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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G10K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G10K
管理番号 1384092
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-23 
確定日 2021-12-03 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6761618号発明「吸音材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6761618号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6761618号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6761618号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年12月23日に出願され、令和2年9月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年3月23日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年6月28日(起案日)(発送日は令和3年7月5日)に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年9月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和3年10月15日に意見書を提出した。

第2 本件訂正請求による訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」とあるのを、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」に訂正する。

(2)訂正事項2
発明の詳細な説明の段落【0005】に、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」とあるのを、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」に訂正する。

(3)訂正事項3
発明の詳細な説明の段落【0006】に、「そして、前記通気性表皮材の厚さが0.5〜12mm、前記通気性表皮材の通気度は5.3cm3/cm2・s以上、前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の20倍以上2514倍未満の大きさである場合に、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能を効果的に向上できることを見出した。」とあるのを、「そして、前記通気性表皮材の厚さが0.5〜12mm、前記通気性表皮材の通気度は5.3cm3/cm2・s以上、前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の58.3倍以上2514倍未満の大きさである場合に、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能を効果的に向上できることを見出した。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、明細書の段落【0044】−【0046】に記載の実施例9において、「通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗を、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗で除し、小数第2位を四捨五入し算出した値」である「通気抵抗の比率」が「58.3」である旨の記載に基づいて、請求項1に記載の該比率を「20倍以上2514倍未満」から「58.3倍以上2514倍未満」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2、3について
これらの訂正事項は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

[本件発明]
有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、
前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布であり、
前記通気性表皮材の厚さは、0.5〜12mmであり、
前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上であり、
前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含み、
前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。

第4 特許異議申立理由について
訂正前の請求項1に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

1 請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 請求項1に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

3 請求項1に係る発明は、下記の甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

4 請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5 請求項1に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

6 請求項1に係る発明は、下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

7 請求項1に係る発明は、下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

8 請求項1に係る発明は、下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


甲第1号証:特許第4616836号公報
甲第2号証:特開2004−325973号公報
甲第3号証:国際公開第2005/019783号
甲第4号証:特開平8−152890号公報
甲第5号証:特開平9−258740号公報

第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して、上記特許異議申立理由1ないし8のうち1、2、4、5と同様の理由について、当審が特許権者に通知した取消理由(1)ないし(4)の要旨は、それぞれ、次のとおりである。

(1)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(3)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 甲各号証の記載事項、甲各号証に記載された発明
(1)甲第1号証
甲第1号証には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審により付与したものである。

「【0020】
それに対し、本発明の目的は、特に200〜800 Hzの周波数域に関する吸音性を改良することにある。」

「【0023】
本発明の吸音体は、良好な音響性能を与えるように低中周波数域において最適の吸収性を有する。本発明によれば、特に音の放射源側の高密度不織布1と、音の放射源と反対側の面に低密度の不織布2を組合わせることによって達成される。好ましくは、 不織布2は直接に自動車のシートメタルに隣接され、これによって、不織布とシートメタル間にエアーギャップを形成しないようにしている。」

「【0031】
本発明の不織布は、好ましくは繊維として天然繊維、特に種子繊維である綿;果皮繊維、特にカポック;靭皮繊維、特にリネン、フラックス、ヘンプ および/または ジュート;ハード フアイバー、特にサイザルアサおよび/またはヤシとこれらの混合物より選択される植物繊維である。のみならず合成繊維、例えばポリオレフィン、特にポリプロピレンおよび/またはポリエチレン ;ポリエステル、特にポリエチレン テレフタレートおよび/またはポリブチレン テレフタレート;およびポリアミド、特にナイロン6、ナイロン12、ナイロン66; ビスコースおよびレーヨンとこれらの混合物より選択される合成繊維を含み、また必要に応じて通常のバインダーを含む。
【0032】
使用されるバインダーの種類と量は、基本的には不織布の使用目的によって決定される。一般に、好ましくは 不織布1および/または不織布2を基準にして5〜50重量%、特には20〜40重量%のバインダーを使用する。
【0033】
必要に応じて、不織布1および/または2は、特にこの2層の境界面で一定の軌跡群模様(raster profile)を有してもよい。この模様は、好ましくは一方の側から出るように形成され、たとえば円錐、あるいはピラミッドで代表されるように一方に凸形状を構成していてもよい。材料とコストを倹約する起毛切断方法(nap cutting technique)によって、優れた音響上の値が中空室原理(hollow chamber principle)によって達成されることができる。」

「【0048】
【表1】



「【0050】
【図1】実施例、比較例の周波数に対する吸音の関係を示すグラフ。」





以上の特に下線部の記載、及び、実施例1−5の数値によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
音の放射源側のポリプロピレンを含む高密度不織布1と、音の放射源と反対側のポリプロピレンを含む低密度不織布2を2層に組み合わせた吸音体であって、
不織布はバインダーを含み、不織布1および/または不織布2を基準にして20〜40重量%のバインダーを使用し、
不織布1の層厚は5mmであり、
不織布1の流れ抵抗は74〜500kNs/m4であり、
不織布2の層厚は15mmで、流れ抵抗は20kNs/m4である、
吸音体。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審により付与したものである。

「【0007】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたもので、吸音性能の優れる自動車用内装材、及びその製造方法を提供することを目的とする。」

「【0048】
(3)吸音層の積層一体化工程;
他方、通気度が50cm3/cm2/sec.以上の吸音層を用意する。この吸音層は常法により製造することができる。例えば、好適であるニードルパンチ不織布は、カード法などの乾式法により繊維ウエブを形成した後、ニードルにより絡合して製造することができる。なお、ニードルパンチ不織布からなる吸音層の通気度は目付、厚さ、或いは製造条件(例えば、ニードルの打ち込み本数、打ち込み深さ、ニードルの種類など)などの条件を調節することにより得ることができ、これらの条件は実験により、適宜設定することができる。また、サーマルボンド不織布は、カード法などの乾式法により熱融着性繊維を含む繊維ウエブを形成した後、熱処理により前記熱融着性繊維を融着させて製造することができる。なお、サーマルボンド不織布からなる吸音層の通気度は目付、厚さ、或いは製造条件(例えば、熱融着性繊維の種類、熱融着性繊維量、熱処理温度、熱処理時の圧力など)などの条件を調節することにより得ることができ、これらの条件は実験により、適宜設定することができる。」

「【0054】
【実施例】
(実施例1)
(1)表皮層用ウエブの形成工程;
ポリエステル繊維(繊度:3.3dtex、繊維長:51mm)を90mass%と、芯成分がポリエステルからなり、鞘成分が低融点ポリエステル(融点:110℃)からなる芯鞘型複合熱融着性繊維(繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)を10mass%とを混綿した後に、カード機を用いて開繊して繊維ウエブを形成した。その後、針密度300本/cm2でニードルパンチ絡合を実施して、目付が150g/m2で、厚さが2.5mmのニードルパンチ不織布を製造し、これを表皮層用ウエブとした。
(2)成型層用ウエブの形成工程;
ポリエステル繊維(繊度:3.3dtex、繊維長:51mm)を10mass%と、芯成分がポリエステルからなり、鞘成分がポリプロピレン(融点:160℃)からなる芯鞘型複合熱融着性繊維(繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)を90mass%とを混綿した後に、カード機を用いて開繊して繊維ウエブを形成した。その後、針密度100本/cm2でニードルパンチ絡合を実施して、目付が550g/m2で、厚さが5mmのニードルパンチ不織布を製造し、これを成型層用ウエブとした。
(3)表皮層用ウエブと成型層用ウエブの一体化工程;
前記(1)の表皮層用ウエブと前記(2)の成型層用ウエブとを積層した後、表皮層用ウエブ側から針密度100本/cm2でニードルパンチ絡合を実施し、これらウエブを一体化した。
(4)表皮層用ウエブ−バインダ付着成型層用ウエブ一体化ウエブの形成工程;
前記(3)の一体化ウエブの成型層用ウエブ側からのみ、アクリル酸エステル−スチレン共重合体エマルジョン型バインダ(造膜温度:170℃)を塗布し、温度160℃で乾燥すると同時に、表皮層用ウエブの低融点ポリエステル成分及び成型層用ウエブのポリプロピレン成分のいずれも融着させ、成型層用ウエブの片側表面を含む一部にのみ前記バインダが付着(付着量:50g/m2)した、目付が750g/m2で、厚さが7mmの表皮層用ウエブ−バインダ付着成型層用ウエブ一体化ウエブを形成した。
(5)表皮層−成型層一体化物の形成工程;
前記(4)の表皮層用ウエブ−バインダ付着成型層用ウエブ一体化ウエブを加熱炉にて200℃に加熱した後、冷却プレスにより、3mm厚さの平板状に成型するとともに、バインダを造膜させて、表皮層−成型層一体化物(表皮層−成型層一体化物の通気度:12cm3/cm2/sec.、成型層の通気度:16cm3/cm2/sec.)を形成した。この一体化物においては、成型層の0〜0.5の範囲(成型層のバインダ付着片側表面を0、成型層の反対側表面を1と目盛った時)に造膜した樹脂バインダが存在していた。
(6)吸音層の形成工程;
反毛綿90mass%と、芯成分がポリエステルからなり、鞘成分が低融点ポリエステル(融点:110℃)からなる芯鞘型複合熱融着性繊維(繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)10mass%とを混綿した後に、カード機を用いて開繊して繊維ウエブを形成した。その後、温度170℃、無圧下で熱処理を施し、芯鞘型複合熱融着性繊維の鞘成分を融着させて、吸音層(目付:1000g/m2、厚さ:13mm、通気度:100cm3/cm2/sec.)を形成した。
(7)自動車用内装材の形成工程;
前記(5)の表皮層−成型層一体化物の成型層側に溶剤型合成ゴム系接着剤(商標:インサルジェット、アロン エバーグリップ リミテッド製)を噴霧した後、前記一体化物の成型層に前記(6)の吸音層を積層した後、自然乾燥させて接着一体化し、本発明の自動車用内装材(目付:1750g/m2、厚さ:15mm)を製造した。」

以上の特に下線部の記載によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲2発明]
ポリエステル繊維からなる表皮層―成型層一体化物に、ポリエステル繊維からなる吸音層を積層した後、接着一体化した、吸音性能の優れる自動車用内装材であって、
表皮層―成型層一体化物と吸音層は不織布を含み、
表皮層―成型層一体化物の厚さは3mmであり、
表皮層―成型層一体化物の通気度は12cm3/cm2/sec.であり、
吸音層は芯鞘型複合熱融着性繊維を含み、
吸音層の厚さは13mmであり、
吸音層の通気度は100cm3/cm2/sec.である、
自動車用内装材。

3 当審の判断
(1)取消理由(1)について
本件発明と甲1発明を対比する。

甲1発明の「音の放射源側のポリプロピレンを含む高密度不織布1と、音の放射源と反対側のポリプロピレンを含む低密度不織布2を2層に組み合わせた吸音体」は、本件発明の「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材」に相当する。また、甲1発明の「高密度不織布1」と「低密度不織布2」は不織布であるから、本件発明と甲1発明は、「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布」である「吸音材。」である点で一致する。

甲1発明の「不織布1の層厚」は「5mm」であり、本件発明の「通気性表皮材の厚さ」の「0.5〜12mm」と数値が重なっているから、本件発明と甲1発明は、「前記通気性表皮材の厚さは、0.5〜12mm」である点で一致する。

甲1発明の「不織布1の流れ抵抗」は「74〜500kNs/m4」であり、これをフラジール通気量に換算すると、5〜34cm3/cm2・sとなり、本件発明の「通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上」と数値が重なっているから、本件発明と甲1発明は、「前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上」である点で一致する。

甲1発明における「不織布はバインダーを含み、・・・不織布2を基準にして20〜40重量%のバインダーを使用」するから、本件発明と甲1発明は、「前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含」む点で一致する。

甲1発明の「不織布1」の流れ抵抗の「不織布2」の流れ抵抗に対する比は、(74/20)〜(500/20)、すなわち、3.7〜25であり、本件発明の「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさ」とは数値の範囲が異なり、両者はこの点で相違する。
したがって、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、取消理由(1)には理由がない。

(2)取消理由(2)について
本件発明と甲2発明を対比する。

甲2発明の「ポリエステル繊維からなる表皮層―成型層一体化物に、ポリエステル繊維からなる吸音層を積層した後、接着一体化した、吸音性能の優れる自動車用内装材」は、本件発明の「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材」に相当する。また、甲2発明の「表皮層―成型層一体化物」と「吸音層」は、「不織布を含」むから、本件発明と甲2発明は、「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布」である「吸音材。」である点で一致する。

甲2発明の「表皮層―成型層一体化物の厚さ」は「3mm」であり、本件発明の「通気性表皮材の厚さ」の「0.5〜12mm」と数値が重なっているから、本件発明と甲2発明は、「前記通気性表皮材の厚さは、0.5〜12mm」である点で一致する。

甲2発明の「表皮層―成型層一体化物の通気度」は「12cm3/cm2/sec.」であり、「5.3cm3/cm2/s以上」であるから、本件発明と甲2発明は、「前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2/s以上」である点で一致する。

甲2発明の「吸音層」は「芯鞘型複合熱融着性繊維を含」むから、本件発明と甲2発明は、「前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含」む点で一致する。

通気抵抗は、通気度に反比例するから、甲2発明において、「表皮層―成型層一体化物」の「単位厚さあたりの通気抵抗」の、「吸音層」の「単位厚さあたりの通気抵抗」に対する比は、(1/(「表皮層―成型層一体化物」の通気度*「表皮層―成型層一体化物」の厚さ))*(1/(「吸音層」の通気度*「吸音層」の厚さ))として計算できる。
甲2発明では、「表皮層―成型層一体化物」の厚さは3mm、「表皮層―成型層一体化物」の通気度は12cm3/cm2/sec.、「吸音層」の厚さは13mm、「吸音層」の通気度は100cm3/cm2/sec.であるから、これらの値を上記計算式に代入すると、「表皮層―成型層一体化物」の「単位厚さあたりの通気抵抗」の、「吸音層」の「単位厚さあたりの通気抵抗」に対する比は、(1/(12*3))/(1/(100*13))=36であり、本件発明の「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさ」とは数値の範囲が異なり、両者はこの点で相違する。
したがって、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、取消理由(2)には理由がない。

(3)取消理由(3)について
上記(1)で述べたとおり、本件発明は、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである」のに対し、甲1発明は、不織布1の流れ抵抗が不織布2の流れ抵抗の3.7〜25倍であり、数値の範囲が異なる点で、両者は相違する。
この相違点について検討する。
甲1発明は、明細書の段落【0020】の記載によれば、200〜800 Hzの周波数域に関する吸音性を改良することを目的とするものである。この目的を達成した実施例として、段落【0048】の表1に実施例1〜5が記載されている。
表1をみると、不織布1の流れ抵抗は、実施例1〜5で74、120、250、350、500kNs/m4であり、不織布2の流れ抵抗は、実施例1〜5で何れも20kNs/m4であるから、不織布1の流れ抵抗の不織布2の流れ抵抗に対する比は、実施例1が3.7、実施例2が6、実施例3が12.5、実施例4が17.5、実施例5が25であり、実施例の数値1〜5が大きくなるにしたがって、流れ抵抗の比も大きくなるように設定されている。
図1の「実施例、比較例の周波数に対する吸音の関係を示すグラフ」を参照すると、周波数が200Hz付近では、実施例の数値1〜5が大きくなるにしたがって、すなわち、流れ抵抗の比が大きくなるにしたがって音の吸収αも増加している。一方、周波数が800 Hz付近では、実施例1〜3までは流れ抵抗の比が大きくなるにしたがって音の吸収αも増加しているが、実施例4、5になると流れ抵抗の比が大きくなるにしたがって音の吸収αは逆に低下して比較例に近くなっていることがわかる。
このことから、甲1発明において、流れ抵抗の比を、実施例5の25倍よりもさらに大きくして、本件発明のような58.3倍以上にすることは、音の吸収を低下させ吸音性を悪化させることとなるから、200〜800 Hzの周波数域に関する吸音性を改良することを目的とする甲1発明では想定し得ないことである。
したがって、甲1発明において、上記相違点を克服することには阻害要因があり、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、取消理由(3)には理由がない。

(4)取消理由(4)について
上記(2)で述べたとおり、本件発明は、「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである」のに対し、甲2発明は、表皮層―成型層一体化物の単位厚さあたりの通気抵抗が、吸音層の単位厚さあたりの通気抵抗の36倍であり、数値の範囲が異なる点で、両者は相違する。
この相違点について検討する。
甲2発明は、上述したとおり、表皮層―成型層一体化物の単位厚さあたりの通気抵抗が、吸音層の単位厚さあたりの通気抵抗の36倍であるものであるが、この36倍という数値は、単に、本件発明にならって甲2号証について倍率を計算したものであって、甲第2号証には、この数値自体やこの数値と吸音性能との関係について全く言及されていない。
したがって、甲2発明において、上記36倍との数値を変更して58.3倍以上2514倍未満の大きさとする動機はなく、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、取消理由(4)には理由がない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 異議申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性欠如)について
甲第3号証の段落[0079]には、次の記載がある。

「[0079] (実施例 2)
東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレート(PET)ステープル(1.7dtex × 51mm)を用いニードルパンチ方式により厚さ10mm、目付400g/m2、嵩密度0.04g/cm3のポリエチレンテレフタレート(PET)ニードルパンチ不織布を作成した。一方表皮材として、東レ株式会社製ポリエチレンテレフタレート(PET)スパンボンド不織布「アクスター(登録商標)G2260」(厚さ560μm、目付260g/m2、通気量11.5cc/cm2/sec)を、実施例1と同じ方法でPETニードルパンチ不織布に貼り付け、「PET ニードルパンチ不織布/ PETスパンボンド不織布」貼り合わせの吸音材を得た。」

上記記載によれば、甲第3号証には、不織布を積層した吸音材(実施例2)として、次の吸音材が記載されている。
「東レ株式会社製のポリエチレンテレフタレート(PET)ステープル(1.7dtex X 51mm)を用いニードルパンチ方式により厚さ10mm、目付400g/m2、嵩密度0.04g/cm3のポリエチレンテレフタレート(PET)ニードルパンチ不織布を作成した。一方表皮材として、東レ株式会社製ポリエチレンテレフタレート(PET)スパンボンド不織布「アクスター(登録商標)G2260」(厚さ560μm、目付260g/m 2、通気量11.5cc/cm2/sec)を、PETニードルパンチ不織布に貼り付けた、「PET ニードルパンチ不織布/ PETスパンボンド不織布」貼り合わせの吸音材。」

上記実施例2の吸音材について、甲第3号証には、“PETスパンボンド不織布の単位厚さあたりの通気抵抗が、PETニードルパンチ不織布の単位厚さあたりの通気抵抗の何倍であるか”は、全く記載されておらず、その数値を計算するために必要なPETニードルパンチ不織布の通気量や通気抵抗も記載されていない。
実施例2以外の記載をみても同様であり、甲第3号証には、少なくとも、本件発明の「前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである」との発明特定事項を有する発明は記載されているとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるということはできない。

2 異議申立理由6(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について
上記1で述べたように、甲第3号証に記載の吸音材については、“PETスパンボンド不織布の単位厚さあたりの通気抵抗が、PETニードルパンチ不織布の単位厚さあたりの通気抵抗の何倍であるか”は全く記載されておらず、また、そもそも、その数値を計算すること自体が記載されていないから、甲第3号証に記載された発明において、その数値を「58.3倍以上2514倍未満の大きさ」にする動機は全くない。
よって、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3 異議申立理由7(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について
甲第4号証の段落[0039]、段落[0049]には、次の記載がある。

「【0039】実施例1
高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1〜5μm)からなる不織布で、面密度0.8kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ2mm、通気量0.5cc/cm2secにし、(b)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1〜5μm)からなる不織布で、面密度0.4kg/m2、厚さ20mm、通気量3.5cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層し、総厚22mmの低周波数用吸音材(1)を作製した。」

「【0049】実施例11
高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2secにし、(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層し、総厚36mmの低周波数用吸音材(11)を作製した。」

これらの記載によれば、甲第4号証には、不織布を積層した吸音材として、次の低周波数用吸音材(1)及び低周波数用吸音材(2)が記載されている。

「高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1〜5μm)からなる不織布で、面密度0.8kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ2mm、通気量0.5cc/cm2secにし、(b)はメルトブロー法で製造したポリプロピレン繊維(構成繊維径1〜5μm)からなる不織布で、面密度0.4kg/m2、厚さ20mm、通気量3.5cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層した、総厚22mmの低周波数用吸音材(1)。」

「高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2secにし、(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2secのものを用い、音の侵入する面を(a)とするように積層した、総厚36mmの低周波数用吸音材(11)。」

甲第4号証に記載された、これらの低周波数用吸音材(1)又は低周波数用吸音材(11)について、高密度層(a)(本件発明の「通気性表皮材」に相当)の通気量は、それぞれ、0.5cc/cm2sec又は0.75cc/cm2secであるが、この通気量の数値を変更しようとする動機付けとなる事項は甲第4号証に記載されておらず、さらに、この数値を変更して本件発明のように、5.3cm3/cm2/s以上にすることが当業者に容易に想到し得るといえる理由は見当たらない。
よって、請求項1に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4 異議申立理由8(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について
甲第5号証の段落[0061]には、次の記載がある。

「【0061】実施例11
ポリプロピレン製の板1mmに、高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、高密度層(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2sec、密度0.4g/cm3にし、低密度層(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構造繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2sec、密度0.03g/cm3のものを用い、音の侵入する面を(a)、板側に(b)が設置されるように積層し、密度差12倍、設定周波数470Hz、総合の面密度3.4kg/m2、総厚36mmのエンジンカバー用吸音材(11)を作製した。」

これらの記載によれば、甲第5号証には、不織布を積層した吸音材として、次のエンジンカバー用吸音材(11)が記載されている。

「ポリプロピレン製の板1mmに、高密度層(a)と低密度層(b)とを有する2層の積層構造体で、高密度層(a)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構成繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度2.4kg/m2のものを、加熱成形圧縮し、厚さ6mm、通気量0.75cc/cm2sec、密度0.4g/cm3にし、低密度層(b)は溶融紡糸法で製造したポリエステル繊維(構造繊維径10〜30μm)からなる不織布で、面密度1.0kg/m2、厚さ30mm、通気量50cc/cm2sec、密度0.03g/cm3のものを用い、音の侵入する面を(a)、板側に(b)が設置されるように積層した、密度差12倍、設定周波数470Hz、総合の面密度3.4kg/m2、総厚36mmのエンジンカバー用吸音材(11)。」

甲第5号証に記載された、エンジンカバー用吸音材(11)について、高密度層(a)(本件発明の「通気性表皮材」に相当)の通気量は、0.75cc/cm2secであるが、この通気量の数値を変更しようとする動機付けとなる事項は甲第5号証に記載されておらず、さらに、この数値を変更して本件発明のように、5.3cm3/cm2/s以上にすることが当業者に容易に想到し得るといえる理由は見当たらない。
よって、請求項1に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】吸音材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音性能に優れる吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2009−275309号公報(以降、特許文献1と称することがある)に開示されているように、自動車用途などの産業用吸音材では1000Hzよりも高周波の帯域における吸音性能に優れる吸音材が望まれている。
そして、吸音性能に優れる吸音材の提供を目的として、通気性表皮材を通気性基材に積層した吸音材が検討されており、例えば、特開2008−8997号公報(以降、特許文献2と称することがある)には、吸音母材(通気性基材に相当)の嵩密度や厚さを増やすことなく、広い周波数帯域で良好な吸音特性を実現可能な複合吸音材として、ポリエステル繊維系の多孔質材料からなる吸音母材の、音波が入射する側に不織布(通気性表皮材に相当)を積層してなる複合吸音材が開示されている。
なお、特許文献2には、単位厚さあたりの通気抵抗が0.3〜7×104N・s/m4の吸音母材を採用できること、そして、単位厚さあたりの通気抵抗が0.5〜5×104N・s/m4の不織布を採用できることが開示されているものの、吸音母材と不織布における最適な単位厚さあたりの通気抵抗の組み合わせについては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−275309号公報(0004)
【特許文献2】特開2008−8997号公報(特許請求の範囲、0008など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能か効果的に向上した、吸音性能に優れる吸音材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
「有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、
前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布であり、
前記通気性表皮材の厚さは、0.5〜12mmであり、
前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上であり、
前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含み、
前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。」
である。
【発明の効果】
【0006】
吸音性能に優れた吸音材を提供することを目的として、本発明者らは有機ポリマーで構成された不織布である通気性表皮材を有機ポリマーで構成された不織布であり、接着繊維またはバインダを含む通気性基材に積層した吸音材について検討した結果、前記吸音材の吸音性能が、通気性表皮材における単位厚さあたりの通気抵抗と、通気性基材における単位厚さあたりの通気抵抗の組み合わせにより大きく変化することを見出した。
そして、前記通気性表皮材の厚さが0.5〜12mm、前記通気性表皮材の通気度は5.3cm3/cm2・s以上、前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の58.3倍以上2514倍未満の大きさである場合に、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能を効果的に向上できることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1および比較例1−4で調製した吸音材が発揮した、吸音率をまとめたグラフである。
【図2】実施例1および比較例1−3で調製した吸音材における、吸音性能の向上比率をまとめたグラフである。
【図3】実施例2−3および比較例5−6で調製した吸音材が発揮した、吸音率をまとめたグラフである。
【図4】実施例2−3および比較例5で調製した吸音材における、吸音性能の向上比率をまとめたグラフである。
【図5】実施例4−6および比較例7で調製した吸音材が発揮した、吸音率をまとめたグラフである。
【図6】実施例4−6で調製した吸音材における、吸音性能の向上比率をまとめたグラフである。
【図7】実施例2、7−8および比較例6で調製した吸音材が発揮した、吸音率をまとめたグラフである。
【図8】実施例2、7−8で調製した吸音材における、吸音性能の向上比率をまとめたグラフである。
【図9】実施例9−11および比較例8−10で調製した吸音材が発揮した、吸音率をまとめたグラフである。
【図10】実施例9−11で調製した吸音材における、吸音性能の向上比率をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
通気性表皮材および通気性基材の種類は適宜調整するものであり、限定されるものではないが、例えば、不織布や織物(例えば、メッシュなど)や編物などの布帛、通気性を備える有孔フィルムや発泡体シートを含んだ構造物であることができる。特に、吸音材として使用した際の加工性や追従性に優れ、加工時や設置時に意図しない変形の発生に伴う吸音性能の低下が生じるのを防止できる効果が発揮され易いことから、通気性表皮材および通気性基材は共に布帛であるのが好ましく、前述の効果が更に発揮され易いことから、通気性表皮材および通気性基材は共に不織布であるのがより好ましい。
【0009】
通気性表皮材および通気性基材は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーを用いて構成できる。
【0010】
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機ポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の有機ポリマーを混ぜ合わせたものでも良く、特に限定されるものではない。
【0011】
なお、吸音材を自動車用途やOA機器などの電気機器用途に使用する場合のように、難燃性に優れる吸音材が必要な場合には、通気性表皮材および/または通気性基材が難燃性の有機ポリマーを含んでいるのが好ましい。このような難燃性の有機ポリマーとして、例えば、モダアクリル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ノボロイド樹脂、ポリクラール樹脂、リン化合物を共重合したポリエステル樹脂、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル樹脂、アラミド樹脂、ハロゲン系やリン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込んだ樹脂などを挙げることができる。
【0012】
また、吸音材の吸音性能を向上するために、通気性表皮材および/または通気性基材が、例えば、シリカ粒子などを備えることで、通気性表皮材および/または通気性基材の質量を重くしても良い。
【0013】
通気性表皮材および/または通気性基材が布帛である場合、構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0014】
布帛を構成する繊維は、一種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも、複数種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機ポリマーから構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
布帛は構成繊維として接着繊維を含んでいてもよい。接着繊維を含むことで、布帛の圧縮硬さを調整して吸音材の吸音性能を効果的に向上でき、また、布帛から繊維が脱離するのを抑制して意図しない変形の発生に伴う吸音性能の低下が生じるのを防止でき好ましい。接着繊維の種類は適宜選択するが、例えば、芯鞘型接着繊維、サイドバイサイド型接着繊維、あるいは、全溶融型接着繊維を採用することができる。
【0015】
また、布帛は構成繊維として横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0016】
なお、布帛が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を、織るあるいは編むことで調製できる。
【0017】
布帛が不織布である場合、不織布として、例えば、カード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせて不織布の態様とする乾式不織布、繊維を液体に分散させシート状に抄き不織布の態様とする湿式不織布、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009−287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集してなる不織布などが挙げられる。また、不織布における繊維の絡合の程度を調整するため、不織布をニードルパンチ装置や水流絡合装置へ供することができる。
【0018】
通気性表皮材を構成する繊維の平均繊維径が細いほど、吸音性能に優れる吸音材を得ることができる傾向がある。そのため、通気性表皮材を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、70μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましい。下限値は適宜調整するが、50nm以上であるのが現実的であり、1μm以上であるのがより現実的である。細い平均繊維径を得ることが容易であるという点からも、通気性表皮材が直接紡糸法により調製された不織布であるのが好ましい。
なお、本発明でいう、「平均繊維径」は、繊維を含んだ構造物(繊維を含んだ通気性表皮材や、繊維を含んだ通気性基材など)の主面や断面の電子顕微鏡写真を分析し、無作為に選んだ100本の繊維の繊維直径の算術平均値であり、繊維直径は繊維の断面積と同じ面積をもつ円の直径をいう。
【0019】
また、繊維長も特に限定するものではないが、0.5〜150mmであることができ、繊維の製造方法によっては連続繊維であることもできる。なお、平均繊維径および/または繊維長の点で異なる繊維を2種類以上含んでも良い。
【0020】
通気性基材がエアレイ装置に供することで繊維を絡み合わせた不織布(以降、エアレイ不織布と称することがある)であると、厚さ、嵩高性を確保でき、また構成繊維を厚さ方向に配列することによって硬さを調整でき、ヘタリ防止となるほか、通気性基材のバネ定数を調整して吸音材の共振周波数を任意に調整して、吸音性能に優れる吸音材を提供でき好ましい。
【0021】
なお、通気性基材がエアレイ不織布など乾式不織布である場合、乾式不織布を構成する繊維の繊度は特に限定するものではないが、吸音性能に優れる吸音材を得ることができるように、前記繊度は0.00002〜70dtexであるのが好ましく、0.3〜30dtexであるのがより好ましい。また、繊維長も特に限定するものではないが、0.5〜150mmであることができ、繊維の製造方法によっては連続繊維であることもできる。なお、繊度および/または繊維長の点で異なる繊維を2種類以上含んでも良い。
【0022】
通気性表皮材および通気性基材の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく吸音性能に優れる吸音材を得られるように適宜調整する。
通気性表皮材の厚さは、2.5μm〜12mmであるのが好ましく、0.5〜2mmであるのが最も好ましい。また、通気性表皮材の目付は、例えば、1.75〜3000g/m2であるのが好ましく、40〜150g/m2であるのが最も好ましい。
通気性基材の厚さは、2〜100mmであるのが好ましく、4〜20mmであるのが最も好ましい。通気性基材の目付は、例えば、50〜3000g/m2であるのが好ましく、70〜1000g/m2であるのが最も好ましい。
なお、本発明において厚さとは、測定対象物の主面からもう一方の主面に向けて、主面上へφ29mmの面積あたり0.0157Nの荷重を付加した時の、測定対象物における荷重が作用する方向の長さを高精度デジタル測長機で測定した値をいう。
また、本発明において目付とは、測定対象物の一番広い主面における1m2あたりの質量をいう。
【0023】
通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさであるならば、吸音性能に優れる吸音材となるよう通気性表皮材および通気性基材の通気度は適宜調整できるが、通気性表皮材の通気度が1.3cm3/cm2・sよりも小さいと、通気性表皮材を音波が通過し難くなることに起因して吸音材の吸音性能か低下する恐れがあり、通気度が670cm3/cm2・sよりも大きいと、音波が通気性表皮材を構成する例えば繊維などの構成部材に衝突し難くなることに起因して吸音材の吸音性能が低下する恐れがある。そのため、通気性表皮材の通気度は670cm3/cm2・s以下であるのが好ましく、470cm3/cm2・s以下であるのが最も好ましい。下限値は適宜調整するものであるが、1.3cm3/cm2・s以上であるのが好ましい。
【0024】
また、通気性基材の通気度が2cm3/cm2・sよりも小さいと通気性基材を音波が通過し難くなることに起因して、吸音材の吸音性能が低下する恐れがあり、通気度が1000cm3/cm2・sよりも大きいと音波が通気性基材を構成する例えば繊維などの構成部材に衝突し難くなることに起因して吸音材の吸音性能が低下する恐れがある。そのため、通気性基材の通気度は2〜1000cm3/cm2・sであるのが好ましく、15〜600cm3/cm2・sであるのが最も好ましい。
【0025】
なお、本発明でいう通気度は以下に説明する通気度の測定方法を用いて測定できる。
(通気度の測定方法)
1.JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「通気性」A法(フラジール形法)において、通気度の測定に使用可能なフラジール型通気度試験機を準備する。なお、、前記フラジール型通気度試験機における、通気部分の大きさは直径70mmの円形である。
2.測定対象(通気性表皮材や通気性基材)を打ち抜き、直径29mmの円板状の試験片を採取する。
3.中央に直径29mmの円形の開口を有する平板(縦:100mm、横:100mm)の中央に、円筒(外径:35mm、内径:29mm、高さ20mm)の一方の端部が接続一体化した形状の、治具を準備する。
4.治具における円筒部分の内部に試験片を収め、円筒部分と試験片との接触部分にOリング(外径:29mm、内径:25mm)を配置することで、通気度の測定時に円筒部分と試験片の接触部分に通気が生じないようにする。
5.フラジール型通気度試験機における通気部分の中心と、治具に納められている試験片の中心とが重なるようにして、フラジール型通気度試験機における通気部分の上に治具を設置する。なお、この時、フラジール型通気度試験機と治具の接触部分に通気が生じないようにする。
6.差圧が125Paとなる条件で、通気度の測定を行う。なお、このときの試験片の通気部分は直径25mmの円形形状(Oリングの内周形状)である。
7.測定結果を7.84倍し換算することで、測定対象の通気度(単位:cm3/cm2/s)を算出する。なお、7.84倍とは、フラジール型通気度試験機の通気部分(直径70mm)の面積を、試験片の通気部分(直径25mm)の面積で除した値である。
【0026】
本発明でいう「単位厚さあたりの通気抵抗」とは、通気性表皮材および通気性基材の通気度と厚さの値を以下の式に代入することで算出した値である。

σ:単位厚さあたりの通気抵抗(単位:N・s/m4)
ΔP:差圧(125Pa)
Q:通気度(単位:cm3/cm2/s)
t:厚さ(単位:mm)
【0027】
本発明者らは、通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさであるときに、通気性表皮材の積層により吸音材の吸音性能を効果的に向上できて、吸音性能に優れる吸音材を提供できることを見出した。
上述した数値範囲内において、吸音性能に優れる吸音材を提供できるようにこの値は適宜調整する。そして、前記値が大きいほど効果的に吸音率を向上できる傾向がある。
【0028】
なお、バインダや有機ポリマー由来の接着成分によって通気性表皮材と通気性基材が接着一体化してなる吸音材であっても、通気性表皮材と通気性基材を容易に分離できる吸音材や、通気性表皮材と通気性基材をただ重ね合わせてなる吸音材の場合は、構成する通気性表皮材と通気性基材の「単位厚さあたりの通気抵抗」は、吸音材から分離して取得した通気性表皮材と通気性基材を、上述した(通気度の測定方法)へ供して得られた通気度の値および厚さの値から算出できる。
【0029】
一方、吸音材を調製するために使用した通気性表皮材と通気性基材の通気度と厚さの値が不明であって、バインダや有機ポリマー由来の接着成分の存在や繊維絡合などの要因によって、通気性表皮材と通気性基材を分離して取得するのが困難な吸音材における、吸音材を構成している通気性表皮材と通気性基材の「単位厚さあたりの通気抵抗」は、以下に説明する方法により求めた通気度の値および厚さの値から算出する。
1.吸音材の厚さと、吸音材を構成している通気性基材の厚さ(以下、通気性基材の本来厚さと称する)を測定する。
2.吸音材の厚さの値から通気性基材の本来厚さの値を引き、その値を通気性表皮材の厚さとする。
3.吸音材を上述した(通気度の測定方法)へ供して通気度を測定する。
4.吸音材から通気性基材の主面と平行をなす方向に通気性基材を切り取り、通気性基材の試験片を採取する。そして、試験片の厚さを測定し、試験片を上述した(通気度の測定方法)へ供して通気度を測定する。
5.吸音材の通気度の値、および、試験片の通気度の値を以下の式に代入することで、吸音材の通気抵抗、および、試験片の通気抵抗を算出する。

R:通気抵抗(単位:N・s/m3)
ΔP:差圧(125Pa)
Q:通気度(単位:cm3/cm2/s)
6.算出された試験片の通気抵抗の値を、通気性基材の本来厚さにおける通気抵抗の値に換算する。
7.吸音材の通気抵抗の値から、通気性基材の本来厚さにおける通気抵抗の値を引き、その値を通気性表皮材の通気抵抗とする。
8.通気性表皮材の通気抵抗の値から、通気性表皮材の通気度を算出する。
【0030】
なお、通気性表皮材と通気性基材を接着している接着成分が後述する態様である場合には、通気性表皮材と通気性基材の間に存在する接着成分が通気性表皮材の通気性に影響を及ぼし難く、通気性表皮材と接着成分が付着した通気性表皮材の通気性は同等の値になる。そのため、算出された接着成分が付着した通気性表皮材の通気度の値、および、厚さの値から算出された「単位厚さあたりの通気抵抗」は、吸音材の調製に使用する通気性表皮材自体の「単位厚さあたりの通気抵抗」とみなす。
【0031】
通気性表皮材と通気性基材の積層態様は適宜調整するが、通気性表皮材と通気性基材をただ重ね合わせた吸音材であっても、通気性表皮材および/または通気性基材に含まれる接着繊維など繊維を構成する有機ポリマーを溶融させて積層一体化した吸音材であっても、間にバインダを介して通気性表皮材と通気性基材を接着一体化した吸音材であってもよい。
【0032】
なお、バインダの種類は適宜調整するものであり上述した有機ポリマーをバインダとして採用できる。また、通気性表皮材と通気性基材を接着しているバインダの態様も適宜調整することができ、通気性表皮材と通気性基材がドット状のバインダによって接着した態様であっても、蜘蛛の巣状(ウェブ状)のバインダによって接着した態様であっても、積層した通気性表皮材と通気性基材をバインダ溶液に含浸し乾燥することでバインダにより接着してなる態様であってもよい。
特に、通気性表皮材と通気性基材が蜘蛛の巣状(ウェブ状)のバインダで接着した態様であると、通気性表皮材と通気性基材の間に存在するバインダが通気性表皮材の通気性に影響を及ぼし難く、通気性表皮材と通気性基材の間の通気性が低下し難い傾向があることから、例えば1000Hz以上の高周波帯域など広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮する吸音材となり、好ましい。
【0033】
なお、通気性表皮材と通気性基材を接着しているバインダの質量は適宜調整するが、0.1〜200g/m2であるのが好ましく、特に、通気性表皮材と通気性基材を接着している接着成分の質量が5〜20g/m2の範囲であると、通気性表皮材と通気性基材の間に存在する接着成分が通気性表皮材の通気性に影響を及ぼし難く、通気性表皮材と通気性基材の間の通気性が低下し難い傾向があることから、例えば1000Hz以上の高周波帯域など広い周波数帯域において優れた吸音吐能を発揮する吸音材となり、より好ましい。
【0034】
吸音材の、例えば、厚さ、目付、通気度などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく吸音性能に優れるように適宜調整する。
吸音材の厚さは、2.5〜112mmであるのが好ましく、4.5〜22mmであるのが最も好ましい。
また、吸音材の目付は、例えば、90〜6000g/m2であるのが好ましく、110〜1150g/m2であるのが最も好ましい。
そして、吸音材の通気度は、1.6〜400cm3/cm2/sであるのが好ましく、3〜272cm3/cm2/sであるのが最も好ましくい。
【0035】
上述したような、通気性表皮材と通気性基材の積層体は、そのまま吸音材として使用できるが、耐久性や剛性あるいは難燃性の付与を目的として、例えば、不織布や織物(例えば、メッシュなど)や編物などの布帛、通気性を備えるフィルムや発泡体シートなどの別途用意した部材を積層してもよい。なお、難燃性の付与を目的とする場合、別途用意した部材として、例えば、難燃繊維や難燃剤を含んだ布帛を採用するのが好ましい。
【0036】
別途用意した部材は前記積層体における、通気性表皮材および/または通気性基材の露出している主面上に積層できるが、吸音材による吸音作用が効果的に発揮されるように、吸音対象となる音波が存在する側に通気性表皮材側か向くように吸音材を設けるのが好ましいことから、前記積層体における通気性表皮材の露出している主面上に別途用意した部材を積層するのが好ましい。
【0037】
また、このようにして調製された吸音材を壁面や機器内部に貼り付けて使用するため、吸音材における吸音対象となる音波が存在する側と反対側の主面に、粘着剤や両面粘着テープを付与する、あるいは、面ファスナーを設けても良い。
【0038】
吸音材の形状は適宜調整できるものであり、限定されるものではなく、例えば、丸形状、長円形形状、正方形形状、長方形形状などの形状であってもよい。また、例えば、コルゲート加工やプリーツ加工、捲回加工、切り抜きや打ち抜きや穴空け、部分的に切れ込みを入れた所望する形状であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
(実施例1−6、比較例1−7)
(通気性表皮材の準備)
溶融したポリプロピレン樹脂を紡糸液として使用し、メルトブロー法を用いて紡糸すると共に捕集してなる、メルトブロー不織布A〜Cを準備した。
・メルトブロー不織布A(平均繊維径:1.2μm、通気度:5.3cm3/cm2・s、厚さ:1.1mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2.1×106N・s/m4、目付:83g/m2)
・メルトブロー不織布B(平均繊維径:3.4μm、通気度:45.2cm3/cm2・s、厚さ:1.4mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2×105N・s/m4、目付:84g/m2)
・メルトブロー不織布C(平均繊維径:9.8μm、通気度:143.8cm3/cm2・s、厚さ:1.4mm、単位厚さあたりの通気抵抗:6.2×104N・s/m4、目付:85g/m2)
また、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解させたポリエーテルスルホン樹脂溶液を紡糸液として使用し、静電紡糸法を用いて紡糸すると共に捕集してなる、静電紡糸不織布を準備した。
・静電紡糸不織布(平均繊維径:0.4μm、通気度:1.3cm3/cm2・s、厚さ:0.1mm、単位厚さあたりの通気抵抗:8.8×107N・s/m4、目付:5g/m2)
(通気性基材の準備)
ポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)50質量%とポリエステル中空繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:64mm)20質量%および芯鞘型接着繊維(芯部:ポリエステル樹脂、鞘部:共重合ポリエステル樹脂、繊度:4.4dtex、繊維長:51mm)30質量%とを混合した繊維群を、エアレイ装置に供することで繊維を絡み合わせて乾式不織布a〜bを調製した。
・乾式不織布a(通気度:34cm3/cm2・s、厚さ:10.6mm、単位厚さあたりの通気抵抗:3.5×104N・s/m4、目付:505g/m2)
・乾式不織布b(通気度:130cm3/cm2・s、厚さ:9.8mm、単位厚さあたりの通気抵抗:9.8×103N・s/m4、目付:245g/m2)
また、ポリエステル繊維(繊度:22dtex、繊維長:76mm)50質量%とポリエステル繊維(繊度:17dtex、繊維長:51mm)10質量%およびモダアクリル繊維(繊度:17dtex、繊維長:64mm)40質量%を混合した繊維群をカード機へ供した後、ニードルパンチ処理を施すことで乾式ウェブを調製した。
そして、乾式ウェブに塩ビ系バインダをスプレー塗布および含浸して乾式不織布c(通気度:463cm3/cm2・s、厚さ:10.5mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2.6×103N・s/m4、目付:307g/m2)を調製した。
(吸音材の調製)
表1に記載する組み合わせの通気性表皮材と通気性基材を、接着することなく積層して吸音材を調製した。
なお、比較例4、6−7では、通気性基材単体を吸音材として使用した。
【0041】
表1では、単位厚さあたりの通気抵抗(単位:N・s/m4)を(通気抵抗)と省略して記載し、通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗を、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗で除し、小数第2位を四捨五入し算出した値を「通気抵抗の比率」として記載した。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例7−8)
実施例2で使用した通気性表皮材と通気性基材の積層面同士の間に、蜘蛛の巣状の共重合オレフィン系ホットメルト樹脂(目付:5g/m2、軟化点:153℃)を介在させ、通気性表皮材と通気性基材を接着一体化し、実施例7の吸音材(厚さ:10.9mm、通気度:5.2cm3/cm2/s)を調製した。
蜘蛛の巣状の共重合オレフィン系ホットメルト樹脂(目付:20g/m2、軟化点:153℃)を介在させ、通気性表皮材と通気性基材を接着一体化したこと以外は実施例7と同様にして、実施例8(厚さ:10.9mm、通気度:5.3cm3/cm2/s)の吸音材を調製した。
なお、実施例7−8で調製した吸音材を構成する、通気性基材と接着成分が付着した通気性表皮材の通気度は、上述した方法によって算出した。また、通気度の算出を行うため吸音材から切り取った通気性基材の厚さ(特定厚さ)は、5.0mmであった。
測定の結果、調製した実施例7−8の吸音材から算出した、通気性表皮材および通気性基材の、各々の厚さ、通気度、単位厚さあたりの通気抵抗は、吸音材を調製するために使用した、通気性表皮材および通気性基材の、各々の厚さ、通気度、単位厚さあたりの通気抵抗と同じ値であった。
【0044】
(実施例9−11、比較例8−10)
(通気性基材の準備)
ポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)20質量%とモダアクリル難燃繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:52mm)60質量%および芯鞘型接着繊維(芯部:ポリエステル樹脂、鞘部:共重合ポリエステル樹脂、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)20質量%とを混合した繊維群を、エアレイ装置に供することで繊維を絡み合わせて乾式不織布d(通気度:36cm3/cm2・s、厚さ:9.6mm、単位厚さあたりの通気抵抗:3.6×104N・s/m4、目付:512g/m2)を調製した。
また、ポリエステル繊維(繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)50質量%とモダアクリル難燃繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:52mm)30質量%および芯鞘型接着繊維(芯部:ポリエステル樹脂、鞘部:共重合ポリエステル樹脂、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)20質量%とを混合した繊維群を、エアレイ装置に供することで繊維を絡み合わせて乾式不織布e〜fを調製した。
・乾式不織布e(通気度:70cm3/cm2・s、厚さ:7.2mm、単位厚さあたりの通気抵抗:2.5×104N・s/m4、目付:216g/m2)
・乾式不織布f(通気度:143cm3/cm2・s、厚さ:5.1mm、単位厚さあたりの通気抵抗:1.7×104N・s/m4、目付:95g/m2)
(吸音材の調製)
表2に記載する組み合わせの通気性表皮材と通気性基材の積層面同士の間に、蜘蛛の巣状の共重合オレフィン系ホットメルト樹脂(目付:5g/m2、軟化点:153℃)を介在させ、通気性表皮材と通気性基材を接着一体化し、吸音材を調製した。
なお、実施例9−11で調製した吸音材を構成する、通気性基材と接着成分が付着した通気性表皮材の通気度は、上述した方法によって算出した。また、通気度の算出を行うため吸音材から切り取った通気性基材の厚さ(特定厚さ)は、3.0mmであった。
測定の結果、調製した実施例9−11の吸音材から算出した、通気性表皮材および通気性基材の、各々の厚さ、通気度、単位厚さあたりの通気抵抗は、吸音材を調製するために使用した、通気性表皮材および通気性基材の、各々の厚さ、通気度、単位厚さあたりの通気抵抗と同じ値であった。
なお、比較例8−10では、通気性基材単体を吸音材として使用した。
【0045】
表2では、単位厚さあたりの通気抵抗(単位:N・s/m4)を「通気抵抗」と省略して記載し、通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗を、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗で除し、小数第2位を四捨五入し算出した値を「通気抵抗の比率」として記載した。
【0046】

【0047】
(難燃性の評価方法)
実施例9−11の吸音材を、JISK6400−6:2004「軟質発泡材料−物理特性の求め方−第6部:燃焼性」に記載の水平燃焼特性の測定へ供した。
その結果、実施例9−11の吸音材は以下に記載の難燃性のクラスHF−1を満足するものであり難燃性に優れていた。

【0048】
(吸音性能の測定)
上述のようにして調製した吸音材から、直径29mmの円形の試験片を採取した。
そして試験片をJIS A1405−1:2007に準拠した測定方法に供し、試験片の垂直入射吸音率(%)を測定することで、500〜6300Hzの周波数帯域における吸音材の吸音率の挙動を測定した。
なお、実施例の吸音材から採取した試験片を測定する際には、音源側に通気性表皮材が露出するように吸音材の設置方向を調整した。
500〜6300HZの周波数帯域において、調製した各吸音材が発揮した吸音率をまとめ、このようにしてまとめたデータをグラフ化し、図1、3、5、7、9に図示した。
【0049】
(吸音材における吸音性能の評価方法)
500〜6300HZの周波数帯域において、実施例1および比較例1−3で調製した吸音材が発揮した吸音率を比較例4で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。このようにして算出したデータをまとめ、グラフ化し図2に図示した。
500〜6300HZの周波数帯域において、実施例2−3および比較例5で調製した吸音材が発揮した吸音率を比較例6で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。このようにして算出したデータをまとめ、グラフ化し図4に図示した。
500〜6300HZの周波数帯域において、実施例4−6で調製した吸音材が発揮した吸音率を比較例7で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。このようにして算出したデータをまとめ、グラフ化し図6に図示した。
500〜6300HZの周波数帯域において、実施例2および7−8で調製した吸音材が発揮した吸音率を比較例6で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。このようにして算出したデータをまとめ、グラフ化し図8に図示した。
500〜6300Hzの周波数帯域において、実施例9で調製した吸音材が発揮した吸音率を比較例8で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。同様に、実施例10で調製した吸音材が発揮した吸音率を、比較例9で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。同様に、実施例11で調製した吸音材が発揮した吸音率を、比較例10で調製した吸音材の吸音率で除することで、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上比率を算出した。このようにして算出したデータをまとめ、グラフ化し図10に図示した。
そして、1000HZ以上の高周波帯域において「吸音性能の向上比率」の数値が2以上となった吸音材を、通気性表皮材の積層による通気性基材の吸音性能の向上に優れた、吸音性能に優れる吸音材であると評価した。
【0050】
上述した(吸音材における吸音性能の評価方法)における吸音性能の評価結果から、本願発明にかかる実施例の吸音材は、通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、20倍以上2514倍未満の大きさであることによって、吸音性能に優れる吸音材である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の吸音材は、吸音性能を備えることが求められる産業用資材として使用できる。そのため、例えば、一般家屋、工場、オフィスあるいは病院などの建物内外で発生した音を低減する用途、航空機、船舶、鉄道車両あるいは自動車などの乗り物内外で発生した音を低減する用途、あるいは、工業用ロボット、加工機械、医療装置あるいは情報機器装置(例えばテレビ、パソコン、プリンタあるいはスキャナなど)などの機器内部で発生した動作音を低減するための用途に、好適に使用できる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマーで構成された通気性表皮材を有機ポリマーで構成された通気性基材に積層した吸音材であって、
前記通気性表皮材および前記通気性基材は共に不織布であり、
前記通気性表皮材の厚さは、0.5〜12mmであり、
前記通気性表皮材の通気度は、5.3cm3/cm2・s以上であり、
前記通気性基材に接着繊維またはバインダを含み、
前記通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が、前記通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の、58.3倍以上2514倍未満の大きさである、吸音材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-24 
出願番号 P2013-264734
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G10K)
P 1 651・ 113- YAA (G10K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 千葉 輝久
木方 庸輔
登録日 2020-09-09 
登録番号 6761618
権利者 日本バイリーン株式会社
発明の名称 吸音材  
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