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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1384268
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-08 
確定日 2022-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6883899号発明「血液凝固検査試薬、および血液凝固検査方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6883899号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6883899号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、令和2年12月7日に出願され、令和3年5月13日にその特許権の設定登録がされ、同年6月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年12月8日に特許異議申立人野崎勝義(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
特許第6883899号の請求項1〜4の特許に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件発明1及び4を記載すると、以下のとおりである。
「【請求項1】活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)と、組織因子(tissue factor,TF)と、を含む血液凝固検査試薬。」
「【請求項4】
被験検体である生体試料と、0.5pM〜1,000pMの活性型の血液凝固第XI因子と、1fM〜1,000fMの組織因子とを含む検査試薬と、を反応させることで形成するトロンビンの量を測定する工程を有する血液凝固検査方法。」
そして、本件発明2及び3は、本件発明1を引用して、さらに限定を加えた「血液凝固検査試薬」の発明である。

第3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として以下の甲第1号証(以下「甲1」という。)を、従たる証拠として以下の甲第2号証及び甲第3号証(以下「甲2」及び「甲3」という。)を提示し、以下の理由により、請求項1〜4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

新規性)について
本件発明1〜4は、甲1に記載された発明であり、
特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

進歩性)について
本件発明1は、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基づいて、
本件発明2は、甲1に記載された発明、及び甲3に記載された事項に基づいて、
本件発明3は、甲1に記載された発明、及び甲3に記載された事項に基づいて、
本件発明4は、甲1に記載された発明、並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲1:特表2019−521324号公報
甲2:M.Ninivaggi et.al.,“Thrombin generation assay using factor IXa as a trigger to quantify accurately factor VIII levels in haemophilia A ”Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2011年、第9巻、1549-1555頁
甲3:鈴木宏治「血液凝固制御蛋白」日本内科学会雑誌、第83巻第4号、平成6年4月10日、126-133頁

第4 甲号証の記載
1 甲1について
(1)甲1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付与したものである。以下同様。)。
(甲1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料中で生成されたトロンビン(TG)を測定するための高感度で迅速なアッセイであって、
前記血液試料を組織因子(TF)、FIXa、およびCaCl2と共に5分間までインキュベーションすること;ならびに
H−D−シクロヘキシル−アルギニル−アラニル−アルギニル−アミドメチルクマリン(AMC)および/またはブチルオキシカルボニル−バリル−プロリニル−アルギニル−AMC(V−P−R−AMC)を使用することによって、前記血液試料中のTGを測定すること
を含むアッセイ。」

(甲1イ)「【発明の概要】
【0005】
本明細書に開示される様々な実施形態としては、血液試料中の生成トロンビン(TG)を測定するための高感度で迅速なアッセイが挙げられ、このアッセイは、血液試料を組織因子(TF)、FIXa、およびCaCl2と共に5分間までインキュベーションすること;およびH−D−シクロヘキシル−アルギニル−アラニル−アルギニル−アミドメチルクマリン(AMC)および/またはブチルオキシカルボニル−バリル−プロリニル−アルギニル−AMC(V−P−R−AMC)を使用することによって、血液試料中のTGを測定することを含む。」

(甲1ウ)「【0068】
様々な実施形態で、本開示はこの課題に対処する。一実施形態では、本明細書の開示は、様々な実験および結果を通じて、TF凝固経路とCP凝固経路の両方が、マウス頸動脈におけるFeCl3誘導性の血栓症に寄与することを確定し、それは、TF依存的な凝固を80%阻害するモノクローナル抗体(MoAb)およびFXIIによるFXIの活性化を遮断するMoAbが、全て個別に血管の閉塞を阻害したことを示すことによる。別の実施形態では、同様の効果が、閾値下の濃度の2つの抗体を組み合わせることによって得られ、このことは、このモデルで、内在性と外因性の両方の経路が、血栓形成促進性のレベルの凝固プロテアーゼを生成することに一致する。いくつかの実験、すなわち正常血小板を補充してカルシウム再加されたヒトFIX欠損血漿を用いたex vivo実験では、再脂質化された組換えTF(rTF)は、個別の不活性な濃度で、FIXaによるトロンビン生成を相乗的に増強した。一実施形態では、この知見は、観察されたTF経路とCP経路との協働機能が、FIXを活性化する直接的または間接的なフィードフォワードループの結果ではなかったことを実証する。さらに、正常な血小板に富む血漿(PRP)では、rTFと共に添加されたFXIIaまたはFXIaは、FIXaと同じ効果を有し、このことは、CPの活性化が、FIXa生成の上流経路であることを実証する。いくつかの実施形態で、TFおよびCPの経路の相乗作用は、FVIIとFVIIIの両方を含み、血漿中に存在する低濃度のTFPIは、rTFのみによるトロンビン生成の抑制に関与した。」

(甲1エ)「【0078】
一実施形態で、正常血小板を補充された血漿(再構成されPRP)中のトロンビン生成を測定することによって、凝固経路の協働をin vitroで調べた。接触経路プロテアーゼ(FXIIa、FXIa、またはFIXa)をTFと共に添加することによって、プロテアーゼまたはTFが個別に添加された際よりも多くのトロンビンが産生した。しかし、人工的な接触経路の活性化を阻害するために、正常血漿がFXIIa指向性のトウモロコシトリプシン阻害剤(CTI)を含有していた際には、低濃度のTFのみでは、トロンビンは本質的には産生されなかった。むしろ、TFは、FVIIaおよびFVIIIの両方を必要とする様式では、FIXaによるトロンビン産生を相乗的に増大させた。直接的または間接的なループによる追加的なFIXの活性化にTFが寄与したことを除けば、同じ相乗効果が、FIX欠損血漿に起こり、このことは、生理的な血漿凝固阻害物質の存在下でのFIXa依存的なトロンビン生成のための実現化ステップとして、FVIIIa補因子の生成を標示する。」

(甲1オ)「【0120】
実施例24
ヒト血小板に富む血漿(PRP)または再構成されたPRPにおけるトロンビン生成
PRPは、クエン酸三ナトリウム中(終濃度0.0129M)に採集した血液から、25℃、250gで10分間遠心分離することによって調製した。PRPを1,500gで追加的に10分間遠心分離することによって得た相同な血小板に乏しい血漿(PPP)を用いて希釈することによって、血小板数をμL当たり180・103に調整した。標示されている場合には、FXIIaによる阻害により測定して較正された効力を基準に、30から50μg/mLでCTIを添加した。FVII、FVIII(どちらもGeorge King Bio−Medical、オーバーランドパーク、カンザス州から入手)かまたはFIX(Haematologic Technologies)を欠いたPPP(CTIを含むかまたは含まない)中に、洗浄済みの正常血小板を添加することによって、再構成されたPRPを調製した。PRP中のTFIIa生成は、Hemker et al.に記載されているように測定した。53μLのPRPを、96穴マイクロタイタープレート中、標示された終濃度を達成するようにrTFおよび/または内在性凝固経路プロテアーゼ−FXIIa、FXIa、またはFIXa−のうち1つを含有する15μLの溶液と混合した。抗体または阻害剤も、この時点で、各特定の場合について標示された濃度で添加した。15と20μLの間の100mM CaCl2および2mM発光発生基質ベンジルオキシカルボニル−グリシル−グリシル−L−アルギニン−7−アミド−4−メチルクマリン(Gly−Gly−Arg−AMC;Bachem Americas、トーランス、カリフォルニア州)を添加することによって、反応を開始した。阻害性の抗TFPIポリクローナル抗体または対照のウサギIgG(20μg/mL)の存在下、リン脂質ベシクル(5μM)を添加したPPP中での、FIIa生成も検討した。反応中に発達した相対蛍光強度を、分光蛍光光度計にて、37℃で40分間まで継続的に測定した(励起355nmおよび放出460nm)。時間の関数としての蛍光強度速度の増加(dF/dt)を、プログラムTurbo Delphi2006(Borland Software Corporation、オースティン、テキサス州)を用いて算出し、較正曲線を用いてトロンビン当量濃度(nM)に変換した。FIIa生成は、遅延時間(3nM トロンビンが形成されるまでの時間)および内在性トロンビン生成能(ETP;トロンビン生成経時曲線下の面積から決定した総生成トロンビン活性)を決定することによって表現した。」

(甲1カ)「【0179】
血液凝固酵素であるトロンビン(FIIa)は、安定なフィブリン凝塊を形成することにより、大出血の防止および自然発生の出血の停止(すなわち「止血」)を担うが、その一方で、FIIaの過剰形成は、心臓発作および脳卒中を含めた致死性の血管の疾患「血栓症」を引き起こすことがある。現在広まっているFIIa生成(TG)のスキームでは、組織因子(TF)と活性の因子(F)VIIaとの外因性経路複合体が、タンパク質分解反応のカスケードを開始し、このカスケードは、活性の補因子FVaとともにプロトロンビナーゼ複合体を形成する第1相で、FXaを産生し、初発の少量のFIIaを生成する。初発で生産されたFIIaは、プロトロンビナーゼ複合体の活性を増強することによってFIIa生成(TG)を増幅し、第2相の生成FIIaのバーストに導く。本発明者らは、初発のFIIaがプロトロンビナーゼ複合体の活性を増強することに資する分子機構が、以下の通りであることを発見している。すなわち、1)初発のFIIaが、プロトロンビナーゼ活性に不可欠な活性のリン脂質表面を提供する、血小板の活性化を惹起する;2)FIIaが、FVをFVaへと直接的に活性化することによって、プロトロンビナーゼ複合体の形成を増加させる;3)FIIaが、内在性のFVIIIa−FIXa経路の活性化によって、FXaの生成を促進する、である。FIIaは、必須の補因子であるFVIIIを、プロテアーゼFIXaのための活性のFVIIIaへと、直接的に活性化する。さらに、FIIaは、FIXをFIXaへと間接的に活性化するが、この活性化は、酵素原FXIの酵素FXIaへの活性化によって媒介され、FXIaは、次いで、FIXをFIXaへと活性化する。最後に、大量の生成FIIaは、フィブリノーゲンを、止血および血栓症に不可欠なフィブリンに変換する。このように、最初に生成されるFIIaは、血液凝固の程度の決定要因として機能し、このことは、初発のTGを決定することによって、出血障害および血栓性の合併症をさらに正確に査定するための診断のアプローチがもたらされることを示唆する。」

(甲1キ)「【0194】
本発明者らは、FIXからFIXaへの活性化の際にFXIaおよびTF−FVIIaを生成するトロンビンフィードバックループの相対的な役割を比較するための、カルシウム再加されたクエン酸添加全血を用いた流れベースのアッセイを本明細書に開示している。この帰結のために、FVIIIaおよびFIXaの活性に依存した凝固の活性化およびフィブリンの沈着をサポートすることが以前に示されている限定濃度のrTFで被覆された表面の上に、10人の正常な個体から得た血液を灌流した(図16を参照)。そこでは、灌流中の壁せん断速度を300s−1で維持した。対照として、トロンビン生成とは独立して血小板の接着および凝集をサポートする線維コラーゲンI型の表面に、同じ血液試料を灌流した。トロンビンフィードバックループによるFXIaかまたはTF−FVIIaをそれぞれ通じたFIXa生成を選択的に阻害するための特異的なモノクローナル抗体(MoAb)を用いて、FXIaおよびTFの活性を遮断した。予想通り、コラーゲン表面で、血小板凝集体の体積は、凝固経路を阻害することによる影響を受けなかったのに対して、フィブリンの沈着は、抗FXIa MoAbによって顕著に減少し、抗TF MoAbによって本質的に影響を受けなかった(図23A〜B)。これらの結果は、コラーゲン表面での凝固の活性化が、FXIIa依存的な接触経路を通じたFXIa生成によって開始されるという見解に一致する。」

(2)甲1発明について
甲1には、上記(甲1ア)及び(甲1イ)の記載から、以下の発明が記載されていると認める。
「血液試料中で生成されたトロンビン(TG)を測定するための高感度で迅速なアッセイであって、
前記血液試料を組織因子(TF)、FIXa、およびCaCl2と共に5分間までインキュベーションすること;ならびに
H−D−シクロヘキシル−アルギニル−アラニル−アルギニル−アミドメチルクマリン(AMC)および/またはブチルオキシカルボニル−バリル−プロリニル−アルギニル−AMC(V−P−R−AMC)を使用することによって、前記血液試料中のTGを測定すること
を含むアッセイ。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「It is increasingly recognized that the transient thrombin generation profile in clotting plasma is a better indication of the function of the blood coagulation system than the clotting time is [9-11].」(1549頁右欄27〜30行)
(申立人訳参照:凝固血漿中の一過性トロンビン生成プロファイルは、凝固時間よりも血液凝固系の機能のより良い指標であることがますます認識されてきている[9-11]。)

3 甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「フィブリン血栓は,表1に示す凝固因子の逐次的・増幅的なカスケード反応によって形成される.」(126頁右欄10〜11行)


(甲3イ)「活性化プロテインC(APC)は凝固反応の律速因子である補酵素蛋白のVa因子およびVIIIa因子を分解・失活化し,凝固反応を制御する(図1参照).」(129頁右欄12行〜130左欄1行)


第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「FIXa」と、本件発明1の「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」とは、「血液凝固因子」という限りにおいて共通する。

イ 甲1発明の「組織因子(TF)」は、本件発明1の「組織因子(tissue factor,TF)」に相当する。

ウ 甲1発明の「血液試料を組織因子(TF)、FIXa、およびCaCl2と共に5分間までインキュベーションすること」において、インキュベーションするものには、組織因子(TF)とFIXaが含まれているといえることから、甲1発明の「血液試料を組織因子(TF)、FIXa、およびCaCl2と共に5分間までインキュベーションする」ものと、本件発明1の「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)と、組織因子(tissue factor,TF)と、を含む血液凝固検査試薬」とは、上記ア及びイを踏まえると、「血液凝固因子と、組織因子(tissue factor,TF)と、を含むもの」という限りにおいて共通する。

エ したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「血液凝固因子と、組織因子(tissue factor,TF)と、を含むもの」

(相違点)
本件発明1は、血液凝固因子が「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」である「血液凝固検査試薬」であるのに対し、
甲1発明は、血液凝固因子が「FIXa」であり、「血液凝固検査試薬」として特定されていない点。

(2)判断
相違点の判断
(ア)血液凝固検査試薬について
血液凝固検査試薬とは、対象(患者)の血液の凝固する活性を検査するための試薬のことであり、本件明細書には、その背景技術及び課題として、以下のように記載されている。
「【0008】
血栓症は主に、血液凝固反応を抑制することで過剰なトロンビン形成を防止する抗凝固薬によって治療される。近年、FXaをターゲットにしてトロンビン形成を阻害する直接経口抗凝固薬(Direct Oral Anticoagulants:DOACs)が開発され、脳梗塞患者などを対象にして広く使用されるようになった。従来のワーファリンやヘパリンを用いた治療の場合には、出血や血栓症の再発などの副作用の出現を最小限にするために、投薬後に薬の効果を血液凝固検査によってモニタリングし、得られる検査結果をもとに投与量を最適化してきた。
【0009】
実際にワーファリン治療の場合にはプロトロンビン時間検査(PT−INR)、ヘパリン治療においては活性化部分トロンボプラスチン時間検査(APTT)が用いられている。一方DOACsの場合は、当初、投薬後の薬の血液中の半減期が短くコントロールしやすいこと、また副作用の少ない安全な薬と考えられていたことから、モニタリング検査は行われていなかった。【0010】 しかし、DOACsを服用する患者が増加するに伴い、高齢者や腎機能の低下した患者を中心にして投薬後に過剰な出血を引き起こす例が多数報告されるようになった。こうした出血は患者の生活の質を低下させ、最悪死に至らしめるだけでなく、医療経済上も大きな費用負担となる。出血リスクを低減させたより安全なDOACs治療の開発が喫緊の課題となっている。
【0011】
抗血栓療法等に関するものとして、例えば、特許文献1は、血液試料中で生成されたトロンビン(TG)を測定するための高感度で迅速なアッセイであって、前記血液試料を組織因子(TF)、FIXa、およびCaCl2と共に5分間までインキュベーションすること;ならびにH−D−シクロヘキシル−アルギニル−アラニル−アルギニル−アミドメチルクマリン(AMC)および/またはブチルオキシカルボニル−バリル−プロリニル−アルギニル−AMC(V−P−R−AMC)を使用することによって、前記血液試料中のTGを測定することを含むアッセイ等を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2019−521324号公報」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在の治療ガイドラインにおいては、同じ血栓症の患者は同一量のDOACsで治療される。従って、薬に対する患者の感受性や反応性の違いは考慮されない。出血した患者においては、薬が効きすぎて血液凝固活性が著しく低下し、止血機能を失った可能性が考えられる。
【0015】
このように、DOACsを用いた治療においても薬の効果をモニタリングし、患者毎に薬の使用量を適正化する個別化治療が望まれている。しかし現状では、プロトロンビン(PT−INR)や活性化部分トロンボプラスチン時間検査(APTT)などの従来の血液凝固検査は、その検出感度が低く、DOACsの効果を正確に評価できないことから、未だその実現には至っていない。係る状況下、本発明者らは、様々な出血性疾患の治療を行うにあたって、出血のリスクの正確な判定や評価に適した高感度の血液凝固検査法を鋭意検討した。
【0016】
本発明は、新たな血液凝固検査試薬や血液凝固検査方法を提供することを目的とする。」

なお、上記特許文献1(特表2019−521324号公報)とは、甲1のことである。

(イ)甲1の記載事項について
a 一方、甲1には、「血液凝固検査試薬」との記載はないものの、上記第4の1の(甲1ウ)〜(甲1キ)で摘記したとおり、「血液凝固第XI因子(FXIa)」に関する記載は存在することから、それらの記載について検討する。
(甲1ウ)の記載について
(甲1ウ)には「一実施形態では、この知見は、観察されたTF経路とCP経路との協働機能が、FIXを活性化する直接的または間接的なフィードフォワードループの結果ではなかったことを実証する。さらに、正常な血小板に富む血漿(PRP)では、rTFと共に添加されたFXIIaまたはFXIaは、FIXaと同じ効果を有し、このことは、CPの活性化が、FIXa生成の上流経路であることを実証する。いくつかの実施形態で、TFおよびCPの経路の相乗作用は、FVIIとFVIIIの両方を含み、血漿中に存在する低濃度のTFPIは、rTFのみによるトロンビン生成の抑制に関与した。」と、「rTFと共に添加されたFXIIaまたはFXIaは、FIXaと同じ効果を有」るとの記載はあるものの、それは、CPの活性化がFIXa生成の上流経路であることからFXIaがFIXaと同じ効果を有していることを示しているものであって、「血液凝固検査試薬」として同じ効果があることを示唆しているわけではないから、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆しているとまではいえない。

(甲1エ)の記載について
(甲1エ)には、「接触経路プロテアーゼ(FXIIa、FXIa、またはFIXa)をTFと共に添加することによって、プロテアーゼまたはTFが個別に添加された際よりも多くのトロンビンが産生した。しかし、人工的な接触経路の活性化を阻害するために、正常血漿がFXIIa指向性のトウモロコシトリプシン阻害剤(CTI)を含有していた際には、低濃度のTFのみでは、トロンビンは本質的には産生されなかった。むしろ、TFは、FVIIaおよびFVIIIの両方を必要とする様式では、FIXaによるトロンビン産生を相乗的に増大させた。」と、「接触経路プロテアーゼ(FXIIa、FXIa、またはFIXa)をTFと共に添加する」との記載はあるものの、それは、プロテアーゼまたはTFが個別に添加された際よりも多くのトロンビンが産生することを示しているにすぎず、「FIXaによるトロンビン産生を相乗的に増大させた」との記載もあり、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆しているとまではいえない。

(甲1オ)の記載について
(甲1オ)には「PRP中のTFIIa生成は、Hemker et al.に記載されているように測定した。53μLのPRPを、96穴マイクロタイタープレート中、標示された終濃度を達成するようにrTFおよび/または内在性凝固経路プロテアーゼ−FXIIa、FXIa、またはFIXa−のうち1つを含有する15μLの溶液と混合した。」、「FIIa生成は、遅延時間(3nM トロンビンが形成されるまでの時間)および内在性トロンビン生成能(ETP;トロンビン生成経時曲線下の面積から決定した総生成トロンビン活性)を決定することによって表現した。」との記載はあるものの、それは、FXIIa、FXIa、またはFIXa−のうち1つでFIIa生成を測定することを示しているにすぎず、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆しているとまではいえない。

(甲1カ)の記載について
(甲1カ)には、「FIIaは、必須の補因子であるFVIIIを、プロテアーゼFIXaのための活性のFVIIIaへと、直接的に活性化する。さらに、FIIaは、FIXをFIXaへと間接的に活性化するが、この活性化は、酵素原FXIの酵素FXIaへの活性化によって媒介され、FXIaは、次いで、FIXをFIXaへと活性化する。最後に、大量の生成FIIaは、フィブリノーゲンを、止血および血栓症に不可欠なフィブリンに変換する。」との記載はあるものの、それは、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆しているとまではいえない。

(甲1キ)について
(甲1キ)には、「トロンビンフィードバックループによるFXIaかまたはTF−FVIIaをそれぞれ通じたFIXa生成を選択的に阻害するための特異的なモノクローナル抗体(MoAb)を用いて、FXIaおよびTFの活性を遮断した。予想通り、コラーゲン表面で、血小板凝集体の体積は、凝固経路を阻害することによる影響を受けなかったのに対して、フィブリンの沈着は、抗FXIa MoAbによって顕著に減少し、抗TF MoAbによって本質的に影響を受けなかった(図23A〜B)。これらの結果は、コラーゲン表面での凝固の活性化が、FXIIa依存的な接触経路を通じたFXIa生成によって開始されるという見解に一致する。」との記載はあるものの、それは、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆しているとまではいえない。

b 小括
よって、甲1には、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆する記載はないことから、上記相違点は、甲1の記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ)甲2及び甲3の記載事項について
上記第4の2及び3で摘記した(甲2ア)並びに(甲3ア)及び(甲3イ)は、いずれも「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆するものではないことから、上記相違点は、甲2及び甲3の記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 効果について
(ア)本件明細書には、「血液凝固検査試薬」として「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いたことによる効果について、以下のように記載されている。
「【0028】
本発明の検査試薬や本発明の検査方法は、活性型の血液凝固第IX因子(FIXa)を用いる場合よりも、高感度な検査ができる。このため、使用する試薬量も、少量で行うことができる。活性型の血液凝固第XI因子や組織因子は、生体由来等で大量製造が難しいことから、少量でも試験ができる本発明は有用である。また、繰り返し試験なども行いやすいため、試験回数の増加にも適している。
【0029】
また、血栓症を防ぐためにFIXaを低下させる治療法や、FIXが欠落している血友病Bなどのように、FIXaによる検査が適さないような場合も、本発明による検査は可能であり、本発明は、血液凝固の検査手法の多様化にも貢献する。」

そして、実施例において、甲1(特表2019−521324号公報)に対して、以下の実験結果が記載されている。
「【0079】
4)実施例4:apixabanの服用後ピーク時に採血して得た血漿中のトロンビン形成と出血イベントとの関連
トロンビン形成と出血イベントとの関連を調べるために、apixabanを服用した患者を出血した患者群(検体数:6)と非出血患者群(検体数:83)に分けて、本発明による検査試薬を用いて血漿中のトロンビン形成を比較した。トロンビン形成を開始させる混合試薬は図3と同じ試薬を用いた。加えて、特表2019−521324号公報に記載の混合開始薬(TFを150fM、FIXaを100pM、合成リン脂質を20μM、塩化カルシウムを16mM)を用いて血漿中のトロンビン形成を比較した。その他、血漿中のapixaban濃度、APTT及びPT−INRで測定した凝固活性値についても同様に比較した。血漿検体はapixabanを服用後1時間から4時間の間(ピーク時)に採血して調製した。
【0080】
本発明によって得られた検査結果において、出血した患者群から調製した血漿中のトロンビン形成は非出血群に比べて有意に低かった(図5のパネルA。Mann−Whitney統計解析によりp<0.05)。対照的に、特表2019−521324号公報に記載のTFとFIXaを用いたトロンビン形成結果(図5のパネルB)、apixaban濃度(図5のパネルC)、APTT(図5のパネルD)及びPT−INR(図5のパネルE)による凝固活性値は、両群間に有意な差は見られなかった。以上の結果は、当該のトロンビン形成試験のみがapixabanの服用によって引き起こされる出血のリスクを判定できることを示していた。
【0081】
図5は、Apixaban服用後ピーク時に採血して得た血漿中の血液凝固パラメーターと出血イベントとの関連を示す図である。Apixabanを服用した患者を出血した患者群(n=6)と非出血患者群(n=83)に分けて血漿中の血液凝固パラメーターを比較した。血漿検体はapixabanを服用後1時間から4時間の間(ピーク時)に採血して調製した。トロンビン形成を開始させる混合試薬は図3と同じ試薬を用いた。
A.本発明によるトロンビン形成値。
B.特表2019−521324号公報に記載のTFとFIXaを用いた検査によるトロンビン形成値」
上記図5として、AとB、すなわち、本件発明1の「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いた結果を示すAと甲1の「FIXa」を用いた結果を示すBを以下に示す。


(イ)効果についての判断
本件明細書には、血漿中のトロンビン形成について、血液凝固因子として甲1発明の「FIXa」を用いると、出血した患者群と非出血の患者群とで有意な差が見られない場合であっても、本件発明1の「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いると、両者の群を有意に区別することができることが記載されており、当該効果は、甲1の記載から、さらには甲2及び3の記載から、当業者といえども予期し得るものではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、上記第3で記載した本件発明1に対する申立理由について、特許異議申立書において、以下の主張している。
a 「これらをまとめると、甲第1号証には以下の発明(以下、甲1発明)が記載されている。
A 活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)と、
B 組織因子(tissue factor,TF)と、
C を含む血液凝固検査試薬。」

b 「甲1発明の実施において、必然的にFXIaが関与していることは当業者にとって明らかであり、FIXaをFIXa(当審注:FXIaの誤記といえる)と置換することは、当業者によって容易に想到し得る。」

c 「本件特許発明1は、血液凝固検査試薬に関するものであるが、甲1発明が直接この記載を用いていないとしたとしても、上述の甲第2号証に記載されているように、トロンビン生成が、血液凝固の指標であることが、本件特許の出願日前において、当業者の技術常識であることから、甲1発明には、血液凝固検査試薬を記載しているといえる。」

(イ)申立人の主張に対する当審の判断
aについて
「これらをまとめる」の「これら」とは、上記第4の1で摘記した甲1の記載であるところ、上記(甲1ア)〜(甲1キ)を「まとめ」ても、「A 活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)と」「C を含む血液凝固検査試薬。」を認定できず、申立人の甲1発明の認定は、本件発明1を見たうえでのものにすぎない。

bについて
申立人は、「甲1発明の実施において、・・・、FIXaをFXIaと置換することは、当業者によって容易に想到し得る。」としているが、申立人は甲1発明を上記(ア)aのとおり「FXIa」を含むものとして認定しているから、「甲1発明の実施においてFIXaをFXIaと置換する」とは意味不明である。
また、仮に、申立人の甲1発明の認定が「FIXa」を含むものとしての認定だとしても、上記ア(イ)で述べたように、血液凝固検査試薬とすべく「FIXaをFXIaと置換すること」が容易であったともいえない。

cについて
上記甲2の記載から、トロンビン生成が血液凝固の指標になることはいえても、甲2は、上記ア(ウ)で述べたように、「血液凝固検査試薬」とすべく「FIXa」に替えて「活性型の血液凝固第XI因子(FXIa)」を用いることを示唆するものではない。

d 上記イで述べたとおり、本件明細書では、その実施例において、本件発明1と甲1についてトロンビン形成に関する実験結果を記載し、それらの比較検討の結果を示したうえで本件発明1の効果を記載しているところ、申立人は、その効果について何ら検討していない。
発明の奏する効果が当業者といえども予期し得ない以上、発明の進歩性を否定することはできないことから、本件発明1について進歩性を否定することはできない。

(3)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲1ないし甲3の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、上記第2で記載したように、本件発明1を引用して、さらに限定を加えた「血液凝固検査試薬」の発明であることから、本件発明2及び3についても、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲1ないし甲3の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明4について
本件発明4は、上記第2で記載したように「血液凝固検査方法」の発明であるところ、その発明特定事項の「・・・の活性型の血液凝固第XI因子と、・・・の組織因子とを含む検査試薬と、・・・を有する血液凝固検査」である点において、本件発明1と共通するものである。
そして、その共通事項の点で、本件発明1が、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲1ないし甲3の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明4についても、甲1発明ではなく、そして、甲1発明及び甲1ないし甲3の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1〜4は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないことから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、そして、甲1発明及び甲1ないし甲3の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-02-25 
出願番号 P2020-202843
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G01N)
P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
三崎 仁
登録日 2021-05-13 
登録番号 6883899
権利者 株式会社血栓トランスレーショナルリサーチラボ
発明の名称 血液凝固検査試薬、および血液凝固検査方法  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 加藤 久  
代理人 南瀬 透  
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