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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C08J 審判 全部申し立て 特29条の2 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1382366 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-22 |
確定日 | 2021-11-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6729279号発明「水溶性フィルム及び薬剤包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6729279号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 特許第6729279号の請求項2ないし8に係る特許を維持する。 特許第6729279号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6729279号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年10月17日(優先権主張 平成27年10月19日)の出願であって、令和2年7月6日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年1月22日に特許異議申立人 モノソル エルエルシー(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、同年4月2日付けで取消理由が通知され、同年6月4日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月21日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月11日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和3年6月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項(a) 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項(b) 特許請求の範囲の請求項2に、「更に、可塑剤(B)を含有してなることを特徴とする請求項1記載の水溶性フィルム。」と記載されているのを、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、更に、可塑剤(B)を含有し、可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5であり、下記[1]〜[3]を満足することを特徴とする水溶性フィルム。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下であること。」に訂正する。 併せて、請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3ないし8についても、請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。 (3)訂正事項(c) 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1〜3いずれか記載の水溶性フィルム。」と記載されているのを、「請求項2〜3いずれか記載の水溶性フィルム。」に訂正する。 併せて、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5ないし8についても、請求項4を訂正したことに伴う訂正をする。 (4)訂正事項(d) 特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1〜4いずれか記載の水溶性フィルム。」と記載されているのを、「請求項2〜4いずれか記載の水溶性フィルム。」に訂正する。 併せて、請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6ないし8についても、請求項5を訂正したことに伴う訂正をする。 (5)訂正事項(e) 特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1〜5いずれか記載の水溶性フィルム。」と記載されているのを、「請求項2〜5いずれか記載の水溶性フィルム。」に訂正する。 併せて、請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7及び8についても、請求項6を訂正したことに伴う訂正をする。 (6)訂正事項(f) 特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1〜6いずれか記載の水溶性フィルムで、」と記載されているのを、「請求項2〜6いずれか記載の水溶性フィルムで、」に訂正する。 併せて、請求項7を引用する請求項8についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。 (7)訂正事項(g) 願書に添付した明細書の【0009】に、「即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、下記[1]〜[3]を満足する水溶性フィルムに関するものである。」と記載されているのを、「即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、更に、可塑剤(B)を含有し、可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5であり、下記[1]〜[3]を満足する水溶性フィルムに関するものである。」に訂正する。 (8)訂正事項(h) 願書に添付した明細書の【0049】に、「本発明において、PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させることが薬剤包装体とする場合にフィルムに柔軟性を持たせる点で好ましい。可塑剤(B)は1種のみを用いたり、少なくとも2種を併用したりすることができるが、特には、少なくとも2種を併用することが包装体とした場合のフィルム自身の強靭さの点で好ましい。」と記載されているのを、「本発明においては、PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させる。PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させることが薬剤包装体とする場合にフィルムに柔軟性を持たせる点で好ましい。可塑剤(B)は、少なくとも2種を併用する。少なくとも2種を併用することが包装体とした場合のフィルム自身の強靭さの点で好ましい。」に訂正する。 (9)訂正事項(i) 願書に添付した明細書の【0050】に、「かかる可塑剤(B)の1種は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、可塑剤(b1)と略記することがある。)であり、もう1種は、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、可塑剤(b2)と略記することがある。)であることがフィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体洗剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性の点で好ましい。」と記載されているのを、「かかる可塑剤(B)の1種は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、可塑剤(b1)と略記することがある。)であり、もう1種は、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、可塑剤(b2)と略記することがある。)である。可塑剤(B)の1種は、可塑剤(b1)であり、もう1種は、可塑剤(b2)であることがフィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体洗剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性の点で好ましい。」に訂正する。 (10)訂正事項(j) 願書に添付した明細書の【0059】に、「また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)が0.1〜5であることが好ましく、より好ましくは0.35〜4.5、特に好ましくは0.4〜4、更に好ましくは0.5〜3.5、殊に好ましくは0.7〜3である。」と記載されているのを、「また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)は0.35〜5である。好ましくは0.35〜4.5、特に好ましくは0.4〜4、更に好ましくは0.5〜3.5、殊に好ましくは0.7〜3である。」に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項(a)による請求項1についての訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項(a)による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2についての訂正について 訂正事項(b)による請求項2についての訂正は、請求項1を削除したことに伴い請求項2の記載を請求項1の記載を引用しない形に書き下した上で、「可塑剤(B)」についての限定を付加するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項(b)による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項3についての訂正について 訂正事項(b)による請求項3についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項4についての訂正について 訂正事項(b)による請求項4についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(c)による請求項4についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項(b)及び(c)による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)請求項5についての訂正について 訂正事項(b)による請求項5についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(c)による請求項5についての訂正は、請求項4についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(d)による請求項5についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項(b)ないし(d)による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)請求項6についての訂正について 訂正事項(b)による請求項6についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(c)による請求項6についての訂正は、請求項4についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(d)による請求項6についての訂正は、請求項5についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(e)による請求項6についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項(b)ないし(e)による請求項6についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)請求項7についての訂正について 訂正事項(b)による請求項7についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(c)による請求項7についての訂正は、請求項4についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(d)による請求項7についての訂正は、請求項5についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(e)による請求項7についての訂正は、請求項6についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(f)による請求項7についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項(b)ないし(f)による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (8)請求項8についての訂正について 訂正事項(b)による請求項8についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(c)による請求項8についての訂正は、請求項4についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(d)による請求項8についての訂正は、請求項5についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(e)による請求項8についての訂正は、請求項6についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項(f)による請求項8についての訂正は、請求項7についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項(b)ないし(f)による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (9)明細書の訂正について 訂正事項(g)ないし(j)による明細書についての訂正は、訂正事項(a)ないし(f)により特許請求の範囲を訂正したことに伴い、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項(g)ないし(j)による明細書についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項(a)ないし(f)による請求項1ないし8についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項(a)ないし(f)による請求項1ないし8についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 さらに、訂正事項(g)ないし(j)による明細書の訂正に係る請求項の全てについて訂正請求は行われているので、訂正事項(g)ないし(j)による明細書についての訂正は特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項に該当するものである。 そして、訂正事項(a)ないし(f)による請求項1ないし8についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし8に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、更に、可塑剤(B)を含有し、可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5であり、下記[1]〜[3]を満足することを特徴とする水溶性フィルム。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下であること。 【請求項3】 可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して25重量部以上であることを特徴とする請求項2記載の水溶性フィルム。 【請求項4】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂及び未変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする請求項2〜3いずれか記載の水溶性フィルム。 【請求項5】 水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であることを特徴とする請求項2〜4いずれか記載の水溶性フィルム。 【請求項6】 薬剤包装に用いることを特徴とする請求項2〜5いずれか記載の水溶性フィルム。 【請求項7】 請求項2〜6いずれか記載の水溶性フィルムで、液体洗剤が包装されてなることを特徴とする薬剤包装体。 【請求項8】 液体洗剤が、水に溶解又は分散させた時のpH値が6〜12で、水分量が15重量%以下であることを特徴とする請求項7記載の薬剤包装体。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和3年1月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(公然実施発明に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第4号証に係る外国語特許出願に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、本件特許の優先日後に国際公開がされた外国語特許出願(特願2017−538928号、甲第4号証)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、同法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13)ものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明1の[1]〜[3](当審注:[1]〜[3]については、上記第3の【請求項2】を参照。以下同様。)の条件を満たす水溶性フィルムは、具体的にどのように作製するかは不明であり、また、本件特許発明1の[1]〜[3]の条件は、本件特許発明1が達成すべき結果であるところ、特定の達成手段以外に、どのような達成手段があるのか不明である。 したがって、本件特許発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし8は、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 (4)証拠方法 甲第1号証:モノソル エルエルシーの役員であるトーマス.ジェイ.ヨガン氏の陳述書写し(作成年月日:2021年1月18日) 甲第2号証:モノソル エルエルシーの従業員であるトロイ.ジャネシェスキ氏の実験成績証明書写し(作成年月日:2021年1月18日) 甲第3号証:モノソル エルエルシーが提供する水溶性フィルムM8630のSDSシート写し(作成年月日:2014年10月30日) 甲第4号証:特願2017−538928号(国際公開第2016/061069号、特表2017−533992号公報) 甲第5号証:トーマス.ジェイ.ヨガン氏の陳述書写し(作成年月日:2021年7月29日) なお、甲第5号証は令和3年8月11日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書及び上記意見書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 取消理由の概要 令和3年4月2日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。 1 取消理由1(公然実施発明に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項6ないし8に係る発明は、上記公然実施をされた発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 なお、該取消理由1は申立理由1のうち請求項1ないし3及び5に対する理由を包含する。 2 取消理由2(甲4に係る外国語特許出願に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、本件特許の優先日後に国際公開がされた外国語特許出願(特願2017−538928号、甲4)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、同法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13)ものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 なお、該取消理由2は申立理由2とおおむね同旨である。 第6 取消理由についての判断 当審は取消理由1及び2は下記のとおり理由がないと判断する。 1 取消理由1(公然実施発明に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1ないし3及び5に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 甲1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、訳文を摘記する。甲2、3及び5についても同様。 ・「陳述書 私、トーマスJ.ヨガンは、以下の通り陳述します。 1.私は、2018から現在に至るまで、東京を拠点とする専門化学会社であるクラレ社傘下のモノソル社 (MonoSol) の水溶性フィルム部門の最高技術責任者を務めています。私は1993年に、組成物マーケティングマネージャーとして入社し(当時はクリスクラフト社(Chris−Craft)の一部門でした)、その後、セールス&マーケティングマネージャー(1996)、テクニカルサービス、品質&開発責任者(2002)、MonoSol Rx品質システム責任者(2004)、イノベーション責任者(2006)、技術担当副社長(2009)、技術担当上級副社長(2014)を歴任しました。 2.私は、カーネギーメロン大学で化学の理学士号を取得し(1980)、専門は核化学と管理でした。また、ノートルダム大学で化学工学の修士号を取得し(1982)、専門は超臨界熱力学でした。また、ピッツバーグ大学で経営学修士号を取得しました(2017年)。 3.私は、2902 Coachman Trail, Valparaiso Indiana, United States of America 46385に居住しています。 4.私は、モノソル社によって開発及び販売されているフィルム製品について個人的な知識を持っており、所有権と社名が変更される前は、これらのフィルム製品は、クリスクラフト社の一部門としてモノソル社によって開発及び販売されていました。モノソル社は、2020年に独立した会社としてスピンアウトしました。社名の変更により、M8630フィルムの組成と特性に変更はありませんでした。私の個人的な知識は、上記私のキャリア履歴、及びモノソル社に入社する前に作成された企業記録の精読から得られたものです。 5.私は、公知文献(例えば、US2005/0003982A1、US2004/0186035A1、US2005/0202990 A1、WO02/42408A2、及び EP1256622Al)に開示されるM8630フィルムが市販されていること、及び当該M8630フィルムが以下の組成を有することを、この陳述書及び添付文書を持って証明します。 6.遅くとも1994年から、2006年1月14日まで、同社はM8630という名称で水溶性フィルムを製造し、顧客に販売していました。一例として、M8630フィルムは、2004年6月当時、商用用途として制限なしに販売及び出荷されていました。付録1として添付された関連する請求書、付録2として添付されたタリーシート(訳注:検数票のこと。港湾運送事業法に基づき、貨物の船積みや荷下ろしの際に貨物の個数を数え、受け渡しを証明する書類。)、付録3として添付された船荷証券(訳注:貿易における船積書類のひとつ。船会社など運送業者が発行し、貨物の引き受けを証明し、当該貨物受け取りの際の依拠とする。)、付録4として添付された混合PBRSレポート(訳注:組成表)、及び付録5として添付されたトレーサビリティレコードを参照してください。単価を導き出すことができる単価、量数、測定の詳細は省略されています。総販売量は90,284.40米ドルで、付録1に示されています。付録1として添付されている請求書は、当社の通常の業務過程で作成されたものです。その右上には2004年6月27日付けの請求書番号15329、及び顧客番号(「Cust No.」)16923が表示されています。請求書には、顧客の注文番号である55000079995、出荷日である2004年6月26日、及び運送業者(「Shi p Vi a」)の名前であるDANZAS((DHLグローバルフォワーディング)社の以前の名称)が記載されています。請求書には、納品書番号14188も記載されています。 7.付録2として添付されている文書は、当社の通常の業務の過程で作成されたものです。これはいわゆるタリーシートであり、関連する発注書番号(「PO#」)55000079995及び関連する納品書番号14188(ここでは「Acknowledgement#」の後に示されています。)を満たすために収集され、出荷用にパッケージ化された個々のフィルムロールの詳細を要約しています。タリーシートには、箱にパッケージ化され(「Box#」)、さらに出荷パレットにパッケージ化された(「Pallet #」)ロール番号が表示されています。タリーシートに示されているように、出荷は12パレットで合計144箱でした。 8.付録3として添付されている文書は、当社の通常の業務の過程で作成されたものです。この船荷証券は、上記と同じ注文番号55000079995、同じ納品書番号14188、同じ数の箱とパレット(ここでは「packages」と「skids」として表示)、及び同じ最終目的地(Procter & Gamble, Amiens, France)を示しているので、付録1及び付録2として添付された文書に対応し、関連していることが分かります。これらのフィルムは、署名された文書である付録3に示されているように、2004年6月26日に運送業者によって受け取られました。 9.私は、M8630フィルムの組成を把握しています。私の知識は、例えば、M8630フィルムの製造に使用されるバッチシートの混合作業、その内容と配合の内部ディスカッション、及び世界的な化学物質目録に関する世界的な規制当局の承認に基づいています。フィルムの特性と組成は、少なくとも1994年から2006年1月14日までの間、一部の成分についてサプライヤーの変更がある以外、その期間を通じて同じままでした。 10.付録4は混合PBRSレポートであり、その内容はM8630フィルムの製造における当社の通常の業務の過程で作成されたものです。この陳述書のために、当社の電子データベースからレポートのコピーがエクスポートされました。当社の手順としては、情報は当社の電子データベースに入力され、その後、データベースからエクスポートされたこのような印刷されたコピーに署名が付されます。紙のコピーは限られた時間のみ保管されますが、当社の電子データベースは情報をより長期間保管しています。 11.付録4及び5として添付されているレポートは、ロール番号「105662304−004」に対応するキャストフィルム製品の製造に使用される溶液の1つの混合バッチ、及びマスターロール105062304−004から作られました、より狭い部分(「cuts」)(A)から(D)に関するものです。混合レポートは、製品コード「M8630K」を示しています。「K」は、Kosherグリセリンが製剤に使用されたことを示しています。製品コードは、バッチ(「Batch」)コード(O75)、改訂(「Revisi on#」)(1)、及びシーケンス(「Sequence」)(214)の詳細とともに、付録5に関連して以下でより詳細に説明するように、フィルムロール番号まで追跡できます。付録4のバッチ準備時間(「Batch Ready Time」)に示されているように、バッチは完全に混合され、2004年6月21日に鋳造の準備ができました。付録5に示されているように、混合物は2004年6月23日にロール105062304−004を形成するように鋳造されました。 12.「Target」という見出しの下に、レポートにはM8630フィルムを作成するためのターゲットレシピの詳細が表示されています。「Actual」という見出しの下に、レポートには、この特定のバッチを作成するために混合作業員によって報告された、添加されたレシピ材料の実際の量が表示されています。付録4として添付されているレポートは、フィルムの作成に使用される単一のバッチに関するであり、付録5とともに、これらの文書は、1994年以降のM8630フィルムの組成と特性を均一性に表しています。 13.機密性の高い、商業的に入手した成分の商号及びロットコードは黒塗りされています。付録4の「Target」列の左側に、以下の表に示すように、これらの成分の一般的な説明を提供するため、符号(A)〜(I)の注釈を付しました。同様に、付録において、これらの成分の一般的な説明を提供するために、同じく符号(A)〜(I)の注釈を付しました。溶液を作るために使用される水の量も黒塗りされていますが、最終的なフィルムの水分含有量は、以下に説明するように付録5に記載されています。また、「Special Inst ructions」という見出しの下にある、成分の追加順序やその他のプロセス関連のパラメーターに関連する記載も黒塗りしました。付録4及び附属書5は、ミキサーに充填された、商業的に供給された成分の最を記録していることを理解されたい。供給されたままのこれらの成分のいくつか(例えば、樹脂及びポリオール)は、すでにいくらかの水を含んでいるため、最終的なフィルム組成は、下の表に示すように、乾燥フィルムの水分含有量に基づいて示されています。 14.付録5は、使用された混合バッチと、関連するフィルムロールの製造のためにそのバッチを作製するために使用された原材料を含む,フィルムロール番号のトレーサビリティレコードです。この情報は、通常の業務の過程で当社の記録に電子的に保持され、付録5レポートは、この陳述書のために当社のデータベースからエクスポートされました。原材料と混合バッチは、混合PBRSレポート(付録4)によって示され、混合バッチ番号(付録4に示すように、製品、バッチ、改訂番号、及びシーケンスの組み合わせである「Mixture Symbolic Name」)は、バッチが製造時にフィルムに形成されるときに、作業員によってロール番号に割り当てられます。トレーサビリティレコードには、フィルムの含水率(6.2%、カールフィッシャー滴定による水分)、及びミル単位のフィルムゲージターゲット(3)(3ミルは76ミクロンに相当します。)も含まれます。 15.付録4、5に対応するM8630フィルム、及び一般的なM8630フィルムの組成は次のとおりです。 16.上記のフィルムは、2006年1月14日より前に、包装材料、液体や粉末洗剤、及び食器洗い用組成物を含むさまざまな用途で使用するために、さまざまな顧客に販売されたことを認識しています。私の知識は、モノソル社と顧客との間のさまざまな最終用途向けのフィルムの販売に関する商業契約に基づいています。 17.付録6は、M8630フィルムの平衡水分含有量のプロットであり、フィルムがさまざまな相対湿度で平衡化(調整)されたときのカールフィッシャー滴定による水分を表しています。付録に示すように、フィルムの含水率は環境の湿度に依存します。 2021年1月18日 (日付) 米国インディアナ州 メリルビル トーマスJ.ヨガン 添付 付録1−注文番号55000007995に関連する2004年6月27日付けの請求書 付録2−注文番号55000007995に関連する2004年6月26日付けのタリーシート 付録3-注文番号55000007995に関連する2004年6月26日付けの船荷証券 付録4-2004年6月21日付けの混合PBRSレポート 付録5-フィルムロールのトレーサビリティレポート 付録6-相対湿度の関数としてのM8630の含水率」 イ 甲2に記載された事項 甲2には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「実験成績証明書 1.実験日 2018年7月17日〜2018年7月18日 2.実験場所 メリルビル実験室(研究開発部) 3.実験者 Troy Janesheski (トロイ ジャネシェスキ) 4.実験の目的 モノソル社製の水溶性フィルム「M8630」について、特許第6729279号公報の請求項1に記載される溶解時間に関する各パラメーターを満たすことを確認すること。 5.実験手順 特許第6729279号公報の段落0012に記載されるように、M8630のフィルムサンプルを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定し、次に、1リットルビーカーに水(1リットル)を入れる。スターラーにより撹拌(回転子3cm、回転数200〜300rpm)しながら水温を5℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが視認できなくなるまでの時間(秒)を計測した。 実験では2種類の水を使用しました:WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が340mg/Lの硬水、及びWHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が34mg/Lの軟水であった。 6.実験結果 実験の結果、WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬水に対する溶解時間(T1)が142秒であり、WHO(世界保健機関)の基準によって規定される軟水に対する溶解時間(T2)が107秒であり、溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が35秒であった。 日 付:2021年1月18日 モノソル エルエルシー 署名者:トロイ ジャネシェスキ 役 職:実験技師(階級I)」 ウ 甲3に記載された事項 甲3には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「安全データシート 1.識別情報 製品識別子 M8630 他の識別手段 同義語 M8630K*M8640KP 推奨用途 水溶性単位用量デリバリーシステムとして使用されるポリビニルアルコール系のフィルム ・・・ 生産者 会社名 MonoSol LLC 住所 707 East 80th Place Suite 301 Merrillville, IN 46410 United States 電話番号 代表 219-762-3165 FAX 219-763-4477 ウェブサイト www.MonoSol.com Eメール reach@monosol.com ・・・ 9.物理及び化学性質 外観 物理状態 固体 形態 フィルム 色 無色から淡黄色。半透明 ・・・ 製品名:M8630 SDS US 1603 バージョン#:15 改訂日:2020年6月30日 発行日:2014年10月30日」 エ 甲5に記載された事項 甲5には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「陳述書 私、トーマス・ジェイ.ヨガンは、以下の通り陳述します。 1.・・・(略)・・・ 2.・・・(略)・・・ 3. ・・・(略)・・・ 4.・・・(略)・・・以前に提出しました「実験成績証明書」の実験で使用されたM8630フィルムと、少なくとも1994年から2006年1月14日まで販売されたM8630フィルムの組成と特性に違いはありません。・・・(略)・・・ 5.私は、公知文献(例えば、US2005/0003982A1、US2004/0186035A1、US2005/0202990 A1、WO02/42408A2、及び EP1256622Alなどの特許公開公報)に開示されるM8630フィルムが市販されていること、及び当該M8630フィルムが以下の組成を有することを、この陳述書及び添付文書を持って証明します。 5. ・・・(略)・・・ 6.遅くとも1994年から、2006年1月14日まで、同社はM8630という名称で水溶性フィルムを製造し、顧客に販売していました。 7.私は、M8630フィルムの組成を把握しています。私の知識は、例えば、M8630フィルムの製造に使用されるバッチシートの混合作業、その内容と配合の内部ディスカッション、及び世界的な化学物質目録に関する世界的な規制当局の承認に基づいています。フィルムの特性と組成は、少なくとも1994年から2006年1月14日までの間、一部の成分についてサプライヤーの変更がある以外、その期間を通じて同じままでした。付録4、5に対応するM8630フィルム、及び一般的なM8630フィルムの組成は次のとおりです。 8.・・・(略)・・・ 2021年7月29日 (日付) 米国インディアナ州 メリルビル トーマス・ジェイ.ヨガン」 (2)公然実施をされた発明 甲1及び3に記載された事項によると、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明として、次の発明(以下、順に「公然実施発明1」及び「公然実施発明2」という。)を認定することができる。 <公然実施発明1> 「M8630という名称の水溶性単位用量デリバリーシステムとして使用されるポリビニルアルコール系のフィルム。」 <公然実施発明2> 「公然実施発明1を使用した包装材料。」 (3)本件特許発明2について 本件特許発明2と公然実施発明1を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルム。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1−1> 本件特許発明2においては、「更に、可塑剤(B)を含有し、可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5であり」と特定されているのに対し、公然実施発明1においては、そのようには特定されていない点。 <相違点1−2> 本件特許発明2においては、「下記[1]〜[3]を満足する」と特定されているのに対し、公然実施発明1においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点について検討する。 (ア)相違点1−1について 公然実施発明1における「M8630」という名称のフィルムが、相違点1−1に係る本件特許発明2の発明特定事項を有することは、公然実施発明1を認定した根拠である甲1及び3には記載されていない。 また、甲5には、「私は、M8630フィルムの組成を把握しています。私の知識は、例えば、M8630フィルムの製造に使用されるバッチシートの混合作業、その内容と配合の内部ディスカッション、及び世界的な化学物質目録に関する世界的な規制当局の承認に基づいています。」及び「M8630」の組成を示す表において、可塑剤について、「融点が80℃以上である可塑剤と融点が50℃以下である可塑剤の重量割合は0.50である。」と記載されているが、「M8630フィルムの組成を把握しています。私の知識は、例えば、M8630フィルムの製造に使用されるバッチシートの混合作業、その内容と配合の内部ディスカッション、及び世界的な化学物質目録に関する世界的な規制当局の承認に基づいています。」という記載は、「M8630」の組成を示す表における可塑剤についての「融点が80℃以上である可塑剤と融点が50℃以下である可塑剤の重量割合は0.50である。」を裏付ける客観的な証拠とはいえない。そうすると、甲5にも、公然実施発明1における「M8630」という名称のフィルムが、相違点1−1に係る本件特許発明2の発明特定事項を有することが記載されているとはいえない。 さらに、他に、公然実施発明1における「M8630」という名称のフィルムが、相違点1−1に係る本件特許発明2の発明特定事項を有することを示す証拠もない。 したがって、公然実施発明1が相違点1−1に係る本件特許発明2の発明特定事項を有しているとはいえず、相違点1−1は実質的な相違点である。 (イ)相違点1−2について 公然実施発明1における「M8630」という名称のフィルムが、相違点1−2に係る本件特許発明2の発明特定事項を有することは、公然実施発明1を認定した根拠である甲1及び3には記載されていない。 他方、甲2には、「M8630」という名称のフィルムのWHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬水に対する溶解時間(T1)は142秒であり、WHO(世界保健機関)の基準によって規定される軟水に対する溶解時間(T2)は107秒であり、溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)は35秒であると記載されている。 しかし、甲2の「M8630」という名称のフィルム(以下、「甲2フィルム」という。)が、甲1に記載された「M8630」という名称のフィルム(以下、「甲1フィルム」という。)の製造・販売期間である1994年から2006年1月14日の間に製造・販売されたものであるか否かは不明であり、また、甲2フィルムと甲1フィルムの組成が、甲2フィルムが製造・販売された時期まで変更されておらず同一であることも不明であり、仮に甲2フィルムが甲1フィルムの在庫品であり、甲2の実験日までの少なくとも11年間の間、倉庫等に保管されたものであったとしても、通常、経時変化又は経時劣化は避けられないので、甲1フィルムの製造当時の特性を維持しているとは考え難い。 また、甲5には、「以前に提出しました「実験成績証明書」の実験で使用されたM8630フィルムと、少なくとも1994年から2006年1月14日まで販売されたM8630フィルムの組成と特性に違いはありません。」と記載されているが、その裏付けとなる客観的な証拠が示されていない。 そうすると、甲2フィルムは甲1フィルムと同じものであるとはいえないので、甲2は、甲1フィルムの実験成績証明書であるとはいえない。 また、他に、公然実施発明1における「M8630」という名称のフィルムが、相違点1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していることを示す証拠もない。 よって、公然実施発明1が相違点1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているとはいえず、相違点1−2は実質的な相違点である。 ウ まとめ したがって、本件特許発明2は公然実施発明1、すなわち本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。 (4)本件特許発明3及び5について 本件特許発明3及び5は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明2と同様の理由で、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。 (5)本件特許発明6について 本件特許発明6は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるので、まず、本件特許発明2の進歩性について検討する。 本件特許発明2と公然実施発明1を対比するに、両者の一致点及び相違点は上記(3)の一致点並びに相違点1−1及び1−2のとおりである。 そこで、相違点について検討する。 公然実施発明1において、相違点1−1及び1−2に係る本件特許発明2の発明特定事項とする動機付けとなる記載は公然実施発明1を認定した根拠である甲1及び3にはない。また、甲2及び5は、上記(3)イのとおりであり、採用できない。 したがって、公然実施発明1において、相違点1−1及び1−2に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明2は「水に対する溶解性、特に冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム」を提供することができる(本件特許の明細書の【0013】参照。)という公然実施発明1及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 よって、本件特許発明2が公然実施発明1、すなわち本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 そして、本件特許発明6は本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるので、本件特許発明2と同様の理由で、本件特許発明6も本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件特許発明7について 本件特許発明7と公然実施発明2を対比する。 両者は上記(3)の相違点1−1及び1−2に加え、次の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点1−3> 本件特許発明7においては、「液体洗剤が包装されてなる」と特定されているのに対し、公然実施発明2においては、そのようには特定されていない点。 そこで、事案に鑑み、相違点1−1及び1−2について検討する。 公然実施発明2において、相違点1−1及び1−2に係る本件特許発明7の発明特定事項とする動機付けとなる記載は公然実施発明2を認定した根拠である甲1及び3にはない。また、甲2及び5は、上記(3)イのとおりであり、採用できない。 したがって、公然実施発明2において、相違点1−1及び1−2に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明7は「水に対する溶解性、特に冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム」で「液体洗剤が包装されてなる」「薬剤包装体」を提供することができる(本件特許の明細書の【0013】参照。)という公然実施発明2及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 よって、本件特許発明7は公然実施発明2、すなわち本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (7)本件特許発明8について 本件特許発明8は、請求項7を引用するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7と同様の理由で、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (8)取消理由1についてのむすび したがって、本件特許発明2、3及び5は特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明6ないし8は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2、3及び5ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。 2 取消理由2(甲4に係る外国語特許出願に基づく拡大先願)について (1)甲4の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された事項等 ア 甲4の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された事項 甲4は、「水溶性ポリビニルアルコールブレンドフィルム、関連方法及び関連物品」に関する外国語特許出願であり、その国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「甲4当初明細書等」という。)には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ・「【技術分野】 【0001】 本開示は、概して、ポリビニルアルコール(PVOH)樹脂のブレンドを含み、かつ液体、固体又はこれらの組み合わせ、例えば、家庭用ケア組成物との接触に使用できる水溶性フィルムに関する。本開示は、更に、当該フィルムの作製方法、並びに当該フィルムから作製されるパケット及びパウチなどの物品に関し、これらには、活性構成成分、例えば洗剤が任意に充填され、計量された用量パウチを形成する。より詳細には、本開示は、好適な加工性とともに、最終用途での改善した溶解度特性及び/又は化学物質との接触時における溶解度特性の変化への耐性などの1つ以上の利点を有するフィルム、パケット及びパウチに関する。」 ・「【0060】 物品及びパウチ 本開示の物品は、水溶性フィルムを含み、当該フィルムに近接した組成物、典型的には家庭用ケア組成物を含み得る。」 ・「【0089】 有用な組成物(例えば、家庭用ケア組成物)の非限定的な例としては、軽質及び重質液体洗剤組成物、硬質表面洗浄組成物、一般に洗濯に使用されるゲル洗剤、漂白剤及び洗濯用添加剤、布地向上剤組成物(布地柔軟剤など)、シャンプー、ボディソープ並びに他のパーソナルケア組成物が挙げられる。本パウチにおける使用の組成物は、液体、固体又は粉末の形態を取り得る。液体組成物は、固体を含んでもよい。固体には、マイクロカプセル、ビーズ、ヌードル若しくは1つ以上のパールボール又はこれらの混合物などの粉末又は粒塊が含まれ得る。このような固体要素は、洗浄面における、又は前処理用の遅延若しくは順次放出成分としての技術的利点を提供することができ、追加的に又は代替的に、審美的効果も提供し得る。」 ・「【0100】 有用な組成物のpHは、約2〜約12、約4〜約12、約5.5〜約9.5、約6〜約8.5、又は約6.5〜約8.2であり得る。洗濯用洗剤組成物は、約6〜約10、約6.5〜約8.5、約7〜約7.5、又は約8〜約10のpHを有し得る。自動食器洗浄組成物は、約8〜約12のpHを有し得る。洗濯用洗剤の添加組成物は約4〜約8のpHを有し得る。布地向上剤は、約2若しくは4〜約8、又は約2〜約4、又は約2.5〜約3.5、又は約2.7〜約3.3のpHを有し得る。」 ・「【実施例】 【0222】 実施例1〜5:単一樹脂フィルム 実施例1〜5は、各々が単一のPVOHポリマー又はPVOHコポリマー樹脂A〜Eをそれぞれ含むように形成した水溶性フィルムを示す。樹脂A及びBは、アニオン性コモノマーを含まず、4%水溶液粘度が異なる、部分的に加水分解したPVOHポリマーであった。樹脂Cは、アニオン性マレイン酸モノメチル(ナトリウム塩)コモノマーを1.82モル%の含有率で含む、部分的に加水分解したPVOHコポリマーであった(すなわち、樹脂Cは、ビニルアルコールモノマー単位、酢酸ビニルモノマー単位及びマレイン酸モノメチル(ナトリウム塩)モノマー単位を含むPVOHターポリマーであった)。樹脂D及びEは、アニオン性2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ナトリウム塩)コモノマーをそれぞれ1.77モル%及び3.70モル%の含有率で含む、部分的に加水分解したPVOHコポリマーであった(すなわち、樹脂D及びEは、ビニルアルコールモノマー単位、酢酸ビニルモノマー単位及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ナトリウム塩)モノマー単位を含むPVOHターポリマーであった)。フィルムは、(i)それぞれの樹脂(100重量部/樹脂100重量部(phr))、(ii)グリセロール可塑剤(約20〜22phr)、(iii)プロピレングリコール可塑剤(約10〜12phr)、(iv)ソルビトール可塑剤(約5〜6phr)、(v)修飾デンプン充填剤(約2〜4phr)、(vi)界面活性剤及び他の加工助剤(約5〜7phr)、並びに(vii)残留水(約9〜10phr)を含んだ。前述の水性組成物をキャストして3.0±0.15mil(又は76.2±3.8μm)のフィルム試料を作製し、それぞれのDC残留値について、上記方法により試験した。表1は、実施例1〜5の樹脂及びフィルム特性についてまとめたものである。表1中、フィルムのアニオン性コモノマー(AC)含有量は、フィルム中の全てのポリマー樹脂(すなわち、可塑剤及び樹脂以外の他の構成成分は除外される)に対するモル基準で示されている。 【表1】 実施例1〜5の樹脂及びフィルムデータ ・・・(略)・・・ 【0223】 ・・・(略)・・・ 【0224】 実施例6〜10:2種樹脂ブレンドフィルム 実施例6〜10は、各々がPVOHポリマー又はPVOHコポリマー樹脂A〜Eのうちの2つからなるブレンドを含むように形成した水溶性フィルムを示す。個々のブレンドは、PVOH樹脂AとE(実施例6)、AとC(実施例7)、AとD(実施例8)、BとE(実施例9)、及びAとB(実施例10)を含んだ。ブレンドフィルムは、所定のブレンドを形成する2つの樹脂を、以下の表2〜6に指定する相対重量比の範囲で合計100phr含み、可塑剤及び他の添加剤は、実施例1〜5に関して記載した量及び種類とした。前述のブレンドフィルム組成の水性組成物をキャストして3.0±0.15mil(又は76.2±3.8μm)のフィルム試料を作製し、それぞれのDC残留値、TS値及びMOD値について、上記方法により試験した。表2〜6は、実施例6〜10の樹脂及びフィルム特性についてまとめたものである。表2〜6のそれぞれの最初と最後の項目は、フィルム配合の単一樹脂の限界値を示し、残りの値は、2種樹脂ブレンド配合を示す。表2〜6中、フィルムのアニオン性コモノマー(AC)含有量は、フィルム中の全てのポリマー樹脂(すなわち、存在する両方の樹脂を含むが、可塑剤及び樹脂以外の他の構成成分は除外される)に対するモル基準で示されている。 ・・・(略)・・・ 【表3】 実施例7(A/Cブレンド)の樹脂及びフィルムデータ 」 イ 甲4当初明細書等に記載された発明 甲4当初明細書等に記載された事項を、実施例7に関して整理すると、甲4当初明細書等には次の発明(以下、順に「甲4発明1」及び「甲4発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲4発明1> 「アニオン性コモノマーを含まず、4%水溶液粘度が異なる、部分的に加水分解したPVOHポリマーであるPVOH樹脂Aとアニオン性マレイン酸モノメチル(ナトリウム塩)コモノマーを1.82モル%の含有率で含む、部分的に加水分解したPVOHコポリマーであるPVOH樹脂Cを表3(上記アの【0224】参照。ただし、表3の一番上と一番下の例は除く。)に指定する相対重量比の範囲で合計100phr含み、グリセロール可塑剤(約20〜22phr)、プロピレングリコール可塑剤(約10〜12phr)、ソルビトール可塑剤(約5〜6phr)、修飾デンプン充填剤(約2〜4phr)、界面活性剤及び他の加工助剤(約5〜7phr)、並びに残留水(約9〜10phr)を含んだ2種類樹脂ブレンドフィルム。」 <甲4発明2> 「pH6〜10の液体洗剤組成物を包装する甲4発明1から作製されたパケット及びパウチなどの物品。」 (2)本件特許発明2について ア 対比 本件特許発明2と甲4発明1を対比する。 甲4発明1における「アニオン性コモノマーを含まず、4%水溶液粘度が異なる、部分的に加水分解したPVOHポリマーであるPVOH樹脂Aとアニオン性マレイン酸モノメチル(ナトリウム塩)コモノマーを1.82モル%の含有率で含む、部分的に加水分解したPVOHコポリマーであるPVOH樹脂Cを表3に指定する相対重量比の範囲で合計100phr含」む「2種類樹脂ブレンドフィルム」は本件特許発明2における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルム」に相当する。 甲4発明1における「グリセロール可塑剤(約20〜22phr)、プロピレングリコール可塑剤(約10〜12phr)、ソルビトール可塑剤(約5〜6phr)」は本件特許発明2における「融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5」である「可塑剤(B)」と、「可塑剤(B)」であるという限りにおいて一致する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有し、更に、可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルム。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点4−1> 「可塑剤(B)」に関し、本件特許発明2においては、「可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5であり」と特定されているのに対し、甲4発明1においては、そのようには特定されていない点。 <相違点4−2> 本件特許発明2においては、「下記[1]〜[3]を満足する」と特定されているのに対し、甲4発明1においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、事案に鑑み相違点4−2から検討する。 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」として、甲4発明1は、「アニオン性マレイン酸モノメチル(ナトリウム塩)コモノマーを1.82モル%の含有率で含む、部分的に加水分解したPVOHコポリマーであるPVOH樹脂C」及び「アニオン性コモノマーを含まず、4%水溶液粘度が異なる、部分的に加水分解したPVOHポリマーであるPVOH樹脂A」を用いるものであるのに対し、本件特許の実施例1ないし6は、「20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A1)」及び「20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA(A3)」を用いるものであり、両者は「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」を構成する成分が異なる。 また、「可塑剤(B)」として、甲4発明1は、「グリセロール可塑剤(約20〜22phr)、プロピレングリコール可塑剤(約10〜12phr)、ソルビトール可塑剤(約5〜6phr)」を用いるものであるのに対し、本件特許の実施例1、2及び4は「ソルビトール20部、グリセリン20部」並びに実施例3及び6は「ソルビトール13部、グリセリン21部」を用いるものであり、両者は「可塑剤(B)」を構成する成分及びその割合が異なる。 さらに、甲4発明1は「修飾デンプン充填剤(約2〜4phr)」、「界面活性剤及び他の加工助剤(約5〜7phr)」及び「残留水(約9〜10phr)」を用いるものであるのに対し、本件特許の実施例1ないし6は「フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部」、「界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部」及び「水」を用いるものであり、両者は「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」及び「可塑剤(B)」以外の成分及びそれらの割合が異なる。 さらにまた、甲4発明1の「水性組成物をキャストして3.0±0.15mil(又は76.2±3.8μm)のフィルム試料を作製」するという製膜条件と本件特許の実施例1ないし6の「得られたPVA水溶液を80℃にて脱泡し、40℃まで冷やした。そのPVA水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、3mの乾燥室(105℃)の中を0.350m/分の速度で通過させ乾燥し、厚さ89μmのPVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。」という製膜条件は異なる。 他方、ポリビニルアルコール系フィルムの特性は、フィルムを構成する各成分の種類や物性、各成分の相対的な含有量及びフィルムの製膜条件等により変化することは技術常識である。 そうすると、甲4発明1が本件特許の実施例1ないし6と同様の組成を有しているとはいえないし、同様の製膜条件で製膜したものであるともいえないから、甲4発明1が、本件特許の実施例1ないし6と同様の性質を有している蓋然性が高いとはいえない。 また、甲4には、甲4発明1が本件特許発明2と同様の性質を有していることを示す記載はない。 さらに、他の証拠にも、甲4発明1が本件特許発明2と同様の性質を有していることを示す記載はない。 したがって、甲4発明1が、本件特許発明2における「下記[1]〜[3]を満足する」という発明特定事項を有しているとすることはできない。 そして、甲4発明1において、「下記[1]〜[3]を満足する」という発明特定事項が課題解決のための具体化手段における微差であるという証拠もない。 したがって、相違点4−2は、実質的な相違点である。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲4発明1と同一であるとはいえない。 (3)本件特許発明3ないし6について 本件特許発明3ないし6は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明2と同様の理由で、甲4発明1と同一であるとはいえない。 (4)本件特許発明7について 本件特許発明7と甲4発明2を対比する。 甲4発明2における「pH6〜10の液体洗剤組成物」は本件特許発明7における「液体洗剤」に相当し、同様に「パケット及びパウチなどの物品」は「薬剤包装体」に相当する。 したがって、両者は上記相違点4−1及び4−2の点で相違又は一応相違し、その余の点で一致する。 そこで、事案に鑑み相違点4−2から検討するに、上記(2)イのとおり、相違点4−2は実質的な相違点である。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲4発明2と同一であるとはいえない。 (5)本件特許発明8について 本件特許発明8は、請求項7を引用するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7と同様の理由で、甲4発明2と同一であるとはいえない。 (6)取消理由2についてのむすび したがって、本件特許発明2ないし8は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。 第7 特許異議申立人が主張する本件訂正により生じた新たな取消理由について 1 新たな取消理由の概要 特許異議申立人は、令和3年9月3日に提出した意見書において、新たに以下の取消理由を主張する。 (1)新たな取消理由1(甲4に係る国際公開公報に基づく進歩性)の概要 本件訂正後の本件特許に係る出願は下記の理由により優先権の利益を享受できないから、本件特許発明2ないし8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に係る国際公開公報(国際公開第2016/061069号)に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明2は、「可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5であり」との発明特定事項を含むものである。 上記発明特定事項の下限「0.35」は、本件特許の明細書の【0059】に記載されているが、本件特許の優先権の基礎である特願2015−205557号の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されていない。また、当該下限が、特願2015−205557号の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲の記載を総合することにより導かれる技術的事項とみるべき理由もない。 したがって、本件特許発明2ないし8は、特願2015−205557号の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されたものではなく、優先権は認められない。 (2)新たな取消理由2(サポート要件)の概要 本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・特許権者の主張から、フィルムを構成する成分として、可塑剤の種類や物性、相対的な含有量も、ポリビニルアルコール系フィルムの溶解性に変化をもたらすと解される。 本件特許明細書の実施例1〜6において、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有重量割合(b1/b2)として、「0.62」(実施例3、6)と「1」(実施例1、2、4)という2点の数値のみが開示されているのみである。これらの実施例から、(b1/b2)が「0.62〜1」の範囲内であれば[1]〜[3]の要件を満たすと確認することができるとしても、「0.35〜5」の範囲において、[1]〜[3]の要件を満たすとすることができない。 したがって、本件特許発明2ないし8は、本件特許の明細書等において、発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に記載されたものではない。 以下、順に検討する。 2 新たな取消理由1(甲4に係る国際公開公報に基づく進歩性)について (1)判断 本件特許の優先権の基礎である特願2015−205557号(以下、「優先基礎出願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「優先基礎出願当初明細書等」という。)の【0060】に「また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)が0.2〜5であることが好ましく、特には0.5〜3、更には0.7〜2であることが好ましい。かかる含有割合が小さすぎるとフィルムが柔らかすぎる傾向があり、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎるとフィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。」と記載されており、可塑剤(b1)と可塑剤(b2)の含有重量割合(b1/b2)の数値範囲として「0.2〜5」が記載されている。 そうすると、本件特許発明2において規定された「0.35〜5」という数値範囲は、優先権基礎出願に記載された「0.2〜5」という数値範囲を狭くしたにすぎない。 したがって、本件特許発明2ないし8は、優先基礎出願当初明細書等に記載されたものといえるので、優先権は認められる。 そして、甲4に係る国際公開公報に基づく進歩性の取消理由は、本件訂正後の本件特許に係る出願が優先権の利益を享受できないことを前提とした理由であるから、優先権が認められる以上、理由はない。 (2)新たな取消理由1についてのむすび したがって、本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、新たな取消理由1によっては取り消すことはできない。 3 新たな取消理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細の記載は次のとおりである。 ・「【0001】 本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある。)を主成分として含有してなる水溶性フィルム(以下、PVA系フィルムと記載することがある。)に関し、更に詳しくは、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム及びそれを用いてなる薬剤包装体に関するものである。 【背景技術】 【0002】 PVA系フィルムは、熱可塑性樹脂でありながら水溶性を有するPVA系樹脂からなるフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリオレフィンフィルム等の包装用フィルムなどにも通常よく用いられる疎水性フィルムとは、フィルムの諸物性や手触り感等が大きく異なるものである。 【0003】 そして、従来より、PVA系樹脂の水溶性を生かして、農薬や洗浄剤等の各種薬剤をPVA系樹脂のフィルムからなる袋に入れた薬剤の分包(ユニット包装)が提案され、幅広い用途に用いられている。 【0004】 かかる用途に用いる水溶性ユニット包装袋として、例えば、PVA100重量部に対して、可塑剤5〜30重量部、澱粉1〜10重量部および界面活性剤0.01〜2重量部を配合してなる水溶性フィルム(例えば、特許文献1参照。)や、20℃における4重量%水溶液粘度が10〜35mPs・s、平均ケン化度80.0〜99.9モル%、アニオン性基変性量1〜10モル%のアニオン性基変性PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(B)20〜50重量部、フィラー(C)2〜30重量部、界面活性剤(D)0.01〜2.5重量部を含有してなる樹脂組成物からなる水溶性フィルム(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2001−329130号公報 【特許文献2】特開2004−161823号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、上記特許文献1及び2に開示の水溶性フィルムは、水溶性に優れるものであり、液体洗剤などを包装した薬剤包装体として用いることができるが、これらの水溶性フィルムは、水の違いによる溶解性の差異までは考慮されていないものであった。一言で水と言っても軟水もあれば硬水もあり、その溶解性は異なるものである。例えば、水溶性フィルムを溶解するのに、軟水を使用する地域や硬水を使用する地域など、使用地域によっても様々であるため、使用する水、使用する地域によってフィルムを形成するための原料組成などを適宜変更する必要があり、生産管理上、また生産効率上、更なる改善が求められるものであった。 【0007】 そこで、本発明ではこのような背景下において、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム、及び、前記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体を提供することを目的とするものである。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0008】 しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究した結果、PVA系樹脂を含有してなる水溶性フィルムにおいて、水溶性フィルムを溶解する水の影響を考慮し、硬水に対する5℃での溶解時間と軟水に対する5℃での溶解時間の差が小さい水溶性フィルムとすることにより、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルムとなることを見出し、本発明を完成した。 【0009】 即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、下記[1]〜[3]を満足する水溶性フィルムに関するものである。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下であること。 【0010】 更に、本発明では、前記水溶性フィルムを用いてなる薬剤包装体も提供するものである。 【0011】 本発明において、「硬水」、「軟水」とは、WHO(世界保健機関)の基準に準ずるものであり、水1000mL中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値を「硬度」といい、硬度が120mg/L未満の水を「軟水」、120mg/L以上の水を「硬水」と言う。 【0012】 また、「5℃での溶解時間」とは、フィルムサンプルを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定し、次に、1リットルビーカーに水(1リットル)を入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数200〜300rpm)しながら水温を5℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが溶解するまでの時間(秒)をいう。ここで、溶解とは、かかるフィルムが視認できなくなることをいい、このとき直径1mm以下の不溶微粒子が分散している場合も本発明では溶解の意味に含めるものである。」 ・「【発明の効果】 【0013】 本発明の水溶性フィルムは、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルムであり、各種の包装用途に用いることができ、特に薬剤等のユニット包装用途に有用である。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0014】 以下、本発明について具体的に説明する。 本発明の水溶性フィルムは、PVA系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、下記[1]〜[3]を満足するものである。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下、好ましくは170秒以下、特に好ましくは160秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下、好ましくは110秒以下、特に好ましく100秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下、好ましくは75秒以下、特に好ましくは70秒以下であること。 【0015】 本発明において、上記[1]の溶解時間(T1)が長すぎると、薬剤包装体とした場合に、水に薬剤が溶け出すのが遅くなってしまう。なお、溶解時間(T1)の下限としては、通常20秒であり、短すぎると、薬剤洗剤包装体とした場合に、結露などによって包装体が破袋してしまう傾向がある。 【0016】 本発明において、上記[2]の溶解時間(T2)が長すぎると、薬剤包装体とした場合に、水に薬剤が溶け出すのが遅くなってしまう。なお、溶解時間(T2)の下限としては、通常10秒であり、短すぎると、薬剤洗剤包装体とした場合に、結露などによって包装体が破袋してしまう傾向がある。 【0017】 本発明において、上記[3]の溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が大きすぎると、薬剤包装体とした場合に、使用地域により薬剤が溶け出す時間が大きく変わってしまい、洗浄性に差異が出てしまうこととなる。なお、溶解時間の差(T1−T2)が小さすぎるのは通常問題ないが、差(T1−T2)が負の値として大きくなると、上記と同様に洗浄性に差異が出る可能性がある。」 ・「【0018】 まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。 本発明で用いられるPVA系樹脂(A)としては、未変性PVAや変性PVA系樹脂が挙げられる。 【0019】 本発明で用いるPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82〜99.9モル%、更には85〜98.5モル%、殊には90〜97モル%であることが好ましい。また、PVA系樹脂(A)として、未変性PVAを用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82〜99モル%、更には85〜90モル%であることが好ましい。そして、PVA系樹脂(A)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には85〜99.9モル%、更には90〜98モル%であることが好ましい。更に、PVA系樹脂(A)として、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、85モル%以上であることが好ましく、特には88〜99モル%、更には90〜97モル%であることが好ましい。かかる平均ケン化度が小さすぎると、包装対象である薬剤のpHによっては経時的に水溶性フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎると製膜時の熱履歴により水への溶解性が大きく低下する傾向がある。 【0020】 上記PVA系樹脂(A)の重合度は一般的に水溶性粘度で示すことができ、20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には13〜45mPa・s、特には17〜40mPa・sであることが好ましい。また、PVA系樹脂(A)として、未変性PVAを用いる場合には、未変性PVAの20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には13〜45mPa・s、特には17〜40mPa・sであることが好ましい。そして、PVA系樹脂(A)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、変性PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には13〜40mPa・s、特には17〜30mPa・sであることが好ましい。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としての水溶性フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。 【0021】 なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。 【0022】 本発明で用いる変性PVA系樹脂としては、アニオン性基変性PVA系樹脂、カチオン性基変性PVA系樹脂、ノニオン性基変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、水に対する溶解性の点で、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられるが、耐薬品性及び経時安定性の点で、カルボキシル基、スルホン酸基、特にはカルボキシル基が好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0024】 本発明において、上記のPVA系樹脂(A)はそれぞれ単独で用いることもできるし、また、未変性PVAと変性PVA系樹脂を併用すること、更に、ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用することなどもできる。中でも、本発明においては、PVA系樹脂(A)が、変性PVA系樹脂を含有することが好ましい。とりわけアニオン性基変性PVA系樹脂を含有すること、または、アニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVAを含有することが好ましく、特には、アニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVAを含有することが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0033】 PVA系樹脂(A)の作製における重合方法としては、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。かかる溶液重合において単量体の仕込み方法としては、変性PVA系樹脂の場合、まず、ビニルエステル系化合物の全量と、例えば前記のカルボキシル基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的にまたは分割的に添加する方法、前記のカルボキシル基を有する不飽和単量体を一括仕込みする方法等任意の方法を用いることができる。」 ・「【0049】 本発明において、PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させることが薬剤包装体とする場合にフィルムに柔軟性を持たせる点で好ましい。可塑剤(B)は1種のみを用いたり、少なくとも2種を併用したりすることができるが、特には、少なくとも2種を併用することが包装体とした場合のフィルム自身の強靭さの点で好ましい。 【0050】 かかる可塑剤(B)の1種は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、可塑剤(b1)と略記することがある。)であり、もう1種は、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、可塑剤(b2)と略記することがある。)であることがフィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体洗剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性の点で好ましい。 【0051】 上記の融点が80℃以上である多価アルコール(b1)としては、糖アルコール、単糖類、多糖類の多くが適用可能であるが、中でも、例えば、サリチルアルコール(83℃)、カテコール(105℃)、レゾルシノール(110℃)、ヒドロキノン(172℃)、ビスフェノールA(158℃)、ビスフェノールF(162℃)、ネオペンチルグリコール(127℃)等の2価アルコール、フロログルシノール(218℃)等の3価アルコール、エリスリトール(121℃)、トレイトール(88℃)、ペンタエリスリトール(260℃)等の4価アルコール、キシリトール(92℃)、アラビトール(103℃)、フシトール(153℃)、グルコース(146℃)、フルクトース(104℃)等の5価アルコール、マンニトール(166℃)、ソルビトール(95℃)、イノシトール(225℃)等の6価アルコール、ラクチトール(146℃)、スクロース(186℃)、トレハロース(97℃)等の8価アルコール、マルチトール(145℃)等の9価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。 上記の中でも、水溶性フィルムの引張強度の点で融点が85℃以上、特には90℃以上のものが好ましい。なお、融点の上限は300℃、特には200℃が好ましい。 【0052】 更に、本発明では、可塑剤(b1)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂との相溶性の点で好ましく、更に好ましくは5〜10個、特に好ましくは6〜8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が挙げられる。 【0053】 また、本発明においては、可塑剤(b1)として、フィルムの強靭さの点で、分子量が150以上であることが好ましく、更には160〜500、特には180〜400であることが好ましく、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が挙げられる。 【0054】 一方、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)としては、脂肪族系アルコールの多くが適用可能であり、例えば、好ましくは、エチレングリコール(−13℃)、ジエチレングリコール(−11℃)、トリエチレングリコール(−7℃)、プロピレングリコール(−59℃)、テトラエチレングリコール(−5.6℃)、1,3−プロパンジオール(−27℃)、1,4−ブタンジオール(20℃)、1,6−ヘキサンジオール(40℃)、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン(18℃)、ジグリセリン、トリエタノールアミン(21℃)等の3価以上のアルコールが挙げられる。そして、水溶性フィルムの柔軟性の点で融点が30℃以下、特には20℃以下のものが好ましい。なお、融点の下限は通常−80℃であり、好ましくは−10℃、特に好ましくは0℃である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。 【0055】 更に、本発明では、可塑剤(b2)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以下、特には3個以下であることが室温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。 【0056】 また、本発明においては、可塑剤(b2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、更には50〜100、特には60〜95であることが好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が挙げられる。」 ・「【0058】 本発明では、可塑剤(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、25重量部以上であることが好ましく、特には27〜70重量部、更には30〜60重量部、殊には35〜50重量部であることが好ましい。かかる可塑剤(B)の含有量が少なすぎると液体洗剤などの液体を包装して包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの強靭さを損なう傾向がある。なお、多すぎると機械強度が低下する傾向にある。 【0059】 また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)が0.1〜5であることが好ましく、より好ましくは0.35〜4.5、特に好ましくは0.4〜4、更に好ましくは0.5〜3.5、殊に好ましくは0.7〜3である。かかる含有割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかすぎる傾向があり、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。 【0060】 また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(b1)が5〜40重量部、更には8〜30重量部、特には10〜25重量部であることが好ましく、可塑剤(b2)が5〜40重量部、更には10〜35重量部、特には15〜30重量部であることが好ましい。 【0061】 かかる可塑剤(b1)が少なすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。また、可塑剤(b2)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。 【0062】 更に、可塑剤(B)全体に対して、可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)の合計量が70重量%以上であることが好ましく、更には80重量%以上、特には87重量%以上、殊には90重量%以上、更には95重量%以上であることが好ましい。殊に好ましくは可塑剤(B)全体が上記可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)のみからなる場合である。かかる可塑剤(b1)と(b2)の合計量が少なすぎると機械強度が低下する傾向がある。」 ・「【0063】 本発明においては、必要に応じて、更に、フィラー(C)や界面活性剤(D)等を含有させることができる。」 ・「【0075】 本発明においては、上記の通りPVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)、必要に応じて更に、フィラー(C)及び界面活性剤(D)等を含有してなる樹脂組成物を得て、かかる樹脂組成物を、水を用いて溶解または分散して製膜原料を調製し、製膜してPVA系フィルムとするのである。かかる製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。 【0076】 本発明において、上記流延法を行うに際して、例えば、下記の通り行われる。 溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、中でも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。 【0077】 溶解温度が、高温溶解の場合には、通常80〜100℃、好ましくは90〜100℃であり、加圧溶解の場合には、通常80〜130℃、好ましくは90〜120℃である。 溶解時間としては、通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間、更に好ましくは3〜10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。 【0078】 また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツイスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。 更に、溶解した後、得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。中でも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。 静置脱泡の温度としては、通常50〜100℃、好ましくは70〜95℃であり、脱泡時間は、通常2〜30時間、好ましくは5〜20時間である。 【0079】 流延法においては、例えば、PVA系樹脂(A)(粉末)に上記の水を加えてPVA系樹脂水溶液とし、好ましくは更に可塑剤(B)及びその他の配合物を加え、樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。或いは、PVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)及び各種配合物を含有した樹脂組成物に水を加えて樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。かかる樹脂組成物の水分散液または水溶液の固形分濃度は、10〜50重量%であることが好ましく、特には15〜40重量%、更には20〜35重量%であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると水溶性フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、ドープの脱泡に時間を要したり、水溶性フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。更に、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面の温度が低すぎると乾燥に時間がかかる傾向があり、高すぎると製膜時に発泡する傾向がある。 【0080】 上記水分散液または水溶液をT−ダイ等のスリットを通過させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面やポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチック基材表面等のキャスト面に流延し、乾燥し、必要に応じて更に熱処理して本発明のPVA系フィルムを得ることができる。 例えば、下記の製膜条件にて行うことができる。 【0081】 PVA系樹脂組成物の水分散液または水溶液における吐出部の温度は、60〜98℃であることが好ましく、特には70〜95℃である。かかる温度が低すぎると乾燥時間が長くなり生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。 【0082】 製膜に際して、製膜速度は3〜80m/分であることが好ましく、特には5〜60m/分、更には8〜50m/分であることが好ましい。 また、熱処理においては、熱ロールにて行うこともできるが、その他、フローティングや遠赤処理等も挙げられる。とりわけ、熱ロールにて行うことが生産性の点で好ましい。熱処理温度としては、50〜150℃であることが好ましく、特には70〜130℃であることが好ましく、熱処理時間としては、1〜60秒であることが好ましく、特には3〜50秒、更には5〜40秒であることが好ましい。 【0083】 また、アプリケーターを用いて、樹脂組成物の水分散液または水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンフィルム等のプラスチック基材あるいは金属基材上にキャストして、乾燥させてPVA系フィルムを得ることもできる。」 ・「【0089】 また、本発明においては、得られたPVA系フィルム(水溶性フィルム)の含水率は、機械強度やシール性の点で3〜15重量%であることが好ましく、特には5〜14重量%、更には6〜13重量%であることが好ましい。かかる水分率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎる傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。 なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。」 ・「【0090】 本発明において、上記製膜は、例えば、10〜35℃、特には15〜30℃の環境下にて行うことが好ましい。なお、湿度については、通常70%RH以下である。」 ・「【0091】 かくして得られるPVA系フィルム(水溶性フィルム)は、上記の要件[1]〜[3]を満足することが重要であり、かかる溶解性を上記範囲にコントロールするには、例えば、(1)未変性PVAの配合割合を増やす方法、(2)アニオン性基変性PVA系樹脂のアニオン性基量を変性量を減らす方法、(3)これらの方法の組み合わせ等が挙げられる。中でも水溶性フィルムの諸物性を保持したまま上記物性をコントロールできる点で上記(1)の方法が好ましい。」 ・「【0105】 かくして得られた本発明の水溶性フィルムは、各種の包装用途等に有用であり、中でも薬剤等のユニット包装用途に有用である。薬剤としては、特に制限はなく、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよく、薬剤の形状も顆粒、錠剤、粉体、粉末、液状等いずれの形状でもよいが、特には、水に溶解または分散させて用いる薬剤が好ましく、とりわけ液体洗剤を包装するのに有用である。 【0106】 液体洗剤としては、水に溶解または分散させた時のpH値が6〜12であることが好ましく、特には7〜11が好ましく、水分量が15重量%以下であることが好ましく、特には0.1〜10重量%、更には0.1〜7重量%であるものが好ましく、フィルムがゲル化したり不溶化することがなく水溶性に優れることとなる。 なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定される。また、水分量は、JIS K 3362 7.21.3に準じて測定される。」 ・「【0107】 <薬剤包装体> 本発明の薬剤包装体としては、水溶性フィルムからなる包装体内に薬剤、とりわけ液体洗剤が内包されてなるものである。薬剤包装体の大きさは、通常長さ10〜50mm、好ましくは20〜40mmである。また、水溶性フィルムからなる包装体のフィルムの厚みは、通常10〜120μm、好ましくは15〜110μm、より好ましくは20〜100μmである。内包される液体洗剤の量は、通常5〜50mL、好ましくは10〜40mLである。 【0108】 本発明の薬剤包装体は、通常その表面が、平滑である。しかし、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品(包装体)同士の密着性軽減、及び外観の点から、包装体(水溶性フィルム)の外表面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工が施されたものであってもよい。また、液体洗剤を包装した本発明の薬剤包装体は、保存の際には液体洗剤を内包した形状が保持されている。そして、使用時(洗濯時)には、包装体(水溶性フィルム)が水と接触することにより、包装体が溶解して内包されている液体洗剤が包装体から流出することとなる。 【0109】 本発明の水溶性フィルムを用いて、薬剤、とりわけ液体洗剤を包装して包装体とするに際しては、公知の方法が採用することができる。例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法などが挙げられ、中でも(2)水シールの方法が汎用的で有利である。」 ・「【実施例】 【0110】 以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。 尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。 【0111】 PVA系樹脂として、以下のものを用意した。 ・カルボキシル基変性PVA(A1):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル% ・カルボキシル基変性PVA(A2):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル% ・未変性PVA(A3):20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル% 【0112】 <実施例1> PVA系樹脂(A)として、20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A1)を90部、20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA(A3)を10部、可塑剤(B)として、ソルビトール(b1)を20部及びグリセリン(b2)を20部、フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部及び水を混合して、溶解処理をし、澱粉が分散したPVA水溶液(固形分濃度25%)を得た。 得られたPVA水溶液を80℃にて脱泡し、40℃まで冷やした。そのPVA水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、3mの乾燥室(105℃)の中を0.350m/分の速度で通過させ乾燥し、厚さ89μmのPVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。 得られたPVAフィルム(水溶性フィルム)について、以下の通り測定を行った。 【0113】 (硬水に対する5℃での溶解時間) 硬水として、「HEPAR(硬度約1849mg/L、マグネシウム119mg/L、カルシウム549mg/L)」を用い、フィルムサンプルを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定した。次に、1リットルビーカーに水(1リットル)を入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数200〜300rpm)しながら水温を5℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが溶解するまでの時間(秒)を測定した。「溶解」の基準として直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とした。 【0114】 (軟水に対する5℃での溶解時間) 軟水として、脱イオン水を用いた以外は、上記の硬水に対する5℃での溶解時間の測定と同様の操作を行い、測定した。 【0115】 (水溶性フィルムの8%引張弾性率) 上記で得られたPVA系フィルムを用い、JIS K 7127(1999年)に準拠して引張強度を測定した。即ち、測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下でPVA系フィルムを、島津製作所社製のオートグラフAG−X Plusを用いて、引張速度200mm/分で、弾性率を測定し、伸び8%のところでの測定値を用いた(フィルム幅15mm、チャック間距離50mm)。 【0116】 <実施例2〜6、比較例1〜2> 実施例1において、表1に示す通りに変更した以外は同様に行い、PVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。 得られた実施例2〜6及び比較例1〜2のPVA系フィルム(水溶性フィルム)について、実施例1と同様の評価を行った。 【0117】 実施例及び比較例の評価結果を下記表1に示す。 【0118】 【表1】 」 (4)サポート要件の判断 ア 発明の課題 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明2ないし6の解決しようとする課題(以下、「発明の課題1」という。)は「水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム」を提供することであり、本件特許発明7及び8の解決しようとする課題(以下、「発明の課題2」という。)は、「前記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体」を提供することである。 イ 本件特許発明2ないし6について そして、上記(3)のとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明2の各発明特定事項について具体的に記載されている。 特に、本件特許発明2の発明特定事項である「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」、「[1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下であること。」、「[2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下であること。」及び「[3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下であること。」について、発明の詳細な説明には、それらの技術的意義を含め具体的に記載されている(【0008】ないし【0012】及び【0014】ないし【0017】参照。)。 そして、発明の詳細な説明には、「[1]〜[3]を満足する」PVA系水溶性フィルムである実施例1ないし6が記載されている(【0110】ないし【0118】参照。)。 そうすると、当業者は「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルム」であって、「[1]〜[3]を満足する水溶性フィルム」は発明の課題1を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明2は、該「水溶性フィルム」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題1を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 また、本件特許発明3ないし6についても同様であり、本件特許発明3ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 ウ 本件特許発明7及び8について さらに、発明の詳細な説明には、本件特許発明7の発明特定事項である「液体洗剤が包装されてなる」「薬剤包装体」について具体的に記載されている(【0107】ないし【0109】参照。)。 そうすると、当業者は「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルム」であって、「[1]〜[3]を満足する水溶性フィルム」で「液体洗剤が包装されてなる」「薬剤包装体」は発明の課題2を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明7は、該「薬剤包装体」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題2を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 また、本件特許発明8についても同様であり、本件特許発明8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 なお、特許異議申立人は上記1(2)のとおり主張するが、上記のとおり、当業者は、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルム」であって、「[1]〜[3]を満足する水溶性フィルム」及び「ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルム」であって、「[1]〜[3]を満足する水溶性フィルム」で「液体洗剤が包装されてなる」「薬剤包装体」であれば、発明の課題1及び2は解決できると認識できるものであり、「融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有重量割合(b1/b2)」は、発明の課題1及び2を解決できるかどうかとは関係がないので、当該主張は失当であって採用できない。 (5)新たな取消理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、新たな取消理由2によっては取り消すことはできない。 第8 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由に採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由1(公然実施発明に基づく新規性)のうち請求項6ないし8に対する理由及び申立理由3(実施可能要件)である。 以下、順に検討する。 1 申立理由1(公然実施発明に基づく新規性)のうち請求項6ないし8に対する理由について (1)本件特許発明6について 本件特許発明6は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものである。 したがって、本件特許発明2が本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるといえない以上、本件特許発明6も本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。 (2)本件特許発明7について 本件特許発明7と公然実施発明2を対比する。 両者は上記第6 1(3)及び(6)の相違点1−1ないし1−3の点で相違又は一応相違し、その余の点で一致する。 そして、相違点1−1及び1−2は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明7は公然実施発明2、すなわち本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。 (3)本件特許発明8について 本件特許発明8は、請求項7を引用するものであり、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7と同様の理由で、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。 (4)申立理由1のうち請求項6ないし8に対する理由についてのむすび したがって、本件特許発明6ないし8は特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項6ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1のうち請求項6ないし8に対する理由によっては取り消すことはできない。 2 申立理由3(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 本件特許発明2ないし8は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細の記載は上記第7 3(3)のとおりである。 (3)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明2の発明特定事項である「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」及び「融点が80℃以上である多価アルコール(b1)」、「融点が50℃以下である多価アルコール(b2)」について具体的に記載され(【0018】ないし【0033】及び【0049】ないし【0056】参照。)、「融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有量割合(b1/b2)が0.35〜5」であること及び「下記[1]〜[3]を満足すること」についてそれらの技術的意義を含め具体的に記載されている(【0059】並びに【0008】ないし【0012】及び【0014】ないし【0017】参照。)。 また、本件特許の発明の詳細な説明には、「水溶性フィルム」の作製方法及び「[1]〜[3]」の要件をコントロールする方法も具体的に記載されている(【0075】ないし【0083】、【0090】及び【0091】参照。)。 そして、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例1ないし6として本件特許発明2の実施例が記載されている(【0110】ないし【0118】参照。)。 したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。 また、本件特許発明3ないし8についても同様であり、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明3ないし8を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。 なお、特許異議申立人は、上記第4(3)のとおり主張するが、上記のとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、「[1]〜[3]を満足する」「水溶性フィルム」の具体的な作製方法が記載されているといえるから、上記主張は採用できない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 第9 結語 上記第6ないし8のとおり、本件特許の請求項2ないし8に係る特許は、取消理由及び特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項2ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】水溶性フィルム及び薬剤包装体 【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある。)を主成分として含有してなる水溶性フィルム(以下、PVA系フィルムと記載することがある。)に関し、更に詳しくは、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム及びそれを用いてなる薬剤包装体に関するものである。 【背景技術】 【0002】 PVA系フィルムは、熱可塑性樹脂でありながら水溶性を有するPVA系樹脂からなるフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリオレフィンフィルム等の包装用フィルムなどにも通常よく用いられる疎水性フィルムとは、フィルムの諸物性や手触り感等が大きく異なるものである。 【0003】 そして、従来より、PVA系樹脂の水溶性を生かして、農薬や洗浄剤等の各種薬剤をPVA系樹脂のフィルムからなる袋に入れた薬剤の分包(ユニット包装)が提案され、幅広い用途に用いられている。 【0004】 かかる用途に用いる水溶性ユニット包装袋として、例えば、PVA100重量部に対して、可塑剤5〜30重量部、澱粉1〜10重量部および界面活性剤0.01〜2重量部を配合してなる水溶性フィルム(例えば、特許文献1参照。)や、20℃における4重量%水溶液粘度が10〜35mPs・s、平均ケン化度80.0〜99.9モル%、アニオン性基変性量1〜10モル%のアニオン性基変性PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(B)20〜50重量部、フィラー(C)2〜30重量部、界面活性剤(D)0.01〜2.5重量部を含有してなる樹脂組成物からなる水溶性フィルム(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2001−329130号公報 【特許文献2】特開2004−161823号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、上記特許文献1及び2に開示の水溶性フィルムは、水溶性に優れるものであり、液体洗剤などを包装した薬剤包装体として用いることができるが、これらの水溶性フィルムは、水の違いによる溶解性の差異までは考慮されていないものであった。一言で水と言っても軟水もあれば硬水もあり、その溶解哇は異なるものである。例えば、水溶性フィルムを溶解するのに、軟水を使用する地域や硬水を使用する地域など、使用地域によっても様々であるため、使用する水、使用する地域によってフィルムを形成するための原料組成などを適宜変更する必要があり、生産管理上、また生産効率上、更なる改善が求められるものであった。 【0007】 そこで、本発明ではこのような背景下において、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルム、及び、前記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究した結果、PVA系樹脂を含有してなる水溶性フィルムにおいて、水溶性フィルムを溶解する水の影響を考慮し、硬水に対する5℃での溶解時間と軟水に対する5℃での溶解時間の差が小さい水溶性フィルムとすることにより、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルムとなることを見出し、本発明を完成した。 【0009】 即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、更に、可塑剤(B)を含有し、可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有重量割合(b1/b2)が0.35〜5であり、下記[1]〜[3]を満足する水溶性 フィルムに関するものである。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下であること。 【0010】 更に、本発明では、前記水溶性フィルムを用いてなる薬剤包装体も提供するものである。 【0011】 本発明において、「硬水」、「軟水」とは、WHO(世界保健機関)の基準に準ずるものであり、水1000mL中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値を「硬度」といい、硬度が120mg/L未満の水を「軟水」、120mg/L以上の水を「硬水」と言う。 【0012】 また、「5℃での溶解時間」とは、フィルムサンプルを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定し、次に、1リットルビーカーに水(1リットル)を入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数200〜300rpm)しながら水温を5℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが溶解するまでの時間(秒)をいう。ここで、溶解とは、かかるフィルムが視認できなくなることをいい、このとき直径1mm以下の不溶微粒子が分散している場合も本発明では溶解の意味に含めるものである。 【発明の効果】 【0013】 本発明の水溶性フィルムは、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルムであり、各種の包装用途に用いることができ、特に薬剤等のユニット包装用途に有用である。 【発明を実施するための形態】 【0014】 以下、本発明について具体的に説明する。 本発明の水溶性フィルムは、PVA系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、下記[1]〜[3]を満足するものである。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下、好ましくは170秒以下、特に好ましくは160秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下、好ましくは110秒以下、特に好ましく100秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下、好ましくは75秒以下、特に好ましくは70秒以下であること。 【0015】 本発明において、上記[1]の溶解時間(T1)が長すぎると、薬剤包装体とした場合に、水に薬剤が溶け出すのが遅くなってしまう。なお、溶解時間(T1)の下限としては、通常20秒であり、短すぎると、薬剤洗剤包装体とした場合に、結露などによって包装体が破袋してしまう傾向がある。 【0016】 本発明において、上記[2]の溶解時間(T2)が長すぎると、薬剤包装体とした場合に、水に薬剤が溶け出すのが遅くなってしまう。なお、溶解時間(T2)の下限としては、通常10秒であり、短すぎると、薬剤洗剤包装体とした場合に、結露などによって包装体が破袋してしまう傾向がある。 【0017】 本発明において、上記[3]の溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が大きすぎると、薬剤包装体とした場合に、使用地域により薬剤が溶け出す時間が大きく変わってしまい、洗浄性に差異が出てしまうこととなる。なお、溶解時間の差(T1−T2)が小さすぎるのは通常問題ないが、差(T1−T2)が負の値として大きくなると、上記と同様に洗浄性に差異が出る可能性がある。 【0018】 まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。 本発明で用いられるPVA系樹脂(A)としては、未変性PVAや変性PVA系樹脂が挙げられる。 【0019】 本発明で用いるPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82〜99.9モル%、更には85〜98.5モル%、殊には90〜97モル%であることが好ましい。また、PVA系樹脂(A)として、未変性PVAを用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82〜99モル%、更には85〜90モル%であることが好ましい。そして、PVA系樹脂(A)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には85〜99.9モル%、更には90〜98モル%であることが好ましい。更に、PVA系樹脂(A)として、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、85モル%以上であることが好ましく、特には88〜99モル%、更には90〜97モル%であることが好ましい。かかる平均ケン化度が小さすぎると、包装対象である薬剤のpHによっては経時的に水溶性フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎると製膜時の熱履歴により水への溶解性が大きく低下する傾向がある。 【0020】 上記PVA系樹脂(A)の重合度は一般的に水溶性粘度で示すことができ、20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には13〜45mPa・s、特には17〜40mPa・sであることが好ましい。また、PVA系樹脂(A)として、未変性PVAを用いる場合には、未変性PVAの20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には13〜45mPa・s、特には17〜40mPa・sであることが好ましい。そして、PVA系樹脂(A)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、変性PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には13〜40mPa・s、特には17〜30mPa・sであることが好ましい。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としての水溶性フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。 【0021】 なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。 【0022】 本発明で用いる変性PVA系樹脂としては、アニオン性基変性PVA系樹脂、カチオン性基変性PVA系樹脂、ノニオン性基変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、水に対する溶解性の点で、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられるが、耐薬品性及び経時安定性の点で、カルボキシル基、スルホン酸基、特にはカルボキシル基が好ましい。 【0023】 本発明において、上記アニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、1〜10モル%であることが好ましく、更に好ましくは2〜9モル%、特に好ましくは2〜8モル%、殊に好ましくは3〜7モル%である。かかる変性量が少なすぎると、水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA系樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下したりする傾向があり、また、ブロッキングを引き起こしやすくなる傾向があり、実用性が低下するものとなる。 【0024】 本発明において、上記のPVA系樹脂(A)はそれぞれ単独で用いることもできるし、また、未変性PVAと変性PVA系樹脂を併用すること、更に、ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用することなどもできる。中でも、本発明においては、PVA系樹脂(A)が、変性PVA系樹脂を含有することが好ましい。とりわけアニオン性基変性PVA系樹脂を含有すること、または、アニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVAを含有することが好ましく、特には、アニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVAを含有することが好ましい。 【0025】 変性PVA系樹脂と未変性PVAの含有割合(重量比)については、95/5〜60/40であることが好ましく、特には94/6〜70/30、更には93/7〜80/20であることが好ましい。かかる含有割合が小さすぎると可塑剤がブリードアウトする傾向があり、大きすぎるとブロッキングが生じやすい傾向がある。 【0026】 また、上記変性PVA系樹脂と未変性PVAの併用に際しては、未変性PVAは、特に20℃における4重量%水溶液粘度が、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には8〜45mPa・s、特には12〜40mPa・s、殊には15〜35mPa・sであることが好ましい。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としての水溶性フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。 【0027】 次に、本発明の水溶性フィルムは、例えば、以下の通り製造される。 【0028】 未変性PVAは、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体をケン化することにより製造することができる。 【0029】 かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられる。中でも、ビニルエステル化合物として、酢酸ビニルを用いることが好ましい。上記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。 【0030】 変性PVA系樹脂は、上記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化する方法、または、未変性PVAを後変性する方法等により製造することができる。 【0031】 本発明においては、上記ビニルエステル系化合物と共重合可能な以下の不飽和単量体を共重合させてもよいが、変性PVA系樹脂を得る場合は、以下の単量体として、変性基を有する不飽和単量体を共重合させる必要がある。不飽和単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記共重合可能な単量体の含有割合は、通常、10モル%以下である。 【0032】 また、変性PVA系樹脂としては、側鎖に一級水酸基を有するもので、例えば、一級水酸基の数が、通常1〜5個、好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個であるものも挙げられる。とりわけ、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましく、例えば、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂、側鎖にヒドロキシアルキル基を有するPVA系樹脂等が挙げられる。かかる側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法等により製造することができる。 【0033】 PVA系樹脂(A)の作製における重合方法としては、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。かかる溶液重合において単量体の仕込み方法としては、変性PVA系樹脂の場合、まず、ビニルエステル系化合物の全量と、例えば前記のカルボキシル基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的にまたは分割的に添加する方法、前記のカルボキシル基を有する不飽和単量体を一括仕込みする方法等任意の方法を用いることができる。 【0034】 重合触媒としては、重合方法に応じて、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系触媒、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物触媒等の公知の重合触媒を適宜選択することができる。また、重合の反応温度は50℃〜重合触媒の沸点程度の範囲から選択される。 【0035】 ケン化にあたっては、得られた共重合体をアルコールに溶解してケン化触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等の炭素数1〜5のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、アルコール中の共重合体の濃度は、20〜50重量%の範囲から選択される。 【0036】 ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、また、酸触媒を用いることも可能である。ケン化触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1〜100ミリモル当量にすることが好ましい。これらのケン化触媒は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0037】 上記変性PVA系樹脂におけるカルボキシル基変性PVA系樹脂は、任意の方法で製造することができ、例えば、(I)カルボキシル基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物を共重合した後にケン化する方法、(II)カルボキシル基を有するアルコールやアルデヒドあるいはチオール等を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後にケン化する方法等が挙げられる。 【0038】 (I)または(II)の方法におけるビニルエステル系化合物としては、上記のものを用いることができるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。 【0039】 上記(I)の方法におけるカルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、エチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等)〔但し、これらのジエステルは共重合体のケン化時に加水分解によりカルボキシル基に変化することが必要である。〕、またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、あるいはエチレン性不飽和モノカルボン酸((メタ)アクリル酸、クロトン酸等)等の単量体、及びそれらの塩が挙げられる。中でもマレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、(メタ)アクリル酸等を用いることが好ましく、更には、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸、特にはマレイン酸モノアルキルエステルを用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0040】 上記(II)の方法においては、特に連鎖移動効果の大きいチオールに由来する化合物が有効であり、例えば、以下の一般式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。 【0041】 【化1】 [上記一般式(1)において、nは0〜5の整数である。] 【0042】 【化2】 [上記一般式(2)において、nは0〜5の整数である。また、R1、R2、R3はそれぞれ水素原子または低級アルキル基(置換基を含んでもよい)を示す。] 【0043】 【化3】 [但し、上記一般式(3)において、nは0〜20の整数である。] 【0044】 また、上記一般式(1)〜(3)で表される化合物の塩も挙げられる。具体的には、例えば、メルカプト酢酸塩、2−メルカプトプロピオン酸塩、3−メルカプトプロピオン酸塩、2−メルカプトステアリン酸塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0045】 また、上記カルボキシル基変性PVA系樹脂の製造方法としては、上記方法に限らず、例えば、PVA系樹脂(部分ケン化物または完全ケン化物)にジカルボン酸、アルデヒドカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基と反応性のある官能基をもつカルボキシル基含有化合物を後反応させる方法等も実施可能である。 【0046】 また、スルホン酸基で変性されたスルホン酸変性PVA系樹脂を用いる場合は、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸またはその塩の共重合成分を、ビニルエステル系化合物と共重合した後、ケン化する方法、ビニルスルホン酸もしくはその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸もしくはその塩等をPVA系樹脂にマイケル付加させる方法等により製造することができる。 【0047】 一方、上記未変性PVAを後変性する方法としては、未変性PVAをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。 【0048】 なお、上記カルボキシル基を有する不飽和単量体、ビニルエステル系化合物以外に、その他の一般の単量体を、水溶性を損なわない範囲で含有させて重合を行なってもよく、これらの単量体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸のアルキルエステル、飽和カルボン酸のアリルエステル、α−オレフィン、アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル、その他に(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニル等を用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0049】 本発明においては、PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させる。PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させることが薬剤包装体とする場合にフィルムに柔軟性を持たせる点で好ましい。可塑剤(B)は、少なくとも2種を併用する。少なくとも2種を併用することが包装体とした場合のフィルム自身の強靭さの点で好ましい。 【0050】 かかる可塑剤(B)の1種は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、可塑剤(b1)と略記することがある。)であり、もう1種は、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、可塑剤(b2)と略記することがある。)である。可塑剤(B)の1種は、可塑剤(b1)であり、もう1種は、可塑剤(b2)であることがフィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体洗剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性の点で好ましい。 【0051】 上記の融点が80℃以上である多価アルコール(b1)としては、糖アルコール、単糖類、多糖類の多くが適用可能であるが、中でも、例えば、サリチルアルコール(83℃)、カテコール(105℃)、レゾルシノール(110℃)、ヒドロキノン(172℃)、ビスフェノールA(158℃)、ビスフェノールF(162℃)、ネオペンチルグリコール(127℃)等の2価アルコール、フロログルシノール(218℃)等の3価アルコール、エリスリトール(121℃)、トレイトール(88℃)、ペンタエリスリトール(260℃)等の4価アルコール、キシリトール(92℃)、アラビトール(103℃)、フシトール(153℃)、グルコース(146℃)、フルクトース(104℃)等の5価アルコール、マンニトール(166℃)、ソルビトール(95℃)、イノシトール(225℃)等の6価アルコール、ラクチトール(146℃)、スクロース(186℃)、トレハロース(97℃)等の8価アルコール、マルチトール(145℃)等の9価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。 上記の中でも、水溶性フィルムの引張強度の点で融点が85℃以上、特には90℃以上のものが好ましい。なお、融点の上限は300℃、特には200℃が好ましい。 【0052】 更に、本発明では、可塑剤(b1)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂との相溶性の点で好ましく、更に好ましくは5〜10個、特に好ましくは6〜8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が挙げられる。 【0053】 また、本発明においては、可塑剤(b1)として、フィルムの強靭さの点で、分子量が150以上であることが好ましく、更には160〜500、特には180〜400であることが好ましく、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が挙げられる。 【0054】 一方、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)としては、脂肪族系アルコールの多くが適用可能であり、例えば、好ましくは、エチレングリコール(−13℃)、ジエチレングリコール(−11℃)、トリエチレングリコール(−7℃)、プロピレングリコール(−59℃)、テトラエチレングリコール(−5.6℃)、1,3−プロパンジオール(−27℃)、1,4−ブタンジオール(20℃)、1,6−ヘキサンジオール(40℃)、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン(18℃)、ジグリセリン、トリエタノールアミン(21℃)等の3価以上のアルコールが挙げられる。そして、水溶性フィルムの柔軟性の点で融点が30℃以下、特には20℃以下のものが好ましい。なお、融点の下限は通常−80℃であり、好ましくは−10℃、特に好ましくは0℃である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。 【0055】 更に、本発明では、可塑剤(b2)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以下、特には3個以下であることが室温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。 【0056】 また、本発明においては、可塑剤(b2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、更には50〜100、特には60〜95であることが好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が挙げられる。 【0057】 本発明においては、上記の可塑剤(b1)や(b2)以外の可塑剤(b3)を併用することもでき、かかる可塑剤(b3)としては、例えば、トリメチロールプロパン(58℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、カルビトール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類、ジブチルエーテル等のエーテル類、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、クエン酸、アジピン酸等のカルボン酸類、シクロヘキサノン等のケトン類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、イミダゾール化合物等のアミン類、アラニン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、システイン等のアミノ酸類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0058】 本発明では、可塑剤(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、25重量部以上であることが好ましく、特には27〜70重量部、更には30〜60重量部、殊には35〜50重量部であることが好ましい。かかる可塑剤(B)の含有量が少なすぎると液体洗剤などの液体を包装して包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの強靭さを損なう傾向がある。なお、多すぎると機械強度が低下する傾向にある。 【0059】 また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)は0.35〜5である。好ましくは0.35〜4.5、特に好ましくは0.4〜4、更に好ましくは0.5〜3.5、殊に好ましくは0.7〜3である。かかる含有割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかすぎる傾向があり、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。 【0060】 また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(b1)が5〜40重量部、更には8〜30重量部、特には10〜25重量部であることが好ましく、可塑剤(b2)が5〜40重量部、更には10〜35重量部、特には15〜30重量部であることが好ましい。 【0061】 かかる可塑剤(b1)が少なすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。また、可塑剤(b2)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。 【0062】 更に、可塑剤(B)全体に対して、可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)の合計量が70重量%以上であることが好ましく、更には80重量%以上、特には87重量%以上、殊には90重量%以上、更には95重量%以上であることが好ましい。殊に好ましくは可塑剤(B)全体が上記可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)のみからなる場合である。かかる可塑剤(b1)と(b2)の合計量が少なすぎると機械強度が低下する傾向がある。 【0063】 本発明においては、必要に応じて、更に、フィラー(C)や界面活性剤(D)等を含有させることができる。 【0064】 本発明で用いられるフィラー(C)は、耐ブロッキング性の目的で含有されるものであり、具体例としては、無機フィラーや有機フィラーが挙げられ、中でも有機フィラーが好ましい。また、平均粒子径としては、0.1〜20μmであることが好ましく、更には0.5〜15μmであることが好ましい。 なお、上記平均粒子径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置等で測定することができる。 【0065】 かかる無機フィラーとしては、その平均粒子径が1〜10μmのものであることが好ましく、かかる平均粒子径が小さすぎるとフィルムの水中への分散性の効果が少ない傾向があり、大きすぎるとフィルムを成形加工するときに引き伸ばされた際にピンホールとなったり、外観が低下したりする傾向がある。 【0066】 無機フィラーの具体例としては、例えば、タルク、クレー、二酸化ケイ素、ケイ藻土、カオリン、雲母、アスベスト、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウイスカー状炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、クロム酸カリウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0067】 有機フィラーとしては、その平均粒子径が0.5〜20μmのものであることが好ましく、より好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは0.5〜7μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとコストが高くなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムを成形加工するときに引き伸ばされた際にピンホールとなる傾向がある。 【0068】 かかる有機フィラーとしては、例えば、澱粉、メラミン系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂の他、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。有機フィラーとして、特にはポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、澱粉等の生分解性樹脂が好適に用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0069】 上記の澱粉としては、例えば、生澱粉(トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、キッサバ澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、モロコシ澱粉、コメ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等)、物理的変性澱粉(α−澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等)、酵素変性澱粉(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等)、化学分解変性澱粉(酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉等)、化学変性澱粉誘導体(エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、架橋澱粉等)等が挙げられる。中でも入手の容易さや経済性の点から、生澱粉、とりわけトウモロコシ澱粉、コメ澱粉を用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0070】 上記フィラー(C)の含有量については、PVA系樹脂(A)100重量部に対して1〜30重量部であることが好ましく、更には2〜25重量部、特には2.5〜20重量部であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎると耐ブロッキング性が低下する傾向があり、多すぎるとフィルムを成形加工するときに引き伸ばされた際にピンホールとなる傾向がある。 【0071】 本発明で用いられる界面活性剤(D)としては、水溶性フィルム製造時のキャスト面からの剥離性改善の目的で含有されるものであり、通常、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が挙げられる。ノニオン界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられ、1種または2種以上併用して用いられる。中でも、製造安定性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルが好適である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0072】 かかる界面活性剤(D)の含有量については、PVA系樹脂(A)100重量部に対して0.01〜3重量部であることが好ましく、更には0.1〜2.5重量部、特には0.5〜2重量部であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎると製膜装置のキャスト面と製膜した水溶性フィルムとの剥離性が低下して生産性が低下する傾向があり、多すぎると水溶性フィルムを包装体とする場合に実施するヒートシール時の接着強度が低下する等の不都合を生じる傾向がある。 【0073】 なお、本発明においては、発明の目的を阻害しない範囲で、更に他の水溶性高分子(例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)や、香料、防錆剤、着色剤、増量剤、消泡剤、紫外線吸収剤、流動パラフィン類、苦味成分(例えば、安息香酸デナトニウム等)等を含有させることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 【0074】 また、本発明においては、黄変抑制の点で酸化防止剤を配合することが好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩、酒石酸、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、カテコール、ロンガリット等が挙げられ、中でも亜硫酸塩、特には亜硫酸ナトリウムが好ましい。かかる配合量はPVA系樹脂(A)100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、更には0.2〜5重量部、特には0.3〜3重量部が好ましい。 【0075】 本発明においては、上記の通りPVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)、必要に応じて更に、フィラー(C)及び界面活性剤(D)等を含有してなる樹脂組成物を得て、かかる樹脂組成物を、水を用いて溶解または分散して製膜原料を調製し、製膜してPVA系フィルムとするのである。かかる製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。 【0076】 本発明において、上記流延法を行うに際して、例えば、下記の通り行われる。 溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、中でも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。 【0077】 溶解温度が、高温溶解の場合には、通常80〜100℃、好ましくは90〜100℃であり、加圧溶解の場合には、通常80〜130℃、好ましくは90〜120℃である。 溶解時間としては、通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間、更に好ましくは3〜10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。 【0078】 また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツイスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。 更に、溶解した後、得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。中でも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。 静置脱泡の温度としては、通常50〜100℃、好ましくは70〜95℃であり、脱泡時間は、通常2〜30時間、好ましくは5〜20時間である。 【0079】 流延法においては、例えば、PVA系樹脂(A)(粉末)に上記の水を加えてPVA系樹脂水溶液とし、好ましくは更に可塑剤(B)及びその他の配合物を加え、樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。或いは、PVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)及び各種配合物を含有した樹脂組成物に水を加えて樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。かかる樹脂組成物の水分散液または水溶液の固形分濃度は、10〜50重量%であることが好ましく、特には15〜40重量%、更には20〜35重量%であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると水溶性フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、ドープの脱泡に時間を要したり、水溶性フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。更に、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面の温度が低すぎると乾燥に時間がかかる傾向があり、高すぎると製膜時に発泡する傾向がある。 【0080】 上記水分散液または水溶液をT−ダイ等のスリットを通過させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面やポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチック基材表面等のキャスト面に流延し、乾燥し、必要に応じて更に熱処理して本発明のPVA系フィルムを得ることができる。 例えば、下記の製膜条件にて行うことができる。 【0081】 PVA系樹脂組成物の水分散液または水溶液における吐出部の温度は、60〜98℃であることが好ましく、特には70〜95℃である。かかる温度が低すぎると乾燥時間が長くなり生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。 【0082】 製膜に際して、製膜速度は3〜80m/分であることが好ましく、特には5〜60m/分、更には8〜50m/分であることが好ましい。 また、熱処理においては、熱ロールにて行うこともできるが、その他、フローティンクや遠赤処理等も挙げられる。とりわけ、熱ロールにて行うことが生産性の点で好ましい。熱処理温度としては、50〜150℃であることが好ましく、特には70〜130℃であることが好ましく、熱処理時間としては、1〜60秒であることが好ましく、特には3〜50秒、更には5〜40秒であることが好ましい。 【0083】 また、アプリケーターを用いて、樹脂組成物の水分散液または水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンフィルム等のプラスチック基材あるいは金属基材上にキャストして、乾燥させてPVA系フィルムを得ることもできる。 【0084】 PVA系フィルムの厚みとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは10〜120μm、更には30〜110μm、特には45〜100μmであることが好ましい。かかる厚みが薄すぎるとPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。 【0085】 PVA系フィルムの幅としては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは300〜5000mm、更には500〜4000mm、特には800〜3000mmであることが好ましい。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。 【0086】 PVA系フィルムの長さとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは500〜20000m、更には800〜15000m、特には1000〜10000mであることが好ましい。かかる長さが短すぎるとフィルムの切り替えに手間を要する傾向があり、長すぎると巻き締まりによる外観不良や重量が重くなりすぎる傾向がある。 【0087】 また、該PVA系フィルムの表面はプレーンであってもよいが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減、及び外観の点から、フィルムの片面或いは両面にエンボス模様や梨地模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工を施しておくことも好ましい。 【0088】 かかる凹凸加工に際しては、加工温度は、通常60〜150℃であり、好ましくは80〜140℃である。加工圧力は、通常2〜8MPa、好ましくは3〜7MPaである。加工時間は、上記加工圧力、製膜速度にもよるが、通常0.01〜5秒であり、好ましくは0.1〜3秒である。 また、必要に応じて、凹凸加工処理の後に、熱によるフィルムの意図しない延伸を防止するために、冷却処理を施してもよい。 【0089】 また、本発明においては、得られたPVA系フィルム(水溶性フィルム)の含水率は、機械強度やシール性の点で3〜15重量%であることが好ましく、特には5〜14重量%、更には6〜13重量%であることが好ましい。かかる水分率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎる傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。 なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。 【0090】 本発明において、上記製膜は、例えば、10〜35℃、特には15〜30℃の環境下にて行うことが好ましい。なお、湿度については、通常70%RH以下である。 【0091】 かくして得られるPVA系フィルム(水溶性フィルム)は、上記の要件[1]〜[3]を満足することが重要であり、かかる溶解陛を上記範囲にコントロールするには、例えば、(1)未変性PVAの配合割合を増やす方法、(2)アニオン性基変性PVA系樹脂のアニオン性基量を変性量を減らす方法、(3)これらの方法の組み合わせ等が挙げられる。中でも水溶性フィルムの諸物性を保持したまま上記物性をコントロールできる点で上記(1)の方法が好ましい。 【0092】 本発明において、得られたPVA系フィルムは、芯管(S1)に巻き取ることによりフィルムロールとすることができる。得られたフィルムロールは、そのまま製品として供給することもできるが、好ましくは所望サイズのフィルム幅に見合った長さの芯管(S2)に巻き取り、フィルムロールとして供給する。 【0093】 フィルムを巻き取る芯管(S1)は円筒状のもので、その材質は金属、プラスチック等、適宜選択できるが、堅牢性、強度の点で金属であることが好ましい。 芯管(S1)の内径は、3〜30cmが好ましく、より好ましくは10〜20cmである。 芯管(S1)の肉厚は、1〜30mmが好ましく、より好ましくは2〜25mmである。 芯管(S1)の長さは、フィルムの幅より長くすることが必要で、フィルムロールの端部から1〜50cm突出するようにするのが好ましい。 【0094】 また、芯管(S2)は円筒状のもので、その材質は紙や金属、プラスチック等、適宜選択できるが、軽量化及び取扱いの点で紙であることが好ましい。 芯管(S2)の内径は、3〜30cmが好ましく、より好ましくは10〜20cmである。 芯管(S2)の肉厚は、1〜30mmが好ましく、より好ましくは3〜25mmである。 芯管(S2)の長さは、製品のPVA系フィルム幅と同等或いはそれ以上の長さのものであればよく、好ましくは同等〜50cm長いものである。 【0095】 芯管(S2)に巻き取る際には、PVA系フィルムは所望の幅にスリットされる。 かかるスリットに当たっては、シェア刃やレザー刃などを用いてスリットされるが、好ましくはシェア刃でスリットすることがスリット断面の平滑性の点で好ましい。 【0096】 本発明においては、得られたフィルムロールを水蒸気バリヤー性樹脂の包装フィルムで包装するのであるが、かかるフィルムとしては特に限定されないが、透湿度が10g/m2/日(JIS Z 0208に準じて測定)以下のものが使用可能である。具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンコートポリブロピレン、ガラス蒸着ポリエステル、等の単層フィルム、あるいはこれらの積層フィルム、又は割布、紙、不織布との積層フィルム等が挙げられる。積層フィルムとしては、例えば、ガラス蒸着ポリエステルとポリエチレンの積層フィルム、ポリ塩化ビニリデンコートポリブロピレンとポリエチレンの積層フィルム等が例示される。 【0097】 かかるフィルムは、帯電防止処理しておくことも異物の混入を防ぐ点で好ましく、帯電防止剤はフィルムに練り込まれていても、表面にコーティングされていても良い。練り込みの場合は樹脂に対して0.01〜5重量%程度、表面コーティングの場合は0.01〜1g/m2程度の帯電防止剤が使用される。 帯電防止剤としては、例えば、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、高級脂肪酸アルカノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル等が使用される。 【0098】 次に、フィルムロールを水蒸気バリヤー性樹脂の包装フィルムで包装した上から、更にアルミニウム素材からなる包装フィルムを包装するのであるが、かかるフィルムとしては、アルミニウム箔、アルミニウム箔と耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム箔とポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミニウム蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミナ蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミナ蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)等が挙げられ、本発明では特に、アルミニウム箔とポリオレフィンフィルムの積層フィルム、アルミニウム蒸着フィルムとポリオレフィンフィルムの積層フィルムが有用で、特には延伸ポリプロピレンフィルム/ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔/ポリエチレンフィルムの構成よりなる積層フィルム、延伸ポリプロピレンフィルム/低密度ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔の構成よりなる積層フィルム等が有用である。 包装に当たっては内側の水蒸気バリヤー性樹脂の包装フィルム、外側のアルミニウム素材からなる包装フィルムで順次包装を行い、幅方向に余った部分を芯管に押し込めば良い。 【0099】 本発明のフィルムロールには、端部の傷付きやゴミ等の異物の付着を防止するため、フィルムロールに直接、あるいは包装フィルムで包装した上から、フィルムロールの両端部に芯管貫通孔をもつ保護パットを装着させることができる。 保護パットの形状は、フィルムロールにあわせて、円盤状のシート、フィルムが実用的である。保護効果を顕著にするため発泡体、織物状、不織布状等の緩衝機能を付加させるのが良い。また、湿度からフィルムロールを守るため乾燥剤を別途封入したり、前記保護パットに積層または混入したりしておくこともできる。 保護パットの素材はプラスチックが有利であり、その具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。 【0100】 また、上記乾燥剤入りの保護パッドとしては、例えば、塩化カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブス、糖類、特に浸透圧の高い糖類、吸水性樹脂等の乾燥剤または吸水剤を天然セルロース類、合成セルロース類、ガラスクロス、不織布等の成形可能な材料に分散、含浸、塗布乾燥した吸湿層としたものや、これらの吸湿剤または吸水剤を上記の成形可能な材料やポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、テフロン(登録商標)フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムでサンドイッチ状に挟んだりしたものが挙げられる。 市販されているシート状乾燥剤の例としては、株式会社アイディ製の「アイディシート」や品川化成株式会社製の「アローシート」、「ゼオシート」、ハイシート工業株式会社製の「ハイシートドライ」等がある。 【0101】 かかる手段によって包装されたフィルムロールは、芯管の両端突出部にブラケット(支持板)を設けたり、該両端突出部を架台に載置したりして支えられ、接地することなく、いわゆる宙に浮いた状態で保管や輸送が行われることが好ましい。フィルムの幅が比較的小さい場合はブラケットが、フィルムの幅が比較的大きい場合は架台が使用される。 ブラケットはベニヤ板やプラスチック板からなるものであり、その大きさはブラケットの4辺がフィルムロールの直径より大きいものであればよい。 【0102】 そして、前記フィルムロールの両端の芯管突出部に一対のブラケットを互いに向かい合うように直立して配置、嵌合させフィルムロールに設けられる。嵌合は、ブラケットの中央部に芯管直径よりやや大きめのくりぬき穴を設けたり、芯管が挿入し易いようにブラケットの上部から中心部までU字型にくりぬかれていても良い。 【0103】 ブラケットで支持されたフィルムロールは段ボール箱等のカートンに収納されて保管や輸送がされるが、収納時の作業を円滑にするため矩形のブラケットを使用するときはその四隅を切り落として置くことが好ましい。 また、上記一対のブラケットがぐらつかないように、両者を結束テープで固定するのが有利であり、そのときテープの移動や弛みが起こらないようにブラケットの側面(厚さ部分)にテープ幅と同程度のテープズレ防止溝を設けて置くのも実用的である。 【0104】 包装したフィルムロールの保管または輸送にあたっては、極端な高温や低温、低湿度、高湿度条件を避けるのが望ましく、具体的には温度10〜30℃、湿度40〜75%RHであるのが良い。 【0105】 かくして得られた本発明の水溶性フィルムは、各種の包装用途等に有用であり、中でも薬剤等のユニット包装用途に有用である。薬剤としては、特に制限はなく、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよく、薬剤の形状も顆粒、錠剤、粉体、粉末、液状等いずれの形状でもよいが、特には、水に溶解または分散させて用いる薬剤が好ましく、とりわけ液体洗剤を包装するのに有用である。 【0106】 液体洗剤としては、水に溶解または分散させた時のpH値が6〜12であることが好ましく、特には7〜11が好ましく、水分量が15重量%以下であることが好ましく、特には0.1〜10重量%、更には0.1〜7重量%であるものが好ましく、フィルムがゲル化したり不溶化することがなく水溶性に優れることとなる。 なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定される。また、水分量は、JIS K 3362 7.21.3に準じて測定される。 【0107】 <薬剤包装体> 本発明の薬剤包装体としては、水溶性フィルムからなる包装体内に薬剤、とりわけ液体洗剤が内包されてなるものである。薬剤包装体の大きさは、通常長さ10〜50mm、好ましくは20〜40mmである。また、水溶性フィルムからなる包装体のフィルムの厚みは、通常10〜120μm、好ましくは15〜110μm、より好ましくは20〜100μmである。内包される液体洗剤の量は、通常5〜50mL、好ましくは10〜40mLである。 【0108】 本発明の薬剤包装体は、通常その表面が、平滑である。しかし、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品(包装体)同士の密着性軽減、及び外観の点から、包装体(水溶性フィルム)の外表面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工が施されたものであってもよい。また、液体洗剤を包装した本発明の薬剤包装体は、保存の際には液体洗剤を内包した形状が保持されている。そして、使用時(洗濯時)には、包装体(水溶性フィルム)が水と接触することにより、包装体が溶解して内包されている液体洗剤が包装体から流出することとなる。 【0109】 本発明の水溶性フィルムを用いて、薬剤、とりわけ液体洗剤を包装して包装体とするに際しては、公知の方法が採用することができる。例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法などが挙げられ、中でも(2)水シールの方法が汎用的で有利である。 【実施例】 【0110】 以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。 尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。 【0111】 PVA系樹脂として、以下のものを用意した。 ・カルボキシル基変性PVA(A1):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル% ・カルボキシル基変性PVA(A2):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル% ・未変性PVA(A3):20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル% 【0112】 <実施例1> PVA系樹脂(A)として、20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A1)を90部、20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA(A3)を10部、可塑剤(B)として、ソルビトール(b1)を20部及びグリセリン(b2)を20部、フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部及び水を混合して、溶解処理をし、澱粉が分散したPVA水溶液(固形分濃度25%)を得た。 得られたPVA水溶液を80℃にて脱泡し、40℃まで冷やした。そのPVA水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、3mの乾燥室(105℃)の中を0.350m/分の速度で通過させ乾燥し、厚さ89μmのPVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。 得られたPVAフィルム(水溶性フィルム)について、以下の通り測定を行った。 【0113】 (硬水に対する5℃での溶解時間) 硬水として、「HEPAR(硬度約1849mg/L、マグネシウム119mg/L、カルシウム549mg/L)」を用い、フィルムサンプルを3cm×5cmのサイズにカットし、治具に固定した。次に、1リットルビーカーに水(1リットル)を入れ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数200〜300rpm)しながら水温を5℃に保ちつつ、治具に固定したフィルムをかかる水中に浸漬し、フィルムが溶解するまでの時間(秒)を測定した。「溶解」の基準として直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とした。 【0114】 (軟水に対する5℃での溶解時間) 軟水として、脱イオン水を用いた以外は、上記の硬水に対する5℃での溶解時間の測定と同様の操作を行い、測定した。 【0115】 (水溶性フィルムの8%引張弾性率) 上記で得られたPVA系フィルムを用い、JIS K 7127(1999年)に準拠して引張強度を測定した。即ち、測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間放置した後、この環境下でPVA系フィルムを、島津製作所社製のオートグラフAG−X Plusを用いて、引張速度200mm/分で、弾性率を測定し、伸び8%のところでの測定値を用いた(フィルム幅15mm、チャック間距離50mm)。 【0116】 <実施例2〜6、比較例1〜2> 実施例1において、表1に示す通りに変更した以外は同様に行い、PVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。 得られた実施例2〜6及び比較例1〜2のPVA系フィルム(水溶性フィルム)について、実施例1と同様の評価を行った。 【0117】 実施例及び比較例の評価結果を下記表1に示す。 【0118】 【表1】 【0119】 上記表1の結果より、上記実施例においては、硬水でも軟水でも冷水溶解性に大きな差異もなく、溶解性に優れるものであるため、使用される地域も限定されないものである。 これに対して、比較例においては、水の違いにより溶解性に大きな差異があるものであり、使用される地域により溶解性が変わってくることとなり、使用地域などが制限されたり、更なる改良検討を要するものであった。 【産業上の利用可能性】 【0120】 本発明の水溶性フィルムは、水に対する溶解性、とりわけ冷水溶解性に優れ、硬水であっても軟水であっても溶解性に大きな差異もなく、使用地域に影響されない溶解性を有する水溶性フィルムであり、各種の包装用途に用いることができ、特に薬剤等、とりわけ液体洗剤のユニット包装用途に有用である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有してなる水溶性フィルムであって、更に、可塑剤(B)を含有し、可塑剤(B)は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)とを含み、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と融点が50℃以下である多価アルコール(b2)の含有重量割合(b1/b2)が0.35〜5であり、下記[1]〜[3]を満足することを特徴とする水溶性フィルム。 [1]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L以上の硬水に対する5℃での溶解時間(T1)が180秒以下であること。 [2]WHO(世界保健機関)の基準によって規定される硬度が120mg/L未満の軟水に対する5℃での溶解時間(T2)が120秒以下であること。 [3]溶解時間(T1)と溶解時間(T2)の差(T1−T2)が80秒以下であること。 【請求項3】 可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して25重量部以上であることを特徴とする請求項2記載の水溶性フィルム。 【請求項4】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂及び未変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする請求項2〜3いずれか記載の水溶性フィルム。 【請求項5】 水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であることを特徴とする請求項2〜4いずれか記載の水溶性フィルム。 【請求項6】 薬剤包装に用いることを特徴とする請求項2〜5いずれか記載の水溶性フィルム。 【請求項7】 請求項2〜6いずれか記載の水溶性フィルムで、液体洗剤が包装されてなることを特徴とする薬剤包装体。 【請求項8】 液体洗剤が、水に溶解又は分散させた時のpH値が6〜12で、水分量が15重量%以下 であることを特徴とする請求項7記載の薬剤包装体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照 |
異議決定日 | 2021-11-01 |
出願番号 | P2016-203498 |
審決分類 |
P
1
651・
112-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J) P 1 651・ 121- YAA (C08J) P 1 651・ 537- YAA (C08J) P 1 651・ 16- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 加藤 友也 |
登録日 | 2020-07-06 |
登録番号 | 6729279 |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 水溶性フィルム及び薬剤包装体 |
代理人 | 井▲崎▼ 愛佳 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |
代理人 | 井▲崎▼ 愛佳 |
代理人 | 西藤 征彦 |
代理人 | 西藤 優子 |
代理人 | 寺尾 茂泰 |
代理人 | 西藤 優子 |
代理人 | 寺尾 茂泰 |
代理人 | 西藤 征彦 |