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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1382121
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-17 
確定日 2022-02-15 
事件の表示 特願2017−548501「生理的反応を改善するための方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月 9日国際公開、WO2016/086271、平成30年 3月15日国内公表、特表2018−507416〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年12月5日、オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、令和元年9月19日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月26日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月7日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたのに対し、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明について
1 本件補正について
本件補正は、原査定において、本件補正前の請求項3の記載が不明確であるから、請求項3及びそれを引用する請求項4〜20の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと指摘されたことを受けて、本件補正前の請求項3の「免疫サイクルについての情報を出力し、それらに基づいて前記主体に対する個々の推奨を生成するための出力構成要素」を「免疫サイクルについての情報を出力し、前記主体に対する前記活動のデータに基づいて個々の推奨を生成するための出力構成要素」とする補正であることから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当する。
そして、上記補正は、国際出願日における国際特許出願の明細書、請求の範囲及び図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文並びに図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、いわゆるシフト補正に該当するものでもないことから、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定を満たすものである。
したがって、本件補正は、適法になされたものである。

2 本願発明について
本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1〜29に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜29に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
主体における免疫状態または免疫サイクルを決定するためのシステムであって、
2日以上である時間の長さにわたる前記主体の免疫系マーカ、バイオマーカ、および/または体温データに関する免疫系における変化に関連付けられた生理的データを前記主体から取得するための試料採取構成要素と、
前記主体から取得された前記生理的データを記憶するためのデータ記憶構成要素と、
前記時間の長さにわたって捕捉された生理的データを分析し、それによって、それに基づいて前記主体の前記免疫状態または前記免疫サイクルの周期性および前記免疫サイクルを決定し、前記取得された免疫サイクルを外挿し、それによって、将来の免疫状態および/または免疫サイクルを決定する処理構成要素と、
前記主体の前記免疫状態もしくは前記免疫サイクルの周期性、および前記免疫サイクル、ならびに/または前記主体の将来の状態もしくは免疫サイクルを出力するための出力構成要素と
を含むシステム。」

第3 原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は、以下のとおり進歩性についての拒絶の理由を含むものである。
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1〜24、26〜29
・引用文献1:米国特許出願公開第2013/0151165号明細書

2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・請求項3〜20
(略)

第4 進歩性について
1 引用文献1について
(1)記載事項
本願の優先日前に頒布された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、当審訳に付した下線は、以下の(2)で述べる引用発明の認定に関与する部分である。
(1ア)
「[0001] The present invention relates to computer-implemented methods and system for analysing a biomarker which cycles in a subject. ・・・Further, the present invention relates to methods of determining the timing of treating a disease in a subject in which the immune system is cycling.」
(当審訳:
[0001]本発明は、被験体のサイクルするバイオマーカーを解析するためのコンピュータ実装方法およびシステムに関するものである。・・・さらに、本発明は、免疫系がサイクルしている被験体における疾患の治療のタイミングを決定する方法に関する。)

(1イ)
「[0020] Estimating the periodicity may comprise obtaining a best-fit curve to the measurements in accordance with a model of the cycling of the biomarker.・・・
[0022] The method may further comprise projecting the obtained best-fit curve into the future to determine the preferred time in the future to administer the therapy.」
(当審訳:
[0020]周期性の推定は、バイオマーカーのサイクルのモデルに応じて、測定値に最も適合する曲線を得ることを含む。・・・
[0022]この方法は、得られた最良適合曲線を、今後の治療を行うための好ましい時間を決定するための将来に向けることをさらに含むことができる。)

(1ウ)
「[0098] Furthermore, natural variations between individuals linked to factors such as their genotype, nutrition, fitness, previous and current disease status, all influence how a given individual responds to a disease state. Thus, whilst in most cases the cycle will be somewhere between 3 and 15 days (often depending on the biomarker being analysed), in some individuals this may be slightly shorter or longer.・・・
[0099] As result, it will most likely be desirable to monitor the subject for a sufficient length of time to ensure that the dynamics of biomarker cycling within a particular subject is understood. Preferably, the subject is monitored/measured for a period of at least 7 days, more preferably at least 14 days, more preferably at least 21 days, more preferably at least 28 days, more preferably at least 35 days, more preferably at least 42 days, and even more preferably at least 49 days.
(当審訳:
[0098]さらに、被験体間における自然な変動は、遺伝子型、栄養、フィットネス、以前および現在の疾患状態、被験体が病状に対していかに応答するかの全ての影響などの要因に関係している。したがって、多くの場合において、サイクルは3日と15日の間のであるところ(分析されているバイオマーカーにもよるが)、被験体によっては、わずかに短くなったり長くなったりする。・・・
[0099]結果として、特定の被験体におけるバイオマーカーのサイクルの動態を確実に理解するに十分な時間において被験体をモニターすることが、望ましいこととして最も可能性のあることである。好ましくは少なくとも7日間、より好ましくは少なくとも14日間、より好ましくは少なくとも21日間、より好ましくは少なくとも28日間、より好ましくは少なくとも35日間、より好ましくは少なくとも42日間、さらにより好ましくは少なくとも49日間、被験体はモニター/測定される。)

(1エ)
「[0144] As used herein, the term “determining a preferred timing of administration of a therapy” or variations thereof refers to the analysis of biomarker (immune system) cycling, or the timing and/or rate of the at least initial increase or decrease in amount of the biomarker following “resetting” the immune system, to predict when the therapy should be administered to increase the chances the disease will be effectively treated.」
(当審訳:
[0144]本明細書で使用される場合において、治療を行うための好ましい時間を決定するということ又はそれを行うバリエーションは、バイオマーカー(免疫系)のサイクルの解析、あるいは、免疫系がリセットされた後のバイオマーカーの量における少なくとも初期の増加又は減少の時間又は比率を意味し、病気を効率よく処置する機会を増やすための治療を行う時を予測することになる。)

(1オ)
「[0174] FIG.1 illustrates a distributed system 100 for obtaining cycling biomarker measurements, centrally processing such measurements, and determining a suitable future time for administration of a therapy. A measurement device 110 measures biomarker levels of a plurality of diseased subjects in multiple locations. Obtained measurements are communicated via a wide area communications network such as the Internet 120 to a central computing device 130. For each individual, the computing device 130 estimates from the measurements a future time at which a therapy should be administered to, for example, increase the chance of progression free survival. The central computing device 130 may be a server and the measurement device 110 may be a desktop computer, a laptop computer wireless device such as a smartphone, or a dedicated computing device.
[0175] In a first application, the measurement device 110 is operable to obtain measurements of a biomarker which cycles in time in a subject; see step 210 in FIG. 2. The measurements are then sent to the central computing device 130 via the Internet 120; see step 220. Alternatively or additionally, the measurements may be sent to a remote data store for retrieval by the central computing device.
[0176] At the central computing device 130, the measurements are received or retrieved from the data store, and analysed to estimate a periodicity of the cycling of the biomarker; see steps 310 and 320 in FIG. 3. From the estimated periodicity of the cycling of the biomarker, the central computing device 130 then determines a preferred time to administer the therapy and sends the estimated periodicity and/or the preferred time to the measurement device 110 via the Internet 120; see steps 330 and 340 in FIG. 3.」
(当審訳:
[0174]図1は、サイクルするバイオマーカーの測定値を得て、この測定値を中央処理し、そして、治療を行うための適切な将来の時間を決定するための分散システム100を示す。測定装置110は、多数の場所で複数の病気の被験体のバイオマーカーのレベルを測定する。得られた測定値は、インターネット120のような広域通信ネットワークを介して中央演算処理装置130に送信される。各被験体について、演算処理装置130は、例えば無増悪生存の可能性を増加させるための治療が行われる将来の時間を測定値から推定する。中央演算処理装置130はサーバであってもよく、測定装置110は、デスクトップ型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、スマートフォン等の無線装置、または専用コンピューティング装置であってもよい。
[0175]第1の適用例において、測定装置110は、被験体において、時間どおりにサイクルするバイオマーカーの測定値を取得するように動作可能である(図2のステップ210参照)。その測定値は、次に、インターネット120を介して中央演算処理装置130に送信される(ステップ220参照)。代替的または追加的に、測定値は、中央演算処理装置による検索のために離れたデータ記憶装置に送信することができる。
[0176]中央演算処理装置130では、測定値は、データ記憶装置から受信または取得され、バイオマーカーのサイクルの周期性を推定するために分析される(図3のステップ310及び320参照)。次いで、中央演算処理装置130は、バイオマーカーのサイクルの推定された周期性から、治療を行うための好ましい時間を決定し、インターネット120を介して推定された周期性及び/又は好ましい時間を測定装置110に送信する(図3のステップ330及び340参照)。)

(1カ)
「[0187]The invention is illustrated as being implemented in a suitable computing environment (FIG. 6).・・・
[0190]・・・ A monitor 47 or other type of display device is also connected to the system bus 23 via an interface, such as a video adapter 48. In addition to the monitor, personal computers typically include other peripheral output devices, not shown, such as speakers and printers.」
(当審訳:
[0187]本発明は、図(図6)に示されているように、適切なコンピューティング環境において実施されるものである。・・・
[0190]・・・モニタ47または他のタイプの表示装置も、ビデオアダプタ48などのインターフェースを介してシステムバス23に接続されている。モニタに加えて、パーソナルコンピュータは、通常、図示されていないが、スピーカやプリンタなどの他の周辺出力装置を含む。)

(2)引用発明
引用文献1には、上記記載事項(当審訳の下線部参照)から、以下の発明が記載されていると認められる。なお、図面における符号(番号)は省略した。

「サイクルするバイオマーカーの測定値を得て、この測定値を中央処理し、そして、治療を行うための適切な将来の時間を決定するための分散システムであって、
測定装置は、被験体において、時間どおりにサイクルするバイオマーカーの測定値を取得し、
測定値は、中央演算処理装置による演算のために離れたデータ記憶装置に送信することができ、
中央演算処理装置では、測定値は、データ記憶装置から受信または取得され、バイオマーカーのサイクルの周期性を推定するために分析され、次いで、中央演算処理装置は、バイオマーカーのサイクルの推定された周期性から、治療を行うための好ましい時間を決定し、インターネットを介して推定された周期性及び/又は好ましい時間を測定装置に送信するものであり、
被験体におけるバイオマーカーのサイクルの動態を確実に理解するに十分な時間である少なくとも7日間、被験体はモニター/測定され、
周期性の推定は、バイオマーカーのサイクルのモデルに応じて、測定値に最も適合する曲線を得て、得られた最良適合曲線を、今後の治療を行うための好ましい時間を決定するための将来に向ける、
システム。」(以下「引用発明」という。)

2 本願発明との対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用文献1の上記摘記(1ア)において「本発明は、被験体のサイクルするバイオマーカーを解析する」、「本発明は、免疫系がサイクルしている被験体における疾患の治療のタイミングを決定する」と記載され、また、上記摘記(1エ)において「バイオマーカー(免疫系)のサイクル」と記載されていることから、引用文献1において、「バイオマーカーのサイクル」と「免疫系のサイクル」は、技術的に同等なものとして記載されている。
したがって、以下の対比において、「バイオマーカーのサイクル」は「免疫系のサイクル」と適宜置き換えて判断することとする。

イ 試料採取構成要素について
引用発明の「被験体」は、本願発明の「主体」に相当する。
本願発明における「生理的データ」について、本願明細書では「生理的データは、免疫系マーカ、基礎体温または安静時体温のような免疫サイクルおよび/または状態が識別され得る代替バイオマーカまたは特性を含む。」(【0031】)、「生理的データ(たとえば、生物学的マーカおよびバイオメトリクスまたは変数または生理的マーカ)の測定」(【0047】)と記載され、そして、具体的には全てCRP(炎症マーカー)の測定値(【表1】〜【表8】参照)を「生理的データ」としていることから、本願発明における「生理的データ」は、バイオマーカーの測定値を含むものである。
一方、引用発明の「バイオマーカー」も具体的には「CRP」であり、引用発明の「少なくとも7日間」「被験体において、時間どおりにサイクルするバイオマーカーの測定値を取得」する「測定装置」は、本願発明の「2日以上である時間の長さにわたる前記主体の免疫系マーカ、バイオマーカ、および/または体温データに関する免疫系における変化に関連付けられた生理的データを前記主体から取得するための試料採取構成要素」に相当する。

ウ データ記憶構成要素について
引用発明の「被験体において」「取得」された「測定値」が「送信」される「データ記憶装置」は、本願発明の「前記主体から取得された前記生理的データを記憶するためのデータ記憶構成要素」に相当する。

エ 処理構成要素について
(ア)本願発明の「決定」とは、本願明細書に「生理的データが、データベース125から受け取られるまたは取り出され、免疫状態を決定するまたは生理的データの循環の周期性(図3を参照してさらに説明される)を推定するために分析される。」と記載されているように、推定に基づく決定である。
そうすると、「少なくとも7日間」「取得」された「測定値」を「分析」し、「バイオマーカーのサイクルの周期性を推定する」ことは、本願発明の「前記時間の長さにわたって捕捉された生理的データを分析し、それによって、それに基づいて前記主体の前記免疫状態または前記免疫サイクルの周期性および前記免疫サイクルを決定」することに相当する。

(イ)本願発明の「免疫サイクルを外挿し、それによって、将来の免疫状態および/または免疫サイクルを決定する」ことについて、本願明細書には、以下のように記載されている。
「【0130】
免疫サイクルの周期性は、適切な場合には、他の任意の数学的モデルから導き出され得る。・・・要するに、任意の数の数学的モデルが、データに対する最良適合曲線を決定し、したがって、主体の免疫サイクルの周期性を強調するように適用されてよいことが諒解されるであろう。
【0131】
図4Eは、将来的に個体の予測される免疫状態およびサイクルの外挿を可能にするように重ね合わされた同じ周期性とともに適用される関数440のような正弦波を有するグラフ400である。わかるように、個体の免疫サイクルは、将来的にどのポイントにおいて主体の免疫状態およびサイクルがそうである決定するように、多項傾向分析430によってデータポイント415から外挿可能である。」と記載されている。
一方、引用発明は、「測定値に最も適合する曲線を得て」「周期性の推定」を行い、「得られた最良適合曲線を」「今後の治療を行うための好ましい時間を決定するための将来に向ける」のであるから、「得られた最良適合曲線」を「将来に向ける」すなわち外挿して「今後の治療を行うための好ましい時間を決定するための」「バイオマーカーのサイクル」を決めているといえる。
してみれば、引用発明の「測定値に最も適合する曲線を得て」「周期性の推定」を行い、「得られた最良適合曲線を」「今後の治療を行うための好ましい時間を決定するための将来に向ける」ことは、本願発明の「前記取得された免疫サイクルを外挿し、それによって、将来の免疫状態および/または免疫サイクルを決定する」ことに相当するといえる。

(ウ)上記(ア)と(イ)を踏まえると、引用発明の「少なくとも7日間」「取得」された「測定値」を「分析」し、「測定値に最も適合する曲線を得て」「バイオマーカーのサイクルの周期性」「の推定」を行い、「得られた最良適合曲線を」「今後の治療を行うための好ましい時間を決定するための将来に向ける」ことを行う「中央演算処理装置」は、本願発明の「前記時間の長さにわたって捕捉された生理的データを分析し、それによって、それに基づいて前記主体の前記免疫状態または前記免疫サイクルの周期性および前記免疫サイクルを決定し、前記取得された免疫サイクルを外挿し、それによって、将来の免疫状態および/または免疫サイクルを決定する処理構成要素」に相当する。

オ 出力構成要素について
引用発明の「中央演算処理装置」が「バイオマーカーのサイクルの」「推定された周期性を」「インターネットを介して」「送信する」ことは、「中央演算処理装置」が「バイオマーカーのサイクルの」「推定された周期性を」出力しているといえる。
そうすると、引用発明の「中央演算処理装置」が「バイオマーカーのサイクルの」「推定された周期性を」「インターネットを介して」「送信する」ことは、本願発明の「前記主体の前記免疫状態もしくは前記免疫サイクルの周期性、および前記免疫サイクル、ならびに/または前記主体の将来の状態もしくは免疫サイクルを出力する」ことに相当するといえる。

カ システムについて
引用発明の「被験体におけるバイオマーカーのサイクル」「の推定」を行う「分散システム」は、本願発明の「主体における免疫状態または免疫サイクルを決定するためのシステム」に相当する。

(2)一致点・相違点について
上記(1)を踏まえると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「主体における免疫状態または免疫サイクルを決定するためのシステムであって、
2日以上である時間の長さにわたる前記主体の免疫系マーカ、バイオマーカ、および/または体温データに関する免疫系における変化に関連付けられた生理的データを前記主体から取得するための試料採取構成要素と、
前記主体から取得された前記生理的データを記憶するためのデータ記憶構成要素と、
前記時間の長さにわたって捕捉された生理的データを分析し、それによって、それに基づいて前記主体の前記免疫状態または前記免疫サイクルの周期性および前記免疫サイクルを決定し、前記取得された免疫サイクルを外挿し、それによって、将来の免疫状態および/または免疫サイクルを決定する処理構成要素と、
前記主体の前記免疫状態もしくは前記免疫サイクルの周期性、および前記免疫サイクル、ならびに/または前記主体の将来の状態もしくは免疫サイクルを出力すること
を含むシステム。」

(相違点)
「主体の前記免疫状態もしくは前記免疫サイクルの周期性、および前記免疫サイクル、ならびに/または前記主体の将来の状態もしくは免疫サイクル」の「出力」を、本願発明1では、「出力構成要素」が出力するのに対し、引用発明では、「中央演算処理装置」(処理構成要素)が送信(出力)している点で相違する。

3 判断
(1)相違点について
本願発明1の「出力構成要素」について、本願明細書に「出力データ220は、たとえば、ネットワークに送信されるデータと共にモニタ上の表示装置などのさまざまな異なる出力デバイス208から出力され得ることも諒解されるであろう。そのような一実施形態では、使用者は、たとえばモニタ上で、またはプリンタを使用して、データ出力、またはデータ出力の解釈を見てよい。」(【0112】)と記載されている。
一方、引用文献1の摘記(1カ)には「モニタ47または他のタイプの表示装置も、ビデオアダプタ48などのインターフェースを介してシステムバス23に接続されている。モニタに加えて、パーソナルコンピュータは、通常、図示されていないが、スピーカやプリンタなどの他の周辺出力装置を含む。)」と記載されており、引用発明において、中央演算処理装置が推定された周期性を送信するとともに、その推定された周期性について、モニタ、スピーカ、プリンタの「出力構成要素」で出力することは当業者が容易になし得たことである。
そして、上記相違点に基づく効果も当業者が予期し得るものである。

(2)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、審判請求書で、以下のとおり主張している。
「免疫サイクルは、健康な個体にも、説明されている慢性疾患のような疾患の抗原と関連付けられない疾患を有する個体にも存在することは自明でないと、審判請求人は再度主張致します。」、
「本願は、免疫状態およびサイクルの知識は異なる分野にわたってどのように適用されることが可能であるか、全体のどれが専門家の関係する領域内で特定のスキルを有する分野の専門家によって扱われるかを教示しています。」、
「本願は、健康な個体および先行技術によって具体的にカバーされるもの以外の疾患を有する個体を含む全ての個体において免疫系が循環するという新規な考えに基づきます。」、
「本願発明に含まれる全ての請求項の特徴は、引用文献1において言及されている分野または本願において言及されている分野のいずれの当業者が従事する慣例的な実務の範囲内にもありません。癌治療の当業者は患者の癌を治療する目的のために免疫系を高めるためにワクチン接種の使用を考慮し、これは腫瘍の分野において現在大変活発な関心領域です。腫瘍学者は、一般に、栄養のような癌患者の他のニーズに関与しませんが、患者を専門の栄養士に差し向けます。同様に、腫瘍学者は、癌を治療するための予防的なワクチン接種を患者に与えることを考慮することも、一般の医療の実務家の範囲内にある予防的な課題に関心を持つこともありません。
従って、癌患者における免疫系を操作することができる有毒な癌治療が他の分野において関係するまたは有益であることは、スポーツ医学または外科医のような異なる分野の者に予期されも自明でもありません。本願は、健康な個体および先行技術によって具体的にカバーされるもの以外の疾患を有する個体を含む全ての個体において免疫系が循環するという新規な考えに基づきます。」、
「腫瘍学、スポーツ科学者、または本願出願時に癌でない患者に免疫サイクルが存在したことに気づきさえしなかった免疫学者にさえ本発明が自明であるというあと知恵を用いている可能性が高いです。」、
「本願における主体は、健康を向上させたい患者(すなわち、ワクチン接種または手術により)とともに健康な個体を含みます。」、
「本発明は、健康な個体を含む個体のために免疫状態または免疫サイクルをどのように決定するかを教示しています。」、
「既に述べたように、先行技術は、健康な個体、または先行技術において指定された以外の疾患を有する者に言及していません。一例として、当業者、すなわち、腫瘍学者が、予防的なワクチン接種のタイミングを最適化すること、または選ばれた運動競技者のためのトレーニング体制を決定することのような、本願発明をする動機付けはありません。」

イ 請求人の主張に対する当審の判断
本願発明は、上記第2の2【請求項1】に記載されている発明特定事項のとおりに認定されるべきものである。
(ア)本願発明では「主体」と特定されるのみであり、この「主体」を、「健康な個体」、「慢性疾患のような疾患の抗原と関連付けられない疾患を有する個体」、「先行技術によって具体的にカバーされるもの以外の疾患を有する個体」、「癌でない患者」、「健康を向上させたい患者(すなわち、ワクチン接種または手術により)とともに健康な個体」又は「先行技術において指定された以外の疾患を有する者」に限定して解釈することはできず、上記請求人の主張がそれらに限定すべきという主張ならば、本願発明1(すなわち請求項1)の記載に基づかないものであり、受け入れることはできない。
むしろ、請求人が「健康な個体および先行技術によって具体的にカバーされるもの以外の疾患を有する個体を含む全ての個体」、「先行技術によって具体的にカバーされるもの以外の疾患を有する個体を含む全ての個体」と主張しているように、本願発明の「主体」には、引用発明の「今後の治療を行う」患者としての「被験体」も含まれている「全ての固体」と解するのが相当である。
したがって、上記(1)イで「引用発明の「被験体」は、本願発明の「主体」に相当する。」とした判断に誤りはない。

(イ)また、請求人は「一例として、当業者、すなわち、腫瘍学者が、予防的なワクチン接種のタイミングを最適化すること、または選ばれた運動競技者のためのトレーニング体制を決定することのような、本願発明をする動機付けはありません。」とも主張しているが、「予防的なワクチン接種のタイミングを最適化する」こと、「選ばれた運動競技者のためのトレーニング体制を決定する」ことは、本願発明の発明特定事項とはなっておらず、これらの事項を本願発明と引用発明との相違点に挙げることはできないのであるから、請求人の「予防的なワクチン接種のタイミングを最適化すること、または選ばれた運動競技者のためのトレーニング体制を決定することのような、本願発明をする動機付けはありません」との主張は、受け入れることはできない。

(ウ)したがって、上記a及びbを踏まえると、審判請求書における請求人の主張は、本願発明(すなわち請求項1)の記載に基づかないものであり、これによって上記2の「本願発明と引用発明との対比」及び上記(1)の「相違点」の判断が変わることはない。

(エ)なお、付言するなら、仮に、本願発明の「主体」が「健康な個体」としても、引用文献1の摘記(1ウ)に「被験体間における自然な変動は、遺伝子型、栄養、フィットネス、以前および現在の疾患状態、被験体が病状に対していかに応答するかの全ての影響などの要因に関係している。したがって、多くの場合において、サイクルは3日と15日の間のであるところ(分析されているバイオマーカーにもよるが)、被験体によっては、わずかに短くなったり長くなったりする。」と記載されており、これによると、遺伝子型、栄養、フィットネス、以前の疾患状態等の要因、すなわち「健康な個体」における要因によってもバイオマーカーのサイクル(免疫サイクル)が変動することが示されていることから、「健康な個体」に対しても免疫サイクル利用してみようとすることは、当業者が容易に想到し得たことともいえる。

4 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 福島 浩司
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-09-06 
結審通知日 2021-09-13 
審決日 2021-09-27 
出願番号 P2017-548501
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 幸仙
三崎 仁
発明の名称 生理的反応を改善するための方法およびシステム  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  

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