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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1384181
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-24 
確定日 2022-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6832070号発明「クロロゲン酸を含有する飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6832070号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6832070号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年3月25日に特許出願され、令和3年2月3日に特許権の設定登録がされ、同年同月24日にその特許公報が発行され、その後、同年8月24日に、特許異議申立人 猪狩 充(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1〜10に係る特許に対して、特許異議の申立てがされ、同年10月22日付けで当審から取消理由通知が通知され、同年12月16日に意見書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明10」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
容器詰飲料であって、
クロロゲン酸の含有量が0.2〜100ppmであり、
クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであり、
リモネンの含有量が0.01〜90ppmであり、
アルコール含有量が1〜10v/v%であり、そして
波長500nmにおける吸光度が0.2以下である、
前記飲料。
【請求項2】
リモネンの含有量が0.1〜10ppmである、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
ショ糖換算で甘味度が20%未満である、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
果汁を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
チューハイ又はチューハイテイスト飲料である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項6】
乳化剤の含有量が0.1w/w%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項7】
さらに炭酸を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項8】
クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0.01〜18.0g/Lである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項9】
容器詰飲料の製造方法であって、
当該飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程、
当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程、
当該飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程、
当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程、及び
当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程
を含む、前記製造方法。
【請求項10】
容器詰飲料のさっぱり感及び/又はキレを向上する方法であって、
当該飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程、
当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程、
当該飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程、
当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程、及び
当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程
を含む、前記方法。」

第3 取消理由及び特許異議申立理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
特許異議申立人は、下記の甲第1〜14号証を提出し、以下の異議申立理由を主張している。
(1)新規性
異議申立理由1−1:請求項1〜10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第3〜5号証を参照すると、甲第1号証の実施例7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1〜10に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

異議申立理由1−2:請求項1〜10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第3〜5号証を参照すると、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1〜10に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

異議申立理由1−3:請求項1〜10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1、3〜5号証を参照すると、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1〜10に係る特許は同法第29条第1項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

(2)進歩性
異議申立理由2:請求項1〜10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明および甲第3号証〜甲第14号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

(3)サポート要件
異議申立理由3:請求項1〜10に係る発明について、請求項1〜10に係る発明の効果を奏することが確認されているのはアルコール含有量5v/v%、ショ糖2.46%相当の甘味度、クロロゲン酸10mg/Lおよびクエン酸0.1g/Lの試料1−6に、0.1〜10ppmのリモネンを含有させた場合のみであり、請求項1〜10に係る発明は、この範囲外の場合の本件特許発明の効果が支持されておらず、発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い範囲を記載していることになるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。



甲第1号証:国際公開2009/104660号
甲第2号証:特開2013−106539号公報
甲第3号証:Food Chemistry,2008年,Vol.111,p.789〜794
甲第4号証:J.Agric. Food Chem.,1994年,Vol.42,p.782〜784
甲第5号証:特開2010−98985号公報
甲第6号証:Fatih Yildiz編,Advances in Food Biochemistry,CRC Press,2010年,p.313〜339
甲第7号証:日本食品科学工学会誌、1997年3月、第44巻、第3号、p.243〜247
甲第8号証:特開2007−117063号公報
甲第9号証:特開2013−126393号公報
甲第10号証:庄司 いずみ著、おいしくてキレイになれる デトックス・フルーツ事典、株式会社主婦の友社、2012年11月20日、p.26
甲第11号証:日本分析化学専門学校編、知っておきたい 化学の豆知識、株式会社化学同人、2005年1月10日、p.34〜35
甲第12号証:秋葉光雄著、リモネンの化学と有効利用−技術資料集、株式会社シーエムシー出版、2014年4月30日、p.197〜200
甲第13号証:化学と工業、1985年、第38巻、第7号、p.506〜508
甲第14号証:特開2010−75183号公報

2 当審が通知した取消理由

取消理由1−1:(新規性)請求項1〜9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物3〜5(甲第3〜5号証)を参照すると、本件特許出願前に電子通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報1(甲第1号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1〜9に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

取消理由1−3:(新規性)請求項1〜9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物3〜5(甲第3〜5号証)を参照すると、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物2(甲第2号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1〜9に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。



電子的技術情報1:国際公開2009/104660号(特許異議申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2:特開2013−106539号公報(特許異議申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3:Food Chemistry,2008年,Vol.111,p.789〜794(特許異議申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4:J.Agric. Food Chem.,1994年,Vol.42,p.782〜784(特許異議申立人の提出した甲第4号証)
刊行物5:特開2010−98985号公報(特許異議申立人の提出した甲第5号証)

第4 当審の判断
当審は、請求項1〜10に係る特許は、当審の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 甲号証(刊行物又は電子的技術情報)の記載事項
(1)甲第1号証
本件の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的情報である甲第1号証には、以下の記載がある。

(1a)「[0010]
本発明は、アルコールの刺激を低減させた高アルコール飲料において、酒類の好ましい香気である、フルーティーで爽やかな成熟した果実の香味(成熟した甘い蜜様の味わい、エステル様香味)を増強させた、これまでにない優れた果実感と風味とを有するアルコール飲料を提供することを目的とする。特に、本発明は、リンゴ果汁、グレープフルーツ果汁、又はふどう果汁を用いた、成熟した果実の香味を楽しむことのできる、アルコール飲料を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0011]
本発明者らは、上記目的に関して鋭意検討を行った結果、リンゴ果汁を用いた高アルコール飲料の場合には、クロロゲン酸類を飲料に特定量含有させることにより、成熟したリンゴの蜜様の味わいを飲料に付与できることを見いだした。クロロゲン酸類は、リンゴ未熟果などに多く含まれる成分であり、苦味や渋味の原因となることが知られている成分であるから、クロロゲン酸類により成熟したリンゴの甘い蜜様の味わいを付与できることは驚くべきことであった。
[0012]
また、グレープフルーツ果汁を用いた高アルコール飲料の場合には、驚くべきことに、リンゴ酸を飲料に特定量含有させることにより、成熟したグレープフルーツ果実のような濃厚でまろやかな果実香(エステル様香味)を増強させることができることを見いだした。
[0013]
さらに、ぶどう果汁を用いた高アルコール飲料の場合には、カリウムイオンを飲料に特定量含有させることにより、酒類の好ましい爽やかなエステル様香味と、成熟したぶどう果実の濃厚でまろやかな香味(エステル様香味)を増強させることができることを見いだした。一般に、ぶどう果汁には酒石酸が多く含まれており、長期間保存すると果汁中に酒石が析出することが知られているが、本発明により得られた特定量のカリウムイオンを含有するぶどう果汁の高アルコール飲料では、驚くべきことに、長期保存を行なった場合でも、酒石が析出しなかった。」

(1b)「[0015]
本発明により、アルコール特有の刺激が低減又は消去され、かつ、リンゴ果汁を用いた場合には、成熟したリンゴのような甘い蜜様の味わいである新しい風味を有し、グレープフルーツ果汁を用いた場合には、酒類の好ましいエステル様香味が増強されており従来にない成熟したグレープフルーツ果実の香味を有し、そしてぶどう果汁を用いた場合には、酒類の好ましいエステル様香味が増強されており従来にない成熟したぶどう果実の香味を有する、酒類の好ましい成熟した果実の香気(甘い蜜様の味わい、エステル様香味)が増強された、従来にない風味を有する高アルコール飲料が得られる。」

(1c)「[0018]
本発明において使用できるアルコール含有飲料は、飲用可能なアルコールを含むものであれば特に限定されず、例えば、醸造アルコール、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、ニュースピリッツ等のスピリッツ、および原料用アルコールなど)、リキュール類、ウイスキー類(例えばウイスキー、ブランデーなど)又は焼酎(甲類、乙類)等、更には清酒、ワイン、ビール等の醸造酒、が挙げられる。これらのアルコール含有飲料は、1種又は2種以上を組合せて用いることができる。アルコール含有飲料の種類は、所望の香味に合わせて、適宜選択することができる。本発明の高アルコール飲料では、リンゴ果汁を用いた飲料の場合には、リンゴ果汁の香りや、本発明により付与される成熟したリンゴの蜜様の味わいなどの風味を引き立てることができるという点から、スピリッツやラム等を用いることが好ましく、グレープフルーツ果汁又はぶどう果汁を用いた飲料の場合には、グレープフルーツ又はぶどうの香りや味わいを引き立てることができるという点から、スピリッツやブランデー等を用いることが好ましい。」

(1d)「[0020](リンゴ果汁含有アルコール飲料)
リンゴ果汁を用いる場合の飲料中のクロロゲン酸類の含有量は、5.0mg/100ml以上、好ましくは5.5mg/100ml以上である。クロロゲン酸類の含有量が、5.0mg/100ml未満であると、本発明の特徴である成熟したリンゴの蜜様の味わいを十分に付与することができない。クロロゲン酸類の含有量の上限は、所望する風味、嗜好等により適宜設定すればよいが、クロロゲン酸類は苦味や渋味の原因として知られている成分であるから、その含有量が高くなり過ぎると、アルコール飲料の呈味を損なうこともあるので、通常、クロロゲン酸類の含有量は、100mg/100ml以下、好ましくは50mg/100ml以下程度である。
[0021]
クロロゲン酸類は、一般に、熱に不安定で容易に分解することが知られているが、本発明のアルコール飲料は高濃度のアルコールを含有することから加熱殺菌の必要がないので、加熱によりクロロゲン酸が分解するという問題が生じにくい。また、本発明の高アルコール飲料は高い保存安定性を有し、風味の変化等の品質劣化が起りにくい。すなわち、本発明の高アルコール飲料は長期間に渡って成熟したリンゴの蜜様の味わいや独特の風味を味わうことができる。
[0022]
本発明に用いられるクロロゲン酸類としては、これを含有する天然物、特に植物から抽出したもの又はその精製品であってもよいし、化学合成により工業的に製造したものであってもよいが、中でも植物から抽出したものが特に好ましい。クロロゲン酸類を含有する植物としては、例えば、コーヒー生豆、南天の葉、リンゴ等が挙げられる。本発明の植物から抽出したクロロゲン酸類としては、これら植物体から抽出した精製品や、植物体からの抽出物そのもの(例えば、果汁)を用いることができる。本発明では、リンゴ風味の高アルコール飲料に添加するという観点から、リンゴからの抽出物を用いることが好ましい。リンゴ抽出物としては、リンゴ果汁(特に、クロロゲン酸濃度が高められた濃縮果汁)やクロロゲン酸を高濃度に含有する市販のリンゴ抽出物(例えば、ニッカウヰスキー(株)「アップルフェノン」)等を用いることができる。
[0023]
本発明におけるクロロゲン酸類としては、具体的には、3−カフェイルキナ酸、4−カフェイルキナ酸、5−カフェイルキナ酸、3,4−ジカフェイルキナ酸、3,5−ジカフェイルキナ酸、4,5−ジカフェイルキナ酸、3−フェルリルキナ酸、4−フェルリルキナ酸、5−フェルリルキナ酸及び3−フェルリル−4−カフェイルキナ酸等が含まれる。また、クロロゲン酸類は、塩にすることにより水溶性を向上させることができる。本発明では、これらの食品中に使用可能な塩であれば、いずれも用いることができる。このような塩形成用の塩基物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が用いられるが、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。本発明の高アルコール飲料に塩形態のクロロゲン酸類を含有させる場合には、塩形態のクロロゲン酸類を飲料に添加してもよいし、クロロゲン酸類と塩形成用成分とを別々に飲料に添加してもよい。
[0024](グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料)
グレープフルーツ果汁を用いる場合の飲料中のリンゴ酸の含有量は、60mg/100ml以上、好ましくは100mg/100ml以上、より好ましくは150mg/100ml以上である。リンゴ酸の含有量が、60mg/100ml未満であると、グレープフルーツの風味を改善するには不十分であり、また、エステル様香味の増強や成熟した果実のような香味を十分に付与することができない。リンゴ酸の含有量の上限は、所望する風味、嗜好等により適宜設定すればよいが、高アルコール飲料中の酸度が高くなり過ぎると、酸味とアルコール特有の刺激とが相加的又は相乗的に作用して高アルコール飲料の呈味を低下させる場合がある。そのため、通常、高アルコール飲料中の酸度(100mlアルコール飲料中の、クエン酸に換算した重量g)が、好ましくは10g以下、より好ましくは8g以下となるような範囲でリンゴ酸を含有させることが好ましい。なお、本発明のアルコール飲料に含有されるリンゴ酸の量は、試料に過塩素酸と水を加え、ろ過し、高速液体クロマトグラフを用いることにより分析した。
[0025]
本発明で用いるリンゴ酸は、植物に広く分布し、リンゴやブドウ等の果実に多量に含まれている有機酸である。本発明におけるリンゴ酸の種類としては、リンゴ酸及び/又はリンゴ酸塩を利用することができる。リンゴ酸塩は、食品衛生法上許容されるものであれば特に制限されないが、具体的には、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を併用して用いることができる。本発明で用いるリンゴ酸の形態も何ら制限されるものではなく、市販の精製品を用いてもよいし、上記の植物抽出物、具体的にはリンゴやブドウ等の果汁又はその濃縮物として、本発明の飲料へ添加することもできる。」

(1e)「[0028]
本発明のアルコール飲料はリンゴ果汁、グレープフルーツ果汁、又はぶどう果汁を含むものであり、それぞれの果実の有する風味を味わうことができる飲料である。そして、本発明のアルコール飲料では、これらの果汁に加え、必要に応じてそれぞれの果実の香味を有する香料を用いてもよい。各果実の風味を味わうことができるのであれば、果汁や香料の配合量は問わないが、果汁率換算で80%以上、好ましくは100%以上となるように果汁を配合すると、高アルコール飲料におけるアルコールの刺激を低減又は消去できるから、好ましい。
[0029]
本発明のアルコール飲料は、各果実より得られるストレート果汁、または、それを濃縮または希釈した果汁、を用いて調製することができる。高い果汁率を有するアルコール飲料を調製するという点からは、各果実の濃縮果汁を用いることが好ましい。果汁としては、透明果汁、混濁果汁及びセミクリア果汁のいずれをも用いることができる。
・・・
[0031]
本発明のアルコール飲料には、必要に応じて、リンゴ果汁、グレープフルーツ果汁、ぶどう果汁以外の他の果汁を、各果実の風味を損なわない範囲で、配合してもよい。このように複数種類の果汁を用いる場合も、その合計の果汁率が80%以上、特に100%以上、とすることが好ましい。
[0032]
一般的に、「果汁率」とは、果実を搾汁して得られるストレート果汁を100%としたときの相対濃度であり、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される各果実に特有の糖用屈折指示度の基準Bx(°Bx)に基づいて換算できる。例えば、JAS規格によればグレープフルーツ果汁の基準Bxは9°であり、ぶどう果汁の基準Bxは11°であり、リンゴ果汁の基準Bxは10°である。したがって、例えばBx70°のリンゴ果汁は、7倍濃縮のリンゴ果汁である。」

(1f)「[0038]
本発明のアルコール飲料においては、各種成分(クロロゲン酸類、リンゴ酸、カリウムイオン)、アルコール及び各果汁(リンゴ果汁、グレープフルーツ果汁、ぶどう果汁)の他にも、上記の性質を損なわない限り、通常アルコール含有飲料に配合するような、糖類、酸類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。しかし、上記のとおり、本発明のアルコール飲料は、今までにない成熟した果実の香味を味わうことができ、甘味料・糖類等を加えずに天然果実由来の甘さ、すなわち果実本来の甘さ、美味しさを味わうことができるものであるから、甘味料、糖類等を加えずに、天然果実由来の甘さ、美味しさを味わうのも一つの態様である。また、その他の成分を添加するならば、果実本来の美味しさを味わう観点から、糖酸味を変えないもの、異味を与えないものを選択することが好ましく、具体的には、香料、色素類、酸化防止剤等から選ばれる一以上を選択するのが好ましい。
・・・
[0040]
本発明のアルコール飲料は、そのまま飲用してもよいし、希釈して飲用する希釈型アルコール飲料用のアルコールベースとして利用してもよい。また、そのままの形態で、アイスクリームやヨーグルト等のフルーツソースとして、また、パンやキャンディー等に添加するための素材(フルーツベース)としても利用可能である。いずれの形態においても、アルコール特有のピリピリとする刺激感がほぼ消去され、成熟した果実の好ましい香味(エステル様香味、甘い蜜様の味わい)を味わうことができる。」

(1g)「[0048]実施例1(リンゴ果汁含有アルコール飲料)
表1に示す配合量の各成分及び水を用いて、Brix:22.7°、酸度:0.565g/100mlの4種類のリンゴ果汁含有アルコール飲料を製造した。得られた各飲料のアルコールによるピリピリ感について、◎:ピリピリ感を感じない、○:ピリピリ感をほとんど感じない、△:ピリピリ感を若干感じる、×:ピリピリ感を感じる、の4段階で評価した。また、成熟したリンゴの甘い蜜様の味わいについて、比較例1を基準として、×:比較例1より蜜様の味わいを感じない、△:比較例1と同程度、○:比較例1より蜜様の味わいをやや感じる、◎:比較例1より蜜様の味わいを大きく感じる、の4段階で評価した。また、リンゴ果汁含有アルコール飲料のアミノ態窒素量を、バンスライク法(バンスライクに亜硝酸ナトリウム、酢酸、及び試料溶液を加え、発生する窒素ガス量からアミノ態窒素量を算出する方法)により測定した。さらに、クロロゲン酸類の含有量を、アルコール飲料に過塩素酸と水を加えてろ過した試料を用い、高速液体クロマトグラフ法にて分析たした。結果を表1に示す。
[0049][表1]

比較例1及び本発明品1の果汁率(B)は100%であり、アルコール(A)に対する比率(B/A)は11.1、本発明品2及び3の果汁率は210%であり、アルコールに対する比率は23.3であった。アルコールのピリピリ感は、比較例1及び本発明品1でごく僅かに感じられたが、本発明品2及び3はピリピリ感では感じられなかった。成熟したリンゴの甘い蜜様の味わいは、比較例1(総クロロゲン酸量2.7mg/100ml)の場合はほとんど感じられなかったが、比較例1にクロロゲン酸を添加した試料(本発明品1;総クロロゲン酸量5.7mg/100ml)では顕著に感じられた。また、リンゴ果汁由来のクロロゲン酸を5.7mg/100ml含有する試料(本発明品2)では、本発明品1と同程度の甘い蜜様の味わいが感じられ、さらに、本発明品2にクロロゲン酸を添加した試料(本発明品3;総クロロゲン量14.0mg/100ml)では、より一層、甘い蜜様の味わいが感じられた。
[0050]
この結果から、リンゴ風味の高アルコール飲料において、総クロロゲン酸量が5.0mg/100ml以上であると、成熟したリンゴのような甘い蜜様の味わいが、クロロゲン酸濃度に応じて感じられること、果汁(B)のアルコール(A)に対する割合(B/A)が11.5を上回るとピリピリ感が感じられなくなることが示された。
[0051]実施例2(リンゴ果汁含有アルコール飲料)
表2に示す配合量で、リンゴ果汁濃縮果汁と、アルコールとを混合し、加水して全量を1000mlにした。これを密封容器(ガラス瓶)に充填して常温で1日保存(貯蔵)し、アルコール濃度9〜30v/v%、果汁率約230、310、430、520%の果汁含有アルコール飲料を製造した。
[0052]
このアルコール飲料におけるアミノ態窒素量及びクロロゲン酸量を、実施例1と同様に求めた。また、このアルコール飲料を飲用して官能評価を行った。評価項目は、1)アルコールのピリピリ感、2)成熟したリンゴの甘い蜜様の味わい、について官能評価した。評価点は、実施例1における比較例1(果汁率100%)を基準に、×:基準よりピリピリ感を感じる(又は蜜様の味わいを感じない)、△:基準と同程度、○:基準よりもピリピリ感を感じない(又は蜜様の味わいをやや感じる)、◎:基準よりも極めてピリピリ感を感じない(又は蜜様の味わいを大きく感じる)、で評価した。結果を、表2に示す(官能評価の結果は、上段がピリピリ感、下段が蜜様の味わいを示す)。
[0053][表2]

いずれのリンゴ果汁含有アルコール飲料もクロロゲン酸が5.0mg/100ml以上であり、9v/v%以上の高濃度のアルコールを含有する飲料であっても良好な甘い蜜様の味わいを有していた。アルコールのピリピリ感は、アルコールに対して果汁率換算で11.5倍以上(B/A≧11.5)の果汁を含有する飲料でほぼ消去でき、特に、果汁率換算で300%以上であり、かつアルコールに対して19.0倍以上(B/A≧19.0)であると、ピリピリ感は感じられず、クロロゲン酸による甘い蜜様の味わいが一層増強された新しい風味を有する高アルコール飲料となった。」

(1h)「[0054]実施例3(リンゴ果汁含有アルコール飲料)
以下に示す配合で原材料を混合し、果汁率約420%、アルコール度数16v/v%のリンゴ果汁含有アルコール飲料を製造した。
[0055]
リンゴ透明濃縮果汁(Bx70;7倍濃縮) 600g
59v/v%アルコール(スピリッツ) 136ml
ラム(59v/v%) 136ml
水にて1000mlに調整
このアルコール飲料中のクロロゲン酸量は、29.4mg/100mlであった。この高濃度のクロロゲン酸を含有するアルコール飲料を23℃で7ヶ月間保存したが、保存中の風味の変化は確認されず、甘い蜜様の味わいを維持していた。
[0056]実施例4(リンゴ果汁含有アルコール飲料(希釈))
実施例3で製造したリンゴ果汁含有アルコール飲料を水又は炭酸水で容量比で4倍に希釈し、希釈型のアルコール飲料を得た。水で希釈した飲料も炭酸水で希釈した飲料も、それぞれ、希釈前と同様に、アルコールのピリピリ感がなく、また、成熟したリンゴの甘い蜜様の味わいとまろやかな厚みのある風味とを有していた。」

(1i)「[0057]実施例5(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料)
表3に示す配合量の各成分及び水を用いて、Brix:21.0°、酸度:1.89g/100mlの4種類のグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料、各100mlを製造した。(なお、用いたグレープフルーツ果汁には、1g当たり2.1mgのリンゴ酸が含まれている。)参考例2と同様にして、各飲料のアルコールのピリピリ感について、◎:ピリピリ感を感じない、○:ピリピリ感をほとんど感じない、△:ピリピリ感を若干感じる、×:ピリピリ感を感じる、の4段階で評価した。また、エステル様香味について、比較例2を基準として、×:よりエステル様香味を感じない、△:比較例2と同程度、○:比較例2よりエステル様香味をやや感じる、◎:比較例2よりエステル様香味を大きく感じる、の4段階で評価した。また、グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料のアミノ態窒素量を、バンスライク法(バンスライクに亜硝酸ナトリウム、酢酸と試料溶液を加え、発生する窒素ガス量からアミノ体窒素量を算出する方法)により測定した。さらに、リンゴ酸の含有量を高速液体クロマトグラフ法にて分析した。試料に過塩素酸と水を加え、ろ過後に高速液体クロマトグラフィーにて測定を行った。結果を表3に示す。
[0058][表3]

表中の果汁率は、式:(濃縮果汁配合量(g)×濃縮倍率)/100ml×100、によって算出した。比較例2及び本発明品4の果汁率(B)は100%であり、アルコール(A)に対する比率(B/A)は11.1、本発明品5及び6の果汁率は210%であり、アルコールに対する比率は23.3であった。アルコールのピリピリ感は、比較例2及び本発明品4でごく僅かに感じられたが、本発明品5及び6はピリピリ感では感じられなかった。エステル様香味は、比較例2(総リンゴ酸量30.0mg/100ml)の場合はほとんど感じられなかったが、比較例2にリンゴ酸を添加した試料(本発明品4;総リンゴ酸量62mg/100ml)では顕著に感じられた。また、グレープフルーツ果汁由来のリンゴ酸を含有する試料(本発明品5;総リンゴ酸量62mg/100ml)では、本発明品4と同程度のエステル様香味が感じられ、さらに、本発明品5にリンゴ酸を添加した試料(本発明品6;総リンゴ酸量160mg/100ml)では、より一層、華やかなエステル様香味が感じられた。
[0059]
この結果から、グレープフルーツ風味の高アルコール飲料において、総リンゴ酸量が60mg/100ml以上であると、フルーティで爽やかなエステル様香味が、リンゴ酸濃度に応じて感じられること、果汁(B)のアルコール(A)に対する割合(B/A)が11.5を上回るとよりピリピリ感が感じられなくなり、エステル様香味が付与されることが示唆された。
[0060]
さらに、リンゴ酸の添加量に応じて、飲料の厚みが増し、果実らしさ・ジューシー感(水々しさ)が増加し、本発明品2及び3では、成熟したグレープフルーツ果実のような香味が感じられた。
[0061]実施例6(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料)
表4に示す配合量で、グレープフルーツ濃縮果汁と、アルコールとを混合し、加水して全量を1000mlにした。これを密封容器(ガラス瓶)に充填して常温で1日保存(貯蔵)し、アルコール濃度9〜30v/v%、果汁率約230、310、430、520%の果汁含有アルコール飲料を製造した。表中の果汁率は、式:(濃縮果汁配合量(g)×濃縮倍率)/100ml×100、によって算出した。
[0062]
このアルコール飲料におけるアミノ態窒素量及びリンゴ酸量を、実施例5と同様に求めた。また、このアルコール飲料を飲用して官能評価を行った。評価項目は、1)アルコールのピリピリ感、2)エステル様香味、とした。評価点は、実施例5における比較例2(果汁率100%)を基準に、×:基準よりピリピリ感を感じる(又はエステル様香味を感じない)、△:基準と同程度、○:基準よりもピリピリ感を感じない(又はエステル様香味をやや感じる)、◎:基準よりも極めてピリピリ感を感じない(又はエステル様香味を大きく感じる)、で評価した。結果を、表4に示す(官能評価の結果は、上段がピリピリ感、下段がエステル様香味を示す)。
[0063][表4]

いずれのグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料もリンゴ酸が60mg/100ml以上であり、9v/v%以上の高濃度のアルコールを含有する飲料において良好なエステル様香味を有していた。アルコールのピリピリ感は、アルコールに対して果汁率換算で11.5倍以上(B/A≧11.5)の果汁を含有する飲料でほぼ消去でき、特に、果汁率換算で300%以上であり、かつアルコールに対して19.0倍以上(B/A≧19.0)であると、ピリピリ感は感じられず、リンゴ酸によるエステル様香味が一層増強され、厚みのある成熟果実の様な香味を有する高アルコール飲料となった。
[0064] 実施例7(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料(希釈))
実施例5で製造した本発明品5に水を混合して2倍に希釈し、希釈型飲料を得た。希釈後の飲料も、希釈前と同様の性質を示し、アルコールのピリピリ感のない、エステル様香味を有し、厚みのある成熟果実のような香味を有するグレープフルーツ飲料であった。」

(1j)「請求の範囲
[1]アルコール度数9v/v%以上の果汁含有アルコール飲料であって、前記果汁は、リンゴ果汁、グレープフルーツ果汁、及びぶどう果汁からなる群から選択される1種であり、
(A)前記果汁がリンゴ果汁である場合には、5.0mg/100ml以上のクロロゲン酸類を含み、
(B)前記果汁がグレープフルーツ果汁である場合には、60mg/100ml以上のリンゴ酸を含み、そして、
(C)前記果汁がぶどう果汁である場合には、30mg/100ml以上のカリウムイオンを含む、
前記アルコール飲料。」

(2)甲第2号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明には、果糖の含有量が高いため甘味が強いものになってしまう傾向にあった。また、果糖の含有量を制御することによって果汁の香味を引き出すとしているものの、当該制御によって得られる効果は必ずしも十分とは言えず、果汁の香味に優れた果汁含有アルコール飲料を提供できているとはいえなかった。」

(2b)「【0026】
果汁含有アルコール飲料は、非発泡性とすることもできるが、発泡性とすることもできる。ここで、本発明における非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm2未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm2以上であることをいう。なお、発泡性とする場合、ガス圧の上限は2.4kg/cm2程度とするのが好ましい。これよりもガス圧が高くなると炭酸の刺激が強くなり過ぎてしまうので好ましくない。
【0027】
果汁含有アルコール飲料は、アルコール度数が1〜8度(v/v%)であるのが好ましい。なお、アルコール度数はこの範囲に限定されるものではなく、1度未満とすることも、8度超とすることもできる。」

(2c)「【0033】
なお、果汁含有アルコール飲料には、アルコール飲料として通常配合される着色料、酸味料、糖類、高甘味度甘味料、酸化防止剤などを添加することもできる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、合成色素などを用いることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸などを用いることができる。糖類としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、ショ糖、オリゴ糖、多糖類などを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンEなどを用いることができる。
これらの添加剤、果汁、透明果汁、混濁果汁、飲用アルコールは一般に市販されているものを使用することができる。」

(2d)「【0036】
図1を参照して一実施形態に係る果汁含有アルコール飲料製造方法について説明する。本製造方法は、前記した果汁使用率が10:90〜50:50の混合比率となるように透明果汁と混濁果汁を混合する混合ステップS1と、混合ステップS1で混合した混合液をろ過するろ過ステップS2と、ろ過ステップS2でろ過したろ過液を殺菌する殺菌ステップS3と、殺菌ステップS3で殺菌した殺菌済みのろ過液をビンや缶、ペットボトルなどの容器に充填する充填ステップS4とを含む。」

(2e)「【0050】
<実施例3>
実施例3では、グレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料について検討した。
グレープフルーツの濃縮透明果汁とグレープフルーツの濃縮混濁果汁を用いて表3のNo.13〜20に示す混合比率にて混合し、果汁含有アルコール飲料を製造した。なお、No.13〜20に係る果汁含有アルコール飲料には、表3に示す含有量で果糖ブドウ糖液糖と、クエン酸と、65.5%アルコールとを添加した。グレープフルーツの濃縮透明果汁とグレープフルーツの濃縮混濁果汁をはじめ、これらの原料はいずれも市販品を使用した。No.13〜20に係る果汁含有アルコール飲料の総果汁使用率は70%となるようにした。
【0051】
製造したNo.13〜20に係る果汁含有アルコール飲料について実施例1と同じ官能試験を行った。
表3に、果汁含有アルコール飲料の組成とともに、果汁の味、果汁の香りおよび総合評価に関する6名のパネルの平均を記載した。
【0052】
【表3】


(3)甲第3号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(3a)「3. 4グレープフルーツジュース
近年、フラボノイド組成、抗菌活性、抗酸化活性、果実と薬物の相互作用など、グレープフルーツジュースの植物化学的および薬理学的特性が集中的に研究されている。ただしMattila、Hellstrom、およびTorronen(2006)がHPLC-UVによってグレープフルーツのPHAを分析したにもかかわらず、グレープフルーツジュース中の遊離フェノール酸の含有量に関する満足のいくデータはこれまでに発表されていない。我々の分析では、グレープフルーツジュースに含まれる5つのPHAを、68〜847μgL−1の範囲で明確に特定および定量した(表2)。」(792頁右欄「3.4グレープフルーツ」の項目の1〜10行)

(3b)「
表2
市販の飲料中のPHA(フェノール酸)の濃度
成分・・・・・・・グレープフルーツジュース・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・(μg/L)・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クロロゲン酸・・・・・・・・847±22・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(792頁左欄表2)

(4)甲第4号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(4a)「結果と考察
フレッシュグレープフルーツジュースサンプルの典型的なパージおよびトラップ/ガスクロマトグラムを図1に示す。検出された21の成分のうち、17が確実に同定および定量された。本研究で特定された揮発性成分のほとんどは、柑橘類のジュース、エッセンスオイル、およびアロマでこれまでに特定されている。この研究で特定された化合物の大部分の濃度は、グレープフルーツジュースについてこれまで報告されていない。ただし、フレッシュオレンジジュースの比較データは存在する。リモネン、エタノール、アセトアルデヒド、および酢酸エチルが、フレッシュグレープフルーツジュースの主要な揮発性成分だった(表1)。」(783頁の結果及び考察の項の1〜12行)

(4b)「表1 フレッシュグレープフルーツジュース中の揮発性香気成分
ピーク番号 化合物名 ・・・濃度・・・・・
・・・・・・・・・・・・・(ppm)・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17 リモネン 9.9・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
」(783頁右欄表1)

(5)甲第5号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「【0034】
<グレープフルーツ果汁入り飲料(果汁1%)の甘味度の算出>
グレープフルーツ100g中に含まれる糖類は、ショ糖3g、果糖2.5g、ブドウ糖2.5gであり(「最新果汁・果実飲料事典」(日本果汁協会監修)参照)、これらから算出したグレープフルーツ果汁のショ糖を1としたときの甘味度は0.08である。また、果糖ブドウ糖液糖の甘味度は1である。これにより、グレープフルーツ果汁入り飲料(果汁1%)の甘味度は、果糖ブドウ糖液糖(1×120)+グレープフルーツ濃縮果汁(0.08×7×1.6)+発酵グレープフルーツ果汁(0.08×2.3×12)=約123であると算出した。」

(6)甲第6号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(6a)「


」(332頁表10.11)

(7)甲第7号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第7証には、以下の記載がある。
(7a)「食品のマーケットを見てみると飲料を中心にレモンに関する製品が多い.その理由として日本ではレモンに親しみがあり,さわやか・さっばり・フレッシュ感・明るい・ヘルシー・ビタミンCといったイメージが持たれている.これらの製品の多くは香料を使用しており,その素材はレモン油である.レモン油に関する報文1)〜10)はかなり報告されているが,産地間・搾油方法の違いによる比較に関する報告は少ない10).」(243頁左下欄1〜8行)

(8)甲第8号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第8証には、以下の記載がある。
(8a)「【請求項1】
リン酸又はその塩と、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、こはく酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びこれらの塩からなる群から選択される1以上とを、酸味料として配合したアルコール飲料であって、酸味料の5〜55 w/w%がリン酸であることを特徴とする、アルコール飲料。
【請求項2】
リン酸又はその塩と、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、こはく酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びこれらの塩からなる群から選択される1以上とを、酸味料として配合したアルコール飲料であって、リン酸又はその塩とクエン酸又はその塩との比が0.05:1〜1.22:1であることを特徴とする、アルコール飲料。
【請求項3】
前記リン酸又はその塩の配合量が、アルコール飲料に対して0.02〜0.6 w/v%であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
さらに、高甘味度甘味料を配合することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
さらに、果汁を配合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
リン酸又はその塩と、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、こはく酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びこれらの塩からなる群から選択される1以上とを、酸味料として配合し、前記酸味料の5〜55 w/w%がリン酸又はその塩であることを特徴とする、アルコール飲料の味の調節方法。」

(8b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらのアルコール飲料の後味の悪さを改善し、香味が良好で、爽快なスッキリ感を有するアルコール飲料を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、さまざまな添加剤の検討を行った結果、リン酸又はその塩を5〜55 w/w%含有する酸味料を配合することで、爽快なスッキリ感を有するアルコール飲料が得られることを見出し、本発明を完成させた。」

(9)甲第9号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第9証には、以下の記載がある。
(9a)「【請求項1】
果汁を含有する果汁含有アルコール飲料に添加してこれの香味を改善する香味改善用組成物であって、
リンゴ酸とクエン酸の配合比率が10:90〜40:60であることを特徴とする、香味改善用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の香味改善用組成物を含む、果汁含有アルコール飲料。
【請求項3】
前記果汁含有アルコール飲料の果汁使用率が50%を超え150%未満であることを特徴とする、請求項2記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項4】
前記果汁が、リンゴ属又はミカン属由来であることを特徴とする、請求項2又は3記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項5】
前記果汁含有アルコール飲料が発泡性であることを特徴とする、請求項2から4のいずれか1項に記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項6】
前記果汁含有アルコール飲料のアルコール度数が1〜8度であることを特徴とする、請求項2から5のいずれか1項に記載の果汁含有アルコール飲料。
【請求項7】
香味改善用組成物の添加量が0.01〜0.70w/v%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の果汁含有アルコール飲料。」

(9b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リン酸には渋みがあるので、特許文献1に記載の技術を適用して高果汁含有アルコール飲料の香味のべたつき感を解消しようとすると、リン酸による渋みを感じる場合があった。そのため、特許文献1に記載の技術では、果汁感があっても香味のべたつき感のない(つまり、味が後を引かない)果汁含有アルコール飲料を得ることができないという問題があった。また、果汁感を出すためには果汁の含有量を高くする必要があるが、特許文献1に記載の技術では、果汁の含有量が40w/v%を超えると原料自体の香味が強すぎてアルコール飲料としての味わいのバランスに欠けるものとなるという問題もあった。
【0007】
本発明は、前記状況に鑑みてなされたものであり、果汁感はあっても香味のべたつき感のない果汁含有アルコール飲料とすることのできる香味改善用組成物及びこれを含む果汁含有アルコール飲料を提供することを課題とする。」

(9c)「【0038】
次に、実施例により本発明について具体的に説明する。
<実施例1>
実施例1では、リンゴの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料について検討した。
表1のNo.1〜9に示す組成で、リンゴ酸及びクエン酸のうちの少なくとも一方と、果糖ブドウ糖液糖と、65.5%アルコールとを混合して果汁含有アルコール飲料を製造した。なお、これらの原料はいずれも市販品を使用した。No.1〜9に係る果汁含有アルコール飲料中の果汁使用率は、リンゴの濃縮混濁果汁を用いて70%となるようにした。No.1〜9のそれぞれにおいて、リンゴ酸とクエン酸の添加量の合計が0.10w/v%となるようにした。
・・・
【0044】
【表1】



(9d)「【0051】
<実施例3>
実施例3では、グレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料について検討した。
表3のNo.15〜23に示す組成で、リンゴ酸及びクエン酸のうちの少なくとも一方と、果糖ブドウ糖液糖と、65.5%アルコールとを混合して果汁含有アルコール飲料を製造した。なお、これらの原料はいずれも市販品を使用した。No.15〜23に係る果汁含有アルコール飲料の果汁使用率は、グレープフルーツの濃縮混濁果汁を用いて70%となるようにした。No.15〜23のそれぞれにおいて、リンゴ酸とクエン酸の添加量の合計が0.10w/v%となるようにした。
【0052】
製造したNo.15〜23に係る果汁含有アルコール飲料について実施例1と同じ官能試験を行った。
表3に、果汁含有アルコール飲料の組成とともに、香味のべたつき感、果汁感、味のふくらみ及び総合評価の評価項目ごとに6名のパネルの平均を算出し、記載した。
【0053】
【表3】



(10)甲第10号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第10証には、以下の記載がある。
(10a)「
DETOX
TRIVIA
みかんの皮で
クリーナーをつくる
・・・
皮のリモネンには油を分解する作用あり。みかんの皮とひたひたの水を約15分煮出してこすとクリーナーの完成。スプレー容器に入れ、キッチンの掃除に使いましょう。」(DETOXTRIVIAの欄)

(11)甲第11号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第11証には、以下の記載がある。
(11a)「・・・リモネンできれいになる
また最近、家庭用洗剤にもオレンジオイルを使ったものがいくつか発売されていますが、これもリモネンがこびりついた油汚れをよく溶かす溶剤の性質を持つからです。換気扇の油汚れなど、ほんとに驚くほどよく落ちます。もともと自然界にあるミカンなどの柑橘類からしぼりとったものであるため、安全性も高いので安心して使えますね。」(35頁16〜22行)

(12)甲第12号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第12証には、以下の記載がある。
(12a)「【リモネンとは…】
リモネンとは,オレンジやレモンなどの柑橘類の皮に含まれているオレンジ油の主成分である。
(=天然油)
●性質
・発泡スチロール,ポリスチレン,ゴムを溶かす
・揮発性,引火性がある
・汚れをおとす
・・・
有機化合物であるため,溶解性の特徴をもつ。」(197頁16行〜198頁6行)

(13)甲第13号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第13証には、以下の記載がある。
(13a)「そのほか,種々のリキュールの香りづけに用いられるハーブ類には,α-ビネン,リモネンなどのテルペン炭化水素類,リナロール,α-テルピネオール,シトラール,メントールなどのテルペン含酸素化合物,アネトール,ベンツアルデヒド,桂皮アルデヒド,オイゲノール,バニリンなどの芳香族化合物など,いろいろの芳香成分が含まれ,それらによる芳香と爽快感は一種のスパイシーな効果として食欲への刺激になっている。」(507頁左欄下から20〜13行)

(13b)「食事中に飲む酒には,料理の味を引き立てると同時に,口の中を常にフレッシュな状態に保ち,食事の通りをスムースにすることが期待される。したがってアルコール度数の余り高いものや,強すぎる香味を持ったもの,刺激やくせのあるものは料理の微妙な風味を消してしまうので不適当である。
ワインの場合,香りが強く,タンニン含量が多く味の重厚な赤ワインは,魚のような淡白な料理には食品の風昧を殺してしまうので不適であるが,肉料理のような油っこいものでは,タンニンがロの中の油っこさを洗い流してさっぱりさせ,再び料理を口に運ばせる効果がある。一方,白ワインには香りがマイルドなため,魚の風味を損なわず,しかもその強い酸味が魚の生臭ささを消す働きが認められ,一般にいわれているような,肉料理には赤,魚料理には白という組合せを裏付けている。」(507頁右欄下から33〜19行)

(14)甲第14号証
本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第14証には、以下の記載がある。
(14a)「【要約】
【課題】消耗品中でオフテイストを引き起こす1あるいは複数の成分と、オフテイストを覆い隠し、あるいは改変するのに十分な濃度で興じられたクロロゲン酸を含む消耗品を提供する。
【解決手段】クロロゲン酸は植物供給源、例えば緑色コーヒー豆、好ましくは緑色ロブスタコーヒー豆から、30〜80℃の水単独あるいは水と極性有機溶媒での抽出で得られた抽出物として供給される。クロロゲン酸を消耗品に添加することによりオフテイストを作る。」

(14b)「【請求項1】
消耗品であって、オフテイストを与え、または引き起こす成分およびオフテイストを覆い隠し、または改変するために十分な濃度の、添加剤として与えられるクロロゲン酸を含む、前記消耗品。
【請求項2】
人工甘味料、アルコール、大豆、二酸化炭素、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれた成分を含む、請求項1に記載の消耗品。
【請求項3】
L-アスパルシル‐L-フェニルアラニンメチルエステル(アスパルテーム)、サッカリンおよびその塩類、アセサルフェーム塩(たとえばアセサルフェームK)、シクロヘキシスルファミン酸、ジヒドロカルコン、キシリトール、ネオテーム、スクラロース、アリタムシクラメート、ステビオ誘導体およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれた人工甘味料である、請求項1または2に記載の消耗品。
【請求項4】
穀物製品、米製品、タピオカ製品、サゴヤシ製品、パン製品、ビスケット製品、菓子パン製品、ブレッド製品、菓子製品、デザート製品、ガム類、チューインガム類、チョコレート類、氷類、蜂蜜製品、糖蜜製品、イースト製品、ベーキングパウダー、塩およびスパイス類、調味製品、からし製品、ビネガー製品、ソース類(薬味)、タバコ製品、葉巻類、紙巻タバコ類、加工食品類、調理された果物および野菜類、肉および肉製品、ゼリー、ジャム、フルーツソース類、卵製品、牛乳および乳製品、チーズ製品、バターおよびバター代用製品、牛乳代用製品、大豆製品、食用油や脂質製品類、薬剤類、飲料類、アルコール飲料類、ビール類、ソフトドリンク類、ミネラルウォーターおよび炭酸水類ならびに他のノンアルコール飲料類、フルーツ飲料類、フルーツジュース類、コーヒー、コーヒー加工品類、茶、ココア、再構成を要する形態のものを含む、食品抽出物、植物抽出物、肉抽出物、薬味類、甘味料類、栄養補給食品類, ゼラチン類、薬剤および非薬剤ガム類、錠剤類、甘味料入り錠剤類、ドロップ類、エマルジョン類、エリキシル類、シロップ剤および飲料をつくるための他の調合物、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選ばれたものである、上記請求項1〜3のいずれかに記載の消耗品。
【請求項5】
クロロゲン酸が、天然抽出物に由来するか、または合成物であるか、または天然抽出物と合成クロロゲン酸との組合せである、請求項1〜4のいずれかに記載の消耗品。
【請求項6】
クロロゲン酸が、コーヒー豆抽出物、好ましくは緑色コーヒー豆、より好ましくは緑色ロブスタコーヒー豆の抽出物に由来するクロロゲン酸である、請求項1〜5のいずれかに記載の消耗品。
【請求項7】
クロロゲン酸が、3-CQA、4-CQA、5-CQA、3-FQA、4-FQA、5-FQA、3-p-CoQA、4-p-CoQA、5-p-CoQA、3,4-diCQA、3,5-diCQA、4,5-diCQA、3,4-CFQA、3,5-CFQA、4,5-CFQAまたはそれらの組み合わせからなる群から選ばれたものである、請求項1〜6のいずれかに記載の消耗品。
【請求項8】
クロロゲン酸を約0.0001%W/V〜約0.1%W/V含み、より好ましくは約0.001%W/V〜約0.01%W/Vの濃度で含む、請求項1〜7のいずれかに記載の消耗品。」

(14c)「【0009】
オフテイストは消耗品製品中のアルコールにより与えられることがある。アルコールには穀物アルコールと発酵産物(ビールおよびワイン)、それ単独もしくは他の要素との組み合わせを含む。アルコールにより作られるオフテイストは、焼けるような味覚を与えるものとして表現されている。アルコールを含む消耗品中のクロロゲン酸の濃度は、およそ0.0001%W/V〜0.1%W/V、より好ましい量としては約0.001%W/V〜0.1%W/V、もっとも好ましい濃度としては0.03%W/V〜0.05%W/Vである。
・・・
【0011】
オフテイストは生産物中の炭酸によることもある。炭酸製品の例としては、コーラ、柑橘風味飲料、エール、ビールおよびこれらの製品を含む、氷や氷菓など他の消耗品を含む。炭酸製品のオフテイストは、焼けるような感覚(burning sensation)として表現されている。炭酸製品のクロロゲン酸の濃度は約0.001%W/V〜約0.1%W/V、より好ましい濃度は約0.0005%W/V〜約0.05%W/V、最も好ましくは約0.001%W/V〜約0.02%W/Vの範囲である。」

(14d)「
【0046】
例8
味をつけていないアルコール飲料に加えたクロロゲン酸(抽出物)
5.26mlの穀物中性酒精(Grain Neutral Spirits)(95%アルコール)、92.24mlの水、2.0mlの高果糖コーンシロップ、0.25mlのナトリウム安息香酸(10%W/V)水溶液、0.25mlのカリウムソルベート(potassium sorbate)(10%W/V水溶液)を混ぜて10個の試験体(5%アルコール)無風味飲料を調製する。
【0047】
緑色コーヒー豆から、すでに記載された方法で調製したクロロゲン酸溶液を、このアルコール飲料の一部に、クロロゲン酸の最終濃度が0.0035%になるように加える。クロロゲン酸を含む飲料は、6人の訓練された風味鑑定人の調査団によって評価される。その飲料は、未処理の飲料で見出されたものに比べて、アルコールの焼けるような味わいの、著しい減少を示すことが判定される。
・・・
【0050】
例10
味付け炭酸飲料に加えたクロロゲン酸
すでに記載された方法で調製された緑色コーヒー豆からのクロロゲン酸溶液を、標準炭酸オレンジ味飲料(フレーバーレベル0.2%)に、最終濃度0.001%W/Vクロロゲン酸濃度になるように加える。
【0051】
6人の訓練された風味鑑定人の調査団がクロロゲン酸添加の有無による炭酸飲料を比較する。調査団はクロロゲン酸を含む飲料は、クロロゲン酸を加えない飲料と比較したときに、炭酸の、鋭く、やや焼けるような感覚が、明らかにより低い感じにされたことを見出す。」

2 乙号証(令和3年12月16日提出の意見書に添付)の記載事項
(1)乙第1号証
特許権者は、令和3年12月16日付け意見書とともに乙第1号証を提出しており、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である乙第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「リモネン,リナロール,シトラール3成分モデル系について同様の検討を行った(Table1).なお試料は,よりレモン果皮油に近い組成比となるように,リモネン,リナロール,シトラールの体積比を8:1:1とし,操作時間はいずれも30分とした.この結果,リモネンの濃度は60℃までは顕著に減少しコントロールの約1/20となり,60℃以上でほぼ一定となった.」(118頁左欄4〜10行)

(1b)「

」(118頁左欄表1)

当審が通知した取消理由(新規性)についての判断
1 取消理由1−1(新規性)について
(1)電子的技術情報1記載の発明
ア 電子的技術情報1は、果汁含有アルコール飲料に関するものであるが、摘記(1h)の実施例5のグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料に関して、表3の本発明5の配合量各成分として、グレープフルーツ果汁(透明)7倍濃縮30.0g、酸度(/100ml)*クエン酸換算1.89g、アルコール濃度(V/V%)9%、果汁率210%、リンゴ酸62.0mg/100ml)含有し、水で100mlに仕上げた試料が記載され、実施例7のグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料(希釈)について、「実施例5で製造した本発明品5に水を混合して2倍に希釈し、希釈型飲料を得た。希釈後の飲料も、希釈前と同様の性質を示し、アルコールのピリピリ感のない、エステル様香味を有し、厚みのある成熟果実のような香味を有するグレープフルーツ飲料であった。」との記載があり、本発明品5を2倍希釈しているので、配合量各成分は半分の濃度になっているので、実施例7の希釈された飲料に関する記載から以下の発明が認定できるといえる。

「グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料であって、果汁率105%のグレープフルーツ果汁(透明)、リンゴ酸0.31(g/l)、9.45(g/l)の酸度(クエン酸換算)、4.5(v/v%)のアルコールを含む飲料」(以下「引用1発明」という。)

イ また、電子的技術情報1には、実施例において、各成分を用いて製造したことの記載があり、摘記(1d)の[0020]〜[0023]のクロロゲン酸の添加含有量等に関する記載、[0024]のリンゴ酸の含有量範囲等に関する記載、クエン酸換算の酸度範囲に関する記載、摘記(1e)の[0029]の透明果汁を用いることに関する記載も考慮すると、電子的技術情報1には、以下の製造方法の発明も記載されているといえる。

「グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料の製造方法であって、果汁率105%のグレープフルーツ果汁(透明)、リンゴ酸0.31(g/l)、9.45(g/l)の酸度(クエン酸換算)、4.5(v/v%)のアルコールを含むようにした飲料の製造方法」(以下「引用1製造方法発明」という。)

(2) 対比・判断
ア−1 本件特許発明1と引用1発明との対比
引用1発明の「グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料」は、本件特許発明1の「飲料」に該当し、引用1発明の「リンゴ酸0.31(g/l)」であることは、本件特許発明1の「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであ」ることに該当する。
また、引用1発明の「4.5(v/v%)のアルコールを含む」ことは、本件特許発明1の「アルコール含有量が1〜10v/v%であ」ることに該当する。
さらに、引用1発明では、透明なグレープフルーツ果汁を用いているのであるから、波長500nmにおける吸光度が0.2以下であることは明らかであり、本件特許発明1の「波長500nmにおける吸光度が0.2以下である」に相当するといえる。

したがって、本件特許発明1と引用1発明とは、「飲料であって、
クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであり、
アルコール含有量が1〜10v/v%であり、そして
波長500nmにおける吸光度が0.2以下である、
前記飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1:本件特許発明1が「クロロゲン酸の含有量が0.2〜100ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用1発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。

相違点2−1:本件特許発明1が「リモネンの含有量が0.01〜90ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用1発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。

相違点3−1:本件特許発明1は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用1発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。

イ−1 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2−1をまず検討する。
(ア)相違点2−1の判断
刊行物4摘記(4a)(4b)の記載からみて、フレッシュグレープフルーツジュース中の揮発性香気成分としてのリモネンの含有量が9.9ppmであることが記載されている。
しかしながら、電子的技術情報1の実施例5、7で用いたグレープフルーツ果汁をどのようなものを入手して用いたかは記載がないし、濃縮果汁形成や2倍に希釈した段階でのリモネンの量の変化が不明であり、乙第1号証の表1の結果のように、含まれるリモネンの量は、減圧蒸留で濃縮した場合成分組成が変化していることを考慮すると、引用1発明の濃縮や希釈を経て製造したグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量が刊行物4のリモネンの含有量と同じであり、本件特許発明1の範囲に含まれている蓋然性が高いとまではいえない。
また、電子的技術情報1の引用1発明のグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料の認定の根拠になった、実施例5、7の記載以外を検討しても、グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量に着目した記載も示唆もないのであるから、飲料中のPHA(フェノール酸)の濃度をUPLC-MS/MSによる迅速な分析に関する甲第3号証、グレープフルーツ果汁入り飲料の甘味度算出の記載がある甲第5号証の記載を参照しても、上記結論に影響はない。
したがって、相違点2−1は、実質的な相違点といえる。

ウ−1 したがって、本件特許発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない。

ア−2 本件特許発明2と引用1発明との対比・判断
(ア)本件特許発明2は、本件特許発明1において、「リモネンの含有量が0.1〜10ppmである」ことを特定し、リモネンの含有量範囲を限定したものであるが、
本件特許発明2と引用1発明とは、「飲料であって、
クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであり、
アルコール含有量が1〜10v/v%であり、そして
波長500nmにおける吸光度が0.2以下である、
前記飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−2:本件特許発明2が「クロロゲン酸の含有量が0.2〜100ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用1発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。

相違点2−2:本件特許発明2が「リモネンの含有量が0.1〜10ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用1発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。

相違点3−2:本件特許発明2は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用1発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。

(イ)上記相違点2−1で検討したのと同様に、相違点2−2は実質的な相違点であるといえる。

イ−2 したがって、本件特許発明2は、その他の相違点を検討するまでもなく、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない。

ア−3 本件特許発明3〜8と引用1発明との対比・判断
(ア)本件特許発明3〜8は、本件特許発明3、4、5、6、7、8は、少なくとも本件特許発明1において、それぞれ、「ショ糖換算で甘味度が20%未満である」こと、「果汁を含有する」こと、「チューハイ又はチューハイテイスト飲料である」こと、「乳化剤の含有量が0.1w/w%以下である」こと、「さらに炭酸を含有する」こと、「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0.01〜18.0g/Lである」ことを、さらに特定したものである。

(イ)したがって、本件特許発明1と引用1発明との対比で示した相違点2−1と同様の、相違点2−(3〜8)を少なくとも有し、該相違点は実質的相違点である。

イ−3 したがって、本件特許発明3〜8は、その他の相違点を検討するまでもなく、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない。

ア−4 本件特許発明9と引用1製造方法発明との対比・判断
引用1製造方法発明の「グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料の製造方法」は、本件特許発明9の「飲料の製造方法」に該当し、引用1製造方法発明の「リンゴ酸0.31(g/l)」とすることは、製造にあたってその量含むように調整していることは明らかなので、本件特許発明9の「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程」に該当する。
また、引用1製造方法発明の「4.5(v/v%)のアルコールを含むようにした」ことは、本件特許発明9の「当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程」に該当する。
さらに、引用1製造方法発明では、透明なグレープフルーツ果汁を用いて製造しているのであるから、波長500nmにおける吸光度が0.2以下であることは明らかであり、本件特許発明9の「当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程」に相当するといえる。

したがって、本件特許発明9と引用1製造方法発明とは、「飲料の製造方法であって、
当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程、
当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程、及び
当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程
を含む、前記製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−9:本件特許発明9が「飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程」を特定しているのに対して、引用1製造方法発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。

相違点2−9:本件特許発明9が「飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程」を特定しているのに対して、引用1製造方法発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。

相違点3−9:本件特許発明9は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用1製造方法発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。

イ−4 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2−9から検討する。
(ア)相違点2−1の判断
刊行物4摘記(4a)(4b)の記載からみて、フレッシュグレープフルーツジュース中の揮発性香気成分としてのリモネンの含有量が9.9ppmであることが記載されている。
しかしながら、電子的技術情報1の実施例5、7で用いたグレープフルーツ果汁としてどのようなものを入手して用いたかは記載がないし、濃縮果汁形成や2倍に希釈した段階でのリモネンの量の変化が不明であり、乙第1号証の表1の結果のように、含まれるリモネンの量は、減圧蒸留で濃縮した場合成分組成が変化していることを考慮すると、引用1製造方法発明の濃縮や希釈を経て製造したグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料中の含有量が刊行物4のリモネンの含有量と同じであり、本件特許発明9の調整範囲に含まれている蓋然性が高いとまではいえない。
また、電子的技術情報1の引用1製造方法発明のグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料の認定の根拠になった、実施例5、7の記載以外の箇所を検討しても、グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量に着目した記載も示唆もないのであるから、飲料中のPHA(フェノール酸)の濃度をUPLC-MS/MSによる迅速な分析に関する甲第3号証、グレープフルーツ果汁入り飲料の甘味度算出の記載がある甲第5号証の記載を参照しても、上記結論に影響はない。

(イ)したがって、相違点2−9は、実質的な相違点といえる。

ウ−4 したがって、本件特許発明9は、その他の相違点を検討するまでもなく、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない。

(3)取消理由1−1(新規性)のまとめ
本件特許発明1〜9は、電子的技術情報1に記載された発明であるとはいえず、取消理由1−1は解消している。

2 取消理由1−3(新規性)について
(1)刊行物2記載の発明
刊行物2は、果汁含有アルコール飲料に関するものであって(摘記(2b))、摘記(2e)の実施例3には、グレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料として、総果汁使用比率が70%で、No.20の果汁含有アルコール飲料として、透明果汁70(v/v%)、混濁果汁0(v/v%)、果糖ブドウ糖液6(w/v%)、クエン酸0.1(w/v%)、65.5%アルコール6.6(v/v%)の組成のものが記載されているのであるから、以下の発明が認定できるといえる。

「透明果汁70(v/v%)、混濁果汁0(v/v%)、果糖ブドウ糖液6(w/v%)、クエン酸0.1(w/v%)、65.5%アルコール6.6(v/v%)の組成のグレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料」(以下「引用2発明」という。)

また、実施例3には、No.20の果汁含有アルコール飲料を表3の混合比率で混合して製造したことが記載されているのであるから、刊行物2には、以下の製造方法の発明も記載されているといえる。

「透明果汁70(v/v%)、混濁果汁0(v/v%)、果糖ブドウ糖液6(w/v%)、クエン酸0.1(w/v%)、65.5%アルコール6.6(v/v%)の組成となるように原料を混合して製造するグレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料の製造方法」(以下「引用2製造方法発明」という。)

(2) 対比・判断
ア−1 本件特許発明1と引用2発明との対比
引用2発明の「グレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料」は、本件特許発明1の「飲料」に該当し、引用2発明の「クエン酸0.1(w/v%)」の組成であることは、本件特許発明1の「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであ」ることに該当する。
また、引用2発明の「65.5%アルコール6.6(v/v%)」の組成であることは、本件特許発明1の「アルコール含有量が1〜10v/v%であ」ることに該当する。
さらに、引用2発明では、グレープフルーツの透明果汁のみを用いているのであるから、波長500nmにおける吸光度が0.2以下であることは明らかであり、本件特許発明1の「波長500nmにおける吸光度が0.2以下である」に相当するといえる。

したがって、本件特許発明1と引用2発明とは、「飲料であって、
クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであり、
アルコール含有量が1〜10v/v%であり、そして
波長500nmにおける吸光度が0.2以下である、
前記飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1−2:本件特許発明1が「クロロゲン酸の含有量が0.2〜100ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用2発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。

相違点2−1−2:本件特許発明1が「リモネンの含有量が0.01〜90ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用2発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。

相違点3−1−2:本件特許発明1は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用2発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。

イ−1 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2−1−2をまず検討する。
(ア)相違点2−1−2の判断
刊行物4摘記(4a)(4b)の記載からみて、フレッシュグレープフルーツジュース中の揮発性香気成分としてのリモネンの含有量が9.9ppmであることが記載されている。
しかしながら、刊行物2の実施例3で用いたグレープフルーツの果汁としてどのようなものを入手して用いたかは記載がないし、グレープフルーツの果汁を濃縮透明果汁として用いる段階でのリモネンの量の変化が不明であり、乙第1号証の表1の結果のように、含まれるリモネンの量は、減圧蒸留で濃縮した場合成分組成が変化していることを考慮すると、引用2発明の濃縮を経て製造したグレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量が刊行物4のリモネンの含有量と同じであり、本件特許発明1の範囲に含まれている蓋然性が高いとまではいえない。
また、刊行物2の引用2発明のグレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料の認定の根拠になった、実施例3の記載以外を検討しても、該果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量に着目した記載も示唆もないのであるから、飲料中のPHA(フェノール酸)の濃度をUPLC-MS/MSによる迅速な分析に関する甲第3号証、グレープフルーツ果汁入り飲料の甘味度算出の記載がある甲第5号証の記載を参照しても、上記結論に影響はない。
したがって、相違点2−1−2は、実質的な相違点といえる。

ウ−1 したがって、本件特許発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、刊行物2に記載された発明とはいえない。

ア−2 本件特許発明2と引用2発明との対比・判断
(ア)本件特許発明2は、本件特許発明1において、「リモネンの含有量が0.1〜10ppmである」ことを特定し、リモネンの含有量範囲を限定したものであるが、
本件特許発明2と引用2発明とは、「飲料であって、
クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/Lであり、
アルコール含有量が1〜10v/v%であり、そして
波長500nmにおける吸光度が0.2以下である、
前記飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−2−2:本件特許発明2が「クロロゲン酸の含有量が0.2〜100ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用2発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。

相違点2−2−2:本件特許発明2が「リモネンの含有量が0.1〜10ppmであ」ることを特定しているのに対して、引用2発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。

相違点3−2−2:本件特許発明2は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用2発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。

(イ)上記相違点2−1−2で検討したのと同様に、相違点2−2−2は実質的な相違点であるといえる。

ウ−2 したがって、本件特許発明2は、その他の相違点を検討するまでもなく、刊行物2に記載された発明とはいえない。

ア−3 本件特許発明3〜8と引用2発明との対比・判断
(ア)本件特許発明3〜8は、本件特許発明3、4、5、6、7、8は、少なくとも本件特許発明1において、それぞれ、「ショ糖換算で甘味度が20%未満である」こと、「果汁を含有する」こと、「チューハイ又はチューハイテイスト飲料である」こと、「乳化剤の含有量が0.1w/w%以下である」こと、「さらに炭酸を含有する」こと、「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0.01〜18.0g/Lである」ことを、さらに特定したものである。

(イ)したがって、本件特許発明1と引用2発明との対比で示した相違点2−1−2と同様の、相違点2−(3〜8)−2を少なくとも有し、該相違点は実質的相違点である。

イ−3 したがって、本件特許発明3〜8は、その他の相違点を検討するまでもなく、刊行物2に記載された発明とはいえない。

ア−4 本件特許発明9と引用2製造方法発明との対比・判断
引用2製造方法発明の「グレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料の製造方法」は、本件特許発明9の「飲料の製造方法」に該当し、引用2製造方法発明の「クエン酸0.1(w/v%)」との組成となるよう混合することは、製造にあたってその量含むように調整していることは明らかなので、本件特許発明9の「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程」に該当する。
また、引用2製造方法発明の「65.5%アルコール6.6(v/v%)の組成となるように原料を混合」することは、本件特許発明9の「当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程」に該当する。
さらに、引用2製造方法発明では、グレープフルーツの透明果汁のみを用いて製造しているのであるから、波長500nmにおける吸光度が0.2以下であることは明らかであり、本件特許発明9の「当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程」に相当するといえる。

したがって、本件特許発明9と引用2製造方法発明とは、「飲料の製造方法であって、
当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程、
当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程、及び
当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程
を含む、前記製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−9−2:本件特許発明9が「飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程」を特定しているのに対して、引用2製造方法発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。

相違点2−9−2:本件特許発明9が「飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程」を特定しているのに対して、引用2製造方法発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。

相違点3−9−2:本件特許発明9は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用2製造方法発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。

イ−4 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2−9−2から検討する。
(ア)相違点2−9−2の判断
刊行物4摘記(4a)(4b)の記載からみて、フレッシュグレープフルーツジュース中の揮発性香気成分としてのリモネンの含有量が9.9ppmであることが記載されている。
しかしながら、実施例3で用いたグレープフルーツの果汁をどのようなものを入手して用いたかは記載がないし、グレープフルーツの果汁を濃縮透明果汁として用いる段階でのリモネンの量の変化が不明であり、乙第1号証の表1の結果のように、含まれるリモネンの量は、減圧蒸留で濃縮した場合成分組成が変化していることを考慮すると、引用2製造方法発明の濃縮を経て製造したグレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量が刊行物4のリモネンの含有量と同じであり、本件特許発明9の範囲に含まれるように調整している蓋然性が高いとまではいえない。
また、刊行物2の引用2製造方法発明のグレープフルーツの果汁を用いた果汁含有アルコール飲料の認定の根拠になった、実施例3の記載以外を検討しても、該果汁含有アルコール飲料中のリモネンの含有量に着目した記載も示唆もないのであるから、飲料中のPHA(フェノール酸)の濃度をUPLC-MS/MSによる迅速な分析に関する甲第3号証、グレープフルーツ果汁入り飲料の甘味度算出の記載がある甲第5号証の記載を参照しても、上記結論に影響はない。

(イ)したがって、相違点2−9−2は、実質的な相違点といえる。

ウ−4 したがって、本件特許発明9は、その他の相違点を検討するまでもなく、刊行物2に記載された発明とはいえない。

(3)取消理由1−3(新規性)のまとめ
本件特許発明1〜9は、刊行物2に記載された発明であるとはいえず、取消理由1−3は解消している。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由(異議申立理由1−1、1−3(本件特許発明10に対する)、異議申立理由1−2、異議申立理由2、異議申立理由3)についての検討

1 特許異議申立人の新規性欠如の理由(異議申立理由1−1、1−3(本件特許発明10に対する))について
(1)対比
取消理由1−1、取消理由1−3は、それぞれ、異議申立理由1−1、異議申立理由1−3に対応しており、本件特許発明10に対する理由も、前記取消理由1−1、1−3で検討したのと同様に、
本件特許発明10と引用1製造方法発明とは、「飲料の方法であって、
当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程、
当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程、及び
当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程
を含む、前記方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−10:本件特許発明10が「飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程」を特定しているのに対して、引用1製造方法発明では、クロロゲン酸の含有量が明らかでない点。
相違点2−10:本件特許発明10が「飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程」を特定しているのに対して、引用1製造方法発明では、リモネンの含有量が明らかでない点。
相違点3−10:本件特許発明10は、飲料が「容器詰め」であることが特定されているのに対して、引用1製造方法発明が「容器詰め」であることは明らかでない点。
相違点4−10:本件特許発明10は、「さっぱり感及び/又はキレを向上する方法」であるのに対して、引用1製造方法発明は、製造方法であって、そのような方法ではない点。

また、本件特許発明10と引用2製造方法発明との対比においても、上記本件特許発明10と引用1製造方法発明との対比と同様の一致点・相違点を有する。

(2)判断
したがって、取消理由1−1、1−3で検討したのと同様に、少なくとも相違点2−10は、実質的相違点であり、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲第3〜5号証を参照しても、甲第1号証の実施例7又は甲第2号証に記載された発明とはいえない。

(3)小括(異議申立理由1−1、1−3(本件特許発明10に対する))
したがって、異議申立理由1−1、1−3(本件特許発明10に対する)には、理由がない。

2 特許異議申立人の新規性欠如・進歩性欠如の理由(異議申立理由1−2及び異議申立理由2)について
(1)甲1−1発明、甲1−2発明の認定について
特許異議申立人は、甲第1号証の請求の範囲の記載、[0010]、[0011](リンゴ果汁を用いた高アルコール飲料に関する記載)、[0012](リンゴ果汁を用いた高アルコール飲料に関する記載)、[0015]、[0018]、[0020]〜[0023](リンゴ果汁含有アルコール飲料)、[0024]〜[0025](グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料に関する記載)、[0028]〜[0029]、[0031]〜[0029]、[0038][0040]、[0048]〜[0050](実施例1(リンゴ果汁含有アルコール飲料))、[0053](実施例2(リンゴ果汁含有アルコール飲料))、[0054]〜[0055](実施例3(リンゴ果汁含有アルコール飲料))、[0056](実施例4(リンゴ果汁含有アルコール飲料(希釈)))、[0057]〜[0058](実施例5(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料))、[0061]〜[0063](実施例6(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料))、[0064](実施例7(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料(希釈)))を引用して、甲1−1発明(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料)、甲1−2発明(リンゴ果汁含有アルコール飲料)と本件特許発明とを対比判断し、各指摘箇所の記載から本件特許発明の文節した各特定事項と相違しないこと及び各特定事項の数値範囲については、甲第3〜5号証を参照すれば甲第1号証に記載されているし、甲第2〜14号証の記載事項を考慮すれば当業者が容易に想到することができた旨主張している。

しかしながら、甲第1号証は、請求の範囲の記載、「[0011]
本発明者らは、上記目的に関して鋭意検討を行った結果、リンゴ果汁を用いた高アルコール飲料の場合には、クロロゲン酸類を飲料に特定量含有させることにより、成熟したリンゴの蜜様の味わいを飲料に付与できることを見いだした。クロロゲン酸類は、リンゴ未熟果などに多く含まれる成分であり、苦味や渋味の原因となることが知られている成分であるから、クロロゲン酸類により成熟したリンゴの甘い蜜様の味わいを付与できることは驚くべきことであった。
[0012]
また、グレープフルーツ果汁を用いた高アルコール飲料の場合には、驚くべきことに、リンゴ酸を飲料に特定量含有させることにより、成熟したグレープフルーツ果実のような濃厚でまろやかな果実香(エステル様香味)を増強させることができることを見いだした。
[0013]
さらに、ぶどう果汁を用いた高アルコール飲料の場合には、カリウムイオンを飲料に特定量含有させることにより、酒類の好ましい爽やかなエステル様香味と、成熟したぶどう果実の濃厚でまろやかな香味(エステル様香味)を増強させることができることを見いだした。一般に、ぶどう果汁には酒石酸が多く含まれており、長期間保存すると果汁中に酒石が析出することが知られているが、本発明により得られた特定量のカリウムイオンを含有するぶどう果汁の高アルコール飲料では、驚くべきことに、長期保存を行なった場合でも、酒石が析出しなかった。」の記載から明らかなように、リンゴ果汁を用いた高アルコール飲料、グレープフルーツ果汁を用いた高アルコール飲料、ぶどうを用いた高アルコール飲料の場合を別々の発明として捉え別の解決手段を用いて課題を解決したものであって、特許異議申立人の主張する甲1−1発明(グレープフルーツ果汁含有アルコール飲料)、甲1−2発明(リンゴ果汁含有アルコール飲料)は、甲第1号証の種々の記載を組み合わせることを前提にしたもので、技術的思想としてまとまりをもって把握できず、引用発明として不適切である。
そして、上記引用発明が不明確な状態で、甲第1号証の各指摘事項の記載を独立で検討して、本件特許発明の各発明特定事項と対比して、相違しない又は数値範囲を適宜調整できる旨の主張をしており、そのような特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(2)対比・判断
仮に、甲1−1発明をグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料、甲1−2発明をリンゴ果汁含有アルコール飲料であると認定した場合も、いずれの場合も、少なくとも取消理由1−1で検討した本件特許発明と引用1発明又は引用1製造方法発明との対比における相違点をすべて有するため、本件特許発明は、甲第3〜5号証を参照しても、甲第1号証に記載された発明とはいえない。
また、飲料中のPHA(フェノール酸)の濃度をUPLC-MS/MSによる迅速な分析に関する文献において、分析結果において、白ワイン、緑茶とともに、グレープフルーツジュースの分析結果が存在しているにとどまる甲第3号証、フレッシュグレープフルーツジュース中の揮発性香気成分としてのリモネンの含有量が記載されているにとどまる甲第4号証、グレープフルーツ果汁入り飲料の甘味度算出の記載がある甲第5号証、クエン酸やリンゴ酸の添加に関する甲第8、9号証、レモン油やリモネンの油を分解する性質に関する甲第7、10、11、12、13号証、クロロゲン酸が味覚改変剤の成分として使用されているとの記載にとどまる甲第14号証、食品に含まれる有機酸全般に関し、たまたま果実に含まれる酸としてクロロゲン酸が他の酸とともに示されている甲第6号証を考慮したとしても、それらの文献の記載内容を甲第1号証と結びつける動機付けはないし、本件特許発明は、各成分の含有量を特定範囲にすることで、全体として効果を奏しており、有機的関係を有しているのであるから、成分の数値範囲を本件特許発明の数値範囲にする設計思想の開示されていない各文献の記載を基に適宜調整できるということはできない。

(3)本件特許発明の効果について
本件特許発明は、前記第2の請求項1〜10に特定した構成全体を採用することで、本件特許明細書【0011】〜【0014】に記載される予測できない顕著な効果を奏している。

(4)小括(異議申立理由1−2及び異議申立理由2)
以上のとおり、甲1−1発明のグレープフルーツ果汁含有アルコール飲料、甲1−2発明のリンゴ果汁含有アルコール飲料と対比した場合も、本件特許発明は、甲第3〜5号証の記載を参照しても、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜14号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるとはいえない。

3 異議申立理由1及び2の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜10は、甲第3号証〜甲第5号証記載の技術的事項を参照しても、甲第1号証記載の発明とはいえないし、甲第1号証記載の発明及び甲第3号証〜甲第14号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができるものとはいえないので、異議申立理由1及び2には、理由がない。

4 特許異議申立人のサポート要件の理由(異議申立理由3)について
特許異議申立人は、第3 3に記載のようにサポート要件について理由を述べている。

(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0005】〜【0008】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び【0009】の【課題を解決するための手段】の記載、及び明細書全体の記載からみて、容器詰飲料において、チューハイ感を損ねることなく、かつ、飲料の液色も大きく変化させずにさっぱり感やキレを向上させる飲料及び該飲料を製造する方法を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「容器詰飲料」において、
「クロロゲン酸の含有量が0.2〜100ppm」であること、
「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0〜18.0g/L」であること、
「リモネンの含有量が0.01〜90ppm」であること、
「アルコール含有量が1〜10v/v%」であること、
「波長500nmにおける吸光度が0.2以下である」ことが特定された物の発明が記載されている。
請求項2〜8には、本件特許発明1において、それぞれ、「リモネンの含有量が0.1〜10ppmである」こと、「ショ糖換算で甘味度が20%未満である」こと、「果汁を含有する」こと、「チューハイ又はチューハイテイスト飲料である」こと、「乳化剤の含有量が0.1w/w%以下である」こと、「さらに炭酸を含有する」こと、「クエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計が0.01〜18.0g/Lである」ことを、さらに特定した物の発明が記載されている。
また、請求項9には、「容器詰飲料の製造方法」において、
「当該飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程」、
「当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程」、
「当該飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程」、
「当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程」、及び
「当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程」
を含むことを特定した方法の発明が記載されている。
そして、請求項10には、「容器詰飲料のさっぱり感及び/又はキレを向上する方法」において、
「当該飲料中のクロロゲン酸の含有量を0.2〜100ppmに調整する工程」、
「当該飲料中のクエン酸及びリンゴ酸の各含有量の合計を0〜18.0g/Lに調整する工程」、
「当該飲料中のリモネンの含有量を0.01〜90ppmに調整する工程」、
「当該飲料中のアルコール含有量を1〜10v/v%に調整する工程」、及び
「当該飲料の波長500nmにおける吸光度を0.2以下に調整する工程」
を含むことを特定した方法の発明が記載されている。

(4) 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、特許請求の範囲の実質的な繰り返し記載を除いて、本件特許発明に対応した記載として、【0009】の【課題を解決するための手段】の記載、【0011】〜【0014】の【発明の効果】の記載、【0015】の油脂の分散状態の評価や試験に関する【図面の簡単な説明】の記載、【0017】〜【0021】のクロロゲン酸に関する、化学式、入手手段、飲料における含有量の上下限の技術的意義、含有量の測定及び調整方法の記載、【0022】〜【0024】のクエン酸及びリンゴに関する、原料や特性、飲料における含有量の好ましい上下限、含有量の測定及び調整方法の記載、【0025】の飲料の500nmにおける吸光度に関する上限の技術的意義の記載、【0026】〜【0029】のアルコールに関する用語の定義、原料、含有量の好ましい範囲、含有量の測定方法の記載、【0030】〜【0031】のリモネンに関する、意味と由来、上下限の技術的意義、測定方法の記載、【0032】のGC−MS分析条件及びショ糖甘味換算の甘味度の記載、【0033】〜【0041】の炭酸ガス、果汁、乳化剤の含有量に関する記載、【0048】の容器詰飲料に関する記載、【0049】〜【0052】の容器詰飲料の製造方法、さっぱり感及び/又はキレを向上する方法に関する記載がそれぞれなされている。
また、【実施例】として、試験例1のクロロゲン酸とクエン酸の含有量を変化させて官能評価、吸光度及び外観評価、総合評価を行った結果と考察の記載、試験例2のクエン酸とリンゴ酸の比較評価の結果と考察の記載、試験例3のアルコールの影響に関する結果と考察の記載、試験例4の甘味料の影響に関する結果と考察の記載、試験例5のリモネンの影響に関する結果と考察の記載がそれぞれ示されている(【0059】〜【0092】)。

(5)判断
上記(4)のとおり、本件特許発明1の各構成であるパラメータに対応して、本件特許明細書には、容器詰飲料について、クロロゲン酸の含有量、クエン酸及びリンゴ酸の含有量の合計、リモネンの含有量、アルコールの含有量、波長500nmにおける吸光度の上限に関する各パラメータの技術的意義の一般的記載が存在し、各パラメータ間の技術的意議の相関記載に技術的矛盾はなく、各成分の原料や含量調整方法、容器詰飲料の製造方法、さっぱり感及び/又はキレを向上する方法の記載が存在し、クロロゲン酸やクエン酸をそれぞれ変化させた実験結果、クエン酸をリンゴ酸に交換した実験結果、アルコール含有量を変化させた実験結果、甘味料の含有量を変化させた実験結果、リモネンの含有量を変化させさらに優れた効果が得られたという実験結果である試験例1〜5に基づく本件特許発明の効果を奏した具体的検証結果の記載も存在するのであるから、本件特許発明1の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるといえる。

また、本件特許発明2〜10に関しても、【0032】のショ糖甘味換算の甘味度の記載、【0035】〜【0039】の果汁に関する記載、【0012】【0013】のチューハイ又はチューハイテイスト飲料に関する記載、【0040】【0041】の乳化剤の含有量に関する記載、【0033】【0034】の炭酸ガスに関する記載、【0049】〜【0052】の容器詰飲料の製造方法、さっぱり感及び/又はキレを向上する方法に関する記載ついても併せて考慮すれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2〜10の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

特許異議申立人は、請求項1〜10に係る発明の効果を奏することが確認されているのはアルコール含有量5v/v%、ショ糖2.46%相当の甘味度、クロロゲン酸10mg/Lおよびクエン酸0.1g/Lの試料1−6に、0.1〜10ppmのリモネンを含有させた場合のみであり、請求項1〜10に係る発明は、この範囲外の場合の本件特許発明の効果が支持されておらず、発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い範囲を記載していることになる本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できない旨の主張をしている。
しかしながら、上述したような、各パラメータの技術的意義の一般的記載、クロロゲン酸やクエン酸をそれぞれ変化させた実験結果、クエン酸をリンゴ酸に交換した実験結果、アルコール含有量を変化させた実験結果、甘味料の含有量を変化させた実験結果、リモネンの含有量を変化させさらに優れた効果が得られたという実験結果、各パラメータの変化が互いに大きく影響しあっているとの実験結果も技術常識もないことも考慮すると、実施例で示された範囲以外の範囲においても、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

(6)異議申立理由3の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1〜10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているといえるので、異議申立理由3には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1〜10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-07 
出願番号 P2016-062431
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
瀬良 聡機
登録日 2021-02-03 
登録番号 6832070
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 クロロゲン酸を含有する飲料  
代理人 松尾 淳一  
代理人 山本 修  
代理人 宮前 徹  
代理人 梶田 剛  

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