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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1384060
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-29 
確定日 2021-12-06 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6730500号発明「水性液剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6730500号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕、8、9について訂正することを認める。 特許第6730500号の請求項1ないし6、8、9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
(1)特許第6730500号の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和1年9月30日を出願日とする特願2019−178167号(優先日 平成30年10月1日、同年12月25日)であって、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がされ、同年7月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1〜6、8、9に係る特許について、令和3年1月29日に特許異議申立人馬場正宏(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。以降の主な手続の経緯は次のとおりである。

令和3年3月 9日付け:取消理由通知書
令和3年6月10日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)の提出
令和3年9月 2日 :意見書(申立人)の提出

(2)上記の手続において提出された証拠方法は、次のとおりである。

甲1:特開2012−246304号公報
甲2:特表2013−523828号公報
甲3:特開2013−35802号公報
甲4: オフロキサシンゲル化点眼液0.3% 「わかもと」 医薬品インタビューフォーム,2016年4月、わかもと製薬株式会社
甲5: ヒアレイン○R点眼液0.1%、ヒアレイン○Rミニ点眼液0.1%、ヒアレイン○R点眼液0.3%、ヒアレイン○Rミニ点眼液0.3%、医薬品インタビューフォーム、2018年7月、参天製薬株式会社
(当審注:「○の中にR」の丸英文字(登録商標)を表記できないため、「○R」のように表す。以下同様。)
<以上、申立人が特許異議申立書とともに提出>

甲6:日本食品工業学会誌,1965年,第12巻,第1号,p.1〜4
甲7:高分子論文集,1981年,Vol.38,No.3,p.133〜137
甲8:甲1の平成26年5月26日付けの手続補正書
甲9:第十六改正 日本薬局方解説書,廣川書店,2011年,A-8〜A-9
甲10:アイファガン○R点眼液0.1% ブリモニジン酒石酸塩点眼液 医薬品インタビューフォーム,2013年5月,千寿製薬株式会社
<以上、申立人が意見書とともに提出>

乙1:Nihon Reoroji Gakkaishi,2009年,Vol.37,No.5,p.247〜251
乙2:高分子,1978年,27巻,4月号,p.235〜240
乙3:特許第6132968号公報
乙4:特許第5478680号公報
乙5:特許第5268231号公報
乙6:特許第4549485号公報
乙7:試験報告書,令和3年6月8日,千寿製薬株式会社
<以上、特許権者が意見書とともに提出>

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年6月10日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。なお、下線部は訂正箇所である。

(1)一群の請求項1〜7に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「水溶性高分子」と記載されているのを、「セルロース系高分子化合物」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「水性液剤。」と記載されているのを、「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「水溶性高分子が、セルロース系高分子化合物、ポリビニル系高分子化合物及び多糖類から選択される少なくとも1種を含む」と記載されているのを、「セルロース系子高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びこれらの塩から選択される少なくとも1種を含む」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「水溶性高分子」と記載されているのを、「セルロース系高分子化合物」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「水溶性高分子」と記載されているのを、「セルロース系高分子化合物」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩であり、
ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩であり、
ポリヘキサニド及び/又はその塩が、塩酸ポリヘキサニドであり、且つ
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の濃度が0.5w/v%であり、
ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.1w/v%であり、
塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.1〜10ppmである、
請求項1〜6のいずれかに記載の水性液剤。」と記載されているのを、請求項1〜6を引用しない独立形式に改め、
「水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、pHが5.0〜7.5であり、
水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩であり、
ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩であり、
ポリヘキサニド及び/又はその塩が、塩酸ポリヘキサニドであり、且つ
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の濃度が0.5w/v%であり、
ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.1w/v%であり、
塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.1〜10ppmである、
水性液剤。」に訂正する。

(2)請求項8に係る訂正
ア 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「水溶性高分子並びに」と記載されているのを、「セルロース系高分子化合物並びに」に訂正する。

イ 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「水性液剤中で」と記載されているのを、「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)中で」に訂正する。

ウ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「水溶性高分子、ブリモニジン及び/又は」と記載されているのを、「セルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び/又は」に訂正する。

(3)請求項9に係る訂正
ア 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9に「水溶性高分子」と記載されているのを、「セルロース系高分子化合物」に訂正する。

イ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9に「水性液剤」と記載されているのを、「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)一群の請求項1〜7に係る訂正について
ア 訂正事項1、4、5について
訂正事項1、4、5は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0018】のセルロース系高分子化合物の定義及び【0061】の記載に基づいて、請求項1、5、6の「水溶性高分子」を、「セルロース系高分子化合物」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の「水性液剤。」を、「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。」として、取消理由通知において引用された甲2に記載された発明において必須成分とされている「ベンザルコニウムイオン」を含む場合を除くことにより限定するものであり、ベンザルコニウムイオンを含まない実施例1等の組成からみても、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2において、「水溶性高分子」について、「セルロース系高分子化合物、ポリビニル系高分子化合物及び多糖類から選択される少なくとも1種を含む」とされていたのを、「セルロース系高分子化合物」に限定した上で、さらに、本件明細書の【0052】等の記載に基づいて、「セルロース系高分子化合物」として具体的に例示されていた「カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びこれらの塩から選択される少なくとも1種を含む」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項6について
訂正事項6は、請求項7が、請求項1〜6を引用する形式で記載されていたのを、訂正前の請求項1の記載を用いて独立形式に改めたものであり、実質的な内容の変更を伴うものではないから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)請求項8に係る訂正について
ア 訂正事項7、9について
訂正事項7、9は、本件明細書の【0018】のセルロース系高分子化合物の定義及び【0061】の記載に基づいて、請求項8の「水溶性高分子」を、「セルロース系高分子化合物」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項8について
訂正事項8は、請求項8の「水性液剤」を、「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)」として、取消理由通知において引用された甲2に記載された発明において必須成分とされている「ベンザルコニウムイオン」を含む場合を除くことにより限定するものであり、ベンザルコニウムイオンを含まない実施例1等の組成からみても、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)請求項9に係る訂正について
ア 訂正事項10について
訂正事項10は、本件明細書の【0018】のセルロース系高分子化合物の定義、【0061】の記載に基づいて、請求項9の「水溶性高分子」を、「セルロース系高分子化合物」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項11について
訂正事項11は、請求項9の「水性液剤」を、「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)」として、取消理由通知において引用された甲2に記載された発明において必須成分とされている「ベンザルコニウムイオン」を含む場合を除くことにより限定するものであり、ベンザルコニウムイオンを含まない実施例1等の組成からみても、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)独立特許要件について
特許異議申立てがされた請求項1〜6、8、9についての訂正事項1〜5、7〜11、及び、特許異議申立てがされていない請求項7についての「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正事項6に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は課されない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和3年6月10日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕、8、9について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1〜9に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(なお、下線部は訂正箇所である。請求項7は特許異議の申立ての対象ではない。)。

「【請求項1】
セルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、pHが5.0〜7.5である、水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。
【請求項2】
セルロース系子高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びこれらの塩から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の水性液剤。
【請求項3】
セルロース系高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩を含む、請求項2に記載の水性液剤。
【請求項4】
ポリヘキサニド及び/又はその塩の濃度が0.01〜30ppmである、請求項1〜3いずれかに記載の水性液剤。
【請求項5】
セルロース系高分子化合物の濃度が0.1〜2.0w/v%である、請求項1〜4のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項6】
セルロース系高分子化合物の濃度が0.1〜2.0w/v%であり、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、且つ
ポリヘキサニド及び/又はその塩の濃度が0.01〜30ppmである、
請求項1〜5のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項7】
水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、pHが5.0〜7.5であり、
水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩であり、
ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩であり、
ポリヘキサニド及び/又はその塩が、塩酸ポリヘキサニドであり、且つ
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の濃度が0.5w/v%であり、
ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.1w/v%であり、
塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.1〜10ppmである、
水性液剤。
【請求項8】
セルロース系高分子化合物並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含み、pHが5.0〜7.5である水性液剤の粘度を安定化する方法であって、
pHが5.0〜7.5の水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)中でセルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を共存させる工程を含む、粘度安定化方法。
【請求項9】
セルロース系高分子化合物並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含み、pHが5.0〜7.5である水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)の粘度を安定化するために使用される粘度安定化剤であって、
ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、粘度安定化剤。」

第4 令和3年3月9日付け取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
(1)取消理由1(サポート要件)
請求項1〜6、8、9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(実施可能要件
請求項8、9に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(甲1を主引例とする進歩性
請求項1〜6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲1:特開2012−246304号公報

(4)取消理由4(甲2を主引例とする進歩性
請求項1〜6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲2:特表2013−523828号公報
甲3:特開2013−35802号公報

2 取消理由1(サポート要件)についての当審の判断
(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本件発明1〜6、8、9が、出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

(2)本件発明1〜6、8、9の課題
本件特許の請求項1〜6、8、9の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載(特に、【0001】、【0005】、【0006】、【0050】の記載)によれば、本件発明1〜6は、セルロース系高分子化合物並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤において、「経時的に粘度が低下するという課題」及び「経時的にブリモニジン及び/又はその塩の含量が低下するという課題」の両方を解決するものであると認められる。
また、本件発明8及び9は、セルロース系高分子化合物、並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤において、「経時的に粘度が低下するという課題」を解決するものであると認められる。

(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
ア 本件明細書には、「セルロース系高分子化合物」は、水溶性高分子の一種であり、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びこれらの塩等があり、経時的な粘度の低下をより効果的に抑制するという観点及び経時的なブリモニジン及び又はその塩の含量の低下をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはCMCナトリウムがよいことが記載されている(【0018】、【0052】)。
また、水溶性高分子並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤に、ポリヘキサニド及び/又はその塩を含有させることによって、該水性液剤の経時的な粘度の低下を抑制でき、更に該水性液剤中のブリモニジン及び/又はその塩の含量が経時的に低下するのを抑制することが可能になり、ポリヘキサニド及びその塩の中でも、水性液剤の経時的な粘度の低下をより一層効果的に抑制するという観点から、特に好ましくは塩酸ポリヘキサニドが挙げられることが記載されている(【0068】、【0074】)。

イ 60℃で2週間保存後の水性液剤の粘度維持率についての実験の結果として、表1には、CMCナトリウムA及びブリモニジン酒石酸塩を含有し、塩酸ポリヘキサニドを含まない水性液剤(比較例1)は、粘度維持率は88%であり、90%を下回っていたのに対して、CMCナトリウムA又はB、及びブリモニジン酒石酸塩と共に塩酸ポリヘキサニドを含む水性液剤(実施例1〜6)では、粘度維持率が90%以上であり、塩酸ポリヘキサニドの濃度依存的に粘度維持率が向上したことが示されている(【0138】、【0140】の表1)。また、表3には、HEC及びブリモニジン酒石酸塩を含有し、塩酸ポリヘキサニドを含まない水性液剤(比較例6)は、粘度維持率が94%であったのに対し、HEC、ブリモニジン酒石酸塩と共に塩酸ポリヘキサニドを含む水性液剤(実施例8)では、粘度維持率が97%であり、塩酸ポリヘキサニドによって粘度維持率が向上したことが示されている(【0150】、【0151】の表3)。

ウ 60℃で2週間保存後の水性液剤のブリモニジン含量維持率についての実験の結果として、表2には、CMCナトリウム及びブリモニジン酒石酸塩を含有し、塩酸ポリヘキサニドを含まない水性液剤(比較例1、2)は、ブリモニジン含量維持率は97%未満であったのに対して、CMCナトリウム及びブリモニジン酒石酸塩と共に塩酸ポリヘキサニドを含む水性液剤(実施例1〜6)では、ブリモニジン含量維持率が97%以上であり、塩酸ポリヘキサニドの濃度依存的にブリモニジン含量維持率が向上したことが示されている(【0145】、【0146】の表2)。また、表4には、MC及びブリモニジン酒石酸塩を含有し、塩酸ポリヘキサニドを含まない水性液剤(比較例9)は、ブリモニジン含量維持率は97%未満であったのに対し、MC及びブリモニジン酒石酸塩と共に塩酸ポリヘキサニドを含む水性液剤(実施例15、16)では、ブリモニジン含量維持率が97%以上であり、塩酸ポリヘキサニドの濃度依存的にブリモニジン含量維持率が向上したことが示されている(【0155】、【0156】の表4)。

(4)上記(3)によれば、CMCナトリウムやHECなどのセルロース系高分子化合物とブリモニジン又はその塩を含有する水性液剤において、ポリへキサニド又はその塩を添加することにより、「経時的に粘度が低下するという課題」及び「経時的にブリモニジン及び/又はその塩の含量が低下するという課題」の両方を解決することができることを、当業者が認識することができる。
そうすると、セルロース系高分子化合物とブリモニジン又はその塩と共に、ポリへキサニド又はその塩を含有する、本件発明1〜6、8、9は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題を解決することができると当業者が認識できる範囲のものである。

(5)申立人の主張について
ア 申立人は、本件明細書の【0001】、【0005】、【0031】、【0034】の記載に基づけば、本件発明の課題は、水溶性高分子並びにブリモニジン及び/又はその塩を含んでいながら、一定期間の保存後に粘度維持率が90%以上、ブリモニジン含量維持率が97%以上である水性液剤を提供することであると理解できる旨を主張する(異議申立書9〜10頁の「イ」)。
また、申立人は、本件明細書の表3の比較例6は、HECを含む場合には、ポリヘキサニドを添加せずとも、粘度維持率が94%となり、本件発明の課題が解決されているから、本件発明は、本件発明の課題解決手段によって解決する対象でないものを包含するから、本件発明は、本件明細書に記載されたものとはいえない旨を主張する(異議申立書14〜15頁の「オ」)。

しかしながら、本件明細書の【0001】、【0005】、【0030】、【0031】、【0034】、【0035】等の記載によれば、セルロース系高分子化合物並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤において、「経時的に粘度が低下するという課題」及び「経時的にブリモニジン及び/又はその塩の含量が低下するという課題」が解決できるというためには、課題を解決するための手段であるポリヘキサニド及び/又はその塩を用いることにより、一定期間保存後の水性液剤における、粘度の低下とブリモニジン含量の低下が抑制されればよいと解される。
そして、表3の比較例6は、粘度維持率が94%であるが、塩酸ポリヘキサニドを含ませることで粘度維持率が97%に向上しているから(実施例8)、比較例6の水溶液は、上記(3)イのとおり、塩酸ポリヘキサニドを含まない場合に、その程度はともかく粘度低下がおきており、粘度低下という課題を有していると解されるから、比較例6が課題解決の対象に含まれることは明らかである。
したがって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。

イ 申立人は、粘度低下をポリヘキサニドが抑制する作用機序は本件明細書及び技術常識から明らかではなく、水溶性高分子を含む水性液剤の粘度低下は、水溶性高分子の種類、重合度等の構造や、濃度等の相違により、程度が異なることは、当業者によって自明な事項であるから(甲6、甲7)、本件明細書に、CMCナトリウムA及びHECを使用した場合に塩酸ポリヘキサニドによって粘度低下を抑制できることが実証されていたとしても、CMCナトリウムA及びHECと種類(官能基、分子鎖等)、重合度等の構造が異なり、粘度低下の程度が異なる(粘度低下が大きい)セルロース系高分子化合物を使用した場合に、塩酸ポリヘキサニドによって、粘度低下を抑制できることまで、本件明細書に十分な裏付けをもって開示されているとはいえない旨を主張する(異議申立書10〜14頁の「エ」、令和3年9月2日提出の意見書2〜9頁)。

しかしながら、本件明細書には、表2及び表4において、セルロース系高分子化合物として、CMCナトリウムA、B又はHECを用いた場合に、塩酸ポリヘキサニドを添加することによって、粘度維持率の低下が抑制されたことが示されているから、CMCナトリウムA、B又はHECと基本骨格が共通するセルロース系高分子化合物を用いた場合には、同様に、ポリヘキサニド及び/又はその塩を添加することにより粘度維持率の低下が抑制されると当業者であれば理解できる。
そして、共通する基本骨格を有するセルロース系高分子化合物の場合であっても、具体的な構造等が違えば、ポリヘキサニド及び/又はその塩による粘度維持率の低下の抑制ができなくなると解するべき特段の事情が存在しているともいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 申立人は、本件明細書の実施例16において、保存後のブリモニジン含量維持率が101%となっており、保存前(100%)より保存後のブリモニジン含量が増加する結果が得られてしまうような実験手法が妥当なものか疑わしいうえに、ブリモニジン含量維持率の結果は1%程度の誤差が含まれてしまうものと当業者は理解したはずであり、ポリヘキサニドを添加した場合と添加しなかった場合との差が1%以内のものが複数存在しており(表2の比較例2と実施例4、表4の比較例8と実施例11)、「ブリモニジン含量維持率が97%以上となること」が、本件明細書に実験的に十分裏付けをもって開示されていると当業者は理解しない旨を主張する(異議申立書15〜16頁「カ」、令和3年9月2日提出の意見書10〜13頁の「ウ」)。

しかしながら、保存後のブリモニジン含量維持率が101%となっていることから、1%程度の誤差があり得るといえるものの、表2の比較例1と実施例1〜3、表2の比較例2と実施例4〜6、表4の比較例9と実施例15〜16をみると、塩酸ポリヘキサニドを添加していない比較例1、2、9よりも、塩酸ポリヘキサニドした実施例1〜3、4〜6、15〜16は、濃度依存的にブリモニジン含量維持率が増加するという明確な傾向が読み取れる。
そうすると、1%程度の誤差があることを考慮しても、ポリヘキサニド及び/又はその塩を添加することにより、ブリモニジン含量維持率の低下が抑制できることを当業者であれば理解できる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(6)小括
以上によれば、本件発明1〜6、8、9は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすから、取消理由1によって本件発明1〜6、8、9に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由2(実施可能要件)についての当審の判断
(1)上記2(3)に示した本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、セルロース系高分子化合物とブリモニジン又はその塩を含有する水性液剤において、ポリへキサニド又はその塩を添加することにより、水性液剤の粘度低下を抑制することができることを、当業者が理解することができる。
そうすると、セルロース系高分子化合物並びにブリモニジン又はその塩を含有する水性液剤の粘度を、ポリへキサニド又はその塩を添加することにより安定化することができ、本件発明8に係る粘度安定化方法、及び、本件発明9に係る粘度安定化剤の発明を実施できることを当業者が理解することができる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明8に係る粘度安定化方法、及び、本件発明9に係る粘度安定化剤について、当業者が実施可能な程度に、明確かつ十分に記載されている。

(2)申立人の主張について
申立人は、取消理由1についての主張と同様に、本件明細書は、あらゆるセルロース系高分子化合物と、ブリモニジンとの組合せからなる水性液剤を含む本件発明8及び9により本件特許発明の課題が解決できることを、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないから、本件発明8及び9は、実施可能要件を欠いている旨を主張する(異議申立書16〜17頁の「(4−2)」、令和3年9月2日提出の意見書15〜16頁の「(3)」)。

しかしながら、上記2(5)イのとおり、実施例において用いられたCMCナトリウムA、B又はHECと基本骨格が共通するセルロース系高分子化合物であれば、ポリへキサニド及び/又はその塩を添加することにより、粘度維持率の低下が抑制されると当業者であれば理解できる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
以上によれば、本件発明8、9は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすから、取消理由2によって本件発明8、9に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由3(甲1を主引例とする進歩性)についての当審の判断
(1)甲1発明
甲1に記載された事項(特に、請求項19〜22、【0016】、【0021】、【0027】、実施例8)によれば、甲1には、5−ブロモ−6−(2−イミダゾリン−2−イルアミノ)キノキサリン(当審注:ブリモニジン)又はその塩等のα−2−アドレナリンアゴニスト成分に、ポリビニルアルコール等の溶解度向上成分(SEC)及び保存剤を加えた水性眼用組成物が開示され、具体的には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリビニルアルコール 0.1−1w/v%、
ブリモニジンタートレート 0.1w/v%、
保存剤 0.001−0.1w/v%、
(例えばセトリミド、クロルヘキシジン、Polyquad又はPHMB)
及び精製水を含む、 pH7.7の水性眼用組成物。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ブリモニジンタートレート 0.1w/v%」は、本件発明1の「ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%」に相当し、甲1発明の「水性眼用組成物」は、ベンザルコニウムイオンを含まないことから、本件発明1の「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)」に相当する。
また、甲1発明の「ポリビニルアルコール」と本件発明1の「セルロース系高分子化合物」は、「水溶性高分子」である限りにおいて共通する。
さらに、甲1には、PHMBは、ポリヘキサメチレンビグアニドである保存剤であることが記載され(【0090】)、ポリヘキサメチレンビグアニドは、ポリヘキサニドの別名であるから(必要ならば、例えば、特開2016−77798号公報の【0042】等を参照。)、甲1発明の「PHMB」は、本件発明1の「ポリヘキサニド」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「水溶性高分子並びにブリモニジン及び/又はその塩を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%である、水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。」
<相違点1>
本件発明1は、ポリヘキサニド及び/又はその塩を含むのに対して、甲1発明は、「保存剤(例えばセトリミド、クロルヘキシジン、Polyquad又はPHMB)」を含むものであって、保存剤をPHMB(ポリヘキサニド)に特定していない点。
<相違点2>
本件発明1は、pHが5.0〜7.5であるのに対し、甲1発明は、pHが7.7である点。
<相違点3>
水溶性高分子が、本件発明1においては、セルロース系高分子化合物であるのに対して、甲1発明においては、ポリビニルアルコールである点。

イ 判断
(ア)甲1発明におけるポリビニルアルコールは、「非イオン性の溶解度向上成分(SEC)」として用いられているところ、甲1には、「非イオン性の溶解度向上成分(SEC)」として使用可能なものとして、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体が記載されている(【0021】、【0029】、【0049】、【0084】)。
また、甲1には、好ましい保存剤の一つとして、PHMB(ポリヘキサニド)が記載されている(【0090】)。
さらに、甲1には、中性又はアルカリ性のpHが、より容易なα−2−アドレナリンアゴニスト成分(ブリモニジン)の細胞膜通過を可能にすることから、好ましくはpH約7.0〜8.5とすることが記載されている(【0013】、【0017】)。

(イ)しかしながら、本件発明1は、セルロース系高分子化合物並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤において、ポリへキサニド又はその塩を配合することにより、経時的な粘度低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制するものであるところ、甲1には、上記(ア)の記載はあるものの、甲1発明の組成物の粘度低下やブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制する手段について開示も示唆もない。
そうすると、粘度低下の抑制及びブリモニジン及び/又はその塩の含量低下の抑制のために、甲1発明において、ポリビニルアルコールをセルロース誘導体に変更する(相違点3)と同時に、保存剤を甲1に記載されたPHMB(ポリへキサニド)に特定する(相違点1)ことが、当業者が容易に想到し得たということはできない。
したがって、pHについての相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(ウ)そして、本件発明1が、経時的な粘度低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制する効果を奏することは、甲1の記載から、当業者が予測可能なものではない。

(エ)よって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の発明特定事項を全て包含し、それを更に特定したものである。
したがって、上記(2)に説示したものと同様の理由により、本件発明2〜6は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
申立人は、甲1発明を、相違点1〜3に係る本件発明1の構成を有するものとすることは当業者が容易に想到し得ることであり、また、取消理由1及び2について述べたように、いかなるセルロース系高分子化合物を含む水性液剤であっても、ポリヘキサニドを添加することにより、粘度低下が抑制され、ブリモニジンの含量低下が抑制されることは、本件明細書から到底認められないから、本件発明1が、甲1からは予想できない格別顕著な効果を奏するとはいえない旨を主張する(異議申立書17〜38頁の「(4−3)」、令和3年9月2日提出の意見書17〜27頁の「(4)」)。

しかしながら、上記2の取消理由1について説示したように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、実施例において使用されたもの以外のセルロース系高分子化合物を含む水性液剤であっても、ポリヘキサニドを添加することにより、粘度低下が抑制され、ブリモニジンの含量低下が抑制されることを当業者が認識することができる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(5)小括
以上によれば、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、取消理由3によって取り消すことはできない。

5 取消理由4(甲2を主引例とする進歩性)についての当審の判断
(1)甲2発明
甲2に記載された事項(特に、請求項8、請求項11、【0043】)によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「微生物の攻撃から眼科用液剤を保護するのに十分なベンザルコニウムイオンとポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)との組合せを含み、ベンザルコニウムイオン及びPHMBそれぞれ単独では、微生物の攻撃から前記眼科用液剤を保護するのに不十分な量である、ベンザルコニウムイオン0.1〜30ppmとPHMB0.1〜10ppmを含む、水性系眼科用液剤。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
上記4(2)アに説示したとおり、甲2発明の「ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)」は、本件発明1の「ポリヘキサニド」に相当する。
甲2発明の「水性系眼科用液剤」は、本件発明1の「水性液剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、水性液剤。」
<相違点1’>
本件発明1は、ブリモニジン及び又はその塩を含有するのに対し、甲2発明は、対応する事項を特定していない点。
<相違点2’>
本件発明1は、セルロース系高分子化合物を含有するのに対し、甲2発明は、対応する事項を特定していない点。
<相違点3’>
本件発明1は、pH5.0〜7.5であるのに対し、甲2発明は、pHを特定していない点。
<相違点4’>
水性液剤が、本件発明1においては、「但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く」ものであるのに対し、甲2発明においては、ベンザルコニウムイオンを含む点。

イ 判断
(ア)甲2には、眼科用組成物に添加された際、微生物の攻撃に対して組成物を安定させるが、眼刺激等の悪影響をもたらさない低濃度での使用が可能となる保存剤を提供することを課題とすることとし、その課題を解決する手段が、甲2発明における「ベンザルコニウムイオンとポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)との組合せ」であることが記載されている(【0005】、【0006】)。
そうすると、甲2発明から、課題を解決する手段であるベンザルコニウムイオンを除くことには阻害要因があり、甲2発明を、相違点4’に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないし、甲3に記載された眼科用製剤における粘稠化剤についての周知技術(【0036】)を検討しても同様である。
したがって、相違点1’〜3’について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、容易に想到することができたとはいえない。

(イ)そして、本件発明1が、経時的な粘度低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制することができるという効果を奏することは、甲1の記載及び周知技術(甲3)から、当業者が予測可能なものではない。

(ウ)よって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の発明特定事項を全て包含し、それを更に特定したものである。
したがって、上記(2)に説示したものと同様の理由により、本件発明2〜6は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
申立人は、眼科用組成物において、角膜等の人体組織に悪影響が及ぼされることが周知であるベンザルコニウムイオンを保存剤として使用しないように望まれていた(国際公開2015/125921号の[0003]及び[0004])から、甲2発明がベンザルコニウムイオンを所定量含むものであったとしても、当業者であれば、甲2発明においてベンザルコニウムイオンを含まないようにすることは容易に想到し得ることである旨を主張する(令和3年9月2日提出の意見書28〜31頁の「(5)」)。
しかしながら、ベンザルコニウムイオンが、角膜等の人体組織に悪影響を及ぼすことが周知であるとしても、甲2発明は、ベンザルコニウムイオンを使用することを前提とする発明であるから、そのような変更を当業者が行うことには、阻害要因があるといわざるを得ない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(5)小括
以上によれば、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、取消理由4によって取り消すことはできない。

第5 取消理由通知書において取り上げなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、申立理由1(請求項1〜6、8、9に対するサポート要件違反)、申立理由2(請求項1〜6、8、9に対する実施可能要件違反)、申立理由3(請求項1〜6、8、9に対する甲1を主引例とする進歩性欠如)、及び、申立理由4(請求項1〜6、8、9に対する甲2を主引例とする進歩性欠如)を主張している。
そこで、取消理由通知書において取り上げなかった申立理由2〜4について、以下、検討する。

1 申立理由2〜4の要旨
(1)申立理由2(請求項1〜6に対する実施可能要件違反)
請求項1〜6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由3(請求項8、9に対する甲1を主引例とする進歩性欠如)
請求項8、9に係る発明は、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由4(請求項5、6、8、9に対する甲2を主引例とする進歩性欠如)
請求項5、6に係る発明は、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項8、9に係る発明は、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5、6、8、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(なお、請求項5、6に係る発明についての申立理由4は、甲1を副引用例として用いている点で、取消理由4と異なるものである。)

2 申立理由2(請求項1〜6に対する実施可能要件違反)についての当審の判断
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明1〜6に係る「水性液剤」という物の発明について実施可能要件を満たすというためには、本件出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、上記「水性液剤」を製造し、使用をすることができるものでなければならない。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明には、上記第4の2(3)のとおりの記載があり、セルロース系高分子化合物の種類やその使用量、ポリヘキサニドの使用量等の本件発明1〜6に係る水性液剤を製造するために必要な事項が記載されている。
そして、ブリモニジン及び又はその塩は、眼圧低下作用を示す緑内障の治療に用いられる成分であることは本件出願時の技術常識であるから、ブリモニジン又はその塩を含む本件発明1〜6に係る水性液剤を、緑内障の治療において使用できることを当業者は理解することができる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1〜6に係る水性液剤について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されている。

(3)申立人の主張について
申立人は、本件明細書は、あらゆるセルロース系高分子化合物とブリモニジンとの組合せからなる水性液剤を含む本件発明1〜6により本件発明の課題が解決できる水性液剤、すなわち、一定時間保存後に粘度維持率が90%以上、ブリモニジン含量維持率が97%以上である水性液剤を製造するためには、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があり、実施可能要件を欠いている旨を主張する(異議申立書16〜17頁の「(4−2)」)。

しかしながら、本件発明1〜6に係る水性液剤を製造できるというためには、当該水性液剤を製造でき、使用することができれば足り、申立人が主張する上記の課題を解決できる水性液剤を製造できることは必要ではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上によれば、本件発明1〜6は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすから、申立理由2によって本件発明1〜6に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(請求項8、9に対する甲1を主引例とする進歩性欠如)についての当審の判断
(1)本件発明8について
ア 対比
本件発明8と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ブリモニジンタートレート 0.1w/v%」は、本件発明8の「0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩」に相当し、甲1発明の「水性眼用組成物」は、ベンザルコニウムイオンを含まないことから、本件発明8の「水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)」に相当する。
また、甲1発明の「ポリビニルアルコール」と本件発明1の「セルロース系高分子化合物」は、「水溶性高分子」である限りにおいて共通する。
さらに、甲1には、PHMBは、ポリヘキサメチレンビグアニドである保存剤であることが記載され(【0090】)、ポリヘキサメチレンビグアニドは、ポリヘキサニドの別名であるから(必要ならば、例えば、特開2016−77798号公報の【0042】等を参照。)、甲1発明の「PHMB」は、本件発明8の「ポリヘキサニド」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲8発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「水溶性高分子並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含む、水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。」
<相違点1’’>
水性液剤が、本件発明8においては、ポリヘキサニド及び/又はその塩を含むのに対して、甲1発明においては、「保存剤(例えばセトリミド、クロルヘキシジン、Polyquad又はPHMB)」を含むものの、保存剤をPHMB(ポリヘキサニド)に特定していない点。
<相違点2’’>
水性液剤が、本件発明8においては、pHが5.0〜7.5であるのに対し、甲1発明においては、pHが7.7である点。
<相違点3’’>
水溶性高分子が、本件発明8においては、セルロース系高分子化合物であるのに対して、甲1発明においては、ポリビニルアルコールである点。
<相違点4’’>
本件発明8は、「水性液剤」「中でセルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を共存させる工程を含む」「水性液剤の粘度を安定化する方法」であるのに対し、甲1発明は、「水性眼用組成物」であって、その粘度を安定化する方法ではない点。

イ 判断
(ア)甲1には、水性眼用組成物の粘度を安定化することについては、何ら記載も示唆もされておらず、甲1発明において、ポリビニルセルロースに代えてセルロース系高分子化合物を採用し(相違点3’’)、保存剤としてPHMB(ポリヘキサニド)を選択することで(相違点1’’)、水性眼用組成物の粘度を安定化する方法(相違点4’’)とできることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
そうすると、pHを5.0〜7.5とする相違点2’’について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)そして、本件発明8が、経時的な粘度低下を抑制することができるという効果を奏することは、甲1の記載から、当業者が予測可能なものではない。

(ウ)したがって、本件発明8は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることはできたものではない。

(2)本件発明9について
ア 対比
上記(1)アの対比を踏まえると、本件発明9と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「水溶性高分子並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含む、水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。」
<相違点5’’>
本件発明9は、「ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、」「水性液剤」「の粘度を安定化するために使用される粘度安定化剤」であるのに対し、甲1発明は、水性眼用組成物中に「保存剤(例えばセトリミド、クロルヘキシジン、Polyquad又はPHMB)」を含むものの、PHMBを「粘度安定化剤」として含むものではない点。
<相違点6’’>
水性液剤が、本件発明9においては、pHが5.0〜7.5であるのに対し、甲1発明においては、pHが7.7である点。
<相違点7’’>
水溶性高分子が、本件発明9においては、セルロース系高分子化合物であるのに対して、甲1発明においては、ポリビニルアルコールである点。

イ 判断
(ア)甲1には、水性眼用組成物の粘度を安定化することについては、何ら記載も示唆もされておらず、甲1発明において、ポリビニルセルロースに代えてセルロース系高分子化合物を採用し(相違点7’’)、保存剤としてPHMB(ポリヘキサニド)を選択することで(相違点5’’)、PHMB(ポリヘキサニド)が、水性眼用組成物の粘度安定化剤となることを(相違点5’’)、当業者が容易に想到することができるとはいえない。
そうすると、pHを5.0〜7.5とする相違点6’’について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)そして、本件発明9が、経時的な粘度低下を抑制することができるという効果を奏することは、甲1の記載から、当業者が予測可能なものではない。

(ウ)したがって、本件発明9は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人の主張について
申立人は、甲1に記載された発明として、水性液剤中で、水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を共存させる工程を含む発明を認定したうえで、上記工程を含む甲1に記載された発明は、水性液剤の粘度を安定化させており、また、点眼剤の粘度を安定にすることは周知の課題であり(甲4、甲5)、甲1に記載された発明においても、粘度が安定化していることを確認することに困難性はなかったから、本件発明8は当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する(異議申立書32〜34頁の「(キ)」)。
また、申立人は、甲1に記載された発明は、水溶性高分子及びブリモニジンの塩にポリヘキサニドの塩を使用しており、ポリヘキサニドが粘度を安定化できるという属性を発見したとしても、本件発明9は、ポリヘキサニドの用途として新たな用途を提供していないから、「用途発明」に該当せず、本件発明9は、甲1に記載された発明から容易に想到し得た旨を主張する(異議申立書34〜38頁の「(ク)」)。

しかしながら、甲1に、水溶性高分子及びブリモニジンの塩にポリヘキサニドの塩を適用(使用)している発明が記載されていると認めることはできないから、申立人の上記主張は、いずれもその前提において誤りがあり、採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明8、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由3よって取り消すことはできない。

4 申立理由4(請求項5、6、8、9に対する甲2を主引例とする進歩性欠如)
(1)本件発明5、6について
本件発明1を更に特定したものである本件発明5、6と甲2発明とを対比すると、上記第4の5(2)アに説示した相違点1’〜4’において少なくとも相違している。
そして、本件発明5、6についての申立理由3は、副引用例として甲1を追加している点のみが、取消理由4と異なる。
しかしながら、甲1には、水溶性高分子を0.1〜1w/v%含むことは記載されているものの(【0030】、実施例8)、甲1の上記の記載を考慮しても、甲2発明において、相違点1’〜4’に係る本件発明5、6の構成を有するものとすることはできない。
したがって、本件発明5、6は、甲2に記載された発明、甲1に記載された事項及び周知技術(甲3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明8について
ア 本件発明8と甲2発明とを対比する。
上記第4の5(2)アの対比を踏まえると、本件発明8と甲2発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、水性液剤。」
<相違点1’’’>
水性液剤が、本件発明8においては、セルロース系高分子化合物並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び又はその塩を含有し、pHが5.0〜7.5であるのに対し、甲2発明においては、対応する事項を特定していない点。
<相違点2’’’>
水性液剤が、本件発明8においては、「但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く」ものであるのに対し、甲2発明においては、ベンザルコニウムイオンを含む点。
<相違点3’’’>
本件発明8は、「水性液剤」「中でセルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を共存させる工程を含む、」「水性液剤の粘度を安定化する方法」の発明であるのに対し、甲2発明は、「水性眼用組成物」の発明であって、粘度を安定化する方法の発明ではない点。

イ 判断
(ア)上記第4の5(2)イに説示したとおり、甲2発明から、課題を解決する手段であるベンザルコニウムイオンを除くことには阻害要因があり、甲2発明を、相違点2’’’に係る本件発明8の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないし、甲3に記載された眼科用製剤における粘稠化剤についての周知技術を検討しても同様である。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、容易に想到することができたとはいえない。

(イ)そして、本件発明8が、経時的な粘度低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制することができるという効果を奏することは、甲2の記載から、当業者が予測可能なものではない。

(ウ)したがって、本件発明8は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明9について
ア 対比
上記第4の5(2)アの対比を踏まえると、本件発明9と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、水性液剤。」
<相違点4’’’>
水性液剤が、本件発明9においては、セルロース系高分子化合物並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び又はその塩を含有し、pHが5.0〜7.5であるのに対し、甲2発明においては、対応する事項を特定していない点。
<相違点5’’’>
水性液剤が、本件発明9においては、「但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く」ものであるのに対し、甲2発明においては、ベンザルコニウムイオンを含む点。
<相違点6’’’>
本件発明9は、「ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、」「水性液剤」「の粘度を安定化するために使用される粘度安定化剤」の発明であるのに対し、甲1発明は、「水性系眼科用液剤」の発明であって、その中に含まれる「ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)」は、微生物の攻撃から眼科用液剤を保護するために使用する剤である点。

イ 判断
(ア)上記第4の5(2)イに説示したとおり、甲2発明から、課題を解決する手段であるベンザルコニウムイオンを除くことには阻害要因があり、甲2発明を、相違点5’’’に係る本件発明9の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないし、甲3に記載された眼科用製剤における粘稠化剤についての周知技術を検討しても同様である。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、容易に想到することができたとはいえない。

(イ)そして、本件発明9が、経時的な粘度低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制することができるという効果を奏することは、甲2の記載から、当業者が予測可能なものではない。

(ウ)したがって、本件発明9は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることはできたものではない。

(4)申立人の主張について
上記第4の5(4)のとおり、申立人は、眼科用組成物において、角膜等の人体組織に悪影響が及ぼされることが周知であるベンザルコニウムイオンを保存剤として使用しないように望まれていたから、甲2発明がベンザルコニウムイオンを所定量含むものであったとしても、当業者であれば、甲2発明においてベンザルコニウムイオンを含まないようにすることは容易に想到し得ることである旨を主張し(令和3年9月2日提出の意見書28〜31頁の「(5)」)、本件発明8、9について、更に次の点を主張する。
(i)甲2には、「水溶性高分子」、「ブリモニジン及び/又はその塩」、及び「ポリヘキサニド及び/又はその塩」を含む一体組成物として記載していない点が相違点であったとしても、甲2からその点を当業者が容易に想到し得たものであり、また、点眼剤の粘度を安定にすることは周知の課題であった(甲4、甲5)。そうすると、点眼剤の技術分野に属する甲2に記載された発明においても、粘度が安定化していることを確認することに困難性はなかったから、本件発明8は、甲2に記載された発明に対して、進歩性を有さない(異議申立書49〜51頁の「(キ)」)。
(ii)甲2に記載された発明は、水溶性高分子及びブリモニジンの塩にポリヘキサニドの塩を使用しているから、ポリヘキサニドが粘度を安定化できるという属性を発見したとしても、本件発明9は、ポリヘキサニドの用途として新たな用途を提供していないから、本件発明9は用途発明に該当せず、本件発明9は、甲2に記載された発明に対して、進歩性を有さない(異議申立書51〜53頁の「(ク)」)。

しかしながら、ベンザルコニウムイオンが、角膜等の人体組織に悪影響を及ぼすことが周知であるとしても、甲2発明においてベンザルコニウムイオンを使用しなければ、甲2発明の課題を解決できないことは明らかであるから、そのような変更を当業者が行うことには、阻害要因があるといわざるを得ない。
したがって、上記(i)(ii)の主張を検討するまでもなく、本件発明8、9が甲2に記載された発明に対して進歩性を有さない旨の申立人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明8、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由4によって取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、令和3年3月9日付け取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明1〜6、8、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1〜6、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、pHが5.0〜7.5である、水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)。
【請求項2】
セルロース系高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びこれらの塩から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の水性液剤。
【請求項3】
セルロース系高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩を含む、請求項2に記載の水性液剤。
【請求項4】
ポリヘキサニド及び/又はその塩の濃度が0.01〜30ppmである、請求項1〜3いずれかに記載の水性液剤。
【請求項5】
セルロース系高分子化合物の濃度が0.1〜2.0w/v%である、請求項1〜4のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項6】
セルロース系高分子化合物の濃度が0.1〜2.0w/v%であり、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、且つ
ポリヘキサニド及び/又はその塩の濃度が0.01〜30ppmである、
請求項1〜5のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項7】
水溶性高分子、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を含み、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05〜0.1w/v%であり、pHが5.0〜7.5であり、
水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩であり、
ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩であり、
ポリヘキサニド及び/又はその塩が、塩酸ポリヘキサニドであり、且つ
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の濃度が0.5w/v%であり、
ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.1w/v%であり、
塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.1〜10ppmである、
水性液剤。
【請求項8】
セルロース系高分子化合物並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含み、pHが5.0〜7.5である水性液剤の粘度を安定化する方法であって、
pHが5.0〜7.5の水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)中でセルロース系高分子化合物、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにポリヘキサニド及び/又はその塩を共存させる工程を含む、粘度安定化方法。
【請求項9】
セルロース系高分子化合物並びに0.05〜0.1w/v%のブリモニジン及び/又はその塩を含み、pHが5.0〜7.5である水性液剤(但し、ベンザルコニウムイオンを含む場合を除く)の粘度を安定化するために使用される粘度安定化剤であって、
ポリヘキサニド及び/又はその塩を含む、粘度安定化剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-25 
出願番号 P2019-178167
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (A61K)
P 1 652・ 537- YAA (A61K)
P 1 652・ 536- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 藤原 浩子
渕野 留香
登録日 2020-07-06 
登録番号 6730500
権利者 千寿製薬株式会社
発明の名称 水性液剤  
代理人 田中 順也  
代理人 迫田 恭子  
代理人 迫田 恭子  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 水谷 馨也  

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