• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11D
管理番号 1384046
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-04 
確定日 2022-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6716200号発明「衣料用液体洗浄剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6716200号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6716200号の請求項1〜4及び6に係る特許を維持する。 特許第6716200号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6716200号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成27年4月17日を出願日とするものであって、令和2年6月12日に特許権の設定登録がされ、令和2年7月1日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜6に係る発明の特許に対し、令和3年1月4日に森田弘潤(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和3年 3月24日付け 取消理由通知
同年 5月12日 面接
同年 5月28日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 6月 9日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月15日 意見書(特許異議申立人)
同年 9月 8日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年11月 4日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年11月10日付け 訂正請求があった旨の通知
同年12月15日 意見書(特許異議申立人)
なお、令和3年5月28日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年11月4日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6716200号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜6からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「陰イオン界面活性剤を含有する、衣料用液体洗剤組成物。」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「陰イオン界面活性剤を含有し、(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上である、衣料用液体洗剤組成物。」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4、6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、7.0以下であり、」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、2.8以下であり、」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4、6も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、30以下であり、」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、10以下であり、」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4、6も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項1の「(d)成分:香料マイクロカプセル」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「(d)成分:香料マイクロカプセルであって、該香料マイクロカプセルの外殻が、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選ばれる高分子化合物からなる、香料マイクロカプセル」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3、4、6も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6の「請求項1〜5の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。」との記載部分を、
訂正後の請求項6の「請求項1〜4の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。」との記載に訂正する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「陰イオン界面活性剤を含有する、衣料用液体洗剤組成物。」を、訂正前の請求項5の「(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸塩又はその塩の割合が30質量%以上である、請求項1〜3の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。」との記載、及び本件特許明細書の段落0021の「(c)成分中に炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩を…40質量%以上含むことがより好ましく」との記載に基づき「陰イオン界面活性剤を含有し、(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上である、衣料用液体洗剤組成物。」に限定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、7.0以下であり、」との記載にある数値範囲の「7.0以下」という上限を、本件特許明細書の段落0032の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕は…2.8以下がより更に好ましい」との記載に基づき「2.8以下」に減縮するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項2は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の「(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、30以下であり、」との記載にある数値範囲の「30以下」という上限を、本件特許明細書の段落0033の「(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕は…10以下がより更に好ましい」との記載に基づき「10以下」に減縮するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項3は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項1の「(d)成分:香料マイクロカプセル」を、本件特許明細書の段落0024の「香料マイクロカプセルの外殻としては、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン、アラビアゴム、デンプン等の各種高分子化合物が挙げられる。」との記載に基づき「(d)成分:香料マイクロカプセルであって、該香料マイクロカプセルの外殻が、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選ばれる高分子化合物からなる、香料マイクロカプセル」に限定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項4は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5〜6について
訂正事項5は、訂正前の請求項5を削除する訂正であり、訂正事項6は、訂正前の請求項6の択一的引用記載から請求項5を削除するものである。
してみると、訂正事項5〜6は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項5〜6は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5〜6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)一群の請求項について
訂正事項1〜6に係る訂正前の請求項1〜6について、その請求項2〜6はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜6に対応する訂正後の請求項1〜6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1〜6による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜6による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜6に係る発明(以下「本1発明」〜「本6発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分を配合してなり、
組成物中の(a)成分の含有量と(b)成分の含有量の合計が15質量%以上、35質量%以下、(d)成分の含有量が0.1質量%以上、2質量%以下であり、
(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、2.8以下であり、
(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、10以下であり、
(a)成分として、(a1)炭素数10以上、20以下のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩〔以下、(a1)成分という〕、及び(a3)アルキル基の平均炭素数が10以上、20以下、エチレンオキサイドの平均付加モル数が0.5以上、6以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔以下、(a3)成分という〕から選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤を含有し、
(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上である、
衣料用液体洗浄剤組成物。
(a)成分:硫酸エステル塩基及びスルホン酸塩基から選ばれる基を含む陰イオン界面活性剤
(b)成分:一般式(I)で表される非イオン界面活性剤
R1O[(EO)s/(PO)t]H (I)
(式中、R1は炭素数9以上、20以下の脂肪族炭化水素基を示し、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を示し、s、tは各々EO、POの平均付加モル数で、sは4以上30以下、tは0以上5以下の数を示す。EO、POはランダム付加又はブロック付加の何れでもよい。)
(c)成分:炭素数12以上、18以下の脂肪酸又はその塩
(d)成分:香料マイクロカプセルであって、該香料マイクロカプセルの外殻が、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選ばれる高分子化合物からなる、香料マイクロカプセル
(e)成分:水
【請求項2】(a)成分中、スルホン酸塩基を有する陰イオン界面活性剤の割合が50質量%以上である、請求項1に記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【請求項3】(a)成分中、(a1)成分の割合が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【請求項4】(a)成分中、(a3)成分の割合が5質量%以上である、請求項1〜3の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【請求項5】(削除)
【請求項6】更に、(f)成分として、下記一般式で表されるアミン化合物を配合してなり、組成物中の(f)成分の含有量が0.5質量%以上、5質量%以下である、請求項1〜4の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【化1】

〔式中、R1fは炭素数13以上、21以下のアルキル基又はアルケニル基、R2f、R3fは、それぞれ、炭素数1以上、6以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、XはNH、CONH、COO及びOから選ばれる基、R4fは炭素数2以上、6以下のアルキレン基を示す。〕」

第4 取消理由通知の概要
令和3年9月8日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の理由1〜3の取消理由を含むものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
甲第1号証:国際公開第2014/171476号
よって、本件特許の請求項1〜6に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:国際公開第2014/171476号
甲第7号証:特開2013−124439号公報
参考例A:石鹸百科,“主な油脂の脂肪酸組成”,[online],2009年11月改訂,[令和3年8月27日検索],インターネット
<URL:https://www.live-science.com/honkan/soap/soapchemistry03.html>
よって、本件特許の請求項1〜6に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。以下、項目のみ列記する。
2.(3)請求項1に記載の発明特定事項の範囲について
ア.〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕について
イ.(d)成分の含有量について
ウ.〔(c)成分の含有量〕/〔(d)成分の含有量〕について
エ.(c)成分について
よって、本件特許の請求項1〜6に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)甲第1号証、甲第7号証、及び参考例A、並びにその記載事項
ア 甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1〜3
「[請求項1]下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分を含有し、全ての界面活性剤の含有量の合計が、液体洗浄剤の総質量に対して45質量%以上、80質量%以下である、液体洗浄剤:
(A)成分:下記一般式(a−1)で表される化合物、下記一般式(a−2)で表される化合物、および下記一般式(a−4)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むノニオン界面活性剤;
(B)成分:下記一般式(b−1)で表される化合物、および炭素数6以上、18以下のアルコールからなる群から選択される少なくとも1つの化合物;および
(C)成分:アニオン界面活性剤;
[化1]

(式(a−1)中、R1は炭素数9〜13の炭化水素基であり、R2は炭素数2〜4のアルキレン基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基であり、mはOR2の平均繰り返し数を示す5〜25の数である。)
[化2]

(式(a−2)中、R4は炭素数10〜20の炭化水素基であり、EOはオキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、sはEOの平均繰り返し数を示す5〜20の数であり、tはPOの平均繰り返し数を示す1〜4の数であり;[−(EO)s−(PO)t−]とは、EOとPOは、式−(EO)s−(PO)t−の順序によらず混在して配列してもよいことを表す
[化3]

(式(a−4)中、R1は炭素数10〜20の炭化水素基であり;A1OおよびA2Oはそれぞれ独立に炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり;pはA1Oの平均繰返し数を表し、qはA2Oの平均繰返し数を表し、p>0、q>0であり、p+qは10以上60未満の数である。)
[化4]

(式(b−1)中、Z1〜Z3はそれぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、またはカルボキシ基であり、a+b=7〜19であり、c+d=7〜19であり、e+f=7〜19である。)
[請求項2]前記(C)成分と前記(A)成分との質量比である(C)成分/(A)成分が0.02〜0.7である、請求項1に記載の液体洗浄剤。
[請求項3]液体洗浄剤の総質量に対して、前記(A)の含有量が、1〜70質量%であり、前記(B)成分の含有量が、0.1〜10質量%であり、前記(C)成分の含有量が、1〜20質量%である、請求項1に記載の液体洗浄剤。」

摘記1b:段落0069、0072、0074、0078及び0099
「[0069](C)成分としては、上記のなかでも、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸またはその塩;…ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;…および高級脂肪酸塩;およびよりなる群から選ばれる少なくとも1つのアニオン界面活性剤が好ましい。…
[0072]カチオン界面活性剤としては、たとえば…ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド…等が挙げられる。…
[0074]…水の含有量は、液体洗浄剤の総質量を100質量%としたとき、5〜35質量%が好ましく、20〜35質量%がより好ましい。…
[0078]…カプセル香料としては、フィルメニッヒ社製のBLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」;ジボダン社製のAURORACAPS、およびCOSMICCAPS;IFF社製のUNICAP101、およびUNICAP503等が挙げられる。…
[0099]…本発明の液体洗浄剤は、衣料用液体洗浄剤の通常の使用方法と同様の方法で用いることができる。」

摘記1c:段落0103
「[0103]…洗濯後の衣料等に十分な香りを付与したり、衣料等の着用中にも発香したりするためにカプセル香料やそれに代わる有効成分を含有する包剤、特有の製品審美性を付与するためのビーズ等の水溶性粒子および水不溶性粒子を配合した洗浄剤等が開発されている。…本発明の液体洗浄剤であれば、構造液体を形成しているので、水溶性粒子および水不溶性粒子を均一に安定して分散させることもできる。」

摘記1d:段落0122、0124、0129〜0132及び0138
「0122]…(A)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・A1−1:MEE(ヤシ脂肪酸メチル(質量比でラウリン酸メチル/ミリスチン酸メチル=8/2の混合物)に、アルコキシル化触媒を用いて、15モル相当のエチレンオキシドを付加して合成したノニオン界面活性剤、合成品)。上記一般式(a−1)におけるR1が炭素数12、14のアルキル基、R2がエチレン基、R3がメチル基、mが15の化合物。…
[0124]
・A3−1:LMAO−1(天然アルコールCO−1214(P&G社製)に対して平均15モル相当のエチレンオキシドを付加したノニオン界面活性剤)。…
[0129](B)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・B1−1:ヒマシ硬化油(日油株式会社製、「カスターワックスAフレーク」)。…
[0130](C)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・C−1:LAS−H(直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸(ライオン株式会社製、「ライポンLH−200」、純分96質量%))。
・C−2:ヤシ脂肪酸(日油株式会社製)。
・C−3:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルモノエタノールアミン塩(炭素数10〜14の直鎖アルキル、PO平均付加モル数1、EO平均付加モル数3)
[0131]任意成分として、以下に示す化合物を用いた。
・共通成分a:下記表1に示す。…
[0132][表1]

[0138]共通成分a〜fに含まれる各化合物は、以下の通りである。
・アミドアミン:ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド(東邦化学工業株式会社製)、カチオン界面活性剤。
・PTS−H:パラトルエンスルホン酸(テイカ株式会社製、「テイカトックス300」)。…
・香料A−1:特開2008−7872号公報の実施例に記載の香料組成物a−1−1。…
・香料B−1:BLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」(フィルメニッヒ社製)。
・香料B−2:COSMICCAPS(ジボダン社製)。
・香料B−3:UNICAP503(IFF社製)。…
・水:精製水」

摘記1e:段落0139、0146及び0148
「[0139][実施例1〜26、比較例1〜6]
以下に示す製造方法により、表7〜9に記載の含有量(質量%)で各成分を含有する組成物を調整した。なお、溶媒として水(精製水)を使用し、表7〜9に記載の水以外の成分と水とを合わせて100質量%となるようにした。水の含有量は「バランス」とした。…
[0146](分散性の評価)…
A:ビーズが液体洗浄剤中に均一に分散している。
B:ビーズが浮遊または沈降している。…
[0148][表7]



イ 甲第7号証には、次の記載がある。
摘記7a:段落0026及び0048
「【0026】(b−2)壁物質は、カプセル化香料が破壊された際の発香性の観点から、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂或いは尿素−ホルムアルデヒド樹脂からなるアミノプラストポリマーであることが好ましい。特に、特開2010−520928号に記載されているようなアミノプラストポリマーが好ましい。具体的には、ポリアミン由来の部分/芳香族ポリフェノール由来の部分/メチレン単位、ジメトキシメチレン及びジメトキシメチレンを有するアルキレンおよびアルキレンオキシ部分からなるターポリマーであることが好ましい。…
【0048】[(B)成分]
実施例及び比較例で使用した(B)成分を以下に示す。
B−1:メカキャップス(香調オーチャード):ジボダン社製
B−2:メカキャップス(香調グリーンブリーズ):ジボダン社製
B−1、B−2ともジボダン社から入手できるメラミン−ホルムアルデヒド系樹脂をカプセル壁とするカプセル化香料。」

ウ 参考例Aには、次の記載がある。
摘記A1:
「主な油脂の脂肪酸組成

…2009年11月改訂」

(2)甲第1号証に記載された発明
摘記1aの「下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分を含有し、全ての界面活性剤の含有量の合計が、液体洗浄剤の総質量に対して45質量%以上、80質量%以下である、液体洗浄剤:(A)成分:…ノニオン界面活性剤;…(C)成分:…アニオン界面活性剤;」との記載、
摘記1bの「カプセル香料としては、フィルメニッヒ社製のBLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」…等が挙げられる。本発明の液体洗浄剤は、衣料用液体洗浄剤の通常の使用方法と同様の方法で用いることができる。」との記載、
摘記1dの「A1−1:MEE(ヤシ脂肪酸メチル(質量比でラウリン酸メチル/ミリスチン酸メチル=8/2の混合物)に、アルコキシル化触媒を用いて、15モル相当のエチレンオキシドを付加して合成したノニオン界面活性剤、合成品)。上記一般式(a−1)におけるR1が炭素数12、14のアルキル基、R2がエチレン基、R3がメチル基、mが15の化合物。…A3−1:LMAO−1(天然アルコールCO−1214(P&G社製)に対して平均15モル相当のエチレンオキシドを付加したノニオン界面活性剤)。…B1−1:ヒマシ硬化油(日油株式会社製、「カスターワックスAフレーク」)。…C−1:LAS−H(直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸(ライオン株式会社製、「ライポンLH−200」、純分96質量%))。…C−2:ヤシ脂肪酸(日油株式会社製)。…C−3:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルモノエタノールアミン塩(炭素数10〜14の直鎖アルキル、PO平均付加モル数1、EO平均付加モル数3)…共通成分a:下記表1に示す。…[表1]…共通成分a…成分…含有量[質量%]…アミドアミン…2…香料B−1…1…水…バランス…アミドアミン:ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド(東邦化学工業株式会社製)、カチオン界面活性剤。…香料B−1:BLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」(フィルメニッヒ社製)。」との記載、及び
摘記1eの「実施例1〜26…表7〜9に記載の含有量(質量%)で各成分を含有する組成物を調整した。…(分散性の評価)…A:ビーズが液体洗浄剤中に均一に分散している。…[表7]…実施例…3…A−1…45…A−3…10…C−1…5…C−2…2…任意成分…a…分散性…A」との記載からみて、甲第1号証の刊行物には、実施例3の具体例として、
『・下記一般式(a−1)におけるR1が炭素数12、14のアルキル基、R2がエチレン基、R3がメチル基、mが15のノニオン界面活性剤(A−1)45質量%、

・天然アルコールCO−1214(P&G社製)に対して平均15モル相当のエチレンオキシドを付加したノニオン界面活性剤(A3−1)10質量%、
・ヒマシ硬化油(B1−1)0.5質量%、
・直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸のアニオン界面活性剤(C−1)5質量%、
・ヤシ脂肪酸(C−2)2質量%、並びに
・アミドアミンのカチオン界面活性剤(ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド)2質量%、香料B−1(BLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」という商品名のフィルメニッヒ社製のカプセル香料)1質量%、及び水(精製水)バランス量を含む共通成分a、
のみからなる衣料用液体洗浄剤。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
ア.本1発明と甲1発明とを対比する。

イ.甲1発明の「天然アルコールCO−1214(P&G社製)に対して平均15モル相当のエチレンオキシドを付加したノニオン界面活性剤(A3−1)」は、その「天然アルコールCO−1214」の炭素数が12〜14にあるものと解され、本1発明の「一般式(I)」の定義に照らし、R1が炭素数12〜14の脂肪族炭化水素基、sが15、tが0である場合の非イオン界面活性剤に該当することから、本1発明の「(b)成分:一般式(I)で表される非イオン界面活性剤
R1O[(EO)s/(PO)t]H (I)
(式中、R1は炭素数9以上、20以下の脂肪族炭化水素基を示し、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を示し、s、tは各々EO、POの平均付加モル数で、sは4以上30以下、tは0以上5以下の数を示す。EO、POはランダム付加又はブロック付加の何れでもよい。)」に相当する(なお、甲1発明の「下記一般式(a−1)におけるR1が炭素数12、14のアルキル基、R2がエチレン基、R3がメチル基、mが15のノニオン界面活性剤(A−1)」は、片末端が「H」ではないことから、本1発明の「(b)成分:一般式(I)で表される非イオン界面活性剤」に該当しない。)。

ウ.甲1発明の「ヤシ脂肪酸(C−2)」は、硫酸エステル塩基又はスルホン酸塩基を含まないので、本1発明の「(a)成分:硫酸エステル塩基及びスルホン酸塩基から選ばれる基を含む陰イオン界面活性剤」に該当せず、
参考例A(摘記A1)の「主な油脂の脂肪酸組成…ヤシ油…ラウリン酸C12…44.8…ミリスチン酸C14…18.1…パルミチン酸C16…9.5…ステアリン酸C18…2.4…オレイン酸C18:1…8.2…リノール酸C18:2…1.5」との記載にあるように、甲1発明の「ヤシ脂肪酸(C−2)」には、炭素数12〜18の脂肪酸(塩)成分として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸が含まれているところ、これらの成分は、本1発明の「(c)成分:炭素数12以上、18以下の脂肪酸又はその塩」に相当するものの、
参考例A(摘記A1)の記載によれば、甲1発明の炭素数12〜18の脂肪酸(塩)成分に占める炭素数14〜16の脂肪酸(塩)成分の割合は、(18.1+9.5)÷(44.8+18.1+9.5+2.4+8.2+1.5)×100≒32.7質量%と計算されるので、本1発明の「(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上である」に相当しない。
また、甲1発明の「ヤシ脂肪酸(C−2)2質量」に含まれる炭素数12〜18の脂肪酸(塩)成分の割合は、参考例A(摘記A1)によれば44.8+18.1+9.5+2.4+8.2+1.5=84.5%となるところ、甲1発明における炭素数12〜18の脂肪酸(塩)成分と「香料B−1(BLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」という商品名のフィルメニッヒ社製のカプセル香料)1質量%」の質量比は、参考例Aの脂肪酸組成のデータからみて、2×0.845÷1=1.69と計算され、四捨五入して有効桁数を本1発明に揃えると「2」となるので、本1発明の「(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、10以下であり」に相当する。

エ.甲1発明の「直鎖アルキル(炭素数10〜14)ベンゼンスルホン酸のアニオン界面活性剤(C−1)」は、スルホン酸塩基を含む陰イオン界面活性剤であって、炭素数10以上14以下のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩の陰イオン界面活性剤なので、本1発明の「(a)成分:硫酸エステル塩基及びスルホン酸塩基から選ばれる基を含む陰イオン界面活性剤」に該当するとともに、本1発明の「(a1)炭素数10以上、20以下のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩〔以下、(a1)成分という〕、及び(a3)アルキル基の平均炭素数が10以上、20以下、エチレンオキサイドの平均付加モル数が0.5以上、6以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔以下、(a3)成分という〕から選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤」に相当する。

オ.甲1発明の「香料B−1(BLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」という商品名のフィルメニッヒ社製のカプセル香料)1質量%」は、本1発明の「(d)成分:香料マイクロカプセル」に相当するとともに、本1発明の「(d)成分の含有量が0.1質量%以上、2質量%以下であり」に相当し、
甲1発明の「水(精製水)」は、本1発明の「(e)成分:水」に相当し、
甲1発明の「衣料用液体洗浄剤」は、本1発明の「衣料用液体洗浄剤組成物」に相当する。

カ.甲1発明の「ノニオン界面活性剤(A3−1)10質量%」及び「アニオン界面活性剤(C−1)5質量%」は、
10+5=15質量%となるので、本1発明の「組成物中の(a)成分の含有量と(b)成分の含有量の合計が15質量%以上、35質量%以下」に相当し、
10/5=2となるので、本1発明の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、2.8以下であり」に相当する。

キ.してみると、本1発明と甲1発明は『下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分を配合してなり、
組成物中の(a)成分の含有量と(b)成分の含有量の合計が15質量%以上、35質量%以下、(d)成分の含有量が0.1質量%以上、2質量%以下であり、
(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、2.8以下であり、
(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、10以下であり、
(a)成分として、(a1)炭素数10以上、20以下のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩〔以下、(a1)成分という〕、及び(a3)アルキル基の平均炭素数が10以上、20以下、エチレンオキサイドの平均付加モル数が0.5以上、6以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔以下、(a3)成分という〕から選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤を含有する、
衣料用液体洗浄剤組成物。
(a)成分:硫酸エステル塩基及びスルホン酸塩基から選ばれる基を含む陰イオン界面活性剤
(b)成分:一般式(I)で表される非イオン界面活性剤
R1O[(EO)s/(PO)t]H (I)
(式中、R1は炭素数9以上、20以下の脂肪族炭化水素基を示し、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を示し、s、tは各々EO、POの平均付加モル数で、sは4以上30以下、tは0以上5以下の数を示す。EO、POはランダム付加又はブロック付加の何れでもよい。)
(c)成分:炭素数12以上、18以下の脂肪酸又はその塩
(d)成分:香料マイクロカプセル
(e)成分:水』という点において一致する。

ク.そして、次の(α)及び(β)の点において相違する。
(α)(d)成分の「香料マイクロカプセル」が、本1発明においては「該香料マイクロカプセルの外殻が、ポリウレタン、ポリアミド、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選ばれる高分子化合物からなる」ものに特定されているのに対して、甲1発明においては「香料B−1(BLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」という商品名のフィルメニッヒ社製のカプセル香料)」の「外殻」の種類が不明である点

(β)(c)成分中の「炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩」が、本1発明においては「40質量%以上」であるのに対して、甲1発明においては「32.7質量%」である点

(4)判断
事案に鑑み、まず、上記(β)の相違点について検討する。
本件特許明細書の段落0020〜0021には「(c)成分は炭素数12以上、18以下の脂肪酸又はその塩である。…理由は推定であるが、衣料の洗浄時において、本発明の衣料用液体洗浄剤組成物を、硬度成分を有する一般の水道水に添加した時に、(c)成分由来の脂肪酸イオンが水道水中のカルシウムイオンでスカム化することで疎水性が高くなり、香料マイクロカプセルの外殻材料に疎水的に吸着することで、香料マイクロカプセルも疎水化され、衣料に付着しやすくなった為と推定している.…香料マイクロカプセル由来の香りの持続性をより高める点と液体洗浄剤組成物中で(c)成分が結晶化しにくい点で、(c)成分は炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩を30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好まし…い。」との記載がなされ、
同段落0068の表1には、(c)成分として、ラウリン酸(C12)/ミリスチン酸(C14)/パルミチン酸(C16)=40/55/5の質量比の(c−1)を用いた「本発明品3」の「香りの持続性(残香性)」の評価が「2.0」であるのに対して、ラウリン酸(C12)のみの(c−2)を用いた「本発明品7」の評価が「1.4」にとどまるという試験結果の記載がなされ、
令和3年5月28日付けの意見書に添付された乙第1号証の「実験成績証明書」では、C12/C14=70/30の質量比のものを用いた「実験1」の評価が「1.6」であり、C12/C14=80/20の質量比のものを用いた「比較実験例1」の評価が「1.4」であることが裏付けられ、
令和3年11月4日付けの意見書に添付された乙第5号証の「実験成績証明書(第二)」では、C12/C14/C16=60/35/5の質量比のものを用いた「実験例2」の評価が「1.8」であり、C12/C14/C16=70/25/5の質量比のものを用いた「比較実験例2」の評価が「1.6」であることが裏付けられている。
以上のことから、本1発明は、(c)成分中の「炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩」の量を「40質量%以上」とすることにより「香料マイクロカプセル由来の香りの持続性をより高める」という効果(評価点が1.8以上)が得られると認められるので、上記(β)の相違点が技術的に無意味な相違点であるとは認められない。
なお、本件特許明細書の段落0021の記載からみて、上記効果は、(c)成分の炭素鎖長の長さに関連した疎水性の大小に専ら依存する効果であると解されるところ、上記「本発明品3」などの具体例における上記効果の優劣の程度が、本1発明の(a3)成分の有無により大きく左右されると解すべき合理的な理由は見当たらないので、(a3)成分の配合を必須とする本1発明に格別の効果がないとはいえない。

してみると、本1発明と甲1発明は、上記(β)の実質的な相違点を有するので、本1発明が、甲第1号証の刊行物に記載された発明であるとは認められない。
したがって、本1発明は、甲第1号証に記載された発明ではないので、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

また、甲第1及び7号証並びに参考例Aには、上記(β)の相違点に係る構成を具備することにより「香料マイクロカプセル由来の香りの持続性をより高める」という格別の効果が得られることについて、示唆を含めて記載がない。
このため、甲第1及び7号証並びに参考例Aに記載の技術事項をどのように組み合わせても、上記(β)の相違点に係る構成を想到することが当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、上記(α)の相違点について検討するまでもなく、本1発明は、甲第1号証及び甲第7号証並びに参考例Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるとはいえないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(5)特許異議申立人の主張について
令和3年12月15日付けの意見書の第3〜4頁において、特許異議申立人は「甲第9号証(洗剤・洗浄百科事典〔新装版〕)の118頁において、…飽和石鹸(脂肪酸(塩))の洗浄力は炭素数16がピークで一番大きく、そこから遠ざかるにつれて徐々に小さくなっていく傾向にあります。…従いまして、界面活性剤の量を多くし過ぎることなく洗浄効率を高めることを目的として、甲1発明において用いられている脂肪酸(ヤシ脂肪酸)の組成について、炭素数16の脂肪酸(塩)(すなわちパルミチン酸(塩))の割合を相対的に高くすることは当業者が極めて容易に想到し得たことと言えます。」と主張する。
しかしながら、甲第9号証の「図5.3 セッケンの炭素数と洗浄力の関係」の記載を参酌しても、脂肪酸の炭素数を制御することで「香料マイクロカプセル由来の香りの持続性をより高める」という格別の効果が得られることについては示唆を含めて記載がないので、甲1発明の「ヤシ脂肪酸(C−2)」を、本1発明のような「炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上」のものとすることに動機付けがあるとはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、同意見書の第4〜5頁において、特許異議申立人は「後出しの実験データにより、進歩性の判断における顕著な作用効果を裏付けることは、先願主義の潜脱となり特許制度の趣旨に反するため認められるべきではありません。…ここで示されているのは、せいぜいC12:C14:C16=60:35:5の場合とC12:C14:C16=70:25:5の場合との特定の比率における効果の違いを示しているに過ぎません。」と主張する。
しかしながら、一般に『当初明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点に立って判断すべきである。』とされているところ〔平成21年(行ケ)10238号判決参照〕、
本件特許明細書の段落0021の「香料マイクロカプセル由来の香りの持続性をより高める点」で「(c)成分は炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩」を「40質量%以上含むことがより好まし」い旨の記載などにより、当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載が当初明細書などにあることから、乙第1号証及び乙第5号証の実験成績証明書の内容を参酌することに不合理な点はなく、(c)成分中のC14〜C16の割合を一定以上にすることに格別の効果が認められることも上述のとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(6)本2〜本4及び本6発明について
本2〜本4及び本6発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の新規性が甲第1号証によって否定できず、本1発明の進歩性が甲第1号証及び甲第7号証並びに参考例Aによって否定できない以上、本2〜本4及び本6発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するとも、特許法第29条第2項の規定に違反するとも認められない.

2.理由3(サポート要件)について
(1)はじめに
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)又は特許権者(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
そして、本件特許の「特許請求の範囲の記載」には、上記「第3」に示したとおりの本1〜本4及び本6発明が記載されている。
また、本件特許の「発明の詳細な説明の記載」には、その段落0068の【表1】に、本発明品1〜12及び比較品1〜3の具体例〔なお、本発明品7〜9以外のものは、本1発明の必須成分の(a3)成分を配合していない点において、本1発明の具体例に相当しない。〕の評価結果が記載され、その段落0069には「本発明品1〜12は、…残香性の評価点が0.6以上、かつ香調変化の評価点が0.8以上であり、香調の変化が少なく、香り強さ持続する衣料用液体洗浄剤組成物であることがわかる。一方、比較品1〜3は、残香性の評価点が0.6未満、及び/又は香調変化の評価点が0.8未満であった。」との記載がなされている。
さらに、その段落0006を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて、本1〜本4及び本6発明の解決しようとする課題は『洗浄後の衣料における香料マイクロカプセル由来の香りについて、着用開始時から着用終了後にかけて香調の変化が少なく、また、香り強さが持続する衣料用液体洗浄剤組成物の提供』にあるものと認められる。

(2)請求項1に記載の発明特定事項の範囲について
ア.〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕について
上記「第4」の「2.(3)ア.」の指摘に関して、本件特許の請求項1の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、2.8以下」との記載を含む特許請求の範囲の記載と、本件特許明細書の段落0068の表1の本発明品1〜12及び比較品1〜3の具体例の記載を含む発明の詳細な説明の記載とを対比する。
先ず、本1発明の要件を満たす表1の本発明品8〜10のものは、その「〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕(質量比)」が1.5〜1.8の範囲にあって、その「香調変化」の評価点が全て2.0であり、その「香りの持続性(残香性)」の評価点が1.5〜2.0の範囲にあり、比較品1〜3の評価点よりも高い評価結果になっている。
してみると、当該質量比が『1.5以上、1.8以下』の範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているといえるので、この範囲内のものは、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
次に、本件特許明細書の段落0032には「本発明では、(b)成分の含有量と(a)成分の含有量との質量比である〔(b)成分の含有量〕/〔(a)成分の含有量〕は1以上、8以下である。」と記載されていることから、当該質量比の「1.2以上、2.8以下」が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されていると一応は推認でき、本1発明の質量比の範囲が「単なる憶測」であるとすべき具体的な根拠や、実験成績証明書などの否定的な証拠は見当たらない。
したがって、本発明品8〜10の「1.5以上、1.8以下」の「試験結果」を、本1発明の「1.2以上、2.8以下」の範囲にまで拡張ないし一般化できないとすべき合理的な理由や根拠が見当たらないので、本1発明の当該質量比の範囲が、上記『洗浄後の衣料における香料マイクロカプセル由来の香りについて、着用開始時から着用終了後にかけて香調の変化が少なく、また、香り強さが持続する衣料用液体洗浄剤組成物の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にないとはいえない。
この点に関して、令和3年12月15日付けの意見書の第7頁において、特許異議申立人は「(d)成分の配合量に応じて、(a)成分の分散能や(b)成分の香料組成物への影響が大きく変わることは、技術常識から明らかと言えます。そして、…目的を達成するのに適切な配合量や配合比率を規定できよう筈がありません。」と主張するが、当該「技術常識」と称するものが本願出願時の当業者に知悉されていたといえる具体的な根拠は見当たらないので、特許異議申立人の主張は採用できない。

イ.(d)成分の含有量について
上記「第4」の「2.(3)イ.」の指摘に関して、本件特許の請求項1の「(d)成分の含有量が0.1質量%以上、2質量%以下」との記載を含む特許請求の範囲の記載と、本件特許明細書の段落0068の表1の本発明品1〜12及び比較品1〜3の具体例の記載を含む発明の詳細な説明の記載とを対比する。
先ず、本1発明の要件を満たす表1の本発明品8〜10のものは、その「(d)成分」の「配合成分(質量%)」が全て1.0質量%であって、その「香調変化」の評価点が全て2.0であり、その「香りの持続性(残香性)」の評価点が1.5〜2.0の範囲にあり、比較品1〜3の評価点よりも高い評価結果になっている。
してみると、当該質量比が『1.0質量%』であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているといえるので、この範囲内のものは、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
次に、本件特許明細書の段落0031には「本発明の組成物中の(d)成分の含有量は0.1質量%以上、2質量%以下であり」と記載されていることから、当該含有量の「0.1質量%以上、2質量%以下」が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されていると一応は推認でき、本1発明の含有量の範囲が「単なる憶測」であるとすべき具体的な根拠や、実験成績証明書などの否定的な証拠は見当たらない。
したがって、本発明品8〜10の「1.0質量%」の「試験結果」を、本1発明の「0.1質量%以上、2質量%以下」の範囲にまで拡張ないし一般化できないとすべき合理的な理由や根拠が見当たらないので、本1発明の当該含有量の範囲が、上記『洗浄後の衣料における香料マイクロカプセル由来の香りについて、着用開始時から着用終了後にかけて香調の変化が少なく、また、香り強さが持続する衣料用液体洗浄剤組成物の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にないとはいえない。
この点に関して、令和3年12月15日付けの意見書の第9頁において、特許異議申立人は「本件発明の技術的課題に鑑みれば、(d)成分の種類や配合割合が極めて重量であることが技術常識からも明らかであり、(d)成分の配合量や組成を本件明細書の実施例とは異なるものに変えた場合には、その評価結果が全く異なるものになることが合理的に予測されます。」と主張するが、当該「合理的に予測され」るとの主張が単なる憶測ではないといえる具体的な根拠は見当たらないので、特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ.〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕について
上記「第4」の「2.(3)ウ.」の指摘に関して、本件特許の請求項1の「(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、10以下」との記載を含む特許請求の範囲の記載と、本件特許明細書の段落0068の表1の本発明品1〜12及び比較品1〜3の具体例の記載を含む発明の詳細な説明の記載とを対比する。
先ず、本1発明の要件を満たす表1の本発明品8〜10のものは、その「〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕(質量比)」が全て6.0であって、その「香調変化」の評価点が全て2.0であり、その「香りの持続性(残香性)」の評価点が1.5〜2.0の範囲にあり、比較品1〜3の評価点よりも高い評価結果になっている。
してみると、当該質量比が『6.0』であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているといえるので、この範囲内のものは、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
次に、本件特許明細書の段落0033には「本発明では、(c)成分の含有量と(d)成分の含有量との質量比である〔(c)成分の含有量〕/〔(d)成分の含有量〕は2以上、30以下である。」と記載されていることから、当該質量比の「2以上、10以下」が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されていると一応は推認でき、本1発明の質量比の範囲が「単なる憶測」であるとすべき具体的な根拠や、実験成績証明書などの否定的な証拠は見当たらない。
したがって、本発明品8〜10の「6.0」の「試験結果」を、本1発明の「2以上、10以下」の範囲にまで拡張ないし一般化できないとすべき合理的な理由や根拠が見当たらないので、本1発明の当該質量比の範囲が、上記『洗浄後の衣料における香料マイクロカプセル由来の香りについて、着用開始時から着用終了後にかけて香調の変化が少なく、また、香り強さが持続する衣料用液体洗浄剤組成物の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にないとはいえない。
この点に関して、令和3年12月15日付けの意見書の第10頁において、特許異議申立人は「特にStevensの法則が当て嵌まり、かつnの値が大きい場合には、〔(c)成分の含有量〕/〔(d)成分の含有量〕が8の場合と10の場合とで、その評価結果に大きな違いが生ずることも当然にあり得ると考えられます。」と主張するが、当該「当然にあり得ると考えられ」るとの主張は単なる憶測でしかないので、特許異議申立人の主張は採用できない。

エ.(c)成分について
上記「第4」の「2.(3)エ.」の指摘に関して、本件特許の請求項1の「(c)成分:炭素数12以上、18以下の脂肪酸又はその塩」との記載、及び「(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上である」との記載を含む特許請求の範囲の記載と、本件特許明細書の段落0068の表1の本発明品1〜12及び比較品1〜3の具体例の記載を含む発明の詳細な説明の記載とを対比する。
先ず、本1発明の要件を満たす表1の本発明品8〜10のものは、その(c)成分として、混合脂肪酸(c−1:ラウリン酸とミリスチン酸とパルミチン酸の混合脂肪酸であって、C12/C14/C16=40/55/5(質量比)であり、(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が60質量%のもの)を用いたものであって、その「香調変化」の評価点が全て2.0であり、その「香りの持続性(残香性)」の評価点が1.5〜2.0の範囲にあり、比較品1〜3の評価点よりも高い評価結果になっている。
してみると、当該割合が『60質量%』であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているといえるので、この範囲内のものは、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
次に、本件特許明細書の段落0021には「より好ましくは(c)成分中に炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩を30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましく」と記載されていることから、当該割合の「40質量%以上」が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されていると一応は推認でき、本1発明の割合の範囲が「単なる憶測」であるとすべき理由や、実験成績証明書などの否定的な証拠は見当たらない。
したがって、本発明品8〜10の「60質量%」の「試験結果」を、本1発明の「40質量%以上」の範囲にまで拡張ないし一般化できないとすべき合理的な理由や根拠が見当たらないので、本1発明の当該割合の範囲が、上記『洗浄後の衣料における香料マイクロカプセル由来の香りについて、着用開始時から着用終了後にかけて香調の変化が少なく、また、香り強さが持続する衣料用液体洗浄剤組成物の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にないとはいえない。
この点に関して、令和3年12月15日付けの意見書の第11頁において、特許異議申立人は「一応のメカニズムは記載されているものの推測に過ぎず、実施例の裏付けがなくとも、その作用機序ないしメカニズムが理解できる程度の説明がなされているとは、到底認められません。」と主張するが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本発明品3(C14〜C16の割合が60質量%のもの)の残香性の評価点が2.0であり、本発明品7(C12の割合が100質量%のもの)の残香性の評価点が1.5であるという「試験結果」が示され、その段落0020〜0021には、脂肪酸の炭素鎖長の長さによって、香料マイクロカプセル由来の香りの持続性を高められるという「作用機序」が説明されているので、本1発明の範囲にまで特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できないとまではいえず、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)サポート要件のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1及びその従属項に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められるから、本件特許の請求項1〜4及び6の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(明確性要件違反)について
特許異議申立人が主張する申立理由1(明確性要件違反)は、本5発明では「(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸塩又はその塩の割合が30質量%以上である」と記載されているが、「脂肪酸塩の塩」とは具体的にどのような化合物を指しているか、技術常識を踏まえても理解することができないから、本件発明に係る特許には明確性要件違反の取消理由が存在する、ということを要旨とするものである。
しかしながら、本5発明及び本6発明のうち本5発明を引用するものは訂正により削除されたので、本件特許の請求項5及びその従属項の記載が「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確」であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項5及びその従属項の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないとはいえず、申立理由1(明確性要件違反)に理由があるとはいえない。

(2)申立理由2(サポート要件違反)について
ア.特許異議申立人が主張する申立理由2(サポート要件違反)について、次の(4−3−2)〜(4−3−6)の事項が記載不備として申し立てられている。
(4−3−2)本件発明の各種パラメータについて、a.(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比、b.(a)成分の含有量と(b)成分の含有量の合計、c.(d)成分の含有量、d.(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比に関し、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示しているとは認められない。
(4−3−3)(d)成分について、本件明細書の実施例・比較例(本発明品、比較品)において用いられているのは、a.(d−1)ただ1種類のみであり、b.その配合量に関しても比較品も含め、すべて1質量%のもののみであるから、本件発明の(d)成分に関する規定について、サポート要件を充足しないことは明らかである。
(4−3−4)(a)乃至(c)成分について、a.(a)成分に関し、実質的には(a−1)成分に関する裏付けしか存在せず、b.(b)成分に関し、炭素数12〜14、エチレンオキサイド平均12モルの1例のみをもって、その効果を一般化・抽象化し得るとは到底認められず、c.(c)成分に関し、(c−2)成分を用いた場合には、本件発明の範囲内であっても少なくとも残香性の評価が不合格となることが合理的に推測される。
(4−3−5)上記以外の成分((j)成分)について、(j)成分として「硬化ヒマシ油」を配合した場合を構成要件としない本件発明の範囲にまで、その効果を一般化・抽象化できるとは到底認められない。
(4−3−6)本件発明で構成要件とされていないpHについて7.0に設定された場合に特有の効果に過ぎず、それを構成要件としない本件発明の範囲にまで、その効果を一般化・抽象化できるとは到底認められない。

イ.ここで、上記「ア.」に示した事項のうち、(4−3−2)の「a.」と「c.」と「d.」に示した事項、及び(4−3−3)の「b.」に示した事項についての検討は、上記第4〔理由2〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

ウ.そして、上記「ア.」のその他の事項については、いずれも課題を解決できないといえる合理的な理由や、拡張ないし一般化できない合理的な理由を具体的に主張するものでないから採用できない。

エ.以上によると、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明において開示されている技術的事項の範囲を超えているとはいえないので、上記「ア.」の(4−3−2)〜(4−3−6)に示した事項によっては、本件特許の請求項1〜4及び6の記載がサポート要件に違反するとはいえない。

オ.したがって、本件特許の請求項1及びその従属項の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえず、申立理由2(サポート要件違反)に理由があるとはいえない。

(3)申立理由3(甲第1号証を主引用例とする新規性進歩性違反)について
特許異議申立人が主張する申立理由3(新規性進歩性違反)は、本件発明はいずれも甲第1号証に記載の発明に対して新規性又は進歩性を欠くことは明らかであるというものであるところ、甲第1号証を主引用例とした新規性及び進歩性の検討は、上記第4〔理由1〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1〜4及び6に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の請求項1〜4及び6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項5は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分を配合してなり、
組成物中の(a)成分の含有量と(b)成分の含有量の合計が15質量%以上、35質量%以下、(d)成分の含有量が0.1質量%以上、2質量%以下であり、
(b)成分の含有量と(a)成分の含有量の質量比である〔(b)成分の含有量]/〔(a)成分の含有量〕が1.2以上、2.8以下であり、
(c)成分の含有量と(d)成分の含有量の質量比である〔(c)成分の含有量/(d)成分の含有量〕が2以上、10以下であり、
(a)成分として、(a1)炭素数10以上、20以下のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩〔以下、(a1)成分という〕、及び(a3)アルキル基の平均炭素数が10以上、20以下、エチレンオキサイドの平均付加モル数が0.5以上、6以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩〔以下、(a3)成分という〕から選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤を合有し、
(c)成分中、炭素数14以上、16以下の脂肪酸又はその塩の割合が40質量%以上である、
衣料用液体洗浄剤組成物。
(a)成分:硫酸エステル塩基及びスルホン酸塩基から選ばれる基を含む陰イオン界面活性剤
(b)成分:一般式(I)で表される非イオン界面活性剤
R1O[(EO)s/(PO)t]H (I)
(式中、R1は炭素数9以上、20以下の脂肪族炭化水素基を示し、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を示し、s、tは各々EO、POの平均付加モル数で、sは4以上30以下、tは0以上5以下の数を示す。EO、POはランダム付加又はブロック付加の何れでもよい。)
(c)成分:炭素数12以上、18以下の脂肪酸又はその塩
(d)成分:香料マイクロカプセルであって、該香料マイクロカプセルの外殻が、ポリウ レタン、ポリアミド、メラミン樹脂、及び尿素樹指から選ばれる高分子化合物からなる、香料マイクロカプセル
(e)成分:水
【請求項2】
(a)成分中、スルホン酸塩基を有する陰イオン界面活性剤の割合が50質量%以上である、請求項1に記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【請求項3】
(a)成分中、(a1)成分の割合が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【請求項4】
(a)成分中、(a3)成分の割合が5質量%以上である、請求項1〜3の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
更に、(f)成分として、下記一般式で表されるアミン化合物を配合してなり、組成物中の(f)成分の含有量が0.5質量%以上、5質量%以下である、請求項1〜4の何れかに記載の衣料用液体洗浄剤組成物。

〔式中、R1fは炭素数13以上、21以下のアルキル基又はアルケニル基、R2f、R3fは、それぞれ、炭素数1以上、6以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、XはNH、CONH、COO及びOから選ばれる基、R4fは炭素数2以上、6以下のアルキレン基を示す。〕
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-03 
出願番号 P2015-084804
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C11D)
P 1 651・ 113- YAA (C11D)
P 1 651・ 121- YAA (C11D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 木村 敏康
門前 浩一
登録日 2020-06-12 
登録番号 6716200
権利者 花王株式会社
発明の名称 衣料用液体洗浄剤組成物  
代理人 古谷 聡  
代理人 古谷 聡  
代理人 義経 和昌  
代理人 義経 和昌  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ