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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F |
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管理番号 | 1382297 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-06-16 |
確定日 | 2022-02-22 |
事件の表示 | 特願2018− 71003「積層型コイル部品」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月24日出願公開,特開2019−186255,請求項の数(15)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成30年4月2日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年7月10日付け:拒絶理由通知 令和2年9月10日 :意見書,手続補正書の提出 令和3年3月11日付け:拒絶査定 令和3年6月16日 :審判請求書,手続補正書の提出 令和3年11月11日 :上申書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和3年3月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項 1ないし3 ・引用文献等 1,6ないし8 ・請求項 4ないし7 ・引用文献等 1ないし2,6ないし8 ・請求項 8 ・引用文献等 1ないし3,6ないし8 ・請求項 9ないし10 ・引用文献等 1ないし4,6ないし8 ・請求項 11ないし14 ・引用文献等 1ないし8 引用文献等一覧 1.特開2000−138120号公報 2.特開平11−307344号公報 3.特開2001−93730号公報 4.特開2012−227225号公報 5.特開2002−93623号公報 6.特開2007−324251号公報 7.特開平8−236353号公報 8.特開2009−65042号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし15に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明15」という。)は,令和3年6月16日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明であると認められる。 「【請求項1】 複数の絶縁層が積層されてなり,内部にコイルを内蔵する積層体と, 前記コイルに電気的に接続されている第1の外部電極及び第2の外部電極と,を備え,40GHz以上の高周波帯で使用される積層型コイル部品であって, 前記コイルは,前記絶縁層とともに積層された複数のコイル導体が電気的に接続されることにより形成され, 前記絶縁層は磁性材料を含み, 前記積層体は,長さ方向に相対する第1の端面及び第2の端面と,前記長さ方向に直交する高さ方向に相対する第1の主面及び第2の主面と,前記長さ方向および前記高さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面及び第2の側面とを有し, 前記第1の外部電極は,前記第1の端面の一部を覆い,かつ,前記第1の端面から延伸して前記第1の主面の一部を覆って配置され, 前記第2の外部電極は,前記第2の端面の一部を覆い,かつ,前記第2の端面から延伸して前記第1の主面の一部を覆って配置され, 前記第1の主面が実装面であり, 前記積層体の積層方向,及び,前記コイルの軸方向が前記実装面に対して平行であり, さらに,前記積層体の内部に第1の連結導体及び第2の連結導体を備え, 前記第1の連結導体は,前記第1の端面を覆う部分の前記第1の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を接続し, 前記第2の連結導体は,前記第2の端面を覆う部分の前記第2の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を接続し, 40GHzにおける透過係数S21が−1.0dB以上,0dB以下である,積層型コイル部品。 【請求項2】 50GHzにおける透過係数S21が−2.0dB以上,0dB以下である,請求項1に記載の積層型コイル部品。 【請求項3】 前記第1の連結導体は,前記第1の端面を覆う部分の前記第1の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を直線状に接続し, 前記第2の連結導体は,前記第2の端面を覆う部分の前記第2の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を直線状に接続し, 前記第1の連結導体及び前記第2の連結導体は,いずれも,前記積層方向から平面視したときに前記コイル導体と重なり,かつ,前記コイルの中心軸よりも前記実装面側に位置する,請求項1又は2に記載の積層型コイル部品。 【請求項4】 前記第1の連結導体及び前記第2の連結導体の長さはいずれも,前記積層体の長さの2.5%以上,7.5%以下である,請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項5】 前記コイルの長さは,前記積層体の長さの85.0%以上,94.0%以下である,請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項6】 前記積層方向から平面視したとき,前記コイル導体は互いに重なる,請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項7】 前記積層方向から平面視したとき,前記コイルの形状は円形である,請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項8】 前記第1の端面を覆う部分の前記第1の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間は前記第1の連結導体によって2箇所以上で接続されており,前記第2の端面を覆う部分の前記第2の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間は前記第2の連結導体によって2箇所以上で接続されている,請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項9】 前記コイルは,並列に接続された2つ以上の前記コイル導体からなる,請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項10】 前記積層体の長さが0.63mm以下であり, 前記積層体の幅が0.33mm以下であり, 前記第1の連結導体及び前記第2の連結導体の幅は,前記積層体の幅の8%以上,20%以下である,請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項11】 前記積層体の長さが0.63mm以下であり, 前記積層体の幅が0.33mm以下であり, 前記コイル導体の線幅は,前記積層体の幅の10%以上,30%以下である,請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項12】 前記積層型コイル部品の長さが0.63mm以下であり, 前記積層型コイル部品の幅が0.33mm以下である,請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。 【請求項13】 前記第1の端面を覆う部分の前記第1の外部電極の高さが0.10mm以上,0.20mm以下であり ,前記第2の端面を覆う部分の前記第2の外部電極の高さが0.10mm以上,0.20mm以下である,請求項12に記載の積層型コイル部品。 【請求項14】 前記積層方向における前記コイル導体間の距離が3μm以上,7μm以下である,請求項12又は13に記載の積層型コイル部品。 【請求項15】 前記第1の外部電極は,さらに,前記第1の端面及び前記第1の主面から延伸して,前記第1の側面の一部及び前記第2の側面の一部を覆っており, 前記第1の側面及び前記第2の側面を覆う部分の前記第1の外部電極は,前記第1の端面と交わる稜線部及び前記第1の主面と交わる稜線部に対して斜めに形成されており, 前記第2の外部電極は,さらに,前記第2の端面及び前記第1の主面から延伸して,前記第1の側面の一部及び前記第2の側面の一部を覆っており, 前記第1の側面及び前記第2の側面を覆う部分の前記第2の外部電極は,前記第2の端面と交わる稜線部及び前記第1の主面と交わる稜線部に対して斜めに形成されている,請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層型コイル部品。」 第4 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。 「【0013】図1に示すように,積層型インダクタ1は,コイル導体パターン2a〜2eをそれぞれ表面に設けた矩形状の絶縁性シート3と,保護用絶縁性シート4等で構成されている。各コイル導体パターン2a〜2eは,絶縁性シート3にそれぞれ設けたビアホール6a〜6dを介して電気的に直列に接続され,絶縁性シート3の積み重ね方向に対して平行な軸を有する螺旋状コイルL1を構成する。 【0014】図1において右側に位置する保護用絶縁性シート4の下部手前寄りの位置には,引出し用ビアホール7が設けられている。同様に,図1において左側に位置する保護用絶縁性シート4及び絶縁性シート3の下部奥寄りの位置には,引出し用ビアホール7が設けられている。絶縁性シート3,4は磁性体材料(例えばフェライト)あるいは非磁性体材料(例えばセラミック)と結合剤等を混練して作成したスラリー状原料を,シート状にしたものである。コイル導体パターン2a〜2eはAg,Pd,Cu,Au,Ag−Pd等からなり,スクリーン印刷等の手法により形成される。 【0015】各シート3,4は積み重ねられた後,一体的に焼成され,図2及び図3に示すような直方体状の積層体10とされる。積層体10の両端面の下部には,Ni,Ag,Pd,Ag−Pd等からなる入力外部電極11と出力外部電極12が,塗布,焼付け等の手法により設けられている。つまり,この入出力外部電極11,12は,シート3,4の積み重ね方向に対して垂直に配置している。外部電極11,12は螺旋状コイルL1の内径領域Rに重ならないように設定されている。ここに,内径領域Rは,積層体10において,コイルL1の内周面の延長軌跡で囲まれた領域を意味する。この内径領域Rは,磁束密度の大きな領域である。 【0016】積層体10の四つの側面のうちの一つは,積層型インダクタ1を印刷配線板等へ半田付けする際の実装面として利用される。例えば,図2及び図3において,積層体10の下面10aを実装面とした場合,実装面10aに対して,シート3,4の積み重ね方向は平行であり,コイルL1の軸方向も平行である。 【0017】コイルL1の一方の端部(具体的には,コイル導体パターン2a)は,引出し用ビアホール7を介して出力外部電極12に電気的に接続している。コイルL1の他方の端部(具体的には,コイル導体パターン2e)は,引出し用ビアホール7を介して入力外部電極11に電気的に接続している。引出し用ビアホール7の径は,コイル導体パターン2a〜2eのパターン幅と同じ寸法に設定して,両者のインピーダンスマッチングを図ることが望ましい。 【0018】以上の構成からなる積層型インダクタ1は,図3に示すように,引出し用ビアホール7が螺旋状コイルL1の内径領域Rの範囲外に配設されているため,磁束φが引出し用ビアホール7を殆ど貫通せず,引出し用ビアホール7に発生する渦電流を抑えることができる。これにより,積層型インダクタ1のQ値を,従来の積層型インダクタより1.2〜1.5倍高くすることができる。さらに,外部電極11,12も,螺旋状コイルL1の内径領域R外に配設されているため,磁束φが外部電極11,12を殆ど貫通せず,外部電極11,12に発生する渦電流も抑えることができる。これにより,積層型インダクタ1のQを更に向上させることができる。 【0019】また,図9に示すように,従来の積層型インダクタ81は,内径領域Rと重なっている引出しパターン83a,83bを必要としているが,本実施形態の積層型インダクタ1は,引出しパターン83a,83bを必要としないため,引出しパターン83a,83b内に発生していた渦電流を低減することができる。 【0020】さらに,コイルL1の軸は,積層型インダクタ1の実装面10aに平行である。従って,コイルL1の両端部分と外部電極11,12間にそれぞれ発生する浮遊容量は,コイルL1と外部電極11間,あるいは,コイルL1と外部電極12間の電位差が小さく,しかも間隔が広いため,極めて小さい値となる。この結果,積層型インダクタ1の自己共振周波数の高周波化を図ることができる。」 (2)前記記載事項から次のことがいえる。 ア 段落【0015】によれば,「積層体10」は各シート3,4が積み重ねられたものである。ここで段落【0013】によれば,「シート3,4」は絶縁性シートである。 また,段落【0013】によれば,絶縁性シートの表面に設けられた各コイル導体パターン2a〜2eは「コイルL1」を構成するものである。ここで引用文献1の図3を参照すると,「積層体10」が,内部に「コイルL1」を内蔵することが見て取れる。 してみると,引用文献1には,複数の絶縁性シートが積み重ねられ,内部にコイルを内蔵する積層体が記載されている。 イ 図2を参照すると,積層体10と,入力外部電極11及び出力外部電極12とを備える「積層型インダクタ1」が見て取れる。 ここで段落【0017】によれば,「入力外部電極11」及び「出力外部電極12」は,コイルL1に電気的に接続されているものである。 よって,引用文献1には,積層体と,コイルに電気的に接続されている入力外部電極及び出力外部電極と,を備える積層型インダクタが記載されている。 ウ 段落【0013】によれば,「コイルL1」は,絶縁性シート3の表面に設けられた各コイル導体パターン2a〜2eが電気的に直列に接続されたものである。 エ 段落【0014】によれば,「絶縁性シート3」は,磁性体材料等を混練して作成された絶縁性シートであるから,磁性体材料を含むものである。 オ 段落【0015】によれば,積層体10の両端面には入力外部電極11及び出力外部電極12が設けられ,入力外部電極11と出力外部電極12とは,シート3の積み重ね方向に対して垂直に配置しているものである。ここで図1ないし図3を参照すると,入力外部電極11及び出力外部電極12が設けられた「両端面」は,シート3の積み重ね方向に相対していることが見て取れる。 また,段落【0016】によれば,積層体10は「下面10a」を有するものである。ここで図1ないし図3を参照すると,積層体10の「下面10a」と上面とが,積層体10の高さ方向に相対することが見て取れる。 また,図1ないし図3を参照すると,積層体10の面のうち,上記「両端面」,「下面10a」,及び上面を除く二つの側面が,シート3の積み重ね方向及び積層体10の高さ方向と直交する方向に相対することが見て取れる。 カ 段落【0015】によれば,積層体10の両端面の下部には,入力外部電極11と出力外部電極12が設けられているものである。ここで,図2及び図3を参照すると,入力外部電極11及び出力外部電極12は,積層体10の両端面の下部を覆うだけでなく,両端面から延伸して下面10aの一部を覆って配置されていることが見て取れる。 キ 段落【0016】によれば,積層体10の下面10aを実装面とした場合,実装面10aに対して,シート3,4の積み重ね方向は平行であり,コイルL1の軸方向も平行であることが記載されている。 ク 図3を参照すると,積層型インダクタ1が,積層体10の内部に二つの「引出し用ビアホール7」を備えることが見て取れる。 ケ 段落【0017】によれば,コイルL1の一方の端部のコイル導体パターン2aは引出し用ビアホール7を介して出力外部電極12に電気的に接続し,コイルL1の他方の端部のコイル導体パターン2eは,引出し用ビアホール7を介して入力外部電極11に電気的に接続するものである。そして図1を参照すると,コイル導体パターン2eと引出し用ビアホール7とを接続する点線が見て取れる。 ここで,図3に対して,当審で丸囲み及び塗り潰しを付与したもの(以下,「参考図」という。)を以下に示す。 そして,上記の点を踏まえて参考図を参照すると,当審で丸囲みを付与した,左側の「引出し用ビアホール7」の先端部分に,引出し用ビアホール7と接続されるコイル導体パターン2eが存在するものと認められる。 また,参考図を参照すると,一方の端面を覆う部分の入力外部電極11(参考図において当審で塗り潰しを付与した部分)が,「引出し用ビアホール7」と接続していることが見て取れる。 してみると,コイル導体パターン2eと入力外部電極11とを電気的に接続している「引出し用ビアホール7」が,一方の端面を覆う部分の入力外部電極11と,これに対向するコイル導体パターン2eとの間を接続しているといえる。 同様にして,参考図によれば,コイル導体パターン2aと出力外部電極12とを接続する「引出し用ビアホール7」が,他方の端面を覆う部分の出力外部電極12と,これに対向するコイル導体パターン2aとの間を接続していることが見て取れる。 コ 段落【0020】によれば,「積層型インダクタ1」は,自己共振周波数の高周波化を図ることができるものである。 (3)よって,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 「複数の絶縁性シートが積み重ねられ,内部にコイルを内蔵する積層体と, コイルに電気的に接続される入力外部電極及び出力外部電極と,を備えた積層型インダクタであって, コイルは,絶縁性シートの表面に設けられた各コイル導体パターンが電気的に直列に接続されたものであり, 絶縁性シートは磁性体材料を含み, 積層体は,絶縁性シートの積み重ね方向に相対する両端面と,積層体の高さ方向に相対する下面及び上面と,絶縁性シートの積み重ね方向及び積層体の高さ方向と直交する方向に相対する二つの側面とを有し, 入力外部電極及び出力外部電極は,両端面の下部を覆い,且つ前記両端面から延伸して下面を覆って配置され, 下面が実装面であり, 積層体の積層方向及びコイルの軸方向が実装面に対して平行であり, 積層体の内部に二つの引出し用ビアホールを備え, 一方の引出し用ビアホールは,一方の端面を覆う部分の入力外部電極と,これに対向するコイル導体パターンとの間を接続し, 他方の引出し用ビアホールは,他方の端面を覆う部分の出力外部電極と,これに対向するコイル導体パターンとの間を接続する, 自己共振周波数の高周波化を図ることができる,積層型インダクタ。」 2 引用文献2について 引用文献2(段落【0029】ないし【0031】及び図1ないし4を参照)によれば,積層型コイル部品において,Q値を向上させるため,素子体1の長さをL1,引出部5,6の一方の長さをL5としたとき,L5÷L1≦0.15,好ましくは0.1,更に好ましくは0.05とすることが記載されている。 3 引用文献3について 引用文献3(段落【0013】ないし【0017】及び図1ないし2を参照)によれば,積層型コイル部品において,導通不良を防止するため,複数のスルーホール13を介してコイル状内部導体11と外部電極12とを電気的に接続することが記載されている。 4 引用文献4について 引用文献4(段落【0002】,【0041】ないし【0043】,及び図1ないし4を参照)によれば,積層型コイル部品において,直流抵抗を下げるため,コイルを,並列接続された複数のコイル導体で構成することが記載されている。 5 引用文献5について 引用文献5(段落【0010】及び図1ないし3を参照)によれば,積層型コイル部品において,浮遊容量及び直流抵抗を考慮して,コイルの導体幅を調整することが記載されている。 6 引用文献6について 引用文献6の段落【0001】ないし【0003】によれば,積層コンデンサなどの電子部品は,40GHzにおいて良好な通過特性を示すことが必要とされていることが記載されている。 7 引用文献7について 引用文献7の段落【0020】によれば,インダクタが30GHz以上まで使用できることが記載されている。 ここで,引用文献7の段落【0012】ないし【0016】及び図1によれば,このインダクタは,絶縁基板にスルーホールをあけ,スルーホールにセラミックチップを入れ,スパイラルインダクタンスをセラミックチップの上に載せたものである。 8 引用文献8について 引用文献8の段落【0019】によれば,第1巻き線導体2と,絶縁支持膜3と,第2巻き線導体4とを備える高周波受動素子が記載されている。 そして,引用文献8の段落【0017】には,高周波受動素子が準ミリ波,ミリ波などの高周波帯で用いられることが記載されている。ここで,技術常識によれば,ミリ波は30GHz〜300GHz,準ミリ波は300GHz〜3THz(3000GHz)の電磁波を指す。 また,引用文献8の図10を参照すると,絶縁支持膜3を一つだけ備えることが見て取れる。 9 その他の文献について 特開2004−172517号公報(以下,「引用文献9」という。)の段落【0011】及び図1には,導線を円錐状に螺巻した巻線11と,円錐状のコア12とを具備してなる高周波コイル10が記載されている。 また,引用文献9の段落【0018】によれば,「図4は,高周波コイル10を通過する高周波信号の透過減衰特性を表すグラフである」ところ,図4を参照すると,10GHzから40GHzの範囲での透過減衰量が−1dB〜0dBの範囲内であることが見て取れる。 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明との対比 ア 引用発明の「絶縁性シート」は,本願発明1の「絶縁層」に相当する。 してみると,引用発明の「絶縁性シートが積み重ねられ,内部にコイルを内蔵する積層体」は,複数の絶縁性シートが積層されたものといえるから,本願発明1の「複数の絶縁層が積層されてなり,内部にコイルを内蔵する積層体」に相当する。 イ 引用発明の「コイルに電気的に接続される入力外部電極及び出力外部電極」は,本願発明1の「コイルに電気的に接続されている第1の外部電極及び第2の外部電極」に相当する。 ウ 以上の点より,引用発明の「積層型インダクタ」は,本願発明1の「積層体」並びに「第1の外部電極及び第2の外部電極」に相当する構成を備える点で,本願発明1の「積層型コイル部品」に相当する。 但し,引用発明は「40GHz以上の高周波帯で使用される」ことは特定されておらず,この点で本願発明1と相違する。 また,引用発明は「40GHzにおける透過係数S21が−1.0dB以上,0dB以下である」ことは特定されておらず,この点でも本願発明1と相違する。 エ 引用発明の「絶縁性シートの表面に設けられた各コイル導体パターン」は,絶縁性シートが積み重ねられることによって,絶縁性シートとともに積層されるものといえるから,本願発明1の「前記絶縁層とともに積層された複数のコイル導体」に相当する。 よって,引用発明の「コイルは,絶縁性シートの表面に設けられた各コイル導体パターンが電気的に直列に接続されたものであ」ることは,本願発明1の「前記コイルは,前記絶縁層とともに積層された複数のコイル導体が電気的に接続されることにより形成され」ることに相当する。 オ 引用発明の「絶縁性シートは磁性体材料を含」むことは,本願発明1の「前記絶縁層は磁性材料を含」むことに相当する。 カ 引用発明の「絶縁性シートの積み重ね方向に相対する両端面」は,積層体の長さ方向に相対しているものといえるから,本願発明1の「長さ方向に相対する第1の端面及び第2の端面」に相当する。 また,引用発明の「積層体の高さ方向に相対する下面及び上面」は,本願発明1の「前記長さ方向に直交する高さ方向に相対する第1の主面及び第2の主面」に相当する。 また,引用発明の「絶縁性シートの積み重ね方向及び積層体の高さ方向と直交する方向に相対する二つの側面」は,積層体における,長さ方向および高さ方向に直交する幅方向に相対しているものといえるから,本願発明1の「長さ方向および前記高さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面及び第2の側面」に相当する。 以上の点より,引用発明の「積層体は,絶縁性シートの積み重ね方向に相対する両端面と,積層体の高さ方向に相対する下面及び上面と,絶縁性シートの積み重ね方向及び積層体の高さ方向と直交する方向に相対する二つの側面とを有」することは,本願発明1の「前記積層体は,長さ方向に相対する第1の端面及び第2の端面と,前記長さ方向に直交する高さ方向に相対する第1の主面及び第2の主面と,前記長さ方向および前記高さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面及び第2の側面とを有」することに相当する。 キ 引用発明の「入力外部電極及び出力外部電極は,両端面の下部を覆い,且つ前記両端面から延伸して下面を覆って配置され」ることは,本願発明1の「前記第1の外部電極は,前記第1の端面の一部を覆い,かつ,前記第1の端面から延伸して前記第1の主面の一部を覆って配置され,前記第2の外部電極は,前記第2の端面の一部を覆い,かつ,前記第2の端面から延伸して前記第1の主面の一部を覆って配置され」ることに相当する。 ク 引用発明の「下面が実装面であり,積層体の積層方向及びコイルの軸方向が実装面に対して平行であ」ることは,本願発明1の「前記第1の主面が実装面であり,前記積層体の積層方向,及び,前記コイルの軸方向が前記実装面に対して平行であ」ることに相当する。 ケ 引用発明の「一方の引出し用ビアホール」は,入力外部電極とコイル導体パターンとの間を接続するから,本願発明1の「第1の連結導体」に相当する。 また,引用発明の「他方の引出し用ビアホール」は,出力外部電極とコイル導体パターンとの間を接続するから,本願発明1の「第2の連結導体」に相当する。 してみると,引用発明の「積層体の内部に二つの引出し用ビアホールを備え,一方の引出し用ビアホールは,一方の端面を覆う部分の入力外部電極と,これに対向するコイル導体パターンとの間を接続し,他方の引出し用ビアホールは,他方の端面を覆う部分の出力外部電極と,これに対向するコイル導体パターンとの間を接続する」ことは,本願発明1の「前記積層体の内部に第1の連結導体及び第2の連結導体を備え,前記第1の連結導体は,前記第1の端面を覆う部分の前記第1の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を接続し,前記第2の連結導体は,前記第2の端面を覆う部分の前記第2の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を接続」することに相当する。 (2)一致点・相違点 したがって,本願発明1と引用発明とは, 「複数の絶縁層が積層されてなり,内部にコイルを内蔵する積層体と, 前記コイルに電気的に接続されている第1の外部電極及び第2の外部電極と,を備えた積層型コイル部品であって, 前記絶縁層は磁性材料を含み, 前記第1の外部電極は,前記第1の端面の一部を覆い,かつ,前記第1の端面から延伸して前記第1の主面の一部を覆って配置され, 前記第2の外部電極は,前記第2の端面の一部を覆い,かつ,前記第2の端面から延伸して前記第1の主面の一部を覆って配置され, 前記第1の主面が実装面であり, 前記積層体の積層方向,及び,前記コイルの軸方向が前記実装面に対して平行であり, さらに,前記積層体の内部に第1の連結導体及び第2のを備え, 前記第1の連結導体は,前記第1の端面を覆う部分の前記第1の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を接続し, 前記第2の連結導体は,前記第2の端面を覆う部分の前記第2の外部電極とこれに対向する前記コイル導体との間を接続する, 積層型コイル部品。」 である点で一致し,以下の2点で相違する。 (相違点1) 本願発明1は「40GHz以上の高周波帯で使用される積層型コイル部品」であるのに対して,引用発明の「積層型インダクタ」はその旨の特定がされていない点。 (相違点2) 本願発明1は「40GHzにおける透過係数S21が−1.0dB以上,0dB以下である」のに対して,引用発明はその旨の特定がされていない点。 (3)相違点の判断 引用文献2ないし5に記載された積層型コイル部品は,40GHz以上の高周波帯で使用される旨の特定はされていない。 また,引用文献6に記載された電子部品は積層コンデンサであり,引用文献7に記載されたインダクタは,絶縁基板のスルーホールに入れたセラミックチップにスパイラルインダクタンスを載せたものであり,引用文献8に記載された高周波受動素子は,絶縁支持膜を一つだけ備えるものであるから,いずれも積層型コイル部品ではない。 また,当審でその他の文献として提示した引用文献9に記載されたインダクタは,導線を円錐状に螺巻した巻線を具備してなるから,積層型コイル部品ではない。 よって,引用文献2ないし9には,積層型コイル部品が40GHz以上の高周波帯で使用されることは記載されていない。 また,他に「40GHz以上の高周波帯で使用される積層型コイル部品」である文献も発見されていない。 してみると,引用発明が「自己共振周波数の高周波化を図ることができる」ものであっても,「40GHz以上の高周波帯で使用」して自己共振周波数の高周波化を図ることは認められない。 したがって,引用発明の「積層型インダクタ」を40GHz以上の高周波帯で使用し,相違点1に係る構成とすることは,当業者といえども容易に為し得たことではない。 更に,相違点2に係る構成とすることも,当業者といえども容易に為し得たことではない。 (4)本願発明1についてのまとめ よって,本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし9に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 本願発明2ないし15について 本願発明2ないし15は,本願発明1を引用するものであって,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1に記載された発明及び引用文献2ないし9に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-02-01 |
出願番号 | P2018-071003 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01F)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
木下 直哉 畑中 博幸 |
発明の名称 | 積層型コイル部品 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |