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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61L |
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管理番号 | 1384296 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-23 |
確定日 | 2022-05-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6909252号発明「紫外線照射装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6909252号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第6909252号(請求項の数は10。以下「本件特許」という。)は,平成31年3月13日(国内優先権主張 優先日平成30年4月20日)にされた特許出願(特願2019−46294号)に係るものであって,令和3年7月6日にその特許権が設定登録され,同月28日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後,令和3年12月23日に特許異議申立人三木郁子(以下,単に「申立人」という。)より本件特許の請求項1〜10に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜10に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を順に「本件発明1」,「本件発明2」,…といい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と, 前記筒状部を収容するケース部と, 前記筒状部の一端側の外周面と前記ケース部の内周面との隙間に設けられ前記筒状部の前記一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一室と, 前記ケース部の外周面に設けられ,前記第一室に対象物を流入する流入部と, 前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部の他端側から流出させる流出部と, 前記処理流路を通過する前記対象物に向けて紫外光を照射する発光素子と,を備え, 前記筒状部の前記第一室を含む位置における,前記長手方向と直交する断面において,前記第一室の断面積が前記処理流路の断面積の1/10以上1以下である紫外線照射装置。 【請求項2】 前記筒状部の外周面の静止摩擦係数は,前記ケース部の内周面の静止摩擦係数よりも小さい請求項1に記載の紫外線照射装置。 【請求項3】 前記筒状部の外周面の静止摩擦係数は,前記ケース部の内周面の静止摩擦係数の1/2以下である請求項2に記載の紫外線照射装置。 【請求項4】 前記筒状部は,紫外線反射性材料で形成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。 【請求項5】 前記紫外線反射性材料として,ポリテトラフルオロエチレン,シリコン樹脂,内部に0.05μm以上10μm以下の気泡を含む石英ガラス,内部に0.05μm以上10μm以下の結晶粒を含む部分結晶化石英ガラス,0.05μm以上10μm以下の結晶粒状のアルミナ焼結体,0.05μm以上10μm以下の結晶粒状のムライト焼結体のうちの少なくともいずれか一つを含む請求項4に記載の紫外線照射装置。 【請求項6】 前記流入部は,ポリオレフィンで形成されている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。 【請求項7】 前記ポリオレフィンは,ポリエチレン又はポリプロピレンの少なくともいずれか一方を含む請求項6に記載の紫外線照射装置。 【請求項8】 前記発光素子は,前記筒状部の一方の端部の開口部に面して設けられ,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。 【請求項9】 前記発光素子は,前記筒状部の前記他端側に設けられている請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。 【請求項10】 前記筒状部と前記流出部との間に第二室をさらに備える請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。」 第3 申立人の主張に係る申立理由の概要 特許異議申立書における申立人の主張は,概略以下のとおりであって,本件発明1〜10は特許法(以下,単に「法」という。)29条2項の規定により特許を受けることができない発明であるか,請求項1〜10に係る特許は法36条4項1号又は同条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,請求項1〜10に係る特許は法113条2号あるいは4号に該当し取り消されるべきもの,というものである。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1〜10は,甲1に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。(この理由を,以下「申立理由1」という。) 2 申立理由2(実施可能要件) 請求項1〜10についての特許は,法36条4項1号に規定するいわゆる実施可能要件を満たしていない特許出願についてされたものである。(この理由を,以下「申立理由2」という。) 3 申立理由3(サポート要件) 請求項1〜10についての特許は,法36条6項1号に規定するいわゆるサポート要件を満たしていない特許出願についてされたものである。(この理由を,以下「申立理由3」という。) 4 証拠 証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1〜6)を提出する。 ・甲1: 特開2017−104230号公報 ・甲2: 意匠登録第1578940号公報 ・甲3: 高分子材料のトライボロジー,竹市嘉紀,表面技術2014年65巻12号562〜567頁 ・甲4: 特開2018−26045号公報 ・甲5: 特表2016−501676号公報 ・甲6: 特開平10−169621号公報 第4 当合議体の判断 当合議体は,以下述べるように,上記申立理由1〜3(上記第3)はいずれも理由がないと判断する。 1 主な証拠に記載された発明等 (1) 甲1の記載 甲1には,次の記載がある。(下線は本決定による。以下同じ。) ・「【請求項1】 第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部とを有し,軸方向に延びる処理流路を区画する流路管と, 前記第1端部の近傍に設けられ,前記処理流路に向けて前記第1端部から前記軸方向に紫外光を照射する光源と, 前記第1端部の径方向外側を囲う整流室を区画する筐体と,を備え, 前記整流室は,前記処理流路を流れる流体の入口または出口となる流通口を有し,前記第1端部と,前記第1端部と前記軸方向に対向する対向部材との間の隙間を介して前記処理流路と連通することを特徴とする流体殺菌装置。」 ・「【0022】 (第1の実施の形態) 図1は,第1の実施の形態に係る流体殺菌装置10の構成を概略的に示す図である。流体殺菌装置10は,流路管20と,第1筐体30と,第2筐体40と,第1光源50と,第2光源55とを備える。第1光源50および第2光源55は,流路管20の内部に向けて紫外光を照射する。流体殺菌装置10は,流路管20の内部を流れる流体(水など)に紫外光を照射して殺菌処理を施すために用いられる。」 ・「【0024】 流路管20は,円筒状の側壁26で構成される直管である。流路管20は,第1端部21と,第1端部21とは反対側の第2端部22とを有し,第1端部21から第2端部22に向けて軸方向に延びる。第1端部21には第1光源50からの紫外光が入射し,第2端部22には第2光源55からの紫外光が入射する。流路管20は,流体への紫外光照射がなされる処理流路12を区画する。 【0025】 流路管20は,金属材料や樹脂材料で構成される。流路管20は,紫外光の反射率が高い材料で構成されることが望ましく,例えば,内面23が鏡面研磨されたアルミニウム(Al)や,全フッ素化樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成される。これらの材料で流路管20を構成することで,第1光源50および第2光源55が発する紫外光を内面23で反射させて流路管20の長手方向に伝搬させることができる。特に,PTFEは,化学的に安定した材料であり,紫外光の反射率が高い材料であるため,処理流路12を構成する流路管20の材料として好適である。… 【0028】 第1筐体30は,第1端部21の周囲を取り囲むように設けられ,第1整流室13と第1光源室17を区画する。第1筐体30は,金属材料や樹脂材料で構成される。第1筐体30は,第1光源50が発する紫外光の反射率が低い材料で構成されることが望ましく,流路管20よりも紫外光反射率が低い材料で構成されることが望ましい。第1筐体30は,第1光源50からの紫外光を吸収する材料で構成されてもよい。このような材料で第1筐体30を構成することで,第1光源50からの紫外光が第1筐体30の内面で反射され,流出管38から外に漏れ出すのを抑えることができる。」 ・「【0037】 第2筐体40は,第1筐体30と同様に構成される。第2筐体40は,第2端部22の周囲を取り囲むように設けられ,第2整流室14と第2光源室18を区画する。第2筐体40は,第2側壁42と,第2内側端壁43と,第2外側端壁44とを有する。 【0038】 第2側壁42は,第2内側端壁43から第2外側端壁44まで軸方向に延びる円筒部材であり,流路管20の中心軸Aと同軸となる位置に設けられる。第2内側端壁43は,第2端部22よりも軸方向内側の位置に設けられる円環形状の部材であり,流路管20の外面24に固定されている。第2外側端壁44は,第2端部22よりも軸方向外側の位置に設けられる円板状の部材である。第2内側端壁43と第2外側端壁44は,第2端部22を挟んで軸方向に対向する位置に設けられる。 【0039】 第2筐体40の内部には,第2光源55からの紫外光を透過する第2窓部46が設けられる。第2窓部46は,第2筐体40の内部を第2整流室14と第2光源室18に区画する。第2整流室14は,第2側壁42,第2内側端壁43および第2窓部46により区画される領域であり,第2端部22の径方向外側を囲うように環状に設けられる領域である。第2光源室18は,第2側壁42,第2外側端壁44および第2窓部46で区画される領域であり第2光源55が設けられる。 【0040】 第2窓部46は,第2端部22と軸方向に対向する対向部材であり,第2端部22との間にわずかな寸法の第2隙間16が設けられるようにして第2端部22の近傍に配置される。第2隙間16は,例えば,処理流路12や第2整流室14の通水断面積よりも狭くなるように形成される。第2窓部46は,第2隙間16の寸法が第2端部22の全周にわたって一定となるように配置されることが好ましく,第2端部22の端面と第2窓部46の対向面とが略平行となるように配置されることが好ましい。 【0041】 第2筐体40には,流入口47と流入管48が設けられる。流入口47は,処理流路12にて紫外光が照射される流体が流入する流通口であり,第2整流室14と連通する位置に設けられる。流入管48は,流入口47に取り付けられる接続管である。流入口47および流入管48は,第2隙間16から流入口47に向かう方向と,流入管48の長手方向とが同一直線上に乗らない位置に配置される。具体的には,流入口47は,第2隙間16から軸方向にずれた位置に配置され,流入管48は,第2隙間16から流入口47に向かう方向と交差する方向(図示する例では,径方向)に延びる。このような配置とすることで,流入管48の流れの方向に起因して第2隙間16を流れる流体のうち流入口47に相対的に近い位置の流れF3が速くなり,流入口47に相対的に遠い位置の流れF4が遅くなる影響を低減できる。… 【0043】 以上の構成により,流体殺菌装置10は,処理流路12を流れる流体に向けて第1光源50および第2光源55からの紫外光を照射して殺菌処理を施す。処理対象となる流体は,流入管48,流入口47,第2整流室14,第2隙間16を通って第2端部22から処理流路12の内部に流入する。処理流路12を流れる流体は,例えば,軸方向に直交する断面において中央付近の流速v1が相対的に速く,内面23付近の流速v2が相対的に遅い状態に整流化される。処理流路12を通過した流体は,第1端部21から第1隙間15,第1整流室13,流出口37,流出管38を通って流出する。 【0044】 このとき,第2整流室14は,流入管48および流入口47を通じて流入する流体の流れを整え,周方向に異なる位置から第2隙間16を通って放射状(径方向内側)に処理流路12に流入する流体の流れを均一化させる。第2整流室14は,第2隙間16の流れを均一化することで,第2端部22の近傍の位置から処理流路12の流れが整流化されるようにする。同様に,第1整流室13は,流出口37および流出管38を通じて流出する流体の流れを整え,処理流路12から第1隙間15を通って放射状(径方向外側)に流出する流体の流れを均一化させる。第1整流室13は,第1隙間15の流れを均一化することで,第1端部21の近傍の位置まで処理流路12の流れが整流化された状態で維持されるようにする。 【0045】 第1光源50および第2光源55は,上述のように整流化されて処理流路12を流れる流体に向けて紫外光を照射する。第1光源50および第2光源55は,図2に示すような中央付近の強度が高く,径方向外側の強度が低くなる強度分布を有するため,処理流路12の流速分布に対応した強度で紫外光を照射できる。つまり,流速の高い中央付近に高強度の紫外光を照射し,流速の低い径方向外側の位置には低強度の紫外光を照射することができる。その結果,処理流路12を通過する流体に作用する紫外光のエネルギー量を流体が通過する径方向の位置によらずに均一化できる。これにより,処理流路12を流れる流体の全体に対して所定以上のエネルギー量の紫外光を照射することができ,流体全体に対する殺菌効果を高めることができる。」 ・「【図1】 」 (2) 甲1に記載された発明 上記(1)での摘記,特に【請求項1】,【0037】,【0041】,【0044】及び【図1】からみて,甲1には次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部とを有し,軸方向に延びる処理流路を区画する円筒状の側壁で構成される直管である流路管と, 前記第1端部の近傍に設けられ,前記処理流路に向けて前記第1端部から前記軸方向に紫外光を照射する光源と, 前記第1端部の径方向外側を囲う第1整流室を区画する,流出管が設けられた第1筐体と, 前記第2端部の径方向外側を囲う第2整流室を区画する,流入管が設けられた第2筐体と,を備え, 前記第1整流室は,前記処理流路を流れる流体の出口となる流通口を有し,前記第1端部と,前記第1端部と前記軸方向に対向する対向部材との間の第1隙間を介して前記処理流路と連通するとともに, 前記第2整流室は,前記処理流路を流れる流体の入口となる流通口を有し,前記第2端部と,前記第2端部と前記軸方向に対向する対向部材との間の第2隙間を介して前記処理流路と連通している,流体殺菌装置。」 (3) 甲2の記載 甲2には,次の記載がある。 ・「意匠に係る物品 流水殺菌モジュール」 ・「意匠に係る物品の説明 本物品は,水中に潜む大腸菌等の細菌を紫外線LEDにより殺菌・消毒する流水式紫外線殺菌モジュールである。流入口と流出口を円筒部における水の流方向と垂直方向に設けている。流入口から流入した水は,流出口側に設置された紫外線LEDから,水の流方向と逆方向に発光される紫外線により殺菌される仕組みである。」 ・「【正面・平面・左側面側からの斜視図】 」 ・「【背面・底面・右側面側からの斜視図】 」 ・「【平面図】 」 ・「【右側面図】 」 ・「【左側面図】 」 ・「【A−A断面図】 」 ・「【各部の名称を示す参考図】 」 2 申立理由1についての判断 (1) 本件発明1について(甲1発明との対比・判断) ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明(流体殺菌装置)の「流路管」は本件発明1(紫外線照射装置)の「筒状部」に相当し,同様に,「流路管」の「第1端部」は「筒状部の一端(側)」に,「第2端部」は「筒状部の他端(側)」に,「第2整流室」は「第一室」に,「流入管」は「流入部」に,「流出管」は「流出部」に,「光源」は「発光素子」にそれぞれ相当する。 ところで,本件発明1の「収容」の意味について,本件の特許請求の範囲及び明細書にはこれを説明する記載は見当たらないものの,広辞苑第7版には「人や物品を一定の場所におさめ入れること」とあるから,本件発明1の「筒状部を収容するケース部」の通常意味するところは,筒状部がケース部におさめ入れられた状態となっているものをいうと解される。そして,甲1発明の「流路管(筒状部)」は「第2筐体」におさめ入れられた状態とはなっていない,すなわち「収容」されていないから,甲1発明の「第2筐体」は本件発明1の「ケース部」に相当するとはいえないものの,流路管の端部の周囲を取り囲むように設けられていることを踏まえると,「ケース部」に対応するものであるということができる。 そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりであると認められる。 ・一致点 「長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と,ケース部と,前記筒状部の一端側の外周面と前記ケース部の内周面との隙間に設けられ前記筒状部の前記一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一室と,前記ケース部の外周面に設けられ前記第一室に対象物を流入する流入部と,前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部の他端側から流出させる流出部と,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて紫外光を照射する発光素子と,を備えた紫外線照射装置。」である点 ・相違点1 ケース部(第2筐体)について,本件発明1は「筒状部を収容する」と特定するのに対し,甲1発明は筒状部(流路管)を収容するものではない点。 ・相違点2 第一室(第2整流室)と処理流路との関係について,本件発明1は「前記筒状部の前記第一室を含む位置における,前記長手方向と直交する断面において,前記第一室の断面積が前記処理流路の断面積の1/10以上1以下」(決定注:この数値を以下「断面積比」という場合がある。)と特定するのに対し,甲1発明はこのような構成を有するか明らかでない点。 イ 事案に鑑み,まず,上記相違点2について検討する。 甲1には,甲1発明における第2整流室と処理流路との関係,特に処理流路の長手方向と直交する断面での両者の断面積に着目し,第2整流室(第一室)の断面積を処理流路の断面積の「1/10以上1以下」に設定する動機付けとなる記載は見当たらない。また,他の証拠を検討しても,甲1発明において,上記相違点2に係る構成を採用する動機付けはないといわざるを得ない。 そして,本件明細書の【0029】の記載,あるいは,実施例の流体殺菌モジュール1−1ないし同1−3の対比から,本件発明1は,上記相違点2に係る構成を採用すること,特に断面積比の数値範囲のうち「1以下」という上限値を設定することで,バイオフィルムの発生を抑制できるとの効果を奏するものといえるところ,このような効果は甲1ならびに出願時の技術常識からは予測できない顕著なものであるといえる。 ウ この点,申立人は,甲2には【A−A断面図】からみて断面積比が「0.9975」のものが記載されていることが認められ,甲1発明の断面積比として甲2の具体的な数値を適用することは当業者にとって容易である旨主張する(特許異議申立書30〜31ページなど)。 しかし,仮に,申立人が主張するような断面積比「0.9975」という値を有する紫外線照射装置が甲2に記載されているといえるとしても,甲1発明において甲2に記載されている上記構成(断面積比=0.9975)をあえて採用する動機は見当たらない。申立人の上記主張は,後知恵といわざるを得ないものであって採用できない。 エ そうすると,相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。 (2) 本件発明2〜10について 請求項2〜10の記載は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから,本件発明2〜10については,本件発明1についての上記(1)の判断と同様に,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。 (3) 小括 以上のとおりであるから,申立人主張の申立理由1には理由がない。 3 申立理由2についての判断 (1) 実施可能要件の判断基準について 法36条4項1号には,発明の詳細な説明の記載は,「…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。 そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(法2条3項1号),物の発明については,例えば明細書にその物を製造することができ,使用することができることの具体的な記載があるか,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し,使用することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。 (2) 判断 以下,物の発明である本件発明の実施可能要件の存否について,上記(1)の見地に基づいて検討するに,本件明細書には,本件発明に係る物を製造することができ,使用することができる程度の具体的な記載があると認めることができる(例えば,本件発明1について,【図2】に係る記載参照。)。 そうすると,本件発明は実施可能要件を満たすといえる。 申立人は,本件発明は断面積比を1以下とする数値条件を特定しているところ,発明の詳細な説明をみても,当該数値条件と発明の課題との関係が不明であり発明の技術上の意義を理解できないから,本件発明は実施可能要件を満たさない旨主張する。 しかし,実施可能要件の存否は,上記(1)の見地に基づいて判断されるところ,仮に,断面積比を1以下とする数値条件と発明の課題との関係が不明であり発明の技術上の意義が理解できないからといって,そのことと本件発明が実施可能要件を満たすかどうかとは関係がない。申立人の上記主張は採用できない。 (3) 小括 以上のとおりであるから,申立理由2には理由がない。 4 申立理由3についての判断 (1) サポート要件の判断基準について 法36条6項1号には,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。 特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。 そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書及び特許請求の範囲は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。法36条6項1号の規定するサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。 そして,特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。 (2) 判断 以下,本件発明のサポート要件の存否について,上記(1)の見地に基づいて検討する。 本件発明の解決しようとする課題は,本件明細書(特に【0004】)の記載から,「整流室を設けることによる殺菌効果の低下を,より小さくすることの可能な紫外線照射装置を提供すること」にあるということができる。 また,当業者は,本件明細書の記載(例えば,実施例の流体殺菌モジュール1−1ないし同1−3の対比)から,断面積比が1よりも大きいものに比べ,小さいもののほうがバイオフィルムの発生が抑制できた旨が開示されていると理解し,バイオフィルムの発生をより抑制するため(すなわち,整流室を設けることによる殺菌効果の低下をより小さくするとの課題を解決するため)には,断面積比を1より小さいものとすることで上記課題を解決できると認識するといえる。 そして,本件発明は断面積比が1以下という構成を有するものであり,このような構成を有する本件発明は,上述で述べるところの本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであると認められることから,本件発明はサポート要件を満たすものである。 (3) 小括 以上のとおりであるから,申立理由3には理由がない。 第5 むすび したがって,申立人の主張する申立理由によっては,請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。また,他にこれら特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-04-22 |
出願番号 | P2019-046294 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A61L)
P 1 651・ 121- Y (A61L) P 1 651・ 536- Y (A61L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 奥田 雄介 |
登録日 | 2021-07-06 |
登録番号 | 6909252 |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 紫外線照射装置 |
代理人 | 田中 秀▲てつ▼ |
代理人 | 森 哲也 |