• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  E02F
管理番号 1383230
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-11 
確定日 2022-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6731898号発明「作業車両」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6731898号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6731898号に係る出願は、平成29年9月14日に出願され、令和2年7月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行されたものである。
その特許について、令和2年8月11日受付で、特許異議申立人 岡本 茂男(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出されて、請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。その後、令和2年11月6日に、申立書についての手続補正書(以下、「申立書補正書」という。)が提出され、特許異議の申立てをすることができる期間が経過する時まで及び特許の取消しの理由の通知がある時までに、申立書における申立ての理由及び必要な証拠の表示が補正された。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和 3年 5月 6日付け: 取消理由通知
令和 3年 7月 9日: 特許権者による意見書の提出
令和 3年10月 7日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和 3年12月13日: 特許権者による意見書の提出
令和 4年 1月 7日付け: 審尋(申立人に対し)
令和 4年 2月 2日: 申立人による意見書の提出


第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1ないし4をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるべきものであり、その記載は以下のとおりである。

「【請求項1】
エンジンが配置される旋回フレームと、
前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットと、
前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能なコンソールと、
前記コンソールに接続される油圧ホースと、
を備え、
前記コンソールは、前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される操作レバーを備え、
前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じであり、
前記油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置されることを特徴とする作業車両。

【請求項2】
請求項1に記載の作業車両であって、
前記油圧ホースは、長手方向に間隔をあけて配置される複数の固定部材により、前記旋回フレーム又は前記ボンネットに固定され、
前記ボンネットを閉じた状態で、前記第1軸の近傍では、互いに隣接する前記固定部材の間で前記油圧ホースが弛んでいることを特徴とする作業車両。

【請求項3】
請求項1に記載の作業車両であって、
前記油圧ホースは、前記第1軸よりも前記コンソールから遠い側が下向きに凸となるように曲がっており、この曲がった部分が前記エンジンの近傍を通ることを特徴とする作業車両。

【請求項4】
請求項3に記載の作業車両であって、
前記エンジンは、
出力軸の回転が出力される出力プーリと、
送風ファンを駆動するファンプーリと、
前記出力プーリ及び前記ファンプーリに巻き掛けられたベルトと、
を備え、
前記油圧ホースは、その一部が前記ベルトに平行な向きで当該ベルトに近接していることを特徴とする作業車両。」


第3 異議申立理由、及び取消理由の概要
1 異議申立理由の概要
申立人による異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)特許法第29条第2項
ア 本件発明1ないし4は、甲第1号証ないし甲第14号証に示されるとおり、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然知られ又は公然実施され、或いは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった作業車両(ViO12)の発明、及び、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第21号証ないし甲第32号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない(申立書補正書第8頁第18行−第11頁第2行、第13頁第8行−第17頁第7行、第17頁第13行−第18行、第18頁第1行−第19頁第3行、及び第21頁第19行−第23頁第6行)。

イ 本件発明1ないし4は、甲第15号証ないし甲第20号証に示されるとおり、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然知られ又は公然実施され、或いは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった作業車両(U10−3 Ergo Control)の発明、及び、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第21号証ないし甲第32号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない(申立書補正書第11頁第4行−第13頁第6行、第13頁第8行−第17頁第7行、第17頁第19行−第24行、第19頁第5行−最終行、及び第21頁第19行−第23頁第6行)。

ウ 本件発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第21号証ないし甲第32号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない(申立書補正書第13頁第8行−第17頁第7行、第17頁第25行−最終行、第20頁第1行−第21頁第17行、及び第21頁第19行−第23頁第6行)。

(2)特許法第36条第6項第1号
本件発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(申立書補正書第23頁第8行−第26頁第3行)。

(3)特許法第36条第6項第2号
本件発明1ないし3は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない(申立書補正書第23頁第8行−第25頁第26行、及び第26頁第3行−第5行)。

2 取消理由通知(決定の予告)の概要
当審が令和3年10月7日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(1)本件発明1ないし4は、甲第1号証ないし甲第12号証により、本件出願前に公然実施されたと認められる作業車両(ViO12)の発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(3)本件発明1ないし4は、甲第19号証に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(4)本件発明1ないし4は、甲第15号証、甲第19号証及び甲第20号証により、本件出願前に公然実施されたと認められる作業車両(U10−3 Ergo Control)の発明、並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第4 証拠
1 証拠一覧
申立人により、申立書及び申立書補正書とともに提出された証拠は、次のとおりである。
なお、以下では、甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。

・甲1
Web頁(https://www.stavebni-technika.cz/clanky/novy-yanmar-vio12-je-proste-nejlepsi)の内容をプリントアウトした書面

・甲2
Web頁(http://www.equipment-construction.be/nl/2016/04/20/313a-bauma-yanmar/)の内容をプリントアウトした書面

・甲3
Web頁(https://www.molsoncompact.co.uk/news/archives/04-2016)の内容をプリントアウトした書面

・甲4
Web頁(https://www.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1776003022621800/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲5
Web頁(https://ja-jp.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1776003072621795/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲6
Web頁(https://www.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1781267488762020/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲7
Web頁(https://ja-jp.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1781267468762022/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲8
Web頁(https://www.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1781267455428690/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲9
Web頁(https://ja-jp.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1781267442095358/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲10
Web頁(https://www.facebook.com/bgriparazionisrl/photos/a.1490114491210656/1781267468762022/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲11
Web頁(https://www.jmm-group.com/dansk-tysker-og-dansk-japaner-hittede-i-roskilde/)の内容をプリントアウトした書面

・甲12
Web頁(https://issuu.com/maskin-materielmagasinet/docs/mmm_juni_2016/7)の内容をプリントアウトした書面

・甲13
YANMAR ViO12 simply the best と記載された書面の写し

・甲14
Vio10のカタログ、2014年11月作成、ヤンマー建機株式会社

・甲15
Web頁(https://www.facebook.com/pg/hermansmachines/posts/?ref=page_internal)の内容をプリントアウトした書面

・甲16
Web頁(https://ja-jp.facebook.com/hermansmachines/photos/ms.c.eJw9zNENgFAMQtGNDLRY2v0XM6Y~_P08uwQFaSCrT0OV1yGVkH6sJZM1nch2n3~_t~;P~_9fTT~_OLBMC.bps.a.720173961433711/720174031433704/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲17
Web頁(https://www.facebook.com/hermansmachines/photos/ms.c.eJw9zNENgFAMQtGNDLRY2v0XM6Y~_P08uwQFaSCrT0OV1yGVkH6sJZM1nch2n3~_t~;P~_9fTT~_OLBMC.bps.a.720173961433711/720174118100362/?type=3&theater)の内容をプリントアウトした書面

・甲18
Web頁(https://www.machinio.com/model/u10-3-ergo-control#quickview/25105)の内容をプリントアウトした書面

・甲19
HERMANS MACHINES VELNO, Kubota U10-3 ErgoControl, BINNEN DE RUPSEN DRAAIENDE KUBOTA MINIGRAAFMACHINE と記載された書面の写し

・甲20
Kubota, HERMANS MACHINES, Gebruikershandleiding, BINNEN DE RUPSEN DRAAIENDE KUBOTA MINIGRAAFMACHINE, U10-3 ErgoControl, Origineel document, versie 1.0 と記載された書面の写し

・甲21
特開2001−40700号公報

・甲22
特開平9−137467号公報

・甲23
特開平9−158251号公報

・甲24
特開2004−137883号公報

・甲25
特開2016−188554号公報

・甲26
特開2006−103666号公報

・甲27
特開2006−299620号公報

・甲28
特開2010−265582号公報

・甲29
特開2008−231693号公報

・甲30
特開2010−24715号公報

・甲31
特開2015−86577号公報

・甲32
特開2001−107390号公報

・甲33
韓国特許出願No.10−2019−7023629に対する意見提出通知書

・甲34
韓国特許公開10−2010−0122452号公報


2 各証拠について
(1)甲1
ア 記載事項
甲1には、次の記載がある(原文中の枠囲いは、申立人による。日本語以外の文章については、申立人が提出した訳文を括弧書きで付した。下線は当審が付した。以下、同様。)

(ア)「


(新しいヤンマーViO12−最高です
公開日:2016年9月21日
今年のミュンヘンでのバウマ見本市では、ヤンマー建設機器ヨーロッパSAS(ヤンマーCEE)が多くの新製品を発表しました。その一つがヤンマーViO12ミニショベルでした。)

(イ)1つ目の写真(以下、「写真1−1」という。)




(ウ)「


(ヤンマーのViO12ミニショベルは、その機能によりクラスでナンバー1であるため、訪問者を魅了しました。)

(エ)「



(人間工学の改善
運転席の両側にジョイスティックを使用することで、機械の操作性が大幅に向上しました。オペレーターは作業の動きをより適切に制御し、操縦性、生産性、作業の正確性も向上させます。ヤンマーはこのソリューションを使用しました。これは、大型のミニ油圧ショベルで実証済みであり、操業の経験により、衝突や機械への損傷のリスクが軽減されると同時に、ダウンタイムが短縮され、機械の寿命が延びることが確認されています。)

(オ)「


(最高の動作性能
ViO12ミニショベルは、出力9.2kW、最大トルク52NmのYanmar 3TNV70ディーゼルエンジンで駆動されます。このパワーユニットは、このカテゴリーの競合モデルと比較して、マシンのパフォーマンスを大幅に向上させます。ヤンマーは、油圧システムに完全に制御可能なアキシャルピストンポンプを装備しました。ポンプの流量と圧力は自動的に運転負荷に適応し、スムーズな運転を保証し、オペレーターの快適性に貢献します。ポンプは、210barの動作圧力で2×11l/分の流量を供給します。これらのパラメータは、機械の動作動作の速度を大幅に向上させ、したがって、その高い生産性に貢献します。駆動系に細心の注意を払い、優れた動作特性を実現しました。掘削力と作業サイクルのダイナミクスの最適な組み合わせにより、卓越した生産性が保証されます。)

(カ)2つ目の写真(以下、「写真1−2」という。)




(キ)ViO12の機体色、及び写真1−1及び写真1−2より看取される事項について
写真1−1のミニショベルは、白と青の2色であり、写真1−2のミニショベルは、黄色と黒の2色である点で、2つの写真のミニショベルは色彩が異なるものの、全体の外観及び使用されている各部材の外観は略同様であり、甲1本文がViO12ミニショベルを説明するものであることをふまえると、写真1−1及び写真1−2はいずれもViO12ミニショベルを示す写真であることが明らかである。また、甲1本文において、ViO12について、機体色により機能や構成が異なることは特段記載されていないから、白と青の2色の機体と、黄色と黒の2色の機体とで、甲1本文及び写真から看取される構成について、特段の相違はないものと理解される。
ミニショベルについての技術常識をふまえると、写真1−1及び写真1−2に示される外観から、ViO12ミニショベルは、下部走行体、下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体(写真1−2における下部走行体より上の黒い部分)、機体の後部上に配置された運転席下の部材(写真1−2における運転席の下の黄色い部分)、該運転席下の部材の上に座面及び背もたれが設けられた運転席、を有することが、看取される。また、ViO12がディーゼルエンジンで駆動されることをふまえると、写真1−1及び写真1−2より、ディーゼルエンジンを配置可能な箇所は、機体上でかつ運転席下の部材の下以外には見当たらないから、ディーゼルエンジンは機体上かつ運転席下の部材の下に配置されることが、看取される。
運転席の両側のジョイスティックの周辺に着目すると、写真1−1及び写真1−2より、ViO12ミニショベルは、ジョイスティックを備えるひじ掛け状の部材を有することが、看取される。
写真1−1における奥側のひじ掛け状の部材の配置、及び写真1−2における手前側及び奥側のひじ掛け状の部材の配置に着目すると、ひじ掛け状の部材は、運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢であることが、看取される。
写真1−1における手前側のひじ掛け状の部材に着目すると、ひじ掛け状の部材は、運転席の横で背もたれ付近から略上方に延在する姿勢であること、及び、ひじ掛け状の部材は、運転席の背もたれ近傍の根元付近に切り欠きを有することが、看取される。また、写真1−1における手前側のひじ掛け状の部材の根元近傍の切り欠きの形状に着目すると、該ひじ掛け状の部材は、上記2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転可能であることが、看取される。
ジョイスティックに着目すると、写真1−1における奥側のジョイスティック、及び写真1−2における手前側及び奥側のジョイスティックの姿勢より、ひじ掛け状の部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、技術常識を勘案すると、ジョイスティックによる操作に適した姿勢となることが、看取される。また、写真1−1における手前側のジョイスティックの姿勢より、ひじ掛け状の部材が略上方に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれ付近から略後方に向かって突出し、技術常識を勘案すると、運転席への乗降の妨げとならない姿勢となることが、看取される。

イ 甲1の内容が公知となった時期、及びバウマでの発表について
上記ア(ア)の記載より、甲1の内容は、本件出願より前の2016年9月には、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる。
また、同ア(ア)の記載より、甲1に紹介されるViO12ミニショベルは、2016年9月以前に、ミュンヘンでのバウマ見本市において発表されたと認められ、上記ア(イ)の写真1−1が展示の様子を示すものと理解されることより、白と青の2色の機体は、少なくとも写真1−1に示される態様で展示されたと認められる。

ウ 甲1発明
上記アより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
上記イより、甲1発明は、本件出願前に公知となったと認められる。

(甲1発明)
「運転席の両側にジョイスティックを使用し、ディーゼルエンジンで駆動され、油圧システムで動作を実現する、ViO12ミニショベルであり、
下部走行体、下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体、該機体の後部上に配置された運転席下の部材、該運転席下の部材の上に座面及び背もたれが設けられた運転席、及びジョイスティックを備えるひじ掛け状の部材を有し、
ディーゼルエンジンは、上記機体上かつ運転席下の部材の下に配置され、
ひじ掛け状の部材は、運転席の背もたれ近傍の根元付近に切り欠きを有し、運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢と、背もたれ付近から略上方に延在する姿勢との、2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転可能であり、
ひじ掛け状の部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、ジョイスティックによる操作に適した姿勢となり、
ひじ掛け状の部材が略上方に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれ付近から略後方に向かって突出し、運転席への乗降の妨げとならない姿勢となる、
ViO12ミニショベル。」

(2)甲2
ア 記載事項
甲2は、Web頁の内容を出力した書面であって、次の記載がある。
(ア)「NEWS」
(ニュース)

(イ)



(2016年4月20日
バウマへ−ヤンマー、ペダルを踏んで!
掘削機側では、VIO80−1の砲塔に取り付けられたシグマブームを備えた新しいB7−6と、可変ブームを備えた新しいSV100の新機能に加えて、マシンは前の号で発表されました。VIO12の追加の驚き。」

(ウ)



(これまで、VIO10−2Aはスティックとペダルで駆動されていました。ミニショベルの人間工学を改善するために、ヤンマーはより重いモデル用に設計されたものと同じジョイスティックをインストールします。これにより、オペレーターは機械の動きをより適切に制御できるようになり、操作性、生産性、および作業精度が向上します。
この新しいVIO12モデルには、出力9.2kW、トルク52Nmのヤンマー3TNV70ディーゼルエンジンが搭載されています。このマシンの運転重量は1220kgで、クラス最長の列車で、1,440mm。)

(エ)1つ目の写真(以下、「写真2−1」という。)




(オ)2つ目の写真(以下、「写真2−2」という。)




(カ)3つ目の写真(以下、「写真2−3」という。)




(キ)写真2−2及び写真2−3より看取される事項について
写真2−2及び2−3には、運転席の横にジョイスティックを備えた、白と青の2色の機体のミニショベルの展示の様子が示されており、上記(イ)及び(ウ)の記載を踏まえると、当該ミニショベルは、ジョイスティックをインストールした、VIO12ミニショベルであると理解される。
運転席の両側のジョイスティックの周辺に着目すると、写真2−2及び写真2−3より、VIO12ミニショベルは、ジョイスティックを備えるひじ掛け状の部材を有することが、看取される。
写真2−2における機体右手側(写真2−2における左側)のひじ掛け状の部材に着目すると、ひじ掛け状の部材は、運転席の横で背もたれ付近から略上方に延在する姿勢であることが、看取される。
写真2−3におけるひじ掛け状の部材の配置に着目すると、ひじ掛け状の部材は、運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢であることが、看取される。
写真2−2及び2−3から、該ひじ掛け状の部材は、上記2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転可能であることが、看取される。また、写真2−2における機体右手側のひじ掛け状の部材において、ジョイスティックの下方に黒い線状に見えるものは、該ひじ掛け状の部材が2つの姿勢の間で回転するための、根元近傍の切り欠きであることが、看取される。
ジョイスティックに着目すると、写真2−3におけるジョイスティックの姿勢より、ひじ掛け状の部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、技術常識を勘案すると、ジョイスティックによる操作に適した姿勢となることが、看取できる。また、写真2−2における機体右手側のジョイスティックの姿勢より、ひじ掛け状の部材が略上方に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれ付近から略後方に向かって突出し、技術常識を勘案すると、運転席への乗降の妨げとならない姿勢となることが、看取できる。

イ 甲2の内容が公知となった時期、VIO12の機体色、及びバウマでの発表について
上記ア(ア)に「ニュース」と記載されていること、及び、上記ア(イ)の日付から「ニュース」と題される甲2の内容の公開までに、長期間の遅れがあったことを示す事情はないことから、甲2の内容は、遅くとも本件出願より前の2016年中には、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる。
上記ア(ウ)の記載がジョイスティックを備えたミニショベルVIO12を紹介するものであること、及び、上記ア(エ)の写真2−1が、ジョイスティックを備えた黄色と黒の2色のミニショベルの機体を示し、上記ア(オ)及び(カ)の写真2−2及び2−3が、ジョイスティックを備えた白と青の2色のミニショベルの機体を示していることから、甲2で紹介されるジョイスティックを備えたVIO12には、黄色と黒の2色の機体、及び白と青の2色の機体という、色違いの機体が存在すると理解される。また、甲2において、VIO12について、機体色により機能や構成が異なることは特段記載されていないから、白と青の2色の機体のVIO12と、黄色と黒の2色の機体のVIO12とについて、甲2本文及び写真から看取される構成について、特段の相違はないものと理解される。
また、同ア(イ)の記載、及び、同(オ)及び(カ)の写真2−2及び2−3とは展示の様子を示す写真と理解されることから、甲2に紹介されるVIO12ミニショベルは、2016年のミュンヘンでのバウマ見本市において発表され、白と青の2色の機体のVIO12は、少なくとも写真2−2及び2−3に示される態様で展示されたと認められる。
なお、甲2における「VIO12」と、甲1及び後記甲12における「ViO12」とは、同じモデルを指す表記であることが明らかであるから、以下では「ViO12」の表記を使用する。

(3)甲3
ア 記載事項
甲3は、Web頁の内容を出力した書面であって、次の記載がある。
(ア)「Yanmar@Bauma=A Success
4/29/2016」
(ヤンマー@バウマ=成功
4/29/2016)

(イ)「Today Yanmar have reported what a successful show Bauma 2016 was for them.」
(今日ヤンマーは、バウマ2016が彼らにとってどのような成功したショーであったかを報告しました。)

(ウ)「Meanwhile here's a selection of images from the show courtesy of Yanmar.」
(一方、ヤンマーの好意によるショーからの画像のセレクションがあります。)

(エ)冒頭の写真(以下、「写真3−1」という。)




(オ)末尾の写真(以下、「写真3−2」という。)




イ 甲3の内容が公知となった時期、及びバウマでの発表について
上記ア(ア)の記載より、甲3の内容は、本件出願より前の2016年4月には、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる。
また、同ア(ア)ないし(ウ)において、2016年4月29日の日付でバウマ2016のショーについて過去形で報告されていること、及び同(エ)及び(オ)においてショーにおける画像が紹介されていることから、同(エ)及び(オ)の写真3−1及び3−2に示される白と青の2色のミニショベルは、2016年4月29日以前に開催されたバウマでのショーにおいて、少なくとも写真3−1及び3−2に示される態様で、展示されたと認められる。

(4)甲4ないし甲10
甲4ないし甲10は、FaceBookにおいて写真が投稿されたページを印刷したものであり、摘記は省略するが、白と青の2色のミニショベルの展示状況を示す写真が投稿されている。
甲4ないし甲10の写真に示されるミニショベルは、甲1ないし甲3における写真1−1、写真2−2、写真2−3、写真3−1及び写真3−2に示される、白と青の2色のミニショベルと、機体の構成及び背景などの展示状況が共通している。また、甲4ないし甲10における写真の投稿日は、2016年4月16日、または、2016年4月29日と表示されている。
なお、甲4及び甲9の写真、並びに、甲5、甲7及び甲10の写真は、視認できる限りでは同一である。

(5)甲11
甲11は、公知日等の記載がないWeb頁を出力したものであって、甲11中には、後記甲12と同内容の文章及び同内容の写真が含まれている。

(6)甲12
ア 記載事項
甲12は、Web頁の内容を出力した書面であって、次の記載がある。

(ア)「MMM JUNI 2016
Published on Jun 24, 2016」
(MMM 2016年6月
2016年6月24日に公開)

(イ)「


(MMM 2016年6月
ロスキレで発見されたデンマークのドイツ人とデンマークの日本人
Bergmannの2030HSダンプトラックとYanmarのViO12ミニ油圧ショベルの両方でデンマークデビュー)

(ウ)「


(ドイツから新しいデーンと日本からの新しいデーンの両方がロスキレアニマルショーのStemasスタンドにたどり着いたことは、気づかれることからほど遠いものでした。
世界最大の建設見本市、ミュンヘンのバウマでの世界的なプレゼンテーションの後、それは新しいベルクマンダンパー2030HSと新しいヤンマーミニショベルViO12のためのデンマーク最大の動物ショーでした。
どちらもデンマークの2つの工場のつながりの結果です。StemasとJohsによるJMMグループ。Mollers(当審注;申立人提出の訳ではoに斜線が入っているが、oの誤記と認める。)Maskinerは、デンマークの輸入業者であり、BergmannとYanmar(当審注;申立人提出の訳ではYanmerとなっているが、Yanmarの誤記と認める。以下、同じ誤記がある箇所について、同様。)の両方のディーラーです。バウマまでは、バーグマンとヤンマーの両方が特別なデンマークモデルの完成をいじくり回していました。
Bergmannでは、デンマーク人向けに特別に開発された3トンクラスの2030HSダンプトラックは、JMMグループがBergmannプログラムでそのサイズのダンプトラックが欠落していると単純に考えているためです。
YanmarミニショベルViO12は、デンマーク語版のモデルで、ViO10と指定されています。とりわけ、デンマークの機械オペレータはジョイスティックコントロールを備えているか、そうでなければより快適に座ることができます。ヤンマーがデンマークのモデルを作成したのはそのためです。ロキレスアニマルショーのStemasスタッフは、スタンドに収容されていた広い範囲全体に大きな関心を寄せることができました。Stemasスタンドの周りにいたのは、86,342人のゲストのアニマルショーの観客全員ではありませんでした。)

(エ)2つ目の写真(以下、「写真12」という。)及び同写真下の文章



(小型機に大注目。ヤンマーの新しいデンマーク風のミニショベルViO12が正式に検索されました。)

(オ)写真12より看取できる事項
写真12には、黄色と黒の2色のミニショベルが展示されている様子が、示されている。
上記(イ)及び(ウ)の記載、及び写真12下の注記を踏まえると、写真12は、ミュンヘンのバウマでの世界的なプレゼンテーションの後、ロスキレのショーにおいてデンマークデビューし、バウマまではヤンマーが完成をいじくり回していた、ジョイスティックコントロールを備えている、ヤンマーのViO12ミニ油圧ショベルであると理解される。
写真12には、ジョイスティックコントロールは視認できないが、ViO12ミニショベルの直近まで人が近づいて、実機に触れている様子が示されている。
写真12において、運転席及び運転席下の部材があった箇所の内部が前方及び上方に露出させた際に、内部の部材の後ろ上方に位置する、黄色い部材があることが看取される。当該黄色い部材の、日光が当たっている上面は、機体の他の黄色い部材に日光が当たっている箇所と略同色である。また、当該黄色い部材の、日光が当たっていない箇所は、黄色い部材の凹部裏側が全体として陰になっているために暗い黄色となっていると解すること合理的な色彩であり、当該黄色い部材は、色彩の明暗を踏まえて視認できる配置及び形状から、当該黄色い部材を前下方に回転すれば、露出している内部の部材を、日光が当たっていない凹部内に、運転席の下で格納するのに適した配置及び形状であることが、看取される。なお、当該黄色い部材の位置及び形状は、ヤンマーのViO12がジョイスティックコントロールを備える前の機種であるViO10について、後記甲14の写真14に示される、ボンネットをフルオープンして内部の部材を露出させた際、内部の部材に対して後上方に回転した位置となる、ボンネットの位置及び形状、並びに、公知日は不明であるが後記甲13における写真13−3に示される、ヤンマーのViO12において、ボンネットを後上方に回動した位置及び形状とも、整合する。

イ 甲12の内容が公知となった時期、及びロスキレでの発表について
上記ア(ア)に示される公開日から、甲12の内容は、本件出願より前の2016年6月24日に、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる。
上記ア(イ)及び(ウ)の記載が、既に行われたロスキレでのショーについて説明する内容であること、及び、上記ア(エ)の写真12がロスキレでのショーにおいて展示されたViO12を示すと理解できることから、本件出願より前の2016年6月24日以前に、ロスキレでのショーにおいて、甲12に示されるヤンマーのViO12ミニショベルが、少なくとも写真12に示される態様で展示されたと認められる。

(7)甲13
ア 記載事項
甲13中には、次の記載がある。
(ア)1頁右側の写真(以下、「写真13−1」という。)




(イ)2頁左上の写真(以下、「写真13−2」という。)




(ウ)2頁左下の写真(以下、「写真13−3」という。)




(エ)2頁左下の写真左横の説明の最後の文章
「A Large engine bonnet allows quick access to the main components」
(大きなエンジンボンネットにより、主要コンポーネントにすばやくアクセスできます。)

イ 甲13の内容が公知となった時期
甲13については、公知となった時期を示す記載はない。

(8)甲14
ア 記載事項
甲14には、次の記載がある。
(ア)1枚目左半分上方、及び右半分「要目」の表の「項目」
「YANMAR 後方小旋回ミニショベル Vio10」、「VIO10−2A」

(イ)1枚目右半分下方中央
「このカタログの仕様は、改良などにより、予告なく変更することがあります。」

(ウ)1枚目右半分下方右側
「2014年11月作成」

(エ)3枚目右半分中程の写真(以下、「写真14」という。)




(オ)写真14から看取される事項
ミニショベルにおける技術常識を踏まえると、写真14において、ボンネットを開くことで露出する部材の中にエンジンが含まれることは明らかであるから、写真14より、ボンネットを開くために回転する軸は、エンジンを含みボンネットを開くことで露出する部材より後方に配置される構成、ボンネットを開く回転方向は後ろ上方に向かってである構成、及び、ボンネットを開いた状態でボンネットが回転軸の箇所で支持される構成が、看取される。

イ 甲14の内容が公知となった時期
上記ア(ア)ないし(ウ)より、甲14は、ミニショベルVio10、すなわちVIO10−2Aについてのカタログであり、2014年11月に作成されたものと認められる。甲14における「Vio10」すなわち「VIO10−2A」は、甲2に示される「VIO10−2A」、甲12に示される「ViO10」と同じモデルに言及する表記であることは明らかであるから、以下では「ViO10」の表記を用いることとする。甲14中に頒布時期は記載されていないが、カタログが一般に販売のために広く頒布することを目的に作成されるものであることや、甲2及び甲12に示されるとおり、ミニショベルViO10は、2016年に発表されたViO12に関する従来機として、2016年には知られていたことからすると、ViO10について甲14に示される内容は、本件出願より前の2016年までには、公知となっていたと認められる。

(9)甲15
ア 記載事項
甲15は、FaceBookにおいて写真及び文章が投稿された頁を印刷したものであり、次の記載がある。以下、甲15における写真を、まとめて「写真15」という。



(ハーマンズマシーンズBV
2016年5月21日
来週のTKDでは、私たちが作成したKubota U10−3 ErgoControlも予定されています。このマシンはCE認定を受けており、ErgoControl操作、
油圧クイックチェンジ、解体ソーシング機能を備えています。さらに、このマシンはシステムがアップグレードされており、標準バージョンより35%多い追加機能のオイルを備えています。
詳細または見積もりについては、www.ergocontrol.euもご覧ください。」

イ 甲15の内容が公知となった時期
甲15において表示される「2016年5月21日」は、FaceBookの投稿日であるが、甲15に示される当該投稿日は、後記甲20に示される、甲15の投稿者であるHermans Machines BVが作成した、KubotaのU10−3 ErgoControlについての「Gebruikershandleiding」「versie1.0」(当審仮訳;「ユーザーマニュアル」「バージョン1.0」)に付された、「Mei 2016」(「2016年5月」)という時期と、整合する。また、甲15における文章の内容も、甲20のユーザーマニュアルに示される時期と近接した時期において、「私たちが作成したKubota U10−3 ErgoControl」について紹介するものであることを踏まえると、甲15の内容は、甲15中に表示される投稿日である2016年5月21に、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる。

(10)甲16及び甲17
甲16及び甲17は、FaceBookにおいて写真が投稿されたページを印刷したものであり、摘記は省略するが、機体に「Kubota U10−3 ErgoControl」との文字が付された作業機械の一部を示す写真が投稿されている。
甲16及び甲17における写真の投稿者は、甲15と同じく「Hermans MachinesBV」となっており、投稿日は、いずれも2015年2月23日と表示されている。

(11)甲18
甲18は、中古の作業機械を売買するWeb頁の内容を印刷した書面であり、オレンジ色のミニショベルの写真とともに、次の記載がある。
「Description
Good condition Kubota U10−3 Ergo Control Exavators manufactured in 2014 Located in USA and other countries. Click contact seller for more information.」
(良好な状態クボタU10−3エルゴコントロールショベル 2014年に製造。米国およびその他の国にあります。詳細については、販売者に連絡するをクリックしてください。)

(12)甲19
ア 記載事項
甲19は、U10−3 ErgoControlという製品を紹介する資料であり、次の記載がある。

(ア)表紙の上部
表紙の上部には、「HERMANS MACHINES VELNO」と記載され、電話番号が記載されるとともに、電話番号の横にホームページアドレスと解される「ergocontrol.eu」との記載がされ、表紙の写真のすぐ上には、「Kubota U10−3 ErgoControl」と記載されている。

(イ)表紙の写真(以下、「写真19−1」という。)




(ウ)申立人が四角囲いした1つ目の写真(以下、「写真19−2」という。)




(エ)申立人が四角囲いした2つ目の写真(以下、「写真19−3」という。)、及び同写真の直上の文章



(全開ボンネット
ボンネットの大きな開口部を介して、さまざまなメンテナンスポイントにすばやくアクセスできます。)

(オ)上記写真19−3の左側の写真(うち車両本体周辺部分;以下、「写真19−4」という。)




(カ)最終頁下方
最終頁の下方の中央部には、「HERMANS MACHINES BV」と記載され、その2行下に「5928 LD Velno(NL)」と記載され、その1行下には表紙と同じ電話番号が記載されている。

(キ)写真19−1ないし19−4より看取される事項
上記写真19−1、写真19−3及び写真19−4より、技術常識をふまえると、甲19に示されるU10−3 ErgoControlという製品は、下部走行体、下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体、機体の後部上に配置され機体後端部付近を軸に後方上方に回転して全開するボンネット、ボンネットの上に座面及び背もたれが設けられた運転席、を有する作業用車両であることが、看取される。
このような作業用車両について、エンジンを搭載することが技術常識であることをふまえると、上記写真19−3より、エンジンは機体上でボンネットの下に配置されていることが、看取される。
上記写真19−1、写真19−2及び写真19−4より、当該作業用車両は、ボンネット上には、運転席の両横に配置される部材が設けられ、該運転席の両横に配置される部材には、ひじ掛け状の部材とジョイスティックとが設けられ、運転席の左横に設けられる部材は、背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢と、背もたれ付近から略上方に延在する姿勢との、2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の根元部分を軸として回転可能であることが、看取される。
上記写真19−2より、運転席の左横に配置される部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、技術常識を勘案すると、ジョイスティックによる操作に適した姿勢となることが、看取される。また、運転席の左横に配置される部材が略上方に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれ付近から略後方に向かって突出し、技術常識を勘案すると、運転席への乗降の妨げとならない姿勢となることが、看取される。
上記写真19−2及び写真19−3より、ボンネットを開くために回転させる方向は、運転席の左横に配置される部材を略上方に延在する姿勢とするために回転させる方向と同じであることが、看取される。
このような作業用車両について、作業機を油圧システムで動かすことが技術常識であることをふまえると、上記写真19−2において看取される、運転席の左側に配置される部材の根元付近から出てボンネットの上面内に入る線状の部材、及び、上記写真19−3において看取される、運転席の左側に配置される部材の根元付近のボンネット上面裏側付近から、ボンネット内を写真左下方に延びる線状の部材は、油圧ホースであると理解できる。

イ 甲19の内容が公知となった時期について
上記ア(ア)及び(カ)より、甲19の作成者は、甲15の投稿者、及び後記甲20のユーザーマニュアルの作成者と同じ、HERMANS MACHINES BVであると認められる。
上記ア(ア)に示されるホームページを示すと解されるアドレスが、甲15に示されるアドレスと整合すること、及び、甲19の内容が、甲15の投稿日である2016年5月21日、及び後記甲20のユーザーマニュアルに示される「Mei 2016」(「2016年5月」)と近接した時期において、甲15に記載される「私たちが作成したKubota U10−3 ErgoControl」を紹介するものと整合的に理解できることを踏まえると、甲19の内容は、Hermans Machines BVが作成したKubota U10−3 ErgoControlについて、甲15の投稿日である2016年5月21日、及び後記甲20のユーザーマニュアルに付された2016年5月と近接した、本件出願日より前の2016年中には、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる。

ウ 甲19発明
上記アより、甲19には、次の発明(以下、「甲19発明」という。)が記載されている。

(甲19発明)
「下部走行体、下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体、機体の後部上に配置され機体後端部付近を軸に後方上方に回転して全開するボンネット、ボンネットの上に座面及び背もたれが設けられた運転席、を有する作業用車両であって
エンジンは機体上でボンネットの下に配置されており、
ボンネット上には、運転席の両横に配置される部材が設けられ、該運転席の両横に配置される部材には、ひじ掛け状の部材とジョイスティックとが設けられ、運転席の左横に配置される部材は、背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢と、背もたれ付近から略上方に延在する姿勢との、2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の根元部分を軸として回転可能であり、
運転席の左横に配置される部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、ジョイスティックによる操作に適した姿勢となり、
運転席の左横に配置される部材が略上方に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれ付近から略後方に向かって突出し、運転席への乗降の妨げとならない姿勢となり、
ボンネットを開くために回転させる方向は、運転席の左横に配置される部材を略上方に延在する姿勢とするために回転させる方向と同じであり、
運転席の左側に配置される部材の根元付近から出てボンネットの上面内に入る油圧ホースは、運転席の左側に配置される部材の根元付近のボンネット上面裏側付近から、ボンネット内を延びる、
作業用車両。」

(13)甲20
ア 記載事項
甲20は、U10−3 ErgoControlという製品に関する資料であり、次の記載がある。
(ア)表紙
甲20の表紙には、オレンジのミニショベルの写真より上に「Kubota」、「Gebruikershandleiding」(当審仮訳;「ユーザーマニュアル」)、「U10−3 ErgoControl」、「Origineel document versie 1.0」(当審仮訳;「オリジナル文書 バージョン1.0」)、「Machine nr.:」(当審仮訳;「機体番号:」)との記載がある。
また、ミニショベルの写真の下に、「Hermans Machines BV」と記載がある。

(イ)4頁の図面




(ウ)図番9の名称
上記(イ)の図の図番9について、4頁には次の記載がある。
「9. Afgeschermde hydrauliekslangen.」
(シールド油圧ホース)

(エ)最終頁下方
最終頁の下方には、「Mei 2016」(当審仮訳;「2016年5月」)と記載されている。

イ 甲20の内容が公知となった時期について
上記ア(ア)より、甲20は、甲15の投稿者と同じHermans MachinesBVが、甲15の投稿で紹介した「私たちが作成したKubota U10−3 ErgoControl」について、「ユーザーマニュアル」として、機体番号をそれぞれ記入可能としたうえで、ユーザーに配布するために、上記ア(エ)に示される2016年5月に作成されたものであり、甲20の内容は、甲15の投稿日である2016年5月21日、及び甲20中に付された2016年5月と近接した、本件出願日より前の2016年中には、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる。

(14)甲21
ア 記載事項
甲21は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。
(ア)「【0015】
【発明の実施の形態】以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0016】図1は、本発明に係る建設機械としての油圧ショベルの全体構成を示したものである。同図において、油圧ショベル1は、下部走行体2の上部に小旋回タイプの上部旋回体3が旋回自在に搭載されており、その上部旋回体3の旋回フレーム4前部には、ブームシリンダ5aで駆動するブーム5、アームシリンダ6aで駆動するアーム6及びバケットシリンダ7aで駆動するバケット7で構成された掘削アタッチメント8が装備されている。
【0017】一方、旋回フレーム4後部にはガードカバー9が配置され、このガードカバー9内にエンジンE、図示しない冷却系、排気系、油圧機器等が収納されている。また、ガードカバー9の天板部9aには操縦座席10が固定されており、この操縦座席10に着座したオペレータは、複数のピラー11で支持されたキャノピー12で保護されるようになっている。なお、13は操縦座席10の左側(オペレータの乗降側)に配置された操作レバーである。
【0018】図2は上記操縦座席10部分を拡大して示したものである。同図において、9cはガードカバー9の天板9aの一部としてのスタンドカバーであり、このスタンドカバー9c上に操縦座席10が固定されている。スタンドカバー9cは略長方形のプレートからなり、その前縁部9c′はヒンジ9dを介してガードカバー前板(前面)9eの上縁部9e′と連結されている。
【0019】スタンドカバー9cの左側には操作レバー13を含むコントロールボックス14が装備されており、スタンドカバー9cを矢印C方向に開くと、ヒンジ9dを支点としてスタンドカバー9cが回転し、スタンドカバー9cに固定されているコントロールボックス14が一体に回転するようになっている。このようにスタンドカバー9cを前方に開くのは、主にエンジンEをメンテナンスする場合である。
【0020】操作レバー13で操作されるリモコン弁(制御弁)15から延びる複数本のパイロットホース(油圧ホース)21は、垂下されてコントロールボックス14から引き出され、ガードカバー9内に設けられたダクト22内に導かれる。
【0021】なお、14aはコントロールボックス14の後部に形成される回動支点であり、16は乗降レバーである。この乗降レバー16を操作することにより、回動支点14aを中心としてコントロールボックス14を後方に跳ね上げるのは、オペレータが乗降する場合である。
【0022】図3は上記ダクト22とその内部に挿通されるパイロットホース21との関係を示したものである。同図(a)はコントロールボックス14が通常位置にあるときの操作レバー位置を示し、同図(b)は通常の操作レバー位置(図中D位置)、後方跳ね上げ時の操作レバー位置(図中E位置)、及び前方跳ね上げ時の操作レバー位置(図中F位置)をそれぞれ示している。
【0023】図3(a)において、ダクト22はU字状に成形された樹脂製筒体からなり、オペレータから見て右側に位置する縦方向筒部の上端開口22aには右操作レバー25で操作されるリモコン弁26から延設されるパイロットホース27が挿入され、一方、左側に位置する上端開口22bにはリモコン弁15から延設されるパイロットホース21が挿入される。
【0024】ダクト22の各上端開口22a及び22bから挿入されたパイロットホース27及び21は、ダクト22の横方向筒部に沿ってダクト22中央に集められ、ダクト22下部中央に形成された横長の開口22cから引き出されるようになっている。引き出されたパイロットホース27,21は、旋回フレーム4上の所定の位置に設けられているコントロールバルブ(図示しない)のパイロットポートに接続される。
【0025】図4(a)〜(d)は上記ダクト22の形状を詳細に示したものであり、同図(a)は平面図、同図(b)は左端面図、同図(c)は正面図、同図(d)は右端面図である。同図において、ダクト22の横方向右筒部22dについてはパイロットホース21を収納した状態で上方に遊び空間S1が形成されるようになっており、また、縦方向右筒部22eについてもパイロットホース21を収納した状態で内側に遊び空間S2が形成されるようになっている。
【0026】一方、ダクト22の横方向左筒部22fについては、遊びが少ない状態でパイロットホース27を収納している。なぜなら、非乗降側における操作レバー25で操作されるリモコン弁26については固定されており、パイロットホース27の上下動を考慮する必要がないからである。ただし、例えば補助乗降口を設けたり、開閉するスタンドカバー9cについて所定のサイズを確保したい等の理由により、操作レバー25側のコントロールボックスについても跳ね上げ構成(前後方向に)とする場合には、左筒部22fを右筒部22d,22eと同様の構成、すなわち、ダクト22を左右対象の構成とする。
【0027】また、縦方向右筒部22dの開口22bは、パイロットホース21の挿入が容易なように幅広に形成されており、また、前面22gはガードカバー前板9dに沿うことができる傾斜面で構成され、下部開口22cはパイロットホース21及び27を中央に集合させて引き出すことができるようにダクト幅L1よりも短い長さL2に形成され、且つ開口22bよりも開口面積が絞られている。
【0028】上記構成を有するパイロット配管構造では、図3(b)に示したように、コントロールボックス15の操作レバー13が、通常位置(図中D位置)から後方跳ね上げ位置(図中E位置)または前方跳ね上げ位置(図中F位置)に跳ね上げられ、リモコン弁15から延びるパイロットホース21が上方に引き寄せられると、図4(c)に示したように、ダクト22内で屈曲していたパイロットホース21が直線状に変位して遊びがなくなり、上下動が吸収される。また、操作レバー13が通常位置に復帰されると、パイロットホース21がダクト22のL字状部で再度屈曲状態に復帰する。
【0029】また、ダクト22はガードカバー9内の前側、すなわち、油圧配管やエンジン配管と干渉しない部位に設けられているため、パイロットホース21の引き回しが簡単に行なえるようになっている。また、ガードカバー9の前面を着脱自在に構成すれば、パイロットホース21のメンテナンス等を容易に行なうことができるようになる。」

(イ)図1ないし図3には、次の図示がある。






(ウ)上記図1ないし図3より、次の事項が看取される。
・上記図1及び図2より、スタンドカバー9cは、エンジンEより前方に配置されたヒンジ9dを支点として、回転して開閉することが、看取される。
・上記図2より、コントロールボックス14を後方に跳ね上げる回動支点14cは、スタンドカバー9cの上方に配置されていることが、看取される。また、スタンドカバー9cは、図2に示される状態から、ヒンジ9dを支点として前方に回転することが明らかであることを踏まえると、図2及び図3(b)より、コントロールボックス14が後方に跳ね上げられる際、スタンドカバー9cは後方に回転せず、コントロールボックス14はスタンドカバー9cに対して回転することが、看取される。
・上記図2及び図3より、コントロールボックス14から引き出されたパイロットホース21は、スタンドカバー9cの前端近傍からガードカバー9内に入り、ガードカバー9内の前側に設けられているダクト22内に導かれることが、看取される。

イ 甲21発明
上記アより、甲21には、次の発明(以下、「甲21発明」という。)が記載されている。
(甲21発明)
「下部走行体2の上部に上部旋回体3が旋回自在に搭載された油圧ショベル1であり、
上部旋回体3の旋回フレーム4後部にはガードカバー9が配置され、ガードカバー9内にエンジンE、油圧機器等が収納され、
ガードカバー9の天板9aの一部としてのスタンドカバー9c上に操縦座席10が固定され、スタンドカバー9cは略長方形のプレートからなり、その前縁部9c′はヒンジ9dを介してガードカバー前板(前面)9eの上縁部9e′と連結されており、
スタンドカバー9cは、エンジンEより前方に配置されたヒンジ9dを支点として、回転して開閉し、
スタンドカバー9cの左側には操作レバー13を含むコントロールボックス14が装備されており、スタンドカバー9cを開くと、ヒンジ9dを支点としてスタンドカバー9cが回転し、スタンドカバー9cに固定されているコントロールボックス14が一体に回転するように、スタンドカバー9cが前方に開き、
操作レバー13で操作されるリモコン弁(制御弁)15から延びるパイロットホース(油圧ホース)21は、垂下されてコントロールボックス14から引き出され、スタンドカバー9cの前端近傍からガードカバー9内に入り、ガードカバー9内の前側に設けられているダクト22内に導かれ、
オペレータが乗降する場合、コントロールボックス14の後部に形成される回動支点14aを中心として、通常位置からコントロールボックス14を後方に跳ね上げることができ、コントロールボックス14を後方に跳ね上げる回動支点14cは、スタンドカバー9cの上方に配置されており、コントロールボックス14が後方に跳ね上げられる際、コントロールボックス14はスタンドカバー9cに対して回転し、
ダクト22の上端開口22bから挿入されたパイロットホース21は、ダクト22の横方向筒部に沿ってダクト22中央に集められ、ダクト22下部中央に形成された開口22cから引き出され、旋回フレーム4上の所定の位置に設けられているコントロールバルブのパイロットポートに接続され、
ダクト22はガードカバー9内の前側に設けられているため、パイロットホース21の引き回しが簡単に行なえる、
油圧ショベル1。」

(15)甲22
甲22は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。
ア 「








(16)甲23
甲23は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。




(17)甲24
甲24は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。




(18)甲25
甲25は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。

ア 「【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図13、図14において、1は作業機(旋回作業機)として例示するバックホーである。
作業機1は、機体(車体)2と、走行装置3と、作業装置4とを備えている。
・・・・
【0011】
機体2は、走行装置3のフレーム上に支持された旋回台6を有している。・・・・
【0012】
旋回台6上の後部には、エンジンルームが設けられている。エンジンルームには、エンジンE、油圧ポンプ、エアクリーナ等が配置されている。エンジンルームの前側は、仕切壁11Aによって運転席8と仕切られている。エンジンルームの後側は、リアボンネット10Aによって覆われている。エンジンルームの左側は、左カバー体10Bによって覆われている。
【0013】
旋回台6上の右部には、タンクルームが設けられている。タンクルームには、作動油タンクT、コントロールバルブQ、ラジエータ等が配置されている。タンクルームの左側は、仕切壁11Bによって運転席8と仕切られている。タンクルームの上側、前側及び右側は、右カバー体10Cによって覆われている。
・・・・
【0016】
図1、図2等に示すように、操縦台21上には、左操縦装置22及び右操縦装置23が搭載されている。左操縦装置22は、運転席8の左側方に設けられている。右操縦装置23は、運転席8の右側方に設けられている。
図1に示すように、操縦台21は、略平坦な上面部21Aと、左脚部21L及び右脚部21Rとを有している。上面部21Aの下方で且つ左脚部21Lと右脚部21Rの間は、前面が開放された収納空間21Bとなっている。収納空間21Bには、エアコン装置K1、電気ボックスK2等が収納されている。電気ボックスK2には、交換用の電気部品等(ヒューズ、リレー等)が収納されている。
【0017】
操縦台21の上面には、載置部21a、21b、21cが形成されている。載置部21aには運転席8が搭載されている。載置部21bには左操縦装置22が搭載されている。載置部21cには右操縦装置23が搭載されている。
・・・・
【0020】
図3〜図9に示すように、左操縦装置22は、操縦ボックス26と、カム体33と、アンロードレバー31とを有している。
操縦ボックス26は、支持ブラケット25に対して回動自在に枢支されている。
図4〜図9に示すように、支持ブラケット25は、水平向きに配置された取付部25Aと、この取付部25Aから立ち上げられた支持部25Bとを有している。取付部25Aは、操縦台21の上面部21Aに固定されている。
・・・・
【0022】
操縦ボックス26の取付板26cには、左側操縦バルブ28の装着部26Aが形成されている。装着部26Aには左側操縦バルブ28が装着される。装着部26Aは、右前部が開放された略半円形の開口26Bを有している。これにより、運転席8側である前右方から装着部26Aの開口26Bに左側操縦バルブ28を装着することができる。左側操縦バルブ28は、旋回・アーム操作用のパイロットバルブであり、左操作レバー30によって操作される。左操作レバー30は、操縦ボックス26の装着部26Aの上部に取り付けられている。
【0023】
支持ブラケット25の支持部25Bには、横方向(機体幅方向)に延びる第1横軸27が設けられている。操縦ボックス26の後下部には、ボス部26Cが設けられている。ボス部26Cは、左板材26aと軸受板26dとを繋ぐように、横方向(機体幅方向)に延びている。ボス部26Cは、第1横軸27の外周に回動自在に嵌められている。これにより、操縦ボックス26は、第1横軸27を支点として(第1横軸27回りに)、回動自在に支持されている。」

イ 「【0044】
以下、左操縦装置22の回動操作について詳しく説明する。
左操縦装置22は、図7、図8に示す状態が作業機1で作業をする際の使用位置(通常作業位置)とされる。この使用位置において、第1当接機構41により操縦ボックス26の第1横軸27回りの下方への回動が規制され、左操縦装置22が使用位置に保持されている。具体的には、第1当接部材41Bが第1当接板70に当接することにより、左操縦装置22が使用位置に保持されている。
【0045】
使用位置では、ガイドピン35は第1カム溝34Aの基端(後端)に位置している。また、アンロードレバー31は、ストッパ54によって下方(図8の反時計回り方向)への回動が規制されている。レバー部31Aは、引っ張りバネ50によって、第3横軸36を支点として上方(図8の時計回り方向)に付勢されている。これにより、連結ピン40は長穴52の下部の第1位置52Aに保持される。
【0046】
この使用位置では、回動検出装置55はオンとなっており、アンロードレバー31の上方回動を検出していない。つまり、アンロードレバー31はアンロード解除位置にある。この状態においては、旋回・アーム用の左操作レバー30を操作することにより、旋回台6の旋回とアーム15の昇降とが作動可能とされると共に、ブーム・バケット用の右操縦装置23による操作が作動可能とされる。
【0047】
使用位置からアンロードレバー31を上方(図8の時計回り方向)に回動すると、アンロードレバー31の連結部52と連結されたカム体33が第2横軸32を支点として上方に回動する。このカム体33の回動に伴って、ガイドピン35は、カム体33に対して相対的に移動し、第1カム溝34Aから第2カム溝34Bに移動し、第1横軸27の軸心を中心とする円弧溝の第2カム溝34Bに係合する。これにより、操縦ボックス26の第1横軸27回りの上方への回動が許容され、当該回動が開始される。操縦ボックス26が上方に回動すると、回動検出装置55がオフになって、アンロードレバー31によるアンロード状態を検出する。アンロードレバー31がアンロード状態になった後に、さらに操縦ボックス26と共に上方へ回動することにより、左操縦装置22は図11に示す上方回動位置(回避位置)となる。この上方回動位置では、左操縦装置22は乗降口20を広くするように上方に退避している。
【0048】
この左操縦装置22が上方回動位置にある状態では、旋回・アーム用の左操作レバー30を操作しても、旋回台6とアーム15とが作動不能とされる。また、ブーム・バケット用の右操縦装置23を操作しても、ブーム14とバケット16とが作動不能とされる。
前記使用位置から上方回動位置(回避位置)へアンロードレバー31を引き上げる操作の際には、ガスシリンダ39が伸長する。ガスシリンダ39は、最大伸長状態となるまで、操縦ボックス26を第1横軸27回りに上方に回動させる動作を補助する。そして、第2当接機構42の第2当接部材42Bが、左板材26aに固着された第2当接板56に当接することによって、左操縦装置22は回避位置に保持される。」

ウ 図1、図4、及び図13には、次の図示がある。






エ 上記段落【0022】及び【0023】の記載をふまえると、上記【図4】より、左操作レバー30によって操作される旋回・アーム操作用のパイロットバルブである左側操作バルブ28に接続されるホース状の部材について、操縦ボックス26が回動自在に支持される第1横軸27の近傍で、バンド状の部材により固定されている様子が、看取される。

(19)甲26
甲26は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。

ア 「【0037】
以下、本発明を図1乃至図4に示された第1の実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0038】
図4は、作業機械としての建設機械である油圧ショベル1である。この油圧ショベル1は、自走可能な無端状の履帯2を有する下部走行体3の上側に旋回部4を介して被可動部としての可動対象である上部旋回体5が旋回可能に取り付けられている。そして、これら下部走行体3、旋回部4および上部旋回体5によって作業機械本体6が構成されている。
・・・・
【0042】
一方、上部旋回体5上の前側には、油圧ショベル1を操作する作業者としての運転手であるオペレータが乗り込む操作空間としてのキャビンであるボックス状のキャブ20が設けられている。このキャブ20は、ブーム12より左側の上部旋回体5上に設けられている。そして、このキャブ20の底部には、このキャブ20の底面部を構成する平坦なフロア21が設けられている。さらに、このキャブ20のフロア21上には、このキャブ20内の気温や空気を清浄などする空気清浄装置としてのエアコンユニット22が取り付けられている。このエアコンユニット22は、キャブ20内の後側のフロア21上に取り付けられている。
【0043】
そして、このエアコンユニット22よりも前側のキャブ20内のフロア21上には、オペレータが着座する座席としての運転席であるシート23が取り付けられている。このシート23は、オペレータが着座する略矩形平板状の座板部24を備えている。この座板部24の後端部には、この座板部24に着座したオペレータの背凭れとなる背凭部25が取り付けられている。
【0044】
さらに、シート23の座板部24の下方であるフロア21上には、このフロア21上に固定された平坦なボックス状の支持部材としてのシートサポート26が取り付けられている。このシートサポート26は、シート23をフロア21上に支持するとともに、エアコンユニット22にて温度調整されて清浄された空気をキャブ20内の前側へと送風させるダクトとしての送風機能を有している。そして、このシートサポート26上には、水平方向に沿ったスライド部としての細長レール状の一対のスライドレール27が取り付けられている。これらスライドレール27は、シートサポート26に対してシート23を水平方向である前後方向に沿って調整可能にさせる調整部材である。
【0045】
そして、これらスライドレール27は、シートサポート26上に長手方向に沿って固定された細長レール状の一対のスライドロアとしてのロアレール28を備えている。これらロアレール28のそれぞれには、スライドアッパとしての細長レール状のアッパレール29が前後方向に沿って移動可能に取り付けられている。そして、これらアッパレール29は、シート23を鉛直方向である上下方向に沿って調整可能とさせるシート調整ユニットとしての移動台座であるハイトライザ31の下面に前後方向に沿って取り付けられている。
【0046】
このハイトライザ31は、一対のスライドレール27によってフロア21に対してシート23を前後方向に調整可能にしている。そして、このハイトライザ31上には、シート23の座板部24の下面を対向させた状態で、このシート23が取り付けられて固定されている。すなわち、このハイトライザ31は、このハイトライザ31に設けられている図示しないレバーを操作することによって、このハイトライザ31自体の高さが変化して、このハイトライザ31上のシート23を上下方向に沿って高さ調整させる。
【0047】
さらに、このハイトライザ31の両側には、コンソール部材としてのコンソールボックス32がそれぞれ取り付けられている。これらコンソールボックス32は、ハイトライザ31によるシート23の上下方向への高さ調整によって、これらコンソールボックス32も連動して上下方向に沿って高さ調整されるように構成されている。また、これらコンソールボックス32は、スライドレール27の前後方向に沿った移動によって前後方向に調整可能とされている。そして、これらコンソールボックス32それぞれの前側の上側部には、油圧ショベル1のフロント作業装置19などを操作する操作器としての操作手段である操作レバー33が取り付けられている。
【0048】
さらに、これら操作レバー33の下側である各コンソールボックス32の内部には、図1に示すように、例えば2対、計4個の流量制御弁としてのリモコン弁であるパイロット弁と入力(IN)とドレーン(OUT)とを加えて計6つのポートを備えたパイロット弁装置34がそれぞれ取り付けられている。これらパイロット弁装置34の各操作バルブであるパイロット弁それぞれには、図示しないメインポンプに接続されたパイロットポンプからパイロット油が供給されて所定のパイロット一次圧が伝達される。また、パイロット弁装置34の各パイロット弁は、操作レバー33の前後方向あるいは左右方向のいずれかの移動操作によりパイロット一次圧を制御してパイロット二次圧を出力する。そして、これら一対のパイロット弁のそれぞれには、パイロット操作用の油圧ホースである細長ホース状の接続ラインとしてのパイロットホース35の一端側である上端側が接続されている。」

イ 「【0057】
次に、図1乃至図4に示された第1の実施の形態の作用効果を説明する。
【0058】
まず、油圧ショベル1のキャブ20内のシート23に着座するオペレータの体型に合わせて、このシート23とともにコンソールボックス32を前後調整する場合には、ハイトライザ31をシートサポート26に対して前後移動させる。
【0059】
このとき、このハイトライザ31の前後方向への移動に伴って、このハイトライザ31に固定されているサポートブラケット39が前後方向に移動する。
【0060】
そして、このサポートブラケット39の前後方向への移動に伴って、各パイロットホース35の第1のホース36のフロアブラケット38からサポートブラケット39まで間の水平方向に弓状に湾曲して弛まされた部分が移動して伸びたり弛んだりする。
【0061】
このとき、これら各パイロットホース35の第2のホース42それぞれは、サポートブラケット39と操作レバー33の各パイロット弁装置34との間に取り付けられているため、このサポートブラケット39の前後方向への移動では移動しない。
【0062】
したがって、このサポートブラケット39の前後方向に伴う各パイロットホース35の変化、すなわち弛みや伸びなどの動きが、これら各パイロットホース35の第1のホース36のフロアブラケット38からサポートブラケット39まで間の弓状に湾曲している部分のみによって吸収される。
【0063】
次いで、油圧ショベル1のキャブ20内のシート23とともにコンソールボックス32を上下調整する場合には、ハイトライザ31のレバーを操作して、このハイトライザ31自体の高さを変化させて、このハイトライザ31に取り付けられているシート23とともにコンソールボックス32を上下方向に移動させる。
【0064】
このとき、このハイトライザ31自体の高さ変化に伴って、各パイロットホース35の鉛直方向に弛まされた第2のホース42が上下方向に移動して伸びたり弛んだりする。
【0065】
さらに、これら各パイロットホース35の第1のホース36それぞれは、キャブ20内のフロア21上とスライドレール27のアッパレール29に固定されたサポートブラケット39との間に取り付けられているため、このハイトライザ31自体の高さ変化に伴って上下方向に移動しない。
【0066】
したがって、このハイトライザ31自体の高さ変化に伴う各パイロットホース35の変化、すなわち弛みや伸びなどの動きが、これら各パイロットホース35の第2のホース42のみによって吸収される。
【0067】
次いで、油圧ショベル1のキャブ20へのオペレータの乗り降りの際の通路を確保するためなどに、このキャブ20内のコンソールボックス32が邪魔で、これらコンソールボックス32を後側に向けて回転させて跳ね上げた場合には、これらコンソールボックス32の前側を上方に向けて回転させる。
【0068】
このとき、これらコンソールボックス32の後側への跳ね上げに伴って、各パイロットホース35の鉛直方向に弛まされた第2のホース42が上下方向に移動して伸びたり弛んだりする。
【0069】
さらに、これら各パイロットホース35の第1のホース36それぞれは、キャブ20内のフロア21上と、スライドレール27のアッパレール29に固定されたサポートブラケット39との間に取り付けられているため、各コンソールボックス32の後側への跳ね上げに伴って移動しない。
【0070】
したがって、これらコンソールボックス32の後側への跳ね上げに伴う各パイロットホース35の変化、すなわち弛みや伸びなどの動きが、これら各パイロットホース35の第2のホース42のみによって吸収される。
【0071】
上述したように、上記第1の実施の形態によれば、これらコンソールボックス32の前後調整による前後方向の移動に伴うパイロットホース35の変化を吸収する部分と、これらコンソールボックス32の高さ調整および跳ね上げによる上下方向の移動に伴うパイロットホース35の変化を吸収する部分とを、水平方向に弛んだ第1のホース36と鉛直方向に弛んだ第2のホース42とに分けた。したがって、これらコンソールボックス32の移動に伴う操作レバー33の上下方向および前後方向への移動時の第1のホース36および第2のホース42それぞれの振れ量である動き代が少なくなる。」

ウ 図1には、次の図示がある。




(20)甲27
甲27は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。
「【0020】
次に本実施形態の作用を説明する。図3はオペレータが運転席を離れた状態の油圧ショベルの側面図である。図のように運転席dの側方に設けられたコンソールeが跳ね上げられた状態で、走行レバー31は自動的に前傾し、ほぼ垂直になるので、オペレータは容易に運転席dに乗り降りすることができる。すなわち、オペレータが油圧ショベルの運転席から降りようとしてコンソールeを跳ね上げると、図5のソレノイド弁kが働いてパイロット油圧ポンプjからの圧油はロックされ、パイロット弁30内の圧油はタンクnにリターンして弁内の圧力は0になり、前方のスプール8を押し下げるプッシャー21のピストン23内の圧力も0になる。後方のスプール8を押し下げるプッシャー22の中間に位置するバネ22bは、前記ピストン23内の圧力が高くピストン23が伸びた状態では縮んでいるが、ピストン23内の圧力が0になると伸びてカム4を介してピストン23を縮める。そのとき走行レバー31は前傾した状態になる。」

(21)甲28
ア 記載事項
甲28は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。

(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
・・・・
【0013】
一方、ボンネット12とその横に設けたコンソールボックスとを別々に回動させる公知技術の2では次の欠点があった。
【0014】
(I)ボンネット用とコンソールボックス用の二つの回動機構を設けなければならないため、構造が複雑化しコストが高くなる。
【0015】
(II)コンソールボックスを設ける分、ボンネットを開いた状態での開口面積(メンテナンス口)が小さくなるため、メンテナンスに不利となる。
【0016】
(III)運転席とコンソールボックスがそれぞれの回動時に干渉しないという制限を受けるため、両者の設計の自由度が狭くなる。
【0017】
そこで本発明は、運転席からの操作レバーの操作性が良く、しかも回動機構をボンネット用の一つのみとして構造を簡略化できるとともに、メンテナンス口を広げてメンテナンス性を改善でき、かつ、設計の自由度を広げることができる建設機械を提供するものである。」

(イ)「【発明の効果】
【0023】
本発明によると、運転席とコンソールボックスとをボンネット上に並設して一体に回動させる構成としたから、コンソールボックスの操作レバーに対する操作性を改善することができる。
【0024】
しかも、回動機構がボンネット用の一つですむため、構造が簡単で低コストですむ。
・・・・
【0026】
請求項2〜4の発明によると、エンジンルーム内とコンソールボックス内の油圧、電気機器同士を接続するホース類(油圧ホース及び電気配線)が、エンジンルームから出てコンソールボックスに向かうつなぎ部分で、ボンネット軸の近傍でボンネット軸を中心とする回動運動、すなわち、伸び縮み量が最小限ですむ回動運動(屈伸運動)を行うため、伸び縮みを吸収するための機構(たとえばホースリール)や、伸び縮みによるホース類と構造物の干渉を避ける構造を付加する必要がない。このため、ホース類配索のための構造が簡単となるとともに、ホース類が傷むおそれがない。
【0027】
すなわち、コンソールボックスをボンネットと一体に回動させることによって生じるホース類の問題を解決することができる。」

(ウ)「【発明を実施するための形態】
・・・・
【0034】
実施形態では、背景技術の説明に合わせてミニショベルを適用対象としている。
【0035】
この実施形態において、
(i)クローラ式の下部走行体21上に上部旋回体22が旋回自在に搭載され、この上部旋回体22に、ブーム23、アーム24、バケット25及びこれらを駆動する各油圧シリンダ(ブームシリンダ、アームシリンダ、バケットシリンダ)26〜28から成る作業アタッチメント29が装着されてミニショベルが構成される点、
(ii)上部旋回体22を構成するアッパーフレーム30の後部に、左右のサイドパネル(片側のみ図示)31、ボンネット32等で囲われて上面及び後面が開口するエンジンルーム33が設けられ、図示しないエンジンをはじめとする機器類がこのエンジンルーム33に収容される点、
(iii)ボンネット32は、図2〜図4に詳しく示すように、エンジンルーム33の上面側を覆う上面部32aと、後面側を覆う後面部32bとから成るL字形に形成され、前端部に設けられたボンネット軸(ヒンジ)34を中心に回動して上面及び後面両開口部を開閉する状態でアッパーフレーム30に取付けられる点
は、図8,9に示す公知のミニショベルと同じである。
【0036】
実施形態においては、運転席35と左右両側コンソールボックス36(片側のみ図示)とがボンネット32(上面部32a)上に並設され、これらがボンネット32と一体に回動するように構成されている。
【0037】
コンソールボックス36は、作業用の操作レバー37とこれによって操作されるリモコン弁(油圧機器)、及び図示しない電気機器(スイッチ類やモニタパネル等)を内蔵し、ボンネット上における運転席35を挟んだ左右両側に設けられている。
・・・・
【0039】
しかも、回動機構がボンネット32用の一つですむため、構造が簡単で低コストですむ。
【0040】
また、メンテナンス口(エンジンルーム33の上面、後面両開口部)をボンネット32によって大きく開口させることができるためメンテナンスに有利となる。
・・・・
【0043】
ボンネット支持フレーム38は、左右の支柱40,41と、この両支柱40,41の上端間に架け渡された横梁42とから成る門形のフレーム体として形成され、エンジンルーム33の前端部においてエンジンルーム33をほぼ横断する状態で両支柱40,41の下端がアッパーフレーム30の底面に直接または取付部材を介して取付けられている。
・・・・
【0045】
こうして、ボンネット支持フレーム38とサポート部材39とを合わせたボンネット支持装置の全体形状が平面視左右逆向きのJ字形で側面視門形に構成され、ボンネット支持フレーム38によってボンネット32の前端部がボンネット幅方向の大部分の長さ範囲に亘って支持される。
・・・・
【0050】
一方、コンソールボックス36内に設けられた図示しない油圧、電気機器(油圧機器としてリモコン弁、電気機器としてスイッチ類やモニタパネル等)と、エンジンルーム33内に設けられた油圧、電気機器(油圧機器としてコントロールバルブ50、電気機器として図示しないコントローラやバッテリ)との間で油圧、電気の授受を行う油圧ホース及び電気配線(総称してホース類という)51が、エンジンルーム33とコンソールボックス36との間に設けられる。
【0051】
ここで、このショベルにおいては、左右のコンソールボックス36がボンネット32と一体に回動するため、ホース類51もボンネット開閉に応じて回動運動を行うことになる。
・・・・
【0055】
なお、ホース類51は、支柱内外で図示しないバンド等によって支柱40,41に保持される。
・・・・
【0057】
この場合、ホース類51は、図5(分かり易くするためにサポート部材39の図示を省略している)に示すように、エンジンルーム33から出てコンソールボックス36に向かうつなぎ部分51jが、側面視でボンネット軸34の軸心またはその近傍を通り、ボンネット開閉時にボンネット軸34を中心とする回動運動を行う径路で配索されている。
【0058】
この配索構造によると、ボンネット開閉に伴うホース類51(つなぎ部分51j)の伸び縮み量が最小限ですむため、伸び縮みを吸収するための機構(たとえばホースリール)や、伸び縮みによるホース類51と構造物の干渉を避ける構造を付加する必要がない。このため、ホース類配索のための構造が簡単となるとともに、ホース類51が過大な力によって傷むおそれがない。
【0059】
すなわち、コンソールボックス36をボンネット32と一体に回動させることによって生じるホース類51の問題を解決することができる。
【0060】
この場合、ボンネット32の前端部を支持するボンネット支持フレーム38の両側支柱40,41によってホース類51を配索案内するため、ホース類51の配索が容易となるとともに、ホース類51を保護することができる。」

(エ)図2、図3及び図5には、次の図示がある。






イ 甲28発明
上記アより、甲28には、次の発明(以下、「甲28発明」という。)が記載されている。
「下部走行体21上に上部旋回体22が搭載されたミニショベルであって、
上部旋回体22を構成するアッパーフレーム30の後部に、左右のサイドパネル31、ボンネット32で囲われて上面及び後面が開口するエンジンルーム33が設けられ、
ボンネット32は、エンジンルーム33の上面側を覆う上面部32aと、後面側を覆う後面部32bとから成るL字形に形成され、前端部に設けられたボンネット軸(ヒンジ)34を中心に回動して上面及び後面両開口部を開閉する状態でアッパーフレーム30に取付けられ、
運転席35と左右両側コンソールボックス36とがボンネット32上に並設され、これらがボンネット32と一体に回動し、回動機構がボンネット32用の一つですみ、
コンソールボックス36は、操作レバー37を内蔵し、
ボンネット支持フレーム38は、左右の支柱40,41と、この両支柱40,41の上端間に架け渡された横梁42とから成る門形のフレーム体として形成され、エンジンルーム33の前端部においてエンジンルーム33をほぼ横断する状態で、ボンネット支持フレーム38によってボンネット32の前端部がボンネット幅方向の大部分の長さ範囲に亘って支持され、
コンソールボックス36内に設けられた油圧、電気機器と、エンジンルーム33内に設けられた油圧、電気機器との間で油圧、電気の授受を行う油圧ホース及び電気配線(総称してホース類)51が、エンジンルーム33とコンソールボックス36との間に設けられ、
ホース類51は、バンド等によって支柱40,41に保持され、エンジンルーム33から出てコンソールボックス36に向かうつなぎ部分51jが、側面視でボンネット軸34の軸心またはその近傍を通り、ボンネット開閉に伴うホース類51(つなぎ部分51j)の伸び縮み量が最小限ですむ、
ミニショベル。」

(22)甲29
甲29は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。
ア 「【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図6〜8において、符号20は旋回作業機としてのバックホーを示しており、バックホー20はクローラ式走行装置21に旋回軸22を介して旋回台2を旋回自在に支持しており、この旋回台2上にエンジン3、油圧ポンプ4、作動油タンク5及びコントロールバルブ6等の上部構造物を搭載し、運転席23の前方の旋回台2前部に掘削装置24を配置している。
・・・・
【0013】
作動油タンク5は基台25に固定された取付台38上にボルト固定されており、図2に示すように、その前面にブラケット39を介してコントロールバルブ6を着脱自在に装着している。
コントロールバルブ6は手動式、電磁式又はパイロット圧式の多数のバルブ単位体を上下方向に併設して縦長にし、それらに油路を貫通形成したものであり、スプールは左右方向に向けられている。
3連式の油圧ポンプ4は、作動油タンク5から吸引した作動油を複数本(3本)のデリバリホース7を介してコントロールバルブ6へ供給し、コントロールバルブ6から掘削装置24のアクチュエータ、クローラ式走行装置21の油圧モータ及びアクチュエータ等へ圧油を供給するとともに、運転席23の近傍に設けられる操縦装置40のパイロットバルブへパイロット圧油を提供する。
・・・・
【0018】
前記支持体9は帯板で形成してその両端に防振材11を設け、両防振材11の間にクランプ部材8及び装着具44を配置して直線配列にすることも考えられるが、前記のように、防振材11とクランプ部材8とを前後方向にずらした配列にする方が、クランプ装置1の上下方向の寸法が短くなるとともに、支持体9を板材で形成してその弾性変形を利用して、振動吸収に役立たせることができるので好ましい。
前記クランプ部材8はゴム等の弾性材で矩形体に形成されており、前クランプ部材8Fには3本のデリバリホース7を挿通する挿通孔8aが形成され、後クランプ部材8Rには3本のデリバリホース7を挿通する挿通孔8aとクーラホース43を挿通する挿通孔8cが形成されている。
【0019】
各クランプ部材8には各挿通孔8a,8cから表面側に至るスリット8bが形成されており、このクランプ部材8を変形してスリット8bを広げることによりデリバリホース7に嵌合することができる。
前記クランプ部材8は、装着具44で支持体9と押さえ板13とを締め付けることにより、挿通孔8a,8cに挿通したデリバリホース7を弾性的に挟持し、デリバリホース7の振動を吸収しながらその相対位置を固定することになり、クランプ部材8の取り付け位置が支持体9の取り付け位置である取り付け具12からデリバリホース7の長手方向に離れていることにより、支持体9の肉厚方向の弾性変形があり、デリバリホース7の振動を減少し、支持体9が防振材11を介して取り付け部10に固定されることにより、支持体9の上下方向、前後方向及び内外方向の振動は防振材11によって遮断され、旋回台2に伝播されなくなる。」

イ 図2




(23)甲30
甲30は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。
ア「【0021】
図1において、1は建設機械としての油圧ショベルを示している。この油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、該上部旋回体4の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置5とにより大略構成されている。
【0022】
また、上部旋回体4は、図2、図3に示す如く、後述の旋回フレーム6、エンジン7、油圧ポンプ8、サポート部材10、運転席15、コンソール装置16,23、制御弁21、燃料タンク26等により大略構成されている。
・・・・
【0028】
13は旋回フレーム6の上側に設けられた運転席台座で、該運転席台座13は、エンジン7の上側ないし前側に後述の運転席15を支持するもので、全体としてステップ状に形成されている。そして、運転席台座13は、その後側がサポート部材10の支持ベース10Aに取付けられている。一方、運転席台座13の前側は、例えば旋回フレーム6、フロア部材12等に取付けられている。
・・・・
【0031】
16は運転席15の左側に設けられた左コンソール装置で、この左コンソール装置16は、運転席台座13上に取付けられている。また、左コンソール装置16は、図12に示す如く、後述の支持部材17、コンソール本体18、作業用レバー19、ゲートロックレバー20等によって大略構成されている。ここで、左コンソール装置16は、その後側に位置する後述の回動支点18Cを中心にして前側を上方に跳ね上げることができる。
【0032】
17は左コンソール装置16を支える支持部材で、該支持部材17は、運転席台座13の左端に固定的に取付けられて上側に延びている。また、支持部材17には、後述のコンソール本体18とゲートロックレバー20が取付けられている。
・・・・
【0041】
21は旋回フレーム6の左前側で、左コンソール装置16の下側に搭載された制御弁で(図3、図10参照)、該制御弁21は、作業装置5の動作を制御するものである。そして、制御弁21は、複数個の油圧パイロット式スプール弁により構成され、各スプール弁の油圧パイロット部が左,右のコンソール装置16,23の作業用レバー19,25、走行用レバー・ペダル28等に接続されている。ここで、制御弁21は、コンソール装置16,23に設けられた油圧パイロット弁19A,25Aの操作方向に応じて旋回装置3、作業装置5を動作することができる。
【0042】
22は左コンソール装置16と制御弁21とを接続して設けられた複数本のパイロット油圧ホースである。このパイロット油圧ホース22は、可撓性を有する複数本の油圧ホースにより構成されている。そして、各パイロット油圧ホース22は、一端が作業用レバー19の油圧パイロット弁19Aに接続され、他端が制御弁21の油圧パイロット部に接続されている。
【0043】
ここで、パイロット油圧ホース22の一端は、図3ないし図5に示すように、後側を支点として前側が上,下方向に回動する左コンソール装置16に取付けられている。そこで、パイロット油圧ホース22の途中部位には、左コンソール装置16の動作を許容しつつ、急激な折れ曲がりを避けるために、後側に向けて突出するように緩やかに湾曲してなる中間湾曲部22Aが形成されている。そして、この中間湾曲部22Aは、左コンソール装置16の回動動作に応じて上,下方向ないし前,後方向に変位し、図3に示すように後述の燃料タンク26に接触することもある。」

イ 図3には、次の図示がある。
「【図3】



ウ 図5及び図12には、次の図示がある。





(24)甲31
甲31は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。

ア 「【0024】
図1に、本発明を適用した油圧ショベル1(作業機械の一例)を示す。この油圧ショベル1は、機械質量が5t以下の小型機種(いわゆるミニショベル)である。油圧ショベル1は、自在な走行を可能にする一対のクローラを備えた下部走行体2と、その上に旋回自在に搭載された機械本体3とで構成されている。
・・・・
【0030】
操作スペース5の前部には、床面5aが拡がっており、操作スペース5の後部には、台状のシートスタンド17が設けられている。
【0031】
シートスタンド17は、左右幅方向に拡がって前方に面する前壁部17aや、前壁部17aの上端に連なって後方に拡がる設置面部17bなどを有している。シートスタンド17の左端前部には、コンソールボックス12Lに付随する収容スペース30が設けられているが、これについては後述する。
【0032】
操縦席11及び左右のコンソールボックス12R,12Lは、オペレータが着座して操作し易いように、床面5aよりも高位置にある設置面部17bの上に設置されている。左右のコンソールボックス12L,12Rは、前後方向に長い操作装置であり、それぞれ操縦席11の横に配置されている。この機種では、操作スペース5の左側に乗降口が設けられているため、左側のコンソールボックス12Lが、跳ね上げ式のコンソールボックスとなっている(左コンソールボックス12Lともいう)。
【0033】
図3に詳しく示すように、左コンソールボックス12Lは、操作レバー13、パイロット弁21(油圧制御装置)、フレーム構造体22、跳ね上げレバー15、コンソールカバー23、複数の油圧ホース24(油圧ホース群ともいう)などで構成されている。
・・・・
【0035】
フレーム構造体22の後端部は、シートスタンド17の設置面部17bに取り付けられたブラケット25に、左右方向に延びる横軸Jまわりに回動可能に支持されている。フレーム構造体22の左側部には、前側部分がコンソールカバー23から前方に大きく突き出すようにして、跳ね上げレバー15が取り付けられている。
【0036】
フレーム構造体22の前端上部には、円柱状のパイロット弁21が、前傾姿勢で取り付けられている。これらフレーム構造体22、パイロット弁21、操作レバー13、跳ね上げレバー15、及びコンソールカバー23は、一体となって跳ね上がるボックス本体26を構成している。
【0037】
すなわち、ボックス本体26は、跳ね上げレバー15を持ち上げて後方に回動させる跳ね上げ操作を行うことにより、図2、図3、及び図6の(a)に示す横臥姿勢から、図6の(b)に示す、前部が跳ね上がった起立姿勢に変位可能となっている。ボックス本体26を起立姿勢にすることで、乗降路が開放されるため、操作スペース5への乗降が容易になる。
【0038】
油圧ホース群は、床面5aから上方に延びて、後方へ斜め下向きに突出したパイロット弁21の下端部に接続されている。油圧ホース群は、束ねた状態で保護カバー27が装着されており、後方に撓んで湾曲している。
【0039】
油圧ホース群は、ボックス本体26が起立姿勢に変位したときには上方に引っ張られる。そのため、油圧ホース群は、ボックス本体26が起立姿勢にあるときよりも横臥姿勢にあるときの方が後方に大きく湾曲する。
【0040】
油圧ホース群は、外部から見えないように、収容スペース30に収容されている。
【0041】
図4の(a)にも示すように、収容スペース30は、左コンソールボックス12Lの下方に位置する、左右横幅の狭い縦長な筒状空間である。収容スペース30は、シートスタンド17の左端前部、詳しくは、シートスタンド17の前壁部17aの左端と、設置面部17bの左前側とを切り欠いて設けられている。
・・・・
【0046】
収容スペース30の下部を区画している床面5aには、挿通孔36が開口している。油圧ホース群は、機械室6に収容されている油圧機器とパイロット弁21とに接続されており、床下を通って配索され、挿通孔36を通じて上方に引き出されている。
【0047】
図5に示すように、床下の挿通孔36の近傍には、クランプ37が設置されており、油圧ホース群は、このクランプ37で支持固定されている。油圧ホース群は、挿通孔36から上方に引き出される部分が後方に傾斜するように、挿通孔36の中心線Aに対して傾いた状態でクランプ37に支持されている。」

イ 図3には、次の図示がある。




イ 図6には、次の図示がある。
「 【図6】



(25)甲32
ア 記載事項
甲32は、本件特許の出願前に頒布された特許公開公報であり、次の記載がある。

(ア)「【0018】図1は、本発明に係る小型建設機械としての小型油圧ショベルの全体構成を示したものである。同図において小型油圧ショベル1は、下部走行体2上に上部旋回体3が旋回自在に搭載されており、ショベル本体4が構成されている。
【0019】上部旋回体3上には運転席5が設けられ、その運転席5のシート下方である本体カバー6内に、図示しないエンジンユニットや油圧機器等が収納されている。運転席5の左右両側には操作レバー7を備えたコントロールボックス8が備えられている。
・・・・
【0022】上記コントロールボックス8は、跳ね上げ動作時においてその内部に配設されるパイロットホース(可撓性の油圧配管)の伸縮量を少なくし、跳ね上げ角度については大きくなるように構成されている。そのための構成として、コントロールボックス8跳ね上げ用の回転軸22をそのコントロールボックス8の前後方向略中央部で且つ下側に配置し、リモコン弁20のホース接続金具に近傍させている。また、コントロールボックス8の側面形状を半円状に形成し、その周面が下に向くようにして配置している。
【0023】なお、回転軸22は左コントロールボックス8のフレーム8aを車幅方向に貫通し、その端部は左コントロールボックス8を支持している支持フレーム23の縦方向リブ23aに固定されている。
【0024】なお、25は乗降遮断式レバーであり、乗降時に矢印A方向に引き上げられると左コントロールボックス8が連動して跳ね上がり、同時に全操作がロックされて誤作動を防止するようになっている。また、支持フレーム23はメンテナンス時に開放することができる蓋構造をなし、この支持フレーム23はその下部の本体カバー6上に支持されている。
・・・・
【0030】次に上記構成を有するコントロールボックス8の内部構造について説明する。図2に示したように、左操作レバー7aが直結されているリモコン弁(制御弁)20の入出力ポートからは、6本のパイロットホース(可撓性の油圧配管)21a〜21f(以下パイロットホース群21と呼ぶ)が延出されている。
【0031】パイロットホース群21の一方端は、リモコン弁20の入出力ポートに取り付られたエルボ20aに接続され、他方端は、左コントロールボックス8後方に向けて延設され、回転軸22をU字状に迂回して、詳しくはヘアピン状に折り曲げられて配索される。
・・・・
【0033】回転軸22を迂回したパイロットホース群21は、支持フレーム23に取り付けられた筒状ブラケット23b内に挿通されることにより横一列に並べた状態で本体カバー6の内壁面に沿わされ車幅方向に保持される。すなわち、筒状ブラケット23bの開口は垂直方向には1本のパイロットホース分しか収納できず、水平方向には6本分のパイロットホースを収納し得る長方形断面に形成されている。
【0034】なお、右コントロールボックス8についても上記と同様の構成でパイロットホース群21が配索され、従って左右のコントロールボックス8,8から延設されるパイロットホース群21,21は互いに内側に向けて対向することになる。
【0035】対向して延設されるパイロットホース群21は合流して二組のパイロットホース群21,21となり、それぞれ横一列に並べられた状態を維持したまま本体カバー6内を下降し、図示しないコントロールバルブの各制御ポートに接続される。」

(イ)図1ないし図3には、次の図示がある。






(ウ)図1ないし図3より看取される事項
・図1ないし3より、乗降時に左コントロールボックス8が跳ね上がる方向は、後ろ上方であることが、看取される。
・図2より、パイロットホース群21が挿通される筒状ブラケット23bは、支持フレーム23の前端部に取り付けられることが、看取される。
なお、段落【0024】に記載される、支持フレーム23をメンテナンス時に開放する場合について、支持フレーム23をどのように開放するかは、図1ないし図3を参照しても、看取することができない。

イ 甲32発明
上記アより、甲32には、次の発明(以下、「甲32発明」という。)が記載されている。
「下部走行体2上に上部旋回体3が搭載された小型油圧ショベル1において、
上部旋回体3上には運転席5が設けられ、運転席5のシート下方である本体カバー6内に、エンジンユニットや油圧機器等が収納されており、
運転席5の左右両側には操作レバー7を備えたコントロールボックス8が備えられ、
コントロールボックス8跳ね上げ用の回転軸22をそのコントロールボックス8の前後方向略中央部で且つ下側に配置し、リモコン弁20のホース接続金具に近傍させており、回転軸22は左コントロールボックス8のフレーム8aを車幅方向に貫通し、その端部は左コントロールボックス8を支持している支持フレーム23に固定されており、乗降時に左コントロールボックス8が後ろ上方に跳ね上がり、全操作がロックされて誤作動を防止するようになっており、
支持フレーム23はメンテナンス時に開放することができる蓋構造をなし、この支持フレーム23はその下部の本体カバー6上に支持されており、
コントロールボックス8の左操作レバー7aが直結されているリモコン弁(制御弁)20の入出力ポートからは、油圧配管であるパイロットホース群21が延出され、パイロットホース群21の他方端は、左コントロールボックス8後方に向けて延設され、回転軸22をU字状に迂回して、折り曲げられて配索され、回転軸22を迂回したパイロットホース群21は、支持フレーム23の前端部に取り付けられた筒状ブラケット23b内に挿通されることにより本体カバー6の内壁面に沿わされ車幅方向に保持され、左右のコントロールボックス8,8から延設されるパイロットホース群21,21は合流して本体カバー6内を下降し、コントロールバルブの各制御ポートに接続される、
小型油圧ショベル1。」

(26)甲33及び甲34
甲33は、他国の審査における通知書であり、甲34は、甲33中で参照される韓国特許公開公報であって、甲28と対応する内容であるとして申立人が提出するものであるから、摘記は省略する。

公然実施発明
(1)公然実施発明1(ViO12)
ア 2016年ロスキレのショーにおける展示によって知られ得た構成
上記2(6)に示した甲12には、バウマまでモデルの完成がいじくり回され、ミュンヘンのバウマで世界的なプレゼンテーションがされたミニショベルViO12が、ジョイスティックコントロールを備え、2016年のロスキレのショーにおいて展示されたことが記載されており、写真12には、黄色と黒のミニショベルViO12の実機の側まで人が近づいて触れている写真が示されている。
そうすると、ロスキレのショーでは、バウマまでに完成されジョイスティックコントロールを含むものである、上記2(1)ウで認定した甲1発明と同様の構成を備えるミニショベルViO12のうち、黄色と黒の機体色の実機が、写真12に示される態様で展示されており、かように実機の側まで人が近づいて触れることができる展示では、ミニショベルViO12の実機について、上記2(1)ウに認定した甲1発明と同様の構成は、不特定多数の者に知られ得る状態にあったと認められる。
加えて、上記2(6)ア(オ)に示したとおり、写真12では、運転席及び運転席下の部材があった箇所の内部を前方及び上方に露出させた際には、内部の部材の後ろ上方に、前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納するのに適した配置及び形状となる部材があることが、看取される。
そして、写真12から看取される上記構成も、当該ロスキレでのショーにおいて、不特定多数の者に知られ得る状態にあったと認められる。

イ 2016年ロスキレのショーにおける公然実施発明
上記アより、2016年のロスキレでのショーにおいて、次の発明(以下、「公然実施発明1」という。)が公然実施されたと認められる。

「運転席の両側にジョイスティックを使用し、ディーゼルエンジンで駆動され、油圧システムで動作を実現する、ViO12ミニショベルであり、
下部走行体、下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体、該機体の後部上に配置された運転席下の部材、該運転席下の部材の上に座面及び背もたれが設けられた運転席、及びジョイスティックを備えるひじ掛け状の部材を有し、
ディーゼルエンジンは、上記機体上かつ運転席下の部材の下に配置され、
運転席及び運転席下の部材があった箇所の内部を前方及び上方に露出させた際には、内部の部材の後ろ上方に、前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納するのに適した配置及び形状となる部材があり、
ひじ掛け状の部材は、運転席の背もたれ近傍の根元付近に切り欠きを有し、運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢と、背もたれ付近から略上方に延在する姿勢との、2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転可能であり、
ひじ掛け状の部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、ジョイスティックによる操作に適した姿勢となり、
ひじ掛け状の部材が略上方に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれ付近から略後方に向かって突出し、運転席への乗降の妨げとならない姿勢となる、
ViO12ミニショベル。」

(2)公然実施発明2(U10−3 Ergo Control)
ア 2016年Hermans Machines BVによる販売の申し出
上記2(9)、(12)及び(13)に示した甲15、甲19及び甲20から、本件出願前の2016年中には、Hermans Machines BVによって、「私たちが作成したKubota U10−3 ErgoControl」について、甲20のユーザーマニュアルが作成されるとともに、甲15に示される販売の申し出がされ、同販売の申し出に際しては、甲19に示されると同様の内容が紹介されたと認められる。

イ 2016年Hermans Machines BVによる公然実施発明
上記アにおける販売の申し出を通じて、上記2(12)ア(キ)に示した、写真19−1ないし19−4より看取される事項は、不特定多数の者に知られ得るものであったと認められるから、上記2(19)ウに認定した甲19発明と同じ発明が、公然実施された(以下、「公然実施発明2」という。)と認められる。


第5 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)公然実施発明1(ViO12)を主たる引用発明とした進歩性(上記第3の1(1)ア及び上記第3の2(1))について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と公然実施発明1とを対比する。
公然実施発明1における「ディーゼルエンジン」は、本件発明1における「エンジン」に相当する。
公然実施発明1における「下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体」は、本件発明1における「旋回フレーム」に相当する。
公然実施発明1において、「運転席及び運転席下の部材があった箇所の内部を前方及び上方に露出させた際には、内部の部材の後ろ上方に、前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納するのに適した配置及び形状となる部材」は、「運転席下の部材」が後上方に回転したものであることが明らかであることを踏まえると、公然実施発明1において「前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納する」ことができ、後ろ上方に回転すれば「内部を前方及び上方に露出」することができる「運転席下の部材」は、本件発明1における「旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネット」に相当する。また、公然実施発明1において、「運転席下の部材の下」に配置された「ディーゼルエンジン」を含む「内部を前方及び上方に露出させた」状態から、「運転席下の部材」を「前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納する」ことができる構成は、「運転席下の部材」を機体に対して「回転」させる軸が、前方及び上方に露出する内部に配置されたディーゼルエンジンより後ろに位置することが明らかであることをふまえると、本件発明1において、「ボンネット」が「エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され」た構成に相当する。
公然実施発明1における「ジョイスティックを備えるひじ掛け状の部材」は、本件発明1における「コンソール」に相当する。公然実施発明1における「ひじ掛け状の部材」が備える「ジョイスティック」は、本件発明1における「コンソール」が備える「操作レバー」に相当する。
公然実施発明1において、「ひじ掛け状の部材」がとる「運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢」は、本件発明1における「第1姿勢」に相当する。公然実施発明1における、「ひじ掛け状の部材」がとる「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」は、本件発明1における「第2姿勢」に相当する。公然実施発明1において、「ひじ掛け状の部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、ジョイスティックによる操作に適した姿勢とな」る構成と、本件発明1において、「コンソール」が「前記第1姿勢のとき」に「操作レバー」の「操作が有効」となる構成とは、「コンソール」が「前記第1姿勢のとき」に「操作レバー」が「操作に適した状態とな」る点で、共通する。
公然実施発明1において、運転席の「座面及び背もたれ」が「運転席下の部材の上」に設けられていることをふまえると、「ひじ掛け状の部材」が「回転可能」である「運転席の背もたれ近傍の部分」の「軸」も、運転席下の部材の上に位置することとなるから、公然実施発明1における「ひじ掛け状の部材」が「回転可能」である「軸」は、本件発明1における「ボンネットの上方に配置された第2軸」に相当する。公然実施発明1において、「ひじ掛け状の部材」が「2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転可能」である構成は、本件発明1における「コンソール」が、「第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能」である構成に相当する。
公然実施発明1において、「露出している内部の部材を運転席の下で格納」するために「運転席下の部材」の「内部」が回転する方向は「前下方」であるから、「運転席下の部材があった箇所の内部を前方及び上方に露出」させるために「運転席下の部材」を回転させる方向は「後ろ上方」となり、「ひじ掛け状の部材」を「運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢」から「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」へと「運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転」させる方向と同じとなることが明らかである構成は、本件発明1において、「ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じ」である構成に相当する。
公然実施発明1における「ViO12ミニショベル」は、本件発明1における「作業車両」に相当する。

以上を整理すると、本件発明1と公然実施発明1とは、
「エンジンが配置される旋回フレームと、
前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットと、
前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能なコンソールと、
を備え、
前記コンソールは、前記第1姿勢のときに操作に適した状態となる操作レバーを備え、
前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じである、
作業車両。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
「油圧ホース」の接続に関し、
本件発明1においては、「前記コンソールに接続される油圧ホース」を有すると特定されているのに対し、
公然実施発明1においては、「油圧システム」の油圧ホースが「ひじ掛け状の部材」に接続されているとは特定されていない点。

<相違点2>
「油圧ホース」の配置に関し、
本件発明1においては、エンジンの後方に配置された第1軸回りに旋回フレームに対して回転し、コンソールの操作が無効化される回転方向と同じ方向の回転で開くボンネット、及び、ボンネットに対して第2軸回りに回転するコンソールに対して、「油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」と特定されているのに対し、
公然実施発明1においては、油圧ホースの配置が特定されていない点。

<相違点3>
「操作レバー」の「有効」及び「無効化」に関し、
本件発明1においては、コンソールが「前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される」と特定されているのに対し、
公然実施発明1においては、「ひじ掛け状の部材」が「前後方向に延在する姿勢」となり「ジョイスティックによる操作に適した」姿勢のときに、「ジョイスティック」の「操作が有効」となり、「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」となり「運転席への乗降の妨げとならない」ときに、「ジョイスティック」の「操作が無効化される」とは、特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点1について
上記相違点1について判断する。
甲20、甲21、甲26及び甲27に、上記第4の2(13)、(14)、(19)及び(20)に摘記した事項が記載されているように、作業用車両において、運転席横の上方回動可能なコンソールに油圧ホースを接続することは、周知技術である。
公然実施発明1では、油圧システムで動作を実現しているところ、ひじ掛け状の部材に設けたジョイスティックの操作を油圧システムに伝えて作業機を動作させるために、甲20、甲21、甲26及び甲27に示される上記周知技術を適用して、油圧システムの油圧ホースをひじ掛け状の部材に接続することは、当業者にとって動機付けがあり、かつ困難性のなかった事項である。
したがって、公然実施発明1において、上記周知技術を採用して、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得た事項である。

b 相違点2について
(a)本件発明1における油圧ホースの配置の特定について
相違点2の判断に先立ち、本件発明1における油圧ホースの配置の特定について、整理する。
本件明細書の記載(後記2(2)イ(イ)に摘記する段落【0002】ないし【0016】)を参照すると、後記2(2)イ(ウ)aに示すとおり、本件発明1は、メンテナンス性に優れた作業車両を提供すること(段落【0009】)、より具体的には、回転して開閉するボンネット、ボンネットに対して回転するコンソール、及び油圧ホースを備える作業車両において、「ボンネットを開いてから操作レバーの操作を無効にするためにコンソールを回転させた場合でも、ボンネット及びコンソールを含めた全体の重心の移動方向がボンネットの開き側となるので、開いたボンネットが不測に閉じてしまうのを防止し、安心してメンテナンス作業を行うことができる」ものとすること(段落【0012】)、また、「油圧ホースが作業の邪魔になりにくい位置にあるので、ボンネットを開いた状態でのメンテナンス性が良好である」ものとすること(同段落【0012】)を、目的としたものと、理解される。
また、本件発明1における油圧ホースの配置は、上記目的のために採用したコンソールの回転軸の位置、ボンネットの回転軸の位置、及びコンソールとボンネットとの回転方向を前提として、メンテナンス性が良好となる油圧ホースの配置として、採用したものと理解される。
そして、油圧ホースの配置に関して、本件発明1が有する構成を整理すると、本件発明1においては、次の一連の配置が特定されていることとなる。
i)コンソールからボンネットに至る部分において、ボンネットの上方でボンネットに対してコンソールが回転する「第2軸の近傍」を通る。
ii)ボンネットにおいて、「ボンネットの内壁に沿うように」配置される。
iii)ボンネットから旋回フレームに至る部分において、「エンジンが配置される旋回フレーム」に対してボンネットが回転し、ボンネットを開く際には、「操作レバー」の「操作が無効化」される「第2姿勢」へと「コンソール」を回転させる方向と同じ方向にボンネットを回転させる、「エンジンの後方に配置」された「第1軸の近傍」を通る。
iv)旋回フレームにおいて、「旋回フレームの内壁」に「沿うように」配置される。

(b)単なる設計事項と言えるか否かについて
相違点2に係る本件発明1の構成は、油圧ホースの配置に関し、「第1軸」、「第2軸」、「旋回フレームの内壁」、及び「ボンネットの内壁」との関係を特定する構成であって、上記(a)のi)ないしiv)に示した一連の油圧ホースの配置を特定する構成であるから、同i)ないしiv)の点が相互に関連して、上記(a)に示した本件発明1の目的に適したものとなっており、これら一連の構成をまとめて単なる設計事項ということはできない。
また、公然実施発明1において、「ひじ掛け状の部材」が「運転席の背もたれ近傍の根本付近に切り欠き」を有し、かつ、「ひじ掛け状の部材」の「回転」の「軸」も「運転席の背もたれ近傍の部分」であることから、上記aに判断した相違点1に係る油圧ホースに関して、「ひじ掛け状の部材」の「根本付近」の「切り欠き」を通すことにより、「ひじ掛け状の部材」の「回転」の「軸」の「近傍」を通るものとし、もって相違点2に係る本件発明1の構成のうち「油圧ホース」が、「第1軸の近傍」を通る構成に相当する構成、すなわち上記(a)i)の配置をとることについては、設計事項ということができるとしても、相違点2に係る本件発明1のその余の構成、すなわち上記(a)ii)ないしiv)の一連の配置をとることについては、単なる設計事項ということはできない。

(c)甲1ないし甲14の記載を考慮した場合
甲1ないし甲12、及び甲14は、公然実施発明1(ロスキレで展示されたViO12ミニショベル)を認定するうえで参照した証拠であるところ、コンソールに接続される「油圧ホース」について、コンソールの回転軸及びボンネットの回転軸に対する配置、並びに、ボンネット内壁及び旋回フレーム内壁に対する配置については、示されていない。
甲13は、公然実施発明1として認定したViO12と同じ機種名の作業車両に関するカタログであるが、ボンネットを開いた写真13−3を参照しても、コンソールの回転軸及びボンネットの回転軸に対する配置、並びに、ボンネット内壁及び旋回フレーム内壁に対する配置は、看取することができない。また、甲13の公知日は不明であり、甲13の記載に示される内容が本件特許の出願前に公知であったと言うことはできないから、2016年にロスキレにおいて展示されたViO12の実機から認定される公然実施発明1が有さない構成について、甲13に記載される内容を、本件特許の出願前に公知の技術として組み合わせることができるものではない。
したがって、甲1ないし甲14の記載を考慮しても、公然実施発明1において、本件特許の出願時に、上記相違点2に係る本件発明1の構成をとることが、開示あるいは示唆されていたということはできない。

(d)甲15ないし甲20の記載を考慮した場合
甲15ないし甲20は、公然実施発明2(U10−3 Ergo Control)を認定するうえで参照した証拠であるところ、甲19の写真19−2において、運転席の左側に配置される部材の根元付近から出てボンネットの上面内に入る線状の部材が油圧ホースであると理解されること(甲20の4頁の図面における図番9の名称も参照)、及び、甲19の写真19−1及び19−2より、運転席の左側に配置される部材の回転軸は根元付近と看取されることを踏まえると、甲19において、運転席の左側に配置される部材に接続される油圧ホースについて、同部材の根元付近の回転軸の近くを通るように配置することは示されているから、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、コンソールに接続される油圧ホースの配置について、コンソールの回転軸である「前記第2軸の近傍を通るように」配置することは、甲19に開示されているということができる。
しかしながら、甲19において、ボンネットの上面内に入った油圧ホースの配置については、ボンネットを開いた写真である写真19−3を参照しても、ボンネット内を延びることが看取されるにとどまり、甲19のその余の記載、及び、甲19と同様の機種であるU10−3 Ergo Controlの作業車両に関する甲15ないし甲18及び甲20の記載を参照しても、油圧ホースの配置について、ボンネットの回転軸、ボンネットの内壁及び旋回フレームの内壁に対する具体的な配置が、示されているということはできない。
したがって、甲15ないし甲20の記載を考慮しても、公然実施発明1において、上記相違点2に係る本件発明1の構成をとることが、開示あるいは示唆されていたということはできない。

(e)甲21の記載を考慮した場合
甲21には、上記第4の2(14)アに摘記した事項、及び同イに認定した甲21発明が記載されている。
甲21発明において、「垂下されてコントロールボックス14から引き出され」る「パイロットホース21」は、「スタンドカバー9cの前端近傍からガードカバー9内に入り」、また「スタンドカバー9c」は、「その前縁部9c′」の「ヒンジ9dを支点として、回転して開閉」するから、甲21発明は、パイロットホース21の引き回しについて、スタンドカバー9cの回転の支点であるヒンジ9dの近傍を通るよう配置していると言える。
しかしながら、甲21発明においては、「スタンドカバー9c」が回転の支点とする「ヒンジ9d」の位置が「エンジンEより前方」であり、「オペレータが乗降する場合・・・コントロールボックス14を後方に跳ね上げ」る一方、「スタンドカバー9c」は「前方に開」くのに対し、本件発明1においては、「ボンネット」は「エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転」し、また「ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを・・・第2姿勢(当審注;操作レバーが無効化される姿勢)へ切り換えるために回転させる方向と同じ」であるから、甲21発明におけるパイロットホース21の引き回しが前提とする、スタンドカバー9cの回転軸の位置及び回転方向と、相違点2に係る本件発明1における「油圧ホース」の「配置」が前提とする、ボンネットの回転軸の位置及び回転方向とは、互いに異なっている。また、甲21発明において、パイロットホース21は、「ガードカバー9内の前側に設けられているダクト22に導かれ」ているものの、「回転して開閉」する「スタンドカバー9c」の内壁に沿って配置されていないから、甲21発明が有するパイロットホース21の引き回しに関する構成は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「油圧ホース」を「前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置」する構成に相当するものでもない。
したがって、甲21の記載を考慮しても、公然実施発明1において、上記相違点2に係る本件発明1の構成をとることが、開示あるいは示唆されていたということはできない。

(f)甲22ないし甲31の記載を考慮した場合
甲22ないし甲24には、上記第4の2(15)ないし(17)に摘記した事項が記載されており、作業車両のボンネットを後ろ側に回して開く様子が図示されているが、上記相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲25には、上記第4の2(18)に摘記した事項が記載されており、作業をする際の使用位置(通常作業位置)と上方回動位置(回避位置)とに回動自在な左操縦装置22の操縦ボックス26に接続されるホース状の部材について、操縦ボックス26が回動自在に支持される第1横軸27の近傍で、バンド状の部材により固定されることが示されている。しかしながら、甲25において、左操縦装置22が上面に搭載される操縦台21は、前面が開放されており、リアボンネット10Aを有するエンジンルームは、運転席8と仕切られた後部にあるから、甲25に示されるホース状の部材の配置は、左操縦装置22が搭載される操縦台21が、回転するボンネットとはなっていない場合についての配置であり、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲26には、上記第4の2(19)に摘記した事項が記載されており、前後調整、高さ調整及び跳ね上げ可能なコンソールボックス32に接続されるパイロットホース35について、前後調整に伴うパイロットホース35の変化を吸収する部分と、高さ調整及び跳ね上げによるパイロットホース35の変化を吸収する部分とを、水平方向に弛んだ第1のホース36と鉛直方向に弛んだ第2のホース42とに分けることが示されているが、跳ね上げ可能なコンソールボックス32は、フロア21に対して前後方向に移動可能な移動台座であるハイトライザ31に取り付けられたものであり、回転することで開閉するボンネットに取り付けられたものではないから、甲26に示されるパイロットホース35の配置は、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲27には、上記第4の2(20)に摘記した事項が記載されており、オペレータが乗り降りするときに跳ね上げることができるコンソールeが示されているが、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲28には、上記第4の2(21)アに摘記した事項、及び同イに認定した甲28発明が記載されているが、甲28発明は、コンソールボックス36及びボンネット32の回動機構を、ボンネット32用の一つのみとしたものであるから、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲29には、上記第4の2(22)に摘記した事項が記載されており、旋回作業機としてのバックホー20において、作動油を供給するデリバリホース7を、ゴム等の弾性材で形成されたクランプ部材により弾性的に挟持して振動を吸収しながら固定することが示されているが、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲30には、上記第4の2(23)に摘記した事項が記載されているが、甲30において、上、下方向に回動するコンソール装置16は、運転席台座13に取り付けられており、旋回フレームに対して回転して開閉するボンネットに取り付けられたものではないから、甲30におけるパイロット油圧ホース22の配置も、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。
甲31には、上記第4の2(24)に摘記した事項が記載されているが、甲31において、跳ね上げ式の左コンソールボックス12Lは、シートスタンド17の設置面部17bに取り付けられており、旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットに支持されたものではなく、また甲31における油圧ホース群も、シートスタンド17を切り欠いて設けた収容スペース30を通って床面5aの挿通孔36に至るものであり、回転することで開閉するボンネット内を通過するものではいから、甲31における油圧ホース群の配置も、相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」を示すものではない。

(g)甲32の記載を考慮した場合
甲32には、上記第4の2(25)アに摘記した事項、及び同イに認定した甲32発明が記載されている。
甲32発明は、小型油圧ショベル1において、運転席5の左側に設けた左コントロールボックス8を、本体カバー6上に支持された支持フレーム23に固定した回転軸22回りに、乗降時に後ろ上方に跳ね上げて操作をロック可能とするとともに、回転軸22を、油圧配管であるパイロットホース群21が延出されるリモコン弁20のホース接続金具に近傍させているから、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、コンソールが回転する「第2軸」に関して、「油圧ホース」が「前記第2軸の近傍を通るように」配置される構成に相当する構成を有している。また、甲32発明は、支持フレーム23がメンテナンス時に開放することができる蓋構造をなし、支持フレーム23がその下部の本体カバー6上に支持されたうえで、パイロットホース群21が、支持フレーム23の前端部に取り付けられた筒状ブラケット23b内に挿通されることにより本体カバー6の内壁面に沿わされているから、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「油圧ホース」が「ボンネットの内壁に沿うように」配置される構成に相当する構成を有している。
しかしながら、甲32発明においては、「支持フレーム23」を「メンテナンス時に開放」する場合に、支持フレーム23をどのように開放するかは不明であるから、「支持フレーム23」または支持フレーム23が固定される「本体カバー6」について、回転して開閉するものということはできない。また、甲32発明において、「支持フレーム23」を「メンテナンス時に開放」するに際して、支持フレーム23または支持フレーム23が固定される本体カバー6を回転して開閉することが、メンテナンス時の開放について設計事項であるとしても、甲32発明では、左コントロールボックス8は乗降時に後ろ上方に跳ね上げ、パイロットホース群21を挿通する筒状ブラケット23bは支持フレーム23の前端部に取り付けられているから、仮に支持フレーム23を開放する際の回転方向を、左コントロールボックス8を跳ね上げる方向と同じにするのであれば、支持フレーム23または本体カバー6の回転軸は支持フレーム23の後方側となって、パイロットホース群21が挿通される筒状ブラケット23bと離れた位置となり、また仮に支持フレーム23または本体カバー6の回転軸を支持フレーム23の前端部の筒状ブラケット23bの近傍とすれば、図2及び図3を参照しても、支持フレーム23または本体カバー6を開放する際の回転方向を、左コントロールボックス8を跳ね上げる後ろ上方と同じ方向とすることは、困難であることが明らかである。
したがって、甲32発明が有するパイロットホース群21の配置は、支持フレーム23または本体カバー6を開くために回転させる方向を、左コントロールボックス8の操作がロックされる後ろ上方の跳ね上げ方向と同じとしたうえで、支持フレーム23または本体カバー6の回転軸の近傍を通るようにパイロットホース群21を配置することを示すものではなく、上記相違点2に係る本件発明1の構成のうち、コンソールの操作が無効化される回転方向と同じ方向の回転で開くボンネットの回転軸である「第1軸」に関して、「油圧ホースが、前記第1軸の近傍」を通るように「配置」する構成を、開示あるいは示唆するものではない。
よって、甲32の記載を考慮しても、上記相違点2に係る本件発明1の「油圧ホース」の「配置」が、記載あるいは示唆されているということはできない。

(h)相違点2の小括
上記(a)ないし(g)に示したとおり、公然実施発明1において、相違点2に係る本件発明1の構成をとることは、単なる設計事項ということができず、また、甲1ないし甲32に記載される事項を考慮しても、本件特許の出願時において、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ)公然実施発明1を主たる引用発明とした本件発明1の容易想到性
上記(イ)bのとおり、公然実施発明1において、相違点2に係る本件発明1の構成をとることは、甲1ないし甲32に記載される事項を考慮しても、本件特許の出願時において、当業者が容易に想到できたものではなく、単なる設計事項ということもできないから、その余の相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、公然実施発明1、及び甲1ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て有し、さらに構成を付加したものであるところ、上記アのとおり、本件発明1は、公然実施発明1、及び甲1ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4も、公然実施発明1、及び甲1ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲1発明を主たる引用発明とした進歩性(上記第3の2(2))について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明が、公然実施発明1における「運転席及び運転席下の部材があった箇所の内部を前方及び上方に露出させた際には、内部の部材の後ろ上方に、前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納するのに適した位置及び形状となる部材があり、」との構成を別として、公然実施発明1におけるその余の構成を有するものであること、及び、本件発明1と公然実施発明1との上記(1)ア(ア)に示した対比を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、次の相違点4ないし7において相違し、その余の点で一致する。

<相違点4>
「ボンネット」の開閉、及び開閉のための回転方向に関し、
本件発明1においては、「ボンネット」が「エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉」すること、及び、「前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じである」ことが特定されているのに対し、
甲1発明においては、「運転席下の部材」について、回転により開閉すること、及び回転軸の位置並びに回転方向が特定されていない点。

<相違点5>
「油圧ホース」の接続に関し、
本件発明1においては、「前記コンソールに接続される油圧ホース」を有すると特定されているのに対し、
甲1発明においては、「油圧システム」の油圧ホースが「ひじ掛け状の部材」に接続されているとは特定されていない点。

<相違点6>
「油圧ホース」の配置に関し、
本件発明1においては、エンジンの後方に配置された第1軸回りに旋回フレームに対して回転し、コンソールの操作が無効化される回転方向と同じ方向の回転で開くボンネット、及び、ボンネットに対して第2軸回りに回転するコンソールに対して、「油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、油圧ホースの配置が特定されていない点。

<相違点7>
「操作レバー」の「有効」及び「無効化」に関し、
本件発明1においては、コンソールが「前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、「ひじ掛け状の部材」が「前後方向に延在する姿勢」となり「ジョイスティックによる操作に適した」姿勢のときに、「ジョイスティック」の「操作が有効」となり、「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」となり「運転席への乗降の妨げとならない」ときに、「ジョイスティック」の「操作が無効化される」とは、特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点4について
上記相違点4について判断する。
甲1発明において、「ディーゼルエンジンは、上記機体上かつ運転席下の部材の下に配置され」ているから、保守点検等のためにディーゼルエンジンが配置された箇所にアクセス可能とすることは、甲1発明に接した当業者が当然考慮する事項である。
ここで、甲12には、甲1と同じ型番のミニショベルであるViO12ミニショベルについて写真12が示されており、上記第4の2(6)ア(オ)に示したとおり、運転席及び運転席下の部材があった箇所の内部を前方及び上方に露出させた際には、内部の部材の後ろ上方に位置し、前下方に回転すれば露出している内部の部材を運転席の下で格納するのに適した配置及び形状となる部材を備える構成が看取される。
また、甲14には、甲1に示されるViO12ミニショベルより型番が若いViO10ミニショベルについて、写真14が示されており、上記第4の2(8)ア(オ)に示したとおり、ボンネットを開くために回転する軸は、エンジンより後方に配置され、ボンネットを開く回転方向は後ろ上方に向かってであり、ボンネットを開いた状態でボンネットが回転軸の箇所で支持される構成が、看取される。
甲1と同じ型番のViO12ミニショベルについて、甲12の写真12から看取される上記構成、及び、甲1と同じ型番のViO12ミニショベルに先行する型番のViO10ミニショベルで採用されている、甲14の写真14から看取される上記構成は、甲1発明において、保守点検等のためにディーゼルエンジンが配置された箇所にアクセス可能とするための具体的な構成として、いずれも当業者が採用する蓋然性が高いものである。なお、甲12の写真12から看取される構成と、甲14の写真14から看取される構成とは、互いに整合するものであり、同構成は本件出願前にViO10ミニショベルに採用されて広く知られたものであるといえる。また、甲14の写真14に示される構成と同様の構成は、上記第4の2(15)ないし(17)に摘記した甲22ないし24にも示されるとおり、周知技術である。
そして、甲1発明において、上記周知技術の構成を採用した場合、「運転席下の部材」を、「ディーゼルエンジン」より後方に配置した回転軸周りに回転可能に支持し、後ろ上方に回転して開くこととなるから、上記相違点4に係る本件発明1の構成のうち、「ボンネット」が「エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉」する構成に相当する構成となる。また、甲1発明においては、「ひじ掛け状の部材」を、「運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢」から、「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」へと、「運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転」する際の回転方向は、後ろ上方となることが明らかであるから、甲1発明において、上記周知技術の構成を採用した場合、上記相違点4に係る本件発明1の構成のうち、「前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じである」構成に相当する構成となる。
したがって、甲1発明において、上記相違点4に係る本件発明1の構成に至ることは、甲12、甲14又は甲22ないし24に示される周知技術に基いて、当業者であれば容易に想到し得た事項である。

b 相違点5について
上記相違点5について判断する。
相違点5は、本件発明1と公然実施発明1との相違点1と実質的に同じ内容であるところ、上記(1)ア(イ)aにおいて上記相違点1について判断したと同様に、甲1発明において、甲20、甲21、甲26及び甲27に示される周知技術を適用して、上記相違点5に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得た事項である。

c 相違点6について
上記相違点6について判断する。
相違点6は、本件発明1と公然実施発明1との相違点2と実質的に同じ内容であるところ、上記(1)ア(イ)bにおいて上記相違点2について判断したと同様に、甲1発明において、上記相違点6に係る本件発明1の構成に至ることは、単なる設計事項ということができず、また、甲2ないし甲32に記載される事項を考慮しても、本件特許の出願時において、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ)甲1発明を主たる引用発明とした本件発明1の容易想到性
上記(イ)cのとおり、甲1発明において、相違点6に係る本件発明1の構成をとることは、単なる設計事項ということができず、また、甲2ないし甲32に記載される事項を考慮しても、本件特許の出願時において、当業者が容易に想到できたものではないから、その余の相違点7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲2ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て有し、さらに構成を付加したものであるところ、上記アのとおり、本件発明1は、甲1発明、及び甲2ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4も、甲1発明、及び甲2ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲19発明を主たる引用発明とした進歩性(上記第3の2(3))について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲19発明とを対比する。
甲19発明における「エンジン」は、本件発明1における「エンジン」に相当する。甲19発明における「下部走行体の上で旋回可能であり作業機を取り付けた機体」は、本件発明1における「旋回フレーム」に相当する。甲19発明における「ボンネット」は、本件発明1における「ボンネット」に相当する。
甲19発明において、「エンジンは機体上でボンネットの下に配置されて」いる構成は、本件発明1において、「エンジン」が「旋回フレーム」に「配置」されている構成に相当する。
甲19発明において、「機体後端部付近」が「機体上でボンネットの下に配置」した「エンジン」より後方に位置することが明らかであることをふまえると、「ボンネット」が「回転」する「軸」が「機体後端部付近」にある構成は、本件発明1における「ボンネット」が、「エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持」されている構成に相当する。甲19発明における「ボンネット」が、「機体後端部付近を軸に後方上方に回転して全開する」構成は、本件発明1における「ボンネット」が、「旋回フレームに対して回転することで開閉する」構成に相当する。
甲19発明における「運転席の両横に配置される部材」、及びそのうちの片方である「運転席の左横に配置される部材」は、「ひじ掛け状の部材とジョイスティックとが設けられ」ていることをふまえると、本件発明1における「コンソール」に相当する。甲19発明において、「運転席の左横に配置される部材」に設けられた「ジョイスティック」は、本件発明1における「コンソール」が備える「操作レバー」に相当する。
甲19発明における、「運転席の左横に配置される部材」がとる「運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢」は、本件発明1における「第1姿勢」に相当する。甲19発明における、「運転席の左横に配置される部材」がとる「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」は、本件発明1における「第2姿勢」に相当する。
甲19発明において、「運転席の左横に配置される部材が前後方向に延在する姿勢では、ジョイスティックは運転席の背もたれより前方で略上方に突出し、ジョイスティックによる操作に適した姿勢とな」る構成と、本件発明1において、「コンソール」が「前記第1姿勢のとき」に「操作レバー」の「操作が有効」となる構成とは、「コンソール」が「前記第1姿勢のとき」に「操作レバー」が「操作に適した状態とな」る点で、共通する。
甲19発明において、運転席の「座面及び背もたれ」が「ボンネットの上」に設けられていることをふまえると、「運転席の左横に配置される部材」が「回転可能」である「運転席の背もたれ近傍の部分」の「軸」も、ボンネットの上に位置することとなるから、甲19発明における「運転席の左横に配置される部材」が「回転可能」である「軸」は、本件発明1における「ボンネットの上方に配置された第2軸」に相当する。甲19発明において、「運転席の左横に配置される部材」が「2つの姿勢の間で、運転席の背もたれ近傍の部分を軸として回転可能」である構成は、本件発明1における「コンソール」が、「第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能」である構成に相当する。
甲19発明において、「ボンネットを開くために回転させる方向は、運転席の左横に配置される部材を略上方に延在する姿勢とするために回転させる方向と同じで」ある構成は、本件発明1において、「ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じ」である構成に相当する。
甲19発明において、「油圧ホース」が「運転席の左側に配置される部材の根元付近から出てボンネットの上面内に入る」構成は、本件発明1において、「コンソール」に「油圧ホース」が「接続」される構成に相当する。また、甲19発明において「油圧ホース」が「運転席の左側に配置される部材の根元付近から出てボンネットの上面内に入る」位置は、「運転席の左横に配置される部材」が「運転席の背もたれ近傍の根元部分を軸として回転」する際の軸にも近いことが明らかであることをふまえると、本件発明1において「油圧ホース」が「第2軸の近傍を通るように」「配置」されている構成に相当する。
甲19発明における「作業用車両」は、本件発明1における「作業車両」に相当する。

以上を整理すると、本件発明1と甲19発明とは、
「エンジンが配置される旋回フレームと、
前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットと、
前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能なコンソールと、
前記コンソールに接続される油圧ホースと、
を備え、
前記コンソールは、前記第1姿勢のときに操作に適した状態となる操作レバーを備え、
前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じであり、
前記油圧ホースが、前記第2軸の近傍を通るように配置される、
作業車両。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点8>
「油圧ホース」の配置に関し、
本件発明1においては、エンジンの後方に配置された第1軸回りに旋回フレームに対して回転し、コンソールの操作が無効化される回転方向と同じ方向の回転で開くボンネット、及び、ボンネットに対して第2軸回りに回転するコンソールに対して、油圧ホースが第2軸の近傍のみでなく「前記第1軸の近傍」も通るように、「かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」と特定されているのに対し、
甲19発明においては、油圧ホースが、ボンネットの回転軸の近傍を通るように、かつ、機体の内壁及びボンネットの内壁に沿うように配置されているとは、特定されていない点。

<相違点9>
「操作レバー」の「有効」及び「無効化」に関し、
本件発明1においては、コンソールが「前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される」と特定されているのに対し、
甲19発明においては、「運転席の左横に配置される部材」が「運転席の横で背もたれ付近から座面の前端付近まで前後方向に延在する姿勢」のときに「ジョイスティック」の操作が有効となり、「背もたれ付近から略上方に延在する姿勢」のときに「ジョイスティック」の操作が無効化されるとは特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点8について判断する。
上記相違点8は、上記(1)ア(イ)b(a)に示した本件発明1における油圧ホースの配置i)ないしiv)のうち、ii)ないしiv)の一連の部分に対応するところ、本件発明1と公然実施発明との相違点2についての判断において、上記(1)ア(イ)bに示したとおり、単なる設計事項ということはできず、また、甲1ないし甲18及び甲20ないし甲32の記載を考慮しても、本願出願前に記載あるいは示唆されていたということができないものである。

(ウ)甲19発明を主たる引用発明とした本件発明1の容易想到性
上記(イ)のとおり、甲19発明において、相違点8に係る本件発明1の構成をとることは、単なる設計事項ということができず、甲1ないし甲18及び甲20ないし甲32に記載される事項を考慮しても、本件特許の出願時において、当業者が容易に想到できたものではないから、その余の相違点9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲19発明、及び甲1ないし甲18並びに甲20ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て有し、さらに構成を付加したものであるところ、上記アのとおり、本件発明1は、甲19発明、及び甲1ないし甲18並びに甲20ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4も、甲19発明、及び甲1ないし甲18並びに甲20ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)公然実施発明2(U10−3 Ergo Control)を主たる引用発明とした進歩性(上記第3の1(1)イ及び上記第3の2(4))について
公然実施発明2は、甲19発明と同じ構成を有するから、本件発明1と公然実施発明2とを対比すると、両者は上記(3)ア(ア)に示した相違点8及び相違点9で相違し、その余の点で一致する。
そして、相違点8については、上記(3)イ(イ)に判断したとおり、甲1ないし甲18及び甲20ないし甲32に記載された事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたものでなく、甲19発明を認定した甲19の記載を考慮しても、当該判断が変わるものではない。
したがって、本件発明1は、公然実施発明2、及び甲1ないし甲32に記載される事項に基いて、本件特許の出願時に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1の構成を全て有する、本件発明2ないし4についても、同様である。

(5)申立人の意見書における主張について
ア 申立人は、令和4年2月2日付けの意見書(以下、「申立人意見書」という。)において、油圧ホースの配置に関する、本件発明1と公然実施発明1との相違点2について、概略、単なる設計事項であるか周知技術を適用することにより容易に想到できた事項であって、その効果も格別なものではない旨を主張している(申立人意見書第7頁第6行ないし第11頁最終行)。
しかしながら、この点については、上記(1)ア(イ)bにおいて、上記相違点2について判断したとおりであり、申立人意見書における上記主張について検討しても、当該判断を変更すべき事情は見いだせない。

イ 申立人は申立人意見書において、油圧ホースの配置に関する、本件発明1と甲19発明との相違点8に関し、概略、甲19の写真19−3(及び甲17における同様の写真)からは、油圧ホースがボンネットの回転軸の近傍を通ることまで看取することができ、相違点8のその余の構成は単なる設計事項か周知技術に基づいて想到容易であって、その効果も格別なものではない旨を主張している(申立人意見書第4頁下から10行ないし第5頁第13行、及び第12頁第1行ないし第16頁第5行)。
しかしながら、甲19の写真19−3において、写真左下方向に延びる線上の部材については、写真奥行き方向における他の部材との位置関係が明瞭に示されておらず、ボンネットの回転軸の近傍を通ることまで看取することはできないから、油圧ホースの配置に関する本件発明1と甲19発明との相違点は、上記(3)ア(ア)に認定した相違点8のとおりに、認定されるべきものである。そして、当該相違点8については、上記(3)ア(イ)に判断したとおりであり、申立人意見書における上記主張について検討しても、当該判断を変更すべき事情は見いだせない。

ウ 申立人意見書におけるその余の主張を考慮しても、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について、上記(1)ないし(4)の判断を変更すべき事情は、見いだせない。

(6)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。

2 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲21ないし32に基づく進歩性(上記第3の1(1)ウ)について
ア 本件発明1について
申立人は、本件発明1は甲21ないし甲28及び甲32に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨を主張し(申立書補正書第20頁第1行ないし第第22行)、また、本件発明1は甲28及び甲32に記載された発明に基づいて進歩性が否定される旨を主張している(申立書補正書第20頁第22行ないし第21頁第11行)から、以下、甲21発明を主たる引用発明とした進歩性、及び、甲28発明を主たる引用発明とした進歩性について、判断する。

(ア)甲21発明を主たる引用発明とした進歩性
a 対比
本件発明1と甲21発明とを対比する。
甲21発明において、「エンジンE」が「ガードカバー9内」に「収納」される「旋回フレーム4」は、本件発明1において、「エンジンが配置される旋回フレーム」に相当する。
甲21発明において、「旋回フレーム4」に配置された「エンジンE」を「収納」する「ガードカバー9」の、「天板9aの一部としてのスタンドカバー9c」が、「エンジンEより前方に配置されたヒンジ9dを支点として、回転して開閉」する構成と、本件発明1において、「前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネット」とは、「ボンネットの回転軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネット」という点で、共通する。
甲21発明において、「スタンドカバー9cの左側」に「コントロールボックス14が装備されて」おり、「オペレータが乗降する場合、コントロールボックス14の後部に形成される回動支点14aを中心としてコントロールボックス14を通常位置から後方に跳ね上げることができ、コントロールボックス14を後方に跳ね上げる回動支点14cは、スタンドカバー9cの上方に配置されており、コントロールボックス14が後方に跳ね上げられる際、コントロールボックス14はスタンドカバー9cに対して回転」する構成は、本件発明1において、「前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能なコンソール」に相当する。
甲21発明において、「コントロールボックス14」が「操作レバー13を含む」構成は、本件発明1において、「前記コンソール」が「操作レバーを備え」る構成に、相当する。甲21発明において、「操作レバー13」を含む「コントロールボックス14」について、「オペレータが乗降する場合」に「後方に跳ね上げ」る前の位置が「通常位置」であり、「オペレータが乗降する場合」の位置が「通常位置から後方に跳ね上げ」た位置である構成と、本件発明1において、「コンソール」の「操作レバー」が「前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される」る構成とは、「前記コンソール」が、「前記第1姿勢のときに操作に適した状態とな」る点で、共通する。
甲21発明において、「操作レバー13で操作されるリモコン弁(制御弁)15から延びるパイロットホース(油圧ホース)21」が「垂下されてコントロールボックス14から引き出され」る構成は、本件発明1において、「前記コンソールに接続される油圧ホース」を備える構成に相当する。
甲21発明において、「垂下されてコントロールボックス14から引き出され」る「パイロットホース21」が、「スタンドカバー9cの前端近傍からガードカバー9内に入り」、また「スタンドカバー9c」が、「その前縁部9c′」の「ヒンジ9dを支点として、回転して開閉」する構成は、パイロットホース21の引き回しについて、スタンドカバー9cの回転の支点であるヒンジ9dの近傍を通るよう配置していると言えるから、本件発明1において「油圧ホース」が「前記第1軸の近傍」を「通るように」「配置」される構成とは、「油圧ホースが、ボンネットの回転軸の近傍を通るように配置」される点で、共通する。
甲21発明における「油圧ショベル1」は、本件発明1における「作業車両」に相当する。

以上を整理すると、本件発明1と甲21発明とは、
「エンジンが配置される旋回フレームと、
ボンネットの回転軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットと、
前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能なコンソールと、
前記コンソールに接続される油圧ホースと、
を備え、
前記コンソールは、前記第1姿勢のときに操作に適した状態となる、操作レバーを備え、
前記油圧ホースが、ボンネットの回転軸の近傍を通るように配置される、
作業車両。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点10>
ボンネットの回転軸及び回転方向に関し、
本件発明1においては、ボンネットの回転軸は「エンジンの後方に配置された第1軸」であり、「ボンネットを開くために回転させる方向」は、「前記コンソールを前記第1姿勢(当審注;操作に適した状態)から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じであ」るのに対し、
甲21発明においては、「スタンドカバー9c」が回転の支点とする「ヒンジ9d」の位置が「エンジンEより前方」であり、「スタンドカバー9c」が「開」く際の回転方向は「前方」であって、「オペレータが乗降する場合」に「コントロールボックス14を後方に跳ね上げ」る方向と逆である点。

<相違点11>
油圧ホースの配置に関し、
本件発明1においては、相違点10に係る回転軸及び回転方向を有するボンネット、及び、ボンネットに対して第2軸周りに回転するコンソールに対して、「油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」と特定されているのに対し、
甲21発明においては、パイロットホース21が近傍を通る「ヒンジ9d」の位置、及び「ヒンジ9d」を支点とする「スタンドカバー9c」の回転方向が、相違点10の点で異なり、パイロットホース21の配置も、「前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」ものではない点。

<相違点12>
「操作レバー」の「有効」及び「無効化」に関し、
本件発明1においては、コンソールが「前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される」と特定されているのに対し、
甲21発明においては、「操作レバー13」について、「コントロールボックス14」の「通常位置」で「操作が有効」となり、「コントロールボックス14」を「後方に跳ね上げ」た位置で「操作が無効化される」とは、特定されていない点。

b 判断
(a)相違点10及び相違点11について
相違点10及び相違点11は相互に関連するので、まとめて判断する。
甲22ないし甲24には、上記第4の2(15)ないし(17)に摘記した事項が記載されており、作業車両のボンネットを、ボンネットの後端部近傍の軸周りに、後ろ側に回して開く様子が図示されているが、甲21発明に適用するには、「スタンドカバー9c」及び「ガードカバー9」の構造、並びに、甲21発明における「スタンドカバー9c」及び「ガードカバー9」の構造を前提とした「パイロットホース21」の配置を、全面的に変更することを要する一方、かような変更に適した油圧ホースの配置を示すものではないから、甲21発明において上記相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成をとることを記載あるいは示唆するものではない。
甲25には、上記第4の2(18)に摘記した事項が記載されており、作業をする際の使用位置(通常作業位置)と上方回動位置(回避位置)とに回動自在な左操縦装置22の操縦ボックス26に接続されるホース状の部材について、操縦ボックス26が回動自在に支持される第1横軸27の近傍で、バンド状の部材により固定されることが示されている。しかしながら、甲25において、左操縦装置22が上面に搭載される操縦台21は、前面が開放されており、リアボンネット10Aを有するエンジンルームは、運転席8と仕切られた後部にあるから、甲25に示されるリアボンネット10A、左操縦装置22及びホース状の部材の配置は、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
甲26には、上記第4の2(19)に摘記した事項が記載されており、前後調整、高さ調整及び跳ね上げ可能なコンソールボックス32に接続されるパイロットホース35について、前後調整に伴うパイロットホース35の変化を吸収する部分と、高さ調整及び跳ね上げによるパイロットホース35の変化を吸収する部分とを、水平方向に弛んだ第1のホース36と鉛直方向に弛んだ第2のホース42とに分けることが示されているが、跳ね上げ可能なコンソールボックス32は、フロア21に対して前後方向に移動可能な移動台座であるハイトライザ31に取り付けられたものであり、回転することで開閉するボンネットに取り付けられたものではないから、甲26に示されるハイトライザ31及びパイロットホース35の配置は、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
甲27には、上記第4の2(20)に摘記した事項が記載されており、オペレータが乗り降りするときに跳ね上げることができるコンソールeが示されているが、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
甲28には、上記第4の2(21)アに摘記した事項、及び同イに認定した甲28発明が記載されているが、甲28発明は、コンソールボックス36及びボンネット32の回動機構を、ボンネット32用の一つのみとしたものであるから、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
甲29には、上記第4の2(22)に摘記した事項が記載されており、旋回作業機としてのバックホー20において、作動油を供給するデリバリホース7を、ゴム等の弾性材で形成されたクランプ部材により弾性的に挟持して振動を吸収しながら固定することが示されているが、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
甲30には、上記第4の2(23)に摘記した事項が記載されているが、甲30において、上、下方向に回動するコンソール装置16は、運転席台座13に取り付けられており、旋回フレームに対して回転して開閉するボンネットに取り付けられたものではないから、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
甲31には、上記第4の2(24)に摘記した事項が記載されているが、甲31において、跳ね上げ式の左コンソールボックス12Lは、シートスタンド17の設置面部17bに取り付けられており、旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットに支持されたものではなく、また甲31における油圧ホース群も、シートスタンド17を切り欠いて設けた収容スペース30を通って床面5aの挿通孔36に至るものであり、回転することで開閉するボンネット内を通過するものではいから、甲31も、相違点10及び相違点11に係る本件発明1構成を示すものではない。
甲32には、上記第4の2(25)アに摘記した事項、及び同イに認定した甲32発明が記載されているが、甲32発明においては、支持フレーム23をメンテナンス時にどのように開放するか不明であり、仮に回転して開くとしても、上記1(1)ア(イ)b(g)において、甲32発明について公然実施発明1と本件発明1との相違点2に関して指摘したとおり、甲32発明は、支持フレーム23を開く際の回転方向を左コントロールボックス8の操作がロックされる後ろ上方の跳ね上げ方向と同じとすること、及びパイロットホース群21を支持フレーム23の回転軸の近傍に配置することの2点について、上記相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成に相当する構成とすることは困難な構造を有するから、甲32発明も、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成を示すものではない。
したがって、甲21発明において、上記相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成に至ることは、甲22ないし甲32に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たものではない。

(b)甲21発明を主たる引用発明とした本件発明1の容易想到性
上記(a)のとおり、甲21発明において、相違点10及び相違点11に係る本件発明1の構成をとることは、甲22ないし甲32に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に想到できたものではないから、その余の相違点12について検討するまでもなく、本件発明1は、甲21発明、及び甲22ないし甲32に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲28発明を主たる引用発明とした進歩性
a 対比
本件発明1と甲28発明とを対比する。
甲28発明において、「エンジンルーム33が設けられ」た「上部旋回体22を構成するアッパーフレーム30」は、本件発明1において、「エンジンが配置される旋回フレーム」に相当する。
甲28発明において、「ボンネット軸(ヒンジ)34を中心に回動して上面及び後面両開口部を開閉する状態でアッパーフレーム30に取付けられ」た「ボンネット32」と、本件発明1において、「前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネット」とは、「ボンネットの回転軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネット」の点で、共通する。
甲28発明において、「ボンネット32上に並設」された「コンソールボックス36」は、本件発明1において、「コンソール」に相当する。
甲28発明において、「コンソールボックス36内に設けられた油圧、電気機器と、エンジンルーム33内に設けられた油圧、電気機器との間で油圧、電気の授受を行う油圧ホース及び電気配線」を総称した「ホース類51」は、本件発明1において、「前記コンソールに接続される油圧ホース」に相当する。
甲28発明において、「コンソールボックス36は、操作レバー37を内蔵」する構成は、本件発明1において、「コンソール」が「操作レバーを備え」る構成に相当する。
甲28発明において、「ホース類51」が、「側面視でボンネット軸34の軸心またはその近傍を通」る構成と、本件発明1において、「前記油圧ホースが、前記第1軸の近傍」を「通るよう」に「配置される」構成とは、「前記油圧ホースが、ボンネットの回転軸の近傍を通るように配置される」点で、共通する。

以上を整理すると、本件発明1と甲28発明とは、
「エンジンが配置される旋回フレームと、
ボンネットの回転軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネットと、
コンソールと、
前記コンソールに接続される油圧ホースと、
を備え、
前記コンソールは、操作レバーを備え、
前記油圧ホースが、ボンネットの回転軸の近傍を通るように配置される、
作業車両。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点13>
ボンネット及びコンソールに関し、
本件発明1においては、ボンネットの回転軸が「エンジンの後方に配置された第1軸」であり、コンソールが「前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能」であり、コンソールの操作レバーが「前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される」ものであり、「前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じ」であるのに対し、
甲28発明においては、「ボンネット32は、エンジンルーム33の上面側を覆う上面部32aと、後面側を覆う後面部32bとから成るL字形に形成され、前端部に設けられたボンネット軸(ヒンジ)34を中心に回動して上面及び後面両開口部を開閉する」ものであり、「コンソールボックス36」は「ボンネット32と一体に回動し、回動機構がボンネット32用の一つ」ですまされている点。

<相違点14>
油圧ホースの配置に関し、
本件発明1においては、上記相違点13に係る「第1軸」回りの回転を行うボンネット及び「第2軸」回りの回転を行うコンソールに対して、「油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」のに対し、
甲28発明においては、「回動機構がボンネット32用の一つ」であるボンネット軸34に対し、「ホース類51」が「側面視でボンネット軸34の軸心またはその近傍を通」る点。

b 判断
相違点13及び相違点14は相互に関連するので、まとめて判断する。
甲28発明は、上記第4の2(21)ア(ア)に摘記した甲28の段落【0017】にも示されるとおり、回動機構をボンネット用の一つのみとして構造を簡略化することを目的としたものであるから、ボンネット用の回動機構とコンソールボックス用の回動機構とをそれぞれ備えることは甲28の目的に反し、甲28発明において上記相違点13に係る本件発明1の構成を採用する動機付けはない。
また、甲21ないし甲27及び甲29ないし甲32についてみても、甲21発明は上記(ア)aにおいて本件発明1と対比したとおり、上記相違点13及び相違点14に係る本件発明1の構成を有するものではなく、甲22ないし甲27及び甲29ないし甲32も、上記(ア)b(a)において甲21発明と本件発明1との相違点10及び相違点11について検討したとおり、相違点13及び相違点14に係る本件発明1の構成を示すものではない。
したがって、甲28発明において、上記相違点13及び相違点14に係る本件発明1の構成をとることは、甲21ないし甲27及び甲29ないし甲32の記載を考慮しても、当業者が容易に想到し得たものではない。

イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加したものであるところ、上記ア(ア)及び(イ)に対比・判断したとおり、本件発明1は、甲21発明、及び甲28発明のいずれを主たる引用発明としても、甲21ないし甲32に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし4も、甲21発明、及び甲28発明のいずれを主たる引用発明としても、甲21ないし甲32に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲21ないし甲32に照らした進歩性のまとめ
上記のとおりであるから、本件発明1ないし4は、申立人が申立てる、甲21ないし甲32に照らした進歩性欠如の特許異議申立理由により、取り消されるべきものではない。

(2)本件発明1ないし3のサポート要件(上記第3の1(2))について
ア 申立人の主張する取消理由
申立人が申立書補正書において、本件発明1ないし3に係る特許に関して申立てる、サポート要件違反に関する特許異議申立理由は、概略次のとおりである。
(ア)本件発明1について
請求項1には、油圧ホースが「第1軸の近傍」及び「第2軸の近傍」を通ることが記載されている。一般的に、ある部材の「近傍」とは当該部材に近接する領域を意味するところ、図2、図3には、第1軸71からホース径の数倍以上離間した位置に油圧ホース5L,5Rが配置された構成が記載されており、図2、図3等に示される構成は、油圧ホースが第1軸から大きく離間した位置を通る構成であって、請求項1に記載された油圧ホースが「第1軸の近傍」を通る構成とは明らかに相違する。また、図2、図3には、油圧ホースが第2軸に巻き付けられるようにして配策されている構成のみが記載されており、第2軸に巻き付けられるようにして配策されることなく油圧ホースが第2軸の近傍を通る構成は記載されていない。
そのため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである(申立書補正書第23頁第8行ないし第24頁第14行)。

(イ)本件発明2について
本件明細書の段落【0014】には、「ボンネットの回転軸である第1軸の近傍において油圧ホースの伸ばし代を確保することができ、油圧ホースがボンネットを引っ張って開放動作の抵抗になることを防止することができる。従って、ボンネットを円滑に開くことができる。」と記載されており、当該記載は本件発明2の効果を示すから、本件発明2が解決すべき課題は、油圧ホースの伸ばし代を確保することにある。
しかしながら、請求項2には、「前記油圧ホースは、長手方向に間隔をあけて配置される複数の固定部材により、前記旋回フレーム又は前記ボンネットに固定され、前記ボンネットを閉じた状態で、前記第1軸の近傍では、互いに隣接する前記固定部材の間で前記油圧ホースが弛んでいる」と記載されており、「固定」とは「一定の位置に止まって動かないこと。また、動かないようにすること。」であるから、本件発明2においては、旋回フレーム又はボンネットに「固定」された固定点と固定点との間で油圧ホースが弛んでいても、この部分の油圧ホースは固定されているため移動することができず、油圧ホースの伸ばし代を確保することができない。
そうすると、本件発明2は、発明の課題を解決することができないことが明らかであるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない(申立書補正書第24頁第15行ないし第25頁第8行)。

(ウ)本件発明3について
本件明細書の段落【0016】には、「エンジンと油圧ホースの両方を、ボンネットの内部のコンパクトな空間に配置することができる。」と記載されており、当該記載は本件発3の効果を示すから、本件発明3が解決すべき課題は、エンジンと油圧ホースの両方を、ボンネットの内部のコンパクトな空間に配置することにある。
しかしながら、段落【0016】に記載された効果を得るためには、油圧ホースがエンジンの下方を通る必要があるにもかかわらず、請求項3には、「前記油圧ホースは、前記第1軸よりも前記コンソールから遠い側が下向きに凸となるように曲がっており、この曲がった部分が前記エンジンの近傍を通る」と記載されており、油圧ホースが「エンジンの近傍を通る」ことを特定するにとどまり、エンジンの下方を通ることは特定されていない。
そうすると、本件発明3は、課題解決手段が反映されておらず、発明の課題を解決することができないことが明らかであるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない(申立書補正書第25頁第9行ないし第25行)。

イ サポート要件についての判断
(ア)サポート要件に関する判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。この基準に基づいて、以下、判断する。

(イ)本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来から、運転座席の横にコンソールボックスが配置された作業車両が知られている。特許文献1及び2は、この種の作業車両を開示する。
【0003】
特許文献1の建設機械は、エンジンルームの上面及び後面の両開口部を開閉するボンネットを備える。ボンネットは、前端部に設けられたヒンジを中心に回動する。ボンネットの上面部の上面には、コンソールボックスが、ボンネットと一体に回動する状態で設けられている。
【0004】
特許文献2の小型建設機械は、本体カバーの前面上縁部の支点を中心に回動するボックスカバーを備える。ボックスカバーには、コントロールボックスが支持されている。ボックスカバーの裏面には支柱の一端が軸受を介して取り付けられ、この支柱の他端は、本体カバー側の係止孔部に係止される。この構成で、ボックスカバーを持ち上げて当該支柱でその後端を保持させることによって、ボックスカバーの裏面側に点検整備用の開口を確保することができる。
【先行技術文献】
・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の構成では、仮にメンテナンス作業等で、ボンネットが開いた状態を維持しつつコンソールボックスをボンネットの後方側に向けて回転させた場合に、コンソールボックスの回転に伴って、ボンネットが不意に閉じてしまうおそれがあった。
【0007】
上記特許文献2の構成では、支柱でボックスカバーを持ち上げることにより形成される点検整備用の開口の大きさが部分的かつ限定的である。そのため、当該開口を通じて収容される機器を効率よくメンテナンスするためには、メンテナンスが必要となる機器を当該開口から露出させるように配置する必要がある。即ち、機器のレイアウトに制約が伴うという問題があった。
【0008】
また、特許文献2の構成で、例えばエンジンをメンテナンスする場合は、本体カバーの上部全部を開放することが必要である。しかし、本体カバーの天板部及び左右のボックスカバーが互いに独立しているため、全てのカバーを開放するのは手間が掛かり、効率よくメンテナンスすることが困難であった。従って、メンテナンス性に改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、メンテナンス性に優れた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成の作業車両が提供される。即ち、この作業車両は、旋回フレームと、ボンネットと、コンソールと、油圧ホースと、を備える。前記旋回フレームには、エンジンが配置される。前記ボンネットは、前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉する。前記コンソールは、前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能である。前記油圧ホースは、前記コンソールに接続される。前記コンソールは、前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効となる操作レバーを備える。前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じである。前記油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される。
【0012】
これにより、ボンネットを開いてから操作レバーの操作を無効にするためにコンソールを回転させた場合でも、ボンネット及びコンソールを含めた全体の重心の移動方向がボンネットの開き側となるので、開いたボンネットが不測に閉じてしまうのを防止し、安心してメンテナンス作業を行うことができる。また、油圧ホースが作業の邪魔になりにくい位置にあるので、ボンネットを開いた状態でのメンテナンス性が良好である。
【0013】
前記の作業車両においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記油圧ホースは、長手方向に間隔をあけて配置される複数の固定部材により、前記旋回フレーム又は前記ボンネットに固定される。前記ボンネットを閉じた状態で、前記第1軸の近傍では、互いに隣接する前記固定部材の間で前記油圧ホースが弛んでいる。
【0014】
これにより、ボンネットの回転軸である第1軸の近傍において油圧ホースの伸ばし代を確保することができ、油圧ホースがボンネットを引っ張って開放動作の抵抗になることを防止することができる。従って、ボンネットを円滑に開くことができる。
【0015】
前記の作業車両においては、前記油圧ホースは、前記第1軸よりも前記コンソールから遠い側が下向きに凸となるように曲がっており、この曲がった部分が前記エンジンの近傍を通ることが好ましい。
【0016】
これにより、エンジンと油圧ホースの両方を、ボンネットの内部のコンパクトな空間に配置することができる。」

(ウ)本件発明が解決しようとする課題
a 本件発明1ないし4が解決しようとする課題
本件明細書の段落【0002】ないし【0009】の記載より、本件発明が解決しようとする課題は、「メンテナンス性に優れた作業車両を提供する」こと(段落【0009】)であると、理解することができる。
そして、本件発明が解決しようとする、より具体的な課題は、本件発明1ないし4が共通して有する構成に言及する段落【0011】及び【0012】の記載より、回転して開閉するボンネット、ボンネットに対して回転するコンソール、及び油圧ホースを備える作業車両において、「ボンネットを開いてから操作レバーの操作を無効にするためにコンソールを回転させた場合でも、ボンネット及びコンソールを含めた全体の重心の移動方向がボンネットの開き側となるので、開いたボンネットが不測に閉じてしまうのを防止し、安心してメンテナンス作業を行うことができる」ものとすること(段落【0012】)、また、「油圧ホースが作業の邪魔になりにくい位置にあるので、ボンネットを開いた状態でのメンテナンス性が良好である」ものとすること(同段落【0012】)であると、理解することができる。

b 本件発明2が解決しようとする課題
本件発明1にさらに構成を付加した本件発明2が解決しようとする課題は、上記aの本件発明が解決しようとする上記課題を解決すること、及び、本件明細書の段落【0013】において「好ましい」とされる構成と関連し、「ボンネットの回転軸である第1軸の近傍において油圧ホースの伸ばし代を確保することができ、油圧ホースがボンネットを引っ張って開放動作の抵抗になることを防止することができる。従って、ボンネットを円滑に開くことができる。」(段落【0014】)という効果を得るのに好適な油圧ホースの配置を提供することであると、理解することができる。

c 本件発明3が解決しようとする課題
本件発明1にさらに構成を付加した本件発明3が解決しようとする課題は、上記aの本件発明が解決しようとする上記課題を解決すること、及び、本件明細書の段落【0015】において「好ましい」とされる構成と関連し、「エンジンと油圧ホースの両方を、ボンネットの内部のコンパクトな空間に配置することができる。」(段落【0016】)という効果を得るのに好適な油圧ホースの配置を提供することであると、理解することができる。

(エ)本件発明1について、課題を解決すると合理的に理解することができるか
本件発明1は、「エンジンが配置される旋回フレーム」を有する「作業車両」において、「前記エンジンの後方に配置された第1軸を中心として回転可能に支持され、前記旋回フレームに対して回転することで開閉するボンネット」と、「前記ボンネットの上方に配置された第2軸を中心として回転可能に支持され、前記ボンネットに対して回転することで、第1姿勢と第2姿勢との間で切換可能なコンソール」とを有し、「前記コンソールは、前記第1姿勢のときは操作が有効となり、前記第2姿勢のときは操作が無効化される操作レバーを備え」たうえで、「前記ボンネットを開くために回転させる方向は、前記コンソールを前記第1姿勢から前記第2姿勢へ切り換えるために回転させる方向と同じ」であることを特定しているから、上記(ウ)aに示した本件発明1ないし4が解決しようとする課題のうち、「メンテナンス性に優れた作業車両を提供する」という課題を解決することができ、また、「ボンネットを開いてから操作レバーの操作を無効にするためにコンソールを回転させた場合でも、ボンネット及びコンソールを含めた全体の重心の移動方向がボンネットの開き側となるので、開いたボンネットが不測に閉じてしまうのを防止し、安心してメンテナンス作業を行うことができる」ものとする課題を解決することができると、合理的に理解することができる。
また、本件発明1は、「前記コンソールに接続される油圧ホース」について、「前記油圧ホースが、前記第1軸の近傍及び前記第2軸の近傍を通るように、かつ、前記旋回フレームの内壁及び前記ボンネットの内壁に沿うように配置される」という構成をさらに有しており、油圧ホースの配置について本件発明1が有する構成を整理すると、
a コンソールからボンネットに至る部分において、ボンネットの上方でボンネットに対してコンソールが回転する「第2軸の近傍」を通ること。
b ボンネットにおいて、「ボンネットの内壁に沿うように」配置されること。
c ボンネットから旋回フレームに至る部分において、「エンジンが配置される旋回フレーム」に対してボンネットが回転し、ボンネットを開く際には、「操作レバー」の「操作が無効化」される「第2姿勢」へと「コンソール」を回転させる方向と同じ方向にボンネットを回転させる、「エンジンの後方に配置」された「第1軸の近傍」を通ること。
d 旋回フレームにおいて、「旋回フレームの内壁」に「沿うように」配置されること。
が全て特定されているから、本件発明1は、油圧ホースの配置に関し、上記(ウ)aに示した「油圧ホースが作業の邪魔になりにくい位置にあるので、ボンネットを開いた状態でのメンテナンス性が良好である」という課題も、解決することができると、合理的に理解することができる。
したがって、本件発明1は、本件明細書に示される発明が解決しようとする課題を、解決することができると、合理的に理解することができるものである。

(オ)本件発明2について、課題を解決すると合理的に理解することができるか
本件発明2は、本件発明1の構成を全て有するから、上記(エ)に示したとおり、本件発明1ないし4が共通して解決しようとする課題を、解決することができると、合理的に理解することができる。
また、本件発明2は、油圧ホースについて、「長手方向に間隔をあけて配置される複数の固定部材により、前記旋回フレーム又は前記ボンネットに固定」される一方、「前記ボンネットを閉じた状態で、前記第1軸の近傍」では、「互いに隣接する前記固定部材の間で前記油圧ホースが弛んでいる」という構成を有するから、上記(ウ)bに示した付加的な課題である、「ボンネットの回転軸である第1軸の近傍において油圧ホースの伸ばし代を確保することができ、油圧ホースがボンネットを引っ張って開放動作の抵抗になることを防止することができる。従って、ボンネットを円滑に開くことができる。」(段落【0014】)という効果を得るのに好適な油圧ホースの配置を提供する、という課題についても、本件発明2が有する構成により解決することができると、合理的に理解することができる。

(カ)本件発明3について、課題を解決すると合理的に理解することができるか
本件発明3は、本件発明1の構成を全て有するから、上記(エ)に示したとおり、本件発明1ないし4が共通して解決しようとする課題を、解決することができると、合理的に理解することができる。
また、本件発明3は、本件発明1の構成に加えて、油圧ホースについて、「前記第1軸よりも前記コンソールから遠い側が下向きに凸となるように曲がっており、この曲がった部分が前記エンジンの近傍を通る」構成を有するから、本件発明1の構成について上記(エ)のaないしdに示した事項に加えて、
e 「旋回フレーム」に配置された「エンジン」の「近傍」を通る部分は、「エンジンの後方に配置された第1軸」の「近傍」を通って、「コンソールから遠い側」で「下向きに凸となるように曲がっって」いる部分であること。
が特定されており、上記(ウ)cに示した付加的な課題である、「エンジンと油圧ホースの両方を、ボンネットの内部のコンパクトな空間に配置することができる。」(段落【0016】)という効果を得るのに好適な油圧ホースの配置を提供する、という課題についても、本件発明3が有する構成により解決することができると、合理的に理解することができる。

(キ)申立書補正書における申立人の主張について
a 本件発明1について
申立人は申立書補正書において、本件発明1は上記ア(ア)の点で、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨を主張している。
しかしながら、上記(エ)のとおり、本件発明1は、本件発明1が解決しようとする課題について、解決することができると合理的に理解することができるものであり、申立人が主張するように、図2及び図3に示されるように第1軸から油圧ホースまでの距離が油圧ホース径の数倍の場合に、課題を解決することができないものとなるような事情はない。また、申立人が主張するように、図2及び図3に示される、油圧ホースが第2軸に巻き付けられるようにして配策されている構成をとらなければ、課題を解決することができないものとなるような事情はない。

b 本件発明2について
申立人は申立書において、本件発明2は上記ア(イ)の点で、課題を解決することができないものである旨を主張している。
しかしながら、申立人の当該主張は、本件発明2において油圧ホースが「固定」されると特定されているのは、「長手方向に間隔をあけて配置される複数の固定部材」の箇所であり、「ボンネットを閉じた状態」で、「前記第1軸の近傍」の箇所では、「互いに隣接する前記固定部材の間」となっており、「油圧ホースが弛んでいる」と特定されていることを正解せず、「固定部材の間」の箇所であって「油圧ホースが弛んでいる」部分においても油圧ホースが自由度なく固定されていることを前提としたものであり、失当である。

c 本件発明3について
申立人は申立書において、本件発明3は上記ア(ウ)の点で、課題を解決することができないものである旨を主張している。
しかしながら、上記(カ)に判断したとおり、本件発明3は、解決しようとする課題について、解決することができると、合理的に理解することができるものであり、申立人の主張について検討しても、当該判断を変更すべき事情は見いだせない。

(ク)サポート要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、申立人が申立てるサポート要件違反による特許異議申立理由により、取り消されるべきものではない。
なお、申立人は本件発明4について、サポート要件違反による特許異議申立理由を申し立てていないが、本件発明4についても、サポート要件違反による取消理由は発見していない。

(3)本件発明1ないし3の明確性要件(上記第3の1(3))について
ア 申立人の主張する取消理由
申立人が申立書補正書において、本件発明1ないし3に係る特許に関して申立てる、明確性要件違反に関する特許異議申立理由は、概略次のとおりである。
(ア)本件発明1について
請求項1には、油圧ホースが「第1軸の近傍」及び「第2軸の近傍」を通ることが記載されているところ、「近傍」という表現はどの範囲までを含むのか曖昧であるとともに、図2、図3に示される、第1軸71からホース径の数倍以上離間した位置に油圧ホース5L,5Rが配置された構成は、油圧ホースが「第1軸の近傍」とは言えない位置であり、また図2、図3に示される、油圧ホースが第2軸に巻き付けられるようにして配策されている構成以外の構成が、油圧ホースが「第2軸の近傍」を通る構成に含まれるのか理解することができないから、本件発明1は、特許を受けようとする発明が不明確である(申立書補正書第23頁第8行ないし第24頁第14行)。

(イ)本件発明2について
上記(2)ア(イ)と同じ理由により、本件発明2は課題を解決することができず、本件発明2の技術的意義を理解することができないから、本件発明2は明確でない(申立書補正書第24頁第15行ないし第25頁第8行)。

(ウ)本件発明3について
上記(2)ア(ウ)と同じ理由により、本件発明3は課題を解決することができず、本件発明3の技術的意義を理解することができないから、本件発明2は明確でない(申立書補正書第25頁第9行ないし第25行)。

明確性要件についての判断
(ア)明確性要件に関する判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から検討されるべきである。この基準に基づいて、以下、判断する。

(イ)本件発明1について
申立人は、上記ア(ア)の点で、本件発明1は明確でない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1における「第1軸の近傍」及び「第2軸の近傍」という構成については、「近傍」の語の一般的な意味から合理的に理解することができるものであり、本件発明1のサポート要件に関して上記(2)イ(エ)に示したとおり、発明が解決しようとする課題を解決するための構成の一部であることも、合理的に理解することができるものである。
そして、本件発明1について、第三者に不測の不利益を生じさせる程に、発明が不明確となる点は見いだせない。

(ウ)本件発明2について
申立人は、上記ア(イ)の点で、本件発明2は明確でない旨を主張している。
しかしながら、申立人による上記ア(イ)の主張は、本件発明2のサポート要件に関して上記(2)イ(キ)bにおいて指摘したとおり、本件発明2を正解しないものであって、失当である。
そして、本件発明2について、第三者に不測の不利益を生じさせる程に、発明が不明確となる点は見いだせない。

(エ)本件発明3について
申立人は、上記ア(ウ)の点で、本件発明3は明確でない旨を主張している。
しかしながら、申立人の主張を考慮しても、本件発明3の構成自体は明確であり、本件発明3の構成は、本件発明3のサポート要件に関して上記(2)イ(カ)に示したとおり、発明が解決しようとする課題を解決するための構成であることも、合理的に理解することができるものである。
そして、本件発明3について、第三者に不測の不利益を生じさせる程に、発明が不明確となる点は見いだせない。

(オ)明確性要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、申立人が申立てる明確性要件違反による特許異議申立理由により、取り消されるべきものではない。
なお、申立人は本件発明4について、明確性要件違反による特許異議申立理由を申し立てていないが、本件発明4についても、明確性要件違反による取消理由は発見していない。


第6 まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-24 
出願番号 P2017-176443
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E02F)
P 1 651・ 537- Y (E02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 有家 秀郎
森次 顕
登録日 2020-07-09 
登録番号 6731898
権利者 ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
発明の名称 作業車両  
代理人 桂川 直己  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ