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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1384079
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-27 
確定日 2022-01-06 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6750645号発明「ポリテトラフルオロエチレン組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6750645号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 特許第6750645号の請求項1−3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6750645号(請求項の数3。以下、「本件特許」という。)は、平成30年5月22日を出願日とする特許出願(特願2018−97927号、以下「本願」という。)に係るものであって、令和2年8月17日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年9月2日である。)

その後、令和3年2月27日に、本件特許の請求項1〜3に係る特許に対して、特許異議申立人である玉田尚志(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

(1)特許異議申立以降の経緯
令和3年 2月27日 特許異議申立書
同年 6月22日付け 取消理由通知書
同年 8月30日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 9月15日付け 通知書(申立人宛)
同年10月29日 意見書(申立人)

(2)証拠方法
ア 申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。

・甲第1号証:特公昭60−18696号公報
・甲第2号証:特公昭56−34020号公報
・甲第3号証:特開昭51−126241号公報
・甲第4号証:特開2011−184827号公報
・甲第5号証:本願の審査段階における令和1年11月28日付け意見書
・甲第6号証:本願の令和2年4月8日付けの審判請求書
・甲第7号証:特開2008−208159号公報
・甲第8号証:特開平5−255564号公報


第2 訂正の適否についての判断
令和3年8月30日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。
(以下、「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。)

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「平均繊維長が100μm以下であり」と記載されているのを、「平均繊維長が40μm以上100μm以下であり」に訂正する。

(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項2〜3は、それぞれ訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正前の請求項1〜3は一群の請求項である。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の「繊維状フィラー」の「平均繊維長」について、「100μm以下であり」と上限のみ特定されていたのを、「40μm以上100μm以下であり」と下限の特定も追加し、「繊維状フィラー」の「平均繊維長」をより特定・減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1による「繊維状フィラー」の「平均繊維長」の下限を特定する訂正は、本件明細書の段落【0033】に「平均繊維長の下限値は限定されないが、例えば、40μmである」と記載されていることから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内であるといえる。
また、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことも明らかである。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件発明
上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第6750645号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜3のとおりのものである(以下、請求項1〜3に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明3」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンと繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーは、炭素繊維であり、平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上であり、
前記繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン組成物(但し、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物を除く。)。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、60〜97質量%である請求項1記載のポリテトラフルオロエチレン組成物。
【請求項3】
前記繊維状フィラーの含有量は、3〜20質量%である請求項1又は2記載のポリテトラフルオロエチレン組成物。」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が令和3年6月22日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)取消理由A(明確性
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜3の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由A(明確性)について」「ア 取消理由A(明確性)の概要」に記載した点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由B(新規性
ア 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「取消理由B−1」という。)。
イ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「取消理由B−2」という。)。
ウ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「取消理由B−3」という。)。
よって、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、同法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由C(進歩性
ア 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「取消理由C−1」という。)。
イ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「取消理由C−2」という。)。
ウ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「取消理由C−3」という。)。
よって、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1(サポート要件)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜3の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(1)申立理由1(サポート要件)について」「ア 申立理由1(サポート要件)の概要」に記載した点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(新規性
ア 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「申立理由2−1」という。取消理由B−1と同趣旨である。)。
イ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「申立理由2−2」という。取消理由B−2と同趣旨である。)。
ウ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「申立理由2−3」という。取消理由B−3と同趣旨である。)。
エ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(以下「申立理由2−4」という。)。
よって、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、同法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(進歩性
ア 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「申立理由3−1」という。取消理由C−1と同趣旨である。)。
イ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「申立理由3−2」という。取消理由C−2と同趣旨である。)。
ウ 本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下「申立理由3−3」という。取消理由C−3と同趣旨である。)。
よって、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項
1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリテトラフルオロエチレン組成物に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、繊維状フィラーを含むにも関わらず、延伸加工性に優れるポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と記載する)組成物を提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本開示のPTFE組成物は、繊維状フィラーを含むにも関わらず、延伸加工性に優れる。
・・・
【0013】
従来、繊維状のフィラーを含有したPTFE組成物は耐圧縮クリープ特性や耐摩耗性に優れていたが、延伸加工には使用できないことが当業者の技術常識であり、延伸加工性について検討されていなかった。本発明者等が鋭意検討したところ、特定の繊維状フィラーを用いると、驚くべきことに、繊維状フィラーを含むにも関わらず、延伸加工性に優れるPTFE組成物とすることができることが見出された。
すなわち、本開示のPTFE組成物は、PTFEと繊維状フィラーとを含み、上記繊維状フィラーは、平均繊維長が100μm以下であり、かつ、繊維長160μm超の割合が15質量%以下である。上記構成を有することによって、圧縮強度等の機械的強度に優れ、かつ、延伸加工性に優れるPTFE組成物となる。」

(本b)「【0014】
上記PTFEは、TFE単位のみを含むホモPTFEであっても、TFE単位とTFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む変性PTFEであってもよい。
また、上記PTFEは、非溶融加工性及びフィブリル化性を有する高分子量PTFEであってもよいし、溶融加工性を有し、フィブリル化性を有しない低分子量PTFEであってもよいが、非溶融加工性及びフィブリル化性を有する高分子量PTFEであることが好ましい。
【0015】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン[CTFE]等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン[VDF]等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン;エチレン;ニトリル基を有するフッ素含有ビニルエーテル等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
・・・
【0032】
上記PTFEは、粒子状であることが好ましく、平均粒子径が1〜2000μmであることが好ましい。上記平均粒子径は、1000μm以下であることがより好ましく、700μm以下であることが更に好ましい。また、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。平均粒子径が大きすぎると、成形や繊維状フィラーと混合することが困難になるおそれがあり、平均粒子径が小さすぎると、PTFE組成物の流動性が劣るおそれがある。」

(本c)「【0033】
本開示のPTFE組成物は特定の繊維状フィラーを含む。ポリテトラフルオロエチレンと特定の繊維状フィラーを含むことによって、圧縮強度等の機械的強度を向上させるとともに、延伸加工性も優れたものとなる。
上記繊維状フィラーは、平均繊維長が100μm以下である。上記平均繊維長は、延伸加工性がより向上することから、95μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが更に好ましい。
平均繊維長の下限値は限定されないが、例えば、40μmである。
上記平均繊維長は、走査型電子顕微鏡の200倍像を任意で10視野分撮影し、200本の繊維長を計測して、平均繊維長(重量基準)を求める。また、繊維長160μm超の割合及び繊維長80μm未満の割合は、走査型電子顕微鏡の200倍像を任意で10視野分撮影し、200本の繊維長を計測して、その分布からそれぞれの割合を読み取り、算出する。
【0034】
上記繊維状フィラーは、機械的強度保持、ポリテトラフルオロエチレンとの混合性の観点から、平均繊維径が1〜25μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましく、5〜20μmであることが更に好ましい。
上記平均繊維径は、走査型電子顕微鏡の200倍像を任意で10視野分撮影し、200本の繊維長を計測して、数平均繊維径を求める。
【0035】
上記繊維状フィラーは、繊維長160μm超の割合が15質量%以下である。延伸加工性がより向上することから、繊維長160μm超の割合は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、4質量%以下が更に好ましい。
【0036】
上記繊維状フィラーは、機械的強度を優れたものにするとともに、延伸加工性を優れたものとする観点から、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上であることが好ましい。上記割合は80質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
上記繊維長160μm超の割合及び80μm未満の割合は、走査型電子顕微鏡の200倍像を任意で10視野分撮影し、200本の繊維長を計測して、その分布よりそれぞれの割合を読み取り、算出する。
・・・
【0039】
上記繊維状フィラーとしては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、セラミック繊維、ロックウール、スラグウール、チタン酸カリウムウイスカー、シリコーンカーバイドウイスカー、サファイアウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、ウオラストナイト、銅線、鋼線、ステンレス鋼線、炭化ケイ素繊維等;芳香族ポリアミド繊維、レーヨン、フェノール樹脂、ポリベンゾイミダゾール繊維等の有機繊維;等が挙げられる。このうち、樹脂との分散性の観点から、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
上記炭素繊維としてはPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等のいずれでもよい。また、等方性炭素繊維でも、異方性炭素繊維であってもよい。
【0040】
上記繊維状フィラーは、耐摩耗性の観点から、比重が1.3以上2.0未満であることが好ましく、1.4〜1.9であることがより好ましい。上記比重は、ブタノール置換法(JIS R 7222)に準拠して求めることができる。」

(本d)「【0041】
本開示のPTFE組成物は、PTFEの含有量が、60〜97質量%であることが好ましい。PTFEの含有量は、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、また、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下が更に好ましい。
【0042】
本開示のPTFE組成物は、繊維状フィラーの含有量が、3〜40質量%であることが好ましい。3質量%未満であると、フィラーの充填効果が発現しないおそれがあり、40質量%を超えると、機械的物性が著しく低下するおそれがある。
繊維状フィラーの含有量は、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましく、また、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0043】
本開示のPTFE組成物は、PTFE及び繊維状フィラーのみからなるものであってもよいし、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
上記他の成分としては、金属、無機または有機の補強用充填材や相溶化剤、潤滑剤(フッ化カーボン、カーボングラファイト、二硫化モリブデン)、安定剤など種々の添加剤を組み合わせて配合することができる。」

(本e)「【実施例】
【0047】
つぎに本開示のPTFE組成物を実施例をあげて説明するが、本開示のPTFE組成物はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例で用いる原料化合物を説明する。
【0049】
(1)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
PTFE(A)
商品名:ポリフロンM−18F、ダイキン工業株式会社製、標準比重(SSG):2.164、融点:344.9℃
(2)繊維状フィラー
[カーボンファイバー(A)]
平均繊維長53.0μm、繊維長160μm超の割合0.5質量%、繊維長80μm未満の割合94.0質量%、アスペクト比:3.9
[カーボンファイバー(B)]
平均繊維長56.0μm、繊維長160μm超の割合3.0質量%、繊維長80μm未満の割合81.0質量%、アスペクト比:3.9
[カーボンファイバー(C)]
平均繊維長114.0μm、繊維長160μm超の割合21.0質量%、繊維長80μm未満の割合43.0質量%、アスペクト比:9.5
[カーボンファイバー(D)]
平均繊維長118.0μm、繊維長160μm超の割合10.0質量%、繊維長80μm未満の割合52.0質量%、アスペクト比:8.7
【0050】
実験例で評価する特性の各種測定方法について説明する。
【0051】
圧縮強度
実施例1〜2、比較例1〜2の各樹脂組成物210gを成形圧力49.0MPaで加圧成形した後、370℃で焼成し、円柱状成形体(外径50mm、高さ50mm)を得た。この成形体から圧縮強度試験用の試験片(外径10mm、高さ20mm)を作製し、島津製作所製のオートグラフAG−Iを用いて、試験片高さが25%変形するまで、10mm/minの速度で圧縮し、その際の応力を測定した。
【0052】
ピンホール
実施例1〜2、比較例1〜2の各樹脂組成物210gを成形圧力30MPaで加圧成形した後、370℃で焼成し、円柱状成形体(外径50mm、高さ50mm)を得た。この成形体をスカイブ加工することで厚みがおよそ0.13mmのシートを作製した。このシートを島津製作所製のオートグラフAGS−J引張試験機を用いて、延伸倍率が2倍になるまで、50mm/minの速度で延伸し、その際に生じる成形体のピンホールの数を観察した。ピンホールの観察には実態顕微鏡の40倍像を任意で10視野分撮影し、その平均を算出した。
【0053】
カーボンファイバーの平均繊維長(重量基準)、繊維長160μm超の割合、繊維長80μm未満の割合は、走査型電子顕微鏡の200倍像を任意で10視野分撮影し、200本の繊維長を計測してその繊維長の分布より算出した。
【0054】
実施例1
懸濁重合により得られたポリテトラフルオロエチレン樹脂の粉末(上記PTFE(A))を90質量部と、カーボンファイバー(A)を10質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、PTFE組成物を得た。
【0055】
実施例2及び比較例1〜2
繊維状フィラーの種類を表1に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてPTFE組成物を得た。
【0056】
【表1】


【0057】
表1からわかるように、平均繊維長が100μm以下であり、160μm超のカーボンファイバー割合が15質量%以下であることによって、優れた圧縮強度を有しながら、ピンホールの数が少なく、破断もしない成形品が得られることがわかる。」

2 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【特許請求の範囲】
1 ポリテトラフルオロエチレンに、平均大きさが10μ以下であり且つ最大の大きさが20μ以下である様に粉砕された炭素繊維微粉末を均一に添加混合してなるポリテトラフルオロエチレン組成物。」(第1頁左欄第1〜6行)

(甲1b)「而して本発明者は、前記の如き問題点の認識に基づいて、PTFEに炭素繊維を添加混合した組成物について種々の研究、検討を重ねた結果、次の様な興味深い新規知見を得るに至った。即ち、従来の炭素繊維入りPTFE組成物は、炭素繊維の長さが100μ以上であり、これが前記各種欠点の原因となっていることが見い出されたものである。・・・そこで本発明者は更に炭素繊維を微粉砕処理して平均大きさ10μ以下の微粉末として、PTFEに添加混合すると表面平滑性が多量の充填量によっても著しく改善されること、軸受として用いた場合、相手材の摩耗を著しく小さくでき、しかも従来の炭素繊維と異つて微量の添加混合によって著しく、PTFEの耐摩耗性を改善できる等の事実が見い出されたものである。即ち、長さ/径の比を1以下にするのが有効であることを見出した。
かくして、本発明は、前記の知見に基づいて完成されたものであり、ポリテトラフルオロエチレンに、平均大きさが10μ以下であり且つ最大の大きさが20μ以下である様に粉砕された炭素繊維微粉末を均一に添加混合してなるポリテトラフルオロエチレン組成物を新規に提供するものである。」(第1頁右欄第21行〜第2頁左欄第22行)

(甲1c)「本発明において、炭素繊維としては従来より周知乃至公知のものなどが、平均大きさが10μ以下であり且つ20μ以下の最大長さであれば、特に限定されることなく種々採用され、例えば・・・などが例示され得る。・・・
而して炭素繊維微粉末はその最大長さ及び平均大きさが重要であり、最大長さは20μ以下、好ましくは15μ以下が採用される。また、平均大きさは10μ以下、好ましくは8μ〜1μ程度が採用される。平均大きさが小さ過ぎる場合、例えば超微粉末状ではPTFEの粉末(20μ〜40μ)をとり囲み粉末同志の融着を妨げる為に添加量を増大できにくい。尚、最大長さや平均大きさが大き過ぎる場合には、前述の如き種々の難点があり、また小さ過ぎるものは、入手の容易性例えば粉砕処理の困難性などに難点がある。本発明においては、最大長さや平均大きさの種々異なる炭素繊維微粉末を適宜混合使用することも勿論可能である。通常は、長さ/径の比が1以下になる様に粉砕して使用するのが望ましい。」(第2頁左欄第35行〜右欄第16行)

(甲1d)「実施例1及び比較例1〜3
平均繊維長100μの炭素繊維をボールミルにより粉砕して平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)を20重量%、PTFE粉末30μ径に添加混合した。へンシェル型ミキサーで10m/S以上の周速により均一に分散混合した。当該のコンパウンドを100mm角、厚み5mmのシート状に成形圧300kg/cmで予備成形し、370℃×2時間焼成した。・・・ 比較に平均大きさが100μ、40μ、20μの炭素繊維をそれぞれ20重量%PTFEに添加したものから作成したシートを用いた。・・・
表1


実施例2〜4及び比較例4〜11
平均繊維長100μの炭素繊維を粉砕して平均大きさ3μにしたもの(最大10μ)を0.2モル%六弗化プロピレン変性したPTFE粉末(20μ径)とピンミルを用い60m/Sの回転速度で均一に混合した。混合物の組成としてPTFE100部に対し、炭素繊維粉砕粉末をそれぞれ0.5、2.5、15部のものを得た。かかるコンパウンドそれぞれ10の重量部に対し、アイソパーE4の重量部を添加し、V型プレンダーで回転(15rpm)造粒し、造粒後造粒助剤を除去した。・・・比較に、黒鉛粉末(3μ)、炭素繊維平均繊維長20μ、40μ、100μのものをそれぞれ、0.2モル6弗化プロピレン変性したPTFE粉末100重量部に2.5、15重量部添加混合したものを同じように造粒したものからテストピースを作成した・・・
表2


」(第3頁第6欄第16行〜第4頁表2)

(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「特許請求の範囲
1 平均繊維長と繊維径の比が5:1ないし2:1の範囲にある炭素または黒鉛繊維を5〜40重量%配合したことを特徴とする改良された炭素繊維充填ポリテトラフルオロエチレン組成物」

(甲2b)「圧縮による変形を防止するため・・・炭素または黒鉛繊維などを配合することもよく行われている。とくに炭素または黒鉛繊維を配合すると高温高圧下での圧縮強度が向上するが反面成形品に空隙(ボイド)が生じ易くなり気密性が損われる。したがって、気密性が要求されるような製品に供用するためのPTFEに配合される炭素繊維の量は10重量%以下にしなければならないとされているが、そのような少量の配合では炭素繊維を配合する本来の効果、すなわちPTFEの機械的強度、とくに高温、高荷重下における圧縮特性改善への寄与度は、甚だ小さいものとならざるを得ないのである。本発明は、このような難点を解決するためになされたものであって、既述のように炭素繊維としてその長さと直径の比が5:1〜2:1の範囲にあるものを5〜40重量%配合したPTFE組成物である。」(第1頁第1欄第35行〜第2欄第16行)

(甲2c)「そこで、この炭素繊維を粉砕して種々の長さの繊維を製造し、PTFEに混合、成形して試験したところ、前述の長さ対直径の関係を充足するものが、優れた気密性を与えることを見出したものである。通常の市販の炭素繊維は径約10μ、平均繊維長約100μであり、これを例えば、攪拌式擂潰機によって擂潰することによって任意の繊維長のものが得られる。」(第1頁第2欄第29〜36行)

(甲2d)「以下、実施例につき説明する
炭素繊維粉末として呉羽化学株式会社製−KGF200;平均繊維長100μ、平均直径10μのものをそのまゝ(イ)、およびその250gに水200ccを加えて品川式擂潰機を用いて下記の各種時間処理したもの(ロ)〜(へ)を用いた。


これらの炭素繊維とPTFE(ダイキン工業株式会社ポリフロンM−12、平均粒径35ミクロン)とを次表に示す各種割合に常法により混合し、予備成形圧500kg/cm2で径50mm、高さ50mmの円柱状ブロックに成形したものを、370±5℃の温度に5時間焼成し、ついで50℃/時間の割合で冷却して常温に至らしめ、こうして得られた成形体ブロックから、円板ないし円柱状の各種試験片を採取し、次の試験を行った。
・・・・
第1表






(3)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「2.特許請求の範囲
ポリテトラフルオロエチレンに、長さが50μ以下であり長さ/直径の比が1以上の炭素繊維微粉末を均一に添加混合してなるポリテトラフルオロエチレン組成物。」(第1頁左欄第3〜7行)

(甲3b)「即ち、従来の炭素繊維入りPTFE組成物は、炭素繊維の長さが100μ以上であり、これが前記各種欠点の原因となっていることが見出されたものである。而して、本発明者の研究により、炭素繊維を50μ以下に粉砕処理してPTFEに添加混合すると、均一混合性の向上だけでなく、前記の如き造粒性能、成形加工性、成形品物性、添加量などについての欠点が有利に解消され得ることが見いだされたものである。而して、・・・前記炭素繊維を50μ以下に粉砕処理してPTFEに添加混合すると、均一混合性の向上だけでなく、前記の如き造粒性能、成形加工性、成形品物性、添加量などについての欠点が有利に解消され得ることが見いだされたものである」(第2頁左上欄第12行〜右上欄第1行)

(甲3c)「而して、炭素繊維は、その長さ及び長さ/直径の比が重要であり、長さは50μ以下、好ましくは20μ〜40μ程度が採用され、長さ/直径の比は1以上、好ましくは2〜4程度のものが採用され得る。通常の炭素繊維は、その直径が5〜20μ、特に8〜15μ程度であるから、長さが50μ以下の場合には、長さ/直径の比として5程度が最大であるが、割球的大きい方が好ましいものである。長さ/直径の比か小さ過ぎる場合、あるいは粉末状では、炭素繊維本来の添加効果たとえば引張強さ(降伏値)は添加量を増大しても長さ/直径の比が1以上のものには遠く及ばない。尚、長さが大き過ぎる場合には、前述の如き種々の難点があり、また小さ過ぎるものは、入手の容易性、例えば粉砕処理の困難性などに難点がある。」(第2頁左下欄第13行〜右下欄第8行)

(甲3d)「実施例1及び比較例1
平均繊維長100μ、直径10μの炭素繊維を回転式ミルにより粉砕して平均長20μとしたものを20重量%PTFE粉末(平均30μ径)に添加混合した。混合法は、ジューサー型ミキサーで均一分散できる量、本実施例では100gを用いた。・・・試験結果を表1に示す。
表1


実施例2
平均長200μ、直径10μの炭素繊維を粉砕して平均長さ50μにしたものを実施例1と同じ粉末を用い15重量%になるように添加、混合した。・・・比較に平均長200μのもの、平均長100μのものを用いた結果を示す。」(第3頁右下欄第18行〜第4頁右上欄第10行)

(4)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(甲4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることを特徴とするピッチ系黒鉛化短繊維。
・・・
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなり、マトリクス成分100重量部に対して3〜500重量部のピッチ系黒鉛化短繊維を含有する熱伝導性組成物。
【請求項4】
該熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、脂肪族ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、アクリル及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項3に記載の熱伝導性組成物。
・・・
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物を、成形してなる熱伝導性成形体。」

(甲4b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂への充填性に優れ、高い熱伝導性を付与することのできるピッチ系黒鉛化短繊維、およびそれからの熱伝導性組成物に関わるものである。
・・・
【0004】
・・・これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、樹脂への充填性に優れ、高い熱伝導性を付与することのできるピッチ系黒鉛化短繊維を提供することにある。また本発明の目的はピッチ系黒鉛化短繊維と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド樹脂、およびゴムからなる群から選択される少なくとも1種のマトリクス成分とからなる熱伝導性組成物、さらにそれからの熱伝導性および表面性に優れた成形体を提供することにある。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、充填性が高く、熱伝導性組成物及び成形体が高い熱伝導性を得ることを可能にせしめている。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクスと混合し、必要に応じて溶媒を加えることで塗料やペーストとして使用することができる。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は長い繊維長成分を含まないことで、表面性、意匠性に優れた成形品や塗膜が得られる。本発明のピッチ系黒鉛化短繊維より得られた塗料、ペーストを用いて、電極等として使用することができる。」

(甲4c)「【0011】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることを特徴とする。
・・・
【0014】
この条件を満たす範囲として、平均繊維径が5〜15μmであり、体積換算平均繊維長が20〜30μmであり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長50μm以下である短繊維の割合が95%以上であることが挙げられる。
【0015】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径が5〜15μmである。平均繊維径が5μmを下回る場合、アスペクト比が高くなることになり、マトリクスと複合する際にマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり、充填性が低下する。逆に平均繊維径が15μmを超えると、粉砕時に微粉が生成されやすくなり、微粉によってマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは7〜13μmである。
【0016】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、体積換算平均繊維長が20〜30μmである。体積換算平均繊維長が20μmを下回る場合、実質的に微粉を含む割合が高くなり、トリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり、充填性が低下する。逆に体積換算平均繊維長が30μmを超えると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは20〜25μmである。体積換算平均繊維長は特定本数について繊維長を測定し、各繊維長の2乗値の平均値を求め、この平均値の平方根として求める。
【0017】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、最大繊維長が100μm以下ある。最大繊維長が100μmを超えると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは最大繊維長が90μm以下である。
【0018】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、繊維長50μm以下である割合が95%以上である。繊維長50μm以下である割合が95%を下回ると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する。より好ましくは繊維長50μm以下である割合が97%以上である。ここで繊維長50μm以下の短繊維の割合は、1μm以上の短繊維の本数を分母にとり、そのうち繊維長50μm以下の短繊維の本数を分子として算出する。
【0019】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、ミリング後のピッチ系炭素短繊維もしくはピッチ系黒鉛化短繊維をスクリーン径50μm以下のメッシュ等による分級を複数回実施することで得ることができる。この時、一般的に、繊維径が太い時に分級を実施する方が、長繊維がメッシュに対し縦向きに通過する割合が低下するため、効率的に分級できる。ピッチ系炭素短繊維を黒鉛化してピッチ系黒鉛化短繊維を得る際に、繊維径が小さくなる傾向にあるため、黒鉛化前のピッチ系炭素短繊維の状態で分級をするのが好ましい。」

(甲4d)「【0047】
マトリクスに用いることができる熱可塑性樹脂としてポリオレフィン及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアセタール及びその共重合体、フッ素樹脂及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド及びその共重合体、ポリカーボネート及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド及びその共重合体、ポリサルホン及びその共重合体、ポリエーテルサルホン及びその共重合体、ポリエーテルニトリル及びその共重合体、ポリエーテルケトン及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン及びその共重合体、ポリケトン及びその共重合体、エラストマー、アクリル及びその共重合体、液晶性ポリマー等が挙げられる。
・・・
【0049】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型変性PPE樹脂及び熱硬化型PPE樹脂、ポリイミド樹脂及びその共重合体、芳香族ポリアミドイミド樹脂及びその共重合体などが挙げられ、これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。」

(甲4e)「【実施例】
【0063】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の体積換算平均繊維長、最大繊維長、繊維長50μm以下の割合は、セイシン企業製PITA1を用いて繊維長1μm以上のもの3000本測定し、各繊維長の2乗値の平均値を求め、この平均値の平方根より体積換算平均繊維長を求めた。また3000本中最長の短繊維の長さより最大繊維長を、また3000本中の繊維長50μm以下の本数から繊維長50μm以下の割合を求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)熱伝導性成形体の熱伝導率は、NETZSCH製LFA−447(レーザーフラッシュ法)で測定した。
(7)熱伝導性成形体の表面性は得られた成形体の表面を目視で観察し、気泡の有無を確認した。
【0064】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物より主としてなるピッチを主原料とした。原料ピッチの光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径11.2μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は325℃であり、溶融粘度は17.5Pa・S(175poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付350g/m2のピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から300℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて1000rpmで粉砕し、スクリーン径30μmのメッシュを3回通して分級し、篩い下の成分を3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は11%であった。体積換算平均繊維長は23μm、最大繊維長は90μm、繊維長50μm以下の割合は97%であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは80nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0065】
[実施例2]
二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部に対し、実施例1で得られたピッチ系黒鉛化短繊維を添加していき、真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて混合し、マトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維が流動性を失うところまで添加した。この時の添加量は410重量部であった。この混合物を130℃で2時間硬化することで、熱伝導性成形体を作成した。熱伝導性成形体の熱伝導率は3.2W/(m・K)であった。また、得られた成形体の表面に気泡等の成形不良は観察されなかった。」

(5)甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

(甲7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点250℃以上の熱可塑性樹脂とアスペクト比2以上の炭素繊維を少なくとも複合してなり、下記(A)〜(E)の各要件を満足し、熱伝導率が0.7W/m・K以上である事を特徴とする耐熱性熱伝導複合材料。
(A)熱可塑性樹脂の少なくとも50重量%以上がフッ素樹脂からなること、
(B)炭素繊維は出発原料にメソフェーズピッチを用いた黒鉛化炭素繊維であること、
(C)炭素繊維の真密度は1.7〜2.5g/ccであること、
(D)炭素繊維に含まれる黒鉛結晶のc軸方向、ab軸方向の結晶子サイズがともに20nm以上であること、
(E)炭素繊維は複合材料中に5〜50重量%の割合で混合されること
【請求項2】
炭素繊維の熱伝導率が少なくとも200W/m・K以上である事を特徴とする請求項1に記載の耐熱性熱伝導複合材料。
【請求項3】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンもしくはこの共重合体を少なくとも含む事を特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載の耐熱性熱伝導性複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの耐熱性熱伝導複合材料を、厚み20〜5000μmのシート状に成型してなる耐熱性熱伝導シート。」

(甲7b)「【0033】
こうして得られるピッチ系黒鉛化炭素繊維の繊維径は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)として1〜30μmであり、より望ましくは3〜20μm、更に好ましくは5〜15μmである。繊維径が30μmより大きい場合は、不融化工程で近接する繊維同士の融着が起きやすく、1μm未満の場合は、ピッチ系炭素繊維フィラーの重量当たりの表面積が増大し、繊維表面が実質的に平坦であっても、表面に凹凸を有する繊維と同様に成形性を低下させてしまい、実際面で不適切となる場合がある。また、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)に対する繊維径の分散である繊維径分散(S1)の百分率は5〜18%の範囲が好ましい。より好ましくは5〜15%の範囲である。
・・・
【0038】
また繊維長については、少なくとも0.2μm以上である事が好ましいが、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは100μm以上、もっとも好ましくは200μm以上である。
【0039】
尚、フッ素樹脂中に炭素材料を分散混合して複合材料を作成する場合には、分散混合時の取り扱い性の観点から、繊維長がおよそ100mm以下、より好ましくは10mm以下、更に好ましくは1mm以下の短繊維状の炭素繊維を用いる事が好ましい場合が多い。」

(6)甲第8号証に記載された事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

(甲8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】マレイミド樹脂[A]並びにアミノ基および/またはマレイミド基末端を有し下記 [I]および/または[II]の構造を有するポリイミド樹脂[B]からなることを特徴とするマレイミド樹脂組成物。
・・・
【請求項9】強化繊維[C]が炭素繊維(黒鉛繊維を含む)であることを特徴とする請求項8記載のプリプレグ。」


第6 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由A〜C及び申立人がした申立理由1〜3によっては、いずれも、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

なお、取消理由B−1、C−1と申立理由2−1、3−1は同じ趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(2)取消理由B−1(新規性)、C−1(進歩性)について」において、併せて検討する。
取消理由B−2、C−2と申立理由2−2、3−2も同じ趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(3)取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)について」において、併せて検討する。
また、取消理由B−3、C−3と申立理由2−3、3−3も同じ趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(4)取消理由B−3(新規性)、C−3(進歩性)について」において、併せて検討する。

1 取消理由について
(1)取消理由A(明確性)について
ア 取消理由A(明確性)の概要
取消理由A(明確性)の概要は、以下のとおりである。

本件発明1は、「繊維長160μm超の割合が15質量%以下」、「繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」と、各繊維長の割合について「質量%」で特定しているが、本件明細書の上記摘記(特に、段落【0037】を参照)をみても、走査型電子顕微鏡で繊維長を計測しているだけであって質量を測定していないし、繊維長を質量に換算する算出方法も記載されていないから、どのようにして、「繊維長160μm超の割合」及び「繊維長80μm未満の割合」を「質量%」の単位で算出しているのか不明確である。

イ 判断
上記「ア 取消理由A(明確性)の概要」に記載した取消理由に対し、特許権者は、令和3年8月30日付け意見書において、「段落【0037】の・・・の具体的な内容について、順を追って説明いたします。まず、「走査型電子顕微鏡の200倍像を任意で10視野分撮影し、200本の繊維長を計測」することで、繊維長の分布を取得します。この分布から、繊維長毎の繊維の本数が分かります。また、段落【0034】の方法で求めた平均繊維径、及び、繊維長から1本あたりの繊維の体積を算出することができますので、これを繊維の本数で乗ずることで、繊維長毎の繊維の体積が得られます。そして、繊維の比重から、体積を質量に変換することで、繊維長毎の繊維の割合を質量%で算出することができます。」と説明している。
そして、当該意見書における特許権者による説明により、本件明細書の段落【0037】の「走査型電子顕微鏡」を用いて「200本の繊維長」を測定し繊維長の分布を取得すること、段落【0037】の方法で得た繊維長と段落【0034】の方法で得た「平均繊維径」から各繊維の体積を求めること、繊維の体積に繊維の比重を乗ずることにより各長さの繊維の質量を変換できること、その結果、本件発明1の「繊維長160μm超の割合」、「繊維長80μm未満の割合」の値を取得できることを当業者であれば理解できる。

したがって、取消理由Aは、当該意見書における特許権者の説明により、解消されたといえる。

ウ 申立人の主張
令和3年10月29日付け意見書において、申立人は、走査型電子顕微鏡による炭素繊維の200倍像の写真を示して、(ア)「写真に示されるように、全長が写っていない繊維や、端部が他の繊維で隠れた繊維や、奥行きに斜めの状態の繊維等、繊維長が不明確な繊維が多数確認され、上記の計測では正確な繊維長の計測を行うことは困難」であり「繊維長の分布の取得も困難であり、繊維長師の繊維の本数も分からない。・・・正確な繊維長の計測ができないため、算出された質量%も不正確なものである。また、上記方法では、測定毎に各繊維長の割合の数値が大きく変動し得ると考えられる」こと、(イ)「10視野撮影し、200本の繊維長を計測」とは、10枚の写真から合計200本の繊維長を計測すると解釈するが、10枚の写真から各200本の繊維長を計測すると解釈することも可能である。前者であれば、写真1枚当たり20本の繊維長を計測するのか、写真 1枚当たりの計測本数は決めずにとにかく10枚の写真から200本の繊維長を計測するのか不明であるし、各写真からどの繊維を選択するのかも不明であり、何一つ理解できることはない」と主張している。
まず、上記(ア)について、確かに、当該意見書で示された「走査型電子顕微鏡による炭素繊維の200倍像の写真」(意見書の第4頁の参考図1)の写真は不鮮明なところはあるものの、走査型電子顕微鏡を用いて、炭素繊維を含む各種充填剤の繊維長さや繊維径の測定を行うことは慣用の測定方法であるし、また、当該写真の中には、何本かの炭素繊維の全体長さを把握できるものもあることから、ある程度の正確性で繊維長を測定できることは理解できる。
次に、上記(イ)について、本件明細書には、10枚の写真からどのように200本の繊維を選定するのかは記載されていないものの、どのような選定方法であっても10枚の写真から200本の繊維の長さを測定し、ある程度の正確性を有する繊維分布を取得できればよいと理解できるから、申立人の上記(ア)及び(イ)の主張を採用することはできない。

エ 小括
以上のとおり、取消理由Aは、理由がない。


(2)取消理由B−1(新規性)、C−1(進歩性)について
上述したとおり、取消理由B−1(新規性)、C−1(進歩性)と申立理由2−1(新規性)、3−1(進歩性)は同じ趣旨であるので、併せて、以下に検討する。

ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の上記摘記(甲1d)の実施例1に着目すると、
「平均繊維長100μの炭素繊維をボールミルにより粉砕して平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)を20重量%、PTFE粉末30μ径に添加混合した組成物」の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。
(なお、令和3年6月22日付け取消理由通知書では、甲第1号証において、実施例1の「炭素繊維」が「平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)」である「組成物」に着目した発明(甲1発明A)に加えて、実施例2〜4の 「炭素繊維」が「平均大きさ3μにしたもの(最大10μ)」である「組成物」に着目した発明(甲1発明B〜D)も認定した。しかしながら、本件訂正により本件発明1の「繊維状フィラー」について「平均繊維長が40μm以上100μm以下であり」と訂正されたので、「平均大きさ」がより小さい実施例2〜4に着目した発明の検討は省略する。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
まず、本件発明1と甲1発明Aとを対比する。

甲1発明Aの「PTFE」は「ポリテトラフルオロエチレン」の略称であり、「ポリテトラフルオロエチレン」は一般に「非溶融加工性」を有するといえるから、本件発明1の「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレン」に相当する。

甲1発明Aの「平均繊維長100μの炭素繊維をボールミルにより粉砕して平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)」は、本件発明1の「炭素繊維であり、平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」である「繊維状フィラー」と、「繊維状フィラー」であって「炭素繊維」である限りにおいて一致する。

甲1発明Aの「組成物」は「平均繊維長100μの炭素繊維をボールミルにより粉砕して平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)」を「20重量%」含むものであるから、本件発明1と同様に「繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である」といえる。

また、甲1発明Aの「組成物」は、「ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物」ではない。

そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、
「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンと繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーは、炭素繊維であり、
前記繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン組成物(但し、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物を除く。)。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「繊維状フィラー」である「炭素繊維」について、本件発明1では、「平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」であるのに対し、甲1発明Aでは、「平均繊維長100μの炭素繊維をボールミルにより粉砕して平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)」である点。

(イ)判断
甲1発明Aの「炭素繊維」は「平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)」であり、本件発明1の「平均繊維長が40μm以上100μm以下」の炭素繊維とは異なるから、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

次に、甲1発明Aの「組成物」の「炭素繊維」について、「平均大きさ8μとしたもの(最大長さ15μ)」に代えて、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」とすることについて検討すると、甲第1号証の上記摘記(甲1b)及び(甲1c)の記載、特に、(甲1c)の「炭素繊維微粉末はその最大長さ及び平均大きさが重要であり、最大長さは20μ以下、好ましくは15μ以下が採用される。また、平均大きさは10μ以下、好ましくは8μ〜1μ程度が採用される。平均大きさが小さ過ぎる場合、例えば超微粉末状ではPTFEの粉末(20μ〜40μ)をとり囲み粉末同志の融着を妨げる為に添加量を増大できにくい。尚、最大長さや平均大きさが大き過ぎる場合には、前述の如き種々の難点があり、また小さ過ぎるものは、入手の容易性例えば粉砕処理の困難性などに難点がある」との記載からみて、甲1発明Aの「組成物」の「炭素繊維」は「平均大きさ」を「10μ」以下のもの、また、「最大長さ」を「20μ」以下とする必要があるといえる。
そうすると、甲1発明Aにおいて、「炭素繊維」の「平均大きさ」を「10μ」より大きいもの、また、「最大長さ」を「20μ」より大きいものとして相違点1に係る「平均繊維長が40μm以上100μm以下」とすることを動機づけることはできない。また、他の甲号証の記載を参酌しても、甲1発明Aの「組成物」の「炭素繊維」の「平均大きさ」を「10μ」以上のもの、また、「最大長さ」を「20μ」以上のものとすることを動機づけることはできない。
そうすると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲1、2〜4、7〜8号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)令和3年10月29日付け意見書における申立人の主張
令和3年10月29日付け意見書において、申立人は、「甲第1号証の比較例2、9には、以下の組成物が それぞれ記載されている。
・比較例2「平均繊維長40μの炭素繊維を20重量% PTFEに添加した組成物」
・比較例9「平均繊維長40μの炭素繊維を15重量% PTFEに添加した組成物」
・・・以上のとおり、本件訂正発明1に係るポリテトラフルオロエチレン組成物は、甲第1号証に開示されており、依然として、 特許法第29条第1項第3号に該当するものである」と主張している。
申立人の主張どおり、甲第1号証の比較例2及び比較例9の「平均繊維長40μの炭素繊維」は本件発明1の「平均繊維長が40μm以上100μm以下」の範囲内となるといえる。しかしながら、甲第1号証の記載をみても、比較例2及び比較例9も、本件発明1と同様の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内であるかどうか明らかでない。また、申立人は、甲第1号証の比較例2及び比較例9の炭素繊維が、本件発明の当該分布範囲内であることを具体的に証明するものではないから、申立人の当該主張を直ちに採用することができない。

(エ)小括
以上のとおり、本件発明1には、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜3は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 取消理由B−1(新規性)、C−1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由B−1(新規性)、C−1(進歩性)及び申立理由2−1(新規性)、3−1(進歩性)によって、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。


(3)取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)について
上述したとおり、取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)と申立理由2−2(新規性)、3−2(進歩性)は同じ趣旨であるので、併せて、以下に検討する。

ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の上記摘記(甲2d)の試験番号7の組成物に着目すると
「炭素繊維粉末として呉羽化学株式会社製−KGF200;平均繊維長100μ、平均直径10μのもの250gに水200ccを加えて、品川式擂潰機を用いて擂潰時間60分処理して繊維長49μのものを得て、この炭素繊維とPTFE(ダイキン工業株式会社ポリフロンM−12、平均粒径約35ミクロン)とを、炭素繊維の配合量を10重量%として混合して得た組成物」の発明(以下「甲2発明A」という。)の発明が記載されているといえる。
(なお、令和年6月22日付け取消理由通知書では、甲第2号証において、試験番号7の「炭素繊維」が「繊維長が49μ」である「組成物」に着目した発明(甲2発明A)に加えて、試験番号11の「炭素繊維」の「繊維長が38μ」である「組成物」に着目した発明(甲2発明B)も認定した。しかしながら、本件訂正により本件発明1の「繊維状フィラー」について「平均繊維長が40μm以上100μm以下であり」と訂正されたので、「繊維長」が40μmより小さい試験番号11に着目した発明(甲2発明B)の検討は省略する。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明Aを対比する。

甲2発明Aにおける「PTFE(ダイキン工業株式会社ポリフロンM−12、平均粒径約35ミクロン)」は、本件発明1における「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレン」に相当する。

甲2発明Aにおける「炭素繊維粉末として呉羽化学株式会社製−KGF200;平均繊維長100μ、平均直径10μのもの250gに水200ccを加えて、品川式擂潰機を用いて擂潰時間60分処理して繊維長49μのもの」としたものは、「平均繊維長100μ」の炭素繊維粉末を処理していることから、「平均繊維長」が「49μ」と認められ、本件発明1における「平均繊維長が40μm以上100μm以下」である「炭素繊維」である「繊維状フィラー」に相当するといえる。

甲2発明Aの「組成物」は、「呉羽化学株式会社製−KGF200;平均繊維長100μ、平均直径10μのもの250gに水200ccを加えて、品川式擂潰機を用いて擂潰時間105分処理して繊維長49μのもの」を「10重量%」配合したものであるから、本件発明1と同様に「繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である」といえる。

また、甲2発明Aの「組成物」は、「ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物」ではない。

そうすると、本件発明1と甲2発明Aとは、
「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンと繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーは、炭素繊維であり、平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、
前記繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン組成物(但し、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物を除く。)。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点2:「炭素繊維」について、本件発明1では「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」であるのに対し、甲2発明Aでは、「繊維長160μm超の割合」及び「繊維長80μm未満の割合」が明らかでない点。

(イ)判断
上記相違点2について検討する。

甲2発明Aの「炭素繊維」が、本件発明1の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内であることは記載されていない。また、甲2発明Aでは、「炭素繊維粉末」として「呉羽化学株式会社製−KGF200;平均繊維長100μ、平均直径10μのもの250gに水200ccを加えて、品川式擂潰機を用いて擂潰時間60分処理して繊維長49μのものを得」ているが、そもそも、この操作を行う前の「繊維長160μm超の割合」が不明であり、それがこの操作によってどのように変化するのかも不明であるなど、この記載のみから「炭素繊維」が「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内になると直ちに導くことはできない。したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明とはいえない。

次に、甲2発明Aの「炭素繊維」について、本件発明1の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内とすることについて動機づけられるか検討する。
甲第2号証には、「炭素繊維」の分布について、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内とすることについて記載されていない。また、甲第2号証には、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内となるように、繊維の分布を「80μm未満」で均一にすることさえも記載されていないから、甲第2号証の記載から、甲2発明Aの「炭素繊維」について、「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内とすることを動機づけることはできない。
また、他の甲号証をみても、甲2発明Aについて、本件発明1の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内の範囲内とすることを動機づける記載はない。
そうすると、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲1〜4、7〜8号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)令和3年10月29日付け意見書における申立人の主張
令和3年10月29日付け意見書において、申立人は、(A)取消理由B−2(新規性)に関して「取消理由通知で審判官殿が指摘される通り、甲2発明Aに係る組成物の炭素繊維、および甲3発明Bに係る組成物の炭素繊維は、平均繊維長の値や、擂潰処理の条件等を考慮すると、「繊維長160μm超の割合が15質量%以下、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量% 以上」を満たす蓋然性が十分高いといえる。したがって、本件訂正発明1に係るポリテトラフルオロエチレン組成物は、甲第2号証および甲第3号証に開示されており、依然として、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。」、(B)取消理由C−2(進歩性)に関して「特許権者は、「また、甲第2号証、甲第3号証には、繊維長の分布を調整するという思想自体が開示されておりませんし、分級等の操作も開示されておりません。」と主張している。確かに、繊維長を一定に揃える場合、繊維長毎に炭素繊維を分ける分級等の操作が必要であることは、当業者の技術常識である。ここで、甲第2号証や甲第3号証では、加工前の炭素繊維の平均繊維長が100μmまたは200μmであり、これらを揺潰処理や粉砕することによって平均繊維長20μm〜50μmに加工している。この加工において、甲第2号証および甲第3号証に分級等に言及した記載が無くても、上記技術常識を参酌すれば、当業者であれば上記のような分級等をしたことを十分理解することができる。」と主張している。
上記(A)の主張について、上記(イ)でも述べたように、甲2発明Aの「呉羽化学株式会社製−KGF200;平均繊維長100μ、平均直径10μのもの250gに水200ccを加えて、品川式擂潰機を用いて擂潰時間60分処理して繊維長49μのものを得」ているが、この操作の記載により、どのような繊維長分布となるかを示す資料は何ら示されていないため、当該操作ののみから「炭素繊維」が「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内になるとまでは直ちに導くことはできない。
また、上記主張(B)について、上記(イ)で述べたように、甲第2号証には、甲第2号証には、「炭素繊維」の分布について、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内とすることについて記載されていない。また、甲第2号証には、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内となるように、繊維の分布を「80μm未満」で均一にすることさえも記載されていない。仮に、「繊維長を一定に揃える」ために「繊維長毎に炭素繊維を分ける分級等の操作」が周知の技術であるとしても、甲第2号証には、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内となるように、繊維の分布を「80μm未満」で均一にすることさえも記載されていない以上、甲2発明Aにおいて、「繊維長毎に炭素繊維を分ける分級等の操作」を行うことを動機づけることはできない。
したがって、上記申立人の主張(A)及び(B)を採用することができない。

(エ)小括
以上のとおり、本件発明1には、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜3は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)及び申立理由2−2(新規性)、3−2(進歩性)によって、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。


(4)取消理由B−3(新規性)、C−3(進歩性)について
上述したとおり、取消理由B−3(新規性)、C−3(進歩性)と申立理由2−3(新規性)、3−3(進歩性)は同じ趣旨であるので、併せて、以下に検討する。

ア 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の上記摘記(甲3d)の実施例2に着目すると、
「平均長200μ、直径10μの炭素繊維を粉砕して平均長さ50μにしたものを15重量%、PTFE粉末(平均30μ径)に添加混合した組成物」の発明(以下「甲3発明B」という。) が記載されているといえる。
(なお、令和年6月22日付け取消理由通知書では、甲第3号証において、実施例2の「炭素繊維」が「繊維長さが50μにしたもの」を含む「組成物」に着目した発明(甲3発明B)に加えて、実施例1の「炭素繊維」の「繊維長が20μにしたもの」を含む「組成物」に着目した発明(甲3発明A)も認定した。しかしながら、本件訂正により本件発明1の「繊維状フィラー」について「平均繊維長が40μm以上100μm以下であり」と訂正されたので、実施例1の「炭素繊維」の「繊維長が20μにしたもの」を含む「組成物」に着目した発明での検討は省略する。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明Bとを対比する。

甲3発明Bの「PTFE」は、「ポリテトラフルオロエチレン」の略称であり(甲第3号証の第1頁左欄第16〜17行を参照)、「ポリテトラフルオロエチレン」は一般に「非溶融加工性」を有するといえるから、本件発明1の「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレン」に相当する。

甲3発明Bの「平均繊維長100μ、直径10μの炭素繊維を回転式ミルにより粉砕して平均長50μとしたもの」は、本件発明1の「炭素繊維であり、平均繊維長が40μ以上100μm以下」である「繊維状フィラー」であるといえる。

甲3発明Bの「組成物」は、「平均繊維長100μ、直径10μの炭素繊維を回転式ミルにより粉砕して平均長50μとしたものを15重量%、PTFE粉末(平均30μ径)に添加混合した」ものであるから、本件発明1と同様に「繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である」といえる。

また、甲3発明Bの「組成物」は、「ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物」ではない。

そうすると、本件発明1と甲3発明Bとは、
「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンと繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーは、炭素繊維であり、平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、
前記繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン組成物(但し、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物を除く。)。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:「炭素繊維」について、本件発明1では「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」であるのに対し、甲3発明Bでは、「繊維長160μm超の割合」及び「繊維長80μm未満の割合」が明らかでない点。

(イ)判断
甲3発明Bの「炭素繊維」が、本件発明1の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内であることは記載されていない。また、甲3発明Bでは、「平均長200μ、直径10μの炭素繊維を粉砕して平均長さ50μにした」としているが、そもそも、この操作を行う前の「繊維長160μm超の割合」が不明であり、それがこの操作によってどのように変化するのかも不明であるなど、この記載のみから「炭素繊維」が「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内になると直ちに導くことはできない。したがって、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明とはいえない。

次に、甲3発明Bの「炭素繊維」について、本件発明1の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内とすることについて動機づけられるか検討する。
甲第3号証には、「炭素繊維」の分布について、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の分布範囲内とすることについて記載されていない。また、甲第3号証には、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」であって且つ「繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内となるように、繊維の分布を「80μm未満」で均一にすることさえも記載されていないから、甲第3号証の記載から、甲3発明Bの「炭素繊維」について、「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内とすることを動機づけることはできない。
また、他の甲号証をみても、甲3発明Bについて、本件発明1の「繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の範囲内とすることを動機づける記載はない。
そうすると、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲1〜4、7〜8号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)令和3年10月29日付け意見書における申立人の主張
令和3年10月29日付け意見書において、申立人は、上記「(3)取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)について」「イ 本件発明1について」「(ウ)令和3年10月29日付け意見書における申立人の主張」に記載した甲2発明Aに関する主張と同様の主張を、甲3発明Bに関しても主張している。
しかしながら、甲3発明Bに関しても、上記「(イ)判断」で検討したとおりであり、「(3)取消理由B−2(新規性)、C−2(進歩性)について」「イ 本件発明1について」「(ウ)令和3年10月29日付け意見書における申立人の主張」に記載した甲2発明Aに関する理由と同様の理由により、申立人の主張を採用することはできない。

(エ)小括
以上のとおり、本件発明1には、甲第3号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第3号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜3は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第3号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第3号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 取消理由B−3(新規性)、C−3(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由B−3(新規性)、C−3(進歩性)及び申立理由2−3(新規性)、3−3(進歩性)によって、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

(5)取消理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由A、取消理由B−1〜B−3、取消理由C−1〜C−3、及び申立理由2−1〜2−3、申立理由3−1〜3−3によっては、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことができない。


2 特許異議申立書に記載された申立理由について
申立理由2−1〜2−3(新規性)、申立理由3−1〜3−3(進歩性)については、上記「1 取消理由について」において検討されたので、以下、申立理由1(サポート要件)及び申立理由2−4(新規性)について検討を行う。

(1)申立理由1(サポート要件)について
ア 申立理由1(サポート要件)の概要
申立理由1(サポート要件)の概要は、以下のとおりである。

本件発明1は、その構成成分について、「繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である」と「繊維状フィラー」の含有量のみが特定されており、「ポリテトラフルオロエチレン」とその他の成分の含有量は特定されていない。本件発明2〜3は、「ポリテトラフルオロエチレン」と「繊維状フィラー」の含有量がさらに特定されているものの、「ポリテトラフルオロエチレン」と「繊維状フィラー」以外の成分及び含有量については特定されていない。
本件発明の課題は、繊維状フィラーを含むにも関わらず、延伸加工性に優れるPTFE組成物を提供することであり、本件明細書の段落【0043】に「種々の添加剤を組み合わせて配合することができる」と記載されているが、延伸加工性に関する課題との関係でいかなる添加剤も許容されるのか否かについては一切示唆されていない。
例えば、段落【0043】には、他の成分に関して「補強用充填材」が記載されており、一般には「補強用充填材」には「ガラス繊維」が含まれるといえるが、例えば、「繊維状フィラー」を20質量%、「平均繊維長100μm超えのガラス繊維」20質量%、残部がPTFEの組成物は本件発明1〜3の技術的範囲に含まれるものの、本件明細書の実施例の炭素繊維での繊維長分布の影響を考慮すれば、本件発明の課題を解決できるとはいえない。

イ 判断
(ア)特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点から検討する。

(イ)判断
A 本件発明の課題について
本件発明の課題は、本件明細書の(本a)の段落【0005】の記載からみて、「繊維状フィラーを含むにも関わらず、延伸加工性に優れるポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と記載する)組成物を提供すること」であるといえる。

B 判断
まず、本件発明1における「ポリテトラフルオロエチレン組成物」に添加し得る「種々の添加剤」に、「ガラス繊維」が含まれるといえるかどうかを検討すると、本件明細書の(本c)の段落【0039】には「上記繊維状フィラーとしては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維・・・等が挙げられる」と記載され、また、(本d)の段落【0043】には「本開示のPTFE組成物は、PTFE及び繊維状フィラーのみからなるものであってもよいし、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、・・・など種々の添加剤を組み合わせて配合することができる」と記載されていることから、「ガラス繊維」はあくまで「繊維状フィラー」に該当するものであり、本件明細書の「他の成分」には該当しないといえる。そして、本件発明1は、「・・・ポリテトラフルオロエチレンと繊維状フィラーとを含み、前記繊維状フィラーは、炭素繊維であり、・・・ポリテトラフルオロエチレン組成物」に係る発明であるから、本件発明1における「ポリテトラフルオロエチレン組成物」は、「ガラス繊維」が含まれる態様は包含していないといえる。

次に、本件発明1〜3において、「ポリテトラフルオロエチレン」と「繊維状フィラー」以外の成分及び含有量については特定されていないことについて検討する。
本件発明は、本件明細書の(本a)の段落【0013】には「・・・本発明者等が鋭意検討したところ、特定の繊維状フィラーを用いると、驚くべきことに、繊維状フィラーを含むにも関わらず、延伸加工性に優れるPTFE組成物とすることができることが見出された。すなわち、本開示のPTFE組成物は、PTFEと繊維状フィラーとを含み、上記繊維状フィラーは、平均繊維長が100μm以下であり、かつ、繊維長160μm超の割合が15質量%以下である。上記構成を有することによって、圧縮強度等の機械的強度に優れ、かつ、延伸加工性に優れるPTFE組成物となる」と記載されており、「繊維状フィラー」の繊維長の分布を特定の範囲にすることによって、本件発明の上記課題を解決したものであるといえる。そして、本件明細書の(本e)の実施例・比較例の記載からみて、本件発明1の「繊維状フィラー」の繊維長の分布範囲である実施例1〜2は、そうでない比較例1〜2に比べて、ピンホール個数が少なく、延伸加工性に優れることが確認されている。
本件明細書の段落【0043】には、「本開示のPTFE組成物は、PTFE及び繊維状フィラーのみからなるものであってもよいし、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい」と記載されており、「他の成分」はあくまで「必要に応じて」配合すべきものであり、その配合量も本件発明の趣旨や課題解決を損なわない範囲で配合すべきものであることは当業者にとって自明である。
そうすると、本件発明1の「繊維状フィラー」の繊維長の分布を特定の範囲にすれば、そうでない場合に比べて、本件発明の上記課題をより解決できることは当業者が理解できるし、「他の成分」の配合も本件発明の課題解決を損なわない範囲であることは当業者にとって自明であるから、本件発明1に「他の成分」の特定がないことを理由として、サポート要件を満たさないと判断することはできない。

ウ 申立理由1(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、申立理由1は、理由がない。


(2)申立理由2−4(新規性)について
ア 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証の(甲4d)の実施例2に着目すると、
「二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部に対し、
平均繊維径が8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)が11%、体積換算平均繊維長が23μm、最大繊維長が90μm、繊維長50μm以下の割合が97%であるピッチ系黒鉛化短繊維を添加していき、
真空式自公転混合機(シンキー製あわとり練太郎ARV−310)を用いて混合し、マトリクス/ピッチ系黒鉛化短繊維が流動性を失うところまで添加した、ピッチ系黒鉛化短繊維の添加量が410重量部である組成物」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。

甲4発明の「二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)」と、本件発明1の「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレン」とは、樹脂である限りにおいて一致する。

甲4発明の「平均繊維径が8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)が11%、体積換算平均繊維長が23μm、最大繊維長が90μm、繊維長50μm以下の割合が97%であるピッチ系黒鉛化短繊維」は、(甲4b)の段落【0004】の記載からみて「炭素繊維」の1種であることは明らかであるから、本件発明1の「炭素繊維であり、平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」の「繊維状フィラー」と、「炭素繊維」である「繊維状フィラー」である限りにおいて一致する。

また、甲4発明の「組成物」は、「ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物」に該当しないことは明らかである。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「樹脂と繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーは、炭素繊維である、
ことを特徴とする組成物(但し、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物を除く。)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点4:「樹脂」について、本件発明1では「非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレン」であるのに対し、甲4発明では「二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)」である点。

相違点5:「炭素繊維」である「繊維状フィラー」について、本件発明1では「平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上」であるのに対し、甲4発明では「平均繊維径が8.1μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)が11%、体積換算平均繊維長が23μm、最大繊維長が90μm、繊維長50μm以下の割合が97%であるピッチ系黒鉛化短繊維」である点。

相違点6:「炭素繊維」である「繊維状フィラー」の含有量について、本件発明1では「20質量%以下」であるのに対し、甲4発明では「二液硬化型シリコーン樹脂(東レダウシリコーン製商品名「SE1740A&B」)100重量部」に対し「410重量部」添加したものである点

(イ)判断
事案に鑑みて、相違点5について検討する。

甲4発明の「炭素繊維」は「体積換算平均繊維長が23μm」であり、本件発明1の「平均繊維長が40μm以上100μm以下」の炭素繊維とは異なるから、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明とはいえない。

次に、申立理由ではないが、念のため、甲4発明において「体積換算平均繊維長が23μm」の「ピッチ系黒鉛化短繊維」に代えて、「平均繊維長が40μm以上100μm以下」の炭素繊維」とすることの容易性について検討すると、甲第4号証の(甲4c)の段落【0016】の「本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、体積換算平均繊維長が20〜30μmである。体積換算平均繊維長が20μmを下回る場合、実質的に微粉を含む割合が高くなり、トリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり、充填性が低下する。逆に体積換算平均繊維長が30μmを超えると、長繊維成分によりマトリクス/短繊維混合物の粘度が高くなり充填性が低下する」との記載からみて、甲4発明の「ピッチ系黒鉛化短繊維」は「体積換算平均繊維長が20〜30μm」とする必要があるといえる。
そうすると、甲4発明において、「ピッチ系黒鉛化短繊維」の「体積換算平均繊維長」を「20〜30μm」の範囲外のものとし、相違点5に係る「平均繊維長が40μm以上100μm以下」とすることを動機づけることはできない。また、他の甲号証の記載を参酌しても、甲4発明の「ピッチ系黒鉛化短繊維」の「体積換算平均繊維長」を「20〜30μm」の範囲外のものとし、相違点5に係る「平均繊維長が40μm以上100μm以下」とすることを動機づけることはできない。
したがって、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲1〜4、7〜8号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点4、6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。また、甲第4号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

ウ 本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜3は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。また、甲第4号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2−4によっても、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。


第7 むすび
特許第6750645号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。
当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1−3に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1−3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンと繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーは、炭素繊維であり、平均繊維長が40μm以上100μm以下であり、繊維長160μm超の割合が15質量%以下であり、かつ、繊維長80μm未満の割合が75質量%以上であり、
前記繊維状フィラーの含有量は、20質量%以下である
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン組成物(但し、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びカーボンビーズを含む組成物、並びに、ポリテトラフルオロエチレン、炭素繊維及びポリアミドイミドを含む組成物を除く。)。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、60〜97質量%である請求項1記載のポリテトラフルオロエチレン組成物。
【請求項3】
前記繊維状フィラーの合有量は、3〜20質量%である請求項1又は2記載のポリテトラフルオロエチレン組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-22 
出願番号 P2018-097927
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 112- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 土橋 敬介
杉江 渉
登録日 2020-08-17 
登録番号 6750645
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 ポリテトラフルオロエチレン組成物  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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