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審決分類 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1382363
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-15 
確定日 2021-11-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6723711号発明「外用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6723711号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6723711号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6723711号の請求項1〜4に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成27年9月29日に出願され、令和2年6月26日にその特許権の設定登録がされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された。その後の手続は以下のとおりである。
令和3年 1月15日 特許異議申立人 森田弘潤(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立て
同年 5月21日 取消理由通知
同年 7月26日 特許権者より意見書の提出及び訂正の請求
なお、令和3年7月26日の訂正請求については、特許法第120条の5第5項ただし書の規定に基づき、意見書を提出する機会を申立人に与えたが、申立人からは意見書の提出はなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
令和3年7月26日付け訂正請求書により特許権者が請求する訂正(以下、「本件訂正」ともいう。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜4について訂正することを求めるものである。
その請求の内容は、請求項1〜4からなる一群の請求項に係る訂正であって、以下のとおりのものである。

訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」と記載されているのを、「(B)不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)

2 訂正の適否
(1)訂正の目的
上記訂正事項は、訂正前の請求項1に記載の「ヒアルロン酸オリゴ糖」について、それが「不飽和型」のものであることの特定を加えることにより、「ヒアルロン酸オリゴ糖」が飽和型又は不飽和型のいずれであるのか、その種類を具体的に特定することでさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書の段落【0018】、【0020】、及び実施例には、外用組成物にヘパリン類似物質と共に含まれるヒアルロン酸オリゴ糖として、不飽和型のものが記載されているから、訂正前の請求項1に記載の「ヒアルロン酸オリゴ糖」について、「不飽和型の」との特定を加える訂正は、願書に添付した明細書から導き出される事項である。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
上記訂正事項は、上記のとおり、「ヒアルロン酸オリゴ糖」の種類を特定してより限定するものであるから、いずれもカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正請求についての結論
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
特許第6723711号の請求項1〜4の特許に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第6723711号の請求項1〜4の特許に係る発明を、順に「本件特許発明1」〜「本件特許発明4」ということがある。また、これらをまとめて単に「本件特許発明」ということがある。)。
「【請求項1】
(A)ヘパリン類似物質と、(B)不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩を含有する、外用組成物(但し、養毛化粧料と、カチオン化ヒアルロン酸及び/又はその塩を含有する場合とを除く)。
【請求項2】
前記(A)成分が0.05〜3重量%である、請求項1記載の外用組成物。
【請求項3】
前記(A)成分1重量部あたり、前記(B)成分が0.002〜2重量部である、請求項1又は2記載の外用組成物。
【請求項4】
医薬品又は化粧料である、請求項1〜3のいずれかに記載の外用組成物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
訂正前の本件特許に対して令和3年5月21日付けで通知された取消理由の要旨は以下のとおりである。

・取消理由1(サポート要件) 本件特許の請求項1〜4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由(取消理由1(サポート要件))についての当審の判断
令和3年5月21日付けの取消理由通知では、ヒアルロン酸オリゴ糖が不飽和型のものに特定されていない訂正前の特許請求の範囲に記載の発明について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない旨の通知を行った。
この点、同年7月26日付けの本件訂正により、請求項1は、ヒアルロン酸オリゴ糖の種類が不飽和型のものに特定する訂正がなされたため、取消理由1は解消した。
よって、本件特許発明に係る特許は、取消理由1によって取り消すべきものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人による申立ての理由の概要及び証拠
申立人は、その特許異議申立書において、本件特許の請求項1〜4に係る発明を取り消すべき理由として、以下の(1)に概要を示すア、イの申立ての理由(以下、「申立理由1」、「申立理由2」という。)を主張するとともに、証拠方法として、以下の(2)に示す甲第1号証〜甲第11の2号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等という。)を提出した。

(1)申立人による申立ての理由の概要
ア 申立理由1(明確性要件違反)
本件特許発明1〜4はいずれも、特許請求の範囲の記載により、特許を受けようとする発明が明確ではない。よって、本件特許発明1〜4についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願についてなされたものであるから、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2(サポート要件違反)
本件特許発明1〜4はいずれも、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、本件特許発明1〜4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願についてなされたものであるから、取り消されるべきものである。

(2)申立人が提出した証拠(証拠方法)
甲第1号証:「ヒアロオリゴ」(平均分子量1万以上、キユーピー株式会社)商品ウェブサイト
https://www.kewpie.co.jp/finechemical/pdf/hyaluronic/fc_20181217_funcitonalHA_phamphlet.pdf
https://www.kewpie.co.jp/finechemical/pdf/hyaluronic/hyaloorigo_process.pdf
(甲1) (2018年11月)
甲第2号証:「ヒアルロン酸FCH−SU」(平均分子量5〜11万、キッコーマンバイオケミファ株式会社) 商品カタログ
(甲2) (2018年12月)
甲第3号証:特開2009−112260号公報
(甲3) (平成21年5月28日発行)
甲第4号証:【分子量分析】ヒアルロン酸の分子量を求めることができます 〜GPC−LS〜(070)
株式会社日東分析センターのウェブサイト
https://www.natc.co.jp/result/?id=1404541069-424477&pca=9&ca=42
(甲4) (出力日:2020年10月28日)
甲第5号証:取扱商品−Products− 化粧品原料別
株式会社FAPジャパンのウェブサイト
http://www.fap-jp.com/products/cosmetics/
http://www.fap-jp.com/wp-content/uploads/44a835ce8aded8ed383944d3e857d46a.pdf
(甲5) (2020年掲載) (出力日:2020年10月28日)
甲第6号証:「Streptococcus 種ヒアルロン酸リアーゼの三次元構造とヒアルロン酸分解のメカニズム」 Glycoforum, 2002,Vol.6,A8
(甲6) (2002年8月16日発行)
甲第7号証:ウィキペディア(Wikipedia)「シクロヘキセン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%98%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%83%B3
(甲7) (最終更新:2019年7月11日)(出力日:2020年10月28日)
甲第8号証:ウィキペディア(Wikipedia)「シクロヘキサノール」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%98%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB
(甲8) (最終更新:2020年6月26日)(出力日:2020年10月28日)
甲第9号証の1:特許第6553341号公報(特願2014−201438号の特許公報)
(甲9の1) (令和1年7月31日発行)
甲第9号証の2:特願2014−201438号に係る拒絶理由通知書に対する平成30年8月28日付意見書
(甲9の2)
甲第10号証の1:特許第6656803号公報(特願2014−238846号の特許公報)
(甲10の1) (令和2年3月4日発行)
甲第10号証の2:特願2014−238846号に係る拒絶理由通知書に対する令和1年11月8日付意見書
(甲10の2)
甲第11号証の1:特許第6656804号公報(特願2014−238847号の特許公報)
(甲11の1) (令和2年3月4日発行)
甲第11号証の2:特願2014−238847号に係る拒絶理由通知書に対する令和1年11月8日付意見書
(甲11の2)

2 申立ての理由についての当審の判断
当審は、上記1(1)に概要を示した、申立人が申し立てている本件特許を取り消すべき理由は、いずれも理由がないものと判断した。その判断の理由は以下のとおりである。

(1)申立理由1(明確性)について
ア 申立人の主張
本件特許明細書の段落【0014】、【0017】、【0020】には、本件特許発明1における「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」についての記載が、また、本件特許明細書の段落【0024】、【0027】〜【0038】には、「(C−1)ヒアルロン酸及び/又はその塩」並びに「(C−2)低分子化ヒアルロン酸及び/又はその塩」についての記載があるとおり、本件特許明細書では、上記(B)成分、(C−1)成分、(C−2)成分はそれぞれ別々の成分として定義されている。その上、それぞれの成分ごとに役割や好ましい配合割合がそれぞれ説明されており、本件特許発明3においては、(A)成分(ヘパリン類似物質)1重量部あたり、 (B) 成分の重量部が規定されている 。
したがって、本件特許発明が明確性要件を充足するためには、第三者において、(B)成分、(C−1)成分、(C−2)成分が明確に区別され、かつ、いかなる分子量のヒアルロン酸がいずれの成分(ないしその一部)に該当するのか、一義的かつ明確に理解されることが最低限必要であるところ、本件特許明細書の段落【0017】における「ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数については、特に制限されないが、例えば、2〜16糖程度が挙げられる。」との記載をふまえても、当該記載は単なる例示にすぎないから、具体的にどのような分子量のヒアルロン酸がこれに含まれるのか、一義的に明確とは認められない。
また、本件特許明細書の段落【0027】〜【0038】には、(C−1)成分、(C−2)成分の「平均分子量」が記載されているが、化粧品用途等で用いられるヒアルロン酸の分子量分布はブロードになることが一般的であるところ、仮に本件特許明細書の段落【0017】の「2〜16等程度」という記載を基に、(B)成分を分子量400〜3200程度のヒアルロン酸に限定して考えるとしても、(C−2)成分とされている低分子ヒアルロン酸を用いた場合に、(B)成分と重複するものが一定程度含まれることが合理的に予想され、その場合に、(B)成分と解釈すべきか、あるいは(C−2)成分の一部と解釈すべきか判別のしようがない(甲1〜5)。
さらに、本件特許発明1及び2においては、(B)成分自体の配合割合に関する規定が存在しないので、(B)成分と解釈する場合に、具体的にどの程度まで含まれていれば本件特許発明の範囲に含まれるのかも判別し得ない。
(申立書の4頁下から8行〜14頁2行)

イ 申立人の主張に対する当審の判断
本件特許明細書の段落【0014】には、本件特許発明1における(B)成分であるヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩に関し、それを、(A)成分であるヘパリン類似物質と共に、外用組成物において使用することにより、(A)成分が配合されているにもかかわらず、塗布時のぬるつき感を抑制えることで肌馴染みに優れ、かつ満足のいく浸透感及び保湿感を備えさせることを可能にするという、(B)成分が配合されることの技術的意義について記載されており、そして、段落【0017】には、そのような技術的意義の観点から、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数について、2〜16糖程度であることが例示されている。なお、段落【0018】には、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩は、不飽和型のものが、塗布時のぬるつき感を抑える(肌馴染みを向上させる)とともに、浸透感及び保湿感をより一層向上させるという観点から、好ましいものとして挙げられている。
一方、上記(C−1)成分、(C−2)成分が配合されることの技術的意義は、本件特許明細書の段落【0024】、【0031】において、本件特許発明の外用組成物に、必要に応じて、重厚な塗布感及び保湿感を備えさせるためであることが記載されている。
以上のとおり、(B)成分はそれを必須の配合とすることで、外用組成物の塗布時のぬるつき感を抑制えることで肌馴染みに優れ、かつ外用組成物に満足のいく浸透感及び保湿感を備えさせた上で、(C−1)成分、(C−2)成分の配合は、必要があれば、外用組成物に重厚な塗布感及び保湿感を備えさせることを目的として追加的に行われるという、本件特許発明の外用組成物における上記各成分が配合される技術的意義は明確に相違している。そうすると、化粧品用途等で用いられるヒアルロン酸の分子量分布はブロードになることが一般的であったとしても、当業者は、本件特許発明の外用組成物に配合する上での上記の技術的意義の違いに照らして、本件特許発明の外用組成物に配合される(B)成分、(C−1)成分、(C−2)成分を明確に区別することができる。
また、本件特許発明1及び2において(B)成分自体の配合割合に関する記載が存在しないということは、本件特許発明1及び2の外用組成物は(B)成分自体の配合割合について特定がないものとして、当業者は、本件特許の請求項1及び2における記載のとおりに、外用組成物に係る本件特許発明の範囲を明確に把握することができる。
したがって、申立人の上記主張アは採用できない。

(2)申立理由2(サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、申立理由2(サポート要件)について、以下の(ア)〜(ウ)の主張をしている

(ア)(B)成分の構成単糖の数について
本件特許発明では、(B)成分(ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩)の分子量、構成単糖の数に関して何ら規定がなされておらず、本件特許明細書には、構成単糖の数については「特に制限されないが、例えば 2〜16糖程度」(段落【0017】)と記載されている。
しかしながら、本件特許明細書の実施例においては、分子量約400の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖(2糖)という極めて限定的な例しか記載されていないのであるから、その効果(物性)を分子量、構成単糖数が異なる場合にまで、一般化・抽象化し得ないことは明らかである(甲6〜甲11の2)。
(B)成分に関し、段落【0017】に記載された「2〜16糖程度」というのは単なる例示であって定義ではないのであるから、具体的にどのような分子量のヒアルロン酸がこれに含まれるのか、一義的に明確とは到底認められず、そのような分子量すら明らかでない「ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」の範囲にまで、その効果を一般化・抽象化し得る筈はない。
仮に、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数を2〜16糖程度(分子量400〜3200)に限定して解釈しても、ヒアルロン酸は一般的に高分子化合物であるが、本件特許明細書の実施例で用いられている2糖の不飽和型は分子量が400程度の低分子化合物であり、一般的な高分子化合物の常識は全く当て嵌まらず、分子量が2糖の約2倍となる4糖とは全く別の化合物として扱われるべきもの、分子量が2糖の約8倍となる16糖のヒアルロン酸オリゴ糖とは作用効果や物性面で何の関連性もない化合物として扱われるべきものである。
(申立書の14頁下から8行〜24頁14行)

(イ)(A)及び(B)成分それぞれの含有量について
本件特許発明1、4では、(A)成分、(B)成分いずれについても含有量について何ら規定がなされていない。そして、本件特許明細書には、段落【0013】に(A)成分、段落【0022】に(B)成分のそれぞれの含有量について記載がある。
しかしながら、本件特許明細書の実施例(段落【0059】【表1】)及び処方例(段落【0062】〜【0064】【表2】【表3】)においては、(A)成分が0.3〜3重量%、(B)成分については0.005〜3重量%の場合しか開示されておらず、極めて限定的な例しか記載されていないが、これらの二成分の含有量は本件特許発明に係る外用組成物の塗布時のぬるつき感の抑制による肌馴染みの向上かつ浸透感と保湿感の向上という本件特許発明の解決課題に直接影響するものであるから、各成分が極微量又は極多量に含まれる場合においても同様に課題が解決できるとは到底認識できない。
したがって、本件明細書の実施例をもって、本件特許発明の範囲にまでその作用効果を一般化・抽象化し得ないことは明らかである。
(申立書の24頁15行〜25頁末行)

(ウ)関連出願の出願経過からについて
本件特許発明1〜4は、被申立人と同一の出願人による関連出願3件と比較して、ヒアルロン酸オリゴ糖等に関して、実施例の記載をより一般化・抽象化して解釈し得ると考えるべき特段の事情は存在しないのであるから、これらの出願経過も本件特許発明がサポート要件を充足しないことを裏付けるものと言える(甲9〜甲11の2)。
(申立書の26頁6〜22行)

イ 申立人の主張に対する当審の判断
(イ−1)本件特許発明の解決すべき課題の認定、課題解決の認識について
本件特許発明、及び、本件特許明細書の段落【0006】の記載をふまえると、本件特許発明の解決しようとする課題は、「ヘパリン類似物質を含有する外用組成物において、塗布時のぬるつき感を抑えることで肌馴染みに優れ、かつ満足のいく浸透感と保湿感を備えさせる製剤技術を提供すること」であると認める。

そして、本件特許明細書には、上記課題を解決するための手段として、本件特許発明に係る外用組成物に配合される(A)成分であるヘパリン類似物質、並びに、(B)成分である不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の各含有量や含有量比、不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖の構成単糖の数の例示のほか、外用組成物においてそれら両成分が配合される技術的な意義等が段落【0011】〜【0023】において説明されている。
そして、段落【0056】〜【0061】では、本件特許発明に係る不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖のうちの2糖のものを製造して、それをヘパリン類似物質と共に含むように調製した外用組成物は、ヘパリン類似物質由来のぬるつき感が抑制されて肌馴染みが良く、また、浸透感及び保湿感も良好であったことの確認もなされている(【表1】中の実施例1〜8)。
そして、上記の実施例1〜8の外用組成物は、いずれも本件特許発明1〜4の特定事項を全て備えている。
そうすると、これらの記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の外用組成物が上記の課題を解決できることについて、実施例を含め具体的な説明をもって記載されていることが認められる。
したがって、本件特許発明1〜4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明により、当業者が、上記のとおり認定した課題を解決できると認識できるものである。

(イ−2)申立人の主張に対する当審の判断
(ア)申立人の主張(ア)について
本件特許発明に係る外用組成物における(B)成分である不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩に関しては、本件特許明細書の段落【0017】において、「塗布時のぬるつき感を抑える(肌馴染みを向上させる)とともに、浸透感及び保湿感をより一層向上させるという観点から、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数として、好ましくは2〜12糖、更に好ましくは2〜10糖、特に好ましくは2〜8糖が挙げられる。」との記載のとおり、構成する単糖の数に関する技術的な意義についての説明がなされている。してみると、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩として、実施例に記載の2糖のものと、例えば4〜16糖のものとは、その分子量等について化合物としての相違があるにしても、上記の観点を充足するヒアルロン酸オリゴ糖であれば、それを構成する単糖の数は2に限らず、実施例に記載の2糖のものと同様の効果を発揮することを、当業者は把握できると解される。
そうすると、不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩について、2糖のものを含めて上記の観点を充足するものを当業者は適宜選択・配合することができ、そして、そのように適宜選択・配合される不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩によって、本件特許発明に係る外用組成物が、上記(イ−1)において認定した課題を解決できると、当業者は認識できるものである。
したがって、申立人の上記主張(ア)は採用できない。

(イ)申立人の主張(イ)について
本件特許明細書の段落【0011】〜【0023】において、本件特許発明に係る外用組成物に配合される(A)成分及び(B)成分の各含有量や含有量比を含め、外用組成物においてそれら両成分が配合される技術的な意義について説明されており、そして、本件特許明細書の実施例には、(A)成分が0.3〜3重量%、(B)成分が0.005〜3重量%の外用組成物(実施例1〜8)が、(A)成分及び(B)成分のうちのいずれか一方しか含んでおらず本件特許発明に相当しない比較例1〜6のものよりも、ぬるつき感のなさ、浸透感及び保湿感の点で優れていることが具体的に示されている。
本件特許明細書におけるこれらの記載から、外用組成物において(A)成分及び(B)成分が必要量含まれていれば、実施例に記載のものと同様の効果を発揮することを、当業者は把握できると解される。
そうすると、当業者ならば、本件特許明細書の段落【0011】〜【0023】に記載された技術的意義をふまえ、実際に本件特許発明の課題の解決の当否を認識できるように記載されている実施例及び比較例を参照することで、上記(イ−1)において認定した課題を解決し得る(A)成分及び(B)成分の各含有量や含有量比を適宜設定できることを、理解し得るといえる。
そして、(A)成分及び(B)成分の各成分が極微量又は極多量に含まれるようなものであって、実施例に記載のものと同様の効果の発揮に必要とする量を含んでいないものは、上記(イ−1)において認定した本件特許発明の課題を解決できないことは明らかであるから、そのような本件特許発明の課題の解決を明らかに妨げるような恣意的な組成とした態様の外用組成物は、本件特許発明には該当しないものと解するのが自然である。
したがって、申立人の上記主張(イ)は採用できない。

(ウ)申立人の主張(ウ)について
特許発明がサポート要件を満たすか否かの判断は、その事案ごとに個別具体的に検討して行われるものであるから、申立人が示す本件特許に類似する関連出願が存在するとしてもそれらの出願経過をもって、本件特許発明がサポート要件を満たしているか否かの判断が左右されるものではない。
そして、本件特許発明1〜4が、本件特許明細書の発明の詳細な説明により、当業者が課題を解決できると認識できるものであることは、上記(イ−1)で説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張(ウ)は採用できない。

3 小括
よって、申立人の主張する、本件特許発明が特許法第36条第6項第2号、同法同条同項第1号に規定する要件を満たさないものであるとする申立理由は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、並びに、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1〜4に係る特許について、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヘパリン類似物質と、(B)不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩を含有する、外用組成物(但し、養毛化粧料と、カチオン化ヒアルロン酸及び/又はその塩を含有する場合とを除く)。
【請求項2】
前記(A)成分が0.05〜3重量%である、請求項1記載の外用組成物。
【請求項3】
前記(A)成分1重量部あたり、前記(B)成分が0.002〜2重量部である、請求項1又は2記載の外用組成物。
【請求項4】
医薬品又は化粧料である、請求項1〜3のいずれかに記載の外用組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-01 
出願番号 P2015-190820
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 832- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 齋藤 恵
森井 隆信
登録日 2020-06-26 
登録番号 6723711
権利者 小林製薬株式会社
発明の名称 外用組成物  
代理人 水谷 馨也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  
代理人 迫田 恭子  
代理人 田中 順也  
代理人 迫田 恭子  

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