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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
管理番号 1383265
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-03 
確定日 2022-01-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6703730号発明「光コヒーレンストモグラフィ装置、および光コヒーレンストモグラフィ制御プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6703730号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、6について訂正することを認める。 特許第6703730号の請求項1ないし4及び6に係る特許を維持する。 特許第6703730号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6703730号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成28年6月16日に出願され、令和2年5月13日にその特許権の設定登録がされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月3日に特許異議申立人 工藤望(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年3月25日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年6月29日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)を行い、申立人は、同年9月10日に意見書を提出したものである。

第2 訂正の適否についての判断

(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。下線は訂正箇所を示す。

ア 訂正事項1
請求項1の「前記走査手段を制御する走査制御手段」を、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
請求項1の「同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記第1のOCT信号群と同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段」を、「同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
請求項1の「前記第1の走査制御として、複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させる」を、「前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
請求項1の「走査制御手段と、」を、「更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段と、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

オ 訂正事項5
請求項1の「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理する」を、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理する」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

カ 訂正事項6
請求項3の「演算処理手段は、前記第3のモーションコントラストデータを得る際、第1のモーションコントラストデータと、第2のモーションコントラストデータとの間の位置ずれを、Aスキャン毎に補正する」を、「前記演算処理手段は、前記第3のモーションコントラストデータを得る際、前記第1のモーションコントラストデータと、前記第2のモーションコントラストデータとの間の深さ方向に関する位置ずれを、Aスキャン毎に補正する」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)。

キ 訂正事項7
請求項4の「前記第1のOCT信号群及び前記第2のOCT信号群と同一の走査位置」を、「前記第1のOCT信号群及び前記第2のOCT信号群と同一の走査ライン」に訂正する。

ク 訂正事項8
請求項5を削除する。

ケ 訂正事項9
請求項6の「前記走査手段を制御する走査制御ステップ」を、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御ステップ」に訂正する。

コ 訂正事項10
請求項6の「同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記第1のOCT信号群と同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御ステップ」を、「同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御ステップ」に訂正する。

サ 訂正事項11
請求項6の「前記第1の走査制御として、複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させる」を、「前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、」に訂正する。

シ 訂正事項12
請求項6の「走査制御ステップと、」を、「更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御ステップと、」に訂正する。

ス 訂正事項13
請求項6の「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理する」を、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理する」に訂正する。

セ 訂正後の請求項1〜5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1及び9について
(ア)訂正事項1及び9は、訂正前の走査制御手段(ステップ)が、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御することを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項1及び9は、本件特許明細書の【0131】「 <トラッキング> 任意選択的には、制御部70は、例えば、観察光学系200によって取得される正面画像に基づいて光スキャナ108の駆動を制御することによって、各走査ラインにおいて4フレーム以上のOCT信号を得る際の走査位置を補正してもよい。」などの記載から導き出せることから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項1及び9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2及び10について
(ア)訂正事項2及び10は、訂正前の、第1の走査制御における同一の走査「位置」を、同一の走査「ライン」に限定し、また、訂正前の、第2の走査制御における第1のOCT信号群と同一の走査「位置」を、「前記被検眼上において」第1のOCT信号群と同一の走査「ライン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項2及び10は、本件特許明細書の【0093】「この場合、制御部70は、例えば、同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも4つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御を行ってもよい。また、制御部70は、例えば、第1の走査制御による第1のOCT信号群の取得後、第1のOCT信号群と同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも4つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御を行ってもよい。」、【0094】「また、制御部70は、例えば、第1の走査制御として、複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも4回測定光を走査させてもよい。また、制御部70は、例えば、第2の走査制御として、複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも4回測定光を走査させてもよい。この場合、例えば、予め設定された二次元走査範囲(例えば、矩形領域)を満たす複数の走査ラインに関して、第1の走査制御、第2の走査制御の少なくともいずれが行われてもよい。」、【0096】「また、複数の走査ラインに関して測定光を走査する場合、例えば、第1の走査制御と第2の走査制御において、各走査ラインの走査方向及び走査位置が互いに同一であってもよい。これによって、例えば、第1の走査制御と第2の走査制御にて得られたBスキャンMCデータ間の位置合わせを確実に行うことができ、合成されたBスキャンMCデータの高画質化が可能となる。」、【0129】「なお、上記実施例において、同一の走査ラインに関して第1のOCT信号群と第2のOCT信号群を得る場合、これらを連続的に取得するのではなく、各走査ラインSLi(i=1〜n)における第1のOCT信号群を取得した後、各走査ラインSLi(i=1〜n)における第2のOCT信号群を得ることによって、第1のOCT信号群を取得後、第2のOCT信号群を得るまでに一定時間を確保できる。」、【0130】「一定時間において、毛細血管における血液の流れがスムーズになる可能性があり、結果として、血管構造の画像化を精密に行うことができる。なお、もちろん、同一の走査ラインに関して第1のOCT信号群と第2のOCT信号群を得る場合、これらを連続的に取得する場合においても、本実施形態の適用は可能である。」、【0132】「この場合、制御部70は、例えば、第1の走査制御又は第2の走査制御の少なくともいずれかにおいて、少なくとも1つの走査ラインにおいて4フレーム以上のOCT信号を得る毎に、走査位置を補正してもよい。これによって、少なくとも1つの走査ラインでのOCT信号群の走査位置を一体的に補正できる。」などの記載(以下「記載事項A」という。)から、第1、2の走査制御における同一の走査位置の態様として、同一の走査ラインとすること、第2のOCT信号群を被検眼上において第1のOCT信号群と同一の走査ラインとすることが導き出せるから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項2及び10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3及び11について
(ア)訂正事項3及び11は、訂正前の、第1の走査制御における複数の走査ラインが、「二次元走査範囲に設定される」複数の走査ラインであることを特定し、また、訂正前の、第2の走査制御における複数の走査ラインが、「前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な」複数の走査ラインであることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項3及び11は、本件特許明細書の上記記載事項Aから、第1及び第2の走査制御における走査ラインは、同一の二次元走査範囲に設定されていることが導き出せることから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項3及び11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項4及び12について
(ア)訂正事項4及び12は、訂正前の走査制御手段(ステップ)が、「更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる」走査制御手段(ステップ)であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項4及び12は、本件特許明細書の【0116】「<第2の走査制御> 第1の走査制御の終了後、制御部70は、第2の走査制御に移行する。第1の走査制御から第2の走査制御への移行は、自動的に実行されてもよい」の記載から導き出せることから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項4及び12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項5及び13
(ア)訂正事項5及び13は、訂正前の、合成処理される第2のモーションコントラストデータが、「前記第1の走査制御と走査ラインが一致される」第2の走査制御にて得られた第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータであることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項5及び13は、本件特許明細書の上記記載事項Aから上記イ(イ)と同様に、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項5及び13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ 訂正事項6について
(ア)訂正前の、演算処理手段、第1のモーションコントラストデータ、第2のモーションコントラストデータを、それぞれ、「前記」演算処理手段、「前記」第1のモーションコントラストデータ、「前記」第2のモーションコントラストデータとすることは、前出されている演算処理手段、第1のモーションコントラストデータ、第2のモーションコントラストデータとの関係を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の位置ずれを、「深さ方向に関する」位置ずれに限定することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、訂正事項6は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項6は、本件特許明細書の【0135】「 <Aスキャン単位の補正> 任意選択的には、制御部70は、例えば、第1の走査制御にて得られたMCデータと第2の走査制御にて得られたMCデータとの間で合成処理を行う場合、Aスキャン単位でZ方向における位置ずれを画像処理によって補正してもよい。」の記載から導き出せることから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

キ 訂正事項7について
(ア)訂正事項7は、訂正前の、第3の走査制御における同一の走査「位置」を、同一の走査「ライン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項7は、本件特許明細書の上記記載事項A及び【0108】「第1のMCデータと第2のMCデータに基づいて第3のMCデータを得る場合、制御部70は、第1のMCデータと第2のMCデータと、第3の走査制御によって得られたMCデータと、に基づいて、第3のMCデータを得てもよい。第3の走査制御において、制御部70は、例えば、第1のOCT信号群及び第2のOCT信号群と同一の走査位置において時間的に異なる少なくとも4つのOCT信号を含む第3のOCT信号群を少なくとも1回得るための第3の走査制御を行ってもよい。」の記載から、第3の走査制御においても、第1、2の走査制御と同様に同一の走査位置の態様として、同一の走査ラインとすることが導き出せるから、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ク 訂正事項8について
(ア)訂正事項8は、訂正前の請求項5の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項8は、新規事項の追加に該当しない。
(ウ)訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、6について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4及び6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」及び「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

(本件発明1)
「 【請求項1】
被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、
観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段と、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段と、
を備えることを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(本件発明2)
「 【請求項2】
前記演算処理手段は、前記第1のモーションコントラストデータと、前記第2のモーションコントラストデータと、を加算平均処理することによって、前記第3のモーションコントラストデータとして加算平均モーションコントラストデータを得ることを特徴とする請求項1の光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(本件発明3)
「 【請求項3】
前記演算処理手段は、前記第3のモーションコントラストデータを得る際、前記第1のモーションコントラストデータと、前記第2のモーションコントラストデータとの間の深さ方向に関する位置ずれを、Aスキャン毎に補正することを特徴とする請求項1〜2のいずれかの光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(本件発明4)
「 【請求項4】
前記走査制御手段は、さらに、前記第1のOCT信号群及び前記第2のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第3のOCT信号群を少なくとも1回得るための第3の走査制御を行い、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、前記第3の走査制御にて得られた前記第3のOCT信号群に基づくモーションコントラストデータと、を合成処理することによって前記第3のモーションコントラストデータを得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(本件発明6)
「 【請求項6】
被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、を備える光コヒーレンストモグラフィー装置において実行される光コヒーレンストモグラフィ制御プログラムであって、
光コヒーレンストモグラフィー装置のプロセッサによって実行されることで、
観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御ステップであって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御ステップであって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御ステップと、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理ステップと、
を前記光コヒーレンストモグラフィ装置に実行させることを特徴とする光コヒーレンストモグラフィ制御プログラム。」

第4 特許異議の申立について

1 申立理由の概要
申立人は、証拠として下記2に示す甲第1号証〜甲第14号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲14」という。)を、甲1〜甲8については特許異議の申立て時、甲9〜14については令和3年9月10日付け意見書の提出時において提出し、以下の申立理由により、請求項1〜6に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。

理由1(新規性
請求項1、5、6に係る発明は、甲1〜4のいずれかに記載された発明、請求項2に係る発明は、甲1、3又は4に記載された発明、請求項4に係る発明は、甲2〜4のいずれかに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4〜6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2(進歩性
請求項1、5、6に係る発明は、甲1〜4のいずれかに記載された発明、又は、甲1〜4のいずれかに記載された発明及び周知技術(甲5〜8)、請求項2に係る発明は、甲1、3、4のいずれかに記載された発明、又は、甲1、3、4のいずれかに記載された発明及び周知技術(甲5〜8)、請求項3に係る発明は、甲1〜3のいずれかに記載された発明及び周知技術(甲5〜8)、請求項4に係る発明は、甲2〜4のいずれかに記載された発明、又は、甲2〜4のいずれかに記載された発明及び周知技術(甲5〜8)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由3(サポート要件)
請求項1〜6に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 証拠方法
甲1:米国特許出願公開第2015/0092195号明細書
甲2:Boy Braaf, et al. , Real-time eye motion correction in phase-resolved OCT angiography with tracking SLO , Vol.4 , No.1 , BIOMEDICAL OPTICS EXPRESS , 11 Dec 2012 , p.51-65
甲3:Iwona Gorczynska, et al. , Comparison of amplitude-decorrelat1on, speckle-variance and phase-variance OCT angiography methods for imaging the human retina and choroid , Vol.7 ,No.3 , BIOMEDICAL OPTICS EXPRESS , 19 Feb 2016 , p.911-942
甲4:Hansford C.Hendargo, et al. , Automated non-rigid registration and mosaicing for robust imaging of distinct retinal capillary beds using speckle variance optical coherence tomography , Vol.4 ,No.6 , BIOMEDICAL OPTICS EXPRESS , 7 May 2013 , p.803-821
甲5:特開2011−254959号公報
甲6:特開2013−179971号公報
甲7:特開2013−179972号公報
甲8:特表2010−508105号公報
甲9:特開2011−135933号公報
甲10:特開2012−115578号公報
甲11:特開2012−213513号公報
甲12:特開2014−140488号公報
甲13:特開2015−80726号公報
甲14:米国特許出願公開第2013/0176532号明細書

第5 取消理由の概要
請求項1〜6に係る特許に対して、当審が令和3年3月25日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1(新規性
請求項1〜6に係る発明は、各甲2〜4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2(進歩性
請求項1〜6に係る発明は、各甲2〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由3(明確性
請求項1〜6に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 各甲号証の記載
申立人が提出した各甲号証(甲1〜14)の記載事項は次のとおりである。いずれも、本件特許の出願日である平成28年(西暦2016年)6月16日以前に公知となったものである。

1 甲1について

(1)甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。原文に続き当審訳を示す。下線は当審で付与した。以下、同様。

(甲1ア)発明の名称
「SYSTEMS AND METHODS FOR BIDIRECTIONAL FUNCTIONAL OPTICAL COHERENCE TOMOGRAPHY」
「二方向性光コヒーレンストモグラフィのためのシステム及び方法」

(甲1イ)[0041]の第4行〜末行
「A flow chart of an exemplary embodiment where bidirectional OCT data is used to generate improved OCT angiography images is illustrated in FIG. 7. OCT data sets suitable for OCT angiography analysis are acquired for each angle (channel) in steps 701 and 702. The data can be acquired sequentially or simultaneously. Each data set should contain one or more measurements made at approximately the same transverse location on the sample. Next, any one of a number of motion contrast algorithms are applied to the OCT data set in steps 703 and 704 to quantify the changes between the measurements taken at the approximately same location. Motion contrast information is typically displayed as an en face image in which three dimensional data has been reduced to two-dimensions by summing, integrating or otherwise assigning a single representative value to a specific range of axial values for each transverse location. Once the motion contrast information is generated for each channel, the data between the two channels are coregistered (step 705) and the values are averaged for the two channels (step 706) to generate a single motion contrast data set (step 707). The averaged motion contrast data is then displayed, typically as an en face image, or stored for further processing.」
「改善されたOCT血管造影画像を生成するために二方向OCTデータが使用される、例示的な実施形態のフローチャートを図7に示す。OCT血管造影分析に適したOCTデータセットは、ステップ701及び702において各角度(チャネル)について取得される。データは、逐次にまたは同時に取得することができる。各データセットは、サンプル上のほぼ同じ横断方向位置で行われた1つ以上の測定を含むべきである。次に、いくつかのモーションコントラストアルゴリズムのいずれかが、ステップ703及び704においてOCTデータセットに適用され、ほぼ同じ位置で行われた測定間の変化を定量化する。モーションコントラスト情報は、典型的には、3次元データが、各横断位置についての軸方向値の特定の範囲に単一の代表値を加算、積分、または他の方法で割り当てることによって2次元に縮小された正面(Enface)画像として表示される。各チャネルについてモーションコントラスト情報が生成されると、二つのチャネル間のデータが位置合わせされ(ステップ705)、二つのチャネルについて値が平均され(ステップ706)、単一のモーションコントラスト・データセットが生成される(ステップ707)。次に、平均化されたモーションコントラストデータは、典型的には正面(Enface)画像として表示されるか、またはさらなる処理のために記憶される。」

(甲1ウ)FIG.7

図7
701:第1の角度で第1のデータセットを取得
702:第2の角度で第2のデータセットを取得
703:第1のデータセットのモーションコントラスト情報を生成
704:第2のデータセットのモーションコントラスト情報を生成
705:2セットのモーションコントラスト情報を位置合わせ
706:2セットのモーションコントラスト情報を平均化
707:平均化されたモーションコントラストデータを表示または保存

(甲1エ)FIG.1


(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載及び図面から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「二方向性光コヒーレンストモグラフィのためのシステムであって、
改善されたOCT血管造影画像を生成するために二方向OCTデータが使用され、OCT血管造影分析に適したOCTデータセットは、各角度(チャネル)について取得され、データは、逐次にまたは同時に取得することができ、次に、いくつかのモーションコントラストアルゴリズムのいずれかが、OCTデータセットに適用され、ほぼ同じ位置で行われた測定間の変化を定量化し、各チャネルについてモーションコントラスト情報が生成されると、二つのチャネル間のデータが位置合わせされ、二つのチャネルについて値が平均され、単一のモーションコントラスト・データセットが生成される、システム。」

2 甲2について

(1)甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。

(甲2ア)第4頁第23行〜第25行
「In this paper we present eye-motion-corrected inter-B-scan phase-resolved OCT angiography using a phase-stabilized optical frequency domain imaging (OFDI) system combined with experimental real-time tracking SLO (TSLO).」
「本論文では、実験用リアルタイムトラッキングSLO(TSLO)と組み合わせた位相安定化光周波数領域イメージング(OFDI)システムを用いた眼球運動が補正されたBスキャン間位相分解OCT血管造影法を呈示する。」

(甲2イ)第11頁第27行〜43行
「4.2. High-quality artifact-free angiography by data set compounding
In order to improve the overall quality of the angiograms eight three-dimensional phase- resolved OCT data sets of the fovea were compounded together. Each data set used a new TSLO reference frame to guarantee optimal eye tracking. The slightly varying lateral position of each data set was corrected by image registration. A retinal angiogram was extracted from each data set, from which one was used as a reference to register the other data sets on. This provided the lateral translation and rotation for each data set to exactly overlay all data sets. Eye tracking was essential for this step since eye drift and microsaccades would otherwise give unique distortions in each data set and prevent accurate registration and overlaying. Axial displacements between the data sets were measured by cross-correlation of the OCT intensity B-scans and corrected by axial shifting. Finally, the median value over all eight data sets was taken for every pixel in the volume.
In Fig. 5 high quality angiograms are presented for the retinal vasculature. The individual vessels in the NFL-GCL-IPL layer are very clearly observed in Fig. 5(A) and the noise significantly reduced compared to Fig. 4(C). Additionally, the saccadic artifact at the right of Fig. 4(C) was removed by the median pixel selection. The result is an angiogram which is completely free from eye motion artifacts.」
「4.2.データセット合成による高品質アーチファクトのない血管造影
血管造影の全体的な質を改善するために、中心窩の8つの三次元位相分解OCTデータセットを合成した。各データセットは最適なアイトラッキングを保証するために新しいTSLO参照フレームを使用した。各データセットにおいてわずかに変化する横方向位置を画像の位置合わせにより補正した。各データセットから網膜血管造影像を抽出し、そのうちの1つを他のデータセットを位置合わせするための参照として用いた。これにより、各データセットの横方向の移動と回転が、すべてのデータセットに正確に重ね合わせされる。アイトラッキングはこのステップに必須であり、そうでなければ、眼球のドリフトおよびマイクロサッケードは各データセットに固有の歪みを与え、正確な位置合わせおよび重ね合わせを妨げてしまう。データセット間の軸方向の位置ずれはOCT強度Bスキャンの相互相関により測定し、軸方向にシフトすることにより補正した。最後に、8つのデータセット全体にわたる中央値を、ボリューム内の各ピクセルについて取得した。
図5に、網膜血管系の高品質血管造影図を示す。NFL-GCL-IPL層の個々の血管は、図5(A)において非常に明確に観察され、図4(C)と比較してノイズが大幅に減少した。さらに、図4(C)の右側のサッカディックアーチファクトは、中央値の画素選択によって除去された。その結果、眼球運動によるアーチファクトが全くない血管造影が得られた。」

(甲2ウ)第12頁のFig.5とその説明欄の第1行〜第3行

「Fig. 5. High-quality artifact-free angiograms of the retina by compounding eight data sets from the same location with a surface area of 2.0 x 2.0 mm2. The yellow scale-bars are 250 μm in length.」
「図5 2.0×2.0mm2の表面積の、同じ位置で取得された8つのデータセットを合成することによる網膜の高品質アーチファクトフリーの血管造影図。黄色のスケールバーの長さは250μmである。」

(甲2エ)Fig.1


(2)甲2に記載された発明
上記(1)の記載及び図面から、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「眼球運動が補正されたBスキャン間位相分解OCT血管造影法のための実験用リアルタイムトラッキングSLO(TSLO)と組み合わせた位相安定化光周波数領域イメージング(OFDI)システムであって、
各OCTデータセットは、最適なアイトラッキングを保証するために新しいTSLO参照フレームを使用し、各データセットにおいてわずかに変化する横方向位置を画像の位置合わせにより補正し、各データセットから網膜血管造影像を抽出し、そのうちの1つを他のデータセットを位置合わせするための参照として用い、これにより、各データセットの横方向の移動と回転が、すべてのデータセットに正確に重ね合わせされ、データセット間の軸方向の位置ずれはOCT強度Bスキャンの相互相関により測定し、軸方向にシフトすることにより補正し、最後に、血管造影の全体的な質を改善するために、各データセット全体にわたる中央値を、ボリューム内の各ピクセルについて取得することにより、2.0×2.0mm2の表面積の、同じ位置で取得された、中心窩の各三次元位相分解OCTデータセットを合成する、システム。」

3 甲3について

(1)甲3の記載
甲3には、以下の事項が記載されている。

(甲3ア)第4頁第14行〜第18行
「All OCTA methods can benefit from application of averaging methods to improve the signal-to-noise ratio and in consequence to improve the visualization of the vasculature. In this paper we explore two averaging methods:
a) split spectrum,
b) volume averaging.」
「全てのOCTA算出法において、平均化を適用することにより、信号対雑音比が改善され、その結果として脈管構造の可視化を改善することができる。本論文では、二つの平均化法を検討した。
a)スペクトル分割
b)ボリューム平均化」

(甲3イ)第9頁第36行〜第10頁第3行
「2.8. Motion correction and volume averaging of the OCT data
The transverse motion correction and volume averaging methods used in this study are similar to a concept published in [57]. Our method was developed under simplifying assumptions that:
- Data blocks between the saccadic motions of the eye are free of motion artifacts,
- Saccadic motion causes only translations of the data blocks.
Identical motion correction and volume averaging was applied to images obtained with all compared OCTA methods. Four OCT data sets were acquired at the same location in the retina. A user-supervised registration procedure was applied to the data flattened to the RPE. The transverse motion correction was performed in projection images of the inner retinal vasculature. Each volume was broken into sub-volumes at the locations of the removed motion affected B-scans. En face projection images of overlapping sub-volumes were overlaid with each other by cross-correlation, providing transverse shifts for motion correction. The sub-volumes with corrected transverse positions were registered axially and averaged. Further details of the method are given in Appendix 2.」
「2.8.OCTデータの動き補正及びボリューム平均化
本研究で用いた横方向運動補正とボリューム平均法は、[57]に発表された概念に類似している。この方法は、次のような単純化された仮定の下で開発された。
−眼球のサッケード運動の間のデータブロックには、(眼球)運動アーチファクトがない。
−サッケード運動はデータブロックの平行移動のみを引き起こす。
同一の動き補正とボリューム平均化を、比較した全てのOCTA法で得た画像に適用した。4つのOCTデータセットが網膜の同じ位置で取得された。RPEに対して平坦化されたデータにユーザー監視型の位置合わせ手順を適用し、網膜内血管系の投影画像において横方向運動補正を行った。各ボリュームは、動きの影響を受け除去されたBスキャンの位置でサブボリュームに分割された。重複するサブボリュームの正面(enface)投影画像を相互相関によって互いに重ね合わせ、動き補正のために横方向にシフトした。横方向位置が補正されたサブボリュームを軸方向に位置合わせし、平均化した。この方法の詳細を付録2に示す。」

(甲3ウ)Fig.1


(2)甲3に記載された発明
上記(1)の記載及び図面から、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「ボリューム平均化を適用することにより、信号対雑音比が改善され、その結果として脈管構造の可視化を改善することができるOCTA算出法のためのシステムであって、
各OCTデータセットを網膜の同じ位置で取得し、各ボリュームを、動きの影響を受け除去されたBスキャンの位置でサブボリュームに分割し、重複するサブボリュームの正面(enface)投影画像を相互相関によって互いに重ね合わせ、動き補正のために横方向にシフトし、横方向位置が補正されたサブボリュームを軸方向に位置合わせし、平均化する、システム。」

4 甲4について

(1)甲4の記載
甲4には、以下の事項が記載されている。

(甲4ア)第1頁の要約第6行〜第7行
「We demonstrate a method to eliminate motion artifacts in speckle variance FD-OCT images of the retinal vasculature by creating a composite image from multiple volumes of data acquired sequentially.」
「著者らは、逐次取得された複数ボリュームのデータから合成画像を作成することによって、網膜血管系のスペックルバリアンス(分散)FD−OCT画像における(眼球)運動アーチファクトを除去する方法を実証する。」

(甲4ウ)第4頁第1行〜第11行
「Data sets consisted of a 2.5 × 2.5 mm volume scan with 300 A-scans/B-scan, 3 repeated B-scans, and 300 unique B-scan positions, thus yielding a total of 900 B-scans in each volume. This yielded a lateral sample spacing of 8.3 μm in both scan dimensions. For scanning stability, 75 A-scans were added to each B-scan to allow for flyback and repositioning of the fast galvo, yielding a B-scan time of 3.75 ms and a duty cycle of 80% with a total volume acquisition time of 3.4 s. Multiple data sets were acquired from each subject, and half the volumes were oriented with the fast scan axis along X and the other half oriented along Y. Each B-scan within a volume was axially registered using cross-correlation with the previous frame to account for subject motion along the axis of the imaging beam [38]. For each set of 3 repeated B-scans, the magnitude data after Fourier transformation was averaged to improve the image SNR. The variance was computed across the 3 repeated B- scans at each location [18], resulting in 300 variance B-scans.」
「データセットは、300のAスキャン/Bスキャン、3回の反復Bスキャン、及び300の固有Bスキャン位置による2.5×2.5mmのボリュームスキャンから構成され、各ボリュームで合計900のBスキャンを生成した。これにより、両方の走査次元において8.3μmの横方向サンプル間隔が得られた。走査の安定性のために、高速ガルボのフライバックと再位置決めを可能にするために、各Bスキャンに75のAスキャンを加えたため、Bスキャンタイムが3.75ms、デューサイクルが80%、全ボリューム取得時間が3.4sとなった。各被験者から複数のデータセットを取得し、ボリュームのうちの半数は高速スキャン軸をX軸に沿って配向し、残りの半数はY軸に沿って配向した。撮像ビームの軸に沿った被験者の(眼球)運動に対応して、ボリューム内の各Bスキャンは、前のフレームとの相互相関を用いて軸方向に位置合わせされた[38]。3回の反復Bスキャンの各セットについて、フーリエ変換後の強度データを平均して画像SNRを改善した。バリアンス(分散)は、各位置における3回の反復Bスキャンにわたって計算され[18]、結果として300のバリアンス(分散)Bスキャンが得られた。」

(甲4エ)第11頁第30行〜第37行
「5.1 Automated motion artifact correction
Multiple data sets acquired from a healthy 27-year-old human volunteer are shown in Fig. 8. This data set was used to determine the parameters for motion detection, Gabor filtering, and registration in all subsequent data sets. Two X-fast and two Y-fast volumes were acquired, and the SVPs from each layer show evidence of motion artifacts in all volumes. Running the registration algorithm from Section 3 resulted in motion-free composite images for each layer, shown on the right of Fig. 8. An enlarged view of the registered images and SVPs from a single volume is shown in Fig. 9 along with a combined color encoded depth image of the vasculature.」
「5.1 自動(眼球)運動アーチファクト補正
健康な27歳のボランティアから得られた複数のデータセットを図8に示す。このデータセットを用いて、その後のすべてのデータセットにおける(眼球)運動検出、Gaborフィルタリング、及び位置合わせのためのパラメータを決定した。2つのX−fastと2つのY−fastボリュームを取得し、各層からのSVPは全ボリュームにおける(眼球)運動アーチファクトの証拠を示した。第3節からの位置合わせアルゴリズムを実行することにより、図8の右側に示されるように、各層の(眼球)運動のない合成画像が得られた。位置合わせされた画像及び1つのボリュームからのSVPの拡大図が、血管系の結合されたカラー符号化された深度画像とともに、図9に示される。」

(甲4オ)Fig.2


(2)甲4に記載された発明
上記(1)の記載及び図面から、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「逐次取得された複数ボリュームのデータから合成画像を作成することによって、網膜血管系のスペックルバリアンス(分散)FD−OCT画像における(眼球)運動アーチファクトを除去するためのシステムであって、
2つのX−fastと2つのY−fastボリュームを取得し、位置合わせアルゴリズムを実行することにより、各層の(眼球)運動のない合成画像を得る、システム。」

5 甲5の記載
甲5には、以下の事項が記載されている。

(甲5ア)
「【0023】
<ステップS203>
ステップS203では、操作者が撮影指示をすると、不図示の制御部により、ほぼ同一箇所を繰り返し走査し、複数の二次元断層画像を撮影する。
なお、不図示の制御部は、副走査方向に移動する間隔を調整する機能も有する。
【0024】
<ステップS204>
ステップS204では、画像処理部113が、記憶部112に記憶された二次元断層画像群を用いて、新たな二次元断層画像を生成する。高画質化した二次元断層画像の生成処理について、図2(b)を参照して説明する。」

(甲5イ)
「【0061】
以上の説明から明らかなように、本実施形態では、位置合わせを行った二次元断層画像において、Aスキャン画像と周辺の領域を用いて、近傍領域において評価値が高くなる領域を探索し、重ね合わせ処理を行った。それにより、画像全体では位置が合っているが、固視微動などにより、二次元断層画像内の網膜層が変形している場合においても、局所単位で位置合わせ処理を行うので、高画質な二次元断層画像を生成することができる。」

6 甲6の記載
甲6には、以下の事項が記載されている。

(甲6ア)
「【0003】
このような装置は、断層画像に含まれるノイズ成分を平均化するために、複数の断層画像を取得し、これに基づいて加算平均画像を取得する。加算平均画像は、例えば、略同一部位に関する複数の断層画像における各画素での輝度値を加算し、その平均値を求めることによって取得される。」

(甲6イ)
「【0022】
加算平均画像を取得する場合、演算制御器70は、ある横断位置において測定光を複数回走査することによって断層画像を複数枚取得する。」

(甲6ウ)
「【0061】
本実施例では、ノイズ成分を抑制した1枚の断層画像(Bスキャン画像)を得るために、所定の走査領域にて測定光を複数回走査させ、複数枚の断層画像を得て、取得された複数の断層画像を制御器70により加算処理して平均化させる。」

7 甲7の記載
甲7には、以下の事項が記載されている。

(甲7ア)
「【0003】
このような装置は、断層画像に含まれるノイズ成分を平均化するために、複数の断層画像を取得し、これに基づいて加算平均画像を取得する。加算平均画像は、例えば、略同一部位に関する複数の断層画像における各画素での輝度値を加算し、その平均値を求めることによって取得される。」

(甲7イ)
「【0022】
加算平均画像を取得する場合、演算制御器70は、ある横断位置において測定光を複数回走査することによって断層画像を複数枚取得する。」

(甲7ウ)
「【0061】
本実施例では、ノイズ成分を抑制した1枚の断層画像(Bスキャン画像)を得るために、所定の走査領域にて測定光を複数回走査させ、複数枚の断層画像を得て、取得された複数の断層画像を制御器70により加算処理して平均化させる。」

8 甲8の記載
甲8には、以下の事項が記載されている。

(甲8ア)
「【0009】
さらに、本発明の方法および/または装置によれば、参照画像内で目視可能な構造体の結果として生じる運動を用いて、患者の眼球運動が測定される。好ましい方式においては、深度スライス画像、特にOCTライブ画像は、参照画像によって測定された眼球運動がOCTシステム構成要素の光学ユニット(例えば、走査ミラー)にフィードバックされるように、および/またはOCTライブ画像が取得される網膜内の位置が眼球運動を追跡するように安定化され、したがって安定画像が同じ位置で常に記録および/または生成されるようになる。さらに、本発明によれば、上記で説明したように安定化された複数の連続OCTライブ画像を平均することにより、信号対雑音比を大きくし、これによりOCTライブ画像の画質を向上させることができる。さらに、平均された画像は、好ましくは、通常の深度スライス画像の代わりに、特に、OCTライブ画像の代わりに、例えばスライディング平均として表示される。」

9 甲9の記載
甲9には、以下の事項が記載されている。

(甲9ア)
「【0026】
ここで、光ファイバ66の端部から出射された干渉光は、コリメータレンズ80にて平行光とされた後、グレーティング81にて周波数成分に分光される。そして、周波数成分に分光された干渉光は、集光レンズ82を介して、受光素子83の受光面に集光する。これにより、受光素子83上で干渉縞のスペクトル情報が記録される。そして、そのスペクトル情報が制御部70へと入力され、フーリエ変換を用いて解析することで、被験者眼の深さ方向における情報(Aスキャン信号)が計測可能となる。ここで、制御部70は、走査部62により測定光を眼底上で所定の横断方向に走査することにより断層画像を取得できる。すなわち、XY方向に走査することにより、XY平面におけるZ方向の断層画像を取得できる(なお、本実施形態においては、このように測定光を眼底に対して1次元走査し、断層画像を得る方式をBスキャンとする)。なお、取得された断層画像は、制御部70に接続されたメモリ72に記憶される。さらに、測定光をXY方向に2次元的に走査することにより、被検眼眼底の3次元画像を取得することも可能である。なお、本実施形態におけるOCT画像の取得は、走査部62に設けられた2つのガルバノミラーによって行われる。なお、上記説明においては、SD?OCTを例に挙げたが、これに限るものではなく、もちろん、SS―OCT(swept source OCT)、TD?OCT(Time domain OCT)でも良い。」

(甲9イ)
「【0029】
また、制御部70は、干渉光学系200、ガルバノミラー及び走査駆動機構51、刺激光照射光学系30を制御し、被検眼眼底のある走査範囲を連続的に走査し、受光素子83からの信号に基づいて網膜刺激前後の眼底断層像を所定時間連続的に取得する。」

10 甲10の記載
甲10には、以下の事項が記載されている。

(甲10ア)
「【0033】
制御部70は、投影ユニット300を制御し、各撮像領域に対応する位置に視標を呈示する。そして、制御部70は、各撮像領域にて取得された断層画像のパノラマを得る。
【0034】
撮像領域を変更するとき、制御部70は、例えば、予め設定された順序にて視標位置を順次変更する。また、撮像領域は、マウス76からの操作信号に基づいて任意に変更されてもよい。
【0035】
ある位置にて視標が呈示されると、制御部70は、OCT光学系100を制御し、設定された各領域に対応する3次元断層像を取得すると共に、観察光学系200を制御し、正面像を取得する。
【0036】
三次元断層像を得るとき、制御部70は、光スキャナ108の動作を制御し、撮像領域に対応する走査範囲において測定光をXY方向に二次元的に走査させることにより3次元断層像を取得する。なお、走査パターンとして、例えば、ラスタースキャン、複数のラインスキャンが考えられる。」

11 甲11の記載
甲11には、以下の事項が記載されている。

(甲11ア)
「【0007】
・・・
(8) (7)に記載の眼科撮影装置において、前記設定部により設定された前記撮影部位の範囲は前記第1撮影画像の撮影画角よりも広い範囲とされ、さらに前記眼科撮影装置は、前記第1撮影ユニットによる第1撮影画像を得るための撮影位置を前記撮影部位の範囲において順次変えながら連続的に撮影するための撮影位置変更手段を有することを特徴とする。」

(甲11イ)
「【0053】
ここで、図7に第1撮影画像の連続撮影を行う場合の処理ステップのフローチャートを示す。まず、ステップS701で、設定部としてのコントロール部82の操作で、第1撮影画像の撮影部位の範囲が選択される。なお、撮影部位の範囲は第1撮影画像の画角よりも広く設定されるとする。次に、ステップS702で、制御部80は、撮影部位の範囲内で指定されたマーク610の位置で撮影を行う。なお、ここでは、撮影位置は制御部80により自動的に設定されるとする。次に、ステップS703で、制御部80は撮影画像を記憶するかを判定する。例えば、制御部80は、隣合う撮影画像の共通部分に所定の相関関係を求めて、所定の相関関係があると判定されると、図示を略す処理ステップで撮影画像が記憶部81に記憶して、ステップS704に移る。なお、ステップS703で、撮影部位の範囲で1枚目の撮影であると判定された場合もステップS704に移る。一方、ステップS703で、撮影画像同士に所定の相関関係が認められない場合には、ステップS702に戻り、同一箇所での撮影が繰り返し行われる。ステップS704では、制御部80は、次の撮影位置にマーク610で指定される撮影位置を移動させる。そして、ステップS705で、制御部80により撮影完了の有無が判定される。例えば、マーク610で指定される撮影位置が撮影部位の範囲からはずれると撮影完了と判断されて撮影動作は終了する。一方、マーク610で指定される撮影位置が撮影部位の範囲内にあり、撮影が完了していないと判断されると、ステップS702に戻り、ステップS702からS705の撮影動作が繰り返し行われる。」

12 甲12の記載
甲12には、以下の事項が記載されている。

(甲12ア)
「【0031】
装置構成の概略を説明する。本装置は、被検者眼Eの眼底Efの断層像を撮影するための光コヒーレンストモグラフィーデバイス(OCTデバイス)10である。OCTデバイス10は、干渉光学系(OCT光学系)100と、正面観察光学系200と、固視標投影ユニット300と、演算制御部(CPU)70と、を含む。」

(甲12イ)
「【0039】
<正面観察光学系>
正面観察光学系(正面像観察デバイス)200は、眼底Efの正面画像を得るために設けられている。観察光学系200は、例えば、光源から発せられた測定光(例えば、赤外光)を眼底上で二次元的に走査させる光スキャナと、眼底と略共役位置に配置された共焦点開口を介して眼底反射光を受光する第2の受光素子と、を備え、いわゆる眼科用走査型レーザ検眼鏡(SLO)の装置構成を持つ。」

(甲12ウ)
「【0081】
制御部70は、マルチスキャンでの撮影開始時に取得した正面像データを基準画像とし、その基準画像とリアルタイムで取得される正面像との位置ずれを算出する。これにより、マルチスキャンでの撮影開始時に取得した正面像に対する位置ずれ情報が得られる。
【0082】
上記のようにして、位置ずれが検出されると、制御部70は、過去に撮影した際のスキャンライン28の位置と、現在のスキャンライン28の位置との位置ずれが補正されるように、光スキャナ108の2つのガルバノミラーを適宜駆動制御する。これによって、走査位置が補正される。このようにして、被検眼がずれた場合であっても、走査位置が補正され、常時、撮影位置を設定した部位と同一の部位の断層像が取得される。従って、加算平均処理に用いることのできる断層像が増加し、取得される断層像の画質の向上に繋がる。また、検者によって選択された撮影位置と異なる部位を撮影してしまう可能性を低くし、断層像の取得ミスの低減に繋がる。」

13 甲13の記載
甲13には、以下の事項が記載されている。

(甲13ア)
「【請求項1】
光干渉断層撮影中に眼の動きを補正する方法であって、前記方法が、
眼底画像を取得するために、眼の眼底を撮影する工程と、
複数の断層画像を取得するために前記眼底を撮影する工程と、
前記複数の断層画像を取得するために前記眼底の撮影中に、位置ずれがあると決定された場合に、前記眼底に対する断層画像の位置合わせを決定する工程と、
前記位置ずれがあることが決定された以降の時間間隔で撮影された断層画像の数を決定する工程と、
前記決定された数の断層画像を再度撮影する工程と、
を有することを特徴とする方法。」

(甲13イ)
「【0053】
本発明の実施形態に係る次のステップは、SLO眼底観察画像のそれぞれの画像に対して、参照画像(直近に取得された画像)と画像の一部とを関連付けることによって、追跡アルゴリズムが眼底の動きを決定することです。」

(甲13ウ)
「【0055】
第1の検査期間の間に、x軸におけるオフセット500と、y軸におけるオフセット502は追跡アルゴリズムによって決定され、決定の結果は、OCT走査ビームの位置を制御し補正するOCT光束制御部(OCT light beam control unit)に提供される。x軸およびy軸のオフセットは、それぞれの眼底観察画像1100の走査時点で OCT光束制御部に提供される。理想的には、OCT光束制御部は、b-スキャン2100毎に、新たに取得したx軸およびy軸のオフセットを考慮に入れてOCT走査ビームの位置を制御する。」

14 甲14の記載
甲14には、以下の事項が記載されている。

(甲14ア)
「[0029]Here we describe two approaches to solve the problem caused by eye motion in OCT angiography data collection that can be incorporated into OCT systems to enable higher quality and larger field of view motion contrast images. The first is a post processing based approach in which motion correction techniques are applied to data for inter-frame analysis comprising the following steps:」
「[0029]モーションコントラスト画像をより高品質かつ大きな視野とすることが可能なOCTシステムに組み込まれ得るOCT血管造影データの取得において、目の動きによって生じる問題に対して、我々は問題を解決する2つのアプローチを示す。第1のアプローチは、動き補正の技術が以下のステップで構成されるフレーム間分析のデータに適用される、動き補正をベースとした後処理のアプローチである。」

(甲14イ)
「[0035]The second and preferred approach involves the use of retinal tracking during scan acquisition. Retinal tracking can be very useful to remove subject motion artifacts for motion-contrast OCT imaging. Retinal tracking can be used to acquire two or more OCT A-scans from the same location while simultaneously monitoring the eye position. Hence differences between at least two of these scans can be measured accurately to determine motion contrast, as tracking ensures that the scans are acquired from the same position. The invention described herein can apply to any tracking system capable of detecting motion of the eye. As will be discussed in further detail below, there are several known mechanisms for retinal tracking during OCT data acquisition such as use of a fundus imaging modality (CSLO, SLO etc.) or use of OCT itself to correct for motion.」
「2番目の好ましいアプローチは、スキャン取得中に網膜トラッキングを使用することである。網膜トラッキングは、モーションコントラストOCTイメージングのために被写体のモーションアーティファクトを除去するのに非常に役立つ。網膜トラッキングを使用して、目の位置を同時に監視しながら、同じ場所から2つ以上のOCTAスキャンを取得できる。したがって、トラッキングによってスキャンが同じ位置から取得されることが保証されるため、これらのスキャンの少なくとも2つの間の差異を正確に測定してモーションコントラストを決定できる。本明細書に記載の本発明は、眼球の動きを検出することができる任意のトラッキングシステムに適用することができる。以下でさらに詳細に説明するように、眼底イメージングモダリティ(CSLO、SLOなど)の使用や動きを補正するためのOCT自体の使用など、OCTデータ取得中の網膜トラッキングにはいくつかの既知のメカニズムがある。」

第7 当審の判断

1 取消理由通知に記載した新規性進歩性に係る取消理由について

(1)甲2発明を主発明とした場合

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。

a 甲2発明の「Bスキャン間位相分解OCT血管造影法のための」「位相安定化光周波数領域イメージング(OFDI)システム」は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)のシステム((甲2エ)を参照。)といえることから、甲2発明が、OCT光学系の基本要素である、本件発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系」と、「前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段」とに相当する構成を備えていることは自明である。

b 甲2発明の「2.0×2.0mm2の表面積の、同じ位置で取得された」、「網膜血管造影像を抽出」するための「各三次元位相分解OCTデータセット」は、それぞれが「実験用リアルタイムトラッキングSLO(TSLO)」により「新しいTSLO参照フレームを使用し」、「最適なアイトラッキングを保証する」から、甲2発明において、2.0×2.0mm2の二次元走査範囲に複数の走査ラインが設定され、複数の測定光を走査させる走査制御が複数行われていることは明らかであり、当該複数の走査制御が、本件発明1の「第1の走査制御」、「第2の走査制御」に相当する。
よって、甲2発明は、本件発明1の「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段」のうち、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ移行させる走査制御手段」に相当する構成を備えているといえる。

c 甲2発明の「各三次元位相分解OCTデータセット」が、本件発明1の「第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータ」と「第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータ」に相当する。また、甲2発明の「各三次元位相分解OCTデータセットを合成」したものが、本件発明1の「第3のモーションコントラストデータ」に相当する。
よって、甲2発明では、「2.0×2.0mm2の表面積の、同じ位置で取得された、中心窩の各三次元位相分解OCTデータセットを合成する」から、甲2発明は、本件発明1の「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」のうち、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」に相当する構成を備えているといえる。

すると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、
観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ移行させる走査制御手段と、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(相違点1)
本件発明1では、走査制御手段が、観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように走査手段を制御することによって、第2のOCT信号群は、「被検眼上において第1のOCT信号群と」同一の走査ラインにおいて得られ、第2の走査制御は、「第1の走査制御と同一な」複数の走査ラインの各々で走査され、第2のモーションコントラストデータは、「第1の走査制御と走査ラインが一致される」第2の走査制御にて得られるのに対し、甲2発明では、走査制御手段が、「各三次元位相分解OCTデータセット」において、観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように走査手段を制御するものの、「各三次元位相分解OCTデータセット」間においては、演算処理手段が、「同じ位置で取得された」「各データセットにおいてわずかに変化する横方向位置を画像の位置合わせにより補正」しており、甲2発明は、「各三次元位相分解OCTデータセット」間において「アイトラッキングを保証する」ものではない、すなわち、「各三次元位相分解OCTデータセット」間で走査ラインが補正されるものではない点。

(相違点2)
第1の走査制御の終了後の第2の走査制御への移行が、本件発明1では「自動的」であるのに対し、甲2発明では不明な点。

(イ)判断

新規性
上記相違点が本件発明1と甲2発明との間にある以上、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。

進歩性
上記相違点1について検討する。

上記相違点1に係る本件発明1の構成は、要するに、被検眼上において第1のOCT信号群と同一の走査ラインとなるようにアイトラッキング補正された第2のOCT信号群を、複数の走査ラインの各々で取得するというものであり、このような構成は、上記甲1〜14のいずれにも記載も示唆もなく、当該構成が周知技術であるという証拠も見当たらない。
仮に当該構成が周知技術であったしても、甲2発明では、演算処理手段において、「同じ位置で取得された」「各データセットにおいてわずかに変化する横方向位置を画像の位置合わせにより補正」していることから、走査制御手段において、「各データセット」を取得する際、「各データセット」間での「アイトラッキング」「補正」が更に必要であるとはいえず、甲2発明は周知技術を適用する動機を欠くものといえる。
すると、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、甲2発明及び甲1〜14に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

c 小括
したがって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。また他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲2発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を減縮した発明であり、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲2発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲2発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1に対応する光コヒーレンストモグラフィ制御プログラムの発明であり、上記相違点1に係る本件発明1の構成に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲2発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲2発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲3発明を主発明とした場合

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。

a 甲3発明の「脈管構造の可視化を改善することができるOCTA算出法のためのシステム」は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)のシステム((甲3ウ)を参照。)といえることから、甲3発明が、OCT光学系の基本要素である、本件発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系」と、「前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段」とに相当する構成を備えていることは自明である。

b 甲3発明では、「脈管構造」を「可視化」する「各OCTデータセットを網膜の同じ位置で取得」することから、甲3発明において、二次元走査範囲に複数の走査ラインが設定され、複数の測定光を走査させる走査制御が複数行われていることは明らかであり、当該複数の走査制御が、本件発明1の「第1の走査制御」、「第2の走査制御」に相当する。
よって、甲3発明は、本件発明1の「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段」のうち、「前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ移行させる走査制御手段」に相当する構成を備えているといえる。

c 甲3発明の「各OCTデータセット」が、本件発明1の「第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータ」と「第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータ」に相当する。また、甲3発明の「各OCTデータセット」の「各ボリューム」を「平均化」したものが、本件発明1の「第3のモーションコントラストデータ」に相当する。
よって、甲3発明では、「各OCTデータセット」の「各ボリューム」を「平均化する」から、甲3発明は、本件発明1の「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」のうち、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」に相当する構成を備えているといえる。

すると、本件発明1と甲3発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、
前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ移行させる走査制御手段と、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(相違点1’)
本件発明1では、走査制御手段が、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御することによって、第2のOCT信号群は、「被検眼上において第1のOCT信号群と」同一の走査ラインにおいて得られ、第2の走査制御は、「第1の走査制御と同一な」複数の走査ラインの各々で走査され、第2のモーションコントラストデータは、「第1の走査制御と走査ラインが一致される」第2の走査制御にて得られるのに対し、甲3発明では、走査制御手段が、本件発明1のように「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御しておらず、演算処理手段において、「網膜の同じ位置で取得され」た「各OCTデータセット」間で「動き補正のために」「横方向位置が補正され」る点。

(相違点2’)
第1の走査制御の終了後の第2の走査制御への移行が、本件発明1では「自動的」であるのに対し、甲3発明では不明な点。

(イ)判断

新規性
上記相違点が本件発明1と甲3発明との間にある以上、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。

進歩性
上記相違点1’について検討する。

上記(1)ア(イ)bで説示したとおり、各OCTデータセット間でのアイトラッキング補正に関して、上記相違点1と同様の内容を含む上記相違点1’に係る本件発明1の構成は、上記甲1〜14のいずれにも記載も示唆もなく、当該構成が周知技術であるという証拠も見当たらない。
仮に当該構成が周知技術であったしても、甲3発明では、演算処理手段において、「網膜の同じ位置で取得され」た「各OCTデータセット」間で「動き補正のために」「横方向位置が補正され」ることから、走査制御手段において、各「OCTデータセット」を取得する際、各「OCTデータセット」間での「動き補正」が更に必要であるとはいえず、甲3発明は周知技術を適用する動機を欠くものといえる。
すると、上記相違点1’に係る本件発明1の構成とすることは、甲3発明及び甲1〜14に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

c 小括
したがって、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。また他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲3発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を減縮した発明であり、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲3発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲3発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1に対応する光コヒーレンストモグラフィ制御プログラムの発明であり、上記相違点1’に係る本件発明1の構成に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲3発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲3発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲4発明を主発明とした場合

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。

a 甲4発明の「網膜血管系のスペックルバリアンス(分散)FD−OCT画像における(眼球)運動アーチファクトを除去するためのシステム」は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)のシステム((甲4オ)を参照。)といえることから、甲4発明が、OCT光学系の基本要素である、本件発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系」と、「前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段」とに相当する構成を備えていることは自明である。

b 甲4発明では、「網膜血管系のスペックルバリアンス(分散)FD−OCT画像における」「複数ボリュームのデータ」を「逐次取得」することから、甲4発明において、二次元走査範囲に複数の走査ラインが設定され、複数の測定光を走査させる走査制御が複数行われていることは明らかであり、当該複数の走査制御が、本件発明1の「第1の走査制御」、「第2の走査制御」に相当する。
よって、甲4発明は、本件発明1の「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段」のうち、「前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ移行させる走査制御手段」に相当する構成を備えているといえる。

c 甲4発明の「複数ボリュームのデータ」の各々が、本件発明1の「第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータ」と「第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータ」に相当する。また、甲4発明の「複数ボリュームのデータ」の「合成画像」が、本件発明1の「第3のモーションコントラストデータ」に相当する。
よって、甲4発明では、「逐次取得された複数ボリュームのデータから」「網膜血管系のスペックルバリアンス(分散)FD−OCT画像」の「合成画像を作成する」から、甲4発明は、本件発明1の「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」のうち、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」に相当する構成を備えているといえる。

すると、本件発明1と甲4発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、
前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ移行させる走査制御手段と、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(相違点1’’)
本件発明1では、走査制御手段が、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御することによって、第2のOCT信号群は、「被検眼上において第1のOCT信号群と」同一の走査ラインにおいて得られ、第2の走査制御は、「第1の走査制御と同一な」複数の走査ラインの各々で走査され、第2のモーションコントラストデータは、「第1の走査制御と走査ラインが一致される」第2の走査制御にて得られるのに対し、甲4発明では、走査制御手段が、本件発明1のように「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御しておらず、演算処理手段において、「逐次取得された」「2つのX−fastと2つのY−fastボリューム」間で「位置合わせアルゴリズムを実行することにより」「(眼球)運動アーチファクトを除去する」点。

(相違点2’’)
第1の走査制御の終了後の第2の走査制御への移行が、本件発明1では「自動的」であるのに対し、甲4発明では不明な点。

(イ)判断

新規性
上記相違点が本件発明1と甲4発明との間にある以上、本件発明1は、甲4発明であるとはいえない。

進歩性
上記相違点1’’について検討する。

上記(1)ア(イ)bで説示したとおり、各OCTデータセット間でのアイトラッキング補正に関して、上記相違点1と同様の内容を含む上記相違点1’’に係る本件発明1の構成は、上記甲1〜14のいずれにも記載も示唆もなく、当該構成が周知技術であるという証拠も見当たらない。
仮に当該構成が周知技術であったしても、甲4発明では、演算処理手段において、「逐次取得された」「2つのX−fastと2つのY−fastボリューム」間で「位置合わせアルゴリズムを実行することにより」「(眼球)運動アーチファクトを除去する」ことから、走査制御手段において、各「ボリューム」を取得する際、各「ボリューム」間での「(眼球)運動」に伴う「位置合わせ」が更に必要であるとはいえず、甲4発明は周知技術を適用する動機を欠くものといえる。
すると、上記相違点1’’に係る本件発明1の構成とすることは、甲4発明及び甲1〜14に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

c 小括
したがって、本件発明1は、甲4発明であるとはいえない。また他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲4発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を減縮した発明であり、上記相違点1’’に係る本件発明1の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲4発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲4発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1に対応する光コヒーレンストモグラフィ制御プログラムの発明であり、上記相違点1’’に係る本件発明1の構成に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲4発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲4発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 取消理由通知に記載した明確性に係る取消理由について

(1)請求項1及び6において、「走査位置」が、走査ライン、走査スポット、二次元走査範囲のどれなのか、明確でない旨を指摘したところ、本件訂正請求による訂正により、「走査ライン」に特定されたことで明確になり、当該取消理由は解消した。

(2)請求項1及び6において、走査位置が「同一」とは、被検眼に対して「同一」なのか、走査制御信号として「同一」なのか、明確でない旨を指摘したところ、本件訂正請求による訂正により、被検眼上において「同一」であることに特定されたことで明確になり、当該取消理由は解消した。

(3)請求項1及び6において、「OCT信号群」は、同一走査ライン、同一走査スポット、同一の二次元走査範囲のどれから得られたものか、明確でない旨を指摘したところ、本件訂正請求による訂正により、「同一の走査ライン」から得られたものに特定されたことで明確になり、当該取消理由は解消した。

(4)請求項3において、どのような「位置ずれ」を補正するのか、明確でない旨を指摘したところ、本件訂正請求による訂正により、深さ方向に関する「位置ずれ」を補正することに特定されたことで明確になり、当該取消理由は解消した。

3 取消理由通知において採用しなかった新規性進歩性に係る申立理由について

甲1発明を主発明とした場合

(1)本件発明1について

ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「二方向性光コヒーレンストモグラフィのためのシステム」は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)のシステム((甲1エ)を参照。)といえることから、甲1発明が、OCT光学系の基本要素である、本件発明1の「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系」と、「前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段」とに相当する構成を備えていることは自明である。

(イ)甲1発明では、「OCT血管造影分析に適したOCTデータセットは、各角度(チャネル)について取得され」ることから、甲1発明は、本件発明1の「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段」のうち、「前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させる走査制御手段」に相当する構成を備えているといえる。

(ウ)甲1発明の「各角度(チャネル)について取得され」た「OCTデータセット」が、本件発明1の「第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータ」と「第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータ」に相当する。また、甲1発明の「単一のモーションコントラスト・データセット」が、本件発明1の「第3のモーションコントラストデータ」に相当する。
よって、甲1発明では、「各角度(チャネル)について取得され」た「OCTデータセット」における「二つのチャネル間のデータが位置合わせされ、二つのチャネルについて値が平均され、単一のモーションコントラスト・データセットが生成される」から、甲1発明は、本件発明1の「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」のうち、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段」に相当する構成を備えているといえる。

すると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、
前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させる走査制御手段と、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(相違点1’’’)
本件発明1では、走査制御手段が、「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御することによって、第2のOCT信号群は、「被検眼上において第1のOCT信号群と」同一の走査ラインにおいて得られ、第2の走査制御は、「第1の走査制御と同一な」複数の走査ラインの各々で走査され、第2のモーションコントラストデータは、「第1の走査制御と走査ラインが一致される」第2の走査制御にて得られるのに対し、甲1発明では、走査制御手段が、本件発明1のように「観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように」走査手段を制御しておらず、演算処理手段において、「各角度(チャネル)について取得され」た「二つの」「OCTデータセット」を「位置合わせ」する点。

(相違点2’’’)
本件発明1では、走査制御手段が、第1の走査制御による「第1のOCT信号群の取得後」、第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御を行い、「前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後」、前記第2制御において複数の走査ラインに関する走査を行い、更には、「前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる」ものであるのに対し、甲1発明では、走査制御手段が、「二つのチャネル」の各「データ」を「逐次に」「取得」するものであって、OCTデータセットを逐次に取得するものではない点。

イ 判断

(ア)新規性
上記相違点が本件発明1と甲1発明との間にある以上、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

(イ)進歩性
事案に鑑み相違点2’’’について検討する。

上記相違点2’’’に係る本件発明1の構成は、要するに、「第1の走査制御にて、第1のOCT信号群を複数の走査ラインの各々で取得した後、自動的に第2の走査制御に移行し、第2の走査制御にて、第2のOCT信号群を複数の走査ラインの各々で取得する」ものである。
一方、甲1発明は、「各角度(チャネル)」の「二方向OCTデータ」を、「逐次にまたは同時に取得する」ものであるから、走査ラインごとに二方向OCTデータを取得していくものであり、本件発明1のように第1のOCT信号群を複数の走査ラインの各々で取得した後に、第2のOCT信号群を複数の走査ラインの各々で取得することを前提としていない。
すると、甲1発明に基づいて、上記相違点2’’’に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。また他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を減縮した発明であり、上記各相違点に係る本件発明1の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲1発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲1発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1に対応する光コヒーレンストモグラフィ制御プログラムの発明であり、上記各相違点に係る本件発明1の構成に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲1発明であるとはいえず、また当業者であっても、甲1発明及び甲1〜14に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかったサポート要件に係る申立理由について

(1)申立人は、特許異議申立書(第88〜89頁)において、本件特許明細書には、第1の走査制御と第2の走査制御とにおける走査位置が、被検眼において「同一」であることしか記載されておらず、請求項1及び6では、「同一」の走査位置には、単に光スキャナにより測定光を同一の走査位置で走査させる構成も含まれるため、請求項1及び6に係る発明は、サポート要件に違反する旨を主張するが、本件訂正請求による訂正により、第1の走査制御と第2の走査制御とにおける走査ラインが、被検眼上において「同一」であることが特定されたことで本件特許明細書に記載されたものになり、当該特許異議申立理由は解消した。

(2)申立人は、特許異議申立書(第89頁)において、本件特許明細書には、Aスキャン単位の位置ずれ補正については、Z方向における補正しか記載されておらず、請求項3では、Aスキャン単位の位置ずれ補正には、X方向またはY方向における補正も含まれるため、請求項3に係る発明は、サポート要件に違反する旨を主張していたが、本件訂正請求による訂正により、深さ方向(Z方向)における補正に特定されたことで本件特許明細書に記載されたものになり、当該特許異議申立理由は解消した。

5 申立人の主張について
申立人は、令和3年9月10日付け意見書(第21〜22頁)において、特許権者が「3つ以上のボリュームデータを合成する際も、その中に、走査ラインの方向が直交する2種類のボリュームデータが含まれている限りは、・・・画質を向上させる効果を享受できないと考えられる」(特許権者の意見書第9頁第17〜18行)と主張しているのに、本件発明1では、走査ラインの位置及び方向が一致しないモーションコントラストを含んで合成処理することも含まれるため、意見書で主張されている効果を生じさせることができない範囲を含むことから、本件発明1は、サポート要件に違反する旨を主張している。
しかし、本件発明1は、「前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る」ことを特定したものであって、走査ラインが一致しないモーションコントラストを含んで合成処理することを特定したものではないから、特許権者が意見書で主張されている上記効果を妨げず、本件発明1は、サポート要件に違反するとはいえない。
よって、申立人の意見書における上記主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した申立理由、及び意見書に記載した理由によっては、本件請求項1ないし4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他には、本件請求項1ないし4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、
観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御手段であって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御手段であって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御手段と、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理手段と、
を備えることを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項2】
前記演算処理手段は、前記第1のモーションコントラストデータと、前記第2のモーションコントラストデータと、を加算平均処理することによって、前記第3のモーションコントラストデータとして加算平均モーションコントラストデータを得ることを特徴とする請求項1の光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項3】
前記演算処理手段は、前記第3のモーションコントラストデータを得る際、前記第1のモーションコントラストデータと、前記第2のモーションコントラストデータとの間の深さ方向に関する位置ずれを、Aスキャン毎に補正することを特徴とする請求項1〜2のいずれかの光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項4】
前記走査制御手段は、さらに、前記第1のOCT信号群及び前記第2のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第3のOCT信号群を少なくとも1回得るための第3の走査制御を行い、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、前記第3の走査制御にて得られた前記第3のOCT信号群に基づくモーションコントラストデータと、を合成処理することによって前記第3のモーションコントラストデータを得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
被検眼に照射された測定光と参照光によるOCT信号を取得するためのOCT光学系と、
前記被検眼に照射される前記測定光を被検眼上で走査させるための走査手段と、を備える光コヒーレンストモグラフィー装置において実行される光コヒーレンストモグラフィ制御プログラムであって、
光コヒーレンストモグラフィー装置のプロセッサによって実行されることで、
観察光学系によって取得される被検眼の正面画像に基づいて走査ラインが補正されるように前記走査手段を制御する走査制御ステップであって、同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第1のOCT信号群を得るための第1の走査制御と、前記第1のOCT信号群の取得後、前記被検眼上において前記第1のOCT信号群と同一の走査ラインにおいて時間的に異なる少なくとも2つのOCT信号を含む第2のOCT信号群を得るための第2の走査制御と、を行う走査制御ステップであって、前記第1の走査制御として、二次元走査範囲に設定される複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、前記第1の走査制御において前記複数の走査ラインに関する走査を行った後、前記第2の走査制御として、前記二次元走査範囲に設定される前記第1の走査制御と同一な複数の走査ラインの各々に関してそれぞれ少なくとも2回測定光を走査させ、更には、前記第1の走査制御の終了後に前記第2の走査制御へ自動的に移行させる走査制御ステップと、
前記第1の走査制御にて得られた前記第1のOCT信号群に基づく第1のモーションコントラストデータと、前記第1の走査制御と走査ラインが一致される前記第2の走査制御にて得られた前記第2のOCT信号群に基づく第2のモーションコントラストデータと、を合成処理することによって第3のモーションコントラストデータを得る演算処理ステップと、
を前記光コヒーレンストモグラフィ装置に実行させることを特徴とする光コヒーレンストモグラフィ制御プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-19 
出願番号 P2016-120292
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 渡戸 正義
▲高▼見 重雄
登録日 2020-05-13 
登録番号 6703730
権利者 株式会社ニデック
発明の名称 光コヒーレンストモグラフィ装置、および光コヒーレンストモグラフィ制御プログラム  
代理人 武藤 広晃  
代理人 水越 邦仁  
代理人 武藤 広晃  
代理人 水越 邦仁  

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