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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
管理番号 1384041
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-21 
確定日 2022-01-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6714285号発明「リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6714285号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕,8,9,10について訂正することを認める。 特許第6714285号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6714285号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願は、特許法第30条第2項新規性喪失の例外の適用の申請を伴うものであり、令和元年7月31日に出願され、令和2年6月9日にその特許権の設定登録がなされ、令和2年6月24日に特許掲載公報が発行されたところ、令和2年12月21日に特許異議申立人神田紀子(以下「申立人」という。)より、全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがなされた。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 3月15日付け 取消理由通知
令和3年 5月13日 意見書提出(特許権者)
令和3年 8月 3日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年10月 1日 意見書、訂正請求書提出(特許権者)
令和3年11月19日 意見書提出(申立人)

第2 訂正の請求について
1 本件訂正の内容
令和3年10月1日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1−1
特許請求の範囲の請求項1における「表示部に表示された3次元仮想空間内で目標動作を要求する要求部」という記載を、「ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項1−2
特許請求の範囲の請求項1における「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価と連動させて、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバック部」という記載を、「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項2−1
特許請求の範囲の請求項8における「表示部に表示された3次元仮想空間内で目標動作を要求する要求ステップ」という記載を、「ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求ステップ」に訂正する。

(4)訂正事項2−2
特許請求の範囲の請求項8における「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価と連動させて、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックステップ」という記載を、「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバックステップ」に訂正する。

(5)訂正事項3−1
特許請求の範囲の請求項9における「表示部に表示された3次元仮想空間内で目標動作を要求する要求ステップ」という記載を、「ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求ステップ」に訂正する。

(6)訂正事項3−2
特許請求の範囲の請求項9における「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価と連動させて、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックステップ」という記載を、「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバックステップ」に訂正する。

(7)訂正事項4−1
特許請求の範囲の請求項10における「表示部に表示された3次元仮想空間内で目標動作を要求する要求部」という記載を、「ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部」に訂正する。

(8)訂正事項4−2
特許請求の範囲の請求項10における「ユーザ内における運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、前記目標動作の達成の評価と連動させて、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバック部」という記載を、「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部」に訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1−1について
訂正事項1−1は、訂正前の「表示部」を「ヘッドマウントディスプレイ」と具体的に構成を特定すると共に、要求部で要求する訂正前の「目的動作」を「1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作」と特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「表示部」に「ヘッドマウントディスプレイ」を採用する点は、段落【0017】〜【0018】及び図1,2に記載されている。また、段落【0013】、【0017】〜【0018】、【0023】〜【0026】の記載からすれば、要求部は、目的動作をヘッドマウントディスプレイの表示に合わせて、上半身を傾けたり、ねじったり、手を様々な方向に伸ばしたりするリハビリテーション動作を1回の動作として要求しているのであるから、「1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作」として要求していることは明らかである。
よって、訂正事項1−1に係る訂正は、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項1−2について
訂正事項1−2は、フィードバック部の作用について、訂正前は「評価と連動させて、」とされていたのを「評価を知らせるべく、」として、フィードバックの意味を明確化すると共に、フィードバックのタイミングについて、訂正前は「目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行う」とされていたのを「目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行う」と、明瞭かつ具体的に特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、段落【0024】には、「フィードバック部217は、目標動作が達成されたとして、メッセージ250を表示する。」と記載されているから、フィードバック部が目標動作を達成したという評価を知らせるべくメッセージを表示してフィードバックしていることは明らかであり、また、段落【0032】、【0039】、【0050】にはフィードバックが1秒以内であれば効果が高いことが記載されている。
よって、訂正事項1−2に係る訂正は、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項2−1,3−1,4−1について
訂正事項2−1,3−1,4−1は、「表示部」及び「要求部」(訂正事項2−1,3−1については、「要求部」は「要求ステップ」)について、訂正事項1−1と同様の訂正をするものであるから、訂正事項1−1同様、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項2−2,3−2について
訂正事項2−2,3−2は、「フィードバックステップ」について、訂正事項1−2の「フィードバック部」と同様の訂正をするものであるから、訂正事項1−2同様、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項4−2について
訂正事項4−2は、「フィードバック部」について、訂正事項1−2の「フィードバック部」と同様の訂正をするとともに、「運動モデル」の記載を「脳内運動モデル」に訂正する(以下、「運動モデルに係る訂正」という。)ものである。
ここで、運動モデルに係る訂正は、運動モデルの対象が明確でなかったものを、「脳内運動モデル」として明確化したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、運動モデルが脳内運動モデルである点は、段落【0037】、【0048】〜【0050】に記載されているから、当該運動モデルに係る訂正は、新規事項を追加するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項4−2に係る訂正は、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項を追加するものではないし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜10の全請求項について特許異議の申立てがなされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の要件(独立特許要件)については検討しない。

(7)一群の請求項について
訂正前の請求項2〜7は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項1−1,1−2によって訂正される請求項1〜7は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項[1〜7],8,9,10について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ−ションを支援する装置であって、
ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部と、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部と、
を備えたリハビリテーション支援装置。
【請求項2】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と聴覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項3】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項4】
前記フィードバックは、少なくとも聴覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項5】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と聴覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項6】
前記フィードバック部は、前記ユーザが、どの身体部位を動かして前記目標動作を行なったかを判定し、前記目標動作を行なった前記ユーザの身体部位に対して触覚を刺激するフィードバックを行なう請求項3乃至5のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項7】
前記フィードバック部は、前記目標動作の種類や達成度に応じたフィードバックを行なう請求項1乃至6のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項8】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ−ションを支援する方法であって、
要求制御部が、ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求ステップと、
フィードバック制御部が、ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバックステップと、
を含むリハビリテーション支援方法。
【請求項9】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ−ションを支援するプログラムであって、
ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求ステップと、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバックステップと、
をコンピュータに実行させるリハビリテーション支援プログラム。
【請求項10】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ−ションを支援する装置であって、
ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部と、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部と、
を備え、
前記フィードバック部は、前記ユーザが、どの身体部位を動かして前記目標動作を行なったかを判定し、前記目標動作を行なった前記ユーザの身体部位に対応したフィードバックを行なうリハビリテーション支援装置。」

第4 取消理由通知の概要
本件特許に対し、令和3年8月3日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、上記取消理由通知により、特許異議の申立てにおいて申立てられた全ての申立理由が通知された。

1 取消理由1
新規性)本件特許発明1〜6,8〜10は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(甲号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許発明1〜6,8〜10は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

2 取消理由2
進歩性)本件特許発明2,4,5,7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(甲号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明2,4,5,7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

3 取消理由3
明確性)本件特許は、下記(1)〜(3)の点で特許請求の範囲の記載が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。

(1)請求項10記載の「ユーザ内における運動モデルの再構築を促進させる」という記載は意味不明確である。
(2)請求項1,8〜10に「目標動作を行ったタイミングとほぼ同時」と記載されているが、「ほぼ」の意味する内容が不明確である。
(3)請求項1,8,9記載の「1回ごとの目標動作」の内容が特定できず不明確である。

甲号証一覧:
甲第1号証:M.S.Cameira~o(審決注:「ao」の文字「a」の上にacento tilを付す。) et al, “The Combined Impact of Virtual Reality Neurorehabilitation and Its Interfaces on Upper Extremity Functional Recovery in Patients With Chronic Stoke”, “Stoke”, American Heart Association,2012年10月,p2720〜2728
甲第2号証:M.Widmer et al, “Dose motivation matter in upper-limb rehabilitation after stoke? ArmeoSenso-Reward: study protocol for a randomized controlled trial”,“Trials”, BioMed Central,2017年12月2日
甲第3号証:特許第6531338号公報
以下、それぞれを「甲1」〜「甲3」という。

第5 上記取消理由についての判断
1 取消理由3について
事案に鑑み、まず取消理由3について検討する。
(1)請求項10の「ユーザ内における運動モデルの再構築を促進させる」という記載について
本件訂正により、請求項10の「運動モデル」の記載は、請求項1,8,9と同様、「脳内運動モデル」と訂正されたので、両者は同じものであることが明瞭にされた。
そして、「脳内運動モデル」の意味について、以下検討する。
申立人が主張するように「脳内運動モデル」の用語は、一般的な用語とは認められない。
しかし、本件特許明細書の段落【0037】の「従来のディレイの大きいフィードバックでは、ユーザがリハビリテーション動作の達成感を感じることが難しく、脳内に運動モデルを再構築できなかった。ディレイが小さいほぼリアルタイムのフィードバックを2つ以上の感覚刺激を用いて実現することにより、運動系の障害が劇的に改善する。」という記載、段落【0048】の「しかしこういった患者に対して2つの感覚(視覚と聴覚、視覚と触覚、聴覚と触覚)からのリアルタイムマルチチャネルフィードバックを行うことで数分単位で運動モデルの脳内構築が進み、運動障害が劇的に改善することが確認される症例を多く認めた。」という記載及び段落【0050】の「2つ以上の感覚器官を用いて目標動作の達成とほぼ同時(1秒以内など)に多重のフィードバック(マルチチャネルフィードバック)を行なうことにより、脳内において非常に効率的に運動モデルの再構築を行い、運動障害を効果的に改善することができる。また、このリアルタイムマルチチャネルフィードバックによってユーザの脳内に運動モデルが再構築されると、脳内運動モデルの欠損やギャップによって生じる幻肢痛を含む疼痛症状が改善する。」という記載からすれば、「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させる」とは、運動障害を有するユーザの脳内における運動指令と筋肉の動きの関係を再構築し運動障害のない状態に改善することを意味するものとして理解でき、「脳内運動モデル」とは、脳内における運動指令と筋肉の動きの関係をモデル化したものと理解できるから、明細書の記載に照らして「脳内運動モデル」の用語が不明確であるとはいえない。

(2)請求項1,8〜10に「目標動作を行ったタイミングとほぼ同時」と記載されているが、「ほぼ」の意味する内容が不明確である点について
本件訂正により、請求項1,8〜10の「ほぼ同時」の記載は「1秒以内」と改められたので不明確な点は解消された。

(3)請求項1,8,9記載の「1回ごとの目標動作」の内容が特定できず不明確である点について
本件訂正により、請求項1、8,9記載の目標動作について、要求部(要求ステップ)が要求する3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作とすることが定義されたので、請求項1,8,9記載の「1回ごとの目標動作」の内容は明確となった。

(4)小活
以上のとおりであるから、本件訂正により、請求項1,8〜10及び請求項1を引用する請求項2〜7の記載に不明確なところはなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないとはいえない。
よって、これら請求項に係る特許は取消理由3によっては取り消すことができない。

2 取消理由1及び2について
(1)甲号証の記載について
ア 甲1には、以下の事項が記載されている(以下の訳は異議申立書による。
(ア)「The Combined Impact of Virtual Reality Neurorehabilitation and Its Interfaces on Upper Extremity Functional Recovery in Patients With Chronic Stroke」(2720頁の表題)
(訳:慢性脳卒中患者の上肢機能回復に対する仮想現実神経リハビリテーションとそのインターフェースの複合的影響)

(イ)「Methods- To specifically address this issue, we developed 3 different configurations of the same VR-based rehabilitation system, the Rehabilitation Gaming System, using 3 different interface technologies: vision-based tracking, haptics, and a passive exoskeleton. 」(2720頁9〜11行)
(訳:方法−この問題に具体的に対処するために、同じVRベースのリハビリテーション・システムであるリハビリテーションゲームシステムの3つの異なる構成を、視覚ベースの追跡、触覚、パッシブ外骨格の3つの異なるインターフェイステクノロジーを使用して開発した。)

(ウ)「Specifically we observe that beneficial effects of VR-based training are modulated by the use/nonuse of compensatory movement strategies and the specific sensorimotor contingencies presented to the user, that is, visual feedback versus combined visual haptic feedback」(2720頁14〜16行)
(訳:具体的には、我々は、VRベースのトレーニングの有益な効果が、補完的な運動戦略の使用/不使用、およびユーザに提示される特定の感覚を刺激する偶発性、つまり視覚フィードバックVS視覚触覚フィードバックの組み合わせ、によって調整されることを観察する。)

(エ)「The aim of this study is to assess the impact of a VR task for upper limb rehabilitation on stroke neurorehabilitaion when performed with different interface technologies using as a basiss the Rhabilitation Gaming System (RGS).The main hypothesis of the RGS is that bimanual task-oriented action execution combined with the first person observation of virtual limbs that reproduce the executed movements creates the conditions that facilitate the functional reorganization of the motor and premotor systems affected by stroke by recruiting the mirror neuron system. We hypothesize that RGS drives the mirror neuron system by enhancing the observation of goal-oriented movements through a virtual representation of the body and thus accesses the motor and premotor systems through this route.」(2720ページ下左欄8行〜下右欄8行)
(訳:この研究の目的は、リハビリテーションゲーミングシステム(RGS)を基礎として使用して、さまざまなインターフェース技術で実行した場合の脳卒中神経リハビリテーションに対する上肢リハビリテーションのVRタスクの影響を評価することである。RGSの主な仮説は次のとおりである。実行された動きを再現する仮想手足の一人称観察と組み合わされた両手によるタスク指向のアクション実行は、ミラーニューロンシステムを採用することにより、脳卒中の影響を受ける運動及び運動前野の機能的再編成を促進する条件を作成する。RGSは、身体の仮想表現を通じて目標指向の動きの観察を強化することによってミラーニューロンを駆動し、したがってこのルートを介して運動及び運動前野にアクセスすると仮定する。)

(オ)「Augmenting the visual and auditory feedback of the VR interaction with haptic feedback on touching virtual objects together enhances the salience of interaction events and the ecological validity of the task. More specifically, one could argue that the plastic brain is largely driven by the statistics of the inputs it is exposed to and thus enhancing multimodal feedback will lead to an improved ability to classify and process information.」(2721頁左段9〜16行)
(訳:VRインタラクションの視覚的および聴覚的フィードバックを、仮想オブジェクトに触れることに関する触覚フィードバックとともに強化すると、インタラクションイベントの顕著性とタスクの生態学的妥当性が向上する。より具体的には、可撓性の脳は、それがさらされる入力の統計によって主に駆動され、したがってマルチモーダルフィードバックを強化すると、情報を分類及び処理する能力が向上すると主張することができる。)

(カ)「The standard version of the RGS is based on a vision-based tracking system (AnTS), capturing the movements of the upper extremities by tracking colored markers positioned at specific points (Figure 1A).」(2721頁右段20〜22行)
(訳:RGSの標準バージョンは、視覚ベースの追跡システム(AnTS)に基づいており、特定のポイントに配置された色付きのマーカーを追跡することで上肢の動きをキャプチャする(図1A)。

(キ)「This device provides force-feedback on the end-effectors through the handles that the user has to grasp. This interface allows the subject to receive additional sensory feedback when touching virtual objects.」(2721頁右段27〜30行)
(訳:このデバイスは、ユーザが握らなければならないハンドルを介してエンドエフェクターに力のフィードバックを提供する。このインターフェースにより、被験者は仮想オブジェクトに触れたときに追加の感覚フィードバックを受け取ることができる。)

(ク)「This suggests that adding haptic feedback that coincided with the moments that the subject saw the virtual hands touch the spheres increases the efficacy of the RGS.」(2727左段15〜17行)
(訳:これは、被験者が仮想の手が球に触れるのを見た瞬間と一致する触覚フィードバックを追加すると、RGSの有効性が高まることを示唆している。)

(ケ)「Figure 1. The 3 RGS configurations. A, RGS: patients work on a cutout table top facing a computer screen. The tracking system AnTS uses color detection to capture the movements of color patches located on the arms and map these onto the movements of the virtual arm. See Cameirao et al for details. B, RGS-H: in addition to RGS, 2 mechanical arms provide force-feedback by means of 2 handles that the patient has to grasp duri
ng training.」(2721頁1〜12行)
(訳:図1 3つのRGS構成。 A、RGS:患者は、コンピュータスクリーンに向き合いながら、切り欠かれたテーブルの天板上で作業する。トラッキングシステムAnTSは、腕の上に配置された色彩パッチの動きを捕捉するため色彩検知を利用し、これらを仮想腕の動きの上にマッピングする。詳細はカメイラオその他を参照。B、RGS−H:RGSに加えて、2つの機械アームが、患者がトレーニング中に握らなくてはならない2つのハンドルによってフィードバック力を提供する。)

(コ)上記(ア)及び(イ)の記載から、甲1には、慢性脳卒中患者の上肢機能回復に対する仮想現実神経リハビリテーション・システムが記載されているといえる。

(サ)上記(ウ)の「VRベースのトレーニングの有益な効果が・・(中略)・・視覚フィードバックVS視覚触覚フィードバックの組み合わせ、によって調整される」、上記(エ)の「実行された動きを再現する仮想手足の一人称観察と組み合わされた両手によるタスク指向のアクション実行」、上記(オ)の「VRインタラクションの視覚的及び聴覚的フィードバックを、仮想オブジェクトに触れることに関する触覚フィードバックとともに強化する」、上記(キ)の「被験者は仮想オブジェクトに触れに触れたときに追加の感覚フィードバックを受け取る」、上記(ク)の「被験者が仮想の手が球に触れるのを見た瞬間と一致する触覚フィードバックを追加する」、上記(ケ)の「患者は、コンピュータスクリーンに向き合いながら、切り欠かれたテーブルの天板上で作業する。」という記載からみて、甲1には、コンピュータスクリーン上に目標オブジェクトと患者の仮想手を映し出し、患者に目標オブジェクトに触れるよう指示を出すものであり、患者が手を動かすことでコンピュータスクリーン上の仮想手が動き、仮想手が目標オブジェクトに触れたときに、患者はそれをコンピュータスクリーン上で目視する(視覚的フィードバックを受け取る)とともに、聴覚的フィードバック及び触覚フィードバックを受け取るものであることが記載されているといえる。また、甲1に記載のシステムは、患者に目標オブジェクトに触れるよう指示を出すことから、この指示を出すための指示部(指示ステップ)を備えるといえる。さらに、甲1に記載のシステムは、患者がフィードバックを受け取るようにするものであることから、患者に対してフィードバックを行うフィードバック部(フィードバックステップ)を備えるといえる。

(シ)上記(エ)の「実行された動きを再現する仮想手足の一人称観察と組み合わされた両手によるタスク指向のアクション実行は、ミラーニューロンシステムを採用することにより、脳卒中の影響を受ける運動及び運動前野の機能的再編成を促進する条件を作成する。RGSは、身体の仮想表現を通じて目標指向の動きの観察を強化することによってミラーニューロンを駆動し、したがってこのルートを介して運動及び運動前野にアクセスする」、上記(オ)の「マルチモーダルフィードバックを強化すると、情報を分類及び処理する能力が向上する」という記載から、甲1には、患者の脳は、マルチモーダルフィードバック(視覚的フィードバック、聴覚的フィードバック、触覚フィードバック)を受け取ることにより、患者の脳内の運動及び運動前野の機能的再編を促進することが記載されているといえる。

(ス)甲1に記載のリハビリテーション・システムは、そのシステムの使用によってリハビリテーションを支援する方法となることは明らかであり、また、コンピュータを利用するものであることから、そのシステムが作動するようコンピュータに実行させるプログラムを有するものであることは明らかであることから、甲1には当該方法やプログラムが記載されているに等しいといえる。

(セ)上記(ア)〜(ケ)の特に下線部の記載事項及び(コ)〜(ス)の認定事項によれば、甲1には、次のa〜c記載の発明(以下「甲1発明の1」〜「甲1発明の3」という。)が記載されているものと認められる。

a 甲1発明の1
「慢性脳卒中患者の上肢機能回復に対するリハビリテーションの支援の装置であって、
コンピュータスクリーン上に目標オブジェクトと患者の仮想手を映し出し、患者に目標オブジェクトに触れるよう指示を出す指示部と、
患者の脳内の運動及び運動前野の機能的再編を促進するため、患者が手を動かすことでコンピュータスクリーン上の仮想手が動き、仮想手が目標オブジェクトに触れたときに、患者に対して視覚的フィードバック、聴覚的フィードバック及び触覚フィードバックを行うフィードバック部と、
を備えるリハビリテーション・システムの装置。」

b 甲1発明の2
「慢性脳卒中患者の上肢機能回復に対するリハビリテーションを支援する方法であって、
コンピュータスクリーン上に目標オブジェクトと患者の仮想手が映し出され、患者に目標オブジェクトに触れるよう指示を出す指示ステップと、
患者の脳内の運動及び運動前野の機能的再編を促進するため、患者が手を動かすことでコンピュータスクリーン上の仮想手が動き、仮想手が目標オブジェクトに触れたときに、患者に対して視覚的フィードバック、聴覚的フィードバック及び触覚フィードバックを行うフィードバックステップと、
を含むリハビリテーションを支援する方法。」

c 甲1発明の3
「慢性脳卒中患者の上肢機能回復に対するリハビリテーション・システムのプログラムであって、
コンピュータスクリーン上に目標オブジェクトと患者の仮想手が映し出され、患者に目標オブジェクトに触れるよう指示を出す指示ステップと、
患者の脳内の運動及び運動前野の機能的再編を促進するため、患者が手を動かすことでコンピュータスクリーン上の仮想手が動き、仮想手が目標オブジェクトに触れたときに、患者に対して視覚的フィードバック、聴覚的フィードバック及び触覚フィードバックを行うフィードバックステップと、
をコンピュータに実行させるリハビリテーション・システムのプログラム。」

イ 甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「In this paper, we propose a trial protocol investigating rewards in the form of performance feedback and monetary gains as ways to improve effectiveness of rehabilitative training.」(1頁抄録5〜7行)
(訳:この論文では、リハビリテーショントレーニングの効果を向上させる方法として、パフォーマンスフィードバックと金銭的利益の形での報酬を調査する試験プロトコルを提案する。)

(イ)「Whenever a meteor is touched by the virtual hand, it explodes, giving the patient immediate knowledge of the result. Furthermore, a score appears with each exploding meteor that depends on the falling speed and diminishes with the time the meteor was visible on the screen before being caught.](5頁左欄19〜24行)
(訳:イオン積が下層の手で触れると、それは爆発し、患者に結果を即座に知らせる。さらに、落下速度に応じて爆発する流星ごとにスコアが表示され、流星が画面に表示されてからとらえられるまでの時間とともにスコアが減少する。)

ウ 甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「表示制御部212は、目標オブジェクト242を、奥行き方向について異なる位置(例えば3段階の位置)に出現させることができる。評価部214は、それぞれ、異なるポイント(遠いオブジェクトには高いポイント、近いオブジェクトには低いポイント)を付与する。」(段落【0036】)

(2)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)本件特許発明1(以下「前者」という。)と甲1発明の1(以下、「後者」という。)を対比するに、後者の「慢性脳卒中患者の上肢機能回復に対するリハビリテーション・システムの装置」は、その機能及び構造からみて、前者の「運動障害を有するユーザに対するリハビリテーションを支援する装置」に相当する。
(イ)後者の「コンピュータスクリーン」と前者の「ヘッドマウントディスプレイ」は、「表示部」である点において一致し、後者の「目標オブジェクトと患者の仮想手を映し出し、患者に目標オブジェクトに触れるように指示を出す指示部」と前者の「3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部」は、「表示部において目標動作を要求する要求部」である点で一致する。
(ウ)後者の「患者の脳内の運動及び運動前野の機能的再編を促進」させるとは、運動障害を有する患者(ユーザ)の脳内における運動指令と筋肉の動きの関係を再構築し運動障害のない状態に改善することを意味するものと認められるから、前者の「ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させる」に相当する。
(エ)後者において、仮想手を動かし目標オブジェクトに触れさせることは「目標動作」といえ、後者は当該目標動作の達成の評価を知らせるべくフィードバックを行っているといえる。そして、患者に対して視覚的フィードバック、聴覚的フィードバック及び触覚フィードバックは、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せにあたり、当該フィードバックは目標オブジェクトに触れたときに行われているから、目標動作の達成タイミングから1秒以内に行われているものと認められる。
よって、前者と後者のフィードバック部は、「目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部」である点で一致する。

してみると、本件特許発明1と甲1発明の1との一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「運動障害を有するユーザに対するリハビリテーションを支援する装置であって、
表示部において目標動作を要求する要求部と、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部と、
を備えたリハビリテーション支援装置。」
<相違点>
本件特許発明1では、表示部がヘッドマウントディスプレイであり、要求部が、当該ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求するのに対し、甲1発明の1では、表示部がコンピュータスクリーンであり、指示部(要求部)が目標オブジェクトと患者の仮想手を映し出し患者に目標オブジェクトに触れるように指示を出す点。

イ 上記相違点についての検討
本件特許発明1は、ヘッドマウントディスプレイ上で表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求するものである。
これに対して、甲1発明の1は、コンピュータスクリーン上の目標オブジェクトと患者(ユーザ)の仮想手を映し出し、患者(ユーザ)に目標オブジェクトに触れるように指示を出すものである。
ここで、仮に当該コンピュータスクリーン上の表示が3次元仮想空間として表示され、当該目標オブジェクトと患者(ユーザ)の仮想手を映し出し、患者(ユーザ)に目標オブジェクトに触れるように指示を出すことが、1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求することに相当するとしても、当該ユーザはコンピュータスクリーンの表示を観察することになる以上、ユーザは画面上の表示以外の背景等も同時に認識することになるから、ユーザの脳内の機能の再構築を行うにあたって、ユーザの表示部からの認識が両者で同じであるとすることはできない。
そして、当該認識の相違に基づくリハビリテーションの効果が同じであるとはいえないから、上記相違点は実質的なものというべきである。
また、申立人が令和3年11月19日付け意見書で主張するように「リハビリテーション効果を上げる」ためにヘッドマウントディスプレイを使用することが、例えば甲3に記載されているように周知技術であるとしても、甲3は、ヘッドマウントディスプレイによる、いわゆるVR酔いの予防を意図したものであり(段落【0009】〜【0015】参照。)、リハビリテーションをユーザの脳内の機能の再構築のために用いるものではない。
そして、甲1発明の1に、ヘッドマウントディスプレイを採用すれば、当然にユーザの脳内の機能の再構築が促進させることができるという知見が本件特許の出願前にあったことを示すに足る証拠は見当たらないから、甲1発明の1に甲3記載の周知技術を適用しようとする動機付けがあったとすることはできない。
また、甲2にも上記相違点に係る本件特許発明1の構成についての記載や示唆は見当たらない。
よって、上記相違点に係る構成上の相違は実質的なものであり、また、当該相違点は、甲1発明の1、甲2記載の事項及び甲3記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2〜7について
本件特許発明2〜7は、いずれも直接又は間接的に本件特許発明1を引用するものであるから、本件特許発明1同様、甲1発明の1、甲2記載の事項及び甲3記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1発明の2との相違点は、上記(2)で検討した、本件特許発明1と甲1発明の1との相違点と同様のものとなるから、本件特許発明1について検討したのと同様に、本件特許発明8は、甲1発明の2、甲2記載の事項及び甲3記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1発明の3との相違点は、上記(2)で検討した、本件特許発明1と甲1発明の1との相違点と同様のものとなるから、本件特許発明1について検討したのと同様に、本件特許発明9は、甲1発明の3、甲2記載の事項及び甲3記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件特許発明10について
本件特許発明10と甲1発明の1との相違点は、少なくとも上記(2)で検討した相違点に係る構成を包含するものとなるから、本件特許発明1について検討したのと同様に、本件特許発明10は、甲1発明の1、甲2記載の事項及び甲3記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)小活
以上のとおり、本件特許発明1〜10は、甲1発明の1ないし3、甲2記載の事項及び甲3記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、これら特許については、取消理由1及び2によっては取り消すべきものとすることができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許発明1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテーションを支援する装置であって、
ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部と、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部と、
を備えたリハビリテーション支援装置。
【請求項2】
前記フィードバックは、少なぐとも視覚と聴覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項3】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項4】
前記フィードバックは、少なくとも聴覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項5】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と聴覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項6】
前記フィードバック部は、前記ユーザが、どの身体部位を動かして前記目標動作を行なったかを判定し、前記目標動作を行なった前記ユーザの身体部位に対して触覚を刺激するフィードバックを行なう請求項3乃至5のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項7】
前記フィードバック部は、前記目標動作の種類や達成度に応じたフィードバックを行なう請求項1乃至6のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項8】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテーションを支援する方法であって、
要求制御部が、ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求ステップと、
フィードバック制御部が、ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバックステップと、
を含むリハビリテーション支援方法。
【請求項9】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテーションを支援するプログラムであって、
ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求ステップと、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、1回ごとの前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、目標動作の種類やその達成度に応じて5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバックステップと、
をコンピュータに実行させるリハビリテーション支援プログラム。
【請求項10】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテーションを支援する装置であって、
ヘッドマウントディスプレイに表示された3次元仮想空間内で1つ以上の3次元的な身体の動きを1回の目標動作として要求する要求部と、
ユーザ内における脳内運動モデルの再構築を促進させるため、前記目標動作を行ったユーザに対して、前記目標動作の達成の評価を知らせるべく、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックの組合せを、前記目標動作を達成したタイミングから1秒以内に行うフィードバック部と、
を備え、
前記フィードバック部は、前記ユーザが、どの身体部位を動かして前記目標動作を行なったかを判定し、前記目標動作を行なった前記ユーザの身体部位に対応したフィードバックを行なうリハビリテーション支援装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-20 
出願番号 P2019-141766
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61H)
P 1 651・ 121- YAA (A61H)
P 1 651・ 113- YAA (A61H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 井上 哲男
加藤 啓
登録日 2020-06-09 
登録番号 6714285
権利者 株式会社mediVR
発明の名称 リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法  
代理人 加藤 卓士  
代理人 加藤 卓士  
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