、例えばドイツのKula社のTyp KR60−3のロボットのジョイントアーム4に収容されている。図示の態様では、ロボットアーム4は、3つのジョイント4a,4b,4cを備え、ジョイント4a,4b,4cを介して、ロボット2は、プリントヘッド5を、対象物1の表面13の上方で動かす。プリントヘッド5は、さらに塗料ライン16及びデータ接続ライン6を介して、一方ではインク貯蔵容器に接続され、他方ではコンピュータ19に接続されている。概略的にしか示していないこれらのライン6,16は、場合によっては複数の個々の塗料供給ラインや信号ラインを備え、これらのラインを介して、インクジェットプリントヘッド5の個々のノズル17が制御される。
・・・
【0055】
本発明による方法の択一的な第2の態様は、図5に基づいて説明するような、単一のロボットの使用にある。第2の態様では、表面13の、プリントヘッド5によりベタでプリントされる領域は、幅Aを有する隣接する個々のストリップに分けられており、この幅Aは、プリントヘッドの幅に一致し、各ストリップもまた個々の区分に分けられ、その長さはt1,t2,t3等で表される。この方法は、ロボット2がプリントヘッド5を例えば先ず1度区分t1にわたって案内するように進行する。区分t1の長さは、プリント速度、後退移動速度、及びプリント塗料を乾燥するために放射装置15を所定位置へ導くことを考慮しつつ、続いて同一の区分が、略同一の速度で同一方向に、プリント塗料を乾燥するための放射工具15に通過されるまえに、最適な広がり時間tsが経過するように、設定されている。次いで、再びプリントヘッド5は、再び作業位置に移動させられ、続いてt2で表された区分がプリントされ、そのあとで乾燥され、そして同様に区分t3が先ずプリントされ、次いで乾燥され、これが繰り返される。
【0056】
このようにして単一のロボットを用いて、対象物表面13の大部分がベタで画像形成され、その際、過剰な広がりや不鮮鋭な画像の延在が行われることはない。
・・・
【0058】
塗料塗布前に更に例えば白色の下塗りが行われるか、又は画像形成後に更にクリアラッカが塗布される場合、極めて類似のプロセスが生じる。
【0059】
記載の目的のために構成されたロボットアームは、図6a〜図6cに示している。ロボットアーム4の端部に、取付プレート12が固定されており、取付プレート12に、様々な方向に突出して異なる3つの工具が取り付けられている。工具26は、プラズマ放電を発生させるための工具であり、この工具により、表面にインキが良好に乗るように、表面を予備処理することができる。符号5で4色インクジェットプリントヘッドを表している。プリントヘッド5は、単に概略的に示されたものであり、インキ供給ライン及び信号ラインは、ホルダの内外に位置してよい。符号15で、紫外線放射装置を表しており、紫外線放射装置は、インクジェットプリントヘッド5と略同一の幅を有する。ロボット軸線4cを介して、異なる3つのヘッドは、プリントすべきワークの表面13に対して方向付けされた位置に順次回動することができる。ロボットアーム4のための軌道プランには、対象物の表面13上の塗料の予備処理、プリント及び硬化のための運動プロセス全体が記憶されている。このプロセスは、先ず表面13全体が加工ヘッド26を介して予備処理され、例えばプラズマ処理されるか、又は紫外線、赤外線又は可視範囲の光線が加えられるか、又はコロナ処理又は熱気処理に曝されるものであってよい。
【0060】
この工程は、図6のaに示してある。そのあとでプリントヘッド5が、作業位置に回動され、表面13は、第1色の塗料、例えばブラック又はシアンで、区分t1においてプリントされる(図6のb)。この場合、図示の位置では、ロボットアームはその運動プロセスを停止し、区分t1の始端部に向かって移動し、そこで紫外線放射装置15を作業位置に回動させ、塗料をそこで乾燥するために、区分t1を通過させる。引き続きロボットアーム4は、再び区分t1の始端部に後退移動し、インクジェットヘッド5を再び作業位置に回動させ、これにより次の塗料を区分t1において塗布し、続いて硬化することができる。区分t1において必要な全ての塗料が塗布されて、乾燥されていると、表面13全体に所望の画像が設けられるまで、記載の順序が区分t2において継続する。」

・「【図1】



・「【図5】



・「【図6】



b 引用発明
引用文献1の、【0046】ないし【0048】に記載される車両1を対象物とした画像形成における第2の態様に係る記載(【0055】ないし【0060】)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「流体を用いて対象物/車両等の表面を処理する方法であって、
車両1は、ジョイントアームロボット2を用いてプリントされ、ジョイントアームロボット2は、ベース3と、可動の複数の構成要素から成るロボットアーム4とを備え、ロボットアーム4の端部に、プリントヘッド5が固定され、ベース3は、回動可能かつ移動可能に支持することができるので、プリントヘッド5を備えるアーム4は、車両1のあらゆる箇所に達することができ、
車両1は、プリントすべき対象物としてカーブした表面、例えばフェンダ8を有し、フェンダ8は、サイドパネルから外方に湾曲していて、したがって凸状のカーブだけでなく凹状のカーブを有し、カーブは、極めて小さな半径を有するだけでなく、屈曲部(急角度のカーブ)として提供されてもよく、
表面13の、プリントヘッド5によりベタでプリントされる領域は、幅Aを有する隣接する個々のストリップに分けられており、この幅Aは、プリントヘッドの幅に一致し、各ストリップもまた個々の区分に分けられ、その長さはt1,t2,t3等で表され、この方法は、ロボット2がプリントヘッド5を例えば先ず1度区分t1にわたって案内するように進行し、区分t1の長さは、プリント速度、後退移動速度、及びプリント塗料を乾燥するために放射装置15を所定位置へ導くことを考慮しつつ、続いて同一の区分が、略同一の速度で同一方向に、プリント塗料を乾燥するための放射工具15に通過されるまえに、最適な広がり時間tsが経過するように、設定され、次いで、再びプリントヘッド5は、再び作業位置に移動させられ、続いてt2で表された区分がプリントされ、そのあとで乾燥され、そして同様に区分t3が先ずプリントされ、次いで乾燥され、これが繰り返され、
このようにして単一のロボットを用いて、対象物表面13の大部分がベタで画像形成され、その際、過剰な広がりや不鮮鋭な画像の延在が行われることはなく、
塗料塗布前に更に例えば白色の下塗りが行われるか、又は画像形成後に更にクリアラッカが塗布される場合、極めて類似のプロセスが生じる、
流体を用いて対象物/車両等の表面を処理する方法。」

c 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008−6438号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

・「【0024】
図4に図示された如く硬化デバイス52は、一対の加熱/乾燥デバイス144および146を含む。加熱/乾燥デバイス144および146は、流体被覆、粉体被覆、充填剤、接着剤などを硬化し得る伝導的、対流的、および/または放射的な熱伝達機構の如き任意の適切な乾燥機構を有し得る。たとえば加熱/乾燥デバイス144および146は、燃料燃焼ヒータ、電気抵抗ヒータ、または、輻射加熱機構を備え得る。図示実施形態において加熱/乾燥デバイス144および146は、一対の赤外線ランプを含む。加熱/乾燥デバイス144および146は、高さ調節可能機構56を介して調節可能端部構造128に連結されたヘッド構造148に対して取付けられる。図示されたヘッド構造148は、枢動継手154を介してE形状支持部152に対して回転可能に連結されたフォーク形状延長部150を有する。但し任意の適切な多重区画式もしくは一体的な支持構造もしくはヨークは本技術の有効範囲内である。ヘッド構造148はまた、枢動継手154の回りでE形状支持部152を枢動させる手動的または自動的な位置決めシステムも有し得る。」

・「【図4】



(イ)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「車両1」は、塗装対象である点に限り、本件補正発明の「部品(2)」に相当し、引用発明において、「白色の下塗り」は、「塗料塗布前に更に」行われるものであるから、本件補正発明の「a)前記部品(2)上に下地塗装層(3)を塗布する工程」に相当し、その際、引用発明において、塗料塗布と類似するプロセスが生じることから、該「白色の下塗り」においても、塗料の乾燥が行われると認められ、該乾燥は、本件補正発明のb)における「部品(2)の全体上で前記下地塗装層(3)を中間乾燥する工程」に相当する。

また、引用発明における、塗料塗布、すなわちプリントは、「プリントヘッド5によりベタでプリントされる領域は、幅Aを有する隣接する個々のストリップに分けられて」おり、プリントされる領域がストリップ状に限定されていることは明らかであるから、該プリントは、本件補正発明の「c)中間乾燥した前記下地塗装層(3)上に限定区域装飾層(4)(特に、装飾ストライプ、グラフィック、コントラスト表面、又はパターン)を塗布する工程」に相当し、このプリントは、部品上に塗布されるものであるから、当然に、「c1)前記装飾層(4)は、前記部品(2)上に限定区域装飾領域を含み」という要件を充足するものである。引用発明の画像形成は「その際、過剰な広がりや不鮮鋭な画像の延在が行われることはなく」行われることから、本件補正発明の「c2)前記装飾層(4)は、シャープなエッジでオーバースプレーなく被膜剤を塗布する塗布器により塗布される」特定事項を有するものである。

そして、引用発明は、長さがt1,t2,t3等で表される個々の区分に分けられて、プリントと乾燥が繰り返されることから、本件補正発明の「d)揮発性成分の含量を減らすために乾燥領域(5、8)内の前記装飾層(4)を区域を限定して乾燥させる工程」、d1)及びd2の工程を有するものといえ、引用発明における乾燥は、多軸である「ジョイントアームロボット2」によって「プリント塗料を乾燥するために放射装置15」が導かれるから、このことは、本件補正発明の「d3)前記乾燥領域(5、8)は、乾燥ユニット(1)を前記部品(2)の上で移動させる多軸乾燥ロボットにより、前記部品(2)の上で移動させられる」ことに相当する。

さらに、引用発明における、「画像形成後に更にクリアラッカが塗布される」プロセスは、本件補正発明の「e)前記下地塗装層(3)及び前記装飾層(4)上に仕上げ塗装層を塗布する工程」に相当する。

そうすると、本件補正発明と引用発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
「部品(2)に装飾(4)を塗装するための(特に、自動車車体部品を塗装するための)塗装法であって、
a)前記部品(2)上に下地塗装層(3)を塗布する工程と、
b)前記部品(2)の全体上で前記下地塗装層(3)を中間乾燥する工程と、
c)中間乾燥した前記下地塗装層(3)上に限定区域装飾層(4)(特に、装飾ストライプ、グラフィック、コントラスト表面、又はパターン)を塗布する工程であって、
c1)前記装飾層(4)は、前記部品(2)上に限定区域装飾領域を含み、
c2)前記装飾層(4)は、シャープなエッジでオーバースプレーなく被膜剤を塗布する塗布器により塗布される、
工程と、
d)揮発性成分の含量を減らすために乾燥領域(5、8)内の前記装飾層(4)を区域を限定して乾燥させる工程であって、
d1)前記乾燥領域(5、8)は、前記装飾領域を少なくとも部分的に包含し、
d2)前記部品(2)は、前記乾燥領域(5、8)内の限定された区域内でのみ乾燥され、
d3)前記乾燥領域(5、8)は、乾燥ユニット(1)を前記部品(2)の上で移動させる多軸乾燥ロボットにより、前記部品(2)の上で移動させられる、
工程と、
e)前記下地塗装層(3)及び前記装飾層(4)上に仕上げ塗装層を塗布する工程と、
を備えた塗装法。」

そして、両者は、以下の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
下地塗装層の中間乾燥の手段に関し、本件補正発明は、「b)特に、風乾(例えば、+60℃から+80℃の空気温度の風乾)」と特定するのに対して、引用発明は、「プリント塗料を乾燥するための放射工具15」と特定される点。

<相違点2>
「部品(2)」と「乾燥ユニット(1)」に関し、本件補正発明は、「前記部品(2)は突出した部品縁を有し、前記乾燥ユニット(1)は前記部品縁を有する前記部品(2)の形状に適合された形状を有する」と特定するのに対して、引用発明は、そのように特定されない点。

(ウ)相違点についての判断
そこで、上記相違点について、以下に検討する。

a 相違点1について
引用発明の「プリント塗料を乾燥するための放射工具15」に関し、引用文献1の【0059】には、「符号15で、紫外線放射装置を表しており、・・・対象物の表面13上の塗料の予備処理、プリント及び硬化のための運動プロセス全体が記憶されている。このプロセスは、先ず表面13全体が加工ヘッド26を介して予備処理され、例えばプラズマ処理されるか、又は紫外線、赤外線又は可視範囲の光線が加えられるか、又はコロナ処理又は熱気処理に曝されるものであってよい。」と記載され、符号15で示される紫外線放射装置が行うプロセスと並列して「熱気処理」が記載されていること、及び、引用文献1の【0033】の「「乾燥」の概念とは、積極的な乾燥のあらゆる態様と解されるものであり、つまり例えば赤外線又は高温空気を用いた乾燥、紫外線又は電子線を用いた硬化・・・と解され」との記載から、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、紫外線放射装置による硬化・乾燥を風乾に置換することは当業者が適宜なし得ることといえる。また、「風乾」に相当する「熱気処理」や「高温空気を用いた乾燥」によって、新たな異質な効果を有するものではない。

b 相違点2について
「部品(2)」の形状に関し、引用文献1の【0048】に「車両1は、プリントすべき対象物としてカーブした表面、例えばフェンダ8を有し、フェンダ8は、サイドパネルから外方に湾曲していて、したがって凸状のカーブだけでなく凹状のカーブを有する。カーブは、極めて小さな半径を有するだけでなく、屈曲部(急角度のカーブ)として提供されてもよい。」と記載されていることから、本件補正発明の「前記部品(2)は突出した部品縁を有し」という部品形状が、【図8D】から読み取れる、部品(2)の中央部分が図面の上方に、への字状に屈曲している形状と解されるならば、上記引用発明における車両1のプリントすべき対象物は、本件補正発明の部品(2)の態様を包含する。
また、「乾燥ユニット(1)」の形状に関し、引用発明において、乾燥対象の形状に適合していないものをあえて用いる理由はなく、引用発明において、必要な乾燥が達成していることから、相違点2は実質的な相違点とはいえない。

仮に、実質的な相違点であるとしても、例えば、上記引用文献3に、枢動継手154によって、加熱/乾燥デバイス144および146が位置決め可能となる技術が記載されており、塗装における乾燥対象に適合した形状の乾燥手段を多軸アームにとりつけて塗膜の乾燥を行うことは、当該技術分野において周知技術であり、かかる周知技術を、引用発明における放射工具として採用することは、乾燥効率の向上という自明な課題の達成のため、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)審判請求人の主張について
請求人は、上記相違点2に関し、審判請求書において、「(2)一方、引用文献1−10は、上述の技術的特徴、特に、乾燥ユニットが、突出した部品縁を有する部品の形状に適合された形状を有することを開示も示唆もしていません。」と主張するが、上記(ウ)bで述べたとおり、相違点2は実質的な相違点とはいえないし、仮に実質的な相違点であったとしても、当業者が容易に想到し得たことである。
また、請求人は、「引用文献3の硬化/加熱デバイス52は、引用文献1及び2とは異なり、部品上で移動させられるものではありませんので、硬化/加熱デバイス52の形状を引用文献1及び2の乾燥ユニットの形状に適用することが容易にできたともいえません。」と審判請求書及び上申書においてその旨を主張するが、引用文献3の【0017】には、「制御システム58の各実施形態は、種々の硬化サイクル、すなわち、硬化/加熱デバイス52および目標対象物14の表面に対する所望のパターン、時間およびそれらの間の配向による該目標対象物14の移動および調節可能アーム・アセンブリ54の移動を実行する種々のハードウェアおよびソフトウェアを含む。・・・上記硬化サイクルはまた、目標対象物14の表面に対して硬化/加熱デバイス52を移動させる位置的パターンも含み得る。」と記載されており、引用文献3記載の「硬化/加熱デバイス52」も目標対象物14の表面に対して移動するものである。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(オ)新規性及び進歩性についてのまとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明すなわち引用文献1に記載された発明であるか、又は、該発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し又は同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)独立特許要件の検討の小括
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものといえる。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の請求項1ないし12に係る発明は、令和1年8月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲のとおりであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1において、本件補正前のものとして摘記したとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の刊行物に記載された発明である、又は、該発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2014−50832号公報

3 引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(3)イ(ア)のとおりである。

4 対比・判断
上記第2[理由]2(1)で検討したように、本件補正発明は、本願発明の発明特定事項のd3)に関し、その特定事項から「特に」を削除する限定、及び「前記部品(2)は突出した部品縁を有し、前記乾燥ユニット(1)は前記部品縁を有する前記部品(2)の形状に適合された形状を有する」という限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に上記限定を加えた本件補正発明が、上記第2[理由]2(3)イのとおり、引用発明であるか、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定のない本願発明も引用発明であるか、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明すなわち引用文献1に記載された発明であるか、該発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 加藤 友也
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-08-27 
結審通知日 2021-08-31 
審決日 2021-09-17 
出願番号 P2017-500027
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05D)
P 1 8・ 113- Z (B05D)
P 1 8・ 575- Z (B05D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大畑 通隆
大島 祥吾
発明の名称 装飾被膜を製造するための塗装法と塗装設備  
代理人 木村 満  
代理人 森川 泰司  

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