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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1384024
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-11 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6650151号発明「硬化性組成物、液晶パネル、及び液晶パネルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6650151号の特許請求の範囲を令和3年10月29日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。 特許第6650151号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法1.手続の経緯
特許第6650151号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、平成30年4月3日を出願日とする特許出願(特願2018−071708号)に係るものであって、令和2年1月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年2月19日である。)。
その後、令和2年8月11日に、本件特許の請求項1〜7に係る特許に対して、特許異議申立人である森谷晴美(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立て(以下、「申立て」という。)がされた。
それ以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

令和2年11月16日付け 取消理由通知書
令和3年 1月19日提出 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 1月28日付け 通知書(申立人宛)
同年 2月25日提出 意見書(申立人)
同年 3月29日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月31日提出 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 6月10日付け 通知書(申立人宛)
同年 7月13日提出 意見書(申立人)
同年 8月23日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月29日提出 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年11月 4日付け 通知書(申立人宛)
同年12月 2日提出 意見書(申立人)

なお、本件申立てに係る審理においては、請求項1〜7、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。

2.証拠方法
申立人が異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

・甲第1号証:国際公開2014/010446号
・甲第2号証:特開2009−058933号公報
・甲第3号証:特開2013−130873号公報
・甲第4号証:特開2008−116825号公報
・甲第5号証:特開2010−230712号公報
・甲第6号証:特開2013−257567号公報
・甲第7号証:国際公開2009/119688号
・甲第8号証:国際公開2013/058324号
・甲第9号証:特開2011−215611号公報
・甲第10号証:特開2015−084108号公報
・甲第11号証:特開2011−197654号公報
・甲第12号証:特開2014−227344号公報
(以下、「甲第1号証」〜「甲第12号証」を、それぞれ「甲1」〜「甲12」という。)

第2 訂正の適否
令和3年10月29日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。
また、令和3年1月19日提出の訂正請求及び令和3年5月31日提出の訂正請求は、いずれも取り下げられたものと見なす(特許法第120条の5第7項)。

1.訂正の内容
訂正事項1として、特許請求の範囲の請求項1において、以下の(1)〜(4)に訂正する(下線部は訂正箇所である。)。

(1)訂正前の請求項1に「前記硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含み」と記載されているものを、「前記硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含むか、または、光硬化性および熱硬化性を備える化合物を含み」に訂正する。
(2)訂正前の請求項1に「前記熱硬化性化合物が、エポキシ基を有する化合物であり」と記載されているものを、「ただし、前記熱硬化性化合物と、前記光硬化性および熱硬化性を備える化合物とは、分子内にエポキシ基を有するものであり」に訂正する。
(3)訂正前の請求項1に「前記熱硬化剤が、ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体である」と記載されているものを、「前記熱硬化剤が、ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)であり」
に訂正する。
(4)訂正前の請求項1に記載された「光開始剤」に関して、「前記光開始剤は、光開始性化合物を含むか、または、光開始性化合物と光増感化合物とを含む、」に訂正する。

また、請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。

なお、本件訂正前の請求項2〜7は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1〜7は、一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜7〕に対して請求されたものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・
変更の存否
訂正の内容の(1)は、訂正前の請求項1の「硬化性化合物」が、「光硬化性化合物」と「熱硬化性化合物」の二種を含むものなのか、訂正前の請求項2に「前記硬化性化合物が、分子内にエチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有する化合物を含む」と記載されているように、エチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有するものであれば一種のみでもよいのか、どのようなものを意味しているのか明確でないとの取消理由通知書の指摘に対して、どちらの意味も含むことを明確にする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正の内容の(1)は、訂正前の請求項1に記載された「硬化性化合物」を、本件明細書の【0020】における「硬化性化合物は、光硬化性を備える化合物(光硬化性化合物)と熱硬化性を備える化合物(熱硬化性化合物)の混合物であってもよく、また、光硬化性及び熱硬化性を備える化合物であってもよい」という記載に基づいて特定するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正の内容の(2)は、上記(1)に合わせて、「硬化性化合物」が、「光硬化性化合物(光硬化性を備える化合物)と熱硬化性化合物(熱硬化性を備える化合物)とを含む」ものであっても、「光硬化性および熱硬化性を備える化合物を含む」ものであっても、「熱硬化性を備える化合物」は、分子内にエポキシ基を有するものとする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正の内容の(2)は、訂正前の請求項1に記載された「硬化性化合物」に含まれる「熱硬化性を備える化合物」を、本件明細書の【0021】における「熱硬化性を備える化合物としては、例えば、分子内にエポキシ基を有する化合物が好ましい」という記載に基づいて特定するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正の内容の(3)は、訂正前の請求項1に記載された発明特定事項である「ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体」について、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正の内容の(3)は、訂正前の請求項1に記載された「ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体」を、本件明細書の【0061】における「熱硬化剤は、ウレア構造を有するアミン化合物をエポキシ樹脂で処理することによりアダクト体とすることができる」という記載、及び、ウレア構造を有するアミン化合物が常温で固体であるとの技術常識に基づき、アダクト体について限定するものであり、更に、訂正前の請求項1のアダクト体より、甲1の請求項6に記載された「分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を、イソシアネート化合物とエポキシ樹脂とで処理して得られる化合物」、具体的には甲1の[0157]に記載された「アミン化合物(A−5)」を「イソシアナート化合物とエポキシ樹脂で処理した化合物を含む硬化剤(E−2)」を除外する目的で、「(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」との限定を加えるものである。
したがって、訂正の内容の(3)は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正の内容の(4)は、訂正前の請求項1の「光開始剤」が、一般的に「光重合開始剤」といわれる添加剤自体を指すのか、本件明細書の段落【0036】に「光開始剤は、光開始性化合物、及び、光増感化合物を含むものとする」と記載されているように、「光開始性化合物」と「光増感化合物」を含むものを意味するのか、どのようなものを意味しているのか明確でないとの取消理由通知書の指摘に対して、どちらの意味も含むことを明確にする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正の内容の(4)は、訂正前の請求項1に記載された「光開始剤」を、本件明細書の段落【0036】における「本発明の硬化性組成物に用いられる光開始剤は、・・・特に限定されず、公知の光開始剤の中から適宜選択して用いることができる。本発明において光開始剤は、光開始性化合物、及び、光増感化合物を含むものとする。」との記載に基づいて、いわゆる一般的な「光開始性化合物」、又は、「光開始性化合物」と「光増感化合物」を含むものに特定するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.申立人の主張について
申立人は、令和3年12月2日付けの意見書において、訂正事項1における除く対象物は、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたもの」は、いわゆるプロダクトバイプロセスで表現されたものであるといえるから、物としての構成が不明瞭であり、上記訂正の記載では、製造方法自体も明確ではないので、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は不明瞭であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反すると主張している。
しかし、アミン化合物とイソシアネートとの反応やアミン化合物とエポキシ樹脂との反応は、いずれも反応機構が当業者に知られており、当業者は、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたもの」の構造を推知できるから、「ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応」させて得られたものの構造や特性が当業者に不明であるとまではいえない。
加えて、「(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」という限定は、本件発明1と甲1発明の発明特定事項の重なりを除くために請求項1に加えられたものであり、令和3年10月29日提出の訂正請求書の7頁10行〜14行でも、当該限定が、甲1の[0155]及び[0157]の記載より得られる硬化剤(E−2)と、本件発明における「熱硬化剤」との差異を明確にするために追加されたものである旨が記載されているところである。
そうすると、甲1の記載内容を勘案すれば、上記限定により除かれている本件発明1の範囲は明らかであるといえるので、申立人の上記主張は理由がなく、本件訂正後の特許請求の範囲の記載が不明瞭であるとはいえない。

4.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

5.まとめ
以上のとおり、訂正の内容の(1)(2)(4)は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる目的、同(3)は、同法同条同項ただし書第1号に掲げる目的に、それぞれ適合し、また、訂正の内容の(1)〜(4)は、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は適法なので、本件の請求項1〜7に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所である。)。

「【請求項1】
硬化性化合物と、光開始剤と、熱硬化剤と、重合禁止剤と、を含有し、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含むか、または、光硬化性および熱硬化性を備える化合物を含み、
ただし、前記熱硬化性化合物と、前記光硬化性および熱硬化性を備える化合物とは、分子内にエポキシ基を有するものであり、
前記熱硬化剤が、ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)であり、
前記光開始剤は、光開始性化合物を含むか、または、光開始性化合物と光増感化合物とを含む、
硬化性組成物。
【請求項2】
前記硬化性化合物が、分子内にエチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有する化合物を含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記光開始剤が、下記一般式(1)で表される化合物を含む、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【化1】


[一般式(1)中、X1は、置換基を有してもよく炭素鎖中に酸素原子を有してもよいアルキレン基、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基、ジアルキルアミノベンゾイル基、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アシル基、シリル基、アセタール基又は−CO−NH−Z1であり、Z1は、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基であり、R1、R2、R3、及びR4、並びにX1が有する置換基のうち少なくとも1つは、9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基、またはジアルキルアミノベンゾイル基である。]
【請求項4】
前記熱硬化剤の融点が90℃以上150℃以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
液晶用シール剤として用いられる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
対向して配置された2つの基材と、
前記2つの基材の間に枠状に配置された封止部材と、
前記2つの基材と前記封止部材により形成された空間内に充填された液晶と、を備え、
前記封止部材が、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の硬化性組成物の硬化物である、液晶パネル。
【請求項7】
第1の基材上に、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の硬化性組成物を枠状のパターンに塗布する工程と、
前記硬化性組成物の枠内に液晶を滴下する工程と、
前記第1の基材の前記硬化性組成物の枠が形成された面側に、第2の基材を貼り合わせる工程と、
前記硬化性組成物に光照射する工程と、
前記硬化性組成物を加熱する工程と、を有する、液晶パネルの製造方法。」

第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由
1.異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要
(1)申立理由1(新規性
訂正前の本件発明1〜7は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
訂正前の本件発明1〜7は、甲1に記載された発明、甲2〜12に記載された発明、周知技術及び技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件)
訂正前の本件発明1は重合禁止剤の含有量を特定していないが、ごく微量であっても重合禁止剤が存在すれば、本件発明の課題を解決することは不可能というべきであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件出願時の技術常識を参酌しても、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載しているとはいえない。
よって、訂正前の本件発明1及びこれを引用する訂正前の本件発明2〜7は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、訂正前の本件発明1〜7についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が、令和2年11月16日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(明確性
訂正前の請求項1に記載された「硬化性化合物」について、訂正前の請求項2の記載に照らすと、どのようなものを意味しているのか明確でなく、また、訂正前の請求項1に記載された「光開始剤」について、本件明細書の【0036】の記載に照らすと、どのようなものを意味しているのか明確でないから、訂正前の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜7は明確でない。
よって、訂正前の請求項1〜7の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、それらの請求項に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性
訂正前の本件発明1〜7は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。



甲1:国際公開2014/010446号
甲5:特開2010−230712号公報
甲7:国際公開2009/119688号
甲12:特開2014−227344号公報

また、令和3年3月29日付け取消理由通知書(決定の予告)及び同年8月23日付け取消理由通知書(決定の予告)では、上記の取消理由2(進歩性)について、同旨の取消理由が通知されている。

第5 当審の判断
本件発明1〜7に係る特許は、以下で述べるように、当審が通知した上記の取消理由通知書に記載した取消理由1〜2及び申立人による申立理由1〜3によっては、取り消すことができない、と判断する。

1.取消理由通知書に記載した取消理由の検討
(1)取消理由1(明確性
「硬化性化合物」について、訂正前の請求項1には、「硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含み」と記載され、2種の硬化性化合物を含む旨が記載されており、これに対し、同請求項1を引用する同請求項2には、「硬化性化合物が、分子内にエチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有する化合物」と記載され、光硬化性と熱硬化性を併せ持つ1種の硬化性化合物が記載されていたことにより、同請求項1と同請求項2の記載は整合していなかった。
本件訂正により、同請求項1の「硬化性化合物」が、本件明細書の【0020】の記載に基づき「硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含むか、または、光硬化性および熱硬化性を備える化合物を含み」と規定されたことで、同請求項1と同請求項2の不整合は解消された。
次に、「光開始剤」の明確性については、訂正前の請求項1には「光開始剤」と記載されていたところ、本件明細書の【0036】には、「本発明において光開始剤は、光開始性化合物、及び、光増感化合物を含むものとする。」と記載されており、「光開始剤」と「光開始性化合物」及び「光増感化合物」との関係が不明瞭となっていた。
本件訂正により、同請求項1の「光開始剤」が、「光開始性化合物を含むか、または、光開始性化合物と光増感化合物とを含む」と規定されたことで、「光開始剤」と本件明細書の【0036】に記載されていた「光開始性化合物」及び「光増感化合物」との関係が明瞭になった。
したがって、本件発明1の記載及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜7の記載は明確であるから、取消理由1(明確性)は理由がない。

(2)取消理由2(進歩性
ア.甲各号証の記載事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
a.甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。

甲1a
「[請求項1] イソシアナート化合物と、ヒドラジン又は分子内に2個以上の第1級アミノ基を有する多価アミン化合物との反応により得られる、分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を含む、エポキシ樹脂及び/又は分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂用の硬化剤。

[請求項5] 前記分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を、イソシアナート化合物で処理して得られる化合物を更に含む請求項1〜4のいずれか1項記載の硬化剤。
[請求項6] 前記分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を、イソシアネート化合物とエポキシ樹脂とで処理して得られる化合物を更に含む請求項1〜4のいずれか1項記載の硬化剤。

[請求項8] 請求項1〜7のいずれか1項記載の硬化剤(A)と、エポキシ樹脂及び/又は少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂(B)とを含む、樹脂組成物。

[請求項12] 請求項8〜11のいずれか1項記載の樹脂組成物を含有する、液晶シール剤組成物。
[請求項13] 請求項12記載の液晶シール剤組成物を用いて得られる、液晶表示パネル。
[請求項14] 液晶滴下工法において、請求項12記載の液晶シール剤組成物を用いて、光硬化を行った後、熱硬化を行う、液晶表示パネルの製造方法。」

甲1b
「[0108] また、樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、フィラー、無機粒子、老化防止剤、濡れ性改良剤、帯電防止剤等を配合してもよい。」

甲1c
「[0111] [液晶シール剤組成物]
本発明は、上記樹脂組成物を含む、液晶シール剤組成物である。液晶シール剤組成物は、上記硬化剤(A)と、エポキシ樹脂及び/又は分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂(B)とを含む樹脂組成物と、光重合開始剤(C)と、その他必要に応じて無機充填剤(D)とを含むことが好ましい。
[0112]〔光重合開始剤(C)〕
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、2、2−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン等が挙げられる。また、光重合開始剤として、市販されている光ラジカル重合開始剤を使用してもよい。市販されている光ラジカル重合開始剤としては、例えば、イルガキュア907、イルガキュア819、イルガキュア651、イルガキュア369、ベンソインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ルシリンTPO(以上、いずれもBASFジャパン社製)等が挙げられる。」

甲1d
「[0117]〔液晶表示パネルの製造方法〕
液晶表示パネルは、本発明の液晶シール剤組成物を用いて、光硬化を行った後、熱硬化を行うことによって製造することができる。図1は、液晶表示パネルを製造する一実施形態を示す。具体的には、図1(a)の断面図に示すようにガラス基板1を用い、図1(b)の断面図に示すように、一方のガラス基板1上に本発明の液晶シール剤組成物2を塗布した。次いで、図1(c)の断面図に示すように、一方のガラス基板1上の液晶シール剤組成物2上に他方のガラス基板4を対向させて載置し、加圧下で紫外線等の光線を1、000〜3、000mJの量で照射して液晶シール剤組成物2を固化させて一対のガラス基板1、4を貼り合わせ、更にその後、無加圧のまま100〜120 ℃の温度で約1時間加熱して充分に硬化し、一対のガラス基板1、4及び硬化した液晶シール剤2で囲まれた液晶封入用セル5を形成する。このセル5の中に、次いで図1(d)の平面図に示すように、真空中で液晶注入孔3より液晶6を注入した後、液晶注入孔3を封孔し、液晶表示パネル7を製造することができる。液晶シール組成物は、ラビン処理した配向膜付きITOガラス基板上に、ディスペンス塗布し、その後、基板に液晶を滴下し、上下基板を液晶滴下工法(ODF工法)により貼り合わせ、紫外線(例えば、照度及び照射時間:1000mJの場合、100mW/cm2/365nm、50mJの場合、50mW/cm2/365nmで1秒)を照射して硬化させ、その後例えば120℃の熱風オーブンで1時間熱硬化させてもよい。」

甲1e
「実施例

[0146]〔エポキシ樹脂の製造〕
特開平5−295087号公報に記載の製造方法に従って、部分エステル化エポキシ樹脂を製造した。具体的には、以下のようにして、部分エステル化エポキシ樹脂(部分メタアクリル化エポキシ樹脂)を製造した。
(イ)高純度ビスフェノールA型エポキシ樹脂:エピクロン−850S〔DIC 社製〕を1000質量部、メタクリル酸:250質量部、トルエン:900質量部、トリエチルアミン:2質量部、パラメトキシフェノール:2質量部を混合し、90℃で8時間加熱撹拌し、部分付加反応物を得た。
(ロ)上記(イ)の生成物に、トルエン:4500質量部を加えて希釈溶液とし、これに純水:4500質量部を添加して室温で1時間撹拌した後静置し、水層を分離して除去する。この洗浄操作を3〜5回、次に同量の1規定NaOH溶液による洗浄を3〜5回、更に同量の純水のみによる洗浄を3〜5回繰り返し、最終の洗浄水について、イオン電導度測定器(堀場製作所社製:導電率計)を用いてそのイオン電導度を測定し、10μS/cm以下であることを確認した。
(ハ)上記(ロ)の溶液を濾過して得た溶液を、減圧下70℃で濃縮してトルエンを完全除去精製し、部分メタクリル化エポキシ樹脂を合成した。
また、前記合成例に準じ、メタクリル酸に替えてアクリル酸を用い、同様の方法により部分アクリル化エポキシ樹脂を合成した。

[0155](実施例15) エタノール118gにヘキサメチレンジイソシアナート17.17g溶解した溶解液Aと、エタノール150gにエチレンジアミン61.36gを溶解した溶解液Bを用意した。三口フラスコで溶解液Bを25℃で制御し攪拌しているところに溶解液Aを1.4g/分のペースで滴下した。溶解液Aの滴下終了後、反応液をフーリエ変換赤外分光光度計にて測定し、イソシアナート基由来の2250cm−1付近のピークが無い事を確認し反応終了した。ヘキサメチレンジイソシアナート1モルに対して、エチレンジアミン10モル(モル比で1:10)となるように反応させた。 反応終了後、ろ紙(桐山社製No.4)を使い桐山ロート(桐山社製)にてろ過し、脱液を行い、得られた濾取物をエタノール100mlで洗浄し、更にろ過を行い、得られた濾取物を真空オーブンにて50℃で乾燥させた。乾燥後室温まで自然冷却し、高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジーズ社製)で粉砕し、平均粒径(メジアン径)2.2μmのアミン化合物(A−5)を製造した。

[0157] 上記で得られたアミン化合物(A−5)10gと、ヘキサメチレンジイソシアネートの1.36gと、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YX8034、JER社製)の1.255gとをトルエン80ml中に混合し、50℃で24時間恒温処理を行った。
その後、処理液をろ紙(桐山社製No.4)を使い桐山ロート(桐山社製)にてろ過し、脱液を行った。得られた濾取物をトルエン100mlに混合し、前記と同様のろ過をする作業を、繰り返し計3回行った。最終的に濾取されたものを真空乾燥機(ESPEC社製)にて50℃、1Torrで12時間乾燥を行って、アミン化合物をイソシアナート化合物とエポキシ樹脂で処理した化合物を含む硬化剤(E−2)を得た。
[0158]〔液晶シール剤組成物の製造〕
上記で得られた部分メタアクリル化エポキシ樹脂100質量部と、無機充填剤として球状シリカ(アドマファイン社製、SO−C1)15質量部と、有機フィラーとしてF−351(日本ゼオン社製)15質量部と、光ラジカル開始剤としてイルガキュア907(BASFジャパン社製)3質量部と、シランカップリング剤としてKBM−403(信越化学工業社製)2質量部、硬化剤としてE−1又はE−2を、上記部分メタアクリル化エポキシ樹脂100質量部に対して15質量部を配合し、スリーワンモーター(IKA社製、商品名;RW28basic)で均一に分散し液晶シール剤樹脂組成物を得た。」

b.甲1に記載された発明
甲1には、分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を、イソシアネート化合物とエポキシ樹脂とで処理して得られる化合物を含む硬化剤が記載され、さらに、該硬化剤と、エポキシ樹脂及び/又は少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂とを含む樹脂組成物、該樹脂組成物を含有する液晶シール剤組成物も記載されており(甲1a)、その具体例として、段落[0158]には、部分メタアクリル化エポキシ樹脂100質量部と、無機充填剤として球状シリカ(アドマファイン社製、SO−C1)15質量部と、有機フィラーとしてF−351(日本ゼオン社製)15質量部と、光ラジカル開始剤としてイルガキュア907(BASFジャパン社製)3質量部と、シランカップリング剤としてKBM−403(信越化学工業社製)2質量部、硬化剤としてE−1又はE−2を、上記部分メタアクリル化エポキシ樹脂100質量部に対して15質量部を配合し、スリーワンモーター(IKA社製、商品名;RW28basic)で均一に分散し液晶シール剤樹脂組成物を得たことが記載されている(甲1e)。

そうすると、甲1には、上記の具体例に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「部分メタアクリル化エポキシ樹脂100質量部と、無機充填剤として球状シリカ(アドマファイン社製、SO−C1)15質量部と、有機フィラーとしてF−351(日本ゼオン社製)15質量部と、光ラジカル開始剤としてイルガキュア907(BASFジャパン社製)3質量部と、シランカップリング剤としてKBM−403(信越化学工業社製)2質量部と、硬化剤としてE−2を、上記部分メタアクリル化エポキシ樹脂100質量部に対して15質量部とを配合し、スリーワンモーター(IKA社製、商品名;RW28basic)で均一に分散した液晶シール剤樹脂組成物」
(以下「甲1発明」という。)

(イ)甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。

甲5a
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する(メタ)アクリレート化合物と、重合禁止剤を含有し、かつ、前記重合禁止剤の含有量が50〜2000ppmであることを特徴とする液晶滴下工法用シール剤。
【化1】

式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は下記化学式(2−1)、又は、(2−2)を表し、R3は酸無水物由来の構造を表し、R4はエポキシ化合物由来の構造を表し、Xは1つの環状ラクトンの開環構造を表し、nは1であり、aは1〜4の整数を表す。
【化2】

式(2−2)中、bは0〜8の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、dは0〜8の整数を表し、eは0〜8の整数を表し、b、c、dのいずれか1つは1以上である。」

甲5b
「【0015】

そこで本発明者らは、更に、特定量の重合禁止剤を添加することで、真空脱泡してもほとんどゲル化が進行せず、保存安定性に優れたシール剤を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(ウ)甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。

甲7a
「請求の範囲
[1] 下記一般式(1)で表される構造を有する(メタ)アクリレート化合物を含有することを特徴とする液晶滴下工法用シール剤。
[化1]

式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は下記化学式(2−1)、又は、(2−2)を表し、R3は酸無水物由来の構造を表し、R4はエポキシ化合物由来の構造を表し、Xは環状ラクトンの開環構造を表し、nは2〜5の整数を表し、aは1〜4の整数を表す。
[化2]

式(2−2)中、bは0〜8の整数を表し、cは0〜3の整数を表し、dは0〜8の整数を表し、eは0〜8の整数を表し、b、c、dのいずれか1つは1以上である。

[6] 更に、液晶滴下工法用シール剤の全量に対して、重合禁止剤を50〜2000ppm含有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の液晶滴下工法用シール剤。」

甲7b
「[0042] 本発明のシール剤は、重合禁止剤を含有することが好ましい。
上記重合禁止剤を含有することにより、本発明のシール剤を真空脱泡した後にゲル化が進行することを抑制できる。」

(エ)甲12の記載事項
甲12には、以下の記載がある。

甲12a
「【請求項1】
一般式(1):
【化22】

〔式中、X1は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、
−Y1−(O−Y1)m1−
(式中、
Y1は、炭素原子数1〜8のアルキレン基であり、
m1は、1〜50であるが、
但し、Y1が直鎖である炭素原子数2のアルキレン基であり、m1が1である場合を除く)で示される基、
−CH2−CRa1Ra2−CH2−
(式中、Ra1及びRa2は、それぞれ独立して、水素、炭素原子数1〜4のアルキル基、式(2a)の基又は式(2b)の基:
【化23】

であるが、Ra1及びRa2の少なくとも一つは、式(2a)の基又は式(2b)の基である)で示される基、又は −CH2−CRa3Ra4−CH2−O−CH2−CRa5Ra6−CH2−(式中、Ra3、Ra4、Ra5及びRa6は、それぞれ独立して、水素、炭素原子数1〜4のアルキル基、式(2a)の基又は式(2b)の基であるが、Ra3、Ra4、Ra5及びRa6の少なくとも一つは、式(2a)の基又は式(2b)の基である)で示される基であり、 R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立して、9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基、ジアルキルアミノベンゾイル基、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アシル基、シリル基、アセタール基又は−CO−NH−Z1(式中、Z1は、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基である)であるが、 但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8のうちの少なくとも1つは、9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基又はジアルキルアミノベンゾイル基である〕で示される化合物。

【請求項7】
光開始性化合物と可視光増感性化合物とからなる光重合開始剤であって、光開始性化合物は、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8の少なくとも1つがジアルキルアミノベンゾイル基である請求項1記載の式(1)で示される化合物であり、可視光増感性化合物は、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8の少なくとも1つが9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基である請求項1記載の式(1)で示される化合物である、光重合開始剤。
【請求項8】
光重合性モノマー及び/又は光重合性オリゴマーと請求項7記載の光重合開始剤とを含む、光硬化性樹脂組成物。」

甲12b
「【背景技術】
【0002】
近年、大型液晶テレビ、携帯電話をはじめ各種機器の表示パネルとして軽量、高精細、低消費電力の特徴を有する液晶表示パネルが多く液晶滴下工法で生産されている。液晶滴下工法とは、光及び熱併用硬化型液晶シール剤を、電極パターン及び配向膜の施された基板上へ塗布し、さらにその液晶シール剤が塗布された基板、又はこれと対となる基板に液晶を滴下した後、対向基板を貼り合わせて、第一段階として紫外線照射等により光硬化を行うことで基板の速やかな固定つまりセルギャップ形成を行い、第二段階として圧締治具フリーによる熱硬化によりシール剤を完全硬化させることで、液晶表示パネルを製造する工法である。このような液晶滴下工法では、未硬化のシール剤と液晶とが接触した状態で光硬化及び熱硬化反応が進行するため、液晶シール剤には、硬化の工程中、すなわち、光硬化前後、熱硬化前後における液晶シール剤由来の液晶への汚染の低減が求められる。同様に、電子部品の気密シール剤等の封止剤にも、硬化の工程中における封止剤由来の電子部品への汚染の低減が求められる。

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らは、従来技術の光開始剤に適した化合物において、液晶汚染性をさらに低減させる点について、改善の余地があることを見出した。
【0007】
したがって、本発明の課題は、電子部品等の封止剤に好適である従来技術の光重合開始剤よりも、液晶汚染性が低い光開始剤に使用できる化合物を提供することである。」

イ.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明の対比
本件発明と甲1発明(第5の1(2)ア(ア)b)を対比する。
甲1発明の「部分メタアクリル化エポキシ樹脂」は、甲1の [0146]の製造方法(甲1e)によると、高純度ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ基を部分的にメタクリル酸と反応させたものであり、メタクリル基とエポキシ基を有するものであるから、本件発明1の「光硬化性および熱硬化性を備える化合物」を含む「硬化性化合物」に相当する。
甲1発明の「光ラジカル開始剤としてイルガキュア907(BASFジャパン社製)」は、甲1の[0112]によると、光重合開始剤であるから(甲1c)、本件発明1の「光開始性化合物」を含む「光開始剤」に相当する。
甲1発明の「硬化剤としてE−2」は、液晶シール剤樹脂組成物の熱硬化に寄与するものであるから、本件発明1の「熱硬化剤」に相当する。
甲1発明の「液晶シール剤樹脂組成物」は、硬化性基を有する部分メタアクリル化エポキシ樹脂を含有するものであるから、本件発明1の「硬化性組成物」に相当する。

以上からすると、本件発明1と甲1発明は、
「硬化性化合物と、光開始剤と、熱硬化剤と、を含有し、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含むか、または、光硬化性および熱硬化性を備える化合物を含み、
ただし、前記熱硬化性化合物と、前記光硬化性および熱硬化性を備える化合物とは、分子内にエポキシ基を有するものであり、
前記光開始剤は、光開始性化合物を含むか、または、光開始性化合物と光増感化合物とを含む、
硬化性組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、「熱硬化剤」として、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」を用いているのに対し、甲1発明では、「硬化剤としてE−2」を用いている点。

<相違点2>
本件発明1では、「重合禁止剤を含有する」のに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。

(イ)相違点1、2の判断
相違点1について検討すると、甲1発明の「硬化剤としてE−2」は、甲1の [0155]、[0157]の製造方法(甲1e)によると、アミン化合物(ヘキサメチレンジイソシアナート1モルに対して、エチレンジアミン10モルを反応させたもの)をヘキサメチレンジイソシアネートと水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂で処理したものであり、上記の原料となるアミン化合物は、ヘキサメチレンジイソシアナートとエチレンジアミンを反応させて調製されるから、ウレア構造を有するものといえる。
そして、ウレア構造を有するアミン合物は、通常固体形態をとることから、甲1発明の「硬化剤としてE−2」は、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物を、ヘキサメチレンジイソシアネートと水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂とで処理して得られるもの」と認められる。
これに対し、本件発明1の「熱硬化剤」は、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体」であるものの、「(ただし…除く)」の限定により、「ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたもの」は除かれるから、甲1発明の「硬化剤としてE−2」である「ウレア構造を有するアミン化合物を、ヘキサメチレンジイソシアネートと水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂とで処理して得られるもの」は、本件発明1の「アダクト体」から除かれている。
そうすると、本件発明1の「熱硬化剤」と甲1発明の「硬化剤としてE−2」は、「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体」で共通するものの、「(ただし…除く)」の限定により、異なる「アダクト体」であるといえる。
そして、甲1には、請求項6において、「硬化剤としてE−2」を上位概念で表現した「分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を、イソシアネート化合物とエポキシ樹脂とで処理して得られる化合物」、請求項5において、「分子内に少なくとも1個の第1級アミノ基を有する化合物を、イソシアナート化合物で処理して得られる化合物」が記載されているが、アミノ基を有する化合物をエポキシ樹脂のみで処理して得られる化合物についての記載や示唆は甲1に存しないから、甲1発明の「硬化剤としてE−2」を、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項である「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」に置き換えることを当業者が容易に想到し得るとは認められない。
また、甲5、7、12には、重合禁止剤に関する記載はあるが、ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物とエポキシ樹脂との反応処理物に関する記載や示唆は存しないから、甲5、7、12を参酌しても、甲1と同様に、甲1発明の「硬化剤としてE−2」を本件発明1の上記「アダクト体」に置き換えることを当業者が容易に想到し得るとは認められない。
しかも、本件発明1は、本件明細書の【0019】、【0115】及び【0116】によると、「特定の硬化性化合物」と「光開始剤」と「特定の熱硬化剤」と「重合禁止剤」とを組み合わせることで「液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有する硬化性組成物が得られる。」という効果を奏するものであるところ、上記のとおり、甲1、5、7、12には、いずれも「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」という「特定の硬化性化合物」に関する記載や示唆がないから、当該化合物と「光開始剤」と「特定の熱硬化剤」と「重合禁止剤」とを組み合わせることで奏する本件発明1の上記効果は当業者が予測できたものとは認められない。
そうすると、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到することができたとは認められないので、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明、すなわち甲1に記載された発明と甲1、5、7、12に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和3年12月2日付けの意見書において、本件訂正後における除く対象物は、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物とイソシアネートしか反応していないもの、及びウレア構造を有する固体形態のアミン合物とエポキシ樹脂しか反応していないものも意味包含するといえ、そのようなものが除かれても、甲1発明における「硬化剤E−2」が、本件発明1の硬化剤から除外されたことにはならないとし、本件特許には、新規性もしくは進歩性に関する取消理由が依然として存在する旨を主張している。
しかし、第2の3で述べたように、本件発明1の「(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)」という限定は、本件発明1と甲1発明の発明特定事項の重なりを除くために加えられたものであることは明らかなので、かかる限定により甲1発明における「硬化剤E−2」は除外されている。
そして、甲1、5、7、12には「(ただし…反応させたもの)」以外の「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体」は記載も示唆もされていない。
そうすると、申立人の上記主張は理由がない。

ウ.本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明と甲1、5、7、12に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件発明1〜7は、甲1に記載された発明と甲1、5、7、12に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、取消理由2(進歩性)は理由がない。

2.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討
申立人の申立理由のうち申立理由1(新規性)は、取消理由通知書で採用した取消理由2(進歩性)において、相違点を挙げて実質的な判断が行われており、申立理由2(進歩性)についても、甲1、5、7、12の記載事項に基づく判断が行われている。
よって、以下の(1)では、取消理由1(進歩性)で採用しなかった甲2〜4、6、8〜11の記載事項に基づき申立理由2(進歩性)の検討を行う。
また、申立理由3(サポート要件)は、取消理由通知書で採用しなかったため、以下の(2)で検討を行う。

(1)申立理由2(進歩性
甲2〜4、6は、甲5、7と同様に、液晶シール剤で重合禁止剤を添加することが、本件特許の出願日に公知であったことを示す文献である(甲2の【請求項1】及び【0074】、甲3の【請求項1】及び【0040】、甲4の【請求項1】及び【0013】、並びに甲6の【請求項1】及び【0042】)。
また、甲8〜11は、甲12と同様に、液晶シール剤には、液晶汚染が生じるという技術課題を有すること、液晶シール剤の洗浄性が悪い場合があるという技術課題を有することが、本件特許の出願日に公知であったことを示す文献である(甲8の【0015】、甲9の【0005】、甲10の【0050】及び甲11の【0069】)。
しかし、甲5、7、12の場合と同様に、甲2〜4、6、8〜11のいずれにもウレア構造を有する固体形態のアミン化合物とエポキシ樹脂との反応処理物に関する記載や示唆は存しないから、甲2〜4、6、8〜11の記載を参酌しても、甲1発明の「硬化剤としてE−2」を本件発明1の上記「アダクト体」に置き換えることを当業者が容易に想到し得るとは認められない。
そうすると、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜7は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明と甲1、5、7、12に記載された事項に加え、甲2〜4、6、8〜11に記載された事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1〜7に係る特許は、申立人による申立理由2(進歩性)により取り消すことはできない。

(2)申立理由3(サポート要件)
ア.本件明細書の記載事項
本件明細書に以下の記載がある。

本a
「【0005】

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶滴下工法では、硬化前のシール剤と、液晶とが接触する。そのため、当該液晶がシール剤に汚染されやすいという問題があった。そのため、シール剤としては、液晶に溶出しにくいものが求められている。
一方、シール剤を塗布するために用いた塗布装置を洗浄する際、シール剤によっては、アセトンやアルコールなどの有機溶剤により、粘稠な状態となって洗浄しにくくなることがあった。洗浄残渣は塗布工程においてシール切れ等の原因となり、生産性が低下することがあった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有する硬化性組成物、配向乱れが抑制された液晶パネル及びその製造方法を提供することを目的とする。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有する硬化性組成物、配向乱れが抑制された液晶パネル及びその製造方法を提供することができる。」

本b
「【0018】
[硬化性組成物]
本発明に係る硬化性組成物は、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含む硬化性化合物と、光開始剤と、ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体である熱硬化剤と、重合禁止剤とを含有し、本発明の効果を損なわない範囲で更に他の成分を含有してもよいものである。
上記本発明に係る硬化性組成物は、液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有する。
【0019】
アミン系熱硬化剤を用いた硬化性組成物は、アセトンやアルコールなどの極性有機溶剤による洗浄性は良好であったものの、硬化性化合物の液晶への溶出を抑制することができなかった。すなわち、滴下工法による液晶パネルの製造において硬化性化合物が液晶に溶出してしまい、液晶の配向乱れが生じることがあった。一方、熱硬化剤としてアミン系熱硬化剤のアミノ基にエポキシ化合物を付加したアミンアダクト体を用いた場合には、硬化性化合物が液晶等に溶出することは抑制されたが、洗浄時に粘稠な状態となって洗浄しにくくなることがあった。
作用については未解明な部分もあるが、熱硬化剤として、ウレア構造(−NH−C(=O)−NH−)を有するアミノ化合物のアダクト体を用い、更に、重合禁止剤を組み合わせることにより、硬化性化合物の液晶等への溶出が抑制され、また有機溶剤に対しても粘りが生じにくく装置内壁への固着が抑制されることが明らかとなった。以上のことから、上記特定の硬化性化合物と、光開始剤と、上記特定の熱硬化剤と、重合禁止剤とを組み合わせることにより液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有する硬化性組成物が得られる。」

本c
「【0061】
<熱硬化剤>
本発明における熱硬化剤は、ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体である。熱硬化剤としてウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体を用いることで、液晶への汚染を抑制しつつ、硬化性組成物の洗浄性を向上させることができる。 当該熱硬化剤は、ウレア構造を有するアミン化合物をエポキシ樹脂で処理することによりアダクト体とすることができる。

【0063】
ウレア構造を有するアミン化合物は、分子内に1個以上のウレア構造(−NH−C(=O)−NH−)と、1個以上のアミノ基を有する化合物である。ウレア構造を有するアミノ化合物のアダクト体を用いることにより、硬化性化合物の液晶等への溶出が抑制され、また有機溶剤に対しても粘りが生じにくく装置内壁への固着が抑制されると推測される。…」

本d
「【0086】
<重合禁止剤>
本発明において重合禁止剤は、硬化性化合物の熱重合及び光重合を抑制するための化合物である。重合禁止剤は、シール剤の保存安定性等を目的として用いられるものであり、増粘や部分的な硬化を抑制できることから洗浄性を向上するものと推定される。重合禁止剤は、公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
重合禁止剤としては、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、キノン系、フェノチアジン系、ニトロソアミン系の重合禁止剤などが挙げられ、本発明においては中でもヒンダードフェノール系化合物が好ましい。
ヒンダードフェノール系化合物は、フェノールの2位と6位にかさ高い構造を有する化合物であり、例えば、2,6−t−ブチルフェノール、2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−t−ブチルフェノールなどが挙げられる。重合禁止剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
硬化性組成物中の重合禁止剤の含有割合は、硬化性組成物の保存安定性の点から、硬化性化合物100質量部に対し、0.0001質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、0.0005質量部以上0.3質量部以下であることがより好ましい。」

本e
「【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
[硬化性組成物の製造]
(実施例1)
硬化性化合物として下記化合物Aを100質量部、光開始剤のうち光開始性化合物として下記化合物Bを2質量部、可視光増感性化合物として下記化合物Cを2質量部、重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.15質量部、無機フィラーとしてシリカ(KE−C50HG・株式会社日本触媒製)を10質量部、有機フィラーとして樹脂フィラー(F−351・アイカ工業株式会社製)を15質量部、チキソ付与剤(非晶質シリカ;TG−308F・キャボットジャパン(株)製)を1質量部、熱硬化剤としてウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体であるEH−5001P(融点:100〜120℃、株式会社ADEKA製)を10質量部加え、3本ロールミル(C−4 3/4×10・株式会社井上製作所製)を用いて充分に混練し、実施例1の硬化性組成物を得た。
【0102】
【化10】

【0103】
【化11】

【0104】
【化12】

【0105】
(実施例2)
実施例1において、EH−5001PをEH−4370S(ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体、融点:110〜130℃、株式会社ADEKA製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の硬化性組成物を得た。
【0106】
(実施例3、4)
実施例3、4の硬化性組成物については、硬化性化合物のエポキシ基1当量に対する熱硬化剤の活性水素が1当量となるように、実施例1、2における熱硬化剤の量を変更した。すなわち、実施例1、2において、EH−5001PまたはEH−4370Sの量を、それぞれ表1のように変更した以外は、実施例1、2と同様にして、実施例3、4の硬化性組成物を得た。
【0107】
(比較例1)
実施例1において、EH−5001PをEH−5057P(ポリアミン系硬化剤、融点:75〜85℃、株式会社ADEKA製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の硬化性組成物を得た。なお、EH−5057Pはウレア構造を有しないアミン化合物のアダクト体である。
【0108】
(比較例2)
実施例1において、EH−5001Pを下記化合物Dに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の硬化性組成物を得た。化合物Dは、ウレア結合を有するアミン化合物であるが、エポキシ樹脂のアダクト体ではない。
【0109】
【化13】

【0110】
(比較例3、4)
比較例3、4の硬化性組成物については、硬化性化合物のエポキシ基1当量に対する熱硬化剤の活性水素が1当量となるように、比較例1、2における熱硬化剤の量を変更した。すなわち、比較例1、2において、EH−5057Pまたは化合物Dの量を表1のように変更した以外は、比較例1、2と同様にして、比較例3、4の硬化性組成物を得た。
【0111】
【表1】

【0112】
<洗浄性の評価>
ステンレス(SUS304)板に、実施例及び比較例の未硬化の硬化性組成物を各0.1ml取り、それぞれ2cmの線状に塗布した。当該ステンレス板をアセトン中に浸漬し5分放置した。その後、超音波洗浄機(SU−1・アズワン株式会社製)で、出力80W、周波数38kHzの条件で5分間超音波洗浄し、次いで、ステンレス板を別のアセトンに浸漬してさらに5分間超音波洗浄を行った。
それぞれのステンレス板の写真を図3に示す。また、ステンレス板を目視で観察した結果を表2に示す。
(洗浄性評価基準)
〇:残渣が確認されなかった。
×:残渣が確認された。
【0113】
<配向性評価>
ラビング処理した配向膜(SE−5662・日産化学工業株式会社製)付きITOガラス基板上(厚さ0.7mm)に、シールディスペンサーを用いて、実施例3、実施例4、比較例3、及び比較例4の硬化性組成物を、それぞれ25mm×25mmの枠状のパターンにディスペンス塗布した。その後、基板上に液晶(MLC−6609・メルク株式会社製)を液晶滴下工法により滴下し、上下基板を貼り合わせ、紫外線(UV照射装置:UVX−01224S1、ウシオ電機社製、積算光量:50mJ/cm2)を照射して光硬化させ、その後120℃の熱風オーブンで60分熱硬化を行い、テストセルを作製した。
得られたテストセルの液晶の配向性を、偏光顕微鏡によって観察した。偏光子と検光子をクロスニコル状態とした状態における、テストセルの写真を図4に示す。また、液晶の配向乱れについての結果を表2に示す。
(配向性評価基準)
〇:配向乱れが観察されなかった。
×:配向乱れが観察された。
【0114】
なお、実施例3、実施例4、比較例3、及び比較例4の硬化性組成物においては、硬化性化合物のエポキシ基1当量に対する熱硬化剤の活性水素が1当量であるため、硬化性化合物同士の熱硬化が不完全に行われるのを抑制することができる。従って、硬化性組成物の、液晶の配向に対する影響について評価するのに適している。
【0115】
【表2】

【0116】
[結果のまとめ]
図4に示されるように、熱硬化剤としてウレア構造を有しないポリアミンのアダクト体である熱硬化剤を用いた比較例3の硬化性組成物は、液晶の配向性が良好であったが、図3に示されるように、アセトン洗浄時には実線で示された領域に残渣が確認された。一方、熱硬化剤として、アダクト体ではないウレア構造を有するアミン化合物を用いた比較例4の硬化性組成物は、図3に示されるようにアセトン洗浄性は良好であるものの、図4に示されるように液晶の配向乱れを生じていた。
分子内にエチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有する硬化性化合物と、光開始剤と、ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体と、重合禁止剤とを組み合わせて用いた実施例1〜4の硬化性組成物によれば、液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有することが示された。」

イ.サポート要件の判断
(ア)サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号大合議判決)。

(イ)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の【0007】の記載によると、本件発明は「液晶の配向乱れを抑制し、且つ、優れた洗浄性を有する硬化性組成物、配向乱れが抑制された液晶パネル及びその製造方法を提供することを目的とする」ものと認められる(本a)。

(ウ)本件発明がサポート要件を満たすことについて
本件明細書の【0019】には、「アミン系熱硬化剤を用いた硬化性組成物は…滴下工法による液晶パネルの製造において硬化性化合物が液晶に溶出してしまい、液晶の配向乱れが生じることがあった。一方、熱硬化剤としてアミン系熱硬化剤のアミノ基にエポキシ化合物を付加したアミンアダクト体を用いた場合には、硬化性化合物が液晶等に溶出することは抑制されたが、洗浄時に粘稠な状態となって洗浄しにくくなることがあった。作用については未解明な部分もあるが、熱硬化剤として、ウレア構造(−NH−C(=O)−NH−)を有するアミノ化合物のアダクト体を用い、更に、重合禁止剤を組み合わせることにより、硬化性化合物の液晶等への溶出が抑制され、また有機溶剤に対しても粘りが生じにくく装置内壁への固着が抑制されることが明らかとなった。」と記載され(本b)、【0061】には、「<熱硬化剤> 本発明における熱硬化剤は、ウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体である。熱硬化剤としてウレア構造を有するアミン化合物のアダクト体を用いることで、液晶への汚染を抑制しつつ、硬化性組成物の洗浄性を向上させることができる。」と記載されている(本c)。
そして、【0101】〜【0116】には、上記の【0019】及び【0061】が示すように、上記(イ)の課題の解決に特定の熱硬化剤の使用が有効であることを裏付けるための実験結果が記載されており、【0115】【表2】及び【0116】によれば、本件発明1の「ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体」である熱硬化剤(【0112】【表1】のEH−5001P又はEH−4370S)を使用した実施例1〜4が、本件発明1の「アダクト体」の発明特定事項を満たさない熱硬化剤(【0112】【表1】のEH−5057P又は化合物D)を使用した比較例1〜4と比べて、液晶の配合乱れを抑制でき、優れた洗浄性を示すことが記載されている(本e)。
そうすると、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜7は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が上記(イ)で示した課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

ウ.申立人の主張
申立人が主張する申立理由3(サポート要件)は、概略、本件発明1は重合禁止剤の含有量を特定していないが、ごく微量では、本件発明の課題を解決することは不可能というべきであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件出願時の技術常識を参酌しても、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載しているとはいえない、というものである。
しかし、本件明細書の【0019】、【0061】、【0101】〜【0116】の記載によると(本b、c、e)、上記イ(イ)の課題の解決には、特定の熱硬化剤の使用が有効であることが記載されている。
一方、重合禁止剤については、本件明細書の【0086】に「重合禁止剤は、シール剤の保存安定性等を目的として用いられるものであり、増粘や部分的な硬化を抑制できることから洗浄性を向上するものと推定される。」、【0087】に「硬化性組成物中の重合禁止剤の含有割合は、硬化性組成物の保存安定性の点から、硬化性化合物100質量部に対し、0.0001質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、0.0005質量部以上0.3質量部以下であることがより好ましい。」と記載されており(本d)、重合禁止剤の添加の有無が、洗浄性の向上に寄与する可能性はあるものの、重合禁止剤の使用量の大小が、特定の熱硬化剤を含む本件発明の上記イ(イ)の課題の解決に、直接影響することまでは推認できない。
加えて、申立人は、実施例1〜4に記載された重合禁止剤(BHT)の配合量である0.15重量部以外では上記イ(イ)の課題の解決が期待できないことを窺わせる客観的な証拠を提出していない。
そうすると、申立人の上記主張は理由がなく、本件発明1〜7で、重合禁止剤の含有量が特定されていないからといって、本件発明1〜7がサポート要件に違反しているとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件発明1〜7に係る特許は、申立人による申立理由3(サポート要件)により取り消すことはできない。

第6 まとめ
特許第6650151号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。
本件特許の請求項1〜7に係る発明の特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性化合物と、光開始剤と、熱硬化剤と、重合禁止剤と、を含有し、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物と熱硬化性化合物とを含むか、または、光硬化性および熱硬化性を備える化合物を含み、
ただし、前記熱硬化性化合物と、前記光硬化性および熱硬化性を備える化合物とは、分子内にエポキシ基を有するものであり、
前記熱硬化剤が、ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物と、エポキシ樹脂との反応処理物であるアダクト体(ただし、ウレア構造を有する固体形態のアミン化合物に対して、イソシアネートとエポキシ樹脂とを反応させたものを除く)であり、
前記光開始剤は、光開始性化合物を含むか、または、光開始性化合物と光増感化合物とを含む、
硬化性組成物。
【請求項2】
前記硬化性化合物が、分子内にエチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有する化合物を含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記光開始剤が、下記一般式(1)で表される化合物を含む、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。

[一般式(1)中、X1は、置換基を有してもよく炭素鎖中に酸素原子を有してもよいアルキレン基、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基、ジアルキルアミノベンゾイル基、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アシル基、シリル基、アセタール基又は−CO−NH−Z1であり、Z1は、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基であり、R1、R2、R3、及びR4、並びにX1が有する置換基のうち少なくとも1つは、9−オキソ−9H−チオキサンテン−イル基、またはジアルキルアミノベンソイル基である。]
【請求項4】
前記熱硬化剤の融点が90℃以上150℃以下である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
液晶用シール剤として用いられる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
対向して配置された2つの基材と、
前記2つの基材の間に枠状に配置された封止部材と、
前記2つの基材と前記封止部材により形成された空間内に充填された液晶と、を備え、
前記封止部材が、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の硬化性組成物の硬化物である、液晶パネル。
【請求項7】
第1の基材上に、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の硬化性組成物を枠状のパターンに塗布する工程と、
前記硬化性組成物の枠内に液晶を滴下する工程と、
前記第1の基材の前記硬化性組成物の枠が形成された面側に、第2の基材を貼り合わせる工程と、
前記硬化性組成物に光照射する工程と、
前記硬化性組成物を加熱する工程と、を有する、液晶パネルの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-23 
出願番号 P2018-071708
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 健史
福井 悟
登録日 2020-01-22 
登録番号 6650151
権利者 協立化学産業株式会社
発明の名称 硬化性組成物、液晶パネル、及び液晶パネルの製造方法  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  

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