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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A01G
管理番号 1382343
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-12 
確定日 2021-12-27 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6604283号発明「植物栽培装置及び植物栽培方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6604283号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕、8について訂正することを認める。 特許第6604283号の請求項1ないし3、5、8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6604283号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年7月20日に出願され、令和1年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和2年5月12日に、特許異議申立人 庄司 元(以下「申立人」という。)より、本件特許の請求項1〜3、5及び8に係る特許に対して特許異議の申立てがされたところ、その後の経緯は、次のとおりである。

令和2年 7月17日付け:取消理由通知書
9月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
11月11日 :申立人による意見書の提出
12月21日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 3月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
4月20日 :申立人による意見書の提出
6月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)
9月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、当審より、令和3年9月13日付け通知書において、申立人に対し、令和3年9月6日付けで特許権者より提出された訂正の請求について期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、申立人からは何らの応答もなかった。
また、特許権者より、令和3年9月6日付けで訂正の請求があったことにより、同年3月5日付けの訂正の請求、令和2年9月24日付けの訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和3年9月6日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線部は訂正箇所)
ア 請求項1から7に係る訂正(訂正事項1)
願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に
「植物を配置する設置部を設け、垂直方向に立設させた植物栽培筒を含む栽培ユニットと、
前記植物栽培筒に液体を供給する液体供給部と、
前記液体供給部と前記栽培ユニットとを移動可能に支持する支持部材とを備えた植物栽培装置であって、
前記液体供給部が、移動先の貯液槽から液体を、前記植物栽培筒に供給することを特徴とする植物栽培装置。」
と記載されているのを、
「植物を配置する設置部を設け、垂直方向に立設させた植物栽培筒を含む栽培ユニットと、
前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した貯液槽と、
前記開口の上方から前記貯液槽に接続して、前記貯液槽に貯留されている液体を前記植物栽培筒に供給する液体供給部と、
前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管と、
前記液体供給部と前記栽培ユニットとをともに移動可能に支持する支持部材とを備えた植物栽培装置であって、
前記液体供給部が、移動先の貯液槽から液体を、前記植物栽培筒に供給し、
前記植物栽培筒を通過した液体は、前記戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻されることを特徴とする植物栽培装置。」
に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2から7も同様に訂正する)。

イ 請求項8に係る訂正(訂正事項2)
願書に添付した特許請求の範囲の請求項8に
「植物を配置する設置部を設けた植物栽培筒に、複数の貯液槽から異なる液体を、液体供給部を介して供給して、前記植物を栽培する方法であって、
前記植物栽培筒を含む栽培ユニットを前記液体供給部とともに移動させて、移動先の前記貯液槽から、前記液体を前記植物栽培筒に供給させることを特徴とする植物栽培方法。」
と記載されているのを、
「植物を配置する設置部を設けた植物栽培筒に、植物栽培筒を含む栽培ユニットの移動方向に直列に延在し、延在方向に連続して上が開口した複数の貯液槽から異なる液体を、前記開口の上方から貯液槽に接続した液体供給部を介して供給して、前記植物を栽培する方法であって、
前記植物栽培筒を含む栽培ユニットを前記液体供給部とともに移動させて、移動先の前記貯液槽から、前記液体を前記植物栽培筒に供給させるとともに、前記植物栽培筒を通過した液体を、前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻すことを特徴とする植物栽培方法。」
に訂正する。

ここで、訂正事項1は、訂正前の請求項2〜7が訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、一群の請求項1〜7について請求されたものであり、訂正事項2は、訂正前に引用関係を有する請求項が存しない請求項8についてされたものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件の適合性
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「前記植物栽培筒に液体を供給する液体供給部」と記載され、「液体供給部」がどのように「液体」を「植物栽培筒」に「供給」するのかが特定されていなかったのを、「液体供給部」が「前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した貯液槽」における「前記開口の上方から前記貯液槽に接続して、前記貯液槽に貯留されている液体」を「植物栽培筒」に「供給」するものであることを特定し、
訂正前の請求項1に「前記植物栽培筒に液体を供給する液体供給部」と記載され、「植物栽培筒」に「供給」された「液体」がどのように「植物栽培筒」から排出されるのかが特定されていなかったのを、「前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管」という、「植物栽培筒」に「供給」された「液体」を「植物栽培筒」から排出するための構成を特定し、
訂正前の請求項1に「前記液体供給部と前記栽培ユニットとを移動可能に支持する支持部材」と記載され、「支持部材」が「液体供給部と栽培ユニットと」をどのように「移動可能に支持」するのかが特定されていなかったのを、「支持部材」が「前記液体供給部と前記栽培ユニットと」を「ともに移動可能に支持」するものであることを特定し、
訂正前の請求項1に「前記液体供給部が、移動先の貯液槽から液体を、前記植物栽培筒に供給する」と記載され、「液体供給部」により「移動先の貯液槽」から「植物栽培筒」に「供給」された「液体」がどのように「植物栽培筒」から排出されるのかが特定されていなかったのを、「前記植物栽培筒を通過した液体は、前記戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻される」ことを特定するものであるから、
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更しないものか
訂正事項1は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正前の請求項1の発明特定事項のカテゴリ−や対象、目的を変更するものではないから、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
(ウ)新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書」と併せて「本件明細書等」という。)には、訂正事項1の「前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した貯液槽」について、本件明細書の段落【0017】に「植物栽培装置10は、ガイドレール15に沿って移動可能に、立設された複数の栽培ユニット20を有している」との記載、段落【0018】に「栽培ユニット20に液体(通常の培養液又はクエン酸アンモニウム鉄溶液)を供給する貯液槽30a,30bが、栽培ユニット20の上方に配置されている」との記載があり、これらの記載に照らして本件明細書等の図3をみると、貯液槽30a,30bが、栽培ユニット20が移動するガイドレール15に沿った方向に延在し、延在方向に連続して上が開口していることが記載されているといえる。
訂正事項1の「前記開口の上方から前記貯液槽に接続して、前記貯液槽に貯留されている液体を前記植物栽培筒に供給する液体供給部」について、本件明細書の段落【0025】に「液体供給部LSは、貯液槽30a,30bから栽培ユニット20の植物栽培筒P1に液体を供給する供給管25を備えている。・・・更に、各供給管25には、貯液槽30a,30bからの取り入れ部の高さを調整するための昇降機構(図示せず)が設けられている」との記載があり、この記載に照らして本件明細書等の図3をみると、液体供給部LSは、供給管25が(貯液槽30a,30bの)開口の上方から貯液槽30a,30bに接続して、貯液槽30a,30bに貯留されている液体を植物栽培筒P1に液体を供給する供給管25を備えていることが記載されているといえる。
訂正事項1の「前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管」について、本件明細書の段落【0017】に「植物栽培装置10は、ガイドレール15に沿って移動可能に、立設された複数の栽培ユニット20を有している」との記載、段落【0019】に「栽培ユニット20の下方に、受液槽40a,40bと、栽培ユニット20からの液体を受液槽40a,40bに導く戻り管41a,41bとが配置されている」との記載があり、これらの記載に照らして本件明細書等の図3をみると、栽培ユニット20の下方において栽培ユニット20が移動するガイドレール15に沿った方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻り管41a,41bが記載されているといえる。
訂正事項1の「前記液体供給部と前記栽培ユニットとをともに移動可能に支持する支持部材」について、本件明細書の段落【0025】に「栽培ユニット20には、栽培ユニット20と一体化された液体供給部LSが取り付けられている」との記載、特許請求の範囲の請求項8に「栽培ユニットを前記液体供給部とともに移動させて」との記載、段落【0049】に「植物栽培装置10は、垂直方向に立設させた植物栽培筒P1と液体供給部LSとを移動可能に支持している移動装置22を備える」との記載があり、これらの記載に照らして本件明細書等の図3をみると、液体供給部LSと栽培ユニット20とをともに移動可能に支持する移動装置22が記載されているといえる。
訂正事項1の「移動先の貯液槽」から「植物栽培筒」に「供給」され、「前記植物栽培筒を通過した液体は、前記戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻される」ことについて、本件明細書の段落【0019】に「各処理エリア(A1,A2)には、栽培ユニット20の下方に、受液槽40a,40bと、栽培ユニット20からの液体を受液槽40a,40bに導く戻り管41a,41bとが配置されている」との記載、段落【0052】に「植物栽培筒P1を通過した液体を貯液槽30a,30bに戻す構成にする場合には、貯液槽30a,30bに戻すための戻し管41a,41bや受液槽40a,40bを容易に配置することができる。」との記載があり、この記載に照らして本件明細書等の図3をみると、移動先の貯液槽30bから植物栽培P1に供給され、植物栽培筒P1を通過した液体は、戻し管41bを介して移動先の貯液槽30bに戻されることが記載されているといえる。
以上から、訂正事項1係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものといえる。
(エ)独立特許要件の適合性
特許異議の申立ての対象とされていない訂正後の請求項4、6、7に係る発明は、訂正後の請求項1を引用するもので、後記するように本件特許異議申立ての手続きにおいて提出されたいずれの証拠にも記載されていない構成を有しており、同証拠からは特許出願の際独立して特許を受けることができないということはできず、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見当たらない。
(オ)小括
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条9項で読み替えて準用する同法126条5項ないし7項の要件を満たしている。

イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項8に記載の「複数の貯液槽」について、「植物栽培筒を含む栽培ユニットの移動方向に直列に延在し、延在方向に連続して上が開口した」ものであることを特定し、
訂正前の請求項8に記載の「液体供給部」について、「前記開口の上方から貯液槽に接続した」ものであることを特定し、
訂正前の請求項8に「移動先の前記貯液槽から、前記液体を前記植物栽培筒に供給させる」と記載され、「移動先の貯液槽」から「植物栽培筒」に「供給」された「液体」がどのように「植物栽培筒」から排出されるのかが特定されていなかったのを、「前記植物栽培筒を通過した液体を、前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻す」ものであることを特定するものであるから、
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更しないものか
訂正事項2は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正前の請求項8の発明特定事項のカテゴリ−や対象、目的を変更するものではないから、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
(ウ)新規事項の追加の有無
訂正事項2の「複数の貯液槽」が「植物栽培筒を含む栽培ユニットの移動方向に直列に延在し、延在方向に連続して上が開口した」ものであることについて、本件明細書の段落【0017】に「植物栽培装置10は、ガイドレール15に沿って移動可能に、立設された複数の栽培ユニット20を有している」との記載、段落【0018】に「栽培ユニット20に液体(通常の培養液又はクエン酸アンモニウム鉄溶液)を供給する貯液槽30a,30bが、栽培ユニット20の上方に配置されている」との記載、段落【0020】に「図2(a)に示すように、栽培ユニット20は、複数(本実施形態では4つ)の植物栽培筒P1によって構成されている」との記載があり、これらの記載に照らして本件明細書等の図2、図3をみると、複数の貯液槽30a,30bが、植物栽培筒P1を含む栽培ユニット20が移動するガイドレール15に沿った方向に直列に延在し、延在方向に連続して上が開口していることが記載されているといえる。
訂正事項2の「液体供給部」が「前記開口の上方から貯液槽に接続した」ものであることについて、本件明細書の段落【0025】に「液体供給部LSは、貯液槽30a,30bから栽培ユニット20の植物栽培筒P1に液体を供給する供給管25を備えている。・・・更に、各供給管25には、貯液槽30a,30bからの取り入れ部の高さを調整するための昇降機構(図示せず)が設けられている」との記載があり、この記載に照らして本件明細書等の図3をみると、液体供給部LSは、供給管25が(貯液槽30a,30bの)開口の上方から貯液槽30a,30bに接続していることが記載されているといえる。
訂正事項2の「移動先の貯液槽」から「植物栽培筒」に「供給」され、「前記植物栽培筒を通過した液体を、前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻す」ものであることについて、本件明細書の段落【0017】に「植物栽培装置10は、ガイドレール15に沿って移動可能に、立設された複数の栽培ユニット20を有している」との記載、段落【0019】に「各処理エリア(A1,A2)には、栽培ユニット20の下方に、受液槽40a,40bと、栽培ユニット20からの液体を受液槽40a,40bに導く戻り管41a,41bとが配置されている」との記載、段落【0052】に「植物栽培筒P1を通過した液体を貯液槽30a,30bに戻す構成にする場合には、貯液槽30a,30bに戻すための戻し管41a,41bや受液槽40a,40bを容易に配置することができる。」との記載があり、この記載に照らして本件明細書等の図3をみると、移動先の貯液槽30bから植物栽培P1に供給され、植物栽培筒P1を通過した液体は、栽培ユニット20の下方において、栽培ユニット20が移動するガイドレール15に沿った方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管41bを介して移動先の貯液槽30bに戻されることが記載されているといえる。
以上から、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものといえる。
(エ)小括
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の要件を満たしている。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項ないし7項の要件を満たしている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕、8について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし8に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
植物を配置する設置部を設け、垂直方向に立設させた植物栽培筒を含む栽培ユニットと、
前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した貯液槽と、
前記開口の上方から前記貯液槽に接続して、前記貯液槽に貯留されている液体を前記植物栽培筒に供給する液体供給部と、
前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管と、
前記液体供給部と前記栽培ユニットとをともに移動可能に支持する支持部材とを備えた植物栽培装置であって、
前記液体供給部が、移動先の貯液槽から液体を、前記植物栽培筒に供給し、
前記植物栽培筒を通過した液体は、前記戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻されることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記貯液槽は、前記植物栽培筒の上方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記液体供給部及び前記栽培ユニットは、貯液槽がそれぞれ設けられた複数の処理エリアに移動可能となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記液体供給部に接続され、前記植物栽培筒に液体を供給する補助タンクを更に支持することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記植物栽培筒を吊り下げた状態でガイドするガイドレールを備えていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記植物栽培筒の管理を行なう制御部を更に備え、
前記制御部は、
前記栽培ユニットを特定するための識別情報に関連付けて、前記液体の供給開始時期を記憶する管理情報記憶部を備えており、
前記制御部は、移動させた前記植物栽培筒に、移動先の貯液槽から液体を供給し始めた時期を、前記供給開始時期として前記管理情報記憶部に記憶することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記管理情報記憶部に記録された供給開始期間からの経過時間を計測し、
前記経過時間が、前記液体を供給して処理を実行する予定期間を経過した場合には、前記栽培ユニットを移動させることを特徴とする請求項6に記載の植物栽培装置。
【請求項8】
植物を配置する設置部を設けた植物栽培筒に、植物栽培筒を含む栽培ユニットの移動方向に直列に延在し、延在方向に連続して上が開口した複数の貯液槽から異なる液体を、前記開口の上方から貯液槽に接続した液体供給部を介して供給して、前記植物を栽培する方法であって、
前記植物栽培筒を含む栽培ユニットを前記液体供給部とともに移動させて、移動先の前記貯液槽から、前記液体を前記植物栽培筒に供給させるとともに、前記植物栽培筒を通過した液体を、前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻すことを特徴とする植物栽培方法。

4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3、5及び8に係る特許に対して、当審が令和3年6月28日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
【取消理由の要旨】
請求項1ないし3、5及び8に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び引用文献3ないし5に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
よって、請求項1ないし3、5及び8に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

引用文献1:特開2008−253218号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開平9−248083号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開平5−76252号公報(参考資料1)
引用文献4:特開2003−189749号公報(参考資料3)
引用文献5:特開2014−217349号公報(参考資料4)

なお、引用文献1、2は、申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠、引用文献3ないし5は、申立人が令和3年4月20日に意見書に添付して提出した参考資料である。

(2)引用文献の記載
ア 引用文献1の記載
申立人が甲第1号証として提出した引用文献1(特開2008−253218号公報)には、次の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。)
(ア)「【0001】
本発明は野菜や花などの植物を栽培する装置に関するものである。」
(イ)「【0004】
本発明は上記従来例の諸問題点を解決することを課題とする。より具体的には本発明は、栽培空間を有効に利用し、植物の生育状況に応じて受光効率を高めるための栽培槽の移動や、栽培者の好みの場所への栽培槽の移動を容易かつ手軽に行うことができる植物栽培装置を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0010】
図1〜図4に示す植物栽培装置は、複数の植物植込み孔1を側周面2に設けた複数の栽培筒3と、栽培筒3を吊持する各栽培筒3に対応する吊持具4と、各吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と、各栽培筒に上端開口部6から養液を供給する養液供給手段7とを備えている。
【0011】
前記栽培筒3は、竪長円筒形状(例えば外径10cm、竪長100cm)の筒本体8と、カップ状の底蓋9と、上端リング10とを一体に結合してなる。筒本体8は円筒形状のプラスチック製(例えば塩化ビニール製)の基筒8aと、その内周面に貼着した断熱部8bとからなっている。なお、断熱効果を高めるため、基筒8aの外周面に断熱材を貼付することも可能である。前記断熱部8bは図3に示すように凹凸面とすることが好ましい。この筒本体8には多数の植物植込み孔1が形成され、この植物植込み孔1に、植物苗11の根部11aが植込み固定される。
【0012】
また栽培筒3の軽量化を図るため、植物植え込み孔1とは別の孔を基筒8aに開設し、この孔を前記断熱部8で覆う構成とすることができる。
【0013】
前記吊持具4は、1対の吊ワイヤ12、12、回転部13、フック14を有し、1対の吊ワイヤ12、12の下端は、栽培筒3の上端リング10に設けた1対の係止部15、15に固定されている。前記回転部13によって、栽培筒3はその筒心まわりに回転可能に吊持具4により吊持される。
【0014】
なお、図2に仮想線で示すように上端リング10の開口部(上端開口部)6に網55を張設すると、虫の侵入を防ぐと共に、入射光量を減少させて根の保護を図ることができるので、好適である。
【0015】
前記ガイド5は、レール16と、このレール16にスライド自在に案内支持される多数のスライダ17とを備えている。レール16は、栽培室等の上部構築物18にV字型金具19を介して固定されている。スライダ17はT字状断面を有し、その上部がレール16に案内支持され、その下部に前記吊持具4を支持する支持部としての掛止孔20が形成されている。この掛止孔20に吊持具4のフック14が着脱可能に係止される。このようにして、吊持具4がガイド5に対し着脱可能となるように構成されているが、これに代えて栽培筒3が吊持具4に対し着脱可能となるように構成してもよい。なお、上記レール16およびスライダ17としては、市販のカーテンレールのレールおよびスライダを採用することができる。
【0016】
また上記スライダ17は、レール16に案内されて滑動状態でスライドするものであるが、これに代えてローラを備え、ローラの転動によってレール16上をスライドするスライダを用いてもよい。
【0017】
前記養液供給手段7は、養液供給パイプ21、この養液供給パイプ21から分岐する多数本の分岐チューブ22、噴霧ノズル23および分岐チューブ22と噴霧ノズル23のチューブ23aとをワンタッチで接続するワンタッチ接続具24とを備えている。前記養液供給パイプ21を通じて圧送されてきた養液は、分岐チューブ22を経て、栽培筒3の上端開口部6から導入された噴霧ノズル23に達し、そのノズル本体23bから植物苗11の根部11aに向け、噴霧される。栽培筒3はガイド5により、その位置を変えうるように構成されており、その移動の際にはワンタッチ接続具24を切り離し操作すると、養液は分岐チューブ22の先端で保持される。移動後にワンタッチ接続具24を接続状態に操作すれば、所望の位置の分岐チューブ22を経て栽培筒3内に養液を供給することができる。
【0018】
前記養液供給手段7に代えて、栽培筒3の側周部や底部から養液を筒内に導入する養液供給手段を用いることもできる。
【0019】
栽培筒3の底蓋9は、半透明のプラスチック(例えばポリエチレン)で構成され、噴霧ノズル23から噴霧された残余の養液を一時的に貯留する。この底蓋9の側面には回収用チューブ25が接続されている。また栽培筒3の下方には回収パイプ26およびこの回収パイプ26から分岐する多数の分岐チューブ27が配設してあり、前記回収用チューブ25は前記ワンタッチ接続具24と同様の機能を有するワンタッチ接続具28により接続されている。このように構成することにより、養液を回収して再利用できる。」
(エ)「【0025】
本実施形態は、上記のように構成されているが、これに加えて図1、図4、図7、図8に示すように、ガイド5がレール間に断絶部30を有する複数のレール16と、この断絶部30を断絶状態と接続状態とのいずれか一方の状態とすることが可能な接続レール31とを備え、前記接続状態時に、スライダ17が一方のレール16から他方のレール16へ接続レール31を介してスライド移動できるように構成されている。
【0026】
図1、図7、図8に示す例は、栽培筒3が屋外と屋内との間でレール16上の移動を可能にしたもので、屋外のレール16と屋内のレール16との間には、戸などの開閉可能な障害物32が存在している。前記接続レール31は、レール16にスライド可能に外嵌され、非接続時には図1、図7に示すように、一方のレール16上に退避して支持されている。戸などの障害物32を開放したとき、接続レール31をスライドさせて、図8に示すように両レール16を接続する状態とすると、栽培筒3を屋外、屋内の一方から他方へスライド移動させることができる。」
(オ)「【0034】
本発明は上記実施形態に示すものの外、種々の形態に構成することができる。例えばガイドに案内支持される各吊持具を動力で移動させることができる。また栽培筒3の植込み孔1に植物11の根部11aを固定する方法は、上記実施形態 に示すものに限定されず、種々の方法がある。」
(カ)図1、図2
「 【図1】


【図2】


(キ)また、上記(ウ)で摘記した記載、及び、図1及び図2の図示内容から、養液供給パイプ21および回収パイプ26は、栽培筒3を吊持する吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と平行に延在していること、障害物32は、屋外の養液供給パイプ21と屋内の養液供給パイプ21との間にも存在することがみてとれる。

以上から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
【引用発明1】
複数の植物植込み孔1を側周面2に設けた複数の垂直方向に立設させた栽培筒3と、栽培筒3を吊持する各栽培筒3に対応する吊持具4と、各吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と、各栽培筒に上端開口部6から養液を供給する養液供給手段7とを備える植物栽培装置であって、
前記ガイド5は、レール16と、このレール16にスライド自在に案内支持される多数のスライダ17とを備え、
前記養液供給手段7は、養液供給パイプ21、この養液供給パイプ21から分岐する多数本の分岐チューブ22、噴霧ノズル23および分岐チューブ22と噴霧ノズル23のチューブ23aとをワンタッチで接続するワンタッチ接続具24とを備え、前記養液供給パイプ21を通じて圧送されてきた養液は、分岐チューブ22を経て、栽培筒3の上端開口部6から導入された噴霧ノズル23に達し、そのノズル本体23bから植物苗11の根部11aに向け、噴霧され、
栽培筒3はガイド5により、その位置を変えうるように構成されており、その移動の際にはワンタッチ接続具24を切り離し操作すると、養液は分岐チューブ22の先端で保持され、移動後にワンタッチ接続具24を接続状態に操作すれば、所望の位置の分岐チューブ22を経て栽培筒3内に養液を供給することができ、
栽培筒3の下方には回収パイプ26およびこの回収パイプ26から分岐する多数の分岐チューブ27が配設してあり、前記回収用チューブ25は前記ワンタッチ接続具24と同様の機能を有するワンタッチ接続具28により接続されているので養液を回収して再利用でき、
養液供給パイプ21および回収パイプ26は、栽培筒3を吊持する吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と平行に延在しており、
栽培筒3は屋外と屋内との間でレール16上の移動が可能であり、屋外のレール16と屋内のレール16との間には、戸などの開閉可能な障害物32が存在し、当該障害物32は、屋外の養液供給パイプ21と屋内の養液供給パイプ21との間にも存在する、
植物栽培装置。

また、引用文献1には、次の方法の発明(以下「引用方法発明1」という。)が記載されているといえる。
【引用方法発明1】
引用発明1を用いた植物栽培方法。

イ 引用文献2の記載
申立人が甲第2号証として提出した引用文献2(特開平9−248083号公報)には、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水耕栽培を利用した植物の栽培方法及び植物栽培装置に関する。」
(イ)「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の植物の栽培方法は、植物の成長過程を複数段階に区分してその段階に対応した数の植物栽培設備を設ける。例えば、2ないし3個程度の植物栽培設備を設ける。・・・この植物栽培設備は、壁面に開閉扉を備えた箱状の収容建物を備え、植物の成長過程に対応して前記段階では容積を小さく、徐々に容積を大きなものに形成する。この植物栽培設備には、それぞれ照明手段と養液供給手段と上面に複数の保持孔が開口された当該植物の栽培槽を設置する。・・・
【0014】照明手段は枠体に複数の蛍光灯を取付け、これを各栽培槽の上方に設置して各栽培槽の上面を照射させる。また、養液供給手段は、各栽培槽と外部に設置した調整槽との間をポンプと循環ホースとで連通させて肥料成分やPH等を調整した養液を循環させる。・・・
【0015】各栽培槽は、上面開口に装着された蓋パレットに略同一径の保持孔が開孔され、いずれの保持孔にも係脱自在に係止される前記植物の苗の茎部を支持させた保持筒体を係止させ、この保持筒体に係止した植物の苗の根を各栽培槽内に配置させた養液に浸漬させて成育させる。植物の成長段階に対応して前記複数の植物栽培設備の各栽培槽に係止させた保持筒体単位で他の栽培槽に前記植物の苗を順次移載させつつ植物を成育させる。・・・また、保持筒体内には、植物の苗を保持する、例えば海綿体の様な緩衝部材で保持して保持筒体内に嵌着させる。これにより、栽培スペース、照明設備等の設備経費の無駄がなく全体の設備経費や運転経費を大幅に節約できる。また、植物の栽培槽への取付、取り外しが簡単で、成長過程に応じた複数の植物栽培設備への植物の移載作業も短時間で処理でき、植物の固体ごとの管理が確実に、かつ円滑に行え、病気の予防を的確に行える。更に、植物栽培設備における作業性に優れ、植物の成長過程に応じた生産管理も容易で大量生産でき、一株当たりの生産コストも安価に提供できる。」
(ウ)「【0022】この第1、第2植物栽培設備10a、10bには、その内部の容積に応じて照明手段14と、養液供給手段16と、上下段等に架設された栽培槽18とが設置されている。・・・
【0023】これらの保持孔24のいずれの保持孔24にも係脱自在に係止されるような保持筒体26内に双葉が成長した程度の植物の苗sを保持する。この保持筒体26を第1植物栽培設備10a内の各栽培槽18の上面側の保持孔24に係止させる。第1、第2植物栽培設備10a、10b内において、各栽培槽18の上方位置に照明手段14が架設され、この照明手段14は蛍光灯28を備え、各栽培槽18の上面を照射する。また、各栽培槽18内には、肥料成分を含有した養液30が貯留されている。第1植物栽培設備10aにおいては、各栽培槽18内の養液30は、植物の苗sが小さいために減水量が少なく、作業者が定期的に養液を補充する。図1に示す様に、第1植物栽培設備10a内にはエアポンプ32を設置し、このエアポンプ32から各栽培槽18へエアホース34を連通させて養液30内に空気を供給して養液の腐敗を防止している。
【0024】第2植物栽培設備10bは養液供給手段16を有し、この養液供給手段16は、養液30の濃度、PH等を調整する調整槽36と、この調整槽36に連通された揚水ポンプ38と、このポンプ38から各栽培槽18へ連通された循環ホース40及び各栽培槽18から調整槽体36へ連通された還流ホース42とを備え・・・ている。この調整槽36内に貯留した養液30の肥料成分の濃度やPHを調整して各栽培槽18内へ循環させて植物の後期段階の成育を促進でき・・・る。なお、養液供給手段16は、第2植物栽培設備10b内の栽培槽18へ養液30を循環させることに限ることなく、第1植物栽培設備10a内の栽培槽18へ養液を分岐循環させてもよい。」
(エ)図1




以上によれば、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明2】
植物の栽培方法に用いられる植物栽培装置であって、
当該植物栽培装置は、植物の成長過程を複数段階に区分してその段階に対応した数の植物栽培設備を設け、この植物栽培設備には、それぞれ照明手段と養液供給手段と上面に複数の保持孔が開口された当該植物の栽培槽を設置し、
養液供給手段は、各栽培槽と外部に設置した調整槽との間をポンプと循環ホースとで連通させて肥料成分やPH等を調整した養液を循環させるものであり、
植物の成長段階に対応して前記複数の植物栽培設備の各栽培槽に係止させた保持筒体単位で他の栽培槽に前記植物の苗を順次移載させつつ植物を成育させる植物栽培装置。

また、引用文献2には、次の方法の発明(以下「引用方法発明2」という。)が記載されているといえる。
【引用方法発明2】
引用発明2を用いた植物栽培方法。

ウ 引用文献3の記載
申立人が参考資料1として提出した特開平5−76252号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0015】
【実施例】・・・図1は環境遮へい装置1内の植物2の生長にとって最適に制御された制御空間3の中に栽培装置A4,栽培装置B5,栽培装置C6が設置されている。・・・
【0016】栽培装置A4を事例の代表して説明する。溝8がついている貯留容器7が地面に固定されている。・・・図2に示すように、レール10の中にはリップ部11の中にコロ12が乗っており、コロ12間には軸13が取り付いており、植物支持体14をボルト15にて吊り下げている。植物支持体14には植物受16が複数個取付けられており、その下部は貯留容器7の中の溝部8に差し込んである。植物受16は、植物支持体14の二方に付いているが、作物によっては円周につけることもできる。また貯留容器7の中には養液17が入っており、養液17はパイプ18を通して、ポンプ19で配管20によりくみ上げられ、パイプ21に至る。パイプ21には軟質パイプ22が植物支持体14と同数だけ取付いており、その他端は植物支持体14に例えばワンタッチ継手23によって取付けられている。植物受16には植物2が植え付けらている。植物2の根部は植物支持体14まで届いている(根部が届く様に植付ける)ので養液17はポンプ19によって植物2の根部に供給される。」
(イ)図1、図2
「 【図1】


【図2】



エ 引用文献4の記載
申立人が参考資料3として提出した特開2003−189749号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0017】次に主として図2を用いて、栽培筒1を中心として、上記構成をより詳細に説明する。先ず同図(A)において、栽培筒1の外周壁に1以上の開口1aが形成され、この開口1aに対しては栽培対象植物Pが植付けられている栽培ユニット8が挿通配置されている。
【0018】(B)はこの栽培ユニット8の構成を示す。栽培ユニット8は、栽培筒1内に挿通配置される挿入部8aと、この挿入部8aに連設し、栽培対象植物(以下単に「植物」とする)Pが植栽されている植栽部8bとからなる。植栽部8bは栽培ユニット8内に配置された仕切り材8cにより前記挿入部8aと分離されている。
【0019】植栽部8bには土、多孔質焼結材、水苔等、植物Pが生育する素材が充填されている。また仕切材8cは、スポンジ等、植栽部8bに於ける植物Pの根がこの仕切材8cを介して挿入部8a側に展出可能なよう多孔質材料により形成されている。・・・以上のように構成された栽培ユニット8が、それぞれ栽培筒1に嵌挿配置される。」
(イ)図1、図2
「 【図1】


【図2】



オ 引用文献5の記載
申立人が参考資料4として提出した特開2014−217349号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0056】
・・・本実施例に係る植物栽培装置(31)では、植物用パイプ(32)と養液用パイプ(33)とは完全に分離した態様とはなっておらず、それぞれが隣接した一体型のパイプ装置となっている。
【0057】
図7(a)に示すように、中央に養液用パイプ(33)が縦方向に延伸して設けられており、該養液用パイプを中心にしてその前後左右に隣接して一体的に、植物用パイプ(32)が縦方向に延伸して設けられている。
【0058】
植物用パイプ(32)には実施例1と同様に、所定の高さ幅の間隔において、植物を植え付けるための栽培用分岐パイプ(34)が斜め上方向になるよう設けられている。
本実施例における植物栽培装置では、各栽培用分岐パイプが設けられた高さとおよそ同一の高さにおいて、養液用パイプ(33)と植物用パイプ(32)とを仕切る境界壁(37)に噴射孔(35)が設けられている。
噴射孔の形状は任意であるが、本実施例では直径約2mmの円形状の孔部としている。」
(イ)図7




(3)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比・判断
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1における「植物植込み孔1」、「垂直方向に立設させた栽培筒3」は、それぞれ、本件発明1における『植物を配置する設置部』、『垂直方向に立設させた植物栽培筒』に相当し、引用発明1における「栽培筒3」は、これを吊持する「吊持具4」とともに、本件発明1における『栽培ユニット』に相当する手段を構成する。
b 引用発明1における「栽培筒3を吊持する吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と平行に延在」する「養液供給パイプ21」と、本件発明1における『貯液槽』とは、「前記栽培ユニットの移動方向に延在」する「液体供給源」である点で共通する。
c 引用発明1において「分岐チューブ22」、「噴霧ノズル23」及び「ワンタッチ接続具24」からなる部分は、「分岐チューブ22」が「養液供給パイプ21」(液体供給源)から「分岐」しているから、本件発明1における『液体供給部』とは、「液体供給源に接続して、前記液体供給源の液体を前記植物栽培筒に供給する液体供給部」である点で共通する。
d 引用発明1における「栽培筒3を吊持する吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と平行に延在」する「回収パイプ26」と、本件発明1における『戻し管』とは、「前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在」する「回収管」である点で共通する。
e 引用発明1における「各吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5」は、液体供給部の一部を構成する「分岐チューブ22」を移動可能に支持していないが、「栽培筒3」及び「吊持具4」(栽培ユニット)を移動可能に支持しているから、本件発明1における『支持部材』とは、「前記栽培ユニットを移動可能に支持する支持部材」である点で共通する。
f 引用発明1において、「分岐チューブ22」、「噴霧ノズル23」及び「ワンタッチ接続具24」からなる部分(液体供給部)が、「栽培筒3」及び「吊持具4」(栽培ユニット)の「移動後」に、ワンタッチ接続具24を接続状態に操作することで、「(養液供給パイプ21(液体供給源)から)所望の位置の分岐チューブ22を経て栽培筒3内に養液を供給」し、「栽培筒3」の「下方」に配設された「回収パイプ26」(回収管)及び「回収パイプ26から分岐する多数の分岐チューブ27」及び「ワンタッチ接続具24と同様の機能を有するワンタッチ接続具28」により「養液を回収して再利用」することは、本件発明1において、『前記液体供給部が、移動先の貯液槽から液体を、前記植物栽培筒に供給し、前記植物栽培筒を通過した液体は、前記戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻される』ことと、「前記液体供給部が、移動先の液体供給源から液体を、前記植物栽培筒に供給し、前記植物栽培筒を通過した液体は、前記回収管を介して回収される」ものである点で共通する。

以上を踏まえると、本件発明1と引用発明1とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
植物を配置する設置部を設け、垂直方向に立設させた植物栽培筒を含む栽培ユニットと、
前記栽培ユニットの移動方向に延在する液体供給源と、
前記液体供給源に接続して、前記液体供給源の液体を前記植物栽培筒に供給する液体供給部と、
前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在する回収管と、
前記栽培ユニットを移動可能に支持する支持部材とを備えた植物栽培装置であって、
前記液体供給部が、移動先の液体供給源から液体を、前記植物栽培筒に供給し、
前記植物栽培筒を通過した液体は、前記回収管を介して回収される植物栽培装置。

【相違点1−1】
本件発明1は、「液体」を「貯留」する「延在方向に連続して上が開口した貯液槽」(液体供給源)、「(貯液槽の)前記開口の上方から前記貯液槽に接続する液体供給部」、「延在方向に連続して上が開口した戻し管」(回収管)を備えるのに対し、
引用発明1は、「養液供給パイプ21」(液体供給源)、「分岐チューブ22」、「噴霧ノズル23」及び「ワンタッチ接続具24」からなる部分(液体供給部)、「回収パイプ26」(回収管)を備える点。
【相違点1−2】
本件発明1の「支持部材」は、「前記液体供給部と前記栽培ユニットとをともに移動可能に支持する」のに対し、
引用発明1の「各吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5」(支持部材)は、栽培ユニットを移動可能に支持するものの、前記液体供給部を移動可能に支持するものとはいえない点。
【相違点1−3】
本件発明1では、前記液体供給部が移動先の前記貯液槽(液体供給源)から植物栽培筒に液体を供給し、前記植物栽培筒を通過した液体は、戻し管(回収管)を介して移動先の前記貯液槽に戻されるのに対して、
引用発明1では、「分岐チューブ22」、「噴霧ノズル23」及び「ワンタッチ接続具24」からなる部分(液体供給部)が、「栽培筒3」及び「吊持具4」(栽培ユニット)の「移動後」に、ワンタッチ接続具24を接続状態に操作することで、「(養液供給パイプ21から)所望の位置の分岐チューブ22を経て栽培筒3内に養液を供給」し、「栽培筒3」の「下方」に配設された「回収パイプ26」(回収管)及び「回収パイプ26から分岐する多数の分岐チューブ27」及び「ワンタッチ接続具24と同様の機能を有するワンタッチ接続具28」により「養液を回収して再利用」する点。

相違点1−1ないし相違点1−3は関連するので、まとめて検討する。
相違点1−1に係る構成のうち、特に「延在方向に連続して上が開口した貯液槽」、「(貯液槽の)前記開口の上方から前記貯液槽に接続する液体供給部」を備える点について、引用文献1には記載も示唆もなく、引用文献2ないし5、申立人が令和2年11月11日付け意見書に参考資料1として添付して提出した実願昭62−95161号(実開昭64−467号)のマイクロフィルム、申立人が令和3年4月20日付け意見書に参考資料2として添付した実願平1−45079号(実開平2−137857号)のマイクロフィルムのいずれにも記載も示唆もされておらず、引用発明1における「養液供給パイプ21」、「この養液供給パイプ21から分岐する多数本の分岐チューブ22」に代えて、「延在方向に連続して上が開口した貯液槽」、「(貯液槽の)前記開口の上方から前記貯液槽に接続する液体供給部」を採用する動機付けがないことは明らかである。そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を採用することで、引用発明1では必要な作業、すなわち、栽培筒3の移動後に、養液供給パイプ21から分岐する分岐チューブ22に栽培筒3のワンタッチ接続部24を接続する作業(相違点1−3)を省くことができるという効果を有する。
よって、相違点1−1ないし相違点1−3に係る本件発明1の構成とすることは、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(イ)小括
したがって、本件発明1は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2、3及び5について
(ア)対比・判断
本件発明2、3及び5は、いずれも本件発明1の構成にさらに限定を加えたものであるから、少なくとも本件発明1と引用発明1との相違点と同様の相違点1−1ないし相違点1−3を有するところ、上記アで検討したとおり、上記相違点1は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(イ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3及び5は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明8について
(ア)対比・判断
本件発明8と引用方法発明1とを対比すると、本件発明1と引用発明1と同様の対比により、両者は少なくとも、本件発明8は、「延在方向に連続して上が開口した複数の貯液槽」、「(貯液槽の)前記開口の上方から貯液槽に接続した液体供給部」、「延在方向に連続して上が開口した戻し管」、「前記植物栽培筒を含む栽培ユニットを前記液体供給部とともに移動させ」る構成を備える植物栽培装置に係る植物栽培方法の発明であり、引用方法発明1は、上記構成を備える植物栽培装置に係るものではない点で相違するが、当該相違点は、本件発明1と引用発明1との相違点1−1ないし相違点1−3について検討したのと同様の理由により、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
(イ)小括
したがって、本件発明8は、引用方法発明1、引用方法発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法29条1項違反
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1〜3、5は、甲1発明と同一であり、特許法29条1項3号に該当するから、特許法29条1項の規定に違反してされたものであるという旨主張する。
しかし、上記「4(3)ア」で検討したとおり、本件発明1と甲1発明(引用発明1)との間には、相違点1−1ないし相違点1−3が存在し、実質的な相違点であるから、当該申立人の主張は採用することはできない。
(2)特許法36条違反
申立人は、訂正前の請求項1〜3、5に係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が、本件特許の出願時における明細書及び図面には、貯液槽30aと貯液槽30bのそれぞれに貯留される液体が同一の液体でもよいという記載が存在しない一方、訂正前の請求項1における移動先の液体は、移動前における液体と同一の液体である場合も含まれる点で不備があるため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるという旨主張している。
しかし、本件特許の出願時における明細書及び図面に、貯液槽30aと貯液槽30bのそれぞれに貯留される液体が同一の液体でもよいという記載が明記されていないとしても、栽培する植物の成育状況等に応じて供給する液体を移動前と移動後とで同じとしたり、異なるようにすることは当然であるから、請求項1における移動先の液体に移動前における液体と同一の液体である場合が含まれるとしても不備があるということはできず、この点にかかる申立人の主張も採用することができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3、5及び8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3、5及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を配置する設置部を設け、垂直方向に立設させた植物栽培筒を含む栽培ユニットと、
前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した貯液槽と、
前記開口の上方から前記貯液槽に接続して、前記貯液槽に貯留されている液体を前記植物栽培筒に供給する液体供給部と、
前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口した戻し管と、
前記液体供給部と前記栽培ユニットとをともに移動可能に支持する支持部材とを備えた植物栽培装置であって、
前記液体供給部が、移動先の貯液槽から液体を、前記植物栽培筒に供給し、
前記植物栽培筒を通過した液体は、前記戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻されることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記貯液槽は、前記植物栽培筒の上方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記液体供給部及び前記栽培ユニットは、貯液槽がそれぞれ設けられた複数の処理エリアに移動可能となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記液体供給部に接続され、前記植物栽培筒に液体を供給する補助タンクを更に支持することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記植物栽培筒を吊り下げた状態でガイドするガイドレールを備えていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記植物栽培筒の管理を行なう制御部を更に備え、
前記制御部は、
前記栽培ユニットを特定するための識別情報に関連付けて、前記液体の供給開始時期を記憶する管理情報記憶部を備えており、
前記制御部は、移動させた前記植物栽培筒に、移動先の貯液槽から液体を供給し始めた時期を、前記供給開始時期として前記管理情報記憶部に記憶することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記管理情報記憶部に記録された供給開始期間からの経過時間を計測し、
前記経過時間が、前記液体を供給して処理を実行する予定期間を経過した場合には、前記栽培ユニットを移動させることを特徴とする請求項6に記載の植物栽培装置。
【請求項8】
植物を配置する設置部を設けた植物栽培筒に、植物栽培筒を含む栽培ユニットの移動方向に直列に延在し、延在方向に連続して上が開口した複数の貯液槽から異なる液体を、前記開口の上方から貯液槽に接続した液体供給部を介して供給して、前記植物を栽培する方法であって、
前記植物栽培筒を含む栽培ユニットを前記液体供給部とともに移動させて、移動先の前記貯液槽から、前記液体を前記植物栽培筒に供給させるとともに、前記植物栽培筒を通過した液体を、前記栽培ユニットの下方において前記栽培ユニットの移動方向に延在し、延在方向に連続して上が開口しか戻し管を介して移動先の前記貯液槽に戻すことを特徴とする植物栽培方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-16 
出願番号 P2016-142603
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (A01G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 西田 秀彦
長井 真一
登録日 2019-10-25 
登録番号 6604283
権利者 株式会社大林組
発明の名称 植物栽培装置及び植物栽培方法  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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