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審決分類 |
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) A23L 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A23L 審判 一部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 A23L 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 一部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更 A23L |
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管理番号 | 1382368 |
総通号数 | 3 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-03-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-28 |
確定日 | 2021-10-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6729955号発明「減糖用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6729955号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6729955号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6729955号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、令和1年10月25日(優先権主張 令和1年8月20日)の出願であって、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がなされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の請求項1について、令和3年1月28日に特許異議申立人 角田 朗(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 本件特許異議申立事件における手続の経緯及び提出された証拠方法等は次のとおりである。 1 手続の経緯 令和 3年 1月28日 :異議申立書、甲第1〜5号証の提出 同年 5月31日付け:取消理由通知 同年 8月 2日 :訂正請求書、意見書、 乙第1〜4号証の提出(特許権者) 同年 同月20日付け:特許法第120条の5第5項に基づく 通知書 同年 9月24日 :意見書、参考資料1〜4の提出(申立人) 2 提出された証拠方法等 甲第1号証:特開2009−27974号公報 甲第2号証:特開2000−279125号公報 甲第3号証:“【管理栄養士監修】みりん大さじ1に含まれる糖質量は? 種類による違いは?”,[online],2020年9月 18日,もぐうぇる,[2021年1月23日検索],イン ターネット<URL:https://mogwell.k aradashift.jp/80247#> 甲第4号証:“キッコーマン 本つゆ 塩分・糖質オフ”,[onlin e],キッコーマン株式会社,[2021年1月23日検索 ],インターネット<https://www.kikko man.co.jp/products/product/ K150507/index.html> 甲第5号証:“炭水化物成分表追補2017年,第4部 日本食品標準成 分表2015年版(七訂)追補2017年 炭水化物成分表 編 第1章 説明(p.187−191)”,[onlin e],文部科学省,[2021年1月26日検索],インタ ーネット<https://www.mext.go.jp /a_menu/syokuhinseibun/1399 519.htm> 乙第1号証:“風味調味料の日本農林規格”,最終改正 平成25年12 月24日農林水産省告示第3120号,p.1−7 乙第2号証:越智宏倫著,“光琳テクノブックス13 天然調味料”(決 定注:数字は□付き数字を表す。),株式会社光琳,平成5 年6月30日,p.170 乙第3号証:特開2007−159550号公報 乙第4号証:特開2018−170979号公報 参考資料1:“食品成分データベース めんつゆ”,[online], 文部科学省,[2021年9月21日検索],インターネッ ト<https://fooddb.mext.go.jp /result/result_top.pl?USER_ ID=16603> 参考資料2:特開平4−58869号公報 参考資料3:特開平11−239461号公報 参考資料4:特開平11−243901号公報 第2 訂正の適否 1 訂正の趣旨 令和3年8月2日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1を、訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めるものである。 2 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下の訂正事項1のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、喫食時に1〜12質量%含有し、さらに糖分及び塩分を含み、 (該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、 減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)。」 と記載されているのを、 「 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、喫食時に1〜12質量%含有し、さらに糖分及び塩分を含み、 (該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)(ただし、(A)ナトリウム1.2〜3質量%、(B)カリウム0.8〜2.5質量%、(C)エタノール1〜10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)。」 に訂正する。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「減糖めんつゆ」について、「(A)ナトリウム1.2〜3質量%、(B)カリウム0.8〜2.5質量%、(C)エタノール1〜10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆ」を除くものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「減糖めんつゆ」のうち、甲第1号証に記載された発明との重なりのみを除く、いわゆる「除くクレーム」とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内においてしたものであって、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 前記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、喫食時に1〜12質量%含有し、さらに糖分及び塩分を含み、 (該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)(ただし、(A)ナトリウム1.2〜3質量%、(B)カリウム0.8〜2.5質量%、(C)エタノール1〜10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 当審は、本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和3年5月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 理由1(新規性) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特開2009−27974号公報 2 甲第1号証の記載 (1a)「【請求項1】 次の(A)、(B)及び(C)、 (A)ナトリウム 1.2〜3質量% (B)カリウム 0.8〜2.5質量% (C)エタノール 1〜10質量% を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料。 【請求項2】 (D)糖類を4〜20質量%含有する請求項1に記載の容器詰液体調味料。 【請求項3】 (E)魚節類を含有する請求項1又は2に記載の容器詰液体調味料。 ・・・ 【請求項5】 液体調味料が、ポン酢醤油又はつゆである請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器詰液体調味料。」 (1b)「【0028】 魚節エキスとしては、かつお節エキス、そうだ節エキス、まぐろ節エキス、さば節エキス、むろ節エキス、うるめ節エキス、いわし節エキス、さんま節エキス、煮干エキスなどが挙げられ、かつお節エキスが好ましい。魚節エキスとは、魚節を熱水もしくはアルコールまたは両者の混合液を用いて抽出した液状の抽出液のことである。 【0029】 魚節調味料としては、かつお節調味料、そうだ節調味料、まぐろ節調味料、さば節調味料、むろ節調味料、うるめ節調味料、いわし節調味料、さんま節調味料、煮干調味料などが挙げられ、かつお節調味料が好ましい。魚節調味料とは、魚節又は魚節エキスに、グルタミン酸ナトリウム、食塩、砂糖、昆布エキスなどの調味料を添加、混合して製造されたものをいう。」 (1c)「【0067】 (2)試験品6〜10(麺つゆ) 表2に示す配合で、醤油(ヤマサ減塩しょうゆ、ヤマサ(株))、塩化カリウム、食塩、上白糖、かつお節エキス(エキスメイトかつお、味の素(株))、かつお節調味料(かつおだし、マルトモ(株))、水、エタノール等を混合、溶解した。更に、別に作製しただし汁を加え、ガラス製サンプル瓶に入れ、アルミ箔で蓋をして、湯せんで加熱(内容物の温度:75℃達温後5分間保持)した。次いで閉栓し、水冷した後、冷蔵庫(5℃)に3日間静置して、容器詰液体調味料(試験品6〜10)を製造した(EtOH=1.3%)。これらの風味について、官能評価を行った(そのまま評価、水で希釈して評価)。その結果を表2に示す。 【0068】 【表2】 」 3 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の上記(1a)の請求項1〜3及び5に係る発明の具体例を示した試験品8(麺つゆ)(上記(1c)【0067】及び【表2】)からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 甲1発明 「以下の成分からなり、麺つゆ:水=1:1(質量比)で希釈する麺つゆ。 食塩 8.94(質量部) 上白糖 130.00 グルタミン酸ナトリウム 17.50 みりん 25.00 醤油(減塩) 300.00 調味料(酵母エキス) 1.20 90%乳酸 1.35 塩化カリウム 22.00 アスパルギン酸ナトリウム 3.00 かつお節エキス 10.00 調味料(蛋白加水分解分解物) 30.00 かつお節調味料 95.00 だし汁* 340.00 エタノール 1.00 水 15.01 合計 1000.00 * 鍋に水340部と昆布5部入れ火にかけ、沸騰したら、かつお節50部を加え、5分加熱し、これをクッキングペーパーでろ過し、ろ液を水冷後、340部となるよう水を添加したもの。」 4 当審の判断 (1)対比 本件訂正発明と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「麺つゆ」は、「食塩」、「グルタミン酸ナトリウム」、「アスパルギン酸ナトリウム」、「塩化カリウム」、「エタノール」などを含むものであるところ、「麺つゆ」全体では、ナトリウムを2.57質量%、カリウムを1.39質量%、エタノールを1.3質量%含むものであり、ナトリウム/カリウム質量比が1.85である(上記(1c)【表2】の試験品8の「Na(質量%)」、「K(質量%)」、「エタノール(質量%)及び「Na/K(質量比)」参照)。 イ 甲1発明の「麺つゆ」は、容器詰液体調味料であり(上記(1c)【0067】)、甲1発明の「麺つゆ:水=1:1(質量比)で希釈する麺つゆ」は、上記アのとおりのナトリウム、カリウム及びエタノールを含有し、ナトリウム/カリウム質量比である容器詰液体調味料を水で1:1に希釈した麺つゆである。 ウ そうすると、両発明は、本件訂正発明の「減糖めんつゆ」が、「(ただし、(A)ナトリウム1.2〜3質量%、(B)カリウム0.8〜2.5質量%、(C)エタノール1〜10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)」ものであるのに対し、甲1発明の「麺つゆ:水=1:1(質量比)で希釈する麺つゆ」は、ナトリウムを2.57質量%、カリウムを1.39質量%、エタノールを1.3質量%含むものであり、ナトリウム/カリウム質量比が1.85である容器詰液体調味料である麺つゆを、「麺つゆ:水=1:1に希釈する麺つゆ」である点で相違する。 (2)判断 上記(1)ウのとおり、本件訂正発明と甲1発明とは相違する。 そして、みりんに含まれる糖分量を示す甲第3号証及びでん粉及び二糖類のその単糖当量への換算係数を示す甲第5号証、減糖めんつゆに含まれる糖質量を示す甲第4号証、さらには、麺つゆの食塩相当量、かつお節調味料の糖質量や原料濃度を示す乙第1〜4号証及び参考資料1〜4を参照しても、その余について検討するまでもなく、本件訂正発明は甲1発明であるとはいえない。 (3)申立人の主張について 申立人は、令和3年9月24日付けの意見書において、甲1発明の「麺つゆ:水=1:1(質量比)で希釈する麺つゆ」は、麺つゆを使用している食事中に希釈されてしまう状態を再現したものではなく、濃縮タイプの麺つゆを喫食直前に1:1に希釈した状態を再現したものと解釈でき、また、魚節類の抽出物の濃度)/糖分濃度の値が本件訂正発明の範囲内である場合も十分に存在するのであるから、甲第1号証に記載された発明と本件訂正発明は技術的思想が異なるものとは言えず、本件訂正発明は「除くクレーム」とすることによって特許を受けることができる発明には該当しないと主張する。 しかしながら、本件訂正発明は、本件特許明細書【0007】に記載されるとおり、鰹節等を原料とする魚節の抽出物を用いることによって、減糖により低下した食品や料理の甘味を含む風味を改善したものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明は、【0007】に記載されるとおり、ナトリウム、カリウム及びエタノールを特定の含有量・比率で配合することにより、低食塩含量で塩化カリウムを含有するにもかかわらず、塩化カリウム由来の異味が抑制されて適度な塩味を呈し、柑橘類や魚節類の香り立ちに優れ、希釈時においても風味バランス良好な容器詰液体調味料が得られるものであるから、両発明は、技術的思想が顕著に異なるものである。 よって、申立人の主張は採用できない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。 したがって、本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。 第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について 当審は、本件訂正発明に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっても、取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 申立て理由の概要 訂正前の請求項1に係る特許に対して、申立人が主張した特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった理由の要旨は、次のとおりである。 理由1(新規性) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 記 甲第2号証:特開2000−279125号公報 2 甲第2号証の記載 (2a)「【0005】 【発明の実施の形態】本発明に用いられる醤油は生醤油、火入れ醤油いずれでもよく、例えば濃口醤油、淡口醤油などの通常の醤油が用いられ、これらの醤油を限外濾過、精密濾過などの膜処理をおこなった醤油、電気透析などにより脱塩処理されたもの、脱色処理をおこなったものも用いられ、1種又は2種以上が用いられる。 【0006】甘味糖類は、通常のつゆ類に用いられるものでよく例えば、砂糖、麦芽糖、果糖、液糖、ブドウ糖、水飴、デキストリン、澱粉であり、ソルビト−ル、マルチト−ルなどの糖アルコ−ル類などが挙げられ、また、みりんや酒精含有甘味調味料なども好適に用いられ、また必要によりグリチルリチン、ステビオサイド、アスパルテ−ムなどの甘味料も用いられ、これらの甘味糖類、甘味料が1種又は2種以上組み合わせて用いられる。 ・・・ 【0011】本発明の糖蜜は、通常の糖蜜であり、砂糖を製造する工程で砂糖を結晶化させるときに残るシロップ状の糖液であり、砂糖製造工程で得られる副産物である。」 (2b)「【0020】 【実施例】(実施例1)濃口醤油190g、砂糖10g、液糖10g、みりん30g、鰹節60gを10倍重量の熱水で抽出したダシ汁550g、グルタミン酸ナトリウム4gを混和したつゆに糖蜜46gを加えて溶解したのち、乳酸でpHを4.6に調整して1,000gとし、80℃、10分の加熱殺菌をおこない本発明のつゆを得た。」 3 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証の実施例1(上記(2b))からみて、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 甲2発明 「以下の成分からなる、つゆ。 濃口醤油 190g 砂糖 10g 液糖 10g みりん 30g 鰹節60gを10倍重量の熱水で抽出したダシ汁 550g グルタミン酸ナトリウム 4g 糖蜜 46g 乳酸 pH4.6に調整するのに必要な量 合計 1000g」 4 当審の判断 (1)対比 本件訂正発明と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「鰹節60gを10倍重量の熱水で抽出したダシ汁」は、本件訂正発明の「鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物」と、「鰹節を原料とする物」であるという限りにおいて共通する。 イ 甲2発明の「砂糖」、「液糖」、「みりん」、「糖蜜」は、本件訂正発明の「糖分」に相当し、甲2発明の「濃口醤油」には塩分が含まれるから、本件訂正発明の「塩分」に相当する。 ウ 甲2発明の「つゆ」は、本件訂正発明の「減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)」と、「つゆ」であるという限りにおいて共通する。 エ 甲2発明の「つゆ」は、本件訂正発明の「エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料」を含んでいないから、本件訂正発明の前記「甘味料の総量が0.1質量%以下」であることに相当する。 そして、甲2発明がさらに「グルタミン酸ナトリウム」及び「乳酸」を含有することは、本件特許明細書【0031】の「本発明の減糖食品組成物の例としては、限定はされないが、・・・麺類(そば、うどん、ラーメン、パスタなど)のつゆ・・・などが含まれる。」との記載、【0050】の「本発明の減糖食品組成物には、例えば、・・・クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、リン酸などの酸味料、カフェイン、香辛料抽出物、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物、ボラペット、メチルチオアデノシン、レイシ抽出物などの苦味料、食塩、塩化カリウムなどの塩味料、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸やそれらのナトリウムもしくはカリウム塩などの旨味料などを添加・混合してもよい。」との記載から、本件訂正発明に包含され、相違点とはならない。 オ したがって、両発明は、以下の一致点及び相違点1〜2を有する。 一致点 「鰹節を原料とする物を含有し、さらに糖分及び塩分を含み、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、 めんつゆ。」である点。 相違点1 本件訂正発明は、「鰹節を原料とする、魚節の抽出物を、喫食時に1〜12質量%含有」し、「(該魚節の抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)」と特定されているのに対し、 甲2発明は、合計1000gに対し、「鰹節60gを10倍重量の熱水で抽出したダシ汁 550g」含み、「濃口醤油 190g」、「砂糖 10g」、「液糖 10g」、「みりん 30g」及び「糖蜜 46g」含むと特定されている点。 相違点2 本件訂正発明は、「減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)(ただし、(A)ナトリウム1.2〜3質量%、(B)カリウム0.8〜2.5質量%、(C)エタノール1〜10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)。」と特定されているのに対し、 甲2発明は、「つゆ」と特定されている点。 (2)判断 事案に鑑み上記相違点1ついて検討する。 甲2発明の「鰹節60gを10倍重量の熱水で抽出したダシ汁 550g」という記載からすると、600gの熱水で抽出したことと、得られたダシ汁を550g用いたことは理解できるものの、甲2発明の「つゆ」1000gにおける「鰹節を原料とする、魚節の抽出物」の喫食時の含有量については、6.0質量%であるのか、5.5質量%であるのか、あるいはその他の質量%であるのかを理解することができない。 仮に、6.0質量%又は5.5質量%であるとしても、本件訂正発明の「減糖めんつゆ」における「糖分濃度」はブドウ糖換算とするものであるところ、甲2発明の「つゆ」における「糖分濃度」については、甲第2号証の記載、特に上記(2a)の記載を考慮しても、「濃口醤油」、「砂糖」、「液糖」、「みりん」及び「糖蜜」全体に含まれる、ブドウ糖換算とする糖分濃度を算出することはできないから、甲2発明の「つゆ」の「(該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度」を算出することはできない。 したがって、相違点1は実質的な相違点であるから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明は甲2発明であるとはいえない。 また、みりんに含まれる糖分量を示す甲第3号証及びでん粉及び二糖類のその単糖当量への換算係数を示す甲第5号証、減糖めんつゆに含まれる糖質量を示す甲第4号証、さらには、麺つゆの食塩相当量、かつお節調味料の糖質量や原料濃度を示す乙第1〜4号証及び参考資料1〜4を参照しても、本件訂正発明は甲2発明であるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。 したがって、申立人の申し立てた理由1(新規性)は理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠方法によっては、請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、喫食時に1〜12質量%含有し、さらに糖分及び塩分を含み、 (該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)(ただし、(A)ナトリウム1.2〜3質量%、(B)カリウム0.8〜2.5質量%、(C)エタノール1〜10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1〜1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)。 【請求項2】 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、0.1〜10質量%含有し、さらに糖分及び塩分を含み、 (該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、 減糖煮物つゆ、減糖白だし、又は減糖おでんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)。 【請求項3】 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物、糖分、及び塩分を含む調味液を、食品原料と共に加熱する工程を含む、減糖食品組成物の製造方法(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)であって、 該調味液由来の(該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量を0.1質量%以下とする、製造方法。 【請求項4】 糖分、及び塩分を含む食品組成物の減糖方法であって、 鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を使用することで、該糖分の量を減少させることを含み(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)、 該魚節及び/又は煮干しの抽出物、糖分、及び塩分を含む調味液を用いる工程を含み、 該調味液由来の(該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4〜2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、 該調味液中のエリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量を0.1質量%以下とする、減糖方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-10-15 |
出願番号 | P2019-194519 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YAA
(A23L)
P 1 652・ 841- YAA (A23L) P 1 652・ 851- YAA (A23L) P 1 652・ 854- YAA (A23L) P 1 652・ 855- YAA (A23L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 関 美祝 |
登録日 | 2020-07-06 |
登録番号 | 6729955 |
権利者 | ヤマキ株式会社 |
発明の名称 | 減糖用組成物 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |