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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1384057
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-26 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6736421号発明「共重合体ラテックス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6736421号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6736421号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6736421号に係る出願(特願2016−161484号、以下「本願」ということがある。)は、平成28年8月19日に出願人旭化成株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和2年7月17日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行されたものである。

2.本件特許異議の申立ての趣旨
本件特許につき、令和3年1月26日に特許異議申立人井上由美(以下「申立人」という。)により、「特許第6736421号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」という。)

3.審理すべき範囲
上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6736421号の特許請求の範囲の全請求項に係る発明についての特許を審理の対象とすべきものであって、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外となる請求項は存しない。

4.以降の手続の経緯
令和3年 6月 3日付け 取消理由通知
同年 8月 6日 意見書・訂正請求書
同年 8月19日付け 通知書(申立人あて)
同年 9月24日 意見書(申立人)

第2 取消理由の概要

1.申立人が主張する取消理由
申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。

申立人は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下のア.ないしウ.が存するとしている。

ア.本件の請求項1ないし3に係る発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由1」という。)
イ.本件の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載の発明に基づいて又は甲第1号証に記載の発明に甲第4号証に記載の発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由2」という。)
ウ.本件特許の請求項1ないし4は、記載不備であり、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)

●申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2010−106175号公報
甲第2号証:特開平4−359001号公報
甲第3号証:特開平9−31111号公報
甲第4号証:特開2009−235234号公報
(以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第4号証」を、それぞれ、「甲1」ないし「甲4」と略して表記することがある。)

2.当審が通知した取消理由
当審が通知した取消理由は、概略以下のとおりである。

本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由A」という。)

第3 令和3年8月6日付け訂正請求について

1.訂正請求の内容
令和3年8月6日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、訂正前の請求項1ないし4(以下項番に従い「旧請求項1」などという。)を一群の請求項ごとに訂正することにより、訂正後の請求項1ないし4(以下項番に従い「新請求項1」などという。)にするものであり、以下の訂正事項1ないし4を含むものである。

●訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「pHが8以下であり」とあるのを、「pHが7.5以下であり」と訂正する。

2.訂正事項に係る訂正の適否について

(1)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正では、旧請求項1における「pH」の範囲の上限を「8以下」から「7.5以下」としており、「pH」の範囲が実質的に減縮されて新請求項1にされているから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的な拡張・変更の有無
本件訂正に係る訂正事項1に係る訂正は、上記(1)で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0041】に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、また、上記訂正によって本件訂正の前後で特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されたものでないことも明らかである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)独立特許要件
なお、本件特許異議の申立ては、本件の旧請求項1ないし4、すなわち全請求項に係る発明についての特許に対してされたものであるから、本件特許異議の申立ては、訂正後の全ての請求項に対してされているものであり、申立てが行われていない請求項に係る特許は存するものでなく、独立特許要件につき検討すべき請求項は存するものではない。

3.本件訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的要件を満たすものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件も満たすものであるから、本件訂正を認める。

第4 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
上記本件訂正により適法に訂正された本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし4が記載されている。
「【請求項1】
(a)共役ジエン系単量体単位10質量%〜60質量%
(b)(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%以上を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%、及び、
(c)共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位25質量%〜89質量%
(ただし、(a)+(b)+(c)=100質量%)からなる共重合体を含み、
pHが7.5以下であり、
化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である、
共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%が、
(b1)一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜14.95質量%と、
(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%〜1質量%とからなる、
請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
ゲル分率が、40質量%〜95質量%である、
請求項1又は2に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の共重合体ラテックスを含む、水性接着剤組成物。」
(以下、上記請求項1ないし4に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第5 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由及び当審が通知した上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、取消理由1ないし3及び取消理由Aにつきそれぞれ検討・詳述する。

I.取消理由A、取消理由1及び2について

1.各甲号証に記載された事項及び甲1ないし甲3に記載された発明
取消理由A、取消理由1及び2は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1ないし甲3に記載された発明を認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
上記甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「【請求項1】
共役ジエン系単量体30〜70質量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜15質量%、及びこれらと共重合可能な他の単量体15〜69.9質量%を乳化重合させることを含む水性接着剤用共重合体ラテックスの製造方法であって、
共役ジエン系単量体1〜69質量%を含む全単量体の30〜90質量%を、第一の連鎖移動剤を添加して重合させ、重合転化率を75%以上とする第一重合段、及び
共役ジエン系単量体1〜69質量%を含む全単量体の10〜70質量%及び第二の連鎖移動剤を添加して重合を継続する第二重合段、
を含み、且つ
第一の連鎖移動剤の、第一重合段における単量体100質量に対する質量部をa、第二の連鎖移動剤の、第二重合段における単量体100質量部に対する質量部をbとしたとき、a及びbが次式(I):
0.1≦a≦5
0.2≦b≦10 (I)
b>a
を満たすことを特徴とする、上記方法。
・・(中略)・・
【請求項3】
前記第二重合段において、第二重合段における単量体及び第二の連鎖移動剤の添加を開始する時点における、第一重合段における共重合物のゲル分率(m)が35〜80%である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
最終的に得られた共重合体ラテックスのゲル分率(n)が40〜90%であり、かつ第一重合段における共重合物のゲル分率(m)が、次式
0.8≦(n)/(m)≦1.25
を満たす、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で製造され得る水性接着剤用共重合体ラテックス。」

(a2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の建材、木工家具等の工業分野、建築現場で使用される建築内装用等の分野、及び一般家庭において広く使用されている溶剤型接着剤の適用分野において使用でき、有害な有機溶剤を含まないため環境汚染や健康を害することがなく、火災等の危険性もなく、しかも貼り合わせ直後のコンタクト接着性に優れ、且つ耐熱クリープ性及び養生後の接着強度に優れる水性接着剤用共重合体ラテックスに関する。
・・(中略)・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、貼り合わせ直後のコンタクト接着性に優れ、且つ耐熱クリープ性及び養生後の接着強度に優れる水性接着剤用共重合体ラテックスを提供することを課題とする。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合体ラテックスを用いることにより、貼り合わせ直後のコンタクト接着性に優れ、且つ耐熱クリープ性及び接着強度に優れる水性接着剤を実現できる。溶剤型接着剤を本発明の共重合体ラテックスで代替することが可能となり、有機溶剤に起因して発生する環境汚染等の問題を回避することができる。」

(a3)
「【実施例】
【0053】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各物性の評価は以下の通りの方法で行った。
【0054】
(1)ゲル分率
水酸化ナトリウムでpH8に調整した共重合体ラテックスを130℃で30分間乾燥し、ラテックスフィルムを得た。このラテックスフィルム約0.5gを精秤した。これをトルエン30mlと混合して3時間振とうした後、目開き32μmの金属網にてろ過し、残留物を130℃で1時間乾燥して乾燥質量を秤量した。もとのラテックスフィルム質量に対する残留物の乾燥質量の割合をゲル分率(%)とした。
ゲル分率(%)=(残留物乾燥質量/ラテックスフィルム質量)×100
・・(中略)・・
【0056】
(3)ラテックスの粒子径
動的光散乱法により、光散乱光度計(シーエヌウッド社製、モデル6000)を用いて、初期角度45度−測定角度135度で測定し、数平均粒子径を求めた。
【0057】
(4)コンタクト接着性
塩化ビニル板2枚にラテックスを塗布し、50℃で5分間乾燥した。塗布した面同士を貼り合わせ、2kgのロールを2回往復させてから1分後に手で剥がし、剥離抵抗の強さと接着剤の破壊状態からコンタクト接着性の良否を判定した。判定に際しては、以下の基準に従って行った。
◎(優):剥離抵抗がかなり強く、基材両面の接着剤が凝集破壊している状態
○(良):剥離抵抗が強く、基材両面の接着剤が凝集破壊している状態
△(可):剥離抵抗が弱く、基材両面の接着剤界面付近で剥離している状態
×(不可):剥離抵抗が非常に弱く、基材両面の接着剤界面付近で剥離している状態
【0058】
(5)耐熱クリープ性
アルミ板2枚にラテックスを25mm幅で塗布し、50℃で5分間乾燥した後、塗布した面同士を長さ12mmで重ねて貼り合わせ、4.5kgのロールを2回往復させてから3日間養生した。この貼り合わせ試験片に1kgの錘を吊るして80℃の熱風循環乾燥機に入れ、クリープ破壊試験を行った。張り合わせたアルミ板が剥がれ落ちるまでの時間を測定した。
【0059】
(6)接着強度
シナ合板(3プライ、厚み5.5mm)及びキャンバス(9号)生地にラテックスを25mm幅で塗布し、50℃で5分乾燥した後、塗布した面同士を貼り合わせ、4.5kgのロールを2回往復させてから3日間養生した。この貼り合わせ試験片について、剥離強度を引張り試験機で測定した。引張り速度100mm/分で180度の剥離強度を室温で測定した。
【0060】
実施例A1
攪拌装置と温度調節用ジャケットを備えた耐圧反応容器に、重合初期の原料としてイオン交換水72質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1質量部、平均粒子径40nmのポリスチレン製シードラテックス0.9質量部、及び第一重合段単量体中のイタコン酸を一括して仕込み、75℃にて十分に攪拌した。
【0061】
次いで、イタコン酸を除く表1−1記載の第一重合段単量体と第一の連鎖移動剤を、この耐圧容器内に連続的に添加した。一方、この添加開始から10分後より、水22質量部、水酸化ナトリウム0.15質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部、及びペルオキソ二硫酸ナトリウム1.0質量部からなる水系混合物の添加を開始し、重合反応を開始させた。
【0062】
第一重合段単量体と第一の連鎖移動剤の添加が終了し、第一重合段単量体の重合転化率が90%になった時点で、第二重合段単量体と第二の連鎖移動剤を連続的にこの耐圧容器内に添加し、重合反応を継続させた。
【0063】
第二重合段単量体と第二の連鎖移動剤の添加が終了してから30分後に、耐圧容器内の温度を95℃に昇温させ、95℃で1時間30分維持し重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウムを添加してpHを8.0に調整し、スチームストリッピング法で未反応の単量体を除去した後、固形分濃度を50質量%に調整した。この共重合体ラテックスを325メッシュのフィルターを通過させて濾過し、共重合体ラテックスA1を得た。共重合体ラテックスA1の各物性の評価結果を表1−1及び表2−1に示す。
【0064】
実施例A2及びA3
第一重合段単量体及び第二重合段単量体の質量%を、表1−1に示した通りに変更したこと以外は、全て実施例A1と同じ手順で共重合体ラテックスA2及びA3を製造した。
これら共重合体ラテックスの各物性の評価結果を表1−1及び表2−1に示す。
【0065】
実施例A4
第一及び第二の連鎖移動剤の添加量である質量部a及びbを、表1−1に示す通りに変更したこと以外は、全て実施例A1と同じ手順で共重合体ラテックスA4を製造した。これら共重合体ラテックスの各物性の評価結果を表1−1及び表2−1に示す。
【0066】
実施例A5
第一重合段単量体の組成、第二重合段単量体の組成、第一及び第二の連鎖移動剤の添加量である質量部a及びbを表1−1に示す通りに変更したこと以外は、全て実施例A1と同じ手順で共重合体ラテックスA5を製造した。これらの各物性の評価結果を表1−1及び表2−1に示す。
【0067】
実施例A6
第一重合段の重合転化率を表1−1に示す通りに変更したこと以外は、全て実施例A1と同じ手順で共重合体ラテックスA6を製造した。これらの各物性の評価結果を表1−1及び表2−1に示す。
【0068】
実施例A7
重合初期に仕込むポリスチレン製シードラテックスを1.3質量部に変更し、第一及び第二の連鎖移動剤の添加量である質量部a及びbを、表1−1に示す通りに変更したこと以外は、全て実施例A1と同じ手順で共重合体ラテックスA7を製造した。これら共重合体ラテックスの各物性の評価結果を表1−1及び表2−1に示す。
・・(中略)・・
【表1−1】

・・(中略)・・
【表2−1】



イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.で摘示した甲1の記載(特に摘示(a3)「実施例A1」ないし「実施例A7」)からみて、
「スチレン15.4質量%、ブタジエン45〜55質量%、メチルメタクリレート3質量%、アクリロニトリル12質量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量%、アクリル酸2質量%、メタクリル酸1質量%、2−エチルヘキシルアクリレート10〜20質量%及びイタコン酸0.6質量%を乳化共重合してなり、その後pH8.0に調整してなるゲル分率が62%の水性接着剤用共重合体ラテックス。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)、及び
「甲1発明の共重合体ラテックスを含む水性接着剤組成物。」
に係る発明が記載されているといえる。

(2)甲2

ア.甲2に記載された事項
上記甲2には、以下の事項が記載されている。

(b1)
「【請求項1】 第1段目として、脂肪族共役ジエン系単量体20〜60重量%、エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体 0.5〜5重量%、エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体0〜5重量%およびこれらと共重合可能な他のモノオレフィン系単量体20〜79.4重量%を乳化共重合し、重合転化率90%以上になった時点で、第2段目として、エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体0.1〜10重量%を添加しさらに乳化共重合を行い反応を完結させることを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の製造方法によって得られた共重合体ラテックスと顔料を含有してなる紙被覆用組成物。」

(b2)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、微細凝固物の発生が少なく、重合安定性に優れた共重合体ラテックスの製造方法ならびに該共重合体ラテックスを用いてなる機械的安定性、接着強度、インクモトリング、印刷光沢に優れた紙被覆用組成物に関する。
・・(中略)・・
【0010】
【発明が解決しようとする問題点】本発明者らは、このような状況に鑑み、微細凝固物の発生を抑制し、重合安定性に優れた共重合体ラテックス、さらには機械的安定性、接着強度、インクモトリング、印刷光沢に優れた紙被覆用組成物を得るべく鋭意検討の末、本発明を完成するに至った。」

(b3)
「【0035】〔実施例〕以下、実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。また実施例における諸物性の測定は次の方法に拠った。
【0036】・微細凝固物
顕微鏡により数μm〜50μmの微細凝固物を観察し、
○:非常に少ない
△:少ない
×:多い この3段階で行う。
【0037】・ゲル含有量
室温乾燥にて共重合体ラテックスのフィルムを作製し、該フィルムを約200〜800倍のトルエン中に投入し、48時間放置した後、No.2濾紙を用いて濾過する。濾液を70℃で減圧乾燥を行い、秤量し、共重合体ラテックスフィルムのトルエン可溶分(%)を求める。100%から上記トルエン可溶分を減じた数値、すなわち、トルエン不溶分(%)をゲル含有量として算出した。
【0038】・機械的安定性
コーティングカラーをパタスタビリティーを用いて金属ロールとゴムロール間で練り、機械的剪断をかけ、ゴムロール上に凝固物が発生するまでの時間(分)を測定する。
【0039】・RIウェット・ピック強度RI印刷機で湿し水を用いて印刷した時のピッキングの程度を肉眼で判定し、1級(最も良好なもの)から5級(最も悪いもの)の5段階法で評価した。6回の平均値を示す。
【0040】・RIドライ・ピック強度湿し水を用いない以外は、上記RIウェット・ピック強度測定方法と同様の方法で判定した。
【0041】・印刷光沢
RI印刷機を用い、市販オフセット印刷用紅インクを一定量使用して1回印刷を行ない、塗被紙の印刷面を村上式光沢度計で入射角75°、反射角75°で測定する。印刷光沢値は数字の大きい方が良好。
【0042】・インクモトリング
RI印刷機を用いて、イエローのプロセスインキを試験片に印刷し、さらに10秒後にマゼンタのプロセスインキを重ねて印刷し、マゼンタのプロセスインキの印刷むらを肉眼で判定して1級(一番良好なもの)から5級(一番悪いもの)の5段階法で評価した。6回の平均値を示す。
【0043】共重合体ラテックスの作製表−1に示す1段目成分(単量体、連鎖移動剤、重合開始剤)及びドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ 0.5部、炭酸水素ナトリウム 0.5部、水100部を100l オートクレーブに仕込み、重合温度70℃にて重合を行った。重合転化率が90%以上になった時点で、表−1に示す2段目成分(単量体、連鎖移動剤、重合開始剤)及び水10部を追加添加して重合を継続し、重合を完了した。最終重合転化率は98%であった。
【0044】これらのラテックスは、濃度5%のアンモニア水を加えてpHを5.0に調整した後、未反応単量体を水蒸気蒸留で除去し、共重合体ラテックス1〜10を得た。
【0045】同様に、表−2に示す成分を使用する以外は共重合体ラテックス1と同様の方法にて重合を行った。なお、共重合体ラテックス16については、1段目の重合転化率が70%になった時点で2段目の成分を添加し、重合を行った。
【0046】これらのラテックスも、共重合体ラテックス1と同様未反応単量体を除去し、共重合体ラテックス11〜17を得た。
【0047】紙被覆用組成物の調整及び塗工紙の評価共重合体ラテックス1〜17を用いて下記の処方に基いて紙被覆用組成物を作成し、機械的安定性を測定した。更に、各組成物を市販の上質紙に塗工し、塗工紙を得た。
【0048】得られた塗工紙についてRIウェット・ピック強度、RIドライ・ピック強度、印刷光沢及びインクモトリングを測定した。結果を表−3及び表−4に示す。(処方)
カオリンクレー 80部
炭酸カルシウム 20部
変性デンプン 8部
共重合体ラテックス 12部(固形分)
【0049】
【表1】

・・(中略)・・
【0051】
【表3】



イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記ア.で摘示した甲2の記載(特に摘示(b3)「実施例3」)からみて、
「脂肪族共役ジエン系単量体であるブタジエン35重量%、エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体であるイタコン酸0.5重量%とエチレン系不飽和モノカルボン酸単量体であるアクリル酸及びメタクリル酸の合計3.3重量%およびこれらと共重合可能な他のモノオレフィン系単量体61.2重量%を乳化共重合してpH5.0として未反応単量体を除去してなるゲル含有量が52%で微細凝集物が非常に少ない紙被覆用に有用な共重合体ラテックス。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)甲3

ア.甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c1)
「【請求項1】 (1)共役ジエン系単量体、(2)エチレン系不飽和カルボン酸および(3)(2)以外のエチレン系不飽和単量体を含む単量体混合物を乳化重合するにあたり、最初の仕込段において、(2)エチレン系不飽和カルボン酸のうちエチレン系不飽和ジカルボン酸およびメタクリル酸の全量を含む、前記単量体混合物の全量の40重量%以下を重合反応器内に一括添加によって仕込んで、乳化重合を行なうことを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】 単量体混合物が、(1)共役ジエン系単量体20〜50重量%、(2)エチレン系不飽和カルボン酸0.2〜12重量%、および(3)(2)以外のエチレン系不飽和単量体50〜79.8重量%を含む請求項1記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項3】 共役ジエン系単量体が1,3−ブタジエンである請求項1または2記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項4】 共重合体ラテックスが50〜200nmの平均粒子径を有する請求項1または2記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項5】 共重合体ラテックスが20〜70重量%のゲル分を有する請求項4記載の共重合体ラテックスの製造方法。」

(c2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、共重合体ラテックスの製造方法に関し、詳しくは、接着強度、耐水性、インク着肉性、耐ブリスター性などの諸特性にバランスよく優れる紙塗工用組成物におけるバインダーとして有用であるほか、カーペット・バッキング剤やその他種々の接着剤などにも好適に用いることができる共重合体ラテックスの製造方法に関する。
・・(中略)・・
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上述したような従来の紙塗工用組成物における問題を解決するために鋭意研究した結果、(1)共役ジエン系単量体、(2)エチレン系不飽和カルボン酸及び(3)(2)以外のエチレン系不飽和単量体を含む単量体混合物を乳化重合するにあたり、最初の仕込段において、(2)エチレン系不飽和カルボン酸のうちエチレン系不飽和ジカルボン酸およびメタクリル酸の全量を含む、前記単量体混合物の全量の40重量%以下を重合反応器内に一括添加によって仕込んで、乳化重合を行うことによって、紙塗工用組成物においてバインダーとして好適に用いることができる共重合体ラテックスを得ることができることを見いだし、特にこのような共重合体ラテックスをバインダーとする紙塗工用組成物が、接着強度、耐水性、インク着肉性、および耐ブリスター性などにおいてバランスよく優れる塗工紙を与えることを見いだして、本発明に至ったものである。」

(c3)
「【0033】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において、「%」および「部」はすべて重量基準である。
【0034】実施例1
窒素置換した5リットル容量のオートクレーブに、第1段の仕込みとして、1,3−ブタジエン5部、スチレン7部、メタクリル酸メチル5部、イタコン酸1部、メタクリル酸1部、過硫酸カリウム0.5部、水100部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部およびオクタン酸2−メルカプトエチルエステル0.2部を仕込み、撹拌しながら、70℃で反応させた。反応開始から2時間後、第2段の仕込みとして、1,3−ブタジエン20部、スチレン39.5部、メタクリル酸メチル10部、アクリルニトリル5部、2−ヒドロキシエチルアクリレート2.5部、アクリル酸3部およびオクタン酸2−メルカプトエチルエステル0.5部を、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部と共に5時間に亘り連続的に逐次添加した。
【0035】15時間に亘って反応した後、重合転化率95%以上(単量体100部当たり)に達した時点で、得られた反応混合物を30℃まで冷却し、水酸化ナトリウムを用いてpH7.0に調整した。次いで、反応混合物に水蒸気を吹き込み、未反応単量体を除去し、さらに、ラテックスの固形分濃度を50%まで濃縮して、目的とする共重合体ラテックスを得た。
【0036】次に、このようにして得られた共重合体ラテックスを用いて、下記の組成を有する紙塗工用組成物を調製した。
カオリン(Engelhard社製,ウルトラホワイト−90、1級カオリン) 70部
重質炭酸カルシウム(Ecc社製、カービタール−90) 30部
ポリアクリル酸ソーダ(東亜合成化学工業(株)製、アロンT−40)0.1部
共重合体ラテックス 14部
変性澱粉(日本食品化工社製、MS−4600) 3部
水 全固形分60重量%となる量
このようにして調製した紙塗工用組成物を塗工量15.0±0.5g/m2となるように坪量64g/m2の上質紙の両面に塗工した後、120℃の熱風乾燥機で30秒乾燥した。得られた塗工紙を温度23℃、相対湿度60%にて一昼夜放置し、その後、線圧100kg/cm、ロール温度70℃にてスーパーキャレンダー処理を2回行った。このようにして得られた塗工紙の物性を測定した。結果を表4に示す。
【0037】実施例2〜10
表1および表2に示す単量体組成、重合連鎖移動剤組成および重合開始剤組成にて重合を行なった以外は、実施例1と同様に乳化重合を行なって、共重合体ラテックスを製造し、実施例1と同様にして、これを用いて紙塗工用組成物を調製し、さらに、これを用いて、塗工紙を調製し、得られた塗工紙の物性を測定した。結果を表4に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

・・(中略)・・
なお、塗工紙の各物性は、以下の方法にて測定し、評価した。
(1)トルエン不溶分(ゲル分)
得られた共重合体ラテックスをガラスモールドに流し、厚さ0.3mmのフィルムを作成する。このフィルムを2〜3mm角に切り、0.4gを精秤する。その試料をトルエン100mlに浸漬し、30℃の振盪式恒温槽で6時間振盪する。その後、100メッシュ金網で濾過し、ろ液の固形分を求め、このゾル固形分よりゲル分を算出する。
【0041】(2)接着強度(ドライピック)
RIテスター(明製作所(株)製)を用いてタックNo.10の墨インキで数回重ね刷りし、印刷面のピッキングを肉眼で判定し、数字「1」〜「5」で5段階評価した。数字の大きい方が接着強度に優れる。
【0042】(3)耐水性(ウエットピック)
RIテスターを用い、モルトンロールでテストピース表面に給水し、直後にタックNo.12の紅インキで印刷を行い、印刷面のピッキングを肉眼で判定し、数字「1」〜「5」で5段階評価した。数字の大きい方が耐水性に優れる。
【0043】(4)インク着肉性
耐水性試験と同様の方法により測定するが、耐水性測定の場合よりも、タック値の低いインキを使用し、ピッキングを起こさせないように印刷し、インキ転移の状態を肉眼で比較判定し、数字「1」〜「5」で5段階評価した。数字の大きい方がインク着肉性に優れる。
【0044】(5)ブリスター適性
ウェブオフセット用インキで両面ベタ印刷し、ブリスターテスター(熊谷理機(株)製)によってブリスター発生時の温度を測定する。
【0045】
【表4】

【0046】
・・(中略)・・
実施例および比較例から、本発明による共重合体ラテックスをバインダーとする紙塗工用組成物を用いて得られる塗工紙は、接着強度、耐水性、インク着肉性および耐ブリスター性のいずれの物性においてもバランスよく優れていることが明らかである。」

イ.甲3に記載された発明
甲3には、上記ア.で摘示した甲3の記載(特に摘示(c3)「実施例3」)からみて、
「脂肪族共役ジエン系単量体であるブタジエンを合計38重量%、エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体であるイタコン酸の0.5重量%、エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体であるアクリル酸とメタクリル酸を合計3重量%およびこれらと共重合可能な他のモノオレフィン系単量体の合計58.5重量%を乳化共重合してpH7.0として未反応単量体を除去してなるトルエン不溶分が42%の紙塗工用バインダー用に有用な共重合体ラテックス。」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

(4)甲4
甲4には、(A)感圧ゲル性を有する合成ゴム系ラテックス、(B)室温で液状の粘着付与樹脂のエマルジョンを含有してなる水性粘接着剤組成物であって、(A)合成ゴム系ラテックスの固形分100質量部に対して、(B)室温で液状の粘着付与樹脂のエマルジョンの樹脂分が50〜250質量部であることを特徴とする水性粘接着剤組成物が記載され(【請求項1】)、従来技術としてゴムラテックスを主成分とした、いわゆるコンタクト接着型の水性接着剤が知られており、これらの接着剤組成物はエマルジョンやラテックスを故意に不安定化させると、接着圧締した際にかかる圧力や水分の蒸発等によって急速にゲル化する性質を利用したもので、このような原理を利用した接着剤は、貼り合わせ直後に高い初期接着強さが得られることが大きな特徴であり、インラインでの大量生産が求められる工業用途においては広く用いられていることが記載されている(【0003】)。

2.取消理由A及び取消理由1について
取消理由Aと取消理由1は、いずれも、本件の各発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するか否かに係る理由であるので併せて検討する。

(1)甲1発明に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
(a)甲1発明における「ブタジエン」は、共役ジエン系単量体の一種であるとともに、
(c)甲1発明における「スチレン」、「メチルメタクリレート」、「アクリロニトリル」、「2−ヒドロキシエチルアクリレート」及び「2−エチルヘキシルアクリレート」は、いずれも、共役ジエン系単量体又はエチレン系不飽和カルボン酸単量体でなく、これらの単量体と共重合可能な単量体であって、
いずれの単量体も共重合しているのであるから、それぞれ、
(a)本件発明1における「共役ジエン系単量体単位」及び
(c)「共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位」に相当する。
また、(b)甲1発明における「アクリル酸」、「メタクリル酸」及び「イタコン酸」はいずれもエチレン系不飽和カルボン酸単量体であり、(b−2)特に「イタコン酸」は、二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体であって、
いずれも共重合しているのであるから、
(b)本件発明1における「エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位」及び
(b−2)「二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位」に相当する。
さらに、甲1発明における単量体の組成比に係る
(a)「ブタジエン45〜55質量%」、
(b)「アクリル酸2質量%」と「メタクリル酸1質量%」と「イタコン酸0.6質量%」との合計3.6質量%、
(b−2)「イタコン酸0.6質量%」並びに
(c)「スチレン15.4質量%」と「メチルメタクリレート3質量%」と「アクリロニトリル12質量%」と「2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量%」と「2−エチルヘキシルアクリレート10〜20質量%」との合計41.5〜51.4質量%は、それぞれ、
(a)本件発明1における「共役ジエン系単量体単位10質量%〜60質量%」、
(b)「エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%」、
(b−2)「二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%以上を含む」並びに
(c)「共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位25質量%〜89質量%」との間で一致又は少なくとも一部重複する。
そして、甲1発明における「水性接着剤用共重合体ラテックス」は、本件発明1における「共重合体ラテックス」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「(a)共役ジエン系単量体単位45〜55質量%
(b)(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.6質量%を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位3.6質量%、及び、
(c)共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位41.5〜51.4質量%
(ただし、(a)+(b)+(c)=100質量%)からなる共重合体を含み、
共重合体ラテックス。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1においては「pHが7.5以下であ」るのに対して、甲1発明では「pH8.0に調整してなる」点
相違点2a:本件発明1では「化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である」のに対して、甲1発明では凝集物発生率につき特定されていない点

(イ)検討

(a)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1には、専らラテックスのpHは8.0に調整しており、本件発明1のようにpH7.5以下に調整すべきことにつき記載又は示唆されていない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるものといえる。

(b)相違点2aについて
念のため、上記相違点2aについて検討するにあたり、まず、甲1の記載を検討すると、化学的安定性又はその物性に係る凝集物発生率については、記載も示唆もされていない。
それに対して、本件特許に係る明細書の記載を参酌すると、本件発明において(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位の量及びpHを調節することによりラテックスの化学的安定性につき調節することができることが記載されており(【0015】)、更に実施例に係る記載から、本願発明1に係る実施例の場合には、いずれも化学的安定性に係る凝集物発生率が3.2〜7.1%となるのに対して、エチレン系不飽和単量体単位の量が15質量%を超える場合(比較例B1)及びラテックスのpHが8を超える場合(比較例B3)には、化学的安定性に係る凝集物発生率が1%を下回るとともに、エチレン系不飽和単量体単位の量が低限値に近い1.1質量%であり、スチレンに置き換えた場合(比較例B2)には、化学的安定性に係る凝集物発生率が10%を超える傾向にあることが看取できる。
しかしながら、甲1発明のラテックスは、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位を3.6質量%含有している点では本件発明1と一致するものの、ラテックスのpHは8.0であり、本件発明1の「7.5以下である」との点を具備しないから、上記の比較例B3の実験結果を踏まえると、甲1発明のラテックスが、化学的安定性に係る凝集物発生率が1〜10%の範囲のものとなる蓋然性が高いということはできない。
したがって、上記相違点2aについても、実質的な相違点であるものといえる。

(ウ)小括
よって、本件発明1が、甲1発明すなわち甲1に記載された発明であるということはできない。

イ.本件発明2ないし4について
上記ア.で説示したとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるということはできないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし4についても、甲1に記載された発明であるということはできない。

ウ.甲1発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(2)甲2発明に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、
(a)甲2発明における「脂肪族共役ジエン系単量体」及び
(c)甲2発明における「これらと共重合可能な他のモノオレフィン系単量体」は、共役ジエン系単量体又はエチレン系不飽和カルボン酸単量体でなく、これらの単量体と共重合可能な単量体であって、
いずれの単量体も共重合しているのであるから、それぞれ、本件発明1における
(a)「共役ジエン系単量体単位」及び
(c)「共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位」に相当する。
また、(b)甲2発明における「エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体」及び「エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体」はいずれもエチレン系不飽和カルボン酸単量体であり、いずれも共重合しているのであるから、
(b)本件発明1における「エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位」及び
(b−2)「二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位」に相当する。
さらに、甲2発明における単量体の組成比に係る
(a)「脂肪族共役ジエン系単量体20〜60重量%」、
(b)「エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体0.5〜4重量%とエチレン系不飽和モノカルボン酸単量体を合計1〜6重量%」、
(b−2)「エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体0.5〜4重量%」並びに
(c)「共重合可能な他のモノオレフィン系単量体35〜77重量%」は、それぞれ、
(a)本件発明1における「共役ジエン系単量体単位10質量%〜60質量%」、
(b)「エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%」、
(b−2)「二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%以上を含む」並びに
(c)「共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位25質量%〜89質量%」との間で少なくとも一部重複する。
そして、甲2発明における「pH5.0として未反応単量体を除去してなる」は当該「pH5.0」が本件発明1における「pHが7.5以下」の範囲に入ることが明らかであり、甲2発明における「紙被覆用に有用な共重合体ラテックス」は、本件発明1における「共重合体ラテックス」に相当する。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「(a)共役ジエン系単量体単位20〜60質量%
(b)(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.5〜4重量%を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1〜6重量%、及び、
(c)共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位35〜77重量%
(ただし、(a)+(b)+(c)=100質量%)からなる共重合体を含み、
pH5.0である
共重合体ラテックス。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点2b:本件発明1では「化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である」のに対して、甲2発明では凝集物発生率につき特定されていない点

(イ)検討

(a)相違点2bについて
上記相違点2bについて検討すると、本件発明では、いわゆるコンタクト接着に有用な共重合体ラテックスを得ることを目的とし、優れた保存安定性を有しながら、貼り合わせ後の初期接着強度に優れ、且つ養生後の接着強度に優れる水性接着剤として使用することのできる共重合体ラテックスの提供を意図するものである(【0004】、【0007】)のに対して、甲2発明の共重合体ラテックスは、紙被覆用材料として有用なもので、機械的安定性に優れ、接着強度、インクモトリング、印刷光沢に優れた塗工紙を得るためのものである(【0001】、【0010】)から、その用途及び解決課題を全く異にするものである。
してみると、甲2発明のラテックスが、本件発明1の(a)〜(c)の発明特定事項を満たすものであっても、コンタクト接着に使用する水性接着剤の保存安定性と初期接着強度とのバランスに寄与する、化学的安定性試験における凝集物発生率について、本件発明1と同様の1〜10%の範囲を示すことは推認できるものとはいえないし、その蓋然性が高いということはできない。
したがって、上記相違点2bは、実質的な相違点であるものといえる。

(ウ)小括
よって、本件発明1が、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるということはできない。

イ.本件発明2及び3について
上記ア.で説示したとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明であるということはできないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2及び3についても、甲2に記載された発明であるということはできない。

ウ.甲2発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(3)甲3発明に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、
(a)甲3発明における「脂肪族共役ジエン系単量体であるブタジエン」及び
(c)甲3発明における「これらと共重合可能な他のモノオレフィン系単量体」は、共役ジエン系単量体又はエチレン系不飽和カルボン酸単量体でなく、これらの単量体と共重合可能な単量体であって、
いずれの単量体も共重合しているのであるから、それぞれ、本件発明1における
(a)「共役ジエン系単量体単位」及び
(c)「共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位」に相当する。
また、(b)甲3発明における「エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体」及び「エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体」はいずれもエチレン系不飽和カルボン酸単量体であり、いずれも共重合しているのであるから、
(b)本件発明1における「エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位」及び
(b−2)「二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位」に相当する。
さらに、甲3発明における単量体の組成比に係る
(a)「脂肪族共役ジエン系単量体であるブタジエンを合計25〜55重量%」、
(b)「エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体の合計0.5〜2.5重量%とエチレン系不飽和モノカルボン酸単量体を合計1〜7重量%」、
(b−2)「エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体の合計0.5〜2.5重量%」並びに
(c)「共重合可能な他のモノオレフィン系単量体39〜70重量%」は、それぞれ、
(a)本件発明1における「共役ジエン系単量体単位10質量%〜60質量%」、
(b)「エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%」、
(b−2)「二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%以上を含む」並びに
(c)「共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位25質量%〜89質量%」との間で少なくとも一部重複する。
そして、甲3発明における「pH7.0として未反応単量体を除去してなる」は当該「pH7.0」が本件発明1における「pHが7.5以下」の範囲に入ることが明らかであり、甲3発明における「紙塗工用バインダー用に有用な共重合体ラテックス」は、本件発明1における「共重合体ラテックス」に相当する。
してみると、本件発明1と甲3発明とは、
「(a)共役ジエン系単量体単位25〜55重量%
(b)(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.5〜2.5重量%を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1〜7重量%、及び、
(c)共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位39〜70重量%
(ただし、(a)+(b)+(c)=100質量%)からなる共重合体を含み、
pH7.0である
共重合体ラテックス。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点2c:本件発明1では「化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である」のに対して、甲3発明では凝集物発生率につき特定されていない点

(イ)検討

(a)相違点2cについて
上記相違点2cについて検討すると、本件発明では、いわゆるコンタクト接着に有用な共重合体ラテックスを得ることを目的とし、優れた保存安定性を有しながら、貼り合わせ後の初期接着強度に優れ、且つ養生後の接着強度に優れる水性接着剤として使用することのできる共重合体ラテックスの提供を意図するものである(【0004】、【0007】)のに対して、甲3発明の共重合体ラテックスは、紙塗工用組成物として有用なもので、接着強度、耐水性、インク着肉性及び耐ブリスター性に優れた塗工紙を得るためのものである(【0001】、【0008】)から、その用途及び解決課題を全く異にするものである。
してみると、甲3発明のラテックスが、本件発明1の(a)〜(c)の発明特定事項を満たすものであっても、コンタクト接着に使用する水性接着剤の保存安定性と初期接着強度とのバランスに寄与する、化学的安定性試験における凝集物発生率について、本件発明1と同様の1〜10%の範囲を示すことは推認できるものとはいえないし、その蓋然性が高いということはできない。

したがって、上記相違点2cは、実質的な相違点であるものといえる。

(ウ)小括
よって、本件発明1が、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるということはできない。

イ.本件発明2及び3について
上記ア.で説示したとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明であるということはできないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2及び3についても、甲3に記載された発明であるということはできない。

ウ.甲3発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲3に記載された発明であるとはいえない。

(4)取消理由A及び取消理由1に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、いずれも甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
よって、上記取消理由A及び取消理由1はいずれも理由がない。

3.取消理由2について
以下、甲1発明を主たる引用発明として、取消理由2につき検討する。

(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記2.(1)ア.(ア)で示したとおり、本件発明1と甲1発明とは、
「(a)共役ジエン系単量体単位45〜55質量%
(b)(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.6質量%を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位3.6質量%、及び、
(c)共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位41.5〜51.4質量%
(ただし、(a)+(b)+(c)=100質量%)からなる共重合体を含み、
共重合体ラテックス。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1においては「pHが7.5以下であ」るのに対して、甲1発明では「pH8.0に調整してなる」点
相違点2a:本件発明1では「化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である」のに対して、甲1発明では凝集物発生率につき特定されていない点

(2)検討
上記相違点1及び2につき甲1の記載を検討しても、貼り合わせ直後のコンタクト接着性に優れ、且つ耐熱クリープ性及び養生後の接着強度に優れる水性接着剤用共重合体ラテックスの提供を課題とすることは開示されている(摘示(a2)【0004】)ものの、ラテックスのpH及び化学的安定性試験における凝集物発生率を特定の範囲とすることにより、当該課題が解決できることが記載又は示唆されているものではないから、甲1発明において、「pHが7.5以下であ」り「化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である」との事項を具備するようにすることを、当業者が想起し得るような動機となる事項が存するものとはいえない。
また、甲1発明に対して甲4に記載された事項を組み合わせることにつき検討すると、甲4には「コンタクト接着型の水性接着剤・・組成物はエマルジョンやラテックスを故意に不安定化させると、接着圧締した際にかかる圧力や水分の蒸発等によって急速にゲル化する性質を利用したもので、このような原理を利用した接着剤は、貼り合わせ直後に高い初期接着強さが得られることが大きな特徴であ」ることは記載されているものの、本件発明1における「化学的安定性試験における凝集物」に関する記載又は示唆はないし、ラテックスをどの程度まで不安定化させると、本件発明が課題とする保存安定性及び貼り合わせ直後のコンタクト接着性に優れ、且つ耐熱クリープ性及び養生後の接着強度に優れる水性接着剤組成物が得られるのかについては不明であるから、甲1発明において甲4に記載された事項を組み合わせたとしても、本件発明に係る相違点2aの「化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である」との点は、当業者が適宜なし得ることということはできない。
してみると、上記相違点1及び相違点2aは、甲1発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件発明2ないし4は、いずれも本件発明1を引用するものであるから、本件発明2ないし4についても、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(3)取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲1に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人が主張する上記取消理由2は理由がない。

4.取消理由3について

(1)本件発明の解決課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0004】)からみて、「優れた保存安定性を有しながら、貼り合わせ後の初期接着強度に優れ、且つ養生後の接着強度に優れる水性接着剤として使用することのできる共重合体ラテックス」の提供にあるものと認められる。

(2)検討
本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載を更に検討すると、
「共役ジエン系単量体とエチレン性不飽和カルボン酸単量体を必須成分とする共重合体ラテックスは、一般に、保存安定性(分散安定性)に優れるものの、化学的安定性試験における凝集物発生率で評価される化学的安定性も高いため初期の接着強度が低いが、pHを低くすると、保存安定性を保ちながらも、化学的安定性を低下させることができ、これにより接着剤として使用した際の初期及び養生後の接着強度を向上させることができる」こと(【0005】)、
「(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位が、共重合体中に占める割合は、1質量%〜15質量%であ」り「(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲に設定することにより、共重合体ラテックスの分散安定性(保存安定性)を良好に保つことができる」と共に「(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位を多く含む場合には、通常、ラテックスの化学的安定性も高くなる」が「ラテックスのpHを8以下とすることにより、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含み、保存安定性を良好に保ちつつも化学的安定性は低くすることを実現した」こと(【0014】〜【0015】)、
「本実施形態の共重合体ラテックスは、化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上であ」り、「一般に、共重合体ラテックスについては、保存安定性の観点から、その化学的安定性は良好な(すなわち、化学的安定性試験における凝集物発生率が小さい)方が、好ましいと考えられている」が、「共重合体ラテックスの化学的安定性を低下させたとしても直ちには保存安定性の低下につながらず、また、共重合体ラテックスを接着剤として使用した場合の初期接着においては、被接着材に接着剤を塗布して貼り合わせた際に共重合体同士が凝集してポリマー鎖が絡み合うことにより接着強度が発現し、化学的安定性試験における凝集物発生率が高いほど被接着剤に塗布した際の共重合体同士の凝集が起こりやすく、接着強度が速やかに発現すること」(【0022】)、
「共重合体ラテックスの化学的安定性試験における凝集物発生率は、共重合体ラテックスのpHと、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位とヒドロキシアルキル基を有する単量体単位各々の含有量により調整することができ」、「一般に、共重合体中に占めるエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位とヒドロキシアルキル基を有する単量体単位の各々の含有量が少ないほど凝集物発生率は高くなる」から、「(b)エチレン不飽和カルボン酸単量体単位とヒドロキシアルキル基を有する単量体単位は多すぎないことが好ましく、具体的には、(b)エチレン不飽和カルボン酸単量体単位は、15質量%以下であることが好ましく、」「ヒドロキシアルキル基を有する単量体単位は、10質量%以下であることが・・好ましい」こと(【0023】)、
「化学的安定性試験における凝集物発生率は、共重合体ラテックスのpHを低くすると高くな」り、「共重合体ラテックスは(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位を含むが、高いpHではエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位のカルボキシル基の解離が進んで、化学的安定性試験における凝集物発生率は低下する」が、「pHを8以下という低い値にすることにより、保存安定性に寄与する総カルボキシル基量には影響を与えることなくカルボキシル基の解離を少なくし、凝集物発生率を1%とする」こと「により、共重合体ラテックスの化学的安定性のみを低下させ、接着剤として使用した場合の初期接着強度を高めることができ」、「共重合体ラテックスの化学的安定性試験における凝集物発生率は、好ましくは2%以上、更に好ましくは3%以上である」「一方、保存安定性の観点からは、凝集物発生率は高すぎないことが好ましく、10%以下が・・好ましい」こと(【0024】〜【0025】)、及び、
「共重合体ラテックスのpHは、8以下であり、好ましくは7.5以下、更に好ましくは7以下であ」り、「pHを上記に設定することにより、化学的安定性試験における凝集物発生率を1%以上にすることが出来」、「共重合体ラテックスのpHに下限値はないが、あまりpHが低いと保存安定性が悪くなることもあるため、1以上であることが・・好ましい」こと(【0041】)が記載されており、これらの記載からみて、本件発明は、「(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位の含有量」、「ラテックスのpH」及び「化学的安定性試験における凝集物発生率」の各事項を請求項1に記載されたとおりに特定することにより、本件発明に係る上記課題を解決できるものと当業者が認識できるような作用機序が記載されているものといえる。
また、実施例(比較例)の実験結果から、「(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位の含有量」、「ラテックスのpH」及び「化学的安定性試験における凝集物発生率」の各事項のうち、いずれかの事項を具備しない比較例B1、B2又はB3の場合、それら全ての事項を具備する実施例A1ないしA15の場合に比して、上記課題を解決できないことが看取できるものといえる。
そして、他に本件請求項1に記載された事項を具備する場合であっても、本件発明の上記課題を解決できないであろうとすべき、当業者の技術常識が存するものとも認められず、申立人は、その点につき何ら論証していない。
なお、申立人は、本件申立書において、「本件特許発明1〜3は、他の(共) 重合体ラテックスと混合された結果、水性接着剤としてのpHが8.0を超える共重合体ラテックスや、水性接着剤以外の広範な用途(各種塗料、塗工紙用バインダー、各種コーティング剤など)に使用される共重合体ラテックスを含むものであ」り、「本件特許発明4は、本件特許発明1〜3の共重合体ラテックスと他の(共)重合体ラテックスとが混合された結果、pHが8.0を超えた水性接着剤を含むものである。」と主張し、「そのため、本件特許発明1〜4は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて」いる旨主張する(申立書第21〜22頁)。
しかしながら、そもそも請求項1に記載された事項を具備する共重合体ラテックスに対して他のラテックスや添加剤を加えることにより、pH7.5を超えた共重合体ラテックスは、その時点で請求項1に記載された事項を具備しないものとなっていることは明らかであって、本件発明1の共重合体ラテックスではないから、本件の請求項1ないし3に係る申立人の主張は当を得ないものである。
また、申立人は、「本件特許発明1〜3の共重合体ラテックスと他の(共)重合体ラテックスとが混合された結果、pHが8.0を超えた水性接着剤を含む」本件請求項4に記載の水性接着剤組成物について、本件発明にかかる課題を解決できないと当業者が認識し得る事項につき何ら論証しているものではないから、本件の請求項4に係る申立人の主張も当を得ないものである。

(3)取消理由3に係るまとめ
以上を総合すると、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、本件の請求項1ないし4に記載された事項を具備する発明が、本件発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載されているものということができるから、本件の請求項1ないし4に記載した事項を具備する発明は、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえる。
したがって、本件請求項1ないし4は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているものである。
よって、申立人が主張する取消理由3は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許に対する令和3年8月6日付け訂正請求は、適法であるから、これを認める。
また、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、また、当審が通知した取消理由についても理由がないから、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)共役ジエン系単量体単位10質量%〜60質量%、
(b)(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%以上を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%、及び、
(c)共役ジエン系単量体及び/又はエチレン系カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体単位25質量%〜89質量%
(ただし、(a)+(b)+(c)=100質量%)からなる共重合体を含み、
pHが7.5以下であり、
化学的安定性試験における凝集物発生率が1%以上10%以下である、
共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜15質量%が、
(b1)一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1質量%〜14.95質量%と、
(b2)二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位0.05質量%〜1質量%とからなる、
請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
ゲル分率が、40質量%〜95質量%である、
請求項1又は2に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の共重合体ラテックスを含む、水性接着剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-28 
出願番号 P2016-161484
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 福井 悟
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
登録日 2020-07-17 
登録番号 6736421
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 共重合体ラテックス  
代理人 竹内 工  
代理人 内藤 和彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 竹内 工  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
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