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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
管理番号 1384270
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-09 
確定日 2022-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6887039号発明「合成繊維用処理剤及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6887039号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 事件の表示
特許第6887039号発明「合成繊維用処理剤及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論
特許第6887039号の請求項1−6に係る特許を維持する。

理由
第1 手続の経緯
特許第6887039号の請求項1−6に係る特許についての出願は、令和2年3月27日に出願され、令和3年5月19日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月16日に特許掲載公報が発行された。
そして、令和3年12月9日に特許異議申立人根本未果(以下「申立人」という。)は、請求項1−6に係る特許に対する本件特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6887039号の請求項1−6の特許に係る発明は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1−6に各々記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)
「【請求項1】
ノニオン界面活性剤(N)、平滑剤(L)(ノニオン界面活性剤(N)を除く)及び低粘度希釈剤(D)を必須で含み、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、油膜強化剤(H)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤であって、
前記ノニオン界面活性剤(N)が、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル及び水酸基を1つ又は2つ以上を有する多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種であり、
前記処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下である、合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記酸化防止剤(E)を必須に含み、前記酸化防止剤(E)がヒンダードフェノール系酸化防止剤を含み、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、各フェノール基におけるターシャリーブチル基が1以下、カルボニル基が1以上を有する、請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記汚染物質粒子が、乳酸、乳酸塩、モノオクチルスルホコハク酸、モノオクチルスルホコハク酸塩、無機硫酸及び無機硫酸塩、無機燐酸及び無機燐酸塩から選ばれる少なくとも1種であり、その合計が1500ppm以下である、請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
高温曇点が50℃以上であり、低温曇点が10℃以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記油膜強化剤(H)を必須に含み、前記油膜強化剤(H)が、硬化ヒマシ油のエチレンオキシド付加物とジカルボン酸の縮合物を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
合成繊維用処理剤の製造方法であって、
下記工程(II)及び下記工程(III)を必須に含み、下記工程(I)及び/又は下記工程(IV)を含み、
下記ノニオン界面活性剤(N)が、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル及び水酸基を1つ又は2つ以上を有する多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種である、
合成繊維用処理剤の製造方法。
工程(I):ノニオン界面活性剤(N)、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)及び有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)から選ばれる少なくとも1種と、低粘度希釈剤(D)とを混合し、30〜100℃で1時間以上攪拌した後、10時間以上静置して得られた混合物の上澄みを、下記濾過条件にて濾過して混合液(i)を得る工程
工程(II):平滑剤(L)(ノニオン界面活性剤(N)を除く)及びノニオン界面活性剤(N)から選ばれる少なくとも1種と酸化防止剤(E)とを混合し、60℃〜150℃で攪拌して、前記酸化防止剤(E)を溶解させたあと、10〜100℃に冷却して溶解液(ii)を得る工程
工程(III):前記混合液(i)及び/又は前記溶解液(ii)と、平滑剤(L)(ノニオン界面活性剤(N)を除く)、ノニオン界面活性剤(N)及び低粘度希釈剤(D)から選ばれる1つ以上と、を混合して溶解液(iii)を得る工程
工程(IV):溶解液(iii)を30〜100℃で1時間以上攪拌した後、10時間以上静置してから、下記濾過条件にて濾過して最終処理剤液(iv)を得る工程
濾過条件
濾紙:坪量300〜400、厚さ0.5〜1、透気度100〜150、濾過精度1〜5μm
濾過助剤:珪藻土
濾紙の珪藻土の厚さ:5〜20cm」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記の甲号証を証拠として提出し、次の取消理由を、大要、主張している。

1. 理由1(新規性、特許法第29条第1項第3号
本件発明1〜5は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない発明である。

2. 理由2(進歩性、特許法第29条第2項
本件発明1〜5は、引用文献1に記載された発明、引用文献2〜4に記載された事項に基づいて特許を受けることができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3. 理由3(サポート要件、特許法第36条第6項第1号
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1〜6が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。

4. 理由4(明確性、特許法第36条第6項第2項)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1〜6が明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。



< 引 用 文 献 等 一 覧 >
1.特許第6533002号公報(申立人が提出した甲第1号証)
2.特開2006−2330号公報(申立人が提出した甲第2号証)
3.森賀弘之,”合成繊維の製糸工程とファインケミカルズ−合成繊維用油剤の開発実務(10)−紡糸油剤付与法と付着状態−”,高分子加工,高分子化学刊行会,1993年,第42巻,第1号,pp.38−46(申立人が提出した甲第3号証)
4.特許第5643910号公報(申立人が提出した甲第4号証)
5.実願昭53−157476号(実開昭55−75671号)のマイクロフィルム(申立人が提出した参考文献1)
6.特開平9−137366号公報(申立人が提出した参考文献2)

第4 文献の記載
1.引用文献1には以下の記載がある。
「【0016】
本実施形態の処理剤に供する非イオン界面活性剤の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)有機酸、有機アルコール、有機アミン、及び有機アミドから選ばれる少なくとも一種に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、より具体的には、例えばポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステルメチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル等のエーテル型ノニオン界面活性剤、(2)ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、グリセリンモノラウラート等の多価アルコール部分エステル型ノニオン界面活性剤、(3)ポリエチレングリコールジオレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシブチレンソルビタントリオレアート、ポリオキシエチレングリセリントリオレアート、ポリオキシプロピレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンプロピレン硬化ひまし油トリオレアート、ポリオキシエチレン硬化ひまし油トリラウラート、ひまし油のエチレンオキサイド(以下、EOという)付加物及び硬化ひまし油のEO付加物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、モノカルボン酸及びジカルボン酸とを縮合させたエーテルエステル化合物等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤、(4)ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド型ノニオン界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。」
「【0025】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常合成繊維の処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0027】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調整)
・合成繊維用処理剤(実施例1)の調整
平滑剤としてトリメチロールプロパン−ヤシ脂肪酸エステル(L−1)を50部、ジイソステアリルチオジプロピオナート(LS−1)を5部、非イオン界面活性剤として硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(N−1)10部、硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N−3)10部、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(MW5000)(N−6)5部、ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート(N−7)10部、イオン界面活性剤として上記化1の構造の2級アルカンスルホン酸ナトリウム(a+b=8〜11)(S−1)5部、オレイルホスフェート(EO5)ステアリルアミノエーテル塩(P−1)5部を均一混合し、混合物を得た。
【0028】
さらに、前記混合物を100質量部としたとき1.00質量部のイオン交換水、次いで希釈剤として直鎖飽和炭化水素(C12−15)(M−1)10質量部を加えて均一混合し、処理剤中における水分が0.9%となるように実施例1の合成繊維用処理剤を調製した。使用したイオン交換水は、電気伝導率が0.2μS/cmで硬度が0mg/Lのものを使用した。
【0029】
・合成繊維用処理剤(実施例2)の調製
実施例1の合成繊維処理剤と同様の方法にて調製した。但し、表1の原料以外に酸化防止剤として1,1,3−トリス(2−メチル−4−ハイドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンを希釈剤添加前の処理剤100部に対し0.8部の割合で添加した。
【0030】
・合成繊維用処理剤(実施例3〜8及び比較例1〜3)の調製
実施例1の合成繊維処理剤の調製と同様に、実施例3〜8及び比較例1〜3の合成繊維用処理剤を調製し、結果を表1に示した。なお、表1においては、合成繊維用処理剤中における各成分の種類を示すとともに、希釈剤及び水以外の成分を100%とした場合の配合比率(%)を示す。また、合成繊維用処理剤中における希釈剤及び水以外の成分を100部とした場合の希釈剤及び水の添加率(部)を示す。また、処理剤中における水の含有量(%)を示す。
【0031】
【表1】

表1において、
L−1:トリメチロールプロパン−ヤシ脂肪酸エステル、
L−2:パーム油、
LS−1:ジイソステアリルチオジプロピオナート、
LS−2:ジイソセチルチオジプロピオナート、
rL−1:イソステアリルオレアート、
N−1:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、
N−2:硬化ひまし油1モルに対しEO20モル付加したもの、
N−3:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、
N−4:硬化ひまし油1モルにEO40モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、
N−5:ひまし油1モルにEO25モル付加したものをラウリン酸3モルでエステル化した化合物、
N−6:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(MW5000)、
N−7:ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート、
N−8:ソルビタンモノオレアート、
S−1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(上記[化1]においてa+b=8〜11)、
S−2:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(上記[化1]においてa+b=11〜14)、
rS−1:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、
P−1:オレイルホスフェート(EO5)ステアリルアミノエーテル塩、
P−2:イソセチルホスフェート(EO10)ラウリルアミノエーテル塩、
M−1:直鎖飽和炭化水素(C12−15)、
M−2:鉱物油(40℃でレッドウッド粘度が80秒)、
M−3:イソブチルステアラート、
M−4:ノルマルブチルステアラート、
を示す。
【0032】
試験区分2(合成繊維処理剤の評価)
・耐熱性タールの評価
ポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて溶融紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、前記処理剤を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた。合成繊維処理剤の付着量が0.6質量%(希釈剤、水を含まない)となるように給油した。その後、ガイドで集束させて、245℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.5倍となるように延伸し、1100デシテックス192フィラメントの延伸糸を10kg捲きチーズとして得た。耐熱性(タール)について、48時間紡糸した後のゴデットローラー(GR)の汚れ(タール)として下記のように評価した。結果を表1に示す。
【0033】
・GR汚れの評価基準
◎:汚れ(タール)がほとんど認められない。
○:汚れ(タール)がわずかに認められる。
×:汚れ(タール)が認められる。」

したがって、引用文献1には、特に実施例1に注目すると、以下の引用発明が記載されていると認められる。

<引用発明>
「平滑剤、非イオン系界面活性剤、イオン界面活性剤、希釈剤及び水を含む合成繊維用処理剤であって、
非イオン系界面活性剤の成分が、硬化ひまし油1モルに対しエチレンオキサイド10モル付加したもの(N−1)、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N−3)、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(MW5000)(N−6)、ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート(N−7)であり、
平滑剤の成分が、トリメチロールプロパン−ヤシ脂肪酸エステル(L−1)、ジイソステアリルチオジプロピオナート(LS−1)である、合成繊維用処理剤。」

2.引用文献2には以下の記載がある。
「【0016】
膠着防止剤(B)としては、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有する化合物が挙げられる。
これら化合物としては、高級脂肪酸(塩)(B1)、カルボキシル基および/またはカルボキシレート基含有ポリマー(B2)が挙げられる。」
「【0042】
(B)の体積平均粒子径(nm)は、特に限定されないが、ノズル給油方式での生産安定性、繊維処理用油剤の経日安定性の観点から、好ましくは1〜2,000、さらに好ましくは5〜300、特に好ましくは10〜100である。
体積平均粒子径は、動的光散乱法{界面活性剤評価・試験法(日本油化学会)、212頁(2002)}、またはX線小角散乱法等で測定するが、本発明おける体積平均粒子径は動的光散乱法で測定した値である。」
「【0081】
(C)の含有量(質量%)は、(A)+(B)+(C)の合計質量に基づいて、好ましくは0.1〜20、さらに好ましくは1〜18、特に好ましくは2〜15である。これらの範囲であると、ノズル給油方式での生産の際に、(B)がノズル中で詰ることなく、紡糸が安定的にでき、糸切れなどの問題が改善できより好ましい。」

3.引用文献3には以下の記載がある。
「3.現状の紡糸油剤付与方法
合成繊維の紡糸時に油剤を付与するための方法については,特願などの中で一般的に記載されているように,水で希釈された水性エマルジョンや水溶液の場合には,浸漬法,オイリングローラー法,スプレー法,定量押出し法などが適用され,ソルベント法などでは主としてオイリングローラ−法が用いられている.また最近では,高粘度の油剤原液そのものを直接使用する方法,すなわちNeat法が行われている.このNeat法はオイリングローラー法での適用が困難であるためにメタリング法あるいはジェットノズル法といってギヤポンプによって一定量の油剤を低速で送り出し,送り出した油剤を直接糸に付着させていく方法である.」(第40ページ左欄第3行―第15行)

4.引用文献4には以下の記載がある。
「【0032】
〔ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル(C)〕
本発明の繊維処理剤は、次の一般式(3)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル(C)(以後、POEアルキルアミノエーテルということがある。)を含有してもよい。POEアルキルアミノエーテル(C)は、化合物(A)を乳化する機能及び制電性を有する。POEアルキルアミノエーテル(C)が化合物(A)を乳化する機能が優れる理由としては、アミノ基の非共有電子対が、化合物(A)の水酸基やアルカリ金属塩に配位することによるものと推定している。」

5.引用文献5には以下の記載がある。
「かかる欠点を解決するため、近年オイリングローラに代つて糸条に油剤を付着させるための細孔を有する油剤付与ノズルを設けると共に、該ノズルに油剤タンクから計量ポンプによつて油剤を連続的に一定量供給するようになした装置が提案されている。(以下このような装置を計量給油装置と呼ぶ)
かかる計量給油装置においては、油剤の糸条への付着量はきわめて精度よく安定しているが、次のような欠点がある。
つまり、長期間連続運転すると計量ポンプからノズルに至るまでの油剤の供給管、ノズルの細孔内や油剤タンクから計量ポンプに至る油剤の配管内に油剤の変成によつて生ずるカスなどが付着し、極端な場合にはノズル詰りを発生することさえある。したがつてこれらの問題が発生しないように、時々油剤タンクから給油ノズルに至る油剤の配管および供給管を洗浄する必要がある。」(明細書第1ページ第20行―第2ページ第19行)
「前記したように、本考案は計量ポンプへ油剤を供給する配管の計量ポンプ入口の直前部分に油剤抜出し用の分岐管が設けてあるので、この分岐管がない場合に比べて、油剤タンクから計量ポンプに至るまでの配管の洗浄,油剤の交換,脱泡がはるかに効率よく実施できる。」(明細書第7ページ第1行―第6行)

6.引用文献6には以下の記載がある。
「【0015】次に、油剤吐出孔12の形状は円形とすることが好ましく、直径は0.1〜1.0mmにするのが好ましい。直径が0.1mm未満では仕上げ油剤に含まれる不純物などによって油剤吐出孔12が詰まりやすくなり、油剤の付着斑が発生することがある。一方、直径が1.0mmを超えると、油剤吐出孔12の孔径が大きすぎるため、シャワー線速度が低下したり、油剤吐出孔12から出る油剤の流量にバラツキが生じやすく、糸条に均一に油剤を付与しにくくなる。」

第5 当審の判断
1. 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「非イオン系界面活性剤」は、本件発明1の「ノニオン界面活性剤」に相当する。
引用発明の「平滑剤」は、平滑剤であり、非イオン系界面活性剤(N−7)とは別の成分であるから、本件発明1の「平滑剤(L)(ノニオン界面活性剤(N)を除く)」に相当する。
引用発明の「水」は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0071】において低粘度希釈剤として例示されているものであるから、本件発明1の「低粘度希釈剤」に相当する。
引用発明の「硬化ひまし油1モルに対しエチレンオキサイド10モル付加したもの(N−1)」は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0058】,【0065】において油膜強化剤として例示されている硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物にあたるものであるから、本件発明1の「油膜強化剤」に相当する。
引用発明の「ポリエチレングリコール(分子量600)ジオレアート(N−7)」は、本件発明1の「ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル」に相当する。

したがって、両者は、一致点で一致しかつ相違点1で相違する。

<一致点>
ノニオン界面活性剤(N)、平滑剤(L)(ノニオン界面活性剤(N)を除く)及び低粘度希釈剤(D)を必須で含み、油膜強化剤(H)を含む合成繊維用処理剤であって、
前記ノニオン界面活性剤(N)が、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルである、
合成繊維用処理剤。

<相違点1>
本件発明1は、「前記処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下である」のに対し、引用発明はその点が不明である点。

イ 相違点についての検討
(ア) 理由1(新規性)について
上記<相違点1>は、処理剤の洗浄度を示すISO等級、又は、4μm以上の汚染物質粒子の個数についての相違点であるから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。よって、本件発明1は、引用発明ではない。

(イ) 理由2(進歩性)について
引用発明において、処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下であると解すべき事情は、引用文献1の記載からは見いだせない。
また、引用発明において、処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)を17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子を100mL当たり130000個以下であるものとすることは、当該変更を動機づける技術思想が引用文献2−6等いずれの文献からも見いだすことができないから、容易であったとはいえない。
本件発明1は、長期間保管しても、給油ラインを閉塞させることなく、安定して合成繊維を生産できる(本願明細書の【0009】)という有利な効果を奏する。
よって、本件発明1は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

(ウ) 申立人の主張について
相違点1について、申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
「そこで、本発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、本発明の合成繊維用処理剤は、特定の合成繊維処理剤の清浄度や汚染物質粒子の濃度を有するのに対し、甲第1号証に記載の合成繊維用処理剤は、清浄度や汚染物質粒子の濃度が不明な点について一応相違します。
この一応の相違点に関して、本発明は特定の合成繊維処理剤の清浄度や汚染物質粒子の濃度にすることにより、実施例に示すように2日間以上の連続処理によっても、ノズルからの吐出量が80%以上であるという効果を発揮します。つまり、通常の運転を2日以上継続できることを意味します。
これに対して、甲第1号証に記載の発明も、紡糸と処理剤の付着を48時間行った後にゴデットローラーの汚れがほとんど認められないという効果を発揮します。加えて、甲第1号証に記載の合成繊維処理剤はローラー給油法と共にガイド給油法等も採用できるものです。そうすると、甲第1号証に記載の合成繊維処理剤は、ガイド給油法においても実施例と同じく48時間以上安定的に運転を行うことができるものといえます。
このように、本発明と甲第1号証に記載の発明は、共に2日以上の連続運転を行い得る合成繊維用処理剤であり、合成繊維用処理剤の供給方法が異なるとしても、効果の点で共通する以上、甲第1号証に記載の発明の合成繊維用処理剤は明記がされていないのみで、本発明と同じ清浄度や汚染物質粒子の濃度を備えているといえます。」(特許異議申立書27ページ5〜下から3行)

しかし、引用文献1(甲第1号証)には、処理剤の清浄度を所定以上とすること、及び汚染物質粒子の数を所定以下とすることは記載されていない。ましてや、処理剤を清浄なものとすることで、長期間保管しても給油ラインを閉塞させないようにするといった技術思想も開示されていない。
申立人は、引用文献1(段落【0032】)において48時間以上安定的に運転できるとの記載がある点に着目しているが、連続運転ができることは、それをもって直ちに処理剤の清浄度が所定以上であること、汚染物質粒子の数が所定以下であるといえるものではない。
さらにいえば、引用文献1における連続運転ができるとの記載は、段落【0013】、【0022】に示されるようにストレート給油法を用いた場合についてのものであり、ガイド給油法を用いた際に吐出量の低下が生じないという事項を読み取ることもできない。段落【0023】にはガイド給油法等を用いることができることは記載されているものの、ガイド給油法を使用した際に長時間の運転ができるかは開示されていない。仮に引用文献1から、ガイド給油法を用いた際に連続運転ができるといった点が読み取れるとしても、結局のところそれをもって直ちに処理剤の清浄度が所定以上であること、汚染物質粒子の数が所定以下であるといえるものではない。
ゴデットローラーに汚れがほとんど認められないといった記載はあるが、繊維を巻かけるローラーと、処理剤を吐出する細い穴とを同等と解すべきともいえない。

申立人は、特許異議申立書において、「甲第1号証に記載の合成繊維用処理剤は、清浄度や汚染物質粒子の濃度が不明な点を相違点とした場合」について、さらに以下のように主張している。
「(相違点(1)に対する理由(その1))
甲第2号証の特に0042段落には、繊維処理用油剤をノズル給油方式で繊維に供給を行う場合には、膠着防止剤(B)の体積平均粒子系が、生産安定性の点において、好ましくは1〜2,000nm(0.01〜2.0μm)、さらに好ましくは5〜300、特に好ましくは10〜100であることが記載されています。
この生産安定性について、加えて0081段落の記載によれば、(B)がノズル中で詰まらないことが、紡糸が安定的にでき、糸切れ等の問題を改善できるとされていること等を考慮すると、好ましい生産安定性とはノズル詰まりが防止された状態であるといえます。
そうすると、甲第1号証に記載の発明において、ガイド給油法を採用するときには特に、甲第2号証に記載の発明と同様に、合成繊維用処理液が粒子を含有する場合には、その粒子の体積平均粒子径は、好ましくは1〜2,000nm(0.001〜2.0μm)、さらに好ましくは5〜300nm、特に好ましくは10〜100nmであることが必要であることは当業者が十分に理解できることです。
(相違点(1)に対する理由(その2))
甲第3号証には、紡糸油剤付与法としてノズルを使用して糸に供給をする方法が例示されています。
そして、液体をノズルから吐出する一般の技術として、その液体中に微粒子が含有される場合、その微粒子の粒子径や含有量によって、ノズルの詰まりやすさが影響されることは、当業者ならずとも理解できることです。なお、このような課題に関して、本発明に関連する分野においては、例えば参考文献1(公開実開新案全文明細書昭55−75671号公報の第2頁)、参考文献2(特開平9−137366号公報の0015段落)をご参照ください。
そして、長時間にわたって、繊維を確実に処理することが求められることが明らかな甲第1号証に記載の発明において、ガイド給油法を採用するときには、何らかの構造のノズルを採用することは明らかです。そして、甲第1号証に記載の合成繊維用処理剤は、微粒子を含有しないほうが、ガイド給油を継続できることは明らかであり、また、微粒子を含有する場合であっても、微粒子の粒子径が小さいほど、さらに微粒子の含有量が少ない程、支障なくガイド給油を継続できることも明らかです。
そして、このような微粒子の粒子径や含有量を本発明中の汚染物質粒子の粒子径や含有量とすること、さらに、特定の清浄度にすることは、ガイド給油を継続させるために、当業者が適宜設定できることに過ぎません。
特に上記甲第2号証に記載の事項のように、生産安定性のために粒子の大きさを考慮すべきであることを考慮すると、なおさら当業者が適宜設定できる程度のことです。」(特許異議申立書28ページ13行〜29ページ下から3行)

しかし、引用文献2は、処理剤の清浄度としてISO等級(4406:1999)が17/16/14以下であること、または4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下であることを開示していない。
まず、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0083】を参照するに、清浄度としてISO等級(4406:1999)も、4μm以上の粒子数に関するものである。
しかし、引用文献2は段落【0042】において膠着防止剤の平均粒子径を示すのみであり、その粒子径分布は不明であって、4μm以上の粒子数は読み取れない。また、段落【0081】のノズルの詰まりに関する記載は(A)+(B)+(C)に対する(C)成分の含有量に関するものであり、段落【0042】の平均粒子径が、ノズルの詰まりを防止するために設定されているとの技術思想を明確に見いだすこともできない。
膠着防止剤の平均粒子に関する記載から4μm以上の粒子数を読み取ること自体困難であるが、仮にそれを読み取ったとしても、引用文献2の膠着防止剤の平均粒子径に関する記載から、平均粒子径の値のみを技術思想として把握し、引用発明に適用できると解すべき理由も見当たらない。
引用文献3は単に紡糸油剤付与法としてノズルを使用して糸に供給をする方法を例示するとして示されたものに過ぎない。
引用文献4は、繊維処理剤において「有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)」に相当する物質としてポリオキシエチレンアルキルアミノエーテルを用いることが記載されているとして示されたものに過ぎない。
引用文献5にはノズルの細孔内等の油剤の配管内に油剤の変性によって生じるカスなどが付着し、極端な場合にはノズル詰まりを発生することさえあることが記載されている。しかし、引用文献5は当該事項を課題とし、洗浄等を効率よく実施できる装置を開示するものであり、油剤を清浄とすること、油剤を清浄とすることで詰まらないようにすることを開示するものではない。
引用文献6(特に段落【0015参照】)には、油剤吐出孔の直径が0.1mm未満では仕上げ油剤に含まれる不純物などによって油剤吐出孔が詰まりやすくなることが記載されている。しかし、引用文献6は油剤を清浄とすること、油剤を清浄とすることで詰まらないようにすることを開示するものではない。
したがって、引用文献2(甲第2号証)、引用文献3(甲第3号証)、引用文献5(参考文献1)、引用文献6(参考文献2)のいずれにも、処理剤の清浄度を所定以上とすること、汚染物質粒子の数を所定以下とすることは記載されていない。処理剤を清浄なものとすることで、長期間保管しても給油ラインを閉塞させないようにするといった技術思想も開示されていない。

(2) 本件発明2−5は、本件発明1を引用するものであるから、上記(1)と同様に、引用発明ではなく、また、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

2. 理由3(サポート要件、特許法第36条第6項第1号)について
(1) 本件特許の発明が解決しようとする課題
本件特許の発明が解決しようとする課題は、従来の合成繊維用処理剤では、処理剤の吐出量の低下を招来し、やがて閉塞に至ると給油が行われなくなる原因を調査した結果、繊維処理剤中に発生した細かい微粒子が、ポンプ内部機構内や、給油ガイドの細い穴に微粒子が蓄積し、処理剤の吐出量の低下を招来していることを突き止め、長期間保管しても、給油ラインを閉塞させることなく、安定して合成繊維を生産できる合成繊維用処理剤を提供すること(本件特許の明細書の段落【0004】−【0005】)である。

(2) 本件発明1−5について
上記課題に関して、本件特許の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究した結果、微粒子の正体は、帯電防止剤や極圧添加剤と、繊維処理剤のpH調整に使用される有機アミンのエチレンオキシド付加物などが長期間の保管中に複雑に反応して希釈剤に不溶な複合塩を形成したものであることを突き止め、繊維処理剤の調合時に適切な方法で当該微粒子を除去することが正しく好適であることを見出した。
すなわち、本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(N)、平滑剤(L)(ノニオン界面活性剤(N)を除く)及び低粘度希釈剤(D)を必須で含み、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、油膜強化剤(H)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤であって、前記ノニオン界面活性剤(N)が、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル及び水酸基を1つ又は2つ以上を有する多価アルコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種であり、前記処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下である、合成繊維用処理剤である。」
「【0011】
〔合成繊維用処理剤〕
本発明の合成繊維用処理剤は、処理剤の清浄度であるISO等級が17/16/14以下である。17/16/14を超えると、本発明の課題を解決することができない。ISO等級は15/14/12以下が好ましく、14/13/11以下がより好ましく、13/11/9以下がさらに好ましい。
ISO等級(4406:1999)とは、試料100mLに含まれる固体粒子をカウントすることにより、液体中の汚染物質粒子の分布状況を表すものである。実際のカウント数を使用すると表示する数値の範囲が大きくなるので、2の対数を使用した番号コードに変換して、汚染の程度を表す国際規格である。4μm以上の粒子数、6μm以上の粒子数、14μm以上の粒子数のカウント値に基づいてコードが算出される。
合成繊維用処理剤について、液中微粒子計測器(例えば、HACH ULTRA ANALYTICS社製、HIACRoyco液中微粒子計測器System8011等)を用いて100mL当たりの汚染粒子数CDを求める。
本発明の合成繊維用処理剤は、本願効果を発揮する観点から、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下であり、64000個以下が好ましく、32000個以下がより好ましい。」
「【0100】
表1からわかるように、本願発明の合成繊維用処理剤は、平滑剤(L)、ノニオン界面活性剤(N)及び低粘度希釈剤(D)を必須で含み、有機スルホン酸塩(AS)、有機燐酸塩(AP)、油膜強化剤(H)、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)及び酸化防止剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含む合成繊維用処理剤であって、前記処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/15以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下であるため、本願課題を解決できている。
一方、表2からわかるように、比較例1〜4は、処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/15より大きいため、本願課題が解決できていない。」
以上を総合すると、本件発明は、上記課題を解決するために、「処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下である」ものである。
そうすると、「前記処理剤の清浄度であるISO等級(4406:1999)が17/16/14以下、又は、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下である」ことを発明特定事項としている本件発明1−5は、上記課題を解決可能な発明である。

(3) 本件発明6について
上記課題に関して、本件特許の発明の詳細な説明には、上記(2)で摘記した記載に加えて次の記載がある。
「【0073】
〔合成繊維用処理剤の製造方法〕
本発明の合成繊維用処理剤の製造方法は、工程(II)及び工程(III)を必須に含み、工程(I)及び/又は工程(IV)を含む。
【0074】
(工程(I))
工程(I)は、油膜強化剤(H)、有機スルホン酸塩(AS)及び有機燐酸塩(AP)から選ばれる少なくとも1種と、有機アミンのエチレンオキシド付加物(RA)、及び低粘度希釈剤(D)を混合し、30〜100℃で1時間以上攪拌した後、10時間以上静置して得られた混合物の上澄みを、下記濾過条件にて濾過して混合液(i)を得る工程である。
濾過条件
濾紙:坪量300〜400、厚さ0.5〜1、透気度100〜150、濾過精度1〜5μm
濾過助剤:珪藻土
濾紙の珪藻土の厚さ:5〜20cm」
「【0081】
(工程(IV))
工程(IV)は、溶解液(iii)を30〜100℃で1時間以上攪拌した後、10時間以上静置してから、下記濾過条件にて濾過して最終処理剤液(iv)を得る工程である。
濾過条件
濾紙:坪量300〜400、厚さ0.5〜1、透気度100〜150、濾過精度1〜5μm
濾過助剤:珪藻土
濾紙の珪藻土の厚さ:5〜20cm
溶解液(iii)の攪拌時の温度は、30〜100℃であり、35〜90℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。溶解液(iii)の攪拌時間は、1時間以上であり、1時間半が好ましく、2時間がより好ましい。
静置時間は、10時間以上であり、12時間以上が好ましく、20時間がより好ましい。24時間を超えると生産性が低下する。」
「【0088】
表1〜3中のローマ数字は、各成分を各工程(工程(I)、工程(II)、工程(III))のいずれかで混合したことを示す。
また、ラジオライト(I)は、工程Iにて濾過を実施し、ラジオライト(IV)は、工程IVにて濾過を実施したことを示す。」
「【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】



段落【0096】には「ラジオライト(I)は、工程Iにて濾過を実施し、ラジオライト(IV)は、工程IVにて濾過を実施したことを示す」ことが記載され、表1−3には、実施例においては「ラジオライト(I)」または「ラジオライトIV」があり、比較例にはいずれもないことが示されている。

以上を総合すると、本件発明は、上記課題を解決するために、「工程(I)及び/又は下記工程(IV)を含み、」「工程(I):・・・下記濾過条件にて濾過して混合液(i)を得る工程」、「工程(IV):・・・下記濾過条件にて濾過して最終処理剤液(iv)を得る工程」、「濾過条件 濾紙:坪量300〜400、厚さ0.5〜1、透気度100〜150、濾過精度1〜5μm 濾過助剤:珪藻土 濾紙の珪藻土の厚さ:5〜20cm」としたものである。
そうすると、「工程(I)及び/又は下記工程(IV)を含み、」「工程(I):・・・下記濾過条件にて濾過して混合液(i)を得る工程」、「工程(IV):・・・下記濾過条件にて濾過して最終処理剤液(iv)を得る工程」、「濾過条件 濾紙:坪量300〜400、厚さ0.5〜1、透気度100〜150、濾過精度1〜5μm 濾過助剤:珪藻土 濾紙の珪藻土の厚さ:5〜20cm」を発明特定事項としている本件発明6は、上記課題を解決可能な発明である。

(4) 申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において以下のように主張している。
「(オ)本発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとする理由(その1)
本発明に係る明細書に記載の実施例は、その表1及び2からみて、4μm以上の汚染物質粒子の100mL液中の個数が、多くても実施例4の32568個に留まります。また、比較例では100ml液中の個数が、少なくても比較例4の134612個です。そして、本発明においては「4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下」と限定されています。
そこで、明細書全体をみても、比較例4において良くない結果であった合成繊維用処理剤が、比較例4での汚染物質粒子数とさほど変わらない130000個を僅かでも下回ると、あたかも閾値的に機能をして、本発明による効果を発揮できると理解できる根拠は記載されていません。
上記のように、実施例にて確認した効果は多くても実施例4の32568個であって、100mL当たり130000個に対して圧倒的に低い数値です。
そうすると、本発明において、4μm以上の汚染物質粒子が100mL当たり130000個以下であって、実施例4にて確認した32568個までの範囲の個数の場合には、明細書において十分に説明がなされたものとはいえません。」(特許異議申立書31ページ18行〜32ページ9行)

しかし、上記(2)に示したように、本件発明は、本件発明の課題を解決するものであるから、上記申立人の主張は採用できない。

イ 申立人は、本件発明6については、特許異議申立書において以下の主張もしている。
「(カ)本発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとする理由(その2)
請求項6に係る本発明は、工程(I)及び/又は工程(IV)を有する製造方法に関する発明です。そして、これら工程(I)及び(IV)は、共通する濾過条件(特定の坪量、厚さ、透気度及び濾過精度を有する濾紙と、5〜20cm厚さの珪藻土を使用)で濾過する工程です。
しかしながら、本件明細書の0090段落に記載の実施例中の工程(I)は、濾過条件として、使用した濾紙の坪量と厚さは記載されているものの、透気度は記載されておらず、濾過精度とは異なる保持粒子径が記載されるに留まります。さらに珪藻土の厚さは僅か1cmです。
工程(IV)に関しては実施例に特段説明されていません。
そうすると、請求項5に係る本発明の特に濾紙と珪藻土については、明細書において、具体的な実施例に基づいて説明されておらず、その他の明細書の記載からみても、実施例に記載の事項により十分に説明された発明とはいえません。」(特許異議申立書32ページ13〜末行)

上記(1)―(2)に示したように、特に段落【0074】、【0081】、【0088】の記載と、表1−3の「ラジオライト(I)」、「ラジオライト(IV)」との項目等にあるように、工程(I)及び/又は工程(IV)において濾過を行うことと、その濾過条件については、本件特許の発明の詳細な説明に記載されている。そして、本件発明は本件発明の課題を解決するものである。すると上記申立人の主張は採用できない。
ウ 申立人は、特許異議申立書において以下の主張もしている。
「(キ)本発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとする理由(その3)
請求項1〜5に係る本発明は、特定の清浄度、又は、特定の汚染物質粒子の濃度であることを要件の一つとしていますが、その要件を達成するための処理条件は限定されていません。
これに対して本発明に係る明細書の0006段落には、合成繊維用処理剤中の微粒子に関して、上記のように、「本発明者らは前記の課題を解決すべく研究した結果、微粒子の正体は、帯電防止剤や極圧添加剤と、繊維処理剤のpH調整に使用される有機アミンのエチレンオキシド付加物などが長期間の保管中に複雑に反応して希釈剤に不溶な複合塩を形成したものであることを突き止め、繊維処理剤の調合時に適切な方法で当該微粒子を除去することが正しく好適であることを見出した」と記載されています。
この記載箇所でいう「除去」は、通常の意味で解釈をすると、存在するものを取り除くものです。仮に取り除くべきものを発生させないようにするのであれば、「発生防止」等の表現をします。
そして、明細書に記載の実施例は全て、濾過により微粒子を除去する工程を経ています。
そうすると、本発明は、繊維処理剤を調合する工程において、微粒子を発生させない場合も包含するのであり、この場合は明細書にて説明がなされていません。よって、請求項1〜5に係る本発明の合成繊維用処理剤は、一旦発生した微粒子の除去により得たものに限定されるべきです。」(特許異議申立書3ページ3〜下から3行)

しかし、上記(1)、(3)に示したように、本件発明は、本件発明の課題を解決するものであるから、上記申立人の主張は採用できない。

3. 理由4(明確性、特許法第36条第6項第2号)について

(1) 申立人は、特許異議申立書において以下のように主張する。
「(ク)本発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとする理由(その1)
本発明に係る明細書の0006段落には、合成繊維用処理剤中の微粒子に関して、上記のように、「本発明者らは前記の課題を解決すべく研究した結果、微粒子の正体は、帯電防止剤や極圧添加剤と、繊維処理剤のpH調整に使用される有機アミンのエチレンオキシド付加物などが長期間の保管中に複雑に反応して希釈剤に不溶な複合塩を形成したものであることを突き止め、繊維処理剤の調合時に適切な方法で当該微粒子を除去することが正しく好適であることを見出した」と記載されています。
この記載によれば、本発明は「帯電防止剤や極圧添加剤と、繊維処理剤のpH調整に使用される有機アミンのエチレンオキシド付加物などが長期間の保管中に複雑に反応して希釈剤に不溶な複合塩」を含むことが前提であるべきであるにも関わらず、本願請求項の記載は複合塩の必須成分である「有機アミンのエチレンオキシド付加物」を必須とするものではなく、実施例10も「有機アミンのエチレンオキシド付加物」を含有するものではありません。
以上のことから、本発明は明細書に記載された課題の解決方法以外のものまで含んでおり、発明の範囲が明確でないものと考えます。」(特許異議申立書33ページ下から2行〜34ページ15行)

しかし、本件発明1−6が包含する範囲が明確か否かという点を考慮したとき、本件発明1−6が不明確であるというべき事情は見いだせない。
課題の解決方法以外のものまでも含んでいることが問題としていることから、サポート要件を検討したとしても、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0006】の記載は「有機アミンのエチレンオキシド付加物など」と有機アミンのエチレンオキシド付加物を例示する程度であり、有機アミンのエチレンオキシド付加物を必須の構成とするものとまではいえない。
また、有機アミンのエチレンオキシド付加物を含有しなければ課題が解決できないといった事情も見いだせない。申立人が述べているように、実施例10などとして有機アミンのエチレンオキシド付加物をそもそも含まない処理剤も開示されている。

(2) また、申立人は、特許異議申立書において以下の主張もしている。
「(ケ)本発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとする理由(その2)
上記(カ)に記載したように、請求項6に係る本発明は、工程(I)及び/又は工程(IV)を有する製造方法に関する発明です。そして、工程(I)及び(IV)は、共通する濾過条件(特定の坪量、厚さ、透気度及び濾過制度を有する濾紙と、5〜20cm厚さの珪藻土を使用)で濾過する工程です。
この工程に関して、明細書の0074段落には請求項6と同じ条件が記載されています。しかしながら、上記(カ)に記載したように、実施例には、工程(I)として請求項6とは異なる条件が記載されています。そうすると、請求項6に係る発明は、工程(I)及び(IV)に記載の濾過条件が何であるのかが不明瞭です。」(特許異議申立書34ページ下から9行〜35ページ3行)

しかし、本件発明6における濾過条件は請求項6において明確に特定されている。
発明の詳細な説明の段落【0090】における実施例1の工程(I)の濾過条件は請求項6が特定する濾過条件には包含されていないが、すべての実施例が本件発明6に包含されるべきものでもなく、実施例1の濾過条件の記載が本件発明6に包含されないことは、本件発明6そのものを不明確とするものではない。

第6 結び
以上のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1−6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1−6に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 P2020-056940
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D06M)
P 1 651・ 121- Y (D06M)
P 1 651・ 537- Y (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤井 眞吾
柳本 幸雄
登録日 2021-05-19 
登録番号 6887039
権利者 松本油脂製薬株式会社
発明の名称 合成繊維用処理剤及びその利用  

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