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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J |
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管理番号 | 1384271 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-10 |
確定日 | 2022-03-31 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6898732号発明「粘着剤組成物、粘着シート、及び、光学部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6898732号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
理由 第1 手続の経緯 特許第6898732号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成28年12月28日の出願であって、令和3年6月15日にその特許権の設定登録がされ、同年7月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年12月10日に特許異議申立人田中亜実(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6898732号の請求項1〜7に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 基材フィルムの少なくとも片面に、粘着性ポリマー、及び、重量平均分子量が20000以上のフッ素系オリゴマーを含有する粘着剤組成物より形成される粘着剤層を有する光学部材用粘着シートであって、 前記粘着剤層の偏光板に対する23℃×50%RHでの180°ピール粘着力(引張速度0.3m/min)が、0.15N/25mm以下であることを特徴とする光学部材用粘着シート。 【請求項2】 オキシアルキレン基含有化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学部材用粘着シート。 【請求項3】 前記粘着性ポリマーが、(メタ)アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、及び、シリコーン系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学部材用粘着シート。 【請求項4】 前記粘着剤層の内部、及び/又は、表面に、前記フッ素系オリゴマーが存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学部材用粘着シート。 【請求項5】 前記粘着剤層の前記基材フィルムと接触する面と反対面に、セパレータが貼付されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学部材用粘着シート。 【請求項6】 前記セパレータの前記粘着剤層と接触する面に、前記フッ素系オリゴマーが存在することを特徴とする請求項5に記載の光学部材用粘着シート。 【請求項7】 請求項4に記載の光学部材用粘着シート、又は、請求項5もしくは請求項6に記載の光学部材用粘着シートから前記セパレータを剥離した光学部材用粘着シートが貼付されていることを特徴とする光学部材。」 第3 申立理由の概要 理由1(新規性)本件発明1〜6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(進歩性)本件発明1〜7は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 理由3(サポート要件)本件特許の請求項1〜7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 本件特許発明1の構成では、重量平均分子量(Mw)が20000以上のフッ素系オリゴマーを含有する粘着剤組成物が規定されている。これについて、本件特許公報の実施例においてMwを満たすものは、Mwが27900のフッ素系オリゴマー1種のみである(表 1)。また、Mwを満たさない例の中で最もMwが大きいものは11900である。これらの実施例から、Mwが20000以上であれば、本件特許発明1の効果が得られるという事実は確認できず、また、推測できる技術常識もない。従って、本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないため、サポート要件を満たしていない。 本件特許発明1に従属する、本件特許発明2〜7も同様である。 第4 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について 1 甲号証について 甲第1号証:特開2016−219511号公報 甲第2号証:特開2015−27766号公報 甲第3号証:特開2014−201719号公報 甲第4号証:特開2015−96580号公報 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【請求項1】 半導体ウェハを支持体にフィルム状の仮固定材を介して仮固定する仮固定工程と、前記支持体に仮固定された前記半導体ウェハを加工する加工工程と、加工された前記半導体ウェハを前記支持体及び前記フィルム状の仮固定材から分離する分離工程と、を備える半導体ウェハの加工方法に用いられる前記フィルム状の仮固定材を形成するための仮固定用樹脂組成物であって、 (A)熱可塑性樹脂及び(B)含フッ素化合物を含む、仮固定用樹脂組成物。」 1b「【0039】 本実施形態に係る仮固定用樹脂組成物における(B)含フッ素化合物の配合量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましい。(B)含フッ素化合物の配合量が上記範囲内であると、半導体ウェハ加工時の接着性と加工後の剥離性とを更に両立させることが可能となる。 1c「【実施例】 【0103】 以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0104】 [アクリルゴムP−1の合成] 撹拌機、温度計、窒素置換装置(窒素流入管)、及び水分受容器付きの還流冷却器を備えた500ccのセパラブルフラスコ内に、脱イオン水200g、アクリル酸ブチル40g、アクリル酸エチル28g、グリシジルメタクリレート3g、アクリロニトリル29g、1.8%ポリビニルアルコール水溶液2.04g、ラウリルパーオキサイド0.41g、及びn−オクチルメルカプタン0.07gを配合した。続いて、60分間N2ガスを吹き込んで系内の空気を除去した後、系内温度を65℃に昇温して3時間重合を行った。更に、90℃に昇温して2時間攪拌を続け重合を完結させた。得られた透明のビーズをろ過により分離し、脱イオン水で洗浄した後、真空乾燥機で50℃6時間乾燥させ、アクリルゴムP−1を得た。アクリルゴムP−1をGPCで測定したところ、アクリルゴムP−1の重量平均分子量はポリスチレン換算で40万であった。また、アクリルゴムP−1のTgは8℃であった。 【0105】 GPCの測定は、GPC(東ソー株式会社製、SD−8022/DP−8020/RI−8020)を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとして日立化成株式会社製Gelpack GL−A150−S/GL−A160−Sを使用し、溶離液流量1.0mL/分、カラム温度40℃の条件で行った。 【0106】 アクリルゴムのTgは、示差走査熱量測定(DSC)(株式会社リガク社製、DSC8230)を用いて、昇温速度10℃/分、測定温度:−80〜80℃の条件で測定した。この場合のガラス転移温度とは、熱量変化からJIS K 7121:1987に準拠した方法によって算出した中間点ガラス転移温度のことである。 【0107】 [アクリルゴムP−2の合成] 撹拌機、温度計、窒素置換装置(窒素流入管)、及び水分受容器付きの還流冷却器を備えた500ccのセパラブルフラスコ内に、脱イオン水200g、アクリル酸ブチル36g、アクリル酸エチル18g、グリシジルメタクリレート3g、メタクリル酸メチル43g、1.8%ポリビニルアルコール水溶液2.04g、ラウリルパーオキサイド0.41g、及びn−オクチルメルカプタン0.07gを配合したこと以外は、アクリルゴムP−1と同様の方法によって、アクリルゴムP−2を得た。アクリルゴムP−2をGPCで測定したところ、アクリルゴムP−2の重量平均分子量はポリスチレン換算で50万であった。また、アクリルゴムP−2のTgは12℃であった。 【0108】 (実施例1〜8、比較例1〜4) [ワニス(仮固定用樹脂組成物)の調製] 表1及び2に示す質量部の組成で熱可塑性樹脂、含フッ素化合物、シリコーン化合物、硬化促進剤、フィラー及び溶剤を配合し、ワニスをそれぞれ調製した。 【0109】 [仮固定用樹脂フィルムの作製] 調製したワニスを、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、A31、厚み38μm)の離型処理面上に塗布し、90℃で10分間、120℃で30分間加熱乾燥して、保護フィルム及び支持フィルム付き仮固定用樹脂フィルムをそれぞれ得た。仮固定用樹脂フィルムの膜厚は、30μmであった。調製した実施例1〜8、比較例1〜4の仮固定用樹脂フィルムを用いて以下の試験を行い、その評 価結果を表3、4にまとめた。 【0110】 [低温貼付性試験] <半導体ウェハへのフィルムラミネート> 支持フィルム付き仮固定用樹脂フィルムを、半導体ウェハの直径よりも2mm小さい直径を有する円形状に切り出した。その後、半導体ウェハに仮固定用樹脂フィルムを、ニチゴーモートン株式会社製真空ラミネーターV130を用い、気圧1hPa以下、圧着温度80℃、ラミネート圧力0.5MPa、保持時間60秒でラミネートを行い、仮固定用樹脂フィルム付き半導体ウェハを得た。 【0111】 <支持体への圧着> ニチゴーモートン株式会社製真空ラミネーターV130を用い、気圧1hPa以下、圧着温度100℃、ラミネート圧力0.5MPa、保持時間100秒で、離型処理剤付き支持体と仮固定用樹脂フィルム付き半導体ウェハとを圧着した。その後、110℃に設定したオーブン30分間保持した後、170℃に設定したオーブンで1時間保持し、積層サンプルを得た。 【0112】 <評価> 半導体ウェハへのフィルムラミネート、及び支持体への圧着後に、超音波顕微鏡(SAM)(インサイト株式会社製、Insight−300)を用いて仮固定用樹脂フィルムの状態を確認した。仮固定用樹脂フィルムの剥離が見られなかったサンプルを「○」、剥離が見られたサンプルを「×」と評価した。 【0113】 [バックグラインド試験] 低温貼付性試験において、評価が「○」であった積層サンプルについて、フルオートグラインダポリッシャ(DISCO株式会社製、DGP−8761)を用いて積層サンプルにおける半導体ウェハ表面を研削した。ホイールには、1軸:GF01−SDC320−BT300−50、2軸:IF−01−1−4/6−B・K09、3軸:DPEG−GA0001をそれぞれ用いた。チャックテーブル回転数を300rpm、ホイール回転数を1軸:3,200rpm、2軸:3,400rpm、3軸:1,400rpmとし、クロスフィード方式で研削を行った。1軸で142μm厚になるまで研削後、2軸で102μm厚になるまで、3軸で100μm厚になるまで研削した。研削終了時点で割れ等が発生しなかったサンプルを「○」、割れ等が発生したサンプルを「×」と評価した。 【0114】 [耐熱性試験] バックグラインド試験において、評価が「○」であった積層サンプルについて、超音波顕微鏡(SAM、インサイト株式会社製、Insight−300)を用いて仮固定用樹脂フィルムの状態を確認した。その後、積層サンプルを200℃に設定したオーブンに2時間放置し、更に260℃に設定したオーブンに20分間放置した。続いて、再度SAMを用いて仮固定用樹脂フィルムの状態を確認し、オーブンに放置しても仮固定用樹脂フィルムの剥離が生じなかったサンプルを「○」、剥離が生じたサンプルを「×」と評価した。 【0115】 [支持体からの剥離性試験] 耐熱性試験において、評価が「○」であった積層サンプルについて、離型処理剤付き支持体と仮固定用樹脂フィルムとの間に先端が鋭利な状態のピンセットを差し入れ、外縁に沿ってピンセットを動かした。このとき、半導体ウェハが割れることなく支持体を剥離できたサンプルを「○」、剥離できなかったサンプルを「×」と評価した。 【0116】 [半導体ウェハからの剥離性試験] 支持体からの剥離性試験において評価が「○」であった積層サンプルについて、半導体ウェハに貼付されている仮固定用樹脂フィルムの端部をピンセットにて持ち上げた。このとき、半導体ウェハから仮固定用樹脂フィルムを剥離できたサンプルを「○」、剥離できなかったサンプルを「×」と評価した。 【0117】 【表1】 ・・・ 【0119】 表1、2中の各成分の詳細は以下のとおりである。 HTR−860P−3CSP:GPCによる重量平均分子量80万、グリシジルメタクリレート3質量%、Tg12℃のアクリルゴム(ナガセケムテックス株式会社製) P−1:GPCによる重量平均分子量40万、グリシジルメタクリレート3質量%、Tg8℃のアクリルゴム P−2:GPCによる重量平均分子量50万、グリシジルメタクリレート3質量%、Tg12℃のアクリルゴム メガファックF−562:フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製) メガファックF−563:フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製) KF−105:両末端エポキシ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社製) 2PZ−CN:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製) SC2050−SEJ:表面処理シリカフィラ(アドマテックス株式会社製) ・・・ 【0122】 1…仮固定用樹脂フィルムシート、2…仮固定用樹脂フィルムシート、10…支持フィルム、20…仮固定用樹脂フィルム、30…保護フィルム、40…仮固定材、50…支持体、52…剥離層、60…半導体ウェハ、70…仮固定材、80…半導体ウェハ、82…貫通電極、84…ダイシングライン、86…貫通電極、100…半導体素子、110…配線基板、120…半導体装置。 ・・・ 【図2】 」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「【0173】 また、本発明は、本発明の粘着剤組成物により形成されたアクリル系粘着剤層を有するので、接着性、経時による粘着力上昇防止性に優れ、再剥離性に優れる。さらに、低汚染性にも優れる。また、凹みや気泡欠点などの粘着剤層の外観不良が低減されており、且つ、白っぽく見えにくい。このため、外観特性にも優れる。 【0174】 本発明の表面保護フィルムは、該フィルム越しに製品の外観検査を精度よく行うことができるので、特に、光学部品(例えば、偏光板、波長板等の液晶ディスプレイパネル構成要素として用いられる光学部品、ITOフィルム、ITOガラス等のタッチパネル構成要素として用いられる導電性光学部品)に貼り付けられて該光学部品の加工時や搬送時にその表面を保護する表面保護フィルム(光学部品用表面保護フィルム)として好ましく用いられる。 【0175】 本発明の表面保護フィルムは、低汚染性に優れ、接着性と再剥離性(易剥離性)に優れ、再剥離が可能であるため再剥離される用途(再剥離用)に好ましく用いられる。すなわち、本発明の表面保護フィルムは、再剥離される用途[例えば、建築養生用マスキングテープ、自動車塗装用マスキングテープ、電子部品(リードフレーム、プリント基板等)用マスキングテープ、サンドブラスト用マスキングテープなどのマスキングテープ類、アルミサッシ用表面保護フィルム、光学プラスチック用表面保護フィルム、光学ガラス用表面保護フィルム、自動車保護用表面保護フィルム、金属板用表面保護フィルムなどの表面保護フィルム類、バックグラインドテープ、ペリクル固定用テープ、ダイシング用テープ、リードフレーム固定用テープ、クリーニングテープ、除塵用テープ、キャリアテープ、カバーテープなどの半導体・電子部品製造工程用粘着テープ類、電子機器や電子部品の梱包用テープ類、輸送時の仮止めテープ類、結束用テープ類、ラベル類]等に好ましく用いられる。」 (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「[用途] 本発明の粘着剤組成物は、帯電防止性、粘着性(接着性)、再剥離性(軽剥離性、易剥離性)、及び、外観特性に優れ、再剥離が可能な粘着剤層を形成しうる粘着剤組成物であり、再剥離される用途に用いられる粘着剤層を形成するために用いられる。即ち、前記粘着剤層を有する粘着シートは再剥離される用途[例えば、建築養生用マスキングテープ、自動車塗装用マスキングテープ、電子部品(リードフレーム、プリント基板等)用マスキングテープ、サンドブラスト用マスキングテープなどのマスキングテープ類、アルミサッシ用表面保護フィルム、光学プラスチック用表面保護フィルム、光学ガラス用表面保護フィルム、自動車保護用表面保護フィルム、金属板用表面保護フィルムなどの表面保護フィルム類、バックグラインドテープ、ペリクル固定用テープ、ダイシング用テープ、リードフレーム固定用テープ、クリーニングテープ、除塵用テープ、キャリアテープ、カバーテープなどの半導体・電子部品製造工程用粘着テープ類、電子機器や電子部品の梱包用テープ類、輸送時の仮止めテープ類、結束用テープ類、ラベル類]等に好ましく用いられる。」 (4)甲第4号証(以下、「甲4」という。) 4a「【0066】 〔拡張性基材フィルムの用途〕 本発明の拡張性基材フィルムは、前述のとおり、半導体装置の製造方法において、半導体基板のダイシングの前に半導体基板に貼着されるダイシングフィルム用の基材フィルムとして好適である。 また、本発明の拡張性基材フィルムは、前述のとおり、半導体装置の製造方法において、半導体基板の研削の前に半導体基板に貼着される半導体用表面保護フィルム用の基材フィルムとしても好適である。 また、本発明の拡張性基材フィルムは、ダイシングフィルム及び半導体用表面保護フィルム以外のその他の保護フィルムとしても好適である。 その他の保護フィルムとしては、例えば、建材や光学部品等の各種樹脂製品、金属製品、ガラス製品等の輸送時、保管時、加工時等の傷付き防止や防塵を目的として、これらの表面に貼着される保護フィルムが挙げられる。」 3 甲1に記載された発明 甲1には実施例6として「熱可塑性樹脂としてHTR−860P−3CSP:GPCによる重量平均分子量80万、グリシジルメタクリレート3質量%、Tg12℃のアクリルゴム(ナガセケムテックス株式会社製)、含フッ素化合物としてメガファックF−562:フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製)、シリコーン化合物としてKF−105:両末端エポキシ変性シリコーン化合物(信越化学工業株式会社製)及び硬化促進剤として2PZ−CN:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製)から調製したワニスを、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、A31、厚み38μm)の離型処理面上に塗布し、90℃で10分間、120℃で30分間加熱乾燥して得た、保護フィルム及び支持フィルム付き仮固定用樹脂フィルム」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。 4 対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア)引用発明との対比 本件特許発明1と引用発明を対比する。 引用発明の「支持フィルム」は本件特許発明1の「基材フィルム」に相当し、引用発明の「熱可塑性樹脂としてHTR−860P−3CSP:GPCによる重量平均分子量80万、グリシジルメタクリレート3質量%、Tg12℃のアクリルゴム(ナガセケムテックス株式会社製)」は本件特許発明1の「粘着性ポリマー」に相当し、引用発明の「含フッ素化合物としてメガファックF−562:フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製)」は、本件特許明細書の【0141】からみて、本件特許発明1の「重量平均分子量が20000以上のフッ素系オリゴマー」に相当するから、引用発明の「熱可塑性樹脂としてHTR−860P−3CSP:GPCによる重量平均分子量80万、グリシジルメタクリレート3質量%、Tg12℃のアクリルゴム(ナガセケムテックス株式会社製)、含フッ素化合物としてメガファックF−562:フッ素系界面活性剤(DIC株式会社製)」及び「から調製したワニスを、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、A31、厚み38μm)の離型処理面上に塗布し、90℃で10分間、120℃で30分間加熱乾燥して得た」は、本件特許発明1の「基材フィルムの少なくとも片面に、粘着性ポリマー、及び、重量平均分子量が20000以上のフッ素系オリゴマーを含有する粘着剤組成物より形成される粘着剤層を有する」に相当する。 引用発明の「フィルム」は本件特許発明1の「シート」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と引用発明は、「基材フィルムの少なくとも片面に、粘着性ポリマー、及び、重量平均分子量が20000以上のフッ素系オリゴマーを含有する粘着剤組成物より形成される粘着剤層を有する粘着シート。」である点で一致し、以下の点相違する。 <相違点1> 本件特許発明1は、前記粘着剤層の偏光板に対する23℃×50%RHでの180°ピール粘着力(引張速度0.3m/min)が、0.15N/25mm以下であるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 <相違点2> 本件特許発明1は光学部材用粘着シートであるのに対し、引用発明は仮固定用樹脂フィルムである点。 (イ)相違点についての検討 <相違点1>について 引用発明の粘着剤層は、粘着性ポリマーと重量平均分子量が20000以上のフッ素系オリゴマーを含む点では、本件特許発明1の粘着剤層と同じであるかもしれないが、粘着促進剤の種類や硬化促進剤等の他の成分は異なっており、また、甲1には、引用発明は半導体ウェハ加工時の接着性と加工後の剥離性とを更に両立させるものであることが、記載されているが(摘記1b参照)、剥離性試験が、甲1においては半導体ウェハに貼付された引用発明の端部をピンセットにて持ち上げて○か×かを判定するものであって、剥離力の大きさが測定されていないし、一般に剥離力の大きさは、貼付する対象や剥離方向や剥離速度に大きく依存するものであるところ、剥離方向と剥離速度が不明である。一方、本件特許発明1では偏光板にラミネートした後低速剥離力を測定したものであり、貼付する対象も半導体ウェハと偏光板は異なる上に剥離方向と剥離速度についても一致していないから、引用発明において、粘着剤層の偏光板に対する23℃×50%RHでの180°ピール粘着力(引張速度0.3m/min)が、0.15N/25mm以下であることまでは、記載されているとはいえず、この点は実質的な相違点である。 そして、甲1にも甲2〜甲4にも、粘着剤層の偏光板に対する23℃×50%RHでの180°ピール粘着力(引張速度0.3m/min)を0.15N/25mm以下とすることは、記載も示唆もない。 また、甲2、甲3及び甲4に記載されるように、仮固定樹脂フィルムを光学部材用粘着シートに転用することは周知であり(摘記2a、3a、4a参照)、引用発明が半導体ウェハ加工時の接着性と加工後の剥離性とを更に両立させるものであるとしても、上記のとおり、半導体ウェハと偏光板は異なる上に剥離方向と剥離速度についても一致していないから、引用発明において、粘着剤層の偏光板に対する23℃×50%RHでの180°ピール粘着力(引張速度0.3m/min)が、0.15N/25mm以下とする動機付けがあるとはいえない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許発明1では、粘着剤層の偏光板に対する23℃×50%RHでの180°ピール粘着力(引張速度0.3m/min)が、0.15N/25mm以下であり、それにより奏される効果は、甲1に記載の引用発明の半導体ウェハに対する大きいといえる剥離力から、予測できるものとはいえないから、本件特許発明1が、引用発明と比較して、優れた効果を奏するといえる。 (エ)小括 以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、<相違点2>について検討するまでもなく、引用発明及び甲2〜甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 イ 本件特許発明2〜7について 本件特許発明2〜7は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と引用発明との<相違点1>と同じ相違点を有するものであって、<相違点1>については上記ア(イ)及び(ウ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2〜6は、甲1に記載された発明ではなく、本件特許発明2〜7は、引用発明及び甲2〜甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 第5 理由3(サポート要件)について 本件特許発明の課題は、【0009】の記載からみて、偏光板などの光学部材に対して、滑り(ズレ)、浮きや剥がれが生じにくく、カール調整性、粘着性、及び、低速剥離時における軽剥離性(再剥離性)に優れる粘着剤層や粘着シートが得られる粘着剤組成物、前記粘着剤組成物により形成される粘着シート、及び、前記粘着シートが貼付されている光学部材を提供することにあると認める。 本件特許発明の光学部材用粘着シートに含まれるフッ素系オリゴマーの重量平均分子量は20000以上と特定されている。 ここで、本件特許明細書の実施例からみて、重量平均分子量27900であるフッ素系オリゴマーを含む光学部材用粘着シートが、光板などの光学部材に対して、滑り(ズレ)、浮きや剥がれが生じにくく、カール調整性、粘着性、及び、低速剥離時における軽剥離性(再剥離性)に優れる粘着剤層や粘着シートが得られる粘着剤組成物、前記粘着剤組成物により形成される粘着シート、及び、前記粘着シートが貼付されている光学部材を提供できることは理解できるのみならず、本件特許発明に含まれない、重量平均分子量11900であるフッ素系オリゴマーを含む光学部材用粘着シートや重量平均分子量4330であるフッ素系オリゴマーを含む光学部材用粘着シートも、光板などの光学部材に対して、滑り(ズレ)、浮きや剥がれが生じにくく、カール調整性、粘着性、及び、低速剥離時における軽剥離性(再剥離性)に優れる粘着剤層や粘着シートが得られる粘着剤組成物、前記粘着剤組成物により形成される粘着シート、及び、前記粘着シートが貼付されている光学部材を提供できることも理解できる。 そうすると、重量平均分子量20000以上であるフッ素系オリゴマーを含む光学部材用粘着シートが、光板などの光学部材に対して、滑り(ズレ)、浮きや剥がれが生じにくく、カール調整性、粘着性、及び、低速剥離時における軽剥離性(再剥離性)に優れる粘着剤層や粘着シートが得られる粘着剤組成物、前記粘着剤組成物により形成される粘着シート、及び、前記粘着シートが貼付されている光学部材を提供できることは理解できる したがって、発明の詳細な説明の内容を参酌すれば、本件特許発明の範囲までその内容を拡張ないし一般化するまでもなく、本件特許発明が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあると認められる。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人による特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-03-23 |
出願番号 | P2016-255988 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C09J)
P 1 651・ 113- Y (C09J) P 1 651・ 121- Y (C09J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 蔵野 雅昭 |
登録日 | 2021-06-15 |
登録番号 | 6898732 |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 粘着剤組成物、粘着シート、及び、光学部材 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |