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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1384163
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-03 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6825810号発明「炭素鎖延長反応による不飽和脂肪酸の化学変換方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6825810号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6825810号についての出願は、2015年1月14日(優先権主張 2014年2月3日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和3年1月18日にその発明について特許権の設定登録がなされ、令和3年2月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年8月3日に特許異議申立人簑さくら(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程を包含する、該不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法であって、
該不飽和脂肪酸は、炭素数が16〜24であり、2〜6個の二重結合を含み、
該低級脂肪酸は、炭素数が1〜7の低級脂肪酸である、方法。
【請求項2】
前記不飽和脂肪酸が、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マロン酸エステル誘導体が、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記低級脂肪酸が、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であって、窒素雰囲気下で加熱還流することによって行われる、方法。」
(以下、それぞれ、「本件特許発明1」等という。)

第3 申立理由の概要
申立人は、異議申立書において、証拠として次の甲第1号証〜甲第6号証を提出し、次の申立ての理由を主張している。

理由1:本件特許発明1〜5は、下記の甲第1号証に記載された発明及び下記の甲第2〜4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由2:本件特許発明1〜5は、下記の甲第5号証に記載された発明及び下記の甲第2〜4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由3:本件特許発明1〜5は、下記の甲第6号証に記載された発明及び下記の甲第2〜4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



甲第1号証: 特表2013−518088号公報
甲第2号証: SEKI C.,et al.,Scientific Reports of the Faculty of Agriculture Okayama University,2001年,Vol.90,pp.1−4
甲第3号証:BROWN R.T.,et al.,J.CHEM.RESEARCH(S),1984年,pp.332−333
甲第4号証:特公昭48−32082号公報
甲第5号証:BABA N.,et al.,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,2001年,pp.221−223
甲第6号証:HAIDER S.S.,et al.,Chemistry Letters,1998年,pp.175−176
(以下、「甲1」等という。)

第4 甲号証の記載

(1)甲1
本件優先日前の平成25年5月20日に発行された甲1には、以下の記載がある。

記載(1a)
「【請求項1】
脂肪酸を精製するためのリチウム塩の使用。
【請求項2】
前記リチウム塩が、水酸化リチウムである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記脂肪酸が、C14〜24脂肪酸である、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記脂肪酸が、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸、ドコサペンタエン酸(DPA)、エイコサテトラエン酸(ETA)またはエイコサトリエン酸である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
(a)脂肪酸をリチウム塩と、第1の溶液中および前記脂肪酸のリチウム塩の沈殿物を形成させる条件下で反応させる工程;
(b)前記沈殿物を単離する工程;
(c)前記沈殿物の溶解後に不混和性の2層を生じさせることができる第2の溶液中に、前記沈殿物を溶解させる工程であって、前記不混和性の2層は有機層および酸性水層である工程;
(d)前記沈殿物の溶解後に形成された前記不混和性の2層を分離させる工程;ならびに
(e)前記有機層を蒸発させて、精製した脂肪酸を単離する工程
を含む、脂肪酸を精製する方法。
【請求項6】
前記リチウム塩および/または前記脂肪酸が、請求項2から4のいずれか一項に記載のものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(a)式R−CH2CH(CO2H)2(式中、Rは、脂肪酸残基である)のマロン酸誘導体を脱炭酸して、式RCH2CH2CO2Hの脂肪酸を形成する工程;
(b)このように調製された脂肪酸を、請求項5または6に記載の脂肪酸を精製する方法にかける工程
を含む、脂肪酸を調製する方法。
【請求項8】
(a)式R−CO2Hの脂肪酸または式R−CO2R1の脂肪酸エステル(式中、Rは脂肪酸残基であり、R1は、C1〜6アルキル基である)を、式R−CH2OHのアルコールに還元する工程;
(b)前記アルコールをスルホン化して、式R−CH2OSO2R2(式中、R2は、C1〜6アルキルまたはC6〜10アリール基である)のスルホネートを形成する工程;
(c)前記スルホネートをマロン酸エステル誘導体と反応させ、得られた生成物を加水分解して、式R−CH2CH(CO2H)2のマロン酸誘導体を形成する工程;
(d)前記マロン酸誘導体を脱炭酸して、式R−CH2CH2CO2Hの脂肪酸を形成する工程;および
(e)このように調製された脂肪酸を、請求項5または請求項6に記載の脂肪酸を精製する方法にかける工程
を含む、脂肪酸の長さを伸長させる方法。
【請求項9】
Rが、14から22個の炭素原子を含む脂肪酸残基である、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Rが、18から20個の炭素原子を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Rが、2から6個の非共役オレフィン基を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
Rが、ω−3またはω−6脂肪酸残基である、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Rが、γ−リノレン酸由来のC17H29−残基、エイコサペンタエン酸由来のC19H29−残基、ステアリドン酸由来のC17H27−残基、リノール酸由来のC17H31−残基またはα−リノレン酸由来のC17H29−残基である、請求項7から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)における前記還元が、水素化リチウムアルミニウムの溶液で行われる、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
式R−CH2CH(CO2H)2の前記マロン酸誘導体が、精製なしでおよび/または結晶化なしで工程(d)の前記脱炭酸において直接用いられる、請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。」(特許請求の範囲)

記載(1b)
「段階III
段階IIで調製されたスルホン化脂肪酸は、その後、マロン酸エステル誘導体と反応させ、その生成物を、加水分解すると、式R−CH2CH(CO2H)2のマロン酸誘導体が形成される。当初の反応は、好ましくは無水アルコール、例えば、無水エタノール中で行われる。反応の温度は、好ましくは約60〜90℃である。加水分解は、任意の適切な加水分解条件下で、例えば、水性アルコール中、I族金属水酸化物の存在下で行うことができる。反応の温度は、好ましくは約15〜50℃である。
適切なマロン酸エステル誘導体は、I族メタロ(metalo)−マロン酸塩であり、ジアルキルマロン酸ナトリウム、NaCH(CO2R3)2(式中、R3は、C1〜6アルキル基である)が挙げられる。好ましくは、R3は、C1〜4アルキル基、より好ましくはエチルである。この反応は、最初に式R−CH2CH(CO2R3)2のエステルを生成し、次いで、これを加水分解して、式R−CH2CH(CO2H)2のマロン酸誘導体を調製する。加水分解試薬および条件は周知である。例えば、適切な水酸化物(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)との反応は、マロン酸誘導体を生成し得る。」(段落0051〜0052)

記載(1c)
「【実施例1】
DGLA(イコサ−8(Z)、11(Z)、14(Z)−トリエン酸の調製および精製
実施例1a:GLAlcohol(オクタデカ−6(Z)、9(Z)、12(Z)−トリエノール)の調製
窒素下で新鮮な乾燥テトラヒドロフラン(12000部、体積)に、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウム(2.4モーラー、1620部、体積)を添加する。この混合物を0〜5℃に冷却し、乾燥テトラヒドロフラン(2000部、体積)中GLA(γリノレン酸、95〜98%、1112部、重量)を、撹拌しながら窒素流下で温度を約3〜7℃に維持して、30〜40分かけて添加する。次いで、混合物を窒素下、8〜12℃で1時間および12〜18℃で2時間撹拌する。3〜5℃に冷却後、テトラヒドロフラン(500部、体積)中水(152部、体積)の溶液を、窒素の良好な流れ下15〜20分かけて添加する。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液(2M、456部、体積)を10〜15分かけて添加する。この混合物を窒素下で密封して10〜15℃で一晩撹拌し、次いで、無水硫酸ナトリウム(500部、重量)を添加し、混合物をさらに30分間撹拌する。ろ過後、無機固形物をテトラヒドロフラン(2000部、体積)で洗浄する。得られたTHF溶液を真空下で蒸発させる。生成物中の水をすべて、2×2000部、体積のトルエンとともに蒸発させることによって除去する。淡黄色の油としてGLAlcohol(1029部、重量、97.4%)が得られる。
実施例1b:GLAlcoholメタンスルホネート(オクタデカ−6(Z)、9(Z)、12(Z)−トリエニルメタンスルホネートの調製
窒素下および8〜12℃でGLAlcohol(1000部、重量)およびメタンスルホニルクロリド(456部、重量)の撹拌混合物に、乾燥ピリジン(307部、重量)を、温度を15℃未満に維持して、30〜40分の時間をかけて添加する。この混合物をこの温度で3〜5時間撹拌し、次いで、室温に加温させ、24〜48時間の時間をかけて撹拌する。ピリジン塩酸塩の沈殿物が、混合物中に生じる。次いで、反応混合物をヘキサン(4000部、体積)で希釈し、無水硫酸ナトリウム(200部、重量)を添加し、得られた混合物を1時間撹拌する。沈殿した固形物をろ別し、ヘキサンで洗浄する。ヘキサンをろ液から真空中で除去して、粗メタンスルホネート(約1300部、重量)を得て、これを次の段階に用いることができる。
代替の精製方法(後の段階のより純粋な生成物およびあまり着色していない最終生成物をもたらす)は、以下のとおりである:反応混合物をt−ブチルメチルエーテル(4000部、体積)で希釈し、5〜10℃に冷却する。撹拌しながら窒素下で、水(2000部、体積)を添加し、その水層を濃塩酸でpH=1〜2に調整した。15分後、層を分離させ、水層をt−ブチルメチルエーテル(500部、体積)で抽出する。次いで、合わせた有機層を1M塩酸(1000部、体積)および水(4×500部、体積)で洗浄する。有機層を乾燥させ(無水硫酸ナトリウム、300部、重量)、ろ過し、真空中で蒸発させて、より純粋なメタンスルホネートを得て、次の段階に用いる。
実施例1c:2−Carboxy DGLA(2−カルボキシ−イコサ−8(Z)、11(Z)、14(Z)−トリエン酸の調製

無水エタノール(10000部、体積)に、メタノール(1370部、体積)中ナトリウムメトキシド30%w/vを添加した。窒素下、室温で、マロン酸ジエチル(1520部、重量)を速い流れ中10〜15分かけて添加し、この混合物をさらに10〜15分間撹拌する。粗GLAlcoholメタンスルホネート(1300部)を、速い流れ中10〜15分かけて添加し、混合物を窒素下3.5〜4.0時間撹拌し、および還流下で加熱する。室温に冷却後、水(1000部、体積)中水酸化カリウム85%(1900部、重量)を溶解させ、次いで、95%エタノール(13000部、体積)を添加することによって作製した溶液を、窒素下で添加する。発熱が起こり、反応の温度は30〜40℃に達する。混合物を、窒素下、室温で4〜5時間撹拌する。全反応混合物をロータリーエバポレータ中で蒸発させて、エタノールを除去する。蒸発からの残渣を水(10000部、体積)に溶解させ、t−ブチルメチルエーテル(10000部、体積)を添加した。混合物を撹拌し、20%硫酸(約6000部、体積)を用いて窒素下で酸性化する(最高温度20℃)。層を分離させた後、有機層を水(4×2000部、体積)で洗浄し、乾燥させ(無水硫酸ナトリウム)、真空中で蒸発させて、油を得て、これは、掻き取り直後に結晶化して、粗2−Carboxy DGLAを得る(1170〜1220部、重量、88〜92%)。
実施例1d:DGLA(イコサ−8(Z)、11(Z)、14(Z)−トリエン酸の調製
粗2−Carboxy DGLA(1200部、重量)を30mb未満の真空下で撹拌しながら140〜160℃で加熱する。二酸化炭素が発生し、真空により除去する。3〜5時間後、二酸化炭素の放出は止まる。フラスコを室温に冷却し、窒素を反応容器中に入れて、油(1000〜1030部、重量、95〜98%)を得る。
実施例1e:DGLAの精製
実施例1dの生成物(1000部、重量)をHPLC(または同等物)アセトン(3550〜3600部、体積)に、よく撹拌しながら窒素下で溶解させ、水(975部、体積)中水酸化リチウム水和物(150部、重量)の溶液を30分かけてゆっくり添加する。この混合物をさらに10分間撹拌する。さらにアセトン(3500〜3600部、体積)を撹拌しながら30分かけて添加し、2〜3時間、撹拌を続けて、0から−5℃に冷却する。混合物をこの温度で一晩撹拌させる。沈殿したリチウム塩をろ過し、予め冷却したアセトンで洗浄し、吸引乾燥させる。得られた固形物を、窒素下t−ブチルメチルエーテル(6000部、体積)および1M塩酸(6000部、体積)の撹拌した冷却(0〜10℃)混合物に少しずつ添加する。得られた有機層を分離させ、水(4×500〜750部、体積)で洗浄し、乾燥させる(Na2SO4)。ろ過後、溶媒を蒸発させ、得られた油を高真空下(50〜60℃、0.1〜1.0mb)で数時間加熱して、微量の溶媒を除去する。淡黄色の油としてDGLAが得られる(760〜800部、重量、76〜80%)。透明な油への脱色は、クロマトグラフィー用シリカ35〜70μm粒径(20重量%)の存在下で10体積のヘキサン中DGLAを1時間撹拌し、ろ過し、溶媒を蒸発させることによって得ることができる。」(段落0055〜0061)

記載(1d)
「【実施例2】
DPA(ドコサ−7(Z)、10(Z)、13(Z)、16(Z)、19(Z)−ペンタエン酸の調製および精製
出発物質EPAエチルエステル(エイコサペンタエン酸のエチルエステル)から以外は、実施例1におけるDGLAと同様に、DPAを調製した。
第1の工程において、EPAlcohol(イコサ−5(Z)、8(Z)、11(Z)、14(Z)、17(Z)−ペンタエノール)は、GLAをEPAエチルエステル(1320部、重量)で置き換えることによって、実施例1aと同様に形成した。
第2の工程において、EPAlcoholメタンスルホネート(イコサ−5(Z)、8(Z)、11(Z)、14(Z)、17(Z)−ペンタエニルメタンスルホネート)は、GLAlcoholを前記EPAlcohol(1091部、重量)で置き換えることによって、実施例1bと同様に形成した。
第3の工程において、2−Carboxy DPA(2−カルボキシ−ドコサ−7(Z)、10(Z)、13(Z)、16(Z)、19(Z)−ペンタエン酸)は、GLAlcoholメタンスルホネートを前記EPAlcoholメタンスルホネート(1391部、重量)で置き換えることによって、実施例1cと同様に形成した。
第4の工程において、DPA(ドコサ−7(Z)、10(Z)、13(Z)、16(Z)、19(Z)−ペンタエン酸)は、2−Carboxy DGLAを前記2−Carboxy DPAで置き換え、アセトン混合物を−15〜−20℃に冷却することによって、実施例1dと同様に形成した。
第5の工程において、DPAは、DGLAを前記DPAで置き換える以外は、実施例1eと同じリチウム塩精製方法を用いて精製する。」(段落0061〜0067)

(2)甲2
本件優先日前の平成13年に発行された甲2には、以下の記載がある。訳文にて示す。

記載(2a)
「合成。合成経路をスキームに示す。アラキドン酸エチル(1)のように全シス非共役ポリオレフィン構造を有するポリ不飽和脂肪酸アシル基は、特に金属イオン、熱及び光のようなラジカル開始剤の存在下では、共役及びシス/トランス異性化を伴って容易に酸化されることから、非常に不安定であることが一般に知られている。従って、本研究の全ての反応は、暗所で窒素雰囲気下で抗酸化剤としてブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の存在下で行われた。アラキドン酸エチルは水素化アルミニウムリチウム還元によりアルコール(2)に変換された。ヒドロキシル基は、ピリジン中の塩化トシルを用いて得られたトシラート(3)を介してアセトン中のヨウ化リチウムを用いてヨウ化物(4)に変換された。ジメチルホルムアミド(DMF)とTHFの混合物中のヨウ化物をマロン酸ジエチル及び水素化ナトリウムで処理した。通常の後処理およびシリカゲルカラム精製によりマロン酸ジエチル誘導体(5)を得た。このジエステルをエーテル中の水素化アルミニウムリチウムで還元し、通常の後処理の後、シリカゲルカラム精製によりジオール(6)を得た。」(1頁右下欄下から4行〜2頁右欄6行)

記載(2b)


」(2頁下欄)

(3)甲3
本件優先日前の昭和59年に発行された甲3には、以下の記載がある。訳文にて示す。

記載(3a)
「β−ケト及びマロン酸エステルの、対応するケトン及びモノエステルへの滑らかな変換は、アルカン酸を加熱することにより良好から優れた効率で達成されることを報告する。」(332頁左欄1〜4行)

記載(3b)
「著者らは最近、代表的なα−モノ置換されたβ−ケトエステル及びβ−ジエステルの滑らかな脱アルコキシカルボニル化が、脂肪族カルボン酸を用いて還流温度で数時間加熱するだけで、良好から優れた収率で起こることを発見した。完全な反応に要する時間は、基質の種類や使用する酸によって異なり(表参照)、いくつかの例では、24時間以内に反応が完了することは間違いない。α,α二置換マロン酸エステル(例5、6)及びエノール化可能なα水素を欠く他のものの長期反応に対するものでさえ、その抵抗性は、同一分子内の一置換及び二置換部分間の反応性において有用な区別を提供する。さらに、マロン酸とβ−ケトエステル基の間のさらなる潜在的に有用な選択性が観察された(例9、10):プロピオン酸中での3日間の加熱では両方の官能基の脱アルコキシカルボニル化が起こったが、酢酸での26時間の同様の処理ではβ−ケトエステルのみが切断される。」(332頁左欄16行〜最終行)

記載(3c)


」(333頁表)

(4)甲4
本件優先日前の昭和48年10月4日に発行された甲4には、以下の記載がある。

記載(4a)
「1 一般式

〔但し、R1,R2は同一又は異なる一価の有機残基を示し、R3は水素、炭素数が3以下のアルキル基、アリル基、フエニル基又はハロゲン原子を示す。〕
で示されるマロン酸ジエステル類と有機カルボン酸とを100℃以上400℃以下の温度で加熱し脱炭酸反応させることを特徴とする有機カルボン酸エステル類の製造方法。」(特許請求の範囲)

記載(4b)
「実施例 3
15部のアジピン酸と、38部のマロン酸ビス(β−ヒドロキシエチル)エステルを混合し、250℃で40分間反応を行なつた。反応は、最初系内からの発泡が認められ、約40分間で発泡及び留出成分共にほとんど無くなつた。残留物をエタノールより再結晶を行ない融点69〜70.5℃の生成物を得た。この生成物は、分析によりビスヒドロキシエチルアジペートであつた、収率は93%であつた。」(3頁6欄5〜14行)

(5)甲5
本件優先日前の平成13年に発行された甲5には、以下の記載がある。訳文にて示す。

記載(5a)
「テトラコサヘキサエン酸[24:6(n−3)]及びドコサヘキサエン酸[22:6(n−3),DHA]を1位及び2位に結合したホスファチジルコリンを、それぞれ新しい方法により、初めて合成した。」(221頁左欄1〜4行)

記載(5b)
「スキーム1によれば、本方法は2つの部分からなる。すなわち、DHAエチルエステル1の2炭素延長によって酸5を生成すること、並びに2−O−TBDMSグリセロール7のリパーゼ触媒モノアシル化から開始するリソホスファチジルコリン10の合成とそれに続くコリンホスファートの導入及びシリル基の除去である。」(221頁左欄下から23行〜17行)

記載(5c)
「さらに、切断の条件は、自己酸化、部分共役化又はシス/トランス異性化せずに全シス非共役ポリオレフィン構造が維持されるほど穏やかなものでなくてはならない。」(221頁左欄下から8〜5行)

記載(5d)
「本合成におけるポリ不飽和部の関与する全ての反応は、オレフィンの自己酸化を防ぐために、抗酸化剤としての微量のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の存在下及び窒素雰囲気下において暗所で行われた。」(221頁右欄21〜25行)

記載(5e)
「DHAの炭素鎖延長は我々により報告された方法で行われた。簡単に述べると、DHAエチルエステルはLiAlH4での還元、トシラートへの転換、及びLiIでのヨウ化によってヨウ化物2に転換された。続いてマロン酸ジエチルがヨウ化物に導入され、ジエステルのLiOHでの加水分解後、希釈THF及びCH3COOHの混合物中で濃縮HCl(0.0001%)を用いて90℃で48時間、脱炭酸が行われた。減圧下での溶媒の蒸発及びシリカゲルカラム精製後、2炭素延長されたテトラコサヘキサエン酸(5)が得られ、トリフルオロエチルエステル6に転換された。」(221頁右欄26〜36行)

記載(5f)


」(222頁スキーム1)

(6)甲6
本件優先日前の平成10年に発行された甲6には、以下の記載がある。訳文にて示す。

記載(6a)
「イコサジエン酸3のようなVLCFAは入手できないので、下記の方法で初めて合成した(スキーム1)。リノール酸メチル1は、還元、トシル化、ヨウ素化、マロン酸ジエチル誘導体への転換、及び水素化リチウムによる加水分解によりマロン酸誘導体2に転換された。二酸2は脱炭酸に付され精製はされなかった。脱炭酸反応は、通常の加熱による触媒脱炭酸が非共役cis,cis−オレフィン構造の分解を生じさせ得るので、窒素雰囲気下のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の存在下における酢酸媒体中で行われた。中和後、反応混合物は酢酸エチルで抽出された。有機相の乾燥及び蒸発後に得られた残渣はシリカゲルカラムでクロマトグラフに付されて(ヘキサン/EtOAc,8:2)カルボン酸3を提供した(収率89%)。」(175頁左欄下から2行〜右欄13行)

記載(6b)


」(175頁スキーム1)


第5 当審の判断

1 異議申立理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、脂肪酸を、請求項5または請求項6に記載の脂肪酸を精製する方法にかける工程を有する脂肪酸の長さを伸長させる方法である請求項8として、式R−CO2Hの脂肪酸又は式R−CO2R1の脂肪酸エステル(式中、Rは脂肪酸残基であり、R1は、C1〜6アルキル基である)を、式R−CH2OHのアルコールに還元する工程、前記アルコールをスルホン化して式R−CH2OSO2R2(式中、R2は、C1〜6アルキルまたはC6〜10アリール基である)のスルホネートを形成する工程、前記スルホネートをマロン酸エステル誘導体と反応させ、得られた生成物を加水分解して、式R−CH2CH(CO2H)2のマロン酸誘導体を形成する工程、前記マロン酸誘導体を脱炭酸して、式R−CH2CH2CO2Hの脂肪酸を形成する工程を含む、脂肪酸の長さを伸長させる方法が記載されている(記載(1a))。そして、該請求項8に対応する実施例1又は実施例2に係る発明として、GLA(γリノレン酸)を出発物質とした反応であって、窒素下でテトラヒドロフランに、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウムを添加し、この混合物に、テトラヒドロフラン中GLAを添加し、次いで混合物を窒素下、2時間撹拌し、テトラヒドロフラン中水を添加し、次いで水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、一晩撹拌し、次いで、無水硫酸ナトリウムを添加し、混合物を30分間撹拌後、濾過して洗浄してGLAalcoholを得て、窒素下GLAalcohol及びメタンスルホニルクロリドの撹拌混合物に、ピリジンを添加し、この混合物を撹拌し、反応混合物をヘキサンで希釈し、無水硫酸ナトリウムを添加し、撹拌して沈殿した固形物をろ別し、洗浄してメタンスルホネートを得て、無水エタノールにメタノール中ナトリウムメトキシドを添加したものに、窒素下、マロン酸ジエチルを添加し、この混合物にGLAalcoholメタンスルホネートを添加し、撹拌し、還流下で加熱し、冷却後、水中水酸化カリウムを溶解させ、次いで95%エタノールを添加し、4〜5時間撹拌し、全反応混合物をロータリーエバポレータ中で蒸発させ、蒸発残渣を水に溶解させ、t−ブチルメチルエーテルを添加し、混合物を撹拌し、硫酸を用いて酸性化し、層を分離させた後、有機層を水で洗浄し、乾燥させ、真空中で蒸発させ、結晶化させて、得られた粗2−Carboxy DGLAを、真空下で140〜160℃で加熱して、発生した二酸化炭素を真空により除去し、DGLA(イコサ−8(Z)、11(Z)、14(Z)−トリエン酸を含む生成物を得て、精製を行ったこと(記載(1c))、EPAエチルエステルを出発物質として、同様に反応させ、精製を行い、DPA(ドコサ−7(Z)、10(Z)、13(Z)、16(Z)、19(Z)−ペンタエン酸を得たこと(記載(1d))が記載されている。
よって、甲1には、
「窒素下でテトラヒドロフランに、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウムを添加し、この混合物に、テトラヒドロフラン中GLAを添加し、次いで混合物を窒素下、2時間撹拌し、テトラヒドロフラン中水を添加し、次いで水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、一晩撹拌し、次いで、無水硫酸ナトリウムを添加し、混合物を30分間撹拌後、濾過して洗浄してGLAalcoholを得て、窒素下GLAalcohol及びメタンスルホニルクロリドの撹拌混合物に、ピリジンを添加し、この混合物を撹拌し、反応混合物をヘキサンで希釈し、無水硫酸ナトリウムを添加し、撹拌して沈殿した固形物をろ別し、洗浄してメタンスルホネートを得て、無水エタノールにメタノール中ナトリウムメトキシドを添加したものに、窒素下、マロン酸ジエチルを添加し、この混合物にGLAalcoholメタンスルホネートを添加し、撹拌し、還流下で加熱し、冷却後、水中水酸化カリウムを溶解させ、次いで95%エタノールを添加し、4〜5時間撹拌し、全反応混合物をロータリーエバポレータ中で蒸発させ、蒸発残渣を水に溶解させ、t−ブチルメチルエーテルを添加し、混合物を撹拌し、硫酸を用いて酸性化し、層を分離させた後、有機層を水で洗浄し、乾燥させ、真空中で蒸発させ、結晶化させて、得られた粗2−Carboxy DGLAを、真空下で140〜160℃で加熱して、発生した二酸化炭素を真空により除去し、DGLAを含む生成物を得る、脂肪酸の長さを伸長させる方法」の発明(以下、「甲1−1発明」という。)及び
「窒素下でテトラヒドロフランに、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウムを添加し、この混合物に、テトラヒドロフラン中EPAを添加し、次いで混合物を窒素下、2時間撹拌し、テトラヒドロフラン中水を添加し、次いで水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、一晩撹拌し、次いで、無水硫酸ナトリウムを添加し、混合物を30分間撹拌後、濾過して洗浄してEPAalcoholを得て、窒素下EPAalcohol及びメタンスルホニルクロリドの撹拌混合物に、ピリジンを添加し、この混合物を撹拌し、反応混合物をヘキサンで希釈し、無水硫酸ナトリウムを添加し、撹拌して沈殿した固形物をろ別し、洗浄してメタンスルホネートを得て、無水エタノールにメタノール中ナトリウムメトキシドを添加したものに、窒素下、マロン酸ジエチルを添加し、この混合物にEPAalcoholメタンスルホネートを添加し、撹拌し、還流下で加熱し、冷却後、水中水酸化カリウムを溶解させ、次いで95%エタノールを添加し、4〜5時間撹拌し、全反応混合物をロータリーエバポレータ中で蒸発させ、蒸発残渣を水に溶解させ、t−ブチルメチルエーテルを添加し、混合物を撹拌し、硫酸を用いて酸性化し、層を分離させた後、有機層を水で洗浄し、乾燥させ、真空中で蒸発させ、結晶化させて、得られた粗2−Carboxy DPAを、真空下で140〜160℃で加熱して、発生した二酸化炭素を真空により除去し、DPAを含む生成物を得る、脂肪酸の長さを伸長させる方法」の発明(以下、「甲1−2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1の「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程」は、本件明細書の図1の記載を参照すると、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、及び低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を、脱カルボン酸エステル化反応させる工程」であると認められる。

(ア)甲1−1発明について
a 対比
甲1−1発明の脂肪酸の長さを伸長させる方法は、炭素数18で二重結合を3個含むγリノレン酸から、炭素数20で二重結合を3個含むDGLAを生成させることから、本件特許発明1の「不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法」に相当する。

本件特許発明1と甲1−1発明を対比すると、両者は「不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法であって、該不飽和脂肪酸は、炭素数が16〜24であり、2〜6個の二重結合を含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1−1:本件特許発明1は、ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および炭素数1〜7の低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を脱カルボン酸エステル化反応させる工程を包含することを特定しているのに対して、甲1−1発明は、窒素下でテトラヒドロフランに、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウムを添加し、この混合物に、テトラヒドロフラン中GLAを添加し、次いで混合物を窒素下、2時間撹拌し、テトラヒドロフラン中水を添加し、次いで水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、一晩撹拌し、次いで、無水硫酸ナトリウムを添加し、混合物を30分間撹拌後、濾過して洗浄してGLAalcoholを得て、窒素下GLAalcohol及びメタンスルホニルクロリドの撹拌混合物に、ピリジンを添加し、この混合物を撹拌し、反応混合物をヘキサンで希釈し、無水硫酸ナトリウムを添加し、撹拌して沈殿した固形物をろ別し、洗浄してメタンスルホネートを得て、無水エタノールにメタノール中ナトリウムメトキシドを添加したものに、窒素下、マロン酸ジエチルを添加し、この混合物にGLAalcoholメタンスルホネートを添加し、撹拌し、還流下で加熱し、冷却後、水中水酸化カリウムを溶解させ、次いで95%エタノールを添加し、4〜5時間撹拌し、全反応混合物をロータリーエバポレータ中で蒸発させ、蒸発残渣を水に溶解させ、t−ブチルメチルエーテルを添加し、混合物を撹拌し、硫酸を用いて酸性化し、層を分離させた後、有機層を水で洗浄し、乾燥させ、真空中で蒸発させ、結晶化させて、得られた粗2−Carboxy DGLAを、真空下で140〜160℃で加熱して、発生した二酸化炭素を真空により除去し、DGLAを含む生成物を得る工程として特定している点。

相違点の判断
(a)上記相違点1−1について検討する。
甲1−1発明の「無水エタノールにメタノール中ナトリウムメトキシドを添加したものに、窒素下、マロン酸ジエチルを添加し、この混合物にGLAalcoholメタンスルホネートを添加し、撹拌し、還流下で加熱し、冷却」して得られたものは、本件特許発明1の「不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体」に相当する。
そして、甲1−1発明の「水中水酸化カリウムを溶解させ、次いで95%エタノールを添加し、4〜5時間撹拌」する工程は、記載(1b)に、加水分解は、任意の加水分解条件下で、例えば、I属金属水酸化物の存在下で行うことができること、適切な水酸化物の例として、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムがあることが記載されていることから、不飽和脂肪酸のマロン酸エステルを加水分解して不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を得る工程であることは、当然理解できる記載されているに等しい事項であり、甲1−1発明の「粗2−Carboxy DGLAを、真空下で140〜160℃で加熱して、発生した二酸化炭素を真空により除去し、DGLAを含む生成物を得る」工程は、不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を真空下で加熱して脱炭酸する工程であることも、当然理解できる記載されているに等しい事項である。
甲1は、マロン酸エステル誘導体を加水分解してから脱炭酸することで炭素鎖を延長する反応が開示されているだけであるので、そのような開示から、マロン酸エステル誘導体を加水分解することなく、脱カルボン酸エステル化させる反応に変更する理由はない。
また、甲1−1発明は、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を真空下で加熱して脱炭酸する反応を行って生成物を得ているのであって、甲2の、不飽和脂肪酸が結合したホスファチジルコリンの調製を目的とした、アラキドン酸エチルを、アルコール化し、トシラート化し、ヨウ化物に変換し、該ヨウ化物をマロン酸ジエチル及び水素化ナトリウムで処理して、マロン酸ジエチル誘導体とし、該マロン酸ジエチル誘導体を水素化アルミニウムリチウムで還元してジオールを得る反応を行ったことの記載や、アラキドン酸エチルのように全シス非共役ポリオレフィン構造を有するポリ不飽和脂肪酸アシル基は、非常に不安定であるから、全ての反応をブチル化ヒドロキシルトルエン(BHT)の存在下で行うとの記載(記載(2a)、(2b))、甲3の、β−ケト及びマロン酸エステルの、対応するケトン及びモノエステルへの変換を目的とした、プロピオン酸の存在下でマロン酸エステルを加熱することで脱アルコキシカルボニル化が起こることの記載(記載(3a)〜(3c))、甲4の、ビスヒドロキシエチルアジペートを得ることを目的とした、アジピン酸の存在下でマロン酸ビス(β−ヒドロキシエチル)エステルを脱炭酸反応させることの記載(記載(4a)〜(4b))を考慮しても、本件特許発明1の、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、及び低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を、脱カルボン酸エステル化反応させる工程」に変更する動機付けは見当たらない。

(b)したがって、本件特許発明1は、甲1−1発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲1−2発明について
a 対比
甲1−2発明の脂肪酸の長さを伸長させる方法は、炭素数20で二重結合を5個含むエイコサペンタエン酸から、炭素数22で二重結合を5個含むDPAを生成させることから、本件特許発明1の「不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法」に相当する。
本件特許発明1と甲1−2発明を対比すると、両者は「不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法であって、該不飽和酸は、炭素数が16〜24であり、2〜6個の二重結合を含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1−2:本件特許発明1は、ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および炭素数1〜7の低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を脱カルボン酸エステル化反応させる工程を包含することを特定しているのに対して、甲1−2発明は、窒素下でテトラヒドロフランに、テトラヒドロフラン中水素化リチウムアルミニウムを添加し、この混合物に、テトラヒドロフラン中EPAを添加し、次いで混合物を窒素下、2時間撹拌し、テトラヒドロフラン中水を添加し、次いで水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、一晩撹拌し、次いで、無水硫酸ナトリウムを添加し、混合物を30分間撹拌後、濾過して洗浄してEPAalcoholを得て、窒素下EPAalcohol及びメタンスルホニルクロリドの撹拌混合物に、ピリジンを添加し、この混合物を撹拌し、反応混合物をヘキサンで希釈し、無水硫酸ナトリウムを添加し、撹拌して沈殿した固形物をろ別し、洗浄してメタンスルホネートを得て、無水エタノールにメタノール中ナトリウムメトキシドを添加したものに、窒素下、マロン酸ジエチルを添加し、この混合物にEPAalcoholメタンスルホネートを添加し、撹拌し、還流下で加熱し、冷却後、水中水酸化カリウムを溶解させ、次いで95%エタノールを添加し、4〜5時間撹拌し、全反応混合物をロータリーエバポレータ中で蒸発させ、蒸発残渣を水に溶解させ、t−ブチルメチルエーテルを添加し、混合物を撹拌し、硫酸を用いて酸性化し、層を分離させた後、有機層を水で洗浄し、乾燥させ、真空中で蒸発させ、結晶化させて、得られた粗2−Carboxy DPAを、真空下で140〜160℃で加熱して、発生した二酸化炭素を真空により除去し、DPAを含む生成物を得る工程として特定している点。

相違点の判断
上記相違点1−2については、上記(ア)で上記相違点1−1について検討したのと同様である。
したがって、本件特許発明1は、甲1−2発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 申立人の主張について
申立人は、本件特許発明1と甲1に記載された発明の相違点を、相違点1〜4として、それぞれ、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下」、「低級脂肪酸の存在下」、「マロン酸エステル誘導体を反応させる工程」、「該低級脂肪酸は、炭素数が1〜7の低級脂肪酸である」と認定し、相違点1及び3については甲2を、相違点2及び4については甲3又は甲4を挙げていずれの相違点も容易に想到できる旨主張しているが、相違点1〜4が有機的関係を有していることを考慮していない主張であるとともに、それぞれの反応工程の一部を切りとって共通していることのみを前提とした主張であるので、上記申立人の主張は採用できない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに不飽和脂肪酸を、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択されるものに限定するものである。
甲1−2発明のエイコサペンタエン酸は、本件特許発明2のイコサペンタエン酸に相当する。
本件特許発明2と甲1−2発明を対比すると、上記相違点1−2の他に、新たな相違点はない。そして、上記相違点1−2については、上記ア(イ)bで検討したとおりである。
よって、本件特許発明2は、甲1−2発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらにマロン酸エステル誘導体を、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体に限定するものである。
甲1−1発明及び甲1−2発明は、マロン酸ジエチルを反応させて得られた誘導体を用いるものであるから、本件特許発明3と、甲1−1発明又は甲1−2発明を対比すると、上記相違点1−1又は相違点1−2の他に、新たな相違点はない。そして、上記相違点1−1及び相違点1−2については、上記ア(ア)b及び(イ)bで検討したとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲1−1発明又は甲1−2発明、及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに低級脂肪酸を、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸に限定するものである。
本件特許発明4と、甲1−1発明又は甲1−2発明を対比すると、上記相違点1−1又は相違点1−2の他に、以下の点で相違する。
相違点1−3:本件特許発明4は低級脂肪酸としてギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸を用いることを特定しているのに対して、甲1−1発明及び甲1−2発明は、かかる低級脂肪酸を用いることの特定がない点。
そして、上記相違点1−1及び相違点1−2については、上記ア(ア)b及び(イ)bで検討したとおりであるから、上記相違点1−3について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1−1発明又は甲1−2発明、及び甲2〜4に記載発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに窒素雰囲気下で加熱還流することを特定するものである。
本件特許発明5と、甲1−1発明又は甲1−2発明を対比すると、上記相違点1−1〜3の他に、以下の点で相違する。
相違点1−4:本件特許発明5は窒素雰囲気下で加熱還流することを特定しているのに対して、甲1−1発明及び甲1−2発明は、窒素雰囲気下で加熱還流することの特定がない点。
そして、上記相違点1−1及び相違点1−2については、上記ア(ア)b及び(イ)bで検討したとおりであるから、上記相違点1−3〜4について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1−1発明又は甲1−2発明、及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜5は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、異議申立理由1には理由がない。

2 異議申立理由2(進歩性)について
(1)甲5に記載された発明
甲5には、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを2炭素延長する合成を行うことが記載されており(記載(5a)、(5b))、この合成は、オレフィンの自己酸化を防ぐために、抗酸化剤としてのブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の存在下及び窒素雰囲気において行われたことが記載されており(記載(5d))、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを、LiAlH4で還元し、トシラートへ転換し、LiIでヨウ化物に転換し、続いてマロン酸ジエチルがヨウ化物に導入され、得られたジエステルをLiOHで加水分解後、希釈THF及びCH3COOHの混合物中で濃縮HClを用いて90℃で48時間、脱炭酸を行い、2炭素延長されたテトラコサヘキサエン酸が得られたことが記載されている(記載(5e)、(5f))。
よって、甲5には、
「ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)存在下、窒素雰囲気下で、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを、LiAlH4で還元し、トシラートへ転換し、LiIでヨウ化物に転換し、続いてマロン酸ジエチルがヨウ化物に導入され、得られたジエステルをLiOHで加水分解後、希釈THF及びCH3COOHの混合物中で濃縮HClを用いて90℃で48時間、脱炭酸を行い、ドコサヘキサエン酸の炭素鎖を炭素数2個分延長してテトラコサヘキサエン酸を得る方法。」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1の「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程」は、本件明細書の図1の記載を参照すると、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、及び低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を、脱カルボン酸エステル化反応させる工程」であると認められる。

(ア)対比
甲5発明のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)は、本件特許発明1のブチルヒドロキシトルエンに相当し、甲5発明の「マロン酸ジエチルがヨウ化物に導入され、得られたジエステル」は、本件特許発明1のマロン酸エステル誘導体に相当する。そして、ドコサヘキサエン酸は炭素数22で二重結合を6個含む不飽和脂肪酸である。
本件特許発明1と甲5発明を対比すると、両者は「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、反応を行う工程を包含する、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法であって、該不飽和脂肪酸は炭素数が16〜24であり、2〜6個の二重結合を含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点5−1:本件特許発明1は、炭素数1〜7の低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を脱カルボン酸エステル化反応させる工程を包含することを特定しているのに対して、甲5発明は、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を酢酸存在下で脱炭酸している点。

(イ)相違点の判断
a 上記相違点5−1について検討する。
甲5発明は、全反応工程をBHTの存在下で行うものであるが、マロン酸エステル誘導体を加水分解した後に酢酸の存在下で脱炭酸反応することが記載されているので、加水分解を行うことなく酢酸の存在下で脱カルボン酸エステル化反応を行うことを想起するところはない。
また、甲5発明は、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を酢酸存在下で脱炭酸する反応を行って生成物を得ているのであって、甲2の、不飽和脂肪酸が結合したホスファチジルコリンの調製を目的とした、アラキドン酸エチルを、アルコール化し、トシラート化し、ヨウ化物に変換し、該ヨウ化物をマロン酸ジエチル及び水素化ナトリウムで処理して、マロン酸ジエチル誘導体とし、該マロン酸ジエチル誘導体を水素化アルミニウムリチウムで還元してジオールを得る反応を行ったことの記載や、アラキドン酸エチルのように全シス非共役ポリオレフィン構造を有するポリ不飽和脂肪酸アシル基は、非常に不安定であるから、全ての反応をブチル化ヒドロキシルトルエン(BHT)の存在下で行うとの記載(記載(2a)、(2b))、甲3の、β−ケト及びマロン酸エステルの、対応するケトン及びモノエステルへの変換を目的とした、プロピオン酸の存在下でマロン酸エステルを加熱することで脱アルコキシカルボニル化が起こることの記載(記載(3a)〜(3c))、甲4の、ビスヒドロキシエチルアジペートを得ることを目的とした、アジピン酸の存在下でマロン酸ビス(β−ヒドロキシエチル)エステルを脱炭酸反応させることの記載(記載(4a)〜(4b))を考慮しても、本件特許発明1の、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、及び低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を、脱カルボン酸エステル化反応させる工程」に変更する動機付けは見当たらない。

b したがって、本件特許発明1は、甲5発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに不飽和脂肪酸を、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択されるものに限定するものである。
本件特許発明2と甲5発明を対比すると、上記相違点5−1の他に、新たな相違点はない。そして、上記相違点5−1については、上記ア(イ)aで検討したとおりである。
よって、本件特許発明2は、甲5発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらにマロン酸エステル誘導体を、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体に限定するものである。
甲5発明は、マロン酸ジエチルを反応させて得られた誘導体を用いるものであるから、本件特許発明3と、甲5発明を対比すると、上記相違点5−1の他に、新たな相違点はない。そして、上記相違点5−1については、上記ア(イ)aで検討したとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲5発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに低級脂肪酸を、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸に限定するものである。
本件特許発明4と、甲5発明を対比すると、上記相違点5−1の他に、以下の点で相違する。
相違点5−2:本件特許発明4は不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程において存在させる低級脂肪酸としてギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸を用いることを特定しているのに対して、甲5発明は、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を酢酸存在下で脱炭酸している点。
そして、上記相違点5−1については、上記ア(イ)aで検討したとおりであるから、上記相違点5−2について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲5発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに窒素雰囲気下で加熱還流することを特定するものである。
本件特許発明5と、甲5発明を対比すると、上記相違点5−1〜2の他に、以下の点で相違する。
相違点5−3:本件特許発明5は加熱還流することを特定しているのに対して、甲5発明は、90℃とすることの記載はあるものの、加熱還流したことの明示の記載がない点。
そして、上記相違点5−1については、上記ア(イ)aで検討したとおりであるから、上記相違点5−2〜3について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲5発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜5は、甲5に記載された発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、異議申立理由2には理由がない。

3 異議申立理由3(進歩性)について
(1)甲6に記載された発明
甲6には、リノール酸メチルを還元、トシル化、ヨウ素化、マロン酸ジエチル誘導体への転換、及び水酸化リチウムによる加水分解によりマロン酸誘導体に転換し、得られた二酸であるマロン酸誘導体を脱炭酸したこと、該脱炭酸反応は、窒素雰囲気下のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の存在下における酢酸媒体中で行われたことが記載されており(記載(6a))、スキーム1に、酢酸存在下で加熱を行う反応により、リノール酸の炭素鎖を炭素2個分延長した不飽和脂肪酸が得られたことが示されている(記載(6b))。
よって、甲6には、
「リノール酸メチルを還元、トシル化、ヨウ素化、マロン酸ジエチル誘導体への転換、及び水酸化リチウムによる加水分解によりマロン酸誘導体に転換し、得られた二酸であるマロン酸誘導体を、窒素雰囲気下のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の存在下における酢酸媒体中で加熱して脱炭酸させる、リノール酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法。」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1の「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程」は、本件明細書の図1の記載を参照すると、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、及び低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を、脱カルボン酸エステル化反応させる工程」であると認められる。

(ア)対比
甲6発明のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)は、本件特許発明1のブチルヒドロキシトルエンに相当し、甲6発明のマロン酸ジエチル誘導体は、本件特許発明1のマロン酸エステル誘導体に相当する。そして、リノール酸は炭素数18で二重結合を2個含む不飽和脂肪酸である。
本件特許発明1と甲6発明を対比すると、両者は「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、反応させる工程を包含する、該不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法であって、該不飽和脂肪酸は炭素数が16〜24であり、2〜6個の二重結合を含む、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点6−1:本件特許発明1は、炭素数1〜7の低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を脱カルボン酸エステル化反応させる工程を包含することを特定しているのに対して、甲6発明は不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を、酢酸存在下、加熱して脱炭酸している点。

(イ)相違点の判断
a 上記相違点6−1について検討する。
甲6発明は、マロン酸エステル誘導体を加水分解した後に酢酸の存在下で脱炭酸反応することが記載されているので、加水分解を行うことなくブチルヒドロキシトルエン存在下、酢酸の存在下で脱カルボン酸エステル化反応を行うことを想起するところはない。
また、甲6発明は、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を酢酸存在下で脱炭酸する反応を行って生成物を得ているのであって、甲2の、不飽和脂肪酸が結合したホスファチジルコリンの調製を目的とした、アラキドン酸エチルを、アルコール化し、トシラート化し、ヨウ化物に変換し、該ヨウ化物をマロン酸ジエチル及び水素化ナトリウムで処理して、マロン酸ジエチル誘導体とし、該マロン酸ジエチル誘導体を水素化アルミニウムリチウムで還元してジオールを得る反応を行ったことの記載や、アラキドン酸エチルのように全シス非共役ポリオレフィン構造を有するポリ不飽和脂肪酸アシル基は、非常に不安定であるから、全ての反応をブチル化ヒドロキシルトルエン(BHT)の存在下で行うとの記載(記載(2a)、(2b))、甲3の、β−ケト及びマロン酸エステルの、対応するケトン及びモノエステルへの変換を目的とした、プロピオン酸の存在下でマロン酸エステルを加熱することで脱アルコキシカルボニル化が起こることの記載(記載(3a)〜(3c))、甲4の、ビスヒドロキシエチルアジペートを得ることを目的とした、アジピン酸の存在下でマロン酸ビス(β−ヒドロキシエチル)エステルを脱炭酸反応させることの記載(記載(4a)〜(4b))を考慮しても、本件特許発明1の、「ブチルヒドロキシトルエンの存在下、及び低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を、脱カルボン酸エステル化反応させる工程」に変更する動機付けは見当たらない。
また、甲2〜4の記載は、上記1(2)ア(ア)bで述べたとおりであるところ、甲2〜4の記載を見ても、甲6発明において、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を加水分解して得られた不飽和脂肪酸のマロン酸誘導体を、酢酸存在下、加熱して脱炭酸する工程を、炭素数1〜7の低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程に変更する動機付けは見当たらない。

b したがって、本件特許発明1は、甲6発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに不飽和脂肪酸を、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択されるものに限定するものである。
本件特許発明2と甲6発明を対比すると、上記相違点6−1の他に、新たな相違点はない。そして、上記相違点6−1については、上記ア(ア)aで検討したとおりである。
よって、本件特許発明2は、甲6発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらにマロン酸エステル誘導体を、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体に限定するものである。
甲6発明は、マロン酸ジエチルを反応させて得られた誘導体を用いるものであるから、本件特許発明3と、甲6発明を対比すると、上記相違点6−1の他に、新たな相違点はない。そして、上記相違点6−1については、上記ア(ア)aで検討したとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲6発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに低級脂肪酸を、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸に限定するものである。
本件特許発明4と、甲6発明を対比すると、上記相違点6−1の他に、以下の点で相違する。
相違点6−2:本件特許発明4は不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程において存在させる低級脂肪酸としてギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸を用いることを特定しているのに対して、甲6発明は、マロン酸エステル誘導体を加水分解した後、酢酸の存在下でマロン酸誘導体の脱炭酸反応をさせる点。
そして、上記相違点6−1については、上記ア(ア)aで検討したとおりであるから、上記相違点6−2について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲6発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに窒素雰囲気下で加熱還流することを特定するものである。
本件特許発明5と、甲6発明を対比すると、上記相違点6−1〜2の他に、以下の点で相違する。
相違点6−3:本件特許発明5は加熱還流することを特定しているのに対して、甲6発明は、加熱することの記載はあるものの、加熱還流したことの明示の記載がない点。
そして、上記相違点6−1については、上記ア(ア)aで検討したとおりであるから、上記相違点6−2〜3について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲6発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜5は、甲6に記載された発明及び甲2〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、異議申立理由3には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-12-24 
出願番号 P2015-559793
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 吉岡 沙織
関 美祝
登録日 2021-01-18 
登録番号 6825810
権利者 備前化成株式会社
発明の名称 炭素鎖延長反応による不飽和脂肪酸の化学変換方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
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