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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1384559
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-19 
確定日 2022-05-19 
事件の表示 特願2015− 65393「相互接続固体電解質型燃料セルデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月28日出願公開、特開2016− 15308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年 3月27日(パリ条約による優先権主張2014年4月 1日、米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年 3月20日付け 拒絶理由通知書
同年 6月21日 意見書、手続補正書の提出
令和 1年11月13日付け 拒絶査定
令和 2年 3月19日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 5月31日付け 拒絶理由通知書
同年 9月 6日 意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は、令和 3年 9月 6日に提出された手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)であって、
対応する電気化学デバイスに関連する燃料ガスに対して不透過性である稠密密閉平面(24)を備える金属マニホールド(32)と、
稠密密閉平面(24)と側方接触して第1の電極相互接続部を形成する透過性平面(23)を備える多孔質金属材料(22)であり、
前記金属マニホールド(32)と多孔質金属材料(22)の間に単一の相互接続部(30)が存在するように、または透過性/多孔質金属構造(42)と稠密金属構造(46)の間に複数の略平板状接続部(44)を生じさせるようにタイル張りされた複数の透過性/多孔質金属構造(42)を有するように、前記金属マニホールド(32)または稠密金属構造(46)が連続し、かつ多孔質金属材料(22)または透過性/多孔質金属構造(42)を完全に包囲するものであり、また
稠密密閉平面(24)と透過性平面(23)の間の相互接続部(30)が、実質的に平坦である露出平面(38)を備え、さらに、稠密密閉平面(24)、透過性平面(23)及び露出平面(38)が、稠密密閉平面(24)、
透過性平面(23)及び露出平面(38)に共通の単一平面に横たわる、多孔質金属材料(22)と、
相互接続部(30)の露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)の上に直接堆積され、露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)を完全に皮膜する電極材料(26)と、
電極材料(26)の上に堆積された電解質(28)をさらに備え、電解質(28)が、電極材料(26)を実質的にシールし、酸化体と燃料ガスの間に流体バリアを提供し、
透過性平面(23)の最大細孔開口径が直径50μm未満である、電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)。
【請求項2】
稠密密閉平面(24)が、酸化体と燃料ガスの間のシールを備える、請求項1記載の電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)。
【請求項3】
電極材料が粉末供給原料を含み、粉末供給原料が、相互接続部(30)の露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)の上に直接溶射堆積され、露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)を完全に皮膜して、アノード/稠密支持界面を形成する、請求項1記載の電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)。
【請求項4】
電気化学デバイスが固体電解質型燃料セルを備える、請求項1記載の電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)。」

第3 当審における拒絶の理由
令和 3年 5月31日付けで当審において通知した拒絶理由には、次のものが含まれる。
1 この出願の本件補正前の請求項1、4〜7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 この出願の本件補正前の請求項1〜7に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2013−77450号公報

第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、本願発明1は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。

以下、1において、引用文献1について摘記し、引用発明について認定する。
次に、2において、本願発明1と引用発明とを対比(両発明の一致点・相違点を認定)する。
その上で、3において、本願発明1の新規性及び容易想到性について判断する。

1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審で付した。「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。
「【請求項1】
金属隔壁から構成され、複数の貫通孔を備えたハニカム構造を有する支持体(A)上に、燃料極(B)と、固体電解質(C)および空気極(D)とが(B)、(C)、(D)の順序で配置された金属支持型燃料電池セルであって、・・・該支持体(A)の貫通孔の少なくとも一方の口に多孔質層を有することを特徴とする金属支持型固体酸化物形燃料電池用セル。」
「【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、酸素イオン伝導性固体酸化物からなる電解質膜と、この電解質膜を間に挟んで互いに対向する状態に配置された燃料極層と空気極層との3層膜を基本構成とするセルを備えており、燃料極側に水素などの燃料ガスを供給する一方、空気極側に空気などの酸化性ガスを供給することによって、電気化学反応に基づく直流電力を得ることができる。」
「【符号の説明】
【0016】
A:ハニカム構造金属支持体、B:燃料極、C:固体電解質、D:空気極、E:金属支持型固体酸化物形燃料電池用セル、F:金属隔壁、G:貫通孔、H:多孔質層、I:ハニカム構造金属支持体外周部、X:ハニカム構造金属支持体端面、Y:ハニカム構造金属支持体側面、Z:金属隔壁表面、x1:外周部端面、x2:貫通孔端面、x3:金属隔壁端面」
「【0018】
前記金属隔壁で構成され、複数の貫通孔を備えたハニカム構造をなす支持体(A)の材質としては、特に制限されず、ニッケル、ニッケル系耐熱合金、ニッケル−クロム合金、鉄−クロム合金、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304やフェライト系ステンレス鋼SUS430が挙げられる。・・・」
「【0022】
・・・また、支持体最外周の筒部は隔壁を保持固定すると共に3層膜セルとのシール部ともなるので、その厚さは金属隔壁よりも厚い500〜3000μmが好ましい。」
「【0026】
具体的には、支持体上に3層膜セルを製造時に、特に、支持体端面上に燃料極層もしくは空気極層を形成するときに、貫通孔(G)内中に燃料極層成分もしくは空気極層成分が入り込み貫通孔端面部分で凹んだ不均質な電極層となり、その結果として、その上に形成される電解質層の厚さが貫通孔部分と金属隔壁部分で異なる不均質な3層膜セルとなりやすくなるが、貫通孔の口に多孔質層が存在することによって、貫通孔内中に燃料極層成分もしくは空気極層成分が入り込む障害となり、上記のような貫通孔端面部分が凹んだ不均質な電極層の形成が抑制できるとともに支持体との密着性が向上するようになる。
【0027】
さらに、本発明の金属支持体は、その平面面積が大きいが高さが低い薄膜状であるので、冷熱サイクルを繰り返えすとその熱応力のために、馬の鞍状のねじれやたわみ、反りが生じやすくなり支持体端面の平面度を保つのが困難となる傾向があるが、貫通孔の少なくとも一方の口に多孔質層が存在することによって、支持体内の伝熱性が向上するためか熱応力が緩和されて支持体端面(X)の平面度が保たれる効果があること、その結果として支持体上の3層膜セルも支持体から部分剥離が少なくなること、が本発明者らの検討でわかった。
【0028】
本発明で言う多孔質層(H)とは、その層の厚さが3μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上で連結孔や貫通孔を有する網目状、メッシュ状、フォーム状、スポンジ状、フィルム状、シート状、板状等の多孔質体から構成される。また、該多孔質層は、貫通孔の一方の口、もしくは両方の口に形成されていてもよい。さらには、貫通孔内全ての領域に前記多孔質体がきっちり埋設された状態で多孔質層が形成されていても、圧損が許容範囲内であれば問題はない。また、多孔質層の上面は、貫通孔端面(x2)をベースとし、そのベース面から電極層の厚さの10%以下、好ましくは5%以下の厚さであれば、隔壁端面から上側に突出していても、あるいは下側に陥没していてもよい。
【0029】
ただし、多孔質層の気孔率は30〜95%であることが、貫通孔内のガス流通性(圧損)と、前記支持体上の電極層や電解質層の均質性の観点から好ましい。より好ましい多孔質層の気孔率は40〜90%、さらに好ましくは45〜85%である。
【0030】
前記平面度とは、JIS B0621に規定される平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさであり、これを参照して、貫通孔が開口している金属支持体の隔壁端面(x3)のうち最も高い点と最も低い点との差とした。測定方法は特に制限はされず、接触式もしくは非接触式の三次元測定器を用いて測定できる。接触式三次元測定器を用いる場合は、金属支持体を定盤上に固定後、該金属支持体に隔壁端面において、プローブ(測定端子)を用いて4点平面測定を行い仮基準点を設定し、この端面のXY軸の原点を設定し、該原点よりX軸方向およびY軸方向にプローブを走査して任意のポイントで測定し、測定した端面における最も高いポイントと最も低いポイントとの値の差から平面度を求めた。
【0031】
本発明で使用する支持体端面(X)の平面度は、20μm以下が好ましく、さらに好ましくは18μm以下、特に好ましくは15μm以下である。また、冷熱サイクル繰り返し後の金属支持体端面の平面度は、好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは18μm以下である。なお、金属支持体上の3層膜セルの平面度は、セル電極層と支持体との界面剥離の観点から、30μm以下が好ましく、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは15μm以下である。平面度は小さければ小さいほど剥離は起こりにくくなる傾向にあるため、平面度の下限値は0である。」
「【0033】
また、多孔質層(H)の材質は、特に制限はなく金属隔壁と同じであっても、その他の金属材料であってもよく、無機酸化物や2種以上の無機酸化物の混合物、あるいは複合酸化物、さらには金属と無機酸化物の混合物やサーメットであってもよい。・・・」
「【0053】
(実施例1)
(金属支持型固体酸化物形燃料電池用セルの製造)
<金属支持体>
材質がAlとTiを含むフェライト系ステンレス鋼で、貫通孔数が200/inch2、支持体直径が120mmφ、支持体厚さが250μm、隔壁厚さが30μmで、貫通孔の一方の口にのみ多孔質層を有するメタルハニカムを、金属支持体として用意した。なお、該多孔質層は、市販の焼結金属フィルター(材質:SUS316、気孔率48%)を多孔質体として貫通孔に金属隔壁端面とほぼ同じ高さになるように埋設して形成した。
【0054】
金属支持体の平面度は、前記金属支持体を、多孔質層を形成した側を上にして定盤上に載置して、三次元測定機(ミツトヨ社製、型式:FALCIO916、プローブはTP2)を用いて5回測定し、その平均値を平面度とした。平面度は14μmであった。
【0055】
<燃料極層の形成>
次いで、市販の平均粒径2.5μmのNiOと、市販の平均粒径0.6μmの10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア微粉末(10Sc1CeSZ)と平均粒径37μmの10Sc1CeSZ粗粉末との混合粉末(組成比:NiO/微10Sc1CeSZ/粗10Sc1CeSZ=60/20/20質量%)を、イソプロパノールに混合し、撹拌して、粉末濃度が25%の溶射材粉末スラリーを作製した。
【0056】
次いで、高速フレーム溶射装置(溶射ガン型番:AXZ−Gun、ウィティコジャパン社製、微粉末供給装置型番:WSPF−1、ウィティコジャパン社製)に、上記で得た溶射材粉末スラリーを、アフターバーナー用補助燃料を兼ねるキャリアーガスを用いて供給し、前記金属支持体の多孔質層形成側の支持体端面に高速フレーム溶射し、燃料極層を形成させた。形成された燃料極層の厚みは40μmであった。
【0057】
<電解質層の形成>
次いで、前記微10Sc1CeSZ粉末(当審注:「10Sc1CeSZ微粉末」の誤記と認められる。)100質量部に、メタクリレート系共重合体(分子量:85000、ガラス転位温度:−8℃)からなるバインダーを固形分で15質量部を加えて、混練することにより電解質スラリーを調製した。該スラリーを上記燃料極層にスクリーン印刷したのち、支持体側は窒素ガスを流通させながら1400℃において3時間焼成することによって、前記燃料極層の上部に電解質層を形成した。形成された電解質層の厚みは15μmであった。
【0058】
<空気極層の形成>
次いで、平均粒径0.5μmのランタンコバルトフェライト粉末(組成:La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3−x)を、10質量%のエチルセルロースを添加したα−テルピネオールに混合し、撹拌して、空気極ペーストを作製した。このとき、得られたペースト中のランタンコバルトフェライト粉末の含有量は、65質量%であった。次いで、スクリーン印刷法を用いて電解質層の表面に空気極層を成膜して、窒素ガス雰囲気中900℃で焼成して空気極を形成し、金属支持型固体酸化物形燃料電池用セルを得た。」
「【図1】



「【図3】




(2)上記(1)の摘示、特に、請求項1、【0016】、【0022】、【0053】〜【0058】の記載を参照し、実施例1の金属支持型固体酸化物形燃料電池用セルに着目すると、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。

「金属隔壁(F)から構成され複数の貫通孔(G)を備えたハニカム構造を有する金属支持体(A)上に、燃料極(B)と、固体電解質(C)および空気極(D)とが(B)、(C)、(D)の順序で配置された金属支持型燃料電池セルであって、
前記金属支持体(A)が、焼結金属フィルターを多孔質体として前記貫通孔(G)の一方の口に前記金属隔壁(F)の端面とほぼ同じ高さになるように埋設して形成した気孔率48%のSUS316からなる多孔質層(H)と最外周の筒部である支持体外周部(I)を有し、前記多孔質層(H)形成側の端面の平面度が14μmのメタルハニカムであり、
前記燃料極(B)が、平均粒径2.5μmのNiOと、平均粒径0.6μmの10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア微粉末(10Sc1CeSZ)と、平均粒径37μmのセリア安定化ジルコニア粗粉末(10Sc1CeSZ)との混合粉末を、イソプロパノールに混合し、撹拌して、作製した溶射材粉末スラリーを、金属支持体(A)の前記多孔質層(H)形成側の支持体端面に高速フレーム溶射し形成した厚みが40μmの燃料極層であり、
前記固体電解質(C)が、セリア安定化ジルコニア微粉末(10Sc1CeSZ)に、バインダーを加えて、混練することにより調製した電解質スラリーを前記燃料極層にスクリーン印刷したのち、焼成することによって形成した厚みが15μmの電解質層であり、前記空気極(D)が、スクリーン印刷法を用いて前記電解質層の表面に成膜され、焼成されて形成された空気極層である金属支持型固体酸化物形燃料電池用セル。」

2 本願発明1と引用発明との対比
(1)引用発明の「燃料電池」は、本願発明1の「電気化学デバイス」に相当する。

(2)上記1の(1)の【0002】、【0022】の記載より、引用発明の「金属支持体(A)」の「金属隔壁(F)」及び「最外周の筒部である支持体外周部(I)」は、電解質膜と、この電解質膜を間に挟んで互いに対向する状態に配置された燃料極層と空気極層との三層膜セルのシール部となる、燃料極層に供給される燃料ガスに対して不透過性で稠密かつ密閉性の面、すなわち「稠密密閉平面」を備えると認められるから、本願発明1の「対応する電気化学デバイスに関連する燃料ガスに対して不透過性である稠密密閉平面(24)を備える金属マニホールド(32)」に相当する。

(3)上記1の(1)の図1及び図3より、引用発明の「多孔質層(H)」は、「金属支持体(A)」の「金属隔壁(F)」及び「最外周の筒部である支持体外周部(I)」の、燃料ガスに対して不透過性で稠密かつ密閉性の面とその側面で接触し、燃料極層と接続して相互接続部を形成し、かつ燃料ガスを透過する上側の面を備えていると認められるため、引用発明の、前記「燃料ガスに対して不透過性で稠密かつ密閉性の面」、前記「燃料ガスに対して不透過性で稠密かつ密閉性の面とその側面で接触し、燃料極層と接続して相互接続部を形成」する部分、前記「燃料ガスを透過する上側の面」は、それぞれ、本願発明の「稠密密閉平面(24)」、「第1の電極相互接続部」、「透過性平面(23)」に相当し、その結果、引用発明の「多孔質層(H)」は、本願発明1の「稠密密閉平面(24)と側方接触して第1の電極相互接続部を形成する透過性平面(23)を備え」る「多孔質金属材料(22)」に相当し、引用発明の、前記「燃料ガスに対して不透過性で稠密かつ密閉性の面」と前記「燃料ガスを透過する上側の面」との間に存在する平面は、本願発明1の「稠密密閉平面(24)と透過性平面(23)の間の」「露出平面(38)」に相当する。
そして、同図3より、引用発明の「多孔質層(H)」は、「金属支持体(A)」であるメタルハニカムの複数の貫通孔に存在しており、通常、メタルハニカムの各孔は6つの平面(略平板状の面)で構成されているから、引用発明の「金属支持体(A)」の「最外周の筒部である支持体外周部(I)」は、本願発明1の「稠密金属構造(46)」に相当し、引用発明の「多孔質層(H)」は、「金属支持体(A)」の「金属隔壁(F)」及び「最外周の筒部である支持体外周部(I)」との間に、「複数の略平板状接続部」を生じさせ、「タイルを敷きつめるごとく配置された」ものであり、本願発明1の「透過性/多孔質金属構造(42)」に相当すると認められる。
また、引用発明の「金属支持体(A)」の「金属隔壁(F)」及び「最外周の筒部である支持体外周部(I)」は、メタルハニカムの隔壁及び外周部であるから連続しているマニホールドであり「多孔質層(H)」を完全に包囲するものである。

(4)上記1の(1)の【0055】〜【0056】の記載より、引用発明の「燃料極層」は、金属支持体(A)の上に溶射により直接堆積して形成したもので、それにより被堆積表面を完全に被覆していると認められるから、本願発明1の「相互接続部(30)の露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)の上に直接堆積され、露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)を完全に皮膜する電極材料(26)」に相当する。

(5)上記1の(1)の【0057】の記載より、引用発明の「電解質層」は、「燃料極層」の上に堆積させたもので、同【0002】に記載された燃料電池の原理を考慮すると、空気極層側に供給される酸化性ガスと燃料極層側に供給される燃料ガスが流通しないように、空気極層と燃料極層を分離する作用を有していると認められるから、本願発明1の「電極材料(26)の上に堆積され」、「電極材料(26)を実質的にシールし、酸化体と燃料ガスの間に流体バリアを提供する」「電解質(28)」に相当する。

(6)上記(1)〜(5)の検討より、引用発明の「金属支持型固体酸化物形燃料電池用セル」の相互に接続する「金属支持体(A)」の「金属隔壁(F)」、「最外周の筒部である支持体外周部(I)」、「多孔質層(H)」、「燃料極層」及び「電解質層」の配置は、本願発明1の「電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)」に相当する。

(7)よって、本願発明1と引用発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
〈一致点〉
「電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)であって、
対応する電気化学デバイスに関連する燃料ガスに対して不透過性である稠密密閉平面(24)を備える金属マニホールド(32)と、
稠密密閉平面(24)と側方接触して第1の電極相互接続部を形成する透過性平面(23)を備える多孔質金属材料(22)であり、
透過性/多孔質金属構造(42)と稠密金属構造(46)の間に複数の略平板状接続部(44)を生じさせるようにタイル張りされた複数の透過性/多孔質金属構造(42)を有するように、前記金属マニホールド(32)が連続し、かつ多孔質金属材料(22)を完全に包囲するものであり、また
稠密密閉平面(24)と透過性平面(23)の間の相互接続部(30)が、露出平面(38)を備える、多孔質金属材料(22)と、
相互接続部(30)の露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)の上に直接堆積され、露出平面(38)、透過性平面(23)及び稠密密閉平面(24)を完全に皮膜する電極材料(26)と、
電極材料(26)の上に堆積された電解質(28)をさらに備え、電解質(28)が、電極材料(26)を実質的にシールし、酸化体と燃料ガスの間に流体バリアを提供する、電気化学デバイスのマニホールド相互接続構造(20)。」
〈相違点〉
本願発明1では、「稠密密閉平面(24)と透過性平面(23)の間の相互接続部(30)が、実質的に平坦である露出平面(38)を備え」、「さらに、稠密密閉平面(24)、透過性平面(23)及び露出平面(38)が、稠密密閉平面(24)、透過性平面(23)及び露出平面(38)に共通の単一平面に横たわる」のに対し、引用発明では、「金属支持体(A)」の「多孔質層(H)形成側の端面の平面度が14μmであ」る点(以下「相違点1」という)。
本願発明1では、「透過性平面(23)の最大細孔開口径が直径50μm未満である」のに対し、引用発明では、「多孔質層(H)」が気孔率48%のSUS316からなることについては特定されているものの、「燃料極層と接続する上側の面」の最大細孔開口径について特定されていない点(以下「相違点2」という)。

3 本願発明1の容易想到性についての判断
(1)相違点1について
「実質的に平坦」もしくは「共通の単一平面」について、本願の願書に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の【0020】には、以下のことが記載されている。
「【0020】
図2を続いて参照すると、マニホールド相互接続部支持面24は、実質的に平坦であり、図1に参照及び描写されるような、応力に関連するクラック発生又は不連続部に関連する欠陥を伴わずに、アノード26等の電極及び電解質28の溶射堆積及び全体皮膜のための理想的な基材を提供する。モノリシックマニホールド構造20は、透過性金属構造22に当接する稠密金属構造32を備え、稠密金属構造32は、SOFC等の相互接続支持型の電気化学デバイスのための、稠密金属構造32と透過性金属構造22の間の実質的に継目のない遷移部を提供する相互接続部30を形成する。一態様によれば、相互接続部30は、稠密金属面平面から10度未満である、稠密面から多孔質面への連続的な遷移部を生じさせる。別の実施形態によれば、相互接続部30は、多孔質面が稠密面と同一平面に横たわるように平坦である。」
そうすると、上記「実質的に平坦」もしくは「共通の単一平面」の状態とは、応力に関連するクラック発生や不連続部に関連する欠陥を伴わずに電極及び電解質を溶射堆積できる程度の平坦性を意味すると解釈できる。
一方で、上記1の(1)で摘示した引用文献1の【0031】の記載から、引用発明の「金属支持体(A)」の「多孔質層(H)形成側の端面の平面度が14μmであ」ることは、セル電極層と支持体との界面剥離が生じない程度のものと解されるから、「実質的に平坦」であって「共通の単一平面」を形成している状態に相当しているといえる。
よって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
また、仮に、上記相違点1が実質的な相違点であるとしても、上記1の(1)で摘示した引用文献1の【0031】には、界面剥離の観点から、金属支持体(A)の平面度は小さければ小さいほど剥離が起こりにくくなる傾向にあるため、下限値は0であることが記載されているから、上記記載の示唆に基づいて、引用発明の「金属支持体(A)」の「多孔質層(H)形成側の端面の平面度」を0、すなわち電極材料(26)を堆積させる面を「実質的に平坦」もしくは「共通の単一平面」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
周知技術を示す文献として新たに引用する、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10−021935号公報、特開平02−027661号公報、特開2007−323939号公報、特開平11−049590号公報、南口誠等、“焼結法により作製されるフィルターの特性シミュレーション”、Journal of the Ceramic Society of Japan、1993年、101巻、1071−1073頁には、次の記載がある。
ア 特開平10−021935号公報の記載事項
「【0024】(3)空気極の気孔率、気孔径とガス透過係数、導電率及び強度の関係:これらの間には、一般に以下の関係がある。
気孔径大→気孔率大、ガス透過係数大、強度小
気孔率大→ガス透過係数大、導電率小、強度小
したがって、ガス透過係数と導電率及び強度を適当な範囲に入れるためには、空気極の気孔径及び気孔率をある範囲にコントロールする必要がある。ここでは、平均気孔径3.5〜13.5μm 、気孔率24〜45%の範囲で試験を行った。・・・」

イ 特開平02−027661号公報の記載事項
「また電極触媒層の気孔率と空孔径との間には第6図の関係があり、気孔率を増加させるとガス供給を大きくする大きい空孔径が得られることもわかる。」(1頁右欄11−13行)




ウ 特開2007−323939号公報の記載事項
「【0049】
かさ密度および目付量は、細孔径と大小関係が逆である。一方、気孔率は、細孔径と大小関係が同じであり、細孔径に代えて気孔率により、アノードおよびカソードの第1の基材層、第2の基材層を定義することも可能である。」

エ 特開平11−049590号公報の記載事項
「【0008】図8(a)に多孔質基板2上に第一電極薄膜3を形成した状況を示しているが、図のように多孔質基板2の表面が凸凹であると多孔質基板2の表面を第一電極薄膜3で覆うことができない。当然その上に形成する固体電解質薄膜4も同様であり、酸素ポンプを構成することができない。一方、多孔質基板2は抵抗無く酸素を供給する必要があり、高い気孔率が望まれる。しかし、一般的に気孔率の高い多孔質材料は気孔径も大きく、表面の荒さが大きくなってしまう。・・・」

オ 南口誠等、“焼結法により作製されるフィルターの特性シミュレーション”、Journal of the Ceramic Society of Japan、1993年、101巻、1071−1073頁
「図6に,シミュレーションで作製されたフィルターとCIP充填体の気孔径と気孔率との関係を示す. シミュレーションで作製されたフィルターとCIP充填体を比較した場合,CIP充填体の原料に用いた粉末には粒子径にわずかなばらつきがあるにもかかわらず,両者の気孔径−気孔率曲線はほぼ一致する(気孔率46%のとき,シミュレーションで作成されたフィルター及びCIP充填体の気孔径は,それぞれ粒子径の0.28,0.34倍).・・・」(1072頁右欄31行〜1073頁左欄2行)



(当審訳:図6 シミュレーションで作製されたフィルターとCIP充填体の気孔径と気孔率の関係。黒丸及び白丸は、シミュレーション結果と実際の結果を示す。半矩形は商業用フィルターを表している。ハッチ領域の気孔径と気孔率のフィルターを得ることは不可能である。)

また、技術常識を示す文献として新たに引用する、国際公開第2004/006969号、特開2003−020248号公報、特開2007−246307号公報には、次の記載がある。
カ 国際公開第2004/006969号の記載事項
「実施例3
基材として、 直径25nm、厚さ1nmのSUS316多孔体を用いた。 気孔率は40%、 細孔径は3μmであった。・・・」(35頁31〜33行)

キ 特開2003−020248号公報の記載事項
「【0046】(実施例5)多孔質素材部分のみをSUS316L製の多孔体(気孔率25%、気孔径24μm)に変更し、・・・」

ク 特開2007−246307号公報の記載事項
「【0046】
・・・なお、多孔質材の仕様は、材質SUS316、気孔率20%、平均孔径8μmである。」

さらに、別の周知技術を示す文献として新たに引用する、特開2012−216319号公報には、次の記載がある。
ケ 特開2012−216319号公報の記載事項
「【0016】
アノード側電極は、気孔率が10〜40%、平均気孔径が3〜20μmの範囲内であるものが好適である。この場合には、上端面に開気孔(陥没)が存在したとしても開口径が小さいので、該上端面を略平坦面として近似し得る。従って、この上端面上に形成される電解質の上端面に陥没が転写されることが回避され、その結果、電解質とカソード側電極の接触面積が大きくなる。これにより、酸化物イオンの伝導経路が確保される。」

コ 上記カ〜クの記載から、気孔率20〜40%であるSUS316の多孔質材は、その開口径が3〜24μm程度であるといえるところ、引用発明において「気孔率48%のSUS316」からなる「多孔質層(H)」の開口径も同程度であると考えられるから、開口径もしくは最大細孔開口径が直径50μm未満となっている蓋然性は極めて高いといえるが、その実態は不明である。

サ しかし、上記ア〜オの記載にあるように、多孔質体における開口径と空隙が占める割合(気孔率)の間に正の相関関係があることは技術常識であり、気孔率を小さくするように設計もしくは調整すれば、当該気孔率に応じて、開口径も小さくなるといえる。
また、上記(2)のケで摘示したように、多孔質体の開口径を小さくすると、多孔質体の上端面に開気孔(陥没)が存在したとしても、前記上端面を略平坦面として近似し得ることは、本願の出願前に既に知られている。
これから、開口径(気孔率)が小さい方が平坦性が向上することは、本願出願前に既に知られているということができる。
そして、上記1の(1)で摘示した引用文献1の【0026】及び【0029】の記載によれば、引用発明は、「支持体端面上に燃料極層もしくは空気極層を形成するときに、貫通孔(G)内中に燃料極層成分もしくは空気極層成分が入り込み貫通孔端面部分で凹んだ不均質な電極層となり、その結果として、その上に形成される電解質層の厚さが貫通孔部分と金属隔壁部分で異なる不均質な3層膜セルとなりやすくなる」との課題に対し、「貫通孔の口に多孔質層が存在することによって」「凹んだ不均質な電極層の形成が抑制できる」ものであり(【0026】)、さらに、引用発明は、「多孔質層の気孔率は30〜95%であることが、貫通孔内のガス流通性(圧損)と、前記支持体上の電極層や電解質層の均質性の観点から好ましい」としている(【0029】)。そうすると、当該均質性とは、【0026】の上記記載によれば、厚みが異ならない一様な膜であることを意味すると解され、その結果、引用発明における気孔率の設定は、電極層等を一様な厚さの膜にすることを考慮したものでもあるということができる。

シ したがって、引用発明において、多孔質の気孔率を30〜95%の間で適宜変更可能であること、及び、開口径(気孔率)が小さい方が平坦性が向上するので好ましいことを勘案して、「多孔質層(H)」の気孔率を48%より小さい例えば30%とすることにより、最大細孔開口径の直径を50μm未満とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるといえる。

ス また、本願発明1において「透過性平面(23)の最大細孔開口径が直径50μm未満である」ことよる効果について、請求人は「細孔開口径が小さいほど完全かつ一様な被膜層が形成される」と主張しているが、そのような効果は、上記(2)のケを考慮すれば、引用発明において、気孔率を48%もしくはそれ以下に設計もしくは調整する際に、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

セ したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明1の特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)令和 3年 9月 6日提出の意見書における審判請求人の主張について
ア 上記意見書において、審判請求人は、以下のとおり主張している。なお、以下の「引用文献1」は、本審決中の引用文献1に対応する。
「しかしながら、気孔率とは、固体物質が小孔や粒子間空隙などの空間を含む量を表す尺度であり一般的にはその多孔質体における総体積に対する隙間の体積割合を意味します。それに対して、本願発明において規定している最大細孔開口径は、空隙が占める割合とは無関係に規定される物性であり、細孔開口径が小さいほど完全かつ一様な被膜層が形成されます。このことはクラック発生のリスクが高い高応力集中の局所領域を生じさせるリスクを軽減させることにもつながり、ひいては適切な燃料をアノードと電解質の界面に到達させる一方で、欠陥を生じさせるクラックを伴わずに密閉性の電解質皮膜を維持することが可能になります。
引用文献1において、気孔率が30から95%、さらに好ましくは45〜85%であるという、気孔率の幅を規定しているのみであり、最大細孔開口径については何ら開示も示唆もありません。これに対して、本願発明では透過性平面の最大細孔開口径が直径50μm未満であることを規定しており、引用文献1に接した当業者がその開示内容から本願発明に想到したであろうということはできません。よって、本願補正後の請求項1およびその従属請求項2〜4は新規性および進歩性を有するものと思料いたします。」

イ この主張について検討する。
上記(2)サにおいて指摘したように、多孔質体における開口径と空隙が占める割合(気孔率)の間には正の相関関係があり、気孔率を設計もしくは調整すれば、当該気孔率に応じて開口径も定まってしまうものであるから、本願発明1の最大細孔開口径が、空隙が占める割合(気孔率)と無関係に規定できる物性とはいえない。
また、上記(2)スにおいて指摘したように、「最大細孔開口径が直径50μm未満」との特定事項を備えることによって「細孔開口径が小さいほど完全かつ一様な被膜層が形成され」るとの効果は、引用発明において、気孔率を48%もしくはそれ以下に設計もしくは調整する際に、当業者が予測し得る程度のものにすぎず、予測できないほどに格別なものということはできない。

(4)まとめ
以上をまとめると、上記(1)、(2)で検討したとおり、相違点1は実質的な相違点ではなく、当業者は相違点2に係る本願発明1の構成を容易に想到し得たことであるか、そうでなくとも、当業者は、相違点1、2に係る本願発明1の構成を容易に想到し得たということができる。
そして、当業者がその構成を容易に想到し得たといえる本願発明1について、上記(3)で検討したとおり、これに進歩性を認める根拠となるほどの顕著な効果を奏するものということはできない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2〜4について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 粟野 正明
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-03 
結審通知日 2021-12-08 
審決日 2021-12-22 
出願番号 P2015-065393
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
P 1 8・ 113- WZ (H01M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 太田 一平
池渕 立
発明の名称 相互接続固体電解質型燃料セルデバイス  
代理人 関口 一哉  

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