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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1384284
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-20 
確定日 2022-03-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6896298号発明「マイクロラフ処理された電解銅箔及びこれを用いた銅張基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6896298号の請求項1〜18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6896298号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜18に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和 1年10月25日(優先権主張 平成30年11月 5日)に出願され、令和 3年 6月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年 6月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年12月20日に、特許異議申立人 本間裕美(以下、「申立人」という。)により、請求項1〜18(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜18に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明18」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
マイクロラフな表面を有し、且つ前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔であって、
国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり、且つ日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下であり、
日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定された、前記マイクロラフな表面の表面粗さ(Rz)が2.3μm以下であることを特徴とする、マイクロラフ処理された電解銅箔。
【請求項2】
前記複数の山形状構造のSa×Spdが240000μm/mm2を超過し且つ350000μm/mm2未満である、請求項1に記載のマイクロラフ処理された電解銅箔。
【請求項3】
前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.1μmを超過し且つ1.5μm未満である、請求項1に記載のマイクロラフ処理された電解銅箔。
【請求項4】
前記凹み構造ごとに、U字形の断面輪郭及び/又はV字形の断面輪郭を有する、請求項1に記載のマイクロラフ処理された電解銅箔。
【請求項5】
基板と、前記基板の一方の表面に貼り付けられるためのマイクロラフな表面を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔を備える銅張基板であって、
前記マイクロラフ処理された電解銅箔における、前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有しており、国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり、且つ日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下であり、
日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定された、前記マイクロラフな表面の表面粗さ(Rz)が2.3μm以下である、銅張基板。
【請求項6】
前記複数の山形状構造のSa×Spdが240000μm/mm2を超過し且つ350000μm/mm2未満である、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項7】
前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.1μmを超過し且つ1.5μm未満である、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項8】
前記凹み構造ごとに、U字形の断面輪郭及び/又はV字形の断面輪郭を有する、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項9】
前記基板が低損失(Low loss)のプリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、4GHzでの挿入損失が−0.35dB/in〜−0.371dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項10】
前記基板が低損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、8GHzでの挿入損失が−0.601dB/in〜−0.635dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項11】
前記基板が低損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、12.89GHzでの挿入損失が−0.885dB/in〜−0.956dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項12】
前記基板が低損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、16GHzでの挿入損失が−1.065dB/in〜−1.105dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項13】
前記基板が中損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、4GHzでの挿入損失が−0.443dB/in〜−0.468dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項14】
前記基板が中損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、8GHzでの挿入損失が−0.780dB/in〜−0.823dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項15】
前記基板が中損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、12.89GHzでの挿入損失が−1.177dB/in〜−1.265dB/inである、請求項5に記載の
銅張基板。
【請求項16】
前記基板が中損失プリプレグ材料で形成され、前記銅張基板の、16GHzでの挿入損失が−1.422dB/in〜−1.475dB/inである、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項17】
前記基板が低損失プリプレグ材料で形成された場合、前記基板の、10GHzでのDk値が3.2以上3.8以下となり、且つDf値が0.005を超過し0.010以下となる、請求項5に記載の銅張基板。
【請求項18】
前記基板が中損失プリプレグ材料で形成された場合、前記基板の、10GHzでのDk値が3.5以上4.0以下となり、且つDf値が0.010を超過し0.015以下となる、請求項5に記載の銅張基板。

第3 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲第1号証〜甲第7号証を提出して、以下の申立理由1〜4により、本件特許の請求項1〜18に係る特許が取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(進歩性
本件発明1〜18は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明1〜18は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性
本件発明1〜18は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(実施可能要件
本件発明1〜18は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:国際公報第2017/006739号
甲第2号証:特開2008−285751号公報
甲第3号証:JPCA Show 2016
第46回国際電子回路産業展
JX金属株式会社カタログ
(頒布日:2016年 6月 1日)
甲第4号証:特開2018−127717号公報
甲第5号証:国際公報第2016/174998号
甲第6号証:特開2011−168887号公報
甲第7号証:特開2006−103189号公報

第4 本件明細書の記載事項
1 本件明細書には以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は電解銅箔及びその利用に関し、特に、マイクロラフ処理された電解銅箔及びこれを用いた銅張基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報・電子産業の発展に伴って、高周波で高速度の信号伝送が既に現世代の回路の設計と製造の一部をになう。電子製品は、高周波で高速度の信号伝送の需要に応じ、高周波信号が伝達される時に過度な損失が生じることを防ぐために、使用される銅箔基板に高周波での良好な挿入損失(insertion loss)が求められる。銅箔基板での挿入損失がその表面粗さに大きく関連している。表面粗さが低下すると、望ましい挿入損失になり、逆はそうでない。しかしながら、表面粗さが低下したことに伴い、銅箔と基材の間の剥離強度も低下してしまい、その後の製品の歩留まりに影響しかねない。従って、如何に剥離強度を業界のレベルに維持した上で良好な挿入損失を提供するかは、当該技術分野において解決しようとする課題になっている。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来の技術的欠陥に対しマイクロラフ処理された電解銅箔を提供することである。また、このマイクロラフ処理された電解銅箔を用いた銅張基板を提供することを課題としている。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明の1つの有益な効果は、本発明により提供されたマイクロラフ処理された電解銅箔によれば、マイクロラフな表面の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)、そして算術平均うねり(Wa)を特定の範囲に制御することにより、信号の伝送損失を有効に低減するとともに、銅箔と基材の間の接合力の低減を抑止することができ、銅箔と基材の接合力の維持と、信号の伝送損失の低減を両立させることができる。」
(3)「【0017】
図1を参照すると、本発明のマイクロラフ処理された電解銅箔1には、少なくとも1つのマイクロラフな表面10を有し、マイクロラフな表面10には、複数の山形状構造11と、複数の山形状構造11に対して成された凹み構造12を有する。注意すべきことは、マイクロラフな表面10について、国際規格であるISO25178に準拠して測定された、山形状構造11の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり、好ましくは240000μm/mm2を超過し、350000μm/mm2未満であり、更に、日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、山形状構造11の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下であり、好ましくは0.1μmを超過し且つ1.5μm未満である。これによって、本発明のマイクロラフ処理された電解銅箔1により良好な電気性能、例えば最適化された挿入損失(Insertion loss)を達成することができる。この他、マイクロラフな表面10の表面粗さ(Rz)が2.3ミクロンメートル以下であり、この表面粗さ(Rz)は日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定されたものであり、線幅・線間の微縮小に寄与する。
【0018】
図2に照らして説明すると、マイクロラフな表面10において、山形状構造11ごとに微結晶クラスター13が形成され、微結晶クラスター13には少なくとも1つのウィスカーWを有し、ウィスカーWは、複数の微結晶Cが積み重なってなるものである。微結晶クラスター13の配列方式に特別な制限がなく、規律正しく配列し、要するにほぼ同一方向に沿って配列することができるが、これにより制限されない。微結晶クラスター13の平均高さが2ミクロンメートル未満であり、好ましくは1.8ミクロンメートル未満であり、より好ましくは1.6ミクロンメートル未満である。本明細書において、微結晶クラスター13の平均高さとは、微結晶クラスター13の頂部表面から山形状構造11の頂部表面までの垂直距離を意味する。
【0019】
本実施形態では、図2に示すように、微結晶クラスター13には、異なる方向に延出して分岐状となった複数のウィスカーWを有している。ウィスカーWごとに、その高さ方向に沿って微結晶Cが15個以下になるように積み重なり、好ましくは微結晶Cが13個以下になるように積み重なり、より好ましくは微結晶Cが10個以下になるように積み重なり、更に好ましくは微結晶Cが8個以下になるように積み重なっている。微結晶Cの平均外径が0.5ミクロンメートル未満であり、好ましくは0.05〜0.5ミクロンメートルであり、より好ましくは0.1〜0.4ミクロンメートルである。
【0020】
又、図2に示すように、マイクロラフな表面10においての山形状構造11のWa値が上述した数値範囲に収まると、凹み構造12ごとにU字形の断面輪郭及び/又はV字形の断面輪郭を有することになる。これによって、各凹み構造12に対しより大量の接着剤を充填したことにより、銅箔と基材の間の接合力を向上し、高い剥離強度(Peel strength)と電気性能(Insertion loss)を両立することができる。凹み構造12の平均深さが1.5ミクロンメートル未満であり、好ましくは1.3ミクロンメートル未満であり、より好ましくは1ミクロンメートル未満である。凹み構造12の平均幅が0.5〜4ミクロンメートルであり、好ましくは0.6〜3.8ミクロンメートルである。」
(4)「【実施例】
【0035】
[実施例1]
図4、図5を参照しながら説明すると、マイクロラフ処理された電解銅箔1におけるマイクロラフな表面10は連続式電解装置3で形成されたものである。連続式電解装置3には、1本の巻き出しロール31と、1本の巻き入れロール32と、巻き出しロール31と巻き入れロール32の間に設けられた複数の電解槽33と、複数の電解槽33の上方に夫々設けられた電解ロールセット34と、複数の電解槽33の内部に夫々設けられた補助ロールセット35を備える。その中で、電解槽33ごとに一対の電極331(例えば白金電極)が設けられ、電解ロールセット34ごとに2本の電解ロール341を有している。また、補助ロールセット35ごとに2本の補助ロール351を有している。各電解槽33における電極231、それに対応する電解ロールセット34が夫々外部電源サプライヤーに電気的に接続される。
【0036】
実施例1では、原箔としてリバース処理済銅箔(RTF)である金居開発株式会社の製品(型番RG311)が使用された。原箔が巻き出しロール31に巻きつけられ、その後、電解ロールセット34、補助ロールセット35の順で巻かれ、最後に巻き入れロール32に巻き戻される。各電解槽33に使用された銅含有電解液の組成成分と操作条件を表1に示す。原箔を10m/minの生産速度で順次に複数の電解槽33を通過させたことにより電解粗化処理がされ、JIS94に準拠して測定された表面粗さRzが2.3ミクロンメートル以下である、マイクロラフ処理された電解銅箔1が製造された。その表面構造、断面構造が夫々図6、図7に示される。
【0037】
マイクロラフ処理された電解銅箔1におけるマイクロラフな表面10の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)が、レーザー顕微鏡で直接にマイクロラフな表面10の凹凸輪郭を測定して得られたものである。好ましい方式としては、まずマイクロラフ処理された電解銅箔1をPP基材と貼り合わせ、マイクロラフな表面10の凹凸輪郭をPP基材に転写させた後、エッチングにより銅箔を選択的に除去し、そしてPP基材の表面の凹凸輪郭を測定してSa値とSpd値を得る。
【0038】
マイクロラフ処理された電解銅箔1の挿入損失については、strip lineの方法で測定し得たものであり、その結果を表2に示す。実施例1においては、周波数として4GHz、8GHz、12.89GHz及び16GHz等において測定が行われる。
【0039】
1枚の基板2(低損失プリプレグ材料、型番S7439G)に、マイクロラフな表面10に銅シランカップリング剤が塗布された電解銅箔1を2枚貼り合わせ、硬化後、IPC−TM−6504.6.8の試験方法で銅張基板Lの剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0040】
[実施例2〜3]
原箔、電解装置及び銅含有電解液の組成については実施例1と同様であり、表1に示す操作条件のように、10m/minの生産速度で原箔に対し電解粗化処理を行った。マイクロラフ処理された電解銅箔1を1枚取って、実施例1と同様な方法でそのSa値とSpd値を測定した。その結果を表2に示す。又、2枚のマイクロラフ処理された電解銅箔1と1枚の基板2(低損失プリプレグ材料、型番S7439G)を貼り合わせて銅張基板Lを形成し、その後、実施例1と同様な方法でその剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
[実際例4〜5]
原箔、電解装置及び銅含有電解液の組成については実施例1と同様であり、表1に示す操作条件のように、10m/minの生産速度で原箔に対し電解粗化処理を行った。マイクロラフ処理された電解銅箔1を1枚取って、実施例1と同様な方法でそのSa値とSpd値を測定した。その結果を表2に示す。2枚のマイクロラフ処理された電解銅箔1と1枚の基板2(低損失プリプレグ材料、型番S7439G)を貼り合わせて銅張基板Lを形成すると共に、更に2枚のマイクロラフ処理された電解銅箔1と他の1枚の基板(中損失プリプレグ材料、型番S7040G)を貼り合わせて他の銅張基板Lを形成した。その後、実施例1と同様な方法でこれらの銅張基板Lの剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
[比較例1]
原箔については図8及び図9に示された表面・断面構造を有するリバース処理済銅箔(型番RTF3、以下、"RTF3銅箔"と称する)を使用した。1枚のRTF3銅箔を取って、実施例1と同様な方法でそのSa値とSpd値を測定した。その結果を表2に示す。2枚のマイクロラフ処理された電解銅箔1と、1枚の基板2(低損失プリプレグ材料、型番S7439G)を貼り合わせて銅張基板Lを形成すると共に、更に2枚のマイクロラフ処理された電解銅箔1と、他の1枚の基板2(中損失プリプレグ材料、型番S7040G)を貼り合わせて他の銅張基板Lを形成した。その後、実施例1と同様な方法でこれらの銅張基板Lの剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
図2、図6及び図7を参照しながら説明すると、実施例1のマイクロラフな表面10にはほぼ同一方向に沿って延伸した複数の凹み構造12(例えば凹溝)が形成され、凹み構造12の幅が約0.1ミクロンメートル〜4ミクロンメートルであり、且つ深さが0.8ミクロンメートル以下であった。凹み構造12に隣り合う山形状構造11に顕著な微結晶クラスター13が形成され、微結晶クラスター13の高さが2ミクロンメートル以下であり、且つ微結晶クラスター13ごとに存在するウィスカーWは、複数の微結晶Cが積み重なってなるものであり、微結晶Cの平均外径が約0.5ミクロンメートル未満であった。
【0047】
再び図8及び図9を参照すると、RTF3銅箔の表面には粒径が約1ミクロンメートルの微結晶が複数形成され、これらの微結晶がRTF3銅箔の表面に均一に分布しており、即ち少数の微結晶が集積しているように見えるが、特定の位置に大量集積することがまずない。
【0048】
表2及び表3に示すように、実施例1〜3の銅張基板Lにおいて基板2として低損失のプリプレグ材料(型番S7439G)を使用した場合、その剥離強度が最低でも4.10lb/inとなり、これは、業界規格の4lb/inよりも高い数値になっている。また、実施例1〜3の銅張基板Lにおいて基板2として中損失プリプレグ材料(型番S7040G)を使用した場合、その剥離強度が最低でも4.12lb/inとなり、これは、業界規格の4lb/inよりも高い数値になっている。このことから分かるように、本発明の銅張基板Lは業界規格よりも高い剥離強度を有するだけではなく、良好な電気性能も有するので、後続のPCBプロセスの進行に有利となり、且つ端末製品の電気的品質の安定を維持できる。
【0049】
表3に示すように、実施例1〜3、そして実施例4、5において低損失プリプレグ材料や中損失プリプレグ材料を使用した場合、周波数4GHz〜16GHzでの挿入損失が共に比較例1よりも優れている。特筆すべき点は、Sa×Spd値、Wa値を所定の範囲に収めるようにマイクロラフな表面10の表面凹凸の形態を制御することで、高周波信号の伝送損失を有効に低減できる。
【0050】
なお、マイクロラフな表面10のSa×Spd値が39000μm/mm2未満であり且つWaが0.08を超過する銅張基板L(低損失プリプレグ材料である型番S7439Gのもの)を使用すると、優れた挿入損失を達成できる。詳しく説明すると、銅張基板Lにおいて、4GHzでの挿入損失が−0.350dB/in〜−0.371dB/inであり、所要な剥離強度も考慮すれば、4GHzでの挿入損失が−0.352dB/in〜−0.369dB/inであるのが好ましい。また、銅張基板Lにおいて、8GHzでの挿入損失が−0.601dB/in〜−0.635dB/inであり、所要な剥離強度も考慮すれば、8GHzでの挿入損失が−0.619dB/in〜−0.628dB/inであるのが好ましい。また、銅張基板Lにおいて、12.89GHzでの挿入損失が−0.885dB/in〜−0.956dB/inであり、剥離強度も考慮すれば、12.89GHzでの挿入損失が−0.919dB/in〜−0.922dB/inであるのが好ましい。更に、銅張基板Lにおいて、16GHzでの挿入損失が−1.065dB/in〜−1.105dB/inであり、剥離強度も考慮すれば、16GHzでの挿入損失が−1.083dB/in〜−1.099dB/inであるのが好ましい。このように、本発明のマイクロラフ処理された電解銅箔1によれば、周波数4GHz〜16GHzの間で信号の伝送損失を有効に低減できる。
【0051】
上述したように、本発明のマイクロラフ処理された電解銅箔1によれば、良好な剥離強度を維持すると共に、挿入損失を最適化し、信号損失を有効に抑制できる。
【0052】
上記開示内容は、本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明の特許請求の範囲を制限するものではないため、本発明の明細書及び図面の内容に等価的な技術的変形を加えて得られたものも、本発明の特許請求の範囲に含まれる。」

第5 甲号証の記載事項
1 甲第1号証の記載事項
(1)「[請求項1]
少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmである、粗化処理銅箔。
[請求項2]
前記Sa×Spdが280000〜500000μm/mm2である、請求項1に記載の粗化処理銅箔。
[請求項3]
前記算術平均うねりWaが0.033〜0.050μmである、請求項1又は2に記載の粗化処理銅箔。
[請求項4]
前記粗化処理銅箔が電解銅箔であり、前記粗化処理面が電解銅箔の電極面側に存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔。
[請求項5]
請求項1〜4のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔を備えた、銅張積層板。
[請求項6]
請求項1〜4のいずれか一項に記載の粗化処理銅箔を備えた、プリント配線板。」
(2)「技術分野
[0001]
本発明は粗化処理銅箔、銅張積層板及びプリント配線板に関するものである。」
(3)「[0003]
近年、配線パターンの直線性を向上すべく、表面粗さを低減した表面処理銅箔が提案されている。例えば、特許文献1(特開2008−285751号公報)には、絶縁樹脂基材と張り合わせる接着表面は、表面粗さ(Rzjis)が2.5μm以下で、且つ、2次元表面積が6550μm2の領域をレーザー法で測定したときの3次元表面積(A)μm2と当該2次元表面積との比[(A)/(6550)]の値である表面積比(B)が1.2〜2.5であることを特徴とする表面処理銅箔が開示されている。この特許文献1では、未処理の電解銅箔の析出面に対して粗化処理及び防錆処理が行われている。
[0004]
また、絶縁樹脂基材との密着性及び高周波特性の向上に対処した粗化処理銅箔も提案されている。例えば、特許文献2(国際公開第2015/033917号)には、電解銅箔の電極面側に粗化処理を施した表面処理銅箔であって、表面粗さRzが2.5〜4.0μmであり且つ[Rmax−Ra]が3.5μmである粗化処理表面を備えたものが開示されている。」
(4)「発明の概要
[0006]
ところで、最近、電子回路の小型軽量化及び高速伝送化に伴い、回路形成性により優れた(例えばライン/スペース=30μm/30μmの程度)粗化処理銅箔が求められている。かかる要求を満たすためには、粗化処理銅箔の粗化処理面における表面粗さを低くして、配線パターンの直線性(以下、回路直線性という)をさらに向上させることが考えられる。しかしながら、粗化処理面における表面粗さを単に小さくした場合、銅箔と樹脂基材との密着性が低下して、回路剥がれが生じやすくなる。このように、微細回路形成性(特に回路直線性)と、樹脂基材との密着性とを両立することは容易なことではない。
[0007]
本発明者らは、今般、粗化処理銅箔の粗化処理面に、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmであるという特有の表面プロファイルを付与することにより、銅張積層板の加工ないしプリント配線板の製造において、微細回路形成性(特に回路直線性)と、樹脂との密着性とを両立できるとの知見を得た。
[0008]
したがって、本発明の目的は、銅張積層板の加工ないしプリント配線板の製造において、微細回路形成性(特に回路直線性)と、樹脂との密着性とを両立可能な、粗化処理銅箔を提供することにある。」
(5)「[0013]
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
[0014]
本明細書において「算術平均高さSa」とは、ISO25178に準拠して測定される、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表すパラメータである。つまり、粗さ曲線の算術平均高さRaを面に拡張したパラメータに相当する。算術平均高さSaは、粗化処理面における所定の測定面積(例えば22500μm2の領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
[0015]
本明細書において「山の頂点密度Spd」とは、ISO25178に準拠して測定される、単位面積当たりの山頂点の数を表すパラメータである。この値が大きいと他の物体との接触点の数が多いことを示唆する。山の頂点密度Spdは、粗化処理面における所定の測定面積(例えば22500μm2の領域)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
[0016]
本明細書において「算術平均うねりWa」は、JIS B0601−2001に準拠して測定される、輪郭曲線としてのうねり曲線の基準長さにおける算術平均高さである。図2及び3に示されるように、うねり曲線は断面曲線にカットオフ値λf及びλcの輪郭曲線フィルタを順次かけることによって得られる輪郭曲線であり、粗さ曲線によって表される微細な凹凸ではなく、より大きなスケールの凹凸(すなわちうねり)を表すものである。
・・・
[0019]
粗化処理銅箔
本発明の銅箔は粗化処理銅箔である。この粗化処理銅箔は少なくとも一方の側に粗化処理面を有する。粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmである。このように、粗化処理銅箔の粗化処理面に、Sa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmであるという特有の表面プロファイルを付与することにより、銅張積層板の加工ないしプリント配線板の製造において、微細回路形成性(特に回路直線性)と、樹脂との密着性とを両立することが可能となる。前述したとおり、回路直線性と樹脂との密着性は、銅箔の表面プロファイルに対してトレードオフの関係にあるため、本来的に両立が難しいとの問題があったが、本発明の粗化処理銅箔によれば、良好な回路直線性と樹脂との高い密着性を予想外にも両立することができる。
[0020]
微細回路形成性(特に回路直線性)と、樹脂との密着性と両立を可能とするメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のようなものと考えられる。まず、粗化処理面の算術平均うねりWaを0.030〜0.060μmと低くしたことで、うねりという観点から評価して高い平滑性が実現されており、この高い平滑性が回路パターンの直線性に寄与するものと考えられる。その上、Sa×Spdが250000μm/mm2以上であることで、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの相乗効果により、上記のとおりうねりの観点から高い平滑性がありながらも、樹脂との密着性が有意に向上されるものと考えられる。すなわち、算術平均高さSaは粗化処理面における粗化粒子の樹脂への食い込みに寄与する一方、山の頂点密度Spdは粗化処理面における粗化粒子と樹脂との接点の確保に寄与する。したがって、Sa×Spdを上記所定値以上にすることで粗化粒子の樹脂への所望の食い込みを多くの接点数で確保できるといえ、うねりの観点から高い平滑性がありながらも樹脂との高い密着性を実現できるものと考えられる。」
(6)「[0033]
銅張積層板
本発明の粗化処理銅箔はプリント配線板用銅張積層板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記粗化処理銅箔を用いて得られた銅張積層板が提供される。この銅張積層板は、本発明の粗化処理銅箔と、この粗化処理銅箔の粗化処理面に密着して設けられる樹脂層とを備えてなる。粗化処理銅箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。樹脂層は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、1〜1000μmが好ましく、より好ましくは2〜400μmであり、さらに好ましくは3〜200μmである。樹脂層は複数の層で構成されていてよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め銅箔表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して粗化処理銅箔に設けられていてもよい。」
(7)「実施例
[0035]
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
[0036]
例1〜3
本発明の粗化処理銅箔の作製を以下のようにして行った。
[0037]
(1)電解銅箔の作製
銅電解液として以下に示される組成の硫酸酸性硫酸銅溶液を用い、陰極にチタン製の回転電極を用い、陽極にはDSA(寸法安定性陽極)を用いて、溶液温度45℃、電流密度55A/dm2で電解し、厚さ12μmの電解銅箔を得た。このとき、回転陰極として、表面を#1200(例1)、#2000(例2)又は#1500(例3)のホイールバフで研磨して表面粗さを調整した電極を用いた。この電解銅箔の電極面の算術平均うねりWaを後述する手法にて測定したところ、表2に示される値が得られた。
<硫酸酸性硫酸銅溶液の組成>
‐ 銅濃度:80g/L
‐ 硫酸濃度:260g/L
‐ ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド濃度:30mg/L
‐ ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体濃度:50mg/L
‐ 塩素濃度:40mg/L
[0038]
(2)粗化処理
上述の電解銅箔が備える電極面及び析出面の内、電極面側に対して、以下に示される3段階のプロセスで粗化処理を行った。すなわち、以下に示される第一粗化工程、第二粗化工程及び第三粗化工程をこの順に行った。
‐ 第一粗化工程は、表1Aに示される組成の粗化処理用銅電解溶液(銅濃度:10.5〜10.8g/L、硫酸濃度:230〜240g/L)中、表1Aに示される条件にて電解し、水洗することにより行った。
‐ 第二粗化工程は、第一粗化工程と同じ組成の粗化処理用銅電解溶液中、表1Aに示される条件にて電解し、水洗することにより行った。
‐ 第三粗化工程は、粗化処理用銅電解溶液(銅濃度:70g/L、硫酸濃度:240g/L)中、表1Bに示される条件にて電解し、水洗することにより行った。
[0039]
(3)防錆処理
粗化処理後の電解銅箔の両面に、無機防錆処理及びクロメート処理からなる防錆処理を行った。まず、無機防錆処理として、ピロリン酸浴を用い、ピロリン酸カリウム濃度80g/L、亜鉛濃度0.2g/L、ニッケル濃度2g/L、液温40℃、電流密度0.5A/dm2で亜鉛−ニッケル合金防錆処理を行った。次いで、クロメート処理として、亜鉛−ニッケル合金防錆処理の上に、更にクロメート層を形成した。このクロメート処理は、クロム酸濃度が1g/L、pH11、溶液温度25℃、電流密度1A/dm2で行った。
[0040]
(4)シランカップリング剤処理
上記防錆処理が施された銅箔を水洗し、その後直ちにシランカップリング剤処理を行い、粗化処理面の防錆処理層上にシランカップリング剤を吸着させた。このシランカップリング剤処理は、純水を溶媒とし、3−アミノプロピルトリメトキシシラン濃度が3g/Lの溶液を用い、この溶液をシャワーリングにて粗化処理面に吹き付けて吸着処理することにより行った。シランカップリング剤の吸着後、最終的に電熱器により水分を蒸発させ、厚さ18μmの粗化処理銅箔を得た。
[0041]
例4(比較)
表1A及び1Bに示されるとおり、回転陰極の研磨に用いたバフの番手を#600としたこと以外は、例1と同様にして、粗化処理銅箔の作製を行った。
[0042]
例5(比較)
i)電解銅箔の析出面側(すなわち電極面側と反対側)に粗化処理等の処理を行ったこと、及びii)粗化処理を表1A及び1Bに示される条件に従って行ったこと以外は例1と同様にして、粗化処理銅箔の作製を行った。なお、本例においては電解銅箔の析出面側に粗化処理等を行ったため、粗化処理銅箔の粗化処理面は回転陰極の研磨に用いたバフの番手の影響を基本的に受けないため、表1A及び2においてバフの番手の記載を省略した。」
(8)「[0050]
<剥離強度>
厚さ50μmのプリプレグ(EM355(D)、ELITE MATERIAL CO., LTD製)2枚を重ねて厚さ100μmの樹脂基材を得た。この樹脂基材に粗化処理銅箔をその粗化処理面が樹脂基材と当接するように積層し、圧力4.0MPa及び温度185℃で60分間の熱間プレス成形を行って銅張積層板サンプルを作製した。この銅張積層板サンプルに対して、JIS C 6481−1996に準拠して、樹脂基材面に対して90°方向に剥離して常態剥離強度(kgf/cm)を測定した。」
(9)「[0054]
[表2]



2 甲第2号証の記載事項
(1)「【請求項1】
プリント配線板用の表面処理銅箔であって、
絶縁樹脂基材と張り合わせる接着表面は、表面粗さ(Rzjis)が2.5μm以下で、且つ、2次元表面積が6550μm2の領域をレーザー法で測定したときの3次元表面積(A)μm2と当該2次元表面積との比[(A)/(6550)]の値である表面積比(B)が1.2〜2.5であることを特徴とする表面処理銅箔。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本件発明は、表面処理銅箔及びその表面処理銅箔を用いて得られる銅張積層板並びに、その銅張積層板を用いて得られるプリント配線板に関する。」
(3)「【0022】
上記表面粗さ(Rzjis)とは、JIS規格に定める10点平均粗さであり、本件発明に係る表面処理銅箔は、絶縁樹脂基材との接着表面が2.5μm以下の表面粗さ(Rzjis)を備える。平滑な未処理銅箔の表面に、粗化処理粒子を電解法で付着形成する粗化処理であっても、表面粗さ(Rzjis)の値が2.5μm以下であれば、電流が極端に集中して粗化処理粒子が形成された部分は少なく、粗化処理粒子同士が重なり合うように析出した部分も少ない。即ち、付着形成された粗化処理粒子の形状にはバラツキが少ない。そして、より安定した引き剥がし強さ、耐薬品性、耐吸湿性を保証するためには、当該表面粗さ(Rzjis)が、1.5μm〜2.4μmの接着表面とすることがより好ましい。
・・・
【0028】
本件発明に係る表面処理銅箔においては、前記絶縁樹脂基材と張り合わせる接着表面は、未処理銅箔の粗化処理前の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満の表面を粗化処理した接着表面であり、粗化処理前に2次元表面積が6550μm2の領域をレーザー法で測定した3次元表面積を(a)μm2としたとき、粗化処理後に2次元表面積が6550μm2の領域をレーザー法で測定した前記3次元表面積の値(A)と値(a)との比[(A)/(a)]の値が1.15〜2.50である。
【0029】
上述のように、本件発明では、粗化処理は未処理銅箔が備える表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満の表面に施す。この粗化処理粒子を付着形成する面は、表面粗さ(Rzjis)が1μm未満であれば、析出面であっても、光沢面であっても良く、また、析出面を機械加工又は化学研磨して表面粗さを整えた面であっても構わない。表面粗さ(Rzjis)を1.0μm未満としたのは、電解反応における電流が未処理銅箔表面が備える異常突起や凸部等へ集中し、粗化処理粒子が肥大化したり、局部的に付着形成することの防止を第1の目的としている。
【0030】
一般的な用途に用いられる表面処理銅箔では、電解銅箔の析出面に粗化処理を施しており、この析出面は山形の円錐形状に析出した形態を示し、粗化処理前でも表面粗さ(Rzjis)は2μm以上を示すのが通常である。この様な銅箔表面に粗化処理を施すと、円錐形状の頂点に肥大化した粗化処理粒子が付着形成され、円錐形状の底辺部分や稜線部分には、粗化処理粒子は形成され難い。この様な、表面粗さ(Rzjis)が1.0μmを超えると、粗化処理粒子は未処理銅箔の表面が備える異常突起や凸部等へ集中して形成されることになる。この上限を超える未処理銅箔の表面を走査型電子顕微鏡で観察すると、うねりや凹凸形状を備える表面状態が観察されることが多い。」
(4)「【0057】
接着表面の表面粗さ(Rzjis): 試料1−1〜試料1−5の接着表面の表面粗さ(Rzjis)は、未処理銅箔の析出面と同様にして測定した。その結果、10箇所の測定結果の平均値は1.5μm〜2.3μmであり、CV値(CV1)は0.031〜0.041であった。」
(5)「【0071】
【表2】



3 甲第3号証の記載事項
(1)「

」(第10ページ「微細配線用銅箔 微細配線ロードマップと適用銅箔」)
(2)「

」(第10ページ「微細配線用銅箔 代表特性一覧」)

4 甲第4号証の記載事項
(1)「【請求項1】
銅箔と、
前記銅箔の少なくとも一方の面に粗化処理層を含む表面処理層を有し、
前記表面処理層はNiを含み、前記表面処理層におけるNiの含有比率が8質量%以下(0質量%は除く)であり、
前記表面処理層の最表面の十点平均粗さRzが1.4μm以下である表面処理銅箔。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔、キャリア付銅箔、積層体、プリント配線板の製造方法及び電子機器の製造方法に関する。」
(3)「【0037】
本発明の表面処理銅箔は、表面処理層の合計付着量が1.0g/m2以上であるのが好ましい。当該表面処理層の合計付着量は、表面処理層を構成する元素の付着量の合計量である。当該表面処理層を構成する元素としては、例えば、Cu、Ni、Co、Cr、Zn、W、As、Mo、P、Fe等が挙げられる。表面処理層の合計付着量が1.0g/m2以上とすることで、表面処理銅箔と樹脂との密着性を向上させることができる場合がある。前述の表面処理層の合計付着量が5.0g/m2以下であるのが好ましい。表面処理層の合計付着量が5.0g/m2以下とすることで、高周波伝送特性をより向上させることができる場合がある。表面処理銅箔と樹脂との密着性の観点からは、当該表面処理層の合計付着量は、1.05g/m2以上であるのが好ましく、1.1g/m2以上であるのが好ましく、1.15g/m2以上であるのが好ましく、1.2g/m2以上であるのが好ましく、1.25g/m2以上であるのが好ましく、1.3g/m2以上であるのが好ましく、1.35g/m2以上であるのが好ましく、1.4g/m2以上であるのが好ましく、1.5g/m2以上であるのが好ましい。また、表面処理銅箔の高周波伝送特性の観点からは、当該表面処理層の合計付着量は、4.8g/m2以下であるのが好ましく、4.6g/m2以下であるのが好ましく、4.5g/m2以下であるのが好ましく、4.4g/m2以下であるのが好ましく、4.3g/m2以下であるのが好ましく、4.0g/m2以下であるのが好ましく、3.5g/m2以下であるのが好ましく、3.0g/m2以下であるのが好ましく、2.5g/m2以下であるのが好ましく、2.0g/m2以下であるのが好ましく、1.9g/m2以下であるのが好ましく、1.8g/m2以下であるのが好ましく、1.7g/m2以下であるのが好ましく、1.65g/m2以下であるのが好ましく、1.60g/m2以下であるのが好ましく、1.55g/m2以下であるのが好ましく、1.50g/m2以下であるのが好ましく、1.45g/m2以下であるのが好ましく、1.43μg/dm2以下であるのが更により好ましく、1.4g/m2以下であるのが更により好ましい。
・・・
【0040】
本発明の表面処理銅箔は、表面処理層の最表面の十点平均粗さRzが1.4μm以下である。表面処理層の最表面の十点平均粗さRzが1.4μmを超えると、高周波伝送特性が悪化するという問題が生じるおそれがある。表面処理層の最表面の十点平均粗さRzは、より好ましくは1.3μm以下、より好ましくは1.2μm以下、更により好ましくは1.1μm以下、更により好ましくは1.0μm以下、更により好ましくは0.9μm以下、更により好ましくは0.8μm以下である。「表面処理層の最表面」とは、表面処理により形成された複数の層により表面処理層が形成されている場合には、当該複数の層の一番外側(最表面)の層の表面を意味する。そして、当該複数の層の一番外側(最表面)の層の表面について十点平均粗さRzを測定する。表面処理層の最表面の十点平均粗さRzの下限は特に限定をする必要はないが、典型的には例えば0.01μm以上、例えば0.05μm以上、例えば0.1μm以上である。」
(4)「【0123】
【表2】


(5)「【0126】
(評価結果)
実施例1〜15は、いずれも伝送損失が良好に抑制され、且つ、耐酸性が良好であった。
比較例1、4、5は、表面処理層におけるNiの含有比率が0質量%であり、また、表面処理層の最表面の十点平均粗さRzが1.4μmを超えており、電送損失が大きく、且つ、耐酸性が不良であった。
比較例2は、表面処理層におけるNiの含有比率が8質量%を超えており、電送損失が大きかった。
比較例3は、表面処理層におけるNiの含有比率が0質量%であり、耐酸性が不良であった。」

5 甲第5号証の記載事項
(1)「[請求項1]
少なくとも一方の側に粗化粒子を備えた粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、前記粗化処理面が0.6〜1.7μmの十点平均粗さRzjisを有し、かつ、前記粗化粒子の高さの頻度分布における半値幅が0.9μm以下である、粗化処理銅箔。」
(2)「技術分野
[0001]
本発明は粗化処理銅箔及びプリント配線板に関するものであり、より具体的には、高周波用途向けプリント配線板及びそれに好適な粗化処理銅箔に関する。」
(3)「[0012]
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
[0013]
本明細書において「十点平均粗さRzjis」は、JIS B0601−2001に準拠して測定される表面粗さであり、粗さ曲線で最高の山頂から高い順に5番目までの山高さの平均と、最深の谷底から深い順に5番目までの平均の和である。」
(4)「[0017]
粗化処理銅箔
本発明の銅箔は粗化処理銅箔である。この粗化処理銅箔は少なくとも一方の側に粗化粒子を備えた粗化処理面を有する。粗化処理面は0.6〜1.7μmの十点平均粗さRzjisを有し、かつ、粗化粒子の高さの頻度分布における半値幅が0.9μm以下である。このように、0.6〜1.7μmの十点平均粗さRzjisを有し、かつ、粗化粒子の高さの頻度分布における半値幅が0.9μm以下である粗化処理面を銅箔に付与することで、高周波用途における伝送損失が良好でありながら、液晶ポリマーフィルムのような化学密着が期待できない絶縁樹脂基材に対しても高い剥離強度(例えば厚さ18μmの銅箔で1.2kgf/cm以上)を呈することが可能となる。前述したとおり、伝送損失と剥離強度は、銅箔の表面プロファイルに対してトレードオフの関係にあるため、本来的に両立が難しいとの問題があったが、本発明の粗化処理銅箔によれば、良好な伝送損失と高い剥離強度を予想外にも両立することができる。
・・・
[0019]
粗化処理面の十点平均粗さRzjis(JIS B0601−2001に準拠して測定される)は、0.6〜1.7μmであり、好ましくは0.7〜1.6μmであり、より好ましくは0.9〜1.5μmである。これらの範囲内のRzjisであると、高周波用途における伝送損失を望ましく低減できるとともに、絶縁樹脂基材に対する密着性確保にも寄与する。」
(5)「[0061]
結果
例1〜8において得られた評価結果は表2に示されるとおりであった。
[0062]
[表2]



6 甲第6号証の記載事項
(1)「【請求項1】
母材銅箔(未処理銅箔)の少なくとも片面に、前記母材銅箔の表面粗さRzに対してRzが0.05〜0.3μm増加する粗化処理が施されて、粗化処理後の表面粗さRzが1.1μm以下である粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、前記粗化処理面は幅が0.3〜0.8μm、高さが0.4〜1.8μmで、アスペクト比[高さ/幅]が1.2〜3.5で、先端が尖った凸部形状の粗化粒子で形成されている粗化処理銅箔。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、特に多層プリント配線板やフレキシブルプリント配線板等に用いる粗化処理銅箔に関し、ファインパターンでの回路形成性や高周波域における伝送特性に優れ、かつ樹脂基材との密着性に優れる粗化処理銅箔とその製造方法に関するものである。」
(3)「【0025】
本発明では、母材銅箔(未処理銅箔)の表面に先ず母材銅箔の表面粗さRzが0.05〜0.30μm増加する粗化処理を銅又は銅合金で施す。このとき、粗化処理後の表面粗さRzは1.1μm以下とする。
なお、上記銅又は銅合金で施す粗化処理では、表面粗さRaを0.02〜0.05μm増加する範囲で行い、粗化処理後のRaを0.35μm以下とすることが好ましい。
粗化処理後の表面粗さRzが上記下限値に満たない処理であると、樹脂基材との密着性がやや低くなり、Rzが上記上限値を超えると表面が粗くなり、後述する回路形成性や伝送特性が低下する。
また、粗化処理後の表面粗さRzを1.1μmよりも粗くしないことで、樹脂基材との密着性を損なうことなく、ファインパターンでの回路形成性や高周波帯域での伝送特性に優れた粗化処理銅箔とすることができる。
なお、表面粗さRa、RzはJIS−B−0601の規定に準じて測定される値である。
【0026】
本発明では銅箔の粗化面は、粗化を形成する凸状の大きさが、幅0.3〜0.8μm、高さ0.4〜1.8μmの先端が尖っている形状とする。このような形状とすることで絶縁樹脂と張付ける際に樹脂基材に粗化処理した凹凸が食い込み易く(アンカー効果)、良好な密着性を得ることができる。なお、凸状の大きさにおける幅は箔表面の付け根部分の長さであり、高さは箔表面から頂きまでの長さである。
また、本発明では、粗化処理面における凸部形状のアスペクト比[高さ/幅]を1.2〜3.5とする。アスペクト比[高さ/幅]を1.2〜3.5とする理由は1.2未満では絶縁樹脂との密着性が十分でなく、アスペクト比が3.5より大きいと、粗化した凸部分が銅箔より欠落する可能性が高くなり好ましくないからである。」
(4)「【0061】
【表1】

表1に示す判断基準は各評価において、◎:良好、○:基準内、×:基準外である。
各評価項目における判断基準は以下のとおりである。
初期密着性(kN/m)
◎:1.0以上、○:0.8以上、1.0未満、×:0.8未満
耐熱性[耐熱性試験後密着性(kN/m)]
◎:0.9以上、○:0.72以上0.9未満、×:0.72未満
耐薬品性[耐薬品試験後密着性(kN/m)]
◎:1.0以上、○:0.8以上1.0未満、×:0.8未満
回路形成性[回路配線端部の残銅の測定(μm)]
◎:1.0未満、○:1.0以上3.0未満、×:3.0以上
伝送特性[周波数5GHzでの伝送損失(dB/100mm)]
◎:15未満、○:15以上25未満、×:25以上
ソフトエッチング性[ソフトエッチング液への溶解量(μm)]
◎:1.4以上、○:1.0以上1.4未満、×:1.0未満」

7 甲第7号証の記載事項
(1)「【請求項1】
未処理銅箔の少なくとも片面に粗化粒子を付着させて粗化した粗化処理面の表面粗さRzが0.6〜2.0μm、明度値が35以下であることを特徴とする表面処理銅箔。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さを抑えながら絶縁基板との密着性を維持し、高周波特性、ファインパターン化に適する表面処理銅箔に関するものであり、更に、該表面処理銅箔を用いた回路基板に関するものである。」
(3)「【0009】
しかし、エポキシ樹脂、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂のうち、特に液晶ポリマーは銅箔との接着強度(ピール強度)がだし難い樹脂として知られている。一般的に、これらの樹脂等と銅箔とのピール強度は銅箔の表面粗さRz(ここで表面粗さRzは、JISB 0601−1994「表面粗さの定義と表示」の5.1十点平均粗さの定義に規定されたRzを言う。)に大きく影響される。銅箔の表面粗さを考える場合は、未処理銅箔の表面粗さRzと、銅箔表面を粗化処理した表面粗化銅箔のRzが挙げられる。従来より平滑な未処理銅箔において、特にピール強度がだし難い樹脂に対するピール強度を高める場合には、粗化処理時に流す電流を大きくし、粗化処理時の粒伏銅の付着量を多くし表面粗さRzを増やして対処する方法が行なわれてきている。確かにこの方法は、ピール強度を上げるための目的には適しているが、高周波特性を考慮した用途においては表皮効果の関係上、表面粗さRzが大きく、或いは粗化粒子の量が多くなることは好ましいことではない。」
(4)「【0025】
未処理銅箔表面の粗化処理は、未処理銅箔の表面に粗化粒子を付着させ、その表面粗さがRz:0.6〜2.0μmの粗化面とする。
未処理銅箔の表面に粗化粒子を付着させた表面の粗さRzが0.6μm未満では、ピール強度が低いため本発明の目的を果たす表面処理銅箔としては満足でなく、また、Rzが2.0μmより大きいと、高周波特性が低下するうえにファインパターン化に不向きとなる。
また、本発明において、未処理銅箔上に付着させる銅もしくは銅合金の付着量は、1mg/dm2〜160mg/dm2が好ましい。付着量が1mg/dm2未満ではピール強度が低いため本発明の目的を果たす表面処理銅箔としては満足でなく、また160mg/dm2より大きいと、高周波特性が低下するうえにファインパターン化に不向きとなるためである。
【0026】
本発明において、未処理銅箔の表面を粗化処理した表面粗化銅箔は、明度値が35以下である。本発明において明度とは、表面の粗さを見る指標として使用されている明度であり、測定方法としては、測定サンプル表面に光をあて光の反射量を測定し明度値として表す方法で測定する。この方法により表面処理銅箔における処理面の明度を測定すると、表面粗さのRzが大きいかまたは粗化粒子間の深さが深い時は、光の反射量が少なくなるため明度値が低くなり、平滑だと光の反射量が大きくなり明度値が高くなる傾向がある。絶縁基板、特に液晶ポリマーフィルムとのピール強度を向上させるためには明度値を35以下とする必要がある。即ち、明度値が35以上では、粗化面のRzを大きくしても表面に形成される粗化粒子の表面凹凸がなだらかな凹凸となるため表面処理銅箔と絶縁基板(特に、液晶ポリマーフィルム)との食いつきが悪く、ピール強度が向上しないためである。
なお、明度値の測定は、被測定銅箔に
Ni: 0.01〜0.5mg/dm2
Zn: 0.01〜0.5mg/dm2
Cr: 0.01〜0.3mg/dm2
の範囲内の防錆処理を施した後、明度計(スガ試験機株式会社 機種名:SMカラーコンピューター:型番SM−4)を使用して明度を測定した。
【0027】
以上のような表面粗さ(Rz)および明度値を兼ね備えた本発明の表面処理銅箔は、特に接着性に難点のある液晶ポリマーフィルムに対し、後記する実施例・比較例から明らかなように、優れたピール強度およびファインパターン特性を有する。
本発明においては、上記したように、未処理銅箔の表面を粗化処理したものであるが、さらに優れたピール強度およびファインパターン特性を得るために粗化粒子で形成される突起物を略均等に存在(分布)させることが好ましい。また、前記突起物の高さは、0.3μm乃至3.0μmのものがよい。突起物の高さが、0.3μm以下では、高さが低いためピール強度を上げる効果が得られず、3.0μm以上では、高周波特性が低下するうえにファインパターン化に不向きとなるためである。なお、ここでいう高さとは、未処理銅箔の表面と突起物の頂点との距離をいう。」
(5)「【0054】
【表1】

【0055】
【表2】



第6 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、「少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理銅箔であって、前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmである、粗化処理銅箔。」に関する発明が記載されている(上記第5の1(1)の請求項1)。
イ また、上記第5の1(1)の請求項4、5には、上記アにおける粗化処理銅箔が電解銅箔であること、前記粗化処理銅箔を備えた銅張積層板も記載されている。
ウ さらに、上記第5の1(7)の段落[0041]、(9)の表2には、例4として、電解銅箔に粗化処理等を行って、粗化処理面の、上記アの算術平均うねりWaを0.090(μm)、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積を329593μm/mm2とすることも記載されている。
エ また、前記粗化処理銅箔を備えた銅張積層板は、粗化処理銅箔の粗化処理面が樹脂基材と当接するように積層され、次いで圧着される(上記第5の1(8)の段落[0050])。
オ そうすると、甲第1号証には、以下の4つの発明(以下、「甲1A発明」〜「甲1D発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1A発明>
少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理電解銅箔であって、前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが329593μm/mm2であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.090μmである、粗化処理電解銅箔。

<甲1B発明>
少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理電解銅箔であって、前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmである、粗化処理電解銅箔。

<甲1C発明>
樹脂基材と、前記樹脂基材に粗化処理電解銅箔の粗化処理面が当接するように積層され、次いで圧着された銅張積層板であって、
前記粗化処理電解銅箔の前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが329593μm/mm2であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.090μmである、銅張積層板。

<甲1D発明>
樹脂基材と、前記樹脂基材に粗化処理電解銅箔の粗化処理面が当接するように積層され、次いで圧着された銅張積層板であって、
前記粗化処理電解銅箔の前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが250000μm/mm2以上であり、かつ、JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μmである、銅張積層板。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1A発明との対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1の「マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有する」との記載は、下記3(2)で検討するとおり、「マイクロラフな表面」自体が、「複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造」を有すると解される。
b また、甲1A発明の「粗化処理面」には、粗化処理によって複数の凹凸が生じており、その凸部は概略山形状であるといえ、凹部は凸部に対して凹みといえるし、後述する粗化処理面のSa×SpdやWaがマイクロメートルオーダーで記載され、「粗さ」は英訳すると「rough (ラフ)」であるから、甲1A発明の「少なくとも一方の側に粗化処理面を有する粗化処理電解銅箔」は、本件発明1の「マイクロラフな表面を有し、且つ前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔」に相当する。
c 甲1A発明の「ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが329593μm/mm2」は、本件発明1の「国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートル」に相当する。
d 甲1A発明の「JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.090μm」は、本件発明1の「日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」に相当する。
e そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、以下の一致点1−1において一致するとともに、以下の相違点1A−1において相違する。

<一致点1−1>
「マイクロラフな表面を有し、且つ前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔であって、
国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり、且つ日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下である電解銅箔。」である点。

<相違点1A−1>
本件発明1では、「日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定された、前記マイクロラフな表面の表面粗さ(Rz)が2.3μm以下」であるのに対し、甲1A発明では、粗化処理面の表面粗さ(Rz)が不明である点。

(イ)判断
a 相違点1A−1について
(a)甲第1号証に記載されているように、従来から、プリント配線板の配線パターンの直線性を向上するべく、表面粗さ(Rz)を低減した表面処理銅箔が提案されているが、電子回路の小型軽量化及び高速伝送化に伴い、回路形成性により優れた粗化処理銅箔が求められていた。かかる要求を満たすためには、粗化処理銅箔の粗化処理面における表面粗さを低くして、配線パターンの直線性をさらに向上させることが考えられるが、粗化処理面における表面粗さ(Rz)を単に小さくした場合、銅箔と樹脂基材との密着性が低下して、回路剥がれが生じやすくなるという問題があった(上記第5の1(3)、(4))。
甲第1号証に記載される技術は、上記の問題を解決するために、配線パターンの直線性(回路直線性)と密着性とを両立するべく、新たなパラメータとして、(Sa×Spd)とWaを選択したものであるから、甲1A発明において、改めてRzをパラメータとして用いることが動機付けられるとはいえない。
(b)仮に、動機付けられるとしても、上記(a)のとおり、Rzを単に小さくした場合、銅箔と樹脂基材との密着性が低下して、回路剥がれが生じやすくなるおそれがあるから、甲1A発明においてRzを2.3μm以下と小さくすることは、阻害されており、積極的に動機付けられるということはできない。
(c)さらに、甲1A発明における、Sa、Spd及びWaは、いずれも表面粗さに関するパラメータであるから、甲1A発明において、Rzを2.3μm以下と小さくした場合に、Sa、Spd及びWaと無関係に独立してRzを2.3μm以下と小さくし得るのか、すなわち、Sa、Spd及びWaを変化させずにRzを2.3μm以下と小さくし得るのか不明である。
(d)また、甲第2号証には、表面粗さ(Rzjis)を2.5μm以下とすること(上記第5の2(1)の請求項1)が、甲第3号証には、表面粗さ(Rz)のを2.3μm、1.8μmとする例(上記第5の3(3)の「微細配線用銅箔 代表特性一覧」)が、それぞれ記載されているものの、これらの記載があることのみでは、甲1A発明において、Rzを2.3μm以下とすることの動機付けとはなり得ない。
さらに、甲第4号証〜甲第7号証には、表面粗さ(Rz、Rzjis)と密着性との関連性が記載されているものの(上記第5の4(3)の段落【0037】、第5の5(4)の段落[0017]、第5の6(3)の段落【0026】、第5の7(4)の段落【0027】)、それぞれの請求項1に記載されているように、密着性は、表面粗さと他の技術的事項を組み合わせて達成されるものであるから、甲1A発明において、Rzを2.3μm以下とすることで、配線パターンの直線性(回路直線性)と密着性とが両立できるかは不明である。
(e)したがって、甲1A発明において、表面粗さ(Rz)を2.3μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書の第22〜23ページ<相違点2>において、甲第1号証の従来技術にRzが記載されているから、甲第1号証において表面粗さRzに注目している旨の主張をしている。
しかしながら、甲1A発明は、甲第1号証においては、算術平均うねりWaが0.030〜0.060μである発明(甲1B発明参照。)に対する、Waが0.090μmの比較例であって、当該Waが本件発明とたまたま一致しているに過ぎないから、当該事情を離れて、甲1A発明に甲第1号証の他の記載を参酌することはできない。
b また、申立人は、甲第3号証にRzのデータとして、2.3μmまたは1.8μmなどの値が記載されているから(上記第5の3(3)の「微細配線用銅箔 代表特性一覧」)、Rzを2.3μm以下に設定することは、当業者が通常行い得る技術的事項にすぎないと主張している。
しかしながら、上記(イ)aのとおり、甲1A発明において、表面粗さ(Rz)を2.3μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
c さらに、申立人は、甲第4号証〜甲第7号証(以下、単に「甲4」〜「甲7」ともいう。)には、「Rzを低くすると伝送特性(挿入損失)が向上する内容が記載されていることから、Rzを低くする考えは、周知の技術的事項であって、Rzを2.3μm以下にすることに、特段の工夫もなく、当業者が適宜採用し得る設計的事項である」と主張し、また、「本件特許明細書の【0044】の【表2】には、Rzの値は記載されていないが、・・・【表2】のデータを見ると、「Saが小さいほど挿入損失が小さく」なっており、このことは、「挿入損失を小さくするには、Saを小さくすること」であると理解できる。これはすなわち、前述した甲4ないし甲7で記載されている「Rzを低くすると挿入損失が向上する」ことと同義である。つまり、本件特許発明は、単純に粗化粒子を小さくして表面粗さを下げて挿入損失を良くしただけであり、従来技術の範疇であって、進歩性を有さない。」と主張している。
しかしながら、上記(イ)a(b)のとおり、Rzを単に小さくした場合、銅箔と樹脂基材との密着性が低下して、回路剥がれが生じやすくなるおそれがあるから、甲1A発明においてRzを2.3μm以下と小さくすることは、阻害されている。
d したがって、申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明1と甲1B発明との対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1と甲1B発明とを対比すると、本件発明1と甲1A発明との対比に係る上記ア(ア)a〜cと同様であることから、両者は、以下の一致点1−2において一致するとともに、以下の相違点1B−1、1B−2において相違する。

<一致点1−2>
「マイクロラフな表面を有し、且つ前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔であって、
国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルである電解銅箔。」である点。

<相違点1B−1>
本件発明1では、「日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定された、前記マイクロラフな表面の表面粗さ(Rz)が2.3μm以下」であるのに対し、甲1B発明では、粗化処理面の表面粗さ(Rz)が不明である点。
<相違点1B−2>
本件発明1では、「日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」であるのに対し、甲1B発明では、「JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μm」である点。

(イ)判断
a 相違点1B−1について
相違点1B−1についての判断は、上記ア(イ)aの相違点1A−1についての判断と同様である。
したがって、甲1B発明において、表面粗さ(Rz)を2.3μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
b 相違点1B−2について
甲第1号証では、算術平均うねりWaを0.030〜0.060μmとすることで、微細回路形成性(回路直線性)という課題を解決しているから(上記第5の1(4)の段落[0007]、(5)の段落[0020])、甲1B発明において、算術平均うねりWaを「0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」とすることが動機付けられるとはいえない。
また、甲第2号証の段落【0030】(上記第5の2(3))には、粗化処理前の表面粗さ(Rzjis)が1.0μmを超える(甲第2号証の請求項2の範囲外)とうねりが生じる旨が記載されているが、粗化処理後のうねりの値は記載されていなし、甲第3号証〜甲第7号証には、うねりに関する記載自体がないから、甲1B発明に、甲第2号証〜甲第7号証に記載される事項を適用しても、相違点1B−2に係る本件発明1の発明特定事項には想到し得ない。
したがって、甲1B発明において、算術平均うねりWaを「0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の記載を引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2〜4についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明5について
ア 本件発明5と甲1C発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲1C発明における「樹脂基材」及び「銅張積層板」は、本件発明5の「基板」及び「銅張基板」に相当する。
b 甲1C発明において、樹脂基材は、その一方の面に電解銅箔の粗化処理面が圧着されており、また、上記(2)ア(ア)bの対比を踏まえると、甲1C発明における「粗化処理面」は、本件発明5の「マイクロラフな表面」に相当するから、甲1C発明における「樹脂基材と、前記樹脂基材に粗化処理電解銅箔の粗化処理面が当接するように積層され、次いで圧着された銅張積層板」は、本件発明5の「基板と、前記基板の一方の表面に貼り付けられるためのマイクロラフな表面を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔を備える銅張基板」に相当する。
c 上記(2)ア(ア)a〜cの対比を踏まえると、甲1C発明における「粗化処理電解銅箔の前記粗化処理面は、ISO25178に準拠して測定される算術平均高さSa(μm)と山の頂点密度Spd(個/mm2)の積であるSa×Spdが329593μm/mm2」は、本件発明5の「マイクロラフ処理された電解銅箔における、前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有しており、国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートル」に相当する。
d 甲1C発明の「JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.090μm」は、本件発明5の「日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」に相当する。
e そうすると、本件発明5と甲1C発明とは、以下の一致点5−1において一致するとともに、以下の相違点1C−1において相違する。

<一致点5−1>
「基板と、前記基板の一方の表面に貼り付けられるためのマイクロラフな表面を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔を備える銅張基板であって、
前記マイクロラフ処理された電解銅箔における、前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有しており、国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり、且つ日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下である、銅張基板。」である点。

<相違点1C−1>
本件発明5では、「日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定された、前記マイクロラフな表面の表面粗さ(Rz)が2.3μm以下」であるのに対し、甲1C発明では、粗化処理面の表面粗さ(Rz)が不明である点。

(イ)判断
a 相違点1C−1について
相違点1C−1についての判断は、上記(2)ア(イ)の相違点1A−1についての判断と同様である。
したがって、甲1C発明において、表面粗さ(Rz)を2.3μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

イ 本件発明5と甲1D発明との対比・判断
(ア)対比
a 本件発明5と甲1D発明とを対比すると、本件発明5と甲1C発明との対比に係る上記ア(ア)a〜cと同様であることから、両者は、以下の一致点5−2において一致するとともに、以下の相違点1D−1、1D−2において相違する。

<一致点5−2>
「基板と、前記基板の一方の表面に貼り付けられるためのマイクロラフな表面を有する、マイクロラフ処理された電解銅箔を備える銅張基板であって、
前記マイクロラフ処理された電解銅箔における、前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有しており、国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルである、銅張基板。」である点。

<相違点1D−1>
本件発明5では、「日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定された、前記マイクロラフな表面の表面粗さ(Rz)が2.3μm以下」であるのに対し、甲1D発明では、粗化処理面の表面粗さ(Rz)が不明である点。
<相違点1D−2>
本件発明5では、「日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」であるのに対し、甲1D発明では、「JIS B0601−2001に準拠して測定される算術平均うねりWaが0.030〜0.060μm」である点。

(イ)判断
a 相違点1D−1について
相違点1D−1についての判断は、上記ア(イ)の相違点1C−1についての判断と同様である。
したがって、甲1D発明において、表面粗さ(Rz)を2.3μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
b 相違点1D−2について
相違点1D−2についての判断は、上記(2)イ(イ)の相違点1B−2についての判断と同様である。
したがって、甲1D発明において、算術平均うねりWaを「0.06μmを超過し且つ1.5μm以下」とすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明6〜18について
本件発明6〜18は、本件発明5の記載を引用するものであるが、上記(4)で述べたとおり、本件発明5が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明6〜18についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)申立理由1のまとめ
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件)
(1)申立人は、本件発明1及び本件発明5の「表面粗さRz」については、本件明細書の段落【0017】にのみ簡単な記載があるものの、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲とはいえず、また、実施例等に具体的な数値の記載や説明はなく、Rzの臨界的意義も不明である旨の主張をしている(特許異議申立書の第27ページ(4−2))。
(2)上記主張について検討する。
ア 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0002】、【0003】の記載を踏まえると、剥離強度を維持した上で良好な挿入損失を有する銅箔基板を提供するために、マイクロラフ処理された電解銅箔と、このマイクロラフ処理された電解銅箔を用いた銅張基板を提供することであると認められる。
イ ここで、本件明細書には、以下の記載がある。
「マイクロラフな表面の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)、そして算術平均うねり(Wa)を特定の範囲に制御することにより、信号の伝送損失を有効に低減するとともに、銅箔と基材の間の接合力の低減を抑止することができ、銅箔と基材の接合力の維持と、信号の伝送損失の低減を両立させることができる。」(段落【0010】)
「マイクロラフな表面10について、国際規格であるISO25178に準拠して測定された、山形状構造11の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり・・・、更に、日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、山形状構造11の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下であ・・・る。これによって、本発明のマイクロラフ処理された電解銅箔1により良好な電気性能、例えば最適化された挿入損失・・・を達成することができる。この他、マイクロラフな表面10の表面粗さ(Rz)が2.3ミクロンメートル以下であり、この表面粗さ(Rz)は日本工業規格であるJIS 94に準拠して測定されたものであり、線幅・線間の微縮小に寄与する。」(段落【0017】)
また、段落【0036】には、電解粗化処理後の表面粗さRzが2.3ミクロンメートル以下であることも記載されている。
本件明細書の上記記載からすると、本件発明の課題を解決するための手段は、電解銅箔の表面が「国際規格であるISO25178に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均高さ(Sa)と頂点密度(Spd)の積(Sa×Spd)が150000〜400000ミクロンメートル/平方ミリメートルであり、且つ日本工業規格であるJIS B0601−2001に準拠して測定された、前記複数の山形状構造の算術平均うねり(Wa)が0.06μmを超過し且つ1.5μm以下であ」ることであるといえるから、これらの発明特定事項を備える本件発明1及び本件発明5は、本件明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものといえる。
ウ また、Rzは、日本工業規格で規定される一般的な表面粗さパラメータであって、本件明細書の記載によれば、本件発明においては、線幅・線間の微縮小のために特定されるものであり、本件発明の課題を解決するための手段とはいえないから、Rzを2.3μm以下とする臨界的意義が明らかにされていないとしても、本件発明1及び本件発明5が、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるものとはいえない。
エ よって、申立人の主張は採用できない。
(3)以上によれば、本件発明1及び本件発明5について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。また、本件発明2〜4、6〜18についても同様である。
(4)小括
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(明確性
(1)申立人は、本件発明1及び本件発明5の「前記マイクロラフな表面に複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造を有」する旨の記載は、「マイクロラフな表面」上に、さらに「複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造」が存在すると解される点で技術的意味が不明である旨の主張をしている(特許異議申立書の第27ページ(4−3)。以下の(4)、(7)の申立人の主張も同様。)。
(2)上記主張について検討する。
ア 申立人が主張するとおり、特許請求の範囲の記載は一見明確でない点があるため、本件明細書の記載を参酌すると、本件明細書の段落【0017】には、「マイクロラフな表面10には、複数の山形状構造11と、複数の山形状構造11に対して成された凹み構造12を有する」と記載されていることから、本件発明1及び本件発明5の「マイクロラフな表面」とは、「マイクロラフな表面」自体が、「複数の山形状構造と、前記山形状構造に対して、複数の凹み構造」を有していると解されるため、本件発明1及び本件発明5の技術的意味が不明であるとはいえない。
イ よって、申立人の主張は採用できない。
(3)以上によれば、本件発明1及び本件発明5について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。また、本件発明2〜4、6〜18についても、同様である。

(4)申立人は、本件発明4及び本件発明8の「U字形の断面輪郭及び/又はV字形の断面輪郭」との記載は、本件明細書の段落【0020】の記載を参酌しても不明確である旨の主張をしている。
(5)上記主張について検討する。
ア 「U字形の断面輪郭及び/又はV字形の断面輪郭」との記載は、山形状構造に対する凹み構造の断面輪郭を図2のように概念図として表したときに想定される断面輪郭を例示したものと認められる。
イ また、書体によっても、U、Vの形は異なるから、「U字形」、「V字形」との記載には、断面形状としての厳密な定義は含まれておらず、いずれも凹んでいるが、底が尖っているか否かが異なる程度の意味であると解される。
ウ そうすると、「U字形の断面輪郭及び/又はV字形の断面輪郭」との記載を含む、本件発明4及び本件発明8は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
エ よって、申立人の主張は採用できない。
(6)以上によれば、本件発明4及び本件発明8について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。

(7)申立人は、本件明細書の段落【0020】には、「凹み構造」の平均深さ及び平均幅に関する記載があるが、これらをどのように測定したかが不明であるから、本件発明は不明確である旨の主張をしている。
(8)上記主張について検討する。
ア 本件発明は、「凹み構造」の平均深さ及び平均幅を発明特定事項としていないから、測定方法の如何に関わらず、本件発明が不明確であるとはいえない。
イ また、段落【0046】には、「図2、図6及び図7を参照しながら説明すると、実施例1のマイクロラフな表面10にはほぼ同一方向に沿って延伸した複数の凹み構造12(例えば凹溝)が形成され、凹み構造12の幅が約0.1ミクロンメートル〜4ミクロンメートルであり、且つ深さが0.8ミクロンメートル以下であった。」と記載されているから、どのように測定したかが不明であるともいえない。
ウ よって、申立人の主張は採用できない。
(9)以上によれば、本件発明1〜18ついて、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。
(10)小括
したがって、申立理由3によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4(実施可能要件
(1)申立人は、本件発明1及び本件発明5の「表面粗さRz」については、本件明細書の段落【0017】にのみ簡単な記載があるものの、実施例等に具体的な数値の記載や説明はなく、Rzを2.3μm以下とする銅箔をどのように製造するのか理解できない旨の主張をしている(特許異議申立書の第28ページ(4−4))。
(2)上記主張について検討する。
ア 本件明細書の段落【0036】には、「実施例1では、原箔としてリバース処理済銅箔(RTF)である金居開発株式会社の製品(型番RG311)が使用された。原箔が巻き出しロール31に巻きつけられ、その後、電解ロールセット34、補助ロールセット35の順で巻かれ、最後に巻き入れロール32に巻き戻される。各電解槽33に使用された銅含有電解液の組成成分と操作条件を表1に示す。原箔を10m/minの生産速度で順次に複数の電解槽33を通過させたことにより電解粗化処理がされ、JIS94に準拠して測定された表面粗さRzが2.3ミクロンメートル以下である、マイクロラフ処理された電解銅箔1が製造された。」と記載されているから、この手順に沿って製造すれば、Rzを2.3μm以下とする銅箔を製造することができると認められる。
本件明細書の上記記載を考慮すれば、当業者であれば、Rzを2.3μm以下とする銅箔をどのように製造すればよいか、理解できるといえる。
イ よって、申立人の主張は採用できない。
(3)以上によれば、本件発明1〜18は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものである。
(4)小括
したがって、申立理由4によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。

第7 まとめ
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-16 
出願番号 P2019-194236
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C25D)
P 1 651・ 121- Y (C25D)
P 1 651・ 536- Y (C25D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 佐藤 陽一
平塚 政宏
登録日 2021-06-11 
登録番号 6896298
権利者 金居開發股▲分▼有限公司
発明の名称 マイクロラフ処理された電解銅箔及びこれを用いた銅張基板  
代理人 特許業務法人南青山国際特許事務所  

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