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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G16H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G16H
管理番号 1384177
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-19 
確定日 2021-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6833183号発明「散薬調剤業務支援システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6833183号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6833183号の請求項1〜3に係る特許についての出願(特願2019−82015号)は、平成27年1月14日になされた特許出願(特願2015−5370号)の一部を同31年4月23日に新たな特許出願としたものであり、令和3年2月5日にその特許権の設定登録がされ、同月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年8月19日に特許異議申立人中谷 浩美(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6833183号の請求項1〜3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
処方に関するデータであって患者に提供されるべき薬剤の情報を含む処方データに基づいて複数台の調剤機器を制御する調剤機器用制御装置と、複数台の調剤機器に含まれる少なくとも自動散薬分包装置と、複数の薬剤容器とを備え、
前記自動散薬分包装置は、前記薬剤容器から排出された散薬を配分する分配ユニットと、薬剤包装装置とが内部に設けられており、
前記自動散薬分包装置を用いて、前記処方データに基づき、前記薬剤容器から前記分配ユニットに散薬を排出する動作と、排出する散薬を計量する動作と、前記分配ユニットに排出された散薬を所定の数に分割する動作と、前記薬剤包装装置によって分割した散薬を個別に分包する分包動作とを含む完全自動分包動作と、
複数台の調剤機器の内の少なくとも一つを用いて、前記処方データに基づき、予め手動で秤量された薬剤を前記薬剤容器に充填し、前記充填した薬剤容器を用いて分包する手動分包動作とが実行可能であって、
前記調剤機器用制御装置と前記自動散薬分包装置の少なくともいずれかが前記処方データに基づいて、患者に提供されるべき散薬の全てを前記完全自動分包動作によって分包可能か否かを判別する判別動作を実施し、前記判別動作の結果、前記完全自動分包動作が実行可能である場合、前記手動分包動作よりも前記完全自動分包動作を優先的に実施させることを特徴とする散薬調剤業務支援システム。
【請求項2】
処方に関するデータであって患者に提供されるべき薬剤の情報を含む処方データに基づいて複数台の調剤機器を制御する調剤機器用制御装置と、複数台の調剤機器に含まれる少なくとも自動散薬分包装置と、散薬を収容するための複数の薬剤容器とを備え、
前記自動散薬分包装置は、前記薬剤容器から排出された散薬を包装する薬剤包装装置が少なくとも内部に設けられており、
前記自動散薬分包装置を用いて、前記処方データに基づき、所定の散薬が収容された前記薬剤容器から排出する散薬を計量する動作と、散薬を個別に分包する分包動作とを含む完全自動分包動作と、
複数台の調剤機器の内の少なくとも一つを用いて、前記処方データに基づき、予め手動で秤量された薬剤を前記薬剤容器に充填し、前記充填した薬剤容器を用いて分包する手動分包動作とが実行可能であって、
前記調剤機器用制御装置と前記自動散薬分包装置の少なくともいずれかが前記処方データに基づいて、患者に提供されるべき散薬の全てを前記完全自動分包動作によって分包可能か否かを判別する判別動作を実施し、前記判別動作の結果、前記完全自動分包動作が実行可能である場合、前記手動分包動作よりも前記完全自動分包動作を優先的に実施させることを特徴とする散薬調剤業務支援システム。
【請求項3】
前記複数台の調剤機器の内の少なくとも一つは、薬剤秤量装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の散薬調剤業務支援システム。」

第3 特許異議申立ての理由の概要
1 理由1
請求項1〜3に係る特許は、甲第1号証(特開平5−285200号公報)及び甲第2号証(国際公開第2013/154202号)の記載事項によれば、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 理由2
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、「完全自動分包動作」では、散薬の排出する前段階で、薬剤容器に予め手動で秤量された薬剤を充填することが含まれ、「手動分包動作」では、秤量された薬剤を充填した薬剤容器を用いて分包する際に、自動散薬分包装置を用いて、排出、計量、分割、分包(完全自動分包動作の動き)をすることが含まれており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
3 理由3
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、「少なくとも一つの調剤機器を用いて、秤量された薬剤を薬剤容器に充填し、分包する」と特定されており、手動分包動作が一つの調剤機器で秤量、充填、分包の全てを行うことが含まれるものにまで拡張ないし一般化されており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。(以下「理由3の1」という。)
また、この特許請求の範囲の記載事項に関する補正(令和2年8月21日提出の手続補正書による補正)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、請求項1〜3の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。(同「理由3の2」という。)
4 理由4
請求項1及び3の特許は、特許請求の範囲の記載において、排出動作と計量動作とが並列記載されており、このため、薬剤容器からの排出分を予め計量した後に排出を実行する手順を含むものとなっており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
5 理由5
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、同一の薬剤容器を用いて完全自動分包動作と手動分包動作とを行うことを含むものとなっており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
6 理由6
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、「完全自動分包動作が実行できない場合に実行可能となる半自動分包動作に含まれる完全自動分包動作と同様の動作」を手動分包動作より優先的に実施することが含まれるものにまで拡張ないし一般化されており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
7 理由7
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、完全自動分包動作が実行可能である場合、手動分包動作よりも完全自動分包動作を優先的に実施させるとなっており、発明の詳細な説明に記載された半自動分包動作に含まれる完全自動分包動作と同様の動作の「選択的な実施」を「優先的な実施」にまで拡張ないし一般化したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
8 理由8
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、完全自動分包動作と手動分包動作が同一動作(秤量と計量)を含むことになっており、システムという物の発明として、どのような構成が特定されるのか不明であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
9 理由9
請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、完全自動分包動作と手動分包動作が同一動作(秤量と計量)を含むことから、手動分包動作を実施することの技術的意義が不明であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第4 当審の判断
1 理由1について
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証
(ア)甲第1号証には以下のとおりの記載がある。
【0007】
【実施例】図1はこの発明による散薬供給装置の一実施例を示したものであり、この散薬供給装置は、多数の散薬収容器1、1、…と、任意の散薬収容器1に収容された散薬を、平面的にしかも集団で移動させて取出位置2に必要量取り出す手段3、9(移動手段3および計量手段9)と、取り出された散薬を一定量ずつに分割する手段11とを具えている。すなわち、移動手段3は、任意の散薬収容器1を取出位置2にもたらすものであり、また、計量装置9は、取出位置2において散薬収容器1から散薬を必要量排出させるものである。各散薬収容器1は、散薬をストックするストック部4と、ストックした散薬を少量ずつ排出させる排出部5とから構成されている。排出部5は、適宜に構成することが可能であるが、たとえば、排出路中に設けたスクリューの回転、停止と、出口に設けたシャッタの開、閉とを組み合わせることによって、実現することができる。移動手段3は、以下に説明するように、循環装置6として構成されている。散薬収容器1、1、…は、平面内において、左右方向に延びた循環路に沿って配置されている。この循環路には、それを一方向または両方向に循環(または反転移動)させるようになった循環装置6が設けられ、そのため、各散薬収容器1、1、…は、循環装置6の作動によって、平面内において、一方向または両方向に循環(または反転移動)するように一体的に組み合わされている。取出位置2には、この位置にもたらされた散薬収容器1の排出部5を作動させる駆動装置8と、駆動装置8の作動により排出部5から排出される散薬を計量する計量装置9とが設けられ、計量装置9の計量値があらかじめ決められた必要量に達すると、駆動装置8が排出部5の作動を停止させるように構成されている。散薬収容器1の取り出しに関連した各部の作動、すなわち、循環装置6の作動による取り出すべき散薬収容器1の指定およびその実行は、制御装置10によって制御されるようになっている。すなわち、循環装置6は、散薬収容器1、1、…のなかから、制御装置10で指定された散薬収容器1が、取出位置2に対応した位置にくるように、散薬収容器1、1、…全体を、集団で移動させるように構成されている。このような循環装置6としては、適宜のものが使用可能であるから、その構成についての詳細な説明は省略することとする。また、取出位置2に隣接して、分割装置11が設けられ、分割装置11は、駆動装置8および計量装置9の作動により、散薬収容器1から取り出されたあらかじめ決められた必要量の散薬を、まず、環状または円弧状に配分したうえ、それを放射状に所定角度ずつ分割して、それにより1回服用量ずつに分割された散薬を、包装装置12に供給するように構成されている。このような分割装置11としては、適宜のものが使用可能であるから、その構成についての詳細な説明は省略することとする。計量装置9と、分割装置11との間には、必要に応じて、計量装置9で計量し終わった散薬を分割装置11に導入するための適宜の移送装置を設けることができるが、このような移送装置は、たとえば、計量装置9と一体に構成することもできる。また、分割装置11には、取出位置2から散薬を導入するための移送装置とは別に、散薬の移送に一般によく使われる適宜の振動フィーダを、手撒き装置13として設けておくことが好ましい。そのようにすれば、散薬収容器1、1、…に収容されていない種類の散薬であっても、薬剤師が、手作業で必要量だけ取り出して手撒き装置13に投入することにより、その散薬を、散薬収容器1、1、…に収容されている散薬と同様に取り扱って、分割装置11に導入することができる。また、取出位置2における散薬収容器1に関連した各部の作動、すなわち、駆動装置8および計量装置9の作動による排出すべき散薬の排出量の決定およびその実行は、制御装置10によって制御されるようになっている。また、散薬収容器1から取り出された散薬に関連した各部の作動、すなわち、分割装置11および包装装置12の作動による分割一定量および包装数の決定およびその実行も、制御装置10によって制御されるようになっている。さらに、制御装置10としては、コンピュータ制御方式を利用した適宜のものが使用可能であるから、その構成についての詳細な説明は省略するが、たとえば、医師から発行された処方箋の内容が入力される適宜の調剤システムの一環として構成すると、必要な散薬の調剤から患者への投薬に至るまでの薬局業務全体の流れを、より円滑に行うことが可能となる。
【0008】つぎに、上記のように構成された散薬供給装置の作用について説明する。まず、制御装置10によって、取出位置2に取り出すべき散薬収容器1を指定する。すると、循環装置6が作動して、指定された散薬収容器1が取出位置2に対応した位置にくるまで、散薬収容器1、1、…全体を集団で移動させる。つぎに、取出位置2にもたらされた散薬収容器1の排出部5を駆動装置8が作動させ、それにより排出部5から排出される散薬の排出量が、計量装置9の計量値としてあらかじめ決められた必要量に達すると、駆動装置8が排出部5の作動を停止させる。つぎに、取出位置2において散薬収容器1から取り出されたあらかじめ決められた必要量の散薬は、分割装置11に導入され、分割装置11の作動によって、1回服用量ずつに分割されたうえ、包装装置12の作動によって、その1回服用量ずつそれぞれ1包に分包されることとなる。そのため、薬剤師は、調剤に必要な散薬収容器1を、多数の散薬収容器1、1、…のなかから選び出すことが不要であるだけでなく、その散薬収容器1から散薬を必要量取り出すことも、さらには、取り出された散薬を一定量ずつに分割することも不要であり、したがって、散薬収容器1、1、…に収容されている種類の散薬である限り、手作業の必要が全くないこととなる。そして、散薬収容器1、1、…に収容されていない種類の散薬であっても、薬剤師が、手作業で必要量だけ取り出して手撒き装置13に投入することにより、その散薬を、散薬収容器1、1、…に収容されている散薬と同様に取り扱って、分割装置11に導入して1回服用量ずつに分割したうえ、包装装置12によって1包ずつに分包することができる。また、所定の調剤作業が終了した散薬収容器1は、循環装置6が、つぎの散薬収容器1を取出位置2にもたらすため作動するのにともなって、自動的に、取出位置2から離間することとなる。

(イ)甲1発明
上記(ア)の記載によれば、甲第1号証には、
a1’ コンピュータ制御方式を利用したものであり、医師から発行された処方箋の内容が入力される調剤システムであって、
その調剤システムの一環として構成された制御装置10と、散薬供給装置と、複数の散薬収容器1とを備え、
b1 前記散薬供給装置は、散薬収容器1から取り出されたあらかじめ決められた必要量の散薬を、分割して包装装置12に供給する分割装置11と、包装装置12とが内部に設けられており、
c1’ 制御装置10によって、取り出すべき散薬収容器1を指定し、散薬供給装置の駆動装置8により散薬収容器1の排出部を駆動して散薬収容器1から分割装置11に散薬を排出させ、計量装置9により排出部から排出される散薬を計量し、散薬収容器1から取り出されたあらかじめ決められた必要量の散薬を環状または円弧状に配分して所定角度ずつ分割して一回服用量ずつに分割し、分割された散薬を包装装置12によって分包し、
d1’ 振動フィーダを手撒き装置13として設けておくことにより、散薬収容器1に収容されていない種類の散薬であっても、薬剤師が手作業で必要量だけ取り出して手撒き装置13に投入することにより、分割装置11に導入することができ、
e1’ 散薬収容器1に収容されている種類の散薬である限り、手作業の必要が全くないこととなり、散薬収容器1に収容されていない種類の散薬であっても、手作業で手撒き装置13に投入することにより散薬収容器1に収容されている散薬と同様に取り扱って、分割装置11に導入して1回服用量ずつに分割したうえ、包装装置12によって分包できる、
f1 調剤システム
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

イ 甲第2号証
(ア)甲第2号証には、以下のとおりの記載がある。
[0014][薬品秤量システム1]
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る薬品秤量システム1は、薬品を秤量する薬品秤量装置10及び薬品を包装する薬品包装装置20を備えている。医師又は薬剤師などのユーザーは、薬品を薬剤シート30(薬品載置部材の一例)上に載せて前記薬品秤量装置10で秤量する。その後、ユーザーは、秤量した薬品が載置された前記薬剤シート30を前記薬品包装装置20まで移動させ、その薬品を前記薬品包装装置20に投入する。これにより、その薬品は前記薬品包装装置20で1包ずつ分けて包装される。

[0019] 前記天秤ユニット12は、ステンレス製の天秤台19に載置された薬品を秤量する秤量手段の一例である。具体的に、前記天秤ユニット12は、平衡回路、フォースコイル、電流/電圧変換回路、A/D変換回路などを備えた従来周知の電子天秤でも用いられる天秤ユニットである。前記天秤ユニット12で秤量された薬品の重量はデジタルデータとして前記制御部11に入力される。なお、前記薬品秤量装置10には、前記天秤台19上の散薬の風による飛散を防止する風防カバー(不図示)が着脱可能である。
[0020] ユーザーは、前記薬品秤量装置10で薬品を秤量する際、前記天秤台19上に前記薬剤シート30を載せた後、前記薬剤シート30上に薬品を載せる。また、前記薬剤シート30には各種の情報が読み書きされる記録媒体としてRFIDタグ31が設けられている。ここに、前記RFIDタグ31は、前記薬剤シート30が前記天秤台19上に載置されたときに前記RFIDリーダライタ14によるデータの読み書きが可能な位置に設けられている。なお、前記天秤ユニット12は、予め設定された前記薬剤シート30及び前記RFIDタグ31の重量を差し引いた値を薬品の秤量値とする。

[0044][薬品包装装置20]
続いて、図1及び図4を参照しつつ、前記薬品包装装置20の概略構成について説明する。
[0045] 図1及び図4に示すように、前記薬品包装装置20は、制御部21、包装ユニット22、タッチパネル23、RFIDリーダライタ24、及び供給ホッパー25などを備えている。前記薬品包装装置20は、投入された散薬を1包分ずつ包装するものであり、散薬分包機とも称される。

[0052]<ステップS1>
まず、ステップS1において、前記制御部11は、処方箋情報の読み取りを待ち受ける(S1のNo側)。具体的に、前記制御部11は、前記バーコードリーダー17により処方箋に記録された二次元コードが読み取られた場合に、前記処方箋情報が読み取られたと判断する。そして、ユーザーが処方箋の二次元コードを前記バーコードリーダー17にかざすことにより、前記バーコードリーダー17によって前記二次元コードが読み取られると(S1のYes側)、前記制御部11は処理をステップS2に移行させる。ここで、前記二次元コードから読み取られる前記処方箋情報には、処方箋交付年月日、患者ID、患者名、患者生年月日、剤形情報(内服、外用など)、薬品情報(薬品コード、薬品名、用量)、用法情報(1日3回毎食後など)などの前記処方箋に記録された情報が含まれている。

[0064]<ステップS6>
ステップS6において、前記制御部11は、前記処方箋情報から前記収容薬品名に対応する処方薬品名の薬品を秤量するための秤量画面41を前記タッチパネル13に表示させる。このとき、前記制御部11は、前記天秤ユニット12による薬品の秤量値及び前記処方薬品名の薬品の秤量の目標値を前記秤量画面41上に表示させる。

[0068]<ステップS7>
そして、ステップS7において、前記制御部11は、当該処方薬品名の秤量の完了を待ち受ける(S7のNo側)。具体的に、前記制御部11は、図7に示すように前記秤量画面41に表示された前記決定キー411が操作されることにより、当該処方薬品名の秤量の完了と判断する。そして、前記制御部11は、当該処方薬品名の秤量完了と判断すると(S7のYes側)、処理をステップS8に移行させる。なお、前記制御部11は、当該処方薬品名の秤量が完了した場合にその旨をRAMなどに記憶させる。

[0123]<ステップS33>
ステップS33において、前記制御部21は、前記RFIDタグ31から前記薬剤シート30に載置された薬品の薬品名(以下「投入薬品名」という)が読み取られたか否かを判断する。なお、前記ステップS31において、前記RFIDタグ31から処方箋情報が読み取られる場合には、同時に前記投入薬品名も読み取られるため、当該ステップ33では前記投入薬品名が読み取られたと判断されることになる。
[0124] ここで、前記制御部21は、前記投入薬品名が読み取られると(S33のYes側)、処理をステップS34に移行させ、前記投入薬品名が読み取られるまでの間は(S33のNo側)、処理を前記ステップS31に移行させる。
[0125]<ステップS34>
そして、ステップS34において、前記制御部21は、前記処方箋情報と前記投入薬品名とに基づいて前記ホッパー25A又は前記ホッパー25Bのいずれを使用するかを選択する。例えば、前記ステップS32において、患者C1に処方する薬品の包装は前記ホッパー25Aを使用し、患者C2に処方する薬品の包装は前記ホッパー25Bを使用することが設定されている場合を考える。この場合、前記ステップS34では、患者C1に対応する処方箋情報に含まれた投入薬品名が読み取られると前記ホッパー25Aが選択され、患者C2に対応する処方箋情報に含まれた投入薬品名が読み取られると前記ホッパー25Bが選択される。
[0126] なお、前記RFIDタグ31に前記処方箋情報が記録されていない場合であっても、前記ステップS32では、前記上位システムから入力される処方箋情報や処方箋の二次元コードから読み取られる処方箋情報に基づいて前記ホッパー25A又は前記ホッパー25Bのいずれを使用するかが選択される。そのため、前記RFIDタグ31には、少なくとも前記薬剤シート30に載置された薬品に関する薬品名及び秤量値などの情報が記憶されていれば、前記制御部21がその情報に基づいて前記ステップS34における判断を行うことができる。具体的に、前記制御部21は、前記薬剤シート30に載置された薬品に関する薬品名及び秤量値に該当する処方薬品名及び処方量が含まれた処方箋情報を特定し、その処方箋情報に対応する前記ホッパー25A又は前記ホッパー25Bのいずれかを選択する。
[0127]<ステップS35>
ステップS35において、前記制御部21は、前記ステップS34における選択結果を前記タッチパネル23に文字又は画像によって表示させる。例えば、前記制御部21は、「A薬品をAホッパーに投入してください」などの案内表示を行うことが考えられる。なお、当該表示は、前記ホッパー25A又は前記ホッパー25Bのいずれかをユーザーに通知するために行われるものであって、前記タッチパネル23上における表示に限らない。
[0128] 例えば、前記制御部21は、前記選択結果を音声によって表示することも考えられる。また、前記ホッパー25A及び前記ホッパー25B各々にLEDなどを設けておき、前記制御部21が前記LEDのいずれかを点灯させることにより前記選択結果を表示させることも考えられる。さらに、前記ホッパー25A及び前記ホッパー25Bの投入口が所定の駆動手段により開閉可能な構成であれば、前記制御部21が前記駆動手段を制御して前記ホッパー25A及び前記ホッパー25Bの投入口のいずれかを開放させることにより前記選択結果を表示させることも考えられる。また、前記ホッパー25A及び前記ホッパー25B各々の投入口にその投入口の開放を制限するロック手段が設けられており、前記制御部21が、前記ロック手段のいずれか一方のみを解除して他方をロック状態とすることにより、ユーザーが前記薬剤シート30の薬品を投入するべき前記投入口のみを開放可能な状態にすることも考えられる。
(イ)甲第2号証に記載された技術的事項
上記(ア)の記載によると、甲第2号証には、
薬品秤量装置10と薬品包装装置20とを備える薬品秤量システム1において、医師や薬剤師などのユーザーが、処方箋情報に基づいて、薬品秤量装置10を用いて散薬を薬剤シート30に載せて秤量し、ユーザーは、薬剤シート30の秤量された散薬を薬品包装置20のホッパーの投入口に投入して分包する技術
(以下、「甲第2号証に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

(2)請求項1に係る発明について
ア 対比
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「処方箋の内容」、「散薬収容器1」及び「散薬供給装置」は、それぞれ、本件発明の「処方に関するデータであって患者に提供されるべき薬剤の情報を含む処方データ」(以下単に「処方データ」という。)、「薬剤容器」及び「自動散薬分包装置」に相当する。また、甲1発明の「散薬収容器1から取り出されたあらかじめ決められた必要量の散薬を、分割して包装装置12に供給する分割装置11」と「包装装置12」とは、いずれも自動散薬分包装置の内部に設けられるものであり、それぞれ本件発明の「前記薬剤容器から排出された散薬を配分する分配ユニット」と「薬剤包装装置」に相当する。
甲1発明の「調剤システム」と本件発明の「散薬調剤業務支援システム」とは、下記の相違点を除いて、共通するといえる。
(イ)甲1発明の「調剤システムの一環として構成された制御装置10」は、制御の対象が複数台の調剤機器でなく自動散薬分包装置のみであるが、自動散薬分包装置を制御する制御装置である点で、本件発明の「調剤機器用制御装置」に対応する。
(ウ)甲1発明のc1’中の「取り出すべき散薬収容器1を指定し、散薬供給装置の駆動装置により散薬収容器1の排出部を駆動して散薬収容器1から分割装置11に散薬を排出させ」ること、「計量装置9により排出部から排出される散薬を計量」すること、「散薬収容器1から取り出されたあらかじめ決められた必要量の散薬を環状または円弧状に配分して所定角度ずつ分割して一回服用量ずつに分割」すること、及び「分割された散薬を包装装置12によって分包」することは、いずれも自動散薬分包装置を用いて処方データに基づいて行われる動作であり、それぞれ、本件発明の「前記薬剤容器から前記分配ユニットに散薬を排出する動作」、「排出する散薬を計量する動作」、「前記分配ユニットに排出された散薬を所定の数に分割する動作」及び「前記薬剤包装装置によって分割した散薬を個別に分包する分包動作」に相当する。よって、甲1発明は、本件発明と同様に、「自動散薬分包装置」を用いて処方データに基づいてこれらを含む「完全自動分包動作」に相当する動作を行うものであり、この点は、一致点となる。
(エ)甲1発明のd1’中の「散薬収容器1に収容されていない種類の散薬」を「薬剤師が手作業で必要量だけ取り出して手撒き装置13に投入すること」は、複数台の調剤機器の内の少なくとも一つを用いて予め秤量された薬剤を充填した薬剤容器ではなく「手撒き装置13」である「振動フィーダ」を用いるものであるものの、処方データに基づいて予め手動で秤量された薬剤を分包する分包動作である点で、本件発明の「手動分包動作」に対応するものである。
(オ)甲1発明は、本件発明と異なり、「前記調剤機器用制御装置と前記自動散薬分包装置の少なくともいずれかが前記処方データに基づいて、患者に提供されるべき散薬の全てを前記完全自動分包動作によって分包可能か否かを判別する判別動作」を実施するものといえないから、この点は、相違点である。
(カ)よって、両発明の一致点は、次のとおりである。
(一致点)
「処方に関するデータであって患者に提供されるべき薬剤の情報を含む処方データに基づいて自動散薬分包装置を制御する制御装置と、自動散薬分包装置と、複数の薬剤容器とを備え、
前記自動散薬分包装置は、前記薬剤容器から排出された散薬を配分する分配ユニットと、薬剤包装装置とが内部に設けられており、
前記自動散薬分包装置を用いて、前記処方データに基づき、前記薬剤容器から前記分配ユニットに散薬を排出する動作と、排出する散薬を計量する動作と、前記分配ユニットに排出された散薬を所定の数に分割する動作と、前記薬剤包装装置によって分割した散薬を個別に分包する分包動作とを含む完全自動分包動作と、
処方データに基づき予め手動で秤量された薬剤を分包する分包動作とが実行可能である、
散薬調剤業務支援システム。」
(キ)そして、両発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
自動散薬分包装置を制御する制御装置が、本件発明では、「複数台の調剤機器を制御する調剤機器用制御装置」であるのに対し、甲1発明では、複数台の調剤機器ではなく自動散薬分包装置のみを制御するものである点。
(相違点2)
自動散薬分包装置において実行可能である、処方データに基づき予め手動で秤量された薬剤を分包する分包動作が、本件発明では、「複数台の調剤機器の内の少なくとも一つを用い」て「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いて行われる「手動分包動作」であるのに対し、甲1発明では、複数台の調剤機器の内の少なくとも一つを用いて予め秤量された薬剤を充填した薬剤容器ではなく、「手撒き装置13」である「振動フィーダ」を用いて行われる動作である点。
(相違点3)
本件発明は、「前記調剤機器用制御装置と前記自動散薬分包装置の少なくともいずれかが前記処方データに基づいて、患者に提供されるべき散薬の全てを前記完全自動分包動作によって分包可能か否かを判別する判別動作」(以下単に「判別動作」という。)を「実施」して「前記判別動作の結果、前記完全自動分包動作が実行可能である場合」に「前記手動分包動作よりも前記完全自動分包動作を優先的に実施させる」のに対し、甲1発明は、このような判別動作を実施しない点。
(ク)申立人の主張について
申立人は、相違点3及び上記(オ)について、甲第1号証の記載から「e1 前記制御装置が前記処方箋の内容に基づいて、患者に提供されるべき散薬の全てが散薬収容器1に収容されていると判別した場合、手作業の必要が全くなく前記自動分包動作を実施させる」旨を認定できる旨、及び、この点は相違点ではなく一致点である旨を主張している。
しかし、甲第1号証の記載事項は、上記(1)ア(ア)に示したとおりであって、「患者に提供されるべき散薬の全てが散薬収容器1に収容されている」か否かを「判別」することは記載されていない。よって、甲第1号証の記載からe1を認定することはできず、この点は、一致点ではなく相違点である。
相違点の判断
事案に鑑み、相違点3について判断する。
上記ア(ク)に示したとおり、申立人は、相違点3が一致点である旨を主張しており、相違点3の判断に係る副引例を示していない。申立人が提出する甲第2号証は、相違点3についての副引例として示されたものでなく、薬品秤量装置と薬品包装装置とを備える薬品秤量システムを開示するのみで、相違点3の判断に関する内容は記載されていない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、相違点3について容易想到であるとはいえないから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項2、3に係る発明について
請求項2に係る発明も、上記(2)で検討した請求項1に係る発明における相違点3に係る構成と同様の構成を備えるものであり、請求項1に係る発明についてと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る発明に、さらに技術的事項を追加したものであるから、請求項1及び請求項2に係る発明についてと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
以上のとおり、請求項1〜3に係る発明は、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1〜3に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

2 理由2について
(1)「秤量」について
請求項1〜3の記載における「秤量」について、発明の詳細な説明には、「ところで、この手動分包動作では、上記した完全自動分包動作とは異なり、薬剤の供給量を測定する動作を実施せず、手動式薬剤容器47に収容された薬剤を全て分配ユニット68に供給する。すなわち、使用者が予め手動で秤量を実施し、手動式薬剤容器47に規定量(最終的に供給する量)だけ薬剤を充填しておく必要がある。」(段落【0097】)の記載がある。この記載は、手動分包動作が手動式薬剤容器に収容された薬剤全てを分配ユニットに供給するものであることを示すとともに、この手動分包動作に関連して、処方された薬剤の一つについて手動式薬剤容器に充填されて供給される薬剤の規定量の計量を意味する用語として「秤量」を用いているものである。また、発明の詳細な説明の「完全自動分包動作実施される場合と、準自動分包動作を実施される場合のいずれにしても、処方データに含まれる処方で提供される薬剤が完全自動散薬分包機5のみで分包されることとなる。すなわち、他機(本実施形態では薬剤秤量装置3)による秤量を実行することなく、分包が可能となる。」(段落【0125】)の記載においても、処方で提供される薬剤の分包のための計量を意味する用語として「秤量」を用いている。このように、「秤量」とは、処方された薬剤の一つについて分包されるべく供給される薬剤の「規定量」を計量することである。発明の詳細な説明における「計量(秤量)」との記載(段落【0014】等)も、「秤量」の意味が上記のとおりであることから「秤量」が「計量」の下位概念となることを踏まえたものであり、「計量」と「秤量」は同義ではない。

(2)「完全自動分包動作」について
請求項1には、「完全自動分包動作」について、「前記自動散薬分包装置を用いて、前記処方データに基づき、前記薬剤容器から前記分配ユニットに散薬を排出する動作と、排出する散薬を計量する動作と、前記分配ユニットに排出された散薬を所定の数に分割する動作と、前記薬剤包装装置によって分割した散薬を個別に分包する分包動作とを含む完全自動分包動作と、・・・手動分包動作とが実行可能であって、」と記載されている。
また、請求項2には、「完全自動分包動作」について、「前記自動散薬分包装置を用いて、前記処方データに基づき、所定の散薬が収容された前記薬剤容器から排出する散薬を計量する動作と、散薬を個別に分包する分包動作とを含む完全自動分包動作と、・・・手動分包動作とが実行可能であって、」と記載されている。
これらの記載によれば、まず、請求項1及び請求項2の「完全自動分包動作」は、いずれも、「処方データ」に基づいて「自動散薬分包装置」を用いて実行可能な動作である。
そして、請求項1の「完全自動分包動作」は、「前記薬剤容器から前記分配ユニットに散薬を排出する動作」、「排出する散薬を計量する動作」、「前記分配ユニットに排出された散薬を所定の数に分割する動作」及び「前記薬剤包装装置によって分割した散薬を個別に分包する分包動作」を含む動作として特定されている。
また、請求項2の「完全自動分包動作」は、「所定の散薬が収容された前記薬剤容器から排出する散薬を計量する動作」と「散薬を個別に分包する分包動作」を含む動作として特定されている。請求項2では、「完全自動分包動作」の「分包動作」の対象となる「散薬」が「薬剤容器から排出された散薬」である旨は、完全自動分包動作として明示されていないものの、「分包」のための「包装」に用いられる「薬剤包装装置」(「自動散薬分包装置」の「内部」に設けられた「薬剤包装装置」)の説明として「薬剤容器から排出された散薬」を包装する旨が明示されているから、「完全自動分包動作」において「分包」される「散薬」が「薬剤容器から排出された散薬」であることは、請求項2の記載においても明らかである。
なお、請求項3は、請求項1又は請求項2を引用する引用形式請求項であり、請求項3の「完全自動分包動作」は、被引用請求項の「完全自動分包動作」となる。また、発明の詳細な説明においては、段落【0078】〜【0088】に完全自動分包動作について記載されている。

(3)「手動分包動作」について
請求項1には、「手動分包動作」について、「前記自動散薬分包装置を用いて、前記処方データに基づき、・・・完全自動分包動作と、複数台の調剤機器の内の少なくとも一つを用いて、前記処方データに基づき、予め手動で秤量された薬剤を前記薬剤容器に充填し、前記充填した薬剤容器を用いて分包する手動分包動作とが実行可能であって、」と記載されている。
この記載においては、「手動分包動作」は、「処方データ」に基づいて「自動散薬分包装置」を用いて実行可能な動作であり、さらに、「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いて分包する動作であること、その際の「手動」での「秤量」は、「複数台の調剤機器の内の少なくとも一つ」を用いて「処方データ」に基づいて行われることが特定されている。
請求項2、3に記載された「手動分包動作」は、請求項1の「手動分包動作」と同じである。
なお、発明の詳細な説明においては、上記(1)に示した段落【0097】を含め、段落【0093】〜【0097】に手動分包動作について記載されている。

(4)申立人の主張について
ア 請求項1〜3の「完全自動分包動作」では「散薬を排出する前段階で、薬剤容器に予め手動で秤量された薬剤を充填することも含まれて」いると主張している。
しかし、上記(2)に示した請求項1〜3に記載されている「完全自動分包動作」によれば、「処方データ」に従って「分包」される「散薬」は、「薬剤容器」から「排出された」ものとなっており、この「散薬」の「薬剤容器」からの「排出」にあたって「処方データ」に基づいて「排出する散薬を計量」する旨が特定されている。このことを踏まえれば、請求項1〜3の「完全自動分包動作」について、散薬を排出する前段階で手動での秤量のような処方データに基づく計量を行わない旨の明示的な記載がなくとも、「完全自動分包動作」が散薬を排出する前段階で手動での秤量のような処方データに基づく計量を伴うものではないこと、すなわち、そのような前段階での手動での秤量を行うものを含まないことは、明らかである。
イ 申立人は、さらに、請求項1〜3の「手動分包動作」では、秤量された薬剤を充填した薬剤容器を用いて分包する際に、自動散薬分包装置を用いた「計量」をすることが含まれているとも主張している。
しかしながら、上記(3)に示したとおり、請求項1〜3の「手動分包動作」は「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いて分包する動作であることが明示されており、このことは、上記(1)に示した発明の詳細な説明の記載と整合している。請求項1〜3において自動散薬分包装置を用いた「計量」をしない旨を記載していないことは、記載要件の判断とは無関係である。

(5)よって、請求項1〜3の特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。
申立人の主張は、請求項1〜3に記載された事項についての誤った理解によるものであり、採用することができない。

3 理由3(理由3の1、理由3の2)について
(1)理由3の1について
ア 請求項1〜3の記載について
上記2(3)に示したとおり、請求項1〜3の「手動分包動作」は、「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いて分包する動作であり、その際「手動」での「秤量」が「複数台の調剤機器の内の少なくとも一つ」を用いて「処方データ」に基づいて行われることが特定されている。また、「秤量」とは、上記2(1)に示したとおり、処方された薬剤の一つについて分包されるべく供給される薬剤の「規定量」を計量することであって、「計量」と同義ではない。
イ これに対し、発明の詳細な説明の「手動分包動作」(段落【0093】〜【0097】)も、「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いて分包する動作であるといえる。そして、発明の詳細な説明の段落【0126】〜【0136】等には、「手動」による「秤量」を「薬剤秤量装置3」を用いて行うことが記載されているものの、段落【0157】には、「公知の天秤等の機器」を用いて行うことが記載されており、「薬剤秤量装置3」以外の「調剤機器」を用いることが可能であることが示されている。
この点、発明の詳細な説明には、上記2(1)に示した段落【0097】及び【0125】の記載があり、完全自動分包動作についての「この手動分包動作では、上記した完全自動分包動作とは異なり、薬剤の供給量を測定する動作を実施せず」、「完全自動分包動作実施される場合・・処方データに含まれる処方で提供される薬剤が完全自動散薬分包機5のみで分包されることとなる。すなわち、他機(本実施形態では薬剤秤量装置3)による秤量を実行することなく、分包が可能」との記載は、完全自動分包動作における「薬剤の供給量を測定する動作」としての計量動作は「秤量」に該当する動作であり、そのような計量動作を「完全自動分包動作」においては「他機」によって実行する必要がない旨を示す記載であるといえるが、「手動分包動作」において「秤量」を「他機」で実行する必要がある旨を示す記載ではない。
ウ 以上を踏まえれば、請求項1〜3において、「手動」での「秤量」が「複数台の調剤機器の内の少なくとも一つ」を用いて行われうることについて、サポート要件違反はなく、請求項1〜3の特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

(2)理由3の2について
令和2年8月21日提出の手続補正書による補正後の請求項1〜3の記載事項は、上記(1)アに示したとおりであり、他方、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載した事項は、上記(1)イに示したとおりである。これらを踏まえれば、上記補正における、請求項1〜3に「手動」での「秤量」が「複数台の調剤機器の内の少なくとも一つ」を用いて行われうる旨を含む「手動分包動作」についての記載が追加されたことは、願書に最初に添付した明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項を導入したものではない。
よって、請求項1〜3の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものではない。

4 理由4について
請求項1の記載によれば、「完全自動分包動作」について、排出動作と計量動作とが並列記載されており、予め手動による秤量を行わない旨は、明示的には記載されていない。
しかしながら、上記2(4)に示したとおり、「完全自動分包動作」が散薬を排出する前段階で手動での秤量のような処方データに基づく計量を伴うものでなく、明示的な記載がなくとも、このような秤量を行うものが含まれないことは、明らかである。
また、このことは、請求項1の従属請求項である請求項3においても同様である。
よって、請求項1及び3の特許が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

5 理由5について
(1)請求項1〜3における「前記薬剤容器」は、いずれも「複数の薬剤容器とを備え、」の記載における「薬剤容器」を受けて「前記」と記載されているものであって、薬剤容器が「散薬調剤業務支援システム」が備える「複数の薬剤容器」のいずれかである旨を示している。そして、上記2(3)及び2(4)に示したとおり、請求項1〜3の記載によれば、「完全自動分包動作」は、散薬を排出する前段階での手動での秤量を行うものを含んでおらず、「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」したものではない「薬剤容器」を用いた動作であり、他方、「手動分包動作」は、「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いた動作であるから、「完全自動分包動作」と「手動分包動作」は、どのように「薬剤容器」が用いられるかという観点において明確に区別されているといえる。
(2)この点、申立人は、発明の詳細な説明においては、「完全自動分包動作」では「自動式薬剤容器46」が用いられ、「手動分包動作」では「手動式薬剤容器47」が用いられており、同一の薬剤容器を用いて、完全自動分包動作と手動分包動作とを実行することにまで拡張ないし一般化することはできないと主張している。
しかし、請求項1〜3の記載において「完全自動分包動作」と「手動分包動作」とは、「自動式薬剤容器46」と「手動式薬剤容器47」の構造上の違いを発明特定事項とするまでもなく、どのように「薬剤容器」が用いられるかという観点で区別されているといえる。そして、発明の詳細な説明に記載された「手動式薬剤容器47」は、手動で秤量された薬剤の充填のための「薬剤投入部」が「薬剤排出部」と別位置に設けられている点を除けば、「自動式薬剤容器46」と「略同じ構造」のものであるから(段落【0075】)、どのように「薬剤容器」が用いられるかという観点において「完全自動分包動作」と「手動分包動作」が区別されている以上、「略同じ構造」の「薬剤容器」における違いは、サポート要件の判断と無関係である。
(3)以上を踏まえれば、両動作における薬剤容器が同一のものでないことを明示するか否かは、サポート要件の判断とは無関係であり、申立人の主張は、サポート要件違反の主張として失当である。

6 理由6
(1)「判別動作」について
請求項1〜3には、「患者に提供されるべき散薬の全てを前記完全自動分包動作によって分包可能か否かを判別する判別動作」と記載されており、「判別動作」は、処方された散薬の「全て」を「完全自動分包動作」によって分包可能であるかの判別を行うものである。
この「判別動作」に対応して、発明の詳細な説明には、「処方が完全自動散薬分包機5だけで自動的に処理できる処方であるか否かを判別する判別動作が実施される(STEP2)。」(【0109】)、「判別動作(STEP2)の結果、処方データに含まれる処方が完全自動散薬分包機5だけで自動的に処理できる処方であり(STEP3でYes)、さらに完全自動分包動作が対応可能である(STEP4でYes)場合には、そのまま完全自動散薬分包機5で完全自動分包動作が実施される(STEP5)。」(【0124】)と記載されている。
そして、請求項1〜3の「前記判別動作の結果、前記完全自動分包動作が実行可能である場合」の処理は、発明の詳細な説明では、「完全自動分包動作」の「実施」(STEP5)に至るSTEP3とSTEP4がいずれもYesの場合の処理に対応している。
(2)申立人は、請求項1〜3に「前記手動分包動作よりも前記完全自動分包動作を優先的に実施させる」と記載されているのに対して、発明の詳細な説明には、「半自動分包動作」(段落【0098】〜【0101】)に含まれる完全自動分包動作と同様の動作を手動分包動作より優先的に実施することは記載されていない旨を主張している。
しかし、上記(1)に示したとおり、請求項1〜3の「前記判別動作の結果、前記完全自動分包動作が実行可能である場合」の処理は、発明の詳細な説明では、「完全自動分包動作」の「実施」(STEP5)に至るSTEP3とSTEP4がいずれもYesの場合の処理に対応しており、他方、発明の詳細な説明において、「半自動分包動作」(STEP15)について、「判別動作(STEP2)の結果、完全自動散薬分包機5だけで自動的に処理できない処方と判別された場合(STEP3でNo)」(【0126】)の処理として「・・・対象となる処方が混在状態である場合(STEP9でYesの場合)、選択変更操作が実施されない限り(STEP11でYesである限り)、半自動分包動作で分包が実施される。」(【0139】)と記載されているように、「半自動分包動作」は、STEP3とSTEP4がいずれもYesの場合の処理ではないものとして記載されている。
(3)以上を踏まえれば、申立人の主張は、請求項1〜3の記載に対応しない発明の詳細な説明に基づく主張であって、サポート要件違反の主張として失当である。

7 理由7について
申立人は、請求項1〜3に「前記手動分包動作よりも前記完全自動分包動作を優先的に実施させる」と記載されているのに対して、発明の詳細な説明には、半自動分包動作を実行する処理では選択変更動作の実施によって全ての薬剤を秤量でき、完全自動分包動作が選択的に実施されており、この「選択的な実施」を請求項1、2に記載の「優先的な実施」にまで拡張一般化することができない旨を主張している。
しかし、上記6に示したとおり、請求項1〜3の「前記判別動作の結果、前記完全自動分包動作が実行可能である場合」の処理は、発明の詳細な説明では、「完全自動分包動作」の「実施」(STEP5)に至るSTEP3とSTEP4がいずれもYesの場合の処理に対応しており、他方、発明の詳細な説明において、「選択的な実施」を含む「半自動分包動作」は、STEP3とSTEP4がいずれもYesの場合の処理ではないものとして記載されている。
よって、申立人の主張は、請求項1〜3の記載に対応しない発明の詳細な説明に基づく主張であって、サポート要件違反の主張として失当である。

8 理由8、理由9について
申立人は、請求項1〜3の特許は、特許請求の範囲の記載において、完全自動分包動作と手動分包動作が同一動作(秤量と計量)を含むことを前提として、明確性要件違反を主張している。
しかし、上記2に示したとおり、請求項1〜3の記載において、「完全自動分包動作」は、散薬を排出する前段階で手動での秤量のような処方データに基づく計量を伴うものでなく、他方、「手動分包動作」は、「予め手動で秤量された薬剤」を「充填」した「薬剤容器」を用いて分包する動作であるから、両者が「同一動作(秤量と計量)を含む」という申立人の主張の前提は、請求項1〜3の記載に基づくものとなっていない。
よって、申立人の主張は、請求項1〜3の記載に基づくものでなく、明確性要件違反の主張として失当である。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-02 
出願番号 P2019-082015
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G16H)
P 1 651・ 537- Y (G16H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 松田 直也
相崎 裕恒
登録日 2021-02-05 
登録番号 6833183
権利者 株式会社湯山製作所
発明の名称 散薬調剤業務支援システム  
代理人 藤田 隆  

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