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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1384056
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-22 
確定日 2022-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6732350号発明「殺菌・除菌剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6732350号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6732350号の請求項1、3〜6に係る特許を維持する。 特許第6732350号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6732350号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和1年10月11日に出願され、令和2年7月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和3年1月22日に特許異議申立人鈴木一樹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。それ以降の手続の経緯については、次のとおりである。

令和 3年 5月21日付け 取消理由通知書
同年 8月23日 訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
同年10月11日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
同年11月12日 意見書(申立人)の提出

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者は、令和3年8月23日に訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1〜6のとおりである。

[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に「(A)エタノール37〜58質量%、
(B)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種0.01〜0.5質量%、
(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および
(D)水、を含有するpHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。」と記載されているのを、
「(A)エタノール37〜58質量%、
(B)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種0.01〜0.5質量%、
(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および
(D)水、を含有し、
前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、かつ、前記(B)と前記(C)の合計が0.6質量%以下であり、pHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。」に訂正する。

[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

[訂正事項3]
特許請求の範囲の請求項3に、「前記(A)のエタノールが40〜55質量%である請求項1又は2に記載の殺菌・除菌剤組成物。」と記載されているのを、
「前記(A)のエタノールが40〜55質量%である請求項1に記載の殺菌・除菌剤組成物。」に訂正する。

[訂正事項4]
特許請求の範囲の請求項4に、「前記(C)のグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1〜3のいずれかに記載の殺菌・除菌剤組成物。」と記載されているのを、
「前記(C)のグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1又は3に記載の殺菌・除菌剤組成物。」に訂正する。

[訂正事項5]
特許請求の範囲の請求項5に、「前記pHが2.8〜3.8の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の殺菌・除菌剤組成物。」と記載されているのを、
「前記pHが2.8〜3.8の範囲にある請求項1、3又は4に記載の殺菌・除菌剤組成物。」に訂正する。

[訂正事項6]
特許請求の範囲の請求項6に、「さらに、(E)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の塩の少なくとも1種0.01〜0.3質量%を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の殺菌・除菌剤組成物。」と記載されているのを、
「さらに、(E)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の塩の少なくとも1種0.01〜0.3質量%を含有する請求項1、3〜5のいずれかに記載の殺菌・除菌剤組成物。」に訂正する。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜6は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

(3)願書に添付した特許請求の範囲の訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の殺菌・除菌剤組成物を「前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、かつ、前記(B)と前記(C)の合計が0.6質量%以下」であるものに減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項2に「前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、かつ、前記(B)と前記(C)の合計が0.8質量%以下」との記載があり、(B)と(C)の割合が(B)/(C)=0.5〜10である点は、本件明細書の段落0016に記載されていたものであり、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とする点は、本件明細書の段落0017に記載されていたものであるから、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。
さらに、当該訂正は、カテゴリーの変更もないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3〜6について
訂正事項3〜6は、訂正事項2で請求項2が削除されて請求項2を引用できなくなったことに伴い、請求項間の引用関係を解消する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」又は同第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。そして、訂正事項3〜6は、引用する請求項の数を減少させるものなので、同第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、訂正事項3〜6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3〜6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)エタノール37〜58質量%、
(B)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種0.01〜0.5質量%、
(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および
(D)水、を含有し、
前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、かつ、前記(B)と前記(C)の合計が0.6質量%以下であり、pHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。
【請求項3】
前記(A)のエタノールが40〜55質量%である請求項1に記載の殺菌・除菌剤組成物。
【請求項4】
前記(C)のグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1又は3に記載の殺菌・除菌剤組成物。
【請求項5】
前記pHが2.8〜3.8の範囲にある請求項1、3又は4に記載の殺菌・除菌剤組成物。
【請求項6】
さらに、(E)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の塩の少なくとも1種0.01〜0.3質量%を含有する請求項1、3〜5のいずれかに記載の殺菌・除菌剤組成物。」
(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜6に係る特許に対して、当審が令和3年5月21日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

[理由1](新規性)請求項1〜6に係る発明は、引用例1に記載された発明であり、請求項1〜2、4に係る発明は、引用例2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。

[理由2](進歩性)請求項1〜6に係る発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1〜5に係る発明は、引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。

2 引用例及びその記載
(1)引用例1について
引用例1:特開2019−167328号公報
(異議申立書で証拠方法とされた「甲第1号証」。)
引用例1には、以下の記載がある。

記載(1a)
「(A)成分としてエタノール、
(B)成分として有機酸及び/又は有機酸塩、
(C)成分としてグリセリン脂肪酸エステル、
(D)グレープフルーツ種子抽出物、及び
(E)水
を含有するアルコール製剤であって、
該アルコール製剤のpHが25℃で2.5以上、6.0以下である、アルコール製剤。」(請求項1)

記載(1b)
「本発明のアルコール製剤において、(B)成分の有機酸及び/又は有機酸塩は水で希釈される場所や汚れがある場所での除菌性、材質への腐食防止性、pH緩衝性を得るために配合される。有機酸としては、例えば、アジピン酸、L−アスコルビン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、ソルビン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられ、中でもクエン酸が好ましい。有機酸塩としては、前記有機酸の塩を使用することができ、クエン酸塩を使用することが好ましい。有機酸の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、又はカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられ、中でもナトリウム塩が好ましい。これらを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」(段落0012)

記載(1c)
「尚、表中における実施例及び比較例における各成分の配合の数値は純分の質量%を表す。」(段落0029)

記載(1d)


」(段落0038)

記載(1e)


」(段落0040)
(2)引用例2について
引用例2:特開2018−76253号公報
(異議申立書で証拠方法とされた「甲第2号証」。)
引用例2には、以下の記載がある。

記載(2a)
「エタノール100重量部に対し、重合度3以上の鎖状ポリリン酸塩0.05〜0.5重量部、クマザサエキス0.005〜0.15重量部およびpH調整剤を有効成分として含有する、食品または食品製造・加工機器の殺菌に用いられる殺菌剤組成物。」(請求項1)

記載(2b)
「本発明の殺菌剤組成物におけるエタノールの濃度は、全量に対し40〜70重量%が好ましく、45〜65重量%がより好ましく、50〜60重量%がさらに好ましい。」(段落0012)

記載(2c)
「本発明の殺菌剤組成物は、pH調整剤を添加して任意のpHに調整され、好ましくはpH3.5〜4.7、より好ましくはpH3.6〜4.6、さらに好ましくはpH3.7〜4.5に調整される。本発明の殺菌剤組成物のpHが3.5未満の場合、殺菌対象物が金属性である場合に金属が腐食する傾向があり、本発明の殺菌剤組成物のpHが4.7を超える場合、組成物の保管安定性が悪化する傾向がある。」(段落0018)

記載(2d)
「用いるpH調整剤としては、フマル酸、乳酸、酢酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、フィチン酸、プロピオン酸、酪酸等及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩等が例示され、これらから選ばれる1種または2種以上を混合したものが好適に用いられる。」(段落0019)

記載(2e)


」(段落0031)

記載(2f)
「グリセリン脂肪酸エステル:カプリル酸モノグリセライド/カプリン酸モノグリセライド=1/1」(段落0032)

3 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について

(3)引用例1を主引用例とした場合について
ア 引用例1に記載された発明
(1)引用例1に記載された発明
引用例1には、記載(1a)より、エタノール、有機酸及び/又は有機酸塩、グリセリン脂肪酸エステル、グレープフルーツ種子抽出物、及び水を含有するアルコール製剤であって、該アルコール製剤のpHが25℃で2.5以上、6.0以下である、アルコール製剤が記載されている。そして、引用例1には、実施例18として、エタノール50質量%、クエン酸0.3質量%、クエン酸ナトリウム0.015質量%、グリセリン脂肪酸エステル(カプリル酸)0.4質量%、グレープフルーツ種子抽出物、及び水を含有し、pHが3.2であるアルコール製剤、実施例19として、エタノール50質量%、クエン酸0.03質量%、グリセリン脂肪酸エステル(カプリル酸)0.4質量%、グレープフルーツ種子抽出物及び水を含有し、pHが3.2であるアルコール製剤、並びに、実施例20として、エタノール50質量%、クエン酸0.3質量%、グリセリン脂肪酸エステル(カプリル酸)0.4質量%、グレープフルーツ種子抽出物及び水を含有し、pHが3.0であるアルコール製剤が、それぞれその除菌性試験の評価が◎又は○であることと共に記載されており(記載(1c)、(1d))、実施例38として、エタノール45質量%、クエン酸0.5質量%、クエン酸ナトリウム0.1質量%、グリセリン脂肪酸エステル(カプリル酸)0.3質量%、グレープフルーツ種子抽出物、グリセリン、及び水を含有し、pHが3.6であるアルコール製剤、並びに、実施例40として、エタノール45質量%、クエン酸0.5質量%、クエン酸ナトリウム0.1質量%、グリセリン脂肪酸エステル(カプリル酸)0.25質量%、グレープフルーツ種子抽出物、グリセリン、及び水を含有し、pHが3.6であるアルコール製剤が、それぞれその除菌性試験の評価が◎であることと共に記載されている(記載(1c)、(1e))。さらに、カプリル酸は、脂肪酸の炭素数が8の脂肪酸であることから、「グリセリン脂肪酸エステル(カプリル酸)」は、脂肪酸の炭素数が8のグリセリン脂肪酸エステルである。

以上のことから、引用例1には、
「エタノール50質量%、クエン酸0.3質量%、クエン酸ナトリウム0.015質量%、脂肪酸の炭素数が8のグリセリン脂肪酸エステル0.4質量%、および水を含有する、pHが3.2である殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1−1」という。)、
「エタノール50質量%、クエン酸0.03質量%、脂肪酸の炭素数が8のグリセリン脂肪酸エステル0.4質量%、および水を含有する、pHが3.2である殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1−2」という。)、
「エタノール50質量%、クエン酸0.3質量%、脂肪酸の炭素数が8のグリセリン脂肪酸エステル0.4質量%、および水を含有する、pHが3.0である殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1−3」という。)、
「エタノール45質量%、クエン酸0.5質量%、クエン酸ナトリウム0.1質量%、脂肪酸の炭素数が8のグリセリン脂肪酸エステル0.3質量%、および水を含有する、pHが3.6である殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1−4」という。)、並びに、
「エタノール50質量%、クエン酸0.3質量%、クエン酸ナトリウム0.1質量%、脂肪酸の炭素数が8のグリセリン脂肪酸エステル0.4質量%、および水を含有する、pHが3.6である殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1−5」という。)が記載されているといえる。

イ 当審の判断
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明1−1、引用発明1−3〜5とを対比すると、両者は「(A)エタノール37〜58質量%、(B)クエン酸からなる酸剤0.01〜0.5質量%、(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および水を含有し、前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、pHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1:本件発明1は(B)と(C)の合計が0.6質量%以下であると特定されるのに対して、引用発明1−1、引用発明1−3〜5は(B)と(C)の合計が0.7質量%、0.8質量%又は0.75質量%である点。

本件発明1と引用発明1−2とを対比すると、両者は「(A)エタノール37〜58質量%、(B)クエン酸からなる酸剤0.01〜0.5質量%、(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および水を含有し、前記(B)と前記(C)の合計が0.6質量%以下であり、pHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−2:本件発明1は(B)/(C)が0.5〜10と特定されるのに対して、引用発明1−2は(B)/(C)が0.075である点。

b 理由1(新規性)についての判断
上記相違点1−1について検討する。
(B)と(C)の合計の値が本件発明1と、引用発明1−1、引用発明1−3〜5とで異なることから、上記相違点1−1は実質的な相違点である。

上記相違点1−2について検討する。
(B)/(C)の値が本件発明1と引用発明1−2とで異なることから、上記相違点1−2は実質的な相違点である。

よって、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではない。

c 理由2(進歩性)についての判断
上記相違点1−1について検討する。
引用例1には、有機酸及びグリセリン脂肪酸エステルの合計量について、特定の値とすることを示唆する記載はないことから、引用発明1−1、引用発明1−3〜5の(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とする動機付けは見当たらない。

上記相違点1−2について検討する。
引用例1には、有機酸とグリセリン脂肪酸の割合について、特定の値とすることを示唆する記載はないことから、引用発明1−2の(B)/(C)を0.5〜10の範囲内とする動機付けは見当たらない。

本件発明1の効果について検討する。
本件明細書には、段落0016〜0018に、(B)/(C)は0.5〜10が好ましく、(B)と(C)の合計は0.8質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.6質量%であることが記載されており、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.8質量%以下とすることによって、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りの発生が少なくなり、また、金属腐食も生じ難くなることが記載されており、実施例4として、(B)/(C)が3であり、(B)と(C)の合計が0.4質量%である殺菌・除菌剤組成物が、殺菌力に優れ、跡残りが少ないことが記載されていることから、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることにより、殺菌力に優れ、跡残りが少ないという効果を奏することが示されているといえる。
一方、引用例1には、跡残りについての記載も示唆もないことから、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることによる殺菌力に優れ、跡残りが少ないという効果は、引用例1から当業者が予測し得ない顕著な効果である。

したがって、本件発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明3〜6について
a 理由1(新規性)についての判断
本件発明3〜6は、上記(ア)で検討した本件発明1と同様に、引用発明1−1、引用発明1−3〜5とは、少なくとも、実質的な相違点である相違点1−1で相違し、引用発明1−2とは、少なくとも、実質的な相違点である相違点1−2で相違するから、本件発明3〜6は、引用例1に記載された発明ではない。

b 理由2(進歩性)についての判断
本件発明3〜6は、上記(ア)で検討した本件発明1と同様に、引用発明1−1、引用発明1−3〜5とは、少なくとも相違点1−1で相違し、引用発明1−2とは、少なくとも相違点1−2で相違する。そして、相違点1−1、相違点1−2については、上記(ア)cで検討したとおりであるから、本件発明3〜6は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
a 令和3年11月12日に提出された意見書における主張
申立人は、令和3年11月12日に提出された意見書において、下記の引用例A〜Cの記載を挙げて、「出願時の技術常識を考慮すると、殺菌・除菌剤の分野において、跡残りを減じるという課題は周知のものである。」とし、跡残りが添加物の量に依存して生じるのは自明なことであるから、引用例1に記載の発明において、跡残りを減じるために添加物の量を減じ、「有機酸+グリセリン脂肪酸エステル」の値をできるだけ少なくすることは、当業者が容易になし得ることである旨主張している。

引用例A:特開2017−77232号公報(当該意見書における「引用例2」)
引用例B:特開2019−26592号公報(当該意見書における「引用例3」)
引用例C:特開2018−15442号公報(当該意見書における「引用例4」)

b 引用例A〜Cの記載事項
(a)引用例Aの記載事項

記載(Aa)
「【請求項1】
各有効成分の含有量およびpHが以下(a)〜(e)であるエタノール製剤をノンエンベロープウイルスと接触させることを特徴とする、ノンエンベロープウイルスの遺伝情報を消失させる方法。
(a)乳酸またはその塩の含有量が、乳酸として1.0〜1.8重量%である
(b)クエン酸またはその塩の含有量が、クエン酸として0.2〜0.5重量%である
(c)乳酸またはその塩とクエン酸またはその塩の重量比が、乳酸とクエン酸として4:1である
(d)pHが、pH3〜4である
(e)エタノール濃度が、65重量%以上、75重量%未満である
【請求項2】
エタノール製剤が、さらにポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するエタノール製剤である、請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲)

記載(Ab)
「本発明者らはこれまでに、エタノール、リン酸、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、かつpHが2.5〜5.0の範囲にある水溶液からなる組成物によるカリシウイルス不活化方法を開示している(特許文献1参照)。この発明は、エタノールを酸性に調整することで抗カリシウイルス活性が向上することを見出してなされたものであり、タンパク質存在下でもカリシウイルスを不活化できることに特長がある。
また、リン酸以外の成分を用いるものとして、エタノールまたはイソプロピルアルコール、乳酸、クエン酸および亜鉛含有化合物を含有する消毒剤が開示されている(特許文献2参照)。
しかし、このようなエタノール製剤では、効果の強化を狙って有効成分の濃度を高くしすぎると、器具等への使用後に有効成分による金属腐食、べたつき、白残り等が生じることがあり、抗ウイルス効果とこれらの好ましくない事象の発生可能性とのバランスをとることが難しくなる。
このため、バランスよくノンエンベロープウイルスを不活化できる方法が求められている。」(段落0004〜0005)

記載(Ac)
「本発明の課題は、使用後に固形分の残存によるべたつき、白残り等の好ましくない事象が発生する可能性を抑えた条件で、ノンエンベロープウイルスの遺伝情報を担うDNAまたはRNAを消失させる方法、すなわちノンエンベロープウイルスを死滅させる方法、または該方法に用い得るエタノール製剤を提供することにある。」(段落0007)

(b)引用例Bの記載事項

記載(Ba)
「【請求項1】
消毒剤全体に対して、以下の(a)〜(e)を各質量比で含み、pHが4〜5である消毒剤:
(a)エタノールを、40〜60質量%、
(b)乳酸及び/又はその塩を、乳酸として1〜5質量%、
(c)クエン酸及びグリシンの何れか又は両方を、合計で0.3〜1質量%、
(d)金属イオンの無機酸塩を、0.1〜0.5質量%、
(e)界面活性剤を、0.1〜0.5質量%。
【請求項2】
前記界面活性剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される1種又は2種以上のノニオン性界面活性剤である、請求項1に記載の消毒剤。
【請求項3】
前記金属イオンの無機酸塩を、0.3質量%未満含む請求項1又は2に記載の消毒剤。」(特許請求の範囲)

記載(Bb)
「しかしながら、特許文献1に記載のエタノール製剤では、ウイルス不活化能が必ずしも十分ではなく、効果の強化を狙って有効成分の濃度を高くしすぎると、器具等への使用後に有効成分による金属腐食、べたつき、白残り等が生じることが報告されている。」(段落0007)

(c)引用例Cの記載事項

記載(Ca)
「セルロース系繊維を含む不織布と、
前記不織布に含浸させた、第四級アンモニウム塩及び無機塩を含む水溶液と、
を、含有するウェットワイパー。」(請求項1)

記載(Cb)
「そこで本発明は、上記問題点に鑑み、セルロース系繊維を含む不織布に対する第四級アンモニウム塩の吸着が抑制でき、かつ均一に第四級アンモニウム塩を含む水溶液を含浸させることが、従来の技術よりも短時間で可能であり、有効に殺菌効果及び防カビ性を発揮することができ、かつ、液の泡立ちと拭き残りを同時に抑制できるウェットワイパーを提供することを目的とする。」(段落0005)

記載(Cc)
「(無機塩)
本実施形態のウェットワイパーに用いる無機塩は、セルロース系繊維を含む不織布への第四級アンモニウム塩の吸着抑制と、第四級アンモニウム塩を含む水溶液の泡立ち防止を図り、かつ拭き残りを抑制する成分として使用される。」(段落0015)

記載(Cd)
「本実施形態のウェットワイパーにおいて、第四級アンモニウム塩及び無機塩を含む水溶液を、不織布に含浸する割合は、殺菌効果の観点から、セルロース系繊維を含む不織布1質量部に対して第四級アンモニウム塩及び無機塩を含む水溶液が0.5質量部以上であることが好ましく、拭き残りを抑制することを考慮すると、上記比率が5質量部以下であることが好ましい。」(段落0025)

c 判断
本件明細書の段落0016及び0017に、「(B)クエン酸、リン酸、乳酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種」との、(B)成分の酸剤の選択肢として乳酸が含まれることを示す記載があることから、本件発明は、(B)成分にかかる「酸剤」として、「乳酸」が含まれることが認識された上で、(B)成分にかかる酸剤として乳酸を含むものを除外し、「クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種」である(B)成分の含有量を0.01〜0.5質量%に特定し、その(B)成分と(C)成分の割合と合計量を特定した殺菌・除菌剤組成物であって、例えば、乳酸を含む「酸剤」が0.5質量%超含まれるものや、乳酸を含む「酸剤」と(C)成分の合計量が0.6質量%超のものは、その技術的範囲としないものであると認められる。
引用例A及び引用例Bは、乳酸を1.0重量%又は1質量%以上含む組成物に関する発明が記載されているものであるから(記載(Aa)、記載(Ba))、引用例A及び引用例Bの記載は、本件発明にかかる、「酸剤」を0.01〜0.5質量%含む殺菌・除菌剤組成物における周知の課題を示すものではない。
引用例Cは、不織布と、不織布に含浸させた無機塩を含む水溶液を含有するウェットワイパーに関する発明が記載されているものであり(記載(Ca))、ウェットワイパーを使用した際の拭き残りを抑制するための手段として、無機塩の添加と不織布に対する水溶液の割合が記載されているものであるから(記載(Cb)、(Cc)、(Cd))、引用例Cの記載は、本件発明にかかる、「酸剤」を0.01〜0.5質量%含む殺菌・除菌剤組成物における周知の課題を示すものではない。
よって、引用例A〜Cの記載をみても、本件発明にかかる、「酸剤」を0.01〜0.5質量%含む殺菌・除菌剤組成物において、跡残りを減じるという周知の課題が存在するとは認められないから、申立人の上記主張は採用できない。
したがって、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、本件発明1、3〜6は、引用例1に記載された発明ではなく、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)引用例2を主引用例とした場合について
ア 引用例2に記載された発明
引用例2には、記載(2a)より、エタノール及びpH調整剤を含有する殺菌剤組成物が記載されており、記載(2e)及び記載(2f)より、実施例6として、エタノール58重量%、ポリリン酸ナトリウム、クマザサエキス、カプリル酸モノグリセライド/カプリン酸モノグリセライドであるグリセリン脂肪酸エステル0.50重量%、乳酸、クエン酸0.30重量%、及び水を含有する、pH4.0である殺菌剤組成物が記載されている。
ここで、カプリル酸は炭素数8の脂肪酸であり、カプリン酸は炭素数10の脂肪酸であるから、カプリル酸モノグリセライド/カプリン酸モノグリセライドであるグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が8のモノグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸の炭素数が10のモノグリセリン脂肪酸エステルの混合物である。また、重量%と質量%は実質的に同義である。
してみると、引用例2には、
「エタノール58質量%、クエン酸0.30質量%、脂肪酸の炭素数が8〜10の範囲にあるモノグリセリン脂肪酸エステル0.50質量%、および水を含有する、pH4.0の殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

イ 当審の判断
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明2を対比すると、両者は「(A)エタノール37〜58質量%、(B)クエン酸からなる酸剤0.01〜0.5質量%、(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および水を含有し、前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、pHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2−1:本件発明1は(B)と(C)の合計が0.6質量%以下であると特定されるのに対して、引用発明2は(B)と(C)の合計が0.8質量%である点。

b 理由1(新規性)についての判断
上記相違点2−1について検討する。
(B)と(C)の合計の数値が本件発明1と、引用発明2とで異なることから、上記相違点2−1は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、引用例2に記載された発明ではない。

c 理由2(進歩性)についての判断
上記相違点2−1について検討する。
引用例2には、有機酸及びグリセリン脂肪酸エステルの合計量について、特定の値とすることを示唆する記載はないことから、引用発明2の(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とする動機付けは見当たらない。

本件発明1の効果について検討する。
本件明細書には、段落0016〜0018に、(B)/(C)は0.5〜10が好ましく、(B)と(C)の合計は0.8質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.6質量%であることが記載されており、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.8質量%以下とすることによって、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りの発生が少なくなり、また、金属腐食も生じ難くなることが記載されており、実施例4として、(B)/(C)が3であり、(B)と(C)の合計が0.4質量%である殺菌・除菌剤組成物が、殺菌力に優れ、跡残りが少ないことが記載されていることから、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることにより、殺菌力に優れ、跡残りが少ないという効果を奏することが示されているといえる。
一方、引用例2には、跡残りについての記載も示唆もないことから、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることによる殺菌力に優れ、跡残りが少ないという効果は、引用例2から当業者が予測し得ない顕著な効果である。

したがって、本件発明1は、引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明3〜6について
申立人は本件発明6について、引用例2である甲第2号証に基づく進歩性要件違反を主張しており、ここで併せて検討する。

a 理由1(新規性)についての判断
本件発明3〜5は、上記(ア)で検討した本件発明1と同様に、引用発明2とは、少なくとも、実質的な相違点である相違点2−1で相違するから、本件発明3〜5は、引用例2に記載された発明ではない。

b 理由2(進歩性)についての判断
本件発明3〜6は、上記(ア)で検討した本件発明1と同様に、引用発明2とは、少なくとも相違点2−1で相違する。そして、相違点2−1については、上記(ア)cで検討したとおりであるから、本件発明3〜6は、引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、異議申立書において、証拠方法として次の(2)に示す甲号証を提出して、以下の申立ての理由を主張している。

ア 本件明細書において、跡残りの少なさを示しているのは、「(B)と(C)の割合を(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計が0.8質量%以下」の条件を満たしている実施例4のみであり、段落0018の記載から、跡残りを少なくするという課題解決のために、前記条件を満たすことは必要不可欠であると認められるため、当該条件の特定がない請求項1、3〜6にかかる発明は、その全範囲において、本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものではない。よって、請求項1、3〜6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

イ 本件明細書には、(B)成分であるクエン酸、リン酸をそれぞれ0.3質量%、0.15質量%で用いることしか記載されておらず、酢酸については実施例そのものが記載されていない。リン酸は、クエン酸や酢酸より強い酸であるから、クエン酸や酢酸と同じ濃度で用いた場合、金属腐食という課題を解決できると当業者は予測できず、クエン酸は弱い酸なので、0.01質量%で用いた場合に、殺菌・除菌剤組成物としての効果を発揮できるかどうかが不明であるから、請求項1〜6に係る発明は、その全範囲において、本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものではない。
よって、請求項1〜6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

ウ 請求項1、3〜6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

エ 請求項1、3〜6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

オ 請求項1、3〜6に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)甲号証及びその記載
ア 甲第1号証及び甲第2号証
甲第1号証(引用例1)及び甲第2号証(引用例2)並びにそれらの記載については、上記第4の2に示したとおりである。

イ 甲第3号証
甲第3号証:特開2017−149651号公報
甲第3号証には、以下の記載がある。

記載(3a)
「【課題】 充分な殺菌力を有し、かつ、化合物の添加によらずに洗浄力が充分に向上された殺菌剤組成物を提供する。」(要約)

記載(3b)
「【請求項1】直径100μm以下の微細気泡を含有し、アルコールの濃度が30.00〜86.00重量%であることを特徴とする殺菌剤組成物。・・・【請求項5】さらに界面活性剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の殺菌剤組成物。【請求項6】さらに酸剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の殺菌剤組成物。・・・」(特許請求の範囲)

記載(3c)


」(段落0053、表1)

記載(3d)
「酸剤の種類は、特に限定されないが、食品添加物として用いることができる化合物であることが望ましく、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、フィチン酸及びこれらの塩があげられる。これらの塩としては、例えば、ナトリウム塩や、カリウム塩等があげられ、ナトリウム塩であることが望ましい。これら酸剤は、単独で用いても、併用してもよい。」(段落0037)

記載(3e)
「界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステルを用いる場合、グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンに脂肪酸が1つ結合したエステルであるモノグリセリド、グリセリンに脂肪酸が2つ結合したエステルであるジグリセリド、グリセリンに脂肪酸が3つ結合したエステルであるトリグリセリド、及び、モノグリセリドとジグリセリドの混合物(モノ・ジグリセリド混合物)があげられる。モノグリセリドとしては、グリセリンカプリル酸エステル、グリセリンカプリン酸エステル、グリセリンラウリン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリン12?ヒドロキシステアリン酸エステル、グリセリンオレイン酸エステル、グリセリンベヘン酸エステル等が挙げられる。」(段落0031)

記載(3f)
「本発明の殺菌剤組成物のpHは、特に限定されないが、3.0〜8.0であることが望ましい。pHが上記範囲であると、殺菌力が充分であり、殺菌剤組成物により殺菌対象物を腐食しにくい。」(段落0041)

ウ 甲第4号証について
甲第4号証:特開2004−99615号公報
甲第4号証には、以下の記載がある。

記載(4a)
「【課題】 食肉処理・加工産業における微生物制御対策として、原料に付着した微生物の殺菌や二次汚染した微生物の洗浄。生産機械器具類に付着した微生物の殺菌と、食品加工業・給食施設などの環境における微生物の殺菌、作業者の手指の洗浄・消毒に使用できしかも効果がある殺菌剤の提供。」(要約)

記載(4b)
「エタノールにグリセリン中鎖脂肪酸モノエステルを溶解したものと、水中に有機酸と有機酸塩を溶解させたもののみを混合溶解させた、アルコールが上限濃度65v/v%の、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、および黄色ブドウ球菌を完全に殺菌する作用のある殺菌剤。」(請求項1)

記載(4c)
「有機酸及び有機酸塩としてクエン酸とクエン酸ナトリウム、乳酸と乳酸ナトリウム、酢酸と酢酸ナトリウム、リンゴ酸とリンゴ酸ナトリウム、酒石酸と酒石酸ナトリウム、グルコン酸、アジピン酸のうち2種以上を使用できる。」(段落0015)

記載(4d)
「本発明を実施するにあたり、(1)変性エタノールを59.22w/w%以下にグリセリン脂肪酸(C10)モノエステル0.3〜0.8%以下を配合し溶解する。(2)次にクエン酸0.1〜1.5%とクエン酸塩0.1〜1.5%と乳酸0.2〜2.0%と乳酸塩0.2〜2.0%のすべてを水分中に溶解させたのち(1)と混合し、全量が100となるように配合して基本剤とし、塩基性アミノ酸、塩基性タンパク質およびアノ酸のうち1種もしくは2種を混合するときはその分だけ水分量を減ずる。」(段落0017)

記載(4f)
「グリセリン脂肪酸エステルは、中鎖(C8〜C12)脂肪酸のモノエステルのいずれも使用できる。」(段落0013)

記載(4g)
「エタノールの殺菌力は本質的にpHの影響を受けるため、本発明の殺菌効果をpH4以下に設定する。」(段落0018)

記載(4h)
「エタノールは、日本薬局方無水エタノール(アルコール分99.5V%以上)またはへんせいエタノール(アルコール分89.0V%)のいずれも使用できる。」(段落0012)

エ 甲第5号証について
甲第5号証:特許第4143294号公報
甲第5号証には、以下の記載がある。

記載(5a)
「本発明の目的は、安全性が高く、食品が有する風味や品質を低下させることがなく、芽胞に対しても優れた殺菌力を有する新規な殺菌剤組成物を提供することにある。」(段落0006)

記載(5b)
「エタノール、芽胞殺菌有効量のラウリン酸モノグリセリド、乳酸および乳酸ナトリウムを有効成分として含有することを特徴とする、食品、食品原料及び食品製造・加工機器用の殺菌剤組成物。」(請求項1)

記載(5c)
「【表1】

」(段落0021、表1)

記載(5d)
「本発明の殺菌剤組成物にはさらに、従来アルコール製剤に用いられてきた有機酸および有機酸塩を添加してもよい。そのような有機酸としては、フマル酸、乳酸、酢酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、こはく酸、フィチン酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。中でも乳酸、クエン酸、リンゴ酸が特に好ましく用いられる。」(段落0012)

記載(5e)
「具体的な各成分の濃度は特に限定されず目的に応じて適宜選択することができる。典型的には、本発明の殺菌剤は、使用時にエタノール5〜80重量%、ラウリン酸モノグリセリドを0.3〜7重量%、好ましくは0.4〜2重量%を含有するよう調製される。」(段落0010)

(3)判断
ア 申立人の上記主張ア及び上記主張イについて
(ア)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。

記載(a)
「このように、安全性の観点から殺菌・除菌剤中のエタノールをなるべく低濃度に設定した上で、殺菌・除菌剤を水分が残存しているまな板、包丁等の調理器具、調理台、作業台、食品製造機などの調理用機械器具類に使用する場合でも優れた殺菌・除菌効果を発揮し、かつ、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りや金属腐食を生じないことが望まれている。」(段落0006)

記載(b)
「(B)クエン酸、リン酸、乳酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種と(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステルの割合は特に制限されないが、例えば(B)と(C)の割合は(B)/(C)=0.5〜10が好ましく、より好ましくは(B)/(C)=0.8〜8、さらに好ましくは(B)/(C)=1〜5である。
(B)クエン酸、リン酸、乳酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種と(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステルの合計は特に制限されないが、例えば(B)と(C)の合計は0.8質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.7質量%以下であり、さらに好ましくは0.6質量%以下である。
本発明において、(B)と(C)の割合を(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.8質量%以下とすることによって、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りの発生が少なくなり、また、金属腐食も生じ難くなる。」(段落0016〜0018)

記載(c)
「本発明の殺菌・除菌剤組成物のpHは、25℃で2〜4の範囲に設定することが好ましく、さらに好ましくは2.8〜3.8の範囲である。pHが2未満の場合は殺菌・除菌効果は増強されるもの、手指への刺激性が増大し、金属の種類によっては錆等の腐食を生じることがある。また、pHが4を超える場合は殺菌・除菌効果が減弱する傾向がある。」(段落0020)

記載(d)
「[殺菌・除菌剤組成物の調製]
実施例1〜8
表1に示す組成の各殺菌・除菌剤組成物(単位は重量%)を調製した。また、実施例1〜8のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製、卓上型pHメーター F−71)を用いて測定した。

比較例1〜4
表2に示す組成の各殺菌・除菌剤組成物(単位は重量%)を調製した。また、比較例1〜4のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製、卓上型pHメーター F-71)を用いて測定した。

[殺菌力試験]
試験方法
下記供試菌をSCD寒天培地で37℃、18〜24hr培養した。培地より菌を採取し、生理食塩水3mLに懸濁後、ペプトン食塩緩衝液で段階希釈して菌数が109CFU/mLとなるように調製した。この菌液0.1mLと表1に示す各殺菌・除菌剤組成物を滅菌脱温水で3倍希釈(v/v)して得た殺菌・除菌剤溶液10mLを混合して攪拌し、30秒後に各混合物から0.1mLを採取し、LP希釈液で段階的に希釈した。この溶液から1mLをシャーレにとりSCDLP寒天培地で37℃、24hr培養し、生じたコロニー数を確認した。
供試菌:黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus IFO 12732
大腸菌 Escherichia coli IFO 3972
評価基準◎:99.99%以上の殺菌力
〇:99.99〜99.00%の殺菌力
×:99.00%未満の殺菌力
表1、表2から明らかなように、実施例1〜8はどれも、黄色ブドウ球菌および大腸菌のいずれの菌種についても99.99%以上の殺菌力を示すのに対し、比較例1〜4はどれも不充分な殺菌力であった。
[跡残り試験]
比較例5
実施例4のクエン酸を0.3重量%から3.0重量%に、また、モノグリセリンカプリン酸モノエステルを0.1重量%から0.5重量%に変更した以外は実施例4と同様の操作を行って、比較例5を調製した。
実施例4と比較例5の各殺菌・除菌剤組成物を黒色プレート上に滴下して24hr常温乾燥後に写真を撮影した。」(段落0027〜0034)

(イ)本件発明の解決しようとする課題
本件発明は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、記載(a)、(b))及び出願時の技術常識からみて、「殺菌・除菌剤中のエタノールをなるべく低濃度に設定した上で、殺菌・除菌剤を水分が残存している調理用機械器具類に使用する場合でも優れた殺菌・除菌効果を発揮し、かつ、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りや金属腐食を生じない殺菌・除菌剤組成物の提供」を解決しようとする課題とするものであると認められる。

(ウ)判断
本件明細書には、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.8質量%以下とすることで、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りの発生が少なくなり、また、金属腐食も生じ難くなることが記載されており(記載(b))、pHは2〜4の範囲に設定することが好ましく、pHが2未満の場合は金属の種類によっては腐食を生じることがあり、pHが4を超える場合は殺菌・除菌効果が減弱する傾向があることが記載されており(記載(c))、実施例として、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とし、pHが2〜4の範囲である実施例1〜8が、殺菌力に優れることが示されており、実施例4が、跡残りが少ないことも示されている。
してみると、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とし、pHを2〜4の範囲とすることで、優れた殺菌・除菌効果を発揮し、かつ、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りや金属腐食を生じない殺菌・除菌剤組成物とすることができることを、当業者が把握できる。
したがって、本件発明は、当業者が課題を解決することができることを認識できる範囲内のものであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(エ)申立人の主張について
申立人の上記主張アについては、本件発明1、3〜6は、いずれも(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とするものであるから、理由がない。
申立人の上記主張イについては、上記(ウ)で述べたとおり、本件発明は、酸剤の種類に関わらず、(B)/(C)=0.5〜10とし、かつ、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とし、pHを2〜4の範囲とすることで、優れた殺菌・除菌効果を発揮し、かつ、殺菌・除菌後も添加物等の跡残りや金属腐食を生じない殺菌・除菌剤組成物とすることを、当業者が把握できるものである。
したがって、申立人の上記主張ア及び上記主張イを採用することができない。

イ 申立人の上記主張ウについて
(ア)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、直径100μm以下の微細気泡を含有し、アルコール濃度が30.00〜86.00重量%であり、さらに界面活性剤及び酸剤を含む殺菌剤組成物が記載されており(記載(3b)、実施例4として、エチルアルコール50.00重量%、グリセリン脂肪酸エステル0.05重量%、リンゴ酸0.35重量%、リンゴ酸ナトリウム0.06重量%、及び水を含有する殺菌剤組成物が記載されている(記載(3c))。
ここで、除菌とは、殺菌により菌を除くことを含む用語であるから、殺菌剤組成物は、殺菌・除菌剤組成物に相当する。また、エチルアルコールはエタノールのことであり、重量%と質量%は実質的に同義である。
してみると、甲第3号証には、
「直径100μm以下の微細気泡を含有し、エタノール50.00質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.05質量%、リンゴ酸0.35質量%、リンゴ酸ナトリウム0.06質量%、および水、を含有する除菌・殺菌剤組成物。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)当審の判断
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、両者は「(A)エタノール38〜58質量%、酸剤0.01〜0.5質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および(D)水、を含有する除菌・殺菌剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3−1:本件発明1は、脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステルを0.01〜0.5質量%含有することを特定するのに対して、甲3発明は、炭素数が不明なグリセリン脂肪酸エステルを0.05質量%含有する点。
相違点3−2:本件発明1は、pHが2〜4の範囲にあると特定するのに対して、甲3発明は、pHが不明である点。
相違点3−3:本件発明1は、クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種を0.01〜0.5質量%含有することを特定するのに対して、甲3発明は、リンゴ酸を0.35質量%含有する点
相違点3−4:本件発明1は、クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種である(B)成分と脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステルである(C)成分について、(B)/(C)が0.5〜10であり、かつ、(B)と(C)の合計が0.6質量%以下であることを特定しているのに対して、甲3発明は、当該(B)成分と(C)成分を含まない点。
相違点3−5:本件発明1は、微細気泡を含有することの特定がないのに対して、甲3発明は、直径100μm以下の微細気泡を含有する点。

(b)判断
上記相違点3−1について検討する。
甲第3号証には、界面活性剤としてグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、およびモノグリセリドとジグリセリドの混合物があげられ、モノグリセリドとしては、グリセリンカプリル酸エステル、グリセリンカプリン酸エステル、グリセリンラウリン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル等があげられることが記載されているから(記載(3c))、甲3発明において、グリセリン脂肪酸エステルとして、グリセリンカプリル酸エステル、グリセリンカプリン酸エステル、グリセリンラウリン酸エステルを用いることは、当業者が容易になし得たことである。

上記相違点3−2について検討する。
甲第3号証には、殺菌剤組成物のpHは、特に限定されないが、3.0〜8.0であることが望ましく、pHが上記範囲であると、殺菌力が充分であり、殺菌剤組成物により殺菌対象を腐食しにくいことが記載されていることから(記載(3f))、甲3発明において、pHを3.0〜4.0程度にすることは、当業者が容易になし得たことである。

本件発明1の効果を検討する。
本件明細書には、モノグリセリンカプリル酸モノエステルを用いたpHが3.4である実施例2と、モノグリセリンカプリル酸モノエステルに替えてデカグリセリンステアリン酸エステルを用いたことのみが実施例2と異なる比較例4が記載されており、実施例2では、黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対して優れた殺菌力が認められた一方で、比較例4では、大腸菌に対しての殺菌力が良好ではなかったことが示されていることから(記載(d))、グリセリン脂肪酸エステルの中でも、モノグリセリンカプリル酸モノエステル等の炭素数が8〜12の脂肪酸を有するグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより、優れた殺菌力という効果が認められる。
また、本件明細書の記載(c)には、pHを2〜4の範囲にすることで、良好な殺菌・除菌効果及び金属の腐食が抑制される効果が得られること、pHが4を超える場合は、殺菌・除菌効果が減弱する傾向があることが記載されており、記載(d)には、pHが3.3、3.5又は3.7であって、モノグリセリンカプリン酸モノエステルを0.2重量%含有する実施例1、5、6では、色ブドウ球菌及び大腸菌に対して優れた殺菌力が認められた一方で、pHが5.6であって、同様にモノグリセリンカプリン酸モノエステルを0.2重量%含有する比較例3では、黄色ブドウ球菌に対しての殺菌力が良好でなかったことが示されていることから、pHを2〜4の範囲にすることで、pHが2〜4の範囲外である場合より、pHを2〜4の範囲にすることで、優れた殺菌・除菌効果及び金属の腐食が抑制される効果という顕著な効果を奏することが把握できる。
そして、炭素数が8〜12の脂肪酸を有するグリセリン脂肪酸エステルを用いるとともに、pHを2〜4の範囲とすることによる、優れた殺菌・除菌効果及び金属の腐食が抑制される効果は、甲第3号証の記載及び技術常識に照らしても、当業者が予測し得たものではない、顕著なものである。

したがって、上記相違点3−3〜5を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明3〜6について
本件発明3〜6は、上記aで検討した本件発明1と同様に、甲3発明とは、少なくとも相違点3−1及び相違点3−2で相違する。そして、相違点3−1及び相違点3−2については、上記a(b)で検討したとおりであるから、本件発明3〜6は、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1、3〜6は、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の上記主張ウを採用することができない。

ウ 申立人の上記主張エについて
(ア)甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、エタノールにグリセリン中鎖(C8〜12)脂肪酸モノエステルを溶解したものと、水中に有機酸と有機酸塩を溶解させたもののみを混合溶解させた、アルコールが上限濃度65v/v%の、殺菌剤が記載されており(記載(4b)、(4f)、実施形態として、変性エタノール59.22w/w%以下にグリセリン脂肪酸(C10)モノエステル0.3〜0.8%以下を配合し溶解し、次にクエン酸0.1〜1.5%とクエン酸塩0.1〜1.5%と乳酸塩0.2〜2.0%を水分中に溶解させたのち、全量が100となるように配合した基本剤である殺菌剤が記載されており(記載(4d))、殺菌剤のpHを4以下に設定することも記載されている(記載(4g))。
ここで、除菌とは、殺菌により菌を除くことを含む用語であるから、殺菌剤は、殺菌・除菌剤組成物に相当する。そして、甲第4号証には、グリセリン脂肪酸(C10)モノエステル、クエン酸、クエン酸塩の含有割合を示す「%」が、質量%、体積%、モル%のいずれであるかが明示されていないが、殺菌剤においては、通常、グリセリン脂肪酸エステル、クエン酸、クエン酸塩の含有割合は質量割合で示されることから、当該「%」は質量%を示すものと考えられる。
また、記載(4h)に、変性エタノールのアルコール分は89.0V%であることが記載されている。エタノールの比重0.79g/ml、水の比重1.0g/mlという値を用いて、上記実施形態の殺菌剤のエタノール含有割合を計算すると、50.93質量%である。
よって、甲第4号証には、
「エタノール50.93質量%、クエン酸0.1〜1.5質量%、クエン酸塩0.1〜1.5質量%、脂肪酸の炭素数が10であるモノグリセリン脂肪酸エステル0.3〜0.8質量%、および水を含有する、pH4以下の殺菌・除菌剤組成物。」
の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)当審の判断
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲4発明を対比すると、両者は「(A)エタノール37〜58質量%、(B)クエン酸、(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、及び(D)水、を含有する殺菌・除菌剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点4−1:本件発明1は、pHが2〜4の範囲にあると特定されるのに対して、甲4発明は、pH4以下ではあるものの、pHが2〜4の範囲であるかが不明である点。
相違点4−2:本件発明1は、(B)/(C)が0.5〜10であり、かつ、(B)と(C)の合計が0.6質量%以下であることを特定しているのに対して、甲4発明は、(B)/(C)及び(B)と(C)の合計の値が不明である点。
相違点4−3:本件発明1は、クエン酸、リン酸及び酢酸からなる酸剤の少なくとも1種の含有量が0.01〜0.5質量%であると特定されるのに対して、甲4発明は、クエン酸の含有量が0.1〜1.5質量%である点。

(b)判断
上記相違点4−1について検討する。
甲4発明は、pHが4以下であるから、甲4発明において、pHを2〜4程度にすることは、当業者が容易になし得たことである。
本件発明1の効果を検討する。
本件明細書の記載(c)には、pHを2〜4の範囲にすることで、良好な殺菌・除菌効果が得られること、pHが2未満の場合は手指への刺激性が増大し金属の種類によっては錆等の腐食を生じることがあることが記載されており、記載(d)には、pHが3.2〜3.7である実施例1〜8が、殺菌力に優れることが示されている。してみると、本件明細書の記載から、pHを2未満とした場合と比較して、pHを2〜4の範囲内とすることにより、良好な殺菌・除菌効果を有し、かつ、金属腐食を抑制することができるという効果が把握できる。そして、pHを2〜4の範囲とすることによる当該効果は、甲第4号証の記載および技術常識に照らしても、当業者が予測し得たものではない、顕著なものである。

上記相違点4−2について検討する。
甲第4号証には、(B)/(C)や(B)と(C)の合計を特定することを記載も示唆もしていないことから、甲4発明において、(B)/(C)を0.5〜10の範囲とし、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることの動機付けは見当たらない。
仮に、甲4発明において、(B)/(C)を0.5〜10の範囲とし、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることの動機付けがあったとしても、本件明細書の記載(b)より、本件発明1は、(B)/(C)を0.5〜10の範囲とし、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることにより、殺菌・除菌後も跡残りの発生が少なくなり、金属腐食も生じ難くなるという効果を奏するものであることが把握でき、これらの効果は、甲第4号証の記載及び技術常識に照らしても、当業者が予測し得たものではない、顕著なものである。

したがって、上記相違点4−3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明3〜6について
本件発明3〜6は、上記aで検討した本件発明1と同様に、甲4発明とは、少なくとも相違点4−1及び相違点4−2で相違する。そして、相違点4−1及び相違点4−2については、上記a(b)で検討したとおりであるから、本件発明3〜6は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1、3〜6は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の上記主張エを採用することができない。

エ 申立人の上記主張オについて
(ア)甲第5号証に記載された発明
甲第5号証には、エタノール、ラウリン酸モノグリセリド、乳酸及び乳酸ナトリウムを含有する、殺菌剤組成物が記載されており、記載(5c)より、実施例1として、エタノール59.0質量%、乳酸1.1質量%、乳酸ナトリウム0.1質量%、ラウリン酸モノグリセリド(C12)0.5質量%、及び脱イオン水を含有する、pH4.27である殺菌剤組成物が記載されている(記載(5b))。
ここで、除菌とは、殺菌により菌を除くことを含む用語であるから、殺菌剤組成物は、殺菌・除菌剤組成物に相当し、ラウリン酸は炭素数12の脂肪酸であるから、ラウリン酸モノグリセリドは、脂肪酸の炭素数が12であるモノグリセリン脂肪酸エステルに相当する。
よって、甲第5号証には、
「エタノール59.0質量%、乳酸1.1質量%。乳酸ナトリウム0.1質量%、脂肪酸の炭素数が12であるモノグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%、および水を含有するpHが4.27である殺菌・除菌剤組成物。」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)当審の判断
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲5発明を対比すると、両者は「(A)エタノール、酸剤、(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、及び(D)水を含有する殺菌・除菌剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5−1:本件発明1は、pHが2〜4の範囲にあることを特定するのに対して、甲5発明は、pHが4.27である点。
相違点5−2:本件発明1は、(B)クエン酸、リン酸及び酢酸からなる酸剤の少なくとも1種を0.01〜0.5質量%含み、(B)/(C)が0.5〜10であり、かつ、(B)と(C)の合計が0.6質量%以下であることを特定しているのに対して、甲5発明は、当該(B)成分を含まず、酸剤として乳酸1.1質量%を含む点。
相違点5−3:本件発明1は、エタノールの含有量が37〜58質量%であることを特定するのに対して、甲5発明は、エタノールの含有量が59.0質量%である点。

(b)判断
上記相違点5−1について検討する。
甲第5号証には、pHを調整することを示す記載はないことから、甲5発明において、pHを2〜4の範囲内とする動機付けは見当たらない。
仮に、甲第5号証に、甲5発明のpHを2〜4の範囲とする動機付けがあったとしても、本件明細書の記載(c)から、pHを2〜4の範囲にすることで、良好な殺菌・除菌効果及び金属の腐食が抑制される効果が得られことが把握できる。そして、pHを2〜4の範囲とすることによるこれらの効果は、甲第5号証の記載及び技術常識に照らしても、当業者が予測し得たものではない、顕著なものである。

上記相違点5−2について検討する。
甲第5号証には、従来アルコール製剤に用いられてきた有機酸を添加しても良いこと、そのような有機酸として、乳酸、酢酸、クエン酸が挙げられることが記載されていることから(記載(5d))、甲5発明において、乳酸に替えて酢酸又はクエン酸を用いること自体は当業者が容易になし得たことである。しかしながら、甲第5号証には、酢酸又はクエン酸の含有量を0.01〜0.5質量%とし、(B)/(C)が0.5〜10であり、かつ、(B)と(C)の合計が0.6質量%以下であるものとする動機付けは見当たらない。
仮に、甲5発明において、酢酸又はクエン酸の含有量を0.01〜0.5質量%とし、(B)/(C)を0.5〜10の範囲とし、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることの動機付けがあったとしても、本件明細書の記載(b)より、本件発明1は、(B)/(C)を0.5〜10の範囲とし、(B)と(C)の合計を0.6質量%以下とすることにより、殺菌・除菌後も跡残りの発生が少なくなり、金属腐食も生じ難くなるという効果を奏するものであることが把握でき、これらの効果は、甲第5号証の記載および技術常識に照らしても、当業者が予測し得たものではない、顕著なものである。

したがって、上記相違点5−3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明3〜6について
本件発明3〜6は、上記aで検討した本件発明1と同様に、甲5発明とは、少なくとも相違点5−1及び相違点5−2で相違する。そして、相違点5−1及び相違点5−2については、上記a(b)で検討したとおりであるから、本件発明3〜6は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1、3〜6は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の上記主張オを採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項2は、本件訂正請求により、削除されたため、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなり、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エタノール37〜58質量%、
(B)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の少なくとも1種0.01〜0.5質量%、
(C)脂肪酸の炭素数が8〜12の範囲にあるグリセリン脂肪酸エステル0.01〜0.5質量%、および
(D)水、を含有し、
前記(B)と前記(C)の割合が前記(B)/前記(C)=0.5〜10であり、かつ、前記(B)と前記(C)の合計が0.6質量%以下であり、pHが2〜4の範囲にある殺菌・除菌剤組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記(A)のエタノールが40〜55質量%である請求項1に記載の殺菌・除菌剤組成物。
【請求項4】
前記(C)のグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1又は3に記載の殺菌・除菌剤組成物。
【請求項5】
前記pHが2.8〜3.8の範囲にある請求項1、3又は4に記載の殺菌・除菌剤組成物。
【請求項6】
さらに、(E)クエン酸、リン酸および酢酸からなる酸剤の塩の少なくとも1種0.01〜0.3質量%を含有する請求項1、3〜5のいずれかに記載の殺菌・除菌剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-20 
出願番号 P2019-187222
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 大熊 幸治
吉岡 沙織
登録日 2020-07-10 
登録番号 6732350
権利者 株式会社アルボース
発明の名称 殺菌・除菌剤組成物  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人 津国  
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