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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
管理番号 1383252
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-21 
確定日 2022-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6687139号発明「電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6687139号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−13〕、〔14−22〕、〔23−24〕について訂正することを認める。 特許第6687139号の請求項1ないし4、6ないし17、19ないし22に係る特許を維持する。 特許第6687139号の請求項5、18、23、24に係る特許に対する本件の異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6687139号(請求項の数24。以下、「本件特許」という。)は、平成31年1月31日(優先権主張:平成30年2月2日)を出願日とする特許出願(特願2019−15684号)に係るものであって、令和2年4月6日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年4月22日である。)。
その後、令和2年10月21日に、本件特許の請求項1〜24に係る特許に対して、特許異議申立人である宮本邦彦(以下、「申立人」という。)より、特許異議の申立てがなされた。
それ以降の手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 2月18日付け 取消理由通知書
同年 4月23日 訂正の請求及び意見書(特許権者)
同年 5月19日付け 通知書(申立人宛)
同年 6月17日 意見書(申立人)
同年 7月21日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 9月22日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年10月 1日付け 通知書(申立人宛)
同年11月 5日 意見書(申立人)
(なお、令和3年9月22日に訂正請求されたことにより、令和3年4月23日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。)

第2 訂正の適否
1.訂正事項
令和3年11月5日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「「式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)において、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3XF6)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−
(式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、XFは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)
で表され、かつ、少なくとも1の分岐構造を有する基、または、式:
−(R16−R17)j1−
(式中、R16は、OCF2またはOC2F4であり;
R17は、OC2F4、OC3XF6、OC4F8、OC5F10およびOC6F12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり;
j1は、2〜100の整数であり;
XFは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)
で表される基であり;」を
「式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)において、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、
「X1は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;」を
「X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、
「X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;」を
「X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式;
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、
「Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;」を
「Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6において、
「請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子機器。」を、
「請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子機器。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7において、
「請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子機器。」を、
「請求項1〜4および6のいずれか1項に記載の電子機器。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8において、
「請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子機器。」を、
「請求項1〜4、6および7のいずれか1項に記載の電子機器。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10において、
「PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3XF6)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−
(式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、XFは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)
で表され、かつ、少なくとも1の分岐構造を有する基、または、式:
−(R16−R17)j1−
(式中、R16は、OCF2またはOC2F4であり;
R17は、OC2F4、OC3XF6、OC4F8、OC5F10およびOC6F12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり;
j1は、2〜100の整数であり;
XFは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)
で表される基」を
「PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10において、
「X1は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;」を
「X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10において、
「X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;」を
「X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式;
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10において、
「Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;」を
「Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;」に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11において、
「請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子機器。」を、
「請求項1〜4および6〜10のいずれか1項に記載の電子機器。」に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項13において、
「請求項1〜12のいずれか1項に記載の電子機器。」を、
「請求項1〜4および6〜12のいずれか1項に記載の電子機器。」に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項14において、
「PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3XF6)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−
(式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、XFは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)
で表され、かつ、少なくとも1の分岐構造を有する基、または、式:
−(R16−R17)j1−
(式中、R16は、OCF2またはOC2F4であり;
R17は、OC2F4、OC3XF6、OC4F8、OC5F10およびOC6F12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり;
j1は、2〜100の整数であり;
XFは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)
で表される基」を
「PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;」に訂正する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項14において、
「X1は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;」を
「X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;」に訂正する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項14において、
「X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;」を
「X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式;
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;」に訂正する。

(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項14において、
「Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;」を
「Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;」に訂正する。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項18を削除する。

(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項19において、
「請求項14〜18のいずれか1項に記載のセット機器。」を「請求項14〜17のいずれか1項に記載のセット機器。」に訂正する。

(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項20において、
「請求項14〜19のいずれか1項に記載のセット機器。」を「請求項14〜17および19のいずれか1項に記載のセット機器。」に訂正する。

(22)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項23を削除する。

(23)訂正事項23
特許請求の範囲の請求項24を削除する。

2.一群の請求項について
訂正前の請求項2〜9、11〜13は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1〜4によって記載が、訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1〜9、11〜13は、一群の請求項に該当するものである。
訂正前の請求項11〜13は、訂正前の請求項10を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項9〜12によって記載が、訂正される訂正前の請求項10に連動して訂正されるから、訂正前の請求項10〜13は、一群の請求項に該当するものである。
そして、一群の請求項である訂正前の請求項1〜9、11〜13と同請求項10〜13とは、請求項11〜13で共通するから、訂正前の請求項1〜13は、一つの一群の請求項といえ、訂正事項1〜14は、請求項〔1−13〕の一群の請求項についてなされたものといえる。
訂正前の請求項15〜22は、訂正前の請求項14を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項15〜18によって記載が、訂正される訂正前の請求項14に連動して訂正されるから、訂正前の請求項14〜22は、一群の請求項に該当するものである。
よって、訂正事項15〜21は、請求項〔14−22〕の一群の請求項についてなされたものといえる。
訂正前の請求項24は、訂正前の請求項23を引用する関係にあり、訂正事項22によって記載が、訂正される訂正前の請求項23に連動して訂正されるから、訂正前の請求項23〜24は、一群の請求項に該当するものである。
よって、訂正事項22〜23は、請求項〔23−24〕の一群の請求項についてなされたものといえる。
以上からすると、本件訂正は、請求項〔1−13〕、〔14−22〕、〔23−24〕の一群の請求項ごとに請求がなされたものというべきである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・
変更の存否
(1)訂正事項1、9、15
訂正事項1は、訂正前の請求項1の式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)に対する「PFPE」、訂正事項9、15は、訂正前の請求項10、14の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2)に対する「PFPE」について記載されていた「式:−(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3XF6)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−」または「式: −(R16−R17)j1−」(いずれの式も式中の記号の説明は省略する。)を、本件明細書の【0154】に記載されていた「上記式(B1)および(B2)中、RfおよびPFPEは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。」、同【0207】に記載されていた「上記式(C1)および(C2)中、RfおよびPFPEは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。」に従い、訂正前の請求項1の式(A1)及び(A2)の「PFPE」及び同【0101】に記載されていた「式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;」に限定するものである。
したがって、訂正事項1、9、15は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(2)訂正事項2、10、16
訂正事項2、10、16は、訂正前の請求項1、10、14に記載されていたX1の選択肢である「単結合または2〜10価の有機基」から、単に「単結合」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(3)訂正事項3、11、17
訂正事項3、11、17は、訂正前の請求項1、10、14に記載されていたX3の2〜10価の有機基について、本件明細書の【0160】における「X3の例としては、特に限定するものではないが、例えば、X1に関して記載したものと同様のものが挙げられる。」との記載に基づき、同【0119】で説明された、X1の定義(但し、Xbが、−Si(R33)2−、−(Si(R33)2O)m’−Si(R33)2−である場合は除かれている。)に限定するものであり、更に、β、β’についても、同【0156】、【0158】、【0159】の記載に基づき、それぞれを1に限定するものである。
したがって、訂正事項3、11、17は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(4)訂正事項4、12、18
訂正事項4、12、18は、訂正前の請求項1、10、14に記載されていたZ3の選択肢である「酸素原子または2価の有機基」から、単に「酸素原子」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(5)訂正事項5、19、22、23
訂正事項5、19、22、23は、訂正前の請求項5、18、23、24を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(6)訂正事項6〜8、13〜14、20〜21
訂正事項6〜8、13〜14、20〜21は、訂正事項5、19により、訂正前の請求項5、18が削除されたことに伴い、訂正前の請求項6〜8、11、13、19、20が引用している請求項を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

4.小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1〜23は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜24に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜24に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。
以下、本件訂正により訂正された請求項1〜24に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」〜「本件発明24」といい、これらを総称して、「本件発明」ということがある。これに対し、本件訂正前の請求項1〜24に係る発明、すなわち本件特許の設定登録時の請求項1〜24に係る発明を、「訂正前の本件発明1」〜「訂正前の本件発明24」といい、これらを総称して、「訂正前の本件発明」ということがある。
また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。

「【請求項1】
少なくとも表面の一部に、以下の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)または(C2):
【化1】


[式中:
式(A1)および(A2)において、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)において、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素原子数1〜16のアルキル基を表し;
X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;
αは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
nは、(−SiR13nR143−n)単位毎に独立して、0〜3以上の整数を表し;
ただし、式(A1)、および(A2)において、少なくとも1つのnが、1〜3の整数であり;
X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式;
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;
Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し;
Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
Ra’は、Raと同意義であり;
Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、0であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり;
Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、3であり;
l1およびm1は、0であり;
X5は、下記式:
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中:
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’
−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
s’は、1〜20の整数であり;
Xaは、−(Xb)l’−を表し;
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−Si(R33)2−、−(Si(R33)2O)m’−Si(R33)2−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し;
R33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表し;
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり;
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり;
m’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜100の整数であり;
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり;
l’は、1〜10の整数であり;
p’は、0または1であり;
q’は、0または1であり;
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]で表される2価の基を表し;
γおよびγ’は、1であり;
Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し;
Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し;
Rd’は、Rdと同意義であり;
Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎に独立して、1〜3の整数を表し;
R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり;
Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
k2は、0であり;
l2は、3であり;
m2は、0であり;
ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が少なくとも1存在する。]
のいずれかで表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層を有する、電子機器。
【請求項2】
式(A1)および(A2)において、SiR13が少なくとも2存在する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
式(B1)および(B2)において、水酸基または加水分解可能な基に結合したSiが少なくとも2存在する、請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が2以上存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
R83およびRfが、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項7】
前記電子機器が、充電式の電池により駆動し得る機器である、請求項1〜4および6のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項8】
前記電子機器が、携帯電話、またはスマートフォンである、請求項1〜4、6および7のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項9】
第1の主面と、該第1の主面に対向する第2の主面とを有し、
前記第2の主面上に、前記表面処理層を有する、請求項7または8に記載の電子機器。
【請求項10】
少なくとも表面の一部に、以下の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)または(C2):
【化2】

[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素原子数1〜16のアルキル基を表し;
X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;
αは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
nは、(−SiR13nR143−n)単位毎に独立して、0〜3以上の整数を表し;
ただし、式(A1)、および(A2)において、少なくとも1つのnが、1〜3の整数であり;
X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式;
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;
Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し;
Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
Ra’は、Raと同意義であり;
Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり;
Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(SiRak1Rbl1Rcm1)毎において、k1、l1およびm1の和は3であり、式(B1)および(B2)において、少なくとも1のq1が1〜3の整数であり;
X5は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し;
Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し;
Rd’は、Rdと同意義であり;
Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎に独立して、0〜3の整数を表し;
R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり;
Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が少なくとも1存在する。]
のいずれかで表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層を有する電子機器であり、
前記電子機器が、充電台である、電子機器。
【請求項11】
表面処理層を有する表面における水の接触角が、100度以上であり、および、動摩擦係数が0.1〜0.5の範囲にある、請求項1〜4および6〜10のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項12】
前記水の接触角が、110度以上であり、および、動摩擦係数が0.15〜0.35の範囲にある、請求項11に記載の電子機器。
【請求項13】
PFPEが、−(OCF2CF(CF3))d−(式中、dは1以上200以下の整数)で表される基である、請求項1〜4および6〜12のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項14】
電子機器と充電台とを有するセット機器であって、
前記電子機器および前記充電台の少なくとも1が、少なくとも表面の一部に、以下の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)または(C2):
【化3】

[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素原子数1〜16のアルキル基を表し;
X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;
αは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
nは、(−SiR13nR143−n)単位毎に独立して、0〜3以上の整数を表し;
ただし、式(A1)、および(A2)において、少なくとも1つのnが、1〜3の整数であり;
X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式;
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;
Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し;
Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
Ra’は、Raと同意義であり;
Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり;
Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(SiRak1Rbl1Rcm1)毎において、k1、l1およびm1の和は3であり、式(B1)および(B2)において、少なくとも1のq1が1〜3の整数であり;
X5は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し;
Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し;
Rd’は、Rdと同意義であり;
Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎に独立して、0〜3の整数を表し;
R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり;
Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が少なくとも1存在する。]
のいずれかで表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層を有する、セット機器。
【請求項15】
式(A1)および(A2)において、SiR13が少なくとも2存在する、請求項14に記載のセット機器。
【請求項16】
式(B1)および(B2)において、水酸基または加水分解可能な基に結合したSiが少なくとも2存在する、請求項14または15に記載のセット機器。
【請求項17】
式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が2以上存在する、請求項14〜16のいずれか1項に記載のセット機器。
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
R83およびRfが、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基である、請求項14〜17のいずれか1項に記載のセット機器。
【請求項20】
前記電子機器が、第1の主面と、該第1の主面に対向する第2の主面とを有し、
前記充電台が、充電時に前記電子機器を配置する面を有し、
電子機器の前記第2の主面は、前記電子機器の充電時に、前記充電台の面と接触する面であり、
前記電子機器の第1の主面および第2の主面、および、前記充電台の面の少なくとも1つに、前記表面処理層が位置する、請求項14〜17および19のいずれか1項に記載のセット機器。
【請求項21】
前記電子機器の第2の主面、および、前記充電台の面の少なくとも1つに、前記表面処理層が位置する、請求項20に記載のセット機器。
【請求項22】
前記電子機器の第2の主面に、前記表面処理層が位置する、請求項21に記載のセット機器。
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)」

第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由
1.異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)
(1)申立理由の概要
ア.申立理由1(新規性の欠如)
訂正前の本件発明1〜8、11〜13は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

イ.申立理由2(進歩性の欠如)
訂正前の本件発明1〜24は、甲第1号証〜甲第9号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

ウ.申立理由3(サポート要件違反)
本件明細書の実施例で具体的に記載され、その作用効果が実証されているのは、式(B1)、(C1)で表される化合物だけであり、式(A1)、(A2)、(B2)、(C2)の化合物についてはその作用効果が全く確認されていないし、式(B1)、(C1)の化合物も、PFPEについて広範に規定されているところ、その作用効果が確認あるいは立証されているのはごく狭い部分であるから、訂正前の本件発明1、10、14は、その発明の作用効果が具体的に確認され、あるいは立証されている範囲に比して広すぎる。
したがって、訂正前の本件発明1、10、14及びこれらを引用する訂正前の本件発明2〜9、11〜13、15〜24は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、訂正前の本件発明1〜24についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

エ.申立理由4(明確性要件違反)
本件明細書の実施例1〜6には、滑り性抑制の指標である動摩擦係数が0.22〜0.28の範囲のものが示されているが(【0047】)、甲第6号証の実施例4には、訂正前の本件発明10、14の式(B1)に該当する化合物(IX)を含む表面処理剤による硬化被膜の動摩擦係数が0.05であることが示されており(【0061】)、訂正前の本件発明における滑り性抑制の範囲から外れるものとなっている。
したがって、訂正前の本件発明1、10、14は、訂正前の本件発明の作用効果を奏さない化合物が含まれている、或いは、含まれている蓋然性が高いので、訂正前の本件発明1〜24は特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、訂正前の本件発明1〜24についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)証拠方法
申立人が、特許異議申立書に添付した証拠方法(甲第1〜9号証)は、以下のとおりである。

・甲第1号証:特開2008−144144号公報
・甲第2号証:特開2007−197425号公報
・甲第3号証:特開2002−348370号公報
・甲第4号証:特開2016−204656号公報
・甲第5号証:特開2012−072272号公報
・甲第6号証:特開2014−214194号公報
・甲第7号証:特開2017−002216号公報
・甲第8号証:特開2013−150393号公報
・甲第9号証:実用新案登録第3209878号公報
(以下、「甲第1号証」〜「甲第9号証」を、それぞれ「甲1」〜「甲9」という。)

2.取消理由通知書に記載した取消理由の概要
(1)令和3年2月18日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要
ア.取消理由1(サポート要件違反)
(ア)
本件明細書の記載によれば、訂正前の請求項1で特定される具体例であって、フルオロ(ポリ)エーテル基に分岐構造を有するフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を表面処理剤として用いれば、「水の接触角」、「動摩擦係数」が特定の範囲となり、電子機器の表面における滑り性を抑制するという本件発明の課題を解決できると認識できるといえるが、訂正前の請求項23の記載では表面処理層として何ら特定はなく、訂正前の本件発明23が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
(イ)
訂正前の本件発明1、10、14の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)で表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるPFPEは、分岐構造を有しないものも包含し、本件明細書の対照化合物2をも包含し得る。
加えて、甲6の実施例1〜5には、分岐構造を有する【化29】〜【化34】の化合物を含む表面処理剤による表面処理層の動摩擦係数が、それぞれ、0.04、0.04、0.05、0.05、0.04であることが示されており、分岐構造を有していても、表面処理層の動摩擦係数が低いものが当業者に公知であるから、訂正前の本件発明1、10、14が、PFPEとして分岐構造を有するとしても、電子機器の表面における滑り性を抑制できるかは不明である。
よって、訂正前の本件発明1、10、14は、当業者が出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載により訂正前の本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
(ウ)
したがって、訂正前の本件発明1、10、14、23及びこれらを引用する訂正前の本件発明2〜9、11〜13、15〜22、24は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の本件発明1〜24についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

イ.取消理由2(新規性の欠如)
訂正前の本件発明1〜9、11〜13は、甲1〜4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

ウ.取消理由3(進歩性の欠如)
訂正前の本件発明1〜24は、甲1〜4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)令和3年7月21日付け取消理由通知書(決定の予告)
に記載した取消理由の概要
ア.取消理由4(サポート要件違反)
上記の「(1)令和3年2月18日付け取消理由通知書に記載した取消理由」の「ア.取消理由1(サポート要件)」の(イ)で示した取消理由と同旨のものである。

イ.取消理由5(明確性要件違反)
令和3年4月23日付けの訂正請求(上記の第1で示したとおり、令和3年9月22日に訂正請求されたことにより取り下げられたものとみなされた。)の訂正請求の範囲の請求項13は、PFPEを、「−(OCF2CF(CF3))d−…で表される基」に限定するものであるが、同請求項13が引用する同請求項1、10は、PFPEを、「−(OCF(CF3)CF2)d−…で表される基」と規定しており、CF3基の置換位置が異なっている。
したがって、同請求項13の記載は、明確ではなく、同請求項13に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断
訂正前の請求項5、18、23、24は、本件訂正により、その内容が削除され、本件特許異議の申立ての対象を欠くものとなっており、訂正前の請求項5、18、23、24に対する本件特許異議の申立ては不適法なものであり、その治癒ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項5、18、23、24に係る特許に対する各特許異議の申立ては却下すべきものである。
また、以下で述べるように、本件発明1〜4、6〜17、19〜22に係る特許は、当審が通知した令和3年2月18日付け取消理由通知書に記載した取消理由1〜3、令和3年7月21日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由4〜5(以下、両方の取消理由通知書を総称して「取消理由通知書」という。)、申立人による申立理由1〜4によっては、取り消すことができない、と判断する。

1.取消理由通知書に記載した取消理由の検討
(1)取消理由1及び取消理由4(サポート要件違反)
ア.本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には次のような記載がある。

本a.本件発明の課題
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、電子機器の表面における滑り性を抑制することにある。」

本b.本件発明を実施するための形態
「【0015】
一の態様において、本開示の電子機器は、少なくとも表面の一部に、後述するフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物(以下において、「PFPE含有シラン化合物」と称することがある)より形成された層(以下、「表面処理層」ともいう)を有する。上記PFPE含有シラン化合物は、フルオロ(ポリ)エーテル基が分岐構造を有する。すなわち、本開示の電子機器の表面の一部は、基材と、該基材の表面にPFPE含有シラン化合物より形成された表面処理層を有する。PFPE含有シラン化合物より形成された表面処理層は、電子機器の最外層に設けられることが好ましい。

【0041】
上記電子機器は、上記ハウジングの少なくとも表面の一部に、後述するPFPE含有シラン化合物より形成された表面処理層を有することが好ましい。該PFPE含有シラン化合物は、フルオロポリエーテル基に分岐構造を有する。
【0042】
上記表面処理層を有することにより、本態様の電子機器の表面は、良好な紫外線耐久性、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、耐ケミカル性、耐加水分解性、滑り性の抑制効果、高い摩擦耐久性、耐熱性、防湿性などを奏し得る。特に、本態様の電子機器では、上記表面処理層と接触する面(例えば、机の表面、充電台の充電面など)と、上記表面処理層との位置がずれることを防止し得る。すなわち、本態様の電子機器では、何らかの外力(例えば、重力、振動など)により上記表面処理層と接触する面と上記表面処理層との相対的な位置が変動することを防止し得る。例えば、上記電子機器を机、充電台などの上に戴置した場合に、上記電子機器と机、充電台などとの位置がずれることを防止し得、上記電子機器をより安定に戴置し得る。上記ハウジングには、滑 りを防止するための凹凸形状、あるいはゴムシートなどを設ける必要はない。…
【0076】
(PFPE含有シラン化合物)
以下において、PFPE含有シラン化合物について説明する。該PFPE含有シラン化合物は、フルオロポリエーテル部分に分岐構造を有する。表面処理層は、該PTFE含有シラン化合物より形成される。」

本c.本件発明の実施例
「【実施例】
【0385】
以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0386】
(合成例1)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]22CF(CF3)COOHで表されるパーフルオロポリエーテル変性カルボン酸体32g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン16g、N,N−ジメチルホルムアミド0.13gおよび、塩化チオニル2.17gを仕込み、窒素気流下、90℃で1時間撹拌した。続いて、減圧下で揮発分を留去した後、16gの1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1.35gのトリエチルアミン、および1.73gのNH2CH2C(CH2CH=CH2)3を仕込み、窒素気流下、室温で6時間撹拌した。続いて、パーフルオロヘキサン30g、アセトン10gおよび3mol/Lの塩酸20gを加えて30分撹拌し、その後、分液ロートを用いてパーフルオロヘキサン相を分取した。その後、分取したパーフルオロヘキサン相を濾過し、続いて減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記式のパーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(A)29.6gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(A):
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]22CF(CF3)CONHCH2C(CH2CH=CH2)3
【0387】
(合成例2)
還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、合成例1にて合成した末端にアリル基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(A)29g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン35mlおよびトリクロロシラン6.7gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.3ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて6時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去した。続いて、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン30mlを加えて、55℃で10分間撹拌した後に、メタノール0.73gとオルソギ酸トリメチル16.8gの混合溶液を加えて、この温度にて2時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリメチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(B)30.1gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(B)
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]22CF(CF3)CONHCH2C[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
【0388】
(合成例3)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]28CF(CF3)COOHで表されるパーフルオロポリエーテル変性カルボン酸体32g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン16g、N,N−ジメチルホルムアミド0.10gおよび、塩化チオニル1.69gを仕込み、窒素気流下、90℃で1時間撹拌した。続いて、減圧下で揮発分を留去した後、16gの1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1.05gのトリエチルアミン、および1.36gのNH2CH2C(CH2CH=CH2)3を仕込み、窒素気流下、室温で6時間撹拌した。続いて、パーフルオロヘキサン30g、アセトン10gおよび3mol/Lの塩酸20gを加えて30分撹拌し、その後、分液ロートを用いてパーフルオロヘキサン相を分取した。その後、分取したパーフルオロヘキサン相を濾過し、続いて減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記式のパーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(C)29.2gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(C):
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]28CF(CF3)CONHCH2C(CH2CH=CH2)3
【0389】
(合成例4)
還流冷却器、温度計、および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、合成例3にて合成した末端にアリル基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(C)29g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン35mlおよびトリクロロシラン5.2gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.23ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて6時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去した。続いて、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン30mlを加えて、55℃で10分間撹拌した後に、メタノール0.57gおよびオルソギ酸トリメチル13.1gの混合溶液を加えて、この温度にて2時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリメチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D)29.6gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D)
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]28CF(CF3)CONHCH2C[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
【0390】
(合成例5)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]11CF(CF3)COOHで表されるパーフルオロポリエーテル変性カルボン酸体32g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン16g、N,N−ジメチルホルムアミド0.23gおよび、塩化チオニル3.81gを仕込み、窒素気流下、90℃で1時間撹拌した。続いて、減圧下で揮発分を留去した後、16gの1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2.43gのトリエチルアミン、および3.04gのNH2CH2C(CH2CH=CH2)3を仕込み、窒素気流下、室温で6時間撹拌した。続いて、パーフルオロヘキサン30g、アセトン10gおよび3mol/Lの塩酸20gを加えて30分撹拌し、その後、分液ロートを用いてパーフルオロヘキサン相を分取した。その後、分取したパーフルオロヘキサン相を濾過し、続いて減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記式のパーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(E)29.4gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(E):
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]11CF(CF3)CONHCH2C(CH2CH=CH2)3
【0391】
(合成例6)
還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、合成例5にて合成した末端にアリル基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリル化合物(E)29g、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン29.0mlおよびトリクロロシラン11.8gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.8ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて6時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去した。続いて、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン29.0mlを加えて、55℃で10分間撹拌した後に、メタノール1.30gとオルソギ酸トリメチル29.2gの混合溶液を加えて、この温度にて2時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリメチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(F)30.0を得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(F)
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]11CF(CF3)CONHCH2C[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
【0392】
(実施例1)
上記合成例2で得られた化合物(B)を、濃度20wt%になるように、ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)に溶解させて、表面処理剤を調製した。
【0393】
(実施例2)
化合物(B)に代えて、上記合成例4で得られた化合物(D)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0394】
(実施例3)
化合物(B)に代えて、上記合成例6で得られた化合物(F)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
【0395】
(実施例4)
化合物(B)に代えて、下記化合物(G)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
・化合物(G)
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]28CF(CF3)CONHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
【0396】
(実施例5)
化合物(B)に代えて、化合物(H)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
・化合物(H)
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]22CF(CF3)CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
【0397】
(実施例6)
化合物(B)に代えて、化合物(I)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製した。
・化合物(I)
CF3CF2CF2O[CF(CF3)CF2O]22CF(CF3)C[OCH2CH2CH2Si(OCH3)3][CH2CH2CH2Si(OCH3)3]2
【0398】
(比較例1〜2)
化合物(B)に代えて、下記対照化合物1または2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤をそれぞれ調製した。
・対照化合物1
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)30CF2CF2CONHCH2C[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
・対照化合物2
CF3O(CF2CF2O)22(CF2O)23CF2CONHCH2C[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
【0399】
<評価>
実施例1〜6および比較例1、2で調製した表面処理剤を、それぞれ化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に真空蒸着した。真空蒸着の処理条件は、圧力3.0×10−3Paとし、化学強化ガラス表面に5nmの二酸化ケイ素膜を形成し、続いて、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり、表面処理剤4mg(即ち、化合物(B)、化合物(D)、化合物(F)、化合物(G)、化合物(H)、化合物(I)または対照化合物1、2を0.8mg含有)を蒸着させた。次に、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度150℃の雰囲気下で30分静置させた後、室温まで放冷させ、表面処理層を形成した。
【0400】
(撥水性の評価)
静的接触角の測定は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて行った。水の静的接触角の測定は、水2μLを用いて実施した。結果を以下の表に示す。
【0401】
【表1】

【0402】
(耐UV性評価)
上記で形成された表面処理層について、UV照射前後の水の静的接触角をそれぞれ測定した。UV照射は、UVB−313ランプ(Q−Lab社製、310nmにおいて放射照度0.63W/m2)を用い、基材のブラックパネル温度は、63度で、ランプと表面処理層との距離を5cmとして行った。水の静的接触角の測定は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、水2μLにて実施した。
【0403】
まず、初期評価として、表面処理層形成後、UV照射前に水の静的接触角を測定した(UV照射時間0時間)。その後、所定の時間UVを照射した後の表面処理層について、水の静的接触角をそれぞれ測定した。評価は、累積照射時間96時間まで行った。結果を表2に示す。また、UV照射時間0時間の接触角の値に対する、UVの積算照射時間96時間後の接触角の値の比率(UVの積算照射時間96時間後の接触角の値/UV照射時間0時間の接触角の値)を、表3に示す。
【0404】
【表2】

【0405】
【表3】

【0406】
・表面滑り性評価(動摩擦係数の測定)
上記で形成された、表面に表面処理層を有する基材について、表面性測定機(Labthink社製 FPT−1)を用いて、摩擦子として紙を使用し、ASTM D4917に準拠して、動摩擦係数(−)を測定した。
具体的には、表面処理層を有する基材を水平に配置し、摩擦子である紙(2cm×2cm)を表面処理層の表面の露出上面に接触させ、その上に200gfの荷重を付与した。その後、荷重を加えた状態で、摩擦子である紙を200mm/秒の速度で平行移動させて、動摩擦係数を測定した。結果を、以下の表に示す。
【0407】
【表4】

【0408】
上記のように、実施例1〜6の表面処理剤を用いることにより、動摩擦係数の高い表面処理層、即ち、表面における滑り性の抑制された表面処理層が得られた。」

イ.サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

ウ.本件発明1、10、14のサポート要件の検討
(ア)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、本件発明が解決しようとする課題は、電子機器の表面における滑り性を抑制することにあると認められる(本aの【0004】)。

(イ)本件発明1、10、14が(ア)で示した課題を解決できると
認識できるか
本件訂正により、本件発明1、10、14における式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)で表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、いずれも、PFPEが「式:−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数」である構造を含む化合物に限定された。
そして、本件明細書の実施例では、分岐構造を有するPFPE(フルオロポリエーテル基)を具体化した−(CF(CF3)CF2O)−基を繰り返し単位とする実施例1〜6のPFPE含有シラン化合物(B)、(D)、(F)、(G)、(H)、(I)を含む表面処理剤(本cの【0386】〜【0397】、【0399】)と、分岐構造を有しないPFPEを具体化した−(CF2CF2CF2O)−基(対象化合物1)、−(CF2CF2O)−基及び−(CF2O)−基(対象化合物2)を繰り返し単位とする比較例1〜2のPFPE含有シラン化合物を含む表面処理剤(本cの【0398】〜【0399】)の比較試験が行われているところ、耐UV性の評価結果(【表2】、【表3】)、表面滑り性の評価結果(【表4】)を見ると(本cの【0400】〜【0407】)、いずれも、実施例1〜6のPFPE含有シラン化合物による表面処理層の方が、比較例1〜2のPFPE含有シラン化合物による表面処理層よりも優れた実験結果が得られており、「実施例1〜6の表面処理剤を用いることにより、動摩擦係数の高い表面処理層、即ち、表面における滑り性の抑制された表面処理層が得られた。」(同【0408】)と説明されている。
以上の本件明細書の記載を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明には、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物が、滑り性の抑制された表面処理層を与えるのに対し、分岐構造を有しないPFPE含有シラン化合物は滑り性の抑制効果を与えないことが、実験結果に基づき裏付けられているので、本件発明1、10、14の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)で表されるPFPE含有シラン化合物より形成される表面処理層が、PFPEに分岐構造を有することにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できること、すなわち、上記の本件発明の課題を解決できることは当業者が推認し得たものと認められる。
なお、申立人は、特許異議申立書において、申立理由3(サポート要件違反)として、本件明細書の実施例において、式(A1)、(A2)、(B2)、(C2)の化合物についてはその作用効果が全く確認されていない、式(B1)(C1)の化合物ではPFPEについて広範に規定されているところ、その作用効果が確認あるいは立証されているのはごく狭い部分であるとし、訂正前の本件発明1、10、14は、その発明の作用効果が具体的に確認され、あるいは立証されている範囲に比して広すぎる、と主張する。
しかし、式(A1)、(A2)、(B2)、(C2)の化合物と式(B1)(C1)の化合物は、重要な化学構造を共有しているので、上記の本件発明の課題を解決できることを当業者が推認し得ると認められるし、本件訂正により、訂正前の本件発明1、10、14のPFPEが限定され、滑り性の抑制効果を与えないと解される、分岐構造を有しないPFPE含有シラン化合物が除かれたことから、本件発明1、10、14は、本件発明の作用効果が、確認あるいは立証されていると推認できる範囲に限定された。
よって、申立人の上記主張は、理由がない。
したがって、本件発明1、10、14は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が、上記(ア)で示した課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

(ウ)甲6の記載が本件発明1、10、14のサポート要件の判断
を左右するか
甲6の【0057】〜【0061】には、実施例1〜5に記載された分岐鎖を含むフルオロオキシアルキレン基を有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランにより形成された硬化被膜の動摩擦係数が、それぞれ、0.04、0.04、0.05、0.05、0.04であることが示されており、これらの数値は、本件明細書の【表4】に記載された実施例1〜6の動摩擦係数よりも一桁小さく、比較例1、2とほぼ同じレベルの動摩擦係数であることが理解できる(本cの【0407】)。
しかし、甲6の実施例1〜5に記載されたフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランは、下記のとおり、分岐鎖のフルオロオキシプロピレン基に加え、相当程度の割合で直鎖のフルオロオキシエチレン基を含むものであるから、PFPEが「式:−(OC3F6)d−で表され;上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数」である構造を分子中に含む本件発明1、10、14の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)で表されるPFPE含有シラン化合物とは、化学構造が大きく異なるものである。







したがって、甲6の実施例1〜5に記載されたフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー変性シランの動摩擦係数が低い数値であったとしても、本件発明1、10、14の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)で表されるPFPE含有シラン化合物に、動摩擦係数が低い化合物が含まれることは直ちに推認できないので、甲6の上記記載が、上記(イ)で示した本件発明1、10、14のサポート要件の判断を左右するものとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件発明1、10、14及びこれらを直接又は間接的に引用する本件発明2〜4、6〜9、11〜13、15〜17、19〜22は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められるので、取消理由通知書に記載した取消理由1及び4(いずれもサポート要件違反)は理由がない。

(2)取消理由5(明確性要件違反)
本件訂正により、本件発明1、10に記載されたPFPEが、「式:−(OC3F6)d−で表され;上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数」である構造のものに統一されたため、本件発明13に記載されているPFPEが、その下位概念の構造に当たる「−(OCF2CF(CF3))d−(式中、dは1以上200以下の整数)で表される基」であることが明確となり、本件発明1、10の記載と本件発明13の記載が技術的に整合するものとなった。
したがって、本件発明13は明確であり、本件発明13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているため、取消理由通知書に記載した取消理由5(明確性要件違反)は理由がない。

(3)取消理由2(新規性の欠如)及び取消理由3(進歩性の欠如)
の検討
ア.甲1を主引例とした新規性進歩性の検討
(ア)甲1に記載された事項
甲1a
「(A)下記式(1)又は(2)で表される含フッ素有機ケイ素化合物の少なくとも一種
Rf1−QZ1Aα (1)
AαZ1Q−Rf2−(Q−Z2−Q−Rf2)x−QZ1Aα (2)
[式中、Rf1はパーフルオロアルキル基、またはパーフルオロオキシアルキル基、Rf2はパーフルオロオキシアルキレン基、
Z1は単結合又はケイ素原子1〜15個を含む2〜9価の有機基、Z2はケイ素原子2〜100個を含む2価のポリオルガノシロキシレン基であり、
Qは酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の、2〜9価の基であり、但し式(2)において、互いに異なっていてもよく、
αは1〜8の整数、xは0〜5の整数であり、及び、Aは下記一般式で示される基である
CbH2bSiR3−aXa
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは0〜6の整数である)]、及び
(B)数平均分子量が100〜10,000の、分子重量の25重量%以上のフッ素原子を含む含フッ素カルボン酸を、前記(A)成分100質量部に対して、0.001〜10質量部で、
含有することを特徴とするコーティング剤組成物。」

甲1b
「【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間で硬化し、撥水性、撥油性、汚れ防止性に優れた硬化皮膜を得ることができ、種々の基材表面に防汚性を付与するコーティング剤組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
メガネレンズ、サングラス、携帯電話、電子手帳、音楽プレーヤーなどの携帯用電子機器、及び液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子の表面、またはCD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)などの光記録媒体、窓ガラス、などは指紋、皮脂、汗、化粧品、食品等の汚れの付着を防ぐために防汚コーティングが施されていることが多い。…
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、簡易な工程で、速やかに硬化被膜を形成することができるコーティング剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記要望に応えるべく検討した結果、硬化触媒として所定のカルボン酸を使用することによって、上記目的を達成できることを見出した。」

甲1c
「【0054】
[実施例及び比較例]
表1に示す含フッ素有機ケイ素化合物及びカルボン酸を、同表に示す濃度で、Novec HFE−7200(住友3M社製、フッ素系溶媒)中で混合して溶解し、コーティング剤溶液を調製した。試験片としてスライドガラスをこの溶液に浸漬したのち、引き上げて25℃、相対湿度50%の室内に放置した。コーティング剤を塗布してから30分後にスライドグラス表面の水の接触角を、接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて、滑落法により測定した。結果を表1に示す。
【0055】
表1中のA−1〜A−7は以下の含フッ素有機ケイ素化合物である。
(A−1)
【0056】
【化19】


(A−7)
【0068】
【化31】


(B−2)
【0072】
【化34】


(B−4)
【0074】
【化36】


【0077】
【表1】

表1から分かるように、B−1、B−2、B−3、B−4を硬化触媒として用いた場合は、水の接触角が高い硬化膜が得られ、コーティング剤塗布後30分の放置にて十分に硬化したことが分かる。しかしB−5、B−6の場合は、水の接触角が低いことから分かるように、30分では十分に硬化しなかった。」

(イ)甲1に記載された発明
甲1の記載事項のうち、特に実施例1、9のコーティング剤溶液を硬化して得られる硬化膜(塗布層)(甲1c)に着目すると、甲1には、それぞれ、以下の発明が記載されていると認められる。

「含フッ素有機ケイ素化合物(A−1)及びカルボン酸(B−2)を、それぞれ0.3%、30ppmの濃度で、Novec HFE−7200(住友3M社製、フッ素系溶媒)中で混合して溶解し、コーティング剤溶液を調製し、試験片としてスライドガラスをこの溶液に浸漬したのち、引き上げて25℃、相対湿度50%の室内に放置して得られた、コーティング剤の塗布層」(以下、「甲1発明1」という。)

「含フッ素有機ケイ素化合物(A−7)及びカルボン酸(B−4)を、それぞれ0.3%、100ppmの濃度で、Novec HFE−7200(住友3M社製、フッ素系溶媒)中で混合して溶解し、コーティング剤溶液を調製し、試験片としてスライドガラスをこの溶液に浸漬したのち、引き上げて25℃、相対湿度50%の室内に放置して得られた、コーティング剤の塗布層」(以下、「甲1発明2」という。)

(ウ)本件発明1と甲1発明1との対比、検討
甲1発明1の「含フッ素有機ケイ素化合物(A−1)」の左端の「PFPE1−」は−(CF(CF3)CF2O)−基という分岐構造の繰り返し単位OC3F6を含むものであるから、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」における「Rf−PFPE−」、「β’=1」に相当する。
甲1発明1の「含フッ素有機ケイ素化合物(A−1)」の右端の「−Si(OSi(CH3)2C2H4Si(OCH3)3)3」は、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」における、上記化合物の「β=1」「k1」が3、「l1」および「m1」が0、「Ra」が「−Z3−SiR71p1R72q1R73r1」であって、この中の「Z3」が「−CH2CH2−」である2価の有機基、「R72」が加水分解可能な基、「q1」が3、「p1」及び「r1」が0である「SiRak1Rbl1Rcm1」に相当する。
甲1発明1の「含フッ素有機ケイ素化合物(A−1)」の上記両端を結ぶ構造である「−CH2−O−C3H6−Si(CH3)2−O−」と、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」におけるX3は、2価の基である限りにおいて一致している。
また、甲1発明1における「コーティング剤の塗布層」は、本件発明1における「表面処理層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明1は、
「少なくとも表面の一部に、「(Rf−PFPE−)β’」及び「(SiRak1Rbl1Rcm1)β」(いずれの式も式中の記号の説明は省略する。)が2価の基で結合したフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
上記部分構造を連結する2価の基として、
本件発明1では、
X3として示される「−(R31)p’−(Xa)q’−」
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]を採用しているのに対して、
甲1発明1では、「−CH2−O−C3H6−Si(CH3)2−O−」を採用している点

<相違点2>
表面処理層を有する基材として、本件発明1では、「電子機器」を採用しているのに対して、甲1発明1は、基材を特定していない点

相違点1について検討する。
本件発明1の「式(B1)で表される化合物」の二価の基であるX3は、Si原子を含まないものであるから、甲1発明1の「−CH2−O−C3H6−Si(CH3)2−O−」を含まないことは明らかである。
そして、甲1には、「含フッ素有機ケイ素化合物」として、(A−1)以外に、(A−2)〜(A−7)が具体例として挙げられ、これらは「PFPE1−」と加水分解性シリル基(Si(OCH3)3)を含む点では構造上の共通点を有するものの、その余の化学構造は大きく異なっているので、(A−2)〜(A−7)の構造より、甲1発明1の特に「−CH2−O−C3H6−Si(CH3)2−O−」の構造だけに着目して、Si原子を含まない2価の基に改変することを、当業者が動機付けられるとはいえない。
また、甲1の特許請求の範囲を見ても、二価の基に対応するZ1、Qとして、「Z1は単結合又はケイ素原子1〜15個を含む2〜9価の有機基」、「Qは酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の、2〜9価の基」という広範な定義が示されるに止まるから、甲1発明1の特に「−CH2−O−C3H6−Si(CH3)2−O−」の構造だけに着目して、Si原子を含まない2価の基に改変することを、当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
更に、本件明細書の発明の詳細な説明によると、本件発明1は、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物を用いることにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できるという効果を奏するものであるが(1(1)ウ(イ))、甲1には、かかる効果について記載も示唆もされていない。
そうすると、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件発明1と甲1発明2との対比、検討
甲1発明2の「含フッ素有機ケイ素化合物(A−7)」の左端にある「PFPE1」は、その左末端に「F−CF(CF3)−CF2」を有し、「CF(CF3)−CF2O」単位という分岐構造の繰り返し単位OC3F6を平均24個有するパーフルオロオキシアルキレン基であるから、本件発明1の式(A1)で表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の「α’」が1である「Rf−PFPE)α’」に相当する。
甲1発明2の「含フッ素有機ケイ素化合物(A−7)」の下に向いている「Si(OCH3)3」は、本件発明1の式(A1)で表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の「X2」が単結合、「n」が3、「R13」が加水分解可能な基である「−X2−SiR13nR143−n」に相当する。
そして、甲1発明2の含フッ素有機ケイ素化合物の「PFPE1」と「Si(OCH3)3」を結合する「−CH2−CH−(CH2−CH)a−(a=1.4(平均値))」と、本件発明1の上記化合物の「Rf−PFPE)α’」及び「−X2−SiR13nR143−n」を除いた構造は、2価の基である限りにおいて一致している。
また、甲1発明2における「コーティング剤の塗布層」は、本件発明1における「表面処理層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明2は、
「少なくとも表面の一部に、「Rf−PFPE)α’」及び「−X2−SiR13nR143−n」(いずれの式も式中の記号の説明は省略する。)が2価の基で結合したフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点3>
上記構造を連結する二価の基として、
本件発明1では、
「−X1−((CH2C(R12))t−R11)α」(X1は2〜10価の有機基、αは1〜9の整数、R11は水素原子またはハロゲン原子、R12は水素原子または低級アルキル基、tは2〜10の整数)を採用しているのに対して、
甲1発明2では、「−CH2−CH−(CH2−CH)a−(a=1.4(平均値))」を採用している点

<相違点4>
表面処理層を有する基材として、本件発明1では、「電子機器」を採用しているのに対して、甲1発明2では、基材を特定していない点

相違点3について検討する。
甲1発明2は、「−CH2−CH−(CH2−CH)a−(a=1.4(平均値))」の各々の「CH」に「Si(OCH3)3」が結合したものであるため、甲1発明2は、「PFPE1」と「−CH2−CH−(CH2−CH)a−(a=1.4(平均値))」が直接結合しており、本件発明1の「2〜10価の有機基」である「X1」に相当する構造を含まないものと認められる。
そして、甲1の(A−1)〜(A−6)の構造又は甲1の特許請求の範囲より、甲1発明2の特に「−CH2−CH−(CH2−CH)a−(a=1.4(平均値))」の構造だけに着目して、本件発明1の「−X1−((CH2C(R12))t−R11)α」で定義される2価の基に改変することを、当業者が容易に動機付けられるとはいえないことは、甲1発明1の場合と同様である。
更に、本件明細書の発明の詳細な説明によると、本件発明1は、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物を用いることにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できるという効果を奏するものであるが(1(1)ウ(イ))、甲1には、かかる効果について記載も示唆もされていない。
そうすると、相違点3として挙げた本件発明の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明2に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)申立人の主張
申立人は、令和3年6月17日付けの意見書において、甲1化合物(A−1)において、PFPE部分と加水分解性基との連結部分−QZ1−について単なるリンカーとして、甲1の段落「0025]〜[0028]に例示されるようなシロキサン結合を含まない2価の基を採用することは容易である」と主張する。
しかし、上記の(ウ)で示したように、甲1の特許請求の範囲には、二価の基に対応するQ、Z1として、「Z1は単結合又はケイ素原子1〜15個を含む2〜9価の有機基」、「Qは酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の、2〜9価の基」という広範な定義が示されており、それらを具体化した(A−1)〜(A−7)を見ても、二価の基の化学構造は各々で大きく異なっているから、甲1発明1の特に「−CH2−O−C3H6−Si(CH3)2−O−」の構造だけに着目して、Si原子を含まない2価の基に改変することを、当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
しかも、本件発明1は、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物を用いることにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できるという効果を奏するものであるところ(1(1)ウ(イ))、甲1には、かかる効果について記載も示唆もされていない。
そうすると、申立人の上記主張は理由がなく、いずれにしても、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが当業者に容易であったとは認められない。

(カ)甲1を主引例とした新規性進歩性の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1及び甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明10、14と甲1発明1及び甲1発明2は、上記(ウ)(エ)で述べた本件発明1と同じ相違点1〜4を有するので、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明1、10、14を直接又は間接的に引用する本件発明2〜4、6〜9、11〜13、15〜17、19〜22についても、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.甲2を主引例とした新規性進歩性の検討
(ア)甲2に記載された事項
甲2a
「【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有オルガノポリシロキサンに関し、詳細には、基材との密着性に優れ、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成するフッ素含有オルガノポリシロキサン及びそれを含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーフロロポリエーテル基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、興行的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。

【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明は、基材によく密着し、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成する化合物及びそれを含む表面処理剤を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】
【0023】
発明者は、下記一般式で示されるポリシロキサン骨格に、フッ素含有基及び加水分解性基を備えたオルガノポリシロキサンが、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成することを見出した。」

甲2b
「【0058】 実施例1

以上の結果から、得られた化合物の構造式は
【0065】
【化17】

であることがわかった。

【0092】
表面処理剤の調製
化合物1〜6の各々を、0.1wt%濃度になるように、エチルパーフロロブチルエーテル(HFE7200、住友3M社製)に溶解して、表面処理剤1〜6を調製した。反射防止フイルム(8×15×0.2cm、Southwall Technologies社製)を処理剤に10秒間浸漬後150mm/分の速度で引き上げ、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間放置し、硬化皮膜を形成させた。

【0096】
【表1】

【0097】
実施例の化合物を夫々含む表面処理剤で処理された紙は、比較例の化合物を含む表面処理剤で処理された紙に比較して顕著に耐擦傷性が優れる。また、撥水撥油性についても、比較例に劣らない。」

(イ)甲2に記載された発明
甲2の記載事項のうち、特に、実施例1、【0092】及び【0096】(甲2b)に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「化合物1を、0.1wt%濃度になるように、エチルパーフロロブチルエーテル(HFE7200、住友3M社製)に溶解して、表面処理剤1を調製し、反射防止フイルム(8×15×0.2cm、Southwall Technologies社製)を処理剤に10秒間浸漬後150mm/分の速度で引き上げ、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間放置して形成させた、硬化皮膜」(以下、「甲2発明」という。)

(ウ)本件発明1と甲2発明との対比、検討
甲2発明の化合物1の左端の「Rf」は、−(CF(CF3)CF2O)−基という分岐構造の繰り返し単位OC3F6を含むものであるから、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」における「Rf−PFPE−」、「β’=1」に相当する。
甲2発明の化合物1の右端の「−Si(OSi(Me)2C2H4Si(OMe)3)3」は、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」における、上記化合物の「β=1」「k1」が3、「l1」および「m1」が0、「Ra」が「−Z3−SiR71p1R72q1R73r1」であって、この中の「Z3」が「−CH2CH2−」である2価の有機基、「R72」が加水分解可能な基、「q1」が3、「p1」及び「r1」が0である「SiRak1Rbl1Rcm1」に相当する。
甲2発明の化合物1の上記両端を結ぶ構造である「−CH2−O−C3H6−Si(Me)2−O−」と、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」におけるX3は、2価の基である限りにおいて一致している。
また、甲2発明における「硬化皮膜」は、本件発明1における「表面処理層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「少なくとも表面の一部に、「(Rf−PFPE−)β’」及び「(SiRak1Rbl1Rcm1)β」(いずれの式も式中の記号の説明は省略する。)が2価の基で結合したフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点5>
上記部分構造を連結する二価の基として、
本件発明1では、
X3として示される「−(R31)p’−(Xa)q’−」
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]を採用しているのに対して、
甲2発明では、「−CH2−O−C3H6−Si(Me)2−O−」を採用している点

<相違点6>
表面処理層を有する基材として、本件発明1では、「電子機器」を採用しているのに対して、甲2発明では、基材を特定していない点

相違点5について検討する。
本件発明1の「式(B1)で表される化合物」の2価の基であるX3は、Si原子を含まないものなので、甲1発明1の「−CH2−O−C3H6−Si(Me)2−O−」を含まないことは明らかである。
また、甲2には、甲2発明の特に「−CH2−O−C3H6−Si(Me)2−O−」の構造だけに着目して、Si原子を含まない2価の基に改変することを、当業者に動機付けるような記載や示唆は何ら見当たらない。
更に、本件明細書の発明の詳細な説明によると、本件発明1は、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物を用いることにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できるという効果を奏するものであるが(1(1)ウ(イ))、甲2には、かかる効果について記載も示唆もされていない。
したがって、相違点5として挙げた本件発明の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)甲2を主引例とした新規性進歩性の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明10、14と甲2発明は、上記(ウ)で述べた本件発明1と同じ相違点5〜6を有するから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明1、10、14を直接又は間接的に引用する本件発明2〜4、6〜9、11〜13、15〜17、19〜22についても、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.甲3を主引例とした新規性進歩性の検討
(ア)甲3に記載された事項
甲3a
「【請求項1】下記一般式(1):
F(CxF2xO)mCyF2y−Q−Z (1)
〔式中、Qは2価の有機基であり、Zは下記一般式(2):
【化1】

(式中、Aは加水分解性基であり、R1及びR2は独立に1価の有機基であり、a及びbはそれぞれ2又は3の整数である。)で表わされる1価の基であり、mは6〜50の整数であり、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。〕で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン。

【請求項4】一般式(1)におけるQが、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有していてもよい置換又は非置換の2価炭化水素基である請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン及びその加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する表面処理剤。
【請求項6】請求項5に記載の表面処理剤から得られる硬化被膜。」

甲3b
「【0002】
【従来の技術】一般にパーフルオロポリエーテル基含有化合物は、その表面エネルギーが非常に小さいので、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性等の性質を有する。その性質を利用して、工業的には紙や繊維等の撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜等幅広く利用されている。

【0015】
【発明が解決しようとする課題】このような状況に鑑み、本発明の課題は、被膜形成性が良好で、同時に撥水撥油性、離型性、防汚性等がより優れた硬化被膜を形成することができるパーフルオロポリエーテル変性シラン及びそれを利用する表面処理剤を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記要望に応えるため鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)で示される新規なパーフルオロポリエーテル変性シランにより上記課題を解決することができることを見出し、本発明をなすに至った。」

甲3c
「【0024】上記式中、Qは2価の有機基であり、特には、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及び硫黄原子から選ばれる1種又は2種以上を含有していてもよい置換又は非置換の2価炭化水素基である。この2価炭化水素基としては炭素原子数2〜20のものが好ましい。

【0026】このように酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子を含有している場合の2価炭化水素基の具体例としては、下記のものが挙げられる。なお、下記式でMeはメチル基、Phはフェニル基である。−CH2CH2OCH2CH2CH2− 、−CH2OCH2CH2CH2−、−CH2CH2SCH2CH2CH2− …
【0027】
【化8】



甲3d
「【0053】実施例1

以上の結果から、得られた化合物の構造式は
【0056】
【化16】

であることがわかった。
【0057】[パーフルオロポリエーテル変性シランの評価]前記のようにして合成したパーフルオロポリエーテル変性シラン3.0gをノナフロロブチルエチルエーテル(商品名HFE−7200:3M社製)97.0gに溶解し、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に刷毛塗りで塗布した。25℃、湿度70%の雰囲気下で1時間放置し、硬化被膜を形成させた。この試料片を用いて、下記(1)〜(3)の評価を行った。

【0072】
【表1】

【0073】実施例1及び実施例2のパーフルオロポリエーテル変性シランは、加水分解性(被膜形成性)に優れており、得られる硬化被膜は、いずれも従来品(比較例2)と同等もしくはそれ以上の撥水撥油性及び離型性を有し、かつ、耐久性に優れている。また、比較例1では、実施例と比べて撥水撥油性、離型性に劣っており実用に供し得ない。したがって、実施例1及び実施例2のパーフルオロポリエーテル変性シランは、表面処理剤として有効に利用可能である。」

(イ)甲3に記載された発明
甲3の記載事項のうち、特に、実施例1(甲3b)に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。

「【化16】で示されるパーフルオロポリエーテル変性シラン3.0gをノナフロロブチルエチルエーテル(商品名HFE−7200:3M社製)97.0gに溶解し、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に刷毛塗りで塗布し、25℃、湿度70%の雰囲気下で1時間放置して形成させた、硬化被膜」(以下、「甲3発明」という。)

(ウ)本件発明1と甲3発明との対比、検討
甲3発明のパーフルオロポリエーテル変性シランの左端の「F(C(CF3)FCF2O)24−」は、左末端に「F(C(CF3)FCF2」を有し、「−(C(CF3)FCF2O−」、すなわち「−OCF2C(CF3)F−」という分岐構造の繰り返し単位OC3F6を含むものであるから、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」における「Rf−PFPE−」、「β’=1」に相当する。
甲3発明のパーフルオロポリエーテル変性シランの右末端にある「Si[CH2CH2Si(OCH3)3]3」(当審注:(OCH3)が1つであることは構造上あり得ないので添字の3が漏れていると判断した。)は、本件発明1の上記化合物の「k1」が3、「l1」および「m1」が0、「Ra」が「−Z3−SiR71p1R72q1R73r1」であって、この中の「Z3」が「−CH2CH2−」である2価の有機基、「R72」が加水分解可能な基、「q1」が3、「p1」及び「r1」が0である「SiRak1Rbl1Rcm1」に相当する。
甲3発明のパーフルオロポリエーテル変性シランにおける「F(C(CF3)FCF2O)24−」と「Si[CH2CH2Si(OCH3)3]3」を連結している構造と、本件発明1の「式(B1)で表される化合物」におけるX3は、2価の基である限りにおいて一致している。
甲3発明における「硬化皮膜」は、表面処理剤を硬化した皮膜であるから、本件発明1における「表面処理層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、
「少なくとも表面の一部に、「(Rf−PFPE−)β’」及び「(SiRak1Rbl1Rcm1)β」(いずれの式も式中の記号の説明は省略する。)が2価の基で結合したフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点7>
上記部分構造を連結する二価の基として、
本件発明1では、
X3として示される「−(R31)p’−(Xa)q’−」
[式中;
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基、を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]を採用しているのに対して、
甲3発明では、下記の構造を採用している点


<相違点8>
表面処理層を有する基材として、本件発明1では、「電子機器」を採用しているのに対して、甲3発明では、基材を特定していない点

相違点7について検討する。
本件発明1の「式(B1)で表される化合物」の2価の基であるX3は、Si原子を含まないものであるから、甲3発明の上記構造を含まないものであることは明らかである。
また、甲3には、実施例1、2の2つのパーフルオロポリエーテル変性シランが具体的に記載されているものの、それ以外のパーフルオロポリエーテル変性シランは、請求項1等に一般式(1)として包括的に記載されるに過ぎず(甲3a)、一般式(1)に含まれるQも、【0024】〜【0030】において多種多様な化学構造の二価の基が採用可能なものとして例示されるに止まるものである(甲3c)。
そうすると、甲3発明のフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物において、上記の相違点7に挙げた部分構造だけに着目し、Si原子を含まない2価の基に改変することを、当業者が動機付けられたとは認められない。
更に、本件明細書の発明の詳細な説明によると、本件発明1は、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物を用いることにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できるという効果を奏するものであるが(1(1)ウ(イ))、甲3には、かかる効果について記載も示唆もされていない。
したがって、相違点7として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)甲3を主引例とした新規性進歩性の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明10、14と甲3発明は、上記(ウ)で述べた本件発明1と同じ相違点7〜8を有するから、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明1、10、14を直接又は間接的に引用する本件発明2〜4、6〜9、11〜13、15〜17、19〜22についても、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ.甲4を主引例とした新規性進歩性の検討
(ア)甲4に記載された事項
甲4a
「【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rfは1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基であり、Yは2〜6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Wは2〜6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、nは1〜3の整数であり、aは1〜5の整数であり、mは1〜5の整数であり、αは1又は2である。)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
【請求項2】
前記式(1)のαが1であり、Rf基が下記一般式(2)で表される基であることを特徴とする請求項1記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
【化2】

(式中、p、q、r、sはそれぞれ0〜200の整数で、p+q+r+s=3〜200であり、各繰り返し単位は直鎖状でも分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、dは1〜3の整数であり、該単位は直鎖状でも分岐状であってもよい。)」

甲4b
「【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランに関し、詳細には、撥水撥油性、耐摩耗性に優れた被膜を形成するフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン、及び該シラン及び/又はその部分(加水分解)縮合物を含む表面処理剤、並びに該表面処理剤で表面処理された物品に関する。

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、撥水撥油性、耐摩耗性に優れた硬化被膜を形成することができるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン、及び該シラン及び/又はその部分(加水分解)縮合物を含む表面処理剤、並びに該表面処理剤で表面処理された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意検討した結果、上記フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランにおいて、後述する一般式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランを用いることにより、該シラン及び/又はその部分(加水分解)縮合物を含む表面処理剤が、撥水撥油性、耐摩耗性に優れた硬化被膜を形成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。」

甲4c
「【0131】
[実施例5]

【0134】
得られた化合物は、NMRにより下記式(Z)で表される構造であることが確認された。
【化71】


【0144】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
実施例1〜6で得られたフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン及び比較例1〜3のポリマーを、濃度0.1質量%になるようにNovec 7200(3M社製、エチルパーフルオロブチルエーテル)に溶解させて表面処理剤を調製した。ガラス(コーニング社製 GorillaIII)に、各表面処理剤を8.5×10−3g/m2の塗工量でスプレー塗工し(処理条件は、運転速度:360mm/秒、送りピッチ:12mm)、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間硬化させて膜厚8nmの硬化被膜を形成した。

【0147】
【表1】



(イ)甲4に記載された発明
甲4の記載のうち、特に、実施例5及び【0144】に着目すると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。

「実施例5で得られた式(Z)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランを、濃度0.1質量%になるようにNovec 7200(3M社製、エチルパーフルオロブチルエーテル)に溶解させて表面処理剤を調製し、ガラス(コーニング社製 GorillaIII)に、表面処理剤を8.5×10-3g/m2の塗工量でスプレー塗工し(処理条件は、運転速度:360mm/秒、送りピッチ:12mm)、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間硬化させて形成した、膜厚8nmの硬化被膜」(以下、「甲4発明」という。)

(ウ)本件発明1と甲4発明との対比、検討
甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランの左端の「CF3O−(CF2O)p1−(C2F4O)q1−CF2CF2−(C(CF3)FCF2O)3.9−C(CF3)F−(p1:q1=47:53、p1+q1≒43)」における「C(CF3)FCF2O」は、本件発明1の「式(C1)で表される化合物」における「分岐構造」を有する「繰り返し単位OC3F6」に相当するから、甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランと本件発明1の「式(C1)で表される化合物」は、左端に「分岐構造」を有する「繰り返し単位OC3F6」を含む限りにおいて一致する。
甲4発明の右端の「−C(O−CH2CH2CH2−Si(OCH3)3)(CH2CH2CH2−Si(OCH3)3)2」は、本件発明1の「式(C1)で表される化合物」の「γ」が1、「l2」が3、「k2」および「m2」が0、「Re」が「−Y−SiR85n2R863−n2」であって、この中の「Y」が「−CH2CH2CH2−」である2価の有機基、「R85」が加水分解可能な基、「n2」が3である「CRdk2Rel2Rfm2」に相当する。
本件発明1の「式(C1)で表される化合物」における「X5」は単結合等が可能であるから、甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランの左端及び右端を除く構造と本件発明1の「式(C1)で表される化合物」の「X5」で相違点は存しない。
また、甲4発明における「硬化被膜」は、表面処理剤を硬化した皮膜であるから、本件発明1における「表面処理層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明は、
「少なくとも表面の一部に、「分岐構造」を有する「繰り返し単位OC3F6」が「X5−(CRdk2Rel2Rfm2)γ」(いずれの式も式中の記号の説明は省略する。)に結合したフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点9>
本件発明1の「式(C1)で表される化合物」では、左端の構造が、
「PFPE」(フルオロ(ポリ)エーテル基)であり、「式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数」であるのに対して、
甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランでは、左端の構造が、
「CF3O−(CF2O)p1−(C2F4O)q1−CF2CF2−(C(CF3)FCF2O)3.9−C(CF3)F−(p1:q1=47:53、p1+q1≒43)」である点

<相違点10>
表面処理層を有する基材として、本件発明1では、「電子機器」を採用しているのに対して、甲4発明では、基材を特定していない点

相違点9について検討する。
本件発明1の「式(C1)で表される化合物」における「PFPE」(フルオロ(ポリ)エーテル基)は、「−(OC3F6)−」以外のフルオロ(ポリ)エーテル基を有さないところ、甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、「C(CF3)FCF2O」以外に「CF2O」、「C2F4O」を含むものであるから、両化合物は左端の構造において大きく相違するものである。
また、甲4には、実施例5以外のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは例示されているものの、「C(CF3)FCF2O」のみをフルオロポリエーテル基とする変性シランの例示は見当たらないし、「C(CF3)FCF2O」を有さない変性シランも多数散見されるから、甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランにおいて、上記の相違点9に挙げた部分構造だけに着目し、「CF2O」、「C2F4O」を含まないフルオロポリエーテル基に改変することを、当業者が動機付けられるとは認められない。
更に、本件明細書の発明の詳細な説明によると、本件発明1は、分岐構造を有するPFPE含有シラン化合物を用いることにより、電子機器の表面における滑り性を抑制できるという効果を奏するものであるが(1(1)ウ(イ))、甲4には、かかる効果について記載も示唆もされていない。
そうすると、相違点9として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められないので、相違点10について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)申立人の主張
申立人は、令和3年11月5日提出の意見書において、「甲第4号証の実施例に開示の化合物について、甲第7号証に示された適度なすべり性に調整する目的で、式中の「−(CF2O)p1−(C2F4O)q1−構造」を例えば甲第5、6号証においてより動摩擦係数が高いことが示されている−(CF(CF3)CF2O)24−のような分岐構造のPFPEに置き換えることによって本件特許発明の式(C1)の化合物とすることは当業者には極めて容易である」と主張する。
ここで、甲5の【0011】には、「−(OC2F4)e(OCF2)fO−を主鎖構造とするフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは動摩擦係数が低い」こと、【0085】には、「分岐型のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを有する表面処理剤から形成された比較例8及び9の硬化被膜は動摩擦係数が非常に高く、かつ耐摩耗性に劣る。これに対し、実施例1〜6の表面処理剤は、撥水撥油性に優れ、動摩擦係数が小さく、且つ耐摩耗性に優れており、特に耐擦傷性に優れ、多数回スチールウールで擦っても膜の特性をほぼ維持することができる」ことの記載があり、甲6の【0064】には、「また、末端基に分岐鎖パーフルオロポリエーテルを有する比較例2は耐熱性を有するものの滑り性に劣る」ことの記載がある。
しかし、甲5の比較例8及び9の化合物、並びに甲6の比較例2の化合物と、甲4の実施例5におけるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランとは、化学構造を大きく異にするものである。
また、甲5によると、分岐構造を有するフルオロオキシアルキレン基(パーフルオロポリエーテル基)は、動摩擦係数が高く、滑り性に劣るという欠点に加え、耐摩耗性に劣るという欠点も備えたものであることが開示されている。
そうすると、甲4〜6の記載に接した当業者が、「耐摩耗性に優れた硬化被膜」の形成を発明の課題としている(甲4bの【0008】)甲4発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランにおいて、甲5、6に示されるような甲4発明の前記シランとは化学構造を大きく異にする化合物の部分構造に着目し、耐摩耗性を劣化させるような「分岐構造」を導入することを容易に想到し得るとは認められない。
そうすると、申立人の上記主張は理由がなく、甲5、6の記載を勘案しても、相違点9として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することが、当業者に容易であったとは認められない

(オ)甲4を主引例とした新規性進歩性の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲4発明、すなわち甲4に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明10、14と甲4発明は、上記(ウ)で述べた本件発明1と同じ相違点9〜10を有するから、本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明1、10、14を直接又は間接的に引用する本件発明2〜4、6〜9、11〜13、15〜17、19〜22についても、本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明ではなく、また、この発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)当審で通知した取消理由の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜4、6〜17、19〜22に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1〜5により取り消すことはできない。

2.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討
申立人の申立理由のうち申立理由1(新規性の欠如)、申立理由2(進歩性の欠如)、申立理由3(サポート要件違反)は、当審が取消理由通知書で通知した取消理由2(新規性の欠如)、取消理由3(進歩性の欠如)、取消理由1及び取消理由4(いずれもサポート要件違反)に対応するものである。
また、申立理由4(明確性要件違反)は、甲6の記載によると、訂正前の本件発明1、10、14には、訂正前の本件発明の作用効果を奏さない化合物が含まれている、或いは、含まれている蓋然性が高いということを理由とするものであるが、かかる理由は、取消理由通知書の取消理由1(サポート要件違反)において採用されているところであり、上記の1(1)ウ(ウ)において実質的な判断が示されている。
そうすると、取消理由通知書で採用しなかった申立理由は存しない。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。
本件特許の請求項5、18、23、24に対する各特許異議の申立ては、不適法なものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
本件特許の請求項1〜4、6〜17、19〜22に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4、6〜17、19〜22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面の一部に、以下の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)または(C2):

[式中:
式(A1)および(A2)において、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
式(B1)、(B2)、(C1)および(C2)において、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素原子数1〜16のアルキル基を表し;
X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;
αは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
nは、(−SiR13nR143−n)単位毎に独立して、0〜3以上の整数を表し;
ただし、式(A1)、および(A2)において、少なくとも1つのnが、1〜3の整数であり;
X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式:
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中:
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数であり、
Xaは、−(Xb)1’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
1’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である] で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;
Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し;
Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、0であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり;
Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、3であり;
l1およびm1は、0であり;
X5は、下記式:
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中:
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
s’は、1〜20の整数であり;
Xaは、−(Xb)1’−を表し;
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−Si(R33)2−、−(Si(R33)2O)m’−Si(R33)2−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し;
R33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表し;
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり;
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり;
m’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜100の整数であり;
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり;
l’は、1〜10の整数であり;
p’は、0または1であり;
q’は、0または1であり;
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]
で表される2価の基を表し;
γおよびγ’は、1であり;
Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し;
Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し;
Rd’は、Rdと同意義であり;
Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎に独立して、1〜3の整数を表し;
R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり;
Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
k2は、0であり;
l2は、3であり;
m2は、0であり;
ただし、(CRdk2Re12Rfm2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が少なくとも1存在する。]
のいずれかで表されるフルオ口(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層を有する、電子機器。
【請求項2】
式(A1)および(A2)において、SiR13が少なくとも2存在する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
式(B1)および(B2)において、水酸基または加水分解可能な基に結合したSiが少なくとも2存在する、請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が2以上存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
R83およびRfが、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項7】
前記電子機器が、充電式の電池により駆動し得る機器である、請求項1〜4および6のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項8】
前記電子機器が、携帯電話、またはスマートフォンである、請求項1〜4、6および7のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項9】
第1の主面と、該第1の主面に対向する第2の主面とを有し、
前記第2の主面上に、前記表面処理層を有する、請求項7または8に記載の電子機器。
【請求項10】
少なくとも表面の一部に、以下の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)または(C2):

[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素原子数1〜16のアルキル基を表し;
X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;
αは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
nは、(−SiR13nR143−n)単位毎に独立して、0〜3以上の整数を表し;
ただし、式(A1)、および(A2)において、少なくとも1つのnが、1〜3の整数であり;
X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式:
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中:
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−
(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数であり、
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;
Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し;
Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
Ra’は、Raと同意義であり;
Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり;
Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(SiRak1Rbl1Rcm1)毎において、k1、l1およびm1の和は3であり、式(B1)および(B2)において、少なくとも1のq1が1〜3の整数であり;
X5は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し;
Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し;
Rd’は、Rdと同意義であり;
Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎に独立して、0〜3の整数を表し;
R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり;
Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が少なくとも1存在する。]
のいずれかで表されるフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層を有する電子機器であり、
前記電子機器が、充電台である、電子機器。
【請求項11】
表面処理層を有する表面における水の接触角が、100度以上であり、および、動摩擦係数が0.1〜0.5の範囲にある、請求項1〜4および6〜10のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項12】
前記水の接触角が、110度以上であり、および、動摩擦係数が0.15〜0.35の範囲にある、請求項11に記載の電子機器。
【請求項13】
PFPEが、−(OCF2CF(CF3))d−(式中、dは1以上200以下の整数)で表される基である、請求項1〜4および6〜12のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項14】
電子機器と充電台とを有するセット機器であって、
前記電子機器および前記充電台の少なくとも1が、少なくとも表面の一部に、以下の式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)または(C2):
【化3】

[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC3F6)d−で表され;
上記式の繰り返し単位OC3F6が、少なくとも1つの分岐構造を有し、dが、1以上200以下の整数であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素原子数1〜16のアルキル基を表し;
X1は、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10価の有機基を表し;
αは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
nは、(−SiR13nR143−n)単位毎に独立して、0〜3以上の整数を表し;
ただし、式(A1)、および(A2)において、少なくとも1つのnが、1〜3の整数であり;
X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または下記式:
−(R31)p’−(Xa)q’−
[式中:
R31は、単結合、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい−(CH2)s’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、
s’は、1〜20の整数であり、
Xaは、−(Xb)l’−を表し、
Xbは、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−(OR35)n4−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CON(R34)−、−O−CON(R34)−、−N(R34)−および−(CH2)n’−からなる群から選択される基を表し、
R34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し、
R35は、各出現においてそれぞれ独立して、C1−6のアルキレン基であり、
n4は、各出現において、それぞれ独立して、1〜5の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数であり、
l’は、1〜10の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である]で表される2価の基を表し;
βは、1であり;
β’は、1であり;
Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し;
Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し:
Ra’は、Raと同意義であり;
Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり;
Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(SiRak1Rbl1Rcm1)毎において、k1、l1およびm1の和は3であり、式(B1)および(B2)において、少なくとも1のq1が1〜3の整数であり;
X5は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し;
Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し;
Rd’は、Rdと同意義であり;
Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎に独立して、0〜3の整数を表し;
R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり;
Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し;
k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が少なくとも1存在する。]
のいずれかで表されるフルオ口(ポリ)エーテル基含有シラン化合物より形成される表面処理層を有する、セット機器。
【請求項15】
式(A1)および(A2)において、SiR13が少なくとも2存在する、請求項14に記載のセット機器。
【請求項16】
式(B1)および(B2)において、水酸基または加水分解可能な基に結合したSiが少なくとも2存在する、請求項14または15に記載のセット機器。
【請求項17】
式(C1)および(C2)において−Y−SiR85で表される基が2以上存在する、請求項14〜16のいずれか1項に記載のセット機器。
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
R83およびRfが、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基である、請求項14〜17のいずれか1項に記載のセット機器。
【請求項20】
前記電子機器が、第1の主面と、該第1の主面に対向する第2の主面とを有し、
前記充電台が、充電時に前記電子機器を配置する面を有し、
電子機器の前記第2の主面は、前記電子機器の充電時に、前記充電台の面と接触する面であり、
前記電子機器の第1の主面および第2の主面、および、前記充電台の面の少なくとも1つに、前記表面処理層が位置する、請求項14〜17および19のいずれか1項に記載のセット機器。
【請求項21】
前記電子機器の第2の主面、および、前記充電台の面の少なくとも1つに、前記表面処理層が位置する、請求項20に記載のセット機器。
【請求項22】
前記電子機器の第2の主面に、前記表面処理層が位置する、請求項21に記載のセット機器。
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-16 
出願番号 P2019-015684
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 杉江 渉
福井 悟
登録日 2020-04-06 
登録番号 6687139
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 電子機器  
代理人 吉田 環  
代理人 山田 卓二  
代理人 山田 卓二  
代理人 澤内 千絵  
代理人 吉田 環  
代理人 澤内 千絵  

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