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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1384026
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-04 
確定日 2022-03-04 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6666196号発明「漆黒調加飾フィルム、加飾成形品、及び、漆黒調加飾フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6666196号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕、7ついて訂正することを認める。 特許第6666196号の請求項1〜4、6、7に係る特許を維持する。 特許第6666196号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6666196号の請求項1〜7に係る特許(以下「本件特許」という)についての出願は、平成28年5月19日を出願日とする特許出願であって、令和2年2月25日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月13日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、概略次のとおりである。
令和2年 9月 4日 : 特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」という)による請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年11月10日付け: 取消理由の通知
令和3年 1月15日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 2月19日 : 申立人による意見書の提出

第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和3年1月15日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という)は、特許第6666196号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の
「粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、
前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、
前記黒色顔料の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、
前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、
前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有し、
前記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、
前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.3以上、1.0以下であることを特徴とする漆黒調加飾フィルム。」を
「粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、
前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、
前記黒色顔料の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、
前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下であり、
前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有し、前記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下であり、
80℃での伸張率が150%以上、500%以下であることを特徴とする漆黒調加飾フィルム。」とする。
請求項1の記載を引用する請求項2〜4、6も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項3の
「前記黒色顔料は、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆黒調加飾フィルム。」を
「前記黒色顔料は、カーボンブラックであり、前記可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10質量部以上、25重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆黒調加飾フィルム。」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項6中の「請求項1から5のいずれか」という記載を「請求項1〜4のいずれか」と訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落【0069】中の「次に、得られたマスターバッチ5重量部と、平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部とを添加し、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤を15重量部、黒色顔料を5重量部含有する黒色樹脂組成物を得た。」という記載を、「次に、得られたマスターバッチを用いつつ、平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部と可塑剤と黒色顔料との配合比を下記表1に示した通りに調整し、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、黒色樹脂組成物を得た。」と訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落【0070】中の「平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤としてDOP(ジェイプラス社製)15重量部を、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、PVCコンパウンドを得た。」という記載を、「平均重合度1000のポリ塩化ビニルと、可塑剤としてのDOP(ジェイプラス社製)とを、下記表1に示した配合比に調整し、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、PVCコンパウンドを得た。」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項7の
「粘接着剤層を形成する工程と、
黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程と、
前記黒色樹脂組成物を前記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程と、
前記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程とを有し、
前記マスターバッチ全体に対する、前記黒色顔料の含有量は、20〜25重量%であり、
前記黒色樹脂組成物における前記黒色顔料の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、
前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、
前記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、
前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.3以上、1.0以下であることを特徴とする漆黒調加飾フィルムの製造方法。」を、
「粘接着剤層を形成する工程(1)と、
黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程(2)と、
前記黒色樹脂組成物を前記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程(3)と、
前記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、
表面フィルム層を形成する工程(4)とを有し、
前記工程(2)において、前記マスターバッチ全体に対する、前記黒色顔料の含有量は、20〜25重量%であり、かつ前記黒色樹脂組成物における前記黒色顔料の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下とされ、
前記工程(3)において、前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下とされ、
前記工程(4)において、前記樹脂組成物は、前記表面フィルム層の全光線透過率が80%以上となる材料で構成され、前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下とされ、かつ前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下とされ、
80℃での伸張率が150%以上、500%以下の漆黒調加飾フィルムが製造されることを特徴とする漆黒調加飾フィルムの製造方法。」とする。
(8)一群の請求項
本件訂正前の請求項1〜6は、請求項2〜6の記載が本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1の記載の訂正に連動して訂正されるから、訂正事項1〜6は、一群の請求項〔1〜6〕に対して請求するものである。
また、訂正事項7は、請求項7について請求するものである。

2 訂正事項の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「表面フィルム層」について、その厚さが50μm以上、150μm以下であると限定し、「ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比」の下限を0.3から0.5に減縮し、「漆黒調加飾フィルム」について、80℃での伸張率が150%以上、500%以下であることを限定するものである。したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1中の「前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下であり、」という事項は、明細書の段落【0049】中の「表面フィルム層14の厚さは、30μm以上、150μm以下であることが好ましい。」との記載、段落【0080】【表1】の実施例1〜8の表面フィルム層の厚さの下限値が50μmであることに基づくものである。訂正事項1中の「前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、」という事項は、同じく段落【0080】【表1】の実施例1〜8の上記比の下限値が0.5であることに基づくものである。また、訂正事項1中の「80℃での伸張率が150%以上、500%以下である」は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5、明細書の段落【0054】の記載に基づくものである。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正といえる。
ウ 訂正事項1は、既に述べたとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の記載が引用していた請求項1の「可塑剤」について、その含有量が塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10質量部以上、25重量部以下であると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、明細書の段落【0045】中の「表面フィルム層14における、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10重量部以上、25重量部以下であることが好ましい。」との記載に基づくものといえるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3により請求項5を削除することに伴い、本件訂正前の請求項6が引用する請求項から請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
ア 本件訂正前の明細書において、段落【0069】中の「次に、得られたマスターバッチ5重量部と、平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部とを添加し、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤を15重量部、黒色顔料を5重量部含有する黒色樹脂組成物を得た。」という記載は、段落【0080】【表1】に記載された実施例1のベースフィルム層の構成との関係で不整合となっていた。
訂正事項5は、この記載上の不備を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 申立人は、意見書において、訂正事項5により請求項7に係る発明は、新たな技術的事項を導入するとともに実施可能要件違反の取消理由が新たに生じる旨、指摘する。
しかし、そもそも段落【0069】の記載は、【表1】にまとめられている実施例1に係る漆黒調加飾フィルムの製造方法の説明に係るものであって、マスターバッチと平均重合度1000のポリ塩化ビニルの重量割合を調整することで、【表1】に記載された実施例1に係る漆黒調加飾フィルムが作製されたものと理解できる。
そうしてみると、訂正事項5は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実施可能要件違反の取消理由を新たに生じるものでもない。申立人の上記指摘は妥当でなく、それら指摘に沿って取消理由が存在するということもできない。
(6)訂正事項6について
ア 本件訂正前の明細書において、段落【0070】中の「平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部、可塑剤としてDOP(ジェイプラス社製)15重量部を、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、PVCコンパウンドを得た。」という記載は、段落【0080】【表1】に記載された実施例1の表面フィルム層の構成との関係で不整合となっていた。
訂正事項6は、この記載上の不備を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
イ 申立人は、意見書において、訂正事項6により新たな技術的事項を導入する旨指摘するが、段落【0070】の記載は、【表1】にまとめられている実施例1に係る漆黒調加飾フィルムの製造方法の説明に係るものであるから、PMMAを用いる実施例2と矛盾が生じるようなことはなく、申立人のかかる指摘は、当を得ないものというほかはない。
(7)訂正事項7による訂正について
ア 訂正事項7は、本件訂正前の請求項7の「表面フィルム層」について、その厚さが50μm以上、150μm以下であると限定し、「ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比」の下限を0.3から0.5に減縮し、「漆黒調加飾フィルム」について、80℃での伸張率が150%以上、500%以下であることを限定するものである。したがって、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項7は、また、請求項7の「黒色顔料の含有量」、「ベースフィルム層の厚さ」、「ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比」、「表面フィルム層の全光線透過率」及び「表面フィルム層の厚さ」と製造工程との関係を、製造工程を括弧付き符番を付して明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
ウ 既に訂正事項1について、上記(1)で述べた理由と同様に、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
エ 訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4項乃至第6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、令和3年1月15日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、
前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、
前記黒色顔料の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、
前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、
前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下であり、
前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有し、
前記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、
前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下であり、
80℃での伸張率が150%以上、500%以下であることを特徴とする漆黒調加飾フィルム。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂は、ポリメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1に記載の漆黒調加飾フィルム。
【請求項3】
前記黒色顔料は、カーボンブラックであり、前記可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10質量部以上、25重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆黒調加飾フィルム。
【請求項4】
前記漆黒調加飾フィルムは、80℃での引張強度が1〜30MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の漆黒調加飾フィルム。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
3次元曲面部を有する基材と、前記3次元曲面部を覆う加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、
前記加飾フィルムは、請求項1〜4のいずれかに記載の漆黒調加飾フィルムであり、前記粘接着剤層を介して前記3次元曲面部に貼り付けられていることを特徴とする加飾成形品。
【請求項7】
粘接着剤層を形成する工程(1)と、
黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程(2)と、
前記黒色樹脂組成物を前記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程(3)と、
前記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程(4)とを有し、
前記工程(2)において、前記マスターバッチ全体に対する、前記黒色顔料の含有量は、20〜25重量%であり、かつ前記黒色樹脂組成物における前記黒色顔料の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下とされ、
前記工程(3)において、前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下とされ、
前記工程(4)において、前記樹脂組成物は、前記表面フィルム層の全光線透過率が80%以上となる材料で構成され、前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下とされ、かつ前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下とされ、
80℃での伸張率が150%以上、500%以下の漆黒調加飾フィルムが製造されることを特徴とする漆黒調加飾フィルムの製造方法。」

第4 特許権者に通知された取消理由
本件訂正前の請求項1〜7に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和2年11月10日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
・(新規性)本件特許の請求項1〜4、6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・(進歩性)本件特許の請求項1〜7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・(実施可能要件、サポート要件、明確性)本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が「漆黒調」、「表面フィルム層とベースフィルム層のそれぞれの厚さの比及び評価試験」、「曲面形状への成形性」、「製法発明」、「黒色顔料の含有量」の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに、同条第6項第1号及び同条同項第2号に規定する要件を満たしていない。

甲第1号証:特開2015−915号公報
甲第2号証:特表2015−505895号公報
甲第3号証:特開平11−129411号公報
甲第4号証:特開2012−219216号公報
甲第5号証:特開2010−264665号公報
甲第6号証:特開2002−292798号公報
(以下、これらの各甲号証を「甲1」等という。)

第5 当審の判断
新規性進歩性について
(1)各甲号証に記載された事項及び記載された発明
ア 甲1(特開2015−915号公報)の記載事項
(ア)甲1には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着層、着色フィルム層及びクリアフィルム層を含む積層体と、前記粘着層側に配置された紙ベースのライナーと、を備える装飾用粘着シートであって、
前記積層体は、前記ライナーの表面のうねりに沿って前記ライナーを覆うように形成されており、
平滑面に貼付することにより前記積層体が平坦化する、装飾用粘着シート。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用粘着シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料の代替として装飾用粘着シートが使用されることが多くなっている。例えば、高光沢ブラックアウトフィルムは、自動車のピラー等に用いられる装飾用粘着シートであり、従来、各種高光沢ブラックアウトフィルムが提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高光沢ブラックアウトフィルムのような装飾用粘着シートに対しては、高光沢等の特性は維持しつつ、コストを削減することが強く求められている。そこで、装飾用粘着シートを構成するライナーに安価な紙を使用することが検討されているが、その場合、被着体に貼りつけた後にも、装飾用粘着シートの表面に紙のうねりに起因する「ゆず肌」と呼ばれるうねりが生じやすい。
・・・
【0006】
そこで、本発明の目的は、紙ベースのライナーを使用してもゆず肌が生じにくい装飾用粘着シート及びその製造方法を提供することにある。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紙ベースのライナーを使用してもゆず肌が生じにくい装飾用粘着シート及びその製造方法を提供することができる。」
・「【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は装飾用粘着シートの一実施形態を示す模式断面図、(b)は(a)の装飾用粘着シートを被着体に貼付した状態を示す模式断面図である。
【図2】(a)は着色フィルム層を形成する工程、(b)は着色フィルム層上にクリアフィルム層、カバー層及びプライマー層を形成する工程、(c)はライナー上に粘着層を形成する工程、(d)は(b)の積層体と(c)の積層体とを貼り合せる工程、をそれぞれ示す模式断面図である。」
・「【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の装飾用粘着シートは、粘着層、着色フィルム層及びクリアフィルム層を含む積層体と、粘着層側に配置された紙ベースのライナーと、を備え、積層体がライナーの表面のうねりに沿ってライナーを覆うように形成されており、平滑面に貼付することにより積層体が平坦化することを特徴とする。
・・・
【0024】
図1(a)は、粘着シートの一実施形態を示す模式断面図である。図1(a)に示すように、粘着シート1は、紙ベースであるライナー2と、ライナー2上に形成された積層体3と、積層体3のライナー2と反対側の面上に形成されたカバー層4とを備える。ライナー2は、紙シート21と、紙シート21の積層体3側の面上に形成された第1の樹脂層22と、紙シート21の積層体3とは反対側の面上に形成された第2の樹脂層23とを有する。積層体3は、ライナー2側から順に、粘着層31と、プライマー層32と、着色フィルム層33と、クリアフィルム層34とを有する。積層体3及び積層体3を構成する各層は略均一な厚みを有し、ライナー2の表面のうねりに沿ってライナーを覆うように形成されている。
・・・
【0031】
積層体3を構成する各層は、柔軟で可撓性を持つとともに、一度伸長させられるとフィルムが当初の長さに戻ることのないような十分な非弾性変形性を伸長後に有する材料からなることが好ましい。各層の具体的な構成は、以下のとおりである。
・・・
【0035】
着色フィルム層33は、例えばカーボンブラックを含む塩化ビニル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ABS樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂などから構成される。着色フィルム層33の厚みは、例えば20〜200μm又は50〜100μmである。ここで、着色フィルム層とは、装飾に適したものであれば、色や柄の限定はない。必ずしも黒色である必要はなく、単色である必要もなく、色や柄の限定はない。金属色や透明色であってもよい。
【0036】
クリアフィルム層34は、例えばポリウレタン、アクリル樹脂から構成される。クリアフィルム層34の厚みは、例えば5〜50μm又は10〜30μmである。
・・・
【0043】
まず、図2(a)に示すように、バッキングフィルム35上に着色フィルム層33を塗布する。なお、バッキングフィルムとは、塗布された溶液が乾燥後剥離できるよう、表面に剥離処理を施したフィルムである。着色フィルム層33は、例えばカーボンブラック及び塩化ビニルを含む溶液をバッキングフィルム35上に塗布することによって形成される。なお、所望の膜厚の着色フィルム層33を得るために、上記塩化ビニル溶液の塗布を複数回繰り返し行ってもよい。
【0044】
バッキングフィルム35としては、例えば紙シート、PETを用いるが、クリーン環境の中で粘着シートを製造できる点では、PETを用いることが好ましい。また、バッキングフィルム35としては、上記塩化ビニル溶液を塗布後、剥離しやすいように表面処理されているものであることが好ましく、例えばラテックスが表面に塗布されたバッキングフィルムを用いる。
【0045】
次に、図2(b)に示すように、着色フィルム層33の上にクリアフィルム層34及びカバー層4を形成した後、着色フィルムからバッキングフィルム35を剥離し、着色フィルム層33の一方面側にプライマー層32を形成する。プライマー層32は、例えばポリ(メタ)アクリレートとポリエチレンイミンとのグラフト化物を含む溶液を着色フィルム層33の一方面上に塗布することによって形成される。クリアフィルム層34は、例えばポリエステルポリオール及びポリイソシアネートを含む溶液を着色フィルム層33の他方面上に塗布しウレタン化させることによって形成される。カバー層4は、例えばPETフィルムをクリアフィルム層34の着色フィルム層33とは反対側の表面に貼り合せることで形成される。
【0046】
このように形成されるプライマー層32、着色フィルム層33、クリアフィルム層34及びカバー層4からなる積層体の膜厚は均一であることが好ましい。ここでの膜厚が均一であれば、この後形成される粘着シート1が、ライナー2のうねりに起因するうねりを有することとなっても、最終的に粘着シート1からライナー2を剥離して被着体に貼付すると、ゆず肌を生じない平坦な積層体3が得られることとなる。
【0047】
一方、図2(c)に示すように、図2(b)の積層体とは別に、紙シート21の一方面に第1の樹脂層22を、他方面に第2の樹脂層23を備えるライナー2の第1の樹脂層22上に、粘着層31を形成する。粘着層31は、例えばアクリル系粘着剤を第1の樹脂層22上に塗布することによって形成される。
【0048】
次に、図2(d)に示すように、上記で得られた、プライマー層32、着色フィルム層33、クリアフィルム層34及びカバー層4からなる積層体と、ライナー2とを、粘着層31を介して貼り合せる。そうすると、ライナー2は表面にうねりを有しているため、貼り合された後の積層体3は、ライナー2表面のうねりに沿って形成される。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る製造方法では、ライナー2と積層体3とを別個に形成し、それぞれを貼り合せることによって粘着シート1を作製する。したがって、粘着シート1はライナー2表面のうねりに起因するうねりを有しているが、積層体3が均一な膜厚で形成されていることによって、ライナー2を剥離して積層体3を平滑な被着体に貼付すると、積層体3の表面は、ライナー2上に形成されていたときより、すなわちライナー2表面よりも平滑になりゆず肌を生じない。結果として、被着体に対し、ゆず肌のない、極めて滑らかで高い光沢性のある装飾表面を持つ積層体3を得ることができる。」
・「【実施例】
・・・
【0051】
(粘着シートの作製)
実施例及び比較例では、以下の条件で調製した塩化ビニル溶液、プライマー溶液、粘着剤溶液及びクリア溶液を使用した。
【0052】
塩化ビニル溶液:カーボンブラック7重量部とポリエステル系可塑剤93重量部を混合して形成した着色混合溶液14重量部、塩化ビニルコンパウンド(ポリワン株式会社製、Geon 178)40重量部、光安定剤(株式会社 ADEKA製、アデカスタブ SC−1003)2重量部、耐候剤(BASF SE社製、Uvinul 3039)2重量部、炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製、ホワイトンSB赤)6重量部、及び溶剤(山一化学工業株式会社製、DIX−3MY ソルベント)35重量部を混合して、塩化ビニル溶液を調製した。
【0053】
プライマー溶液:アミン官能性アクリルポリマー(株式会社日本触媒製、ポリメントNK−350)30重量部に、溶剤として、トルエン20重量部及びイソプロピルアルコール50重量部を加え、プライマー溶液を調製した。
【0054】
粘着剤溶液:米国特許第4,737,577号明細書の感圧接着剤コポリマー製造方法に従って、90部のイソオクチルアクリレート、及び10部のアクリル酸を用いて溶液型のアクリル系感圧接着剤を調製した。このアクリル系感圧接着剤を米国特許第5,648,425号明細書に開示されているもののようなアジリジン架橋剤で固形分約25%に希釈して粘着剤溶液を調製した。
【0055】
クリア溶液:アクリルポリオール(ヴィヴァーゾ有限会社製、デスモフェン A565X)を60重量部、イソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製、#300 HARDNER)を20重量部、耐候剤(BASFジャパン株式会社製、Tinuvin B75)を1重量部、及び溶剤(日本乳化剤株式会社製、MFG−AC)12重量部を混合し、クリア溶液を調製した。
【0056】
[実施例1]
以下のステップに従って、装飾用である粘着シートを作製した。
【0057】
<ステップ1−1>
塩化ビニル溶液を、紙バッキングフィルム(PZ SCW200)上に塗布し、75℃から170℃に温度を徐々に上げながら約2分30秒間乾燥して、黒色塩化ビニルフィルムを得た。なお、紙バッキングフィルム(PZ SCW200)とは、塩化ビニル溶液を塗布するための、ラテックスを塗布した紙シートである。乾燥後の黒色塩化ビニルフィルムの厚みは、50.5μmであった。
【0058】
<ステップ1−2>
黒色塩化ビニルフィルム上に塩化ビニル溶液を塗布し、60℃から190℃に温度を徐々に上げながら約2分30秒間乾燥して、着色フィルム層を得た。乾燥後の着色フィルム層の総膜厚(ステップ1−1で得られたフィルムも含む)は、101μmであった。
【0059】
<ステップ1−3>
クリア溶液を、ステップ1−2で作製した着色フィルム層上に塗布し、90℃から100℃の温度で約3分間乾燥した。得られたクリアフィルム層の厚みは20μmであった。
【0060】
<ステップ1−4>
ステップ1−3で作製したクリアフィルム層上に厚み50μmのPETフィルム(TAG−50、ユニチカ(株)製)を貼り合わせた。
【0061】
<ステップ1−5>
上記紙バッキングフィルムを着色フィルム層から剥離した。
【0062】
<ステップ1−6>
プライマー溶液を、紙バッキングフィルムを剥離した後の着色フィルム層上に塗布し、120℃から160℃の温度で約30秒間乾燥した。
【0063】
<ステップ1−7>
粘着剤溶液を、凹凸構造が形成されているライナーの表面上に塗布し、60℃から90℃の温度で約3分間乾燥した。
・・・
【0065】
<ステップ1−8>
ステップ1−6で作製した積層体と、ステップ1−7で作製した粘着層付ライナーとを貼り合わせて、粘着シートを得た。」
・「【0079】
(粘着シートの評価)
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた粘着シートについて、以下の手順で粘着シートの特性を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
まず、硬質ガラス(コーティングテスター社製)上に、粘着シートからライナーを剥離したものを、布付きスキージを用いて貼り付けた。続いて、カバー層であるPETフィルムを剥離し、積層体の表面のゆず肌を、wave−scan DOI(BYK Gardner社製)を用いて測定した。wave−scan DOIは、5つの異なる波長範囲du(0.1mm未満)、Wa(0.1mm〜0.3mm)、Wb(0.3mm〜1mm)、Wc(1〜3mm)及びWd(3mm〜10mm)に対して、ゆず肌指数を0〜100の範囲で示す。このゆず肌指数が小さいほどゆず肌の程度が小さく、積層体表面の平滑性が高いことを意味する。
【0081】
また、積層体表面の60°光沢度を、グロスメーター GMX−203(株式会社 村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1からわかるように、実施例1〜3は、比較例1〜2と比較して、光沢度を同等に維持しつつ、0.3mmより長い波長において小さいゆず肌指数を示した。」
・【図1】




(イ)上記(ア)の特に実施例1に係る装飾用粘着シートに着目する。
着色フィルム層(33)が塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、カーボンブラックを含有していることは、自明である。そして、そのカーボンブラックの含有量は、段落【0052】の記載から、塩化ビニルコンパウンド100重量部に対して、2.45重量部と算出される(14×(100/40)×(7/100))。
着色フィルム層(33)の総膜厚は、装飾用粘着シートの作製途上では「101μm」とされるが(段落【0058】)、その後当該シート中の紙パッキングフィルムが剥離されるので、最終的な装飾用粘着シートの形態では、「101μm未満の特定の値」である。
クリアフィルム層(34)はアクリル系樹脂を含むことは明らかであり(段落【0055】)、その厚さは、20μmである(段落【0059】)。
以上を踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という)が記載されていると認められる。
「粘着層、着色フィルム層、及び、クリアフィルム層が順次積層され、
前記着色フィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、カーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックの含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、2.45重量部であり、
前記着色フィルム層の厚さは、101μm未満の特定の値であり、
前記クリアフィルム層の厚さは、20μmであり、
前記クリアフィルム層は、アクリル系樹脂を含有する、装飾用粘着シート。」
(ウ)甲1には、また、甲1発明に係る装飾用粘着シートを用いた物品に係る次の発明(以下「甲1−2発明」という)が記載されていると認めることができる。
「甲1発明に係る装飾用粘着シートをその粘着層を介して被着体に貼り付けてなる物品。」
(エ)甲1には、さらに、甲1発明に係る装飾用粘着シートの製造方法として、次の発明(以下「甲1−3発明」という)が記載されていると認めることができる。
「粘着剤溶液をライナーの表面に塗布して粘着層付ライナーを形成する工程(1)と、
カーボンブラックと塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する塩化ビニル溶液を得る工程(2)と、
前記塩化ビニル溶液から着色フィルム層を形成する工程(3)と、
前記着色フィルム層上にアクリル系樹脂を含有するクリア溶液を積層し、クリアフィルム層を形成する工程(4)と、
前記着色フィルム上に前記クリアフィルム層が形成された積層体と前記工程(1)で作製された粘着層付ライナーを貼り合わせる工程(5)とを有し、
前記工程(2)おいて、前記塩化ビニル溶液における前記カーボンブラックの含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、2.45重量部とされ、前記工程(3)において、前記着色フィルム層の厚さは、101μm未満とされ、前記工程(4)において、前記クリアフィルム層の厚さは、20μmとされる、装飾用粘着シートの製造方法。」
イ 甲2(特表2015−505895号公報)の記載事項
(ア)甲2には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの主表面上に剥離ライナによって保護されている接着層を有するポリ塩化ビニルフィルムを含む接着フィルムであって、前記ポリ塩化ビニルフィルムと前記接着層との間にプライマー層が配置され、前記プライマー層が、アミノプラスト及びポリエステル並びに/又はこれらの硬化物を含み、前記剥離ライナが、前記接着層と接触する前記主表面上に、少なくとも2つの面内方向に沿って一連の隆起部を含むことにより、前記隆起部が相互連結して、隆起部によって囲まれている多数の凹部を画定する接着フィルム。
・・・
【請求項11】
前記ポリ塩化ビニルフィルムが、白色又は黒色の有色フィルムである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の接着フィルム。
・・・
【請求項13】
前記接着フィルムが、前記接着層を含む前記主表面とは反対側の前記ポリ塩化ビニルフィルムの前記主表面上に透明なトップ層を含む、請求項12に記載の接着フィルム。
・・・
【請求項15】
前記基材が、平坦ではない表面を含み、前記接着フィルムが、前記平坦ではない表面に追従して全面貼合される、請求項14に記載の方法。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル(PVC)を原料とする接着フィルムに関する。具体的には、本発明は、グラフィックを作製するためのPVC接着フィルムに関する。したがって、本発明は、また、PVCを原料とする接着フィルムを用いて建造物又は乗り物等の基材にグラフィックを適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PVCを原料とする接着フィルムは、基材にグラフィック又は装飾を施すのに広く用いられている。例えば、接着フィルムは、バン、バス、電車、路面電車等の乗り物に広告、ロゴ、会社名、及び情報を提供するために用いられる。また、建造物に用いることもできる。典型的に、接着フィルムは、最長数年間という長期間にわたって定位置に留まらなければならない。したがって、フィルムで作製されるグラフィックは、非常に幅広い天候条件に曝される。特に、自動車のボンネット等の殆ど水平な表面上にフィルムを適用するいわゆる水平適用では、天候条件が特に厳しい場合がある。したがって、接着フィルムは、優れた耐候安定性及び表面への優れた接着特性を有する必要がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、平坦ではない表面又は複雑な形状を有する基材を含む基材に容易に適用することができる接着フィルムを見出すことが望ましい。したがって、フィルムは、優れた追従性を有し、持ち上がったり浮き上がったりする傾向が制限されていることが望ましい。望ましくは、フィルムは、優れた耐候安定性を有する。フィルムは、長期間にわたって使用した後で基材の表面に損傷を与えることなく容易に除去可能でなければならない。更に、フィルムの魅力ある外観は、実質的に経時的に変化しない、及び/又は複雑な基材上に適用している間にフィルムの延伸によって誘起される光沢又は色の変化の効果を最小限に抑えなければならない。」
・「【発明を実施するための形態】
【0013】
PVCフィルム
ポリ塩化ビニルフィルムは、典型的に、可塑化PVCである。PVCフィルムは、透明であってもよく、着色されていてもよい。1つの特定の実施形態では、接着フィルムは白色であり、少なくともポリ塩化ビニルフィルムが白色に着色されている及び/又はプライマー層が白色に着色されている。用いることができる白色顔料としては、二酸化チタン又は酸化亜鉛が挙げられる。別の実施形態では、接着フィルムは黒色であり、少なくともPVCフィルム及び/又はプライマー層が黒色に着色されている。PVCフィルム及び/又はプライマー層を黒色に着色するのに好適な顔料としては、カーボンブラックが挙げられる。更なる実施形態では、有色の金属光沢のある外観を含む金属光沢のある外観を有する接着フィルムを提供する。金属光沢のある外観の接着フィルムは、アルミニウムフレーク等の金属粒子を含むプライマー層によって提供することができる。PVCフィルムは、典型的に、金属光沢のある外観の接着フィルムの場合は透明である。更に、金属光沢効果に加えて、黒色又は白色以外の色等の色効果が望ましい場合、色顔料が典型的に、プライマー層に添加されてもよい。更なる実施形態では、PVCフィルムに色顔料を添加することによって、白色又は黒色以外の色を有する有色接着フィルムを提供することができる。このような場合、典型的に、薄い色の場合はプライマー層に白色顔料を添加し、濃い色の場合はプライマー層に黒色顔料を添加することが有利である。
【0014】
PVCフィルムの厚さは、広く変動し得るが、典型的には、少なくとも20マイクロメートルである。特定の実施形態では、PVCフィルムは、25〜100マイクロメートルの厚さを有し得る。別の実施形態では、厚さは、30マイクロメートル〜80マイクロメートル、又は30マイクロメートル〜60マイクロメートルであってよい。
【0015】
上述の通り、PVCフィルムは、白色顔料、黒色顔料、並びに/又は黒色及び白色以外の色顔料等の色顔料を含んでよい。PVCフィルムが色顔料を含む場合、前記色顔料は、PVC 100重量部当たり1〜100部の量でPVCフィルム中に含まれ得る。PVCフィルムは、更に、可塑化剤、UV安定剤、熱安定剤、アクリル樹脂、ポリエステル、界面活性剤、及びレオロジー調整剤等の任意成分を含んでよい。」
・「【0035】
本発明に係る接着層は、トポグラフィー構造化接着層であるか、又は少なくとも1つの微細構造化表面を有する接着層である。具体的には、接着層は、接着フィルムが適用される基材表面と接着層との間にチャネルのネットワークを有する。このようなチャネルの存在により、接着層を通って横方向に空気が通り抜けることができ、これにより、適用中の多層シート材及び表面基材の下から空気が逃げることができる。チャネルは、典型的に、接着フィルムの適用前に接着層を保護する剥離ライナの対応する隆起部を通じて接着層に作製される。したがって、剥離ライナに関する以下の詳細な説明を参照する。」
・「【0042】
任意の更なる層
接着フィルムは、特定の実施形態では、更なる層を含有してもよい。例えば、特定の実施形態では、接着層を有する主面とは反対側のPVCフィルムの面上に更なる透明なトップ層を設けてよい。このようなトップ層は、特に、自動車のボンネット上のようにフィルムが水平に適用される場合、接着フィルムの耐候性を強化する機能を有し得る。更に、トップ層は、大きなロールに巻き取られているときに接着フィルムを保護することができる。好適なトップ層は、コーティング、スクリーン印刷等を含む任意の一般的な適用方法によって適用され得る。典型的に、トップ層は、ポリマー樹脂を含む。好適な樹脂としては、PVC、アクリルポリマー、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、並びにこれらの組合せが挙げられる。トップ層の厚さは、広く変動し得るが、典型的には少なくとも0.5マイクロメートルである。特定の実施形態では、厚さは、1〜50マイクロメートルである。」
・「【0043】
製造方法
接着フィルムは、典型的に、任意のトップ層、PVC層、プライマー層、接着層、及び剥離ライナの順に、キャリアウェブ上に適用し、(ii)前記キャリアウェブを除去することを含む方法を用いて作製される。2層以上の接着フィルムを1つの適用工程で提供してもよい、及び/又は接着フィルムの個々の層を別個の適用工程で提供してもよい。製造方法で用いられるキャリアウェブとしては、典型的に、全ての層が適用されたときにキャリアウェブを剥がし、除去することができる剥離コーティングを備える紙又はフィルム裏材が挙げられる。キャリアウェブ上の好適な剥離コーティングとしては、特に、熱硬化性尿素樹脂及びアクリル樹脂が挙げられる。
・・・
【0045】
PVC層は、典型的に、PVCオルガノゾル組成物からキャリアウェブ(又は任意のトップ層)に適用される。典型的に、PVCオルガノゾル組成物は、好適な溶媒中にPVC、可塑化剤、及び更なる任意成分を含む。用いることができる典型的な溶媒としては、Solvesso、ブチルグリコール、Terapin(脂肪族、芳香族、及びナフテン酸炭化水素の混合物)、キシレン、及び酢酸エチル等の市販溶媒が挙げられる。一般的に、PVCオルガノゾルの適用後、適用されたPVC層を加熱する。一般的に、層は、30秒間〜240秒間、185℃〜210℃の温度に加熱される。次いで、PVC層上に、典型的に、有機溶媒中にアミノプラスト及びポリエステルに加えて顔料等の更なる成分を含む組成物からプライマー層が適用される。」
・「【0048】
使用方法
上記の通り接着フィルムは、典型的に、基材上にグラフィックを作製するために用いられる。グラフィックは、イメージグラフィック若しくはテキストメッセージ又はこれらの組合せであってよい。グラフィックは、任意のサイズを有してよいが、本発明に係る接着フィルムは、例えば、少なくとも1m2又は少なくとも2m2の領域にわたって延在する大きなサイズのグラフィックを作製するのに特に好適である。接着フィルムは、平坦ではない表面を有する基材に適用するのに特に好適である。一般的に、接着フィルムは、次いで、基材の平坦ではない表面に一致する。平坦ではない表面の例としては、凹部、リベット、又は湾曲領域を有する基材が挙げられる。接着フィルムは、非常に広範な基材に適用され得る。典型的な用途としては、特に、電車、バス、路面電車、自動車、バン、トラック、及び飛行機等のモータービークルを含む乗り物に加えて、建造物(外側又は内側)にフィルムを適用することが挙げられる。」
・「【0057】
C.引っ張り強度、伸び、及びE−弾性率
接着フィルム(剥離ライナなし)を、Zwick試験機(Zwick,UKから入手可能)を用いて引っ張り強度、伸び、及びE−弾性率について評価した。
【0058】
引っ張り及び伸び試験を、300mm/分の一定のクロスヘッド変位速度で100Nのロードセルを用いて実施した(ゲージ長さ100mm;サンプルの幅25.4mm)。E−弾性率を、5mm/分の変位速度、並びに0.5%の伸び(1)及び1%の伸び(2)で、0.5Nのロードセルを用いて測定した。」
・「【0064】
試料の調製
A.プライマー混合物の調製
以下の表に記載する量で成分をブレンドすることによって混合物を調製した。量は、固形分ではなく、実際の市販組成物を指す。
【0065】
1.黒色及び白色プライマー混合物
表1に示す量で成分をブレンドすることによって黒色及び白色プライマー混合物を調製した。・・・
【0066】
【表3】「


【0068】
【表4】「



「【0069】
B.接着フィルムの作製方法
以下に概説する一般的な手順に従って接着フィルムを調製した。
【0070】
第1の工程では、可塑化PVCオルガノゾルを、熱硬化性アルキド尿素樹脂の層を含むポリエステル又は紙を原料とするプレサイズキャリアウェブ上に注型成形した。コーティングを80℃の強制空気オーブン中で45秒間乾燥させ、195℃で60秒間融合させた。乾燥及び融合後のPVC層のコーティング厚さは、約50μmであった。黒色又は白色プライマー混合物を、乾燥したPVCフィルム上に注型成形した。コーティングを185℃の強制空気オーブン中で45秒間乾燥させた。乾燥したプライマー層のコーティング厚さは、約30μmであった。
【0071】
最後に、3M社から入手可能な市販のグラフィックフィルムSCOTCHCAL 3650上で用いられ、微細構造化剥離ライナ(3Mから入手可能なIJ40Cにおいて使用)上にコーティングされたアクリル感圧性接着剤を、研究室用ラミネータを用いてプライマー層に積層した。接着剤のコーティング厚さは、35μmであった。最後の工程において、キャリアウェブを除去した。
【0072】
黒色接着フィルムを作製するために、黒色顔料を含有する可塑化PVCオルガノゾルを黒色プライマー混合物と併用した。白色顔料を含有する可塑化PVCオルガノゾルを白色プライマー層と組み合わせて用いて、白色接着フィルムを作製した。透明な可塑化PVCオルガノゾルをシルバーメタリックのプライマー層と組み合わせて用いて、シルバーメタリックの接着フィルムを作製した。
【0073】
(実施例)
実施例1〜3及び比較例C−1
実施例1〜3では、それぞれ、上に概説した一般的な方法に従って白色、シルバーメタリック、及び黒色の接着フィルムを調製した。プライマー層を用いないことを除いて同じ方法で比較例C−1を作製した。C−1のPVC層の厚さは、80μmであった。接着フィルムの特性を評価し、試験結果を表3に記載する。上に概説した一般的手順に従って、未処理のアルミニウム試験パネル(Alu基材)、及びCerami Clear塗料でコーティングされたアルミニウム試験パネル(CC基材)上に接着フィルムを適用した。両基材において持ち上がりを評価した。Alu基材において除去を評価した。結果を表4に記載する。
【0074】
【表5】


(イ)上記(ア)から、甲2が開示する“接着フィルム”は、グラフィック作製用のものであって(段落【0001】)、ポリ塩化ビニルフィルム、プライマー層、接着層に加えて、透明なトップ層を設けてもよいことが理解される(【請求項14】等)。
“ポリ塩化ビニルフィルム”は、カーボンブラック、可塑剤を含有してもよいことが理解される(段落【0013】【0045】等)。そして、そのカーボンブラックの含有量は、PVC100重量部に対して、1〜100重量部とされる(段落【0015】)。
ポリ塩化ビニルフィルム、透明なトップ層の厚さは、それぞれ、20〜100μm(段落【0014】)、1〜50μm(段落【0042】)と理解できる。
透明なトップ層は、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂を含有し得るといえる(段落【0042】)。
以上を踏まえると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という)が記載されていると認められる。
「接着層、プライマー層、ポリ塩化ビニルフィルム、透明なトップ層がこの順で積層された接着フィルムであって、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、カーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックの含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1〜100重量部であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さは、20〜100μmであり、
前記透明なトップ層の厚さは、1〜50μmであり、
前記透明なトップ層は、塩化ビニル系樹脂、又は、アクリル系樹脂を含有する、グラフィック作製用接着フィルム。」
(ウ)甲2には、また、甲2発明に係るグラフィック作製用接着フィルムを用いた物品に係る次の発明(以下「甲2−2発明」という)が記載されていると認めることができる(【請求項15】等参照)。
「甲2発明に係るグラフィック作製用接着フィルムをその接着層を介して平坦ではない基材に貼り付けてなる物品。」
(エ)甲2の特に段落【0043】の記載も考慮すると、甲2発明に係る装飾用粘着シートの製造方法としての次の発明(以下「甲2−3発明」という)が記載されていると認めることができる。
「キャリアウェブ上に透明なトップ層、ポリ塩化ビニルフィルム、プライマー層、接着層の順に適用して前記キャリアウェブを除去する工程を有し、
前記ポリ塩化ビニルフィルムが塩化ビニル系樹脂及びカーボンブラックを含有し、前記カーボンブラックの含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、1〜100重量部であり、
前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さは、20〜100μmであり、
前記透明なトップ層の厚さは、1〜50μmであり、
前記透明なトップ層は、塩化ビニル系樹脂、又は、アクリル系樹脂を含有し、前記透明なトップ層の厚さは、1〜50μmである、グラフィック作製用接着フィルムの製造方法。」
ウ 甲3(特開平11−129411号公報)の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車両内装材料として用いられ、燃焼時に塩化水素ガスの発生を抑制し、機械的強度、接着性、熱安定性、耐候性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物から成形された車両内装用塩化ビニル系樹脂被覆層、及びこれと発泡ウレタンの層からなる積層体に関するものである。」
・「【0022】ヘッドレストの製造
・塩化ビニル系樹脂被覆層
試料(ペレット)を単軸押出機を用いて150〜160℃の条件で加熱混練を行い、円筒状に押し出された材料を2枚の金型で挟み、空気を吹き込んで金型の内壁に密着させると同時に冷却し、塩化ビニル系樹脂被覆層となる中空成形品を得た。
・積層体の製造
上記で得た被覆層を金型内に敷き、ポリオール混合液[ポリエーテルポリオール、触媒(トリエチレンジアミン)、発泡剤(水)、整泡剤(シリコーン)]とイソシアネート混合液[ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、プレポリマー]とを被覆層の注入口から流し込み、40〜50℃の加熱炉で6分間キュアーし、発泡ウレタン層を形成し、塩化ビニル系樹脂被覆層と発泡ウレタン層からなるヘッドレストを得た。」
・「【0025】・機械的強度の測定:
引張試験
上記で成形したヘッドレストの表皮を剥がし、JIS K6301のダンベル1号型で打ち抜き、40mmの標線を記入して試験片とした。これをショッパ式引張試験機により200mm/minの速さで引張り、試験片が破断するのに要する最大荷重及び破断時の標線間距離を測定し、引張強さ及び伸びを算出し、その結果を表1及び表2に示した。なお、従来の実績から被覆層として使用するのに問題のない値として、引張強さ8.0MPa以上、伸び250%以上を目標値と定めた。」
エ 甲4(特開2012−219216号公報)の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層の樹脂フィルムまたは2層以上の樹脂フィルムの積層体からなる樹脂フィルム材であって、エレメンドルフ引裂強度が7N以上であり、引張強度が40MPa以上であり、かつ高温引張強度が25MPa以上である樹脂フィルム材を備えた、自動車用外装面材。」
・「【0016】
樹脂フィルム材の伸び率は50〜1000%が好ましく、300〜500%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると良好な柔軟性が得られやすく、上限値以下であると良好な強度が得られやすい。
本発明における、樹脂フィルム材の「伸び率」の値は、JIS K7127により測定される値である。
樹脂フィルム材の厚さは特に制限はないが、好ましくは6〜500μmであり、10〜300μmがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると良好な強度が得られやすく、上限値以下であると良好な柔軟性が得られやすい。」
・「【実施例】
【0033】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明にかかる自動車用外装部材の例を説明するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
以下の例では、本発明における樹脂フィルム材として、含フッ素共重合体からなる単層の樹脂フィルムを用いた。
・・・
【0039】
[実施例1]
金属製の細板を用いて、屋根開閉式自動車用の幌の骨組み(フレーム)を形成した。上記で得た樹脂フィルム1、樹脂フィルム2、樹脂フィルム3、および樹脂フィルム4をそれぞれ、公知の方法で所定の形状に裁断し、所定の形状に貼り合わせた後、前記骨組みに展張して取り付け、屋根開閉式自動車用の幌を製造した。
【0040】
[実施例2]
金属製の細板を用いて、バンパー形状のフレームを形成した。上記で得た樹脂フィルム1、樹脂フィルム2、樹脂フィルム3、および樹脂フィルム4をそれぞれ、公知の方法で所定の形状に裁断し、所定の形状に貼り合わせた後、前記フレームに展張して取り付け、バンパーを製造した。」
オ 甲5(特開2010−264665号公報)の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装用途等に用いられる意匠性積層シート、およびこの意匠性積層シートで被覆した意匠性積層シート被覆金属板に関する。さらに詳しくは、加工性と本物のカーボンクロス強化樹脂材料に極めて近い意匠感を有する意匠性積層シート、およびこの意匠性積層シートで被覆した意匠性積層シート被覆金属板に関する。」
・「【0061】
D層には、上記濃色系の色味の付与、および、被覆される金属板などの視覚的隠蔽効果の付与の目的で顔料が添加される。使用される顔料種は上記目的のために一般的に用いられているもので良く、これらの添加量に関しても、上記目的に一般的に添加される量で良く、例えば顔料の添加量は、D層の樹脂成分の量を100質量部として、0.2〜60質量部程度である。顔料の一例としては、隠蔽効果が高く、かつ粒径が微細であることから樹脂被覆金属板の加工性に与える影響の少ないカーボンブラック顔料を用い、色味の調整のため有彩色の有機、無機の顔料を少量添加したものを用いることができる。
該顔料を添加する方法も公知の方法による事が出来るが、PETG樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂、架橋弾性体を含む柔軟性アクリル系樹脂に対しては、分散性を改良する為の分散媒を添加した顔料、少量の樹脂中に顔料を予備分散させた粉末顔料、樹脂中に顔料を練りこんだカラーマスターバッチなどが豊富に市販されており、この点も前述の樹脂種を用いる事が好ましい理由となっている。」
・「【0070】
C層表面へのカーボンクロス柄のエンボス意匠の付与方法としては、前記C層とD層が芳香族ポリエステル系樹脂より成る場合は、押出し製膜時のキャスティングロールとして通常の鏡面ロールに替えて、カーボンクロス調のエンボス柄が凹凸彫刻されたエンボスロールを用い、Tダイから熔融状態で流れ出た樹脂に直接エンボス柄を付与する方法、C層とD層からなる積層シートとして、国際公開WO2003/045690号パンフレットに記載された構成のものを用いる事などにより、エンボス加工装置への適性を持たせ、製膜したシートをオフラインで再加熱してエンボス柄を付与する方法、エンボス柄の転写無しで製膜したC層とD層の積層シートを金属板にラミネートする際の加熱でC層を再熔融させてエンボスロールで柄を転写し、その後にB層、およびA層を積層する方法、その他、熱可塑性樹脂シートにエンボスを付与する方法であれば、特に制限なく用いることができる。C層として芳香族ポリカーボネート系樹脂を用い、D層として架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を用いた場合は、その組み合わせ自体がオフラインでのエンボス加工装置によるエンボス付与適性を有しており、また、この時の加熱により両層を熱融着により積層一体化する事が出来る。
【0071】
上記のC層とD層が一体化された積層シートの、C層のエンボスが付与された側の表面に、B層を付与する方法としては、特に限定されるものではなく、粘度に応じて公知の方法に従い行うことができる。例えば、温度調節可能な二液供給装置、ミキサー、ダイコーターやスクイズ方式のコーター等を使用することにより、A層のシートの積層する側の表面に塗布によりB層を形成し、これをC層に貼り合わせる方法、あるいは一対のラミネートロールを用いA層とC層との間にB層の接着剤組成物を供給してバンクを形成し、接着剤の粘度やラインの速度、ラミネートロールのニップ圧、あるいは一対のロール間の間隙(ロールギャップ)を適宜調整する事で、C層表面に付与されたエンボスの凸部と、A層の積層される側の表面が直接接触する事がない厚みになるように連続的に接着剤組成物の層(B層)をA層とC層との間に付与する方法等を挙げる事が出来る。
しかる後に紫外線照射ランプをA層側表面より照射し、B層の硬化を行うものである。」
カ 甲6(特開2002−292798号公報)の記載事項
(ア)甲6には、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 JIS−K7105(1981)の測定方法に基づいて算出したヘイズが1.3未満である高透明フィルムの背面に、粒径が30nm未満で且つJIS−K6217(1997)によって算出したDBP吸収量が46cm3/100g以上であるカーボンブラックを重量部で全体の3〜65%の範囲となるように分散した黒色層が上記高透明フィルムと直接的に積層されていることにより、CIE(国際照明委員会)1976のL*a*b*表色系による物体色の測定方法に基づいて上記黒色層と高透明フィルムの接している部分において測定したL*が28未満、a*が−0.2以上、b*が−0.3以上となることを特徴とする漆黒感を有する加飾用フィルム。
・・・
【請求項3】 上記黒色層が裏打ちフィルムであり、該裏打ちフィルムと高透明フィルムとが熱圧着ラミネートされている請求項1記載の漆黒感を有する加飾用フィルム。」
・「【0001】
【発明の属する技術の分野】本発明は、自動車内外装品・建材・家具・家電製品・情報機器等に加飾を施す漆黒感を有する加飾用フィルムとこれを用いた漆黒感を有する加飾成形品の製造方法に関する。」
・「【0012】ただし、これらの条件を備えた加飾フィルムを用い、高透明フィルム側を表にして成形品上に一体化固定することにより十分な漆黒感を有する加飾成形品を常に得ることができるのは、加飾フィルムの黒色層と高透明フィルムと直接的に積層されている場合に限る。黒色層と高透明フィルムとの間に他の層が介在すると、その層の影響を受けるからである。また、カーボンブラックは、当然、着色層としての機能を果たすのに充分な量だけ黒色層の樹脂中に分散されなければならない。具体的には、上記条件のカーボンブラックを重量部で全体の3〜65%の範囲となるように分散する。3%未満であると加飾をするのに十分な隠蔽が得られないという問題がある。黒色層が印刷層である場合、インキ乾燥状態で65%を超えると、難分散によるインキ製造作業の低下、分散剤の使用によるコストアップや凝集破壊を招く上、印刷時にもバインダーの量が不足することで美麗な印刷を行なうことが出来ないという問題がある。また、黒色層が裏打ちフィルムである場合、65%を超えると、フィルムが脆くなるという問題がある。」
・「【0018】上記高透明フィルムとしては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の樹脂フィルム、あるいはこれらに透明な樹脂層を形成した総厚50〜200μmのフィルム中から、ヘイズ値に関し上記条件を満たすようなものを選択して使用する。
【0019】上記黒色層としては、グラビア、スクリーン、フレキソ、オフセット等の公知の印刷法を用いて形成した印刷層がある。印刷層に用いるバインダーとしては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アルキド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等を使用できる。
【0020】また、上記黒色層を裏打ちフィルムとし、該裏打ちフィルムと高透明フィルムとを熱圧着ラミネートするようにしてもよい。裏打ちフィルムの樹脂中に前記条件のカーボンブラックを含有させるには、Tダイからの押し出しによる既知の着色押し出しシート製造法に拠る。裏打ちフィルムに用いる樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂等を使用できる。」
・「【0023】また、必要に応じて上記高透明フィルムの最背面に接着層が積層されていてもよい。接着層は、ポリ塩化ビニル酢酸ビニル共重合体系樹脂、アクリル系樹脂、またはウレタン系樹脂などを用いるとよい。接着層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0024】次に、漆黒感を有する加飾成形品の製造方法を説明する。本発明の加飾成形品の製造方法は、上記した加飾用フィルムを用い、高透明フィルム側を表にして成形品上に一体化固定する(図3参照)ことによって行うが、その際、インサート成形法を用いて成形品の成形と同時に加飾を施すのが好ましい。
【0025】まず、加飾用フィルムを射出成形用金型の可動型の表面に高透明フィルム側を対向させてクランプ部材によりセットした後に、可動型と固定型との間に挿入した加熱板等で加飾用フィルムを加熱して軟化させ、次いで真空吸引等により加飾用フィルムを引き伸ばして射出成形用の可動型の凹部すなわちキャビティ形成面に沿うように立体形状に加工する。立体形状に加工する際、あるいはクランプ部材で加飾用フィルムを押さえ付けて固定する際に、加飾用フィルムの不要部分の打抜き加工をしてもよい。また、加飾用フィルムを射出成形用の可動型の表面にセットする前に、射出成形用の可動型と固定型とは別の立体加工成形用型を用い、立体加工成形用型の成形面前面に加飾用フィルムを間に介して配置した加熱板等で加飾用フィルムを加熱して軟化させ、次いで真空吸引等により加飾用フィルムを引き伸ばして可動型のキャビティ形成面に沿うように立体形状に加工したのち、射出成形用の可動型のキャビティ形成面に、立体加工された加飾用フィルムをはめ込むようにしてもよい。
【0026】次に、固定型に対して可動型を型閉めして溶融状態の成形樹脂を固定型のゲート部からキャビティ内に射出し、成形樹脂を固化させてキャビティ内で樹脂成形品を形成すると同時にその表面に加飾用フィルムを高透明フィルム側を表にして一体化固定させて、加飾成形品を得る。
【0027】その後、樹脂成形品を可動型から取り出したのち、樹脂成形品に接着した加飾用フィルムのうち不要な部分を除去する。なお、前述したようにあらかじめ所望の形状に打ち抜き加工していた場合には、加飾用フィルムの不要な部分を除去する作業は不要である。
【0028】成形樹脂は、特に限定されることはないが、例えば、コンソールボックス、センタークラスター、スイッチベースなどの自動車内装部品や携帯電話筐体などの通信機器部品に用いられる代表的な成形樹脂としては、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などが一般的に使用される。
【0029】なお、本発明の漆黒感を有する加飾成形品の製造方法は、インサート成形法を用いないで、あらかじめ成形された成形品上に上記した加飾用フィルムを接着剤等により貼着することもできる。その場合、成形品の材質は、上記した成形樹脂の他に、FRP、ステンレス鋼板、ガラス、木質材等を使用することができる。」
・「【0032】(実施例2)下記の高透明フィルムの背面に、熱圧着ラミネートにより下記の黒色裏打ちフィルムを圧着させて加飾用フィルムを作製した。
高透明フィルム:125μm厚アクリルフィルム
(住友化学株式会社製「R526」,ヘイズ[JIS−K7105(1981)]0.7)
黒色裏打ちフィルム:225μm厚押出しABSフィルム
ABS樹脂 96部
カーボンブラック 4部
(三菱化学株式会社製「♯1000」,
粒径18nm,
DBP吸収量[JIS−K6217(1997)]56cm3/100g)
得られた加飾用フィルムの上記黒色裏打ちフィルムと高透明フィルムの接している部分について、CIE(国際照明委員会)1976のL*a*b*表色系による物体色の測定方法に基づいてL*を測定したところ、L*=19.95、a*=+0.05、b*=+0.01であった。」
(イ)上記(ア)の特に実施例2に係る漆黒感を有する加飾用フィルムに着目する。
黒色裏打ちフィルム(2)がABS樹脂、及び、カーボンブラックを含有し、そのカーボンブラックの含有量は、ABS樹脂100重量部に対して、4.2重量部と算出される(4×(100/96))。
高透明フィルム(1)の最背面に接着層を積層することもできる(段落【0023】)。
黒色裏打ちフィルム(2)、高透明フィルム(1)の厚さは、それぞれ、225μm、125μmであるから、黒色裏打ちフィルム(2)の厚さに対する高透明フィルム(1)の厚さの比は、125/225、つまり0.56である。
以上を踏まえると、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という)が記載されていると認められる。
「接着層、黒色裏打ちフィルム、高透明フィルムがこの順で積層された加飾用フィルムであって、
前記黒色裏打ちフィルムは、ABS樹脂及びカーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックの含有量は、前記ABS樹脂100重量部に対して、4.2重量部であり、
前記黒色裏打ちフィルムの厚さは225μmであり、
前記高透明フィルムの厚さは125μmであり、
前記高透明フィルムは、アクリル系樹脂を含有し、
前記黒色裏打ちフィルムの厚さに対する前記高透明フィルムの厚さの比は0.56である、漆黒感を有する加飾用フィルム。」
(ウ)甲6には、また、甲6発明に係る漆黒感を有する加飾用フィルムを用いた加飾成形品に係る次の発明(以下「甲6−2発明」という)が記載されていると認めることができる(段落【0023】【0029】参照)。
「甲6発明に係る漆黒感を有する加飾用フィルムをその接着層を介して成形品に貼着してなる加飾成形品。」
(エ)甲6には、さらに、甲6発明に係る漆黒感を有する加飾用フィルムの製造方法として、次の発明(以下「甲6−3発明」という)が記載されていると認めることができる。
「カーボンブラックとABS樹脂から黒色裏打ちフィルムを形成する工程と、
アクリル系樹脂を含有する高透明フィルムを形成する工程と、
前記黒色裏打ちフィルムと前記高透明フィルムを圧着させる工程と、
前記高透明フィルムの最背面に接着層を積層する工程とを有し、
前記カーボンブラックの含有量は、前記ABS樹脂100重量部に対して、4.2重量部であり、
前記黒色裏打ちフィルムの厚さは225μmであり、
前記高透明フィルムは、アクリル系樹脂を含有し、前記カーボンブラックの含有量は、前記ABS系樹脂100重量部に対して、4.2重量部であり、前記高透明フィルムの厚さは125μmであり、
前記黒色裏打ちフィルムの厚さは225μmであり、
前記高透明フィルムは、アクリル系樹脂を含有し、前記高透明フィルムの厚さは、125μmであり、かつ、前記黒色裏打ちフィルムの厚さに対する前記高透明フィルムの厚さの比は、0.56である、漆黒感を有する加飾用フィルムの製造方法。」
(2)甲1発明を主たる引用発明とした進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「粘着層」、「着色フィルム層」、「クリアフィルム層」、「カーボンブラック」は、それぞれ、本件発明1の「粘接着剤層」、「ベースフィルム層」、「表面フィルム層」、「黒色顔料」に相当する。
甲1発明の「装飾用粘着シート」と本件発明1の「漆黒調加飾フィルム」は、「黒色の加飾フィルム」であるという点で一致する。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する、黒色の加飾フィルム。
<相違点1−1>
本件発明1は、「ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下」であり、「表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下」であり、「前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下」であるのに対して、甲1発明は、ベースフィルム(着色フィルム層)の厚さは、「101μm未満の特定の値」であり、表面フィルム層(クリアフィルム層)の厚さは、「20μm」である点。
<相違点1−2>
カーボンブラックの塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量は、本件発明1では、「0.5重量部以上、10重量部以下」であるのに対して、甲1発明では「2.45重量部」である点。
<相違点1−3>
本件発明1では、「表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上である」であるとされているのに対して、甲1発明では、表面フィルム層(クリアフィルム層)の全光線透過率の値が明らかでない点。
<相違点1−4>
本件発明1では、「80℃での伸張率が150%以上、500%以下」であるとされているのに対して、甲1発明では、80℃での伸張率が明らかでない点。
<相違点1−5>
「黒色の加飾フィルム」が、本件発明では「漆黒調加飾フィルム」であるのに対して、甲1発明では「装飾用粘着シート」である点。
(イ)上記相違点について検討する。
a 相違点1−1について
(a)甲1発明における表面フィルム層(クリアフィルム層)の厚さは、本件発明1のものよりも明らかに小さく、また、甲1発明におけるベースフィルム(着色フィルム層)の厚さの値も、本件発明1のものよりも小さいものと考えられる。
甲1発明についてのベースフィルム(着色フィルム層)の厚さに対する表面フィルム層(クリアフィルム層)の厚さの比は、明らかではない。そもそも、甲1発明は、当該比についての認識を欠くものである。
(b)甲1発明を開示する甲1には、「着色フィルム層33の厚みは、例えば20〜200μm又は50〜100μmである。」(段落【0035】)、「クリアフィルム層34の厚みは、例えば5〜50μm又は10〜30μmである。」(段落【0035】)とも記載されている。
しかし、このことを考慮しても、少なくとも、甲1発明に基づいて、表面フィルム層(クリアフィルム層)、ベースフィルム(着色フィルム層)双方の厚さを増して本件発明1の範囲にしつつ、ベースフィルム(着色フィルム層)の厚さに対する表面フィルム層(クリアフィルム層)の厚さの比を「0.5以上、1.0以下」とすることが、当業者にとって容易であるとはいえない。
本件発明1は、特にベースフィルムの厚さに対する表面フィルム層の厚さの比を「0.5以上、1.0以下」にしたことによって、光沢、成形性ともに十分になるようにしたものである。
(c)したがって、相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明において当業者が容易に採用し得たとはいえない。
b そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
イ 本件発明2〜4について 本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項を付加したものであるから、甲1発明と対比すれば、既に本件発明1と甲1発明との間に存在する相違点が存在するものである。
そして、その相違点についての判断は、既に上記ア(イ)で示したとおりであるのだから、本件発明2〜4も、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6を甲1−2発明と対比する。
甲1−2発明の「被着体」、「物品」は、それぞれ、本件発明6の「基材」、「加飾成形品」に相当する。また、甲1−2発明の「装飾用粘着シート」は、「被着体」を覆うものと理解できる。
また、既に上記ア(ア)で述べた、本件発明1と甲1発明を対比したときの相当関係がそのまま当てはまる。
そうすると、両発明の一致点は、次のとおりである。
<一致点>
「基材と、前記基材を覆う黒色の加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、
前記黒色の加飾フィルムは、前記粘接着剤層を介して前記基材に貼り付けられており、
前記黒色の加飾フィルムは、前記粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する、加飾成形品。」
そして、両発明の相違点は、本件発明1と甲1発明を対比したときの相違点1−1〜相違点1−5及び次の相違点1−6である。
<相違点1−6>
基材が、本件発明6では、「3次元曲面部を有する」ものとされており、加飾フィルムが当該3次元曲面部に貼り付けられて覆っているのに対し、甲1−2発明においては、この点明らかではない。
(イ)相違点について検討する。
本件発明6と甲1−2発明の間には本件発明1と甲1発明を対比したときの相違点1−1と同様な相違点が存在しており、既に上記ア(イ)で本件発明1について検討した結果を踏まえると、本件発明6も、甲1−2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たとはいえない。
エ 本件発明7について
(ア)本件発明7を甲1−3発明と対比する。
既に上記ア(ア)で述べた、本件発明1と甲1発明を対比したときの相当関係がそのまま当てはまる。
そして、甲1−3発明の「粘着剤溶液をライナーの表面に塗布して粘着層付ライナーを形成する工程」、「塩化ビニル溶液」、「アクリル系樹脂を含有するクリア溶液」は、それぞれ、本件発明7の「粘接着剤層を形成する工程」、「黒色樹脂組成物」、「塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両発明の一致点は、次のとおりである。
<一致点>
「粘接着剤層を形成する工程(1)と、
黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する黒色樹脂組成物を得る工程(2)と、前記黒色樹脂組成物からベースフィルム層を形成する工程(3)と、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物から表面フィルム層を形成する工程(4)とを有する、漆黒調加飾フィルムの製造方法。」
また、両発明の相違点は、上記相違点1−1、相違点1−4、相違点1−5、及び、次の相違点1−7〜相違点1−10である。
<相違点1−7>
本件発明7では、ベースフィルム層の形成が黒色樹脂組成物を粘接着剤層上に積層することによるものであるのに対して、甲1−3発明では、ベースフィルム(着色フィルム)は、その上に表面フィルム層(クリアフィルム層)が積層された態様で粘接着剤層(粘着層付ライナー)と貼り合わされるものである点。
<相違点1−8>
「黒樹脂組成物」が、本件発明7では、「黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して」なるものであるのに対して、甲1−3発明では、黒色顔料(カーボンブラック)と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するものである点。
<相違点1−9>
「黒色顔料」の含有量が、本件発明7では、「マスターバッチ全体」に対して「20〜25重量%」であり、かつ「黒色樹脂組成物における」含有量が「塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下」であるのに対して、甲1−3発明では、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、「2.45重量部」である点。
<相違点1−10>
工程(4)における樹脂組成物が、本件発明7では「表面フィルム層の全光線透過率が80%以上となる材料で構成される」とされているのに対して、甲1−3発明の樹脂組成物(クリア溶液)により表面フィルム層(クリアフィルム層)の全光線透過率の値がどのようなものとなるのか明らかでない点。
(イ)相違点について検討する。
本件発明7と甲1−3発明の間には本件発明1と甲1発明を対比したときの相違点1−1と同様な相違点が存在しており、既に上記ア(イ)で本件発明1について検討した結果を踏まえると、本件発明7も、甲1−3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たとはいえない。
オ 小括
以上をまとめると、本件発明1〜4、6、7は、甲1発明、甲1−2発明又は甲1−3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
(3)甲2発明を主たる引用発明とした新規性進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「接着層」、「ポリ塩化ビニルフィルム」、「透明なトップ層」、「可塑化剤」、「カーボンブラック」は、それぞれ、本件発明1の「粘接着剤層」、「ベースフィルム層」、「表面フィルム層」、「可塑剤」、「黒色顔料」に相当する。
甲2発明の「グラフィック作製用接着フィルム」と本件発明1の「漆黒調加飾フィルム」は、「黒色の加飾フィルム」であるという点で一致する。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する、黒色の加飾フィルム。
<相違点2−1>
本件発明1では、「ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下」であり、「表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下」であり、「前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下」であるのに対して、甲2発明では、ベースフィルム層(ポリ塩化ビニルフィルム)の厚さは、「20〜100μm」であり、表面フィルム層(透明なトップ層)の厚さは、「1〜50μm」である点。
<相違点2−2>
カーボンブラックの塩化ビニル系樹脂100重量部に対する含有量は、本件発明1では、「0.5重量部以上、10重量部以下」であるのに対して、甲2発明では「1〜100重量部」である点。
<相違点2−3>
本件発明1では、「表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上である」であるとされているのに対して、甲2発明では、表面フィルム層(透明なトップ層)の全光線透過率の値が明らかでない点。
<相違点2−4>
本件発明1では、「80℃での伸張率が150%以上、500%以下」であるとされているのに対して、甲2発明では、80℃での伸張率が明らかでない点。
<相違点2−5>
「黒色の加飾フィルム」が、本件発明では「漆黒調加飾フィルム」であるのに対して、甲2発明では「グラフィック作製用接着フィルム」である点。
(イ)相違点について検討する。
a 相違点2−1について
(a)甲2発明のベースフィルム層(ポリ塩化ビニルフィルム)の厚さも、表面フィルム層(透明なトップ層)の厚さも、本件発明1の下限値以下である。
甲2発明としてベースフィルム層(ポリ塩化ビニルフィルム)の厚さに対する表面フィルム層(透明なトップ層)の厚さの比について特に示唆されるものでもない。
この厚さの比だけをとらえても、相違点2−1は、実質的なものであり、本件発明1は、甲2発明ではない。
(b)本件発明1は、ベースフィルム層の厚さ、表面フィルム層の厚さ、及び前者に対する後者の厚さの比を漆黒度合、輝度感、成形性等の観点から限定したものといえるが、甲2発明は、そもそも、漆黒度合、輝度感といった要素に着目したものではない。
したがって、相違点2−1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲2発明において当業者が容易に採用し得たものではない。
b そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
イ 本件発明2〜4について 本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項を付加したものであるから、甲2発明と対比すれば、既に本件発明1と甲2発明との間に存在する相違点が存在するものである。
そして、その相違点についての判断は、既に上記ア(イ)で示したとおりであるのだから、本件発明2〜4も、本件発明1と同様に、甲2発明と同一ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6を甲2−2発明と対比する。
甲2−2発明の「平坦ではない基材」、「物品」は、それぞれ、本件発明6の「3次元曲面部を有する基材」、「加飾成形品」に相当する。また、甲2−2発明の「グラフィック作製用接着フィルム」は、「平坦ではない基材」を覆うものと理解できる。
また、既に上記ア(ア)で述べた、本件発明1と甲2発明を対比したときの相当関係がそのまま当てはまる。
そうすると、両発明の一致点は、次のとおりである。
<一致点>
「3次元曲面部を有する基材と、前記3次元曲面部を覆う黒色の加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、
前記黒色の加飾フィルムは、前記粘接着剤層を介して前記3次元曲面部に貼り付けられており、
前記黒色の加飾フィルムは、前記粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する、加飾成形品。」
また、両発明の相違点は、本件発明1と甲2発明を対比したときの相違点2−1〜相違点2−5と同じである。
(イ)相違点について検討する。
本件発明6と甲2−2発明の間には本件発明1と甲2発明を対比したときの相違点2−1と同様な相違点が存在しており、既に上記ア(イ)で本件発明1について検討した結果を踏まえると、本件発明6も、甲2−2発明ではないし、甲2−2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。
エ 本件発明7について
(ア)本件発明7を甲2−3発明と対比する。
甲2−3発明が、接着層を形成する工程、ポリ塩化ビニルフィルムを形成する工程、透明なトップ層を形成する工程を有することは自明である。
甲2−3発明のポリ塩化ビニルフィルムが、カーボンブラックと塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する黒色の樹脂組成物を用意して、それから形成されるものであることも自明である。
さらに、既に上記ア(ア)で述べた、本件発明1と甲2発明を対比したときの相当関係がそのまま当てはまる。
そうすると、両発明の一致点は、次のとおりである。
<一致点>
「粘接着剤層を形成する工程(1)と、黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有する黒色樹脂組成物を得る工程(2)と、前記黒色樹脂組成物からベースフィルム層を形成する工程(3)と、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物から表面フィルム層を形成する工程(4)とを有する、漆黒調加飾フィルムの製造方法。」
また、両発明の相違点は、本件発明1と甲2発明を対比したときの相違点2−1、相違点2−4、相違点2−5及び次の相違点2−6〜相違点2−9である。
<相違点2−6>
本件発明7では、ベースフィルム層の形成が黒色樹脂組成物を粘接着剤層上に積層することによるものであり、表面フィルム層の形成が当該ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層することによるものであるのに対して、甲2−3発明では、キャリアウェブ上に透明なトップ層、ポリ塩化ビニルフィルム、プライマー層、接着層の順に適用して前記キャリアウェブを除去するものである点。
<相違点2−7>
「黒樹脂組成物」が、本件発明7では、「黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して」なるものであるのに対して、甲2−3発明では、黒色顔料(カーボンブラック)と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するものである点。
<相違点2−8>
「黒色顔料」の含有量が、本件発明7では、「マスターバッチ全体」に対して「20〜25重量%」であり、かつ「黒色樹脂組成物における」含有量が「塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下」であるのに対して、甲2−3発明では、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、「1〜100重量部」である点。
<相違点2−9>
工程(4)における樹脂組成物が、本件発明7では「表面フィルム層の全光線透過率が80%以上となる材料で構成される」とされているのに対して、甲2−3発明のアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物により表面フィルム層(透明なトップ層)の全光線透過率の値がどのようなものとなるのか明らかでない点。
(イ)相違点について検討する。
本件発明7と甲2−3発明の間には本件発明1と甲2発明を対比したときの相違点2−1と同様な相違点が存在しており、既に上記ア(イ)で本件発明1について検討した結果を踏まえると、本件発明7も、甲2−3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たとはいえない。
オ 小括
以上をまとめると、本件発明1〜4、6は、甲2発明、甲2−2発明又は甲2−3発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当しないし、また、本件発明1〜4、6、7は、甲2発明、甲2−2発明又は甲2−3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
(4)甲6発明を主たる引用発明とした進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲6発明を対比する。
甲6発明の「接着層」、「黒色裏打ちフィルム」、「高透明フィルム」、「カーボンブラック」は、それぞれ、本件発明1の「粘接着剤層」、「ベースフィルム層」、「表面フィルム層」、「黒色顔料」に相当する。
甲6発明の「ABS樹脂」と本件発明1の「塩化ビニル系樹脂」は、「樹脂」であるという点で一致する。
甲6発明の「漆黒調加飾フィルム」は、本件発明1の「漆黒調加飾フィルム」に相当する。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、前記ベースフィルム層は、樹脂、及び、黒色顔料を含有し、前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する、漆黒調加飾フィルム。
<相違点6−1>
ベースフィルムが含有する「樹脂」が、本件発明1では、「塩化ビニル系樹脂」であって、さらに「可塑剤」も含有するのに対して、甲6発明では、「ABS系樹脂」である点。
<相違点6−2>
本件発明1では、「ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下」であり、「表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下」であり、「前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下」であるのに対して、甲6発明では、ベースフィルム層(黒色裏打ちフィルム)の厚さは、「225μm」であり、表面フィルム層(高透明フィルム)の厚さは、「125μm」であり、ベースフィルム層(黒色裏打ちフィルム)の厚さに対する表面フィルム層(高透明フィルム)の厚さの比は、「0.56」である点。
<相違点6−3>
カーボンブラックの樹脂100重量部に対する含有量は、本件発明1では、「0.5重量部以上、10重量部以下」であるのに対して、甲6発明では「4.2重量部」である点。
<相違点6−4>
本件発明1では、「表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上である」であるとされているのに対して、甲6発明では、表面フィルム層(高透明フィルム)の全光線透過率の値が明らかでない点。
<相違点6−5>
本件発明1では、「80℃での伸張率が150%以上、500%以下」であるとされているのに対して、甲6発明では、80℃での伸張率が明らかでない点。
(イ)相違点について検討する。
a 相違点6−1について
甲6発明は、本件発明1と同様に漆黒感が得られるものであるものの、本件発明1でいうような成形性に着目したものではない。そして甲6には、ベースフィルム層たる黒色裏打ちフィルムに用いられる樹脂として、「アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂等を使用できる。」(段落【0020】)と記載されているが、この記載を考慮しても、ポリ塩化ビニル系樹脂を可塑剤と共に用いることが示唆されるものではない。
そうすると、甲6発明においてABS樹脂に変えてポリ塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を採用することには、当業者にとっての積極的な動機が欠けているというべきである。
したがって、相違点6−1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲6発明において当業者が容易に採用し得たとはいえない。
b そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。
イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項を付加したものであるから、甲6発明と対比すれば、既に本件発明1と甲6発明との間に存在する相違点が存在するものである。
そして、その相違点についての判断は、既に上記ア(イ)で示したとおりであるのだから、本件発明2〜4も、本件発明1と同様に、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6を甲6−2発明と対比する。
甲6−2発明の「成形品」は、本件発明6の「基材」に相当する。また、甲6−2発明で「加飾用フィルム」を「成形品」に「貼着してなる」態様と本件発明6で「加飾フィルム」が「基材」の「3次元曲面部」を「覆」って「貼り付けられて」いる態様は、「黒色の加飾フィルム」が「基材に貼り付けられた」ものであるという点で一致する。
また、既に上記ア(ア)で述べた、本件発明1と甲6発明を対比したときの相当関係がそのまま当てはまる。
そうすると、両発明の一致点は、次のとおりである。
<一致点>
「基材と、前記基材に貼り付けられた黒色の加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、
前記黒色の加飾フィルムは、前記粘接着剤層を介して前記基材に貼り付けられており、
前記黒色の加飾フィルムは、前記粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、前記ベースフィルム層は、樹脂、及び、黒色顔料を含有し、前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する、加飾成形品。」
また、両発明の相違点は、本件発明1と甲6発明を対比したときの相違点6−1〜相違点6−5及び次の相違点6−6である。
<相違点6−6>
基材が、本件発明6では、「3次元曲面部を有する」ものであって、加飾フィルムが当該3次元曲面部に貼り付けられて覆っている点。
(イ)相違点について検討する。
本件発明6と甲6−2発明の間には本件発明1と甲6発明を対比したときの相違点6−1と同様な相違点が存在しており、既に上記ア(イ)で本件発明1について検討した結果を踏まえると、本件発明6も、甲6−2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たとはいえない。
エ 本件発明7について
(ア)本件発明7を甲6−3発明と対比する。
既に上記ア(ア)で述べた、本件発明1と甲6発明を対比したときの相当関係がそのまま当てはまる。
甲6−3発明の「前記高透明フィルムの最背面に接着層を積層する工程」は、本件発明7の「接着層を形成する工程」に相当する。
甲6−3発明の「カーボンブラックとABS樹脂から黒色裏打ちフィルムを形成する工程」は、黒色樹脂組成物を得ることを前提としたものであるといえるから、本件発明7の「黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程」と、「黒色顔料と樹脂とを含有する黒色樹脂組成物を得る工程」である点で共通する。
甲6−3発明の「カーボンブラックとABS樹脂から黒色裏打ちフィルムを形成する工程」は、また、本件発明7の「前記黒色樹脂組成物を前記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程」と、「前記黒色樹脂組成物」で「ベースフィルム層を形成する工程」であるという点で共通する。
甲6−3発明の「アクリル系樹脂を含有する高透明フィルムを形成する工程」と本件発明7の「前記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程」は、「塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物」で「表面フィルム層を形成する工程」であるという点で一致する。
そうすると、両発明の一致点は、次のとおりである。
<一致点>
「粘接着剤層を形成する工程(1)と、黒色顔料と樹脂とを含有する黒色樹脂組成物を得る工程(2)と、前記黒色樹脂組成物でベースフィルム層を形成する工程(3)と、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物で表面フィルム層を形成する工程(4)とを有する、漆黒調加飾フィルムの製造方法。」
また、両発明の相違点は、本件発明1と甲6発明を対比したときの相違点6−1、相違点6−2、相違点6−5、及び、次の相違点6−7〜相違点6−10である。
<相違点6−7>
本件発明7では、ベースフィルム層の形成が黒色樹脂組成物を粘接着剤層上に積層することによるものであり、表面フィルム層の形成が当該ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層することによるものであるのに対して、甲6−3発明では、ベースフィルム層(黒色裏打ちフィルム)と表面フィルム層(高透明フィルム)を圧着させる工程を有し、表面フィルム層(高透明フィルム)の最背面に接着層を積層する工程とを有している点。
<相違点6−8>
「黒樹脂組成物」が、本件発明7では、「黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して」なるものであるのに対して、甲6−3発明では、黒色顔料(カーボンブラック)とABS樹脂とを含有するものである点。
<相違点6−9>
「黒色顔料」の含有量が、本件発明7では、「マスターバッチ全体」に対して「20〜25重量%」であり、かつ「黒色樹脂組成物における」含有量が「塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下」であるのに対して、甲6−3発明では、ABS樹脂100重量部に対して「4.2重量部」である点。
<相違点6−10>
工程(4)における樹脂組成物が、本件発明7では「表面フィルム層の全光線透過率が80%以上となる材料で構成される」とされているのに対して、甲6−3発明の樹脂組成物で表面フィルム層(高透明フィルム)の全光線透過率の値がどのようなものとなるのか明らかでない点。
(イ)相違点について検討する。
本件発明7と甲6−3発明の間には本件発明1と甲6発明を対比したときの相違点6−1と同様な相違点が存在しており、既に上記ア(イ)で本件発明1について検討した結果を踏まえると、本件発明7も、甲6−3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たとはいえない。
オ 小括
以上をまとめると、本件発明1〜4、6、7は、甲6発明、甲6−2発明又は甲6−3発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

実施可能要件、サポート要件、明確性について
(1)「漆黒調」について(明確性実施可能要件
「漆黒」とは、「漆のように黒くて光沢のあること」(広辞苑第六版)をいうことは明らかであり、これは、特許権者の、「漆黒調」について、意見書で「表面光沢を有する黒色を指し、黒色の漆塗り用の色調である」とする説明とも整合する。
また、「黒みの深さ」についても、その漆黒調の光沢と黒色の視覚的な奥行きをいうことは明らかである。
したがって、これらの用語の使用により、特許請求の範囲及び明細書の記載要件を欠くというものではない。
(2)「表面フィルム層とベースフィルム層のそれぞれの厚さの比及び評価試験」について(実施可能要件、サポート要件、明確性
ア 評価方法
成形後の外観評価は、明細書の段落【0078】で120℃で真空・圧空成形(TOM成形)により伸張率100%で基材に貼り付けて行うことが記載されていて、評価基準が明示されている。また、比較例4と比較例5は、ベースフィルム層と表面フィルム層の厚さが大きく異なり、「厚さの比」のみが相違するのではない。よって、評価方法は客観的である。
イ 比較例5と実施例4の成形性
表面フィルム層の厚さ及びベースフィルムの層の厚さに対する表面フィルム層の厚さの比という要素も成形性に寄与するものであり、実施例4と比較例5の評価試験の結果の違いは、これらの要素に起因するものと理解できるから、比較例5と実施例4の成形性の評価結果に矛盾はない。
ウ 曲面形状への成形性
曲面形状への成形性が明細書の段落【0079】でできあがったフィルムを100%以上伸長させてABS樹脂製のスマートフォン用カバーを用いた基材の3次元曲面部の形状に追従するか確認したことが記載されており、また、本件特許の図2にスマートフォン用カバーに貼り付けた例が示されているから、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
エ 表面フィルム層とベースフィルム層の厚さ
本件訂正による本件発明1は、表面フィルム層の厚さが50μm〜150μmと特定されている。
本件訂正によって、表面フィルム層とベースフィルム層のいずれもが300μmの態様は除外され、本件発明1は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
(3)製法発明(明確性
本件訂正前の請求項7の記載における黒色顔料の含有量等の発明特定事項は、製造方法の何を特定しようとするものなのか明確でなかったが、本件訂正により明確なものとなった。
(4)黒色顔料の含有量(実施可能要件
本件訂正前の明細書の段落【0068】【0069】の記載からでは表1の実施例1が得られなかったが、本件訂正により表1の実施例が得られるものとなった。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許の明細書及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号並びに、同条第6項第1号及び同条同項第2号に規定する要件を満たすものである。

3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由
申立人は、請求項1、3、6に係る発明に対し、甲1に基づく新規性に係る理由を申し立てている。
しかし、本件発明1、3、6と、甲1発明、甲1−2発明とは、いずれも上記1(2)で述べたように、少なくとも相違点1−1で相違するから、本件発明1、3、6は、甲1発明、甲1−2発明ではなく、申立人の甲1に基づく新規性に係る理由は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1〜4、6、7に係る特許は、特許権者に通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものではなくなった。
また、本件請求項5は、本件訂正により削除された。本件請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】 漆黒調加飾フィルム、加飾成形品、及び、漆黒調加飾フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆黒調加飾フィルム、加飾成形品、及び、漆黒調加飾フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材(被着体)に漆黒調の意匠を付与するために、基材に黒色塗料を塗装し、その上にクリアー塗料で塗装を行う方法が用いられてきた。しかし、塗装に手間がかかること、塗料を乾燥する時間がかかることから、基材に漆黒調加飾フィルムを貼り付ける方法が提案されている。漆黒調加飾フィルムに関係する先行技術を開示した文献としては、例えば、特許文献1及び2が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、所定の全光線透過率の表面フィルム、黒色色素を添加した粘着剤層、少なくとも片面に金属層が形成された金属層保持フィルム、透明または黒色に調色された粘着剤層、及び、黒色のベースシートが、この順で積層されてなる漆黒調加飾用シートが開示されている。また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂、所定量の有機系黒色染料、及び、所定量のポリアルキレンテレフタレートを必須成分として含有し、有機系黒色染料する樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−40022号公報
【特許文献2】特開2012−126776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、漆黒調加飾フィルムを、平坦面だけでなく、3次元曲面に対しても貼り付けることが検討されている。漆黒調加飾フィルムの支持体であるベースフィルム層には、透明性が高いことから、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート樹脂等が用いられることが多いが、3次元曲面部を有する基材の形状に追従させることは困難であった。また、光沢を出すために、フィルムの表面に紫外線(UV)硬化樹脂を塗工し、UVコーティングすることも考えられるが、追従性が不充分であった。そのため、任意の3次元曲面に対して、漆黒塗装品と同等の外観と、追従できる伸長性を備えた漆黒調加飾フィルムが求められていた。
【0006】
なお、フィルムの成形温度(貼り付け時の温度)を高くすれば、フィルムがより軟化するので、3次元曲面への追従性を向上させることが可能である。しかしながら、成形温度を高くした場合には、基材に変形等の損傷が加わるおそれがあった。このため、3次元曲面への貼り付け加工は低温で行うことが求められていた。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、漆黒塗装品と同等の外観を有し、かつ、3次元曲面部への貼り付け加工にも適した漆黒調加飾フィルム、該漆黒調加飾フィルムを用いて得られる加飾成形品、及び、該漆黒調加飾フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、漆黒調の外観を再現するための方法を検討し、厚さが100μm以上、300μm以下のベースフィルム層に、黒色顔料を0.5重量部以上、10重量部以下で含有させることで、深みのある黒を実現できることを見出した。更に、ベースフィルム層上に全光線透過率が80%以上であり、所定の厚さの表面フィルム層を設けることで、フィルムの表面に光沢を与え、漆黒塗装品と同等の外観を有する漆黒調加飾フィルムが得られることを見出した。そして、上記ベースフィルム層に、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を用い、表面フィルム層に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を用いることで、比較的低温(約120℃)での成形性が良好であり、3次元曲面部への貼り付けに適した漆黒調加飾フィルムが得られ、漆黒調加飾フィルムを3次元曲面部へ貼り付けても、漆黒塗装品と同等の外観を維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の漆黒調加飾フィルムは、粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、上記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、上記黒色顔料の含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、上記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、上記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有し、上記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、上記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.3以上、1.0以下であることを特徴とする。
【0010】
上記アクリル系樹脂は、ポリメタクリル酸メチルであることが好ましい。
【0011】
上記黒色顔料は、カーボンブラックであることが好ましい。
【0012】
上記漆黒調加飾フィルムは、80℃での引張強度が1〜30MPaであることが好ましい。
【0013】
上記漆黒調加飾フィルムは、80℃での伸張率が150%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の加飾成形品は、3次元曲面部を有する基材と、上記3次元曲面部を覆う加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、上記加飾フィルムは、本発明の漆黒調加飾フィルムであり、上記粘接着剤層を介して上記3次元曲面部に貼り付けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明の漆黒調加飾フィルムの製造方法は、粘接着剤層を形成する工程と、黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程と、上記黒色樹脂組成物を上記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程と、上記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程とを有し、上記マスターバッチ全体に対する、上記黒色顔料の含有量は、20〜25重量%であり、上記黒色樹脂組成物における上記黒色顔料の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、上記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、上記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、上記ベースフィルム層の厚さに対する上記表面フィルム層の厚さの比は、0.3以上、1.0以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の漆黒調加飾フィルムは、漆黒塗装品と同等の外観を有し、かつ、3次元曲面部への貼り付け加工に適している。また、本発明の加飾成形品は、従来の加飾フィルムでは意匠を付与することが困難であった3次元曲面部を含む基材に対して、本発明の漆黒調加飾フィルムを貼り付けることによって、高品位の黒を付与することを可能としたものである。更に、本発明の漆黒調加飾フィルムの製造方法は、漆黒塗装品と同等の外観を有し、かつ、3次元曲面部への貼り付け加工に適した漆黒調加飾フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の漆黒調加飾フィルムの一例を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の加飾成形品の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の漆黒調加飾フィルムは、粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、上記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、上記黒色顔料の含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、上記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、上記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有し、上記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、上記ベースフィルム層の厚さに対する上記表面フィルム層の厚さの比は、0.3以上、1.0以下であることを特徴とする。
【0019】
図1は、本発明の漆黒調加飾フィルムの一例を模式的に示した断面図である。図1に示した漆黒調加飾フィルム10は、粘接着剤層12、ベースフィルム層13、及び、表面フィルム層14が順に積層されている。更に、加飾フィルム10は、粘接着剤層12のベースフィルム層13と反対側に、セパレーター11を有してもよい。
【0020】
[セパレーター]
セパレーター11を設けることにより、漆黒調加飾フィルム10の製造、運搬、保存中に粘接着剤層12が露出しないようにして、粘接着剤層12の劣化防止や、漆黒調加飾フィルム10の取扱い性向上が可能となる。セパレーター11は、基材への貼付の直前に剥離すればよい。
【0021】
セパレーター11としては特に限定されないが、粘接着剤層12を損傷することなく容易に剥離できるものが好適であり、離型フィルムであっても、離型紙であってもよい。上記離型フィルムとしては、例えば、樹脂フィルムに易剥離処理が施された樹脂フィルムが挙げられる。上記樹脂フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等のフィルムが挙げられる。上記易剥離処理は、例えば、上記樹脂フィルムの粘接着剤層12と接触する面に、シリコーン樹脂又はフッ素樹脂等を塗布する方法等が挙げられる。上記離型紙としては、例えば、上質紙又はグラシン紙等の紙に、シリコーン樹脂又はフッ素樹脂等を塗布したものが挙げられる。セパレーター11の厚さは、12〜200μmであることが好ましく、50〜150μmであることがより好ましい。
【0022】
[粘接着剤層]
粘接着剤層12は、粘着機能(感圧接着性)及び接着機能の少なくとも一方を有するものであれば特に限定されない。粘着剤層12は、初期タック力(ベタツキ)が高く、基材に貼り付けた後も濡れた状態を保ち、剥離が容易である粘着剤と、初期タック力が低く、基材に貼り付けた後に固体化し、剥離し難い接着剤との両方の性質を備えていることが好ましく、初期タック力に優れ、かつ、基材に貼り付け後に固体化し基材から剥離し難いものであってもよい。粘接着剤層12に用いる粘着剤は、特に限定されず、常温で粘着力を発現する粘着剤であってもよいし、加熱することで粘着力を発現するホットメルト粘着剤であってもよい。真空・圧空成形等に用いる観点からは、粘接着剤層12は、ホットメルト接着剤を含有するものが好ましい。ホットメルト接着剤は、溶剤を含有しないため、真空・圧空成形による漆黒調加飾フィルム10の貼り付けに好適である。上記ホットメルト接着剤としては、例えば、ポリエステル系ホットメルト接着剤、アクリル系ホットメルト接着剤、ゴム系ホットメルト接着剤、シリコーン系ホットメルト接着剤等が挙げられる。
【0023】
上記ホットメルト接着剤の軟化温度は、60℃以上、120℃以下であることが好ましい。上記ポリエステル系ホットメルト接着剤は、飽和ポリエステル樹脂を主成分とした溶剤型接着剤であり、その軟化温度は、通常、60〜100℃程度であることから、比較的低温(120℃以下)で加工できる塩化ビニル系樹脂を含有するベースフィルム層13と組み合わせて用いことができる。上記ポリエステル系ホットメルト接着剤としては、例えば、日立化成ポリマー社製ハイボン7663等が挙げられる。
【0024】
粘接着剤層12の厚さは、10〜60μmが好ましい。上記厚さが10μm未満では、充分な粘着性を得ることができない場合があり、上記厚さが60μmを超えると、粘着性がさほど向上しない。粘接着剤層12のより好ましい厚さは、20〜50μmである。
【0025】
[ベースフィルム層]
ベースフィルム層13は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有する。ベースフィルム層13の樹脂成分として塩化ビニル系樹脂を用いることにより、比較的低温(約120℃)で漆黒調加飾フィルム10を基材に貼り付ける際(成形時)に、3次元曲面部の形状への優れた追従性(成形性)が得られるという利点がある。また、塩化ビニル系樹脂を含有するフィルムは、伸びがよく、破断し難いことから、3次元曲面部への貼り付けが容易である。
【0026】
上記塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと他の単量体との共重合体を挙げることができる。
【0027】
上記他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、スチレン等のオレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸ジエステル;フマル酸ジブチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸ジエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記他の単量体の上記共重合体における含有量は、通常、50重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。50重量%を超えると、表面フィルム層14の耐屈曲性が低下するおそれがある。上記塩化ビニル系樹脂のなかでも、寸法安定性が得られる点から塩化ビニルの単独重合体が好ましい。
【0029】
上記塩化ビニル系樹脂の平均重合度は特に限定されないが、750〜1300であることが好ましく、より好ましい上限は1050である。上記平均重合度が750〜1300の範囲内であると、比較的低温での成形性が特に良好である。これに対して、上記平均重合度が1300を超えると、成形時の3次元曲面部の形状への追従性が不十分となるおそれがある。
【0030】
上記可塑剤としては特に限定されず、従来から塩化ビニル系樹脂に配合されているものを用いることができ、例えば、フタル酸オクチル(ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP))、フタル酸ジブチル、フタル酸ジノニル等のフタル酸ジエステル;アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸ジエステル;トリクレジルホスフエート、トリオクチルホスフエート等のリン酸トリエステル;エポキシ化大豆油、エポキシ樹脂等のエポキシ系可塑剤;高分子ポリエステル可塑剤等を挙げることができる。
【0031】
上記高分子ポリエステル可塑剤としては、例えば、フタル酸のポリエチレングリコールジエステル、ポリプロピレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジエステル等のポリアルキレングリコールジエステル;アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族二塩基酸のポリエチレングリコールジエステル、ポリプロピレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジエステル等のポリアルキレングリコールジエステルを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記可塑剤の数平均分子量は、350〜3000であることが好ましい。上記数平均分子量が350未満では、可塑剤が粘接着剤層12に移行しやすく、接着力の低下を引き起こすことがある。一方、上記数平均分子量が3000を超えると、可塑剤の添加によりフィルムを柔軟にする効果が充分に得られず、表面フィルム層14が硬くなり過ぎることで、成形時にフィルムが破れてしまうおそれがある。
【0033】
ベースフィルム層13における、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10重量部以上、25重量部以下であることが好ましい。上記含有量の範囲内であれば、比較的低温での成形性が特に良好である。上記含有量が10重量部未満では、ベースフィルム層13が硬くなり過ぎることで、成形時にフィルムが破れてしまうおそれがある。一方、25重量部を超えると、ベースフィルム層13が柔らかくなり過ぎることで、基材の端部に漆黒調加飾フィルム10が食い込まず、剥がれ易くなるおそれがある。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は15重量部であり、より好ましい上限は、23重量部である。
【0034】
上記黒色顔料は、ベースフィルム層13を黒色に着色するために添加される。顔料は、染料に比べて耐候性に優れるため、着色料として、顔料を用いることで、漆黒調加飾フィルム10は、幅広い使用環境を選択することができる。
【0035】
上記黒色顔料は、無機顔料であることが好ましい。なかでも、カーボンブラックであることがより好ましい。カーボンブラックは、黒色顔料の中でも入手が容易であり、一次平均粒子径等により色味を調整しやすいため、好適に用いられる。なお、染料であるアニリンブラックは、カーボンブラックよりも漆黒性は高いが、耐候性が劣るため、カーボンブラックが好適である。
【0036】
上記黒色顔料の一次平均粒子径は、10nm以上、20nm以下であることが好ましい。上記黒色顔料の一次平均粒子径が上記範囲内であると、分散性に優れ、より優れた漆黒調を得ることができる。上記範囲内では、一次平均粒子径が小さいほど、分散性が高くなるため、より漆黒性が増す傾向がある。一次平均粒子径が20nmを超えると、漆黒性が劣り、白っぽくなることがある。なお、一次平均粒子径とは、凝集していない一次粒子の平均粒子径をいう。
【0037】
上記黒色顔料の含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下である。上記黒色顔料の含有量が0.5重量部未満では、漆黒調加飾フィルム10の隠蔽性が低く、3次元曲面部を有する基材に漆黒調加飾フィルム10を貼り付けた際に、基材の色が透けてしまう。また、漆黒調加飾フィルム10を折り曲げた場合に、漆黒調の色味を維持できない。一方、上記黒色顔料の含有量が10重量部を超えると、上記黒色顔料の含有量を増やしても、漆黒調加飾フィルム10の漆黒調の色味の差はほとんど視認できなくなる。更に、上記黒色顔料の含有量を増やしすぎると、上記黒色顔料が凝集してフィルム表面に異物として現れ、外観不良の原因となる。
【0038】
ベースフィルム層13は、更に、黒色以外の顔料を含有してもよい。黒色以外の顔料としては、例えば、赤色顔料、青色顔料等が挙げられる。これらの顔料を含有することで、漆黒調の色味を調整することができる。
【0039】
ベースフィルム層13は、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収材、滑剤、改質剤、無機粒子や無機繊維等の充填剤、希釈剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤としては、塩化ビニル系樹脂に一般的に配合されるものを使用することができる。
【0040】
上記安定剤としては、例えば、脂肪酸カルシウム、脂肪酸亜鉛、脂肪酸バリウム等の金属石ケン;ハイドロタルサイト等が挙げられる。上記金属石ケンの脂肪酸成分としては、例えば、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、リシノール酸バリウム等が挙げられる。また、上記安定剤としては、エポキシ系安定剤;バリウム系安定剤;カルシウム系安定剤;スズ系安定剤;亜鉛系安定剤;カルシウム−亜鉛系(Ca−Zn系)、バリウム−亜鉛系(Ba−Zn系)等の複合安定剤も使用することができる。
【0041】
上記安定剤を含有する場合、その含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.3〜5.0重量部が好ましい。上記含有量が0.3重量部未満では、安定剤を配合することによる効果が充分に発揮されない場合があり、一方、上記含有量が5.0重量部を超えると、安定剤がブルーム(噴き出し)するおそれがある。
【0042】
また、上記紫外線吸収材を含有する場合、その含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.3〜2.0重量部が好ましい。上記含有量が0.3重量部未満では、あまり効果がなく、一方、上記含有量が2.0重量部を超えると、ベースフィルム層13の表面にブリードするおそれがある。
【0043】
ベースフィルム層13の厚さは、100μm以上、300μm以下である。上記厚さが100μm未満では、漆黒調加飾フィルム10を基材に貼り付けた際に、充分な漆黒調の色味を維持できない。一方、上記厚さが300μmを超えると、成形時の3次元曲面部の形状への追従性が不充分となる。上記厚さの好ましい下限は、150μmであり、好ましい上限は、250μmである。
【0044】
[表面フィルム層]
表面フィルム層14は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する。すなわち、表面フィルム層14は、ポリ塩化ビニルフィルム(PVCフィルム)又はアクリルフィルムと一般に呼ばれるものであってもよい。表面フィルム層14に塩化ビニル系樹脂又はアクリル樹脂を用いることにより、高い透明性と比較的低温(約120℃)での良好な成形性を得ることができる。なお、ここでの「比較的低温」とは、塩化ビニル系樹脂及びアクリル樹脂以外の透明樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート)を成形する場合の成形温度と比べて低温であることを意味している。黒色のベースフィルム層13に重ねることで、漆黒調加飾フィルム10の表面に光沢を付与することができるため、表面フィルム層14には高い透明性が求められる。また、比較的低温での良好な成形性とは、漆黒調加飾フィルム10を加熱しながら基材に貼り付ける際(成形時)に、3次元曲面部の形状への追従性に優れることを指す。
【0045】
表面フィルム層14は、可塑剤を含有していてもよい。表面フィルム層14における、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10重量部以上、25重量部以下であることが好ましい。上記可塑剤の含有量の好ましい下限は15重量部であり、好ましい上限は23重量部である。表面フィルム層14中の可塑剤は、組成、数平均分子量、含有量等の点で、ベースフィルム層13中の可塑剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
表面フィルム層14に用いる塩化ビニル系樹脂としては、組成及び平均分子量等の点で、ベースフィルム層13中の塩化ビニル系樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
上記アクリル系樹脂としては、アクリル酸アルキルの重合体が挙げられる。なかでも、カレンダー加工性が有利である観点から、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が好ましい。上記アクリル系樹脂は、PMMAの単重合体であってもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲で他のアクリル樹脂を含むものであってもよい。
【0048】
上記表面フィルム層14は、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収材、滑剤、改質剤、無機粒子や無機繊維等の充填剤、希釈剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤としては、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂に一般的に配合されるものを使用することができる。
【0049】
表面フィルム層14の厚さは、30μm以上、150μm以下であることが好ましい。表面フィルム層14の厚さが上記範囲内であると、成形性に優れ、ベースフィルム層13に追従することができるため、加飾成形後にも漆黒塗装品と同等の外観を維持することができる。表面フィルム層14の厚さが30μm未満であると、カレンダー成形を用いた場合に均一なフィルムを製膜できないことがある。一方、表面フィルム層14の厚さが150μmを超えると、加飾成形するための加工温度を高くする必要がある。市販されているアクリルフィルムとしては、例えば、三菱レイヨン株式会社製 アクリプレンHBS006等が挙げられる。
【0050】
表面フィルム層14の全光線透過率は、80%以上である。ベースフィルム層13上に全光線透過率が80%以上の表面フィルム層14を配置することで、表面に光沢をもたせ、ベースフィルム層13の黒色をより際立たせることができる。上記全光線透過率が80%未満であると、漆黒調加飾フィルム10の表面の光沢が不充分となる。上記全光線透過率の好ましい下限は、85%である。上記全光線透過率は、JIS K 7105に準拠した方法で測定する。なお、表面フィルム層14は、高い透明性を得るために、平坦な表面を有することが好ましいが、上記全光線透過率が80%以上であれば、本発明に用いる表面フィルム層14として、充分な表面平滑性を有すると判断することができる。
【0051】
ベースフィルム層13の厚さに対する表面フィルム層14の厚さの比は、0.3以上、1.0以下である。上記比が0.3未満であると、3次元曲面形状に追従した時に表面フィルムの厚さが薄くなり、光沢が不十分となる。一方、上記比が1を超えると、表面フィルム層14の厚さが厚くなり、成形性が不十分となる。特に、曲面形状の基材端部への食い込みが不十分となる。上記厚さの比の好ましい下限は0.5であり、好ましい上限は0.8である。
【0052】
本発明の漆黒調加飾フィルム10には、表面フィルム層14、ベースフィルム層13、粘接着剤層12及びセパレーター11以外に、例えば、プライマー層等の他の層が設けられていてもよい。
より簡易な構成で漆黒調の外観を得る観点からは、粘接着剤層12とベースフィルム層13と表面フィルム層14との間に他の層は介さず、粘接着剤層12とベースフィルム層13が接することが好ましく、また、ベースフィルム層13と表面フィルム層14とが接することが好ましい。
【0053】
漆黒調加飾フィルム10は、80℃での引張強度が1〜30MPaであることが好ましい。80℃での引張強度が1〜30MPaであれば、3次元曲面部への貼り付けに好適である。上記引張強度が1MPa未満であると、3次元曲面部に追従できずに破断するおそれがある。上記引張強度が30MPaを超えると、フィルムが硬いために3次元曲面部に追従できないおそれがある。上記引張強度は、JIS K 7161に準拠した方法で測定することができる。具体的には、引張試験機を用いて、漆黒調加飾フィルム10の試験片を80℃の環境下で1分放置する。その後、測定温度80℃で、試験片を速度200mm/minで引っ張り、試料が切断(破断)したときの強度を測定する。
【0054】
漆黒調加飾フィルム10は、80℃での伸張率が150%以上であることが好ましい。伸張率が150%以上であると、3次曲面部を有する基材の形状に充分に追従することができる。80℃での伸張率の好ましい上限は、500%である。80℃での伸張率が500%を超えると、漆黒調加飾フィルム10のコシが不充分となり、加熱成形を行う際に、漆黒調加飾フィルム10が垂れて加工し難くなるおそれがある。また、基材に貼り付けた後に、漆黒調加飾フィルム10が浮いてきたり、剥がれ易くなるおそれがある。上記伸張率は、下記式(1)で求めることができる。下記式(1)中、Laは、引張試験を行う前の試験片の長さであり、Lbは、引張試験において試験片が破断した際の時の試験片の長さである。
伸張率(%)={(Lb−La)/La}×100 (1)
【0055】
本発明の漆黒調加飾フィルムは、ベースフィルム層を形成する際に、黒色顔料をマスターバッチとして添加する製造方法を利用して用いて製造することができる。すなわち、粘接着剤層を形成する工程と、黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程と、上記黒色樹脂組成物を上記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程と、上記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程とを有し、上記マスターバッチ全体に対する、上記黒色顔料の含有量は、20〜25重量%であり、上記黒色樹脂組成物における上記黒色顔料の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、上記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、上記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、上記ベースフィルム層の厚さに対する上記表面フィルム層の厚さの比は、0.3以上、1.0以下である漆黒調加飾フィルムの製造方法もまた、本発明の一態様である。
【0056】
粘接着剤層12を形成する工程は、特に限定されず、例えば、セパレーター11上に直接バーコーター等を用いて、粘着剤組成物を塗工し、乾燥させる方法等の従来公知の方法を用いることができる。粘接着剤層12がホットメルト接着剤を含有する場合、例えば、セパレーター11上にホットメルトアプリケータ等を用いて塗布して形成してもよいし、別途用意した支持体に一旦塗布した後、転写して形成してよい。
【0057】
上記マスターバッチは、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の公知の混練機等を用いて、黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを溶融混練して作製することができる。上記黒色顔料を予めマスターバッチに加工して、ベースフィルム層13を形成することで、黒色顔料がベースフィルム層13中で凝集することを防ぎ、ベースフィルム層13中に均一に分散させることができる。
【0058】
上記マスターバッチ全体に対する、黒色顔料の含有量は、20〜25重量%である。上記含有量が20重量%未満であると、得られる漆黒調加飾フィルム10の隠蔽性が低く、3次元曲面部を有する基材に漆黒調加飾フィルム10を貼り付けた際に、基材の色が透けてしまうことがある。一方で、上記含有量が25重量%を超えると、上記黒色顔料が凝集して均一に分散できないおそれがある。
【0059】
上記マスターバッチ全体に対する、塩化ビニル系樹脂の含有量は、25〜30重量%であってもよい。また、上記マスターバッチ全体に対する、上記可塑剤の含有量は、45〜50重量%であってもよい。
【0060】
本発明の漆黒調加飾フィルムの製造方法は、上記マスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程を有する。上記マスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合することで、上記黒色顔料の含有量が、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下である黒色樹脂組成物を得ることができる。上記黒色樹脂組成物は、上記可塑剤の含有量が、上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10重量部以上、25重量部以下であってもよい。上記黒色樹脂組成物を用いることで、上述のベースフィルム層13を形成することができる。
【0061】
本発明の漆黒調加飾フィルムの製造方法は、上記黒色樹脂組成物を上記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程を有する。上記工程としては、例えば、上記黒色樹脂組成物を、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の従来公知の成形法によってフィルム状に成形し、得られたフィルムを粘接着剤層12上に積層する方法が挙げられる。上記カレンダー成形に用いられるカレンダー形式としては、例えば、逆L型、Z型、直立2本型、L型、傾斜3本型等が挙げられる。
【0062】
本発明の漆黒調加飾フィルムの製造方法は、上記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程を有する。上記工程としては、例えば、上記樹脂組成物を、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の従来公知の成形法によってフィルム状に成形し、得られたフィルムをベースフィルム層13上に積層する方法が挙げられる。上記カレンダー成形に用いられるカレンダー形式としては、例えば、逆L型、Z型、直立2本型、L型、傾斜3本型等が挙げられる。このような方法により、本発明の漆黒調加飾フィルム10を製造することができる。本発明の漆黒調加飾フィルム10は、更に、必要に応じて、裁断、ロール状への巻き取り等の処理が行われる。
【0063】
本発明の漆黒調加飾フィルム10の用途は特に限定されず、種々の基材に貼り付けて用いることができる。本発明の漆黒調加飾フィルム10によれば、塗装よりも簡易かつ安全な方法で、漆黒塗装品と同等の外観を基材に付与することができる。また、漆黒調加飾フィルム10は、従来の加飾フィルムでは装飾することが困難であった3次元曲面部を有する基材の表面であっても装飾できることから、3次元曲面部を有する基材を装飾するのに特に適している。すなわち、3次元曲面部を有する基材と、上記3次元曲面部を覆う加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、上記加飾フィルムは、上記漆黒調加飾フィルムであり、上記粘接着剤層を介して上記3次元曲面部に貼り付けられている加飾成形品もまた、本発明の一態様である。
【0064】
上記基材の材質は、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)系樹脂等の樹脂;鉄、銅、アルミニウム等の金属;合金等が挙げられる。なかでも、樹脂基材に漆黒調加飾フィルム10を貼り付ければ、樹脂基材を用いる利点を得つつ、漆黒調の外観を得ることができることから、利用価値が高い。上記基材の種類は特に限定されないが、例えば、携帯電話用カバー、自動2輪車用部品、車両用内装部品、建造物の壁面等の建築材料等が挙げられる。
【0065】
漆黒調加飾フィルム10を基材に貼り付ける方法としては、セパレーター11を剥がした後、例えば、真空成形、圧空成形、真空・圧空成形、インモールド成形、フィルムインサート成形、ラミネート等により、基材に貼り付けることができる。なかでも、真空・圧空成形が好適に用いられる。具体的には、真空・圧空成形機として、TOM成形機(布施真空社製、NGF−0406)を使用し、ヒーターの加熱温度80〜140℃で、上記基材に、漆黒調加飾フィルム10を貼り付ける。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
[粘接着剤層の形成]
厚さ100μmのセパレーター(東レ株式会社製、ルミラー)の一方の面に、コンマバーコーターを用いて、乾燥厚さが40μmとなるようにホットメルト接着剤(日立化成ポリマー社製、ハイボン7663)を塗工し、塗膜を形成した。上記塗膜を乾燥炉にて80℃で1分間、加熱乾燥することによって、塗膜中の溶剤を除去し、粘接着剤層を形成した。
【0068】
[ベースフィルム層の形成]
まず、黒色顔料を含有するマスターバッチを作成した。バンバリーミキサーを用いて、マスターバッチ全体の重量に対して、黒色顔料を25重量%、平均重合度1000のポリ塩化ビニル25重量%、可塑剤としてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOP)50重量%を溶融混練して、マスターバッチを作製した。上記黒色顔料としては、一次平均粒子径が13nmのカーボンブラックを用いた。
【0069】
次に、得られたマスターバッチを用いつつ、平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部と可塑剤と黒色顔料との配合比を下記表1に示した通りに調整し、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、黒色樹脂組成物を得た。得られた黒色樹脂組成物を、カレンダー加工によりフィルム状に加工し、上記粘接着剤層に積層して厚さ100μmのベースフィルム層を形成した。
【0070】
[表面フィルム層の形成]
平均重合度1000のポリ塩化ビニルと、可塑剤としてのDOP(ジェイプラス社製)とを、下記表1に示した配合比に調整し、バンバリーミキサーで3〜5分間溶融混練し、PVCコンパウンドを得た。得られたPVCコンパウンドを、カレンダー加工によりフィルム状に加工し、上記ベースフィルム層に積層して、厚さ80μmの表面フィルム層を形成した。
【0071】
以上により、実施例1の漆黒調加飾フィルムを得た。実施例1の漆黒調加飾フィルムの構成を下記表1に示す。
【0072】
(実施例2)
実施例2では、表面フィルム層として、アクリル系樹脂を含有するフィルムを用いた点以外は、実施例1と同様にして実施例2の漆黒調加飾フィルムを作製した。表面フィルム層は、アクリル系樹脂を含有するフィルムとして、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム(三菱レイヨン株式会社製、アクリプレンHBS006)を用いた。上記PMMAフィルムの全光線透過率は93%、厚さは50μmであった。上記PMMAフィルムをベースフィルム層上に、熱ラミネートにより積層し、表面フィルム層を形成した。これにより、実施例2の漆黒調加飾フィルムを得た。
【0073】
(実施例3〜8、及び比較例1〜7)
実施例1と同様にして、下記表1及び2に示した構成の漆黒調加飾フィルムを作製した。なお、粘接着剤層は、全て実施例1と同様のものを用いた。
【0074】
(評価試験)
実施例及び比較例で作製した漆黒調加飾フィルムについて、下記の方法により、(1)引張強度、(2)伸張率、(3)成形前の外観、(4)成形後の外観、及び、(5)曲面形状への成形性を評価した。その結果を下記表1及び2に示した。
【0075】
(1)引張強度
漆黒調加飾フィルムを縦15cm、横2.5cmに切断し、80℃の環境下で1分放置した。その後、セパレーターを剥離し、試験片とした。引張試験機(島津製作所社製、AG−100NXplus)を用いて、JIS K 7162に準拠した方法で引張試験を行い、試験片が破断した際の引張張力(MPa)を測定した。測定温度は80℃、引張速度は200mm/minであった。上記引張強度が1〜30MPaであれば、3次元曲面部への貼り付けに好適である。
【0076】
(2)伸張率
伸張率は、上記引張試験で得た引張強度を用いて、下記式(1)によって求めた。下記式(1)中、Laは、引張試験を行う前の試験片の長さであり、Lbは、引張試験において試験片が破断した際の時の試験片の長さである。伸張率が150%以上であると、3次曲面部を有する基材の形状に充分に追従することができる。
伸張率(%)={(Lb−La)/La}×100 (1)
【0077】
(3)成形前の外観
漆黒度合(黒味の深さ)、輝度感(表面の光沢)を目視で確認し、黒色塗料を用いた塗装品との外観の違いを以下の基準で評価した。
○:漆黒度合及び輝度感に差がない。
△:輝度感に差はないが、漆黒度合が劣る。
×:漆黒度合及び輝度感が劣る。
【0078】
(4)成形後の外観
漆黒調フィルムからセパレーターを剥がし、真空・圧空成形(TOM成形により伸張率100%で基材に貼り付けた。その後、漆黒度合(黒味の深さ)、輝度感(表面の光沢)を目視で確認し、成形前の漆黒調フィルムとの外観の違いを以下の基準で評価した。基材としては、ABS樹脂製のスマートフォン用カバーを用いた。
○:漆黒度合及び輝度感に変化がない。
△:基材の色は確認できないものの、漆黒度合及び輝度感が低下した。
×:漆黒度合及び輝度感が低下し、基材の色が確認できた。
【0079】
(5)曲面形状への成形性
700mm×700mmに切断した漆黒調加飾フィルムからセパレーターを剥離し、成形温度120℃で真空・圧空成形(TOM成形)により、3次元曲面部を有する基材へ貼り付け、100%以上伸長して3次元曲面部の形状に追従するか否かに基づき、以下の基準で判定した。基材としては、ABS樹脂製のスマートフォン用カバーを用いた。
○:基材の端部までフィルムが追従しており、フィルムの破れ、剥がれがない。
△:基材の端部までフィルムが追従しているが、破れがある。
×:基材の端部までフィルムが追従せず、剥がれている。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表1及び2から分かるように、実施例1、4〜7の漆黒調加飾フィルムは、引張強度、伸張率、成形前後の外観、及び、成形性のいずれについても良好な結果であった。実施例2及び3は、実施例1と比較すると、表面フィルム層の厚さが薄いため成形後の光沢がやや低下し、実施例8は、実施例1と比較すると、黒色顔料の一次平均粒子径が大きいため分散性が低く、成形前後の外観がやや低下したものの、漆黒塗装品と同等の外観を有し、かつ、3次元曲面部への貼り付け加工に適した漆黒調加飾フィルムが得られた。一方、比較例1の漆黒調加飾フィルムは、表面フィルム層の全光線透過率が70%と低いため、成形前後の外観が劣っていた。比較例2は、黒色顔料の含有率が低いため、漆黒度合が低かった。比較例3は、黒色顔料の含有量が多いため、黒色顔料の凝集が起こり、漆黒度合が低くなったと考えられる。比較例4及び5は、ベースフィルム層の厚さに対する表面フィルム層の厚さの比が0.3未満であるため、成形性が不充分であった。比較例6は、ベースフィルム層が薄いため、成形後に充分な漆黒調の色味を維持できなかった。比較例7は、ベースフィルム層が厚いため、成形性が不充分であった。
【符号の説明】
【0083】
10 漆黒調加飾フィルム
11 セパレーター
12 粘接着剤層
13 ベースフィルム層
14 表面フィルム層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘接着剤層、ベースフィルム層、及び、表面フィルム層が順に積層され、
前記ベースフィルム層は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び、黒色顔料を含有し、
前記黒色顔料の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下であり、
前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下であり、
前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下であり、
前記表面フィルム層は、塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有し、
前記表面フィルム層の全光線透過率は、80%以上であり、
前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下であり、
80℃での伸張率が150%以上、500%以下であることを特徴とする漆黒調加飾フィルム。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂は、ポリメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1に記載の漆黒調加飾フィルム。
【請求項3】
前記黒色顔料は、カーボンブラックであり、前記可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、10重量部以上、25重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆黒調加飾フィルム。
【請求項4】
前記漆黒調加飾フィルムは、80℃での引張強度が1〜30MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の漆黒調加飾フィルム。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
3次元曲面部を有する基材と、前記3次元曲面部を覆う加飾フィルムとを備える加飾成形品であって、
前記加飾フィルムは、請求項1〜4のいずれかに記載の漆黒調加飾フィルムであり、前記粘接着剤層を介して前記3次元曲面部に貼り付けられていることを特徴とする加飾成形品。
【請求項7】
粘接着剤層を形成する工程(1)と、
黒色顔料と塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを含有するマスターバッチに、更に塩化ビニル系樹脂を混合して黒色樹脂組成物を得る工程(2)と、
前記黒色樹脂組成物を前記粘接着剤層上に積層し、ベースフィルム層を形成する工程(3)と、
前記ベースフィルム層上に塩化ビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を含有する樹脂組成物を積層し、表面フィルム層を形成する工程(4)とを有し、
前記工程(2)において、前記マスターバッチ全体に対する、前記黒色顔料の含有量は、20〜25重量%であり、かつ前記黒色樹脂組成物における前記黒色顔料の含有量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上、10重量部以下とされ、
前記工程(3)において、前記ベースフィルム層の厚さは、100μm以上、300μm以下とされ、
前記工程(4)において、前記樹脂組成物は、前記表面フィルム層の全光線透過率が80%以上となる材料で構成され、前記表面フィルム層の厚さは、50μm以上、150μm以下とされ、かつ前記ベースフィルム層の厚さに対する前記表面フィルム層の厚さの比は、0.5以上、1.0以下とされ、
80℃での伸張率が150%以上、500%以下の漆黒調加飾フィルムが製造されることを特徴とする漆黒調加飾フィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-22 
出願番号 P2016-100713
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 藤井 眞吾
久保 克彦
登録日 2020-02-25 
登録番号 6666196
権利者 バンドー化学株式会社
発明の名称 漆黒調加飾フィルム、加飾成形品、及び、漆黒調加飾フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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