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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A21D
管理番号 1384174
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-11 
確定日 2021-12-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6831947号発明「ベーカリー製品用小麦粉、ベーカリー製品用ミックス、及びベーカリー製品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6831947号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6831947号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、令和2年1月8日を国際出願日とする国際特許出願であって、令和3年2月2日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月11日に特許異議申立人 中嶋 美奈子(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件特許発明
特許第6831947号の請求項1〜8に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、以下の特徴を有するベーカリー製品用小麦粉。
1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。
2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。
【請求項2】
前記オーストラリア産硬質小麦の硝子率が50〜80である請求項1に記載のベーカリー製品用小麦粉。
【請求項3】
前記オーストラリア産硬質小麦のSKCS硬度が40〜80である請求項1又は2に記載のベーカリー製品用小麦粉。
【請求項4】
ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むミックスであって、
前記小麦粉が、以下の特徴を有するベーカリー製品用ミックス。
1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。
2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。
【請求項5】
ベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むドウ生地であって、
前記小麦粉が、以下の特徴を有するベーカリー製品用生地。
1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。
2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。
【請求項6】
請求項5に記載のベーカリー製品用生地を加熱する工程を含むベーカリー製品の製造方法。
【請求項7】
たん白質含量が10.8〜14.5質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを含むベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤。
【請求項8】
たん白質含量が10.8〜14.5質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを配合するベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法。」
(以下、請求項順に、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、…、「本件特許発明8」ともいい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)

3 異議申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証〜甲第11号証を提出し、次の理由A〜理由Eを主張していると認める。
甲第1号証:特開2005−328789号公報
甲第2号証:「輸入小麦の政府売渡価格について(価格公表添付資料)」,農林水産省,平成27年9月
甲第3号証:特開2011−109963号公報
甲第4号証:「WW代替品の品質評価試験結果について(速報値) 代替品:オーストラリア産APW」,平成25年7月9日,https://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/nyusatu/attach/pdf/WW-2.pdf[2021年6月22日アクセス]
甲第5号証:大楠秀樹,「おもしろサイエンス小麦粉の科学」,日刊工業新聞社,2017年9月25日,表紙,奥付及び14−17頁
甲第6号証:今井徹 他1名,“小麦粉の粒度分布による用途分類”,日本食品科学工学会誌,第47巻,第1号,2000年1月,17−22頁
甲第7号証:日本食品標準成分表2015年版(七訂),第2章 1 穀類,1/5頁,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/20/1365343_1-0201r11.pdf
甲第8号証:「製パン原料」第3版,社団法人日本パン技術研究所,平成10年3月,表紙,奥付及び13−14頁
甲第9号証:特開2003−274846号公報
甲第10号証:「輸入小麦の政府売渡価格について(価格公表添付資料)」,農林水産省,令和2年9月
甲第11号証:「小麦・小麦粉の種類と用途」,Wayback machine による2016年7月4日のインターネットアーカイブ,https://web.archive.org/web/20160704083504/http:/seifun.or.jp/kisochishiki/syuruitoyouto.html[2021年8月4日アクセス]
(以下、それぞれを略して「甲1」、「甲2」、……、「甲11」ともいう。)

・理由A(新規性欠如・進歩性欠如)(本件特許発明1、5〜8に対して)
本件特許発明1、5〜8は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるか、又は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である甲1〜甲8に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

・理由B(新規性欠如・進歩性欠如)(本件特許発明1、5〜8に対して)
本件特許発明1、5〜8は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲9に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるか、又は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である甲2〜甲9に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

・理由C(進歩性欠如)(本件特許発明2〜4に対して)
本件特許発明2〜4は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である甲1〜甲8に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

・理由D(進歩性欠如)(本件特許発明2〜4に対して)
本件特許発明2〜4は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明である甲2〜甲9に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

・理由E(サポート要件違反)(本件特許発明1〜8に対して)
本件特許発明1〜8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

4 文献の記載
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。
記載(甲1−1)
「【0018】
本発明の小麦粉組成物には、本発明の小麦粉および前記した通常の小麦粉以外に、ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等及びこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の加工澱粉等;卵粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;活性グルテン;酵素剤等、パン製造、中華麺製造および即席麺製造に通常用いる副原料を配合することができる。」

記載(甲1−2)
「【0022】
実施例2
オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)を70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)を30質量%からなる原料を製粉し、灰分0.36%の小麦粉を採取した後、該小麦粉から、空気分級により粒径の細かい部分を除去し、本発明の小麦粉を得た。この小麦粉は、粒径が45〜150μmの大きさの粒が82質量%で、かつ45〜100μmの大きさの粒が64質量%のものであった。また、この小麦粉の灰分は0.43質量%、粗蛋白は10.3質量%であった。
【0023】
実施例3〜8および比較例1〜3
小麦粉(「薫風」日清製粉株式会社製商品名)に実施例1および2で得られた小麦粉を下記表1に示す割合で均一に混合して、小麦粉組成物をそれぞれ調製した。
【0024】
【表1】



記載(甲1−3)
「【0025】
試験例1
実施例1〜2で得られた小麦粉、実施例3〜8で得られた小麦粉組成物および比較例1〜3で得られた小麦粉組成物を用いて、下記の製法によりそれぞれ食パンを製造し、下記の評価方法により、これらの小麦粉および小麦粉組成物の製パン適性(ミキシング耐性および生地伸展性)と、得られた食パンの内相および食感を評価した。それらの結果を下記表2に示す。
〔食パンの製法〕
小麦粉または小麦粉組成物70質量部にイースト2.5質量部、イーストフード0.1質量部および水36質量部を加え、低速で2分間、次いで中速で1分間混捏して生地を調製する(捏上げ温度24.0℃)。得られた生地を温度27℃および湿度75%の条件下で4時間発酵させて中種生地を得る。
この中種生地に小麦粉または小麦粉組成物30質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部および水15質量部を加え、低速で2分間、中速で2分間混捏した後、ショートニング5質量部を加え、低速で2分間、中速で2分間混捏して本捏生地を得る(捏上げ温度27.0℃)。
得られた本捏生地を室温で20分間フロアタイムをとり、次に1個の重量260gずつに分割した後、20分間ベンチタイムをとる。次に、この生地をU字形に成形して3斤型に6個詰め、温度38℃および湿度88%の条件下で50分間ホイロをとった後、温度220℃の条件下で35分間焼成して、食パンを得る。
〔評価方法〕
・小麦粉および小麦粉組成物の製パン適性
上記の製法により食パンを製造する際のミキシング耐性および生地伸展性について、下記表3に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
・食パンの内相および食感
下記表3に示す評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。
【0026】
【表2】



記載(甲1−4)
「【0027】
【表3】



イ 甲1に記載された発明
記載(甲1−2)には、実施例6〜8として、オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた小麦粉と、小麦粉「薫風」とを80:20、50:50、及び20:80の割合で混合してなる小麦粉組成物が記載されている。
また、記載(甲1−3)には、その小麦粉組成物70質量部にイースト2.5質量部、イーストフード0.1質量部および水36質量部を加え、混捏して調製した生地を発酵させて中種生地を得た後、この中種生地に小麦粉または小麦粉組成物30質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部および水15質量部を加え、混捏し、さらにショートニング5質量部を加え、混捏して得られた本捏生地を焼成して食パンを得ることが記載されている。
記載(甲1−3)において得られた食パンは、「ドウ生地を用いるベーカリー製品」に該当するので、甲1には、
「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、
オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた小麦粉と、小麦粉「薫風」とを80:20、50:50、及び20:80の割合で混合してなる、ベーカリー製品用小麦粉」の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されていると認める。

(2)甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。
記載(甲2−1)


」(2頁)

記載(甲2−2)


」(5頁)

(3)甲3の記載
甲3には、以下の事項が記載されている。
記載(甲3−1)
「【0003】
オーストラリア・スタンダード・ホワイト(ASW;Australian Standard White、以下「ASW」ということがある)は、うどん等の麺類の製造に適する品種の小麦(ヌードル品種)とAPW(Australian Premium White)等の非ヌードル品種の小麦がブレンドされた、オーストラリア産の麺用小麦銘柄であり、両者のブレンドの割合はASWの規格としてほぼ一定に保たれている。このASWは、うどんの主要原料であるほか、そうめんや即席麺の主原料としても広く流通している。」

記載(甲3−2)
「【0075】
実施例4
オーストラリアからの輸入日および輸入港が異なるASW原料小麦を製粉して得られた小麦粉(ASW-1〜3)について、実施例1に従ってDNAを抽出した。次いで、実施例2〜3に従い、配列番号2の塩基配列における特異的多型部位および配列番号3の塩基配列における特異的多型部位を定量し、非ヌードル品種1型および非ヌードル品種2型の割合から各ASWに含まれるヌードル品種の割合を推定した。その結果を下記の表8に示す。
【0076】
さらに、上記の小麦粉(ASW-1〜3)に、ASWに含まれるヌードル品種小麦と同じであることを確認した国内産小麦品種から得られた小麦粉(JP-1)を下記の表8に示す割合で添加して疑似小麦粉試料を得た。次いで、これらの小麦粉についても同様にして、ヌードル品種の割合を定量した。得られた結果を表8に示す。
【0077】
【表8】



(4)甲4の記載
甲4には、以下の事項が記載されている。
記載(甲4−1)




(5)甲5の記載
甲5には、以下の事項が記載されている。
記載(甲5−1)
「硬質小麦から作られる強力粉は製粉工程を通るなかで、なかなか砕け難く、平均して70〜80マイクロメーター程度になります。
中間質の小麦から作られる中力粉は、少し砕け易く、澱粉粒にまで砕ける粒子が増えてくるため、30マイクロメーター付近に山が見られ、平均して50〜70マイクロメーター程度まで小さくなります。
軟質小麦から作られる薄力粉は、砕け易く、澱粉粒にまで砕ける粒子の方が多くなり、90マイクロメーター付近の胚乳片の山が低くなり、平均して30〜40マイクロメーター程度の細かな小麦粉になります。」(14頁下段5行〜16頁上段3行)

(6)甲6の記載
甲6には、以下の事項が記載されている。
記載(甲6−1)


」(18頁右欄表1及び表2)

記載(甲6−2)


」(19頁図1)

(7)甲7の記載
甲7には、以下の事項が記載されている。
記載(甲7−1)




(8)甲8の記載
甲8には、以下の事項が記載されている。
記載(甲8−1)
「(5) 損傷澱粉と製パン性
損傷澱粉は損傷部分から澱粉粒内に水が浸透しやすいため、健全な澱粉粒の約4.5倍もの吸水力がある。このために、損傷澱粉はパン生地の吸水に多大な影響を及ぼし、また非加熱状態でもアミラーゼによる分解を受け生地発酵中に糖(主に麦芽糖)が生成される。この損傷澱粉からの糖の生成によって、中種やフランスバン生地のような糖を配合しない生地であってもイーストの発酵が長時間進行するのである。したがって、パン用粉には適量の損傷澱粉が必要である。しかし、損傷澱粉が過度に多くなると、アミラーゼによる澱粉の分解が過度に進むため、発酵中に生地がダレてべた付く、パンのクラムがクチャつくなどの問題が生じる。このようなことから、一般に、パン用粉の損傷澱粉の量は全澱粉量の7−12%程度が適量であるとされている。なお、菓子用粉や麺用粉では損傷澱粉がなるべく少ないほうが良いとされている。」(13−14頁「(5) 損傷澱粉と製パン性」の項)

(9)甲9の記載及び甲9に記載された発明
ア 甲9の記載
甲9には、以下の事項が記載されている。
記載(甲9−1)
「【0013】本発明方法のパン類の原材料としては小麦粉を主原料とし、これに副原料として糖類、食塩、油脂、鶏卵、乳製品、イースト、イーストフード等が用いられる。」

記載(甲9−2)
「【0023】実施例2
下記表4に示す原材料を低速で4分間、中速で5分間ミキシングする(生地温度24℃)。得られた生地を温度27℃、湿度75%の条件下で発酵させ、発酵開始から1時間30分経過したときにパンチを行い、さらに30分間発酵させる。発酵を終えた生地を100gづつに分割し、温度27℃、湿度75%の条件下で30分間ベンチタイムをとった後、フランスパンに成型する。成型されたフランスパンは次いで温度35℃、湿度75%の条件下で55分間ホイロをとり、230℃の焼成窯でスチームを入れて20分間焼成し、フランスパンを得る。得られたフランスパンを実施例1と同様にして評価試験を行った。次にその評価結果を示せば表5のとおりである。なお使用した1CW系およびASW系の小麦粉は実施例1で用いた小麦ふすま抽出液を小麦の調質時に5.5重量%添加し製粉して得られた小麦粉を使用した。
【0024】
【表4】


【0025】
【表5】



イ 甲9に記載された発明
記載(甲9−2)には、小麦粉(1CW系)50重量部、小麦粉(ASW系)50重量部、パン用改良剤0.1重量部、イースト0.8重量部、モルトシロップ0.3重量部、食塩2重量部及び水62重量部をミキシングして得られた生地を発酵等させた後、焼成してフランスパンを得ることが記載されている。
記載(甲9−2)において得られたフランスパンは、「ドウ生地を用いるベーカリー製品」に該当するので、甲9には、
「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、
小麦粉(1CW系)及び小麦粉(ASW系)を50:50の割合で混合してなる、ベーカリー製品用小麦粉」の発明(以下、「甲9発明」ともいう。)が記載されていると認める。

(10)甲10の記載
甲10には、以下の事項が記載されている。
記載(甲10−1)




(11)甲11の記載
甲11には、以下の事項が記載されている。
記載(甲11−1)




5 当審の判断
(1)申立理由A及び申立理由Cについて
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
本件特許発明1と甲1発明とは、
[一致点(A1)]
「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点で一致し、

[相違点(A1−1)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉では、
「1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、
「オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた」ものである点、及び

[相違点(A1−2)]
小麦粉の中位径、損傷澱粉量及び灰分が、
本件特許発明1では、
「2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、
中位径、損傷澱粉量、及び灰分のいずれも不明である点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(A1−2)から検討する。
甲1には、記載(甲1−1)〜記載(甲1−4)を含めて、ベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分についての記載はなく、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(A1−2)は実質的な相違点である。
また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(A1−2)について、申立人は、ASW小麦粉は中力粉であるとした甲6の記載、強力粉、中力粉、及び薄力粉の粒径についての甲5の記載、並びに、市販パン用小麦粉のテストミル60%粉の粒度分布についての甲6の記載を根拠にして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径は、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径を有している蓋然性が高いと主張し、パン用粉の損傷澱粉量の適量についての甲8の記載、及び中力粉及び強力粉の炭水化物量についての甲7の記載を根拠にして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の損傷澱粉量は、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の損傷澱粉量を有している蓋然性が高いと主張し、薄力粉、中力粉、及び強力粉の灰分についての甲7の記載を根拠にして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の灰分は、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の灰分を有している蓋然性が高いと主張する(特許異議申立書22頁1〜22行)。
また、申立人は、仮に、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分とは相違するとしても、甲5〜8の記載を基に、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を調整して、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉で特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲に変更することは、当業者の設計事項であるとも主張する(特許異議申立書22頁22〜26行)。

しかし、記載(甲5−1)を含む甲5の記載、記載(甲6−1)及び記載(甲6−2)を含む甲6の記載、記載(甲7−1)を含む甲7の記載、記載(甲8−1)を含む甲8の記載は、いずれも、市販されている一般的な小麦粉についての記載である。甲1発明のベーカリー製品用小麦粉は、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている一般的な小麦粉と同質のものといえる根拠を見出すことはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあると認めることはできない。
また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている小麦粉と同質のものとは認められない甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、あえて市販されている小麦粉と同程度に変更する動機付けを見出すことはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉について特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(A1−1)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

イ 本件特許発明2〜3について
本件特許発明2〜3は、本件特許発明1の発明特定事項すべてをその発明特定事項とした上で、さらに技術的に限定した発明である。
上記アに示したとおり、本件特許発明1が、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない以上、本件特許発明2〜3もまた、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ 本件特許発明4について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明4と甲1発明とを対比する。
本件特許発明4と甲1発明とは、
[相違点(A4−1)]
本件特許発明4は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むミックス」である「ベーカリー製品用ミックス」である一方、
甲1発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、

[相違点(A4−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明4のベーカリー製品用ミックスに含まれる「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、
「オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた」ものである点、及び

[相違点(A4−3)]
小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、
本件特許発明4のベーカリー製品用ミックスに含まれる「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、
その中位径、損傷澱粉量、及び灰分のいずれも不明である点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(A4−3)から検討する。
甲1には、記載(甲1−1)〜記載(甲1−4)を含めて、ベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分についての記載はなく、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあるといえる根拠を見出すこともできず、また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(A4−3)について、申立人は、甲1発明の小麦粉組成物は、甲5〜甲8の記載に基づけば、それらの中位径、損傷澱粉量及び灰分は本件特許発明4に記載される範囲である蓋然性が高いか、又はそれらの中位径、損傷澱粉量及び灰分を本件特許発明4に記載される範囲に調整することは、当業者の設計事項であると主張する(特許異議申立書26頁16〜20行)。

しかし、記載(甲5−1)を含む甲5の記載、記載(甲6−1)及び記載(甲6−2)を含む甲6の記載、記載(甲7−1)を含む甲7の記載、記載(甲8−1)を含む甲8の記載は、いずれも、市販されている一般的な小麦粉についての記載である。甲1発明のベーカリー製品用小麦粉は、甲1及び甲5〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている一般的な小麦粉と同質のものといえる根拠を見出すことはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあると認めることはできず、また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている小麦粉と同質のものとは認められない甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、あえて市販されている小麦粉と同程度に変更する動機付けを見出すことはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉について特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明4のベーカリー製品用ミックスは、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(A4−1)及び相違点(A4−2)について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

エ 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1発明とを対比する。
本件特許発明5と甲1発明とは、
[相違点(A5−1)]
本件特許発明5は、「ベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むドウ生地」である「ベーカリー製品用生地」である一方、
甲1発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、

[相違点(A5−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明5のベーカリー製品用生地に含まれる「ベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、
「オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた」とされる点、及び

[相違点(A5−3)]
小麦粉の中位径、損傷澱粉量及び灰分が、
本件特許発明5のベーカリー製品用生地に含まれる「ベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。」一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、
その中位径、損傷澱粉量、及び灰分のいずれも不明である点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(A5−3)から検討する。
甲1には、記載(甲1−1)〜記載(甲1−4)を含めて、ベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分についての記載はなく、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(A5−3)は実質的な相違点である。
また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(A5−3)について、申立人は、甲1発明の小麦粉組成物は、甲5〜甲8の記載に基づけば、それらの中位径、損傷澱粉量及び灰分は本件特許発明5に記載される範囲である蓋然性が高いか、又はそれらの中位径、損傷澱粉量及び灰分を本件特許発明5に記載される範囲に調整することは、当業者の設計事項であると主張する(特許異議申立書27頁11〜15行)。

しかし、記載(甲5−1)を含む甲5の記載、記載(甲6−1)及び記載(甲6−2)を含む甲6の記載、記載(甲7−1)を含む甲7の記載、記載(甲8−1)を含む甲8の記載は、いずれも、市販されている一般的な小麦粉についての記載である。甲1発明のベーカリー製品用小麦粉は、甲1及び甲5〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている一般的な小麦粉と同質のものといえる根拠を見出すことはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあると認めることはできない。
また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている小麦粉と同質のものとは認められない甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、あえて市販されている小麦粉と同程度に変更する動機付けを見出すことはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉について特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明5のベーカリー製品用生地は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、向上された伸展性、及び促進された形成性を有し、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(A5−1)及び相違点(A5−2)について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明ではなく、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

オ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明5のベーカリー製品用生地を加熱する工程を含むベーカリー製品の製造方法であるから、本件特許発明5を使用することをその発明特定事項とする発明である。
上記エに示したとおり、本件特許発明5が、甲1発明ではなく、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない以上、本件特許発明6もまた、甲1発明ではなく、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

カ 本件特許発明7について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明7と甲1発明とを対比する。
本件特許発明7と甲1発明とは、
[相違点(A7−1)]
本件特許発明7は、「ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤」である一方、
甲1発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、及び

[相違点(A7−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明7に含まれる小麦粉では、「たん白質含量が10.8〜14.5質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを含む。」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、「オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた小麦粉と、小麦粉「薫風」とを80:20、50:50、及び20:80の割合で混合してなる」とされる点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(A7−1)から検討する。
甲1には、記載(甲1−1)〜記載(甲1−4)を含めて、ドウ生地形成促進についての記載はなく、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉が、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤であるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(A7−1)は実質的な相違点である。
また、甲1〜8の記載及び技術常識を検討しても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤にすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(A7−1)について、申立人は、甲1には、実施例6〜8の小麦粉組成物を用いて食パンを製造した際に、製パン適性(ミキシング耐性および生地伸展性)が良好であったことが記載されている(段落0025−0027、特に表2)から、当該小麦粉組成物は、製パン時のミキシング耐性および生地伸展性を良好にすることで、ドウ生地形成促進の作用を発揮しているものと認められると主張する(特許異議申立書28頁12〜21行)。

しかし、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉を用いて食パンを製造した際に、ミキシング耐性および生地伸展性が良好であったとしても、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、ミキシング耐性及び生地伸展性が、ベーカリー製品用小麦粉によるドウ生地形成促進の作用を反映したものといえる根拠は見出すことができない。
したがって、ミキシング耐性および生地伸展性が良好であったとしても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉がドウ生地形成促進の作用を発揮しているとする根拠にはなり得ず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉が、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤であるとすることはできず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤とすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明7のベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(A7−2)について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲1発明ではなく、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

キ 本件特許発明8について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明8と甲1発明とを対比する。
本件特許発明8と甲1発明とは、
[相違点(A8−1)]
本件特許発明8は、「ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法」である一方、
甲1発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、及び

[相違点(A8−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明8で配合される小麦粉では、「たん白質含量が10.8〜14.5質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉A」とされる一方、
甲1発明のベーカリー製品用小麦粉では、「オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホワイト(ASW)70質量%と日本産の普通小麦(品種;ホクシン)30質量%からなる原料を製粉、分級して得られた小麦粉と、小麦粉「薫風」とを80:20、50:50、及び20:80の割合で混合してなる」ものである点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(A8−1)から検討する。
まず、本件特許発明は方法の発明である一方、甲1発明は物の発明であるという、カテゴリーの点での相違がある。
また、甲1には、記載(甲1−1)〜記載(甲1−4)を含めて、ドウ生地形成促進についての記載はなく、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉が、ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法に用いられるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(A8−1)は実質的な相違点である。
また、甲1〜8の記載及び技術常識を検討しても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法に用いることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(A8−1)について、申立人は、甲1には、実施例6〜8の小麦粉組成物を用いて食パンを製造した際に、製パン適性(ミキシング耐性および生地伸展性)が良好であったことが記載されている(段落0025−0027、特に表2)から、当該小麦粉組成物は、製パン時のミキシング耐性および生地伸展性を良好にすることで、ドウ生地形成促進の作用を発揮しているものと認められると主張する(特許異議申立書28頁12〜21行)。

しかし、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉を用いて食パンを製造した際に、ミキシング耐性および生地伸展性が良好であったとしても、甲1〜甲8の記載から、又は技術常識に照らして、ミキシング耐性及び生地伸展性が、ベーカリー製品用小麦粉によるドウ生地形成促進の作用を反映したものといえる根拠は見出すことができない。
したがって、ミキシング耐性および生地伸展性が良好であったとしても、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉がドウ生地形成促進の作用を発揮しているとする根拠にはなり得ず、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法に用いることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
そして、本件特許発明8のベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(A8−2)について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1発明ではなく、甲1〜甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

ク 小括
以上、ア〜キに示したとおり、申立理由A及び申立理由Cには理由がない。

(2)申立理由B及び申立理由Dについて
ア 本件特許発明1について
(ア)甲9発明との対比
本件特許発明1と甲9発明とを対比する。
本件特許発明1と甲9発明とは、
[一致点(B1)]
「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点で一致し、

[相違点(B1−1)]
原料小麦粉の種類及びその割合が
本件特許発明1の小麦粉では、
「1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。」とされる一方、
甲9発明の小麦粉では、
「小麦粉(1CW系)及び小麦粉(ASW系)を50:50の割合で混合してなる」とされる点、及び

[相違点(B1−2)]
中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、
本件特許発明1の小麦粉では、
「2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。」とされる一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、
中位径、損傷澱粉量、及び灰分のいずれも不明である点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(B1−2)から検討する。
甲9には、記載(甲9−1)及び記載(甲9−2)を含めて、ベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分についての記載はなく、技術常識に照らしても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあるといえる根拠を見出すことはできない。
相違点(B1−2)について、申立人は、1CW系小麦粉は強力粉であり、ASW系小麦粉はうどん用粉であるとする甲6の記載、強力粉および中力粉の粒径についての甲5の記載、パン用小麦粉、1CW系小麦粉及びASW系小麦粉の中位径に関する甲6の記載、中力粉及び強力粉の灰分に関する甲7の記載、小麦粉中の損傷澱粉量の好ましい量に関する甲7〜甲8の記載など、甲5〜甲8の記載を根拠にして、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉は、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を有している蓋然性が高いと主張する(特許異議申立書23頁27行〜24頁14行)。
また、申立人は、仮に、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分とは相違するとしても、甲5〜8の記載を基に、甲1発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を調整して、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉で特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲に変更することは、当業者の設計事項であるとも主張する(特許異議申立書24頁14〜18行)。

しかし、記載(甲5−1)を含む甲5の記載、記載(甲6−1)及び記載(甲6−2)を含む甲6の記載、記載(甲7−1)を含む甲7の記載、記載(甲8−1)を含む甲8の記載は、いずれも、市販されている一般的な小麦粉についての記載である。甲9発明のベーカリー製品用小麦粉は、甲2〜甲9の記載及び技術常識を検討しても、市販されている一般的な小麦粉と同質のものといえる根拠を見出すことはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあると認めることはできない。
また、甲2〜甲9の記載及び技術常識を検討しても、市販されている小麦粉と同質のものとは認められない甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、あえて市販されている小麦粉と同程度に変更する動機付けを見出すことはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉について特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明1のベーカリー製品用小麦粉は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(B1−1)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

イ 本件特許発明2〜3について
本件特許発明2〜3は、本件特許発明1の発明特定事項すべてをその発明特定事項とした上で、さらに技術的に限定した発明である。
上記アに示したとおり、本件特許発明1が、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない以上、本件特許発明2〜3もまた、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ 本件特許発明4について
(ア)甲9発明との対比
本件特許発明4と甲9発明とを対比する。
本件特許発明4と甲9発明とは、
[相違点(B4−1)]
本件特許発明4は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むミックス」である「ベーカリー製品用ミックス」である一方、
甲9発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、

[相違点(B4−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明4のベーカリー製品用ミックスに含まれる「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。」とされる一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、
「小麦粉(1CW系)及び小麦粉(ASW系)を50:50の割合で混合してなる」とされる点、及び

[相違点(B4−3)]
中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、
本件特許発明4のベーカリー製品用ミックスに含まれる「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。」とされる一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、
中位径、損傷澱粉量、及び灰分のいずれも不明である点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(B4−3)から検討する。
甲1には、記載(甲9−1)及び記載(甲9−2)を含めて、ベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分についての記載はなく、甲2〜甲9の記載から、又は技術常識に照らして、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(B4−3)は実質的な相違点である。
また、甲2〜甲9の記載及び技術常識を検討しても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(B4−3)について、申立人は、甲9発明の小麦粉組成物は、甲5〜甲8の記載に基づけば、それらの中位径、損傷澱粉量及び灰分は本件特許発明4に記載される範囲である蓋然性が高いか、又はそれらの中位径、損傷澱粉量及び灰分を本件特許発明4に記載される範囲に調整することは、当業者の設計事項であると主張する(特許異議申立書26頁16〜20行)。

しかし、記載(甲5−1)を含む甲5の記載、記載(甲6−1)及び記載(甲6−2)を含む甲6の記載、記載(甲7−1)を含む甲7の記載、記載(甲8−1)を含む甲8の記載は、いずれも、市販されている一般的な小麦粉についての記載である。甲9発明のベーカリー製品用小麦粉は、甲9及び甲5〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている一般的な小麦粉と同質のものといえる根拠を見出すことはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあると認めることはできない。
また、甲1〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている小麦粉と同質のものとは認められない甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、あえて市販されている小麦粉と同程度に変更する動機付けを見出すことはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明4に含まれるドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉について特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明4のベーカリー製品用ミックスは、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(B4−1)及び相違点(B4−2)について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

エ 本件特許発明5について
(ア)甲9発明との対比
本件特許発明5と甲9発明とを対比する。
本件特許発明5と甲9発明とは、
[相違点(B5−1)]
本件特許発明5は、「ベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むドウ生地」である「ベーカリー製品用生地」である一方、
甲1発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、

[相違点(B5−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明5のベーカリー製品用生地に含まれる「ベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「1)たん白質含量が10.8〜13.0質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを0質量%超、25質量%以下含有する。」とされる一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、
「小麦粉(1CW系)及び小麦粉(ASW系)を50:50の割合を混合してなる」とされる点、及び

[相違点(B5−3)]
小麦粉の中位径、損傷澱粉量及び灰分が、
本件特許発明5のベーカリー製品用生地に含まれる「ベーカリー製品を製造するための小麦粉」では、
「2)中位径が45〜90μmである。
3)損傷澱粉量が4.0〜9.0質量%である。
4)灰分が0.35〜0.50質量%である。」一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、
その中位径、損傷澱粉量、及び灰分のいずれも不明である点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(B5−3)から検討する。
甲9には、記載(甲9−1)〜記載(甲9−2)を含めて、ベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分についての記載はなく、甲2〜甲9の記載から、又は技術常識に照らして、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(B5−3)は実質的な相違点である。
また、甲2〜甲9の記載及び技術常識を検討しても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(B5−3)について、申立人は、甲9発明の小麦粉組成物は、甲5〜甲8の記載に基づけば、それらの中位径、損傷澱粉量及び灰分は本件特許発明5に記載される範囲である蓋然性が高いか、又はそれらの中位径、損傷澱粉量及び灰分を本件特許発明5に記載される範囲に調整することは、当業者の設計事項であると主張する(特許異議申立書27頁11〜15行)。

しかし、記載(甲5−1)を含む甲5の記載、記載(甲6−1)及び記載(甲6−2)を含む甲6の記載、記載(甲7−1)を含む甲7の記載、記載(甲8−1)を含む甲8の記載は、いずれも、市販されている一般的な小麦粉についての記載である。甲9発明のベーカリー製品用小麦粉は、甲9及び甲5〜甲8の記載及び技術常識を検討しても、市販されている一般的な小麦粉と同質のものといえる根拠を見出すことはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分が、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内にあると認めることはできない。
また、甲2〜甲9の記載及び技術常識を検討しても、市販されている小麦粉と同質のものとは認められない甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の中位径、損傷澱粉量、及び灰分を、あえて市販されている小麦粉と同程度に変更する動機付けを見出すことはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉の粒径、損傷澱粉量、及び灰分を、本件特許発明5に含まれるベーカリー製品を製造するための小麦粉について特定される中位径、損傷澱粉量、及び灰分の範囲内のものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明5のベーカリー製品用生地は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、向上された伸展性、及び促進された形成性を有し、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(B5−1)及び相違点(B5−2)について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

オ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明5のベーカリー製品用生地を加熱する工程を含むベーカリー製品の製造方法であるから、本件特許発明5を使用することをその発明特定事項とする発明である。
上記エに示したとおり、本件特許発明5が、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない以上、本件特許発明6もまた、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

カ 本件特許発明7について
(ア)甲9発明との対比
本件特許発明7と甲9発明とを対比する。
本件特許発明7と甲9発明とは、
[相違点(B7−1)]
本件特許発明7は、「ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤」である一方、
甲9発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、及び

[相違点(B7−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明7に含まれる小麦粉では、「たん白質含量が10.8〜14.5質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを含む。」とされる一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、「小麦粉(1CW系)及び小麦粉(ASW系)を50:50の割合で混合してなる」とされる点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(B7−1)から検討する。
甲9には、記載(甲9−1)〜記載(甲9−2)を含めて、ドウ生地形成促進についての記載はなく、甲2〜甲9の記載から、又は技術常識に照らして、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉が、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤であるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(B7−1)は実質的な相違点である。
また、甲2〜9の記載及び技術常識を検討しても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤にすることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(B7−1)について、申立人は、甲9には、実施例2及び対照例の小麦粉組成物を用いてフランスパンを製造した際に、実施例2では作業性の評点が対照例より向上したことが記載されている(段落0023−0025、特に表5)から、当該小麦粉組成物は、製パン時の作業性を向上させることで、ドウ生地形成促進の作用を発揮しているものと認められると主張する(特許異議申立書29頁6〜10行)。

しかし、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉を用いて食パンを製造した際に、作業性が向上したとしても、甲2〜甲9の記載から、又は技術常識に照らして、作業性が、ベーカリー製品用小麦粉によるドウ生地形成促進の作用を反映したものといえる根拠は見出すことができない。
したがって、作業性が向上したとしても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉がドウ生地形成促進の作用を発揮しているとする根拠にはなり得ず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉が、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤であるとすることはできず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤とすることを、当業者が容易に想到し得たとすることもできない。
そして、本件特許発明7のベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(B7−2)について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

キ 本件特許発明8について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明8と甲9発明とを対比する。
本件特許発明8と甲9発明とは、
[相違点(B8−1)]
本件特許発明8は、「ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法」である一方、
甲9発明は、「ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉」である「ベーカリー製品用小麦粉」である点、及び

[相違点(B8−2)]
原料小麦粉の種類及びその割合が、
本件特許発明8で配合される小麦粉では、「たん白質含量が10.8〜14.5質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉A」とされる一方、
甲9発明のベーカリー製品用小麦粉では、「小麦粉(1CW系)及び小麦粉(ASW系)を50:50の割合で混合してなる」とされる点、
で相違する。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点(B8−1)から検討する。
本件特許発明は方法の発明である一方、甲1発明は物の発明であり、カテゴリーの点で相違する。
また、甲9には、記載(甲9−1)〜記載(甲9−2)を含めて、ドウ生地形成促進についての記載はなく、甲2〜甲9の記載から、又は技術常識に照らして、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉が、ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法に用いられるといえる根拠を見出すこともできないので、相違点(B8−1)は実質的な相違点である。
また、甲2〜9の記載及び技術常識を検討しても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法に用いることを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見出すこともできない。

相違点(B8−1)について、申立人は、甲9には、実施例2及び対照例の小麦粉組成物を用いてフランスパンを製造した際に、実施例2では作業性の評点が対照例より向上したことが記載されている(段落0023−0025、特に表5)から、当該小麦粉組成物は、製パン時の作業性を向上させることで、ドウ生地形成促進の作用を発揮しているものと認められると主張する(特許異議申立書29頁6〜10行)。

しかし、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉を用いて食パンを製造した際に、作業性が向上したとしても、甲2〜甲9の記載から、又は技術常識に照らして、作業性が、ベーカリー製品用小麦粉によるドウ生地形成促進の作用を反映したものといえる根拠は見出すことができない。

したがって、作業性が向上したとしても、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉がドウ生地形成促進の作用を発揮しているとする根拠にはなり得ず、甲9発明のベーカリー製品用小麦粉を、ベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法に用いることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
そして、本件特許発明8のベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法は、本件特許明細書(特に、段落0019〜段落0042)に記載されるとおり、生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口溶けが良いという当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認める。

以上のとおりであるから、相違点(B8−2)について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲9発明ではなく、甲2〜甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでもない。

ク 小括
以上、ア〜キに示したとおり、申立理由B及び申立理由Dには理由がない。

(3)申立理由Eについて
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきといえる。

イ 本件特許発明の課題
特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0001、段落0006、段落0009、段落0042)の記載から、
本件特許発明の課題は、
「ベーカリー製品用ドウ生地の生地弾性の緩和によって生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口どけが良い、ペーカリー製品用小麦粉、ベーカリー製品用ミックス、ベーカリー製品用生地、ベーカリー製品の製造方法、ベーカリー製品用のドウ生地形成促進剤、又はベーカリー製品用のドウ生地形成を促進する方法」を提供することであると認める。

ウ 発明の詳細な説明の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
記載(本−1)
「【0019】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.小麦及び小麦粉の分析
種々の小麦、及びその小麦を製粉して得た小麦粉の分析を行った。……。
各小麦、及びその小麦を製粉して得た小麦粉の分析結果を表1に示す。
【0020】
【表1】



記載(本−2)
「【0021】
2.小麦粉の物性評価
小麦粉の物性を評価した。小麦粉は、表1で示した資料4、8、9、10、及び強力粉(「クオリテ」昭和産業製)を用いた。……。
……
【0023】
(ii)ドウグラフでの生地形成時間
……。ドウグラフでの生地形成時間の結果を、クオリテと試料を混合した状態での損傷澱粉量、中位径、灰分と合わせて、表4に示す。
……
【0025】
【表4】

【0026】
表4に示した通り、たん白質が11.9質量%であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉(試料4)を10質量%含有することで、生地形成時間が、一般的な強力粉を用いた参考例1の場合より短くなった。」

記載(本−3)
「【0027】
3.ロールパン(冷生地法)の試験
……
評価結果を表5及び表6に示す。
【0028】
【表5】

【表6】

【0030】
表5及び表6に示した通り、たん白質含量が11.1〜13.9質量%であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉(試料1〜5)を1〜25質量%含有する小麦粉を配合した実施例1〜10のロールパンでは、生地形成時間が、一般的な強力粉を用いた参考例1の場合より短くなり、生地の伸展性も向上した。また、得られたロールパンのボリュームも良好であり、食感のソフト感、口どけも良好であった。一方、オーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉を同様に配合しても、たん白質含量が10.4質量%の小麦由来の小麦粉(試料6)を配合した比較例1では、生地形成時間の短縮、生地の伸展性の向上は認められたものの、得られたロールパンの食感の口どけの評価が低かった。オーストラリア産中間質小麦由来の小麦粉(試料7)を配合した比較例2、アメリカ産硬質小麦、又は日本産小麦由来の小麦粉(試料8〜11)を配合した比較例3〜6では、生地形成時間の短縮が認められなかった。また、試料4の小麦粉を30質量%含有する小麦粉を配合した比較例7のロールパンでは、生地形成時間の短縮、生地の伸展性の向上は認められたものの、得られたロールパンの食感の口どけの評価が低かった。したがって、たん白質含量が10.8〜14.5質量%であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉を0質量%超、25質量%以下含有する小麦粉を用いることで、ベーカリー製品用ドウ生地の生地弾性の緩和によって生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、口どけ良いことが示唆された。」

記載(本−4)
「【0031】
4.食パン(中種法)の試験
……。
評価結果を表7に示す。
【0032】
【表7】

【0033】
表7に示した通り、たん白質含量が10.8〜14.5質量%の範囲内であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉(試料2、4、5)を10質量%含有する小麦粉を配合した実施例11〜13の食パンでは、生地形成時間が、一般的な強力粉を用いた参考例2の場合より短くなり、生地の伸展性も向上した。また、得られた食パンの食感のソフト感、口どけも良好であった。一方、アメリカ産硬質小麦由来の小麦粉(試料9)を配合した比較例8では、生地形成時間の短縮、生地の伸展性の向上は認められず、得られた食パンの食感の評価も低かった。したがって、食パンの場合も、上述のロールパンの場合と同様な結果が得られるものと示唆された。」

記載(本−5)
「【0034】
5.バケット(ストレート法)の試験
……
評価結果を表8に示す。
【0035】
【表8】

【0036】
表8に示した通り、たん白質含量が10.8〜14.5質量%の範囲内であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉(試料2、4、5)を15質量%含有する小麦粉を配合した実施例14〜16のバケットでは、生地形成時間が、一般的にバケットに使用するフランスパン用粉を用いた参考例3の場合より短くなり、生地の伸展性も向上した。また、得られたバケットのボリュームも低下することなく、食感のクラストの歯切れ、モチ感(口どけを含む)も良好であった。一方、アメリカ産硬質小麦由来の小麦粉(試料9)を配合した比較例9では、生地形成時間の短縮、生地の伸展性の向上は認められず、得られたバケットのボリュームはやや低下し、食感の評価も低かった。したがって、バケットの場合も、上述のロールパンの場合と同様な結果が得られるものと示唆された。」

記載(本−6)
「【0037】
6.イーストドーナツの試験
……
評価結果を表9に示す。
【0038】
【表9】

【0039】
表9に示した通り、たん白質含量が10.8〜14.5質量%の範囲内であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉(試料2、4、5)を10質量%含有する小麦粉を配合した実施例17〜19のイーストドーナツでは、生地形成時間が、一般的な強力粉を用いた参考例4の場合より短くなり、生地の伸展性も向上した。また、得られたイーストドーナツのボリュームも低下することなく、食感のソフト感、歯切れも良好であった。一方、アメリカ産硬質小麦由来の小麦粉(試料9)を配合した比較例10では、生地形成時間の短縮、生地の伸展性の向上は認められず、得られたバケットのボリュームは低下し、食感の評価も低かった。したがって、イーストドーナツの場合も、上述のロールパンの場合と同様な結果が得られるものと示唆された。」

記載(本−7)
「【0040】
以上の結果から、たん白質含量が10.8〜14.5質量%であるオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉を0質量%超、25質量%以下含有する小麦粉を用いることで、ベーカリー製品用ドウ生地の生地弾性の緩和によって生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、歯切れ、口どけが良いことが示唆された。」

エ サポート要件についての判断
(ア)判断手法への当てはめ
記載(本−1)及び記載(本−2)によって、本件特許発明によって、ベーカリー製品用ドウ生地形成が促進されることが示されており、記載(本−1)及び記載(本−3)〜記載(本−7)により、本件特許発明によって、ベーカリー製品用ドウ生地の生地弾性の緩和によって生地伸展性を向上させ、且つ生地形成を促進することができ、さらに得られたベーカリー製品はボリューム、ソフト感、口どけ良いことが示されていることから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(イ)申立人の主張の検討
申立人は、サポート要件について、概略、以下(イ−1)及び(イ−2)の主張をしている。

主張(イ−1)(特許異議申立書29頁20行〜33頁12行)
甲2、甲10及び甲11より、本件特許明細書に記載される試料7が由来する「オーストラリア産中間質小麦」は、ASWであると推定される。
一方、日本に輸入されるASWは、オーストラリア産硬質小麦であるAPWを約40%含むjブレンド小麦であり、かつAPWはたん白質含量が11.3〜12.2%である(甲2〜甲4)。
よって、本件特許明細書の比較例2で用いた、クオリテと試料7からなる小麦粉は、たん白質含量が11.3〜12.2%であるオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉を約4%([小麦粉中の試料7含有量10%×[試料7中のAPW量40%])含有する。
また、比較例2で用いた小麦粉全体での損傷澱粉量、中位径、及び灰分が本件特許発明1に記載される範囲内であることは明らかである。
以上より、比較例2で用いた小麦粉は、本件特許発明1にかかるベーカリー製品用小麦粉に包含されるものである。
本件特許明細書において、本件特許発明の課題を解決できることが示されているのは、「本件特許発明1で特定する所定の範囲のたん白含量のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉を,本件特許発明1で特定する所定の含有量で含み」、「その他の小麦粉は強力粉からなり」、かつ「本件特許発明1で特定する所定の特徴を有する」ベーカリー製品用小麦粉のみであり、比較例2の結果を見る限り、たとえ所定のたん白含量のオーストラリア産硬質小麦由来の小麦粉を含んでいても、強力粉以外の小麦粉を含有する小麦粉は、本件特許発明の課題を解決できないと認められる。
また、本件特許発明1は、甲1又は甲9に記載されているようなASWを配合したパン用小麦粉と区別できないものであるから、従来公知の技術を包含するものである。
以上のとおり、本件特許発明1は、本件特許発明の課題を解決できない範囲を包含するものであり、かつ従来公知の技術を包含するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2、3についても同様である。また請求項4〜8についても同様の問題がある。

主張(イ−2)(特許異議申立書33頁13行〜35頁8行)
本件特許明細書には、ベーカリー製品製造に使用できるオーストラリア産硬質小麦としてたん白質含量が11.0〜14.0質量%のものが存在すること、及び、比較例としてたん白質含量が10.4質量%のオーストラリア産硬質小麦が存在することが開示されているだけであり、たん白質含量が「10.8質量%」のオーストラリア産硬質小麦が存在することや、その具体例については何ら開示されていない。
また、本件特許明細書の表5の比較例1(たん白質含量10.4質量%のオーストラリア産硬質小麦)でパンのボリュームや食感が低評価であったことを鑑みると、たん白質含量が10.8質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉を含むベーカリー製品用小麦粉が、本件特許発明の課題を解決できるものであることを確信できない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されていない事項を含むものであり、かつ本件特許発明の課題を解決できない範囲を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2、3についても同様である。請求項4〜5、請求項6、請求項7〜8についても、同様の問題がある。

申立人の上記主張(イ−1)について検討する。
国内に輸入される外国産の中間質小麦に、オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)があり、それがオーストラリアン・プレミアム・ホワイト(APW)を約40%含むブレンド小麦であることが知られているとしても、本件特許明細書に記載された試料7の「オーストラリア産中間質小麦」が、APWを約40%含むブレンド小麦であるASWであるとする根拠にはならず、本件特許明細書に記載された比較例2で用いた小麦粉が本件特許発明1に記載されるベーカリー製品用小麦粉に包含されるものであるとすることはできない。
また、本件特許明細書に記載された実施例が、「本件特許発明1で特定する所定の範囲のたん白含量のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉を,本件特許発明1で特定する所定の含有量で含み」、「その他の小麦粉は強力粉からなり」、かつ「本件特許発明1で特定する所定の特徴を有する」ベーカリー製品用小麦粉を用いたもののみであるとしても、そのことを以て、実施例以外の本件特許発明に係る小麦粉によっては、本件特許発明の課題を解決できないと、当業者が認識するとはいえない。
したがって、申立人の上記主張(イ−1)によって、上記(ア)の結論を覆すことはできない。

申立人の上記主張(イ−2)について検討する。
本件特許明細書に、たん白質含量が「10.8質量%」のオーストラリア産硬質小麦の具体例が示されていないとしても、そのことは、本件特許発明のうち、たん白質含量が10.8質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られる小麦粉Aを含む又は配合するものが、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項であるとする根拠にはならない。
また、たん白質含量10.4質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉を用いて製造されたパンのボリュームや食感が低評価であったとしても、そのことは、本件特許発明のうち、たん白質含量が10.8質量%のオーストラリア産硬質小麦から得られた小麦粉Aを含む又は配合するものが、本件特許発明の課題を解決できないと、当業者が認識するものである根拠にはならない。
したがって、申立人の上記主張(イ−2)によって、上記(ア)の結論を覆すことはできない。

(ウ)小括
以上、(ア)〜(イ)に示したとおり、申立理由Eには理由がない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜8に係る特許を取消すことはできない。
また、他に請求項1〜8に係る特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-11-29 
出願番号 P2020-541831
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A21D)
P 1 651・ 113- Y (A21D)
P 1 651・ 121- Y (A21D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 村上 騎見高
齊藤 真由美
登録日 2021-02-02 
登録番号 6831947
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 ベーカリー製品用小麦粉、ベーカリー製品用ミックス、及びベーカリー製品の製造方法  
代理人 野村 悟郎  

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