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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C01B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01B |
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管理番号 | 1384033 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-26 |
確定日 | 2022-03-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6699336号発明「AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法、該AEI型アルミノケイ酸塩を用いたプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6699336号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜12〕について訂正することを認める。 特許第6699336号の請求項1、4〜12に係る特許を維持する。 特許第6699336号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6699336号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜12に係る特許についての出願は、平成28年5月10日に特許出願され、令和2年5月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。 その後、その請求項1〜12に係る特許に対して、令和2年11月26日に特許異議申立人岩部英臣(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和3年3月18日付けで取消理由が通知され、同年5月21日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)がされ、先の訂正請求に対して、同年6月18日に申立人により意見書の提出がされ、同年8月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月18日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に対して、同年11月26日に申立人により意見書の提出がされたものである。 なお、本件訂正請求がされたので、先の訂正請求は、特許法第120条の5第7項に規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容(訂正事項) 本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1〜12を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「(c)カリウム源、セシウム源、ストロンチウム源、及びバリウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源又は/及びアルカリ土類元素源、」とあるのを、「(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜12も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、「前記混合物中の、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子、ストロンチウム原子、及びバリウム原子の合計のモル比が、0.05以上であり、」とあるのを、「前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であり、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜12も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に、「前記混合物中の、ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子、ストロンチウム原子、及びバリウム原子の合計のモル比が、0.12以上であり、」とあるのを、「前記混合物中の、ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.20以上0.50以下であり、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜12も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に、「前記混合物中の、ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の合計のモル比が0.25以上であること」とあるのを、「前記混合物中の、ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比が0.25以上0.42以下であること」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜12も同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1〜3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1〜4のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1又は4に記載の」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1〜5のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、4、5のいずれか1項に記載」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項7に、「前記混合物中のアルミニウム原子に対する、前記四級アンモニウム塩と前記アルカリ金属原子と前記アルカリ土類金属原子の合計のモル比が8.0以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の」とあるのを、「前記混合物中のアルミニウム原子に対する、前記四級アンモニウム塩と前記アルカリ金属原子の合計のモル比が3.94以下であることを特徴とする請求項1、4〜6のいずれか1項に記載の」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1〜7のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、4〜7のいずれか1項に記載の」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1〜9のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、4〜9のいずれか1項に記載の」に訂正する。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「(c)カリウム源、セシウム源、ストロンチウム源、及びバリウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源又は/及びアルカリ土類元素源、」における並列的な記載事項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、前記訂正事項1により訂正された記載との整合を図ると共に、願書に添付された明細書の実施例4、5、8及び9の記載に基づき、当該「モル比」の数値範囲を限定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、前記訂正事項1により訂正された記載との整合を図ると共に、願書に添付された明細書の実施例4、11及び12の記載に基づき、当該「モル比」の数値範囲を限定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、前記訂正事項1により訂正された記載との整合を図ると共に、願書に添付された明細書の実施例14の記載に基づき、当該「モル比」の数値範囲を限定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項5及び6について 訂正事項5及び6は、訂正前の請求項2、3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項7〜9、11、12について 訂正事項7〜9、11、12は、訂正前の請求項4〜6、8、10における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)訂正事項10について 訂正事項10は、前記訂正事項1により訂正された請求項1の記載との整合を図ると共に、願書に添付された明細書の実施例11の記載に基づき、当該「モル比」の数値範囲を限定するものであり、また、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜12〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明) 前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に併せて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 (a)ケイ素源と、(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源と、(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、(d)四級アンモニウム塩と、(e)水を含有する混合物の水熱合成によりAEI型アルミノケイ酸塩を製造する方法であって、 前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であり、 前記混合物中の、ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.20以上0.50以下であり、 前記混合物中の、ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比が0.25以上0.42以下であることを特徴とするAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項4】 前記ゼオライトが、AEI型、AFX型、BEA型、CHA型、ERI型、FAU型、LTA型、LEV型、OFF型及びRHO型からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有することを特徴とする請求項1に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項5】 前記ゼオライト中の、アルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比が2.0以上25以下であることを特徴とする請求項1又は4に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項6】 前記混合物中のケイ素原子に対する前記四級アンモニウム塩のモル比が0.20以下であることを特徴とする請求項1、4、5のいずれか1項に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項7】 前記混合物中のアルミニウム原子に対する、前記四級アンモニウム塩と前記アルカリ金属原子の合計のモル比が3.94以下であることを特徴とする請求項1、4〜6のいずれか1項に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項8】 前記混合物が、種結晶として、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含むゼオライトを含有し、且つ、前記種結晶を、前記混合物の前記種結晶以外の成分に含まれるケイ素原子のシリカ換算重量に対して、0.1質量%以上含有することを特徴とする請求項1、4〜7のいずれか1項に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項9】 前記種結晶が、AEI型、AFX型、CHA型、ERI型、FAU型、及びLEV型からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するゼオライトであることを特徴とする請求項8に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項10】 有機化合物原料を、請求項1、4〜9のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたAEI型アルミノケイ酸塩に接触させることを特徴とするプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法。 【請求項11】 前記有機化合物原料がエチレンであることを特徴とする請求項10に記載のプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法。 【請求項12】 前記有機化合物原料がメタノール及びジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載のプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法。」 第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 当該取消理由は、要するに、先の訂正請求により訂正された請求項1、4〜12に係る発明は、混合物の組成を、ストロンチウム及びバリウムを含むアルカリ土類金属を含むモル比で特定され、さらに、「アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子、ストロンチウム原子、及びバリウム原子の合計のモル比」及び「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子の合計のモル比」の上限値も特定されていないため、発明の詳細な説明の記載などから、当業者において、「副生物が生成し難く、合成収率が高い、且つ安全で製造コストが低減された、AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法を提供」(段落【0011】)するとの課題を解決できると認識できる範囲のものといえないことを論拠として、当該請求項1、4〜12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。 2 取消理由に対する当審の判断 (1)サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 (2)サポート要件適合性の判断 ア 本件発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】〜【0011】の記載によれば、前記1で示したとおり、「副生物が生成し難く、合成収率が高い、且つ安全で製造コストが低減された、AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法を提供」することといえる。 イ そして、発明の詳細な説明の実施例1〜14には、ケイ素源及びアルミニウム源として、H−Y型ゼオライトと、アルカリ金属元素源として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウムのうちの少なくとも1つと、構造規定剤(SDA)として、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルピペリジニウムハイドロキサイド水溶液と、水からなる混合物であって、仕込み組成における(K+Cs)/アルカリ金属元素のモル比が0.17〜1.00の範囲であり、(SDA+K+Cs)/Siのモル比が0.20〜0.45の範囲であり、アルカリ金属元素/Siのモル比が0.25〜0.35の範囲である前記混合物に、SiO2に対して5重量%のAEI型ゼオライトを種結晶として加えて、水熱合成すること(実施例1〜9)、及び、ケイ素源及びアルミニウム源として、H−Y型ゼオライトと、ケイ素源及びアルカリ金属元素源として、スノーテック40と、アルカリ金属元素源として、水酸化カリウム及び水酸化セシウムと、SDAとして、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルピペリジニウムハイドロキサイド水溶液と、水からなる混合物であって、仕込み組成における(K+Cs)/アルカリ金属元素のモル比が0.94〜0.95の範囲であり、(SDA+K+Cs)/Siのモル比が0.45〜0.50の範囲であり、アルカリ金属元素/Siのモル比が0.32〜0.42の範囲である前記混合物に、SiO2に対して5重量%のAEI型ゼオライトを種結晶として加えて、水熱合成すること(実施例10〜14)で、(K+Cs)/アルカリ金属元素のモル比が0.00〜0.14の範囲であり、(SDA+K+Cs)/Siのモル比が0.10〜0.15の範囲であり、アルカリ金属元素/Siのモル比が0.30〜0.35の範囲である仕込み組成の混合物を用いた比較例1〜4と同程度の収率で、副生物のないAEI相からなるアルミノケイ酸塩を製造できたことが記載されている。しかも、実施例1〜14では、安全性や製造コストに影響するフッ化水素やホスホニウム塩を使用していないことからして、当業者において、実施例1〜14の「AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法」によって、本件発明の課題を解決できると認識できる。 加えて、発明の詳細な説明には、(i)「カリウム」及び「セシウム」は、カウンターカチオンとして作用して、AEI構造のゲージ空間を安定化することで、AEI相の結晶化を促進すること(段落【0057】)、(ii)混合物中の「アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」及び「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」を所定の範囲とすることで、AEI構造のケージ空間の十分な安定化効果が得られ、AEI相の結晶化を促進することができること(段落【0070】〜【0071】)、並びに、(iii)混合物中の「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」を所定の範囲とすることで、アルミニウムのAEI型アルミノケイ酸塩骨格への取り込みが十分なものとなり、合成収率が向上し、副生成物の生成を抑制することができ、AEI相への結晶化速度を向上できること(段落【0073】)が、それぞれ記載されている。 したがって、これらの記載を併せ考えると、ケイ素源、Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源、カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、四級アンモニウム塩、水を含有する混合物の水熱合成によりAEI型アルミノケイ酸塩を製造する方法において、前記混合物中の「アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」を0.17以上1.00以下、「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」を0.20以上0.50以下、「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」を0.25以上0.42以下とすることで、前記実施例1〜14の「AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法」と同様に、本件発明の課題を解決できると認識できる。 ウ これに対して、本件発明1、4〜12に係る特許請求の範囲の記載は、前記第3のとおりであるところ、本件発明1は、「(a)ケイ素源と、(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源と、(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、(d)四級アンモニウム塩と、(e)水を含有する混合物の水熱合成によりAEI型アルミノケイ酸塩を製造する方法」において、混合物の「アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であり」、「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.20以上0.50以下であり」、「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比が0.25以上0.42以下である」ことを特定するものであるから、本件発明1及びこれを引用する本件発明4〜12は、当業者において、前記発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲といえる。 エ したがって、前記(1)の判断手法に従えば、本件発明1、4〜12に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (3)申立人の主張の検討 申立人は、令和3年11月26日提出の意見書において、本件発明の課題を解決するためには、「ケイ素原子に対する四級アンモニウム塩のモル比」、「ケイ素に対するH2Oのモル比」、「種結晶の量」などのAEI型アルミノケイ酸塩の結晶化の促進や製造コストの低減に影響する因子(段落【0080】、【0082】、【0083】)の特定も必要である旨を主張している。 しかしながら、前記(2)で検討したとおり、本件発明1、4〜12は、当業者において、発明の詳細な説明の記載などに照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲といえるから、申立人の主張は採用できない。 (4)小活 以上のとおりであるから、取消理由に理由はない。 第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲第1号証:中国特許出願公開第105314646号明細書 甲第2号証:特開2016−50142号公報 甲第3号証:国際公開第2015/063501号 甲第4号証:特開2015−193599号公報 甲第5号証:米国特許第5958370号明細書 (以下、甲第1号証などを「甲1」などという。) (1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 設定登録時の請求項1、2、4〜6、8、9に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項1〜12に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、4、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜12に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 設定登録時の請求項1〜9に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項1〜12に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲3〜5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜12に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1〜12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(3)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 申立理由に対する当審の判断 (1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について ア 甲1に記載された発明 甲1の記載事項の摘記は省略するが、申立人提出の「甲第1号証の抄訳文」を参照して、甲1の実施例1(段落[0015]〜[0127])の「酸性AEI型シリコンアルミニウムモレキュラーシーブ」の調製方法に注目して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「KOH(0.97mol)を水に溶解し、室温まで冷却した後、テンプレート剤として、1,1−ジエチル−2,6−ジメチルピペリジン水酸化アンモニウム(0.30mol)を加え、Y型モレキュラーシーブ(シリカアルミナ比は5.5)(0.037mol)を加えて30分攪拌した後、シリカゾル(1.79mol)を35℃で加え、30分攪拌して、半透明のコロイド溶液とし、このコロイド溶液を2Lリアクターに移し、2.0gのシード結晶を添加して、145℃で200rpm、8日間結晶化して、AEI型シリコンアルミニウムモレキュラーシーブの粗生成物を取得し、粗生成物をアンモニウム塩水溶液でアンモニウム交換し、600℃で焼成した後、希酸溶液と酸交換し、ろ過、洗浄、乾燥する、酸性AEI型シリコンアルミニウムモレキュラーシーブの調製方法。」 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明の対応関係は、次のとおりに解することができる。 ・甲1発明の「Y型モレキュラーシーブ(シリカアルミナ比は5.5)」は、ケイ素及びアルミニウムを含む、Framework densityが12.7T/1000A3のFAU型構造のゼオライトであるから、本件発明1の「(a)ケイ素源」及び「(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源」に相当する。 ・甲1発明の「シリカゾル」は、本件発明1の「(a)ケイ素源」に相当する。 ・甲1発明の「KOH」は、本件発明1の「(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源」に相当する。 ・甲1発明の「1,1−ジエチル−2,6−ジメチルピペリジン水酸化アンモニウム」は、本件発明1の「(d)四級アンモニウム塩」に相当する。 ・甲1発明の「コロイド溶液」は、本件発明1の「混合物」に相当する。 ・甲1発明の「コロイド溶液を2Lリアクターに移し」、「145℃で200rpm、8日間結晶化」することは、本件発明1の「水熱合成」に相当する。 ・甲1発明の「酸性AEI型シリコンアルミニウムモレキュラーシーブの調製方法」は、本件発明1の「AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法」に相当する。 ・甲1発明の「コロイド溶液」は、KOHを0.97mol、1,1−ジエチル−2,6−ジメチルピペリジン水酸化アンモニウムを0.30mol、Y型モレキュラーシーブ(シリカアルミナ比は5.5)を0.037mol、シリカゾルを1.79molで含有する組成を有しているところ、当該組成は、セシウム源を含んでおらず、当該組成の各モル量から算出されるモル比は、(K+Cs)/アルカリ金属が1.00(=(0.97mol+0mol)/(0.97mol+0mol))、(四級アンモニウム塩+K+Cs)/Siが約0.64(=(0.30mol+0.97mol+0mol)/(5.5×0.037mol+1.79mol))、アルカリ金属/Siが約0.49(=(0.97mol+0mol)/(5.5×0.037mol+1.79mol))となるから、甲1発明の「コロイド溶液」の組成は、本件発明1の「前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であ」るとの規定を満足する。 そうしてみると、本件発明1と甲1発明とは、 「(a)ケイ素源と、(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源と、(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、(d)四級アンモニウム塩と、(e)水を含有する混合物の水熱合成によりAEI型アルミノケイ酸塩を製造する方法であって、 前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下である、 AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。 ・相違点1 本件発明1では、混合物中の「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」が「0.20以上0.50以下」であり、「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」が「0.25以上0.42以下」であるのに対して、甲1発明では、当該モル比が明らかでなく、「コロイド溶液」の各モル量から算出された当該モル比は、それぞれ、「約0.64」、「約0.49」となる点。 (イ)相違点に対する判断 相違点1は、両者の数値(範囲)が異なっており、実質的なものであるから、本件発明1は、甲1発明であるといえない。 次に、相違点1に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討すると、甲1には、「コロイド溶液」のモル割合に関して、段落[0030]に「テンプレート:アルカリ:シリコン源:Y型モレキュラーシーブ:水=(5−10):(28−32):(54−60):(1−1.2):(2200−2600)」とすることは記載されているものの、当該記載は、アルカリ金属とシリコン源とのモル割合を示しているにすぎず、「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」や「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」を調整する技術思想は記載も示唆もされていない。加えて、当該技術思想は、甲2、4、5のいずれにも記載されていないし、また、技術常識であることを示す証拠もないから、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成をなすことは、容易想到な事項であるといえない。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるといえないし、また、甲1に記載された発明及び甲2、4、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 本件発明4〜12について 本件発明4〜12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、前記イでの判断と同様の理由により、甲1に記載された発明であるといえないし、また、甲1に記載された発明及び甲2、4、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。 (2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について ア 甲第2号証に記載された発明 甲2の記載事項の摘記は省略するが、甲2の実施例2(段落【0061】〜【0064】)の「AEI型ゼオライトの製造方法」に注目して整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、純水、1,1−ジメチル−3,5−ジメチルピペリジニウムヒドロキシド(DMDMPOH)水溶液、及び、SiO2/Al2O3比が23のY型ゼオライトを混合して、SiO2/Al2O3=23、Na/SiO2=0.10、K/SiO2=0.10、H2O/SiO2=13、DMDMPOH/SiO2=0.20となるモル組成の原料組成物とし、当該原料組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、当該オートクレーブを回転させながら、150℃で72時間加熱して生成物を得て、当該生成物を濾過、洗浄、乾燥する、AEI型ゼオライトの製造方法。」 イ 本件発明1について (ア)本件発明1と甲2発明の対比 本件発明1と甲2発明の対応関係は、次のとおりに解することができる。 ・甲2発明の「SiO2/Al2O3比が23のY型ゼオライト」は、ケイ素及びアルミニウムを含む、Framework densityが12.7T/1000A3のFAU型構造のゼオライトであるから、本件発明1の「(a)ケイ素源」及び「(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源」に相当する。 ・甲2発明の「水酸化カリウム」は、本件発明1の「(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源」に相当する。 ・甲2発明の「1,1−ジメチル−3,5−ジメチルピペリジニウムヒドロキシド(DMDMPOH)水溶液」は、本件発明1の「(d)四級アンモニウム塩」に相当する。 ・甲2発明の「原料組成物」は、本件発明1の「混合物」に相当する。 ・甲2発明の「原料組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、当該オートクレーブを回転させながら、150℃で72時間加熱して生成物を得」ることは、本件発明1の「水熱合成」に相当する。 ・甲2発明の「AEI型ゼオライトの製造方法」は、本件発明1の「AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法」に相当する。 ・甲2発明の「原料組成物」の「SiO2/Al2O3=23、Na/SiO2=0.10、K/SiO2=0.10、H2O/SiO2=13、DMDMPOH/SiO2=0.20となるモル組成」は、セシウム源を含んでおらず、当該モル組成から算出されるモル比は、(K+Cs)/アルカリ金属が0.50(=(0.10+0)/(0.10+0+0.10))、(四級アンモニウム塩+K+Cs)/Siが0.30(=0.20+0.10+0)、アルカリ金属/Siが0.20(=0.10+0+0.10)となるから、甲2発明の「モル組成」は、本件発明1の「前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であり、前記混合物中の、ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.20以上0.50以下であ」るとの規定を満足する。 そうしてみると、本件発明1と甲2発明とは、 「(a)ケイ素源と、(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源と、(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、(d)四級アンモニウム塩と、(e)水を含有する混合物の水熱合成によりAEI型アルミノケイ酸塩を製造する方法であって、 前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であり、 前記混合物中の、ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.20以上0.50以下である、 AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。 ・相違点2 本件発明1では、混合物中の「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」が「0.25以上0.42以下」であるのに対して、甲2発明では、当該モル比が明示されておらず、「原料組成物」の「Na/SiO2」及び「K/SiO2」から算出された当該モル比が「0.20」となる点。 (イ)相違点に対する判断 相違点2は、両者の数値(範囲)が異なっており、実質的なものであるから、本件発明1は、甲2発明であるといえない。 次に、相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討すると、甲2には、「原料組成物」のモル組成に関して、「アルカリ金属/SiO2比」を「0.01以上0.4以下」とすることが好ましいこと(段落【0029】、【0032】)が記載されているから、甲2発明において、「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」を当該数値範囲内で調整することは、当業者であれば容易に想起し得ることといえる。 しかしながら、甲2には、「アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」や「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」を調整する技術思想は記載も示唆もされていないし、また、当該技術思想は、甲3〜5のいずれにも記載されておらず、技術常識であるともいえないため、甲2発明において、「ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比」を前記数値範囲内で調整するに際して、「アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」及び「ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比」が特定範囲になるように調整することは、当業者が容易に想到し得ることといえない。 加えて、甲2には、「アルカリ金属/SiO2比」のより好ましい範囲が「0.05以上0.2以下」であること(段落【0031】、【0032】)が記載されていることをふまえると、甲2発明において、「アルカリ金属/SiO2比」を「0.25以上」とすることは、当業者にとって容易想到な事項といえない。 したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるといえないし、また、甲2に記載された発明及び甲3〜5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 本件発明4〜12について 本件発明4〜12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、前記イでの判断と同様の理由により、甲2に記載された発明であるといえないし、また、甲2に記載された発明及び甲3〜5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。 (3)申立理由3(サポート要件違反)について ア 具体的な指摘事項 申立理由3は、要するに、設定登録時の請求項1に係る発明では、(i)「四級アンモニウム塩」に、AEI型構造の形成に寄与しない四級アンモニウム塩を含むこと、及び、(ii)混合物中に、フッ化水素やホスホニウム塩を含むことを論拠にして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、設定登録時の請求項1〜12に係る発明まで拡張又は一般化できないから、当該発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない、というものである。 イ 申立理由3についての検討 まず、本件発明1の「四級アンモニウム塩」について検討すると、本件発明1は、「AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法」の発明であり、AEI型構造の形成に主眼を置くものであること、さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「四級アンモニウム塩としては、AEI型構造の形成に寄与する構造規定剤となるものであれば特に限定はされ」ないこと(段落【0060】)が記載されていることからすれば、本件発明1の「四級アンモニウム塩」は、最終目的物であるAEI型構造の形成に寄与する構造規定剤となる四級アンモニウム塩を予定していることは明らかである。 また、本件発明1は、混合物中に、フッ化水素やホスホニウム塩について特定するものではないものの、これらを必須成分として含有するものでなく、むしろ、これらに代わり、カリウム源又はセシウム源から選ばれるアルカリ金属元素源や、AEI型構造の形成に寄与する四級アンモニウム塩を用いることにより、従来技術に比して、安全で製造コストが低減されており、本件発明の課題を解決できるものということができる。 したがって、前記第4の2(2)での検討をふまえると、本件発明1、4〜12は、サポート要件を満足する。 ウ 小括 以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、4〜12に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、4〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件請求項2、3に係る発明は、前記第2のとおり、本件訂正により削除された。これにより、本件請求項2、3に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)ケイ素源と、(b)Framework densityが16.0T/1000A3以下であるゼオライトを含むアルミニウム源と、(c)カリウム源、セシウム源からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素源、(d)四級アンモニウム塩と、(e)水を含有する混合物の水熱合成によりAEI型アルミノケイ酸塩を製造する方法であって、前記混合物中の、アルカリ金属原子の合計に対する、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.17以上1.00以下であり、前記混合物中の、ケイ素原子に対する、四級アンモニウム塩、カリウム原子、セシウム原子の合計のモル比が、0.20以上0.50以下であり、 前記混合物中の、ケイ素原子に対する、アルカリ金属原子の合計のモル比が0.25以上0.42以下であることを特徴とするAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 前記ゼオライトが、AEI型、AFX型、BEA型、CHA型、ERI型、FAU型、LTA型、LEV型、OFF型及びRHO型からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有することを特徴とする請求項1に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項5】 前記ゼオライト中の、アルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比が2.0以上25以下であることを特徴とする請求項1又は4に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項6】 前記混合物中のケイ素原子に対する前記四級アンモニウム塩のモル比が0.20以下であることを特徴とする請求項1、4、5のいずれか1項に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項7】 前記混合物中のアルミニウム原子に対する、前記四級アンモニウム塩と前記アルカリ金属原子の合計のモル比が3.94以下であることを特徴とする請求項1、4〜6のいずれか1項に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項8】 前記混合物が、種結晶として、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6rを骨格中に含むゼオライトを含有し、且つ、前記種結晶を、前記混合物の前記種結晶以外の成分に含まれるケイ素原子のシリカ換算重量に対して、0.1質量%以上含有することを特徴とする請求項1、4〜7のいずれか1項に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項9】 前記種結晶が、AEI型、AFX型、CHA型、ERI型、FAU型、及びLEV型からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するゼオライトであることを特徴とする請求項8に記載のAEI型アルミノケイ酸塩の製造方法。 【請求項10】 有機化合物原料を、請求項1、4〜9のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたAEI型アルミノケイ酸塩に接触させることを特徴とするプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法。 【請求項11】 前記有機化合物原料がエチレンであることを特徴とする請求項10に記載のプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法。 【請求項12】 前記有機化合物原料がメタノール及びジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載のプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照 |
異議決定日 | 2022-02-22 |
出願番号 | P2016-094638 |
審決分類 |
P
1
651・
853-
YAA
(C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B) P 1 651・ 537- YAA (C01B) P 1 651・ 113- YAA (C01B) P 1 651・ 121- YAA (C01B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 後藤 政博 |
登録日 | 2020-05-07 |
登録番号 | 6699336 |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | AEI型アルミノケイ酸塩の製造方法、該AEI型アルミノケイ酸塩を用いたプロピレン及び直鎖ブテンの製造方法 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 田口 昌浩 |