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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1384099
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-08 
確定日 2022-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6776721号発明「防護材料、防護衣、および再生防護衣の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6776721号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6776721号の請求項1〜14に係る特許についての出願は、平成28年8月19日に特許出願され、令和2年10月12日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:令和2年10月28日)がされ、その後、その特許に対し、令和3年4月8日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許6776721号の請求項1〜14に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜14に、それぞれ記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
外層付加層と液遮蔽層とをそれぞれ少なくとも1層以上有する防護材料であって、
前記外層付加層は、繊維から構成され、目付が5〜200g/m2であり、通気度が5〜800cm3/cm2・secであり、厚さ0.1μm以上であり、
前記液遮蔽層は、平均単繊維直径:0.5〜10μmの繊維から構成され、且つ、AATCC試験法118−2002による撥油度が5.5級以上、最大細孔径が1.0〜100μmであり、
前記外層付加層の最大細孔径は、前記液遮蔽層の最大細孔径よりも大きいことを特徴とする防護材料。
【請求項2】
前記液遮断層を介して前記外層付加層とは反対側に内層付加層又は保護層が積層されている請求項1に記載の防護材料。
ことを特徴とする防護材料。
【請求項3】
前記液遮蔽層は、目付が5〜50g/m2である請求項1または2に記載の防護材料。
【請求項4】
前記液遮蔽層は、通気度が5〜35cm3/cm2・secである請求項1〜3のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項5】
前記液遮蔽層は、JIS L1092(2009)7.2に記載の撥水度試験による撥水度が2級以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項6】
前記液遮蔽層にガス吸着層が積層されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項7】
前記外層付加層は、平均単繊維直径が0.5〜600μmの繊維から構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項8】
前記外層付加層は、最大細孔径が1.0〜1000μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項9】
前記液遮断層は、不織布である請求項1〜7のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項10】
前記液遮断層は、メルトブローン不織布である請求項1〜8のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項11】
前記外層付加層は、不織布である請求項1〜10のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項12】
前記外層付加層は、スパンポンド不織布またはスパンレース不織布である請求項1〜11のいずれか1項に記載の防護材料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の防護材料を用いて得られる防護衣。
【請求項14】
使用済みの請求項13に記載の防護衣を、分解せずに撥水撥油剤に浸して、撥水撥油加工を施す工程を含む再生防護衣の製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、以下の証拠を提出し、大要、次の取消理由を主張している。(なお、甲第1号証等を、以下「甲1」等という。)
・(新規性) 請求項1−7、9−13に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、請求項1−7、9−13に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するので、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。
・(進歩性) 請求項1−14に係る発明は、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

<引用文献等一覧>
甲1:特開2016−78242号公報
甲2:久保亮五他 編集、「岩波理化学辞典第4版」、岩波書店、1987年10月12日第4版第1刷発行、1234ページ
甲3:特開2006−47628号公報

第4 刊行物の記載
1. 甲1について
(1) 甲1に記載された事項
甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
上層、中間層、下層を有し、各層が熱融着によって複合一体化している防護シートであって、各層は融点が200℃以上の素材からなり、通気度が5〜50cm3/cm2・sであり、前記中間層は平均単繊維直径が0.1〜10μmの繊維からなる繊維層を撥水撥油処理した層である防護シート。
【請求項2】
請求項1に記載の防護シートを用いた防護衣服。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化学物質の取扱作業者を保護する性能を有する防護シートに関する。詳細には、有害な微粉塵、細菌、ウイルス等のエアロゾル粒子状物質から作業者を有効に保護し、耐熱性が高く、軽量である防護シートに関するものである。・・・」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、粒子状の有害物質に対して高い防護性能を有し、さらに耐熱性が高く、軽量である防護シートを提供することにある。」
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、遂に本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
1.上層、中間層、下層を有し、各層が熱融着によって複合一体化している防護シートであって、各層は融点が200℃以上の素材からなり、通気度が5〜50cm3/cm2・sであり、前記中間層は平均単繊維直径が0.1〜10μmの繊維からなる繊維層を撥水撥油処理した層である防護シート。
2.上記1に記載の防護シートを用いた防護衣服。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明による防護シートは、有害な微粉塵、細菌、ウイルス等のエアロゾルから作業者を有効に保護するとともに、通気性により熱ストレスを抑制でき、軽量で耐熱性が高いという利点がある。」
「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の防護シートの構成を示した図である。
【図2】加圧耐液遮蔽性性の測定に使用する加圧耐液遮蔽性試験器の概要図である。」
「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の防護シートは、上層、中間層、下層が熱融着によって複合一体化している積層構造で構成されている。
【0012】
本発明の防護シートを構成する上層、中間層、下層に使用する素材としては、融点が200℃以上のものであれば特に限定されるものではなく、・・・
【0013】
本発明の防護シートの各層を熱融着する方法としては熱エンボス加工、超音波融着、高周波融着等が例示できる。熱融着による複合一体化により、防護シートは融点近くまで加熱しても剥離を起こさない。
【0014】
前記熱融着部分の面積の防護シート面積に対する面積率は0.5〜30%が好ましく、1〜25%がより好ましく、2〜20%がさらに好ましい。面積率が0.5%を下回ると、剥離しやすくなり、30%を超えると、風合いが硬くなったり、通気度が低くなったりするおそれがある。
【0015】
本発明の防護シートでは、前記積層一体化後シートのJIS L1096(2010) 8.26に基づき測定される通気度は5〜50cm3/cm2・sであり、6〜40cm3/cm2・sが好ましく、7〜30cm3/cm2・sがより好ましい。通気度が5cm3/cm2・sを下回ると、例えば防護衣服に用いた場合、作業者の着用感を著しく損なってしまう。一方通気度が50cm3/cm2・sを超えると、防護シートの繊維間の空隙を通じて、粒子が防護衣服内に侵入しやすくなる。
【0016】
本発明の防護シートの目付は、30〜200g/m2が好ましく、50〜150g/m2がより好ましい。防護シートの目付が30g/m2を下回ると、機械的強度が不足する。一方で200g/m2を超えると、防護衣服に仕立てたときに着用性、軽量性、運動追従性を損ない、着用者の負担が大きくなってしまう原因となる。
【0017】
本発明の防護シートの中間層は繊維から構成された層であり、その素材としては、衣服に使用することを想定すると、着心地、柔軟性、伸度等の観点から、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維等が好ましい。
【0018】
本発明の防護シートの中間層は不織布から形成されていることが好ましい。不織布であれば、優れた粒子捕集性能を付与できると共に、柔軟性と伸長性のバランスが良いため、防護衣服とした場合、着用者の作業性を確保でき、着用者にかかるストレスを軽減することができる。なお、中間層は同一種の材料から形成してもよく、または素材の異なる材料を複数用いて形成しても良い。
【0019】
前記不織布形状の中間層を形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、メルトブローン法、湿式法、乾式法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法、複合繊維分割法等が挙げられるが、微細な繊維径で荷電を行わなくても、高い粒子捕集効率が得られるメルトブローン法およびエレクトロスピニング法等が好ましい。
なお、前記エレクトロスピニング法とは、溶融紡糸法の一種であり、具体的には、ポリマー溶液に正の電荷を与え、正電荷を与えられたポリマー溶液をアースまたは負に帯電した基盤表面にスプレーされる工程でポリマーを繊維化する手法をいう。
【0020】
本発明の防護シートの中間層は、平均単繊維直径が0.1〜10μm、好ましくは0.2〜8μm、より好ましくは0.5〜5μmの繊維から構成されている。構成繊維の平均単繊維直径を前記範囲内に調整することにより、防護シートの通気度、粒子捕集効率、柔軟性のバランスを良好に保ち、特に被服に適した防護シートが得られる。
【0021】
本発明の防護シートの中間層の通気度は、5〜100cm3/cm2・sが好ましく、7〜90cm3/cm2・sがより好ましく、8〜70cm3/cm2・sがさらに好ましい。前記範囲内であれば、防護シートの通気度を適正な範囲に調整できる。
【0022】
本発明の防護シートの中間層の目付は、0.1〜50g/m2が好ましく、0.2〜47g/m2がより好ましく、0.5〜43g/m2がさらに好ましい。中間層の目付が前記範囲内であれば、積層後の防護シートが分厚くなり過ぎず、防護衣服に仕立てたときに軽量性や運動追従性を損なわないため、着用者にかかる負担を軽減できる。また、目付が前記範囲内であれば、防護衣服の通気度と粒子捕集効率のバランスを維持することができる。
【0023】
本発明の防護シートの中間層の最大細孔径は、0.1〜40μmが好ましく、0.5〜30μmがより好ましく、1〜20μmがさらに好ましい。中間層の最大細孔径が0.1μmを下回ると、防護シートの通気性が悪くなるため、着用者が不快に感じてしまう。また、中間層の最大細孔径が40μmを上回ると、防護シートのフィルター効果が充分に発揮されず、粒子が防護シートを透過してしまう。
【0024】
また、外部から侵入する液状有機化学物質や体から放出される汗などで中間層が濡れて捕集効率が低下するのを防ぐために、中間層に撥水処理や撥油処理を施すことが必要である。中間層に撥水処理や撥油処理を施す方法としては、例えば、スプレーにより噴霧する方法、撥水剤や撥油剤を含有する溶液中に中間層を浸漬させて含浸させる方法等が挙げられるが、中間層に均一に撥水処理や撥油処理を施すことができることから、含浸加工が好ましい。前記撥水剤・撥油剤としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ワックス等が挙げられる。なお、中間層の撥水度は、JIS L 1092(2009)に記載の7.2スプレー試験で2級以上が好ましく、4級以上がより好ましい。また、シートの撥油度としてはAATCC Test Method 118で2級以上が好ましく、4級以上がより好ましい。
【0025】
本発明の防護シートの上層としては、織物、編物、不織布等が好適に使用できるが、特に不織布から形成されていることが好ましい。不織布であれば、軽量性の観点から、防護衣服として仕立てたときに、着用者にかかる負担を軽減できる。
【0026】
上層については長繊維不織布を用いることがより好ましい。長繊維不織布は機械的強度が高いため、中間層を外力より保護することができる。長繊維不織布とは、公知のスパンボンド方式やメルトブロー方式により形成されているもので良いが、より機械的な強度が高いスパンボンド方式で形成されていることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の防護シートの上層の通気度は、100〜500cm3/cm2・sが好ましく、120〜450cm3/cm2・sがより好ましく、150〜400cm3/cm2・sがさらに好ましい。上層の通気度が100cm3/cm2・sを下回ると、中間層、下層を含めた防護シートを防護衣服に用いた場合、作業者の着用感を著しく損なってしまう。一方、500cm3/cm2・sを超えると、中間層に対する保護層としての機能を果たさない問題が生じる。
【0028】
本発明の防護シートの上層の目付は、10〜70g/m2が好ましく、12〜60g/m2がより好ましく、15〜50g/m2がさらに好ましい。上層の目付が前記範囲内であれば、積層後の防護シートが分厚くなり過ぎず、防護衣服に仕立てたときに軽量性や運動追従性を損なわないため、着用者にかかる負担を軽減できる。」
「【0031】
さらに、外部から侵入する液状有機化学物質や体から放出される汗などで中間層が濡れて捕集効率が低下するのを防ぐために、上層に撥水処理や撥油処理を施すことが有効である。上層に撥水処理や撥油処理を施す方法としては、例えば、スプレーにより噴霧する方法、撥水剤や撥油剤を含有する溶液中に上層を浸漬させて含浸させる方法等が挙げられるが、上層に均一に撥水処理や撥油処理を施すことができることから、含浸加工が好ましい。前記撥水剤・撥油剤としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ワックス等が挙げられる。なお、上層の撥水度は、JIS L 1092(2009)に記載の7.2スプレー試験で2級以上が好ましく、4級以上がより好ましい。また、上層の撥油度としてはAATCC Test Method 118で2級以上が好ましく、4級以上がより好ましい。
【0032】
本発明の防護シートの下層としては、織物、編物、不織布等が好適に使用できるが、特に不織布から形成されていることが好ましい。不織布であれば、軽量性の観点から、防護衣服として仕立てたときに、着用者にかかる負担を軽減できる。
【0033】
下層についてはスパンレース不織布、サーマルボンド不織布等の柔軟性の高い不織布材料を配置することがより好ましい。そうすることで、柔軟性の観点から、防護衣服として仕立てたときに、着用者にかかる負担を軽減できる。
【0034】
本発明の防護シートの下層の通気度は、100〜500cm3/cm2・sが好ましく、120〜450cm3/cm2・sがより好ましく、150〜400cm3/cm2・sがさらに好ましい。下層の通気度が100cm3/cm2・sを下回ると、上層、中間層を含めた防護シートを防護衣服に用いた場合、作業者の着用感を著しく損なってしまう。一方、500cm3/cm2・sを超えると、中間層に対する保護層としての機能を果たさない問題が生じる。
【0035】
本発明の防護シートの下層の目付は、10〜70g/m2が好ましく、12〜60g/m2がより好ましく、15〜50g/m2がさらに好ましい。下層の目付が前記範囲内であれば、積層後の防護シートが分厚くなり過ぎず、防護衣服に仕立てたときに軽量性や運動追従性を損なわないため、着用者にかかる負担を軽減できる。
【0036】
また、外部から侵入する液状有機化学物質や体から放出される汗などで中間層が濡れて捕集効率が低下するのを防ぐために、下層に撥水処理や撥油処理を施すことが有効である。下層に撥水処理や撥油処理を施す方法としては、例えば、スプレーにより噴霧する方法、撥水剤や撥油剤を含有する溶液中に下層を浸漬させて含浸させる方法等が挙げられるが、下層に均一に撥水処理や撥油処理を施すことができることから、含浸加工が好ましい。前記撥水剤・撥油剤としては、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ワックス等が挙げられる。なお、下層の撥水度は、JIS L 1092(2009)に記載の7.2スプレー試験で2級以上が好ましく、4級以上がより好ましい。また、下層の撥油度としてはAATCC Test Method 118で2級以上が好ましく、4級以上がより好ましい。
【0037】
本発明の防護シートの上層または下層の一方、もしくは、両側にガス吸着層を積層することで、ガスに対する防護性も付与できるものとなる。ガス吸着層とは、活性炭やカーボンブラックなどの炭素系吸着材、または、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナなどの無機系吸着材等からなるガス吸着材が挙げられるが、対象とする被吸着物質に応じて適宜選択されることができる。その中でも広範囲なガスに対応できる活性炭が好ましく、特に吸着速度や吸着容量が大きく少量の使用で効果的なガス透過抑制能が得られる繊維状活性炭がより好ましい。
【0038】
また、防護シートにガス吸着層、さらには、防護シートの最も外側に外層付加層、最も内側に内層付加層を少なくともそれぞれ1層以上必要に応じて設けても良い。外層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力からの防護シート、ガス吸着層を保護することと、はっ水性とはつ油性が付与されている織物、編物または不織布を適用することで、液状の有害物質に対する防護性能を向上させることが可能となる。
【0039】
外層付加層としては、撥水度がJIS L 1092(2009)に記載の7.2スプレー試験で好ましくは2級以上、より好ましくは4級以上で、撥油度がAATCC Test Method 118で好ましくは2級以上、より好ましくは4級以上である織物、編物、または不織布などを好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。防護シートとガス吸着層からなる防護材料と外層付加層とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、防護衣服を作製してもよい。
【0040】
また、内層付加層としては、織物、編物、不織布、開孔フィルム等の材料があげられるが、通気性、柔軟性等の観点から粗い密度で製織または製編された織物もしくは編物が好ましい。内層付加層の目的は、外部から与えられる機械的な力から防護シートおよびガス吸着層を保護する役割と防護衣服着用者の汗によるべたつき感を抑制する役割がある。防護シートとガス吸着層からなる防護材料と内層付加層とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、もしくは、あらかじめガス吸着層とキルティング加工した後、防護シートと積層を行ってもよい。キルティング加工は、従来公知の方法を採用することができ、ポリエステル、ナイロン、綿等のミシン糸が好ましく使用される。液状の有害物質に対する防護性を考慮すると、はつ油性ミシン糸を使用することが好ましい。」
「【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
(平均単繊維直径)
平均単繊維直径は走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影を行い、2000倍または5000倍のSEM画像に映し出された多数の繊維からランダムに20本の繊維を選び、単繊維直径を測定する。測定した20本の単繊維直径の平均値を算出し、平均単繊維直径とした。
【0043】
(最大細孔径)
バブルポイント法(JIS K 3832)に基づき、PMI社製のキャピラリー・フロー・ポロメーター「モデル:CFP−1200AE」を用い、測定サンプル経を20mmとして測定した。
【0044】
(目付)
JIS L1096(2010) 8.3による。
【0045】
(剛軟度)
JIS L1096(2010) 8.21による。
【0046】
(通気度)
JIS L1096(2010) 8.26(フラジール形法)による。
【0047】
(撥水度)
JIS L1092(2009) 7.2(スプレー試験)による。
【0048】
(撥油度)
AATCC Test Method 118による。
【0049】
(BET比表面積)
BET比表面積は、液体窒素の沸点(−195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0〜0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより試料単位質量あたりの表面積(m2/g)を求めた。
【0050】
(加圧耐液遮蔽性)
図2に示す加圧耐液遮蔽性試験器により実施した。スライドガラス10上にろ紙9を置き、その上に、供試体材料を配置し、試験液6(赤色染料を溶解したフタル酸ジプロピル)5μLを滴下し、その試験液上へおもり1kg/cm2をのせ加圧し、24時間経過後にろ紙の呈色の程度により液の遮蔽性を判定した。呈色なしは○、呈色ありは×で表示した。
【0051】
(粒子捕集効率)
TSI社製のフィルター効率自動測定装置 モデル:8130を用い、発生粒子はPAO(ポリアルファオレフィン)、線速は2.5cm/sとして測定した。
【0052】
<外層付加層>
外層付加層は以下の方法で作製した。綿の40番手紡績糸を常法によりエアジェット織機で製織し、経糸密度90本/インチ、緯糸密度80本/インチの2/1綾織物を作製した。次いで常法により毛焼、糊抜、精練、漂白、シルケット、染色、ソーピングを行った。さらに、この染色織物をフッ素系撥水撥油加工剤(旭硝子株式会社製アサヒガードGS−10)溶液にパッド・乾燥後、180℃でキュアし、樹脂固形分で2.0重量%固着させた。得られた織物は、質量106g/m2、通気度は110cm3/cm2・s、撥水度5、撥油度6級であった。
【0053】
<ガス吸着層>
ガス吸着層としては活性炭布(繊維状活性炭編物)を用いた。前記活性炭布は、単糸2.2デシテックス20番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸からなる目付190g/m2フライス編物を410℃の不活性雰囲気中で30分間加熱し、次いで870℃まで20分間、不活性雰囲気中で加熱し炭化を進行させ、その後水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、870℃の温度で2時間賦活した。得られた活性炭布の目付は150g/m2、BET比表面積は1400m2/g、通気度は350cm3/cm2・sであった。
【0054】
<内層付加層>
内層付加層は以下の方法で作製した。ハーフトリコット機により、ポリエステルフィラメント(33dtex、18フィラメント)を2−0/1−3の組織で編成後、常法により精練し、さらに分散染料により染色した。このようにして得られた編地は目付45g/m2、通気度は730cm3/cm2・sであった。
【0055】
[実施例1]
防護シートの作製としては、上層として目付30g/m2、通気度340cm3/cm2・sのポリエステルスパンボンド不織布(東洋紡株式会社製エクーレ)を、中間層として目付15g/m2、通気度19.2cm3/cm2・s、平均単繊維直径0.94μm、最大細孔径10.3μmのポリアミドメルトブローン不織布を、下層として目付40g/m2、通気度360cm3/cm2・sのポリエステルスパンレース不織布(ユウホウ株式会社製)を用い、三層を圧着面積6%のアンビルロールとフラットのホーンにて超音波融着した後、6wt%のフッ素系撥水撥油剤(旭硝子株式会社製アサヒガードGS−10)の加工浴に浸漬し、100℃で乾燥処理し、170℃で10分間キュアした。
防護シートの目付、通気度、剛軟度、さらには防護シートの上層側へ外層付加層を重ね、下層側へガス吸着層、内層付加層の順で重ね合わせた防護衣材料の加圧耐液遮蔽性、粒子捕集効率を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
上層を目付15g/m2、通気度700cm3/cm2・sのポリエステルスパンボンド不織布(東洋紡株式会社製エクーレ)にポリエステル単繊維ウェブを高圧水流で結合した積層体(目付40g/m2、通気度320cm3/cm2・s)に、下層を目付25g/m2、通気度570cm3/cm2・sのポリエステルスパンレース不織布(ユウホウ株式会社製)とした以外は、実施例1と同様の方法により防護シートを作製した。
防護シートの目付、通気度、剛軟度、さらには防護シートの上層側へ外層付加層を重ね、下層側へガス吸着層、内層付加層の順で重ね合わせた防護衣材料の加圧耐液遮蔽性、粒子捕集効率を表1に示す。」
「【0060】
表1の結果から明らかなように、実施例1および2の防護シートは目付、通気度、剛軟度、さらには防護シートを使った防護材料は加圧耐液遮蔽性、粒子捕集効率が良好であるのに対して、比較例1の防護シートを使った防護材料は加圧耐液遮蔽性が低く、比較例2の防護シートを使った防護材料は加圧耐液遮蔽性、粒子捕集効率が低く、比較例3の防護シートは通気度が低いものであった。」
「【0061】
【表1】


「【符号の説明】
【0063】
1:上層
2:中間層
3:下層
4:防護シート
5:おもり(1kg/cm2)
6:試験液
7:外層付加層
8:防護シート+ガス吸着層+内層付加層
9:ろ紙
10:スライドガラス」
「【図1】


「【図2】



(2) 甲1発明
上記1に示した摘記事項から、実施例1に着目すると、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されている。
「上層として目付30g/m2、通気度340cm3/cm2・sのポリエステルスパンボンド不織布(東洋紡株式会社製エクーレ)を、中間層として目付15g/m2、通気度19.2cm3/cm2・s、平均単繊維直径0.94μm、最大細孔径10.3μmのポリアミドメルトブローン不織布を、下層として目付40g/m2、通気度360cm3/cm2・sのポリエステルスパンレース不織布(ユウホウ株式会社製)を用い、三層を圧着面積6%のアンビルロールとフラットのホーンにて超音波融着した後、6wt%のフッ素系撥水撥油剤(旭硝子株式会社製アサヒガードGS−10)の加工浴に浸漬し、100℃で乾燥処理し、170℃で10分間キュアして作製した、目付88g/m2、通気度12cm3/cm2・s、剛軟度が経:109 緯:6の防護シート」

第5 当審の判断
1. 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件特許明細書の「外層付加層(上層)として、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなるスパンボンド法により製造された長繊維のスパンボンド不織布・・・」(【0114】)との記載を踏まえると、甲1発明の「ポリエステルスパンボンド不織布(東洋紡株式会社製エクーレ)」を用いた「目付30g/m2、通気度340cm3/cm2・sの」「上層」は、「本件発明1」の「外層付加層」と、「繊維から構成され、目付が5〜200g/m2であり、通気度が5〜800cm3/cm2・sec」である限りにおいて、一致する。
甲1の「・・・外部から侵入する液状有機化学物質や体から放出される汗などで中間層がぬれて捕集効率が低下するのを防ぐために、中間層に撥水処理や撥油処理を施すことが必要である。」(【0024】)という記載から、甲1発明の「三層を圧着面積6%のアンビルロールとフラットのホーンにて超音波融着した後、6wt%のフッ素系撥水撥油剤(旭硝子株式会社製アサヒガードGS−10)の加工浴に浸漬し」たことは、中間層に撥油処理をしたものといえる。そうすると、甲1発明の「中間層」が、「三層を圧着面積6%のアンビルロールとフラットのホーンにて超音波融着した後、6wt%のフッ素系撥水撥油剤(旭硝子株式会社製アサヒガードGS−10)の加工浴に浸漬し」、「目付が15g/m2」、「通気度19.2cm3/cm2・s」、「平均単繊維直径0.94μm」、「最大細孔径10.3μm」の「ポリアミドメルトブローン不織布を用いるもので」あることと、本件発明1の「液遮蔽層」が、「平均単繊維直径:0.5〜10μmの繊維から構成され、且つAATCC試験法118−2002による撥油度が5.5級以上、最大細孔径が1.0〜100μmである」ことは、「撥油処理をし」た、「平均単繊維直径:0.5〜10μm」の繊維から構成され、「最大細孔径が1.0〜100μm」、である限りで一致する。
甲1発明の「防護衣材料」は、本件発明1の「防護材料」に相当する。」
(2) 一致点及び相違点
そうすると、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
「外層付加層と液遮蔽層とをそれぞれ少なくとも1層以上有する防護材料であって、
前記外層付加層は、繊維から構成され、目付が5〜200g/m2であり、通気度が5〜800cm3/cm2・secであり、
前記液遮蔽層は、撥油処理をし、平均単繊維直径:0.5〜10μmの繊維から構成され、最大細孔径が1.0〜100μmである、
防護材料。」
<相違点1>
本件発明1の「外層付加層」は、「厚さ0.1μm以上であ」るのに対し、甲1発明の「上層の厚さが明らかではない点。
<相違点2>
「撥油処理」について、本件発明1の「液遮蔽層」のものは、「AATCC試験法118−2002による撥油度が5.5級以上」となるものであるのに対し、甲1発明の「中間層」の「撥油処理」がそのようなものであるか、不明である点。
<相違点3>
本件発明1は、「前記外層付加層の最大細孔径は、前記液遮蔽層の最大細孔径よりも大きい」のに対し、甲1発明は、「中間層」の最大細孔径が「10.3μm」ではあるものの、「上層」の「最大細孔径」について、甲1に記載がない点。

(3) 相違点についての検討
ア.新規性について
事案に鑑みて、<相違点3>から検討する。
甲1には、「上層」の「最大細孔径」についての記載がないから、「最大細孔径」に着目して、「中間層」の「最大細孔径」との大小関係を特定することを動機づける記載はないし、示唆する記載もない。また、甲2及び甲3にも記載されていないし、示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、上記<相違点3>に係る構成を備えたものとすることで、「外層付加層の最大細孔径は、液遮蔽層の最大細孔径よりも大きいことが好ましい。これにより、外層付加層では液状化学物質を拡散して液遮蔽層では液状化学物質の透過を防ぐという役割分担をすることができ、体液防護性を向上させ易くすることができる。更に、防護材料の通気性を確保し易くすることができる」(本件特許明細書、【0060】)との格別な作用効果を奏するから、<相違点3>は形式的な相違点ではなく、実質的な相違点であるので、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。
イ. 進歩性について
また、本件発明1を、<相違点3>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に為し得たものであるとはいえない。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

2. 本件発明2〜14について
本件発明2〜14は、直接的あるいは間接的に本件発明1を引用するものである。そうすると、本件発明1に特定事項を付加し、限定した本件発明1が、上記1.に示したように、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、請求項1〜14に係る発明は、甲1発明ではない。
また、請求項2〜14に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-04-28 
出願番号 P2016-161279
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 平野 崇
久保 克彦
登録日 2020-10-12 
登録番号 6776721
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 防護材料、防護衣、および再生防護衣の製造方法  

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