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審決分類 審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  A23F
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A23F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23F
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23F
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A23F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23F
管理番号 1384133
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-01 
確定日 2022-03-09 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6810322号発明「碾茶乾燥炉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6810322号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6810322号の請求項2に係る特許を維持する。 特許第6810322号の請求項1、3、4、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6810322号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成27年10月30日の出願であって、令和2年12月15日にその特許権の設定登録がなされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の請求項1〜5について、令和3年6月1日に特許異議申立人 カワサキ機工株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
本件特許異議申立事件における手続の経緯及び提出された証拠方法は次のとおりである。

1 手続の経緯
令和 3年 6月 1日 :特許異議申立書、甲第1〜2号証の提出
同年10月11日付け:取消理由通知
同年12月13日 :訂正請求書、意見書の提出
同年12月24日 :手続補正指令書(方式)
令和 4年 1月18日 :訂正請求書の手続補正書の提出

なお、申立人は、特許異議申立書において、意見書の提出を希望しない旨の申出を行っている。

2 証拠方法
甲第1号証:社団法人農山漁村文化協会編著、「茶大百科 I 歴史・文
化/品質・機能性/品種/製茶」、第1刷、社団法人農山漁
村文化協会、2008年3月25日、p.715−717
甲第2号証:特開平6−3052号公報

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
令和4年1月18日に提出された訂正請求書の手続補正書によって補正された令和3年12月13日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1〜3のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1、3、4、5を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥することを特徴とする請求項1記載の碾茶乾燥炉。」
と記載されているのを、
「燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥するとともに、
並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥することを特徴とする碾茶乾燥炉。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0011】に、
「本発明の第1手段は、
燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥することを特徴とする碾茶乾燥炉。
本発明の第2手段は、前記第1手段において、
並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥する。
本発明の第3手段は、前記第1または2手段において、
散茶給葉部を設ける。
本発明の第4手段は、前記第1、2または3手段において、
乾燥室を複数設け、茶葉は上から下へ落下移動する。
本発明の第5手段は、前記第1、2、3または4手段において、
前記煙道に調節ダンパを設ける。」
と記載されているのを、
「本発明の第1手段は、
燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥するとともに、
並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥することを特徴とする碾茶乾燥炉。」
と訂正する。

なお、本件訂正前の請求項1〜5について、請求項2〜5は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1〜5に対応する訂正後の請求項1〜5に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1、3、4、5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1が、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2について、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項2は、訂正前の請求項2について、何ら実質的な内容の変更を伴うものでないから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1及び2に伴い、訂正後の請求項1〜5の記載と明細書の段落【0011】の記載とを整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項3は、請求項1に関係するものであるから、訂正前の一群の請求項1〜5に関係する訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件訂正発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥するとともに、
並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥することを特徴とする碾茶乾燥炉。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審は、本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、3、4に係る特許に対して、当審が令和3年10月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

理由1(新規性
本件特許の請求項1、3、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2(進歩性
本件特許の請求項1、3、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



引用文献1:社団法人農山漁村文化協会編著、「茶大百科 I 歴史・文化
/品質・機能性/品種/製茶」、第1刷、社団法人農山漁村文
化協会、2008年3月25日、p.715−717(甲第1
号証)

2 甲第1号証に記載された事項
(1a)「9)碾茶機での乾燥
冷却散茶後の茶葉は,碾茶機下段コンベアの入口に散布して乾燥工程に移る。
■碾茶機の構造
・・・
碾茶機内の温度は200℃を超える高温となるため,耐熱性のあるレンガを保温性向上の目的も兼ねて側壁に使用する。そのクラシックな印象の碾茶機は,金網製のベルトコンベアに散布した茶葉が,トンネル状の乾燥室を通過する間に乾燥を行なう装置で,規模は,高さ2〜4m,金網コンベアの幅が180〜200cm,長さは10mあまりの,大型製茶機械である。コンベア3段式の例を示す(図2−3・・・)。
装置は仕切り板で区切られた上下二つの乾燥室からなり,以下,下部の乾燥室を初期乾燥室,上部の乾燥室を後半期乾燥室と表記する。各コンベアは,上から順に,上段,中段,下段の各コンベアと呼び,初期乾燥室に下段コンベアを,後半期乾燥室に上段および中段コンベアを配置する。
茶葉はまず下段コンベアで乾燥を行なった後いったん外部に取り出し,風力で上段コンベアに散布する。上段コンベアから後半期乾燥室に入った茶葉は,続いて中段コンベアを通り碾茶機での乾燥が終了する(図2−3の矢印)。コンベア3段式のほか,コンベア数が4段や5段の装置もある。その場合,初期乾燥室に下段コンベア1段があるのは同じで,後半期乾燥室のコンベア数が増加することにより茎部の乾燥を進めるなどの省力化や加工量の増加が図れる。」(715ページ左欄15行から右欄最終行)

(1b)「

」(716ページ図2−3)

(1c)「装置の加熱は付属するた重油バーナーで行ない,茶葉が移動する方向に沿って火炉(バーナーの炎が広がる部分)や,煙道(排気管)を配置する(図2−4の灰色着色部分)。煙道の排気口には通風機(ファン)を取りつけて燃焼ガスの流れをつくり,煙道内部に接触させ熱を伝えながら外部に放出する。・・・
■初期乾燥工程の操作
表面が水分で覆われる程度に含水率が高い(500%程度)茶葉を下段コンベア上に散布する。約150℃の初期乾燥室で火炉や煙道からの放射伝熱(熱輻射,輻射熱とも呼ばれ,空気を介さず熱線によりエネルギーが直接伝わる)を受けながら急激に乾燥し,半分以下の含水率となる碾茶特有の香味が生成する工程である。茶葉から蒸散した水蒸気(水分)は,仕切り板付近に開口した排気筒から自然対流で外部に排出される(図2−4の白抜き矢印)。図2−3では碾茶機の長さ方向を短縮しており,実際は全体の7割近くを煙道部が占め,残り部分が火炉である(・・・)。」(716ページ左欄1行〜右欄8行)

(1d)「

」(717ページ図2−4)

3 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の上記(1a)〜(1d)の記載からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

甲1発明
「仕切り板で区切られた上下二つの乾燥室を有する碾茶機であって、
前記二つの乾燥室は、
金網製のベルトコンベアからなる下段コンベアが配置された、下部の初期乾燥室と、
金網製のベルトコンベアからなる上段及び中段コンベアが配置された、上部の後半期乾燥室とからなり、
前記碾茶機は、さらに、
茶葉が移動する方向に沿った、重油バーナーの炎が広がる部分である火炉と、
燃焼ガスが流れる主煙道、返り煙道及び補助煙道と、
冷却散茶後の茶葉を下段コンベア入口に散布する冷却散茶機とを備え、
茶葉は、下部の初期乾燥室の下段コンベアで乾燥を行った後、風力で上部の後半期乾燥室の上段コンベアに散布し、上段コンベア、次いで後半期乾燥室の中段コンベアで乾燥し、
茶葉の乾燥は、火炉や煙道からの輻射熱により行う、碾茶機。」

4 当審の判断
本件訂正により、上記取消理由の対象となる請求項1、3、4が削除されたので、上記取消理由には理由がない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
当審は、本件訂正発明に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっても、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立て理由の概要
訂正前の請求項1〜5に係る特許に対して、申立人が主張した特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった理由の要旨は、次のとおりである。

理由1(新規性
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2(進歩性
本件特許の請求項5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明
上記第4 2及び3のとおりである。

3 当審の判断
上記理由2(進歩性)は、本件訂正により対象となる請求項5が削除されたので、理由がない。
したがって、上記理由1(新規性)について検討する。

(1)対比
本件訂正発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「茶葉が移動する方向に沿った、重油バーナーの炎が広がる部分である火炉」は、燃焼ガスを生成させるものであるから、本件訂正発明の「燃焼空気を生成する燃焼部」に相当する。
甲1発明の「燃焼ガスが流れる主煙道、返り煙道及び補助煙道」は、本件訂正発明の「該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道」に相当する。
甲1発明の「金網製のベルトコンベアからなる下段コンベア」及び「金網製のベルトコンベアからなる上段及び中段コンベア」は、本件訂正発明の「通気性の無端輸送体」に相当する。
甲1発明の「仕切り板で区切られた上下二つの乾燥室」は、「金網製のベルトコンベアからなる下段コンベア」及び「金網製のベルトコンベアからなる上段及び中段コンベア」が配置された初期乾燥室及び後半期乾燥室とからなるから、各コンベアを囲うものであり、上記(1b)及び(1d)からも理解できるとおり、「燃焼ガスが流れる主煙道、返り煙道及び補助煙道」及び「茶葉が移動する方向に沿った、重油バーナーの炎が広がる部分である火炉」も囲うものといえる。
したがって、甲1発明の「仕切り板で区切られた上下二つの乾燥室を有する碾茶機」は、本件訂正発明の「これらを囲う乾燥室とから構成」される「碾茶乾燥炉」に相当する。
そして、甲1発明の「茶葉の乾燥は、火炉や煙道からの輻射熱により行う」ことは、本件訂正発明の「煙道の輻射熱により茶葉を乾燥する」ことに相当する。
したがって、本件訂正発明と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

一致点
「燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥する碾茶乾燥炉。」である点。

相違点
本件訂正発明は、「並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥する」と特定されているのに対し、
甲1発明は、「茶葉は、下部の初期乾燥室の下段コンベアで乾燥を行った後、風力で上部の後半期乾燥室の上段コンベアに散布し、上段コンベア、次いで後半期乾燥室の中段コンベアで乾燥」すると特定されている点。

(2)判断
甲1発明の「碾茶機」は、上段、中段及び下段からなる複数段のコンベアを有しているが、茶葉は、これら複数段のコンベアを下段、上段、次いで中段の順で移動して乾燥されるものであるから、「茶葉を複数段に分割して乾燥する」ものではない。
よって、上記相違点において甲1発明と相違するから、本件訂正発明は甲第1号証に記載された発明ではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、申立人の申し立てた理由1(新規性)は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠方法によっては、請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項1、3、4、5に係る発明の特許は削除されたため、申立人の請求項1、3、4、5に係る発明の特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
したがって、請求項1、3、4、5に係る発明の特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】碾茶乾燥炉
【技術分野】
【0001】
本発明は抹茶の原料となる碾茶を製造する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
碾茶とは、覆い下で栽培された茶生葉を蒸した後、揉まずに乾燥したものであり、抹茶の原料となる。形状は葉が展開して透き通るように薄く、色沢は鮮緑色、香味は独特の炉の香りがある。
【0003】
従来の碾茶の製造は、蒸熱71→散茶冷却72→乾燥73→葉と茎の分離→仕上げ乾燥となっている。乾燥は炉でおこなうことも特徴であり、独特の香りはこの乾燥炉によってつけられる。乾燥をおこなう乾燥炉は、長さ約10〜15メートル、幅約2メートル、高さ約2〜4メートルの大型である(図6参照)。更に、燃焼部74を地下に備えているため、長さ約10〜15メートル、幅約2メートル、深さ約1メートル程度のピット75(くぼみ)を設けている。
【0004】
上記の乾燥炉は、200度を超える高温となるため、耐熱性と保温性のあるレンガによって側壁を構成している。そのため、乾燥炉の製造は、乾燥炉を設置する製茶工場(現場)に部品(レンガを含む)を運搬して、製茶工場で部品の組立てや側壁のレンガの積み上げをしている。
【0005】
上記の乾燥炉は、地下に燃焼部を備えており、燃焼部の燃焼空気を煙道にて乾燥炉内を通過させる。煙道は、地下の燃焼部から徐々に上へ向かうように配置されており、茶葉を最下段に投入し、最下段で乾燥した茶葉を最上段へ吹き上げて、更に乾燥している。
【0006】
本出願人は、特許文献1のような碾茶用乾燥装置を考案していた。この碾茶用乾燥装置は、送風による乾燥であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平4−80382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の乾燥炉は、燃焼部が最下段で地下のためピットが必要となるが、ピットを掘ることは大掛かりな作業であった。また、側壁がレンガであるため、レンガを積み上げるという製茶工場での作業が多かった。そして、装置が大型のために更に施工時間が長くかかるとともに、特別な技術を要する作業者(職人)が必要であった。
【0009】
特許文献1は、送風による乾燥であり、仕上げ乾燥には良好であるが、従来の乾燥炉とは茶葉の乾燥具合い、茶製品の色や香りが異なるという問題があった。
【0010】
本発明では、碾茶の乾燥に適した碾茶乾燥炉を提供することを課題としており、製茶工場で長時間かけてレンガを積み上げて組立作業をすることなく、完成品を据え付けることができ、独特の炉の香りがある碾茶を製造する装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1手段は、
燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥するとともに、
並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥することを特徴とする碾茶乾燥炉。
【発明の効果】
【0012】
従来は製茶工場で組み立て作業をしており、製茶工場での作業時間がかかっていたが、本発明の碾茶乾燥炉により、移動可能となり、現地では据え付け、調整作業のみで済み、作業時間が短縮される。床面より上方に配置することで、ピット工事が不要となり、メンテナンス、操作性がよい。本発明により、乾燥処理能力に必要な装置の省スペース化を図ることができる。また、熱を有効に利用することができ、効率よく乾燥できる。製造された茶製品には、しっかりと良い炉の香りがつく。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の碾茶乾燥炉の一例を示した斜視図である。
【図2】図2は本発明の碾茶乾燥炉の一例を示した正面一部断面図である。
【図3】図3は本発明の碾茶乾燥炉の茶葉の流れの一例を示した説明図である。
【図4】図4は本発明の碾茶乾燥炉の茶葉の流れの一部を示した説明図である。
【図5】図5は本発明の碾茶乾燥炉の燃焼空気の流れの一例を示した説明図である。
【図6】図6は本発明の碾茶乾燥炉の一例を示した側面一部断面図である。
【図7】図7は従来の碾茶の製造を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
碾茶乾燥炉は下部の輻射熱乾燥部1と、上部の熱風乾燥部3とに分かれている。輻射熱乾燥部1は、更に第1乾燥室11と第2乾燥室21とに分かれており、第1乾燥室11は上段、第2乾燥室21は下段となっており、各乾燥室の温度を調整するため、仕切板2により分けられている。乾燥室の数はこの限りではなく、増加する場合には、下段に増加するとよい。
【0015】
第1乾燥室11への茶葉の供給のため、散茶給葉部4を設ける。散茶給葉部4は、茶葉Tを受け入れるホッパー42と、ホッパー42内の茶葉を風送するための送風ファン41と、茶葉の散茶室43を備えている。散茶室43は、送風ファン41からの送風が抜けるように、通気性の良い側壁(本実施例では金網44)となっている。
【0016】
第1乾燥室11には通気性を有する無端輸送体を上下に2段設けてあり、茶葉は散茶給葉部4によりこれら2段の無端輸送体に分けられて搬送される(本実施例では2段であるが、1段でも3段以上でもよい)。本実施例では、無端輸送体としてネットコンベヤ12、13を用いる。2段に分けて茶葉を搬送すると、ネットコンベヤ12、13の全長は、通常の半分でよく、本実施例では約6m、第1乾燥室の全長は約5m、幅は約2mとなる。ネットコンベヤ12、13の終端下部には、ネットコンベヤ12、13に接するように回転ブラシ12A、13Aが設けられている。第1乾燥室11には、バーナーを備えた燃焼部16を設け、煙道14、15内を燃焼空気で満たす。燃焼部16に用いるバーナーは重油バーナーよりガスバーナーの方が燃焼調整や排気調整が容易であり、本実施例では幅方向に並列2基設けているが、ガスバーナーの数はこの限りではない。煙道14は、燃焼部16から水平に4〜6本設け、第1乾燥部室11の空気を輻射熱により十分加熱するため、上下に2本の煙道14、15を設ける。第1乾燥室11が均等に十分加熱されれば、煙道14、15の本数はこの限りではない。燃焼部16による直接の燃焼空気は煙道14を通り、煙道14の終端の燃焼空気は機外に配設した煙道51を通って、煙道15に導かれる。煙道14の終端の燃焼空気の一部は、機外に配設した煙道52を通って、第2乾燥室21の煙道24へ導かれる。第1乾燥室11内の温度を監視するため、温度計18を設ける。第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13の終端の茶葉は、第2乾燥室21のネットコンベヤ22上へ自然落下する。
【0017】
第2乾燥室21は、通気性を有する無端輸送体を1段、煙道24を水平方向に6本設けてあり、ここでも、本実施例では無端輸送体としてネットコンベヤ22を用いる。ネットコンベヤ22は、第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13に対し、逆行する。ネットコンベヤ22の終端下部に接するように回転ブラシ22Aを設ける。第2乾燥室21内の煙道24は機外に配設された煙道52により第1乾燥室11の煙道14と接続されており、第1乾燥室11の煙道14を通った燃焼空気を第2乾燥室22の煙道24へ導く。機外に配設された煙道52、53には、燃焼空気の導入量を調節するため、調節ダンパ54を適宜、配置する。本実施例では、煙道52、53に設けたが、この限りではなく、煙道51に設けてもよい。燃焼空気の導入量を調節することにより、第2乾燥室22の温度が調整される。第2乾燥室21内の温度を監視するため、温度計23を設ける。第2乾燥室21のネットコンベヤ22の終端には、取出用のトラフコンベヤ25を設け、トラフコンベヤ25の終端にホッパー26を設け、ホッパー26内の茶葉を熱風乾燥炉3の上部のシュート29へ送るための送風ファン27および風送管28を設ける。この部分の搬送は、他の搬送装置でもよい。
【0018】
燃焼部16で生成する燃焼空気を各ネットコンベヤ12、13、22の上方や下方に配置した煙道14、15、24内を通過させる。これにより、機内の温度を保つことに効果があり、煙道14、15、24から発する熱をネットコンベヤ12、13、22上の茶葉に放射させることができる。
【0019】
煙道14、15、24の表面または第1乾燥室11、第2乾燥室21の側壁の内側へ、遠赤外線を放射することができる塗料を塗布する。すると、塗料により、遠赤外線の効果による無理のない効率の良い乾燥がおこなわれ、茶葉は色落ちや風味を落とすことなく乾燥できる。
【0020】
第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13から第2乾燥室21のネットコンベヤ22へ茶葉が自然落下する部分は仕切板2がなく、第1乾燥室11と第2乾燥室21はつながっており、風洞17を形成し、茶葉から蒸散する湿気を帯びた空気は上昇し、上部の排気ファン38により排出される。(図5において、破線矢印で茶葉から蒸散する湿気を帯びた空気の動きを示す)
【0021】
熱風乾燥部3は、シュート29から出た茶葉を薄く広げるためのかきならし具35を備え、熱風乾燥室31内に通気性を有する無端輸送体32A、32B、33A、33Bを4段設けている。無端輸送体の段数はこの限りではない。第1乾燥室11または第2乾燥室21を通過した燃焼空気を機外の煙道53より熱風乾燥部3との間の排煙調整室36へ導き、排煙調整室36内の燃焼空気を供給ファン37により下方から熱風乾燥室31へ導入している。この排煙調整室36は、第1乾燥室11と熱風乾燥室31の間で、第1乾燥室11の上面かつ熱風乾燥室31の下面にあり、第1乾燥室11全域にわたっているとよい。これにより、第1乾燥室11は上面からあたためられ、熱風乾燥室31は下面からあたためられる。熱風乾燥室31に導入する熱風温度を調整するため、排熱調整室36に外気導入口(図示しない)を設け、必要に応じて外気を導入してもよい。一度、燃焼空気を排熱調整室36に導入することで、安定した熱風を熱風乾燥室31に導入することができる。熱風乾燥室31の上方には、乾燥に使用した熱風を排気するための排気ファン38を設ける。供給ファン37と排気ファン38は、それぞれインバータ(図示しない)にて出力調整する。これにより機内の温度を調節することができる。無端輸送体33Bの終端には、茶葉を取り出すためのスクリューコンベヤ29を設ける。
【0022】
それぞれの無端輸送体12、13、22、32A、32B、33A、33Bには、インバータ(図示しない)を設け、それぞれのスピード、処理時間を得られるようにして、調整する。
【0023】
次に、この碾茶乾燥炉を起動し、茶葉を投入した動きを説明する。蒸熱し、冷却した茶葉Tを散茶給葉部4のホッパー42へ搬送する。ホッパー42に入った茶葉Tは、送風ファン41の送風により、散茶室43へ飛ばされ、落下するときに、上段のネットコンベヤ12または下段のネットコンベヤ13へのる。ネットコンベヤ12、13上では、煙道14、15からの輻射熱や対流した熱、塗料から放射される遠赤外線などにより乾燥される。このとき、第1乾燥室11の温度は、約120〜200度である。第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13上で乾燥された茶葉は、第2乾燥室21のネットコンベヤ22上へ自然落下する。落下時に、茶葉の上下、隣の茶葉との位置、ネットコンベヤへの接触などが変化する。
【0024】
第2乾燥室21のネットコンベヤ22上でも、第1乾燥室11と同様に、煙道24からの輻射熱や塗料から放射される遠赤外線などにより乾燥される。このとき、第2乾燥室21の温度は、約80〜130度である。この温度を上げたいときは、調整ダンパ54を開き、この温度を下げたいときは、調整ダンパ54を閉じる。ネットコンベヤ22上で乾燥された茶葉は、トラフコンベヤ25上へ取り出され、ホッパー26へ回収される。ホッパー26内の茶葉へ送風ファン27により送風し、風送管28内を通過して、シュート29により給葉部34へ茶葉を投入する。
【0025】
給葉部34内の茶葉をかきならし具35により薄く平らにして、無端輸送体32A上へのせる。供給ファン37により排煙調整室36内の熱風を熱風乾燥室31内へ取り込み、熱風により乾燥する。このときの熱風乾燥室31の温度は約80〜90度であり、この温度は、供給ファン37の回転数により変更することができる。茶葉から蒸散する湿気を帯びた空気は上昇し、上部の排気ファン38により排気される。熱風乾燥室31内で乾燥した茶葉をスクリューコンベヤ39へ排出し、スクリューコンベヤ39により、次の機械(または搬送装置)へ搬送する。
【0026】
以上のような流れで、ネットコンベヤ12、13上を約1分から約2分30秒、ネットコンベヤ22上を約2分30秒から約5分、無端輸送体32A、32B、33A、33Bは約10分から約40分程度で茶葉を良好に乾燥することができる。
【0027】
本実施例では、第1乾燥室11を2本のネットコンベヤ12、13にしたため、茶葉の量をネットコンベヤが1本の場合と比べて、それぞれのネットコンベヤ12、13の上にのる茶葉を約半分にすることができる。そのため、ネットコンベヤ12、13の移送速度を約2倍に遅くすることができ、ネットコンベヤ12、13上で茶葉を乾燥する時間は、ネットコンベヤが1本の場合とほぼ同じとなる。第1乾燥室11のネットコンベヤを3本以上にしても同様である。
【符号の説明】
【0028】
T 茶葉
1 輻射熱乾燥部
2 仕切板
3 熱風乾燥部
4 散茶給葉部
11 第1乾燥室
12 ネットコンベヤ
12A 回転ブラシ
13 ネットコンベヤ
13A 回転ブラシ
14 煙道
15 煙道
16 燃焼部
17 風洞
18 温度計
21 第2乾燥室
22 ネットコンベヤ
22A 回転ブラシ
23 温度計
24 煙道
25 トラフコンベヤ
26 ホッパー
27 送風ファン
28 風送管
29 シュート
31 熱風乾燥室
32A 無端輸送体
32B 無端輸送体
33A 無端輸送体
33B 無端輸送体
34 給葉部
35 かきならし具
36 排煙調整室
37 供給ファン
38 排気ファン
39 スクリューコンベヤ
40 温度計
41 送風ファン
42 ホッパー
43 散茶室
44 金網
51 煙道
52 煙道
53 煙道
54 調節ダンパ
71 蒸熱
72 散茶冷却
73 乾燥
74 燃焼部
75 ピット
76 吹上
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
燃焼空気を生成する燃焼部と、
該燃焼部で生成した燃焼空気を導入する煙道と、
通気性の無端輸送体と、
これらを囲う乾燥室とから構成し、
煙道の輻射熱により茶葉を乾燥するとともに、
並行する無端輸送体を複数段設け、茶葉を複数段に分割して乾燥することを特徴とする碾茶乾燥炉。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-24 
出願番号 P2015-214511
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23F)
P 1 651・ 855- YAA (A23F)
P 1 651・ 853- YAA (A23F)
P 1 651・ 857- YAA (A23F)
P 1 651・ 851- YAA (A23F)
P 1 651・ 113- YAA (A23F)
P 1 651・ 854- YAA (A23F)
P 1 651・ 841- YAA (A23F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
吉岡 沙織
登録日 2020-12-15 
登録番号 6810322
権利者 株式会社寺田製作所
発明の名称 碾茶乾燥炉  

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