ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D04H 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D04H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D04H 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D04H |
---|---|
管理番号 | 1384036 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-12-03 |
確定日 | 2022-01-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6731064号発明「生分解性不織布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6731064号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜18〕について訂正することを認める。 特許第6731064号の請求項1、3〜9及び11〜18に係る特許を維持する。 特許第6731064号の請求項2及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6731064号の請求項1〜18に係る特許についての出願は、平成29年10月12日(優先権主張 平成28年10月14日)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年12月 3日 :特許異議申立人栗暢行(以下「申立人」という。)による請求項1〜18に係る特許に対する特許異議の申立て 令和3年 5月18日付け:取消理由通知書 令和3年 7月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。) 令和3年 8月30日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に記載された 「ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2であり、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であり、かつ、熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下である、熱成型用の生分解性不織布。」を、 「ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2であり、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であり、かつ、初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下であり、かつ、動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaである、熱成型用の生分解性不織布。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜9及び11〜18も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項3に記載された 「請求項1又は2に記載の生分解性不織布」を、 「請求項1に記載の生分解性不織布」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜9及び11〜18も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項4に記載された 「請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性不織布」を、 「請求項1又は3に記載の生分解性不織布」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5〜9及び11〜18も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 本件訂正前の請求項5に記載された 「請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、3、又は4のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜9及び11〜18も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 本件訂正前の請求項6に記載された 「請求項1〜5のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜5のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7〜9及び11〜18も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7 本件訂正前の請求項7に記載された 「請求項1〜6のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜6のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9及び11〜18も同様に訂正する)。 (8)訂正事項8 本件訂正前の請求項8に記載された 「請求項1〜7のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜7のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9及び11〜18も同様に訂正する)。 (9)訂正事項9 本件訂正前の請求項9に記載された 「請求項1〜8のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜8のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11〜18も同様に訂正する)。 (10)訂正事項10 本件訂正前の請求項10を削除する。 (11)訂正事項11 本件訂正前の請求項11に記載された 「請求項1〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する)。 (12)訂正事項12 本件訂正前の請求項13に記載された 「請求項1〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15〜18も同様に訂正する)。 (13)訂正事項13 本件訂正前の請求項14に記載された 「請求項1〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織」を、 「請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織」に訂正する。 (14)訂正事項14 本件訂正前の明細書の【0100】に記載された 「(6)機械熱分析によるMD方向の寸法変化率(%)」を、 「(6)熱機械分析によるMD方向の寸法変化率(%)」に訂正する。 2 一群の請求項 本件訂正前の請求項1〜18は、請求項2〜18が、本件訂正請求の対象である請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜18〕について請求されたものである。 また、訂正事項14は、一群の請求項〔1−18〕の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 本件訂正前の請求項1に係る発明に関する訂正事項1は、「熱機械分析」及び「生分解性不織布」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1は、本件訂正前の明細書の【0100】及び特許請求の範囲の【請求項2】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2及び10について 訂正事項2及び10は、それぞれ本件訂正前の請求項2及び10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3〜9及び11〜13について 訂正事項3〜9及び11〜13は、訂正事項2により請求項2を削除する訂正に伴って引用する請求項を整理するための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項3〜9及び11〜13は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項14について ア 訂正の目的の適否について 本件特許の願書に最初に添付した明細書には、「MD方向の寸法変化率(%)」について、 「【0019】 本実施形態の生分解性不織布は、熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下であることを特徴とする。」 の記載がある。 また、「熱機械分析」は、「物質の温度を,調整されたプログラムに従って変化させながら,非振動的な荷重のもとで,物質の変形を温度又は時間の関数として測定する方法。」(JIS K 7197:1991)を意味する用語であるが、「機械熱分析」の用語は出願時の技術常識でもない。 そうすると、「物質の変形」である「MD方向の寸法変化率(%)」を測定する方法は「熱機械分析」であるから、本件訂正前の「機械熱分析」は「熱機械分析」が本来の記載であるといえる。 したがって、訂正事項14は、本件訂正前の「(6)機械熱分析によるMD方向の寸法変化率(%)」を、本来の記載「(6)熱機械分析によるMD方向の寸法変化率(%)」と正すものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項14は、本件特許の願書に最初に添付した明細書の【0019】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1〜18〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の本件発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、3〜9及び11〜18に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜9及び11〜18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2であり、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であり、かつ、初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下であり、かつ、動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaである、熱成型用の生分解性不織布。」 「【請求項3】 前記不織布のタテ引裂き強度を目付で除した値が0.002〜0.5N/(g/m2)である、請求項1に記載の生分解性不織布。 【請求項4】 前記不織布中の繊維の複屈折率が、0.002〜0.10である、請求項1又は3に記載の生分解性不織布。 【請求項5】 前記不織布中の繊維は、前記ポリ乳酸系重合体に加え、脂肪族エステル共重合体を、全樹脂重量を基準として、0.5〜30重量%さらに含むものである、請求項1、3、又は4のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項6】 前記不織布の平均繊維径が1〜40μmであり、かつ、前記不織布は長繊維で構成されている、請求項1、又は3〜5のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項7】 前記不織布において、動的粘弾性評価の温度依存性試験における損失正接(tanδ)の極大値が0.5以下である、請求項1、又は3〜6のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項8】 前記不織布の、動的粘弾性評価の温度依存性試験における貯蔵弾性率の10〜70℃における貯蔵弾性率が、200MPa以上である、請求項1、又は3〜7のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項9】 前記不織布を、温度120℃中でMD/CD二軸両方向へ同時に、面積倍率6.25倍に延伸した延伸シートの2.5cm角目付に関して、R/Aveの値が1.0以内である、請求項1、又は3〜8のいずれか1項に記載の生分解性不織布。」 「【請求項11】 請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織布を熱成型で一体加工する工程を含む、成型体の製造方法。 【請求項12】 不織布を55℃〜160℃に予熱する工程を含む、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織布から構成される、成型指数1.1以上の成型体。 【請求項14】 請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解不織布から構成され、成形指数が1.1〜20倍であり、かつ、連続した不織布から、同一成形機で成形した少なくとも10個以上の成形体の底部同位置から採取した布帛片の目付のR/Aveの値が0.5以内となる成形体群。 【請求項15】 請求項13に記載の成型体において、熱機械分析(TMA)にて、30〜100℃において、容器を構成する成型体片に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の伸長変化率が4%以下であることを特徴とする生分解性飲料抽出用容器。 【請求項16】 沸水浸漬時の容量変化が20%〜90%である、請求項15に記載の飲料抽出用容器。 【請求項17】 構成する不織布成型体の配向度が0.010以上であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の飲料抽出用容器。 【請求項18】 構成する不織布成型体の結晶化度が30〜70%である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の飲料抽出用容器。」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1〜18に係る特許に対して、当審が令和3年5月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)取消理由1(明確性) 請求項1〜18に係る発明が次の点で明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、特許を受けることができない。 ア 請求項1における「熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下である」の記載は、「熱機械分析」が、一般的に、「物質の温度を,調整されたプログラムに従って変化させながら,非振動的な荷重のもとで,物質の変形を温度又は時間の関数として測定する方法。」(JIS K 7197:1991)とされるところ、請求項1においては、「物質の温度」を変化させる「調整されたプログラム」や、「非振動的な荷重」が特定されておらず、上記記載における「寸法変化率」がどのような条件の「熱機械分析」により測定されたものであるのかが理解できないから、請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜18に係る発明は明確でない。 イ 請求項10における「定長熱セット」の用語の意味内容を当業者が理解できないため、請求項10に係る発明は明確でない。 (2)取消理由2(新規性) 請求項1、5、10〜13及び15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、請求項1、10〜13及び15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (3)取消理由3(進歩性) 請求項1、5、6、10〜13、15〜18に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [引用文献等一覧] 甲第1号証:特開2011−162904号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2000−136478号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開平9−95848号公報(以下「甲3」という。) 甲第4号証:特開平5−311537号公報(以下「甲4」という。) 2 当審の判断 (1)取消理由1(明確性)について ア 上記1(1)アについて 「熱機械分析」は、「物質の温度を,調整されたプログラムに従って変化させながら,非振動的な荷重のもとで,物質の変形を温度又は時間の関数として測定する方法。」(JIS K 7197:1991)であるところ、本件訂正前の請求項1では、「熱機械分析」について、「物質の温度」を変化させる調整されたプログラムや、非振動的な荷重が特定されておらず明確でなかったが、本件訂正により、「初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析」と特定されたため、明確となった。 イ 上記1(1)イについて 本取消理由の対象とされた本件訂正前の請求項10は、本件訂正により削除された。 ウ 小括 よって、取消理由1(明確性)には理由がない。 (2)取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について ア 引用文献の記載事項 (ア)甲1 甲1には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 ポリ乳酸系重合体とポリプロピレン系重合体とを含む複合長繊維を構成繊維とするポリ乳酸系長繊維不織布からなる成型体であって、前記複合長繊維の複合形態はポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、ポリプロピレン系重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合長繊維であり、前記ポリ乳酸系長繊維不織布の130℃での破断時の伸度がタテ方向、ヨコ方向ともに150%以上であることを特徴とする成型体。 【請求項2】 ポリ乳酸系長繊維不織布の目付が10〜300g/m2であることを特徴とする請求項1記載の成型体。 【請求項3】 ポリ乳酸系長繊維不織布の140℃における乾熱収縮率が10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の成型体。 【請求項4】 請求項1〜3いずれかの項に記載の成型体を用いたことを特徴とするフィルター。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、植物由来の高分子であるポリ乳酸系重合体を用いたものであって、高温時の伸度が高く、かつ寸法安定性に優れ、成型性に優れた不織布からなる成型体を提供することを課題とする。」 「【0029】 必要に応じて、バインダー樹脂を付与して、構成繊維同士をバインダー樹脂によって接着させて、本発明の成型体を構成するポリ乳酸系不織布を製造してもよい。 バインダー樹脂を付与する場合には、熱処理を施して構成繊維同士を接着させた後にバインダー樹脂を付与するとよい。すなわち、バインダー樹脂を水中に乳化分散させてバインダー樹脂液を得、このバインダー樹脂液に熱処理を施したウェブを含浸させた後、あるいは熱処理を施したウェブにバインダー樹脂液をスプレー等の手法で付与させた後などに、乾燥処理する方法を採用することができる。 【0030】 バインダー樹脂の付着量は、成型性の観点から、繊維質量に対して、20質量%以下とすることが好ましい。 バインダー樹脂としては、上述のポリ乳酸系重合体にブレンドされる成分と同様に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体(三菱化学社製「GSPLa」)や、脂肪族ジオールと芳香族カルボン酸とを縮合して得られる生分解性脂肪族−共重合芳香族ポリエステル共重合体(ノバモント社製「イースターバイオGP」、BASF社製「ECOFLEX」)などが挙げられる。」 「【0033】 本発明の成型体は、上記のようにして得られたポリ乳酸系長繊維不織布をプレス成型などの方法により成型することにより得られる。成型体は容器形状品であってもよいし、ボード状品であってもよい。プレス成型により容器形状品を得る場合には、フランジ部とこのフランジ部から3次元方向に突出した容器部とを有するように構成することが好ましい。本発明において、成型体を得る方法は特に制限されないが、一例として、以下に、プレス成型について説明する。」 「【0045】 (4)目付(g/m2) 標準状態の試料から試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付とした。 【0046】 (5)130℃での破断時の伸度(%) 幅5cm×長さ20cmの試験片を10個準備し、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、商品名「UTM−4−1−100」)を用いて、130℃の雰囲気下で、JIS−L−1906に準じて測定した。このときの条件は、つかみ間隔が20cm、引張速度20cm/分であった。伸張−荷重曲線を描き、破断時の伸度についての10点の平均値を破断伸度とした。」 「【0050】 (9)乾熱収縮率(%) ポリ乳酸系長繊維不織布から、幅20cm×長さ20cmの試験片を切り出し、その試験片を140℃の雰囲気下で5分間放置して加熱処理した後、室温にて冷却し、下記の数式からタテ方向およびヨコ方向の乾熱収縮率をそれぞれ求めた。 タテ方向の乾熱収縮率(%) ={(加熱処理前の試験片のタテ方向の寸法)−(加熱処理後の試験片のタテ方向の寸法)}/(加熱処理前の試験片のタテ方向の寸法)×100 ヨコ方向の乾熱収縮率(%) ={(加熱処理前の試験片のヨコ方向の寸法)−(加熱処理後の試験片のヨコ方向の寸法)}/(加熱処理前の試験片のヨコ方向の寸法)×100 (10)成型性 形状が略半球体の成型体を得るための金型(雌型と雄型とからなる、雌型の深さが65mm、直径が120mmであり、エアシリンダーである雄型の直径が120mmである)を用いて、実施例および比較例で得られたポリ乳酸系長繊維不織布をプレス成型に付することにより成型体を作成した。この際、予熱温度は150℃、予熱時間は5分、エアーソシリンダーのエアー圧は7kg/cm2とした。以下の基準で評価した。 ○:成型体に破れが無く、良好に成型されている。 ×:成型体の少なくとも一部に破れが生じている。 【0051】 (実施例1) ポリ乳酸(融点:174℃、MFR:14g/10分、D体含有率:0.4モル%)(以下、「P1」と略称する)を用意した。一方で、ポリプロピレン(融点:160℃、MFR:60g/10分)(以下、「P2」と略称する)を用意した。 【0052】 P1を芯部とし、P2を鞘部として、芯部/鞘部=1/1(質量比)である芯鞘複合断面となるように、さらに、芯成分のP1の溶融重合体中にタルク0.5質量%を含有するように個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度210℃で溶融し、単孔吐出量1.3g/分の条件で溶融紡糸した。 【0053】 紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーに牽引速度2500m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウェブとして捕集堆積させた。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は4.5dtexであった。 【0054】 次いで、このウェブをロール温度130℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付100g/m2のポリ乳酸系長繊維不織布を得て評価に付した。さらに、該ポリ乳酸系長繊維不織布から成型体を得て、評価に付した。 【0055】 (実施例2) 目付を70g/m2とした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系長繊維不織布および成型体を得、評価に付した。 【0056】 (実施例3) 目付を50g/m2とした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系長繊維不織布および成型体を得、評価に付した。」 「【0062】 【表1】 」 上記記載事項から、実施例1に着目すると、甲1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「ポリ乳酸系長繊維不織布であって、目付が100g/m2であり、130℃での破断時の伸度(タテ)が270%であり、かつ、乾熱収縮率(タテ)が0.9%である、予熱温度150℃、予熱時間5分として、プレス成型に付される生分解性不織布。」 (イ)甲2 甲2には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】ポリ乳酸及び/又はポリ乳酸を主体とする熱可塑性重合体よりなる2種成分の芯鞘型複合長繊維にて構成され、前記ポリ乳酸とポリ乳酸を主体とする熱可塑性重合体とは融点が100℃以上であり、鞘成分の融点は芯成分の融点よりも低く、芯成分の複屈折率は0.015以下であり、鞘成分の複屈折率は芯成分の複屈折率よりも低く、前記繊維が集積され、これら繊維相互間が鞘成分の軟化又は溶融によって融着された部分熱融着領域が散点状に設けられ、乾熱90℃雰囲気下で測定した縦方向破断伸度と横方向破断伸度との和が160%以上であることを特徴とする生分解性を有する成型用不織布。」 「【0009】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記問題点を解決し、不織布によって容易に深絞り成型品を得ることができ、しかも成型品にヒートシール性を具備させることができ、また成型品に生分解性を付与できるようにすることを目的とする。」 「【0060】(6)不織布の乾熱雰囲気下の面積収縮率: 1m×1mの大きさの試料の中に、不織布の縦方向が5cmかつ横方向が5cmとなる大きさの枠を4か所記載した。その後、四フッ化エチレン樹脂製のシートのうえに上記試料を置き、熱風循環型熱処理機を用いて、加熱温度90℃、熱処理時間1分で処理した。その後に放冷し、上記枠の個々の長さを測定し、最初に記載した元の面積から熱処理後の面積を減算して、その差についての元の面積に対する割合を算出して、面積収縮率(%)としてた。なお、それらを平均化して、HWSで示した。 【0061】(7)加熱雰囲気下の破断伸度: インストロン社製の加熱雰囲気下引張試験機 MODEL1122を用い、JIS L−1096に記載のストリップ法にしたがい測定した。すなわち、試料幅5cm、試料長15cmの、不織布の縦方向(MD)の試料と横方向(CD)の試料とを各々10個準備し、掴み間隔10cm、引張速度10cm/分、内部の雰囲気温度90℃、温度保持時間1分で測定した。その時の破断時の伸度を平均化して、不織布の破断伸度とした。」 「【0066】(10)成型性: クランプに保持した不織布を鞘成分の融点よりも30℃高い温度の雰囲気下で10秒予熱し、次に直ちに加熱金型上に移動させて、容器形状にプレス成型を行った。金型は、上径50mmφ、下径40mmφ、深さ40mm、底部の隅部の曲率半径3mmであった。またプラグとのクリアランスは0.5mmとし、金型及びプラグの温度は共に70℃に保持させた。成型後は冷却し、成型物を取り出して深さを測り、金型との深さの比による熱セット率を求め、下記の基準で判定を行った。また成型物の外観検査を行い、下記の基準で成型性の判定を行った。 【0067】熱セット率 ○: 熱セット率が90%以上 △: 熱セット率が70%以上90%未満 ×: 熱セット率が70%未満 外観検査 ◎: 成型物に異常が全く認められない ○: 成型物はおおむね良好 △: 成型斑がややある ×: 成型斑が目立つまたは穴あきがある 【0068】(実施例1)鞘成分として融点が140℃、ASTM−1238Eの処方で測定したメルトインデックス値(190℃)が35g/10分、D−乳酸/L−乳酸のモル比(D/L比)が4/96であるポリ乳酸を用い、芯成分として融点が168℃、前記メルトインデックス値(190℃)が45g/10分、D/Lのモル比が1/99であるポリ乳酸を用いた。これら鞘成分と芯成分とを個別に溶融計量し、通常の丸孔を有する芯鞘型複合紡糸用口金装置(温度210℃)を用い、単孔吐出量を0.88g/分(芯鞘複合比は重量比で1:1)として紡出した。 【0069】その後、冷却装置を介してエアーサッカーで紡出糸条を2200m/分で牽引し、開繊し、移動するコンベヤネット上に堆積して、繊度が3.6デニールの繊維ウェブを得た。この繊維の芯成分の複屈折率は0.011、また鞘部の複屈折率は0.009であった。この繊維ウェブを、加熱回転ロール(温度が80℃、線圧が0.5kg/cm)に接触させ、ウェブの表層を疑似接着させた。その後、圧着面積率が15%、圧着部密度が22個/cm2、圧着部面積が0.7mm2の彫刻ロールと、フラットロールとを備えた熱エンボス加工機で、加工温度を115℃、線圧を40kg/cmとして、上述の表層疑似接着ウェブを点圧着した。これにより、目付が約100g/m2の長繊維不織布を製造した。また、上述のようにして不織布の特性を測定した。 【0070】その不織布を成型加工用基布とし、上述の(10)の条件で成型加工を行って成型性を評価した。以上の結果を表1に示す。 【0071】表1から明らかなように、安定した操業状態で長繊維不織布を得ることができた。得られた不織布は、生分解性能及び熱安定性を持ち、成型加工のために必要な基本性能を有するものであって、成型性が良好で深絞り成型に好適であることが分かった。 【0072】 【表1】 【0073】(実施例2)紡糸時の単孔吐出量を1.17g/分、紡糸速度を3500m/分とした。そして、それ以外は実施例1と同じ処方で、単糸繊度が3デニール、目付が100g/m2の長繊維不織布を製造し、その特性を測定した。また得られた不織布を成型加工用基布とし、成型加工を行って、成型性を評価した。その結果を表1に示す。 【0074】表1から明らかなように、得られた長繊維不織布は、芯部と鞘部の複屈折率が共に比較的高く、加熱雰囲気下の破断伸度(MD+CD)がやや低い状態にあるため、成型性がやや劣る傾向にあった。しかし、操業性、生分解性能、熱安定性を持ち、成型加工に具備する基本性能は有するものであった。」 上記記載事項から、実施例2に着目すると、甲2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「ポリ乳酸系長繊維不織布であって、目付が100g/m2であり、雰囲気温度90℃での加熱雰囲気下の破断時の伸度(MD及びCD)が平均値165%であり、かつ、不織布の乾熱雰囲気下の面積収縮率が1.7%である、プレス成型用の生分解性不織布。」 (ウ)甲3 甲3には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 熱可塑性脂肪族ポリエステルを主成分とする生分解性ポリマーからなる長繊維から構成され、しかもこの長繊維の結晶化度が10〜40%かつ過冷却度指数が0.4以上であり、構成長繊維同士が部分的に熱圧着されて形成されることを特徴とする生分解性成形用長繊維不織布。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の問題を解決するもので、通気性、通液性が要求される成形品その他への展開を可能とするとともに、複雑な形状の成形をも可能とし、さらに極めて短時間でコンポスト化される生分解性成形用長繊維不織布を提供しようとするも のである。」 「【0009】熱可塑性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはこれらを構成する繰り返し単位要素による共重合体が挙げられる。また、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)が、さらに、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートのようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)およびこれらを構成する繰り返し単位要素とポリ−3−ヒドロキシバリレートやポリ−4−ヒドロキシブチレートを構成する繰り返し単位要素との共重合体が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸の縮重合体からなるものとして、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレートまたはこれらを構成する繰り返し単位要素とするポリアルキレンジカルボキシレート共重合体が挙げられる。 【0010】本発明においては、生分解性能および製糸性等の点から、以上の中で特に、ポリ乳酸系重合体と、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケートのいずれかの重合体あるいはこれら重合体を主繰り返し単位とした共重合体と、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトンのいずれかの重合体あるいはこれら重合体を主繰り返し単位とした共重合体とが好適である。」 「【0017】本発明の不織布の構成長繊維は、その繊維形態は脂肪族ポリエステルを単独で用いたものでも良いし、2種以上の脂肪族ポリエステルを用いた複合繊維でも良い。さらに、繊維横断面は、通常の丸断面のほか異形断面、中空断面や芯鞘複合断面等の複合断面であっても差し支えない。」 「【0019】本発明の不織布は前記の単糸繊度を満足する長繊維で構成され、かつ、その目付が10〜500g/m2の範囲にあることが好ましい。目付が10g/m2未満であると、地合いおよび機械的強力が劣り、実用性に乏しいものとなる。逆に、目付が500g/m2を超えると、柔軟性が損なわれ好ましくない。すなわち、単糸繊度が細い場合には同一目付けでも緻密な不織布となるが、生分解に伴う機械的強度の低下が早いことを考慮する必要があり、また、繊維自体の機械的強度が低い場合には、不織布としての一定の強力を維持するためには、単糸繊度および目付けを大きくすることが必要である。」 「【0022】本発明のように不織布を構成する長繊維が上記要件を満たすことは、換言すれば、不織布の熱成形温度における歪応力が低くかつ破断伸度が高いこととなり、これにより熱成形時の不織布の破れを防止するという効果も得られる。例えば、熱成形温度における不織布の伸長破断伸度は50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上であることが必要である。 【0023】また、長繊維不織布並びにこれを構成する長繊維が、熱成型時に収縮を起こし難いことも成型用不織布としての基本的要件である。なぜなら、シートが熱成形時に収縮を起こすと、金型にシートがとられ安定した連続成形が困難となるからである。従って、熱成形時における不織布の面積収縮率は10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下であることが良い。」 「【0035】本発明の生分解性成形用長繊維不織布を用いて加熱成形する方法としては、例えば、不織布を構成する重合体、複数の重合体から構成される場合は最も融点の高い重合体のガラス転移温度以上、融点以下の温度に予備加熱して金型にてプレス成形し、その後、成型品の機械的強度を向上させるために、引き続き結晶化温度付近の温度にて結晶化を促進させるという成型方法等を採用することができる。」 「【0046】実施例2 融点が162℃、MFR値が20g/10分で窒化ホウ素を1重量%含むL−乳酸/ヒドロキシカプロン酸共重合体(重量比=88/12)を実施例1と同じ紡糸口金より紡糸温度200℃で溶融紡糸した。次に、紡出糸条を温度が15℃の冷却風にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて引取速度1500m/分で引取り、開繊し、移動するスクリーンネット上に堆積させてウエブを形成した。次いで、このウエブをエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通し、ロール温度が140℃、圧着面積率が6.5%の条件にて部分的に熱圧着し、単糸繊度が4.0デニールの長繊維からなる、目付65g/m2の長繊維不織布を得た。この不織布を構成する長繊維の結晶化度は、18.0%、過冷却度指数は0.52であった。 【0047】得られた本発明の生分解性成形用長繊維不織布を120℃に予熱し、開口径10.5cm、深さ5.5cmの苗木ポットにプレス成形したところ、良好な成形品が得られた。得られた苗木ポット成形品の通気度は170cc/cm2 ・秒であった。また、この苗木ポット成形品を用いて約1年間苗木ポットごとに目的地に植栽したところ苗木は順調に成木として成長し、苗木ポットは1年後には跡形なく、土中で分解していた。」 上記記載事項から、実施例2に着目すると、甲3には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。 「L−乳酸/ヒドロキシカプロン酸共重合対からなる長繊維から構成され、目付が65g/m2であり、かつ プレス成形用の生分解性不織布。」 (エ)甲4 甲4には、次の事項が記載されている。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、粘着テープ用基布に関し、更に詳しくは、ポリエステルフィラメントを用いた粘着テープ用基布に関する。」 「【0008】 【課題を解決するための手段】・・・乾熱収縮率が3.0%より大きいと、粘着テープラミネートの際の熱処理工程において、自己収縮が大きくなり、その際発生する収縮応力や寸法変化率が大きくなることにより、斯かる工程の管理が難しくなり、生産性を損なう原因となる。」 イ 引用発明1を主引用発明とした理由について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ポリ乳酸系長繊維不織布であ」る「予熱温度150℃、予熱時間5分として、プレス成型に付される生分解性不織布」は、本件発明1の「ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され」た「熱成型用の生分解性不織布」に相当する。 引用発明1の「目付が100g/m2であ」ることは、本件発明1の「目付が20〜350g/m2であ」ることに相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2である、熱成型用の生分解性不織布。」 [相違点1−1] 本件発明1は、「120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上」であるのに対して、引用発明1は、「130℃での破断時の伸度(タテ)」が「270%」である点。 [相違点1−2] 本件発明1は、「初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下」であるのに対して、引用発明1は、「乾熱収縮率(タテ)」が「0.9%」である点。 [相違点1−3] 本件発明1は、「動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaであ」るのに対して、引用発明1は、その点が不明である点。 b 新規性についての判断 相違点1−3について検討する。 甲1に記載された、引用発明1の原料及び製造方法(上記ア(ア)【0051】〜【0054】)は、本件発明1の実施例の原料及び製造方法と同じではなく、また、甲1に記載された、引用発明1の原料及び製造方法であれば、引用発明1が相違点1−3に係る本件発明1の構成を備えることを示す証拠も提出されていないから、引用発明1が相違点1−3に係る本件発明1の構成を備えているとはいえず、相違点1−3は実質的なものである。 c 進歩性についての判断 さらに、相違点1−3について検討する。 「動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本実施形態の不織布は、動的粘弾性の温度依存性評価おける、90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が常に15〜500MPaであり、好ましくは20〜300MPa、より好ましくは20〜200Mpa、特に好ましくは25〜150MPaである。90℃〜150℃における貯蔵弾性率をこの範囲内とすることで、熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく、部分的に不織布が伸ばされるような伸度斑が少なく、形がきれいな意匠性に優れる成型体を得ることができる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を下回る場合、成型時の熱により不織布の機械的強度が低くなりすぎているため、金型の形状や加熱の温度斑などによる延伸斑が発生しやすくなる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を上回る場合、成型時に熱を与えてもなお機械的強度が高いため、金型で延伸した際に布帛が破断しやすくなる。」(【0042】)と記載されている。 すなわち、相違点1−3に係る本件発明1の構成は、「熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく」することを可能とするために採用された構成であるところ、甲1には「熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく」することについて何ら記載されておらず、引用発明1において、相違点1−3に係る本件発明1の構成とする動機付けがない。 しかも、相違点1−3に係る本件発明1の構成は、甲2〜4にも記載されておらず、かつ、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。 したがって、引用発明1において、相違点1−3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、相違点1−1及び相違点1−2を検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明3〜9及び11〜18について 本件発明3〜9及び11〜18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、引用発明1ではなく、また、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ)小括 よって、本件発明1、3〜9及び11〜18は、引用発明1ではなく、また、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 引用発明2を主引用発明とした理由について (ア)本件発明1について a 対比 本件発明1と引用発明2とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2である、熱成型用の生分解性不織布。」 [相違点2−1] 本件発明1は、「120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上」であるのに対して、引用発明2は、「雰囲気温度90℃での加熱雰囲気下の破断伸度(MD+CD)が165%」である点。 [相違点2−2] 本件発明1は、「初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下」であるのに対して、引用発明2は、「不織布の乾熱雰囲気下の面積収縮率が1.7%」である点。 [相違点2−3] 本件発明1は、「動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaであ」るのに対して、引用発明2は、その点が不明である点。 b 新規性についての判断 相違点2−3について検討する。 甲2に記載された、引用発明2の原料及び製造方法(上記ア(イ)【0068】、【0069】、【0073】)は、本件発明1の実施例の原料及び製造方法と同じではなく、また、甲2に記載された、引用発明2の原料及び製造方法であれば、引用発明2が相違点2−3に係る本件発明1の構成を備えることを示す証拠も提出されていないから、引用発明2が相違点2−3に係る本件発明1の構成を備えているとはいえず、相違点2−3は実質的なものである。 c 進歩性についての判断 さらに、相違点2−3について検討する。 「動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率」について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本実施形態の不織布は、動的粘弾性の温度依存性評価おける、90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が常に15〜500MPaであり、好ましくは20〜300MPa、より好ましくは20〜200Mpa、特に好ましくは25〜150MPaである。90℃〜150℃における貯蔵弾性率をこの範囲内とすることで、熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく、部分的に不織布が伸ばされるような伸度斑が少なく、形がきれいな意匠性に優れる成型体を得ることができる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を下回る場合、成型時の熱により不織布の機械的強度が低くなりすぎているため、金型の形状や加熱の温度斑などによる延伸斑が発生しやすくなる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を上回る場合、成型時に熱を与えてもなお機械的強度が高いため、金型で延伸した際に布帛が破断しやすくなる。」(【0042】)と記載されている。 すなわち、相違点2−3に係る本件発明1の構成は、「熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく」することを可能とするために採用された構成であるところ、甲2には「熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく」することについて何ら記載されておらず、引用発明2において、相違点2−3に係る本件発明1の構成とする動機付けがない。 しかも、相違点2−3に係る本件発明1の構成は、甲1、3、4にも記載されておらず、かつ、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。 したがって、引用発明2において、相違点2−3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、相違点2−1及び相違点2−2を検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件発明3〜9及び11〜18について 本件発明3〜9及び11〜18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(ア)で検討したのと同じ理由により、引用発明2ではなく、また、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ)小括 よって、本件発明1、3〜9及び11〜18は、引用発明2ではなく、また、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 エ まとめ よって、取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)には理由がない。 第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許法第29条第2項(進歩性)に係る申立理由について 申立人は、請求項1〜18に係る発明は、甲3に記載された発明、甲1〜甲4に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の主張をしている。 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明3とは、次の点で一致し、相違する。 [一致点] 「ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2である、熱成型用の生分解性不織布。」 [相違点3−1] 本件発明1は、「120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上」であるのに対して、引用発明3は、その点が不明である点。 [相違点3−2] 本件発明1は、「初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下」であるのに対して、引用発明3は、その点が不明である点。 [相違点3−3] 本件発明1は、「動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaであ」るのに対して、引用発明3は、その点が不明である点。 イ 判断 相違点3−3について検討する。 「動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率」について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本実施形態の不織布は、動的粘弾性の温度依存性評価おける、90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が常に15〜500MPaであり、好ましくは20〜300MPa、より好ましくは20〜200Mpa、特に好ましくは25〜150MPaである。90℃〜150℃における貯蔵弾性率をこの範囲内とすることで、熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく、部分的に不織布が伸ばされるような伸度斑が少なく、形がきれいな意匠性に優れる成型体を得ることができる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を下回る場合、成型時の熱により不織布の機械的強度が低くなりすぎているため、金型の形状や加熱の温度斑などによる延伸斑が発生しやすくなる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を上回る場合、成型時に熱を与えてもなお機械的強度が高いため、金型で延伸した際に布帛が破断しやすくなる。」(【0042】)と記載されている。 すなわち、相違点3−3に係る本件発明1の構成は、「熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく」することを可能とするために採用された構成であるところ、甲3には「熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく」することについて何ら記載されておらず、引用発明3において、相違点3−3に係る本件発明1の構成とする動機付けがない。 しかも、相違点3−3に係る本件発明1の構成は、甲1、2、4にも記載されておらず、かつ、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。 したがって、引用発明3において、相違点3−3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、相違点3−1及び相違点3−2を検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明3〜9及び11〜18について 本件発明3〜9及び11〜18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)小括 よって、本件発明1、3〜9及び11〜18は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立人の進歩性に係る上記申立理由は採用できない。 2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)及び特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る申立理由について 申立人は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項10に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨、及び請求項10に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨の主張をしているが、本申立理由の対象とされた本件訂正前の請求項10は、本件訂正により削除された。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、3〜9及び11〜18に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、3〜9及び11〜18に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 また、請求項2及び10に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による請求項2及び10に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 生分解性不織布 【技術分野】 【0001】 本発明は、高伸度を有し、高熱安定性、成型加工特性に優れる生分解不織布及び成型体に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、生分解性不織布からなる成型体は知られており、各種分野に使用され、広く用途が展開されている。成型体は不織布を熱成型することで得ることができるが、熱成型において、破れが無く、延伸斑が少なく、成型金型の形に沿った形のきれいな成型体を得ることは難しい。 【0003】 以下の特許文献1には、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体から成る生分解性長繊維不織布を得る方法が開示されており、ポリ乳酸系重合体が海部を脂肪族ポリエステル共重合体が島部を形成する海島型複合長繊維を構成し、島部を形成する脂肪族ポリエステル共重合体を繊維表面に露出させることにより、熱接着性を向上させ、成形性のある不織布を得ているが、熱成型において、破れが無く、延伸斑が少なく、成型金型の形に沿った形のきれいな成型体をより短時間で得るには不十分なものである。 【0004】 また、以下の引用文献2及び引用文献3には、ポリ乳酸又はポリブチレンサクシネートからなる生分解性成形用不織布を得る方法が開示されているが、構成繊維同士が部分的に熱圧着されて形成されていることから、繊維同士の結着が強すぎて、熱成型において、破袋せず、成型深さが深い成型体を得ることが難しい。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特許第5486331号公報 【特許文献2】特許第3432340号公報 【特許文献3】特開2000−136479号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 前記した従来技術の問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、生分解性を有するとともに、高伸度を有し、高熱安定性、及び成型性に優れる不織布を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、成型前の不織布の特性に注目し、ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であり、かつ、熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下とすることによって、熱成型の際、破れが無く、延伸斑が少なく、形のきれいな成型体をより短時間で得ることができ、熱成型時に取り扱い性が良好であり、不織布が複雑な成型形状に追随でき、意匠性に優れる成型体を得ることかできることを見出した。更に、本発明者らは、成型体の熱安定性を、熱機械分析(TMA)にて、30〜100℃において、容器を構成する成型体片に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の伸長変化率が4%以下とすることで、抽出時に内容物の膨張の影響を受けなくなり、抽出機内部の梁などへの接触や擦れによる容器の破袋を抑制できることも見出し、本発明を完成するに至ったものである。 【0008】 すなわち、本発明は以下の通りのものである。 [1]ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2であり、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であり、かつ、熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下である、熱成型用の生分解性不織布。 [2]前記不織布において、動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaである、前記[1]に記載の生分解性不織布。 [3]前記不織布のタテ引裂き強度を目付で除した値が0.002〜0.5N/(g/m2)である、前記[1]又は[2]に記載の生分解性不織布。 [4]前記不織布中の繊維の複屈折率が、0.002〜0.10である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の生分解性不織布。 [5]前記不織布中の繊維は、前記ポリ乳酸系重合体に加え、脂肪族エステル共重合体を、全樹脂重量を基準として、0.5〜30重量%さらに含むものである、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の生分解性不織布。 [6]前記不織布の平均繊維径が1〜40μmであり、かつ、前記不織布は長繊維で構成されている、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の生分解性不織布。 [7]前記不織布において、動的粘弾性評価の温度依存性試験における損失正接(tanδ)の極大値が0.5以下である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の生分解性不織布。 [8]前記不織布の、動的粘弾性評価の温度依存性試験における貯蔵弾性率の10〜70℃における貯蔵弾性率が、200MPa以上である、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の生分解性不織布。 [9]前記不織布を、温度120℃中でMD/CD二軸両方向へ同時に、面積倍率6.25倍に延伸した延伸シートの2.5cm角目付に関して、R/Aveの値が1.0以内である、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の生分解性不織布。 [10]50℃〜160℃の範囲で定長熱セットを行う工程を含む、前記[1]〜[9]のいずれかに記載の生分解性不織布の製造方法。 [11]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の生分解性不織布を熱成型で一体加工する工程を含む、成型体の製造方法。 [12]不織布を55℃〜160℃に予熱する工程を含む、前記[11]に記載の方法。 [13]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の生分解性不織布から構成される、成型指数1.1以上の成型体。 [14]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の生分解不織布から構成され、成形指数が1.1〜20倍であり、かつ、連続した不織布から、同一成形機で成形した少なくとも10個以上の成形体の底部同位置から採取した布帛片の目付のR/Aveの値が0.5以内となる成形体群。 [15]前記[13]に記載の成型体において、熱機械分析(TMA)にて、30〜100℃において、容器を構成する成型体片に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の伸長変化率が4%以下であることを特徴とする生分解性飲料抽出用容器。 [16]沸水浸漬時の容量変化が20%〜90%である、前記[15]に記載の飲料抽出用容器。 [17]構成する不織布成型体の配向度が0.010以上であることを特徴とする、前記[15]又は[16]に記載の飲料抽出用容器。 [18]構成する不織布成型体の結晶化度が30〜70%である、前記[15]〜[17]のいずれかに記載の飲料抽出用容器。 【発明の効果】 【0009】 本発明の生分解性不織布は、熱成型の際、破れが無く、延伸斑が少なく、形のきれいな成型体をより短時間で得ることができ、また、熱成型の際、取り扱い性が良好となり、さらに、熱成型時に不織布が複雑な成型形状に追随できるため、意匠性に優れる成型体、例えば、食品容器を得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】本発明の他の実施形態の飲料用抽出容器の構成の代表例の模式図である。 【図2】本発明の他の実施形態の蓋付きの飲料用抽出容器の代表例を説明する模式図である。 【図3】実施例10、比較例1での貯蔵弾性率の温度依存性評価を示すグラフである。 【図4】実施例10、比較例1での損失正接の温度依存性評価を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本願発明の実施形態について詳細に説明する。 本実施形態の生分解性不織布は、熱環境下での伸度及び寸法変化率を適切にし、高い成型加工特性を発現することができる。 本実施形態の生分解性不織布は、成型加工特性を有する。従来、成型加工特性を有する生分解性不織布の製造においては、紡糸直後の糸の特性に着目し、伸度を発現させ、不織布の熱圧着加工等の問題を改善するものであった。これに反し、本実施形態の生分解性不織布では、成型に用いる不織布そのものの特性、及び成型体そのものの特性に着目し、高い成型加工特性を有する不織布、及び熱安定性に優れた抽出容器(成型体)を得ている。 【0012】 [ポリ乳酸系重合体] 本実施形態の生分解性不織布の繊維を構成するポリ乳酸系重合体(以下、PLAともいう。)としては、D−乳酸の重合体、L−乳酸の重合体、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、及びD−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、又は該重合体の2種以上のブレンド体が挙げられる。ポリ乳酸重合体のD/L比は、紡糸性、不織布特性を阻害しない範囲で設定できるが、全ポリ乳酸重量中のD体比率は、好ましくは0〜15%、より好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.1〜6%である。D体比率がこれらの範囲内であると、紡糸性がよく、安定して不織布を得ることができ、また、融点、結晶性等が適当な範囲となり、所望の特性の不織布を得やすい。 本実施形態のポリ乳酸系重合体のMFRは、20〜120g/10分であることが好ましく、より好ましくは30〜70g/10分である。MFRが20g/10分以上であれば、溶融粘性が適切であり、紡糸工程において繊維の細化が起こり易いため紡糸性が良好となる。他方、MFRが120g/10分以下であると、溶融粘性が適切なため、紡糸工程において単糸切れが発生することが少なく、紡糸性が良好となる。 【0013】 [脂肪族ポリエステル共重合体] 脂肪族ポリエステル共重合体としては、例えば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)又はこれらを主たる繰り返し単位要素とする共重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)の如きポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートの如きポリ(β−ポリヒドロキシアルカノエート)、あるいはこれらを構成する繰り返し単位要素とポリ−3−ヒドロキシバリレートやポリ−4−ヒドロキシブチレートを構成する繰り返し単位要素との共重合体が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸との縮重合体からなるポリアルキレンジカルボキシレート、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレート、又はこれらを構成する繰り返し単位要素とするポリアルキレンジカルボキシレート共重合体が挙げられる。さらに、これらの生分解性を有する個々の重合体を複数種選択し、これらをブレンドしたものが挙げられる。脂肪族ポリエステル共重合体としては、ポリ乳酸との相溶性、紡糸性の観点から、ポリブチレンサクシネート(以下、PBSともいう。)が好ましい。 【0014】 脂肪族エステル共重合体のMFRは、紡糸工程の延伸性が良好となる100g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは20〜80g/10分、さらに好ましくは30〜70g/10分である。また、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体との溶融流量比は、0.2〜1.5の範囲であることが必要である。すなわち、0.2≦[脂肪族ポリエステル共重合体の溶融流量/ポリ乳酸系重合体の溶融流量]≦1.5であり、好ましくは0.3〜1.4である。溶融流量比がこれらの範囲内であると紡糸性が良好であり、かつ、脂肪族ポリエステル共重合体の分散性が良好となるために安定した熱接着性が得られる。 【0015】 前記繊維は、前記ポリ乳酸系重合体に加え、脂肪族エステル共重合体を、全樹脂重量を基準として、0.5〜30重量%さらに含むものであることができる。脂肪族ポリエステル共重合体の添加量は、樹脂の総量を100重量%としたとき、0.5〜30重量%であり、好ましくは3〜27重量%、より好ましくは5〜25重量%である。添加量が0.5重量%以上であれば、不織布の結晶性を調整しやすく、熱特性が良好となる。他方、添加量が30重量%以下であれば結晶化が速くなり、紡糸時に繊維同士が又は繊維が設備に接着密着することがないため、安定生産が可能となる。 【0016】 本実施形態の不織布の製造方法は限定されないが、公知のスパンボンド法、メルトブロー法、エアレイド法、カード法、抄造法などで得られる。不織布の接着方法としては、エンボス加工、サーマルボンド、柱状流交絡、機械交絡、ニードルパンチ等を用いることができる。効率よく生産でき、成型した後の毛羽立ち等も抑制できることから、長繊維不織布、更にはスパンボンド法にて製造することが好ましい。 【0017】 スパンボンド法を用いる場合、樹脂を加熱溶融して紡糸口金から吐出させ、得られた紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却し、エアーサッカー等の吸引装置にて牽引細化する。引き続き、吸引装置から排出された糸条群を開繊させた後、コンベア上に堆積させてウェブとする。次いで、このコンベア上に形成されたウェブに加熱されたエンボスロール等の部分熱圧着装置を用いて部分的に熱圧着を施すことにより、長繊維スパンボンド不織布が得られる。 【0018】 スパンボンド法を用いる場合、特に限定されないが、ウェブの均一性を向上させるために、例えば、特開平11−131355に開示されているようなコロナ設備等により繊維を帯電させる方法や、平板状の分散板等のような気流を制御する装置を用いてエジェクターの噴出し部分の気流の速度分布を調整する等をして繊維を開繊させた後にウェブを吹き付け、ウェブの飛散を抑制しながら捕集面に積層する方法を用いることで更に好ましい製法となる。 スパンボンド法で得られる不織布は、布強度が強く、かつ、ボンディング部の破損による短繊維の脱落がない等の物性上の特徴を有しており、また、低コストで生産性が高いため、衛生、土木、建築、農業・園芸、生活資材を中心に広範な用途で使用されている。 【0019】 本実施形態の生分解性不織布は、熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下であることを特徴とする。 本実施形態の生分解性不織布は、熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下であり、好ましくは±2%以下である。寸法変化率が高すぎない場合、成型温度付近において、適度な柔軟性があり、複雑な形状の成型にも不織布が追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく、部分的に不織布が伸ばされるような伸度斑が少なく、形がきれいな意匠性に優れる成型体を得ることができる。他方、寸法変化率がマイナス4%を下回る場合、すなわち、収縮が大きすぎる場合、成型時の予熱による熱や金型の放射熱により布が安定せず、得られる成型体の形状が悪く、容量の大きな成型体を得ることができない。他方、寸法変化率がプラス4%を超える場合、すなわち、伸びが大きすぎる場合、成型時の予熱による熱や金型の放射熱により布が安定せず、得られた成型体の形が悪くなる。 【0020】 寸法変化率を範囲内にする具体的な方法としては、例えば、生分解性不織布の樹脂種類、樹脂の混合比率、紡糸時の樹脂温度、吐出量、速度、雰囲気温度、冷却等の紡糸条件、仮圧着や熱圧着時のロール温度、圧力、速度、エージング等の条件、保管条件等を調整することによるものであることができる。具体的に、例えば、紡糸速度を速く、雰囲気温度を低く、冷却条件を高めること、高温で熱圧着を行うこと、仮圧着を行った不織布ウェブを高すぎない温度で定長熱セットすること、等により寸法変化が少ない布を得ることができる。 【0021】 本実施形態の生分解性不織布は、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であることを特徴とする。 本実施形態の生分解性不織布は、成形加工の際、加熱時伸長性を有することが必要である。そこで、例えば、不織布は低延伸糸からなり、繊維が加熱時に伸びるか、又は不織布の構成繊維がズレを起こすことが必要である。従って、本発明の生分解性不織布の加熱時伸長性は、温度120℃における伸度が50%以上、好ましくは50%〜500%、より好ましくは100%〜400%、さらに好ましくは、180%〜350%である。伸度が範囲内であれば、成型性が良好であり、伸度が大きいほど、成型深さの深い深絞り成型も容易になる。 【0022】 120℃における伸度を範囲内にする具体的な方法としては、例えば、生分解性不織布の樹脂種類、樹脂の混合比率、紡糸時の樹脂温度、吐出量、速度、雰囲気温度、冷却等の紡糸条件、仮圧着や熱圧着時のロール温度、圧力、速度、エージング等の条件、保管条件等で調整することよるものであることができる。具体的に、例えば、紡糸時の紡糸速度を高くしすぎず、高すぎない温度で熱圧着を行うこと、紡糸時の雰囲気温度を低くしすぎない状態で不織布ウェブを得て熱圧着を行うこと、等によって、不織布に適度な接着点を持たせつつ高い伸度を有する不織布を得ることができる。 【0023】 本実施形態の生分解性不織布は、タテ引裂き強度を目付で除した値が好ましくは0.002〜0.5N/(g/m2)であり、より好ましくは0.005〜0.2N/(g/m2)である。タテ引裂き強度は、繊維の強伸度と繊維同士の接着強度と大きく相関する。タテ引裂き強度が小さすぎる場合、繊維の強度が小さいか、繊維同士の接着が強すぎることがある。他方、タテ引裂き強度が大きすぎる場合、繊維の強伸度が大きいか、繊維同士の接着が弱すぎることがある。引裂き強度に影響する繊維の強度や繊維同士の接着力は、紡糸速度や樹脂温度等の紡糸条件、エンボス加工、カレンダー加工等、熱圧着加工時の加工温度、加工速度、エージング条件等により、適切な範囲とすることができる。 【0024】 タテ引裂き強度を目付で除した値が大きすぎない場合、生分解性不織布を構成する繊維同士が適度に接着されており、成型後も繊維同士が適度に接着性を有するので、成型した後でも繊維が浮きにくく、ケバが生じにくい。さらに、タテ引裂き強度を目付で除した値が大きすぎない場合、適度な剛性を有し、工程張力下でも適度な張りを有し、不織布を工程に通すことが容易となり好適である。他方、タテ引裂き強度を目付で除した値が低すぎない場合、繊維同士が適度に接着しており、繊維強度も低すぎず、生分解性不織布が適度な伸度及び強度を有し、取扱いが容易となる。 また、ヨコ引裂き強度についても、生分解性不織布を構成する繊維同士が適度に接着されている範囲で設定すること、タテ引裂き強度とともに、適度な剛性を有し、不織布を工程に通すことができる範囲で設定することが好ましい。 【0025】 本実施形態の生分解性不織布(不織布からサンプリングした生分解性不織布を構成する長繊維)の複屈折率(すなわち、不織布を構成する長繊維の紡糸直後の複屈折率ではない)は、好ましくは0.002〜0.10であり、より好ましくは0.005〜0.10であり、さらに好ましくは0.010〜0.025である。複屈折率が高すぎない場合、高伸度の生分解性不織布を得ることができ、複屈折率が低すぎない場合、熱環境下での安定性を有することができる。本実施形態の生分解性不織布(不織布からサンプリングした生分解性不織布を構成する繊維)の複屈折率は、生分解性不織布の特性であり、生分解性不織布を構成する熱圧着前、紡糸直後の長繊維の複屈折率は、紡糸性、熱圧着性、不織布の伸度発現、等を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。 【0026】 本実施形態の生分解性不織布(不織布からサンプリングした生分解性不織布を構成する繊維)の結晶化度は、好ましくは30〜70%、より好ましくは35〜62%、さらに好ましくは38〜57%である。結晶化度が低すぎない場合、成型加工時に成型型から布が外れた際に収縮して成型体の形が歪にならず、他方、結晶化度が高すぎない場合、成型加工時に破袋せずに加工できる。 【0027】 本実施形態の不織布の目付は、20〜300g/m2であり、好ましくは20〜250g/m2である。目付が20g/m2以上であれば、強度が十分となり、他方、300g/m2以下であれば、成型加工時に成型加工設備に大きな負担をかけずに加工できる。 【0028】 本実施形態の生分解性不織布(不織布からサンプリングした生分解性不織布を構成する繊維)の平均繊維径は、1〜40μmであることが好ましく、より好ましくは10〜40μm、さらに好ましくは15〜35μmである。目付と平均繊維径によって、通液性と内容物保持性を適宜選定でき、平均繊維径が小さすぎない場合、容器として内容物を保持することができ(粉漏れ性が良好であり)、平均繊維径が大きすぎない場合、通液速度が遅すぎない。 【0029】 本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維の形状は、特に限定しないが、丸型、扁平型、C型、Y型、V型などの異形断面などが用いられ、好ましくは丸型断面であり、さらに、海島構造や芯鞘構造、割繊構造であってもよい。 【0030】 本実施形態の生分解性不織布の形状としては、例えば、SS、SMS、SMMS、SMSMなどの多層積層不織布の内の一層であってもよい。ここで、Sは、スパンボンド法の長繊維不織布、Mは、メルトブロー法の極細不織布を意味する。また、生分解性不織布を基材として、短繊維不織布層を積層してもよい。 【0031】 本実施形態の生分解性不織布は、公知のスパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ法、サーマルボンド法、エアーレイ法、柱状流交絡、機械交絡などで得られる。不織布の強度の観点から、スパンボンド法で得られる長繊維不織布であることが好ましい。 【0032】 本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維は、少なくともポリ乳酸系重合体を含み、好ましくは、脂肪族ポリエステル共重合体をさらに含む低延伸複合繊維であることができる。ポリ乳酸系重合体繊維と脂肪族ポリエステル共重合体との低延伸複合繊維は、紡糸工程の結晶配向度が低く押さえられており、結晶化度が低く、延伸性が良好であり、高伸度、高延伸が可能である。紡糸速度500〜3000m/分の低紡糸速度で得られた繊維が好ましく用いられ、より好ましくは紡糸速度700〜2700m/分、さらに好ましくは900〜2500m/分が用いられる。一般に、紡糸速度が速い場合、紡糸直後の糸は、結晶性、配向性が高いものとなり、紡糸速度が遅い場合、結晶性が低く、配向性が低いものとなる。 【0033】 本実施形態の生分解性不織布を構成する繊維の製造においては、目的に応じて、不織布を構成する繊維に、他の樹脂、脂肪族ポリエステル共重合体以外の共重合体、難燃剤、無機充填剤、柔軟剤、可塑剤、顔料、耐電防止剤などを、さらに1種又は2種以上添加してもよい。 【0034】 本実施形態の生分解性不織布の製造における熱圧着は、エンボス加工を行ってもよいが、熱延伸性を大きくし易いため、仮熱圧着をした不織布ウェッブの繊維の表面で点接着により一体化されていることが好ましい。仮熱圧着の方法に特に制限はされないが、好ましくは、少なくとも一方の表面に凹凸模様を有する一対のエンボスロールを用いる方法、表面が平坦な一対のフラットロールを用いる方法等が挙げられ、また、ニードルパンチ法やスパンレース法等、不織布を接合させる方法を用いることもできる。 【0035】 点接着により一体化された不織布を得る場合、2段階で仮熱圧着と熱接着を行うことにより、生分解性不織布における繊維結合は、軽度な熱接着に留まり、繊維表面での点状接着が主体となり、仮熱圧着でエンボス柄が付いたとしても、2段階目の面的に抑制された熱接着により、エンボス柄の周辺でミクロに熱収縮が発現し、エンボス柄がはずれるか又は弱くなるとともに、生分解性不織布全体の目付けムラが軽減される。 仮圧着におけるエンボス加工と熱圧着を組みわせる場合、エンボス加工による圧着は、熱延伸時に応力が集中しすぎないため、強すぎないことが好ましい。エンボス加工における圧着面積比率は、特に制限されないが、高頻度で弱い接着であることが好ましい。圧着面積比率は、不織布全面積に対して3〜50%が好ましく、より好ましくは5〜40%である。 【0036】 2段階目の熱接着は、不織布を面的に抑制する熱接着方法であれば、特に制限されないが、好ましくはフェルトカレンダー加工、エアスルー加工を用いる。 また、不織布の熱接着に用いられる一般的な加工方法としてのエンボス加工を行った場合、繊維同士が、熱圧着で強固に圧着されているため、圧着部では、繊維形状は維持されておらず、繊維は潰された形状であり、繊維同士が互いに融着してフィルム状を呈し、エンボス柄を形成している状態である。結晶化が進み過ぎ、フィルム化した部分を含む不織布を熱環境下で延伸しようとした場合は、高い伸度が出にくい場合がある。また、エンボス加工によって作製された不織布を用いた成型体においては、フィルム化した部分を含むため、通液性が必要な用途において通液性が悪くなり、不都合となる場合がある。 【0037】 本実施形態の生分解性不織布を仮接着する場合においては、まず、少なくとも一方の表面に凹凸模様を有する一対のエンボスロールを用いて、ロール温度25〜100℃、好ましくは35〜80℃の温度にて線圧50〜1000N/cm、好ましくは200〜700N/cmの下で熱接着することにより仮熱圧着された生分解性不織布を得る。次いで、仮熱圧着された生分解性不織布を、フェルトカレンダーロールを用いて、ロール温度50〜160℃、好ましくは80〜150℃の温度にて熱接着することにより、繊維同士の交絡点において繊維の表面が溶融して、互いに点状で接着し、その接着部の存在する頻度を大きくすることができる。さらに、この点状の接着は、通常の熱接着と比べて、弱い接合であるため、小さな応力で、均一に延伸加工ができるので、大きな延伸を伴う熱成形に適する。 【0038】 本実施形態の生分解性不織布を得る方法としては、定長熱セットを行うことが好ましい。紡糸直後の不織布ウェブは、熱圧着の際、張力を加えた状態で熱を加えることで、不織布の表面性が良く、熱伸長性のある不織布を得て、成型加工時も破れ、形がきれいな成型体を得るために好ましい。定長熱セットを行う方法としては、一般的な方法を用いてよく、熱風乾燥、ピンテンター乾燥、熱板、カレンダー加工、フェルトカレンダー加工、エアスルー加工、熱プレス等を用いてよい。定長熱セットを行う温度範囲としては、不織布を構成する樹脂が装置に付着することなく、不織布の繊維が適度に接着された状態を得られる温度であれば、特に限定しないが、好ましくは50℃〜160℃、より好ましくは70℃〜160℃、さらに好ましくは80℃〜150℃である。定長熱セットを行う温度が高すぎない場合、装置に不織布由来の汚れが付きにくく、取扱い性、生産性良く不織布を得ることができる。他方、低すぎない場合、不織布の繊維が適度に接着された状態を得ることができる。 【0039】 従来、熱成型性を有する不織布としては、紡糸直後の繊維の結晶化度、配向度を低くすることで熱時伸度を得ていた。しかしながら、紡糸直後の繊維の結晶化度、配向度を低い状態とすることは、熱に対する不安定性を残した状態であり、不織布を形成する際、熱圧着の状態を適切にすることが難しかった。例えば、エンボスによる熱圧着を行った場合、エンボス部では結晶部分が多い状態となり、他方、非エンボス部では非結晶部が多い状態となり、熱成型時、エンボス部と非エンボスの境界部やエンボス部が破壊されやすく、熱成型時に破れず、形のきれいな成型体を得ることが難しいことがあった。また、結晶化度、配向度を低く設定する方法としては、紡糸条件を調整することも行われるが、紡糸速度を低くし繊維に延伸がかからないようにした場合、結晶化度、配向度が低い不織布ウェブとなるが、結晶化度、配向度が低い状態で熱圧着を行うと、結晶化が進み過ぎて、成型性に優れる不織布を得ることができないことがあった。したがって、本実施形態においては、不安定な不織布の状態での加工をより安定化させるために、熱圧着、フェルトカレンダー加工、エアスルー加工、エージング、等を行うことが好ましい。 【0040】 従来から、熱成型性を得るための方法としては、特許文献1〜3や特公平01−047581号公報に記載されるように、紡糸時に配向結晶を抑える必要あり、紡速を遅くし、非結晶部を多くもつ構造とすることが行われてきた。しかしながら、非結晶部を多くもつ不織布は、熱の影響を受けやすい状態であり、熱環境下で寸法安定性のないことが多かった。ここで、ポリ乳酸の樹脂特性をポリエステルと比較して考えると、ポリ乳酸は、融点が低く、融点とガラス転移温度との差が小さく、結晶化時間が遅いため、熱成型時に、十分な時間・熱をかける必要がある。しかしながら、不織布の熱安定性を高めるため、エンボス加工等を行おうとすると、収縮を起こし不織布を作製することが難しい状態にあった。それゆえ、寸法安定性のある本実施形態の生分解性不織布は、張力のある状態で熱を加えることができる定長熱セットを行うことが好ましい。 【0041】 さらに、本実施形態においては、成型不織布の熱特性評価として、動的粘弾性の温度依存性評価における貯蔵弾性率及び、損失正接に着目し、このパラメータを最適化することで、成型用不織布としての良好な延展性、耐熱安定性を得るに至った。 延展性に優れる不織布を得るためには、樹脂の非晶部分の運動性や配向を制御することが重要とされてきたため、従来は、紡糸直後の繊維の結晶化度、配向度を低くするなどの手法がとられてきた。しかしながら、実際の成型時には、常温での搬送や、予熱時や熱成型による加熱など、温度環境で不織布が使われており、これらの物性値で適性を一義に評価することは難しかった。そこで、温度変化に対する樹脂の剛軟性を評価する動的粘弾性の温度依存評価における貯蔵弾性率、及び損失正接を用いて成型工程での適性を評価し、不織布の製造条件を最適化することで、延展性、熱安定性に優れた不織布を得るに至った。 【0042】 本実施形態の不織布は、動的粘弾性の温度依存性評価おける、90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が常に15〜500MPaであり、好ましくは20〜300MPa、より好ましくは20〜200Mpa、特に好ましくは25〜150MPaである。90℃〜150℃における貯蔵弾性率をこの範囲内とすることで、熱プレス成型を行った際に、金型による変形に追従でき、破袋が少なく、できた成型体の表面の凹凸が少なく、部分的に不織布が伸ばされるような伸度斑が少なく、形がきれいな意匠性に優れる成型体を得ることができる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を下回る場合、成型時の熱により不織布の機械的強度が低くなりすぎているため、金型の形状や加熱の温度斑などによる延伸斑が発生しやすくなる。他方、貯蔵弾性率がこの範囲を上回る場合、成型時に熱を与えてもなお機械的強度が高いため、金型で延伸した際に布帛が破断しやすくなる。 【0043】 本実施形態の不織布は、動的粘弾性の温度依存性評価における、10℃〜70℃の温度領域での貯蔵弾性率が常に200MPaであり、好ましくは250MPa以上、より好ましくは300MPa以上である。10℃〜70℃における貯蔵弾性率をこの範囲内とすることで、成型工程において、不織布が破断や変形をすることなく、良好に不織布を搬送することができる。 【0044】 本実施形態の不織布は、動的粘弾性評価の温度依存性試験における損失正接(tanδ)の極大値は0.5以下であり、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.4以下である。動的粘弾性の温度依存性試験で得られるtanδの極大値の大きさは、分子の自由度を示しており、値が大きい程分子の可動領域が広い。即ち、任意温度でのtanδが1以上となると、その温度での分子の自由度が大きく、布帛が熱的に不安定となり、熱収縮などを誘発する。 【0045】 本実施形態の不織布は、動的粘弾性評価の温度依存性試験における貯蔵弾性率の温度に対する変化率が3〜50MPaであることが好ましく、より好ましくは5〜35MPa、更に好ましくは10〜25MPaである。貯蔵弾性率の温度に対する変化率が上記範囲内であれば、熱成型時に成型型に対する追従性が適度となり、成型斑や破袋が無く成型することができる。貯蔵弾性率の温度に対する変化率が上記範囲より小さい場合、成型時にシートの剛性が高いため成型型への追従性が悪く、シート割れによる破袋が発生する。他方、貯蔵弾性率の温度に対する変化率が上記範囲より大きい場合、成型時の変形に対して追従性が良くなり過ぎ、過延伸による目開きや破袋が発生する。 尚、貯蔵弾性率の温度に対する変化率は動的粘弾性の温度依存性試験を行った際の貯蔵弾性率の変化を温度変化の値で除した下記式: 動的粘弾性の温度依存性試験=−Δ貯蔵弾性率/Δ温度 により算出することができる。 【0046】 特に、成型工程においては、生産性向上を目的として成型を多列で行うため、設備的に列方向での加熱斑等の精度斑が生じやすい。このため、不織布の動的粘弾性の温度依存性評価における貯蔵弾性率、損失正接、貯蔵弾性率の温度に対する変化率を上記記載の範囲内とすることで、成型時の破袋や成型斑の抑制が可能となり、品質的に安定した生産を行うことが可能となる。 【0047】 動的粘弾性評価における貯蔵弾性率、損失正接を上記範囲内にするための具体的な方法に特に制約はないが、発明者らは紡糸して得られた布帛の熱圧着方法、及び熱圧着にて得られた不織布中の繊維の複屈折率を最適な値とすることで、本発明を完成するに至った。具体的な方法としては、例えば、不織布の樹脂種類、樹脂の混合比率、紡糸時の樹脂温度、吐出量、速度、雰囲気温度、冷却等の紡糸条件、仮圧着や熱圧着時のロール温度、圧力、速度、エージング等の条件、保管条件等で調整することよるものであることができる。具体的に、例えば、紡糸時の紡糸速度を高くしすぎず、高すぎない温度で熱圧着を行うこと、紡糸時の雰囲気温度を低くしすぎない状態で不織布ウェブを得て熱圧着を行うこと、等によって、不織布に適度な接着点を持たせつつ高い伸度を有する不織布を得ることができる。 【0048】 成型を行う際、不織布は金型により、不織布の流れ方向、幅方向の両軸に同時に延伸される。そこで本発明者らは、熱成型における成型後の均一性を評価する指標として、従来から用いられている単軸方向での引張試験に加え、二軸両軸方向に同時延伸し、目付斑を評価することで不織布の均一成型性を評価した。 【0049】 本実施形態の生分解性不織布は、温度120℃中でMD/CD二軸両方向へ同時に、面積倍率6.25倍に延伸した延伸シートの2.5cm角目付に関して、R/Aveの値が1.0以下であることを特徴とする。本実施形態の生分解性長繊維不織布は、120℃雰囲気中でMD/CDの二軸両方向へ同時に、面積倍率6.25倍に延伸した延伸シートの2.5cm角目付に関して、R/Aveの値が1.0以下であり、好ましくは0.7以下である。R/Aveの値が高すぎない場合、不織布を成形した際の延伸が均一になり、内容粉末の保持性、及び通液性も均一になる。 【0050】 MD/CD二軸延伸シートのR/Aveを範囲内にする具体的な方法としては、例えば、生分解性不織布の樹脂種類、樹脂の混合比率、紡糸時の樹脂温度、吐出量、速度、雰囲気温度、冷却等の紡糸条件、仮圧着や熱圧着時のロール温度、圧力、速度、エージング等の条件、保管条件等を調整することによるものであることができる。具体的に、例えば、紡糸速度を遅く、雰囲気温度を高く、冷却条件を低くし、高温で熱圧着を行うこと、仮圧着を行った不織布ウェブを十分に高い温度で定長熱セットすること、等によりMD/CD二軸延伸シートのR/Aveが小さくなるような不織布を得ることができる。 【0051】 本実施形態の生分解性不織布は、熱成形で一体加工して、成形体とすることができる。成形体の形状について特に制限はなく、半円形、円柱形、楕円、三角形、四角形など使用目的に応じて選択することが好ましい。成型に使う元の不織布の面積に対し、より容量の大きな成型体を得たい場合、成型前後の不織布の表面積の増加がより大きくなるような成型金型を適宜選定すればよい。 【0052】 本実施形態の成型不織布の成型方法は熱成型工程を含んでおれば、その方法は特に限定はされないが、熱成型前に予熱工程、熱成型後に容量を維持する保形工程を含んでいてもよい。 予熱工程を熱成型前に含むことで、成型直前の不織布の温度を制御することができ、貯蔵弾性率など不織布の特性値を成型に適した値とすることができる。成型直前の不織布の温度の好ましい範囲は、55〜160℃、更に好ましい範囲は60〜130℃、特に好ましい範囲は70〜120℃である。成型直前の不織布温度は50℃以下となると、貯蔵弾性率が高く成型時に成型型に対する追従性が悪くなるため、破袋や成型斑等、成型不良が発生しやすくなる一方で、成型直前の温度が140℃以上となると、貯蔵弾性率が低くなり過ぎ、成型時に布帛にかかる応力に耐え切れず、破袋などの成型不良が起こる。 【0053】 本実施形態で用いる不織布がポリ乳酸で構成されている場合、結晶化速度が非常に遅いため、成型時にシートを延伸した際の残留応力による成型体の収縮がシートの結晶化よりも先に起こり、容量の小さい成型体となりやすい。このため、成型体を急冷固化させ、保形する効果を得るため、成型後に保形工程を含ませることで容量の大きい成型体を得ることができる。 【0054】 これらの予熱、保形工程を併せて熱成型加工を行うことで、連続して均一な成型が可能なプロセスとすることができ、本実施形態の不織布をこれらの成型プロセスにて成型することで、均一な成型体を提供可能となる。たとえば、市販されている10個以上の成型体が同封された商品の、成型体の底部同位置から採取した布の目付のR/AVEの値を0.5以内とすることができ、食品用フィルター等に用いた際、内容物の漏出なく、意匠性に問題なく製品を提供可能となる。 【0055】 本実施形態の生分解性不織布の成型の程度は、成型指数で表す。成型指数とは、成型体の表面積を、成型体に用いられた成型前の平面状の不織布の面積(容器形状の場合は開口部面積)で割って求められる次式(1): 成型指数=(成型体の表面積cm2)/(成型前の不織布の面積cm2) で定義される値である。 本実施形態の生分解性不織布から構成される成型体の成型指数は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.1〜20、さらに好ましくは1.5〜10、最も好ましくは2.5〜6である。成型指数が大きい場合、不織布が大きく伸ばされていることを示す。他方、成型指数が小さい場合、不織布の伸びが少ないことを示す。実施形態の生分解性不織布は、不織布が高伸度を有するため、高伸度成型指数の大きな成型品を作製することができる。成型指数が大きすぎない場合、破袋することなく成型でき、成型指数が小さすぎない場合、容器に内容物を充填する際に適度な大きさを有することができる。 【0056】 熱成型において、ポリ乳酸の樹脂特性の観点から、ポリエステル樹脂と比較して考えると、ポリエステルは、融点が高く、融点とガラス転移温度との差が大きく、結晶化速度が速いため、成型時の金型温度を高くし成型体を得ることができるが、ポリ乳酸は、融点が低く、融点とガラス転移温度との差が小さく、結晶化速度が遅いため、成型用不織布に十分熱を与えにくく、成型温度を高くできないことがある。よって、本実施形態の生分解性不織布は、成型前の不織布の形状をかためるために、定長熱セットすることが好ましい。 尚、ポリ乳酸とポリエステルの一般的な樹脂特性は以下の通りである。ポリ乳酸、ポリエステルの順に、融点:170℃、260℃、再結晶化温度:70℃、120℃、ガラス転移温度55〜60℃、70〜80℃、比熱:1.38J/g・K、1.00〜1.15J/g・K、熱伝導率0.13W/m・K、0.2〜0.33W/m・K、半結晶化時間:500〜900秒、50〜100秒。 【0057】 本実施形態の不織布は、成型条件を調整し、成型体の特性を制御することで、飲料抽出用容器として、さらに適した実施形態となる。以下、かかる他の実施形態の詳細を説明する。 【0058】 [背景技術] 従来、紅茶、緑茶、コーヒー粉末、薬剤、漢方薬などの被抽出物を簡便に抽出する方法として、飲料抽出用容器に被抽出物を封入して、抽出機にて、容器内にお湯を注ぐことで飲料を抽出する方法、例えば、シングルサーブ方式が知られている。飲料抽出用容器としては、プリーツ形状の紙を樹脂容器内部に備えたもの、容器状に成型した不織布を樹脂容器内部に備えたもの、不織布を容器状に成型した成型体を使用したもの等がある。 樹脂容器を有する飲料抽出用容器は、湯の出口を確保するため、容器底部に穴を開ける必要がある。抽出機の容器設置部の底には針が設置されている。 特開2015−85086号公報には、上記抽出機で用いる飲料抽出用容器が開示されている。このような容器状に成型した成型体を樹脂容器内部に備えた飲料抽出容器では、成型体に針が刺さらないように樹脂容器の底に空間を設ける必要があり、容器が大きくなり、運搬、陳列、保管時等においてかさばり、取扱い性に問題があった。 一般に、被抽出物を抽出する際、湯を注ぐと被抽出物が膨張する。容器状に成型した成型体を用いる飲料抽出用容器では、抽出時に内容物が膨張し、容器が膨らみ、抽出機に設けられた針に接触し、不織布が破れ、内容物が漏れる問題があった。 【0059】 [発明が解決しようとする課題] [課題を解決するための手段] 前記した従来技術の問題に鑑み、本発明(他の実施形態)では、熱環境下での形状安定性、飲料抽出性に優れた飲料抽出用容器とすべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、容器に破れが無く、内容物保持性(粉漏れが少なく)、形のきれいな、熱環境下での形状安定性が良好である飲料用抽出容器を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0060】 [特許請求の範囲] 具体的には、成型後の不織布の特性を以下の通り制御することでそれを達成している。 (i)熱機械分析(TMA)にて、30〜100℃において、容器を構成する成型体片に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の伸長変化率が4%以下とする; (ii)沸水浸漬時の容量変化が20%〜90%とする; (iii)構成する不織布成型体の配向度が0.010以上とする; (iv)構成する不織布成型体の結晶化度が30〜70%とする。 【0061】 [発明の効果] 生分解不織布を用い、上記の特性を満たした飲料抽出用容器とすることで、熱環境下での形状安定性、飲料抽出性に優れる為、紅茶、緑茶、コーヒー粉末、薬剤、漢方薬などを抽出する際の容器に好適に用いることができる。 【0062】 [図面の簡単な説明] [図1]本発明の他の実施形態の飲料用抽出容器の構成の代表例の模式図である。 [図2]本発明の他の実施形態の蓋付きの飲料用抽出容器の代表例を説明する模式図である。 [図3]実施例10、比較例1での貯蔵弾性率の温度依存性評価を示すグラフである。 [図4]実施例10、比較例1での損失正接の温度依存性評価を示すグラフである。 【0063】 [発明を実施するための形態] 以下、本願発明の実施形態(他の実施形態)について詳細に説明する。 本実施形態の飲料抽出用容器は、容器を構成する不織布の構成、成型条件を適切にし、飲料抽出時の形状安定性、飲料抽出性を発現することができる。 【0064】 [用語の説明] 本実施形態の飲料抽出用容器は、成型加工した不織布成型体を示す。飲料を充填し、封止する為に、蓋材を設けてもよい。 【0065】 [容器の素材] 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する不織布の素材としては、生分解性樹脂、特に、ポリ乳酸系重合体を用いることができる(以下、PLAとも言う。)。ポリ乳酸系重合体としては、D−乳酸の重合体、L−乳酸の重合体、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、及びD−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、又は該重合体の2種以上のブレンド体が挙げられる。ポリ乳酸重合体のD/L比は、不織布の生産性、不織布特性を阻害しない範囲で設定できるが、全ポリ乳酸重量中のD体比率は、好ましくは0〜15%、より好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.1〜6%である。D体比率がこれらの範囲内であると、飲料抽出用容器を構成する不織布の結晶性、融点等が適当な範囲となり、所望の飲料抽出用容器としての特性を得やすい。 さらに、生分解性を阻害しない範囲で、他の素材、例えば、脂肪族ポリエステル共重合体を用いることができる。脂肪族ポリエステル共重合体としては、例えば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)又はこれらを主たる繰り返し単位要素とする共重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)の如きポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートの如きポリ(β−ポリヒドロキシアルカノエート)、あるいはこれらを構成する繰り返し単位要素とポリ−3−ヒドロキシバリレートやポリ−4−ヒドロキシブチレートを構成する繰り返し単位要素との共重合体が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸との縮重合体からなるポリアルキレンジカルボキシレート、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレート、又はこれらを構成する繰り返し単位要素とするポリアルキレンジカルボキシレート共重合体が挙げられる。さらに、これらの生分解性を有する個々の重合体を複数種選択し、これらをブレンドしたものが挙げられる。脂肪族ポリエステル共重合体としては、ポリ乳酸との相溶性の観点から、ポリブチレンサクシネート(以下、PBSともいう。)が好ましい。脂肪族ポリエステル共重合体は、成型時の不織布の延伸性、接着性を向上させることができ、所望の形状、容量、表面毛羽防止、等良好な特性を得やすい。 【0066】 [脂肪族エステル共重合体の添加割合] 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する不織布に添加される脂肪族ポリエステル共重合体は、前記ポリ乳酸系重合体に加え、脂肪族エステル共重合体を、全樹脂重量を基準として、0.5〜30重量%さらに含むものであることができる。脂肪族ポリエステル共重合体の添加量は、樹脂の総量を100重量%としたとき、0.5〜30重量%であり、好ましくは3〜27重量%、より好ましくは5〜25重量%である。添加量が範囲内であれば、結晶性を調整しやすく、熱特性に優れた飲料抽出用容器を得ることができる。 【0067】 [その他の添加物] 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する不織布は、目的に応じて、不織布を構成する繊維に、他の樹脂、脂肪族ポリエステル共重合体以外の共重合体、難燃剤、無機充填剤、柔軟剤、可塑剤、顔料、耐電防止剤、透水剤などを、さらに1種又は2種以上添加してもよい。 【0068】 [長繊維(不織布製法込み)、短繊維] 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する不織布は、公知のスパンボンド法、メルトブロー法、エアレイド法、カード法、抄造法などで得られる。不織布の接着方法としては、エンボス加工、サーマルボンド、柱状流交絡、機械交絡、ニードルパンチ等を用いることができる。飲料抽出容器の強度、飲料抽出時に繊維の脱落が少ない観点から、スパンボンド法で得られる連続長繊維不織布であることが好ましい。 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する不織布は、成型体形状を得ることができる延伸性を有していれば特に限定しないが、スパンボンド法にて、紡糸速度500〜3000m/分の低紡糸速度で得られた繊維が好ましく用いられ、より好ましくは紡糸速度600〜2700m/分、さらに好ましくは700〜2500m/分が用いられる。一般に、紡糸速度が速い場合、紡糸直後の糸は、結晶性、配向性が高いものとなり、紡糸速度が遅い場合、結晶性が低く、配向性が低いものとなる。結晶性、配向性が適切な不織布を用いて成型された成型体の飲料用抽出容器は、破れが無く(成型時に破袋すること無く)、内容物保持性に優れる。 一般に、短繊維不織布は成型の際、糸同士の接着が外れ、飲料抽出容器の表面から糸が浮き、毛羽が多くなる、あるいは繊維脱落の可能性があり、本願実施形態の飲料用抽出容器としては長繊維不織布が好ましい。 【0069】 [長繊維の形態] 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する長繊維不織布の形状としては、例えば、SS、SMS、SMMS、SMSMなどの多層積層不織布の内の一層であってもよい。なお、Sは、スパンボンド法の長繊維不織布、Mは、メルトブロー法の極細不織布を意味する。SMS、SMMS,SMSMなどの多層積層不織布を用いた場合、繊維の分散斑を低減し、内容物保持性、粉漏れ性に優れる飲料用抽出容器を得ることができる。 【0070】 [不織布の積層方法] 本願実施形態の飲料用抽出容器を構成する不織布は、1層、2層、3層以上を積層することによって、例えば、多層のうち、少なくとも1層以上に低融点樹脂を用いる、あるいは融点差を有する鞘芯繊維を用いることで、繊維の接着性を付与、高めることができ、飲料用抽出容器における表面毛羽の発生、蓋材とのシール性を良好にすることができる。 【0071】 [繊維形状] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布繊維の形状は、特に限定しないが、丸型、扁平型、C型、Y型、V型などの異形断面などが用いられ、好ましくは丸型断面であり、さらに、海島構造や芯鞘構造、割繊構造であってもよい。 【0072】 [エンボス有無] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布は、エンボス加工を行ってもよいが、不織布の繊維の表面で点接着されていても良い。点圧着の方法に特に制限はされないが、好ましくは、少なくとも一方の表面に凹凸模様を有する一対のエンボスロールを用いる方法、表面が平坦な一対のフラットロールを用いる方法等が挙げられる。また、ニードルパンチ加工やスパンレース加工、フェルトカレンダー加工等の加工を行っていても良い。点接着とは、軽度な熱接着に留まり、繊維表面での点状接着が主体となり、仮熱圧着でエンボス柄が付いたとしても、2段階目の面的に抑制された熱接着により、エンボス柄の周辺でミクロに熱収縮が発現し、エンボス柄がはずれるか又は弱くなるとともに、不織布全体の目付けムラが軽減される状態の接着を言う。 エンボス加工及び点接着による圧着面積比率は、特に制限されないが、不織布全面積に対して3〜50%が好ましく、より好ましくは5〜40%である。圧着面積比率は、飲料用抽出容器を構成する不織布の表面をマイクロスコープを用いて計測することができる。 【0073】 [一般的な成型加工方法] 本願実施形態の飲料抽出用容器は、生分解樹脂からなる不織布を立体的に成型加工することで得ることができる。成型加工方法としては、例えば、真空成型、圧空成型、プレス成型等を用いることができる。不織布の通気性の影響を受けにくい点から、プレス成型を用いることが好ましい。成型金型としては、目的に応じて適宜選定することができ、金属製、木製、プラスチック製等の凹凸金型、凸金型、凹金型等の金型を常温あるいは熱金型を用いることができるが、金型との追随性を向上させ、破袋なく、形状の良い不織布成型体を得る為に、熱金型を使用することが好ましい。 【0074】 [ポリマー特性を考慮した成型の説明、予熱] ポリ乳酸の樹脂特性の観点から、ポリエステル樹脂と比較して考えると、ポリエステルは、融点が高く、融点とガラス転移温度との差が大きく、結晶化速度が速いため、成型時の金型温度を高くし成型体を得ることができるが、ポリ乳酸は、融点が低く、融点とガラス転移温度との差が小さく、結晶化速度が遅いため、成型用不織布に十分熱を与えにくく、成型温度を高くできないことがある。よって、本願実施形態の飲料抽出用容器は、成型加工を行う際、ガラス転移点以上、融点以下に、成型前の不織布を予熱することが好ましい。不織布を予熱することにより、金型との追随性を向上させ、破袋なく、延伸斑の少ない、形状の良い不織布成型体を得ることができる 尚、ポリ乳酸とポリエステルの一般的な樹脂特性は以下の通りである。ポリ乳酸、ポリエステルの順に、融点:170℃、260℃、再結晶化温度:70℃、120℃、ガラス転移温度55〜60℃、70〜80℃、比熱:1.38J/g・K、1.00〜1.15J/g・K、熱伝導率0.13W/m・K、0.2〜0.33W/m・K、半結晶化時間:500〜900秒、50〜100秒。 不織布の加熱、予熱の方法としては、赤外線、熱風、電熱線等を用いた加熱炉、赤外線ヒーター、熱風ヒーター、伝熱線ヒーター等を用いて不織布を加熱する方法等を用いることができる。 【0075】 [成型前の不織布の温度] 成型前の不織布の温度は、好ましくは55℃〜160℃、より好ましくは60℃〜150℃、さらに好ましくは75℃〜140℃である。成型前の不織布の温度が範囲内であると、所望の容器形状を得ることができる。成型前の不織布の温度が高すぎると、容器製造時に熱収縮を起こし、得られる飲料用抽出容器の形状が歪になったり、厚みが不均一になったり、延伸斑等が発生し、飲料用抽出容器として、保形性や抽出性、内容物保持性等が不足する場合がある。成型前の不織布の温度が低すぎると、成型時に破袋し、容器形状が得られないことがある。 【0076】 [成型時の金型温度] 成型金型の温度は、成型時に不織布が破れない、成型型に貼り付かない程度であれば適宜選定することができ、好ましくは30℃〜160℃、より好ましくは80℃〜150℃、さらに好ましくは100℃〜140℃である。 成型前の不織布の温度、成型金型の温度は、両者のバランスを考慮し、選定することが好ましい。成型前の不織布の温度と成型金型の温度の差は小さいほうが、不織布の延伸斑を少なくすることができ、得られる飲料用抽出容器の保形性や抽出性、内容物保持性の点において好ましい。 【0077】 [予熱と金型の組み合わせ両者の組み合わせ] 成型加工時の布温度と金型の温度は、適宜選定できるが、常温での形状が良好な飲料抽出用容器を得る為には、凹凸金型による熱成型や不織布を予熱してから熱成型し、不織布ヘの熱伝導性を高め、金型を抜いた際の収縮を抑えることが好ましい。 【0078】 [熱セット、冷却] 本願実施形態の飲料抽出用容器は、形の良い容器を得る為に、成型時に、熱風を当てる、成型後熱金型を一定時間当てたままにする等十分熱セット時間を設ける、十分冷却してから型から取り外す、熱成型後に熱した金型、冷却型をさらに当てる等の方法を用いたものであっても良い。熱セットの時間としては、生産性を考慮し、適宜選定可能であるが、好ましくは0.01秒以上、より好ましくは0.2秒以上、0.2秒〜300秒、であることが好ましい。熱セット時間を長くすることで、成型後の収縮、沸水浸漬時の収縮を抑えることができる。成型後の冷却は、成型後に冷風を当てる、冷却した金型、常温金型を使用する等により実施することができ、成型後の不織布を構成する素材のガラス転移温度以下まで下げることが有効である。これにより、成型直後の収縮を抑えることができ、成型後に形のきれいな成型体を得ることが可能である。 【0079】 [容器の形状] 本願実施形態の飲料抽出用容器の形状としては、容器形状であれば特に限定されないが、例えば、底が湾曲した形状、円柱形、円錐台形、ドーム形、半球形およびお椀形等が好ましい。これらは、成型時に使用する型の形状を、底が湾曲した形状、円柱形、円錐台形、ドーム形、半球形およびお椀形等にすることで得ることができる。飲料抽出用容器となる不織布成型体は、樹脂容器に封入、あるいは封入せずに使用することも可能である。樹脂容器に封入しない場合、容器がかさばらず、取扱い性、製造コストの観点からも優れる。 【0080】 [成型指数] 本願実施形態の飲料抽出用容器の不織布の成型の程度は、成型指数で表す。成型指数とは、成型体の表面積を、成型体に用いられた成型前の平面状の不織布の面積(容器形状の場合は開口部面積)で割って求められる次式(1): 成型指数=(成型体の表面積cm2)/(成型前の不織布の面積cm2) で定義される値である。 本願実施形態の飲料抽出用容器の不織布から構成される成型体の成型指数は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.1〜20、さらに好ましくは1.5〜10、さらにより好ましくは2.0〜6、最も好ましくは2.5〜6.0である。成型指数が大きい場合、不織布が大きく伸ばされていることを示す。他方、成型指数が小さい場合、不織布の伸びが少ないことを示す。成型指数が大きすぎない場合、破袋することなく成型でき、得られた成型体が内容物保持性が良く、成型指数が小さすぎない場合、容器に内容物を充填する際に適度な大きさを有することができる。 【0081】 [他素材との張り合わせ] 本願実施形態の飲料抽出用容器は、未延伸の紙や不織布との組み合わせを否定するものでないが、容器形状を作製する為に、張り合わせや接着等の工程が入ることになり製造面で困難な場合がある。 【0082】 [一般的な抽出方法の説明] 飲料抽出用容器を、抽出機を用いて(例えば、シングルサーブ方式)抽出する際、装置に設置した被抽出物を充填した飲料抽出用容器にお湯を注ぎ使用する。飲料抽出用容器として、熱安定性や被抽出物が膨潤することによる応力変化に対する安定性が必要である。 【0083】 [抽出時の収縮、成型体のTMA収縮] 本願実施形態の飲料抽出用容器は、熱機械分析(TMA)にて、30〜100℃において、容器を構成する不織布成型体片に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の寸法変化率の最大値が好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下であることが好ましい。寸法変化率の最大値が範囲内であると、飲料抽出の際に、熱や抽出時に被抽出物が膨張することにより応力が加わることにより、繊維が伸びたり、切れたり、繊維同士の交点が外れたり、ずれたりすることが少ない為、飲料抽出容器が膨張しにくく、抽出機の針に接触することなく、不織布が破れにくい。寸法変化率は、実施例の通り測定することができる。 本願実施形態の飲料抽出用容器において、MD方向とは、同方向に並んでいる繊維の本数が多い方向を言い、不織布の製造においては、機械の流れ方向である。 【0084】 [沸水浸漬時の容量変化] 本願実施形態の抽出用容器は、沸水浸漬時の容量変化が好ましくは20〜90%、より好ましくは30〜85%、さらに好ましくは30〜80%、最も好ましくは45〜75%である。容量変化が範囲内であると、飲料抽出時に被抽出物と飲料用抽出容器の寸法変化のつり合いを図ることができ、不織布成型体のそのもの強度、伸度不足による破袋や抽出機部品(例えば、飲料用抽出容器の設置下部に設置されたた針)に接触し破袋を起すことなく使用することができる。一般に、飲料抽出用装置にて、容器内にお湯を注ぐことで飲料を抽出する方法、例えば、シングルサーブ方式において、飲料用抽出容器が使用される場合、形状安定性、蓋剥がれ防止の観点から熱収縮は小さいことが好まれる。 他方、本願技術は、湯が注がれることによる紅茶、緑茶、コーヒー粉末、薬剤、漢方薬などの被抽出物の膨張と飲料用抽出容器の寸法変化のつり合いを図ることにより、抽出時の安定性に優れる飲料用抽出容器を得ることができる。 【0085】 [複屈折率] 本願実施形態の抽出用容器を構成する不織布成型体の複屈折率は、好ましくは0.010以上、より好ましくは0.012〜0.050であり、さらに好ましくは0.012〜0.030である。複屈折率が高すぎない場合、成型時に過度に繊維が配向することが無く成型できており、適度に繊維同士の接着を維持した状態となり、抽出用容器の表面に繊維が浮くことを抑えることができる。複屈折率が低すぎない場合、配向性が低くなりすぎず、成型時に不織布が成型型に付着することが少なくなり、得られる容器の表面性が良好となる。さらに、複屈折率が範囲内であると熱環境下、飲料抽出時における抽出容器の保形性を高めることができる。複屈折率が高すぎると、繊維の糸同士の接着性が悪く、抽出用容器の表面に毛羽が生じやすい。 【0086】 [結晶化度] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布成型体の結晶化度は、好ましくは30〜70%、より好ましくは30〜60%、さらに好ましくは40〜50%である。結晶化度が範囲内である場合、熱環境下で飲料抽出容器の形が歪にならず、熱環境下、飲料抽出時における抽出容器の保形性を高めることができる。 【0087】 [飲料抽出用容器を構成する不織布の換算目付] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布成型体の総目付は、20〜350g/m2であり、好ましくは20〜300g/m2であり、より好ましくは30〜300g/m2、最も好ましくは50〜250g/m2である。総目付が20g/m2以上であれば、飲料抽出用容器の強度が十分となり、他方、350g/m2以下であれば、飲料用抽出容器を得る際に成型加工設備に大きな負担をかけずに加工できる。なお、飲料用抽出容器に使用されている不織布の総目付は、成型前の不織布の面積(m2)、飲料用容器に使用されている不織布の重量(g)から算出することができる。 【0088】 [飲料抽出用容器を構成する不織布の平均繊維径] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布成型体の平均繊維径は、好ましくは8〜50μm、より好ましくは10〜40μm、さらに好ましくは15〜30μmである。平均繊維径が小さすぎない場合、容器として内容物を保持することができ(粉漏れ性が良好であり)、平均繊維径が大きすぎない場合、通液速度が遅すぎない。 【0089】 [飲料抽出用容器を構成する不織布の目付] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布成型体の目付は、好ましくは12〜200g/m2、より好ましくは18〜100g/m2、さらに好ましくは30〜80g/m2、最も好ましくは30〜60g/m2である。不織布の目付が範囲内であると容器として内容物を保持することができ(粉漏れ性が良好であり)、通液速度が遅すぎない。 【0090】 [粉漏れ性] 本願実施形態の抽出用抽出容器を使用して紅茶、緑茶、コーヒー粉末、薬剤、漢方薬などの被抽出物を抽出機にて抽出した際、抽出液中に含まれる粉量は、不織布成型体の繊維径、総目付、目付、成型条件等を適宜選定することで所望の粉量にすることができる。粉量は0.25g以下、さらには0.20g以下であることができる。飲料中の被抽出物の茶葉や粉を少なくしたい場合、繊維径を小さく、総目付を小さく、目付を小さく、成型時の不織布中での温度斑を少なくし成型斑を無くす等の成型条件を適宜選定すれば良い。他方で、飲料中に茶葉等の被抽出物を残したい場合、繊維径を大きく、総目付を大きく、目付を大きく、成型時の不織布中での温度斑を大きくする等の成型条件を適宜選定すればよい。 【0091】 [抽出前後の容量変化] 本願実施形態の抽出用容器は、抽出前後時の容量変化が−30〜30%、−20〜20%、−10%〜10%であることができる。抽出前後の容量変化が範囲内であると、飲料抽出時に被抽出物と飲料用抽出容器の寸法変化のつり合いを図ることができ、不織布成型体のそのもの強度、伸度不足による破袋や抽出機部品(例えば、飲料用抽出容器の設置下部に設置された針)に接触による破袋を起すことなく使用することができる。 【0092】 [表面毛羽について] 本願実施形態の抽出用抽出容器を構成する不織布の毛羽本数は、好ましくは10本以下、より好ましくは0〜9本、さらに好ましくは0〜3本であることが好ましい。毛羽本数が範囲内であると、商品としての見栄えが良く、輸送時の振動等により飲料用抽出容器同士がこすれることによる表面性の悪や抽出機の容器設置部の凹凸への繊維の引っ掛かり等が無く、取扱い性に優れる。 【0093】 [蓋] 本願実施形態の抽出用抽出容器は、内容物を充填した後、フィルム、不織布等の蓋で覆うことができる。蓋シールの方法は特に限定しないが、接着剤、熱可塑性樹脂を塗布、蓋材に接着剤を塗布、蓋材に熱可塑性樹脂を添加、ブレンド、あるいは不織布の場合、鞘に芯よりも融点の低い樹脂を使用した不織布を使用する等の方法が使用できる。蓋は、抽出機で使用した際に、蓋がはがれ内容物が縊れない程度に取り付けられていればよい。 【実施例】 【0094】 以下、本発明を実施例により具体的に説明する。 まず、測定法、評価法等を説明する。 【0095】 (不織布の特性評価) (1)平均繊維径(μm) 繊維ウェブ、不織布等の試料の両端部、5cmを除いて、布帛の幅10cm毎の区域からそれぞれ適当な本数の繊維を採取し、マイクロスコープで繊維の直径を各30点測定して、該測定値の平均値を算出した。 【0096】 (2)目付(g/m2) JIS L−1913に従って、総面積が1500cm2(例えば、幅20cmx長さ25cm 3枚)となるように試料を切り取り、単位当たりの質量に換算して求めた。 【0097】 (3)複屈折率(Δn) OLYMPUS社製のBX53を使用して、干渉縞法によって繊維の側面から観察した平均屈折率の分布を測定することができる。この方法は円形断面を有する繊維に適用できる。繊維の屈折率は繊維軸に対して平行な電場ベクトルを持つ偏光に対する屈折率n||と、繊維軸に対し垂直な電場ベクトルを持つ偏光に対する屈折率n⊥によって特徴づけられ、複屈折率はΔn=(n||−n⊥)で表わされる。 繊維に偏光を照射すると、互いに直角に振動する2つの偏光に分かれる。繊維は軸の方向によって屈折率が異なるため2つの光の進む距離に差が生じる。これがレタデーションであり、Rで表わされ、繊維断面の直径をd0とすると、複屈折率と、次式: R=d0(n||−n⊥)=d0Δn の関係がある。 光学的にフラットなスライドガラス及びカバーガラスを使用し、試料から採取した繊維を、繊維に不活性な封入剤中に浸漬する。測定部で繊維同士が重なりあわない繊維部分を、その繊維軸が偏光顕微鏡の光軸及び干渉縞に対して垂直となるようにする。この干渉縞のパターンを測定し、レタデーションを求め、繊維の複屈折率を測定し、10点の平均値を測定した。 【0098】 (4)120℃における伸度(%) 試料の両端5cmを除き、幅3cm、長さ10cm試料を切り取り、引張試験機で、つかみ間隔2cm、引張速度200mm/分、120℃の温度で各5点タテ方向を測定し、平均値を算出した。なお、恒温槽内に試料を設置1分経過後、チャンバー温度が120℃になっていることを確認して計測を開始した。 【0099】 (5)タテ引裂き強度を目付で除した値(−) 試料の両端5cmを除き、幅10cm、長さ6.5cm試料を3枚切り出し、エルメンドルフ形引裂度試験機を用いて、タテ引裂き強度(N)を測定し、平均値を求めた。これを目付で除して算出した。 【0100】 (6)熱機械分析によるMD方向の寸法変化率(%) 試料の両端5cmを除き、(2)で測定した目付が±10%となるような幅2mm、長さ25mmの試料を切り出し、ティ・エイ・インスツルメント社製TMAQ400を用いて、クランプ上部にフィルム/ファイバー用クランプ、下部にティ・エイ・インスルメント製アルミボールを使用し、初期荷重0.005N、30℃〜160℃まで、昇温速度10℃/分、把握長15mmにて測定を行った。80℃〜140℃において、寸法変化(μm)/{把握長(mm)x1000}x100により、寸法変化率(%)を求めた。N=3測定し、その平均値を算出した。 【0101】 (7)貯蔵弾性率の温度依存性評価 幅5mm、長さ25mmの試料を切り出し、ティ・エイ・インスツルメント・ジャパン社製DMA2980を用いて、フィルム/ファイバー用クランプを使用し、初期荷重0.010N、周波数1Hz、歪み1%、30℃〜150℃まで、昇温速度3℃/分、把握長10mmにて測定を行った。 尚、貯蔵弾性率の温度に対する変化率は動的粘弾性の温度依存性試験を行った際の貯蔵弾性率の変化を温度変化の値で除した下記式: 動的粘弾性の温度依存性試験=−Δ貯蔵弾性率/Δ温度 により算出することができる。 【0102】 (8)毛羽等級(級) MD方向に25mm×300mmの試験片を採取し、日本学術振興会堅牢度試験機を用いて、摩擦子の荷重が250g、摩擦子側には同布を使用し、50回動作をさせて、以下の評価基準で判定した。尚、試料の表裏両方測定し、級数が小さいものを採用した。 5.0級:毛羽立ちがない。 4.0級:繊維が1〜2本程度、又は一ヶ所に小さな毛玉ができ始める程度に毛羽立っている。 3.5級:繊維が3〜5本程度、又は数ヶ所に小さな毛玉ができ始める程度に毛羽立っている。 3.0級:はっきりとした毛玉ができ始め、又は小さな毛玉が複数見られる。 2.5級:毛玉が大きくはっきりと見られ、複数個所で繊維が浮き上がり始める。 2.0級:試験片が薄くなるほど甚だしく繊維が剥ぎ取られる。 1.0級:試験片が破損するほど繊維が剥ぎ取られる。 【0103】 (9)二軸延伸シートの2.5cm角目付分布のR/Ave値 12.5cm角に試料を切り取り、二軸延伸装置で、つかみ間隔8cm、引張速度200mm/分、120℃の温度でMD/CD二軸方向へ20cmまで同時延伸して延伸シートを作成した。この時の延伸倍率はMD/CD各方向へ長さ2.5倍、面積倍率で6.25倍となる。なお、恒温槽内に試料を設置1分経過後、チャンバー温度が120℃になっていることを確認して延伸を開始した。 作製した延伸シートの中心に10cm四方の正方形を描き、その中に2.5cm角×16マスの格子を描いた。描いた2.5cm角のマスを16枚切り抜き、重量測定した。 R/Aveの値は次式: R(16枚の重量の最大値−最小値の値)/Ave(16枚の重量の平均値) で定義される値である。 【0104】 (10)成型性 生分解性不織布を成形機にセットし、熱風温度100℃で1分間予熱し、不織布温度を60℃として、120℃の円筒成形金型(直径4.4cm、高さ1.3cm及び3.2cm)を用いて2秒間でプレス成形を実施した時の成型体の様子を観察し、以下の評価基準で評価した。尚、成型指数は、成型体の表面積を成型体に用いられた成型前の平面状の不織布の面積(容器形状の場合は開口部の面積)で割って求められる次式で定義される値である。 成型指数=(成型体の表面積cm2)/(成型前の不織布の面積cm2) ○:破れがなく、成形性良好、高さ1.3cmの金型において成型指数1.9以上、高さ3.2cmの金型において成型指数3.4以上の成型体が得られた。 △:破れは無いが、成型体の表面に斑がある、延伸斑がある、糸ケバが目立つ等の問題がある。 ×:破れが発生し、成形性不良、高さ1.3cmの金型において成型指数1.9以上、高さ3.2cmの金型において成型指数3.4以上の成型体が得られなかった等の問題がある。 【0105】 (11)コンポスト処理試験 コンポスト処理試験機を用いて、60℃の一定環境下で4週間後の試料片の状態を目視で観察し、下記の評価基準で判定した: ○:試料片が小片化した。 ×:試料の外観変化が見られなかった。 【0106】 (12)成型性(均一成型性) 幅方向10列の成型金型を有する成型機に長繊維不織布をセットし、熱風で不織布温度を100℃として、120℃の円筒成型金型(直径4.4cm、高さ3.2cm)を用いて2秒間でプレス成型を実施し、粒子径100μmのモデル粒子を11g充填し、PLAシートを蓋材としてヒートシールして封止し、成型体を100個作製した。 得られた成型体の底部を1cm各に切り抜き、重量測定した。 R/Aveの値は次式: R(100枚の重量の最大値−最小値の値)/Ave(100枚の重量の平均値) で定義される値である。 【0107】 (成型体の特性評価) (1)平均繊維径(μm) 飲料用抽出容器に使用されている不織布成型体の側面部(不織布が延伸されている部分)から、それぞれ適当な本数の繊維を採取し、マイクロスコープで繊維の直径を各30点測定して、該測定値の平均値を算出した。 【0108】 (2)不織布の換算目付(g/m2) 飲料用抽出容器に使用されている不織布成型体の重量(g)、不織布成型体に用いられた成型前の平面状の不織布の面積(=容器形状の場合は開口部面積)(m2)から、単位当たりの質量に換算して求めた。 不織布の換算目付(g/m2)=不織布の重量(g)/成型体に用いられた成型前の平面状の不織布の面積(m2) 【0109】 (3)成型体の目付(g/m2) 飲料用抽出容器に使用されている不織布成型体から採取した不織布の重量(g)、不織布の面積(m2)から、単位当たりの質量に換算して求めた。不織布が曲率を有する場合、不織布を細幅に裁断し、平滑化した後、マイクロスコープにて不織布の面積を測定した。 成型体の目付(g/m2)=不織布の重量(g)/成型前の面積(m2) 【0110】 (4)複屈折率(△n) OLYMPUS社製のBX53を使用して、干渉縞法によって不織布の複屈折率同様の測定を行った。試験片は、不織布成型体の側面(伸長率が高くなる点)から採取した。 【0111】 (5)結晶化度(%) PerkinElmer社製の示差走査熱量計DSC6000を用い、不織布の結晶化度と同様の測定方法で結晶化度を測定した。 【0112】 (6)MD方向の寸法変化率 飲料用抽出容器に使用されている不織布成型体の側面、(=容器中で伸長変化が大きい部分)より、不織布のMD方向に幅2mm、長さ25mmの試料を切り出し、ティ・エイ・インスツルメント社製TMAQ400(熱機械分析(TMA))を用いて、クランプ上部にフィルム/ファイバー用クランプ、下部にティ・エイ・インスルメント製アルミボールを使用し、初期荷重0.05N、30℃〜100℃まで、昇温速度10℃/分、把握長15mmにて測定を行った。30℃〜100℃において、寸法変化(μm)/{把握長(mm)x1000}x100により、寸法変化率(%)を求め、30℃〜100℃中の最大値を求めた。N=5測定し、その平均値を算出した。寸法変化率のプラスは伸びを表す。 【0113】 (7)沸水浸漬時の容量変化 飲料抽出用容器(内容物無し)を沸水に1分間浸漬後、風乾させ、沸水浸漬前後の容量変化を求め、N=5個の平均値を求めた。容器の容量は、容器内に充填できる基準紛(ふるい試験にて150μmメッシュを通過する粉が0.05%以下)の重量で測定した。 容量変化(%)=(沸水浸漬前の基準紛充填量(g)−沸水浸漬後の基準紛充填量)×100/沸水浸漬前の基準粉充填量(g) 【0114】 (8)表面毛羽 目視にて、飲料用抽出容器の表面の毛羽本数を計測し、N=10の平均値を求めた。 【0115】 (9)抽出性:粉漏れ性 キューリグ製の抽出機にコーヒー粉末(ふるい試験にて150μmメッシュを通過する粉が0.05%以下、充填量11g(容器が小さく入らない場合は最大量を充填した。))を充填した飲料用抽出容器を設置し、湯量170mlで抽出したコーヒーを、アドバンテック製ろ紙No2を用いて濾過し、乾燥機にて6時間乾燥させ、ろ紙上に残る粉量を測定した。N=10測定し、その平均値を粉漏れ量とした。 【0116】 (10)抽出性:抽出後の容量変化 前記(9)で抽出した後の飲料抽出用容器を、抽出前後の容量変化を求め、N=5個の平均値を求めた。容器の容量は、容器内に充填できる基準紛(ふるい試験にて150μmメッシュを通過する粉が0.05%以下)の重量で測定した。 抽出時の容量変化(%)=(抽出前の基準紛充填量(g)−抽出後の基準紛充填量)×100/抽出前の基準粉充填量(g) 【0117】 (11)抽出性:蓋のシール性 基準粉(ふるい試験にて150μmメッシュを通過する粉が0.05%以下、充填量11g)を封入した飲料用抽出容器を沸水に1分間浸漬させ、蓋剥離の有無を目視にて以下の評価基準に従って判定した。 ○:剥離なし(シール性良好) ×:剥離あり(シール性不良) 【0118】 (12)成型性 不織布成型体の様子を観察し、以下の評価基準で評価した。尚、成型指数は、成型体の表面積を成型体に用いられた成型前の平面状の不織布の面積(容器形状の場合は開口部の面積)で割って求められる次式: 成型指数=(成型体の表面積cm2)/(成型前の不織布の面積cm2) で定義される値である。 4:成型指数2.0以上であり、破れがない。 3:成型指数2.0以上であり、破れは無いが、成型体の表面に斑がある、延伸斑がある、糸ケバが目立つ等の様子が見られる。 2:破れは無いが、成型指数2.0未満である。 1:破れがある。 【0119】 (13)生分解性(コンポスト処理試験) コンポスト処理試験機を用いて、60℃の一定環境下で4週間後の試料片の状態を目視で観察し、下記の評価基準で判定した: ○:試料片が小片化した。 ×:試料の外観変化が見られなかった。 【0120】 以下、不織布の特性評価を行った内容を説明する。 〔実施例1〕 温度230℃でMFR値が44g/10分のポリ乳酸に、ポリブチレンサクシネート(融点110℃)を10重量%添加し単軸押出機にて溶融、混練させ、スパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度220℃、紡速1011m/分で、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、生分解性長繊維ウェブ(円形断面)を調製した。 次いで、一方の表面に凹凸模様を有する一対のエンボスロールを用いて、仮圧着を行った。用いたエンボスロールは、圧着面積比率が14%であり、上・下ロール温度45℃の条件下でロール線圧300N/cmで仮圧着した。 次いで、この仮圧着ウェブを、30℃で保管後72時間後、フェルトカレンダー(ドラム直径2,500mm、温度135℃、加工速度10m/分)で熱処理を行い、生分解性長繊維不織布を得た(目付250g/m2、繊維径30μm)。 生分解性長繊維不織布を成形機にセットし、熱風温度100℃で予熱して、120℃の円筒成形金型(直径4.4cm、高さ1.3cm及び3.2cm)を用いて2秒間でプレス成形を実施し、成型体を製造した。 【0121】 〔実施例2、3〕 生分解性長繊維不織布の目付を、それぞれ、90、25g/m2としたこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0122】 〔実施例4〕 生分解性長繊維不織布の目付を15g/m2、繊維径を12μm、吐出量を0.7g/分・Holeとしたこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0123】 〔実施例5〕 生分解性長繊維不織布の目付を150g/m2、吐出量を0.7g/分・Holeとしたこと以外は、実施例4と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0124】 〔実施例6〕 フェルトカレンダー温度を125℃、生分解性長繊維不織布の目付を310g/m2、繊維径を38μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0125】 〔実施例7、8〕 ポリブチレンサクシネートの添加を5重量%、25重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0126】 〔実施例9〕 ポリブチレンサクシネートの添加を35重量%、生分解性長繊維不織布の目付を150g/m2としたこと以外は、実施例2と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0127】 〔実施例10〕 生分解性長繊維不織布の目付を150g/m2としたこと以外は、実施例2と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0128】 〔実施例11〕 紡速を805m/分、繊維径を34μmとしたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0129】 〔実施例12〕 紡速を1160m/分、繊維径を28μmとしたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0130】 〔実施例13〕 紡速を2519m/分としたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0131】 〔実施例14〕 紡糸温度を210℃、紡速を1345m/分、30℃で保管1時間後にフェルトカレンダーで熱処理、繊維径を26μmとしたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0132】 〔実施例15〕 フェルトカレンダー温度を90℃としたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0133】 〔実施例16〕 フェルトカレンダー温度を160℃としたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0134】 〔実施例17〕 50℃保管720時間後にフェルトカレンダーで熱処理したこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0135】 〔実施例18〕 目付を15g/m2としたこと以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0136】 〔実施例19〕 ポリブチレンサクシネートの添加を2.5重量%としたこと以外は、実施例2と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0137】 〔実施例20〕 フェルトカレンダー温度を110℃としたこと以外は、実施例10と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0138】 〔実施例21〕 目付を50g/m2としたこと以外は、実施例20と同様にして、生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0139】 〔比較例1〕 フェルトカレンダーで熱処理しなかったこと以外は、実施例10と同様にして生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。寸法変化率が大きく、成型性が悪かった。 【0140】 〔比較例2〕 30℃で保管1時間後にフェルトカレンダーで熱処理したこと以外は、実施例10と同様にして生分解性長繊維不織布及び成型体を製造した。寸法変化率が大きく、成型性が悪かった。 【0141】 〔比較例3〕 公知のスパンボンド法を用い、温度230℃でMFR値が44g/10分のポリ乳酸を、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度220℃で紡糸をして得られた、ポリ乳酸を主成分とする目付135g/m2、厚み0.49mm(JIS L−1913に規定の方法で荷重100g/cm2の厚みを測定)、繊維径28μm、圧着面積比率18%の不織布(Tm:172℃、Tc:83℃、Tg:63℃)を用いて、実施例1と同様に、成型体を製造した。寸法変化率が大きく、成型性が悪かった。 【0142】 〔比較例4〕 公知のスパンボンド法を用い、温度230℃でMFR値が44g/10分のポリ乳酸を、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度220℃で紡糸をして得られた、ポリ乳酸を主成分とする目付17.3g/m2、厚み0.09mm(JIS L−1913に規定の方法で荷重100g/cm2の厚みを測定)、繊維径15μm、圧着面積比率21%の不織布を用いて、実施例1と同様に、成型体を製造した。伸度が低く、成型性が悪かった。 【0143】 〔比較例5〕 温度300℃下のMFR値が25g/10分のポリエチレンテレフタレート(PET)をスパンボンド法により、吐出量0.9g/分・Hole、紡糸温度290℃で、フィラメント群を移動捕集面に向けて押し出し、目付100g/m2のポリエチレンテレフタレート繊維ウェブ(融点260℃、紡糸速度1716m/分、平均繊維径22μm、円形断面)を調製した。 次いで、一方の表面に凹凸模様を有する一対のエンボスロールを用いて、部分熱圧着を行った。用いたエンボスロールは、圧着面積比率が14%であり、上・下ロール温度65℃の条件下ではール線圧400N/cmにて部分圧着した。 次いで、この部分圧着ウェブを30℃で保管1時間後にフェルトカレンダー(ドラム直径2,500mm、温度130℃、加工速度15m/分)で熱処理を行い、ポリエチレンテレフタレート長繊維不織布を得た。 生分解性長繊維不織布を成形機にセットし、熱風温度100℃で予熱して、120℃の円筒成形金型(直径4.4cm、高さ1.3cm及び3.2cm)を用いて2秒間でプレス成形を実施し、成型体を製造した。 得られたポリエチレンテレフタレート不織布をコンポスト処理したが、外観変化は観測することができなかった。 【0144】 〔比較例6〕 目付を70g/m2としたこと以外は、比較例4と同様にして長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0145】 〔比較例7〕 紡速を1455m/minとしたこと以外は、比較例1と同様にして長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0146】 〔比較例8〕 紡速を1455m/minとしたこと以外は、比較例6と同様にして長繊維不織布及び成型体を製造した。 【0147】 実施例1〜21、比較例1〜8の結果を以下の表1(表1−1、表1−2)に示す。 【表1−1】 【0148】 【表1−2】 【0149】 実施例10、比較例1で動的粘弾性の測定を行った結果を図3に示す。 【0150】 以下、成型体の特性評価を行った結果を説明する。 〔実施例22〕 実施例10と同様の方法で、生分解不織布を得た。得られた不織布を成形機にセットし、熱風を用いて不織布を75℃に予熱して、80℃の円筒成型金型(直径4.4cm、高さ3.2cm)を用いて2秒間(うち熱セット時間0.2秒)でプレス成型を実施し、常温金型を利用しポリ乳酸のTg以下まで冷却し、飲料用抽出容器を得た(総目付150g/m2、延伸部の繊維径25μm)。容器の蓋にはポリ乳酸製樹脂フィルムをヒートシールして使用した。飲料用抽出容器を30〜100℃にて、容器を構成する不織布に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の寸法変化率の最大値、沸水浸漬時の容量変化、粉量、抽出前後の容量変化、表面毛羽、蓋のシール性、抽出時の保形性、生分解性試験の結果を、以下の表2に示す。 【0151】 〔実施例23、24、25〕 成型時の金型温度を、それぞれ、105、125、145℃としたこと以外は、実施例22と同様にして、不織布成型体を得た。 【0152】 〔実施例26〕 成型時の不織布の布温度を105℃としたこと以外は、実施例23と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0153】 〔実施例27〕 成型時の不織布の布温度を125℃としたこと以外は、実施例24と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0154】 〔実施例28〕 成型時の金型温度を90℃、不織布の布温度を150℃としたこと以外は、実施例22と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0155】 〔実施例29、30〕 成型時の熱セット時間を60秒、300秒としたこと以外は、実施例24と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0156】 〔実施例31〕 成型時に常温金型を利用しなかったこと以外は、実施例23と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0157】 〔実施例32〕 使用するポリ乳酸製長繊維不織布を実施例2と同様とし、成型方法を実施例26と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0158】 〔実施例33〕 使用するポリ乳酸製長繊維不織布を実施例1と同様とし、成型方法を実施例26と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0159】 〔実施例34〕 使用するポリ乳酸製長繊維不織布を実施例13と同様とし、成型方法を実施例24と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0160】 〔実施例35〕 使用するポリ乳酸製長繊維不織布を実施例6と同様とし、成型方法を実施例24と同様の方法で熱成型を行うことで、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0161】 〔実施例36、37〕 比較例1と同様の方法でポリ乳酸製長繊維不織布を作製し、成型時の金型温度をそれぞれ、120℃、140℃、成型時に常温金型を利用しなかったこと以外は、実施例22と同様の方法で熱成型を行うことで、不織布成型体、飲料抽出用容器を得た。 【0162】 〔実施例38〕 公知の溶融紡糸法で得られた、紡速1150m/min、繊維径30μmのポリ乳酸繊維を裁断し、繊維長10cmの短繊維を得た。得られた短繊維をニードルパンチ法にて一体化し、短繊維不織布(目付150g/m2)として、実施例23と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。 【0163】 〔比較例9〕 成型時の金型温度を30℃としたこと以外は、実施例22と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。成型時に破袋し、飲料用抽出容器として使用できなかった。 【0164】 〔比較例10〕 成型前の不織布の温度を40℃としたこと以外は、実施例24と同様の方法で熱成型を行うことで、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。成型時に破袋し、飲料用抽出容器として使用できなかった。 【0165】 〔比較例11〕 実施例15と同様の方法で不織布を作製し、実施例22と同様の方法で熱成型を行うことで不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。配向結晶化も進みにくく、抽出時の熱安定性に劣るものであった。 【0166】 〔比較例12〕 実施例3と同様の方法で不織布を作製し、実施例26と同様と同様の方法で熱成型を行うことで、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。飲料抽出用容器の延伸された部分の目付が低く、飲料抽出時の形状安定性に劣るものであった。 【0167】 〔比較例13〕 用いる不織布の目付を500g/m2としたこと以外は、実施例26と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。 【0168】 〔比較例14〕 比較例5と同様の方法でPET不織布を作製し、成型時の金型温度を150℃としたこと以外は、実施例22と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。得られた飲料用抽出容器は、生分解性を有しなかった。 【0169】 〔比較例15〕 比較例3と同様の方法で生分解性不織布を作製し、実施例22と同様の方法で成型し、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。抽出時の保形性が悪かった。 【0170】 〔比較例16〕 公知の溶融紡糸法で得られた、紡速1500m/min、繊維径25μmのポリ乳酸繊維を裁断し、繊維長10cmの短繊維を得た。得られた短繊維をニードルパンチ法にて一体化し、短繊維不織布(目付150g/m2)として、実施例23と同様にして、不織布成型体、飲料抽出用容器を作製した。容器表面に毛羽が多く、品位が悪かった。 【0171】 実施例22〜38、比較例9〜16の結果を以下の表2に示す。 【表2】 【産業上の利用可能性】 【0172】 本発明の生分解性不織布は、生分解性と共に、優れた成形性を有し、生活資材向け容器や工業資材向け容器、車両内装材・外装材、防音材、吸音材、部品搬送トレー、青果物トレー、食品容器、育苗ポッド、フィルター用途などの幅広い分野に好適に利用可能である。また、本発明の生分解性不織布は、高伸度であり、複雑な形状の容器を形成することができるため、容器としての意匠性が要求される分野においても好適に利用可能である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリ乳酸系重合体の繊維から構成され、目付が20〜350g/m2であり、120℃におけるMD方向の伸度が、50%以上であり、かつ、初期荷重0.005N/2mm、昇温速度10℃/分での熱機械分析による80℃〜140℃におけるMD方向の寸法変化率が±4%以下であり、かつ、動的粘弾性評価の温度依存性試験において90℃〜150℃の温度領域での貯蔵弾性率が10〜500MPaである、熱成型用の生分解性不織布。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記不織布のタテ引裂き強度を目付で除した値が0.002〜0.5N/(g/m2)である、請求項1に記載の生分解性不織布。 【請求項4】 前記不織布中の繊維の複屈折率が、0.002〜0.10である、請求項1又は3に記載の生分解性不織布。 【請求項5】 前記不織布中の繊維は、前記ポリ乳酸系重合体に加え、脂肪族エステル共重合体を、全樹脂重量を基準として、0.5〜30重量%さらに含むものである、請求項1、3、又は4のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項6】 前記不織布の平均繊維径が1〜40μmであり、かつ、前記不織布は長繊維で構成されている、請求項1、又は3〜5のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項7】 前記不織布において、動的粘弾性評価の温度依存性試験における損失正接(tanδ)の極大値が0.5以下である、請求項1、又は3〜6のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項8】 前記不織布の、動的粘弾性評価の温度依存性試験における貯蔵弾性率の10〜70℃における貯蔵弾性率が、200MPa以上である、請求項1、又は3〜7のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項9】 前記不織布を、温度120℃中でMD/CD二軸両方向へ同時に、面積倍率6.25倍に延伸した延伸シートの2.5cm角目付に関して、R/Aveの値が1.0以内である、請求項1、又は3〜8のいずれか1項に記載の生分解性不織布。 【請求項10】(削除) 【請求項11】 請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織布を熱成型で一体加工する工程を含む、成型体の製造方法。 【請求項12】 不織布を55℃〜160℃に予熱する工程を含む、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解性不織布から構成される、成型指数1.1以上の成型体。 【請求項14】 請求項1、又は3〜9のいずれか1項に記載の生分解不織布から構成され、成形指数が1.1〜20倍であり、かつ、連続した不織布から、同一成形機で成形した少なくとも10個以上の成形体の底部同位置から採取した布帛片の目付のR/Aveの値が0.5以内となる成形体群。 【請求項15】 請求項13に記載の成型体において、熱機械分析(TMA)にて、30〜100℃において、容器を構成する成型体片に荷重0.05N/2mmを加えた際のMD方向の伸長変化率が4%以下であることを特徴とする生分解性飲料抽出用容器。 【請求項16】 沸水浸漬時の容量変化が20%〜90%である、請求項15に記載の飲料抽出用容器。 【請求項17】 構成する不織布成型体の配向度が0.010以上であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の飲料抽出用容器。 【請求項18】 構成する不織布成型体の結晶化度が30〜70%である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の飲料抽出用容器。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-01-05 |
出願番号 | P2018-545058 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(D04H)
P 1 651・ 121- YAA (D04H) P 1 651・ 113- YAA (D04H) P 1 651・ 536- YAA (D04H) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
矢澤 周一郎 藤井 眞吾 |
登録日 | 2020-07-07 |
登録番号 | 6731064 |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 生分解性不織布 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 齋藤 都子 |