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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D21H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D21H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D21H |
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管理番号 | 1383233 |
総通号数 | 4 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-08-19 |
確定日 | 2021-12-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6649701号発明「アラミド紙、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6649701号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正することを認める。 特許第6649701号の請求項2に係る特許を維持する。 特許第6649701号の請求項1、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6649701号の請求項1〜3に係る特許についての出願は、平成27年5月28日の出願であって、令和2年1月21日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月19日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年8月19日 :特許異議申立人笹井栄治(以下「申立人」という。)による請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立て 令和2年11月17日付け:取消理由通知書 令和3年1月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和3年4月13日 :申立人による意見書の提出 令和3年6月11日付け :取消理由通知書(決定の予告) 令和3年8月5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。) なお、本件訂正請求がされたことにより、上記令和3年1月22日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、本件訂正請求がされたので、期間を指定して申立人に意見書を提出する機会を与えたが、当該期間内に申立人からは何ら応答がなかった。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項2に記載された 「少なくとも一対の発熱体の間に芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド及び短繊維との混合物から形成されたアラミド紙を挟んで熱圧加工することを含み、上記発熱体による熱圧加工後の上記アラミド紙の収縮率が3%以下である、請求項1に記載のアラミド紙の製造方法。」を、 「一対の発熱体の間に芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド及び短繊維との混合物から形成されたアラミド紙を挟んで熱圧加工することを含み、上記発熱体による熱圧加工後の上記アラミド紙の収縮率が3%以下である、アラミド紙の製造方法であって、 熱圧加工されたアラミド紙が、下記不等式(1)及び(2) 40≦[FB] ≦90 (1) [厚み]/([短繊維の繊維径]×2)≦1.25 (2) 〔式中、[FB]はアラミド紙中のファイブリッドの含量(重量%)である〕 を満たすファイブリッド含量及び厚みを有し、透気度が3000秒以上であり、 熱圧加工が、1000kg/cm2以上の圧力を加えると同時に、上記発熱体より、下式(3) Q≧ [BW]×c×(Tg−t) (3) 〔式中、[BW]はアラミド紙の坪量(g/m2)であり、cは上記アラミド紙の比熱(J/g/K)であり、Tgは上記アラミド紙のガラス転移温度(℃)であり、tは発熱体に挟まれる前の上記アラミド紙の温度(℃)であり、上記発熱体の表面の温度はTg以下である〕 で表される熱量Q(J/m2)を供給することによる熱圧加工1回のみであることを特徴とする、製造方法。」に訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項3を削除する。 2 一群の請求項 本件訂正前の請求項2及び3は、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び3について 訂正事項1及び3は、それぞれ本件訂正前の請求項1及び3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が、請求項1の記載を引用する記載であったものを当該請求項1の記載を引用しないものとし、本件訂正前の請求項2の「少なくとも一対の発熱体」としていたものを「一対の発熱体」に限定し、本件訂正前の請求項2の「不等式(1)及び(2)」を満たす「アラミド紙」について「熱圧加工された」ことを限定し、本件訂正前の請求項2の「熱圧加工」に係る条件について限定するものであるから、訂正事項2は、請求項間の引用関係の解消、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項2の上記限定した事項は、本件特許の明細書【0004】、【0009】、【0014】及び【0015】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の本件発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項2】 一対の発熱体の間に芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド及び短繊維との混合物から形成されたアラミド紙を挟んで熱圧加工することを含み、上記発熱体による熱圧加工後の上記アラミド紙の収縮率が3%以下である、アラミド紙の製造方法であって、 熱圧加工されたアラミド紙が、下記不等式(1)及び(2) 40≦[FB] ≦90 (1) [厚み]/([短繊維の繊維径]×2)≦1.25 (2) 〔式中、[FB]はアラミド紙中のファイブリッドの含量(重量%)である〕 を満たすファイブリッド含量及び厚みを有し、透気度が3000秒以上であり、 熱圧加工が、1000kg/cm2以上の圧力を加えると同時に、上記発熱体より、下式(3) Q≧ [BW]×c×(Tg−t) (3) 〔式中、[BW]はアラミド紙の坪量(g/m2)であり、cは上記アラミド紙の比熱(J/g/K)であり、Tgは上記アラミド紙のガラス転移温度(℃)であり、tは発熱体に挟まれる前の上記アラミド紙の温度(℃)であり、上記発熱体の表面の温度はTg以下である〕 で表される熱量Q(J/m2)を供給することによる熱圧加工1回のみであることを特徴とする、製造方法。」 第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 令和3年1月22日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明に対して、当審が令和3年6月11日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性) 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)取消理由3(明確性) 請求項1及び2に係る発明が、下記の点で明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 請求項1における「熱圧加工」に関する記載は、製造方法によって生産物を特定しようとするものであるが、本件特許の明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、生産物の特徴(構造、性質等)を当業者が理解できない結果、請求項1に係る発明が明確でない。 イ 請求項1の「少なくとも一対の発熱体の間にアラミド紙を挟んで熱圧加工された」は「一対の発熱体」を複数設けるものが含まれ、「熱圧加工1回のみである」と矛盾があるから、請求項1及び2に係る発明が明確でない。 [引用文献等一覧] 甲第1号証:特開平7−37571号公報 甲第2号証の1:野間隆,“アラミド繊維の特徴と用途”,SEN'I GAKKAISHI(繊維と工業),繊維学会,2000年,Vol.56,No.8,p.241−247 甲第3号証:特開平7−114825号公報 甲第4号証:特開平8−199494号公報 甲第5号証:特開2013−95057号公報 甲第6号証:特開2007−308836号公報 甲第7号証:特開平7−331570号公報 甲第8号証:特開平6−342609号公報 参考資料1:“化学繊維のかたち”,[online],日本化学繊維協会,[令和元年12月12日検索],インターネット 参考資料2:“DuPontTM NOMEXR TECHNICAL DATA SHEET”,[online], E. I. du Pont de Nemours and Company,インターネット 以下、甲第1号証等の証拠を「甲1」等と略記する。 2 当審の判断 (1)取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)について 本件訂正により、請求項1に係る発明は削除され、本取消理由が対象とする請求項はなくなった。 (2)取消理由3(明確性)について ア 上記1(2)アについて 本件訂正により、請求項1の「アラミド紙」に係る物の発明は削除され、本取消理由が対象とする請求項はなくなった。 イ 請求項2における「少なくとも一対の発熱体の間にアラミド紙を挟んで熱圧加工された」の記載は、「一対の発熱体」が複数ある場合、「熱圧加工1回のみである」の記載と整合しておらず矛盾していたが、本件訂正により、前回訂正時の請求項2に記載された「少なくとも一対の発熱体」が「一対の発熱体」に訂正されたことにより、上記矛盾は解消した。 ウ よって、本件発明2は明確である。 第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由2(進歩性)について (1)申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲1及び本件特許の出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張する。 (2)この申立理由2について検討する。 ア 証拠の記載 (ア)甲1には、次の記載がある。 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】・・・ 【0008】すなわち、電池をより小型で容量の大きなものとするため、セパレーターは電解液をより多く保持できるよう保液性の向上が求められ、また、イオン二次電池の場合には、電解液の量に合わせたセパレーターの肉薄化が要求されている。同時に、電池使用時の発熱及び加工時の熱処理に対応するため、より高い温度でも酸化されずに安定であり、かつ、イオンやガスが通過しやすい高い透気性も必要とされる。」 「【0031】湿式抄造により得られた湿紙(ウエブ)は、乾燥を実施した後、カレンダーロール間で熱圧加工する。セパレーターとしての密度は0.3〜0.7g/cm3特に0.35〜0.60g/cm3に調整することが好ましく、実際にこのような領域にするには上述の如く熱圧加工温度を240℃〜350℃、特に260℃〜320℃にするのが好ましい。この範囲を逸脱すると、透気度、強力、厚みを同時に満足させるものにはなり難い。」 「【0034】乾燥後の熱圧加工は複数回行うのがよく、まず、温度285〜320℃、線圧10〜200kg/mm2で少なくとも1回熱圧加工し、次いで260〜300℃でかつ上記熱圧加工で採用した条件より低温、高圧で再度熱圧加工して、厚さ0.01〜0.1mm好ましくは0.02〜0.05mmの紙状物とするのが好適である。」 「【0042】 【実施例1】界面重合法で得た固有粘度(I.V.)1.35のポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを特公昭52−15162号公報に記載の沈殿装置(直径150mm)を用いてフィブリッドを製造した。得られたフィブリッドの濾水度はカナディアン濾水度で110mlであった。このフィブリッドは特開昭63−35877号公報に記載の方法に準じて処理し、比表面積40m2/gのものとした。」 「【0065】 【実施例5】実施例1と同じポリ−m−フェニレンイソフタルアミドのフィブリッドを準備した。 【0066】一方、同じポリマーを用い特公昭48−17551号公報に記載の方法に準じて2.18deの偏平繊維を製造した。この偏平繊維の断面における長径と短径との比(D1/D2)で表される断面偏平度は5.1であり、対応する円形断面繊維との周長の比(α)で表される周長比は1.50であった。この繊維の強度は5.1g/de、破断伸度は18%であった。この繊維を長さ6mmに切断して使用した。」 「【0076】 【比較例2】実施例5と同じフィブリッドと偏平繊維とを用い、フィブリッド/偏平繊維の重量比率を45/55に変更し、実施例1と同様に大型のタッピー型抄紙機を用いて200mm×250mmの大きさの坪量25g/m2に抄き、湿紙とした。この湿紙を搾水し、十分に乾燥した。この紙状物は、厚みは0.068mm、透気度(ガーレー法による)は540秒/100mlであった。このものは透気度が低く二次電池のセパレーターとして不適当であった。 【0077】 【比較例3】比較例2により製造した紙状物を、カレンダーロールで温度300℃、線圧50kg/cmで熱圧加圧し、更に温度260℃、線圧100kg/cmで熱圧加圧した。得られた紙状物の厚みは0.026mmとなったが、透気度(ガーレー法による)は約7000秒/100mlとなり、電池用セパレーターとして不適当なものであった。」 「【図1】 」 (イ)上記(ア)から、特に比較例3(【0077】)に着目すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを用いて製造したファイブリッド及びポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを用いて製造した偏平繊維とを、ファイブリッド/偏平繊維の重量比率を45/55で混合して抄いた湿紙を搾水し、充分に乾燥させたものを、カレンダーロールで温度300℃、線圧50kg/cmで熱圧加圧し、更に温度260℃、線圧100kg/cmで熱圧加圧して、厚みが0.026mm、偏平繊維の繊度が2.18deであり、透気度(ガーレー法による)は約7000秒/100mlとなる紙状物を製造する方法。」 イ 対比 本件発明2と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを用いて製造したファイブリッド」は、本件発明2の「芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド」に相当し、以下同様に、「カレンダーロール」は「発熱体」に、「紙状物」は「アラミド紙」に、「透気度(ガーレー法による)は約7000秒/100mlとなる」は「透気度が3000秒以上である」に、「熱圧加圧」は「圧熱加工」にそれぞれ相当する。 また、甲1の【0065】の記載から、「ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを用いて製造した偏平繊維」の「長さは6mm」であり、これに対し、本件特許明細書の【0007】には、「アラミド短繊維の長さは、一般に1mm以上50mm未満」とあるから、甲1発明の「ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを用いて製造した偏平繊維」は本件発明2の「短繊維」に相当する。 甲1発明において「ファイブリッド/偏平繊維の重量比率を45/55で混合」することは、本件発明2の「不等式(1)」の「40≦[FB]≦90(1)」を「満たすファイブリッド含量」であることに相当する。 そうすると、本件発明2と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「発熱体の間に芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド及び短繊維との混合物から形成されたアラミド紙を挟んで熱圧加工することを含む、アラミド紙の製造方法であって、 熱圧加工されたアラミド紙が、下記不等式(1) 40≦[FB] ≦90 (1) 〔式中、[FB]はアラミド紙中のファイブリッドの含量(重量%)である〕 を満たすファイブリッド含量を有し、透気度が3000秒以上である、製造方法。」 [相違点1] 本件発明2は「上記発熱体による熱圧加工後の上記アラミド紙の収縮率が3%以下である」のに対して、甲1発明はその点が不明な点。 [相違点2] 厚みに関して、本件発明2は「熱圧加工されたアラミド紙が、下記不等式」「(2)」「[厚み]/([短繊維の繊維径]×2)≦1.25(2)」を「満たす」「厚みを有」するのに対して、甲1発明は、「紙状物」の「厚みが0.026mm、偏平繊維の繊度が2.18deで」ある点。 [相違点3] 本件発明2は、「発熱体」が「一対」で、「熱圧加工が、1000kg/cm2以上の圧力を加えると同時に、上記発熱体より、下式(3) Q≧ [BW]×c×(Tg−t) (3) 〔式中、[BW]はアラミド紙の坪量(g/m2)であり、cは上記アラミド紙の比熱(J/g/K)であり、Tgは上記アラミド紙のガラス転移温度(℃)であり、tは発熱体に挟まれる前の上記アラミド紙の温度(℃)であり、上記発熱体の表面の温度はTg以下である〕 で表される熱量Q(J/m2)を供給することによる熱圧加工1回のみである」のに対して、甲1発明は、「カレンダーロールで温度300℃、線圧50kg/cmで熱圧加圧し、更に温度260℃、線圧100kg/cmで熱圧加圧された」点。 ウ 判断 事案に鑑み、相違点3について検討する。 甲1発明の「カレンダーロールで温度300℃、線圧50kg/cmで熱圧加圧し、更に温度260℃、線圧100kg/cmで熱圧加圧された」構成は、1回目の熱圧加工で採用した条件よりも、低温、高圧で再度熱圧加工することで、「厚みが0.026mm、偏平繊維の繊度が2.18deであり、透気度(ガーレー法による)は約7000秒/100mlとなる紙状物」とするものであり、甲1発明において、熱圧加工を1回のみとする動機付けはない。 また、アラミド紙の製造方法において、「熱圧加工が、1000kg/cm2以上の圧力を加えると同時に、上記発熱体より、下式(3) Q≧ [BW]×c×(Tg−t) (3) 〔式中、[BW]はアラミド紙の坪量(g/m2)であり、cは上記アラミド紙の比熱(J/g/K)であり、Tgは上記アラミド紙のガラス転移温度(℃)であり、tは発熱体に挟まれる前の上記アラミド紙の温度(℃)であり、上記発熱体の表面の温度はTg以下である〕 で表される熱量Q(J/m2)を供給することによる熱圧加工1回のみ」とすることは、甲1〜甲8、参考資料1、2に記載も示唆もされておらず、また、本件特許の出願前において周知技術であるともいえない。 したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明2の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、相違点1及び2を検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 申立理由3(明確性)について (1)申立人は、特許異議申立書において、次の点で、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明が明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、本件訂正前の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨を主張する。 ア 本件訂正前の請求項1に記載された「アラミド紙」の「厚み」が熱圧加工前のものか、あるいは、熱圧加工後のものかが不明である。 イ 本件訂正前の請求項1に記載された「アラミド紙」の「透気度」が熱圧加工前のものか、あるいは、熱圧加工後のものかが不明である。 (2)この申立理由3について検討する。 本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の 「アラミド紙であり、下記不等式(1)及び(2) 40≦[FB] ≦90 (1) [厚み]/([短繊維の繊維径]×2)≦1.25 (2) 〔式中、[FB]はアラミド紙中のファイブリッドの含量(重量%)である〕 を満たすファイブリッド含量及び厚みを有し、透気度が3000秒以上であ」るとの記載は、本件訂正により、請求項2における 「熱圧加工されたアラミド紙が、下記不等式(1)及び(2) 40≦[FB] ≦90 (1) [厚み]/([短繊維の繊維径]×2)≦1.25 (2) 〔式中、[FB]はアラミド紙中のファイブリッドの含量(重量%)である〕 を満たすファイブリッド含量及び厚みを有し、透気度が3000秒以上であ」るとの記載に訂正された。 したがって、請求項2に記載された「アラミド紙」の「厚み」及び「透気度」はいずれも「熱圧加工後」のものであることが明らかとなった。 よって、本件発明2は明確である。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項2に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 請求項1及び3に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1及び3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】 一対の発熱体の間に芳香族ポリアミドから形成されるファイブリッド及び短繊維との混合物から形成されたアラミド紙を挟んで熱圧加工することを含み、上記発熱体による熱圧加工後の上記アラミド紙の収縮率が3%以下である、アラミド紙の製造方法であって、 熱圧加工されたアラミド紙が、下記不等式(1)及び(2) 40≦[FB] ≦90 (1) [厚み]/([短繊維の繊維径]×2)≦1.25 (2) 〔式中、[FB]はアラミド紙中のファイブリッドの含量(重量%)である〕 を満たすファイブリッド含量及び厚みを有し、透気度が3000秒以上であり、 熱圧加工が、1000kg/cm2以上の圧力を加えると同時に、上記発熱体より、下式(3) Q≧ [BW]×c×(Tg−t) (3) 〔式中、[BW]はアラミド紙の坪量(g/m2)であり、cは上記アラミド紙の比熱(J/g/K)であり、Tgは上記アラミド紙のガラス転移温度(℃)であり、tは発熱体に挟まれる前の上記アラミド紙の温度(℃)であり、上記発熱体の表面の温度はTg以下である〕 で表される熱量Q(J/m2)を供給することによる熱圧加工1回のみであることを特徴とする、製造方法。 【請求項3】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照 |
異議決定日 | 2021-12-08 |
出願番号 | P2015-108455 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D21H)
P 1 651・ 113- YAA (D21H) P 1 651・ 537- YAA (D21H) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 井上 茂夫 |
登録日 | 2020-01-21 |
登録番号 | 6649701 |
権利者 | デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 |
発明の名称 | アラミド紙、及びその製造方法 |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 須田 洋之 |
代理人 | 市川 さつき |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 須田 洋之 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 服部 博信 |
代理人 | 服部 博信 |
代理人 | 市川 さつき |