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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1384273
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-10 
確定日 2022-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6890871号発明「エステル基含有酸二無水物誘導体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6890871号の請求項1〜2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6890871の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、2020年6月10日(優先日 2019年6月11日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年5月28日に特許権の設定登録がされ、同年6月18日にその特許公報が発行され、その後、同年12月10日に、特許異議申立人 島田 暢子(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1〜2に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1〜2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明2」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。


【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】

で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】

で示されるトリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることを特徴とする
下記一般式(4):
【化4】

(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法であって、
3級アミン化合物が下記一般式(5):
【化5】

(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く、製造方法。
【請求項2】
アミン化合物の添加量が、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.1〜10mol%である、請求項1に記載の製造方法。」

第3 特許異議申立理由
進歩性
異議申立理由1−1:請求項1〜2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜6号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
異議申立理由1−2:請求項1〜2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の甲第7号証に記載された発明及び甲第2〜6号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 サポート要件
異議申立理由2−1:請求項1〜2に係る発明について、反応温度や反応時間が限定されておらず、反応が長時間に及び低温や特殊な設備を要するような高温の反応を含み、実施例、比較例の結果から反応純度が大きく変動しているので、短時間に効率よく反応させるという課題を解決できなくなる場合を含むから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
異議申立理由2−2:請求項1〜2に係る発明について、有機溶媒が規定されていないので、効率良くエステル交換反応を行うために高温にする必要があり、本件特許発明【0021】で例示されている沸点の高い非反応性の溶媒以外の溶媒を用いる場合は課題が解決できないから、課題を解決できない範囲を含み、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲第1号証:特開平7−41472号公報
甲第2号証:特開2014−152270号公報
甲第3号証:特開2013−67779号公報
甲第4号証:特開昭63−188691号公報
甲第5号証:米国特許明細書第3784573号(訳文添付)
甲第6号証:特開2000−186080号公報
甲第7号証:特開2006−206486号公報

第4 当審の判断
当審は、請求項1〜2に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

異議申立理由1(1−1、1−2)(進歩性)について
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「
【特許請求の範囲】
【請求項1】 フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸又はその無水物とをエステル交換反応するに際し、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを特徴とする一般式(1)で表されるフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法。
【化1】

[式中、Aはフェノール類よりn個のフェノール性水酸基を除去してなる残基を表す。nは1〜4の整数を示す。]
【請求項2】 エステル交換反応触媒がシリカ・アルミナ系化合物である請求項1に記載のフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法。
【請求項3】 エステル交換反応触媒がゼオライトである請求項1に記載のフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法。」

(1b)「
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高純度のフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物を工業的に有利な条件下で高収率で得ることができる新規有用な製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる課題を達成すべく鋭意検討した結果、エステル交換反応触媒として特定の無機化合物を適用することにより所期の目的が達成されることを見いだし、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。」

(1c)「
【0011】即ち、本発明に係り、一般式(1)で表されるフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法は、フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸又はその無水物(以下「トリメリット酸類」と総称する。)とをエステル交換反応するに際し、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを特徴とする。
【0012】
【化2】

[式中、Aはフェノール類よりn個のフェノール性水酸基を除去してなる残基を表す。nは1〜4の整数を示す。]
【0013】本発明に係るフェノール類は、フェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、各種のモノフェノール、ビスフェノール、トリフェノール及びポリヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0014】モノフェノールとしては、フェノール、p−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)、メトキノン及びハロゲン化フェノール等の置換フェノールが例示される。
【0015】ビスフェノールとしては、一般式(2)で表される化合物が例示される。
【化3】

[式中、Zは単結合、−O−、−SO2−、−S−、−CO−、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、シクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基)又は基−C(R1)(R2)−を示す。R1、R2は同一又は異なって、水素原子、フッ素等で置換されていてもよいアルキル基又はアリール基を示す。R3、R4は同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン基を表す。pは0〜4の整数を表し、q、rは夫々0〜4の整数を表す]
【0016】ビスフェノールの具体例としては、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、2,5−ジメチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「ビスフェノールA」と略記する。)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、4,4−(フェニルメチレン)ビスフェノール、4,4−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エ−テル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、4,4−ビフェノール、2,2−ビフェノ−ル、4,4−ジヒドロキシ−3,3,5,5−テトラメトキシビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下「ビスフェノールS」と略記する。)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4−[1,4−フェニレンビス(1−メチリデン)]ビスフェノール、4,4−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス(2,6−ジメチルフェノール)、α,α−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0017】トリフェノールとしては、ピロガロール、1,3,5−ベンゼントリオール、1,2,4−ベンゼントリオール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、2,6−ビス[(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メチル]−4−メチルフェノール、1,1,1−トリス(ヒドロキシフェニル)エタン等が例示される。
【0018】その他のポリヒドロキシ化合物としては、1,5−ジヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,2,5,8−テトラヒドロキシアントラキノン等が例示される。
【0019】これらのフェノ−ル類は、一般に、先ず炭素数2〜4の低級アルカン酸エステル、好ましくは酢酸エステルとし、次いでトリメリット酸類とのエステル交換反応に供される。
【0020】当該エステル化反応に関しては、通常のエステル化技術を用いて酢酸エステルにすることが可能である。具体的な方法としては、過剰の無水酢酸を用いて酢酸エステルとする方法や硫酸、p−トルエンスルホン酸等従来公知ののエステル化触媒の存在下に酢酸或いは無水酢酸と反応させる方法等がある。
【0021】本発明に係るエステル交換反応触媒として適用される無機化合物としては、各種のシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物が挙げられ、中でもシリカ・アルミナ系化合物が推奨される。
【0022】シリカ・アルミナ系化合物としては、シリカとアルミナを含む組成を有するものであって、当該反応に関与し、所期の目的を達成し得るものであれば足り、具体的には準ふっ石群、ソーダふっ石群、ダクふっ石群、ギスモンデン群、キふっ石群、タバふっ石群、カイジュウふっ石群、リョウふっ石群等の各種ゼオライト、パーライト、カオリン、ベントナイト、活性白土等の天然鉱物或いはそれらから誘導された類似の性質を有する他の固体ケイ酸系物質等が例示される。
【0023】上記のシリカ・アルミナ系化合物の中でもゼオライトが好ましく、天然物、合成物のいずれも使用可能であるが、品質の安定性から合成ゼオライトが好ましい。ゼオライトは、具体的にはアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む結晶性の含水アルミノケイ酸塩であって、下記の一般式(3)で表される。
【0024】
(M1・M2)O・Al2O3・xSiO2・yH2O (3)
[式中、M1、M2は同一又は異なって、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。]
【0025】アルカリ金属化合物とは、アルカリ金属を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム等のアルカリ金属酸化物、更には水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
【0026】アルカリ土類金属化合物に関してもアルカリ金属同様アルカリ土類金属を有する化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等の金属酸化物、更には水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。
【0027】触媒の添加量は、触媒の種類やエステル交換反応条件により適宜選択される。例えば、回分反応方式で、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物を用いた場合、0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%程度である。一方、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を用いた場合には、0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%程度である。
【0028】フェノール類の低級アルカン酸エステルに対するトリメリット酸類の仕込み量としては、上記低級アルカン酸エステルのエステル基に対して0.9〜1.25倍当量が好ましい。
【0029】エステル交換反応温度としては、反応目的物の性状にもよるが、通常、150〜300℃、特に200〜280℃程度が推奨される。
【0030】エステル交換反応は、生成する低級アルカン酸を逐次反応系から留去させることにより、一層反応を有利に進めることができる。又、適当な高沸点溶媒類(例えば、ビフェニル、ジフェニエーテル等)の使用、エントレーナーの使用、更には常圧反応と減圧反応とを組み合わせる方法等が適用できる。」

(2)甲第2号証
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として主鎖の繰り返し単位の構造が、一般式(1)
【化1】

(式中、Ar1は芳香族トリカルボン酸の3個のカルボキシル基を除いた3価の芳香族残基、Spは主鎖原子数2〜20の分岐を含んでもよい2価の直鎖状置換基、Ar2は芳香族基、縮合芳香族基、複素環基、脂環基、及び脂環式複素環基からなる群から選ばれる置換基を示す)で表される熱可塑性樹脂と、
無機充填剤とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」

(2b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れた放熱材料であって、射出成形可能な熱可塑性樹脂組成物、及び当該熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂の製造方法に関する。」

(2c)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂組成物であって、高熱伝導性無機化合物を大量に配合せずとも熱可塑性樹脂組成物の高熱伝導性を維持し、かつ熱可塑性樹脂組成物が汎用射出成形用金型でも射出成形可能となるような熱可塑性樹脂組成物、及び当該熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂の製造方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の分子構造を有する熱可塑性樹脂が高熱伝導性を有し、さらに、無機充填剤を配合した熱可塑性樹脂組成物においても優れた熱伝導性を示すことを見出し、本発明に至った。・・・」

(2d)「
【0085】
なお、本発明の熱可塑性樹脂は、前記製造方法以外の公知のいかなる方法で製造されても構わない。構造の制御が簡便であるという観点から、一般式(6)
【0086】
【化12】

【0087】
で示される化合物と、
一般式(4)
HO−Ar2−OH (4)
で表されるジオールとを、低級脂肪酸無水物を用いて反応させる製造方法で製造してもよい。
【0088】
本発明の熱可塑性樹脂の製造には、触媒を使用してもよい。触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム等の金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。前記触媒の添加量としては、熱可塑性樹脂の総重量に対し、通常、0.1×10-2〜100×10-2重量%、好ましくは0.5×10-2〜50×10-2重量%、さらに好ましくは1×10-2〜10×10-2重量%が採用される。
【0089】
本発明における熱可塑性樹脂の製造に用いられる低級脂肪酸無水物としては、炭素数2〜5個の低級脂肪酸の酸無水物、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水モノクロル酸酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロム酢酸、無水ジブロム酢酸、無水トリブロム酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸等が挙げられるが、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリクロル酢酸が特に好適に用いられる。アシル化工程に用いられる低級脂肪酸の酸無水物の使用量は、用いる一般式(3)で表されるジオールが有する水酸基の合計に対し、1.01〜1.50倍当量、好ましくは、1.02〜1.2倍当量である。」

(3)甲第3号証
本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合物100質量部に対し、下記式(I)で示される複素芳香族化合物を0.001質量部以上1質量部以下添加し、240℃以上300℃以下で溶融重縮合し、重合体を得る、溶融重縮合工程を有する液晶ポリエステルの製造方法。
【化1】

(X1,X2は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基を表す。複素芳香環上の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)」

(3b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、製造する液晶ポリエステルの耐熱性を向上するため、上記重縮合反応のモノマーとして、テレフタル酸やテレフタル酸誘導体(以下、「テレフタル酸類」と称することがある)、2,6−ナフタレンジカルボン酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体(以下、「2,6−ナフタレンジカルボン酸類」と称することがある)など、重合後のポリマー骨格が略直線状になり硬直な構造を形成するジカルボン酸が使用されることがある。これらのモノマーは、得られるポリマーの高耐熱化が可能である一方で、重合時の反応性が低いため、重合時に高温の反応温度が必要となることがあった。
【0007】
一方、色調の低下が抑制された高品質な液晶ポリエステルを製造するためには、熱劣化の進行を抑制するために熱履歴を小さくする必要がある。熱履歴を小さくするためには、できるだけ低温且つ短時間で重合を行う必要があるが、テレフタル酸類や、2,6−ナフタレンジカルボン酸類など反応性が低いモノマーを用いる場合には、上述した触媒を用いた方法であっても、300℃を超える温度で溶融重縮合の検討がなされてきており、色調の低下が問題となることがあった。
【0008】
さらに、上述のように固相重合を併用する重合方法を採用した場合には、低温且つ短時間で重合を行うと、固相重合時に重合体同士が溶着し、取り扱いが困難になりやすいという課題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、テレフタル酸類、2,6−ナフタレンジカルボン酸類を用いた溶融重縮合において、低温且つ短時間で反応を進行させることができる液晶ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。また、このような製造方法を用いて得られる液晶ポリエステルを提供することをあわせて目的とする。」

(3c)「
【0067】
そこで、本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法では、溶融重縮合時に下記式(I)で表される複素芳香族化合物(以下、化合物(I)ということがある)を触媒量添加し、反応を促進して重合を行う。
【化3】

(X1,X2は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基を表す。複素芳香環上の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0068】
X1及びX2としては、メチル基、エチル基が好ましい。
【0069】
化合物(I)が有する複素芳香環上の一つ以上の水素原子が置換される前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0070】
化合物(I)が有する複素芳香環上の一つ以上の水素原子が置換される前記アルキル基において、炭素数は、1〜10であることが好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられる。なかでも、炭素数が、1〜4であることが好ましい。
【0071】
化合物(I)が有する複素芳香環上の一つ以上の水素原子が置換される前記アリール基において、炭素数は、6〜20であることが好ましい。具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられる。
【0072】
化合物(I)の使用量は、溶融重縮合で使用するモノマー混合物の量100質量部に対し、0.001質量部以上1質量部以下であることが好ましい。化合物(I)の使用量の下限は、0.002質量部以上がより好ましい。化合物(I)の使用量の上限は、0.8質量部以下がより好ましい。すなわち、0.002質量部以上0.8質量部以下がより好ましい。
【0073】 化合物(I)の使用量が0.001質量部未満であると、化合物(I)を添加することによる反応の促進の効果が小さく、また1質量部より多いと、得られる液晶ポリエステルに着色が見られたり、溶融重縮合の反応速度が速すぎて重合の制御が困難になったりする不具合が生じる。
【0074】
溶融重縮合は、化合物(I)の他に、他の触媒の存在下で行ってもよい。併用可能な触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
他の触媒の使用量は、モノマー混合物の量100質量部に対し、0.1質量部以下であることが好ましい。」

(3d)「
【0114】
(実施例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4mol)、テレフタル酸239.2g(1.44mol)、イソフタル酸159.5g(0.96mol)、無水酢酸1298.6g(12.7mol)及び4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.146g(1.2mmol)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で1時間還流させてアシル化を行った。
次いで、4−ジメチルアミノピリジンを加えた後、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から260℃まで1時間50分かけて昇温した(昇温速度:1℃/分)。260℃で160分間保温して溶融重縮合を行った時点で、トルクメータでトルクの上昇が認められたため、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
冷却して得られた重合体の固形物を、粉砕機(竪型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製、2mmのスクリーンを使用)で粉砕することでプレポリマーの粉末を得た。」

(4)甲第4号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「特許請求の範囲
グリセリンの酢酸エステル、蟻酸エステル混合液をエステル交換法によりグリセリントリアセテートに転化させる方法において、トリエチルアミンを触媒として用いることを特徴とするグリセリントリアセテートの製造方法。」

(4b)「〈産業上の利用分野〉
本発明は、グリセリントリアセテートの製造方法に関するものである。
グリセリントリアセテートは、グリセリンと酢酸または無水酢酸とのエステル化反応によって得られる酢酸のトリグリセライドで可塑剤、土壌硬化剤、鋳物硬化剤、香料の固定剤等として有用な物質である。
〈従来技術〉
従来、純度の高いグリセリントリアセテートの製造方法としては、グリセリンと酢酸のエステル化反応が利用されていた。
この場合、平衡の位置をグリセリンアセテート側に移行させるため、脱水操作を併用して製造されることが多い。
また、エステル化反応速度を速めるために、酸触媒、例えば硫酸、パラトルエンスルホン酸等を使用することもある。
グリセリンと無水酢酸を用いたエステル化反応の場合は、脱水操作及びエステル化触媒の使用は不要となる。
〈発明が解決しようとする問題点〉
高純度のグリセリントリアセテートを得るためには、出発物質として純度の高いグリセリンが必要となる。
グリセリン製造時には、グリセリンの各種脂肪酸エステルが副生するので、グリセリンの脂肪酸エステル混合物が存在することになる。
本発明は、商品価値の比較的低い種々の脂肪酸エステル混合物を含有するグリセリンから、商品価値の高いグリセリントリアセテートを製造しようとするものである。
グリセリンの脂肪酸エステル混合物の主な成分は、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリンモノフォメイトジアセテート、グリセンジフォメイトモノアセテート、グリセリントリフォメイトなどのグリセリンの酢酸エステル、蟻酸エステルである。
従って、グリセリンの酢酸エステル、蟻酸エステルから、エステル交換法によって、蟻酸エステルを酢酸エステルに変換しグリセリントリアセテート、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテートから成るグリセリンの酢酸エステル混合液を得、モノアセテート、ジアセテートの部分をさらにアセチル化することによって純度の高いグリセリントリアセテートを得ることが可能になる。
即ち、副生するグリセリンの蟻酸エステル類をグリセリンの酢酸エステル類に変換した後、アセチル化することによって、高純度のグリセリントリアセテートが得られる。
グリセリンの蟻酸エステル類をグリセリンの酢酸エステル類に変換する場合、一般にアルコールと塩基性触媒によるエステル交換反応を行なわせ、蟻酸エステル類を生成させ、これを除去することによって可能となる。
使用出来るアルコールとしては、生成させた蟻酸エステルが蒸留等の操作で容易に分離できるアルコール、例えばメタノール等が使用される。
塩基性触媒としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム等の無機塩基類も使用できるが、実用的なエステル交換反応速度を得るためには、使用量が多くなり、グリセリンのエステル混合液中に析出し、不均一となり取り扱いが難しくなる。
ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート等のエステル交換触媒を用いた場合は、そのエステル交換能力が強過ぎて、選択性に欠けるため、多量の酢酸エステルまでが生成するので、アセチル化工程における酢酸、無水酢酸の使用量が増大する欠点を有している。
アンモニアを使用した場合には、アンモニアの回収が困難であるため、アンモニアの臭気対策等も必要となり、コストアップの要因となる。
モノエチルアミン、ジエチルアミン等の有機塩基類を使用した場合には、エステル交換反応途中で生成する蟻酸、酢酸等と反応して、ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミドが生成するため、多量の触媒が必要となり、実際的で無くなる。
酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等も析出の問題を生じる。
(問題点を解決する為の手段)
以上のような状況に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、種々のエステル交換反応触媒について検討を重ね、上記の問題点を明らかにしていき、遂に、選択性の良い、少量で有効な触媒を見い出し、本発明に到った。
即ち、本発明は、
「グリセリンの酢酸エステル、蟻酸エステル混合をエステル交換法によりグリセリントリアセデートに転化させる方法において、トリエチルアミンを触媒として用いることを特徴とするグリセリントリアセテートの製造方法」
である。」(1頁左下欄10行〜2頁右下欄4行)

(5)甲第5号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(5a)「要約
本発明は、pKbが10を超えない、有効量の3級アミンの存在下で、アルコールの低級アルカン酸エステルがトリメリット酸無水物と反応するトランス−酸分解反応に向けられる。
本発明は、トランス酸分解反応における新しい触媒の使用に関する。この反応は、単官能性反応物を使用して、次の式で表すことができる。

ここで、Yは酸素又は硫黄である。
発明者らは、カルボン酸と有機ヒドロキシ又はメルカプト化合物(以下、まとめてアルコールとも呼ぶ)の低級アルカン酸エステルとの間のトランス酸分解反応が、特定の塩基によって触媒されることを発見した。効果的であることが判明した塩基は、周期表のIa族およびIIa族金属の水酸化物と酢酸塩である。これらの化合物の活性種は陰イオンであり、このような陰イオンは、カルボン酸とヒドロキシ又はメルカプト化合物の低級アルカン酸エステルの両方の幅広いクラス間の反応を触媒するのに効果的であることが判明した。これらの陰イオン触媒の幅広い有効性とは対照的に、トリメリット酸又はその無水物のみが関与するトランス酸分解反応に特異的な触媒作用を有する特定の3級窒素化合物も発見した。
いかなる塩基アニオンも使用することができ、トランス−酸分解反応に広く適用可能である。例えば、これらのアニオン触媒は、解離定数が10未満である酸から誘導される限り、特定の狭いクラスの共反応物にのみ特異的ではない。このタイプの特に有効な触媒は、アルカリ及びアルカリ土類水酸化物及びそれらの酢酸塩である。このような触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。これらの触媒の無水塩は有効であるが、本発明者らはまた、それらの水和形態が増強された触媒特性を有することを見出した。これは、無水酢酸ナトリウムの性能をその三水和物及び酢酸カルシウムの一水和物と酢酸マグネシウムの四水和物と比較することによって、表2に見ることができる。」(1欄10行〜58行)

(5b)「本発明の3級窒素触媒は、pKbが約10.0を超えない任意の3級アミンとすることができる。したがって、有用な3級アミンには、脂肪族アラルキル、アリール−アルキルアミン、及び窒素原子が環の一部として存在する環状アミンが含まれる。
好ましい脂肪族3級アミンは、合計約10〜40個の炭素原子を含む。炭素原子に寄与するアルキルまたはアルケニル基は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、メチルジオクトデシルアミン、メチルジイソオクチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、n−ドデシルジメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、トリイソオクチルアミン等である。
アリール−アルキルおよびアラルキルアミンの例は、アルキルジフェニルアミン、ジメチルピリジン等のジアルキルフェニルアミン、及びジメチルベンジルアミンである。ベンゼン環の周知の電子求引効果により、前述の最大pKbの範囲外の塩基性を示すことが一般的であるので、トリフェニルアミン等の純粋なアリールアミンは好適ではない。
本願発明のヘテロ環式アミンは、非置換又はアルキル置換の単環又は多環である。このようなアミンの環には、少なくとも1つの3級窒素原子が含まれている。環は5又は6員環である。芳香族及び非芳香族複素環の両方が有用である。他のヘテロ原子が存在していてもよいが、酸素と硫黄に限定される。
単環のヘテロ環の例は、ピリジン、4-フェニルピリジン、メチルピリジンや、ピリダジン、ピリミジン、ピリジン等の環に2つの窒素原子を含む単環やN-メチルピロール及びその飽和形 態、N-メチルピロリジン及びN-メチル−ピロリジン、N-アルキル−イミダゾール及びその水素化同族体、並びにN-ラウリルモルホリンおよびココナッツオイルモルホリンとして商業的に知られているそのアルキル対応物などの5員複素環である。
有用な多環式複素環の1つは、2〜3個の環を有し、各環が少なくとも1つの他の環に融合している(すなわち、縮合核)ものである。同じ環であっても異なる環であっても、他の窒素に対して任意の位置で、構造内に1以上の窒素原子が存在していてもよい。これらの縮合へテロ環の例は、イソキノリン、キノリン、1,8-ナフチリジン、シンノリン、キノキサリン、アクリジン、フェナン トリジン、及びフェナジンである。
触媒として有用な多環式複素環の2つ目は、ビピリジルなどの「二化合物」である。
上で指摘したように、本発明のアニオン触媒は、広範囲のトランス−酸分解共反応体にわたって有効であるが、本発明の3級窒素触媒は、カルボン酸がトリメリット酸又はその無水物であるトランス−酸分解のみを有意に促進する。これは表1に見ることができる。」(3欄41行〜4欄16行)

(5c)「本発明を説明したが、本発明者らはクレームする:
1.n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、n-ステアリルアルコールまでの高級モノアルカノール、対応するアルケノール、及び対応する式を有するポリアルコールのチオール又は以下の式に表される低級アルカンポリエステルからなる群から選択されるアルコールの低級アルカンモノエステルを反応させる方法。
R−(Y)n
ここで、Yは−OH又は−SHであり、nは2〜4であリ、Rは、フェニレンラジカル、4環以下の縮合 炭素環、ビフェニル、ターフェニル、ビス−フェニレン、又は直鎖脂肪族ラジカルであり、無水トリメリット酸と共に、トランス−酸分解反応により、pKbが10.0を超えない3級アミンの有効量の存在下、溶媒非存在下の溶融相で反応を行う。」(5欄43〜59行)

(6)甲第6号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。
(6a)「
【請求項1】 一般式(1)

[式中、R1、R2は、同一又は異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表す。]で表されるヒドロキノンの低級アルカン酸エステルと無水トリメリット酸をエステル交換反応しヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)を製造するに際し、エステル交換反応により得たヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)反応粗物を、(A)群に属する溶媒を用いてスラリー状としたのち、(A)群及び(B)群からなる混合溶媒を用いて精製することを特徴とする高純度ヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)の製造方法。
(A)群: ラクトン系溶媒の1種若しくは2種以上。
(B)群:炭素数が6〜20の芳香族又は脂肪族の炭化水素の1種若しくは2種以上。」

(6b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高純度ヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般式(2)

で表されるヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)(以下「TMHQ」という)は、ポリイミド原料として有用である。ポリイミド原料としてTMHQを供給する場合、高分子量のポリイミドを得るためには、TMHQの純度が98重量%以上であり、且つポリイミドフィルムを形成した際、TMHQ由来のゲル状異物が生じず、フィルムの表面が平滑であることが求められている。ここで、ゲル状異物とは、倍率100倍の光学顕微鏡で観察される、直径1〜100μmの大きさを有した粒状異物であり、該異物がポリイミドフィルム中に存在した場合、ポリイミドフィルムの機械強度、電気的特性等が損なわれる。
・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ポリイミドフィルムを形成した際のフィルムにTMHQ由来のゲル状異物が生じない、ポリイミド原料として有用な高純度TMHQを、効率よく且つ作業性良く製造する方法を提供することを目的とする。」

(6c)「【0012】
【発明の実施の形態】本発明に係る一般式(1)で表されるヒドロキノンの低級アルカン酸エステルとしては、ヒドロキノンの酢酸エステル、プロピオン酸エステル及び酪酸エステルが例示され、特に好ましくは酢酸エステルが挙げられる。
【0013】ヒドロキノンの低級アルカン酸エステルは、通常のエステル化技術を用いて製造することができる。具体的な方法としては、無触媒下で、過剰のアルカン酸無水物を用いてアルカン酸エステルとする方法や、従来公知のエステル化触媒の存在下に、ヒドロキノンとアルカン酸或いはアルカン酸無水物とを反応させる方法(有機化学I、p181〜189、梅沢純夫著、丸善株式会社、1959年出版等を参照)等が例示される。
【0014】本発明に係るヒドロキノンの低級アルカン酸エステルと無水トリメリット酸(以下、「TMA」という)とのエステル交換反応に於いて、ヒドロキノンの低級アルカン酸エステル1モルに対するTMAの仕込み量は1.8〜5.0モルが挙げられ、より好ましくは2.0〜4.0モルが推奨される。TMAの仕込み量が1.8モル未満であると反応粗物中にヒドロキノンモノアセチルモノ(アンヒドロトリメリテート)が生じやすく、このものはヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)からの除去が非常に困難となり好ましくない。一方、5.0モルを越える場合は反応粗物の純度が低くなり、以下の精製工程で目的とする純度が得られなかったり、得られても精製回数を増やす必要があり、収率が極端に低くなり好ましくない。
【0015】エステル交換反応は、無触媒下でも触媒存在下でも行うことができ、適応される触媒としては、硫酸、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒、ゼオライト、ベントナイト、カオリン等のシリカ・アルミナ系触媒、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩系触媒類、三級アミン類、トリフェニルフォスフィン等が例示され、TMHQの用途に応じて、適宜、触媒の有無及びその種類を選択することができる。例えば、TMHQを電子部品用のポリイミド原料として使用する場合は、無触媒或いは触媒の形態が液状である三級アミン類、硫酸等が好ましい。
【0016】触媒の添加量としては、触媒の種類やエステル交換反応条件により適宜選択されるが、通常、原料であるヒドロキノンの低級アルカン酸エステル及びTMAの合計量に対し0〜10重量%が例示され、より好ましくは0〜5重量%が推奨される。」

(6d)「【0067】実施例5
攪拌機、温度計、冷却管付きデカンター及び窒素ガス導入口の付いた1Lの四ツ口フラスコにヒドロキノン33.0g(0.3モル)、無水酢酸91.9g(0.9モル)及びラウリルジメチルアミン2.5g(0.01モル)を仕込み、窒素雰囲気下、130℃で0.5時間反応させた。一部を取り出し分析したところヒドロキノンジアセテートの純度は99.9%であった。
【0068】次いでTMA184.4g(0.96モル)を仕込み、窒素雰囲気下、220℃まで昇温した。同温度で0.5時間反応し、更に225℃まで昇温し、80mmHgまで徐々に減圧して0.5時間反応した。窒素にて常圧に戻し反応粗物を得た。この225℃の反応粗物にγ−ブチロラクトン252.2g(理論反応粗物の1.22重量倍量)を攪拌下0.5時間かけて滴下した。滴下終了時、温度は129℃であった。更に40℃まで冷却してTMHQスラリーを得た。
【0069】このTMHQスラリーを濾過し、114.0gの濾別結晶を得た。この濾別結晶の一部を5mmHgの減圧下、140℃の温度で10時間乾燥したところTMHQ純度96.7%、TMA含有率2.8%、TMHQモノ体0.5%であり、固形分含有率は80%であった。
【0070】次いで得られた濾別結晶100g(固形分80g)とγ−ブチロラクトン48g及びキシレン192gを同様の装置に窒素ガス雰囲気下で仕込み、混合溶媒の還流温度(142℃)で2時間攪拌した。次に40℃まで冷却した後濾過し、得られた濾別結晶をγ−ブチロラクトン6g、キシレン24gの混合溶媒で洗浄した。更にこの濾別結晶を5mmHgの減圧下、120℃の温度で10時間乾燥し、TMHQ純度99.6%、TMA含有率0.3%、TMHQモノ体0.1%のTMHQを68.9g得た。精製収率(対理論反応粗物)は38%であった。
【0071】得られたTMHQを、実施例1と同様の操作でDMF溶液とし、ポリイミドフィルムを作製した。DMF溶液に濁りは見られず、且つポリイミドフィルム中にゲル状異物は観察されず、フィルム表面は平滑であった。」

(7)甲第7号証
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。
(7a)「
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】

で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、そしてR3は、同一または異なって、水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】

で示されるトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中で反応させ、一般式(4):
【化4】

で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を製造する方法。
【請求項2】
反応温度が170〜250℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
相間移動触媒が、ホスホニウム塩またはスルホニウム塩である請求項1または2記載の方法。」

(7b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記背景技術(1)に開示される方法は、高価で且つ環境衛生上取り扱い難い無水トリメリット酸クロリドを使用しなければならない。(2)に開示される製造方法では、使用する無機触媒が除去し難く、得られるエステル基含有酸二無水物誘導体の不純物となりやすい。また(3)に開示される製造方法では、反応が工業的には困難な高温を必要とするといった問題がある。本発明は工業的に利用可能な反応温度で、短時間に効率よく反応させる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記のような問題点を解決するために種々研究を行い、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルとトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中でエステル交換反応を行うことにより、エステル基含有酸二無水物誘導体を効率よく製造し得ることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエステル基含有酸二無水物誘導体は、ポリエステルイミド樹脂等の耐熱樹脂の原料、エポキシ樹脂等の硬化剤、または樹脂改質剤として利用される。本発明は、少量の相間移動触媒の存在下で、安価で、環境衛生上の問題も少ない原料から、工業的に利用可能な反応温度で短時間に、目的とするエステル基含有酸二無水物誘導体を、高収率で製造できる点から極めて有用である。」

(7c)「【0007】
すなわち、本発明は一般式(1):
【0008】
【化5】

【0009】
(式中、Arは、下記式(2):
【0010】
【化6】

【0011】
で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、そしてR3は、同一または異なって、水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【0012】
【化7】

【0013】
で示されるトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中で反応させ、式(4):
【0014】
【化8】

【0015】
で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を製造する方法に関する。
【0016】
本発明の一般式(1)に係る低級アルカン酸エステルとしては、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸またはイソ酪酸エステルが例示されるが、好ましくは酢酸エステルが挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(1)に係る芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロカテコール、4,4’−ビフェニルジオール、2,2’−ビフェニルジオール、3,4’−ビフェニルジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、あるいはこれらの芳香環が、同一または異なって、メチル基、エチル基、n−もしくはiso−プロピル基で置換されたものが例示されるが、好ましくは、ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノン、2,2’−ビフェニルジオール等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルは、例えば、低級アルカン酸無水物と芳香族ジオールとを加熱反応することで容易に得ることができる。このとき、従来公知のp−トルエンスルホン酸ナトリウム等のエステル化触媒を使用することもできる。
【0019】
一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、トリメリット酸無水物とのエステル交換反応は、相間移動触媒の存在下、溶媒中で行われ、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を得る。ここでは、トリメリット酸無水物2モルに対し、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルを0.95〜1.50モル反応させるのが好ましい。
【0020】
本発明に係る相間移動触媒としては、本発明の方法において設定される反応温度に耐えうる触媒であればよく、公知のもの、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、クラウンエーテル等が利用できるが、好ましくは、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等が利用できる。ホスホニウム塩としては、例えば、トリフェニルホスフィン、臭化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラブチルホスホニウム等、スルホニウム塩としては、ヨウ化スルホニウム、臭化トリフェニルスルホニウム等が挙げられる。触媒量は、一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルに対し、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%である。
【0021】
反応には、溶媒を用いる。使用する溶媒は、反応温度(170〜250℃)付近または反応温度を超える沸点を持ち、設定される反応温度に応じ適宜選択されるが、反応に関与しないもの、すなわち芳香族ジオールの低級アルカン酸エステル、トリメリット酸無水物および相間移動触媒等に対し不活性でなければならない。例えば、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンのようなポリ塩化ベンゼン、2,3−ジクロロトルエンのようなポリ塩化トルエンが使用可能である。脱水された非プロトン性の極性溶媒、例えばスルホラン、N−メチルピロリドンも使用可能である。使用量は、一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルに対し、50〜800重量%、好ましくは100〜400重量%である。
【0022】
エステル交換反応温度は、170〜250℃で行われるが、200〜240℃が好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を具体的に実施例を示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。なお、実施例中の高速液体クロマトグラフィーの測定条件は、以下の通りである。
機種:島津製作所製高速液体クロマトグラフィー SPD−10A
カラム:ODS−80T (3φ×150mm) 40℃
溶離液:アセトニトリル:水:リン酸=400:600:0.5(容量比)
検出波長:254nm
なお、本明細書において反応率とは、上記高速液体クロマトグラフィーの測定結果から得られる、反応生成物である一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物のピーク面積に対する全ピーク面積(前記反応生成物、未反応原料および副生成物等のピークを含むが、但し溶媒のピークは除いたもの)の割合を百分率で示したものである。
【0024】
(例1)
撹拌機、温度計、蒸留用冷却管、窒素ガス導入管を付けた1Lの四つ口フラスコに、1,4−ジアセトキシベンゼン106.8g(0.55モル)、トリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン400g及び臭化テトラフェニルホスホニウム1.1gを仕込み、窒素雰囲気下210℃で4時間反応させた。この時点で反応液を採取し、高速液体クロマトグラフィー測定した結果、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物(式中、Arは、1,4−フェニレンである)の反応率は、86.3%であった。」

2 甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、摘記(1a)の請求項1に係る発明として、以下の発明が記載されているといえる。

「フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸又はその無水物とをエステル交換反応するに際し、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを特徴とする一般式(1)で表されるフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法。
【化1】

[式中、Aはフェノール類よりn個のフェノール性水酸基を除去してなる残基を表す。nは1〜4の整数を示す。]」に係る発明(以下「甲1発明」という。)

(2)甲第7号証に記載された発明
甲第7号証には、摘記(7a)の請求項1に係る記載及び摘記(7b)の請求項1に対応した発明の実施形態の記載から、甲第7号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】

で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、そしてR3は、同一または異なって、水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】

で示されるトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中で反応させ、一般式(4):
【化4】

で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を製造する方法。」に係る発明(以下「甲7発明」という。)。

3 対比・判断
甲第1号証に記載された発明との対比・判断(異議申立理由1−1について)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸又はその無水物とをエステル交換反応する」「一般式(1)で表されるフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法。
【化1】


[式中、Aはフェノール類よりn個のフェノール性水酸基を除去してなる残基を表す。nは1〜4の整数を示す。]」は、本件特許発明1の下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】

で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】

で示されるトリメット酸無水物を、」「
下記一般式(4):
【化4】

(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法」と、「低級アルカン酸エステルを用いたフェノール類のトリメリット酸無水物の製造方法。」という点でのみ共通している。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、
「低級アルカン酸エステルを用いたフェノール類のトリメリット酸無水物の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1:本件特許発明1においては、「下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】


で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】


で示されるトリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることを特徴とする
下記一般式(4):
【化4】


(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法」であることが特定されているのに対して、甲1発明においては、「フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸又はその無水物とをエステル交換反応する」「一般式(1)で表されるフェノール類のトリメリット酸エステル酸無水物の製造方法。
【化1】


[式中、Aはフェノール類よりn個のフェノール性水酸基を除去してなる残基を表す。nは1〜4の整数を示す。]」と特定されている点。

相違点2−1:本件特許発明1においては、「芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、」「トリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることを特徴とする」「3級アミン化合物が下記一般式(5):

(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、「エステル交換反応するに際し、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを特徴とする」と特定されている点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2−1から検討する。
a 甲第1号証においては、甲1発明の認定の根拠となった特許請求の範囲の記載及び他の記載においても、「芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、」「トリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させること」や「3級アミン化合物が下記一般式(5):


(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く」ことについては、3級アミン化合物を用いること自体の記載がなく、当然特定の3級アミン化合物が除かれる記載も存在しない。
また、甲1発明において、フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸またはその無水物との反応を、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを必須とするものであるから、本件の優先日時点の技術常識を考慮しても、シリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物に変えて、第3級アミンを用いるように変更する動機付けがあるとはいえない。

b そして、甲第2号証は、熱伝導性に優れた放射材料であって、射出成形可能な熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、本件特許発明の目的物とは異なる熱可塑性樹脂の製造において、多くの無機触媒や有機触媒の例示の中に、たまたまN,N−ジメチルアミノピリジンがあるに過ぎないものであり(摘記(2a)(2d))、甲第3号証は、液晶ポリエステルに関する文献であって、テレフタル酸等のモノマーを特定の複素芳香族化合物の添加の下、溶融重縮合して重合体を形成する本件特許発明と異なる反応において、複素芳香族化合物として、N,N−ジメチルアミノピリジンが例示されるに過ぎないものであり(摘記(3a)(3c)(3d))、甲第4号証は、グリセリントリアセテートの製造方法に関する文献であって、グリセリンの酢酸エステル、蟻酸エステル混合液をエステル交換法によりグリセリントリアセテートに転化させる方法において、トリエチルアミンを触媒として用いることが記載されており、本件特許発明と異なる反応において、トリエチルアミンを用いることが記載されているにすぎない(摘記(4a)(4b))。
また、甲第5号証は、アルコールの低級アルカン酸エステルがトリメリット酸無水物と反応するトランスー酸分解反応において、3級アミンを用いることが記載されているにすぎず(摘記(5a)(5b)(5c))、表2において具体的に示されている3級アミンもトリオクチルアミンのみであり、甲第6号証は、ヒドロキノンの低級アルカン酸エステルと無水トリメリット酸をエステル交換し、ヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)を製造する方法に関するものではあるが、触媒に関しては、無触媒、無機触媒、有機触媒が多数例示されており、三級アミンが無触媒とともに好ましいとの記載があるだけであるし(摘記(6a)(6b)(6c))、実施例においてもラウリルジメチルアミンを用いてヒドロキノンジアセテートを製造した例が記載されている(摘記(6d))。
したがって、他の甲第2〜6号証を考慮しても、フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメリット酸またはその無水物との反応を、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを必須とする甲1発明において、シリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物に変えて、第3級アミンを用いるように変更する動機付けがあるとはいえない。

c したがって、甲1発明において、相違点2−1は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、
「下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】

で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】

で示されるトリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることを特徴とする
下記一般式(4):
【化4】

(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法であって、
3級アミン化合物が下記一般式(5):
【化5】

(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く、製造方法。」との構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される「本発明はアミン化合物の存在下で、安価で環境衛生上の問題も少ない原料から、工業的に利用可能な反応温度で、短時間に効率よく製造できるため、極めて有用である。本発明を用いて得られる化合物は、触媒由来の金属分やリン元素などの半導体素子へ悪影響を及ぼす不純物が残留する可能性が低いため、特に電気・電子分野向けの材料として有用である。」という予測できない顕著な効果を奏している。

(エ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、エステル交換反応を効率化するために、エステル交換反応に3級アミン化合物を用いることは、当業者にとって容易にできたことであるとして、甲第2〜6号証を提示し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く3級アミン化合物とすることは、当業者にとって容易である旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲1発明は、フェノール類の低級アルカン酸エステルとトリメット酸またはその無水物との反応を、触媒としてシリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物を適用することを必須とする甲1発明において、シリカ・アルミナ系化合物、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の無機化合物に変えて、第3級アミンを用いるように変更する動機付けがあるとはいえないし、甲第2〜6号証は、そもそも重合触媒に関して述べているものなど対象反応が異なるものや、用いられている3級アミンの炭素数が異なるものであり、その観点からも、本件特許発明の構成が容易に想到するものとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 甲1発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜6号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2は、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有する。

イ 本件特許発明2は、「アミン化合物の添加量が、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.1〜10mol%である」点がさらに特定されており、甲1発明との間で、新たな相違点として、以下の相違点3−1が存在する。

相違点3−1:本件特許発明2は、「アミン化合物の添加量が、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.1〜10mol%である」ことが特定されているのに対して、甲1発明においては、アミン化合物の添加自体の特定がなく、一般式(1)で示される化合物に対するアミン化合物の添加量の比の特定のない点。

相違点の判断
甲第2〜6号証には、上述のとおり、重合触媒に関して述べているものなど対象反応が異なるものや、用いられている3級アミンの炭素数が異なるものに関しての記載があるものの、相違点3−1の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明2と甲1発明との対比における、本件特許発明1と甲1発明との対比における相違点1−1、2−1に対応する相違点1’−1、2’−1が実質的相違点であり、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

エ したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

(3)甲第1号証記載の発明に関する、異議申立理由1−1についてのまとめ
以上のとおり、甲第1号証記載の発明に関する、異議申立理由1−1については理由がない。

甲第7号証に記載された発明との対比・判断(異議申立理由1−2について)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明の「一般式(1):
【化1】


(式中、Arは、下記式(2):
【化2】


で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、そしてR3は、同一または異なって、水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】


で示されるトリメリット酸無水物とを、」「溶媒中で反応させ、一般式(4):
【化4】


で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を製造する方法。」は、本件特許発明1の「下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】


で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】


で示されるトリメット酸無水物を、」「有機溶媒中で反応させることを特徴とする
下記一般式(4):
【化4】


(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法」と、「下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】


で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】


で示されるトリメット酸無水物を、溶媒中で反応させることを特徴とする
下記一般式(4):
【化4】


(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法」の限りにおいて共通する。

したがって、本件特許発明1は、甲7発明と、
「下記一般式(1):
【化1】

(式中、Arは、下記式(2):
【化2】


で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】


で示されるトリメット酸無水物を、溶媒中で反応させることを特徴とする
下記一般式(4):
【化4】


(式中、Arは、上記と同義である)
で示される化合物の製造方法」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−7:本件特許発明1においては、「芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、」「トリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることを特徴と」し、「3級アミン化合物が下記一般式(5):

(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く」ことが特定されているのに対して、甲7発明においては、「芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、」「トリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中で反応させることを特徴とする」と特定されている点。

イ 判断
(ア)相違点1−7について
a 甲第7号証においては、甲7発明の認定の根拠となった請求項1の記載及び他の記載においても、「芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、」「トリメット酸無水物を、3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させること」や「3級アミン化合物が下記一般式(5):

(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く」ことについては、3級アミン化合物を用いること自体の記載がなく、当然特定の3級アミン化合物が除かれる記載も存在しない。
また、甲7発明において、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルとトリメリット酸無水物の反応を相間移動触媒を用いることを必須とするものであるから、本件の優先日時点の技術常識を考慮しても、相間移動触媒に変えて、第3級アミンを用いるように変更する動機付けがあるとはいえない。

b そして、甲第2号証は、熱伝導性に優れた放射材料であって、射出成形可能な熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、本件特許発明の目的物とは異なる熱可塑性樹脂の製造において、多くの無機触媒や有機触媒の例示の中に、たまたまN,N−ジメチルアミノピリジンがあるに過ぎないものであり(摘記(2a)(2d))、甲第3号証は、液晶ポリエステルに関する文献であって、テレフタル酸等のモノマーを特定の複素芳香族化合物の添加の下、溶融重縮合して重合体を形成する本件特許発明と異なる反応において、複素芳香族化合物として、N,N−ジメチルアミノピリジンが例示されるに過ぎないものであり(摘記(3a)(3c)(3d))、甲第4号証は、グリセリントリアセテートの製造方法に関する文献であって、グリセリンの酢酸エステル、蟻酸エステル混合液をエステル交換法によりグリセリントリアセテートに転化させる方法において、トリエチルアミンを触媒として用いることが記載されており、本件特許発明と異なる反応において、トリエチルアミンを用いることが記載されているにすぎない(摘記(4a)(4b))。
また、甲第5号証は、アルコールの低級アルカン酸エステルがトリメリット酸無水物と反応するトランス−酸分解反応において、3級アミンを用いることが記載されているにすぎず(摘記(5a)(5b)(5c))、表2において具体的に示されている3級アミンもトリオクチルアミンのみであり、甲第6号証は、ヒドロキノンの低級アルカン酸エステルと無水トリメリット酸をエステル交換し、ヒドロキノンビス(アンヒドロトリメリテート)を製造する方法に関するものではあるが、触媒に関しては、無触媒、無機触媒、有機触媒が多数例示されており、三級アミンが無触媒とともに好ましいとの記載があるだけであるし(摘記(6a)(6b)(6c))、実施例においてもラウリルジメチルアミンを用いてヒドロキノンジアセテートを製造した例が記載されている(摘記(6d))。
したがって、他の甲第2〜6号証を考慮しても、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルとトリメット酸無水物の反応を相間移動触媒を用いることを必須とするものである甲7発明において、相間移動触媒に変えて、第3級アミンを用いるように変更する動機付けがあるとはいえない。

d したがって、甲7発明において、相違点1−7は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定した構成を採用することで、本件特許明細書【0007】に記載される予測できない顕著な効果を奏している。

(エ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、エステル交換反応を効率化するために、エステル交換反応に3級アミン化合物を用いることは、当業者にとって容易にできたことであるとして、甲第2〜6号証を提示し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く3級アミン化合物とすることは、当業者にとって容易である旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲7発明は、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルとトリメリット酸無水物の反応を相間移動触媒を用いることを必須とするものであるから、甲7発明において、相間移動触媒に変えて、第3級アミンを用いるように変更する動機付けがあるとはいえないし、甲第2〜6号証は、そもそも重合触媒に関して述べているものなど対象反応が異なるものや、用いられている3級アミンの炭素数が異なるものであり、その観点からも、本件特許発明の構成が容易に想到するものとはいえない。

ウ 甲7発明との対比・判断のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2は、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)アで論じたのと同様の相違点を有する。

イ 本件特許発明2は、「アミン化合物の添加量が、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.1〜10mol%である」点がさらに特定されており、甲7発明との間で、新たな相違点として、以下の相違点2−7が存在する。

相違点2−7:本件特許発明2は、「アミン化合物の添加量が、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.1〜10mol%である」ことが特定されているものの、甲7発明においては、アミン化合物の添加自体の特定がなく、一般式(1)で示される化合物に対するアミン化合物の添加量の比の特定のない点。

相違点の判断
甲第2〜6号証には、上述のとおり、重合触媒に関して述べているものなど対象反応が異なるものや、用いられている3級アミンの炭素数が異なるものに関しての記載があるものの、相違点2−7の判断をするまでもなく、上記(1)イで検討したのと同様に、本件特許発明2と甲7発明との対比における、本件特許発明1と甲7発明との対比における相違点1−7に対応する相違点1’−7は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

エ したがって、本件特許発明2は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえない。

4 異議申立理由1−1および1−2の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえないし、甲第7号証に記載された発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものともいえないので、異議申立理由1−1、1−2には、理由がない。

異議申立理由2(サポート要件)について
1 異議申立理由2−1、2−2について
特許異議申立人は、前記第3 2に記載のようにサポート要件について理由を述べている。

2 判断
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明1〜2の課題は、【0005】の【発明が解決しようとする課題】の記載、及び明細書全体の記載からみて、工業的に利用可能な反応温度で短時間に効率よく反応させる製造方法を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「一般式(4):
(化学構造式省略)
で示される化合物の製造方法」であって、
「下記一般式(1):
(化学構造式省略)
(式中、Arは、下記式(2):
(化学構造式省略)
で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、
R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、
そしてR3は、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表す)
で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、
式(3):
(化学構造式省略)
で示されるトリメット酸無水物を、
3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させること」、「3級アミン化合物が下記一般式(5):
(化学構造式省略)
(式中、R4、R5、R6は、同一または異なって、炭素数1〜10のアルキル基、置換されてもよいピリジル基またはアリール基を表す)
で示されるが、但し、合計10〜40個の炭素原子を含む3級アミン化合物を除く」ことが特定された物の発明が記載されている。
また、請求項2には、請求項1において、「アミン化合物の添加量が、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.1〜10mol%である」ことが特定された物の発明が記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除き、【0002】〜【0006】の背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段に関係した記載、【0007】の発明の効果に関する記載、【0017】〜【0018】の一般式(1)で示される化合物の例示、トリメリット酸の一般式(1)で示される化合物に対する使用量に関する記載がそれぞれなされている。
また、【0019】〜【0024】の製造に用いるアミン化合物に関する例示を含めた記載、該アミン化合物の一般式(1)で示される化合物に対する使用量に関する記載、製造に用いる有機溶媒の沸点や例示、一般式(1)で示される化合物に対する使用量に関する記載、反応温度、反応時間、後処理に関する記載がそれぞれなされている。
さらに、実施例として、【0026】〜【0029】には、実施例、比較例の純度測定方法やリン含有測定条件の記載、実施例1〜6には、一般式(1)に該当する、1,4−ジアセトキシベンゼン、4,4’−ジアセトキシビフェニル、2,5−ジアセトキシトルエンに対して、トリメリット酸無水物を反応させるに際して、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリオクチルアミンを添加して製造した結果の反応純度が示され、比較例として用いた臭化テトラフェニルホスホニウムより反応純度が高いことが示されている。

(5)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比等に基づく検討
上記(4)のとおり、本件特許発明1の各発明特定事項に対応して、本件特許明細書には、一般式(1)の化合物の例示や用いる3級アミンの例示や使用量、有機溶媒の沸点や例示の一般的記載が存在し、課題に関連した工業的利用可能反応温度に関する記載もあり、各特定事項間に技術的矛盾はなく、複数種の一般式(1)に該当する化合物に対して、異なる3級アミンを用いた場合に、リンの残存による問題を生じる相間移動触媒を用いた比較例との対比で、純度及びリンの残存がないことを示す実施例の結果も示されているのであるから(実施例1、2と実施例3との比較から本件特許発明1の3級アミンから除かれた部分のものを使用した場合との比較結果も示されていることになる。)、本件特許発明1の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるといえる。

また、本件特許発明2に関しても、【0020】の一般式(1)で示される化合物1モルに対する好ましいアミン化合物の添加量の一般的記載及び実施例4(一般式(1)で示される化合物1モルに対する好ましいアミン化合物の添加量:0.930/0.186)、実施例5(一般式(1)で示される化合物1モルに対する好ましいアミン化合物の添加量:0.465/0.0929)の純度の結果の記載も併せて考慮すれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

特許異議申立人は、異議申立理由2−1において、本件特許発明に関し、反応温度や反応時間が限定されておらず、反応が長時間に及び低温や特殊な設備を要するような高温の反応を含み、実施例、比較例の結果から反応純度が大きく変動しているので、短時間に効率よく反応させるという課題を解決できなくなる旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人の主張は、反応が長時間に及び低温や特殊な設備を要するような高温の反応という極端な条件を想定しているだけで、上述のとおり、本件特許発明は、特定の芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、特定のトリメット酸無水物を、特定の3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることで、工業的に利用可能な反応温度で短時間に効率よく反応させる製造方法を提供するという課題を解決することに技術的思想をもつ発明であるから、具体的な反応温度や反応時間によって、純度等の結果が一定程度変化するからといって、本件特許明細書の記載や実施例及び比較例の記載、温度や時間の変化による結果への影響の方向性の技術常識を考慮すれば(実施例によると3級アミンの添加量を増加させると純度は向上している。)、反応温度や反応時間を具体的数値範囲として限定しなければ本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できないとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張を採用することはできない。

また、特許異議申立人は、異議申立理由2−2において、本件特許発明に関し、有機溶媒が規定されていないので、効率良くエステル交換反応を行うために高温にする必要があり、本件特許発明【0021】で例示されている沸点の高い非反応性の溶媒以外の溶媒を用いる場合は課題が解決できない旨主張している。
しかしながら、本件特許発明は、特定の芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、特定のトリメット酸無水物を、特定の3級アミン化合物の存在下、有機溶媒中で反応させることで、工業的に利用可能な反応温度で短時間に効率よく反応させる製造方法を提供するという課題を解決することに技術的思想をもつ発明であるから、用いる有機溶媒が、極端に低沸点であったり、反応性のものが望ましくないのは技術常識にすぎず、当業者であれば、本件特許明細書の例示及び本件の出願時の技術常識に基いて、本件特許発明の有機溶媒を適宜選択し、上記本件特許発明の課題を解決できると認識でき、特許異議申立人の主張するような明らかに問題を生じる有機溶媒を用いないことは、本件特許発明の技術的思想からみて明らかである。
したがって、有機溶媒の具体的種類について限定がないからといって、本件特許発明の課題が解決できない部分があることを前提とした特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 異議申立理由2の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1〜2に係る発明は、発明の詳細な説明の記載に記載されているといえるので、異議申立理由2には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1〜2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-02-25 
出願番号 P2021-500977
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C07D)
P 1 651・ 121- Y (C07D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 瀬良 聡機
小堀 麻子
登録日 2021-05-28 
登録番号 6890871
権利者 マナック株式会社
発明の名称 エステル基含有酸二無水物誘導体の製造方法  
代理人 特許業務法人 津国  
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