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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A61B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
管理番号 1382367
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-26 
確定日 2021-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6730482号発明「医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6730482号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−7]について訂正することを認める。 特許第6730482号の請求項1−7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯

特許第6730482号(以下、「本件特許」という。)の請求項1−7に係る特許についての出願は、平成31年4月2日に出願され、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年1月26日に特許異議申立人古川安航(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は令和3年3月29日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年5月31日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人古川安航は、令和3年7月7日に意見書を提出した。

2 訂正の適否について

(1)本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容
本件訂正の内容は、以下のア−クのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1に係る訂正
請求項1に係る「医療処置具用の単線ワイヤであって、・・・、を有する、医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤであって、・・・、を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
イ 特許請求の範囲の請求項2に係る訂正
請求項2に係る「請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
ウ 特許請求の範囲の請求項3に係る訂正
請求項3に係る「請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
エ 特許請求の範囲の請求項4に係る訂正
請求項4に係る「前記単線ワイヤは、真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「前記単線ワイヤは、真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
オ 特許請求の範囲の請求項5に係る訂正
請求項5に係る「請求項4に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
カ 特許請求の範囲の請求項6に係る訂正
請求項6に係る「請求項4に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
キ 特許請求の範囲の請求項7に係る訂正
請求項7に係る「請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤを含む医療処置具。」という記載を「請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤを含む医療処置具。」に訂正する。
ク 明細書の段落【0024】の訂正
明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】の「・・・例えば、改質手段としては、真直加工および熱処理の少なくとも一方が用いられてもよい。・・・」という記載を「・・・例えば、改質手段として、真直加工した後熱処理が用いられる。・・・」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 請求項1に係る訂正について
(ア)請求項1に係る訂正後の「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」は、訂正前の「医療処置具の単線ワイヤであって」をより具体的なものに限定することよって下位概念化するものであるから、「医療処置具用の単線ワイヤ」を、「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「医療処置具」が、「クリップ装置」、「把持鉗子」、「生検鉗子」、「パピロトームナイフ」であってもよいことが記載されている。よって、「医療処置具」が、「クリップ装置」、「把持鉗子」、「生検鉗子」、「パピロトームナイフ」であることは、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、この訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」をより具体的なものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(イ)次に、請求項1に係る訂正後の「・・・を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具・・・用の単線ワイヤ」は、訂正前の「・・・を有する、医療処置具用の単線ワイヤ」の特性を具体的に限定することによって下位概念化するものであるから、「・・・を有する、医療処置具用の単線ワイヤ」を「・・・を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具・・・用の単線ワイヤ」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】に、「単線ワイヤ1の基端部から先端部への回転伝達特性が良好になる」ことが記載されている。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、上記訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」の特性をより具体的なものに限定するものであるから実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
イ 請求項2−3、5−7に係る訂正について
請求項2−3、5−7に係る訂正後の「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」は、上記アに示したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であってもよいことが記載されている。
よって、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であることは、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、上記訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」をより具体的なものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 請求項4に係る訂正について
請求項4に係る「医療処置具用の単線ワイヤ」を訂正後の「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」とする訂正は、上記アに示したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であってもよいことが記載されている。よって、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であることは、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、上記訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」をより具体的なものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
次に、請求項4に係る「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」は、訂正前に「真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」と「真直加工」と「熱処理」の双方又は一方により改質されることが特定されていたのを、双方より改質されることを限定するとともにその順序を特定して下位概念化するものであるから、「真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」を「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」に変更する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】には、SUS631J1を「負荷が調整された真直加工の後に、線材は、470℃以上で時効硬化熱処理」すること、段落【0045】には「SUS301の線材は、負荷が調整された真直加工の後、300℃以上で熱処理」すること、段落【0047】には「SUS304の線材は、負荷が調整された真直加工の後、400℃以上で熱処理」すること、が記載されている。そして、SUS631J1、SUS301、SUS304はステンレス鋼であるから、「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」は、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正は、上記のとおり、「真直加工」と「熱処理」の双方又は一方により改質されることが特定されていたのを、双方により改質されることを限定するとともにその順序を特定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
エ 段落【0024】の訂正について
明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】の「例えば、改質手段としては、真直加工および熱処理の少なくとも一方が用いられてもよい。」を「例えば、改質手段としては、真直加工した後熱処理が用いられる。」とする訂正は、請求項4に係る訂正に伴って、明細書の記載を請求項4に整合させるための訂正である。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、上記ウと同様に、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1−7は、請求項2−7が、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項[1−7]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(4)明細書の訂正に係る請求項について
明細書の訂正に係る請求項について、本件訂正は、請求項4を含む一群の請求項である請求項1−7の全てを対象とするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合し、また、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求したものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−7]について訂正をすることを認める。

3 訂正後の本件特許発明

上記2のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1−7に係る発明(以下「本件特許発明1−7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1−7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤであって、
1400MPa以上の弾性限界応力と、
2000MPa以上の0.2%耐力と、
2100MPa以上の破断応力と、
を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項2】
前記単線ワイヤは、
1.0%以上の弾性限界伸びと、
3.0%以下の破断伸びと、
をさらに有する、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項3】
前記単線ワイヤは、0.5mm以下の直径を有する、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項4】
前記単線ワイヤは、
真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、
クロムを16%以上かつニッケルを6%以上含有する、
請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項6】
前記ステンレス鋼は、
SUS301、SUS304、およびSUS631からなる群から選ばれた少なくとも1つのステンレス鋼からなる、
請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤを含む医療処置具。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について

本件特許発明1−7に係る特許に対して、当審が令和3年3月29日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)新規性について
請求項1、3、7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、7に係る発明は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものであり、請求項1、3、7に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)進歩性について
請求項2、4−6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1(甲第1号証)、引用文献2(甲第2号証)、引用文献3(甲第3号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、4−6に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項2、4−6に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)実施可能要件について
請求項1に係る発明に係る単線ワイヤ特性が真直加工及び熱処理をすることで得られることは、発明の詳細な説明に当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものであるから、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2−7に係る発明についての発明の詳細な説明についても、同様の理由により、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項2−7に係る特許は取り消されるべきものである。

(4)サポート要件について
ア 請求項1に係る発明は「医療処置具用の単線ワイヤ」と特定されているが、医療処置具とした場合にはガイドワイヤも包含することになる。しかし、発明の詳細な説明には、医療処置具(クリップ装置)に係止して術者の操作(引っ張りや回転)を伝達する単線ワイヤしか記載されていない。また、ガイドワイヤにまで拡張ないし一般化できる技術常識も存在しない。したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、「1400MPa以上の弾性限界応力」、「2000MPa以上の0.2%耐力」、「2100MPa以上の破断応力」と下限値のみを特定し、上限値を特定していない。しかし、発明の詳細な説明には、例えば表1に示された特定の範囲のものしか記載されておらず、上限値を特定しない範囲にまで拡張ないし一般化することを裏付ける記載はない。したがって、請求項1に係る発明は、詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
ウ 請求項4に係る発明は、「真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」を有するものである。しかし、発明の詳細な説明の段落【0024】−【0025】、【0042】、【0045】、【0047】に、ステンレス鋼製のワイヤ改質方法として、真直加工した後に熱処理をするものしか記載されていない。また、真直加工または熱処理の一方を施すだけで請求項4に係る発明が引用する請求項1に係る発明のような特性に改質できるという技術常識を示す証拠もない。したがって、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項4に係る特許は取り消されるべきものである。
上記ア−ウで指摘した請求項を直接的又は間接的に引用する請求項2−7に係る発明も、同様に、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項2−7に係る特許は取り消されるべきものである。

(5)明確性について
請求項1に係る発明の「医療処置具用の単線ナイフ」について「医療処置具用の」が意図する対象が明確でない。したがって、請求項1に係る発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきである。
また、請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する請求項2−7に係る発明も同様に明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項2−7に係る特許は取り消されるべきである。

5 取消理由通知書で通知した理由についての当審の判断

(1)甲各号証の記載について
[甲第1号証について]
甲第1号証(特開2016−189998号公報)(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。また、段落【0036】の「先端部12a」、「手元部12b」はそれぞれ「先端部10a」、「手元部10b」の誤記、段落【0041】の「SUS線12a」、「Ni−Ti線12b」は、それぞれ「SUS線12b」、「Ni−Ti線12a」の誤記である。修正は<>内に当審で加筆した。)。
「【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、カテーテルとともに血管内に挿入した後、目的の血管部位にカテーテルを到達させるため、カテーテルの先端より所定長さだけ突出させガイドワイヤの先端部をカテーテルより先行させて押し進める。そこで、ガイドワイヤの先端部には、血管壁に損傷を与えることなく、蛇行した血管内や複雑な血管分岐にも挿入ができるために柔軟性が要求される。
【0003】
従来、カテーテル用ガイドワイヤとして、ステンレス線(SUS線(以下、「コア芯」、「芯金」とも称する))の周囲にコイルスプリングを外装するものがあったが、十分な柔軟性、さらに復元性を有していなかった。とりわけ、このガイドワイヤでは操作過程において血管等内で一旦折れ曲がるとキンクが生じ、曲がったまま元の形状に復元せず不具合があった。
【0004】
この問題を解決するためにキンクが生じず柔軟性が確保される形状記憶合金であるNi−Ti合金をコア芯に使用し、これに摩擦抵抗が少ないポリウレタン等の樹脂被膜を施し、これを親水性のマレイン酸等で被覆するガイドワイヤが提供され、販路を拡大させてきた。しかしながら、このガイドワイヤの場合、コア芯が柔らかいため分岐血管の場合等に、目的の血管に案内させることが難しく、操作に経験を要していた。また、血管内でコア芯が金属疲労をおこした破断した場合、樹脂被膜のような弱い材質の外装内に破断したコア芯が残存した状態で、血管内から抜去する必要があり安全性に問題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み創作されたものであり、柔軟性および復元性を確保しつつ、分岐血管等における案内性や破断時の安全性も良好なカテーテル用ガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、本体部と先端部を有する芯金と、該芯金の外周を被包するコイル部分と、を有する線状のカテーテル用ガイドワイヤを提供する。
このカテーテル用ガイドワイヤは、前記芯金の近位側の本体部は、形状記憶合金で形成され、該本体部に結合されて遠位側に延びる先端部は、ステンレス鋼又はステンレス鋼と形状記憶合金との結合又は合金で形成され、該先端部より遠位側の先端部は、ステンレス鋼を前記芯金の軸方向全体にわたってその外周にコイル状に巻きつけられている。
【0008】
本カテーテル用ガイドワイヤによれば、コア芯としての芯金が、手元側の本体部と先端側の先端部とで構成されており、本体部(本実施形態では、手元部10b)は形状記憶合金、先端部(本実施形態では、先端部10a)がSUS又はSUSと形状記憶合金との結合又は合金、で形成されている。本体部が超弾性を有する形状記憶合金で形成されているため上述のキンクが発生せず、復元性が良く血管等の体内部位の形状の癖が残りにくい点で有利である。
【0009】
また、形状記憶合金の加熱処理時の入熱温度で全体又は部分的な弾性調整をすることができ、目的部位に応じた調整をすることができる。また、先端部がSUS等の硬い材質で形成されているため分岐血管等でも案内しやすい所望の形状にして挿入することができ、またSUSとの形状記憶合金の場合はその分量調整で形状保持力を調整容易である。」
「【発明を実施するための形態】
・・・・
【0025】
図1は右側が手元側、左側が先端側を示しており、左側は紙面都合上、短く示しているが実際には手元側に長く延びている。ガイドワイヤ10は軸線O−Oから径方向に順に、コア芯12、コア芯の周りに外装14、外装14の周りに表層16が設けられている。また、ガイドワイヤ10は先端側と手元側とは、構成が異なり、ここでは、それぞれ先端部10a、手元部10bとして示されている。
【0026】
血管等内の先頭(遠位側)でガイドワイヤ10を案内する役割を有する先端側10aは、図1に示す、図2(a)に示すようにコア芯12がSUS等(概ねSUS304)の平板状の鋼線の部材12bと、Ni−Ti合金等の形状記憶合金12aとが接着されて形成されている。図1では、線13、15に示すようにコア芯12におけるの径は先端側に向かって小さくなっていく。また、SUS部材12bは、その近位側が先端部10aのNi−Ti部材12aの所定位置から接着され先端側まで延び、Ni−Ti部材12aの近位側の接着開始位置は、外装14とNi−Ti部材12aとの間(隙間19)にSUS部材12bの厚み分を有する位置である。したがって、コア芯12は、先端側に向かってNi−Tiに対するSUS量が増加し、最先端では概ねSUSで構成されている。」
「【0030】 手元部10bは、先端部10a同様に軸線O−Oから径方向にコア芯12a、コア芯12aの周りに外装14b、外装14bの周りに表装16が設けられている。コア芯12aは、先端部10aのコア芯12aと一体に連続して形成されているNi−Ti合金線である。図1、図2(b)に示すようにコア芯12aは、略全域に亘って外装14の内径に充填されるNi−Ti線12aで形成されることなる。」
「【0036】
なお、図1では、先端部12a<10a>をSUS線12bとNi−Ti合金線12aとが接着結合され、手元部12b<10b>はNi−Ti合金線12aで構成されているが、他に先端部12a<10a>がSUS線12bのみ又はSUS線12bとNi−Ti合金線12aとの合金で構成されてもよい。また、Ni−Ti合金線12aは他の形状記憶合金であってもよい。」
「【0041】
次に、コア芯12の先端側に用いるSUS線12a<12b>と、概ね手元側に用いるNi−Ti線12b<12a>との材料特性について説明する。図4には、SUS線12a<12b>とNi−Ti線12b<12a>との強度面での熱処理特性を示しており、図5には、SUS線12a<12b>とNi−Ti線12bとのばね定数における熱処理特性を示している。なお、ここではSUS線としてSUS304で径φ=0.46mm、Ni−Ti線として径φ=0.60mmを使用している。また、加熱温度とは30min入熱することとしている。
【0042】
図4のグラフ図に示すように、SUS304では、降伏強度=2100N/mm2であり、引張強さ=2366N/mm2である。また、Ni−Ttでは、入熱が400℃ありまでは、降伏強度=599N/mm2、引張強さ=1509N/mm2程度であり、ともに温度にほとんど依存されないが、入熱が400℃を超えたあたりから降伏強度=1000N/mm2以下、引張強さ=100N/mm2以下まで減少していることがわかる。」
「【0044】 これらの図4、図5から理解されるようにNi?Tiは加熱処理に応じてその強度(引張強さ、降伏強度)、ばね定数を変化させることが容易である。したがって、Ni−Tiのワイヤをコア芯12の手元部12aに用いると体内部位や用途に合わせた所望の弾性・強度を容易に提供することができる。また、コア芯12の手元部12a全体に入熱する場合のみならず、一部にのみ入熱しその部分と他の部分との弾性・強度を変化させることも容易である。すなわち、部分的な弾性・強度調整も容易である。
【0045】 たとえば、300〜400℃あたりであれば、ばね定数が小さく柔軟性が高い反面、引張強さ・降伏強度は常温時と同程度であり強度を確保することができることが理解されよう。」

以上によれば、引用文献1は、以下の発明(以下「引用発明1」という。)を開示していると認められる。
[引用発明1]
「カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成する単線のワイヤであって、SUS304で形成されており、前記SUS304の降伏強度が2100N/mm2であり、引張強さが2366N/mm2である単線のワイヤ。」

(2)当審の判断
新規性について(本件特許発明1、3、7)
(ア)本件特許発明1について
i 本件特許発明1と引用発明1との対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1のガイドワイヤは、引用文献1の段落【0002】に記載されているようにカテーテルを案内するためのものであるから「医療処置具用」のものである。また、本件特許発明1のガイドワイヤは、段落【0025】に手元側に長く延びるものであること、また、段落【0036】にSUS線12bのみで構成されることが記載されていることから「単線ワイヤ」に相当する。
そうしてみると、本件特許発明1と引用発明1とは、以下の点で一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「医療処置具用の単線ワイヤ」
<相違点1>
単線ワイヤが、本件特許発明1では、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」であるのに対し、引用発明1では、カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成するものである点で相違する。
<相違点2>
単線ワイヤが、本件特許発明1では、「1400MPa以上の弾性限界応力と、2000MPa以上の0.2%耐力と、2100MPa以上の破断応力」を有するものであるのに対し、引用発明1では、先端部10aが、降伏強度=2100N/mm2、引張強さ=2366N/mm2である点で相違する。
<相違点3>
単線ワイヤが、本件特許発明1では、「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ことが特定されているのに対し、引用発明1では、「基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものといえるか否か不明な点で相違する。
ii 判断
(i)相違点1について
引用発明1の単線ワイヤに関し、引用文献1には、カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成するものとして用いることが記載されているだけであり、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤとして用いることは記載されていない。また、引用発明1のワイヤの先端部は、引用文献1の段落【0009】に記載されているように、分岐血管等でも案内しやすい所望の形状にするために採用されている構成であり、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ等の操作を向上させるためのものではない。したがって、引用発明1の単線ワイヤは、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用のものではなく、本件特許発明1の単線ワイヤではない。
(ii)相違点3について
本件特許発明1の単線ワイヤは、「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものであり、このような特性をもたらすためには、単線ワイヤの操作部である基端部からクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフなどが備えられる先端部に至る構成を前提とするべきである。一方、引用発明1の単線ワイヤは、先端部10aと手元部10bからなるガイドワイヤのうち先端部を形成するものであり、「基端部から先端部」の一部に関するものである。したがって、「基端部から先端部への回転伝達特性が良好」とするような特性をもたらすものであるとはいえない。
また、仮に、引用発明1の単線ワイヤを先端部10aと手元部10bとから構成されるものとしてみても、手元部10bは、引用文献1の段落【0045】に、本体部を構成する材料であるNi−Ti合金を300〜400℃で入熱することで柔軟性が高くする一方で引張強さ・降伏強度を確保できることが記載されているものの、引用発明の先端部10aと手元部10bからなる構成が「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものとはいえない。
したがって、引用発明1の単線ワイヤは、「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものではない。
上記のように、本願特許発明1と引用発明1とは、上記のように相違点1及び3において相違している。したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願特許発明1は引用発明1でない。
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3項に該当せず、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものでないから、本件特許発明1は取り消されるべきものではない。
(イ)本件特許発明3、7について
本件特許発明3、7は、本件特許発明1の構成を全て含むものである。そうすると、本件特許発明3、7は、上記と同様の理由により引用発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。よって、本件特許発明3、7に係る特許は取り消されるべきものではない。

進歩性について(本件特許発明2、4−6)
(ア)本件特許発明2について
本件特許発明2と引用発明1とを対比すると、本件特許発明2は本件特許発明1を引用するものであるから、上記ア(ア)iで示した相違点1、3の点で少なくとも相違する。
そこで、この相違点1、3に係る構成について当業者が容易に想到することができたかを以下で検討する。
i 相違点1について
引用発明1の単線ワイヤは、カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成するものに関するものであり単にカテーテルを案内するだけのものである。これに対し、本件特許発明2の「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」のワイヤはクリップ等を操作するものであるから、ガイドワイヤの先端部とは求められる強度等が異なることは明らかであり、ガイドワイヤと「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」のワイヤに要求される特性が同じであるとはいえない。そうしてみると、引用発明1のカテーテル用ガイドワイヤの先端部である単線ワイヤを本願特許発明2のように「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」とする動機付けはないというべきであり、引用発明1の単線ワイヤを「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」のワイヤとすることは当業者が容易に想到できたものとはいえない。
ii 相違点3について
上記アii(ii)で検討したとおり、引用発明1の単線ワイヤは、先端部10aと手元部10bからなるガイドワイヤのうち先端部10aを形成するものである。そして、引用発明1の単線ワイヤである先端部10aは、引用文献1の段落【0009】に記載されているように、分岐血管等でも案内しやすい所望の形状にすることを目的としたものであり、回転伝達特性を良好にすることを意図したものではない。そうしてみると、本件特許発明2の単線ワイヤである先端部10aを、先端部10aのみならず基端部にまで拡張して「基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」構成とすることは動機付けがなく、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、上記相違点1、3に係る構成は、引用発明1に基いて当業者が容易に想到することができたといえない。よって、本件特許発明2は、引用発明1に基いて、当業者が容易に想到することができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件特許発明2に係る特許は取り消されるべきものでない。
(イ)本件特許発明4−6について
本件特許発明4−6は、上記本件特許発明2で検討した構成を全て含むものである。そうすると、上記(ア)で検討したように、本件特許発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、これを直接的又は間接的に引用する本件特許発明4−6も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件特許発明4−6は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件特許発明4−6は取り消されるべきものでない。

実施可能要件について
本件特許発明1−7の単線ワイヤの特性が、真直加工及び熱処理により耐力や強度が強くなることにより得られることは、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】−【0025】、【0042】(SUS631J1を470℃以上で熱処理)、【0045】(SUS301を300℃以上で熱処理)、【0047】(SUS304を400℃以上で熱処理)に記載されている。
そして、SUS304について、乙第1号証に180℃の熱影響で破断強度が向上すること(段落【0042】)、乙第2号証に400℃程度で低温焼きなまし処理をすることにより若干の強度向上と降伏比(弾性限)が向上すること(第5ページ右欄17〜22行)が記載されている。また、SUS301について、乙第4号証に、質量%で、C:0.05〜0.15、Si:≦2.0、Mn:≦2.0、Ni:6.0〜8.0、Cr:16〜18.0、N:0.005〜0.25%を含むオーステナイト系ステンレス(SUS301は、通常、C:≦0.15%、Si:≦1.0、Mn:≦3.0、Ni:5.5〜10.0、Cr:15〜19.0で上記範囲に入る)が380℃〜500℃の温度条件で低温焼き鈍し(テンパー処理)することで引張強さ耐力を高まること(段落【0017】、【0045】)が記載されている。また、SUS631について、乙第2号証にSUS631J1を475℃で析出硬化させることが記載されている(第5ページ右欄第17−25行)。以上の記載によると、オーステナイト系ステンレス鋼は、いわゆる低温やきなましの熱処理により耐力や強度が強くなることは技術常識といえる。
そうしてみると、当業者であれば、本件特許発明1−7の単線ワイヤの特性が、発明の詳細な説明に記載された事項により実現されることは理解できるといえる。そうしてみると、発明の詳細な説明には、その発明を実施できる程度に記載されているものというべきである。
したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明1−7について当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定の要件に適合する。

エ サポート要件について
本件特許発明1は、本件訂正により、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」と用途が限定され、さらに「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」と特性が限定された。また、本件特許発明4も、「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製」と真直加工と熱処理の双方を順に行うものに限定された。
そして、これらの記載事項は、上記2(2)で検討したように、明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

明確性について
本件特許発明1は、「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」に関するものである。したがって、本件特許発明1の意図する対象は明確であるため、本件特許発明1は明確であるから、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2−7についても同様に明確であり、本件特許発明2−7は、特許法第36条第6第2号の要件を満たすものである。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(1)新規性について
異議申立人は、本件特許発明5−6について、新規性がない旨主張している。
しかしながら、上記5(2)ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は、新規性を有するものである。そして、本件特許発明5−6は、本件特許発明1を間接的に引用するものである。そうすると、同様の理由により、本件特許発明5−6は引用発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)進歩性について
異議申立人は、本件特許発明3について、進歩性がない旨主張している。
しかしながら、上記5(2)ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は、引用発明1から当業者が容易に想到し得たものではない。そして、本件特許発明3は、本件特許発明1を引用するものである。そうすると、同様の理由により、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件特許発明3は、特許法第29条第2号の規定に違反するものでない。

(3)実施可能要件について
異議申立人は、発明の詳細な説明の段落【0024】に真直加工における負荷を調整することにより金属線材の改質が可能であることが記載されているが、真直加工によって本件特許発明1−7の特性は得られないため、本件特許発明1−7は、発明の詳細な説明に実施できる程度に記載されていないと主張している。
しかし、発明の詳細な説明の段落【0042】−【0049】に開示されている実施例1−3では、真直加工の後に熱処理をすることにより金属線材の改質を行うことが記載されており、本件特許発明1−7の特性は、真直加工の後に熱処理をすることにより得られるものであるというべきであり、また、少なくとも熱処理により金属線材の改質が可能なことは、5(2)ウで述べたとおりである。また、本件特許発明4は「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製」であり真直加工の負荷の調整のみで金属線材を改質するものではない。
そうしてみると、本件特許発明1−7は、発明の詳細な説明に実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

7 意見書の主張について

特許異議申立人は、令和3年7月7日付け意見書において、上記5(2)イ(ア)で示した相違点1、3の存在を前提として進歩性がないことを主張している。しかし、請求項1に係る特許に対する進歩性欠如の理由は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由でないから採用できない。

8 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1−7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1−7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり、決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療処置具は、生体組織に対する処置、例えば、把持、剥離、採取、破砕、止血などに用いられる。医療処置具は、ディスポーザブル製品であるので、コスト削減が求められている。
例えば、特許文献1に記載のクリップ装置は、クリップと、クリップに直接的に係合する操作ワイヤと、を備える。特許文献1には、操作ワイヤとしては撚り線がより好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4805293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような関連技術には、以下のような問題がある。
特許文献1に記載の技術では、操作ワイヤとして撚り線を用いているので、構造が単純な単線に比べてコストが増大するという問題がある。
特許文献1には、操作ワイヤとして、単線ワイヤが用いられてもよいことは記載されている。しかし単線ワイヤは、撚り線ワイヤに比べて回転伝達特性が劣るので、処置具の操作性が低下しやすいという問題がある。特許文献1には、単線ワイヤが操作ワイヤとして使用可能となる技術は何ら開示されていない。
医療処置具において、良好な操作性が得られる単線ワイヤが強く求められている。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、操作性が良好になる医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様の医療処置具用の単線ワイヤは、1400MPa以上の弾性限界応力と、2000MPa以上の0.2%耐力と、2100MPa以上の破断応力と、を有する。
【0007】
上記医療処置具用の単線ワイヤにおいては、前記単線ワイヤは、1.0%以上の弾性限界伸びと、3.0%以下の破断伸びと、をさらに有していてもよい。
上記医療処置具用の単線ワイヤにおいては、前記単線ワイヤは、0.5mm以下の直径を有してもよい。
上記医療処置具用の単線ワイヤにおいては、前記単線ワイヤは、真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備えてもよい。
上記医療処置具用の単線ワイヤにおいては、前記ステンレス鋼は、クロムを16%以上かつニッケルを6%以上含有してもよい。
上記医療処置具用の単線ワイヤにおいては、前記ステンレス鋼は、SUS301、SUS304、およびSUS631からなる群から選ばれた少なくとも1つのステンレス鋼からなってもよい。
【0008】
本発明の第2の態様の医療処置具は、上記医療処置具用の単線ワイヤを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具によれば、操作性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の医療処置具の一例を示す模式的な部分断面図である。
【図2】本発明の実施形態の単線ワイヤの模式的な断面図である。
【図3】回転伝達特性を評価する試験装置を示す模式的な平面図である。
【図4】実施例1の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
【図5】実施例2の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
【図6】実施例3の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
【図7】比較例1の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
【図8】比較例2の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
【図9】比較例3の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施形態の医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態の医療処置具の一例を示す模式的な部分断面図である。図2は、本発明の実施形態の単線ワイヤの模式的な断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の処置具10(医療処置具)は、本実施形態の単線ワイヤ1を備える。図1に示す例では、処置具10は、図示略の内視鏡の処置具チャンネルに挿入して用いられるクリップ装置である。処置具10の遠位端は、処置具10の長手方向の端部であって、処置具チャンネルに対する挿入方向における先端部である。処置具10の近位端は、処置具10の長手方向において遠位端と反対側の端部である。
処置具10は、クリップ2、締付リング7、コイルシース3A、インナーシース3B、チューブ4、ホルダ5、および操作部材6をさらに備える。
以下では、特に断らない限り、処置具10の各構成部材について、処置具10における配置に基づいて説明する。処置具10の各構成部材における、処置具10の長手方向における端部に関して、近位端に近い端部を先端部、遠位端に近い端部を基端部と称する場合がある。
【0013】
クリップ2は、生体組織を挟持する部材である。クリップ2は、後述するチューブ4の先端部に対して進退可能とされており、進出時に生体組織の挟持動作が可能である。さらに、クリップ2は、生体組織を挟持した状態で処置具10から分離されることによって、生体内に留置可能とされている。
クリップ2の構成は特に限定されない。図1に示す例では、クリップ2は、金属製の薄い帯板からなる。帯板の両端部には、帯板が折り曲げられた鈎部2aがそれぞれ形成されている。帯板は、長手方向の中央部において各鈎部2aが互いに反対側を向く方向に折り曲げられている。帯板の折り曲げ部はクリップ2の基端部2bを構成している。さらに帯板は各鈎部2aと基端部2bとの間の交差部2cで1回交差している。交差部2cと基端部2bとの間には、略楕円状のループ部2dが形成されている。交差部2cと各鈎部2aとの間には、帯板の弾性によって互いの対向方向に移動可能な挟持部2eが形成されている。
各挟持部2eは、交差部2cから各鈎部2aに向かってV字状に延びており、長手方向の中間部で互いに近づく方向に屈曲されている。各鈎部2aは、互いの対向方向に突出している。
特に図示しないが、基端部2bには、後述する単線ワイヤ1の先端部が係止可能かつ一定以上の荷重で挿通可能な挿通孔が貫通している。
【0014】
クリップ2を構成する帯板の材料としては、例えば、バネ性を有する金属材料、例えば、ステンレス鋼、ニッケルチタニウム合金、コバルトクロム合金などが用いられてもよい。
【0015】
締付リング7は、基端部7aから先端部7bに向かう貫通孔を有する管状部材である。締付リング7は、クリップ2のループ部2dと、挟持部2eの少なくとも一部と、が挿通可能な内径を有する。
締付リング7は、クリップ2が生体組織を挟持した状態で、クリップ2の開き角を固定する目的で用いられる。締付リング7は、生体組織を挟持して開いた状態の挟持部2eが先端部7bから内部に引き込まれた場合に、内周面に発生する摩擦力によって挟持部2eを固定する。
締付リング7は、クリップ2の固定時に基端部2bが基端部7aから突出しない程度の長さを有する。
締付リング7の材料としては、挟持部2eを内部に係止可能であれば特に限定されない。
締付リング7の材料としては、クリップ2が内部に引き込まれる際のクリップ2からの反力に耐える強度と、クリップ2を径方向内側に締め付ける弾性と、を有する樹脂、金属などが用いられる。
締付リング7は、クリップ2のループ部2dの少なくも一部を内部に収容した状態で、クリップ2よりも遠位端寄りに配置されている。
【0016】
コイルシース3Aは、金属ワイヤの密巻きコイルからなる長尺の管状部材である。コイルシース3Aは、密巻きコイルからなるので、軸方向に圧縮力を受けても長さが変化しにくい。コイルシース3Aは、後述するインナーシース3Bが軸方向に挿通可能な内径を有する。
コイルシース3Aは、締付リング7の内径よりも大きい外径を有する。コイルシース3Aの外径は、締付リング7の外径以上であることがより好ましい。
コイルシース3Aは、締付リング7よりも近位端寄りの位置において、締付リング7と略同軸の位置に配置されている。コイルシース3Aの先端部3bは、締付リング7の基端部7aと当接可能である。
コイルシース3Aの基端部3aは、後述するホルダ5に連結されている。
インナーシース3Bは、コイルシース3Aの内周面に沿って配置されている管状部材である。インナーシース3Bは、単線ワイヤ1を摺動可能に挿通させる内径を有する。インナーシース3Bの材料としては、単線ワイヤ1に対する摩擦力が低い樹脂材料が用いられる。
【0017】
チューブ4は、コイルシース3Aを内部に収容する長尺の管状部材である。チューブ4は、コイルシース3Aと同等以上の可撓性を有する。
チューブ4は、処置具10を挿通する内視鏡の処置具チャンネルに挿通可能な外径を有する。チューブ4は、コイルシース3Aを挿通可能な内径を有する。
チューブ4の基端部4aは、後述するホルダ5に連結されている。
チューブ4およびコイルシース3Aは、後述するホルダ5の操作によって、処置具10の長手方向に相対移動可能である。図1には、チューブ4の先端部4bが、コイルシース3Aの先端部3bよりも近位端に向かって突出している状態が示されている。このような位置関係は、後述するホルダ5の操作によって、例えば、コイルシース3Aが遠位端に向かって後退するか、またはチューブ4が近位端に向かって進出することによって実現される。
先端部4bの内径は、締付リング7の外径以上である。このため、先端部4bの内部には、締付リング7が収容可能である。
チューブ4は、内視鏡の処置具チャンネルの内周面に対する摩擦力が低い樹脂材料で形成されることがより好ましい。例えば、チューブ4の材料としては、高分子樹脂製(合成高分子ポリアミド、高密度/低密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体など)が挙げられる。
チューブ4に好適な材料は、上述のインナーシース3Bの材料としても好適である。
【0018】
ホルダ5は、コイルシース3Aの基端部3aと、チューブ4の基端部4aと、を、処置具10の長手方向において相対移動可能に保持する部材である。ホルダ5は、処置具10の使用時に内視鏡の外部に配置される。術者は、ホルダ5を把持した状態で、処置具10を操作することが可能である。
ホルダ5の内部には、コイルシース3Aと同軸の位置に孔部5aが設けられている。
【0019】
操作部材6は、ホルダ5の孔部5aに摺動可能に挿通される棒状部材である。操作部材6は、孔部5a内において、軸方向の進退と、孔部5aの中心軸線回りの回転と、が可能である。
操作部材6の先端部には、後述する単線ワイヤ1の基端部を固定する固定部6aが設けられている。
【0020】
次に、単線ワイヤ1について説明する。
単線ワイヤ1は、ワイヤ本体1Aと、係止部1Bと、を備える。
【0021】
図2に軸直角断面を示すように、ワイヤ本体1Aは、直径dの円形断面を有する。
直径dは、インナーシース3Bに挿通可能な大きさであれば特に限定されない。例えば、直径dは、0.5mm以下であることがより好ましい。直径dが0.5mmを超えると、処置具10のチューブ4の外径が大きくなるので、細径の内視鏡で使用できなくなる。
直径dは、0.3mm以上、0.4mm以下であることがさらに好ましい。
ワイヤ本体1Aは外力が作用しない自然状態では、ほぼ直線である。ワイヤ本体1Aは、コイルシース3Aおよびインナーシース3Bよりも長い。
【0022】
ワイヤ本体1Aは、1400MPa以上の弾性限界応力と、2000MPa以上の0.2%耐力と、2100MPa以上の破断応力と、を有する。
ワイヤ本体1Aは、1.0%以上の弾性限界伸びと、3.0%以下の破断伸びと、を有することがより好ましい。
ワイヤ本体1Aの材料は、少なくとも、弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力が上述の範囲の特性値を有していれば、特に限定されない。例えば、ワイヤ本体1Aの材料の例としては、ステンレス鋼、ニッケルチタニウム合金、コバルトクロム合金などが挙げられる。ワイヤ本体1Aの表面には、耐食性、摺動性などを改善する目的で、適宜の金属材料による被覆が施されてもよい。
耐食性が良好であり、上述の特性値が得られやすい点では、ワイヤ本体1Aの材料として、ステンレス鋼が特に好ましい。
【0023】
例えば、ワイヤ本体1Aがステンレス鋼で形成される場合、クロム(Cr)を16%以上かつニッケル(Ni)を6%以上含有することがより好ましい。
例えば、ワイヤ本体1Aに使用するステンレス鋼は、SUS301、SUS304、およびSUS631からなる群から選ばれた少なくとも1つのステンレス鋼からなることがより好ましい。
【0024】
ワイヤ本体1Aの材料としては、上述の特性値を有する改質された金属材料が用いられてもよい。
改質手段の例としては、特に限定されない。改質手段としては、金属材料が硬化する適宜の改質手段が用いられる。例えば、改質手段としては、真直加工した後熱処理が用いられる。
市販されている金属線材はボビンに巻かれて保管される間に巻癖がついているので、切断した後も湾曲している。このため、処置具に使用される金属線材は巻癖を矯正する真直加工される。
しかし、巻癖を矯正する真直加工は真直度を一定範囲内に収める目的で行われる。
巻癖の矯正目的の真直加工では改質効果がほとんど得られないので、加工前に上述の特性値を有しない金属線材は、加工後にも上述の特性値を有しない。
しかし、本発明者の検討によれば、真直加工における負荷を調整することによって、金属線材の改質が可能である。真直加工における負荷としては、例えば、張力負荷、摺動負荷、屈曲負荷、熱負荷などが挙げられる。
改質に必要な真直加工の条件は、金属線材の種類、線径などに応じて実験的に決めることができる。
【0025】
改質手段に用いる熱処理としては、金属線材を硬化させる熱処理であれば特に限定されない。金属線材が上述の特性値範囲を満足する熱処理の条件としては、真直加工の条件、金属線材の種類、線径などに応じて実験的に決められてもよい。
【0026】
本発明者が鋭意検討したところでは、改質手段としては、真直加工および熱処理の両方を用いることがより好ましい。この場合、真直加工および熱処理の一方のみを実施したときに上述の特性値範囲が得られなくても、上述の特性値範囲を満足させられる場合がある。
特に、真直加工の後に熱処理を実施すると、より優れた改質効果が得られる。
【0027】
係止部1Bは、クリップ2の基端部2bにおける挿通孔に挿通されたワイヤ本体1Aをクリップ2に係止する目的で、ワイヤ本体1Aの先端部に形成される。
係止部1Bの形状は、予め決められた引抜き力未満で挿通孔に係止可能、かつ予め決められた引抜き力以上で挿通孔から引き抜くことができれば特に限定されない。ただし、係止部1Bの形状は、係止時に単線ワイヤ1が伝達する牽引力および回転力をクリップ2に伝達可能な形状とされる。
係止部1Bは、少なくとも一部が単線ワイヤ1の外径dよりも広い幅を有する回転非対称な形状が用いられる。例えば、係止部1Bの形状は、dよりも大きい幅を有する扁平形状であってもよい。
係止部1Bは、ワイヤ本体1Aの先端部の変形、ワイヤ本体1Aの先端部への部材追加などによって形成されてもよい。部材追加によって係止部1Bが形成される場合、係止部1Bの材料はワイヤ本体1Aと異なっていてもよい。
係止部1Bの形成方法の例としては、例えば、プレス加工、カシメ、レーザー溶融、プラズマ溶接、ろう付けなどが挙げられる。
【0028】
単線ワイヤ1において係止部1Bと反対側の端部は、操作部材6の固定部6aに固定されている。これにより、単線ワイヤ1は、操作部材6の中心軸線回りの回転と連動して回転する。さらに、単線ワイヤ1は、操作部材6の中心軸線に沿う進退と連動して進退する。
【0029】
次に、処置具10および単線ワイヤ1の作用について説明する。
以下では、簡単のため、ホルダ5の操作によってチューブ4が進退する場合の例で説明する。
処置具10を使用して生体組織をクリップする処置を行うには、まず、患者の体内に図示略の内視鏡が挿入される。
処置具10は、チューブ4の先端部4bにクリップ2が収容された状態とされる。この状態は、チューブ4がクリップ2の方に進出されることによって(図1における二点鎖線参照)実現される。これにより、処置具10は、ホルダ5より近位端の方を除くと、チューブ4の外径以下の線状体になる。
処置具10は、このようにクリップ2が閉じられた状態で遠位端から処置具チャンネルに挿入される。
処置具10の遠位端が内視鏡の先端部から外部に突出した後、術者は、ホルダ5を挿入方向において進退させて、処置対象までのクリップ2の距離を調整する。さらに、術者は、操作部材6を中心軸線回りに回転することによって、クリップ2の回転位置を調整する。操作部材6の回転は、これに連動する単線ワイヤ1の回転によってクリップ2の基端部2bに伝達される。
クリップ2が適正な姿勢になるまで回転されたら、術者は、操作部材6を近位端に向かって引き込む操作を行う。これにより、クリップ2が締付リング7の内部に引き込まれ、各挟持部2eが閉じる。この結果、各鈎部2aが生体組織に食い込む。
各挟持部2eが、締付リング7内に引き込まれると、各挟持部2eから締付リング7への反力が増大する。各挟持部2eは、摩擦力によって締付リング7の内周面に強固に係止される。
【0030】
さらに術者が、操作部材6を後退させると、締付リング7がコイルシース3Aの先端部3bに係止しているので、単線ワイヤ1が近位端の方に牽引される。単線ワイヤ1の牽引力が一定値を超えると、係止部1Bがクリップ2の挿通孔から引き抜かれる。クリップ2および締付リング7は、単線ワイヤ1から外れるので、処置具10から分離される。処置具10を後退させると、生体組織を挟持したクリップ2が締付リング7とともに、患者の体内に留置される。
術者は、処置具チャンネルから処置具10を引き抜いて、処置を終了する。
【0031】
ここで、クリップ2の回転調整における単線ワイヤ1の作用を詳しく説明する。
クリップ2の回転調整において、クリップ2の回転角は、操作部材6の回転角に一致することが望ましい。
しかし、単線ワイヤ1は、実使用時には複数の湾曲部が形成された状態で、コイルシース3A内のインナーシース3Bと接触することによって摩擦力を受けている。操作部材6に加えられるトルクの仕事は、摩擦力に抗する仕事と、単線ワイヤ1のねじれ変形と、に消費される。単線ワイヤ1の基端部のねじれ変形が一定量に達するまで(以下、初動段階と称する)は、操作部材6の回転角に比べてクリップ2の回転角が小さい。さらに、初動段階においては、操作部材6の回転量に対するクリップ2の回転量が非線形性になるので、クリップ2の回転角の調整がしにくい。
単線ワイヤ1の歪み量が、ある程度増大すると、単線ワイヤ1の全体に操作部材6の回転トルクが伝達されるので、単線ワイヤ1の全体が摩擦力に抗して回転し始める。このとき、摩擦力が一定であれば、クリップ2の回転増分は、操作部材6の回転増分に一致する。
ただし、単線ワイヤ1が受ける摩擦抵抗は、湾曲の状態などによって長手方向にばらつくので、単線ワイヤ1は回転方向においてスティックスリップするおそれがある。例えば、摩擦力によって単線ワイヤ1の一部で回転が阻害されると、単線ワイヤ1の歪みエネルギーが増大し、回転の再開時に歪みエネルギーが解放されて単線ワイヤ1が付勢される。この結果、操作部材6の累積回転量が短時間のうちにクリップ2に伝達される。この結果、操作部材6の回転増分が一定であっても、クリップ2の回転増分は変動する。
初動段階の後は、上述の変動があっても、回転がロックされたり、単線ワイヤ1が破損しない限り、平均的にはクリップ2の回転増分が操作部材6の回転増分に一致する。以下では、このような初動段階後の段階を、定常回転段階と称する。
【0032】
処置具10の操作性を良好にする目的では、初動段階終了して定常回転段階が始まるまでの操作部材6の回転角は小さいことがより好ましい。すなわち、単線ワイヤ1のねじれ剛性は、なるべく大きいことがより好ましい。
さらに、定常回転段階では、操作部材6の回転増分とクリップ2の回転増分との差が小さい方がより好ましい。すなわち、定常回転段階では、回転伝達特性の線形性が良好であることがより好ましい。単線ワイヤ1は、スティックスリップを起こしても回転変動を抑制しやすい点では、定常回転段階における歪みエネルギーの蓄積量が少なくなるほどより好ましい。
【0033】
以上の考察から、処置具10の操作性を向上するには、単線ワイヤ1は、主としてねじり剛性が高いことが好ましい。
しかし、処置具チャンネル内で湾曲した状態で使用される単線ワイヤ1は、湾曲経路において中心軸線回りに回転することによって、繰り返しの曲げを受ける。このため、処置具10の操作性には、単線ワイヤ1の曲げ剛性も関係すると考えられる。
さらに、単線ワイヤ1のような細径のワイヤは、湾曲量の大きさなどの使用条件によっては、一部が塑性変形することも考えられる。この場合、単線ワイヤ1の操作性は、弾性係数等に基づく弾性変形特性のみでは評価できないと考えられる。
【0034】
本発明者は、上述の着眼に基づいて、単線ワイヤに必要な特性を鋭意検討した結果、特に医療処置具の操作性が良好になる単線ワイヤの条件を新規に見出し、本発明に到った。
具体的には、少なくとも、単線ワイヤ1のワイヤ本体1Aにおける弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力を上述の範囲にすることによって、医療処置具における操作性が良好になることを見出した。
弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力が上述の範囲であると操作性が良好になる理由は、必ずしも明らかではないが、いずれの特性値も、材料が弾性および靭性に優れていないと、高くならない特性値であることが関係していると考えられる。
すなわち、弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力は、材料の弾性係数を直接的に表す特性値ではないが、金属材料においては弾性係数とも相関する特性値である。さらに、各特性値は塑性領域の特性とも関係するので、塑性変形を含むと考えられる単線ワイヤ1の評価に好適であると考えられる。
【0035】
さらに、単線ワイヤ1のワイヤ本体1Aにおける弾性限界伸びおよび破断伸びを、上述の範囲にする場合、単線ワイヤ1はより高い靱性を有している。
例えば、弾性限界伸びが大きいほど、弾性領域で大きな変形が可能である。
例えば、破断伸びが小さいと延性が少ないので、塑性変形が起こりにくい、あるいは塑性変形しても形状変化が小さい。
このような特性によれば、湾曲された状態で繰り返しの曲げを受ける単線ワイヤ1の変形がスムーズになる点で、軽快な操作が可能になると考えられる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、単線ワイヤ1が上述の特性値を有するので、処置具チャンネル内で湾曲したコイルシース3Aおよびインナーシース3Bに沿って変形した状態でも、単線ワイヤ1の基端部から先端部への回転伝達特性が良好になる。このため、操作部材6の回転角がクリップ2に良好に伝達される。この結果、単線ワイヤ1によれば、処置具10における操作性が良好になる。
【0037】
なお、上記実施形態の説明では、医療処置具がクリップ装置の場合の例で説明した。しかし、本発明の医療処置具は、単線ワイヤが使用可能であれば、クリップ装置には限定されない。本発明の医療処置具は、例えば、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフなどであってもよい。
【0038】
上記実施形態の説明では、医療処置具が1本の単線ワイヤを有する場合の例で説明した。しかし、単線ワイヤが撚り線を構成しない限り、医療処置具に複数の単線ワイヤが用いられてもよい。
【0039】
上記実施形態の説明では、単線ワイヤ1が、金属製のワイヤ本体1Aを含み、ワイヤ本体1Aの表面に非金属の被覆が形成されていない場合の例で説明した。しかし、単線ワイヤは、表面に非金属の被覆を有していてもよい。
【実施例】
【0040】
次に、上述した実施形態の単線ワイヤの実施例について、比較例とともに説明する。
下記[表1]に、実施例1〜3、比較例1〜3の構成および評価結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例1]
実施例1は、実施形態の単線ワイヤ1に対応する実施例とされた。
[表1]に示すように、実施例1の単線ワイヤ1([表1]では、「単線ワイヤ」)の材料としては、直径0.35mmのSUS631J1の線材が用いられた。SUS631J1は、Crを16%以上かつNiを6.5%以上含有し、アルミニウム(Al)が1.0%程度添加されたステンレス鋼である。SUS631J1は、SUS631に属する鋼種である。
線材はボビンに巻かれていたので、真直度を得るために、真直加工を施す必要があった。
線材は、真直加工された後、カットされた。真直加工においては、負荷が調整された。
負荷が調整された真直加工の後に、線材は、470℃以上で時効硬化熱処理され、弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力を向上させる改質がされた。
このようにして、市販の線材が改質されることによって、実施例1のワイヤ本体1Aが製造された。
ワイヤ本体1Aをカットして、特性値測定用の試験片と、回転伝達特性評価用の単線ワイヤと、が形成された。
特性値測定用の試験片の長さは150mmとされた。
回転伝達特性評価用の単線ワイヤの長さは2500mmとされた。
さらに、ワイヤ本体1Aから処置具用の単線ワイヤ1が形成された。処置具用の単線ワイヤ1においては、ワイヤ本体1Aが2300mmにカットされた後、ろう付け加工によって先端部に係止部1Bが形成された。
【0043】
試験片の特性値としては、弾性限界応力、0.2%耐力、破断応力、弾性限界伸び、および破断伸びが、精密万能試験機オートグラフ(登録商標)AG−plus(商品名;株式会社島津製作所製)を用いた引張り試験による応力歪み曲線から求められた。ただし、弾性限界応力としては、0.05%耐力が用いられた。
引張り試験では、5kNのロードセルが用いられた。試験片の掴み間距離は50mmに設定された。試験片のチャック方式はエアチャックが用いられた。試験速度は1mm/minとされた。
【0044】
[表1]に示すように、上述の試験の結果、実施例1の単線ワイヤ1の弾性限界応力は1425MPa、0.2%耐力は2045MPa、破断応力は2359MPa、弾性限界伸びは1.24%、破断伸びは2.46%であった。
【0045】
[実施例2]
実施例2の単線ワイヤ1は、材料としてSUS301が用いられ、これに応じて改質の条件が変えられた以外は実施例1と同様である。
SUS301は、Crを16%以上かつNiを6%以上含有するステンレス鋼である。SUS301の線材は、負荷が調整された真直加工の後、300℃以上で熱処理され、弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力を向上させる改質がされた。
このようにして、市販の線材が改質されることによって、実施例2のワイヤ本体1Aが製造された。
実施例2のワイヤ本体1Aから、実施例1と同様にして、特性値測定用の試験片、回転伝達特性評価用の単線ワイヤ、および処置具用の単線ワイヤ1が製造された。
【0046】
実施例1と同様の試験の結果、実施例2の単線ワイヤ1の弾性限界応力は1427MPa、0.2%耐力は2043MPa、破断応力は2348MPa、弾性限界伸びは1.08%、破断伸びは2.07%であった。
【0047】
[実施例3]
実施例3の単線ワイヤ1は、材料としてSUS304が用いられ、これに応じて改質の条件が変えられた以外は実施例1と同様である。
SUS304は、Crを18%以上かつNiを8%以上含有するステンレス鋼である。SUS304の線材は、負荷が調整された真直加工の後、400℃以上で熱処理され、弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力を向上させる改質がされた。
このようにして、市販の線材が改質されることによって、実施例3のワイヤ本体1Aが製造された。
実施例3のワイヤ本体1Aから、実施例1と同様にして、特性値測定用の試験片、回転伝達特性評価用の単線ワイヤ、および処置具用の単線ワイヤ1が製造された。
【0048】
実施例1と同様の試験の結果、実施例3の単線ワイヤ1の弾性限界応力は1456MPa、0.2%耐力は2120MPa、破断応力は2728MPa、弾性限界伸びは1.13%、破断伸びは2.78%であった。
【0049】
以上説明したように、実施例1〜3の単線ワイヤ1は、1400MPa以上の弾性限界応力と、2000MPa以上の0.2%耐力と、2100MPa以上の破断応力と、を有していた。さらに、実施例1〜3の単線ワイヤ1は、1.0%以上の弾性限界伸びと、3.0%以下の破断伸びと、を有していた。
【0050】
[比較例1]
比較例1の単線ワイヤは、本発明の単線ワイヤに必要な特性値を有しない以外は、実施例1と同様である。
比較例1では、特性値を調整する目的で、真直加工前の線材に時効硬化熱処理が施され、その後、真直加工が行われた。
この結果、比較例1の単線ワイヤの弾性限界応力は1367MPa、0.2%耐力は1822MPa、破断応力は2220MPa、弾性限界伸びは1.16%、破断伸びは3.37%であった。
比較例1では、熱処理と真直加工とが行われたが、破断応力を除くと本発明に必要な特性値が得られるほどの改質はされなかった。
【0051】
[比較例2]
比較例2の単線ワイヤは、本発明の単線ワイヤに必要な特性値を有しない以外は、実施例2と同様である。
比較例2では、特性値を調整する目的で、真直加工が行われた。
この結果、比較例2の単線ワイヤの弾性限界応力は1442MPa、0.2%耐力は1894MPa、破断応力は2351MPa、弾性限界伸びは1.25%、破断伸びは3.21%であった。
比較例2では、真直加工によって、線材がある程度改質された結果、弾性限界応力および破断応力の特性値は実施例2と略同様であった。しかし、0.2%耐力が2000MPa未満だったので、本発明に必要な特性値は得られなかった。
【0052】
[比較例3]
比較例3の単線ワイヤは、本発明の単線ワイヤに必要な特性値を有しない以外は、実施例3と同様である。
比較例3では、特性値を調整する目的で、真直加工が行われた。
この結果、比較例3の単線ワイヤの弾性限界応力は1104MPa、0.2%耐力は1485MPa、破断応力は1964MPa、弾性限界伸びは0.98%、破断伸びは5.06%であった。
比較例3では、真直加工が行われたが、弾性限界応力、0.2%耐力、および破断応力のいずれに関しても、本発明に必要な特性値が得られるほどの改質はされなかった。
【0053】
[評価]
実施例1〜3、比較例1〜3の回転伝達特性評価用の単線ワイヤを用いて、回転伝達特性が評価された。
図3は、回転伝達特性を評価する試験装置を示す模式的な平面図である。
【0054】
図3に示すように、試験装置50は、ワイヤ回転部51、回転角検出部52、およびワイヤホルダ53を有する。
ワイヤ回転部51は、モータで駆動される把持部51aを有する。把持部51aは、単線ワイヤWの第1端部E1を把持する。本評価における把持部51aの回転速度は、90deg/sec以下とした。
回転角検出部52は、単線ワイヤWにおける第1端部E1と反対側の第2端部E2の回転速度を検出する。回転角検出部52には角度検出センサを用いた。
【0055】
ワイヤホルダ53は、単線ワイヤWが回転される間、単線ワイヤWの湾曲形状を一定に保つ。ワイヤホルダ53は、平板状の基台53Aと、基台53A上に固定された円柱部53Bと、を備える。円柱部53Bの直径Dは、150mm、高さは単線ワイヤWの直径の2倍以上とされた。Dは100mm〜200mmの範囲で、求める製品機能に応じて設定する。
基台53Aの表面には、第1溝部53a、第2溝部53b、第3溝部53c、および第4溝部53dが形成されている。第1溝部53a、第2溝部53b、第3溝部53c、および第4溝部53dは、単線ワイヤWを摺動可能に収容する溝幅および深さを有するU宇状溝である。ただし、図3では、見易いように、単線ワイヤWの外形と溝内周面との間には隙間を空けた図示が行われている。各溝部には単線ワイヤWが挿通可能な樹脂チューブが設置されている。例えば、樹脂チューブの例としては、内径φ0.75mmのPFA製のチューブが挙げられる。
第1溝部53aは、円柱部53Bの接線方向に真直に延びている。
第2溝部53bは、円柱部53Bの外周に沿う円形状に延びている。
第3溝部53cは、第1溝部53aと同一直線上に延びており、第1溝部53aおよび第2溝部53bに連通している。
第4溝部53dは、第3溝部53cにおいて、第1溝部53aと反対側の端部から中心角90°の円弧に沿って延びる湾曲溝である。第4溝部53dの半径Rは、25mmとされた。湾曲溝の中心角は、90゜〜180°の範囲で、半径Rは15mm〜45mmの範囲で、それぞれ求める製品機能に応じて設定する。
図示は省略するが、ワイヤホルダ53は、各溝部に単線ワイヤWを配置した後、各溝部からの単線ワイヤWの飛び出しを防止するワイヤ押えをさらに備える。
【0056】
単線ワイヤWは、第1溝部53aに挿通され、第2溝部53bに沿って円柱部53Bに二重に巻回された後、第3溝部53cおよび第4溝部53dに挿通された。
単線ワイヤWの第1端部E1は、第1溝部53aから基台53Aの側方(図示右側)に突出し、把持部51aに把持された。
単線ワイヤWの第2端部E2は、第4溝部53dから基台53Aの側方(図示下側)に突出し、回転角検出部52に挿入された。
【0057】
各実施例および各比較例の単線ワイヤは、それぞれ上述の単線ワイヤWのように試験装置50に装着された。把持部51aを上述の回転速度で3回転(回転角1080°)させた時の第2端部E2の回転角が測定された。
【0058】
[評価結果]
回転伝達特性の評価結果について説明する。
図4〜6は、実施例1〜3の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。図7〜9は、比較例1〜3の単線ワイヤの試験結果を示すグラフである。
各グラフにおいて、横軸は入力側回転角(deg)を、縦軸は出力側回転角(deg)を表す。
ここで、「入力側回転角」は、把持部51aの駆動データに基づく回転角である。
「出力側回転角」は、単線ワイヤWの第2端部E2の回転角に関する計測値を表す。ただし、符号に添字aを付した実線は回転角の実測値(以下、出力値と称する)を示すに対して、破線(符号に添字bが付されている)は、入力側回転角に対する出力値の差分の大きさ(=|出力値−入力側回転角|)を示す。
各グラフにおいて、二点鎖線は、入力側回転角と第2端部E2の回転角とが、完全に一致する理想的な変化(以下、理想線と称する)を示す。破線は、理想線に対する出力値(図示実線)の縦軸方向の乖離量を表している。
【0059】
回転伝達特性としては、理想線からのずれが少ないほどより好ましい。
例えば、定常回転段階における出力値の変化は、理想線と平行な直線に近い(直線性が高い)ほど、より好ましい。出力値の変化における平均直線からの変動が滑らかであって、かつ変動幅が小さいことがより好ましい。
例えば、初動段階から定常回転段階に移行する入力側回転角(以下、移行角)は小さいほどより好ましい。この場合、初動段階を短時間に通過することが可能である。
移行角が大きくても、定常回転段階における直線性が高ければ、操作性が良好になると考えられる。しかし、本発明者の検討によれば、移行角が大きいと、定常回転段階における上述の乖離量が増大し、かつ出力値の直線性が低下する傾向があった。
【0060】
回転伝達特性の評価では、出力値の変化の直線性が高く、理想線からの乖離量が小さい場合、「非常に良い」(very good、[表1]では「◎」)と判定した。出力値の変化の直線性が許容範囲であって理想線からの乖離量が大きい場合、「良い」(good、[表1]では「○」)と判定した。出力値の変化の直線性が許容範囲外の場合、「不可」(no good、[表1]では「×」)と判定した。特に、出力値に階段状の変化(飛び挙動)が見られる場合は、「不可」と判定した。
【0061】
図4〜6には、実施例1〜3の試験結果が示されている。図4には、2本の単線ワイヤ1の試験結果が示されている。図5、6には、3本の単線ワイヤ1の試験結果が示されている。
図4において、曲線101a、102aに示すように、実施例1における各出力値は、初動段階において、緩やかに増大した。初動段階は入力側回転角が約150°程度で終了した。
この後、出力値は、入力側回転角の変化に追従して、略線形の変化を示した。出力値は、理想線に平行な直線からわずかに変動したが、滑らかな変動であり、変動量も小さかった。
定常回転段階において、曲線101b、102bは、約70°を中心として略一定であった。
実施例1の回転伝達特性は「非常に良い」と判定された。
実施例1の処置具用の単線ワイヤ1を用いた処置具10を用いて、クリップ2の回転を実施したところ、操作性は非常に良かった。
【0062】
図5において、曲線111a、112a、113aに示すように、実施例2における各出力値は、初動段階において、緩やかに増大した。初動段階は入力側回転角が約250°程度で終了した。
この後、出力値は、入力側回転角の変化に追従して、略線形の変化を示した。出力値は、理想線に平行な直線からわずかに変動したが、滑らかな変動であり、変動量も小さかった。ただし、乖離量は、実施例1に比べるとやや大きく、曲線111aのように変動がやや大きいサンプルもあった。
定常回転段階において、曲線111b、112b、113bは、約120°を中心として略一定であった。
実施例2の回転伝達特性は「非常に良い」と判定された。
実施例2の処置具用の単線ワイヤ1を用いた処置具10を用いて、クリップ2の回転を実施したところ、操作性は非常に良かった。
【0063】
図6において、曲線121a、122a、123aに示すように、実施例3における各出力値は、初動段階において、緩やかに増大した。初動段階は入力側回転角が約290°程度で終了した。
この後、出力値は、入力側回転角の変化に追従して、略線形の変化を示した。出力値は、理想線に平行な直線からは変動したが、滑らかな変動であった。ただし、乖離量および変動量は、実施例1、2に比べると大きかった。
この後、出力値は、入力側回転角の変化に追従して、略線形の変化を示した。このため、曲線121b、122b、123bは、約240°を中心として略一定であった。
実施例3の回転伝達特性は「良い」と判定された。
実施例3の処置具用の単線ワイヤ1を用いた処置具10を用いて、クリップ2の回転を実施したところ、問題なく操作できた。
【0064】
図7〜9には、比較例1〜3の試験結果が示されている。図7〜9には、それぞれ3本の単線ワイヤの試験結果が示されている。
図7において、曲線131a、132a、133aに示すように、比較例1における各出力値は、初動段階において、緩やかに増大した後、急峻に増大した。初動段階は入力側回転角が約220°程度で終了した。
この後、出力値は、理想線に平行な直線から階段状に激しく変化した。
移行角と、平均的な乖離量(曲線131b、132b、133b参照)とは、いずれも実施例3に比べても小さかったが、定常回転段階で階段状に激しく変化していた。処置具に組み込んだ場合に、クリップの姿勢の回転調整は困難だと考えられる。
このため、比較例1の回転伝達特性は「不可」と判定された。
【0065】
図8において、曲線141a、142a、143aに示すように、比較例2における各出力値は、初動段階において、緩やかに増大した後、急峻に増大した。初動段階は入力側回転角が約560°程度で終了した。
この後、出力値は、理想線に平行な直線から階段状に激しく変化した。出力値が急峻に増大した後は、振動も伴っていた。
曲線141b、142b、143bに示すように、平均的な乖離量も大きかった。
このため、比較例2の回転伝達特性は「不可」と判定された。
【0066】
図9において、曲線151a、152a、153a、曲線151b、152b、153bに示すように、比較例2の出力値および乖離量は、比較例2と同様の変化を示した。
このため、比較例3の回転伝達特性は「不可」と判定された。
【0067】
比較例1〜3の処置具用の単線ワイヤを用いた処置具10を用いて、クリップ2の回転を実施したところ、所望の回転位置に調整できなかった。
比較例1〜3は、本発明の単線ワイヤに必要な特性値を有しなかったので、回転伝達特性が悪かったと考えられる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態を、各実施例とともに説明したが、本発明はこの実施形態および各実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0069】
1、W 単線ワイヤ
1A ワイヤ本体
1B 係止部
2 クリップ
3A コイルシース
4 チューブ
5 ホルダ
6 操作部材
7 締付リング
10 処置具(医療処置具)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、牛検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤであって、
1400MPa以上の弾性限界応力と、
2000MPa以上の0.2%耐力と、
2100MPa以上の破断応力と、
を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項2】
前記単線ワイヤは、
1.0%以上の弾性限界伸びと、
3.0%以下の破断伸びと、
をさらに有する、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項3】
前記単線ワイヤは、0.5mm以下の直径を有する、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項4】
前記単線ワイヤは、
真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、
クロムを16%以上かつニッケルを6%以上含有する、
請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項6】
前記ステンレス鋼は、
SUS301、SUS304、およびSUS631からなる群から選ばれた少なくとも1つのステンレス鋼からなる、
請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤを含む医療処置具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-05 
出願番号 P2019-070822
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 851- YAA (A61B)
P 1 651・ 853- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
P 1 651・ 536- YAA (A61B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 井上 哲男
村上 聡
登録日 2020-07-06 
登録番号 6730482
権利者 オリンパス株式会社
発明の名称 医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具  
代理人 鈴木 史朗  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 石田 良平  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 松沼 泰史  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 石田 良平  
代理人 鈴木 史朗  
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