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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1384135
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-09 
確定日 2022-03-04 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6799176号発明「ハードコートフィルム、光学積層体および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6799176号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。 特許第6799176号の請求項1〜3及び5〜14に係る特許を維持する。 特許第6799176号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6799176号の請求項1〜請求項14に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019−557076号)は、平成30年10月26日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年11月29日)に出願されたものであって、令和2年11月24日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和2年12月9日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和3年6月9日に、特許異議申立人 横沢 聡(以下「特許異議申立人」という。)から、本件特許に対して特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の経緯は、以下の通りである。
令和 3年 8月19日付け:取消理由通知書
令和 3年10月20日付け:訂正請求書
令和 3年10月20日付け:意見書(特許権者)
令和 3年12月 8日付け:意見書(特許異議申立人)


第2 本件訂正請求及び訂正の適否についての判断
令和3年10月20日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6799176号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜14について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求において、特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1において、「拡散反射光のb*が−0.2以上である」と記載されているのを「拡散反射光のb*が−0.2〜1.5である」に訂正するものである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3及び5〜14についても同様に訂正するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項4を削除するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項5において、「請求項1〜4のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1〜3のいずれか1項に記載の」に訂正するものである。
請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6〜14についても同様に訂正するものである。

(4)訂正事項4
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項6において、「請求項1〜5のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の」に訂正するものである。
請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7〜14についても同様に訂正するものである。

(5)訂正事項5
訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項7において、「請求項1〜6のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1〜3、5および6のいずれか1項に記載の」に訂正するものである。
請求項7を直接又は間接的に引用する請求項8〜14についても同様に訂正するものである。

(6)訂正事項6
訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項8において、「請求項1〜7のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の」に訂正するものである。
請求項8を直接又は間接的に引用する請求項9〜14についても同様に訂正するものである。

(7)訂正事項7
訂正事項7による訂正は、訂正前の請求項9において、「請求項1〜8のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の」に訂正するものである。
請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10〜14についても同様に訂正するものである。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項2〜14は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているところ、訂正事項1による訂正によって訂正前の請求項1が訂正されることにより連動して訂正されることになる。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1〜14に対して請求されたものである。

4 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載された「拡散反射光のb*」の範囲を「−0.2以上」から「−0.2〜1.5」に限定する訂正であるから、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項
本件特許の明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0041】には、「拡散反射光のb*が−0.2以上」であること、【0043】には、「拡散反射光のb*は1.5以下」が好ましいことが開示されている。
ウ 拡張又は変更
前記アで述べた訂正の内容からみて、訂正事項1による訂正により、訂正前の特許請求の範囲に含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項4を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しないこと、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。

(3)訂正事項3〜7について
訂正事項3〜7による訂正は、訂正事項2により請求項4を削除する訂正に伴い、請求項5〜9において引用する請求項から請求項4を削除することを目的とするものであり、新規事項の追加に該当しないこと、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6799176号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1〜3及び5〜14に係る発明(以下、請求項の番号とともに、それぞれ「本件特許発明1」等という。また、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲1〜3及び5〜14に記載された事項によって特定されるとおり、以下のものである。
「【請求項1】
フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層は、バインダー樹脂および無機フィラーを含み、
前記バインダー樹脂100重量部に対する前記無機フィラーの含有量が20〜80重量部であり、
前記無機フィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、
前記ハードコート層に含まれるフィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、
前記ハードコート層の表面の算術平均粗さが2nm以上であり、拡散反射光のb*が−0.2〜1.5である、ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記ハードコート層に含まれるフィラーの90%粒子径が100nm以下である、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の表面の算術平均粗さが10nm以下である、請求項1または2に記載のハードコートフィルム。」

「【請求項5】
前記バインダー樹脂の波長405nmにおける屈折率と、前記無機フィラーの波長405nmにおける屈折率の差の絶対値が、0.09以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層の厚みが1〜10μmである、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層の表面の拡散反射光のY値が0.09%以下である、請求項1〜3,5および6のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層の表面の波長380nmにおける拡散反射率が0.05%以下である、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載のハードコートフィルムと、前記ハードコートフィルムの前記ハードコート層に接して設けられた無機薄膜とを含む、光学積層体。
【請求項10】
前記無機薄膜は、屈折率の異なる複数の無機薄膜からなる反射防止層である、請求項9に記載の光学積層体。
【請求項11】
前記ハードコート層に接する無機薄膜は 、非化学量論組成の無機酸化物である、請求項9または10に記載の光学積層体。
【請求項12】
前記ハードコート層に接する無機薄膜が酸化シリコン薄膜である、請求項11に記載の光学積層体。
【請求項13】
前記無機薄膜上に、さらに防汚層を備える、請求項9〜12のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項14】
画像表示媒体の視認側表面に、請求項9〜13のいずれか1項に記載の光学積層体が配置されている、画像表示装置。」


第4 取消しの理由及び証拠について
1 取消しの理由の概要
令和3年8月19日付の取消理由通知書により通知した取消しの理由の要旨は以下のとおりである。
(1)サポート要件
本件特許発明のうち請求項1〜3及び5〜14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法36条6項1号の規定により、特許を受けることができない。
(2)新規性
本件特許発明のうち請求項1〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)進歩性
本件特許発明のうち請求項1〜14に係る発明は、甲第1号証の記載、又は甲第1号証及び甲第6号証の記載に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

2 証拠について
特許異議申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2017−161893号公報
甲第2号証:特開2008−127413号公報
甲第3号証:特開2007−223193号公報
甲第4号証:特開2016−10947号公報
甲第5号証:特開2004−29505号公報
甲第6号証:特開2006−72320号公報
甲第7号証:特開2014−138662号公報
甲第8号証:特開2005−156642号公報
(甲第1号証〜甲第8号証について、以下「甲1」等という。)


第5 当合議体の判断
1 特許法36条6項1号(サポート要件)
(1)本件特許発明1〜3及び5〜14について
本件特許発明1が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0005】及び【0012】等の記載からみて、フィラーを含むハードコート層の反射光の着色を少なくすることにある。
ここで、本件特許発明1は、特定の数値範囲内の平均一次粒子径を備えた(無機)フィラーを含み、かつ、反射光の着色(La*b*色空間における青色又は黄色の着色)を示す指標である「拡散反射光のb*」の範囲を「−0.2〜1.5」に限定するものであることから、そのハードコート層の拡散反射光の着色は既に少ない範囲に限定されていると解される。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件特許発明2〜3及び5〜14についても同様である。

(2)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人は、令和3年12月8日付の意見書(以下「意見書」という。)において、「本件明細書の段落0094の表1(各作製例)には、b*が0以上の場合として、「0.00」、「0.02」、「0.26」の数値があるにすぎず、これらの数値よりもはるかに広い(大きい)「1.5以下」という数値範囲までサポートされているとするのは適切ではありません」と主張する。
しかしながら、上記甲6の【0096】に、反射光のb*が「−3〜3」の範囲であれば色味がニュートラルとなる旨記載されているように、本件特許発明1の「拡散反射光のb*が−0.2〜1.5」という範囲であれば反射光の着色が十分に小さくなっていると当業者は理解する。そして、平均一次粒子径を調整することで、拡散反射光のb*を(黄色みが目立たない範囲内で)大きくできることは本件特許明細書の【0048】等に記載されている。
したがって、本件特許明細書の上記記載及び甲6の上記記載等を参酌すれば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載や示唆及び出願時の技術常識に照らして、当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
したがって、上記主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、同意見書において、「特許権者は、・・・b*とRaとに相関関係があることを前提に自らの主張を展開しています。しかし、仮に特許権者の主張を前提にする場合、b*の上限値を規定するだけでは足りず、ハードコード層の表面の算術平均粗さ(Ra)についても上限値が規定されるべきと思料します。」と主張する。
しかしながら、上述したとおり、b*とRaとの間に相関関係があるか否かに関わらず、本件特許発明1が、上記課題を解決することができることを当業者が認識できるといえる。
したがって、上記主張は採用できない。

2 特許法29条1項3号(甲1に記載された発明に対する新規性
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】
透明基材と、ハードコート層と、中間層と、反射防止層とをこの順に備え、
該ハードコート層が、バインダー樹脂と、無機フィラーとを含み、
該無機フィラーの平均一次粒径が、10nm〜150nmであり、
該ハードコート層の中間層側の表面元素組成が、(無機フィラー由来の無機元素の数/炭素原子の数)≧0.03であり、
該反射防止層が、少なくとも一組の高屈折率層と低屈折率層とを積層して構成され、
該反射防止層の中間層とは反対側の面の算術平均表面粗さRaが、0.8nm〜15nmである、
光学積層体。
【請求項2】
前記無機フィラーの含有割合が、バインダー樹脂100重量部に対して、10重量部〜90重量部である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記無機フィラーが、シリカ粒子である、請求項1または2に記載の光学積層体。」

イ 「【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)、陰極線管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等の画像表示装置は、外部からの接触によりその表面に傷がつくと、表示画像の視認性が低下する場合がある。このため、画像表示装置に用いられる光学積層体には、ハードコート層が設けられることがある。また、画像表示装置には、視認性向上のため、反射防止機能を必要とする場合があり、ハードコート層上に反射防止層を配置して構成される光学積層体が求められている。
【0003】
上記のようにハードコート層と反射防止層とを備える光学積層体においては、当該層における層間剥離が問題となる。プライマー層を設けて、密着性を向上させる技術も検討されているが(例えば、特許文献1)、依然、層間剥離は十分に防止されておらず、特に、屋外等の紫外線にさらされる環境下においては、上記層間剥離の問題は顕著となる。」

ウ 「【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ハードコート層と反射防止層とを備える光学積層体であって、反射防止層が剥離しがたい光学積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学積層体は、透明基材と、ハードコート層と、中間層と、反射防止層とをこの順に備え、該ハードコート層が、バインダー樹脂と、無機フィラーとを含み、該無機フィラーの平均一次粒径が、10nm〜150nmであり、該ハードコート層の中間層側の表面元素組成が、(無機フィラー由来の無機元素の数/炭素原子の数)≧0.03であり、該反射防止層が、少なくとも一組の高屈折率層と低屈折率層とを積層して構成され、該反射防止層の中間層とは反対側の面の算術平均表面粗さRaが、0.8nm〜15nmである。」

エ 「【0012】
B.ハードコート層
上記ハードコート層は、バインダー樹脂と無機フィラーとを含む。
・・・(省略)・・・
【0026】
上記無機フィラーの平均一次粒径の下限値は、好ましくは10nmであり、より好ましくは12nmであり、さらに好ましくは30nmである。無機フィラーの平均一次粒径の上限値は、好ましくは150nmであり、より好ましくは130nmであり、さらに好ましくは100nmであり、特に好ましくは70nmである。このような範囲であれば、ハードコート層表面に微細な凹凸を良好に形成させることができ、ハードコート層と中間層との密着性が特に優れる光学積層体を得ることができる。また、無機フィラーの平均一次粒径が上記範囲であれば、透明性に優れる光学積層体を得ることができる。無機フィラーの平均一次粒径は、コールターカウント法により測定される重量平均粒径である。
【0027】
コールターカウント法による累積粒度分布(重量基準)における上記無機フィラーの10%粒子径(D10)は、好ましくは5nm〜40nmであり、より好ましくは10nm〜30nmである。また、コールターカウント法による累積粒度分布(重量基準)における上記無機フィラーの90%粒子径(D90)は、好ましくは20nm〜150nmであり、より好ましくは30nm〜130nmである。なお、D10は小さい側から累積10%となる粒子径であり、D90は小さい側から累積90%となる粒子径である。
【0028】
上記ハードコート層は、粒径分布が異なる2種以上の無機フィラーを含んでいてもよいが、ハードコート層に含まれるすべての無機フィラーについて、平均一次粒径が1μm未満であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、上記範囲であることがさらに好ましい。また、上記ハードコート層は、無機フィラー以外のその他のフィラー(例えば、有機フィラー)を含んでいてもよいが、ハードコート層に含まれるすべてのフィラー(無機フィラーおよびその他のフィラー)について、平均一次粒径が1μm未満であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、上記範囲であることがさらに好ましい。すなわち、上記ハードコート層は、平均一次粒径が1μmを超える大粒径フィラー(無機フィラー、その他のフィラー)を含まないことが好ましく、平均一次粒径が150nmを超える大粒径フィラー(無機フィラー、その他のフィラー)を含まないことがより好ましい。ハードコート層が大粒径フィラーを含む場合、ハードコート層の表面形状を適切に調整できないおそれがある。具体的には、大粒径フィラーに追従したバインダー樹脂によりハードコート層表面に不要なうねりが形成されるおそれがあり、また、ハードコート層から突出する大粒径フィラーに追従したバインダー樹脂により、平均一次粒径が150nm以下の無機フィラーによる微細な凹凸形状の形成が阻害されるおそれがある。
・・・(省略)・・・
【0030】
上記無機フィラーの含有割合は、バインダー樹脂100重量部に対して、好ましくは10重量部〜90重量部であり、より好ましくは20重量部〜80重量部であり、さらに好ましくは30重量部〜70重量部であり、特に好ましくは40重量部〜65重量部である。このような範囲であれば、ハードコート層表面に微細な凹凸を良好に形成させることができ、ハードコート層と中間層との密着性が特に優れる光学積層体を得ることができる。また、透明性に優れる光学積層体を得ることができる。
・・・(省略)・・・
【0033】
上記ハードコート層の算術平均表面粗さRaは、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは1.8nm以上であり、さらに好ましくは2nm以上であり、特に好ましくは2.2nm以上である。このような範囲であれば、ハードコート層と中間層との密着性が優れる光学積層体を得ることができる。さらに、ハードコート層と中間層との界面を凹凸形状とすることにより、ハードコート層から中間層にかけての屈折率変化がゆるやかになり、不要な界面反射を防止することができる。上記無機フィラーを含有させることにより、上記範囲の表面粗さRaを有するハードコート層を形成することができる。1つの実施形態においては、上記範囲の表面粗さRaを有するハードコート層は、ハードコート層に無機フィラーを含有させることに加えて、ハードコート層にプラズマ処理等の表面処理を施して得られ得る。無機フィラー含有と表面処理とを組み合わせることにより、ハードコート層と中間層との密着性が顕著に優れる光学積層体を得ることができる。また、無機フィラーの含有量を低減することができるため、透明性に優れる光学積層体を得ることができる。ハードコート層の算術平均表面粗さRaの上限は、例えば、15nmであり、好ましくは10nmであり、より好ましくは5nmである。なお、本明細書において、ハードコート層の算術平均表面粗さRaは、ハードコート層(表面処理を行う場合には表面処理後のハードコート層)形成後、中間層を形成する前に、測定される表面粗さ(すなわち、透明基材とは反対側面の表面粗さ)である。算術平均表面粗さRaは、JISB 0601:1994に準じて測定することができる。
・・・(省略)・・・
【0037】
上記ハードコート層の厚みは、好ましくは3μm〜30μmであり、より好ましくは4μm〜10μmである。
【0038】
上記ハードコート層は、例えば、透明基材上にハードコート層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、該塗布層を加熱、硬化して形成される。」

オ 「【0050】
D.反射防止層
反射防止層は、少なくとも一組の高屈折率層と低屈折率層とを積層して構成される。1つの実施形態においては、低屈折率層(例えば、屈折率1.6未満)と高屈折率層(例えば、屈折率1.9以上)とを交互に複数積層して構成される反射防止層が形成される。
【0051】
低屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。なかでも好ましくは酸化シリコンである。複数層の低屈折率層を形成する場合、各低屈折率層を構成する材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0052】
低屈折率層の厚みは、好ましくは5nm〜200nmであり、より好ましくは15nm〜150nmであり、さらに好ましくは20nm〜150nmであり、特に好ましくは30nm〜100nmである。
【0053】
高屈折率層を構成する材料としては、例えば、インジウム、スズ、チタン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、カリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム、ハフニウム等の金属;これらの金属の合金;これら金属の酸化物、フッ化物、硫化物または窒化物;等が挙げられる。より具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化セリウム等が挙げられる。なかでも好ましくは酸化ニオブである。複数層の高屈折率層を形成する場合、各高屈折率層を構成する材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0054】
高屈折率層の厚みは、好ましくは5nm〜200nmであり、より好ましくは5nm〜150nmであり、さらに好ましくは10nm〜90nmであり、特に好ましくは15nm〜50nmである。

カ 「【0057】
E.透明基材
上記透明基材を構成する材料としては、任意の適切な材料が用いられ得る。該材料としては、例えば、セルローストリアセテート(TAC)等のセルロースアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;セロファン等のセルロース系樹脂;ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;等が挙げられる。なかでも好ましくは、セルローストリアセテートである。」

キ 「【0064】
F.その他の層
本発明の光学積層体は、その他の層をさらに備え得る。その他の層としては、例えば、防汚層、ガスバリア層、誘電体層、導電体層等が挙げられる。 【0065】
1つの実施形態においては、上記反射防止層の外側(中間層とは反対側)に、防汚層が設けられる。防汚層は、例えば、フッ素系化合物の硬化物から構成される。」

ク 「【0072】
[実施例1]
(ハードコート層の形成)
紫外線硬化型アクリル系樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名「GRANDIC PC−1070」、屈折率:1.52)100重量部(固形分)に、オルガノシリカゾル(日産化学社製、商品名「MEK−ST」、含有シリカ粒子(無機フィラー)の平均一次粒径:15nm、含有シリカ粒子(無機フィラー)の粒径分布:10nm〜30nm、固形分30重量%)を、樹脂硬化後の粒子量(無機フィラー量)が50重量部となるように混合して、ハードコート層形成用組成物を調製した。
該ハードコート層形成用組成物を、透明基材(セルローストリアセテート(TAC)、富士フィルム社製、商品名「フジタック」厚さ:100μm)の片面に、乾燥後の厚さが5μmとなるように塗布し、80℃で3分間乾燥した。その後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量200mJ/cm2の紫外線を照射し、塗布層を硬化させ、透明基材上にハードコート層(屈折率:1.52)を形成した。その後、ハードコート層付透明基材を、0.5Paの真空雰囲気下で形成したアルゴンプラズマ中に搬送し、放電電力1.0kWにてハードコート層の表面処理を行った。
(中間層の形成)
純Siスパッタリングターゲットを、マグネトロンスパッタリング装置にセットし、反応性スパッタリング(電源:DC、投入電力:500W、到達真空度:1×10−4Pa、スパッタガス:Ar、スパッタ圧力:0.50Pa、基材加熱:40℃)を行い、上記ハードコート層上に、SiOx層から構成される中間層(厚み:10nm)を形成した。
(反射防止層の形成)
次に、Nbターゲットをマグネトロンスパッタリング装置にセットし、反応性スパッタリング(投入電力:30kW、到達真空度:1×10−4Pa、スパッタガス分圧(酸素と不活性ガスとの雰囲気ガス全体に対する酸素のガス分圧:O2/(Ar+O2)):0.1、スパッタ圧力:0.5Pa、基材加熱:40℃)を行い、上記中間層上に、第1のNb2O5層(厚み:16nm、屈折率:2.32)を形成した。
次に、Siターゲットをマグネトロンスパッタリング装置にセットし、反応性スパッタリング(投入電力:20kW、到達真空度:1×10−4Pa、スパッタガス分圧(O2/(Ar+O2)):0.3、スパッタ圧力:0.5Pa、基材加熱:40℃)を行い、第1のNb2O5層上に、第1のSiO2層を(厚み:19nm、屈折率:1.46)を形成した。
次に、上記第1のSiO2層上に、第1のNb2O5層の形成方法と同様の方法にて、第2のNb2O5層(厚み:102nm)を形成した。さらに、第2のNb2O5層上に、純Siターゲットを使用し、第1のSiO2層の形成方法と同様の方法にて、第2のSiO2層(厚み:71nm)を形成した。このようにして、透明基材/ハードコート層/中間層/反射防止層(第1のNb2O5/第1のSiO2層/第2のNb2O5層/第2のSiO2層)の構成を有する光学積層体を得た。
・・・(省略)・・・
【0076】
[実施例5]
オルガノシリカゾル(日産化学社製、商品名「MEK−ST」)に代えて、オルガノシリカゾル(日産化学社製、商品名「MEK−ST−L」、含有シリカ粒子(無機フィラー)の平均一次粒径:50nm、含有シリカ粒子(無機フィラー)の粒径分布:30nm〜130nm、固形分30重量%)を用い、樹脂硬化後の粒子量(無機フィラー量)を25重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして光学積層体を得た。得られた光学積層体を上記評価(1)〜(3)に供した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
無機フィラーの配合量を25重量部から40重量部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして光学積層体を得た。得られた光学積層体を上記評価(1)〜(3)に供した。結果を表1に示す。
・・・(省略)・・・
【0085】
【表1】



(2)甲1発明
ア 甲1の【0072】、【0076】、【0077】及び【0085】【表1】には、実施例6として以下の「光学積層体」の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されている。
「紫外線硬化型アクリル系樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名「GRANDICPC−1070」、屈折率:1.52)100重量部(固形分)に、
オルガノシリカゾル(日産化学社製、商品名「MEK−ST−L」、含有シリカ粒子(無機フィラー)の平均一次粒径:50nm、含有シリカ粒子(無機フィラー)の粒径分布:30nm〜130nm、固形分30重量%)を、樹脂硬化後の粒子量(無機フィラー量)が40重量部となるように混合して、ハードコート層形成用組成物を調製し、
該ハードコート層形成用組成物を、透明基材(セルローストリアセテート(TAC)、富士フィルム社製、商品名「フジタック」厚さ:100μm)の片面に、乾燥後の厚さが5μmとなるように塗布し、80℃で3分間乾燥した。その後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量200mJ/cm2の紫外線を照射し、塗布層を硬化させ、透明基材上にハードコート層(屈折率:1.52)を形成した、ハードコート層付き透明基材を有し、
該ハードコート層表面の算術平均粗さRaは2.31nmである、
光学積層体。」

イ 甲1の請求項1及び請求項2を引用する請求項3には、以下の「光学積層体」(以下「甲1発明2」という。)の発明が記載されている。
「透明基材と、ハードコート層と、中間層と、反射防止層とをこの順に備え、
該ハードコート層が、バインダー樹脂と、無機フィラーとを含み、
該無機フィラーの平均一次粒径が、10nm〜150nmであり、
該ハードコート層の中間層側の表面元素組成が、(無機フィラー由来の無機元素の数/炭素原子の数)≧0.03であり、
該反射防止層が、少なくとも一組の高屈折率層と低屈折率層とを積層して構成され、
該反射防止層の中間層とは反対側の面の算術平均表面粗さRaが、0.8nm〜15nmであり、
前記無機フィラーの含有割合が、バインダー樹脂100重量部に対して、10重量部〜90重量部であり、
前記無機フィラーが、シリカ粒子である、
光学積層体。」

(3)甲1発明1と本件特許発明1との対比
ア ハードコートフィルム
甲1発明1の「ハードコート層付透明基材」は、「紫外線硬化型アクリル系樹脂に、」「オルガノシリカゾル」を、」「混合して、ハードコート層形成用組成物を調製し、該ハードコート層形成用組成物を、透明基材」「の片面に、乾燥後の厚さが5μmとなるように塗布し、80℃で3分間乾燥し、その後、」「塗布層を硬化させ、透明基材上にハードコート層」「を形成し」たものである。
上記製造工程から、甲1発明1の「ハードコート層付透明基材」は、透明基材の片面にハードコート層を形成したものである。
また、甲1発明1の「透明基材」及び「ハードコート層」は、その材質及び「光学積層体」における役割から、それぞれ本件特許発明1の「フィルム基材」及び「ハードコート層」に相当する。
以上によれば、甲1発明1の「ハードコート層付透明基材」は、本件特許発明1において、「フィルム基材の一主面上にハードコート層を備える」とされる、「ハードコートフィルム」に相当する。

イ バインダー樹脂及び無機フィラー
甲1発明1の「ハードコート層」は、上記アで述べた製造工程のとおり、「紫外線硬化型アクリル樹脂」及び「無機フィラー」である「オルガノシリカゾル(日産化学社製、商品名「MEK−ST−L」、含有シリカ粒子(無機フィラー)の平均一次粒径:50nm、含有シリカ粒子(無機フィラー)の粒径分布:30nm〜130nm、固形分30重量%)」を含む。また、甲1発明1の「ハードコート層」は、「紫外線硬化型アクリル系樹脂100重量部」に対して、樹脂硬化後の「無機フィラー」の粒子量が「40重量部となるように混合」したものである。
そうすると、甲1発明1の「ハードコート層」における「紫外線硬化型アクリル樹脂」及び「無機フィラー」がそれぞれ、本件特許発明1の「バインダー樹脂」及び「無機フィラー」に相当する。
以上のことから、甲1発明1の「ハードコート層」において、「紫外線硬化型アクリル樹脂」に対する「無機フィラー」の含有量は、本件特許発明1の「バインダー樹脂100重量部に対する前記無機フィラーの含有量が20〜80重量部」という要件を満たす。また、甲1発明1の「無機フィラー」は、本件特許発明1の「無機フィラーの平均一次粒子径が25〜70nm」という要件を満たす。

ウ フィラーの粒子径
甲1発明1の「ハードコート層」には、上記イで説示した「無機フィラー」を含み、その他のフィラーは含まれていない。
当該事項から、甲1発明1の「ハードコート層」に含まれるフィラーの平均一次粒子径は、上記「無機フィラー」の平均一次粒子径である。
そうすると、甲1発明1の「ハードコート層」に含まれるフィラーの平均一次粒子径(50nm)は、本件特許発明1の「無機フィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、前記ハードコート層に含まれるフィラーの平均一次粒子径が25〜70nm」という要件を満たす。

エ ハードコート層の表面の算術平均粗さ
甲1発明1の「ハードコート層表面の算術平均粗さRaは2.31nm」である。
そうすると、甲1発明1の「ハードコート層」は、本件特許発明1の「ハードコート層の表面の算術平均粗さが2nm以上」という要件を満たす。

(4)甲1発明1と本件特許発明1との一致点及び相違点
ア 一致点
甲1発明1は、本件特許発明1と以下の点で一致する。
「フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層は、バインダー樹脂および無機フィラーを含み、
前記バインダー樹脂100重量部に対する前記無機フィラーの含有量が20〜80重量部であり、
前記無機フィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、
前記ハードコート層に含まれるフィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、
前記ハードコート層の表面の算術平均粗さが2nm以上である、ハードコートフィルム。」

イ 相違点
甲1発明1は、本件特許発明1と以下の点で相違する(以下「相違点1」という。)。
本件特許発明1のハードコートフィルムが「拡散反射光のb*が−0.2〜1.5である」と規定されているのに対して、甲1発明1のハードコートフィルムは、拡散反射光のb*の範囲が規定されていない点。

(5)判断
ア 甲1発明1の拡散反射光のb*がどの程度であるかを、本件特許明細書【0048】、【0094】【表1】、【0097】等の記載を手がかりとして以下考察する。
本件特許明細書の【0048】には、ハードコートフィルムの拡散反射光のb*が−0.2以上となるための条件について、以下の記載がある。
「【0048】
以上より、ハードコート層表面の拡散反射光のb*を−0.2以上とするためには、以下のいずれかを満たせばよい:(1)無機フィラーの平均一次粒子径が45nm以下;または(2)無機フィラーとバインダー樹脂の波長405nmにおける屈折率差が0.07以下。」
ここで、甲1発明1の「無機フィラー」の平均一次粒子径は「50nm」である。また、「無機フィラー」及び「紫外線硬化型アクリル樹脂」(バインダー樹脂)は、本件特許明細書の【0083】に記載のものと同じ製品であるから、それぞれの屈折率も同段落に記載されている「1.47」及び「1.55」と同じであり、その差は「0.08」と推測される。(なお、甲1発明1は「紫外線硬化型アクリル系樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名「GRANDIC PC−1070」、屈折率:1.52)」と記載されているが、本件特許明細書の記載のものと同じ製品番号であるから、同一測定波長(405nm)で屈折率を測定すると「1.55」であると理解される。)
そうしてみると、甲1発明1は、本件特許明細書の【0048】に記載された(1)及び(2)のいずれの条件も満たしていないので、この点から甲1発明1の拡散反射光のb*が本件特許発明1で規定された範囲内であるか、もしくはその蓋然性が高いとまでは必ずしもいえない。

次に、甲1発明1(上記「(2)ア」)と本件特許明細書の【0094】【表1】に記載されている「作製例2」とを比較すると、基材の差異はあるものの、両者の「ハードコート層」を構成する材料及び含有比率は共通している。
そこで、仮に、本件特許明細書の【0097】に記載されている「ハードコート層表面の算術平均粗さRaが小さいほど、反射光の着色が少なく視認性が良好である」という事項が、甲1発明1と本件特許明細書に記載の作製例2との間でも成り立つと仮定した場合について念のために考察する。
甲1発明1のハードコート層表面の算術平均粗さRa(2.31nm)は、本件特許明細書に記載の作製例2のハードコート層表面の算術平均粗さRa(2.94nm)より小さいので、上記仮定から、甲1発明1の拡散反射光のb*は、本件特許明細書に記載の作製例2の拡散反射光のb*(−0.57)より0に近くなる(反射光の着色が少なくなる)と推測できる。
しかしながら、例えば本件特許明細書に記載の作製例1は、ハードコート層表面の算術平均粗さRa(2.05nm)が、甲1発明1より小さいにも関わらず、その拡散反射光のb*が−0.28であること等を鑑みれば、たとえ上記仮定が成り立つとしても、甲1発明1の拡散反射光のb*が−0.28以上になるとは必ずしもいえない。
そうすると、甲1発明1の拡散反射光のb*が、本件特許発明1で規定された範囲内(−0.2以上)となる、もしくはその蓋然性が高いとまではいえない。

イ その他に、甲1発明1の拡散反射光のb*が本件特許発明1で規定された範囲内であるか、もしくはその蓋然性が高いことを示す手がかりや証拠は発見できない。

以上のことを総合して勘案すると、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1が甲1発明1であるということはできない。

(6)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は意見書の「(3−2)理由2(新規性)について」の項において、「特許権者は、令和3年10月20日付の意見書の「(6−2−1)理由2(新規性)について」の「(イ)相違点についての検討」の欄で、・・・(省略)・・・甲1発明1に本件特許明細書の段落0097の記載内容を適用する方が、むしろ合理的と言えます。」と主張する。
しかしながら、当該主張には、甲1発明1の拡散反射光が本件特許発明1で規定された範囲のb*を備えているという明確な根拠は示されておらず、上記(5)で指摘したように、仮に上記段落0097の記載内容を適用できたとしても、甲1発明1の拡散反射光のb*が、本件特許発明1で規定された範囲であるか、もしくはその蓋然性が高いとまではいえない。
以上のことから、上記主張は採用できない。

次に、特許異議申立人は意見書の同項において、「本件特許明細書の作製例1のRaが甲1発明1よりも小さく、本件特許明細書の作製例1のb*が−0.28であることを強調していますが、甲1には、本件特許明細書の作製例1よりもRaが小さいハードコート層(例えば、甲1の明細書の実施例1,5)が記載されており、これらの例は、バインダー樹脂が同一であることを付言しておきます。」と主張する。
しかしながら、甲1に記載された実施例1,5のハードコート層表面の算術平均粗さはそれぞれ、「1.66」及び「1.86」であるから、本件特許発明1で規定された、「ハードコート層表面の算術平均粗さRaが2nm以上」という発明特定事項を満たしていないので、少なくともこの点において相違し、本件特許発明1が甲1の実施例1,5に記載された発明であるとはいえない。
以上のことから、上記主張は採用できない。

3 特許法29条2項(甲1発明1及び甲6の記載に対する進歩性
(1)甲1発明1と本件特許発明1の一致点及び相違点については、上記「2」「(4)ア及びイ」に記載のとおりである。

(2)甲6には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
「【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは一般に、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や液晶表示装置(LCD)のようなディスプレイ装置において、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するために、光学干渉の原理を用いて反射率を低減する様にディスプレイの最表面に配置される。
【0003】
このような反射防止フィルムは、最表面に適切な膜厚の低屈折率層、場合により支持体(基材)との間に適宜高屈折率層、中屈折率層、ハードコート層などを形成することにより作製できる。低い反射率を実現するために低屈折率層にはできるだけ屈折率の低い材料が望まれる。また反射防止フィルムはディスプレイの最表面に用いられるため高い耐擦傷性が要求される。厚さ100nm前後の薄膜において高い耐擦傷性を実現するためには、皮膜自体の強度、および下層への密着性が必要である。
・・・(省略)・・・
【0079】
[ハードコート層]
ハードコート層は、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性を有する。また、表面散乱および内部散乱の少なくともいずれかの散乱による光拡散性とをフィルムに寄与する目的でも好ましく使用される。従って、ハードコート性を付与するための透光性樹脂、及び光拡散性を付与するための透光性粒子を含有することが好ましく、更に必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機微粒子を含有する。
・・・(省略)・・・
【0087】
ハードコート層に用いられる透光性粒子は、防眩性又は光拡散性付与の目的で用いられるものであり、その平均粒径が0.5〜5μm、好ましくは1.0〜4.0μmである。
平均粒径が0.5μm未満であると、光の散乱角度分布が広角にまで広がるため、ディスプレイの文字解像度の低下を引き起こしたり、表面凹凸が形成しにくくなるため防眩性が不足したりするため、好ましくない。一方、5μmを超えると、ハードコート層の膜厚を厚くする必要が生じ、カールが大きくなる、素材コストが上昇してしまう、等の問題が生じる。
前記透光性粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO2粒子等の無機化合物の粒子;アクリル粒子、架橋アクリル粒子、メタクリル粒子、架橋メタクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋アクリルスチレン粒子、シリカ粒子が好ましい。透光性粒子の形状は、球状あるいは不定形のいずれも使用できる。
・・・(省略)・・・
【0096】
本発明反射防止フィルムに防眩層を設ける場合は、フィルムの表面凹凸形状として、中心線平均粗さRaが0.08〜0.30μm、10点平均粗さRzがRaの10倍以下、平均山谷距離Smが1〜100μm、凹凸最深部からの凸部高さの標準偏差が0.5μm以下、中心線を基準とした平均山谷距離Smの標準偏差が20μm以下、傾斜角0〜5度の面が10%以上となるように設計するのが、十分な防眩性と目視での均一なマット感が達成されるので、好ましい。Raが0.08未満では充分な防眩性が得られず、0.30を超えるとギラツキ、外光が反射した際の表面の白化等の問題が発生する。
また、C光源下でのCIE1976L*a*b*色空間における反射光の色味がa*値−2〜2、b*値−3〜3、380nm〜780nmの範囲内での反射率の最小値と最大値の比0.5〜0.99とするのが、反射光の色味がニュートラルとなるので、好ましい。またC光源下での透過光のb*値を0〜3とすると、表示装置に適用した際の白表示の黄色味が低減され、好ましい。」

(3)判断
甲6(【0002】)の記載から、甲1発明1及び甲6の「反射防止フィルム」は、画像表示装置の反射防止層という共通の技術分野に属するものである。
また、甲6(【0003】、【0079】、【0087】)の記載から、甲1発明1及び甲6の「反射防止フィルム」は、基材上にハードコード層を備えてなるものであり、ハードコート層はバインダー樹脂と無機フィラーを含有するという共通の構造を備えている。
そうしてみると、甲1発明1及び甲6の「反射防止フィルム」は、共通の技術分野に属し、共通の構造を備えるものであるから、その色味について、甲1発明1に甲6の上記【0096】の記載を適用して、甲1発明1の拡散反射光のb*値を−3〜3とすることは容易に想到できることであると推測できる。
しかしながら、甲6は、拡散反射光のb*を「−0.2〜1.5」にする解決手段を提示するものではない。
以上のことから、甲1発明1に甲6の記載を適用したとしても、上記相違点1に係る構成が容易に発明することができたものであるということはできない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は意見書の「(3−3)理由3(進歩性)について」「(3−3−1)」の項において、「甲6において、粒子径が好ましくは1.0〜4.0μmである透光性微粒5をハードコート層に含めることは、甲6の課題を解決するための必須の手段ではないため、甲1発明1に甲6を組み合わせることに阻害要因はなく、・・・(省略)・・・甲1発明1と甲6発明とで課題や目的が共通する以上、当業者であれば、甲1発明1にb*値を0に近づけるという周知技術を十分適用できると思料します。」と主張する。
しかしながら、甲6の【0096】からは、反射光の色味が−3〜3の範囲であれば、反射光の色味がニュートラルとなっていることは理解できるものの、「拡散反射光のb*」の範囲を「−0.2〜1.5」にするための具体的な手段が甲6に提示されているとはいえない。
この点について、特許異議申立人は意見書の同項において、「甲6の【0096】には、「C光源下での透過光のb*値を0〜3とすると表示装置に適用した差異の白表示の黄色味が低減され、好ましい」と記載されているため、特許権者の「当該記載から拡散反射光のb*値が0に近いほど好ましいとの内容を読み取ることができるとは認められず」との主張は不適であり」と主張する。
しかしながら、上記記載は「透過光のb*値」であって、「拡散反射光のb*値」ではないので、上記主張は採用できない。

4 特許法29条2項(甲1発明1の記載による進歩性
(1)甲1発明1と本件特許発明1との一致点及び相違点については、上記「2」「(4)ア及びイ」に記載のとおりである。

(2)判断
甲1の【0026】、【0033】に記載されている「透明性」とは「透過光」の特性についての規定であり、「拡散反射光のb*」とは別の特性として規定されるものであるから、当該記載に基づいて、上記相違点1に係る構成が容易に想到できるものであるということはできない。
また、密着性と拡散反射光のb*との関係が甲1の記載から理解することはできないので、たとえ密着性を考慮して無機フィラーの平均一次粒径や含有量を調整したとしても、拡散反射光のb*が本件特許発明1に規定された範囲となるということはできないので、上記相違点1に係る構成は、甲1の記載に基づいて容易に発明することができたものであるということはできない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は意見書の「(3−3)理由3(進歩性)について」「(3−3−2)」の項において、「本件特許明細書の【0048】には、「以上より、ハードコート層表面の拡散反射光b*を−0.2以上とするためには・・・(省略)・・・(1)無機フィラーの平均一次粒子径が45nm以下・・・(省略)・・・」と記載されています。甲1の【0026】には、「ハードコート層と中間層との密着性に優れる光学積層体を得る」ことや、「無機フィラーの平均一次粒径が上記範囲であれば、透明性に優れる光学積層体を得ることができる」という観点から、無機フィラーの平均一次粒径の数値範囲として30nm以上70nm以下が最も好ましいことが示されています。したがって、甲1発明の課題解決のために、甲1発明1における無機フィラー(シリカ粒子)の平均一次粒径をより小さい範囲に最適化することで、取消理由通知で指摘されたように「相違点1に係る本件特許発明1の構成に至ることは容易」であると思料します。」と主張する。
しかしながら、甲1の上記記載を参照すると、「密着性」と「透明性」の観点から無機フィラーの平均一次粒径として「最も好ましい」範囲が「30nm〜70nm」であると理解できる。
そうすると、無機フィラーの平均一次粒径は、本件特許明細書(【0048】)の記載と甲1(【0026】)の記載とで、一部重なっている部分(30〜45nm)はあるものの、甲1において無機フィラーの平均一次粒径を特に30〜45nmの範囲に最適化する動機付けとなる記載は見いだせない。

また、特許異議申立人は意見書の同項において、「甲1の【0030】には「上記無機フィラーの含有割合は、バインダー樹脂の100重量部に対して、・・・(省略)・・・特に好ましくは40重量部〜65重量部である。・・・(省略)・・・」とあるため、甲1発明1の「無機フィラー」の含有量を甲1の【0030】の特に好ましい範囲に調整した結果、相違点1に係る本件特許発明1の構成に至ることは容易であると思料します。」と主張する。
甲1発明1は上記「2」「(2)」にあるように、無機フィラーの含有割合は、バインダー樹脂の100重量部に対して40重量部であるから、特許異議申立人が主張する「特に好ましい範囲」である。しかしながら、その上で、甲1発明1と本件特許発明1とは、「拡散反射光のb*」について、上記相違点1が存在することから、甲1の【0030】の記載に基づいて、相違点1に係る本件特許発明1の構成に至ることは容易であるということはできない。
以上のことから、上記主張は採用できない。

5 特許法29条2項(甲1発明2及び甲6の記載に基づく進歩性
甲1発明2は、少なくとも上記相違点1において本件特許発明1と相違し、この点について甲1発明1に替えて、甲1発明2に基づいて検討しても同様である。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明2及び甲6の記載に基づいても、容易に発明することができたものであるということはできない。

6 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。また、当業者が、甲1に記載された発明、又は甲1及び甲6に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるということもできない。

7 本件特許発明2〜3及び5〜14について
本件特許発明2〜3及び5〜14は、本件特許発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。
これらの発明についても、甲1に記載された発明であるということはできない。また、当業者が、甲1に記載された発明、甲1及び甲6に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるということもできない。


第6 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 特許法29条2項(甲1の記載に基づく進歩性
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、令和3年6月9日付の特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)の「(4−3)対比」「(イ):甲1発明の実施例6と、本件特許の作製例2の内容の共通性に基づく観点」の項において、「本件特許明細書の段落0094の表1に記載された作製例2のハードコート層のRaと、甲1発明の実施例6のハードコート層のRaは、本来、その数値が同じになる必要があると考えられるが、実際には、表Aに示されるように両者のRaは異なる数値となっている。
両者のハードコート層のRaの数値が相違する原因が、仮に、測定上のバラつきであれば、 拡散反射光のb*についても当然にバラつきが含まれることになる。そうすると、甲1発明の実施例6は、ハードコート層表面の拡散反射光のb*が−0.2以上を満たす蓋然性が高い。」と主張する。

(2)当合議体の判断
バインダー樹脂や無機フィラーの材料や配合量等の条件が同一でも製造条件の細部、あるいは各成分の混ざり方等によりハードコート層表面の算術平均粗さRaが様々に異なることは当業者であれば理解し得ることであって、これを誤差とみなすことはできない。また、仮にRaに有意な誤差が含まれていたとしても、それに起因するb*の誤差の程度が明らかでない以上、甲1発明1の「拡散反射光のb*」が、本件特許発明1の相違点1に係る数値範囲内に収まるかは不明である。
以上のことから、上記主張は採用できない。

2 特許法29条2項(甲1及び甲2〜4に記載された事項に基づく進歩性
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は特許異議申立書の「(4−3)対比」「(ハ):甲1発明と、周知技術に基づく観点」において、「甲第2号証には、L*a*b*表色系による標準光Cに対するb*値が−1.5≦b*≦1.5である反射防止フィルムが記載されている。また甲第3号証には、透過b値が1.5以上であるとハードコートフィルムが記載され、透過b値が1.5を超えるとフィルム自体がやや黄ばんで見えるため画像の鮮明さを損なう場合があることが記載されている。さらに、甲第4号証には、ブルーライトを相殺するために、ハードコート層を構成する材料に、ハードコート層のLab色空間におけるb*値が2.0以下、例えば1.08(実施例1)又は1.03(実施例2)となるように黄色色系を予め含有させることが記載されている。甲第2号証〜甲第4号証の記載から明らかなように、ハードコート層やハードコート層を含む反射防止フィルムの技術分野において、ハードコート層や反射防止層の表面の拡散反射光のb*を−0.2以上とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。」と主張する。

(2)当合議体の判断
甲2〜甲4に記載された上記「b*値」は、いずれも「透過光」に関する値であり「拡散反射光のb*」ではない。
したがって、甲2〜甲4に記載された上記事項を、甲1発明1に採用したとしても、当業者は相違点1の本件特許発明1の構成には至らない。

したがって、上記主張は採用できない。

3 特許法29条2項(甲1及び甲5〜8に記載された事項に基づく進歩性
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、特許異議申立書の「(4−3)対比」「(ニ):甲1発明、甲第5号証及び周知技術に基づく観点」の項において、「甲1発明と、甲第5号証に記載の発明は、画像表示装置に用いられるハードコート層及び反射防止機能に関する点で、技術分野が共通し、視認性を向上させる点で課題も共通する。
そして、拡散反射光のb*を光の色味を指標とすること自体は、甲第6号証〜甲第8号証に示すように周知技術である。
そのため、甲1発明において、甲第5号証に記載されたハードコート層の表面を微細凹凸構造にすることにより短波長における反射率を低減させて反射光が特定の色相を呈しないようにする構成を採用し、さらに、光の色味の指標として拡散反射光b*を用いる周知技術を具体的に採用する際に、短波長の光のb*の値をどのように設定するかは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。」と主張する。

(2)当合議体の判断
甲5に記載された、反射防止機能を有する偏光板は、「反射光が特定の色相を呈しない、表示品位の優れたものを提供することを目的とする」(【0004】)ものである。そして、甲5において求められる色相は、例えば、甲5の【請求項1】、【0007】及び【図4】に示されるような反射スペクトルの要件を満たすもの(より詳細には、視感度の強い550nm付近の干渉波(リップル)の高さが一定値以下に制御されたもの)と理解される。
しかしながら、甲5の上記色相と、甲6〜甲8に記載された、色相の指標としての「拡散反射光のb*」との間の定量的な関係は不明というほかなく、これが当業者の技術常識であることを示す証拠もない。
そうすると、甲5の上記偏光板に関する記載に接した当業者が、甲1発明1において、仮にその拡散反射光の色相を調整することを動機づけられたとしても、その際に、甲6〜甲8の「拡散反射光のb*」を調整の指標として参照するとは直ちにはいい難い。
したがって、上記主張は採用できない。

4 本件特許2〜3及び5〜14について
上記「1」乃至「3」について、本件特許発明2〜3及び5〜14は、本件特許発明1に対してさらに発明特定事項を付加したものであるから、特許異議申立書の「(4−3)対比」「(ii)本件発明2について」〜「(x)本件発明14について」の項の主張も採用できない。

5 特許法36条6項1号(サポート要件)
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は特許異議申立書の「(4−4)サポート要件違反について」の項において、「本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落[0005],[0012]を含む全体の記載からみて、「反射光の着色が少なく、画像表示装置等の視認性を向上」させることと認められる。また、本件特許明細書の段落[0005]には、「特に、ハードコート層上に反射防止層が設けられた反射防止フィルムでは、反射光量が少ないため、反射光の色が知覚されやすいとの課題がある。」と記載されている。
一方、本件特許発明では、ハードコートフィルムのb*が規定されているのみで、ハードコート層の表面に設けられる無機薄膜(反射防止層)などのb*が規定されていない。・・・(省略)・・・
本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、ハードコート層の表面に設けられる無機薄膜等の特性が一切問われない本件特許発明1−14に含まれる全ての光学積層体や画像表示装置の全てが、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。
以上より、本件出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1−14に係る発明の範囲まで、本件発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」と主張する。

(2)当合議体の判断
本件特許発明1が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0005】及び【0012】等の記載からみて、フィラーを含むハードコート層の反射光の着色を少なくすることにある。
そして、上記課題を解決するための手段として、特許異議申立人が主張する、無機薄膜などのb*が所定の範囲であることやハードコートフィルムの拡散反射光のb*を所望の範囲とすること等の種々の手段があり得ることは当業者であれば理解できることである。そして、後者の手段が請求項1に反映されていることは、上記「第5 1(1)」で述べたとおりである。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載や示唆及び出願時の技術常識に照らして、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものといえる。
本件特許発明2〜3及び5〜14についても同様である。
したがって、上記主張は採用できない。


第7 まとめ
以上のとおりであるから、当合議体が通知した取消しの理由及び特許異議申立ての理由によっては、請求項1〜3及び5〜14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3及び5〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項4に係る特許は、上記「第2」「2」「(2)」のとおり、本件訂正請求による訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層は、バインダー樹脂および無機フィラーを含み、
前記バインダー樹脂100重量部に対する前記無機フィラーの含有量が20〜80重量部であり、
前記無機フィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、
前記ハードコート層に含まれるフィラーの平均一次粒子径が25〜70nmであり、
前記ハードコート層の表面の算術平均粗さが2nm以上であり、拡散反射光のb*が−0.2〜1.5である、ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記ハードコート層に含まれるフィラーの90%粒子径が100nm以下である、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の表面の算術平均粗さが10nm以下である、請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記バインダー樹脂の波長405nmにおける屈折率と、前記無機フィラーの波長405nmにおける屈折率の差の絶対値が、0.09以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層の厚みが1〜10μmである、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層の表面の拡散反射光のY値が0.09%以下である、請求項1〜3,5および6のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層の表面の波長380nmにおける拡散反射率が0.05%以下である、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載のハードコートフィルムと、前記ハードコートフィルムの前記ハードコート層に接して設けられた無機薄膜とを含む、光学積層体。
【請求項10】
前記無機薄膜は、屈折率の異なる複数の無機薄膜からなる反射防止層である、請求項9に記載の光学積層体。
【請求項11】
前記ハードコート層に接する無機薄膜は、非化学量論組成の無機酸化物である、請求項9または10に記載の光学積層体。
【請求項12】
前記ハードコート層に接する無機薄膜が酸化シリコン薄膜である、請求項11に記載の光学積層体。
【請求項13】
前記無機薄膜上に、さらに防汚層を備える、請求項9〜12のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項14】
画像表示媒体の視認側表面に、請求項9〜13のいずれか1項に記載の光学積層体が配置されている、画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-22 
出願番号 P2019-557076
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
小濱 健太
登録日 2020-11-24 
登録番号 6799176
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 ハードコートフィルム、光学積層体および画像表示装置  
代理人 新宅 将人  
代理人 新宅 将人  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
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