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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F27D
審判 全部申し立て 2項進歩性  F27D
管理番号 1384269
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-08 
確定日 2022-03-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6886849号発明「熱処理炉及び循環方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6886849号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第6886849号の請求項1〜4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年 3月31日を出願日として特許出願され、令和 3年 5月19日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月16日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和 3年12月 8日に、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により、請求項1〜4に係る特許に対して特許異議の申立てが行われたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1〜4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。


【請求項1】
熱処理室から排出した加熱気体を、前記熱処理室と異なる他の熱処理室を通過しない循環路から前記熱処理室に供給する熱処理炉において、
前記循環路は、前記熱処理室から排出された前記加熱気体が前記熱処理室に供給されるまでに5回以上の方向転換をするように、構成され、
前記循環路は、前記熱処理室から排出された前記加熱気体が前記熱処理室へ直行する経路の一部を有する直行路と、前記直行路の途中に設けられた迂回路とを有し、
前記直行路は、前記熱処理室内を進む前記加熱気体の中心の軌道と平行な一対の直行縦路と、前記軌道と直交する一対の直行横路とを有し、
前記直行路の内部を進行する前記加熱気体の中心の軌道は、前記熱処理室の排出口と供給口の中心を含む同一仮想平面内に存在し、
前記迂回路は、前記直行縦路及び前記直行横路の少なくとも1つに設けられ、前記仮想平面と直交するように迂回する
熱処理炉。

【請求項2】
前記熱処理炉は、前記熱処理室を通過する炭素繊維用の前駆体繊維を耐炎化する耐炎化炉である
請求項1に記載の熱処理炉。

【請求項3】
前記前駆体繊維は複数本あり、複数本の前記前駆体繊維が前記走行方向と直交する方向に並ぶ状態で走行し、
前記循環路は前記前駆体繊維の走行方向に沿って複数あり、
前記循環路は、前記前駆体繊維の走行方向と複数本の前記前駆体繊維が並ぶ方向とに直交する方向から見たときに「L」字状をし、
前記走行方向に隣接する2つの前記循環路を1セットとすると、1セット内の2つの「L」字状の前記循環路は、前記直交する方向から見たときに、前記走行方向に沿って「L」字と逆「L」字とが組み合わさるように配されている
請求項2に記載の熱処理炉。

【請求項4】
熱処理室から排出した加熱気体を、前記熱処理室と異なる他の熱処理室を通過しない循環路を経由して前記熱処理室に供給する加熱気体の循環方法において、
前記熱処理室から排出された前記加熱気体を前記熱処理室に供給するまでに5回以上の方向転換をさせ、
前記循環路は、前記熱処理室から排出された前記加熱気体が前記熱処理室へ直行する経路の一部を有する直行路と、前記直行路の途中に設けられた迂回路とを有し
前記直行路は、前記熱処理室内を進む前記加熱気体の軌道と平行な一対の直行縦路と、前記軌道と直交する一対の直行横路とを有し、
前記直行路の内部を進行する前記加熱気体の中心の軌道は、前記熱処理室の排出口と供給口の中心を含む同一仮想平面内に存在し、
前記迂回路は、前記直行縦路及び前記直行横路の少なくとも1つに設けられ、前記仮想平面と直交するように迂回する
循環方法。」

第3 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証〜甲第3号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由により、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(証拠方法)
甲第1号証(甲1):中国実用新案第202247061号明細書
甲第2号証(甲2):韓国公開特許第10−2011−0078325号
公報
甲第3号証(甲3):特開2014−221956号公報

(1)申立理由1(新規性
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、本件特許の出願日前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願日前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1及び甲2〜3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 当審の判断
当審は、申立人が主張するいずれの申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。

(1)申立理由1(新規性)について
ア 甲1の記載事項
甲1には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付したものである。以下同様である。
(ア)「

」(申立人訳:
1.頂きの下で自発的吹出の式酸化炉から、以下を特徴とする:それはパッケージを含むことが保温材料層のある炉本体、出し入れ口ガイドワイヤーフレームと熱風循環システムは、前記炉本体は上、中、次の3層の炉本体空気室を含み、その中の上、下部炉体空気室内でそれぞれステンレス孔板構造が製造された均(当審注:申立人訳では「つちへん」がない。以下同様。)風装置を用いることが設けられている;前記中部炉本体空気室の炭素繊維に入って、出口端は全部逆方向に設けられている吹出形式の逆密封ガス室とシール手段;前記入って、出口ガイドワイヤーフレームは炭素繊維出入りの炉本体ゴデットローラおよびその取り付けブラケットを牽引することによって構成されて、中部炉本体空気室をそれぞれ設置する炭素繊維は入って、出口外部端;前記熱風循環システムは炉本体外部に設置する通気口を含んで炉本体頂部、空気出口に位置して炉本体底部に位置して且つ順次炉本体上、中、次の3層の炉本体内腔貫通した熱風循環システム主風路と炉本体外部に設置するそれぞれ中部炉本体空気室に設置する炭素繊維と入ることと、逆方向に出口端である吹出形式の逆密封ガス室の相結合した密封風路。)

(イ)「

」(申立人訳:
技術分野
[0001] 本実用新案は炭素繊維炭素フィラメントに関して製造技法を処理し、具体的には炭素繊維予備酸化処理に適用する頂きから下で自発的に式酸化炉にわざと人にほのめかすことに関する。)

(ウ)「

」(申立人訳:
[0007] 本実用新案の目的はちょうど上記の従来技術中存在していた不足点に対し頂きの下向きの自発的吹出式とファーネス内部温度、風速比較的に均一な酸化炉から確実であることを動作すること、安定、省エネのものを提供する。)

(エ)「

」(申立人訳:
図面の簡単な説明
[0015] 図1は本実用新案の構造概略図である;
[0016] 図中シーケンス番号:1は上部炉体空気室であり、2は中部炉本体空気室であり、3は下部炉体空気室であり、4はガイドワイヤーフレームを輸入し、5は出口ガイドワイヤーフレームであり、6は上部炉体の均風装置であり、7は下部炉体の均風装置であり、8はブラインド型シール手段であり、9は上部炉体が空気室を密封し、10は中部炉本体が空気室を密封し、11は下部炉体が空気室主風路を密封し、12は主風路であり、13は主風路上の電気加熱装置であり、14は主風路上の混合機であり、15は主風路循環送風機であり、16は風路を密封し、17は風路上を密封する電気加熱装置とガス混合器であり、18は風路を密封する循環送風機であり、19は中部炉本体空気室主気室とする。)

(オ)「

」(申立人訳:
発明を実施するための最良の形態
[0019] 本実用新案以下に実施例を結合して(図面)は以下をさらに記述する:
[0020] 図面1に示すように、本実用新案の自発的吹出式酸化炉は保温材料層を被包する炉本体、出し入れ口ガイドワイヤーフレーム4、5と熱風循環システムを含み、前記炉本体は上、中、次の3層の炉本体空気室1、2、3を含み、そのうち上、下部炉体空気室内でそれぞれステンレスオリフィスプレート構造が製造された均風装置を用いることが設けられている;前記中部炉本体空気室2の炭素繊維に入って、出口端は全部逆方向に設けられている吹出形式の逆密封ガス室10とシール手段;前記入って、出口ガイドワイヤーフレーム4、5は炭素繊維出入りの炉本体ゴデットローラ取り付けブラケットを牽引することによって構成されて、中部炉本体空気室2をそれぞれ設置する炭素繊維は入って、出口外部端;)

(カ)「

」(申立人訳:
[0021] 図面2密封ガス室断面図に示すように、前記逆方向は空気室を密封する均風装置が上、下部炉体密封ガス室内をそれぞれ設置することにわざと人にほのめかし、上部炉体空気室1内に設置する均風装置6は上下二段ステンレスオリフィスプレートによって構成され、且つ孔率を突き通って異なっていて、上層は18〜22%の間に孔率を突き通り、下層は36〜44%の間に孔率を突き通り、ステンレスオリフィスプレート22の上方に熱風均一な分配板21と傾斜分布の弧形状導流板20を順次設ける;下部炉体に設置して空気室3の内部を密封する均風装置7は単層ステンレスオリフィスプレートによって構成され、それは18〜22%の間に孔率を突き通り、ステンレスオリフィスプレートの下方に熱風均一な分配板と傾斜分布の弧形状導流板を順次設ける;前記熱風循環システムは炉本体外部に設置する通気口を含んで炉本体頂部、空気出口に位置して炉本体底部に位置して且つ順次炉本体上、中、次の3層の炉本体内腔貫通した熱風循環システム主風路12とそれぞれ中部炉本体空気室炭素繊維に設置して入ること、出口端の逆方向に形式の逆密封ガス室9,10,11相リンクにわざと人にほのめかす密封風路16と炉本体外部に設置する。)

(キ)「

」(申立人訳:
[0022] 本実用新案中に前記逆方向に形式にわざと人にほのめかすシール手段はブラインド型構造8とし、中部炉本体空気室の主気室と逆方向を空気室を密封させ、逆方向に空気室と外部が隔離した目的を密封することを果たすことができ、ブレードは90°が回転し、プロセス操作に便利にできる。)

(ク)「

」(申立人訳:
[0023] 本実用新案は前記熱風循環システム主風路12にガス加熱に用いる電気加熱装置13とガス混合器14が設けられている;密封風路16に電気加熱装置とガス混合器17が設けられていて、進入炉本体前の熱風を風路内で均等混合を得させ、これによって進入炉内の熱風を均一にし、安定している。)

(ケ)「

」(申立人訳:
[0024] 本実用新案の稼動原理は次の通りである:
[0025] 生糸は輸入ガイドワイヤーフレーム4の下部から酸化炉に進んで、入っていて、出口ガイドワイヤーフレーム4、5間にS字形を形成して、最後は出口ガイドワイヤーフレーム5の上部から酸化炉を離れる;主風路12は炉本体外部に設置し、当然下で上部気室内2層のステンレスオリフィスプレートが構成する均風装置の均風後中部炉本体の主気室19を介して吹き出すことに上がって、2層のステンレスオリフィスプレートによって構成される均風装置6は充分に保証して中部炉本体空気室に吹き込むこと内でフィラメント束に接触する熱風温度と風速は均一である;下部炉体空気室内ステンレスオリフィスプレートが構成した均風装置7に取り付けて中部炉本体空気室下の温度場と風速の回を風力発電機負圧の影響を受けないようにすることができ、充分な当接保証フィラメント束の熱風は均等に安定する;炉本体外側に設置する密封風路16は順次下部炉体密封ガス室11に向かい、中部炉本体密封ガス室10と上部炉体密封ガス室9は逆方向に吹き出し、フィラメント束出入りの通路を減少して主気室エッジ温度の回と風速の回の影響に対し、充分な当接保証フィラメント束の熱風は均等に安定し、逆方向に形式のシール手段にわざと人にほのめかしてまたブラインド型構造シーリング蓋8を含み、中部炉本体の主気室と逆密封ガス室、逆密封ガス室と外部を隔離させる。)

(コ)「

」(申立人訳:図1)

(サ)「

」(申立人訳:図2)

イ 引用発明
(ア)上記ア(ア)の「頂きの下で自発的吹出の式酸化炉」は、上記ア(オ)の「自発的吹出式酸化炉」に対応する。また、上記ア(オ)の「前記炉本体は上、中、次の3層の炉本体空気室1、2、3を含み、」との記載及び上記ア(エ)の「1は上部炉体空気室であり、2は中部炉本体空気室であり、3は下部炉体空気室であり、」の記載中における図面番号の共通性から、「上」の「炉本体空気室」「1」は「上部炉体空気室1」に、「次」の「炉本体空気室」「3」は「下部炉体空気室3」に対応すると認められる。そうすると、上記ア(ア)の「頂きの下で自発的吹出の式酸化炉から、以下を特徴とする:それはパッケージを含むことが保温材料層のある炉本体、出し入れ口ガイドワイヤーフレームと熱風循環システムは、前記炉本体は上、中、次の3層の炉本体空気室を含み、その中の上、下部炉体空気室内でそれぞれステンレス孔板構造が製造された均風装置を用いることが設けられている」との記載、上記ア(エ)〜(カ)の記載、上記ア(コ)、(サ)から、甲1には、炉本体、熱風循環システム、出し入れ口ガイドワイヤーフレーム4、5を含み、前記炉本体は、上部、中部、下部の3層の炉本体空気室1、2、3を含み、上部炉体空気室1及び下部炉体空気室3内には、それぞれステンレス孔板構造22が製造された均風装置6、7が設けられている自発的吹出式酸化炉が記載されていると認められる。

(イ)上記(ア)における「熱風循環システム」について、上記ア(ア)の「前記熱風循環システムは炉本体外部に設置する通気口を含んで炉本体頂部、空気出口に位置して炉本体底部に位置して且つ順次炉本体上、中、次の3層の炉本体内腔貫通した熱風循環システム主風路と炉本体外部に設置するそれぞれ中部炉本体空気室に設置する炭素繊維と入ることと、」との記載、上記ア(ク)、上記ア(ケ)、及び上記ア(コ)から、前記「熱風循環システム」は、炉本体外部に設置する通気口、空気出口を含み、上部、中部、下部の3層の炉本体空気室1、2、3を内腔(内側空間)貫通し、炉本体外部に設置される主風路12を含むものと認められる。

(ウ)上記ア(コ)における点線及び一点鎖線について、一般に図面における点線によって、重なった部材同士の奥側の部材を透視的に表現することは慣用的に行われている。そうすると、上記ア(コ)及び上記ア(ア)、(オ)、(ケ)から、出口ガイドワイヤーフレーム4、5間で連続した複数のS字を形成する二点鎖線は、生糸(炭素繊維)を表していると認められる。一方、点線及び一点鎖線は、炉本体内に、部材同士の区別が困難である程度に多くかつ不明瞭に描かれており、甲1には、点線及び一点鎖線で示された部材の外形状や位置について推認できる記載が認められないため、上記ア(コ)の点線及び一点鎖線からでは、点線及び一点鎖線と共に示された部材の外形状や、前記部材が炉本体内に存在するのか、炉本体の裏側に存在するのかについて、把握することはできない。特に、一点鎖線は、主風路12と密封風路16の中心に位置していることから、これら風路を通る熱風の経路を示しているものと推定されるものの、上記ア(コ)の点線及び一点鎖線からでは、主風路12を通る経路と、密封風路16を通る経路の2系統の炉本体内の経路の関係が判然とせず、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することはできない。

(エ)炉本体の熱風の向きについて、上記ア(ア)の「頂きの下で自発的吹出の式酸化炉」との記載や、上記ア(カ)の「前記熱風循環システムは炉本体外部に設置する通気口を含んで炉本体頂部、空気出口に位置して炉本体底部に位置して且つ順次炉本体上、中、次の3層の炉本体内腔貫通した熱風循環システム主風路12」との記載から、熱風は炉本体の上部から供給されるように解される。しかし、一方で、上記ア(カ)の前記記載は、「前記熱風循環システムは炉本体外部に設置する通気口を含んで炉本体頂部、空気出口に位置して・・・」と、空気出口が炉本体頂部にあるようにも読めることや、上記ア(ケ)の「主風路12は炉本体外部に設置し、当然下で上部気室内2層のステンレスオリフィスプレートが構成する均風装置の均風後中部炉本体の主気室19を介して吹き出すことに上がって、・・・」との記載や、「上部炉体空気室1内に設置する均風装置6」及び「下部炉体に設置して空気室3の内部を密封する均風装置7」の構造を図示した上記ア(コ)のA−A断面図である上記ア(サ)では、「下部炉体に設置して空気室3の内部を密封する均風装置7」から風が流れ込んでいることから、熱風は炉本体の下部から供給されるようにも解することができる。また、甲1には、他に、炉本体の熱風の向きについて言及した記載は認められない。したがって、甲1からでは、炉本体の熱風の向きについて、把握することはできない。

(オ)主風路循環送風機15の羽について、上記ア(コ)には、インペラ(羽)が記載されていないから、主風路循環送風機15の羽を認定することはできない。そして、上記(ウ)〜(エ)で検討したように、甲1からでは、熱風の経路及び炉本体の熱風の向きについて把握することはできない。ここで、主風路循環送風機15の羽が存在し、それがどのような位置にどのような向きで設置されるかは、少なくとも、熱風の経路及び炉内を流れる熱風の向きが把握できなければ、把握することはできない。したがって、甲1からでは、主風路循環送風機15の羽を把握することはできない。

(カ)上記ア(コ)では、主風路循環送風機15上部に点線で記載された上広がりの台形が視認できるところ、甲1には、前記台形について説明した記載は全くない。そのため、甲1からでは、前記台形が、炉内又は炉の裏側に位置する何らかの部材を位置するのか、主風路循環送風機15上部の炉の陥没した構造を意味するのか、そのどちらの意味でもないのか、全く不明である。したがって、甲1からでは、前記台形の意味するところについて、何も把握することはできない。

(キ)上記(ア)〜(カ)を総合的に勘案すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明A」という。)。
「炉本体及び熱風循環システムを含む、自発的吹出式酸化炉であって、
前記炉本体は、上部炉本体空気室1、中部炉本体空気室2、及び下部炉本体空気室3を含み、
前記熱風循環システムは、炉本体外部に設置する通気口、空気出口を含み、上部、中部、下部の3層の炉本体空気室1、2、3を内腔(内側空間)貫通し、炉本体外部に設置される主風路12を含む、自発的吹出式酸化炉。」

(ク)また、上記(ア)〜(カ)を総合的に勘案すると、甲1には、以下の発明も記載されていると認められる(以下、「甲1発明B」という。)。
「炉本体及び熱風循環システムを含む、自発的吹出式酸化炉の熱風循環方法であって、
前記炉本体は、上部炉本体空気室1、中部炉本体空気室2、及び下部炉本体空気室3を含み、
前記熱風循環システムは、炉本体外部に設置する通気口、空気出口を含み、上部、中部、下部の3層の炉本体空気室1、2、3を内腔(内側空間)貫通し、炉本体外部に設置される主風路12を含む、自発的吹出式酸化炉の熱風循環方法。」

ウ 本件発明1、2と甲1発明Aとの対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、甲1発明Aの「炉本体」、「熱風」、「自発的吹出式酸化炉」、「空気出口」、「通気口」は、それぞれ、本件発明1の「熱処理室」、「加熱気体」、「熱処理炉」、「排出口」、「供給口」に相当する。

(イ)甲1発明Aの「上部、中部、下部の層の炉本体空気室1、2、3を内腔(内側空間)貫通し、炉本体外部に設置される主風路12を含む」「熱風循環システム」について、
a 上記ア(カ)の「前記熱風循環システムは炉本体外部に設置する通気口を含んで炉本体頂部、空気出口に位置して炉本体底部に位置して且つ順次炉本体上、中、次の3層の炉本体内腔貫通した熱風循環システム主風路12」との記載、及び上記ア(コ)の図面番号12と図面番号1、2、3を含む炉本体との位置関係から、前記「熱風循環システム」は、「炉本体」外部で、「炉本体」と異なる他の「炉本体」を通過せず、「通気口」及び「空気出口」と接続されるものと認められる。
b そうすると、甲1発明Aの「上部、中部、下部の層の炉本体空気室1、2、3を内腔(内側空間)貫通し、炉本体外部に設置される主風路12を含む」「熱風循環システム」は、本件発明1の「熱処理室から排出した加熱気体を」、「前記熱処理室と異なる他の熱処理室を通過」せず、「前記熱処理室に供給する」「循環路」に相当すると認められる。


(ウ)甲1発明Aの「熱風循環システム」中の「熱風」の方向転換回数について、上記イ(ウ)〜(エ)で指摘したように、甲1からでは、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することができず、炉本体の熱風の向きについても把握することができないから、甲1発明Aにおいて、「熱風循環システム」中の「熱風」の方向転換回数がいくつになるのかは不明である。

(エ)甲1発明Aの「熱風循環システム」が「直行路」を有しているか否かについて、上記イ(ウ)で指摘したように、甲1からでは、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することができないから、甲1発明Aにおいて、「熱風循環システム」が、「熱処理室内を進む加熱気体の中心の軌道と平行な一対の直行縦路と、前記軌道と直交する一対の直行横路」とを有し、「内部を進行する前記加熱気体の中心の軌道」が「前記熱処理室の排出口と供給口の中心を含む同一仮想平面内に存在」する「直行路」を有しているかは不明である。

(オ)甲1発明Aの「熱風循環システム」が「迂回路」を有しているか否かについて、上記(エ)と同様、甲1からでは、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することができないから、甲1発明Aにおいて、「熱風循環システム」が、「直行縦路及び直行横路の少なくとも1つに設けられ」、「熱処理室の排出口と供給口の中心を含む」「仮想平面と直交するように迂回する」「迂回路」を有しているかは不明である。

(カ)そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、次の点で一致する。
<一致点>
「熱処理室から排出した加熱気体を、前記熱処理室と異なる他の熱処理室を通過しない循環路から前記熱処理室に供給する熱処理炉。」

(キ)一方、本件発明1と甲1発明Aとは、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、循環路は、熱処理室から排出された加熱気体が熱処理室に供給されるまでに5回以上の方向転換をするように、構成されているのに対し、甲1発明Aでは、熱風循環システム中の熱風の方向転換回数は不明である点。

<相違点2>
本件発明1では、循環路は、熱処理室から排出された加熱気体が熱処理室へ直行する経路の一部を有する直行路を有し、前記直行路は、前記熱処理室内を進む前記加熱気体の中心の軌道と平行な一対の直行縦路と、前記軌道と直交する一対の直行横路とを有し、前記直行路の内部を進行する前記加熱気体の中心の軌道は、前記熱処理室の排出口と供給口の中心を含む同一仮想平面内に存在するのに対し、甲1発明Aでは、前記直行路を有しているか不明である点。

<相違点3>
本件発明1では、直行路の途中に設けられた迂回路とを有し、前記迂回路は、直行縦路及び直行横路の少なくとも1つに設けられ、熱処理室の排出口と供給口の中心を含む仮想平面と直交するように迂回するのに対し、甲1発明Aでは、前記迂回路を有しているか不明である点。

(ク)したがって、本件発明1は、上記相違点1〜3に係る発明特定事項で、甲1発明Aと相違しているから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

(ケ)また、本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、少なくとも上記相違点1〜3に係る発明特定事項で、甲1発明Aと相違しており、甲1に記載された発明ではない。

エ 本件発明4と甲1発明Bとの対比・判断
(ア)上記ウ(ア)〜(オ)における検討と同様の理由で、本件発明4と甲1発明Bとは、次の点で一致する。
<一致点>
「熱処理室から排出した加熱気体を、前記熱処理室と異なる他の熱処理室を通過しない循環路を経由して前記熱処理室に供給する加熱気体の循環方法。」

(イ)一方、本件発明4と甲1発明Bとは、次の点で相違する。
<相違点4>
本件発明4では、熱処理室から排出された加熱気体を前記熱処理室に供給するまでに5回以上の方向転換をさせるのに対し、甲1発明Bでは、熱風の方向転換回数は不明である点。

<相違点5>
本件発明4では、循環路は、熱処理室から排出された加熱気体が前記熱処理室へ直行する経路の一部を有する直行路を有し、前記直行路は、前記熱処理室内を進む前記加熱気体の軌道と平行な一対の直行縦路と、前記軌道と直交する一対の直行横路とを有し、前記直行路の内部を進行する前記加熱気体の中心の軌道は、前記熱処理室の排出口と供給口の中心を含む同一仮想平面内に存在するのに対し、甲1発明Bでは、前記直行路を有しているか不明である点。

<相違点6>
本件発明4では、直行路の途中に設けられた迂回路とを有し、前記迂回路は、直行縦路及び直行横路の少なくとも1つに設けられ、熱処理室の排出口と供給口の中心を含む仮想平面と直交するように迂回するのに対し、甲1発明Bでは、前記迂回路を有しているか不明である点。

(ウ)したがって、本件発明4は、上記相違点4〜6に係る発明特定事項で、甲1発明Bと相違しているから、本件発明4は甲1に記載された発明ではない。

オ 特許異議申立書における申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書において、
a 上記ア(ア)の記載から、熱風は上部から供給され、炉内を上から下へ通り下部からでていることが分かる。

b 上記ア(コ)中の15は主風路循環送風機(ファン)であり、ファンは構造上軸方向から吸い込み、インペラ(羽)の遠心力で軸と垂直方向へ排出される。

c 上記ア(コ)から、ファンのインペラが軸と垂直方向から見たように描かれていることから、熱風は上記ア(コ)中のファンの左右方向から入り、上下方向にでることが推定できる。

d また、上記ア(コ)には、ファンを含むファンの上側に台形ダクトが描かれていることから、熱風はファンを出て一度上側へ向かっていると推定できる。

e 以上のことから、甲1の主風循環路は、立体図aのようになっているといえる。

f 「



と主張しているので検討する。

(イ)上記イ(ウ)〜(エ)で検討したように、甲1からでは、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することができず、炉本体の熱風の向きについても把握することができない。そして、上記ア(ア)には、上記イ(ウ)〜(エ)での検討を覆し、熱風が上部から供給され、炉内を上から下へ通り下部からでていると推定できる記載は認められない。よって、上記主張aは、採用できない。

(ウ)ファンが、すべて、軸方向から吸い込み、羽によって軸垂直方向から排出する構造を有しているとの技術常識は確認できない(軸方向から吸い込み、軸方向に排出するファンも考えられる。)。そして、申立人は、甲1の主風路循環送風機15が、軸方向から吸い込み、羽によって軸垂直方向から排出する構造するものであると特定できるに足る証拠を何ら提示していない。よって、上記主張bは、採用できない。

(エ)上記ア(コ)には、そもそも主風路循環送風機15の羽について描かれていない。また、甲1には、主風路循環送風機15の軸について特定できる記載も存在しない。さらに、上記イ(ウ)〜(エ)にて検討したように、甲1からでは、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することができず、炉本体の熱風の向きについても把握することができない。したがって、甲1には、熱風が、上記ア(コ)中のファンの左右方向から入り、上下方向にでると推定できる根拠が認められない。よって、上記主張cは、採用できない。

(オ)上記イ(カ)で検討したように、上記ア(コ)において主風路循環送風機15上部に点線で記載された台形について、甲1には、前記台形について説明した記載は存在しない。さらに、上記上記イ(ウ)〜(エ)にて検討したように、甲1からでは、酸化炉全体においてどのような経路で熱風が流れているか把握することができず、炉本体の熱風の向きについても把握することができない。したがって、甲1には、熱風はファンを出て一度上側へ向かっていると推定できる根拠が認められない。よって、上記主張dは、採用できない。

(カ)上記(イ)〜(オ)から、甲1には、甲1の主風循環路が、立体図aのようになっていると推定できる根拠は認められない。さらに、上記立体図aでは、主風路循環送風機15が、炉本体の外部かつ裏側に配置されているが、甲1に、主風路循環送風機15が、炉本体の外部かつ裏側に配置されていると推定できる根拠も存在しない。したがって、甲1から、上記fに摘記した立体図aに示されるような循環路は推定することができない。よって、立体図aが認定できるとの上記主張eは、採用できない。

(キ)以上から、申立人の上記主張a〜eは、いずれも採用できない。

カ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1(新規性)について、本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当しているものとはいえず、同発明に係る特許は同法113条第2号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

(2)申立理由2(進歩性)について
ア 本件発明3は、本件発明1を間接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明3と甲1発明Aとを対比すると、両者は、少なくとも上記(1)ウ(キ)の相違点1〜3で相違する。

イ 以下、上記相違点1〜3について検討する。
(ア)上記(1)アから、甲1には、
a 熱風循環システム中の熱風の方向転換回数について規定すること、

b 熱風循環システムに、炉本体内を進む熱風の中心の軌道と平行な一対の直行縦路と、前記軌道と直交する一対の直行横路とを有し、内部を進行する前記熱風の中心の軌道が、炉本体の通気口と空気出口の中心を含む同一仮想平面内に存在するような、炉本体から排出された熱風が炉本体へ直行する経路の一部を有する直行路を形成すること、及び

c 上記直行路の途中に設けられ、上記直行縦路及び上記直行横路の少なくとも1つに設けられ、炉本体の通気口と空気出口の中心を含む仮想平面と直交するように迂回する迂回路を形成すること、

について記載も示唆もなされていない。

(イ)そうすると、甲1発明Aにおいて、上記(ア)aの熱風の方向転換回数を5回以上とすること、上記(ア)bの直行路を形成すること、及び上記(ア)cの迂回路を形成することの動機付けは見いだせない。

(ウ)また、甲2には、以下の事項が記載されている。
a 「

」(申立人訳:
[0006] 具体的に、内焔火鉢内の熱処理室で多数のストランド束をロールにかけて回して走行方向を逆方向に変更して多段で走行させる。)

b 「

」(申立人訳:
[0013] 本発明は前述の諸般の問題点を解決するために案出されたことで、内焔化への運転の中にも異物除去手段の交換が可能で熱風の風量を一定するように維持することができる前駆体内焔火鉢を提供することを目的にする。 )

c 「

」(申立人訳:図1)

(エ)さらに、甲3には、以下の事項が記載されている。
a 「
【0010】
本発明の目的は、処理速度と風量を上げてその高い伝熱性能から大きな生産性を得ることができる、糸条に両面から平行に加熱処理気体を供給して耐炎化を行う平行流の熱処理装置において、炉内を簡易な構造とすることで糸条の擦過を防いで毛羽の発生を抑えて品質を向上することができ、さらに設備費も抑制することができる熱処理装置及び該熱処理装置を用いた耐炎化繊維の製造方法を提供することにある。」

b 「
【0021】
次に、図1及び図2に基づいて、本発明の熱処理装置について、さらに説明する。
(熱処理装置1)
熱処理装置1は、両端に前記糸条8の出入部10を有する熱処理室2及び熱処理室2の内外に加熱処理気体を循環させる2系統の循環流路7、7’を備えており、熱処理室2の両端に配置された複数の吹出しノズル3、3’から各糸条8に両面から吹き付けられた加熱処理気体は、各糸条8に沿って平行に流れ、熱処理室2の中央部に向かって移動しながら、各糸条8を加熱する。熱処理室2の中央部に達した加熱処理気体は、正対して開口した吸込み部4、4’から熱処理室2外に排出され、循環流路7、7’に導かれる。そして、気体加熱手段5,5’によって所望の温度に加熱され、熱風送風手段6,6’によって風速が制御された上で、再び複数の吹出しノズル3、3’から熱処理室2内に吹き込まれる。
このように、熱処理装置1は、熱処理室2と2系統の循環流路7、7’を有しており、熱処理室2内には、所定の温度と風速の加熱処理気体が流れるようになっている。」

c 「




d 「



(オ)上記(ウ)〜(エ)から、甲2〜3にも、上記(ア)aの熱風の方向転換回数を5回以上とすること、上記(ア)bの直行路を形成すること、及び上記(ア)cの迂回路を形成することは記載されていない。

(カ)一方、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)によれば、本件発明3は、「熱処理室から排出した加熱気体を循環路から前記熱処理室に供給する熱処理炉において、」「直行路」及び「迂回路」で、「前記熱処理室から排出された前記加熱気体」を「前記熱処理室に供給されるまでに5回以上」「方向転換」させることによって、「熱処理室内での温度斑を一層小さくできる熱処理炉及び加熱気体の温度斑を一層小さくできる」との効果を奏するものである(段落【0005】、【0006】、【0024】、【0028】等)。

(キ)そうすると、上記(ア)aの熱風の方向転換回数を5回以上とすること、上記(ア)bの直行路を形成すること、及び上記(ア)cの迂回路を形成することが記載されていない甲1〜3に記載された事項からでは、甲1発明Aにおいて、上記(ア)aの熱風の方向転換回数を5回以上とすること、上記(ア)bの直行路を形成すること、及び上記(ア)cの迂回路を形成することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(ク)よって、上記相違点1〜3に係る発明特定事項を備えた本件発明3は、甲1発明A及び甲1〜3の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 以上から、本件発明3は、上記相違点1〜3に係る発明特定事項について、甲1発明A及び甲1〜3の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明A及び甲1〜3の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2(進歩性)について、本件特許の請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に該当しているものとはいえず、同発明に係る特許は同法113条第2号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立てに係る申立理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-14 
出願番号 P2017-071656
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F27D)
P 1 651・ 113- Y (F27D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 太田 一平
平塚 政宏
登録日 2021-05-19 
登録番号 6886849
権利者 帝人株式会社
発明の名称 熱処理炉及び循環方法  
代理人 奥山 裕治  
代理人 原田 淳司  

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