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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1383234
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-21 
確定日 2022-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6654731号発明「III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6654731号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6]、7、8について訂正することを認める。 特許第6654731号の請求項1、2、4〜8に係る特許を維持する。 特許第6654731号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6654731号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての手続の経緯は、次のとおりである。
令和元年 9月25日 :出願(優先権主張 平成30年9月28日)
令和2年 2月 3日 :特許登録
令和2年 2月26日 :特許掲載公報発行
令和2年 8月21日 :特許異議申立人中野圭二による請求項1〜8に特許に対する特許異議の申立て
令和2年10月14日付け:取消理由通知書
令和2年12月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 3月 5日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和3年 6月11日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 8月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年10月27日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年8月30日付け訂正請求書でなされた訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項[1〜6]、7、8についてなされたものである。
(1)訂正事項1
請求項1に、
「前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下であることを特徴とする」と記載されているのを「前記p型コンタクト層の厚さが600nm以上1200nm以下であることを特徴とする」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、5、6も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
請求項4に、
「前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下である」と記載されているのを「前記p型コンタクト層の厚さが900nm以上1200nm以下である」に訂正し、さらに、「前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下である、請求項3に記載のIII族窒化物半導体発光素子」とあるものについて、独立形式に改め、
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが900nm以上1200nm以下であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」に訂正する。
(請求項4の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
請求項5に、
「1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3含み、」と記載されているのを、「1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3含み、」に訂正する。
(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
請求項5に、
「請求項1〜4のいずれか1項に記載の」と記載されているのを、「請求項1、2、4のいずれか1項に記載の」に訂正する。
(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
請求項7に、
「前記p型コンタクト層の厚さを500nm以上1500nm以下とすることを特徴とする」と記載されているのを、「前記p型コンタクト層の厚さを600nm以上1200nm以下とすることを特徴とする」に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項8に、
「前記p型コンタクト層の厚さを300nm以上とすることを特徴とする」と記載されているのを、「前記p型コンタクト層の厚さを900nm以上1200nm以下とすることを特徴とする」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、「p型コンタクト層の厚さ」を、「500nm以上1500nm以下」から「600nm以上1200nm以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(下線は当審が付した。以下同じ。)。

イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0075】には、p型コンタクト層の厚さを600nm(実施例2)及び1200nm(実施例4)とした例が記載されているから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
請求項3を削除することによって、新規事項が追加されることはないから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、次の内容、すなわち、
(i)請求項4を独立形式に改めること、
(ii)請求項4の「p型コンタクト層の厚さ」を「500nm以上1500nm以下」から「900nm以上1200nm以下」に限定すること、
からなるものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮と、同第4号に規定するいわゆる引用関係の解消を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)について
上記訂正は、引用関係の解消にすぎないから、これによって、新規事項が追加されることはない。

(イ)上記ア(ii)について
上記(1)イに加え、本件明細書等の【0075】には、p型コンタクト層の厚さを900nm(実施例3)とした例が記載されている。

(ウ)小括
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、請求項5の「cm3」という明らかな誤記を「cm3」に正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アに照らせば、訂正事項4によって、新規事項が追加されることはない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4の小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、請求項5が請求項1〜4のいずれか1項を引用していたのを、請求項1、2、4のいずれか1項を引用するようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アに照らせば、訂正事項5によって、新規事項が追加されることはない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項5の小括
よって、訂正事項5は、訂正要件を満たす。

(5)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、請求項7の「p型コンタクト層の厚さ」を、「500nm以上1500nm以下」から「600nm以上1200nm以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記(1)イと同様の理由で、訂正事項6は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項6の小括
よって、訂正事項6は、訂正要件を満たす。

(6)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、請求項8の「p型コンタクト層の厚さ」を、「300nm以上」から「900nm以上1200nm以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記(3)イと同様の理由で、訂正事項7は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項7の小括
よって、訂正事項7は、訂正要件を満たす。

3 訂正の適否の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6]、7、8について訂正することを認める。

第3 取消理由の概要
令和2年12月21日付け訂正請求書による訂正後の請求項1、2、4〜8に係る特許に対して、当審が令和3年6月11日付けで特許権者に通知した取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由の要旨は、次のとおりである。
当該請求項1、2、4〜8に係る発明は、甲第2号証(以下、「第」と「号証」を略して表記する。他の証拠についても同じ。)に記載された発明、甲2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献等一覧
1.特開2016−149544号公報(甲2)
2.特開2018−121028号公報(甲3、周知例)
3.特開2018−125430号公報(甲4、周知例)
4.特開2013−165261号公報(甲5、周知例)
5.特開2015−119108号公報(甲6、周知例)
6.再公表特許第2015/151471号公報(甲7、周知例)
7.Michiko Kaneda, et al., “Uneven AlGaN multiple quantum well for deep−ultraviolet LEDs grown on macrosteps and impact on electroluminescence spectral output”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.56, p.061002(2017)(甲8、周知例)

第4 取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由に対する当審の判断
1 本件訂正発明の認定
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1〜8に係る発明(以下「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明8」といい、本件訂正発明3を除いた各発明を総称して「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件訂正発明1]
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが600nm以上1200nm以下であること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明2]
「前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明3]
(削除)

[本件訂正発明4]
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが900nm以上1200nm以下であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明5]
「前記コドープ領域層が、p型不純物を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3含み、n型不純物を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3含む、請求項1、2、4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明6]
「前記コドープ領域層のp型不純物がMgであり、n型不純物がSiである、請求項5に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明7]
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを600nm以上1200nm以下とすることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。」

[本件訂正発明8]
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを900nm以上1200nm以下とすることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。」

2 引用文献等の記載事項の認定
(1)甲2(特開2016−149544号公報)
ア 甲2には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」(【請求項1】)、
「前記p型半導体層は、AlxGa1-xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」(【請求項6】)、
「前記Si含有不純物ドープ領域のドーパントは、SiおよびMgである請求項1〜10のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」(【請求項12】)、
「前記Si含有不純物ドープ領域のドーパントは、SiおよびMgである請求項1〜10のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」(【請求項13】)、
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含み、
前記電子ブロック層は、前記Si含有不純物ドープ領域層よりも前記発光層側にp型不純物ドープ領域層を更に含むことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」(【請求項15】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「特許文献1および特許文献2に記載の技術により、III族窒化物半導体発光素子の外部量子効率特性や抵抗特性を改善することができる。しかしながら、外部量子効率特性および抵抗特性の改善以外にも、III族窒化物半導体発光素子の素子寿命特性の改善が希求されており、寿命の点で改善の余地が残されている。」(【0006】)、
「そこで、本発明の目的は、従来よりも優れた素子寿命を有するIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。」(【0007】)

(ウ)「【課題を解決するための手段】」、
「本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討し、III族窒化物半導体発光素子における、発光層よりp型半導体層側に位置する電子ブロック層のドーパントに着目した。ここで、III族窒化物半導体発光素子のp型半導体層側にドープするp型のドーパントとしては、Mgを用いることが一般的である。本発明者らは、p型半導体層側にドープされたMgの発光層への拡散が、III族窒化物半導体発光素子の寿命特性に影響するのではないかと考えた。そこで、活性層とp型半導体層との間の電子ブロック層にSi含有不純物ドープ領域層を設けることにより、III族窒化物半導体発光素子の寿命を改善できることを知見し、本発明を完成するに至った。」(【0008】)

(エ)「【発明の効果】」、
「本発明によれば、III族窒化物半導体発光素子のp型半導体層において、電子ブロック層にSi含有不純物ドープ領域層を設けたので、従来よりも優れた素子寿命を有するIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することができる。」(【0029】)

(オ)「【発明を実施するための形態】」、
「(第1実施形態:III族窒化物半導体発光素子100)・・・」(【0032】)、
「・・・また、電子ブロック層50全体の厚みは、例えば6nm〜60nmであることが好ましい。電子ブロック層51の厚さが6nmより薄くても60nmを超えても、出力の大幅な減少がみられるためである。・・・」(【0038】)、
「本実施形態において、p型半導体層60はp型コンタクト層62を少なくとも有する。該p型コンタクト層62は、Al組成xが0≦x≦0.1である、p型のAlxGa1-xN材料とすることができる。p型コンタクト層62は、この上に形成されるp型電極80と電子ブロック層50との間の接触抵抗を低減するための層であり、p型コンタクト層62上に形成されるp型電極80との接触抵抗を十分に低減することができる。特に、x=0(すなわち、GaN)とすることが好ましい。このp型コンタクト層62をp型とするためのドーパントとしては、マグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)を用いることができる。p型コンタクト層62の厚みを5nm以上200nm以下とすることができる。図示しないが、p型コンタクト層62は、Al組成、ドーパント種、ドーパント濃度、形成時のキャリアガス種などのいずれか1つまたは複数要素を変えた、複数層構造としてもよい。」(【0039】)、
「本実施形態において、Si含有不純物ドープ領域層50aのドーパントは、Siを含有する不純物であればよく、Siのみとすることができるし、SiおよびMgとすることもできる。Si含有不純物ドープ領域層50aのドーパントがSiのみである場合、Siの不純物濃度を、5×1016atoms/cm3〜1×1018atoms/cm3とすることができ、5×1016atoms/cm3〜1×1017atoms/cm3とすることが好ましく、5×1016atoms/cm3〜6×1016atoms/cm3とすることがより好ましい。」(【0042】)、
「一方、Mgをドープすることでホール注入効率を高めて、発光出力を維持しまた順方向電圧を低減しつつ、SiをドープすることでMgの発光層への拡散を抑制し、寿命の悪化を抑制することができる。そのため、Si含有不純物ドープ領域のドーパントを、SiおよびMgとすることも好ましい。この場合、Siの不純物濃度の好適範囲はSiのみをドープする場合と同様であり、Mgの不純物濃度については、1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3とすることができる。また、両者の不純物濃度の合計を2×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3とすることができる。」(【0043】)、

(カ)「(第2実施形態:III族窒化物半導体発光素子200)・・・」(【0053】)、
「第1実施形態と、第2実施形態とでは、電子ブロック層50が、Si含有不純物ドープ領域層50aよりも発光層40側にp型不純物ドープ領域層50dを更に含む点で異なる。本発明者らの検討によると、p型不純物ドープ領域層50dをこの位置に設けた場合、素子寿命の改善および出力改善を両立できることが実験的に明らかとなった。・・・」(【0055】)、
「また、Si含有不純物ドープ領域層50aのドーパントは、SiおよびMgであることが好ましい。この場合、Siの不純物濃度を5×1016atoms/cm3〜5×1019atoms/cm3とすることができ、1×1018atoms/cm3〜2×1019atoms/cm3以下することがより好ましい。Siの不純物濃度が高くなりすぎると、出力が低下する場合がある。なお、本実施形態では、Siを含有させる位置を発光層から離しているため前述の第1実施形態に比べてSi濃度をより高くすることができている。Siを含有させる位置を発光層から離し、かつ、より高濃度のSiをMgと混在させることでSiによるMgの拡散抑制効果を高めることで、素子寿命の改善および出力改善の両立することができ、好ましい。」(【0059】)、
「そして、Si含有不純物ドープ領域層50aのドーパントがSiおよびMgであるとき、Mgの不純物濃度を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3とすることができ、5×1018atoms/cm3〜5×1019atoms/cm3とすることがより好ましい。また、SiおよびMgの両者の合計不純物濃度を2×1018atoms/cm3〜2×1020atoms/cm3とすることができ、5×1018atoms/cm3〜5×1019atoms/cm3とすることがより好ましい。ただし、第1実施形態にも既述のとおり、Si含有不純物ドープ領域層50aのドーパントをSiのみとしてもよい。Siのみとする場合も、Siの不純物濃度を5×1016atoms/cm3〜5×1019atoms/cm3とすることができ、2×1019atoms/cm3以下とすることがより好ましい。」(【0060】)

(キ)「【実施例】」、
「[実験例1]
(発明例1)」(【0081】)、
「<発光寿命の評価>
発明例1について、作製したフリップチップ型のIII族窒化物半導体発光素子を、積分球により電流20mAのときの発光出力Po(mW)を測定し、さらに1時間通電後の残存出力(1時間通電後の出力/初期発光出力)を測定したところ、初期の出力に対して99%であった。結果を表3に示す。発明例2,3、比較例1、従来例1,2についても、同様に1時間経過後の残存出力を測定したところ、表3,4のとおりであった。」(【0099】)

イ 上記アの各記載事項によれば、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲2発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある(以下同じ)。
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含み、(【請求項1】)
前記p型半導体層は、AlxGa1-xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有し、(【請求項6】)
前記Si含有不純物ドープ領域のドーパントは、SiおよびMgであり、(【請求項12】)
前記発光層から放射される光が、中心波長が300nm以下の深紫外光である(【請求項13】)
III族窒化物半導体発光素子。」

ウ また、上記アの各記載事項によれば、甲2には、甲2発明を製造方法的に表現した次の発明(以下「甲2製法発明」という。)が記載されていると認められる。
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含み、(【請求項1】)
前記p型半導体層は、AlxGa1-xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有し、(【請求項6】)
前記Si含有不純物ドープ領域のドーパントは、SiおよびMgであり、(【請求項12】)
前記発光層から放射される光が、中心波長が300nm以下の深紫外光である(【請求項13】)
III族窒化物半導体発光素子の製造方法。」

(2)甲3(特開2018−121028号公報)
甲3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「深紫外光を発するように構成される半導体発光素子において、p型コンタクト層は、300nm〜1μm程度の厚さを有し、例えば、400nm〜600nm程度の厚さを有するとされるが、その技術的意味の記載がないこと。」(【0018】・【0029】)

(3)甲4(特開2018−125430号公報)
甲4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 「深紫外光を発するように構成される半導体発光素子において、p型コンタクト層は、300nm〜1μm程度の厚さを有し、例えば、400nm〜600nm程度の厚さを有するとされるが、その技術的意味の記載がないこと。」(【0019】・【0029】)

イ 「深紫外光を出力する半導体発光素子において、p型クラッド層上が露出した状態でp型クラッド層を加熱してアニール処理を施すことにより、p型クラッド層の水素濃度を低減でき、これにより、p型クラッド層から活性層への水素の拡散を抑制し、水素に起因する活性層の劣化を低減できるので、通電使用に伴う発光出力の低下を抑制できること。」(【0007】)

(4)甲5(特開2013−165261号公報)
甲5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「深紫外発光素子において、p型GaNコンタクト層は10〜500nmとすることができること。」(【0018】・【0026】)

(5)甲6(特開2015−119108号公報)
甲6には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「発光ピーク波長が250nm〜290nmの紫外波長域にある紫外線を放射する紫外線発光素子において、p形GaN層により構成してある第2導電型コンタクト層の厚さは、50nm〜500nmの範囲で設定すればよいこと。」(【0013】・【0025】)

(6)甲7(再公表特許第2015/151471号公報)
甲7には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「210nm〜360nmの紫外波長域に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオードにおいて、p型コンタクト層の厚さは、10nm以上500nm以下であるのが好ましく、当該厚さが10nm未満の場合、p型コンタクト層の厚さの面内均一性が低下したり、電気的特性の面内ばらつきが大きくなる傾向にあり、当該厚さが500nmよりも大きくなると、歪みの蓄積によりクラックが発生する可能性が高くなる傾向にあること。」(【0014】・【0044】)

(7)甲8(Japanese Journal of Applied Physics, Vol.56, p.061002(2017))
甲8には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「AlGaNベースの深紫外LEDにおいて、0.5μm厚のMg:p−GaNコンタクト層を用いており、厚いp−GaN層は、電流経路がそれによって広がると考えられることから、注入電流の過集中によるデバイス欠陥を避けるために不可欠であると考えられること。」(061002−1頁左欄1行・061002−3頁左欄24行・061002−4頁左欄5行〜8行)

3 本件訂正発明1について
(1)対比
ア 本件訂正発明1の「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、」との特定事項について
甲2発明の「III族窒化物半導体発光素子」は、本件訂正発明1の「III族窒化物半導体発光素子」に相当する。
甲2発明は、「中心波長が300nm以下の深紫外光である」ものであるから、本件訂正発明1の「発光波長が200nm〜350nm」との特定事項を備えるといえる。
よって、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

イ 本件訂正発明1の「n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、」との特定事項について
甲2発明は、「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有」し、「前記p型半導体層は、AlxGa1-xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有」するから、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

ウ 本件訂正発明1の「前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、」との特定事項について
甲2発明の「前記電子ブロック層」に含まれる「Si含有不純物ドープ領域層」は、そ「のドーパントは、SiおよびMgであ」るから、本件訂正発明1でいう「コドープ領域層」に相当する。
よって、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

エ 本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、」との特定事項について
甲2発明の「p型コンタクト層」は、「AlxGa1-xN(0≦x≦0.1)からなる」から、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

オ 本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層の厚さが600nm以上1200nm以下であること」との特定事項について
甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備えない。

カ 本件訂正発明1の「III族窒化物半導体発光素子」との特定事項について
上記アによれば、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)である、
III族窒化物半導体発光素子。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「前記p型コンタクト層」が、本件訂正発明1では、その「厚さ」が「600nm以上1200nm以下である」のに対し、甲2発明では、その「厚さ」が特定されていない点。

(3)相違点1の判断
ア 甲2発明にはp型コンタクト層の厚さが認定されていないところ、当業者は、甲2発明のp型コンタクト層の厚さを、技術常識を踏まえて、適宜の値に設計できるといえる。

イ しかしながら、当業者が、甲2発明におけるp型コンタクト層(AlxGa1-xN(0≦x≦0.1))の厚さとして、相違点1に係る構成のような「600nm以上1200nm以下である」ものを採用することに、容易に至るとはいえない。
すなわち、相違点1に係る構成の技術的意義は、発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、当該構成に加えて、電子ブロック層がコドープ領域層を有する構成をも備えることによって、寿命の悪化を抑制するとともに、光吸収の悪影響よりも電流の拡散による発光効率向上の寄与が上回って、最終的な発光出力が向上する(本件訂正後の本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の【0037】・【0041】)ことにあると解されるころ、甲2〜甲8には、これらの両構成をともに備えることの記載はない。
また、これらの両構成のうち、コドープ領域層に係る構成については措き、相違点1に係る構成であるp型コンタクト層の厚さのみをとりあげてみても、深紫外LEDの技術分野において、500nm程度の値であれば、甲5〜甲8に記載されているものの、これらの文献には、600nm以上の値が記載されていない。この点、甲3及び甲4の2つの文献には、300nm〜1μmの値が記載されているとともに、さらに例示として600nm程度を上限とする値が記載されているものの、600nm以上の値を選択することの技術的な意味が記載されていない。他方で、当該技術分野において、p型コンタクト層であるp−GaNの厚さにつき、100nm以上が必要とされてきた一方で、吸収を減らすために薄膜化が求められるとの考え方が周知であることが認められる(平山秀樹外4名,「素子透明化によるAlGaN深紫外LEDの光取出し効率の高効率化」,OPTRONICS,No.2,p.58〜p.66(2014)(乙1))。
このように、電子ブロック層がコドープ領域層を有する構成を備えるとともにp型コンタクト層の厚さを相違点1に係る「600nm以上1200nm以下」の値とすることに技術的意義があるにもかかわらず、これらの両構成を開示する証拠がないこと、深紫外LEDの技術分野におけるp型コンタクト層の厚さについて、上記の値を開示する文献の数が多いとはいえないこと、これを開示する文献であっても当該値を選択する技術的な意味までは開示していないこと、100nm以上が必要とされた一方で吸収低減の観点から厚さを薄くする方向性を求めるとの考え方も周知であること、当該「100nm以上」の値は相違点1に係る下限値よりも相当程度離れていることを考慮すれば、当業者が、電子ブロック層がコドープ領域層を有する構成を備えた甲2発明において、p型コンタクト層の厚さとして600nm以上の値を容易に採用し得るとはいえない。
よって、当業者が、甲2発明におけるp型コンタクト層(AlxGa1-xN(0≦x≦0.1))の厚さとして、相違点1に係る構成を採用することに容易に至ることはない。

ウ そして、相違点1に係る構成とすることにより、本件訂正発明1は、本件訂正明細書の【0017】に記載された「発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、従来よりも優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子を提供することができる」との顕著な効果を奏すると認められる。

エ(ア)これに対し、特許異議申立人は、令和3年10月27日付け意見書において、甲9(Yousuke Nagasawa, et al., “A Review of AlGaN−Based Deep−Ultraviolet Light−Emitting Diodes on Sapphire”, Applied Sciences, Vol.8, 1264(2018))を提出した上で、甲9には、より長い寿命やデバイスの故障を減らすには、厚いp−GaN層が必要である旨記載されているから、p型コンタクト層の厚さを1μm程度とすることは周知技術であるといえる旨主張する。
しかしながら、甲9では、p−GaN層の厚さの具体的な値が0.5μmとされているところ、この数値をもって厚いと位置付けられている(Figure.8、14頁下から3行〜15頁4行参照。)。そうすると、上記記載は、当該厚さとして0.5μmを採用したときの技術的意味を説明しているとはいえるものの、甲9が、そのことを超えて、相違点1に係る構成のような「600nm以上1200nm以下である」値を開示しているとはいえない。
そして、甲9は、電子ブロック層がコドープ領域層を有する構成を開示するものでもない。
したがって、甲9によって、上記イの認定判断が左右されることはない。

(イ)特許異議申立人は、上記意見書において、甲4に記載された技術的事項を甲2発明に適用する動機がある旨主張し、その根拠として、甲2発明は「素子寿命特性の改善」を課題としている一方、甲4に記載された技術的事項は「半導体発光素子の発光出力の低下の抑制」を課題としており、両者の課題が共通している旨を挙げる。
しかしながら、上記2(3)アで認定したとおり、甲4には、p型コンタクト層の厚さを300nm〜1μm程度とすることの技術的意味の記載はない。そして、甲4に記載された技術的事項において半導体発光素子の発光出力の低下の抑制との課題を解決する手段は、上記2(3)イで認定したとおり、p型クラッド層上が露出した状態でp型クラッド層を加熱してアニール処理を施すことにより、p型クラッド層の水素濃度を低減でき、これにより、p型クラッド層から活性層への水素の解散を抑制し、水素に起因する活性層の劣化を低減できることにあるのであり、この内容がp型コンタクト層の厚さとは関係がないことが明らかである。
したがって、当業者が、甲2発明において、半導体発光素子の発光出力の低下の抑制を解決するために、p型コンタクト層の厚さとして甲4に記載された値を採用することはない。

(ウ)特許異議申立人は、令和3年3月5日付け意見書において、甲2発明と甲3及び甲4に記載された技術的事項とは、いずれも深紫外線を出力する半導体発光素子の技術分野に属しており、いずれも発光出力の低下を抑制することを目的としているから、甲2発明に甲3及び甲4に記載された技術的事項を適用する動機がある旨主張する。
しかしながら、技術分野が共通していることはともかくとしても、甲3及び甲4に、p型コンタクト層の厚さを300nm〜1μm程度とすることの技術的意味が記載されていないことは、上記2(2)及び2(3)アで認定したとおりである。
したがって、当業者が、甲2発明において、半導体発光素子の発光出力の低下の抑制を解決するために、p型コンタクト層の厚さとして甲3又は甲4に記載された値を採用することはない。

(エ)よって、特許異議申立人の主張は、いずれも採用できない。

(4)本件訂正発明1についての小括
したがって、本件訂正発明1は、甲2発明、甲2〜甲9に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本件訂正発明4について
事案に鑑み、本件訂正発明4より判断する。
本件訂正発明4と甲2発明とを対比すると、両者は、上記3(2)で認定した一致点で一致し、「前記p型コンタクト層」が、本件訂正発明4では、その「厚さ」が「900nm以上1200nm以下である」のに対し、甲2発明では、その「厚さ」が特定されていない点で少なくとも相違するところ、当該相違点は、相違点1を厚さの観点においてさらに限定したものである。
よって、本件訂正発明4は、上記3と同様の理由で、甲2発明、甲2〜甲9に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件訂正発明2、5及び6について
これらの発明は、本件訂正発明1又は本件訂正発明4をさらに限定したものである。
よって、本件訂正発明2、5及び6は、上記3又は4と同様の理由で、甲2発明、甲2〜甲9に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 本件訂正発明7について
(1)対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明7と甲2製法発明とを対比する。
甲2製法発明で製造される「III族窒化物半導体発光素子」は、「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有する」ものであるから、甲2製法発明が、「n型半導体層」を形成する工程と、「少なくともAlを含む発光層」を形成する工程と、「電子ブロック層」を形成する工程と、「p型半導体層」を形成する工程とをこの順に備えることは、技術常識に照らして明らかである。
このことに、上記3(1)の対比を考慮すれば、本件訂正発明7と甲2製法発明とは、
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2]
「前記p型コンタクト層」が、本件訂正発明7では、その「厚さ」が「600nm以上1200nm以下である」のに対し、甲2製法発明では、その「厚さ」が特定されていない点。

(2)相違点2の判断
相違点2は、相違点1と同じものであるから、その判断は、上記3(3)と同様である。

(3)本件訂正発明7についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明7は、甲2発明、甲2〜甲9に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7 本件訂正発明8について
本件訂正発明8と甲2製法発明とを対比すると、両者は、上記6(1)で認定した一致点で一致し、「前記p型コンタクト層」が、本件訂正発明8では、その「厚さ」が「900nm以上1200nm以下である」のに対し、甲2製法発明では、その「厚さ」が特定されていない点で少なくとも相違するところ、当該相違点は、相違点2を厚さの観点においてさらに限定したものである。
よって、本件訂正発明8は、上記6と同様の理由で、甲2発明、甲2〜甲9に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

8 取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由に対する当審の判断についての小括
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に係る取消理由によっては、本件訂正発明1、2、4〜8に係る特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断
1 サポート要件違反について
(1)特許異議申立人は、本件訂正発明1の課題を解決する構成として本件訂正明細書に開示されているp型コンタクト層の厚さが600nm、900nm及び1200nmの3点であるとした上で、当該厚さとして、600nm未満、各点の間及び1200nm超の範囲について、発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、より優れた発光出力を有するとの作用効果を奏すること、又は、これに対応する課題を解決するとはいえない旨主張する(特許異議申立書33頁下から3行〜37頁6行、38頁11行〜下から11行等)。
ア 本件訂正明細書の記載によれば、本件訂正発明の課題(以下「本件課題」という。)は、発光波長が200〜350nmの深紫外光発光素子において、発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、更に優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子の実現が求められていること(【0002】・【0008】)であり、その解決手段(以下「本件解決手段」という。)は、電子ブロック層にコドープ領域層を形成するとともに、p型コンタクト層の厚さを敢えて大きくすること(【0010】)であると認められる。
そして、本件訂正明細書には、本件解決手段によって本件課題が解決できる課題解決原理(以下「本件課題解決原理」という。)として、電子ブロック層がコドープ領域層を有することにより、例えばMgをドープすることでホール注入効率を高めて、発光出力を維持しまた順方向電圧を低減しつつ、Siをドープすることでpコンタクト層からのMgの発光層への拡散を抑制し、寿命の悪化を抑制することができる旨(【0037】)が記載されているとともに、当該コドープ領域層を有する場合は、p型コンタクト層からの電流について、電子ブロック層のコドープ領域層へ進む方よりも、p型コンタクト層において拡散する方が優位になるため、p型コンタクト層の厚みを300nm以上とすれば、光吸収の悪影響よりも電流の拡散による発光効率向上の寄与が上回って、最終的な発光出力が向上する旨(【0041】)が記載されている。
加えて、本件訂正明細書には、実施例及び比較例として、例えば、20nm厚の電子ブロック層としたときについて、コドープ領域層を有しつつp型コンタクト層の厚さを150nm(比較例1)、600nm(実施例2)、900nm(実施例3)及び1200nm(実施例4)とした例が記載されており、これらの実施例では、比較例1と比べて、発光出力が優れているとともに、発光出力の経時変化が同様に少ないことが記載されている。

イ 上記アによれば、本件訂正明細書に記載された上記各実施例は、p型コンタクト層の厚さが600nm、900nm及び1200nmの3点のときに、本件課題を解決できることを明らかにしているといえる。そして、本件課題解決原理は、要するに、p型コンタクト層における電流拡散特性に依拠するものであるところ、このような特性がp型コンタクト層の厚さによって連続的に変化することが物理的に明らかである。そうすると、当業者は、p型コンタクト層の厚さが、上記の各点における厚さに限られずに、それらの間においても、本件課題を解決できることを認識できるといえる。

ウ この点、特許異議申立人は、本件訂正明細書に記載された実施例等に係るグラフを示した上で、p型コンタクト層の厚さに対する発光出力及び600mA通電時における発光出力の経時変化のバラツキが大きく、その変動に特定の傾向を見いだすことができない旨主張する。しかしながら、当該グラフは、電子ブロック層の厚さが異なる実施例等を混在させたものである。そして、本件訂正明細書の【0088】には、電子ブロックの厚さを20nmまで薄くすると発光出力の経時変化が悪化すること、電子ブロック層の厚さが薄い方が発光出力の観点からは好ましいことが記載されていると認められる。このように、電子ブロック層の厚さは、発光出力の大きさ及び経時変化に影響を及ぼすのであるから、当該厚さとして様々な値を混在させたグラフをもって、これらの変動に特定の傾向を見いだすことができないとはいえない。
特許異議申立人は、本件訂正前の請求項1、3、7及び8がp型コンタクト層の厚さとして、600nm未満及び1200nm超の範囲を含む特定をしていることについて主張するが、本件訂正によりそのような範囲は除外された。
さらに、特許異議申立人は、本件訂正明細書の記載からは、p型コンタクト層の厚さにつき、500nmである構成に対し、「600nm以上1200nm以下である」構成が格別に発光出力を抑制することができる根拠が示されていないなどと主張する(令和3年10月27日付け意見書4頁11行〜6頁3行)。しかしながら、本件訂正明細書の記載において、本件訂正発明が解決しようとする課題がp型コンタクト層の厚さが500nmである構成に対して生じるものとされているわけではないから、当該主張に係る事情は、サポート要件充足性の判断を左右するものではない。加えて、特許異議申立人は、p型コンタクト層の厚さが300nmとした参考例1との比較についても主張する(令和3年3月5日付け意見書1頁〜2頁6行)が、同様である。

エ よって、当業者は、本件訂正明細書の記載及び技術常識に基づいて、本件解決手段につきp型コンタクト層が600nm以上1200nm以下の任意の値において、本件課題を解決できることを認識できるといえる。
したがって、本件訂正発明の記載は、サポート要件を満たしている。
特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)特許異議申立人は、本件訂正発明2、4及び8に特定されている電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であることについて、本件訂正明細書において実施例として記載されている当該厚さは、20nm、25nm及び30nmのみであって、本件訂正発明2で特定された範囲において課題を解決できると認識できるとはいえない旨主張する(特許異議申立書37頁下から15行〜38頁1行等)。
しかし、電子ブロック層の厚さは、本件課題、本件解決手段及び本件課題解決原理に関係するものではない。そして、本件訂正発明2、4及び8の記載がサポート要件を満たしていることは、上記(1)で判断したとおりである。従属項に係る本件訂正発明5及び6についても同様である。
特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)サポート要件違反についての小括
したがって、サポート要件違反に係る申立理由は成り立たない。

2 甲1に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如について
(1)甲1(再公表特許第2015/151471号公報。なお、甲7と同じものである。)の記載事項の認定
ア 甲1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「サファイア基板と、n型AlGaN層と、発光層と、キャップ層と、電子障壁層と、p型GaN層からなるp型コンタクト層と、を備え、
前記発光層は、多重量子井戸構造を有し、
前記多重量子井戸構造は、各々が第1のAlGaN層からなる複数の障壁層と、各々が第2のAlGaN層からなる複数の井戸層と、を備え、
前記電子障壁層は、前記障壁層よりもAlの組成比が大きい第1のp型AlGaN層と、前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比の小さい第2のp型AlGaN層と、を備え、
前記第1のp型AlGaN層及び前記第2のp型AlGaN層は、Mgを含有させてあり、
前記キャップ層は、前記多重量子井戸構造における前記複数の井戸層のうち前記第1のp型AlGaN層に最も近い井戸層と、前記第1のp型AlGaN層と、の間に介在し、
前記キャップ層は、前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比が小さい第3のAlGaN層であり、
前記キャップ層の厚さは、1nm以上7nm以下である、
ことを特徴とする紫外線発光素子。」(【請求項1】)、
「前記p型コンタクト層の厚さは、10nm以上500nm以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至19のいずれか一項に記載の紫外線発光素子。」(【請求項20】)

(イ)「紫外線発光素子10は、例えば、210nm〜360nmの紫外波長域に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオードとすることができる。これにより、紫外線発光素子10は、例えば、高効率白色照明、殺菌、医療、環境汚染物質を高速で処理する用途等の分野で、利用することができる。紫外線発光素子10は、殺菌の分野で利用する場合、発光層4における井戸層42の発光ピーク波長が260nm〜285nmの紫外波長域にあるのが好ましい。これにより、紫外線発光素子10は、ウイルスや細菌のDNAに吸収されやすい260nm〜285nm帯の紫外線を放射させることができ、効率良く殺菌することが可能となる。」(【0014】)、
「p型コンタクト層7の厚さは、400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好ましい。紫外線発光素子10は、p型コンタクト層7の厚さが10nm未満の場合、p型コンタクト層7の厚さの面内均一性が低下したり、電気的特性の面内ばらつきが大きくなる傾向にある。また、紫外線発光素子10は、p型コンタクト層7の厚さが500nmよりも大きくなると、歪の蓄積によりクラックが発生する可能性が高くなる傾向にある。」(【0044】)、
「本実施形態の紫外線発光素子10は、キャップ層5の厚さが、1nm以上7nm以下であるので、発光効率の向上を図ることが可能となる。本願発明者らは、SIMSによる、Mgの濃度の、深さプロファイルの測定結果から、紫外線発光素子10における、電子障壁層6から発光層4へのMgの拡散が抑制されていることを確認した。紫外線発光素子10は、キャップ層5の厚さを、1nm以上7nm以下とすることにより、電子障壁層6から発光層4へのMgの拡散が抑制され、且つ、電子障壁層6から発光層4への正孔の注入が阻害されるのを抑制することが可能となり、発光効率の向上を図れるものと推考される。」(【0066】)、
「ところで、キャップ層5を構成する第3のAlGaN層は、アンドープのAlGaN層であるのが好ましい。アンドープとは、特定の不純物を意図的に添加していないことを意味する。つまり、キャップ層5は、キャップ層5を成長させる際に不可避的に混入されるMg、H、Si、C、O等の不純物が存在してもよい。アンドープのAlGaN層の各不純物の濃度に関しては、例えば、SIMS分析の結果、Mgが1×1017cm-3、Hが1×1018cm-3、Siが2×1017cm-3、Cが7×1016cm-3、Oが7×1016cm-3であったが、これらの数値に限定するものではない。アンドープのAlGaN層の各不純物の濃度は、Mgが5×1017cm-3以下、Hが2×1018cm-3以下、Siが5×1017cm-3以下、Cが3×1017cm-3以下、Oが3×1017cm-3以下であるのが好ましい。」(【0067】)

イ 上記アの各記載事項によれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「サファイア基板と、n型AlGaN層と、発光層と、キャップ層と、電子障壁層と、p型GaN層からなるp型コンタクト層と、を備え、
前記発光層は、多重量子井戸構造を有し、
前記多重量子井戸構造は、各々が第1のAlGaN層からなる複数の障壁層と、各々が第2のAlGaN層からなる複数の井戸層と、を備え、
前記電子障壁層は、前記障壁層よりもAlの組成比が大きい第1のp型AlGaN層と、前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比の小さい第2のp型AlGaN層と、を備え、
前記第1のp型AlGaN層及び前記第2のp型AlGaN層は、Mgを含有させてあり、
前記キャップ層は、前記多重量子井戸構造における前記複数の井戸層のうち前記第1のp型AlGaN層に最も近い井戸層と、前記第1のp型AlGaN層と、の間に介在し、
前記キャップ層は、前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比が小さい第3のAlGaN層であり、
前記キャップ層の厚さは、1nm以上7nm以下である、
紫外線発光素子であって、(【請求項1】)
紫外線発光素子10は、例えば、210nm〜360nmの紫外波長域に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオードであり、(【0014】)
p型コンタクト層7の厚さは、400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好ましく、(【0044】)
キャップ層5は、キャップ層5を成長させる際に不可避的に混入されるMg、H、Si、C、O等の不純物が存在してもよい、(【0067】)
紫外線発光素子。」

ウ また、上記アの各記載事項によれば、甲1には、甲1発明を製造方法的に表現した次の発明(以下「甲1製法発明」という。)が記載されていると認められる。
「紫外線発光素子の製造方法において、
前記紫外線発光素子は、サファイア基板と、n型AlGaN層と、発光層と、キャップ層と、電子障壁層と、p型GaN層からなるp型コンタクト層と、を備え、
前記発光層は、多重量子井戸構造を有し、
前記多重量子井戸構造は、各々が第1のAlGaN層からなる複数の障壁層と、各々が第2のAlGaN層からなる複数の井戸層と、を備え、
前記電子障壁層は、前記障壁層よりもAlの組成比が大きい第1のp型AlGaN層と、前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比の小さい第2のp型AlGaN層と、を備え、
前記第1のp型AlGaN層及び前記第2のp型AlGaN層は、Mgを含有させてあり、
前記キャップ層は、前記多重量子井戸構造における前記複数の井戸層のうち前記第1のp型AlGaN層に最も近い井戸層と、前記第1のp型AlGaN層と、の間に介在し、
前記キャップ層は、前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比が小さい第3のAlGaN層であり、
前記キャップ層の厚さは、1nm以上7nm以下である、
紫外線発光素子であって、(【請求項1】)
紫外線発光素子10は、例えば、210nm〜360nmの紫外波長域に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオードであり、(【0014】)
p型コンタクト層7の厚さは、400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好ましく、(【0044】)
キャップ層5は、キャップ層5を成長させる際に不可避的に混入されるMg、H、Si、C、O等の不純物が存在してもよい、(【0067】)
紫外線発光素子の製造方法。」

(2)本件訂正発明1について
ア 対比
(ア)本件訂正発明1の「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、」との特定事項について
甲1発明の「例えば、210nm〜360nmの紫外波長域に発光ピーク波長を有する紫外線発光ダイオード」は、本件訂正発明1の「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子」に相当するといえる。
よって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(イ)本件訂正発明1の「n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、」との特定事項について
甲1発明は、「n型AlGaN層と、発光層と、キャップ層と、電子障壁層と、p型GaN層からなるp型コンタクト層」を備えているところ、これらの各層をこの順に備えていると解される。そして、甲1発明の「キャップ層」は、「前記複数の井戸層よりもAlの組成比が大きく且つ前記第1のp型AlGaN層よりもAlの組成比が小さい第3のAlGaN層」からなるから、電子ブロックの機能を有するといえる。
そうすると、甲1発明の「n型AlGaN層」、「発光層」、「『キャップ層』及び『電子障壁層』」並びに「p型GaN層からなるp型コンタクト層」は、それぞれ、本件訂正発明1の「n型層」、「発光層」、「電子ブロック層」及び「p型コンタクト層」に相当する。
よって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(ウ)本件訂正発明1の「前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、」との特定事項について
甲1発明の「『キャップ層』及び『電子障壁層』」のうち、「キャップ層」は、「キャップ層5を成長させる際に不可避的に混入されるMg、H、Si、C、O等の不純物が存在してもよい」ものであるが、「コドープ領域層」といえるのかは不明である。

(エ)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、」との特定事項について
甲1発明の「p型コンタクト層」を構成する「p型GaN」は、本件訂正発明1の「p型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)」に相当する。
よって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(オ)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層の厚さが600nm以上1200nm以下であること」との特定事項について
甲1発明は、「p型コンタクト層7の厚さは、400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好まし」いものであるから、上記特定事項を備えない。

(カ)本件訂正発明1の「III族窒化物半導体発光素子」との特定事項について
上記(ア)のとおり、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)である、
III族窒化物半導体発光素子。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点3]
「前記電子ブロック層」が、本件訂正発明1は、「コドープ領域層」を有しているのに対し、甲1発明は、「『キャップ層』及び『電子障壁層』」からなるところ、「キャップ層」は、「キャップ層5を成長させる際に不可避的に混入されるMg、H、Si、C、O等の不純物が存在してもよい」ものである点。

[相違点4]
「前記p型コンタクト層の厚さ」が、本件訂正発明1は、「600nm以上1200nm以下である」のに対し、甲1発明は、「p型コンタクト層7の厚さは、400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好まし」い点。

ウ 相違点4の判断
事案に鑑み、相違点4より判断する。
甲1発明は、p型コンタクト層の厚さについて、「500nm以下であるのが好まし」いとされているにとどまるから、500μm超の値を当然に排除するものではないものの、甲1の【0044】には、500nmよりも大きくなると、歪の蓄積によりクラックが発生する可能性が高くなる傾向にあると記載されている。加えて、相違点4に係る構成は相違点1に係る構成と同じであるところ、上記第4の3(3)イで説示したところの相違点1に係る技術的意義及びp型コンタクト層の厚さに係る事情については、相違点4にも同様に当てはまる。そうすると、当業者が、甲1発明において、p型コンタクト層の厚さとして600nm以上の値を容易に採用し得るとはいえない。
よって、当業者が、甲1発明におけるp型コンタクト層(p型GaN)の厚さとして、相違点4に係る構成に容易に至ることはない。
そして、相違点4に係る構成とすることにより、本件訂正発明1が顕著な効果を奏することは、上記第4の3(3)ウで説示したとおりである。

エ 本件訂正発明1についての小括
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件訂正発明4について
事案に鑑み、本件訂正発明4より判断する。
本件訂正発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、上記(2)イで認定した一致点で一致し、「前記p型コンタクト層」が、本件訂正発明4では、その「厚さ」が「900nm以上1200nm以下である」のに対し、甲1発明では、その「厚さ」が「400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好まし」い点で少なくとも相違するところ、当該相違点は、相違点4を厚さの観点においてさらに限定したものである。
よって、本件訂正発明4は、上記(2)と同様の理由で、甲1発明ではなく、また、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件訂正発明2、5及び6について
これらの発明は、本件訂正発明1又は本件訂正発明4をさらに限定したものである。
よって、本件訂正発明2及び6は、上記(2)又は(3)と同様の理由で、甲1発明ではなく、また、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件訂正発明5は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正発明7について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明7と甲1製法発明とを対比する。
甲1製法発明で製造される「紫外線発光素子」は、「サファイア基板と、n型AlGaN層と、発光層と、キャップ層と、電子障壁層と、p型GaN層からなるp型コンタクト層と、を備え」ているものであるから、甲1製法発明が、「n型AlGaN層」を形成する工程と、「発光層」を形成する工程と、「『キャップ層』及び『電子障壁層』」を形成する工程と、「p型GaN層からなるp型コンタクト層」を形成する工程とをこの順に備えることは、技術常識に照らして明らかである。
このことに、上記(2)イの対比を考慮すれば、本件訂正発明7と甲1製法発明とは、「発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点5]
「前記電子ブロック層」が、本件訂正発明7は、「コドープ領域層」を有しているのに対し、甲1製法発明は、「『キャップ層』及び『電子障壁層』」からなるところ、「キャップ層」は、「キャップ層5を成長させる際に不可避的に混入されるMg、H、Si、C、O等の不純物が存在してもよい」ものである点。

[相違点6]
「前記p型コンタクト層の厚さ」が、本件訂正発明7は、「600nm以上1200nm以下である」のに対し、甲1製法発明は、「p型コンタクト層7の厚さは、400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好まし」い点。

イ 相違点6の判断
事案に鑑み、相違点6より判断すると、相違点6は、相違点4と同じものであるから、その判断は、上記(2)ウと同様である。

ウ 本件訂正発明7についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明7は、相違点5について検討するまでもなく、甲1製法発明ではなく、また、甲1製法発明、甲1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(6)本件訂正発明8について
本件訂正発明8と甲1製法発明とを対比すると、両者は、上記(5)アで認定した一致点で一致し、「前記p型コンタクト層」が、本件訂正発明8では、その「厚さ」が「900nm以上1200nm以下である」のに対し、甲1製法発明では、「400nmに設定してあるが、これに限らず、10nm以上500nm以下であるのが好まし」い点で少なくとも相違するところ、当該相違点は、相違点6を厚さの観点においてさらに限定したものである。
よって、本件訂正発明8は、上記(5)と同様の理由で、甲1製法発明ではなく、また、甲1製法発明、甲1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(7)甲1に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如についての小括
したがって、甲1に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如に係る申立理由は成り立たない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断についての小括
以上のとおりであるから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、2、4〜8に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上によれば、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立書に係る特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明4〜本件訂正発明8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明4〜本件訂正発明8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3は、本件訂正により削除されたので、請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが600nm以上1200nm以下であること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、pコンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層はp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記型pコンタクト層の厚さが900nm以上1200nm以下であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記コドープ領域層が、p型不純物を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3含み、n型不純物を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3含む、請求項1、2、4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記コドープ領域層のp型不純物がMgであり、n型不純物がSiである、請求項5に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを600nm以上1200nm以下とすることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを900nm以上1200nm以下とすることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-23 
出願番号 P2019-174556
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
井上 徹
登録日 2020-02-03 
登録番号 6654731
権利者 DOWAエレクトロニクス株式会社
発明の名称 III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法  
代理人 福井 敏夫  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  
代理人 福井 敏夫  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  
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