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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
管理番号 1384100
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-12 
確定日 2022-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6767654号発明「多層容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6767654号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6767654号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6767654号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成28年7月29日に出願され、令和2年9月24日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 4月12日 : 特許異議申立人 山内 慶子、及び、後藤 麻衣子による請求項1〜5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 4月14日 : 特許異議申立人 高橋 陽子による請求項1〜5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 7月13日付け: 取消理由通知書
同 年 8月27日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同 年10月 1日 : 特許異議申立人 後藤 麻衣子による意見書の提出
同 年10月 6日 : 特許異議申立人 山内 慶子による意見書の提出
同 年10月 8日 : 特許異議申立人 高橋 陽子による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1の(a)〜(c)のとおりである。
訂正事項1
(a)請求項1の「前記無機粒子は、酸化チタン粒子である」との記載を
「第1及び第2無機粒子含有層の前記無機粒子は、酸化チタン粒子であり」に訂正する。
(b)請求項1の「第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、」との記載の後に、
「第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、」の記載を追加する。
(c)請求項1の「、多層容器。」との記載の前に、
「第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である」の記載を追加する。
(請求項1の記載を引用する請求項2〜5も同様に訂正する。)
本件訂正前の請求項2〜5は、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項[1−5]に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1の訂正(a)について
訂正(a)は「前記無機粒子」とされた「前記」が指す対象が不明であったものを、当該記載の直前に「第1及び第2無機粒子含有層の」を追加することにより「前記」が指す対象を明らかとするものであるから、係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、【実施例】として【0034】−【0035】に「表1に示す構成の樹脂層を有する容器(内容量85cc)を作成し、・・・「無機粒子含有」と表記している層には、平均粒子径0.5μmの酸化チタン粒子を2.5質量%含有させた。」と記載され、【表1】注には内層、内層及びリプロ層の双方、外層に「無機粒子含有」の記載がある。
よって、「第1及び第2無機粒子含有層の前記無機粒子は、酸化チタン粒子であり」との事項は、明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項1の訂正(b)について
請求項1の「第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、」との記載の後に、「第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、」の記載を追加する訂正は、訂正前の請求項1ないし5に係る発明の多層容器を構成する「第1及び第2無機粒子含有層」のベース樹脂を「ポリオレフィン系樹脂」に限定する訂正である。そうすると、当該訂正(b)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、【0013】「・・・ベース樹脂としては、任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。・・・」の記載や、【0023】「・・・ベース樹脂4a及び無機粒子4bの詳細は、第1無機粒子含有層と同様である。・・・」の記載や、【0035】「内層及び外層は、ポリプロピレンで形成した。」の記載がある。
よって、「第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、」との事項は、明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項1の訂正(c)について
請求項1の「、多層容器。」との記載の前に、「第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である」の記載を追加する訂正は、訂正前の請求項1ないし5に係る発明の多層容器を構成する「第1及び第2無機粒子含有層」の無機粒子の添加量を「前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である」に限定する訂正である。そうすると、当該訂正(c)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、【0014】「・・・無機粒子の添加量は、迷路効果が発揮可能であれば特に限定されず、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0.1〜100質量部であり、0.5〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がさらに好ましい。」の記載がある。
よって、「第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である、」との事項は、明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」、・・・などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明1
「多層構造の樹脂層を有する多層容器であって、
前記樹脂層は、前記容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素吸収層を備え、
前記無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
前記無機粒子は、紫外線散乱機能を有し、
前記無機粒子含有層は、第1無機粒子含有層であり、
前記酸素吸収層よりも外側に第2無機粒子含有層を備え、
第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、
第1及び第2無機粒子含有層の前記無機粒子は、酸化チタン粒子であり、
第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である、多層容器。」
本件発明2
「第1無機粒子含有層は、前記樹脂層の最内層であり、第2無機粒子含有層は、前記樹脂層の最外層である、請求項1に記載の多層容器。」
本件発明3
「第1無機粒子含有層と前記酸素吸収層の間にリプロ層を備える、請求項1又は請求項2に記載の多層容器。」
本件発明4
「前記酸素吸収層は、ガスバリア性樹脂と酸素吸収性樹脂を含む、請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の多層容器。」
本件発明5
「前記ガスバリア性樹脂は、EVOHである、請求項4に記載の多層容器。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1−5に係る特許に対して、当審が令和3年7月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1:(明確性要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、明確であるということができないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

理由2:(新規性)本件特許の請求項1〜請求項5に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由3:(進歩性)本件特許の請求項1〜請求項5に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術に基づいて、本件特許の出願前に その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015−24556号公報
引用文献2:特開2008−201432号公報
引用文献3:特開平8−258227号公報
(1)引用文献1に記載された発明に基づく、請求項1〜5に対する進歩性に係る理由
(2)引用文献3に記載された発明に基づく、請求項1、2に対する新規性に係る理由、あるいは、請求項1〜5に対する進歩性に係る理由

2.引用文献に記載された事項
(1)引用文献1
引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、シートおよび包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医薬品、医療品、食品、飲料等の包装材としては、紙、合成樹脂シートあるいはフィルム、蒸着フィルム、合成樹脂フィルムとのラミネート物、アルミ包装等が使用されている。上記のような用途で使用する際には、
内容物保護性とりわけ、水蒸気や酸素に対するバリア性が必要な特性となっており、内容物を長期的に保護するには高度なバリア性が求められている。
上記のような耐透湿性および耐酸素透過性の両方を満たすものとしては蒸着フィルムやアルミ包装等が挙げられるがこれらはパウチ形状等の特定の包装体として使用することは可能であるが、成形機等で任意の形状に成形することが難しく、使用用途が限られていた。
・・・
【0004】
この問題を解決するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロンなどの耐酸素ガス透過性の高い樹脂が使用されているが、単独でこれらの樹脂を用いた際には湿度依存による酸素バリア性の低下および水蒸気バリア性に乏しいことが課題となっており、耐水蒸気透過性の高い樹脂と積層することで一般的に使用されてきた(例えば特許文献1)。しかしこれらの構成のバリア性は上記、蒸着フィルムやアルミに比較すると劣っており、任意の形態に成形でき、より高度なバリア性を有する包装材料が求められていた。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水蒸気、酸素の透過性が極めて小さく、容器への成形が可能であり、レトルト、滅菌処理後にも高度なバリア性を発現するシートおよび包装体を提供することである。」
イ.「【0020】
また、水蒸気バリア層1は、水蒸気バリア層1全体に対して、10重量%以上、40重量%以下の無機充填剤を含むものであることが好ましい。
水蒸気バリア層1が、水蒸気バリア層1全体に対して、10重量%以上、40重量%以下の無機充填剤を含むことにより、水蒸気バリア層1の水蒸気バリア性が向上し、シート全体として水蒸気バリア性が劇的に向上する。
尚、水蒸気バリア層1に含まれる無機充填剤の含有量は、水蒸気バリア層1全体に対して、20重量%以上、30重量%であることがより好ましい。
水蒸気バリア層1に含まれる無機充填剤の含有量が、上記下限値未満であれば、水蒸気バリア性の向上幅が小さく、上限値より大きい場合には、シートの製膜性および包装体への成形性が悪化する可能性がある。
【0021】
また、水蒸気バリア層1に含まれる無機充填剤としては、例えば、タルク
、マイカ、カオリン、クレー、ベントナイト等の層状ケイ酸塩類、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、ガラスフィラー、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化チタン
、酸化アルミニウム、鉄、亜鉛、アルミニウムなどが挙げられるが、バリア性を向上させる観点からはアスペクト比の大きな板状および鱗片状フィラーが好ましく、なかでもタルク、マイカがより好ましい。」
ウ.「【0038】
(実施例1)
水蒸気バリア層1としてポリプロピレン80重量部とタルク20重量部からなる樹脂層を、酸素バリア層2としてエチレン−ビニルアルコール共重合体
を、両層の接着性樹脂として無水マレイン酸で変性したポリプロピレンをそれぞれ用いて、シートを共押出にて作成した。
シートの総厚みは1mmで外層側から水蒸気バリア層1/接着層3/酸素バリア層2/接着層3/水蒸気バリア層1の構成であり、各層の厚さ比率はそれぞれ42.5/2.5/10/2.5/42.5であった。」
エ.「【0051】
(成形後の内容物の重量減少量測定)
得られたシートをカップ形状の容器に真空成形したのち、容器内に蒸留水を5gをPPフィルム(100μm)で含有した袋を入れた後、アルミ蓋材で容器をシールして重量測定用のサンプルを作製した。作製したサンプルの40℃環境下で重量減少量の継時評価を実施した。重量減少量を以下の判定基準で判定した。結果を表1に示した。
<判定基準>
A:重量減少量が小さく、蒸留水が1年以上残存しているもの
B:蒸留水が半年以上1年未満残っているもの
C:蒸留水が3カ月以上半年未満残っているもの
D:蒸留水が3カ月未満でなくなるもの」
オ.「【図1】



以上より、特に実施例1に着目すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「外層側から水蒸気バリア層1/接着層3/酸素バリア層2/接着層3/水蒸気バリア層1の構成を有するシートであって、水蒸気バリア層1としてポリプロピレン80重量部とタルク20重量部からなる樹脂層を、酸素バリア層2としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を、両層の接着性樹脂として無水マレイン酸で変性したポリプロピレンをそれぞれ用いて作成したシートからなる容器。」

(2)引用文献2
引用文献2には、以下の記載がある。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト用包装材および該包装材で食品などが包装された包装体に関する。さらに詳しくは、ガスバリア性と酸素吸収性を有し、レトルト処理に際しても酸素の侵入を防止できる包装材に関する。」
イ.「【0102】
多層構造体の層構成としては、酸素吸収性樹脂組成物(P)以外の樹脂からなる層をx層、酸素吸収性樹脂組成物層(P)をy層、接着性樹脂層をz層とすると、x/y、x/y/x、x/z/y、x/z/y/z/x、x/y/x/y/x、x/z/y/z/x/z/y/z/xなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。複数のx層を設ける場合は、その種類は同じであっても異なっていてもよい。また、成形時に発生するトリムなどのスクラップからなる回収樹脂を用いた層を別途設けてもよいし、回収樹脂を他の樹脂からなる層にブレンドしてもよい。多層構造体の各層の厚み構成は、特に限定されるものではないが、成形性およびコストなどの観点から、全層厚みに対するy層の厚み比は2〜20%が好適である。」
ウ.「【0144】
[実施例1]
ガスバリア性樹脂(B)として上記のEVOH(b−1)90質量部、酸化されうる物質(A)として上記のポリオクテニレン(a−1)10質量部およびステアリン酸コバルト(II)0.4242質量部(コバルト原子として0.0400質量部)をドライブレンドし、・・・EVOH(b−1)、ポリオクテニレン(a−1)およびステアリン酸コバルトからなる酸素吸収性樹脂組成物(P)ペレットを得た。
【0145】
得られた酸素吸収性樹脂組成物ペレットおよび、ポリプロピレン樹脂(PP)及び接着性樹脂(AD)を別々の押出し機で溶融混練し、共押出装置を用いて、3種5層からなる多層フィルムを製膜した。得られたフィルムの各層の厚みは、PP/AD/酸素吸収性樹脂組成物(P)/AD/PP=160/20/20/20/160μmであった。
【0146】
得られた多層フィルムより三辺をヒートシールした袋を作成し、水を入れた後、残りの一辺をヒートシールして密封し、パウチを作成した。このパウチにその後120℃、90分間レトルト殺菌処理を実施した。
レトルト直後、1日後、1ヵ月後のOTRはすべてゼロ(検出限界である0.1以下)であり、優れた酸素バリア性を示した。なお、OTRの測定は、モダンコントロール社製 MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、65/100%RH条件下でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。OTR測定のため上記パウチを複数個準備して同1条件で保管し、所定の時期に袋を解体してフィルムを取り出し、OTR測定に供した。」

(3)引用文献3
引用文献3には、以下の記載がある。
ア.「【0013】請求項1に記載された本発明の方法における積層シートは、上記した如き脱酸素層の片側又は両側に、ポリスチレン系樹脂よりなる保護層を隣接させた2層以上の構造のものである。すなわち、保護層を前記脱酸素層の片側に設けた(この場合には、容器内側、つまり内容物と接触する側に設けることが必要)2層構造のものだけでなく、両側に設けた3層構造のものとすることができる。ここで保護層を構成するポリスチレン系樹脂としては、上記脱酸素層において述べたと同様のポリスチレン系樹脂を挙げることができ、脱酸素層に用いたと同じものを用いても良いし、或いはこれとは異なるものを用いても良い。この保護層は、通水・通気性を向上させて、酸素吸収速度を向上させる働きを有するものであり、しかも脱酸素層に配合された鉄粉が、容器内部に収容される食品等と直接接触することを防止する働きをも有するものである。
【0014】請求項1に記載された本発明の方法において、酸素吸収性容器の成形材料として用いられる積層シートは、基本的には脱酸素層の片側又は両側に、ポリスチレン系樹脂よりなる保護層を隣接させた2層又は3層構造からなるものであるが、さらに必要に応じて各種層を積層したものであっても良い。」
イ.「【0017】なお、積層シートを構成する各層(保護層や脱酸素層など)には、必要に応じて、通常用いられる滑剤,着色剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,界面活性剤,難燃剤,可塑剤,帯電防止剤等の添加剤を適宜加えることができるが、安全衛生上問題のないものを選択して使用すべきである。」
ウ.「【0024】次に、請求項3記載の本発明は、脱酸素剤として鉄粉を配合したポリスチレン系樹脂よりなる脱酸素層の片側又は両側に、酸化チタンを配合したポリスチレン系樹脂よりなる保護層を隣接させた2層以上の構造の積層シートを熱成形することを特徴とする酸素吸収性容器の製造方法を提供するものである。
【0025】すなわち、請求項3記載の本発明は、保護層を構成する成分として、請求項1記載の本発明におけるポリスチレン系樹脂の代わりに、酸化チタンを配合したポリスチレン系樹脂を用いた点が異なる。このように保護層として、酸化チタンを配合したポリスチレン系樹脂を用いることにより、脱酸素層において脱酸素剤として用いた鉄粉の呈する黒色を隠蔽し、保護層側から見たときにおいて外観的な衛生性を向上させることができる。すなわち、請求項3記載の本発明においては、保護層を構成する成分であるポリスチレン系樹脂に遮光剤としての役割を有する酸化チタンを添加することによって、優れた酸素吸収性を維持しつつ、容器表面の色調を損なわず、外観良好であって、しかも外観的な衛生性に優れた容器を得ることができる。なお、通水・通気性を向上させ、酸素吸収速度を向上させるためだけであれば、保護層を薄くすることで、ある程度は解決しうるが、この場合には黒色を有する脱酸素層(黒色鉄粉層)の遮光が不充分となり、外観的な衛生性に問題が残ることとなる。
【0026】この場合の酸化チタンの配合量は、保護層の厚みにより調節することが必要であり、前記したように熱生成後における保護層の平均厚みが、通常、15〜300μmであり、それに対してその層に配合されている酸化チタンの濃度は、30〜2重量%の範囲とすることが必要である。
【0027】ここで熱成形後における保護層の平均厚みが15μmを下廻ると、黒色鉄粉を含有する脱酸素層(黒色鉄粉層)の黒色を充分に隠蔽するために酸化チタン濃度を30重量%を上廻る量とする必要があるが、酸化チタンを30重量%を上廻る量配合したポリスチレン系樹脂からなる保護層は、容器熱成形時に亀裂が入ってしまう。また、平均厚みが300μmを上廻ると、水蒸気透過性と酸素透過性が低くなるため、酸素吸収速度が低くなってしまう。また、この300μmの平均厚みにおいて、酸化チタン濃度を2重量%より下廻る量しか配合しないと、脱酸素層(黒色鉄粉層)の黒色を充分に隠蔽することができない。」

以上を総合すると、引用文献3には以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
「脱酸素剤として黒色鉄粉を配合したポリスチレン系樹脂よりなる脱酸素層の両側に、酸化チタンを黒色鉄粉を隠蔽しつつポリスチレン系樹脂層の亀裂を防ぐべく30〜2重量%の分量で配合したポリスチレン系樹脂よりなる保護層を隣接させた3層構造を有する酸素吸収性容器。」

第5.当審の判断
1.理由1(特許法第36条第6項第2号)について
理由1の要旨は、訂正前の本件発明1の「前記無機粒子は、酸化チタン粒子である」という記載について、当該記載の直前には、「第2無機粒子含有層」は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され」と記載されており、この「前記無機粒子」は、「第2無機粒子含有層」内に分散された無機粒子を指すものと解されるが、それより前には、「無機粒子」として、「第1無機粒子含有層」の無機粒子もあり、無機粒子として酸化チタン粒子を用いているのが、第1無機粒子含有層であるのか第2無機粒子含有層であるのか、もしくは第1無機粒子含有層及び第2無機粒子含有層であるのか明確ではないため、本件発明1は明確ではなく、同様の理由により、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜5も明確ではない、としたものである。
これに対し、上記第2の訂正事項1(a)に係る訂正により、「前記無機粒子」の「前記」が指す対象が、「第1及び第2無機粒子含有層」の無機粒子であることとなり、本件発明1の記載は明確になり、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2ないし5の記載も明確になった。
よって、当該理由1は解消された。

2.理由2(特許法第29条第1項第3号)について
本件発明1と引用発明3を対比する。
引用発明3の「脱酸素層」は本件発明1の「酸素吸収層」に相当し、
以下同様に、「酸化チタン」は「無機粒子」及び「酸化チタン粒子」に、
酸素吸収性容器に対して脱酸素層の内側の「保護層」は本件発明1の「無機粒子含有層」及び「第1無機粒子含有層」に、
酸素吸収性容器に対して脱酸素層の外側の「保護層」は「第2無機粒子含有層」に、
「3層構造」は「多層構造」に、
「酸素吸収性容器」は「多層容器」にそれぞれ相当する。
引用発明3の「脱酸素剤として鉄粉を配合したポリスチレン系樹脂よりなる脱酸素層の両側に、酸化チタンを配合したポリスチレン系樹脂よりなる保護層を隣接させた」ことは、引用発明3の保護層と本件発明1の「第1及び第2無機粒子含有層」の樹脂の種類を除き、本件発明1の「前記樹脂層は、前記容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素吸収層を備え」ること、「前記無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され」ること、及び「第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され」ることと一致する。

そうすると、本件発明1と引用発明3は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「多層構造の樹脂層を有する多層容器であって、
前記樹脂層は、前記容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素吸収層を備え、
前記無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
前記無機粒子含有層は、第1無機粒子含有層であり、
前記酸素吸収層よりも外側に第2無機粒子含有層を備え、
第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
前記無機粒子は、酸化チタン粒子である、多層容器。」
<相違点3−1>
無機粒子に関し、本件発明1は、「紫外線散乱機能を有」するのに対し、引用発明3は、紫外線散乱機能を有するか否か不明である点。
<相違点3−2>
第1及び第2無機粒子含有層の樹脂に関し、本件発明1は、「第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であ」るのに対し、引用発明3は「ポリスチレン系樹脂よりなる」点。
<相違点3−3>
第1無機粒子含有層及び第2無機粒子含有層に関し、本件発明1は、「第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である」としているのに対し、引用発明3の「保護層」に含まれる「酸化チタン」の添加量は「30〜2重量%」である点。

事案に鑑み<相違点3−2>について検討する。
引用文献3には、保護層の樹脂についてポリオレフィン系樹脂に替え得る記載も示唆もなされておらず、<相違点3−2>は実質的な相違点である。
よって、本件発明1と引用発明3とは上記相違点3−2で相違するから、相違点3−1及び相違点3−3について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明3ではない。
また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2も引用発明3ではない。

3.理由3(特許法第29条第2項)について
(1) 引用発明1に基づく進歩性の検討
本件発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「容器」は本件発明1の「多層容器」に相当し、
以下同様に、外層側から5層目の「水蒸気バリア層1」は「無機粒子含有層」及び「第1無機粒子含有層」に、
外側層から1層目の「水蒸気バリア層1」は「第2無機粒子含有層」に、
「タルク」は「無機粒子」に
それぞれ相当する。
引用発明1の「水蒸気バリア層1としてポリプロピレン80重量部とタルク20重量部からなる」ことは、本件発明1の「前記無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され」、「第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され」ることに相当する。
引用発明1の外層側から3層目の「酸素バリア層2」と本件発明1の「酸素吸収層」とは、「酸素透過抑制層」の限りで一致する。
引用発明1の「外層側から水蒸気バリア層1/接着層3/酸素バリア層2/接着層3/水蒸気バリア層1の構成を有」し、「水蒸気バリア層1としてポリプロピレン80重量部とタルク20重量部からなる樹脂層を、酸素バリア層2としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を、両層の接着性樹脂として無水マレイン酸で変性したポリプロピレンをそれぞれ用い」ることは、本件発明1の「多層構造の樹脂層を有する」こと、「第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であ」ることに相当し、
また、「樹脂層は、容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素透過抑制層を備え」る限りで、本件発明1の「前記樹脂層は、前記容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素吸収層を備え」ることと一致し、「前記酸素透過抑制層よりも外側に第2無機粒子含有層を備え」る限りで、本件発明1の「酸素吸収層よりも外側に第2無機粒子含有層を備え」ることと一致する。

そうすると、本件発明1と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「多層構造の樹脂層を有する多層容器であって、
前記樹脂層は、前記容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素透過抑制層を備え、
前記無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
前記無機粒子含有層は、第1無機粒子含有層であり、
前記酸素透過抑制層よりも外側に第2無機粒子含有層を備え、
前記第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である多層容器。」
<相違点1−1>
酸素透過抑制層に関して、本件発明1は、「酸素吸収層」であるのに対し、引用発明1は、「酸素バリア層2」である点。
<相違点1−2>
無機粒子に関し、本件発明1は、「酸化チタン粒子」であって、「紫外線散乱機能を有」するのに対し、引用発明1は、「タルク」であって、紫外線散乱機能を有するか否か明記されていない点。
<相違点1−3>
第1無機粒子含有層及び第2無機粒子含有層に関し、本件発明1は、「第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である」としているのに対し、引用発明1の「水蒸気バリア層1」に含まれる「タルク」の添加量は「ポリプロピレン80重量部」に対して「タルク20重量部」とされ、添加割合が異なる点。

<相違点1−1>について検討する。
引用文献2には、上記2.(2)のとおり、レトルト処理に際しても酸素の侵入を防止できるようにするために、ガスバリア性樹脂(B)としてEVOH(b−1)90質量部、酸化されうる物質(A)としてポリオクテニレン(a−1)10質量部およびステアリン酸コバルト(II)0.4242質量部(コバルト原子として0.0400質量部)をドライブレンドし、EVOH(b−1)、ポリオクテニレン(a−1)およびステアリン酸コバルトからなる酸素吸収性樹脂組成物を得た点、すなわち、酸素透過抑制層を、ガスバリア性樹脂と酸素吸収性樹脂とを含む酸素吸収層とする点が記載されている。
そして、引用発明1において、レトルト処理に際しても酸素の侵入をより確実に防止するようにするために、引用文献2に記載された点を適用し、引用発明1の酸素バリア層2を、ガスバリア性樹脂と酸素吸収性樹脂を含む酸素吸収層とし、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。
<相違点1−2>について検討する。
上記2.(1)イ.のとおり、引用文献1の段落【0020】には、水蒸気バリア層1に含まれる無機充填剤として、タルクの他に、酸化チタンが例示されているから、引用発明1において、無機粒子として酸化チタン粒子を用いることは当業者にとって容易である。
そして、紫外線が照射されると、タルクを含め、無機粒子で反射されて紫外線が散乱することは当業者にとって自明の事項であるから、当該無機粒子として酸化チタン粒子を用いた際、紫外線散乱機能を備えたものとなることは明らかである。
<相違点1−3>について検討する。
引用文献1には、無機充填剤の添加量に関し、段落【0020】に「
尚、水蒸気バリア層1に含まれる無機充填剤の含有量は、水蒸気バリア層1全体に対して、20重量%以上、30重量%であることがより好ましい。
水蒸気バリア層1に含まれる無機充填剤の含有量が、上記下限値未満であれば、水蒸気バリア性の向上幅が小さく、上限値より大きい場合には、シートの製膜性および包装体への成形性が悪化する可能性がある。」とされており、添加量として適値でない20重量%未満の値である1〜5質量部を採用することは困難である。
また、他の公知文献にも、レトルト容器に用いられる樹脂層に含有される酸化チタン粒子の含有量について、当該相違点1−3を許容し得ることを記載した文献は見当たらない。
とすれば、当該相違点1−3に関し、引用発明1及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたとは認められない。

以上により、本件発明1は、引用発明1及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたとは認められず、当該取消理由3は成り立たない。
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜5も同様に成り立たない。

(2) 引用発明3に基づく進歩性の検討
本件発明1と引用発明3との<一致点>、<相違点3−1>〜<相違点3−3>は上記2.で述べたとおりである。

<相違点3−1>について検討する。
引用発明3において、酸化チタンを遮光剤であるとしていることから、紫外線が照射されると、酸化チタン粒子で反射されて紫外線が散乱することは当業者にとって自明の事項であるから、当該無機粒子(酸化チタン粒子)は紫外線散乱機能を有するものである。
してみると、相違点3−1は実質的な相違点ではない。
<相違点3−2>について検討する。
引用発明3で、保護層のベース樹脂をポリスチレン系樹脂と定めている理由について、引用文献3の段落【0003】〜【0007】では、
「【0003】そこでガスバリアー容器の側面に脱酸素剤配合層を積層した容器が提案されているが、酸素吸収速度が遅く、ボイル等により脱酸素剤に予め水分を供給しなければならない等の問題があって用途に制限があり、常温・常態において速やかに包装内酸素を吸収する容器が望まれている。
【0004】例えば、鉄粉等の脱酸素剤配合層を積層した容器として、酸素ガス透過性を有する樹脂に脱酸素剤を配合した層に、酸素ガス遮断性を有する(ガスバリアー)層を積層した構成を有する包装用多層構造物が提案されている(特公昭62−1824公報参照)。しかしながら、この構造物では、内容物と接触する層或いは脱酸素剤配合層には、低密度ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体等の防湿性の高い(水蒸気透過度の低い)樹脂が使用されており、水分を吸収して酸化反応が進む鉄粉の様な脱酸素剤では、酸素吸収速度が遅く、その間の内容物の酸化が問題であった。
【0005】また、特開昭63−137838号公報においても、ガスバリアー層と、脱酸素剤を混入した酸素吸収層との多層構造体が記載されているが、この酸素吸収層はポリオレフィン系樹脂からなる防湿層とされており、特公昭62−1824公報に記載された発明と同様に、酸素吸収速度が遅く、その間の内容物の酸化が問題であるため、ボイル・レトルトの併用により酸化反応を促進することが推奨されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような従来の問題点を解消し、ボイル等により脱酸素剤に予め水分を供給しなければならない等の使用上の問題がなく、容器内に食品等を常温・常態で収納するだけで速やかに容器内部を脱酸素することのできる酸素吸収性容器とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、脱酸素剤として鉄粉を配合したポリスチレン系樹脂よりなる脱酸素層の片側又は両側に、ポリスチレン系樹脂よりなる保護層を隣接して配置させた積層シートを用いることにより、通水・通気性が向上し、酸素吸収速度が著しく向上した酸素吸収性容器が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに到った。」
と記載している。これによると、本件発明1で採用したポリオレフィン系樹脂では脱酸素剤配合層に接するガスバリアー層の素材に選んだ際、酸素吸収速度が遅い点を課題として挙げており、その解決手段としてポリスチレン系樹脂を採用したとしている。
そうすると、引用発明3に接した当業者としては、引用発明3で保護層のベース樹脂の素材としてポリスチレン系樹脂を選択したとしたものを、あえて課題が生じるポリオレフィン系樹脂に置換するとは思えず、当該相違点3−2に係る本件発明1の構成を、当業者が容易に想到できたとは言えない。
<相違点3−3>について検討する。
引用発明3の酸化チタンの配合量として定めた範囲は、2〜5重量%の範囲に限り、本件発明1と一部重複した関係にある。
しかしながら、引用発明3で配合量の範囲を定めた背景・理由を見るに、脱酸素層を鉄粉の配合を施したものとの前提下で、鉄粉の黒色を遮光する目的で保護層に酸化チタンを配合したとしているのであり、本件発明1の酸素吸収層の組成を任意としつつ、酸素吸収層に積層された第1及び第2無機粒子含有層のガス通過を迷路効果により抑制する目的で酸化チタン粒子の配合をなしたものとを比較すると、ガスバリアでの積層構造の前提条件がそもそも異なる上に、酸化チタン配合で得ようとする効果についても両者は異なっていると認められる。
そうすると、当該相違点3−3は単に数値範囲の一部が重複していることをもって、当業者が容易に想到できた範囲とすることができず、また、当該相違点3−3を周知慣用技術であるとする公知文献も見当たらない。

以上により、本件発明1は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明できたとは認められず、当該取消理由3は成り立たない。
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜5も同様に成り立たない。

4.特許異議申立人らの意見について
(1)特許異議申立人 山内 慶子は、引用文献1の表1に記載の比較例2を指し示しつつ、訂正後の請求項1〜5は引用文献1に対して進歩性を有しない(意見書(2))、発明の効果に関しても格別顕著なものとは認められない(意見書(3))と主張する。
しかしながら、引用文献1に記載の比較例2は、比較例との表記が示すとおり、引用発明1で定める技術的思想の範囲外のものであり、上記3.(1)<相違点3>についての検討で述べたとおり、酸化チタンの配合量として不適とされたものである。
そうすると、上記検討で示したとおりの理由により、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたとすることができない。
よって、本件請求項1に係る発明は、引用文献1が開示する発明から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。請求項1を直接的又は間接的に引用する本件請求項2ないし5に係る発明も同様である。

(2)特許異議申立人 後藤 麻衣子は、訂正後の本件の請求項1〜5に係る発明は、依然として引用文献1を主引例とした場合において進歩性を有さない(意見書3(1))、無機粒子の含有割合に関するバリア性及び遮蔽性に係る効果を見るに、引用発明1の方が本件発明1よりも優れていることは明らかであり、進歩した技術を進歩する前の技術に戻すことに格別の動機づけが必要とはいえない上、引用文献1の[0020]にも無機充填剤の含有量は「好ましい」と記載されているのみである、酸化チタンの分量を本件訂正発明と近しい範囲とすることは、引用文献3、意見書と共に提出した参考資料1〜3に記載があり、周知技術に過ぎない等(意見書3(2))と主張する。
しかしながら、上記主張は、発明の効果の優劣に立脚したものであって、効果として優れた技術思想を基に、敢えて効果で劣るものへと変更する行為は、一般的に当業者が容易想到であると扱えるものではない。
また、意見書に添えて提出した参考資料1〜3も参照したが、いずれも酸素吸収剤の鉄粉の黒色を隠蔽する目的で二酸化チタンの配合量を定めたとするものであり、上記3.(1)<相違点1−3>の結論を左右するものではない。
よって、本件請求項1に係る発明は、引用文献1が開示する発明から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。請求項1を直接的又は間接的に引用する本件請求項2ないし5に係る発明も同様である。

(3)特許異議申立人 高橋 陽子は、訂正の請求により追加された(A)「第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、第1及び第2無機粒子含有層の前記無機粒子は、酸化チタン粒子であり、」なる事項、(B)「第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である」は、いずれも意見書と共に提出した参考資料1〜3((A)に関して)、参考資料1〜4((B)に関して)に記載されているとおりの一般的に行われている周知技術であり、訂正後の本件請求項1は、いわゆる当業者が容易に発明できるものと言える、本件請求項2〜5も同様である、と主張する。(意見書3(2))
しかしながら、意見書と共に提出した参考資料1〜4に記載された技術的事項は、参考資料1〜3が本件発明と同じレトルト用の容器を題材としたものではあるが、酸化チタンの配合量を定めた目的が、いずれも酸素吸収剤の着色を隠蔽するものであり、共通する技術思想に対するものではないから、周知技術であるとはいえない。また、参考資料4に至っては、本件発明と共通する用途に用いるものでなく、単なる樹脂成形体を対象とするものであって、着色による耐傷性を求めるものであるため、本件の検討に資するものではない。
よって、本件請求項1に係る発明は、引用文献1が開示する発明から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。請求項1を直接的又は間接的に引用する本件請求項2ないし5に係る発明も同様である。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人 山内 慶子は、特許異議申立書において、次の理由を主張している。
(理由1,2)特許請求の範囲の請求項1、2は、山内が提出した甲第1号証(特開2000−318091号公報)、甲第2号証(特開平11−70605号公報)、甲第3号証(特開平9−278024号公報)、甲第4号証(特開2000−212450号公報)に記載の発明と同一である。
また、特許請求の範囲の請求項1、2は仮に新規性を有しているとしても、当業者が容易に想到し得る程度のものであり進歩性がない。
(理由4)特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された発明は、無機粒子含有層がガスを通過させるものと認められ、迷路効果によってガスの通過を抑制することにより内容物の変質を抑制するとした課題を解決できないものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきである。
(理由3)また、仮に本件特許発明の無機粒子含有層がガスの通過を抑制できるとしても、本件明細書には、そのような無機粒子含有層の製造方法は記載されていないから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1−5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきである。
しかしながら、次の理由によりいずれも成り立たない。
(理由1,2について)
甲第1号証には、その請求項1に記載されているとおり、(A)ヒートシール層、(B)JISK6758に従って測定したメルトフローレートが2〜50g/10分である熱可塑性樹脂からなる流動性熱可塑性樹脂層、(C)酸素吸収層、(D)ガスバリア層及び(E)支持層が積層された脱酸素性多層シートが記載されており、訂正前の本件発明1と対比すると、「前記容器の内側から順に無機粒子含有層と酸素吸収層を備え」とした発明特定事項と相違していることが明らかである。そして、甲第1号証には上記(B)の流動性熱可塑性樹脂層を除くとした記載や示唆もないので、甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が本件発明1を容易に想到できるともいえない。
甲第2号証には、その請求項1に記載されているとおり、熱可塑性樹脂中に脱酸素剤組成物を分散した酸素吸収性樹脂からなる酸素吸収層を中間層とし、中間層の外側にガスバリア性樹脂からなるガスバリア層と、中間層の内側に酸素透過性樹脂からなる酸素透過層とを配した脱酸素性多層体からなるフランジ付き容器に食品を収納し、ガスバリア性の蓋材をフランジ部でヒートシールして密封した後、加熱滅菌処理することを特徴とする電子レンジ加熱用調理済み食品包装体が記載され、【0021】に実施例1として第1の層/・・・/第6の層が記載されているが、酸素吸収層の内外に積層される樹脂層のどちらもに無機粒子が分散されているとした本件発明1の特定事項を満たさないため、甲第2号証に記載の発明と本件発明1とは同一でない。また、甲第2号証には、酸素透過層に顔料として酸化チタンを含有させることは記載があるが、中間層を挟んだ他方の層はガスバリア層とされているため、これに酸化チタン粒子を含有させるとの記載や示唆もなく、甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が本件発明1を容易に想到できるともいえない。
甲第3号証には【請求項7】、【0020】−【0021】、【0024】、【0038】等に、水蒸気バリア層、酸素バリア層、水蒸気バリア層をこの順で含んでなる包装体が記載されており、水蒸気バリア層は10〜40重量%の酸化チタンを候補とする無機充填剤を含むとされているが、本件発明1は「酸素吸収層」を備えるとしているので、この点で甲第3号証に記載の発明と相違し、本件発明1とは同一でない。また、酸素バリア層を酸素吸収層に置換できるとする記載や示唆もなく、甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が本件発明1を容易に想到できるともいえない。
甲第4号証には、【請求項2】、【0013】、【0015】、【0017】−【0019】、【表1】等に表面から順に、シーラント層、酸素吸収樹脂層、バリア層の少なくとも3層からなる酸素吸収多層体において、酸素吸収樹脂層が請求項1記載の酸素吸収性樹脂組成物からなることを特徴とする酸素吸収性多層体が記載されており、酸素透過性の内層に酸化チタンを添加してもよいとはされているものの、バリア層(ガスバリア層の外層)には酸化チタンの含有がなされていないので、甲第4号証に記載の発明と本件発明1とは同一でない。また、甲第4号証にはバリア層に酸化チタン粒子を含有させることについて記載や示唆もないので、甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が本件発明1を容易に想到できるともいえない。
本件発明2は、本件発明1発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2も同様に、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(理由4について)
特許法第36条第6項第1号の理由に係る事項を見るに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、例えば【0040】〜【0041】【表2】に、水の減少量が小さく、水の透過が抑制された旨の記載がなされているから、課題を解決できないと扱うには足りない。
(理由3について)
同法同条第4項第1号の理由に係る事項を見るに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0012】〜【0041】にかけて複数の実施例の記載がなされており、第1及び第2無機粒子含有層に関する箇所には、ベース樹脂ないに無機粒子が分散されて構成される旨の記載もなされているから、無機粒子含有層の製造に当たっては、当該記載が許す範囲内で製造が可能であると認められ、当業者の実施を妨げる要因はなんら見当たらない。
したがって、特許異議申立人 山内 慶子のかかる主張は、採用することができない。

特許異議申立人 後藤 麻衣子は、特許異議申立書において、甲第1号証(特開平11−157027号公報)に基づく本件請求項1に係る発明の新規性の欠如(理由1A)、甲第1号証に基づく本件請求項3−5に係る発明の進歩性欠如(理由1B)、甲第2号証(特開平7−309323号公報)に基づく本件請求項1、2、4及び5に係る発明の新規性欠如(理由2A)、甲第2号証に基づく本件請求項3に係る発明の進歩性欠如(理由2B)、甲第4号証(特開2008−201432号公報)に基づく本件請求項1−5に係る発明の進歩性欠如(理由4)、請求項1−5に係る特許法第36条第6項第1号の規定に違反したとする旨(理由5)、請求項3−5に係る特許法第36条第6項第2号の規定に違反したとする旨(理由6)を主張する。
しかしながら、いずれの申立理由も、次の理由により採用できない。
理由1A及び1Bについては、甲第1号証に記載の密封容器の構造が、容器として使用する際に、最内層に保香層なる別の層を、最外層にガスバリア層なる別の層を必須とする構成を採用していることにより、本件発明との間で構造上の相違が発生し、かつ、その相違を当業者が容易想到と考えるに足るものではない。
理由2A及び2Bについては、甲第2号証が前述と同じく容器の構造として本件発明と異なる構造を採用していることにより、本件発明との間で構造上の相違が発生し、かつ、その相違を当業者が容易想到と考えるに足るものではない。
理由4については、甲第4号証の、特に実施例に記載された多層フィルムが、酸素吸収性樹脂層の内外にポリプロピレン樹脂層を配する構造とされ、ポリプロピレン樹脂層に酸化チタンが含有されていないとする相違点が、訂正前の本件発明1との相違点であり、甲第4号証には酸化チタンを含有させるに足る記載や示唆は見当たらないから、動機付けに欠け、当業者が容易に想到できたとすることができない。
理由5については、EVOHの使用量を低減するとの課題を、本件発明1−5は解決できていないとするものであるが、本件の特許請求の範囲を見て明らかのように、本件発明1−4はEVOHをそもそも必須としておらず、本件発明5ではじめてEVOHを備えるとしているものの、本件特許明細書の【0002】に記載された特許文献1との比較において、酸素吸収層の両側をEVOH層で挟んだ構造とはされていない。
そうすると、後藤が主張する理由5は、成り立たない。
理由6については、本件発明3に記載の「リプロ層」がどのようなものであるかが不明であり、本件発明4及び5の「酸素吸収性樹脂」がどのようなものであるかが不明である、としたものであるが、後者の還元鉄云々の主張は明細書の段落【0019】の記載に依拠したものであり、かつ、単なる読み違えによるものと見られ、いずれも特許請求の範囲の記載それ自体で明確なものであり、特段不明な点は認められない。

特許異議申立人 高橋 陽子は、特許異議申立書において、特許請求の範囲に関し、甲第1号証(当審による取消理由の引用文献3)、採用されなかった公知文献である甲第2号証乃至4号証(順に、特開昭59−170011号公報、特開2011−152788号公報、特許第5566614号公報)から本件特許の請求項1〜5に係る発明を容易想到と主張する。
しかしながら、高橋が提出した甲第2号証は、発明の対象をレトルト容器と異なる対象に対する書証であることから、引用発明3との相違点に関し容易想到であるとすることができない。他の甲第3号証、甲第4号証は、発明の対象がレトルト容器である点では共通するものの、本件特許の請求項1に係る発明が備える発明特定事項により生じる相違点を、いずれも容易想到とするに足るものではない。
したがって、特許異議申立人 高橋 陽子のかかる主張は、採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造の樹脂層を有する多層容器であって、
前記樹脂層は、前記容器の内側から順に、無機粒子含有層と酸素吸収層を備え、
前記無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
前記無機粒子は、紫外線散乱機能を有し、
前記無機粒子含有層は、第1無機粒子含有層であり、
前記酸素吸収層よりも外側に第2無機粒子含有層を備え、
第2無機粒子含有層は、ベース樹脂内に無機粒子が分散されて構成され、
第1及び第2無機粒子含有層の前記ベース樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であり、
第1及び第3無機粒子含有層の前記無機粒子は、酸化チタン粒子であり、
第1及び第2無機粒子含有層のそれぞれにおいて、前記無機粒子の添加量は、前記ベース樹脂100質量部に対して1〜5質量部である、多層容器。
【請求項2】
第1無機粒子含有層は、前記樹脂層の最内層であり、第2無機粒子含有層は、前記樹脂層の最外層である、請求項1に記載の多層容器。
【請求項3】
第1無機粒子含有層と前記酸素吸収層の間にリプロ層を備える、請求項1又は請求項2に記載の多層容器。
【請求項4】
前記酸素吸収層は、ガスバリア性樹脂と酸素吸収性樹脂を含む、請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の多層容器。
【請求項5】
前記ガスバリア性樹脂は、EVOHである、請求項4に記載の多層容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-24 
出願番号 P2016-149657
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 藤井 眞吾
西村 泰英
登録日 2020-09-24 
登録番号 6767654
権利者 キョーラク株式会社
発明の名称 多層容器  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK特許業務法人  

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