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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 一部無効 2項進歩性  A61K
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1382558
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-30 
確定日 2021-12-14 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第5110757号発明「セルロース粉末」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5110757号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[2〜5、9〜16]について訂正することを認める。 請求項1、2及び6に係る発明についての本件審判の請求は成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5110757号の特許請求の範囲の請求項1〜16に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2001年 6月28日(優先権主張2000年 7月 5日、日本国)を国際出願日として、特願2002−507894号として出願され、平成24年10月19日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、請求人 日本製紙株式会社から、平成30年 6月20日付け審判請求書によって、請求項1、2及び6に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。また、被請求人から、平成30年 9月21日付け答弁書及び訂正請求書が提出された。その後、請求人から、平成30年11月15日付け弁駁書が提出された。
そして、請求人、被請求人は、各々、平成31年 2月22日付け口頭審理陳述要領書を提出し、平成31年 3月 8日に行われた第1回口頭審理において、請求人は上記口頭審理陳述要領書3頁から24頁の項目(2−4)小括までに記載のとおり陳述し、被請求人は上記口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。
その後、被請求人から、平成31年 3月22日付け上申書が、また、請求人から、平成31年 4月 5日付け上申書が提出された。

2.訂正請求
本件訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記平成30年 9月21日付け訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

2−1.訂正請求の趣旨
特許第5110757号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2〜5、9〜16について訂正することを求める。

2−2.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「平均重合度が230−450である」と記載されているのを、「平均重合度が230−450であり、該平均重合度が、前記レベルオフ重合度より10〜300高い」に訂正する。請求項2の記載を引用する請求項3〜5、9〜16も同様に訂正する。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3〜5、9〜16は、いずれも直接的または間接的に請求項2を引用する関係にあるから、訂正前の請求項2〜5、9〜16は一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

2−3.訂正の適否の判断
2−3−1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正前の本件特許の請求項2には、同請求項に係るセルロース粉末の平均重合度とレベルオフ重合度との関係について明示的な規定はないが、被引用請求項である請求項1には、セルロース粉末の平均重合度が、150−450であり、レベルオフ重合度より5〜300高いことが規定されており、請求項1を引用する訂正前の本件特許の請求項2は、レベルオフ重合度より5〜300高いとの規定を内包していたものと認められるから、上記訂正事項1は、レベルオフ重合度について5〜300高いという範囲を10〜250高いという範囲に限定したものであるといえる。
よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、本件明細書の段落0016には、セルロース粉末の平均重合度をレベルオフ重合度から、5〜300程度高めておくことが好ましく、10〜250程度高めておくことがさらに好ましいことが記載されている。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。

請求項3〜5、9〜16は、直接的又は間接的に請求項2を引用しており、請求項2における訂正に伴い訂正されることとなった。そして、請求項2を引用する請求項3〜5、9〜16の訂正についても、上記と同様、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないし、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。
一方、訂正後の請求項3〜5、9〜16に係る発明についての特許は、無効審判請求の対象とされていない。よって、上記訂正請求が適法なものとして認められるためには、これらの請求項に係る発明が独立特許要件を満たすものでなければならない。そこで、以下、検討する。
訂正後の請求項3〜5、9〜16のうち、請求項2を直接的又は間接的に引用するものは、被引用請求項である請求項2をさらに限定するものであるから、訂正後の請求項2と同じ発明特定事項を有するものである。そして、請求項2に係る発明の特許は、請求人が主張する下記4−1に記載の無効理由1〜5によって無効とすべきものであるといえないことは、下記6において説示のとおりである。また、上記訂正後の請求項3〜5、9〜16に係る発明の特許について、他に無効とすべき理由を発見しない。
以上のとおりであるから、訂正後の請求項3〜5、9〜16に係る発明については独立特許要件を満たすものである。

2−3−2.むすび
上記訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。さらに、特許無効審判の請求がされていない請求項3〜5、9〜16に係る訂正については、同法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合する。
よって、訂正後の請求項2〜5、9〜16について訂正することを認める。

3.本件訂正発明
上記訂正の結果、本件特許第5110757号の特許請求の範囲の請求項1〜16に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、各々を順に、「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明16」というか、あるいは、特許請求の範囲に記載された発明を総称して「本件訂正発明」という。)。

「【請求項1】
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって、平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が54°以下のセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とするセルロース粉末。
【請求項2】
平均重合度が230−450であり、該平均重合度が、前記レベルオフ重合度より10〜300高い請求項1に記載のセルロース粉末。
【請求項3】
水蒸気吸着による比表面積が85m2/g以上である請求項1又は請求項2に記載のセルロース粉末。
【請求項4】
セルロース粉末0.5gを20MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が170N以上であって、その崩壊時間が130秒以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロース粉末。
【請求項5】
セルロース粉末と乳糖との等量混合物0.5gを80MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が150N以上であって、その崩壊時間が120秒以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース粉末。
【請求項6】
i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、
a)平均重合度が150−450
b)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5
であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、
ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、
を含むセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とするセルロース粉末の製造方法。
【請求項7】
平均重合度が230−450である請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の製造方法により得られ得るセルロース粉末。
【請求項9】
請求項1〜5及び請求項8のいずれか一項に記載のセルロース粉末からなる賦形剤。
【請求項10】
請求項1〜5及び請求項8のいずれかに記載のセルロース粉末又は請求項9の賦形剤を含む成型体。
【請求項11】
成型体が1つ以上の活性成分を含む錠剤である請求項10に記載の成型体。
【請求項12】
活性成分を30重量%以上含む請求項11に記載の成型体。
【請求項13】
圧縮に弱い活性成分を含む請求項10〜12のいずれか一項に記載の成型体。
【請求項14】
活性成分が被覆されている請求項13に記載の成型体。
【請求項15】
成型体が速崩壊性である請求項10〜14のいずれか一項に記載の成型体。
【請求項16】
流動化剤を含む請求項10〜15のいずれか一項に記載の成型体。」

4.当事者の主張及び証拠方法
4−1.請求人の主張する無効理由及び証拠方法
請求人が提出した審判請求書、平成30年11月15日付け弁駁書、及び平成31年 2月22日付け口頭審理陳述要領書によれば、請求人は、本件訂正発明1、2、及び6についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1〜5を主張し、証拠方法として、甲第1号証〜甲第29号証、甲第31号証、甲第32号証、甲第45号証及び甲第46号証(以下、各々、「甲1」、「甲2」・・・「甲46」と表記する場合がある。)を提出している。なお、甲第30号証及び甲第33〜44号証の書証の申出は、調書記載のとおり、第1回口頭審理において撤回された。

(無効理由1)
発明の詳細な説明には、本件訂正発明1、2及び6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないことから、本件訂正発明1、2及び6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1、2及び6に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由2)
本件訂正発明1、2及び6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件訂正発明1、2及び6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1、2、及び6に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由3)
本件訂正発明1、2及び6は、明確でないから、本件訂正発明1、2及び6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1、2、及び6に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由4)
本件訂正発明1、2及び6は、甲第12号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1、2及び6に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由5)
本件訂正発明1、2及び6は、甲第12号証に記載された発明、並びに甲第13号証、甲第14号証、及び/又は甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1、2及び6に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:本件特許の平成23年11月24日付け意見書
甲第2号証:本件特許の平成24年9月12日付け意見書
甲第3号証:平成29年(ワ)第24598号 特許権侵害差止等請求事件の平成29年11月2日付け原告準備書面(1)
甲第4号証:Industrial and Engineering chemistry,Vol.42,No.3,p502-507,Mar.1950及びその訳文
甲第5号証:Carbohydrate Polymers, Vol.136, p1281-1287(2016)及びその抄訳
甲第6号証:特許第6247207号公報
甲第7号証:第十三改正日本薬局方 「結晶セルロース」、p1239〜1242、平成8年3月13日
甲第8号証:磯貝明編、セルロースの科学、p8、朝倉書店、2005年4月20日初版第2刷
甲第9号証:平成29年(ワ)第24598号 特許権侵害差止等請求事件の平成30年3月30日付原告準備書面(3)
甲第10号証:久保輝一郎他編、改訂二版 粉体 理論と応用、p52〜55、丸善株式会社、昭和54年5月12日
甲第11号証:報告書、2018年6月11日、日本製紙株式会社 基盤技術研究所 宇野俊一朗作成
甲第12号証:特開平6−316535号公報
甲第13号証:最新薬剤師国試対策 丸6 医療薬学II、日本医薬アカデミー 東京薬学セミナー、福岡薬学セミナー発行・編集、p167、平成9年7月10日第二版
甲第14号証:特開平11−152233号公報
(以上、審判請求書に添付。)
甲第15号証:特開2001−86957号公報
甲第16号証:International Journal of Biological Macromolecules, Vol.109, p914-920, 2018及びその訳文
甲第17号証:「お問合せQ&A Q規定度(N)について」のウェブページ 富士フィルム和光純薬(株)(https://labchem.wako-chem.co.jp/question/000953.htm)
甲第18号証:再公表特許公報(国際公開番号WO2006/115198)
甲第19号証:特表2000−508342号公報
甲第20号証:報告書(2)、2018年3月15日、日本製紙株式会社 基盤技術研究所 宇野俊一朗作成
甲第21号証の1:分析試験成績書、平成30年2月13日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の2:分析試験成績書、平成30年2月13日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の3:分析試験成績書、平成30年2月13日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の4:分析試験成績書、平成30年2月13日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の5:分析試験成績書、平成30年2月13日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の6:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の7:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の8:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の9:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の10:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の11:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の12:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の13:分析試験成績書、平成30年1月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の14:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の15:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の16:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の17:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の18:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の19:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の20:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第21号証の21:分析試験成績書、平成30年2月16日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第22号証の1:分析試験成績書、平成30年6月11日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第22号証の2:分析試験成績書、平成30年6月11日、一般財団法人日本食品分析センター
甲第23号証の1:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第23号証の2:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第23号証の3:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第23号証の4:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第23号証の5:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第23号証の6:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第23号証の7:試験成績書、2018年6月12日、株式会社島津テクノリサーチ
甲第24号証:意見書、平成30年10月2日、磯貝 明
甲第25号証:意見書、平成30年9月3日、京都大学大学院農学研究科 森林科学専攻 教授 高野俊幸
甲第26号証の1:第十四改正日本薬局方 900頁「粉末セルロース」、平成13年3月30日
(http://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/0900-1.pdf)
甲第26号証の2:第十五改正日本薬局方 697〜698頁「粉末セルロース」、平成18年3月31日
(http://jpdb.nihs.go.jp/kyokuhou/YAKKYOKUHOU15.pdf)
甲第26号証の3:第十六改正日本薬局方 846〜847頁「粉末セルロース」、平成23年3月24日
(http://jpdb.nihs.go.jp/kyokuhou/YAKKYOKUHOU16.pdf)
甲第26号証の4:第十七改正日本薬局方 1010〜1011頁「粉末セルロース」、平成28年3月7日
(http://jpdb.nihs.go.jp/jp17/jp17-3.pdf)
甲第27号証:第8版食品添加物公定書 537,581頁「微結晶セルロース」「粉末セルロース」、平成19年
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/dl/8e03.pdf)
甲第28号証:特表2012−526886号公報
甲第29号証:セルロース学会編、セルロースの事典(新装版)、522〜523頁、朝倉書店、2011年3月25日新装版第2刷
(以上、平成30年11月15日付け弁駁書に添付。)
甲第31号証:報告書(5)、2019年2月20日、日本製紙株式会社 基盤技術研究所 宇野俊一朗作成
甲第32号証:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕420〜421頁
(https://www.jpo.go.jp/shiryou/hourei/kakokai/pdf/cikujyoukaisetu20/tokkyo_all.pdf)
(以上、平成31年1月9日付け口頭審理陳述要領書に添付。なお、甲第30号証、甲第33号証〜甲第44号証の書証の申出は口頭審理において撤回された。)
甲第45号証:林恒美編、粉体技術ポケットブック、(株)工業調査会、1996年11月20日初版第1刷
甲第46号証:第十五改正日本薬局方 「1.安息角測定法」、1650〜1651頁、平成18年3月31日
(http://jpdb.nihs.go.jp/kyokuhou/YAKKYOKUHOU15.pdf)
(以上、平成31年4月5日付け上申書に添付。)

4−2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、訂正の請求を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求人の本件特許が無効であるとの主張には理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1号証〜乙第26号証(以下、各々、「乙1」、「乙2」・・・「乙26」と表記する場合がある。)を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:磯貝明著、セルロースの材料科学、16〜18頁、財団法人東京大学出版会、2001年2月5日
乙第2号証:特開2017−160396号公報
乙第3号証:ISO 5351:2010(日本語版)、パルプ−銅エチレンジアミン(CED)溶液における極限粘度数測定方法、2010(平成22)年
乙第4号証:化学大辞典編集委員会編、化学大辞典8 縮刷版、864頁「マーセルか」、共立出版株式会社、1987年2月15日
乙第5号証:化学大辞典編集委員会編、化学大辞典3 縮刷版、789頁「さいせいセルロース」、共立出版株式会社、1987年2月15日
乙第6号証:日本薬局方解説書編集委員会編、第十三改正 日本薬局方 条文と注釈、108〜111、2252〜2259頁、廣川書店、平成8年4月15日発行
乙第7号証:測定結果報告書、平成29年12月20日、受注番号46302939、株式会社島津テクノリサーチ作成
乙第8号証:測定結果報告書、平成30年1月18日、受注番号46303635、株式会社島津テクノリサーチ作成
乙第9号証:セルロースの平均重合度の測定に関する見解書、2018年5月22日、九州大学大学院農学研究院 環境農学部門サスティナブル資源科学講座 巽大輔作成
乙第10号証:報告書、平成30年8月17日、旭化成株式会社 小木曽陽司作成
乙第11号証:特開2011−231152号公報
乙第12号証:NPミクロース 丸付きR(登録商標)規格、平成27年2月、日本製紙株式会社ケミカル事業本部 江津事業所技術環境室
乙第13号証:VIVAPUR 丸付きR(登録商標) 結晶セルロース CAS RN 9004−34−6 製品リスト 総代理店 リバソン株式会社
乙第14号証:Compendium of food additive specifications Addendum5, p71,72, Joint FAO/WHO Experet Committee on Food Additives 49th session, 1997年及びその抄訳
乙第15号証:特許・実用新案審査ハンドブック, 2203, 2204 (平成28年3月30日改訂版)
乙第16号証:プロダクト・バイ・プロセス・クレームの明確性に係る審査ハンドブック関連箇所の改訂の背景及び要点、平成28年3月30日、特許庁
乙第17号証:設楽隆一著、論説・解説 PBP最高裁判決と実務上の諸問題、Law and Technology, No.73, p36-46, 2016年10月
乙第18号証の1:本件特許の平成23年9月29日付け拒絶理由通知書
乙第18号証の2:本件特許の平成24年7月9日付け拒絶理由通知書
乙第18号証の3:本件特許の平成24年9月12日提出手続補正書
乙第19号証:山本英夫他著、トコトンやさしい粉の本、92〜93頁、日刊工業新聞社、2004年3月30日
(以上、平成30年9月21日付け答弁書に添付。)
乙第20号証:甲第16号証の抄訳(特に、914頁右欄5-13行、916頁左欄12-22行)
乙第21号証:有機化学ハンドブック、1230〜1231頁、株式会社技報堂、昭和43年7月10日
乙第22号証:甲5の訳文
乙第23号証:特表2018-517856号公報
乙第24号証:京都大学教育研究活動データベース、高野俊幸、京都大学 平成30年8月30日(最終更新日)
乙第25号証:平成26年度九州地方発明表彰 文部科学大臣発明奨励賞 高成形性結晶セルロース(特許第5110757号)、宮崎県発明協会、平成26年
(http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/shihatsu/H26/jusho_kyushu/detail/monbukagaku.html)
(以上、平成31年1月9日付け口頭審理陳述要領書に添付。)
乙第26号証:報告書、2019年3月20日、旭化成株式会社 セオラス技術開発部 山下満男作成(添付書類:測定結果報告書、平成30年9月3日、受注番号47201888、株式会社島津テクノリサーチ作成)
(以上、平成31年3月22日付け上申書に添付。)

5.証拠の記載事項
5−1.甲号証の記載事項
甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第9号証、甲第12号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証及び甲第16号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

甲第4号証
4A 「温和な条件(5.0N塩酸、5℃、18℃、40℃)及び過酷な条件(2.5N及び5.0N塩酸、沸騰)で加水分解を行い、セルロースの代表的なサンプル10種の重量減少と重合度における時間の影響の包括的な研究を行った。精製綿、漂白綿リンター、綿リンターパルプ、木材パルプ、テキスタイルレーヨン、タイヤヤーン、フォーティサン、ファイバーG、及び2つの実験レーヨンをサンプルとした。酸加水分解後に測定した(残渣の重量に基づく)結晶化度(%)とレベルオフ重合度は、加水分解の条件、すなわち、温和な条件、過酷な条件、あるいは温和な条件の後に引き続き行う過酷な条件、に依存することを示す。この文献に記載された器具と組み合わせた際の、重量減少又は相対結晶化度とレベルオフ重合度を測定するための最適過酷条件として、2.5N塩酸、105℃、15分の条件を推奨する。」(p502要約の左欄1行〜右欄5行)

4B 「重量減少及び重合度のデータに基づいて、温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件のそれぞれについて、結晶化を同時に伴うセルロース鎖の分割を説明するメカニズムを提唱する。」(p502要約右欄5〜9行)

4C 「重量減少と重合度のデータの組合せを用いて、加水分解を伴う結晶化のメカニズムが2つの相互依存プロセス−加水分解と結晶化−により制御されることを論証する。温和な加水分解条件は、1,4-グルコシド結合が比較的緩やかに分割する間に、より長く、酸溶解性が低い結晶性物質の形成を促進することを、データに基づいて提唱する。一方、過酷な加水分解条件は、極めて短く、より酸溶解性の結晶性物質の形成を促進する。」(p503左欄下から9行〜最下行)

4D 「5.0 N塩酸、5℃、18℃、及び40℃並びに沸騰の条件での加水分解時間による基本重合度の変化を、それぞれ、表Iにまとめ、各サンプル(綿リンターパルプ及びビスコースタイヤヤーン)を図2及び3にプロットした。これらのデータが示すように、基本重合度は加水分解温度が低いほど高い値でレベルオフする傾向にある。・・・

図2

」(p504右欄結果の1〜11行、図2)

4E 「レベルオフ重合度。天然セルロース(精製綿)及び再生セルロース(ビスコースタイヤヤーン)、それぞれに対する2.50 N塩酸、沸騰の加水分解条件の時間依存の重合度の変化を表IIに示し、図5にプロットする。
これに関連して、かなり長時間温和な条件で加水分解した後、またはかなり短時間過酷な条件で加水分解した後に到達する比較的一定の重合度を称するために、「限界重合度(limiting D.P.)」の代わりに「レベルオフ重合度(leveling-off degree of polymerization)」という用語を使用することを著者は好む。」(p505右欄レベルオフ重合度の1〜12行)

4F 「加水分解による結晶化度%。図4及び5から認識する特に重要なことは、(1)かなり一定の値に見える基本重合度にどの程度の速さで到達するのか、(2)天然構造が再生構造よりもはるかにレベルオフ値が高いこと、そして、(3)天然セルロース構造の加水分解時間に対する重量減少が再生セルロース構造の重量減少よりはるかに緩やかであること、である。これらのデータに基づいて、加水分解の重量減少−即ち、加水分解による残渣の結晶化度(%)−とレベルオフ重合度の両方を測定する最適条件として、2.50N塩酸、沸騰温度、15分の加水分解条件を基準とする。」(p505右欄加水分解による結晶化度%の1〜12行)

4G 「加水分解時の結晶化。温和な加水分解条件の重量減少と過酷な加水分解条件の重量減少を比較することにより、加水分解時の結晶化の仮説を支持する実験証拠が得られた。これらのデータを表IV及びVに一覧にする。
表IVのデータは、(1)温和な加水分解(5N塩酸、18℃)、(2)過酷な加水分解(2.50N 塩酸、105℃)、そして(3)温和な加水分解の後に引き続き行う過酷な加水分解(5N塩酸、18℃に続いて2.50 N 塩酸、105℃)に曝したレーヨングレードの木材パルプの重量損失と重合度のデータを示す。
上記のレーヨン木材パルプから得られたタイヤヤーンに対する、温和な加水分解のデータ、過酷な加水分解のデータ、そして温和な加水分解の後に引き続き行う過酷な加水分解のデータを対応させて表Vに示す。表Vから、比較的短時間温和な加水分解の後、タイヤヤーンには重量減少がほとんど或いは全くみられなかったことがわかる。重量のわずかな増加は、重量減少を測定する際の実験精度の要求では、重要ではないと考えられる。但し、1,4-グルコシド結合を分割する際に、セルロース分子に対して水分子が付加するので、加水分解がセルロース残渣の重量に対してごくわずかな寄与を有するかもしれないという可能性はある。
表VIは、10個の異なるテキスタイルヤーンに対する温和な事前加水分解処理(2.50 N塩酸、18℃、10日)が、これらのテキスタイルヤーンの加水分解による結晶化度(%)を顕著に増加するという効果を示している。
表IV、V、及びVIに示すデータは、セルロースの温和な加水分解は、ほとんど或いは全く重量減少を伴わない結晶化を誘導することを示しているようである。このことは、全てのケースで、基準とした過酷な加水分解処理を直接行った場合よりも、事前の温和な加水分解処理の後に引き続き行う基準とした過酷な加水分解処理に供した場合に、サンプルが実質的にほとんど重量を減少していないという事実で証明されている。但し、この効果は、天然セルロースよりも再生セルロースの場合ではるかに顕著であることが示されている。

表IV

」(p506左欄加水分解の結晶化の1行〜右欄7行、表IV)

4H 「セルロース微細構造の不均一相酸加水分解に対するメカニズム
温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件でのセルロース微細構造の加水分解に対し提唱されたメカニズムの模式図を図6に表す。
セルロース微細構造の酸分解のこの図は、この文献で記載した重合度と重量減少の全てのデータを説明可能である。
加水分解条件が比較的温和であるときは、図6のA部で図示したメカニズムが適用されると考えられる。この条件下では、アクセシブルなセルロース鎖のごくわずかな1,4-グルコシド結合が単位時間あたりに分割する。これにより、結晶成長が可能となり、そして、更なるセルロース鎖の分割が起こる前に、微細構造の非晶質領域のセルロース鎖のより長いセグメントが「結晶化」し得、次第にアクセシビリティに乏しい微細構造となる。
しかしながら、加水分解条件が過酷であるときは、図6のB部で図示したメカニズムがよりふさわしい。これらの条件では、1,4-グルコシド結合の分割がきわめて速く起こるので、極めて短いセグメントのセルロース鎖しか実質的には「結晶化」されない。言い換えると、過酷な加水分解により、比較的小さく、塩酸溶解性のより高いセルロース部分が形成される。過酷な加水分解で形成される、短鎖の結晶セルロース部分の溶解性は、1,4-グルコシド結合の遅い分割で得られるより長い「結晶」成分の溶解性よりかなり高いので、観測されたように、沸騰温度で加水分解した際の重量減少が大きくなると予想される。
さらに、図6のA部に図示されたメカニズムに従って加水分解された微細構造が、続いて図6のB部に提案したメカニズムを支持する過酷な加水分解条件に付されるなら、A部に図示したメカニズムだけに従った場合や、B部に図示したメカニズムに直接従った場合より、水和セルロース残渣の平均基本レベルオフ重合度と重量減少が低下すると予想し得る。過酷な加水分解単独(Part B)では、残渣の平均基本重合度を下げるよう作用するであろう極めて短鎖フラグメントが除かれ、過酷な加水分解単独の場合の重合度が高くなるはずであるし、一方、温和な加水分解条件の後に続いて過酷な加水分解条件を行う場合、結晶化された短いセルロース鎖の材料は残渣に保持され、平均基本重合度を下げる傾向にある。言い換えると、温和な加水分解後のサンプルの残渣の結晶粒子サイズの分布は、過酷な加水分解後の残渣の結晶粒子サイズの分布と異なり得る。

図6

」(p506右欄セルロース微細構造の不均一相酸加水分解に対するメカニズムの1行〜p507左欄10行、図6)

4I 「結論
加水分解の重量減少から、(1)加水分解の進行速度と、(2)加水分解と同時に起こるらしい結晶化及び結晶成長、の組合せに依存することが示される。長時間温和な加水分解条件を行うと、短時間過酷な加水分解条件を行う場合よりも重量減少がより少ないことが確認されるが、平均重合度はそれぞれの場合で同じレベルオフ値に近づく。さらに、無秩序で歪んだ(disorganized and strained)セルロース鎖における結晶化を支持する温和な加水分解処理が、引き続き行う過酷な加水分解処理における急激な重量減少を低減するのに有効であることがわかる。
この結果は、温和な条件では、1,4-グルコシド結合が比較的緩やかに分割する間、酸不溶性であり、さらに速やかな加水分解に耐性を有するセルロース長鎖セグメントの結晶成長と結晶化を支持するとみなすことにより説明される。一方、過酷な加水分解では、反応可能な1,4-グルコシド結合が速やかに分割される間、ごく短いセルロース鎖セグメントしか結晶化せず、結果、酸可溶性であり加水分解の間より速やかに除去される、結晶核(crystalline nuclei)となる。」(p507左欄結論の1行〜最終行)

甲第5号証
5A 「LODPは、2時間及び4時間の加水分解(各加水分解時間につき2つの試料)を行った後の固有粘度で決定される平均重合度で測定した。2g(乾燥重量)の試料を、100mlの4M塩酸中にて80℃で加水分解した。加水分解後、酸を全て除去するために室温において試料を脱イオン水で慎重に洗浄し、空気乾燥してからさらに分析を行った。2時間後及び4時間後に得られた試料のプールされた標準偏差は6.5であった。」(2.3.3.レベルオフ重合度)

甲第7号証
7A 「結晶セルロース
Mcrocrystalline Cellulose
本品は繊維性植物からパルプとして得られたα−セルロースを差で部分的に解重合し,精製したものである。
本品には,平均重合度,乾燥減量値及びかさ密度を範囲で表示する。」(p1239 1〜4行)

7B 「(3)本品約1.3gを精密に量り,125mLの三角フラスコに入れ,水25mL及び1mol/L銅エチレンジアミン試液25mLをそれぞれ正確に加える.直ちに窒素を通じ,密栓した後,振とう機を用いて振り混ぜながら溶かす.この液について25±0.1℃で粘度測定法第1法により,粘度計の概略の定数(K)が0.03の毛細管粘度計を用いて試験を行い,動粘度νを求める.別に水25mL及び1mol/L銅エチレンジアミン液25mLをそれぞれ正確に量り,その混液について同様の方法で,粘度計の概略の定数(K)が0.01の毛細管粘度計を用いて試験を行い、動粘度ν0を求める.
次式により本品の相対粘度ηrelを求める.
ηrel = ν/ν0
次の表により,この相対粘度ηrel から極限粘度[η](mL/g)と濃度C(g/100mL)の積[η]Cを求め,次式により平均重合度Pを計算するとき,Pは350以下であり,かつ表示範囲内である.

相対粘度ηrel から極限粘度と濃度の積[η]Cを求める表
(省略)

P = 95[η]C/乾燥物に換算した試料の量(g)」(結晶セルロースの確認試験(3))

甲第9号証
9A 「第2 原告が依頼した第三者機関の測定結果
1 被告製品1及び2の平均重合度(甲19の1、2)
原告は、株式会社島津テクノリサーチに対し、被告製品1及び被告製品2の平均重合度の測定を依頼したので、その測定結果を甲19の2として提出する。・・・、測定方法については、第十三改正日本薬局方・・・の結晶セルロースの確認試験の方法で実施するように指定しただけで、特段の注文は付けなかった。
測定結果、以下のとおりであった(原告による測定値も併せて掲記する。)。



」(p7 1〜9行、表)

甲第12号証
12A 「【請求項1】セルロース質物質を酸加水分解あるいはアルカリ酸化分解して得られる平均重合度100〜375の白色粉末状結晶セルロースであり、その酢酸保持率が280%以上で、かつ、下記(1)式の圧縮特性を有することを特徴とする高成形性賦形剤。
【数1】

」(特許請求の範囲 請求項1)

12B 「しかしながら、これらの中でより成形性の高いものは崩壊性も悪いという欠点を有する。結晶セルロースの成形性を改善するためには見掛け比容積を上げることが効果的であり、そのために従来は結晶セルロースを微粉砕したり(特開昭63−267731号公報):あるいはセルロース粉末粒子を多孔性にして粒子自身の密度を下げる工夫がなされてきた(特開平2−84401号公報)。特開昭63−267731号公報に記載の発明品は微粉であるために見掛け比容積が高いが、見掛けタッピング比容積は低いので圧縮により容易に圧密し、高い圧縮成形性を示すものの、錠剤の間隙(導水管)も減少してしまうので、崩壊性が著しく悪い。」(段落0007)

12C 「【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来の結晶セルロースあるいはセルロース粉末は、成形性が高ければ崩壊性が悪く、また、崩壊性が良い場合は成形性が低いという欠点を有しており、これらの性質のバランスがとれた賦形剤は知られていなかった。前述の通り、医薬品分野において使用される賦形剤は成形性が高く、かつ崩壊性が良いというものである必要がある。」(段落0009)

12D 「【課題を解決するための手段】本発明者はこうした現状に鑑み、結晶セルロースの粉体物性を制御し、成形性と崩壊性のバランスをとることを鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。・・・」(段落0010)

12E 「本発明でいう結晶セルロースとは、精製木材パルプ、竹パルプ、コットンリンター、ラミーなどのセルロース質物質を酸加水分解、あるいはアルカリ酸化分解して得られるものであって、平均重合度は100〜375、好ましくは180〜220の白色粉末状の物質である。この物質は特定の重合度を有するために、セルロース粉末の中でも特に高い成形性を有するものであるが、その平均重合度は100〜375の範囲である必要がある。平均重合度が100未満だと成形性が不足するので好ましくなく、また、375を超えると繊維性が現れるため、粉体としての流動性が低下するので好ましくない。平均重合度が180〜220の場合は特に成形性と崩壊性のバランスが良好なので好ましい。」(段落0016)

12F 「酢酸はセルロース粉末に吸収されるが非晶領域に存在する遊離水酸基の水素結合(これは一般に、角質化組織と呼ばれる)を解離するほど強い膨潤力を持たず〔R.HASEBE,K.MATSUMOTO,H.MAEDA,Sen’iGakkaishi,Vol.12,p203〜207(1955)〕、また、遠心力をかけて試料を圧密し粒子間隙の酢酸の保持量を制限していることから、結局、酢酸保持率とは粒子自身の多孔性とその強度を示すものである。本発明ではこの酢酸保持率が280%以上でなければならない。」(段落0018)

12G 「また、川北の式〔K.KAWAKITA,Y.TSUTSUMI,Bull.Chem.Soc.Japan,Vol.39,No.7,p1364〜1368(1966)〕とは粉体の加圧による体積の変化を表した実験式であり、加圧初期において体積の変化が大きい粉体に、特によく一致すると言われている。結晶セルロースも川北の式によく一致する粉体の一つである。川北の式は下記(1)式で表され、aとbは定数であり、Pは結晶セルロースに対する圧縮圧力[kgf/cm2]、V0 は結晶セルロースの見掛け比容積[cm3/g]、Vは圧縮圧力Pにおける結晶セルロース〔粉体あるいは錠剤〕の比容積[cm3/g]を表すものである。
【数3】 (省略)」(段落0019)

12H 「結晶セルロースの場合、定数aおよびbは大きいほど成形性が高い傾向があるが、本発明においては定数aは0.85〜0.90、好ましくは0.86〜0.89、定数bは0.05〜0.10、好ましくは0.06〜0.09の範囲内にあることが必要である。aおよび/あるいはbがこの値より低いと成形性が不充分である。また、aおよびbが範囲内であっても前述の酢酸保持力が280%未満であるか、あるいはaおよび/あるいはbがこの値より高いと加圧圧縮により錠剤の圧密が著しく進行するために、錠剤の崩壊性が悪化する。本発明の高成形性賦形剤は、酸やアルカリあるいは分解生成物がほとんど存在しない湿潤状態もしくは水分散状態のセルロース粒子を加熱処理し、乾燥させることによって製造することができるが、もし加熱処理を施さない場合は水分散状態のセルロース粒子を薄膜状態で乾燥することによって製造することができる。」(段落0020)

12I 「このようにして加熱処理を施した後、種々の方法で水分を蒸発し乾燥させる。乾燥方法は、ディスクタイプあるいは空気使用の二流体ノズルタイプのアトマイザーを用いる噴霧乾燥や棚段熱風乾燥など、通常の方法を用いることができる。この乾燥処理は一度冷却処理を施した後に行っても良いし、また、冷却することなく連続的に行っても良い。ここでいう「連続的」とは、水分の蒸発とセルロース粒子水分散体の昇温を同時に行う際に、水分の存在する状態で100℃以上に昇温した後に乾燥が終了することを含む。但し、このときの水分は気体状態であっても良い。」(段落0026)

12J 「次に、加熱処理を施さなくてもよい場合の製造方法について説明する。すなわち、本発明の高成形性賦形剤は、加熱処理を施さない場合は、水分散状態のセルロース粒子をガラス板やアルミ板などの支持体に薄く伸展した状態で乾燥することにより製造することができる。その場合は固形分濃度が23重量%以下、pHが5〜8.5、電気伝導度が300μS/cm以下の水分散状態であることが必要である。具体的な例としては、ガラス板やアルミ板にセルロース粒子の水分散体を薄く伸展し、室温乾燥あるいは通風乾燥するか、あるいはドラム乾燥機やベルト乾燥機を用いて乾燥する方法などが挙げられる。加熱処理を施した後に、薄膜状態で乾燥すると特に好ましい。薄膜状態で乾燥することにより成形性が高く、かつ、崩壊性に優れた結晶セルロースが得られる理由は明らかではないが、ガラス板のような支持体に接することで棒状のセルロース粒子が2次元的に配列し、かつ、乾燥収縮が制限される、つまり、角質化が抑えられるためと考えられる。」(段落0028)

12K 「結晶セルロース等の製造にドラム乾燥機の使用が可能なことは、例えば特公昭40−26274号公報に記載があるが、圧縮成形性が高く、かつ、崩壊性が良好な結晶セルロースを製造するために上記のような条件を選択しなければならないことについては何等記載がなく、従来知られていない技術であった。また、従来常用されていた噴霧乾燥法や熱風乾燥法などは、たとえ送風温度が100℃以上であっても、水の蒸発潜熱のために品温は100℃まで上がらぬうちに乾燥してしまうので「加熱処理」が施されておらず、また、薄膜状態も取り得ないので本発明の技術とは異なるものである。」(段落0029)

12L 「こうして得られた粉体は必要に応じて粉砕、篩分などを行い、粒度分布を調整して使用に供する。本発明の高成形性賦形剤は、篩分法によって粒度分布を測定する場合、実質的に355μmの目開きの篩にとどまる留分は無く、累積50重量%の粒度で表される平均粒径は30〜120μmであることが、特に40〜100μmであることが好ましい。」(段落0030)

12M 「さらに、本発明の高成形性賦形剤は見掛け比容積が4.0〜6.0cm3/g、好ましくは4.5〜5.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上、好ましくは1.5cm3/g以上の結晶セルロースであることが好ましい。見掛け比容積が4.0cm3/g未満であると成形性が低下し、6.0cm3/gを超えると粉体の流動性が低下するので好ましくない。見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g未満であると、錠剤が圧密化されて崩壊性が悪化するので好ましくない。見掛けタッピング比容積の上限は見掛け比容積の値より自動的に6.0cm3/gと決められるが、この値以下であれば特に支障ない。」(段落0032)

12N 「(実施例1)市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い、固形分濃度17%、pH6.4、電気伝導度120μS/cmのセルロース粒子水分散体を得た。これをドラム乾燥機(楠木機械製作所(株)製、KDD−1型、スチーム圧力3.5kgf/cm2、ドラム表面温度136℃、ドラム回転速度2rpm、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、試料Aを得た。試料Aの基礎物性を表1に示す。」(段落0051)

12O 「(実施例3)実施例1と同様にして得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い、固形分濃度18%、pH7.2、電気伝導度84μS/cmのセルロース粒子水分散体を得た。これを噴霧乾燥機(二流体ノズル使用、水分散体を噴霧化する流体にはスチームを使用、噴霧圧力4kgf/cm2、約150℃)にて乾燥したのち、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、試料Cを得た。試料Cの基礎物性を表1に示す。」(段落0053)

12P 「

」(段落0057)

12Q 「(比較例6)比較例1と同様にして得た酸不溶解残渣を濾過、洗浄、脱水し、水分50%のウェットケークを得た。これをイソプロピルアルコールに分散し、濾過、脱液、再分散を2回行い、さらに日本精機製作所(株)製ゴーリンホモジナイザー15M型にて、400kgf/cm2の処理圧で3回分散処理を行った。このスラリーにイソプロピルアルコールを加えて固形分濃度が10重量%になるように調整した後、窒素循環型のスプレードライヤーにて噴霧乾燥(送風温度150℃、排風温度83℃)を行い、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、特開平2−84401号公報記載の発明品に相当する試料Lを得た。試料Lの直径0.01μm以上の細孔の全容積(水銀ポロシメーターにて測定)は0.7cm3/gであった。試料Lのその他の基礎物性を表3に示す。」(段落0066)

甲第13号証
13A 「2.流動性
=.=.1安息角(Angle of Repose)
静止した粉体堆積層の自由表面が水平となす角度を安息角(θ)という。
安息角が小さいほど流動性がよい。
tanθ=h/r
・・・
<安息角に影響を及ぼす因子>
丸付き数字1 粒子径:粒子径が小さくなると安息角は増大する。
丸付き数字2 粒子の形状:球形になるほど安息角は低下する。
丸付き数字3 粉体の含水量:含水率が増大すると安息角は増大する。
丸付き数字4 湿度:高湿度下で吸湿性の粉体は安息角が増大する。
丸付き数字5 微粉末の混入:微粉末の混入により安息角は低下する。」(p167 2.流動性 1)安息角(Angle of Repose))

甲第14号証
14A 「さらに、結晶セルロース粒子の粒子形状と錠剤の破壊強度との関係についても精査した結果、粒子形状が棒状になるほど、すなわち、粒子の長径短径比が大きくなるほど錠剤の破壊強度が高くなることを見いだした。すなわち、錠剤の破壊強度の向上に寄与する粒子は棒状粒子であり、これらの粒子を多く存在させることにより錠剤の破壊強度が高まることが明らかになった。」(段落0013)

14B 「特開平6−316535号公報記載の発明品は、エアージェットシーブを使用し篩分したとき、75μm篩を通過し38μm篩上に残留する粒子の長径短径比の平均値は2.0未満である。本発明者が見いだした知見によれば、さらに錠剤の破壊強度を高めるためには粒子の長径短径比を増大させる必要がある。そのためには、特開平6−316535号公報記載の発明品を篩分し、例えば、エアージェットシーブ篩分により75μm篩を通過し38μmに残留する粒子を集める等により、粒子の長径短径比の平均を2.0以上にすることが可能となるのである。このようにして結晶セルロース粉体中の棒状粒子の割合を増加させ、粒子の長径短径比の平均値を2.0以上にすると、特開平6−316535号公報記載の発明品から造られる錠剤の錠剤硬度に比較して、驚くべきことに1割以上の硬度の向上が達成できることが判明した。」(段落0014)

甲第15号証
15A 「セルロース系素材は過酷な条件で解重合処理を行うと、グルコース程度にまで分解してしまう。しかし、緩和な条件で処理すると、重合度がレベリング・オフ、つまり、一定の重合度に落ち着き、処理時間を長くしても、それ以下に重合度が下がることがなくなる。特定の重合度を有するセルロースを製造しようとすれば、実用的には、この「レベリング・オフ」させるような解重合処理条件を選択することが好ましいが、一方、レベリング・オフ重合度は解重合処理に供するセルロース原料によって概ね決定されている。よって本発明で使用される比較的低重合度のセルロースを目的的に製造しようとすれば、多くの場合において、セルロース原料を低重合度化前処理しておく必要が生じる。」(段落0022)

甲第16号証
16A 「商業用の植物セルロース繊維中に存在するこれらの周期的な無秩序領域は、希酸加水分解に供する際に優先的に加水分解されやすく、これに対し、結晶領域は加水分解への耐性が高い。木材パルプ及び綿リンター/リントセルロースなどの植物セルロース繊維を希酸中、高温で加水分解すると、その重合度(DP)は短時間で200〜300のほぼ一定値にまで劇的に低下する。これらのDP値はレベルオフDP(LODP)としてよく知られている。」(p914右欄5〜13行)

5−2.乙号証の記載事項
乙第1号証、乙第2号証には、以下の記載がある。

乙第1号証
乙1A 「代表的なセルロース材料である綿セルロース,木材セルロースは,セルロース,ヘミセルロース,リグニンを三大成分とする植物組織から・・・製造されている.・・・セルロース分子の酸加水分解による分子量低下・・・セルロース試料を希酸中で加熱処理すると,セルロースは徐々に酸加水分解されて単糖となって希酸中に溶解していく.一方,酸加水分解処理で残存しているセルロースの重合度は酸加水分解初期に急激に200−300に低下し、その後は重量減少が続いても変化しない.この一定になる重合度をレベルオフ重合度といい,高等植物由来の綿セルロース,木材セルロース,麻のセルロース等では常に観察される現象である(図1.9).」(p16 7行〜p17 1行)

乙第2号証
乙2A 「第1の証拠としては、植物セルロースの重合度は約1,000〜3,000程度であり、これを、80℃以上の希酸中で加熱加水分解処理しても重量収率の低下はほとんどないが、30分間以内に重合度が200〜300に急激に低下し、その後何時間希酸中で加熱加水分解処理してもこの重合度は一定であるということである(非特許文献2及び3参照)。この一定の重合度が前記LODPである。」(段落0010)

6.当合議体の判断
当合議体は、本件訂正発明1,2及び6の特許は、無効理由1〜5によっては無効にすべきものであるとはいえない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

6−1.無効理由1について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人が主張する本件訂正発明1に係る無効理由1の論旨は、概略、以下の(ア)〜(ウ)のとおりのものである。
(ア)本件訂正発明1は、セルロース粉末について、「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とする」という要件(以下、平均重合度とレベルオフ重合度との差に関する規定を「差分要件」という場合がある。)で特定する。
(ア)−1 本件訂正発明1でいう「レベルオフ重合度」とは、セルロース粉末が上記差分要件を満たすものであるか否かを検証するために必要な性質であり、本件明細書の段落0015の記載によれば、「2.5N塩酸、沸騰温度、15分」の条件で加水分解した後、加水分解時間を延長してもその重合度が低下しない、粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいうものと理解される。
(ア)−2 しかし、本件特許出願時において、セルロースを加水分解した場合の重合度の低下は、温度、時間などの加水分解条件に左右されるとの技術常識が存在しているし(甲4)、また、「レベルオフ重合度」は、セルロース固有の物性を示す特別な数値とされているものではない。実際、甲4には、「2.5N塩酸、沸騰温度、15分」は、セルロースの重量減少とレベルオフ重合度を同時に測定して比較評価するのに適した条件として推奨された加水分解条件であることが記載されているにすぎず(要約)、「2.5N塩酸、沸騰温度、15分」の条件で加水分解した後にも、平均重合度が低下することも記載されている(表2)。
(ア)−3 以上のとおり、「2.5N塩酸、沸騰温度、15分」の条件で加水分解した後でも、加水分解は進行し続け、セルロースの重合度は低下するから、どのようにすれば本件訂正発明1における「レベルオフ重合度」を測定できるか不明である。
よって、発明の詳細な説明には、差分要件の測定方法について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(イ)本件訂正発明1は、セルロース粉末について、「平均重合度が150−450」であるという要件で特定する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例等における平均重合度の測定方法が 「第13改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法」(甲7)により行われたことが記載されている(段落0032)。ここで、上記「第13改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法」は、所定の相対粘度から極限粘度と濃度の積を求める表(以下、「第13改正局方換算表」という。)の表示範囲かつ平均重合度350以下の範囲でのみ妥当する測定方法であるため(甲7 p1239 8〜23行)、第13換算表の表示範囲を超える場合や平均重合度350を超える場合には用いることができない。
したがって、少なくとも350−450の値の測定条件について、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
よって、発明の詳細な説明には、当業者が平均重合度350超の数値範囲について本件訂正発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(ウ)本件訂正発明1は、セルロース粉末について、「安息角が54°以下」、「平均粒子径が20〜250μm」という要件で特定する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の他の構成要件を満たしつつ、かつ、上記した安息角及び平均粒子径に関する要件をも満たすセルロース粉末の具体例として実施例のものが記載されているが、実施例のもの以外には、他の構成要件とともに上記した安息角及び平均粒子径に関する要件をも満たす手がかりが何ら記載されていない。発明の詳細な説明には、結果として所望される安息角や平均粒子径の数値範囲に関する記載はあるものの(段落0018、0016)、いかにすれば他の構成要件とともに上記した安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御することができるのか、その制御方法については何ら記載されていない。
そのため、実施例のもの以外に、本件訂正発明1に包含されるものを当業者が理解できず、発明の実施に当たっては、無数の物を製造し、その数値を確認するという当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を求めるものである。
よって、発明の詳細な説明には、当業者が本件訂正発明1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由1によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
「レベルオフ重合度」が、本件出願当時、セルロースに関連してすでに用いられていた用語であることは、たとえば、本件出願前に頒布された刊行物である甲4、甲5、甲15、乙1、乙2等に当該用語が記載されていることから明らかである。しかし、セルロースに関する一般的な図書である乙1には、レベルオフ重合度の測定条件については特段の記載はないし、また、甲4の、レベルオフ重合度は、加水分解の条件に依存することを示すとの記載(4A)、加水分解温度が低いほど高い値でレベルオフする傾向にあるとの記載(4D)及び該記載を示すデータ(図2)によれば、レベルオフ重合度とは、なんらかの条件で加水分解された重合度であるとはいえるものの、ある特定条件下で加水分解されたもののみを意味するものでも、物質に固有の値であるといえるものでもないことが理解される。実際、レベルオフ重合度を測定するための最適過酷条件として、甲4では、2.5N塩酸、105℃、15分加水分解を推奨している(4A)のに対して、本件出願後に頒布された刊行物ではあるが、甲5では、4M塩酸、80℃、2時間又は4時間加水分解を行った後の固有粘度で決定される平均重合度をレベルオフ重合度としており、本件出願当時のみならず、現在に至るまで、レベルオフ重合度を測定するために特定の加水分解条件が存在するものではないと理解される。
そうすると、本件出願時に、レベルオフ重合度という用語が一義的に特定の条件下で測定及び/又は換算によって導き出される重合度を意味するとの技術常識が存在していたと認めることはできない。
そこで、本件明細書の記載をみると、本件訂正発明のレベルオフ重合度について、「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸、沸騰温度、15分の条件で加水分解した後、粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。」(段落0015)と記載されている。そして、該記載は、本件訂正発明のレベルオフ重合度について定義するものといえるから、特許請求の範囲の各請求項に係る発明におけるレベルオフ重合度という用語は上記した本件明細書記載の意味で使用されていると解するのが相当である。
請求人は、上記記載につづいて、「セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると、酸が浸透しうる結晶以外の領域、いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため、レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950))、その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸、沸騰温度、15分の条件で加水分解した時、重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき、重合度の低下が起きれば、レベルオフ重合度でないと判断できる。」との記載が本件明細書にあることを根拠として、本件訂正発明のレベルオフ重合度とは、加水分解時間を15分を超えて延長しても低下しない重合度をいうものと主張する。しかし、上記段落には、15分の加水分解の後さらに加水分解を続けて行った何れかの時点の重合度をレベルオフ重合度という、旨の記載はない。そして、上記記載のうち、「セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると、酸が浸透しうる結晶以外の領域、いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため、レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502−507(1950))、その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。」との記載は、甲4の記載について言及したものであって、本件訂正発明1についての記載ではない。また、「従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸、沸騰温度、15分の条件で加水分解した時、重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき、重合度の低下が起きれば、レベルオフ重合度でないと判断できる。」との記載は、「・・・の条件で加水分解した時、」と加水分解時間を限定記載しているから、15分を超えて加水分解を続けた場合について重合度が変化しないことをいうものと解釈する余地はない。
そして、レベルオフ重合度に関する甲4(4E)、甲15(15A)、乙1(乙1A)及び乙2(乙2A)の記載、並びにレベリング・オフが「横ばい」を意味することを併せ考慮すると、レベルオフ重合度とは、セルロースを酸加水分解して到達する比較的一定の重合度を表現する用語として一般に理解されているものと認められる。これら本件出願時の技術常識に照らせば、上記した本件明細書の記載は、2.5N塩酸、沸騰温度、15分との条件を採用した場合にあっても、レベルオフ重合度は比較的一定の重合度であるとの本件出願当時の技術常識が妥当することに言及したにすぎないと解するのが相当である。
以上のとおり、レベルオフ重合度は、本件明細書の段落0015に記載されるとおり、2.5N塩酸、沸騰温度、15分の条件で加水分解した後、粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいうのであり、上記条件で加水分解したセルロースの重合度を測定すれば、セルロースのレベルオフ重合度の値は一義的に定まる。
したがって、加水分解を15分より延長したときに重合度が変化しなくなる重合度をどのように測定できるのか不明であるから差分要件について当業者が実施できるように記載されていない、との請求人の主張は理由がない。

(イ)について
請求人は、「第13改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法」は、第13換算表の表示範囲を超える場合や平均重合度350を超える場合には用いることができない、と主張し、その根拠として、「第13改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)」に関する甲7の記載、並びに平均重合度350を超えるセルロース粉末については平均重合度の測定を依頼した場合に分析不能とか計算不能、との結果が報告されたことや(甲20、21、22、23)、セルロース分野の専門家も、試料濃度を変更すると「第十三改正日本薬局方結晶セルロースの確認試験(3)」としては不適切である」とか、測定条件を変更した時点で「第十三改正日本薬局方結晶セルロースの確認試験(3)に記載されたとは異なるものとなる」と意見を述べていることを挙げている(甲24、25)。

請求人の上記主張は、本件訂正発明1における平均重合度が第十三改正日本薬局方結晶セルロースの確認試験(3)に記載された方法そのもの、すなわち、上記確認試験(3)に記載された方法になんらの変更も加えることなく測定することを前提とするものである。しかし、本件明細書の段落0032の 1)平均重合度の項には、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値」と記載されているのであり、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された方法により測定した値」との記載はないから、請求人の上記主張はその前提を欠くものである。

また、上記主張の根拠とされる甲7には、「次式により平均重合度Pを計算するとき、Pは350以下であり,かつ表示範囲内である.」との記載がある(7B)。上記記載は、「日本薬局方の性格は、医療上重要と一般的に認められている医薬品の性状及び品質等についての基準を定めたものであるとされた」(第十三改正日本薬局方 まえがき)ことに照らせば、「第13改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された」とおりの手順に従い確認試験(3)を行った場合に、日本薬局方に収載されている医薬品である「結晶セルロース」に該当するというために結晶セルロースが備えるべき品質について規定したものと認めるのが相当である。そうすると、第十三改正日本薬局方、結晶セルロースに該当するというためには、上記確認試験(3)に記載された方法になんらの変更も加えることなくその平均重合度を算出できるものでなければならないとか、平均重合度が350以下でなければならない、といえるとしても、あらゆるセルロースの重合度の測定において重合度の測定限界が350であることまでいうものとは認められない。

一方、本件訂正発明1に係るセルロース粉末は、第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの規制の適用を受けるべきものではないし、その平均重合度は、本件明細書の記載によれば、上記のとおり、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値」である。
ところで、銅エチレンジアミン溶液粘度法によるセルロースの平均重合度の測定には、上記第十三改正日本薬局方に記載されているもののほか、ISO規格やJIS規格において採用されている方法が存在する(乙3、https://kikakurui.com/p/P8215-1998-02.html)。銅エチレンジアミン溶液粘度法において、試料の極限粘度数の値が未知である場合には、まず、各方法において定められている特定の濃度で試料の極限粘度数を測定するが、測定値が極限粘度数と濃度の関係を表す特定の表の範囲から外れた場合には、得られた極限粘度数の値に対応する濃度で再び測定することが行われている(必要なら、乙3の9.1、https://kikakurui.com/p/P8215-1998-02.htmlの6.3.1.2)。このことは、対象試料の測定した粘度が所定の換算表の範囲外となったが、該換算表を用いて平均重合度を算出する必要があるという場合には、測定条件を明示の上、所定の換算表を使用して平均重合度の算出を試みることになる、との甲25における専門家の意見とも一致する。そうすると、銅エチレンジアミン溶液粘度法によるセルロースの平均重合度の測定において、所定の換算表を使用して平均重合度を算出する場合に、対象試料の測定粘度が所定の換算表の範囲内となるように対象試料の濃度を調整することは、本件出願当時における技術常識であったと認められる。そして、平成31年1月31日付けの審理事項通知書の3(2)審判合議体からの、350を超えるセルロース粉末の平均重合度の測定条件についての照会事項に対する、口頭審理陳述要領書p5(実施例6等の測定方法)において、「上述した測定方法における試料濃度では、換算表の範囲外となったため、上記1)の粉体試料を0.25gに変更し」た旨の被請求人の回答も上記技術常識に沿ったものである。
加えて、乙10に挙げられている特許出願明細書のセルロース重合度測定法に関する記載によれば、本件出願当時、重合度が350を超えるセルロースについて、第十三改正日本薬局方結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミンを用いた粘度測定法によりその重合度を求めることが広く一般に行われていたと認められる。
しかし、上記したISO規格、JIS規格又は第十三改正日本薬局方において採用されている測定方法で使用される器具や測定条件、相対粘度から極限粘度と濃度の積を求める換算表の値には異なる点があり、これらの相違点が測定結果に影響する因子であるといえる。よって、単に銅エチレンジアミン溶液粘度法というのみでは測定方法が一義的に定まるとはいえない。

以上によれば、本件明細書記載の「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定」には、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)」に記載された方法になんらの変更も加えることなく測定した場合に限られるものではなく、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)」において採用されている測定方法に銅エチレンジアミン溶液粘度法における技術常識である試料濃度の変更を行い測定した場合も包含されているものと認める。そして、本件訂正発明1に係るセルロース粉末は、第十三改正日本薬局方に収載された結晶セルロースではないから、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)」に、所定の式から計算された重合度が350以下であり、かつ表示範囲内である、との記載があるとしても、本件訂正発明1のセルロース粉末の重合度の測定において、これを制限するものに当たらないことは上記説示のとおりである。
したがって、第13改正局方換算表の表示範囲を超える場合や平均重合度350を超える場合についても、本件訂正発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

甲20〜23の7は、検体を第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された方法による平均重合度の測定の依頼に対する試験/実験成績書であって、同甲号証にはいずれも相対粘度値が、同確認試験(3)に記載された換算表、すなわち、極限粘度と濃度の積[η]Cを求める表の範囲外となったため分析不能としたことが記載されている。また、甲24、25は、専門家の意見書であって、同号証には、「第十三改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された」試料濃度等の測定条件を変更したものは、もはや「第十三改正日本薬局方結晶セルロースの確認試験(3)」に記載された試験とはいえない、との専門家の意見が記載されているものと認める。
上記甲各号証の記載は、「第十三改正日本薬局方」に収載された結晶セルロースとして備えるべき特性を有するか否か、すなわち同薬局方収載品としての適不適を判断する上では妥当するといえるとしても、そのような判断に用いることを目的とするものではない本件訂正発明1のセルロース粉末について、同確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法が350を超える重合度のセルロースを測定できないことをいうものではないので、上記判断を左右しない。

よって、発明の詳細な説明は,当業者が平均重合度350超の数値範囲について本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、いわゆる実施可能要件の規定に違反して特許されたものではない。

(ウ)について
本件明細書には、本発明は、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的とすること(段落0012)、平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が55°以下であるセルロース粉末が、成形性、流動性、崩壊性の諸性質のバランスに優れること(段落0013)が記載されている。
本件明細書には、上記に加え、本発明のセルロース粉末の製造方法は、i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、a)平均重合度が150−450、かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、を含む必要があること(段落0021)が記載されている。ここで、本発明のセルロース粉末とは、上記のとおり、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を意味するものと理解されるから、結局、上記製造方法は、上記セルロース粉末を製造するための方法であると認められる。
そして、本件明細書には、成形性に加えて流動性、崩壊性の良好なものを得るためには、乾燥前に粒子のL/Dを特定範囲に制御しておき、品温が100℃未満で噴霧乾燥することによって初めて達成されることや乾燥前の粒子のL/Dを特定範囲に制御するためには、平均重合度がレベルオフ重合度とならない条件で加水分解することが好ましいこと(段落0024)が記載されている。平均重合度に関しては、レベルオフ重合度から5〜300程度高めておくことが好ましいことや(段落0016)、平均重合度が150−450のセルロース分散液を得るためには、例えば20−60℃、0.1−4Nの塩酸水溶液中の温和な条件下で加水分解すること(段落0021)が記載されている。また、セルロース分散液の粒子は乾燥により凝集し、L/Dが小さくなるので、乾燥前の粒子の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセルロース粉末が得られること、乾燥前の粒子の平均L/Dを一定範囲に保つには、加水分解反応中又はその後の工程における溶液攪拌力を特定の強さに制御することにより達成できること(段落0021)が記載されており、反応中又はその後工程における攪拌力の大きさは、P/V(kg・m−1・sec−3)値を参考にして制御すること(段落0022)も記載されている。
これら本件明細書の記載によれば、段落0021に、本発明のセルロース粉末の製造方法として記載されている、i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、a)平均重合度が150−450、かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、を含むセルロース粉末の製造方法は、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末である平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が55°以下であるセルロース粉末を製造する方法であると当業者は理解するといえる。
そして、上記セルロース粉末は、安息角が55°以下、かつ、平均粒子径が20−250μmであり、安息角が54°以下、かつ、平均粒子径が20−250μmである場合を包含するから、上記製造方法に従えば、安息角が54°以下、かつ、平均粒子径が20−250μmであるセルロース粉末を製造できることを当業者は理解するといえる。実際、表1には、安息角が54°以下、かつ、平均粒子径が20−250μmとの要件を満足するセルロース粉末(実施例2〜7)を製造できたことが記載されている。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人が主張する本件訂正発明2に係る無効理由1の論旨は、概略、以下の(ア)〜(ウ)のとおりのものである。
(ア)本件訂正発明2の差分要件は、書き下すと以下のとおりである。
「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より10〜300高いことを特徴とする」
そして、発明の詳細な説明に、差分要件の測定方法について当業者が実施できる程度に記載されていないことは前記(1)ア(ア)に記載のとおりであり、本件訂正発明1の差分要件の数値範囲5〜300を10〜300に限定したものである本件訂正発明2についても上記本件訂正発明1についてと同様、発明の詳細な説明には、差分要件の測定方法について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(イ)本件訂正発明2は、セルロース粉末について、「平均重合度が230−450」であるという要件で特定する。
そして、発明の詳細な説明に、少なくとも平均重合度350−450の値の測定条件について当業者が実施できる程度に記載されていないことは前記(1)ア(イ)に記載のとおりであり、本件訂正発明1の平均重合度が150−450を230−450に限定したものである本件訂正発明2についても上記本件訂正発明1についてと同様、発明の詳細な説明に、少なくとも350−450の値の測定条件について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(ウ)本件訂正発明2は、セルロース粉末について、「安息角が54°以下」、「平均粒子径が20〜250μm」という要件で特定する。
そして、発明の詳細な説明に、安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御する方法について当業者が実施できる程度に記載されていないことは前記(1)ア(ウ)に記載のとおりであるから、上記要件を発明特定事項とする本件訂正発明2についても上記本件訂正発明1についてと同様、発明の詳細な説明には、上記要件を達成する方法について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ しかしながら、当合議体は、本件訂正発明2の特許を無効理由1によって無効にすることはできないと判断する。
本件訂正発明2は本件訂正発明1の発明特定事項である、平均重合度の数値範囲、及び差分要件の数値範囲をさらに限定したものであり、本件訂正発明2の上記数値範囲はいずれも本件訂正発明1の範囲内のものであるから、上記ア(ア)、(イ)については、前記(1)イ(ア)、(イ)で説示したのと同様に判断される。また、上記ア(ウ)については、本件訂正発明2は本件訂正発明1の発明特定事項と同じであるから、前記(1)イ(ウ)について、で説示のとおり判断される。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

(3)本件訂正発明6について
ア 請求人が主張する本件訂正発明6に係る無効理由1の論旨は、概略、前記(1)ア(ア)、(イ)と同様のものである。
(ア)訂正後の請求項6の差分要件、平均重合度は、本件訂正発明1と同じである。
そして、発明の詳細な説明に、差分要件の測定方法、平均重合度の測定条件について当業者が実施できる程度に記載されていないことは前記(1)ア(ア),(イ)に記載のとおりであるから、上記要件を発明特定事項とする本件訂正発明6についても上記本件訂正発明1についてと同様、発明の詳細な説明には、上記要件を達成する方法について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ しかしながら、当合議体は、本件訂正発明6の特許を無効理由1によって無効にすることはできないと判断する。
本件訂正発明6に係るセルロース粉末の差分要件、平均重合度は本件訂正発明1のそれと同じである。そして、本件訂正発明1の差分要件の測定方法、及び350を超える平均重合度の測定方法が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められることは、前記(1)イ(ア)、(イ)で説示のとおりである。
そうすると、上記ア(ア)については、前記(1)イ(ア)、(イ)で説示したのと同様に判断される。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

6−2.無効理由2について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人が主張する本件訂正発明1に係る無効理由2の論旨は、概略、以下の(ア)〜(ウ)のとおりのものである。
(ア)本件特許発明1は、前記6−1(1)ア(ア)で説示のとおり、セルロース粉末について、差分要件で特定し、その数値範囲は5〜300である。
(ア)−1 本件明細書の段落0012の記載によれば、本件訂正発明1の課題は、「成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末」を提供することであり、段落0015、0016等の記載によれば、差分要件は、本件訂正発明1の課題に密接に関連する要件である。
(ア)−2 しかし、発明の詳細な説明には、天然セルロース質物質のレベルオフ重合度の記載はあるが、粉末セルロースのレベルオフ重合度は記載されていない。
そして、レベルオフ重合度は、(i)4N塩酸による長時間の加水分解等の一定の処理により低下すること(甲4)、(ii)乾燥により低下すること(甲5、16、31)、(iii)セルロース粉末のレベルオフ重合度が天然セルロース質物質のレベルオフ重合度より低くなるという事実が存在すること(甲6)から、セルロース粉末のレベルオフ重合度が天然セルロース質物質のレベルオフ重合度と同一であるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明には、差分要件の算定に必要であるセルロース粉末のレベルオフ重合度が記載されているとは認められない。
そうすると、差分要件を発明特定事項とする本件訂正発明1が発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
(ア)−3 また、実施例において平均重合度を測定する方法として記載された「第13改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法」(甲7)においては粘度測定において5以上の算定誤差が生じるし、粘度法による重合度測定により得られた数値は必ずしも正確とはいえないものであるから、差分要件の下限値である5未満は算定誤差に埋没するものである。
(ア)−4 差分要件に関連して、本件明細書の段落0015、0016に説明があるが、なぜ差分要件がセルロース粉末の粒子L/Dと関係するのかについて何らの説明もなく、差分要件と所望の効果との関係の技術的意味が当業者が理解できる程度に記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された実施例はいずれも天然セルロース質物質のレベルオフ重合度が220のものであって、所望の効果が得られると認識できる程度の具体例の開示もされていないから、差分要件により特定される本件訂正発明1は、その課題が解決できることを当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
(ア)−5 そして、甲18の記載によれば、本件訂正発明1は、従来技術の各種セルロースよりも成形性と流動性と崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つものではないことが理解されるから、前記(ア)−1記載の当該発明の課題を解決できておらず、当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものではない。

(イ)本件訂正発明1は、前記6−1(1)ア(イ)で説示のとおり、セルロース粉末について、「平均重合度が150−450である」という要件で特定する。
そして、前記6−1(1)ア(イ)で説示のとおり、平均重合度350超の数値範囲の測定条件は発明の詳細な説明に記載されていないから、本件訂正発明1の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定にも違反する。
(ウ)本件訂正発明1は、前記6−1(1)ア(ウ)で説示のとおり、セルロース粉末について、「安息角が54°以下」、「平均粒子径が20〜250μm」という要件で特定する。
そして、前記6−1(1)ア(ウ)で説示のとおり、発明の詳細な説明には、結果として所望される安息角や平均粒子径の数値範囲に関する記載はあるものの(段落0018、0016)、いかにすれば他の構成要件とともに上記した安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御することができるのか、その制御方法については何ら記載されていないから、本件訂正発明1の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定にも違反する。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由2によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
請求人の主張はつまるところ、本件明細書には、本件訂正発明1の課題に密接に関連する差分要件の算定に必要なセルロース粉末のレベルオフ重合度について、具体的に記載はないし、技術常識を参酌しても開示されているとはいえないこと、及び差分要件の下限値や差分要件と所望の効果との関係に技術的意味がないことに基づくものである。

そこで、まず、本件訂正発明1の課題について検討する。
本件明細書には、セルロース粉末に関する従来の技術並びに同明細書に記載される、本件訂正発明の目的、解決すべき課題及び課題を解決するための手段に関連して、以下の記載がある。

「医薬品の錠剤化は生産性が高いということのほか、輸送や使用時に取扱い易いという利点がある。そのため圧縮成形用賦形剤には、輸送や使用に際して錠剤が磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性が必要である。また医薬品用途における錠剤は、薬効の正確な発現のために1錠中の医薬品含量が均一であることが求められ、医薬品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体を打錠して錠剤化する際には、該粉体が打錠機の臼に均一量充填される必要がある。そのため圧縮成形用賦形剤は成形性に加えて十分な流動性が必要となる。さらに医薬品錠剤はこれらの性質に加えて、服用後の速やかな薬効発現のために崩壊時間が短くなければならない。崩壊が速いほど、医薬品はそれだけ速く消化管液に溶解しやすいため、血中への移行が速くなり薬効を発現しやすくなる。そのため圧縮成形用賦形剤は、成形性、流動性に加え、速やかな崩壊性を備えている必要がある。
多くの活性成分原料は圧縮しても成形ができないために、圧縮成形用賦形剤を配合して錠剤化される。一般に、錠剤中の圧縮成形用賦形剤の配合量が多いほど錠剤硬度は高くなり、また、圧縮応力が高いほど錠剤強度は高くなる。安全性や上記観点より、圧縮成形用賦形剤としては結晶セルロースがよく使用される。」(段落0003)

「ところが、例えば医薬分野において成形性の乏しい活性成分等を錠剤化する場合には、実用的な錠剤硬度を得るために過剰の圧縮応力をかけざるを得ず、打錠機に負担をかけるため臼杵の消耗を早め、また得られた錠剤の崩壊時間が遅延するという問題があった。薬物等の活性成分の配合量が多い場合、漢方薬等の比容積の大きな原末を配合した場合、錠剤の飲み易さを改善するために小型化する場合等では、賦形剤の配合量が著しく制限されるため、所望の錠剤硬度を得られず輸送中の磨損や破壊といった問題が生じる。また、さらには打圧感受性の活性成分、例えば酵素、抗生物質等では打圧による発熱や圧力によって活性成分が失活するため、実用硬度を得ようとすると含量が低下して錠剤化できない等の問題がある。上記の問題解決のためには、十分な流動性や崩壊性を備え、かつ少量添加でも十分な錠剤硬度を付与できる、あるいは低打圧でも十分な錠剤硬度を付与できる等の従来よりも優れた成形性を有する圧縮成形用賦形剤が必要となる。
従って医薬用賦形剤として使用されるセルロース粉末の機能としては圧縮成形性、崩壊性、流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいのであるが、圧縮成形性と他の崩壊性、流動性とは相反する性質であるため、成形性が高いにもかかわらず崩壊性、流動性にも優れるセルロース粉末は知られていなかった。」(段落0004)

「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的とする。また、このセルロース粉末を含有することで、特に高打圧下で成形した場合に高硬度であり、かつ崩壊遅延を助長しない錠剤や、圧縮成形したときに顆粒の破壊、顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ない顆粒含有錠剤、さらには薬物含有量が多い場合においても錠剤重量にばらつきを生じることなく、硬度崩壊のバランスのとれた錠剤を提供することを目的とする。」(段落0012)

「【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述した現状に鑑み鋭意検討した結果、セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御することに成功し、成形性、流動性、崩壊性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し、本発明を達成したものである。即ち本発明は、下記の通りである。(1)平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が55°以下であるセルロース粉末、
(2)平均重合度が230−450である(1)のセルロース粉末、
(3)平均重合度がレベルオフ重合度ではない(1)又は(2)のセルロース粉末、
(4)安息角が54°以下である(1)〜(3)のいずれかのセルロース粉末、
・・・」(段落0013)

「(8)i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、a)平均重合度が150−450、かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、を含むセルロース粉末の製造方法、
(9)平均重合度が230−450である(8)のセルロース粉末の製造方法、
(10)平均重合度がレベルオフ重合度ではない(8)又は(9)のセルロース粉末の製造方法、
(11)乾燥工程が品温が100℃未満の条件下で噴霧乾燥する工程である(8)〜(10)のいずれかのセルロース粉末の製造方法、
(12)(8)〜(11)のいずれかの製造方法により得られ得るセルロース粉末、・・・」(段落0014)

「 レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めておく必要があるかということについては、5〜300程度であることが好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。・・・」(段落0016)

上記の記載によれば、本件出願当時、医薬用賦形剤として使用されるセルロース粉末の機能としては圧縮成形性、崩壊性、流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいが、圧縮成形性と崩壊性、流動性とは相反する性質であるため、上記三つの性質全てに優れるセルロース粉末は知られていなかったところ(段落0003、0004)、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供することを目的として(段落0012)検討した結果、セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御することに成功し、成形性、流動性、崩壊性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し、本発明を達成したものであることが理解できる(段落0013)。
したがって、本件明細書に記載された発明の課題は、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供すること、又は成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を製造する方法を提供することであると認める。そして、セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御することに成功し本発明を達成したとの記載(段落0013)や、該記載に続くセルロース粉末の粉体特性やセルロース粉末の製造方法における工程の特定(段落0014)が、請求項1、2又は6において規定される粉体特性や製造方法における工程と同じであること、また、セルロース粉末の粉体物性を特定範囲に制御した場合や、製造方法を制御した場合であっても、上記課題が変わるものでもないから、本件訂正発明1、2又は6の課題もまた、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供すること、又は成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を製造する方法を提供することであると認める。

本件明細書には、セルロース粉末の製造原料である天然セルロース質物質のレベルオフ重合度について記載はあるが、実施例として製造されたセルロース粉末のレベルオフ重合度は記載されていない。
ところで、甲4の記載によれば(4H)、穏和な加水分解の後、過酷な条件で加水分解を行った場合には、穏和な加水分解を経ることなく過酷な条件下で加水分解を行った場合に比べて、そのレベルオフ重合度は通常低下すると理解されるから、セルロース粉末のレベルオフ重合度が天然セルロース質物質のレベルオフ重合度と同じであると直ちにいえるものでもない。
被請求人は、乙26を提出の上、原料パルプのレベルオフ重合度とセルロース粉末のレベルオフ重合度とは同じであると主張する。乙26には、検体丸付き数字2のセルロース粉末について、「実施例2と同じ加水分解条件で加水分解し、乾燥して得たセルロース粉末である」(p2)と記載されているが、その調製工程をみると、攪拌条件や乾燥条件についての具体的な記載はなく(p7)、前記した攪拌、乾燥両条件が実施例2において採用したものと同じであることを確認できない。そして、本件明細書の記載によれば、加水分解反応中又はその後の工程における攪拌及び乾燥の条件は、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末の製造に影響を与える因子であると記載されている(段落0021〜0025)ことを考慮すれば、これら条件を満足しているか否かが不明な条件下において製造されたセルロース粉末は実施例2の再現であるといえないばかりか、本件訂正発明1のセルロース粉末であるか否かさえ不明である。よって、乙26の記載に基づく被請求人の上記主張を認めることはできない。
一方、本件明細書には、たとえば、20−60℃、0.1−4Nの塩酸水溶液中の温和な条件下で加水分解することにより平均重合度が150−450のセルロース分散液を得ることができるとの記載がある(段落0021)。本件訂正発明1のセルロース粉末は、天然セルロース質物質の穏和な加水分解によって得られるものであり、そのようにして製造されたセルロース粉末を塩酸2.5N、15分煮沸、という過酷な条件で加水分解して得られたレベルオフ重合度は、上記甲4の記載からの理解に照らすと、天然セルロース質物質を塩酸2.5N、15分煮沸、という過酷な条件で加水分解して得られたレベルオフ重合度に比べて、低くなると推定される。
以上のとおりであるから、本件明細書には、本件訂正発明1のセルロース粉末のレベルオフ重合度がいかなる値であるかについて、本件出願当時の技術常識を参酌しても記載されているということはできない。

そこで、本件明細書に実施例として記載されているセルロース粉末が差分要件を満足するといえるか否かについてさらに検討する。
天然セルロース質物質の加水分解によって得られる、本件明細書の実施例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は、少なくとも、その製造原料である天然セルロース質物質のレベルオフ重合度より低いと認められることは上記説示のとおりである。
本件明細書に記載されている実施例の天然セルロース質物質のレベルオフ重合度はいずれも220であり、セルロース粉末のレベルオフ重合度は上記説示のとおり天然セルロース質物質のレベルオフ重合度より低いといえるから、実施例2〜7の差分要件は、順に、50、50、50、110、155、220より大きい値であると推定される。そして、レベルオフ重合度の理論的な最小値は1であるから、実施例2〜4のセルロース粉末の差分要件は、50〜269(=270−1)の範囲のいずれかの値となり、本件訂正発明1の差分要件5〜300を満足するものであるといえる。
また、甲4には、木材パルプ(重合度1030)を過酷な条件で加水分解(2.5N塩酸、沸騰温度、15分)したときの重合度が290であったのに対し、同木材パルプを穏和な条件で加水分解(5N塩酸、18℃)したのち、上記過酷な条件で加水分解したときの重合度は、その理論的な最小値ではなく、より大きな188、198他であったことが記載されている(4G)。上記過酷な条件下での加水分解は、本件訂正発明1においてレベルオフ重合度を測定したときの条件と同じであるから、前者はセルロース質物質のレベルオフ重合度に、後者はセルロース粉末のレベルオフ重合度に相当するものということができる。よって、甲4の上記記載によれば、セルロース粉末のレベルオフ重合度は、実際には、理論的な最小値をとらず、たとえば、セルロース質物質のレベルオフ重合度から100前後低い値(102(=290−188)〜92(290−198))を示す場合があることもまた本件出願時に知られるところといえる。そして、これら知見に照らすならば、本件明細書の実施例5、6のセルロース粉末は、差分要件の上限値として、順に、略、210(=110+100)、255(155+100)の値を取りうると算出されるから、上記実施例2〜4に加えて、実施例5、6のセルロース粉末についても同様に本件訂正発明1の差分要件の規定を満足するものである蓋然性が高いといえる。
以上のとおり、少なくとも、実施例2〜4は本件訂正発明1の差分要件を満足するといえるのであるから、たとえ、セルロース粉末のレベルオフ重合度が記載されていないとしても、そのことをもって直ちに、本件訂正発明1が発明の詳細な説明に記載されていないといえるものではない。
そして、上記実施例として記載されるセルロース粉末はいずれも、上記差分要件以外の発明特定事項である、平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が54°以下、との規定を満足するものである。

ところで、本件明細書の「成形性を示す実用的な物性値は成型体の硬度であり、この値が大きいほど圧縮成形性に優れる。また、崩壊性を示す実用的な物性値は成型体の崩壊時間であり、この時間が短いほど崩壊性がよい。一般に硬度が高いほど崩壊性が悪化すること、医薬品等の活性成分は成形性の乏しいものが多く、高打圧で圧縮せざるを得ないことを考慮すると、高打圧で圧縮した成型体の錠剤硬度と崩壊時間のバランスが実用的に重要である。」(段落0019)との記載や、「本発明のセルロース粉末は安息角が55°以下である必要がある。セルロース粉末では安息角が55°を超えると、流動性が著しく悪くなる。特に流動性の乏しい活性成分を多量に加えて錠剤化する際には、圧縮成形用賦形剤の流動性が悪いと錠剤の重量変動が大きくなって実用に供さない。好ましくは54°以下、さらに好ましくは53°以下である。」(段落0018)との記載によれば、本件明細書においては、成形性、崩壊性、流動性は、各々、圧縮成形体の硬度、崩壊時間、安息角もしくは重量変動によって示されるものと理解され、また、本発明のセルロース粉末0.5gを20MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径1.13cmの円柱状成型体は直径方向の破壊荷重が170N以上であることが、また、その崩壊時間(37℃純水溶液、ディスクあり)は130秒以下であることが好ましく(段落0019)、安息角は好ましくは54°以下である(段落0018)と理解される。
そして、上記したとおり、本件訂正発明1の差分要件を満たしているないし満たしている蓋然性が高い、本件明細書の実施例2〜6記載のセルロース粉末の安息角、成型体の硬度及び崩壊時間はいずれも、好ましいとして本件明細書に記載されている範囲内のものである。本件明細書において、流動性、成形性、崩壊性という諸機能を示すとされる上記物性について好ましいとされている値を満足するセルロース粉末は、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるといえる。
これに対して、乾燥前粒子L/Dが請求項1に規定する数値範囲の範囲外である比較例1〜5、7〜11は、請求項1に規定するそのいずれかの粉体物性が請求項1に規定する範囲を満たさず、該粉末を用いて製造された成形体の硬度や崩壊時間は上記好ましい範囲の値を達成しない。また、実施例5において得られたセルロース粉末をさらに粉砕した比較例6や、実施例5におけるセルロース粉末の製造においてその攪拌速度を10rpmから4000rpmに変更した比較例8記載のセルロース粉末も、請求項1に規定するそのいずれかの粉体物性が請求項1に規定する範囲を満たさず、該粉末を用いて製造された成形体の硬度や崩壊時間は上記好ましい範囲の値を達成しない。
本件明細書には、実施例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度や差分要件について明示的な記載はないものの、上記本件明細書の記載によれば、差分要件を満たしているないし満たしている蓋然性が高く、かつそれ以外の請求項1に規定する粉体物性が、同請求項1の数値範囲を満足するセルロース粉末について、そのいずれも成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であることが記載されているといえる。
そうすると、本件明細書に記載された試験結果から、本件明細書には、本件訂正発明1に係るセルロース粉末が成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つものであることを当業者が認識できるように記載されていると認めることができる。

そして、上記認定は、請求人が主張する(ア)−2、(ア)−4が事実であるとしても変わるものではない。また、請求人は、甲9の記載(9A)を引用して、差分要件の下限値である5未満は誤差に埋没するなどと主張する((ア)−3))。ここで、誤差に埋没するとは、誤差の範囲内の差にすぎないことを主張するものと解して以下検討する。請求人が主張するとおり、測定誤差が生ずるとしても、いずれの測定時においても等しく生ずるといえるから、同じ測定条件下で行われている限りにおいては、いずれの測定値も誤差を内包するものであり、差分を取ることで相殺されるから、差分は誤差と実質的に同じということはない。
請求人の(ア)−4の主張はつまるところ、本件訂正発明1が、「成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供する」という課題を達成し得ることが本件明細書に記載されているというためには、「成形性」と「流動性」と「崩壊性」を個別に切り出して評価し、上記三つの物性が、従来技術であるセルロース粉末に比べて1優1劣1同を超える総合的に優れた成績を示す必要があるところ、本件訂正発明1に該当する、甲18の比較例52(本件特許の実施例5に相当)、比較例53(本件特許の実施例4に相当)に比べて、従来技術のセルロース粉末が2優1劣であることを指摘し、本件訂正発明1は課題を達成しえない場合を包含しているから、上記諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供するという本件訂正発明の課題を解決できているといえない、ことに基づくものである。
本件明細書の段落0004の記載によれば、本件出願当時、医薬用賦形剤として使用されるセルロース粉末の機能として、圧縮成形性、崩壊性、流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいにもかかわらず、圧縮成形性と他の崩壊性、流動性とは相反する性質であるため、成形性が高いにもかかわらず崩壊性、流動性にも優れるセルロース粉末は知られていない状況にあったことが理解される。そうすると、「成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供する」という本件訂正発明1の課題における、諸機能をバランスよく併せ持つとは、諸機能すべてにおいて、もしくはより多くの機能において、従来知られるセルロースより優れていることを意図するというよりむしろ、互いに相反し、兼ね備えることが難しい機能を医薬用賦形剤としての使用に適した程度で同時に備えてなることを意図するものと理解される。
そして、本件明細書記載の実施例2〜7が、上記諸機能を示すとされる物性として好ましいとされている値を満足するものであることは上記説示のとおりであるから、各機能を個別に比較した結果として優劣の個数の多寡によってはじめて、諸機能をバランスよく併せ持つか否かを判断しうるものではない。よって、請求人の上記(ア)−4の主張は、上記判断を左右しない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1がその課題を解決できることを当業者が認識できる程度に記載されているといえる。

(イ)について
請求人が主張する無効理由2は、上記のとおり無効理由1についての請求人の主張と同じ本件明細書の記載上の不備の存在を理由とするものであるから、無効理由1について説示した理由と同様に判断される。

(ウ)について
請求人が主張する無効理由2は、上記のとおり無効理由1についての請求人の主張と同じ本件明細書の記載上の不備の存在を理由とするものであるから、無効理由1について説示した理由と同様に判断される。

したがって、本件訂正発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人が主張する本件訂正発明2に係る無効理由2の論旨は、概略、以下の(ア)〜(ウ)のとおりのものである。
(ア)差分要件を発明特定事項とする本件訂正発明1が発明の詳細な説明に記載されていると認められないことは前記(1)ア(ア)に記載のとおりである。そして、本件訂正発明2の差分要件は、本件訂正発明1の差分要件の数値範囲5〜300を10〜300に限定したものであるから、本件訂正発明2についても上記訂正発明1についてと同様に判断しうるものである。
(イ)本件訂正発明2は、セルロース粉末について、「平均重合度が230−450」であるという要件で特定する。
そして、発明の詳細な説明に、少なくとも平均重合度350−450の値の測定条件について発明の詳細な説明に記載されているとは認められないことは前記(1)ア(イ)に記載のとおりであり、本件訂正発明1の平均重合度150−450を230−450に限定したものである本件訂正発明2についても上記本件訂正発明1についてと同様、発明の詳細な説明に、少なくとも350−450の値の測定条件について発明の詳細な説明に記載されていない。
(ウ)本件訂正発明2は、セルロース粉末について、「安息角が54°以下」、「平均粒子径が20−250μm」という要件で特定する。
そして、発明の詳細な説明に、安息角及び平均粒子径を所望の数値範囲に制御する方法については何ら記載されていないことは前記(1)ア(ウ)に記載のとおりであるから、上記要件を発明特定事項とする本件訂正発明2についても上記本件訂正発明1についてと同様、発明の詳細な説明には、上記要件を達成する方法について記載されていない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明2の特許を無効理由2によって無効にすることはできないと判断する。
本件訂正発明2は本件訂正発明1の発明特定事項である、平均重合度の数値範囲、及び差分要件の数値範囲をさらに限定したものであり、本件訂正発明2の上記数値範囲はいずれも本件訂正発明1の範囲内のものであるから、上記ア(ア)、(イ)については、前記(1)イ(ア)、(イ)で説示したのと同様に判断される。また、上記ア(ウ)については、本件訂正発明2は本件訂正発明1の発明特定事項と同じであるから、前記(1)イ(ウ)について、で説示のとおり判断される。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明2がその課題を解決できることを当業者が認識できる程度に記載されているということができるから、同発明は、発明の詳細な説明に記載されている。

(3)本件訂正発明6について
ア 請求人が主張する本件訂正発明6に係る無効理由2の論旨は、概略、前記(1)ア(ア)、(イ)と同様のものである。
(ア)訂正後の請求項6の差分要件、平均重合度は、本件訂正発明1と同じである。
そして、差分要件を発明特定事項とする本件訂正発明1が平均重合度350超の数値範囲の測定条件は発明の詳細な説明に記載されているといえないことは前記(1)ア(ア)、(イ)に記載のとおりであるから、上記要件を発明特定事項とする本件訂正発明6についても上記本件訂正発明1についてと同様、本件訂正発明6は、その課題が解決できることを当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明に記載されていない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明6の特許を無効理由2によって無効にすることはできないと判断する。
本件訂正発明6に係るセルロース粉末の差分要件、平均重合度は本件訂正発明1のそれと同じである。そして、本件訂正発明1の差分要件の測定方法、及び350を超える平均重合度の測定方法が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められることは、前記(1)イ(ア)、(イ)で説示のとおりである。
そうすると、上記ア(ア)については、前記(1)イ(ア)、(イ)で説示したのと同様に判断される。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明6がその課題を解決できることを当業者が認識できる程度に記載されているということができるから、同発明は、発明の詳細な説明に記載されている。

(4)その他の請求人の主張について
第1回口頭審理における「仮に、原料パルプのレベルオフ重合度がセルロース粉末のレベルオフ重合度と一致しないとした場合、本件特許発明の発明特定事項を全て充足するが、本件特許発明の課題を解決し得ない具体例が明細書の表1に存在するのか、という合議体からの質問に対して、請求人は、平成31年 4月 5日付け上申書において、概略、以下のとおり回答している。なお、上記本件特許発明とは、平成30年 9月21日付け訂正請求書による訂正後の発明であるから、以降においては、本件特許発明を本件訂正発明と表記する。

i 本件訂正発明では、どの指標についていかなる数値以上(又は以下)であれば、課題を解決したといえることになるのか、客観的かつ定量的な判断基準が全く不明である。そして、実施例1〜7の「成形性」、「流動性」、「崩壊性」について、比較例2、4、9、11のそれと各々対比して優劣を評価した結果(表5)によれば、実施例1〜7は、上記比較例と同等かむしろ劣ることから、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供したとはいえず、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例である。
ii 表1中の実施例1のセルロース粉末と比較例1のそれとは崩壊性が大きく相違する。そして、実施例1は穏和な条件による加水分解で、比較例1は過酷な条件による加水分解で得られたものであるから、実施例1のセルロース粉末のLODPは原料パルプのLODPより著しく低下するのに対し、比較例1のそれは著しく低下しないと解される。つまり、実施例1のセルロース粉末の差分要件は、比較例1のセルロース粉末のそれより大きい値になる。以上によれば、崩壊性の大きな相違は差分要件の大きな相違に帰結すると解することができる。しかし、本件訂正発明の5〜300との差分要件は、実施例1と比較例1との崩壊性における大きな相違を差別化するに足るものであると認められない。そうすると、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例が表1に内在する。
iii KG−802は本件特許の実施例5のセルロース粉末に相当する(国際公開第2005/073286号の比較例33)。乙25には、KG−802の安息角が49°であると記載されているのに対し、本件明細書の表1には実施例5の安息角が51°であると記載されていることから、安息角の測定には2°程度の誤差があると認められ、この安息角の測定誤差に照らすと、比較例1は、本件訂正発明の発明特定事項を全て充足すると認定する余地があるといえるにもかかわらず、崩壊時間は実施例に比べて劣るから、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例である。
iv 本件明細書の流動性に関する評価基準は、本件明細書中、重量均一性(CV値)が記載されているのみであり、該値の実測結果が開示されていない実施例1、2、4、6は、その流動性を評価することができない。また、被請求人が主張するとおり、安息角が流動性の指標であるというならば、甲46に安息角が46°以上の粉体の流動性はやや不良、不良もしくは極めて不良とされることが記載されており、安息角が46°〜54°である実施例1〜3、5〜7はやや不良と評価されるから、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例である。
v 比較例1、8は、安息角要件以外の本件訂正発明の発明特定事項を充足する。そして、安息角は崩壊性や成形性に影響すると認められず、安息角要件を除く本件訂正発明の発明特定事項を充足するものは、成形性と崩壊性のバランスにすぐれていなければならないはずである。しかし、比較例1、8は、上記のとおり安息角要件以外の本件訂正発明の発明特定事項を充足するにもかかわらず、崩壊性の点で実施例1〜7に劣るから、崩壊性に優れるといえず、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例である。

まず、上記1〜5における回答において、本件訂正発明の発明特定事項を全て充足する実施の態様について、実際に試験を行い、本件訂正発明の課題を解決し得ないことを直接的に確認した試験結果は記載されていない。

iについて
上記1の主張は、本件訂正発明が、「成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供する」という課題を達成し得ることが本件明細書に記載されているというためには、「成形性」と「流動性」と「崩壊性」を個別に切り出して評価し、上記三つの物性が、従来技術であるセルロース粉末に比べて1優1劣1同を超える総合的に優れた成績を示す必要があるとの前提に基づくものである。しかし、上記課題における、諸機能をバランスよく併せ持つとは、互いに相反し、兼ね備えることが難しい機能を医薬用賦形剤としての使用に適した程度で同時に備えてなることを意図するものと理解されることは、前記6−2(1)イ(ア)について、においてすでに説示のとおりである。よって、上記主張は前提において誤りがあり、当該前提に立って行われた評価において、上記実施例が上記比較例と同等もしくは劣ることが確認されたとしても、そのことをもって本件訂正発明が本件訂正発明の課題を解決しえないと結論づけうるものではない。

iiについて
実施例1のセルロース粉末の差分要件が、比較例1のセルロース粉末のそれより大きい値になるとの主張は、甲4の記載に照らし首肯できるものである。
ところで、本件明細書の記載(特に、段落0021〜0024)によれば、i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、a)平均重合度が150−450、かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、を含む方法が、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末である平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が54°以下であるセルロース粉末を製造する方法であると当業者が理解するといえることは、前記6−1(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。
ここで、実施例1と比較例1とを対比すると、実施例1は上記i)及びii)をすべて満足する工程を含む方法によるが、比較例1はi)のb)及びii)を満足しない工程を含む方法による(表1の粉体物性の項、段落0039、0041を参照)。そうすると、比較例1のセルロース粉末は、そもそも、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末である平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が54°以下であるセルロース粉末を製造する方法に従い得られたものではないし、実施例1のセルロース粉末と比較例1のセルロース粉末とはともに、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)、平均粒子径、見掛け比容積、見掛けタッピング比容積、安息角において、本件請求項1記載の範囲内の数値を示すとはいえ、その値は同じではないから、差分要件の点でのみその物性が相違するものではない。加えて、実施例1、比較例1記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度を示す証拠は提出されておらず、崩壊性の大きな相違は差分要件の大きな相違に帰結する、との請求人の主張は、いまだ推論の域をでないもの、というほかない。仮に、崩壊性の大きな相違が差分要件の大きな相違に帰結する、と解し得るとしても、請求項1記載の差分要件を満たすが、崩壊性が良好でないセルロース粉末が存在する可能性があるというにとどまり、成形性、流動性、崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末が実際に存在することを示すものではない。
以上のとおり、請求人の主張は、その前提が推論の域をでない、もしくは崩壊性が良好でないというにすぎず、本件訂正発明の5〜300との差分要件は、実施例1と比較例1との崩壊性における大きな相違を差別化するに足るものであるとは認められないから本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例が表1に内在する、といえるものではない。

iiiについて
上記請求人の主張は、比較例1のセルロース粉末が本件訂正発明の発明特定事項を全て充足するものであることを前提とするものである。
本件明細書の安息角は、段落0033の記載によれば、以下の方法に従い測定されたものであると認める。
「8)安息角[°]
粉体水分(赤外線水分計(ケット科学研究所製、FD−220型、1g、105℃)で測定する。)を3.5−4.5%に調整した後、市販粉体物性測定機(ホソカワミクロン製、パウダーテスターT−R型)でオリフィス径0.8cmの金属製ロート(静電気の発生しない材質であること)、振動目盛1.5の条件で粉体を落下させ、粉体の作る山の稜線角度(2稜線角度測定、測定間隔3°)を測定した。3回測定の平均値で示した。」
一方、乙25には、安息角の測定方法に関する記載はない。
ところで、甲46によれば、安息角の測定方法は複数存在することが理解される。そして、測定方法の違いにより安息角の値に相違が生じる場合があることは技術常識である。そうすると、KG−802の安息角についての本件明細書の実施例5の51°との値と、乙25の49°との値が、同一方法の下で測定されたものであるといえない以上、両測定値の相違は単なる測定誤差に基づくものであって、両測定値は実質的に同一であるということはできない。
以上のとおりであるから、比較例1のセルロース粉末は、本件訂正発明の発明特定事項を全て充足するものではない。よって、比較例1が本件訂正発明の課題を解決し得ないからといって、本件訂正発明が本件訂正発明の課題を解決し得ないといえるものではない。

ivについて
本件明細書の段落0018や段落0019の記載によれば、本件明細書においては、成形性、崩壊性、流動性は、各々、圧縮成形体の硬度、崩壊時間、安息角もしくは重量変動によって示されるものと理解されることは、前記(ア)について、においてすでに説示のとおりである。
そうすると、本件明細書には、実施例1〜7の安息角の測定値が記載されており、CV値の記載がないからといって、本件訂正発明の流動性を評価することができないとはいえない。
また、本件明細書の段落0018には、本件明細書記載のセルロース粉末の好ましい安息角が54°以下であることが記載されている。一方、請求人が提示した甲46には、たしかに、46〜55°の安息角をもつ試料について、その流動性の程度はやや不良との記載があるものの、該記載はあくまで流動性の程度についての一般的な説明にすぎず、該記載があるからといって、上記した本件明細書記載のセルロース粉末の好ましい安息角についての記載内容が否定されるものではない。
そして、実施例1〜3、5〜7記載のセルロース粉末の安息角はいずれも54°以下であり、上記のとおり、本件明細書において好ましい安息角とされている値を有するものであるから、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例に相当するものではない。

vについて
しかし、本件訂正発明の安息角要件を満足しない比較例1、8は、そもそも本件訂正発明の発明特定事項を全て充足するものに該当しない。そして、本件訂正発明の課題は、前記1について、において説示のとおりであり、複数の物性のうち崩壊性のみを切り出してその機能の優劣をもって評価されるべきものとはいえないから、たとえ、比較例1、8の崩壊性が実施例と比較して劣るとしても、本件訂正発明が本件訂正発明の課題を解決し得ないといえるものではない。

以上のとおり、上記回答i〜vでなされた請求人のいずれの主張によっても、本件訂正発明の発明特定事項を全て充足するが、本件訂正発明の課題を解決し得ない具体例が明細書の表1に存在することが示されたと認めることはできない。
そうすると、請求人の上記回答i〜vは、上記判断を左右しない。

6−3.無効理由3について
ア 請求人が主張する本件訂正発明1、2及び6に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)、(イ)のとおりのものである。
(ア)本件訂正発明1及び2は「天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末」という要件で特定されている。該要件は、セルロース粉末に係る物の発明をその物の製造方法で特定するものであるから、本件訂正クレームはいわゆるPBPクレームである。PBPクレーム発明が特許法第36条第6項第2号規定のいわゆる明確性要件を満足するといえるのは、出願時において、PBPクレームに係る物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する場合に限られる。
しかし、セルロース粉末に係る物の発明については、例えば、平均降伏圧、窒素吸着法による比表面積、吸着特性等などの構造又は特性によっても特定することができるから、本件訂正発明1及び2のセルロース粉末をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとはいえない。
よって、本件訂正発明1及び2は明確ではない。

(イ)本件訂正発明1、2及び6のパラメータの測定方法について、発明の詳細な説明には、実施例記載のものによらなければならない旨の記載はなく、「これらは本発明の範囲を制限しない」(段落0032)との記載があることに照らせば、該パラメータは、当該分野で公知の意義や任意の方法・条件等をもって測定できると解される。また、その測定値は、測定方法等に応じて大きく変動するといえるから、たとえば、出願時の技術常識として様々な測定方法が存在する(甲10)粒子の径は測定方法によって異なる場合がある(甲11)から、本件訂正発明1、2及び6のパラメータ値を特定することができず、該パラメータをもって特定されている本件訂正発明1、2及び6は明確ではない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1、2及び6の特許を無効理由3によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(以下、その物の発明を「PBP発明」、また、その発明を記載した特許請求の範囲もしくは請求項を「PBPクレーム」という。)において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解される(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判決・民集69巻4号700頁)。

本件訂正発明1はセルロ−ス粉末に係る物の発明であり、また、本件請求項1の「天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末」との規定は、形式的にみれば、セルロース粉末をその製造方法によって特定したということもできる。
しかしながら、本件請求項1の加水分解によって得られるセルロース粉末、との規定は、単に加水分解の結果得られたセルロースという物の状態を示すことにより、その物の構造又は特性を特定しているにすぎないと認められるのであって、本件訂正発明1は、請求項にその物の製造方法が記載されている場合に該当するものではないといえるから、PBP発明ではない。また、本件訂正発明2についても同様に判断される。
よって、本件訂正発明1及び2が明確性要件に違反するとはいえない。

(イ)について
本件明細書の発明の詳細な説明には、「実施例、比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。」との記載(段落0032)があり、また、該記載に続いて、本件訂正発明1、2及び6における、平均重合度、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)、平均粒子径、見掛け比容積、見掛けタッピング比容積、安息角、及び湿潤状態の平均L/D(以下、「物性」ともいう。)について、順に、段落0032の1)、5)、段落0034の10)平均粒径、6)、7)、8)、及び段落0032の2)乾燥前粒子のL/D測定方法が記載されている。
たしかに、本件請求項1、2及び6には、各物性の測定方法を特定する規定はない。しかし、実施例は、一般に、特許請求の範囲に記載される発明の実施の態様について記載したものであることを踏まえれば、本件請求項1、2及び6規定の各物性についても、本件明細書の発明の詳細な説明に実施例等における各物性の測定方法に従い測定される値として記載されていると解するのが合理的である。そして、本件明細書には、上記以外の測定方法により各物性を測定すべきことを窺わせる記載は存在しない。
そして、甲10、甲11に記載されるように、各物性について複数の測定方法が本件出願当時に知られていたとしても、本件明細書の発明の詳細な説明に実施例等における各物性の測定方法に関する記載と離れて、あえてこれと異なる方法により測定されると解する合理的な理由は見いだせない。
そうすると、本件請求項1、2及び6規定の各物性の測定方法が不明であるとは認められず、本件訂正発明1、2及び6が明確性要件に違反するとはいえない。

6−4.無効理由4について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人が主張する本件訂正発明1に係る無効理由4の論旨は、概略、以下の(ア)〜(ウ)のとおりのものである。
(ア)甲12の段落0016、0030、0032、0057(表1)、特に、表1中の実施例1の記載事項からみて、甲12には、「天然セルロース質物質を酸加水分解して得られるセルロース粉末であって、平均重合度が100−375、平均粒径が30−120μm、見掛け比容積が4.0−6.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上であるセルロース粉末。」なる発明(以下、「刊行物1のセルロース粉末発明」ともいう。)が記載されている。
(イ)本件訂正発明1と刊行物1のセルロース粉末発明とを対比すると、一致点・相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
いずれも、天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって、平均重合度が150−450、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/gであるセルロース粉末である点
<相違点>
セルロース粉末が、本件訂正発明1では、「75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、安息角が54°以下、平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」ことを特徴とするのに対し、刊行物1のセルロース粉末発明では、そのような特定について明示的な記載がない点
(ウ)甲12の実施例1記載のセルロース粉末は、本件明細書段落0042においてセルロース粉末H(比較例1)であるとされている。該セルロース粉末HのL/Dは2.3である(本件明細書の表1)から、刊行物1、すなわち甲12のセルロース粉末は、0.75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5を満足する場合を含むものである。そして、本件明細書の段落0021の記載によれば、75μm以下の粒子のL/D(長径短径比)が2.0−4.5である本件特許発明のセルロース粉末は、湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程を含む製造方法により得られるとされているとされており、湿潤状態の平均L/Dはセルロース粉末の平均L/Dより1.0ほど大きい値になると理解することができるから、上記セルロース粉末Hを製造する工程における湿潤状態の平均L/Dは3.3(=2.3+1.0)を含むといえ、本件刊行物1におけるセルロース分散液に含まれるセルロース粒子には、湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5である。また、セルロース粉末Hの安息角、平均粒径は、同様に56°、47μmであり、甲第13号証の記載によれば、平均粒子径と安息角は反比例の関係にあるとの技術常識があるといえるから、平均粒径47μmを超えるものは安息角が56°より低くなるといえる。そして、刊行物1のセルロース粉末は、平均粒径が30〜120μmの範囲を採ることが段落0030に記載されている。そうすると、平均粒径が47〜120μmの範囲において、安息角が56°より低い54°以下になるものを含むものであるといえる。
そして、レベルオフ重合度について検討しても、そもそも、レベルオフ重合度は実施不能であり、発明を特定するための構成要件として意味をなしていないものであるか、平均重合度とレベルオフ重合度との差分5や10程度は測定誤差・算定誤差の範囲内の差であって有意な差であるとは認められないから、その下限値5については刊行物1のセルロース粉末も自ずと該当すると当業者は理解するし、またその上限値300についても、レベルオフ重合度が75以上を意味するから、平均重合度100−375のセルロース粉末であれば相当範囲のものが当然の前提として備えている物性であると当業者は理解する。仮に、レベルオフ重合度が下限重合度1である場合には、刊行物1のセルロース粉末の平均重合度が100−375であるから、該セルロース粉末ののレベルオフ重合度との差分は99(=100−1)〜374(=375−1)の範囲となり本件訂正発明1と一部重複しているといえるし、セルロース粉末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度より低下するとの科学的事実に照らすと、刊行物1の実施例1のセルロース粉末の重合度は220であり(本件明細書の表1より)、レベルオフ重合度は205以下である(刊行物1の表1より)場合を含むから、その差分は15(=220−205)〜219(=300−1)の範囲となり本件訂正発明1と一部重複している。
以上のとおり、上記相違点は実質的な相違点ではない。
よって、本件訂正発明1は、甲12に記載された発明である。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由4によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
甲12には、「従来の結晶セルロースあるいはセルロース粉末は、成形性が高ければ崩壊性が悪く、また、崩壊性が良い場合は成形性が低いという欠点を有しており、これらの性質のバランスがとれた賦形剤は知られていなかった。前述の通り、医薬品分野において使用される賦形剤は成形性が高く、かつ崩壊性が良いというものである必要がある。」(12C)、「本発明者はこうした現状に鑑み、結晶セルロースの粉体物性を制御し、成形性と崩壊性のバランスをとることを鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。」(12D)ことが記載されている。そして、甲12の特許請求の範囲の請求項1は、平均重合度に加えて、酢酸保持率が280%以上で、かつ、(1)式の圧縮特性を有することを発明特定事項とするものである(12A)。ここで、酢酸保持率とは、粒子自身の多孔性とその強度を示すものであり、同号証記載の発明ではこの酢酸保持率が280%以上でなければならないと同号証に記載されている(12F)。また、高成形性賦形剤は、酸やアルカリあるいは分解生成物がほとんど存在しない湿潤状態もしくは水分散状態のセルロース粒子を加熱処理し、乾燥させることによって、又は加熱処理を施さない場合は水分散状態のセルロース粒子を薄膜状態で乾燥することによって製造することができる(12H)と記載されている。
これら甲12の記載によれば、同号証記載の発明は、酢酸保持率が280%以上であることを要するものであると認められるところ、該事項を除いて甲12に記載された発明として、前記ア(ア)に記載した、請求人が主張する刊行物1のセルロース粉末発明を認定することはできない。

したがって、甲12の実施例1、及び段落0057の記載からみて、甲12には、以下の発明が記載されていると認める。

「市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、得られた、平均重合度205、酢酸保持率330%、川北の式a0.892、b0.0860、平均粒径47μm、355μm以上の粒子が1wt%、見掛け比容積5.4cm3/g、見掛けタッピング比容積2.7cm3/g、比表面積1.9m2/g、吸着水横緩和時間0.000200sである結晶セルロース粉末。」 の発明(以下、「甲12発明」という。)

(イ)について
本件明細書の段落0021の「天然セルロース質物質とは、木材等、セルロースを含有する天然物由来の植物性繊維質物質であり、・・・パルプであることが特に好ましく、」との記載に照らせば、甲12発明の「市販DPパルプ」は、本件訂正発明1の「天然セルロース質物質」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲12発明とを対比すると、その一致点・相違点は以下のとおりである。
<一致点>
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって、平均重合度が205、平均粒子径が47μm、見掛け比容積が5.4cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.7cm3/gであるセルロース粉末である点
<相違点>
セルロース粉末が、本件訂正発明1では、「75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、安息角が54°以下、平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」ことを特徴とするのに対し、甲12発明では、本件訂正発明1における上記特定がなされておらず、市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、得られた、酢酸保持率330%、川北の式a0.892、b0.0860、比表面積1.9m2/g、吸着水横緩和時間0.000200sである点

(ウ)について
まず、甲12には、実施例1のセルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度(以下、単に「レベルオフ重合度」という。)についての記載はないし、また、平均重合度をレベルオフ重合度との関係において特定することについての認識もない。
本件訂正発明1のセルロース粉末の製造方法に関して、本件明細書には、本発明のセルロース粉末の製造方法は、i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、a)平均重合度が150−450、かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、を含む必要がある。・・・平均重合度が150−450のセルロース分散液を得るための条件は、例えば20−60℃、0.1−4Nの塩酸水溶液中の温和な条件下で加水分解することが挙げられる。しかし、セルロース質物質をレベルオフ重合度まで加水分解してしまうと、製造工程における攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。」(段落0021)と記載されている。この記載によれば、本件訂正発明1のセルロース粉末を製造するためには、少なくとも、例えば20−60℃、0.1−4Nの塩酸水溶液中の温和な条件下で加水分解する必要があると理解される。そして、この理解は、本件明細書の記載とも符合するものである。本件明細書には、「セルロース粉末の安息角が55°を超えると、流動性が著しく悪くなる」(段落0018)、「セルロース粉末0.5gを20MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径1.13cmの円柱状成型体は直径方向の破壊荷重が170N以上であることが好ましい。」(段落0019)、「またその崩壊時間(37℃純水溶液、ディスクあり)は130秒以下であることが好ましい。」(段落0019)、との記載があり、ここで、安息角、硬度、崩壊時間は、各々、流動性、成形性、崩壊性の指標の一つであることが本件優先日当時の技術常識である。そして、上記温和な条件下で加水分解することにより得られた本件明細書の実施例1〜7記載のセルロース粉末はいずれも上記好ましいとされる値を満足するものであるのに対し、3N塩酸、105℃、30分、0.14N塩酸、121℃、1時間、0.7%塩酸、105℃、20分、7%塩酸、105℃、20分の条件下で加水分解されて得られた比較例1、2、4、7記載のセルロース粉末は、何れかの指標について上記本件明細書記載の範囲を満足せず、成形性、流動性、崩壊性の諸性質をバランスよく併せ持つものではない。
一方、甲12記載の加水分解条件は、本件訂正発明1のセルロース粉末のレベルオフ重合度を測定する加水分解条件である塩酸2.5N、15分間煮沸と同等もしくはそれより過酷な条件であるから、甲12発明のセルロース粉末の平均重合度がそのレベルオフ重合度より高くなる余地があるとは認められない。
したがって、甲12発明は、上記相違点のうち、「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」との点を満足しない。

請求人は、レベルオフ重合度は実施不能であり、発明を特定するための構成要件として意味をなしていないものであるとか、平均重合度とレベルオフ重合度との差分5未満は測定誤差の範囲内の差であって有意な差であるとは認められないなどと主張する。しかし、該主張は、発明特定事項を発明の認定において実質的に除くことと等しく、到底受け入れ難い。そして、レベルオフ重合度が実施不能でもなく、また、差分5未満が測定誤差の範囲内の差でもないことは、前記6−3.無効理由3について、においてすでに説示のとおりである。
また、甲12の実施例1のセルロース粉末と本件明細書の比較例1のセルロース粉末とは、その原料パルプが、前者においては市販DPパルプ、後者においては市販SPパルプと異なるから、本件明細書の段落0042に比較例1のセルロース粉末Hが甲12記載の実施例1に相当、との記載があるとしても、両者は同じものであるとはいえない。したがって、両者が同じものであることを前提として、甲12の実施例1のセルロース粉末のレベルオフ重合度は205以下であり、平均重合度とレベルオフ重合度との差分は15〜219の範囲となるから本件訂正発明1と一部重複している、との請求人の主張は、その前提を欠くものであり、採用することはできない。そして、レベルオフ重合度が1である場合、平均重合度(請求人認定の刊行物1のセルロース粉末発明100〜375)とレベルオフ重合度との差分は99〜374となるとの請求人の主張は、そもそもレベルオフ重合度が1であることは示されておらず、単なる推論の域をでるものでなく、その前提が正しいことが証明されていないから失当である。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲12発明ではない。
したがって、本件訂正発明1の特許を無効理由4によって無効とすることはできない。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人が主張する本件訂正発明2に係る無効理由4の論旨は、概略、
本件訂正発明2は、本件訂正発明1のセルロース粉末を「平均重合度が230−450であり、該平均重合度が、前記レベルオフ重合度より10〜300高い」と限定した発明である。しかし、本件刊行物1のセルロース粉末の平均重合度は100〜375であるから、平均重合度が230−450であるセルロース粉末とその重複範囲において記載されているといえるから、本件訂正発明2は甲12に記載されている、
というものである。

イ 本件訂正発明2に係る無効理由4の論旨は、つまるところ、本件訂正発明1が無効理由4によって新規性を有さない以上、本件訂正発明2も同様に新規性を有さない、というものであるのに対し、本件訂正発明1が無効理由4によって無効にすることはできないことは、(1)において説示のとおりである。
したがって、本件訂正発明2の特許を無効理由4によって無効にすることはできない。

(3)本件訂正発明6について
ア 請求人が主張する本件訂正発明6に係る無効理由4の論旨は、概略、以下のとおりのものである。
甲12の段落0016には、天然セルロース質物質の加水分解反応工程が記載されており、該工程において、セルロース粒子水分散体が得られたことが記載されている(段落0051、0053)。そして、セルロース粒子水分散体を得るためには、水中でのセルロース粒子の分散のための適切な攪拌が当然に必要であるから、溶液攪拌力が制御されている。また、甲12の段落0016、0051、0053、0057の記載事項からみて、甲12には、平均重合度が150〜375であるセルロース粒子を含むセルロース粒子水分散体を得る工程が記載されている。そして、甲12の実施例1のセルロース粉末は、前記(1)ア(ウ)において記載したとおり、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.3であるものを含むという特性を有するから、その湿潤状態の平均L/Dが3.3ほどであるものを含むという特性を有している。甲12には、さらに、セルロース分散液を噴霧乾燥により品温100℃未満で乾燥される方法が記載されている(段落0026、0029、0053、0066)。
したがって、甲12には、
i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、
a)平均重合度が150−375
b)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5
であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、
ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、
を含むセルロース粉末の製造方法が記載されている。
そして、該セルロース粉末の平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い点については、前記(1)イ(ウ)において述べたとおり、甲12に記載されているといえる。
よって、本件訂正発明6は、甲12に記載された発明である。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明6の特許を無効理由4によって無効にすることはできないと判断する。
甲12に、請求人が主張する刊行物1のセルロース粉末発明が記載されていると認めることができず、平均重合度205、酢酸保持率330%、川北の式a0.892、b0.0860、平均粒径47μm、355μm以上の粒子が1wt%、見掛け比容積5.4cm3/g、見掛けタッピング比容積2.7cm3/g、比表面積1.9m2/g、吸着水横緩和時間0.000200sである結晶セルロース粉末が記載されており、該結晶セルロース粉末が、市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、得られたものであると認められることは、前記(1)イ(ア)について、において説示のとおりである。
したがって、甲12には、請求人が主張する前記ア記載の発明が記載されていると認めることができず、以下の発明が記載されていると認める。

「i)市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い、セルロース粒子水分散体を得る工程、
ii)得られたセルロース分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥する工程、
iii)乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、
平均重合度205、酢酸保持率330%、川北の式a0.892、b0.0860、平均粒径47μm、355μm以上の粒子が1wt%、見掛け比容積5.4cm3/g、見掛けタッピング比容積2.7cm3/g、比表面積1.9m2/g、吸着水横緩和時間0.000200sである結晶セルロース粉末の製造方法。」の発明(以下「甲12−2発明」という。)

甲12−2発明の「市販DPパルプ」が、本件訂正発明6の「天然セルロース質物質」に相当することは、前記(1)イ(イ)について、において説示のとおりである。
そうすると、本件訂正発明6と甲12−2発明とを対比すると、その一致点・相違点は以下のとおりである。
<一致点>
i)天然セルロース質物質の加水分解工程により、
セルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、
ii)得られたセルロース分散液を乾燥する工程、
を含むセルロース粉末の製造方法である点
<相違点>
1.セルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程において、本件訂正発明6では、加水分解工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、
a)平均重合度が150−450
b)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5
であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得るとされているのに対し、甲12−2発明では、本件訂正発明6における上記特定がなされておらず、市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体を得るとされている点、
2.セルロース分散液の乾燥において、本件訂正発明6では、品温100℃未満で噴霧乾燥するとされているのに対し、甲12−2発明では、ドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥するとされている点、
3.セルロース粉末の平均重合度が、本件訂正発明6では、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とするとされているのに対し、甲12−2発明では、本件訂正発明6における上記特定がなされていない点

上記相違点3について
甲12発明は、甲12−2発明によって得られたセルロース粉末であるから、甲12−2発明のセルロース粉末は、甲12発明のセルロース粉末の特性を備えてなるものといえる。
ところで、甲12発明のセルロース粉末は、その「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」との点を満足しないことは前記(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。
そうすると、甲12−2発明によって得られたセルロース粉末も甲12発明と同様、上記の点を満足するものではない。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明6は甲12−2発明ではない。
したがって、本件訂正発明6の特許を無効理由4によって無効とすることはできない。

6−5.無効理由5について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人が主張する本件訂正発明1に係る無効理由5の論旨は、概略、以下の(ア)〜(エ)のとおりのものである。
(ア)甲12の段落0016、0030、0032、0057、特に、表1中の実施例1の記載事項からみて、甲12には、「天然セルロース質物質を酸加水分解して得られるセルロース粉末であって、平均重合度が100−375、平均粒径が30−120μm、見掛け比容積が4.0−6.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上であるセルロース粉末。」なる発明(以下、「刊行物1のセルロース粉末発明」ともいう。)が記載されている。
(イ)本件訂正発明1と刊行物1のセルロース粉末発明とを対比する。前記6−4(1)ア(イ)に記載した<相違点>のうち、差分要件については前記6−4(1)ア(ウ)に記載のとおりであって相違点となり得ない。仮に、相違点があると仮定すると、一致点・相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
いずれも、天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって、平均重合度が150−450、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/gであるセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とする点
<相違点>
セルロース粉末が、本件訂正発明1では、「75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、安息角が54°以下のセルロース粉末であるのに対し、刊行物1のセルロース粉末発明では、そのような特定について明示的な記載がない点
(ウ)甲第14号証の段落0014に、結晶セルロース粉体粒子の長径短径比の平均値を2.0以上にすると、特開平−316535号公報(審決注:甲12に相当)記載の発明品から造られる錠剤の錠剤硬度に比較して、1割以上の硬度の向上が達成できることが記載されているから、甲12記載のセルロース粉末について、甲第14号証の上記記載に基づき「75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5」の範囲とすることは、当業者が容易に想到することができる。
また、甲12には、流動性が高いセルロース粉末が好ましいことが周知であること、及び流動性に影響を与えるパラメータとして安息角があることが記載されているから(段落0005、0006)、明示的な記載のある成形性と崩壊性のバランスに加えて、流動性が高いという特性を備えるセルロース粉末を提供すること,及び流動性の高さを安息角の調節により実現することの動機付けが認められる。甲12には、粉末の流動性に影響を与える因子として平均粒子径があり、平均粒子径が小さくなると流動性が悪化することが記載されている(段落0031)。そして、平均粒子径と安息角は基本的に反比例の関係にあるという出願時の技術常識や安息角が小さいほど流動性が高いという出願時の技術常識(甲13)に照らせば、平均粒子径を大きくすれば安息角は小さくなり、流動性が高くなることがわかる。
したがって、当業者が甲12記載のセルロース粉末において、高い流動性という周知の好特性をさらに備えさせるため、平均粒径を47μmより高い範囲に設定変更することにより、安息角がより小さくなり54°以下となる、流動性がより高いセルロース粉末を容易に想到することができる。
(エ)そして、本件訂正発明1は、刊行物1のセルロース粉末発明と比較して予想外の有利な効果を奏するものでもない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由5によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
甲12の記載によれば、甲12に、前記6−4(1)ア(ア)記載の発明が記載されていると認定できないことは、前記6−4(1)イ(ア)について、において説示のとおりである。そして、請求人が甲12に記載されていると主張する前記ア(ア)記載の発明は、前記6−4(1)ア(ア)記載の発明を、そのセルロース粉末の平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とする、との点についてさらに限定したものであるから、上記説示と同様の理由により甲12に記載されていると認めることはできない。なお、さらなる限定について甲12に記載されていると認めることができないことも前記6−4(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。

甲12に記載された事項は前記6−4(1)イ(ア)について、において説示のとおりであり、甲12には、前記した甲12発明が記載されていると認める。

(イ)について
甲12発明の「市販DPパルプ」が、本件訂正発明1の「天然セルロース質物質」に相当すること、並びに、本件訂正発明1と甲12発明との一致点・相違点は、前記6−4(1)イ(イ)について、において説示のとおりである。

(ウ)について
まず、上記(イ)について、において説示した相違点のうち、「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」ことを特徴とする点について検討する。
甲12発明は、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解することにより得られたセルロース粉末であり、上記相違点のうち、「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」との点を満足すると認められないことは前記6−4(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。
そこで、さらに進んで、甲12の記載をみると、甲12には、セルロース質物質を酸加水分解してセルロース粒子を得るその加水分解条件について一般的な記載はない。また、甲12に記載されるその他の実施例の加水分解条件をみても、実施例1と同じもの(実施例2、3、5〜7)、4%硫酸水溶液中で105℃で3時間(実施例4)と、いずれも100℃を超える温度である。さらに、比較例をみても、実施例と同じもの(比較例1)、1%硫酸水溶液中で99℃、30分間など、いずれも高温で加水分解を行っており、「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」との発明特定事項を満足するための加水分解条件として本件明細書に記載されているような、温和な条件下で加水分解することは甲12には記載も示唆もない。
そうすると、甲12の記載に接した当業者が、甲12発明のセルロースを得るための加水分解条件とは異なる加水分解条件を採用する動機付けを有するとはいえない。

したがって、請求人が主張する前記ア(イ)に記載の相違点について検討するまでもなく当業者が格別の創意を要さずなし得たことと認めることはできない。
そもそも、本件訂正発明1は、前記6−2.無効理由2について、において説示のとおり、成形性、流動性、崩壊性という諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供するためのものであり、また上記諸機能は互いに相反することが知られている。そのようなセルロース粉末の提供に際し、甲12発明において、他の機能に比べて劣ることが特段認識されていたとは認められない流動性や成形性についてさらなる向上の必要性を見出し、他の機能の低下のおそれを否定しえない中、あえて上記流動性や成形性を向上させるべく、その手段を当業者が検討して、安息角を小さくするための技術的手段や甲14記載の手段を適用することを格別の創意を要さずなし得たものとはいえない。
仮に、上記技術的手段の適用を当業者が想到し得たとしても、たとえば、安息角に影響を与える因子は、粒子の形状など複数存在し(13A)、本件訂正発明1に規定される平均粒子径が唯一の因子ではないし、平均粒子径を変更した場合の他の機能に与える影響についても予測しうるものではないから、たとえ、請求人が主張する上記相違点について検討したとしても、当業者が格別の創意を要さずなし得たものとはいえない。

(エ)について
以上のとおり、相違点について当業者が容易に想到し得たものといえないから、本件訂正発明1の効果について検討するまでもなく、本件訂正発明1は当業者が甲12発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人が主張する本件訂正発明2に係る無効理由5の論旨は、概略、以下の(ア)〜(エ)のとおりのものである。
(ア)前記6−4(1)ア(ア)に記載のとおり、甲12には、以下の「刊行物1のセルロース粉末発明」が記載されている。
「天然セルロース質物質を酸加水分解して得られるセルロース粉末であって、平均重合度が100−375、平均粒径が30−120μm、見掛け比容積が4.0−6.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4cm3/g以上であるセルロース粉末。」なる発明
(イ)本件訂正発明2と刊行物1のセルロース粉末発明とを対比する。本件訂正発明2は、本件訂正発明1のセルロース粉末を「平均重合度が230−450であり、該平均重合度が、前記レベルオフ重合度より10〜300高い」と限定した発明である。
ところで、前記6−4(1)ア(イ)に記載した、本件訂正発明1と刊行物1のセルロース粉末発明との<相違点>のうち、差分要件については前記6−4(1)ア(ウ)に記載のとおりであって、その下限値が10である場合も同様に判断され、相違点となり得ない。仮に、相違点があると仮定すると、一致点・相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
いずれも、天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって、平均重合度が150−450、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/gであるセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より10〜300高いことを特徴とする点
<相違点>
1.セルロース粉末が、本件訂正発明2では、「75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、安息角が54°以下のセルロース粉末であるのに対し、刊行物1のセルロース粉末発明では、そのような特定について明示的な記載がない点
2.セルロース粉末が、本件訂正発明2では、「平均重合度が230−450であ」ることを特徴とするのに対し、刊行物1のセルロース粉末発明では、そのような特定について明示的な記載がない点
(ウ)上記相違点1は、前記(1)ア(イ)<相違点>に記載したものであり、前記(1)ア(ウ)に記載のとおり、当業者が格別の創意を要することなく想到することができる。
また、上記相違点2の平均重合度については、結晶セルロースが、酸によるα−セルロース(パルプ)の部分的な解重合により得られる平均重合度350以下のものであるとの甲7の記載に基づき(p1239 3、4、22、23行)、刊行物1のセルロース粉末発明の平均重合度100−370において、加水分解条件を適宜調整することにより、平均重合度が230−350である結晶セルロースに容易に想到することができる。
(エ)そして、本件訂正発明2は、刊行物1のセルロース粉末発明と比較して予想外の有利な効果を奏するものでもない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明2の特許を無効理由5によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
甲12の記載によれば、甲12に、前記6−4(1)ア(ア)記載の発明が記載されていると認定できないことは、前記6−4(1)イ(ア)について、において説示のとおりである。そして、請求人が甲12に記載されていると主張する前記ア(ア)記載の発明は、前記6−4(1)ア(ア)記載の発明を、そのセルロース粉末の平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とする、との点について、その下限値を10とさらに限定したものであるから、前記6−4(1)イ(ア)について、における説示と同様の理由により甲12に記載されていると認めることはできない。なお、さらなる限定について甲12に記載されていると認めることができないことも前記6−4(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。

甲12に記載された事項は前記6−4(1)イ(ア)において説示のとおりであり、甲12には、前記した甲12発明が記載されていると認める。

(イ)について
甲12発明の「市販DPパルプ」が、本件訂正発明1の「天然セルロース質物質」に相当すること、そして、本件訂正発明2と甲12発明との一致点・相違点は、前記6−4(1)イ(イ)について、において説示のとおりである。
そこで、本件訂正発明2と甲12発明とを対比すると、一致点は前記6−4(1)イ(イ)の<一致点>に記載のとおりであり、相違点は、以下のとおりであって、前記6−4(1)イ(イ)の<相違点>の「平均重合度が・・・レベルオフ重合度より5〜300高い」を「平均重合度が・・・レベルオフ重合度より10〜300高い」と、その下限値をさらに限定したものである。
<相違点>
セルロース粉末が、本件訂正発明2では、「75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、安息角が54°以下、平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より10〜300高い」ことを特徴とするのに対し、甲12発明では、本件訂正発明1における上記特定がなされておらず、市販DPパルプを細断し、10%塩酸水溶液中で105℃で30分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過、洗浄、pH調整、濃度調整を行い得られたセルロース粒子水分散体をドラム乾燥機(ドラム表面温度136℃、溜め部水分散体温度100℃)で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、目開き425μmの篩で粗大粒子を除き、得られた、酢酸保持率330%、川北の式a0.892、b0.0860、比表面積1.9m2/g、吸着水横緩和時間0.000200sである点

(ウ)について
甲12の記載に接した当業者が、甲12発明のセルロースを得るための加水分解条件とは異なる加水分解条件を採用する動機付けを有するといえないことは、前記(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。

(エ)について
以上のとおり、相違点について当業者が容易に想到し得たものといえないから、本件訂正発明2の効果について検討するまでもなく、本件訂正発明2は当業者が甲12発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件訂正発明6について
ア 請求人が主張する本件訂正発明6に係る無効理由5の論旨は、概略、以下の(ア)〜(エ)のとおりのものである。
(ア)甲12には、前記6−4(3)アに記載の事項が記載されている。もっとも、湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5である点について記載はなく、その点が相違点であると解されると仮定した場合には、前記6−4(3)アの認定と異なり、
i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、平均重合度が150−450であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、
ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、
を含むセルロース粉末の製造方法が記載されている、と認定することができる。
そして、該セルロース粉末の平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い点については、前記6−4(1)イ(ウ)において述べたとおり、甲12に記載されているといえる。
(イ)そうすると、本件訂正発明6と甲12記載の製造方法の発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、
a)平均重合度が150−450
であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、
ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、
を含むセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とするセルロース粉末の製造方法である点
<相違点>
セルロース分散液が、本件訂正発明6では、b)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5であるセルロース粒子を含むとされているのに対し、甲12記載の製造方法の発明では、そのような特定がなされていない点
(ウ)甲12には、品温100℃未満で噴霧乾燥する場合は加熱処理が施されておらず(段落0029)、加熱処理を施さない場合は乾燥後の粒子L/Dが小さくならないようにすべきことが記載されているから(段落0028)、一定の工夫をすべきことの動機付けが認められる。
また、甲14には、崩壊性、成形性に優れたセルロース粉末に関して、75μm以下の粒子の平均L/Dを2.0以上とすることが記載されているところ、噴霧乾燥した後には、粒子L/Dが小さくなる」ことを踏まえて、75μm以下の粒子の平均L/Dを2.0以上とするために、湿潤状態の平均L/Dを一定以上の数値に最適化することは当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。
したがって、甲12のセルロース分散液に含まれるセルロース粒子について、当業者は、甲14に基づき、「湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5」の範囲とすることに容易に想到することができる。
(エ)そして、本件訂正発明2は、刊行物1のセルロース粉末発明と比較して予想外の有利な効果を奏するものでもない。

イ しかしながら、当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明6の特許を無効理由5によって無効にすることはできないと判断する。
(ア)について
甲12の記載によれば、前記6−4(3)ア記載の発明が記載されていると認定できず、甲12−2発明が記載されていると認められること、及び甲12−2発明によって得られたセルロース粉末が「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とする」との点が記載されているとは認められないこと、は前記6−4(3)イにおいて説示したとおりである。

(イ)について
甲12−2発明の「市販DPパルプ」が、本件訂正発明6の「天然セルロース質物質」に相当すること、並びに、本件訂正発明6と甲12−2発明との一致点・相違点は、前記6−4(3)イ、において説示のとおりである。

(ウ)について
相違点1について
甲12には、湿潤状態、乾燥状態のいずれのセルロース粒子の平均L/Dについても記載はない。
一方、甲14には、結晶セルロース粒子の長径短径比が大きくなるほど錠剤の破壊強度が高くなることを見出したこと(14A)、粒子の長径短径比を増大させるためには、特開平6−316535号公報(審決注:甲12に同じ)記載の発明品を篩分し、例えば、エアージェットシーブ篩分により75μm篩を通過し38μmに残留する粒子を集める等により、粒子の長径短径比の平均を2.0以上にすることが可能となること、さらには、その結果、上記公報、すなわち甲12記載の発明品から造られる錠剤硬度に比較して、驚くべきことに1割以上の硬度の向上が達成できることが判明したこと(14B)が記載されている。これら記載に接した当業者であれば、錠剤の硬度の更なる向上を目的として、甲12−2発明に、甲14記載の技術的手段を適用することを試みようとするかもしれない。しかし、従来のセルロース粉末は、成形性が高ければ崩壊性が悪く、また、崩壊性が良い場合は成形性が低いという欠点を有していたことが本件優先日当時に広く知られており(たとえば、12B、12C)、成形性と崩壊性のバランスが良い圧縮成形用の賦形剤を提供するとの課題を解決するための手段を検討していたところ、甲12記載の発明に到達した(12D)のであるから、成形性向上の観点のみに着目して、甲12−2発明において、甲14記載の技術的手段を採用すると直ちに認めることはできない。仮に、セルロース粉末の平均L/Dを2.0以上とするとの技術的手段を適用することを想到し得たとしても、甲14には、篩サイズを制御することによって上記技術的手段を適用しうることが記載されているにとどまるから、それとは異なるセルロース分散液中のセルロース粒子の湿潤状態を一定の範囲とすることによって上記の技術的手段を適用しうることまでは当業者といえども格別の創意を要さずなし得たものとはいえない。

相違点2について
甲12には、酸やアルカリあるいは分解生成物がほとんど存在しない湿潤状態もしくは水分散状態のセルロース粒子を加熱処理し、乾燥させることによって製造する方法、又は、水分散状態のセルロース粒子を薄膜状態で乾燥する、加熱処理を施さない方法のいずれかの製造方法により、同刊行物記載の高成形性賦形剤を製造できることが記載されている。前者の方法における加熱処理は、「従来常用されていた噴霧乾燥法や熱風乾燥法など、たとえ送風温度が100℃以上であっても、水の蒸発潜熱のために品温は100℃まで上がらぬうちに乾燥してしまうので「加熱処理」が施されておらず、」(12K)との記載によれば、甲12においては噴霧乾燥などにおいて従来採用されている温度以上に加熱する等、加熱処理が施される乾燥方法を採用すべきとされていることが理解される。よって、たとえば、加熱処理を施されない比較例6における噴霧乾燥(送風温度150℃、排風温度83℃)が甲12−2発明において採用されることはない。また、後者の加熱処理を施さない方法について、水分散状態のセルロース粒子をガラス板やアルミ板などの支持体に薄く伸展した状態で乾燥するものであり(12J)、やはり、従来常用されていた噴霧乾燥法や熱風乾燥法などは薄膜状態も取り得ないので本発明の技術とは異なるものである、と記載されるように(12K)、従来の噴霧乾燥などとは異なるといえるから、ドラム乾燥に代えて品温100℃未満での噴霧乾燥が甲12−2発明において採用されることもない。

相違点3について
「平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高い」との発明特定事項を満足するための加水分解条件として本件明細書に記載されているような、温和な条件下で加水分解することは甲12に記載も示唆もないこと、また、甲12の記載に接した当業者が、甲12発明のセルロースを得るための加水分解条件とは異なる加水分解条件を採用する動機付けを有するとは認められないことは、前記(1)イ(ウ)について、において説示のとおりである。
そして、前記6−4(3)イ 上記相違点3について、において説示のとおり、甲12−2発明によって得られたセルロース粉末は、甲12発明のセルロース粉末の特性を備えてなるものであるから、甲12−2発明においても、前記(1)イ(ウ)について、における甲12発明のセルロースについての説示と同様、甲12の記載に接した当業者が、甲12−2発明と異なる加水分解条件を採用する動機付けを有するとは認められない。

(エ)について
以上のとおり、相違点について当業者が容易に想到し得たものといえないから、本件訂正発明6の効果について検討するまでもなく、本件訂正発明6は当業者が甲12−2発明に基いて容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

7.むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正を認め、また、本件訂正発明1、2及び6の特許は、無効理由1〜5によって無効にすべきものであるとはいえない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末であって、平均重合度が150−450、75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0−4.5、平均粒子径が20−250μm、見掛け比容積が4.0−7.0cm3/g、見掛けタッピング比容積が2.4−4.5cm3/g、安息角が54°以下のセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とするセルロース粉末。
【請求項2】
平均重合度が230−450であり、該平均重合度が、前記レベルオフ重合度より10〜300高い請求項1に記載のセルロース粉末。
【請求項3】
水蒸気吸着による比表面積が85m2/g以上である請求項1又は請求項2に記載のセルロース粉末。
【請求項4】
セルロース粉末0.5gを20MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が170N以上であって、その崩壊時間が130秒以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロース粉末。
【請求項5】
セルロース粉末と乳糖との等量混合物0.5gを80MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が150N以上であって、その崩壊時間が120秒以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース粉末。
【請求項6】
i)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御することにより、
a)平均重合度が150−450
b)湿潤状態の平均L/Dが3.0−5.5
であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程、
ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程、
を含むセルロース粉末であり、該平均重合度が、該セルロース粉末を塩酸2.5N、15分間煮沸して加水分解させた後、粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いことを特徴とするセルロース粉末の製造方法。
【請求項7】
平均重合度が230−450である請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の製造方法により得られ得るセルロース粉末。
【請求項9】
請求項1〜5及び請求項8のいずれか一項に記載のセルロース粉末からなる賦形剤。
【請求項10】
請求項1〜5及び請求項8のいずれかに記載のセルロース粉末又は請求項9の賦形剤を含む成型体。
【請求項11】
成型体が1つ以上の活性成分を含む錠剤である請求項10に記載の成型体。
【請求項12】
活性成分を30重量%以上含む請求項11に記載の成型体。
【請求項13】
圧縮に弱い活性成分を含む請求項10〜12のいずれか一項に記載の成型体。
【請求項14】
活性成分が被覆されている請求項13に記載の成型体。
【請求項15】
成型体が速崩壊性である請求項10〜14のいずれか一項に記載の成型体。
【請求項16】
流動化剤を含む請求項10〜15のいずれか一項に記載の成型体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-09-27 
結審通知日 2019-10-02 
審決日 2019-10-18 
出願番号 P2002-507894
審決分類 P 1 123・ 113- YAA (A61K)
P 1 123・ 121- YAA (A61K)
P 1 123・ 536- YAA (A61K)
P 1 123・ 537- YAA (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 藤原 浩子
穴吹 智子
登録日 2012-10-19 
登録番号 5110757
発明の名称 セルロース粉末  
代理人 荒井 俊行  
代理人 古城 春実  
代理人 松井 佳章  
代理人 山崎 亨  
代理人 清水 航  
代理人 加治 梓子  
代理人 古城 春実  
代理人 井出 桂子  
代理人 松井 佳章  
代理人 加治 梓子  
代理人 三井 睦貴  
代理人 香島 拓也  

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