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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1384570
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-01 
確定日 2022-05-24 
事件の表示 特願2017−518470「開口制限器を有する顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日国際公開、WO2016/055336、平成29年10月26日国内公表、特表2017−531828〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月1日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理平成26年10月6日 独国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成29年 6月 5日 :翻訳文提出
平成30年 5月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月14日 :意見書・手続補正書
平成31年 1月29日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 元年 7月18日 :意見書・手続補正書
令和 元年12月26日付け:令和元年7月18日になされた手続補正 についての補正の却下の決定・拒絶査定
令和 2年 5月 1日 :審判請求書・手続補正書
令和 3年 5月14日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 8月13日 :意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、令和3年8月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
顕微鏡(10)であって、
前記顕微鏡(10)は、少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)を形成するための、光路(22)に配置された開口制限器(12)を有し、
前記開口制限器(12)は、前記少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)の開口を設定するために構成されている、
顕微鏡(10)において、
前記開口制限器(12)は、第1の動作モードでは第1の光チャネル(16)を、第2の動作モードでは少なくとも1つの第2の光チャネル(18)を、巨視的な機械式動作なしに選択的に形成可能であるように構成されており、
前記開口制限器(12)は、前記光路(22)の瞳面(24)に配置されており、
前記開口制限器(12)は、
前記第1の動作モードでは前記第1の光チャネル(16)が前記光路(22)の光軸(26)に対してセンタリングされ、かつ、前記光軸(26)を中心とした中央の領域に形成されているように、
前記第2の動作モードでは前記少なくとも第2の光チャネル(18)が前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように、
構成されており、
前記開口制限器(12)は、
前記第2の動作モードにおいて、前記少なくとも第2の光チャネル(18)と第3の光チャネル(20)とがシーケンシャルに形成されるように、かつ、前記少なくとも第2の光チャネル(18)と前記第3の光チャネル(20)とがそれぞれ前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように構成されており、
前記少なくとも第2の光チャネル(18)と前記第3の光チャネル(20)とは、非中央の光チャネルであり、
前記顕微鏡(10)は、ズーム系(32)を有し、前記ズーム系(32)は、前記第1の動作モードおよび前記第2の動作モードにおいて共通に用いられる、
顕微鏡(10)。」

第3 当審における令和3年5月14日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由

上記拒絶理由は、要旨、次の内容を含むものである。

進歩性欠如)令和2年5月1日提出の手続補正書により補正された請求項1に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



〔引用文献〕
1.特開2012−073586号公報
2.特開平10−133307号公報

第4 当審の判断
当審は、以下のとおり、上記第3の理由(進歩性欠如)によって、本願は拒絶されるべきものであると判断する。

1 引用文献に記載された事項の認定
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明1
ア 引用文献1の記載事項
当審がした令和3年5月14日付け拒絶理由通知書で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2012−073586号公報)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。

(ア)「【請求項1】
複数の画像を得るための顕微鏡システムであって、
前記顕微鏡システムの倍率範囲にわたって前記顕微鏡システムの倍率を連続的に変動させるよう構成されるズーム系を含み、前記ズーム系は、前記顕微鏡システムの共通の光軸に沿って可動に配置される2つの可動ズーム構成要素を含み、前記顕微鏡システムはさらに、
前記ズーム系を横断する、前記顕微鏡システムの複数の異なる観察ビーム経路が選択可能であるように構成される開口絞りを含み、
前記開口絞りは、前記光軸に沿って見た場合、前記2つの可動ズーム構成要素間に配置され、
前記倍率範囲内の倍率のすべての値に対して、前記開口絞りは、前記光軸に沿って測定され前記顕微鏡システムのひとみ位置を取囲む開口絞り範囲内に位置する、顕微鏡システム。

・・・(中略)・・・

【請求項10】
前記開口絞りは、前記観察ビーム経路が前記開口絞りの可変開口によって選択可能であるように構成される、請求項1〜9のいずれか1つに記載の顕微鏡システム。
【請求項11】
前記開口絞りは1つ以上のエリア要素を含み、前記1つ以上のエリア要素の各々は開いた状態と閉じた状態との間で切換え可能であるよう構成される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の顕微鏡システム。

・・・(中略)・・・

【請求項13】
前記開口絞りは、機械的なシャッタ素子、ポリマーシャッタ素子およびLCDマトリックスのうちの1つまたはそれらの組合せを含む、請求項1〜12のいずれか1つに記載の顕微鏡システム。
【請求項14】
前記複数の異なる観察ビーム経路は左側および右側ステレオチャネルを含む、請求項1〜13のいずれか1つに記載の顕微鏡システム。

・・・(中略)・・・

【請求項20】
前記開口絞りは開いた状態と閉じた状態との間で切換え可能である、請求項1〜19のいずれか1つに記載の顕微鏡システム。
【請求項21】
前記開口絞りの開いている時間は、500ms未満、200ms未満、または100ms未満である、請求項20に記載の顕微鏡システム。」

(イ)「【0002】
分野
この発明は顕微鏡システムに関し、特に、デジタル顕微鏡システムに関する。より具体的には、この発明は、画像化条件に適合可能な開口を含み、および/または立体画像もしくは立体映像シーケンスなどのような対象物の個々の画像の群から空間情報を得ることができる、デジタル顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
当該技術分野においては、観察者に対して対象物の立体視野を与える、公知の顕微鏡がある。典型的には、対象物は、立体顕微鏡の、互いに異なる2つの観察ビーム経路によって、同時に、または連続的に、画像化される。2つの観察ビーム経路の光線束は、物面において立体角を形成する。

・・・(中略)・・・

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの適用例のいくつかにおいては、顕微鏡を設置するのに利用可能な空間はほんのわずかに限られている。例として、手術室においては、多数の検査器具が手術野に接近して配置され、顕微鏡を位置決めするために利用可能な空間を制限している。さらに、手術医が手術手順を実行できるよう、手術医の手およびさまざまな器具のためにさらなる空間が必要である。
【0007】
したがって、この発明の目的は、コンパクトなサイズの多用途顕微鏡システムを提供することである。」

(ウ)「【0009】
したがって、開口絞りはズーム系内にあるので、コンパクトなサイズの顕微鏡システムが得られる。特に、所与のfナンバーに対して、コンパクトな顕微鏡システムが得られる。顕微鏡は、レンズ直径および顕微鏡システムの全長に関してサイズがコンパクトであってもよい。さらに、画像に現われる輝度勾配などのようなアーチファクト(たとえば口径食または非対称の画像クロッピングなど)が低減される。

・・・(中略)・・・

【0011】
さらに、この顕微鏡システムは非常に多用途であり、なぜならば、それは具体的な適用例のニーズを満たすよう適合可能であるからである。観察ビーム経路は開口絞りによって選択可能であるため、顕微鏡システムは、対象物に対する顕微鏡システムの位置、対象物に対する顕微鏡システムの向き、対象物に対する観察者の位置、および/または対象物に対する観察者の向きに関して、適合可能であってもよい。さらに、観察ビーム経路の輝度および/または焦点深度が調整可能であってもよい。さらに、開口絞りによる観察ビーム経路の選択は、左側および右側ステレオチャネルを選択することによって立体画像を生成することが可能である。

・・・(中略)・・・

【0017】
顕微鏡システムは、検査中の対象物の画像の群を得るよう構成されてもよい。画像の群の画像の各々に対して、対応の観察ビーム経路を開口絞りによって選択してもよい。画像の群の画像を得るために選択される観察ビーム経路は互いと異なっていてもよい。顕微鏡システムは、立体画像が画像の群に依存して生成されるように構成されてもよい。立体画像は左半分および右半分の画像を含んでもよい。画像の群は連続的に得られてもよい。「連続的に」という表現は、画像の群のうちの第1の画像が得られた後に画像の群の第2の画像が得られることを意味してもよい。第1の画像と第2の画像との間において、さらなる画像が得られてもよい。さらに、個々の画像からなる群のうちの複数の画像が、同じ観察ビーム経路で得られることも考えられる。たとえば、同じ観察ビーム経路で得られる画像を平均して、画像化アーチファクトを低減してもよい。

・・・(中略)・・・

【0019】 開口絞りは、不透明領域および光透過領域を含んでもよく、それらは、両方とも、光軸に対して垂直に向き付けられ、ビーム経路において、光透過領域に入射する光線の一部が開口絞りを通過するように位置する。これにより、光透過領域は開口を形成してもよい。ある形状の光透過領域が構成可能であってもよい。開口絞りの、その形状の光透過領域を設定することにより、観察ビーム経路が選択可能であってもよい。顕微鏡システムは、たとえば、その形状の光透過領域を設定することによって、観察ビーム経路を選択するよう開口絞りに制御信号を送信するよう構成されるコントローラを含んでもよい。さらに、開口絞りに入射するすべての光線を通過させることによって1つの観察ビーム経路を選択することも考えられる。

・・・(中略)・・・

【0025】
開口絞りは、光軸上のひとみの位置に正確に位置しなくてもよく、この位置からわずかに逸れていてもよい。これは、画像に対して大きな影響を引起さない限り、受入れ可能である。その影響が大きくないかもしれないのは、それが観察者によって気掛かりなものであると認められないとき、および/またはそれが、画像に適用される画像処理ルーチンの結果に致命的な影響を有さないときである。したがって、開口絞りは、ひとみの位置または領域を取囲む開口絞り範囲内に配置されてもよい。

・・・(中略)・・・

【0058】
したがって、開口絞りは可変開口を有するため、顕微鏡システムの観察ビーム経路を、対象物、倍率、対象物に対する顕微鏡システムの位置、および/または対象物に対する観察者の位置に対して適合させることが可能である。さらに、それは、立体画像の左半分の画像および右半分の画像が得られるように、2つの画像間で観察ビーム経路を変動させることを可能にする。」

(エ)「【0076】
立体画像の左および右半分の画像は、同じ対象物の2つのパースペクティブを表してもよい。これらのパースペクティブは、観察者によって左半分の画像が左目で観察されかつ右半分の画像が右目で観察されるときに観察者に対して物体の三次元的印象を与えるようなものであってもよい。

・・・(中略)・・・

【0093】
あるさらなる実施例に従うと、開口絞りは、開いた状態と閉じた状態との間で切換え可能である。あるさらなる実施例に従うと、開口絞りの開いている時間は、500ms未満、または200ms未満、または100ms未満である。
【0094】
短い露出時間を伴う開口絞りを有する顕微鏡システムを提供することによって、高い空間分解能を有する鮮明な画像を得ることが可能である。さらに、短い露出時間は、高い時間分解能を有する映像シーケンスを得ることを可能にする。したがって、手術医が実時間で自分の手の動きを観察することが可能である。開いている時間は、少なくとも50msまたは少なくとも100msであってもよい。

・・・(中略)・・・

【0104】
図1aは、第1の例示的実施例に従う顕微鏡システム1を概略的に示す。顕微鏡システム1は、対物側合焦光学系10、ズーム系20、および像側合焦光学系30を含む。物面40上の点から発出する光線が、像面41における点上に合焦される。対物側合焦光学系10は、光軸OA上においてズーム系20と物面40との間に配置される。像側合焦系は、光軸上においてズーム系20と像面41との間に配置される。」

(オ)「【0138】
図4a〜図4cは、開口絞りの例示的実施例60b、60cおよび60dを示す。開口絞り60b、60cおよび60dは、光軸OAが図4a〜図4cの紙面に垂直に位置するよう示される。
【0139】
開口絞り60bは、第1のエリア要素61bと第2のエリア要素62bを含む。エリア要素61bおよび62bの各々は半円の形状を有する。
【0140】
第1のステレオチャネル、たとえば左側ステレオチャネルは、第1のエリア要素61bを開いた状態に切換え、および第2のエリア要素62bを閉じた状態に切換えることによって、選択可能である。第2のステレオチャネル、たとえば右側ステレオチャネルは、第2のエリア要素62bを開いた状態に切換え、および第1のエリア要素61bを閉じた状態に切換えることによって、選択可能である。
【0141】
代替的に、または代替的な動作モードにおいて、右側ステレオチャネルは、第1のエリア要素61bを開いた状態に切換え、および第2のエリア要素62bを閉じた状態に切換えることによって、選択可能であってもよく、左側ステレオチャネルは、第1のエリア要素61bを閉じた状態に切換え、および第2のエリア要素62bを閉じた状態に切換えることによって、選択可能であってもよい。これにより、ステレオチャネルの開口は180°回転される。
【0142】
開口絞り60cは、異なる例示的実施例を表わす。開口絞り60cは4つのエリア要素61c、62c、63cおよび64cを含む。これらのエリア要素は、等しいサイズの複数の扇形を形成する。開口絞り60cは、エリア要素61c、62c、63cおよび64cが開いた状態と閉じた状態との間において個々に切換え可能であるよう構成される。これにより、4つの観察ビーム経路が選択可能である。加えて、または代替的に、開口絞り60cは、2つ以上のエリア要素が開いた状態と閉じた状態との間において同時に切換え可能であるよう構成されてもよい。例として、エリア要素61cおよび62cは同時に開いた状態に切換え可能であってもよく、それによって、軸Aに関する第1のステレオチャネルの観察ビーム経路が選択可能である。したがって、軸Aに対する第2のステレオチャネルの観察ビーム経路は、エリア要素63cおよび64cを開いた状態に切換えることによって選択可能である。第1および第2のステレオチャネルは、立体画像を得るための左側および右側ステレオチャネルを表わしてもよい。
【0143】
さらに、エリア要素61cおよび64cを開いた状態に同時に切換えることによって、軸Bに関する第3のステレオチャネルの観察ビーム経路が選択可能である。したがって、エリア要素62cおよび63cを同時に開いた状態に切換えることによって、軸Bに関する第4のステレオチャネルの観察ビーム経路が選択可能である。第3および第4のステレオチャネルは、立体画像を得るための左側および右側ステレオチャネルを表現してもよい。
【0144】
したがって、開口絞り60cは、左側および右側ステレオチャネルの開口を+90°、−90°または180°回転させることを可能にする。
【0145】
さらに、顕微鏡システム1は、ステレオチャネルの開口の回転と同時に個々の画像の画像の回転が実行されるよう構成されてもよい。画像の回転は画像処理ユニットよって実行されてもよい。それにより、ステレオチャネルの開口が回転されたときであっても、観察者は依然として左半分および右半分の画像を提供され、それにより、観察者は、対象物から三次元的印象を得ることができる。
【0146】
図4cは、開口絞り60dのさらなる例示的実施例を示す。開口絞り60dは8つのエリア要素61d〜68dを含む。エリア要素61d〜68dは、等しいサイズの扇形を形成する。したがって、エリア要素61d〜68dの各々は、円の8分の1(つまりオクタント)の形状を有する。例として、エリア要素61d〜68dは、開いた状態と閉じた状態との間において個々に切換え可能である。これにより、8つの異なる観察ビーム経路が選択可能であってもよい。
【0147】
さらに、開口絞り60cは、左側および右側ステレオチャネルの開口を、+/−45°、+/−90°、+/−135°または180°回転させることを可能にする。
【0148】
図4a〜図4cに示される開口絞り60b、60cおよび60dは、それぞれの開口絞りのすべてのエリア要素を同時に開いた状態に切換えることによって、単眼画像を得ることを可能にする観察ビーム経路が選択可能であるよう構成されてもよい。これにより、顕微鏡システム1は、立体的な半分の画像よりも高い解像度を有する対象物の単眼画像を得ることができるよう構成されてもよい。
【0149】
たとえば、左側および右側ステレオチャネルを選択することによって2つの画像を得ることに加えて、大きな開口を有するさらなる画像が得られてもよい。

・・・(中略)・・・

【0151】
さらに、顕微鏡システム1は異なる動作モードで動作可能であることが考えられる。動作モードは、単眼画像化獲得モードおよび立体画像化モードを含んでもよい。単眼画像化モードで得られる個々の画像は、立体画像化モードで得られる画像よりも高い解像度を有してもよい。単眼画像化モードの観察ビーム経路は、立体画像化モードにおける開口の直径よりも大きな直径を有する開口に切換えることによって選択されてもよい。
【0152】
立体画像化モードにおいては、左側および右側の立体的な半分の画像が左側および右側ステレオチャネルで得られる。さらに、動作モードは混合画像化モードを含んでもよく、そのモードにおいては、数値的な画像処理ルーチンを適用することによって、単眼画像が立体的な半分の画像と組合せられる。これにより、より高い分解能を有する、および/またはアーチファクトが低減された、立体的な半分の画像が得られてもよい。
【0153】
これにより、多用途の顕微鏡システム1が得られ、なぜならば、手術の具体的な要件によって、顕微鏡システム1の好適な動作モードが選択可能であるからである。単眼画像化モードは、高い空間分解能を有する画像を得ることを可能にする。さらに、単眼画像化モードは、高い時間分解能を有する画像を得ることを可能にする。他方、立体画像化モードは、観察者に対して、対象物の空間的な印象を与えてもよい。」

(カ)図1aは次のものである。


(キ)図4aは次のものである。



(ク)引用文献1の【0139】には「開口絞り60b」の「エリア要素61bおよび62bの各々は半円の形状を有する。」と記載されているところ、同図4aから、半円の形状を有するエリア要素61bと、半円の形状を有するエリア要素62bとを合わせて形成される円の中心に光軸OAが存在することが見て取れる。

イ 引用発明1

上記アから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。(なお、引用発明1の各構成の根拠箇所を参考として当審で付した。以下同じ。)

「複数の画像を得るための顕微鏡システムであって、
前記顕微鏡システムの倍率範囲にわたって前記顕微鏡システムの倍率を連続的に変動させるよう構成されるズーム系を含み、前記ズーム系は、前記顕微鏡システムの共通の光軸に沿って可動に配置される2つの可動ズーム構成要素を含み、前記顕微鏡システムはさらに、
前記ズーム系を横断する、前記顕微鏡システムの複数の異なる観察ビーム経路が選択可能であるように構成される開口絞りを含み、
前記開口絞りは、前記光軸に沿って見た場合、前記2つの可動ズーム構成要素間に配置され、
前記倍率範囲内の倍率のすべての値に対して、前記開口絞りは、前記光軸に沿って測定され前記顕微鏡システムのひとみ位置を取囲む開口絞り範囲内に位置する、顕微鏡システムであって、(【請求項1】)
前記開口絞りは、前記観察ビーム経路が前記開口絞りの可変開口によって選択可能であるように構成され、(【請求項10】)
前記開口絞りは、LCDマトリックスを含み、(【請求項13】)
前記開口絞りは1つ以上のエリア要素を含み、前記1つ以上のエリア要素の各々は開いた状態と閉じた状態との間で切換え可能であるよう構成され、(【請求項11】)
開口絞り60bは、第1のエリア要素61bと第2のエリア要素62bを含み、エリア要素61bおよび62bの各々は半円の形状を有するものであり、(【0139】)
半円の形状を有するエリア要素61bと、半円の形状を有するエリア要素62bとを合わせて形成される円の中心に光軸OAが存在し、(上記ア(ク))
前記複数の異なる観察ビーム経路は左側および右側ステレオチャネルを含み、(【請求項14】)
左側ステレオチャネルは、第1のエリア要素61bを開いた状態に切換え、および第2のエリア要素62bを閉じた状態に切換えることによって、選択可能であり、右側ステレオチャネルは、第2のエリア要素62bを開いた状態に切換え、および第1のエリア要素61bを閉じた状態に切換えることによって、選択可能であり、(【0140】)
開口絞りは、ひとみの位置に配置されてもよく、(【0025】)
開口絞りは、立体画像の左半分の画像および右半分の画像が得られるように、2つの画像間で観察ビーム経路を変動させることを可能にし、(【0058】)
動作モードは、単眼画像化獲得モードおよび立体画像化モードを含んでもよく、(【0151】)
立体画像化モードにおいては、左側および右側の立体的な半分の画像が左側および右側ステレオチャネルで得られ、(【0152】)
観察者によって左半分の画像が左目で観察されかつ右半分の画像が右目で観察されるときに観察者に対して物体の三次元的印象を与え、(【0076】)
開口絞りのすべてのエリア要素を同時に開いた状態に切換えることによって、単眼画像を得ることを可能にする観察ビーム経路が選択可能であるよう構成されてもよい、(【0148】)
顕微鏡システム。」

(2)引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された技術的事項
ア 引用文献2の記載事項
当審がした令和3年5月14日付け拒絶理由通知書で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(特開平10−133307号公報)には、次の記載がある。

(ア)「【請求項2】観察対象を結像する結像光学系の射出瞳内または近傍で、もしくは結像光学系と光学的に共役に、瞳を分割し観察者の右眼および左眼に対する時限割当てのための手段を有する立体像生成装置。

・・・(中略)・・・

【請求項12】対物レンズの出射瞳面または近傍、もしくは出射瞳と光学的に共役に絞りを有する請求項1ないし11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】対物レンズの入射瞳面または近傍に設置した、少なくとも二つの照明光束を交互に生成し、照明光学系により各角度で観察対象を照明するための手段を有し、その際その手段内またはその近傍に少なくとも一つの絞りを設置した立体観察装置。

・・・(中略)・・・

【請求項16】絞りを円形絞り、直角絞りまたは光彩絞りとして形成する請求項12ないし15のいずれか一項に記載の装置。


(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本願出願人の欧州特許第730181A1号には、顕微鏡装置において立体像を生成する方法と装置が説明される。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、そのための別の好都合な実施形態を発見し、解像度と焦点深度および立体感に関し顕微鏡装置全体を最適に形成することである。」

(ウ)「【0004】
【発明の実施の形態】顕微鏡観察する蛍光観察対象など自家発光する観察対象の立体像は、対物レンズの出射瞳を分割し、フリッカ周波数の上方で左眼および右眼に時限的に交互に送ることにより特に好都合に生成される。出射瞳を二つの三日月形状に分割し、観察対象の観察を可変の立体角により行い、同時に観察開口を最大限に利用し、高い顕微解像度が得られるようにそれら三日月形状の重心を調節することが好都合である。この方法により透過光および照射光観察対象が観察できる。瞳分割は、一つの実施形態では出射瞳近傍のDMDミラーにより行う。DMD(「デジタル微小ミラー装置 digital micromirror devices」) は、角度位置が静電的に変化する多数の微小ミラーから成る。

・・・(中略)・・・

【0007】さらに、顕微鏡対物レンズの入射瞳内または近傍およびその出射瞳内または近傍に、好ましくは調節可能または交換可能な絞りを設置することが好都合である。

・・・(中略)・・・

【0009】図1および図2において観察対象物Oの光が対物レンズOBにより受容される。鏡筒レンズT1は、ミラーSの向こう側に第一中間像を生成する。視野レンズFLは、DMDミラーに対物レンズOBの出射瞳の結像を生成する。DMDミラーは、光束の重心が立体視を可能にし開口を最大限に利用できるように、左右の接眼鏡OK1、OK2に対する光束を時限的に分割する。鏡筒レンズT21、T22は、各接眼鏡に対し中間像を生成する。偏向プリズムUP1、UP2およびプリズムP1、P2は、中間像を接眼観察部に送る。プリズムP1、P2の変位により観察者の眼幅に合わせることができる。
【0010】・・・(中略)・・・光変調器LMは、光束の重心が立体観察を可能にし開口を最大限に利用できるように時限的に光束を分割する。」

(エ)「【0013】本願出願人の欧州特許第730181号にもとづき,図5にモニタMとシャッタ眼鏡SBにより観察を行う透過光装置、および図6にビームスプリッタST1を介して照明される落射光装置が示され、それぞれ照明光路の開口絞り面に光変調器LMを有し、その近傍に調節可能絞りBLを設置する。
【0014】観察対象の像は、結像光学系AOによりビデオカメラVKに結像される。全面がオンオフ可能な接眼鏡による観察対象の結像は、同じく立体観察を可能にする。絞りBLが円形で、対物レンズの入射瞳近傍に設置するのが好ましい。
【0015】例えば光彩絞りといった円形絞りBLの内径の違いにより、立体像の焦点深度と解像度を観察対象に適合させることができるので、すばらしい立体像を見ることができる。
【0016】図7(a)は、開口絞りの面(=対物レンズの入射瞳)の光状態を示し、その際可変円形絞りBLがわずかに閉じられている。ある時限で照明光束により入射瞳の平面F1が、次の時限で平面F2が照明される。各光束の重心は、立体観察に必要な角度で観察対象を照明できるように照明開口内部で調節可能である。
【0017】図7(b)は、開口絞り面(=対物レンズの入射瞳)の光状態を示し、その際可変中央絞りZBを不透明な円形絞りとして付加的に設置する。円形絞りZBの外径の違いにより立体像の焦点深度と解像度を観察対象に適合させることができるので、最高度の解像度を有する立体像を観察できる。ゼロ次回折波が部分的に抑制され、したがって解像度が向上するからである。
【0018】図7(c)は、開口絞り面(=対物レンズの入射瞳)の光状態を示し、その際可変中央絞りを不透明な直角絞りとして付加的に設置する。直角絞りの幅bの違いにより立体像の焦点深度と解像度を観察対象に適合させることができるので、最高度の解像度を有する立体像を見ることができる。各種絞りの交換は、例えば各寸法の中央絞りを有するレボルバにより行うことができる。
【0019】欧州特許第730181号において光変調器を構成する液晶マトリクスにより光変調器自体の中で実現することは、照明光路を使用可能にするための二つの開閉位置で、例えば大きさを制御して変えることのできる図7(b)および図7(c)のような直角または円形の中央部のように、液晶マトリクスの一部を不透明にすることにより同様に可能で好都合である。」

(オ)図5は次のものである。


(カ)図7は次のものである。



(キ)図7(a)〜(c)に係る開口絞り面の光状態は、図5に係る透過光装置において得られているところ、図5によれば、光変調器LMに、左側から順に、2つの右向き矢印(以下、その順に、「右向き矢印A」及び「右向き矢印B」という。)と2つの左向き矢印(以下、その順に、「左向き矢印C」及び「左向き矢印D」という。)とが見てとれる。そして、右向き矢印Bと左向き矢印Cとの間に光軸が存在することも見てとれる。
また、図7(a)〜(c)によれば、開口絞りの面(【0013】のとおり、光変調器LMが存在している。)において、左側に図示された入射瞳の平面F1と右側に図示された平面F2とが、光軸を含む中央部で重なっていることが見てとれる。
以上を併せると、図5の光変調器LMにおける右向き矢印Aと左向き矢印Cとで挟まれる領域及び右向き矢印Bと左向き矢印Dとで挟まれる領域が、それぞれ、図7(a)〜(c)における入射瞳の平面F1及び平面F2に対応していると認められる。

(ク)上記の各記載事項を踏まえて、引用文献2の記載内容を図7(c)に関する事項を中心にして整理すると、次のとおりである。

a(a)上記(キ)でも説示したとおり、図7(c)に係る開口絞り面の光状態は、図5に係る透過光装置において得られているところ、当該透過光装置は、請求項13に対応すると解される。
そして、当該請求項13には、立体観察装置が「少なくとも二つの照明光束を交互に生成し、照明光学系により各角度で観察対象を照明するための手段を有する」ことが特定されているところ、当該「手段」は、【0013】の「それぞれ照明光路の開口絞り面に光変調器LMを有し」との記載に照らせば、図5における光変調器LMによって実現されているといえる。

(b)図7(c)について、【0018】には「開口絞り面(=対物レンズの入射瞳)の光状態を示」すと記載されているところ、【0016】の「開口絞りの面(=対物レンズの入射瞳)の光状態を示し、・・・ある時限で照明光束により入射瞳の平面F1が、次の時限で平面F2が照明される。」との記載は、文脈に照らして、図7(c)にも妥当すると解される。そして、二つの照明光束は、上記(a)のとおり、光変調器LMによって実現されている。
よって、図7(c)に関して、立体観察のために、対物レンズの入射瞳に設置された開口絞りの面を、光変調器LMによって、入射瞳の平面F1及び入射瞳の平面F2に時限で分割することが理解できる。

(c)図7(c)の入射瞳の平面F1及び入射瞳の平面F2は、それぞれ、一方の眼で観察するチャネル及び他方の眼で観察するチャネルに対応すると認められる。
すなわち、上記(a)における「二つの照明光束」の一方及び他方は、立体観察装置について、各角度で観察対象を照明するためのものであるから、それぞれ、一方の眼で観察するチャネル及び他方の眼で観察するチャネルを形成するものであるといえる。そして、上記(キ)のとおり、図5の変調器LMにおける右向き矢印Aと左向き矢印Cとで挟まれる領域及び右向き矢印Bと左向き矢印Dとで挟まれる領域が、それぞれ、図7(c)における入射瞳の平面F1及び平面F2に対応していることに加えて、これらの平面F1及び平面F2が入射瞳として位置付けられていることから、上記「二つの照明光束」の一方及び他方が、それぞれ、入射瞳の平面F1及び平面F2に対応しているといえる。
よって、図7(c)において、入射瞳の平面F1及び入射瞳の平面F2は、それぞれ、一方の眼で観察するチャネル及び他方の眼で観察するチャネルに対応すると認められる。

(d)以上によれば、図7(c)に関して、立体観察のために、対物レンズの入射瞳に設置された開口絞りの面を、光変調器LMによって、左眼で観察するチャネルと右眼で観察するチャネルとに時限で分割することが理解できる。

b 請求項13には、「絞り」を「少なくとも二つの照明光束を交互に生成し、照明光学系により各角度で観察対象を照明するための手段」「の手段内」とすることが記載されており、【0019】にはこれと同旨であって、図7(c)で示される不透明な直角絞りZBを、液晶マトリクスにより光変調器LM自体の中で実現することが記載されている。
そして、【0018】には、不透明な直角絞りZBが可変「中央」絞りとして記載されていることからみると、当該不透明な直角絞りZBが、「中央」、すなわち、立体像生成装置の光軸を含む位置、を絞ることで立体像生成装置の光軸を含む位置を不透明にすることが明らかである。
したがって、図7(c)に関して、液晶マトリクスにより光変調器LM自体の中で可変中央絞りZBを不透明な直角絞りとして実現することで、立体観察装置の中央である光軸を含む位置を不透明にすることが理解できる。

c 図7(c)について、【0018】には、可変中央絞りZBを不透明な直角絞りとすることで、直角絞りの幅bの違いにより立体像の解像度を観察対象に適合させることが記載されているところ、【0017】には、解像度の向上がゼロ次回折波を部分的に抑制させることによる旨記載されており、この記載は、図7(c)にも妥当すると解される。
したがって、図7(c)に関して、不透明な直角絞りの幅bの違いにより、ゼロ次回折波が部分的に抑制されて立体像の解像度を観察対象に適合させることが理解できる。

イ 引用文献2に記載された技術的事項

上記アから、引用文献2には、図7(c)に関して、次の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

立体観察のために、対物レンズの入射瞳に設置された開口絞りの面を、光変調器LMによって、左眼で観察するチャネルと右眼で観察するチャネルとに時限で分割するとともに、(上記ア(ク)a)
液晶マトリクスにより光変調器LM自体の中で可変中央絞りZBを不透明な直角絞りとして実現することで、立体観察装置の中央である光軸を含む位置を不透明とし、(上記ア(ク)b)かつ、
上記直角絞りの幅bの違いにより、ゼロ次回折波が部分的に抑制されて立体像の解像度を観察対象に適合させる、(上記ア(ク)c)
との技術的事項。

進歩性欠如の判断

(1)本願発明と引用発明1との対比

ア 本願発明の「顕微鏡(10)であって、」との特定事項について

引用発明1の「複数の画像を得るための顕微鏡システムであって、」は、本願発明の「顕微鏡(10)であって、」に相当する。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

イ 本願発明の「前記顕微鏡(10)は、少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)を形成するための、光路(22)に配置された開口制限器(12)を有し、」との特定事項について

引用発明1の「観察ビーム経路」及び「開口絞り」は、それぞれ、本願発明の「光チャネル」及び「開口制限器」に相当する。そして、引用発明1の「開口絞り」は、「前記観察ビーム経路が前記開口絞りの可変開口によって選択可能であるように構成され」るものであり、また、引用発明1の「観察ビーム経路」が本願発明でいう「光路(22)」に属することは明らかであるから、当該「開口絞り」は、本願発明でいう「少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)を形成するための、光路(22)に配置された」「開口制限器」といえる。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

ウ 本願発明の「前記開口制限器(12)は、前記少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)の開口を設定するために構成されている、顕微鏡(10)において、」との特定事項について

引用発明1の「開口絞り」は、「前記観察ビーム経路が前記開口絞りの可変開口によって選択可能であるように構成され」るものであるから、観察ビーム経路の開口を設定するために構成されていることは明らかであり、よって、当該「開口絞り」は、本願発明でいう「前記少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)の開口を設定するために構成されている」「開口制限器」といえる。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

エ 本願発明の「前記開口制限器(12)は、第1の動作モードでは第1の光チャネル(16)を、第2の動作モードでは少なくとも1つの第2の光チャネル(18)を、巨視的な機械式動作なしに選択的に形成可能であるように構成されており、」との特定事項について

引用発明1の「単眼画像化獲得モード」及び「立体画像化モード」は、それぞれ、本願発明の「第1の動作モード」及び「第2の動作モード」に相当する。そして、引用発明1では、それぞれの動作モードに対応する「観察ビーム経路」が存在するといえるので、引用発明1は、本願発明でいう「第1の動作モード」に対応した「第1の光チャネル(16)」及び「第2の動作モード」に対応した「少なくとも1つの第2の光チャネル(18)」を備えていることになる。この点、本願発明の「第2の動作モード」に相当する、引用発明1の「立体画像化モード」について、その動作モードに対応する「左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネル」のいずれか一方が、本願発明の「第2の光チャネル(18)」に相当する。
また、引用発明1の「開口絞り」は、「LCDマトリックスを含み」、「前記観察ビーム経路が前記開口絞りの可変開口によって選択可能であるように構成され」たものである。ここで、本願発明の「光チャネルを、巨視的な機械式動作なしに選択的に形成可能であるように構成され」た「開口制限器」とは、本願の願書に添付された明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の【0062】及び【0066】を参照すると、電子制御式の「液晶マトリクス」を含むものとして構成される。
よって、引用発明1の「LCDマトリックスを含」む「開口絞り」は、本願発明の「光チャネルを、巨視的な機械式動作なしに選択的に形成可能であるように構成され」た「開口制限器」に相当する。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

オ 本願発明の「前記開口制限器(12)は、前記光路(22)の瞳面(24)に配置されており、」との特定事項について

引用発明1の「ひとみの位置」は、本願発明の「瞳面」に相当する。よって、引用発明1の「開口絞りは、ひとみの位置に配置されて」いることは、本願発明の「前記開口制限器(12)は、前記光路(22)の瞳面(24)に配置されて」いることに相当する。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

カ 本願発明の「前記開口制限器(12)は、前記第1の動作モードでは前記第1の光チャネル(16)が前記光路(22)の光軸(26)に対してセンタリングされ、かつ、前記光軸(26)を中心とした中央の領域に形成されているように、」「構成されており、」との特定事項について

引用発明1の「単眼画像化獲得モード」(本願発明の「第1の動作モード」に相当。)は、「開口絞りのすべてのエリア要素を同時に開いた状態に切換えることによって、単眼画像を得ることを可能にする観察ビーム経路」を「選択」するから、「開口絞り」は、「単眼画像化獲得モード」の観察ビーム経路が、光軸OAを中心とした中央の領域に形成されているように、構成されている。
そのため、引用発明1の「開口絞り」は、「単眼画像化獲得モード」の観察ビーム経路が、本願発明でいう「前記光路(22)の光軸(26)に対してセンタリングされ、かつ、前記光軸(26)を中心とした中央の領域に形成されている」ように構成されている。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

キ 本願発明の「前記開口制限器(12)は、」「前記第2の動作モードでは前記少なくとも第2の光チャネル(18)が前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように、」「構成されており、」との特定事項について

引用発明1の「開口絞り」の「動作モード」である「立体画像化モード」(本願発明の「第2の動作モード」に相当。)における「左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネル」は、本願発明の「少なくとも第2の光チャネル(18)」に相当する。
一方、引用発明1の「左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネル」は、「半円の形状を有する」「エリア要素61b」と「エリア要素62b」の開閉を切換えることで選択されるものであるから、半円の形状を有するものの、本願発明における「前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされる」といえるか不明である。

したがって、引用発明1は、本願発明の「前記開口制限器(12)は、」「前記第2の動作モード」における「前記少なくとも第2の光チャネル(18)」を備えるものとして構成されているが、
「第2の光チャネル(18)」が、「前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされる」といえるか不明である。

ク 本願発明の「前記開口制限器(12)は、前記第2の動作モードにおいて、前記少なくとも第2の光チャネル(18)と第3の光チャネル(20)とがシーケンシャルに形成されるように、かつ、前記少なくとも第2の光チャネル(18)と第3の光チャネル(20)とがそれぞれ光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように構成されており、」との特定事項について

引用発明1の「立体画像化モード」(本願発明の「第2の動作モード」に相当。)における「左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネル」のいずれか一方が、本願発明の「前記第2の動作モード」における「第2の光チャネル(18)」に相当し、他方は、本願発明の「第3の光チャネル(20)」に相当する。

してみると、引用発明1は、本願発明の「前記開口制限器(12)は、前記第2の動作モードにおいて、前記少なくとも第2の光チャネル(18)と前記第3の光チャネル(20)」を備えるものとして構成されているが、
本願発明でいう「シーケンシャルに形成される」かは不明であり、さらに、
上記キと同様に、引用発明1は、本願発明の「前記少なくとも第2の光チャネル(18)と第3の光チャネル(20)とがそれぞれ前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされる」といえるか不明である。

ケ 本願発明の「前記少なくとも第2の光チャネル(18)と前記第3の光チャネル(20)とは、非中央の光チャネルであり、」との特定事項について

引用発明1の「左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネル」は、「半円の形状を有する」「エリア要素61b」と「エリア要素62b」「とを合わせて形成される円の中心に光軸OAが存在」する光チャネルであるが、
本願発明における「非中央の光チャネル」といえるか不明である。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備えるといえるか不明である。

コ 本願発明の「前記顕微鏡(10)は、ズーム系(32)を有し、前記ズーム系(32)は、前記第1の動作モードおよび前記第2の動作モードにおいて共通に用いられる、
顕微鏡(10)。」との特定事項について

引用発明1の「ズーム系」は、本願発明の「ズーム系(32)」に相当する。そして、引用発明1の「ズーム系を含」む「顕微鏡システム」は、「単眼画像化獲得モードおよび立体画像化モードを含」む「動作モード」で動作するから、「ズーム系」は、「単眼画像化獲得モードおよび立体画像化モード」において共通に用いられるものである。
よって、引用発明1の「ズーム系」は、本願発明の「前記第1の動作モードおよび前記第2の動作モードにおいて共通に用いられる」といえる。

したがって、引用発明1は、本願発明の上記特定事項を備える。

(2)一致点及び相違点の認定

上記(1)によれば、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「顕微鏡(10)であって、
前記顕微鏡(10)は、少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)を形成するための、光路(22)に配置された開口制限器(12)を有し、
前記開口制限器(12)は、前記少なくとも1つの光チャネル(16;18;20)の開口を設定するために構成されている、
顕微鏡(10)において、
前記開口制限器(12)は、第1の動作モードでは第1の光チャネル(16)を、第2の動作モードでは少なくとも1つの第2の光チャネル(18)を、巨視的な機械的動作なしに選択的に形成可能であるように構成されており、
前記開口制限器(12)は、前記光路(22)の瞳面(24)に配置されており、
前記開口制限器(12)は、
前記第1の動作モードでは前記第1の光チャネル(16)が前記光路(22)の光軸(26)に対してセンタリングされ、かつ、前記光軸(26)を中心とした中央の領域に形成されているように、
構成されており、
前記顕微鏡(10)は、ズーム系(32)を有し、前記ズーム系(32)は、前記第1の動作モードおよび前記第2の動作モードにおいて共通に用いられる、
顕微鏡(10)。」

[相違点1]
前記少なくとも第2の光チャネル(18)と第3の光チャネル(20)について、
本願発明では、「それぞれ前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように」構成されているとともに、「非中央の光チャネル」とされているのに対し、
引用発明1では、左側ステレオチャネルおよび右側ステレオチャネルは、ともに「半円の形状を有する」「エリア要素61b」と「エリア要素62b」の開閉を切換えることで選択されるから、半円の形状を有するものとされており、「エリア要素61b」と「エリア要素62b」「とを合わせて形成される円の中心に光軸OAが存在」するものの、
本願発明でいう「前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように」構成されているといえるのか、また「非中央の光チャネル」とはいえるのかが不明である点。

[相違点2]
前記少なくとも第2の光チャネル(18)と第3の光チャネル(20)について、
本願発明では、「シーケンシャルに形成される」のに対し、
引用発明1では、そうであるのか不明である点。

(3)相違点に対する判断

ア 上記相違点1について検討する。

(ア)引用文献1の【0011】には「観察ビーム経路は開口絞りによって選択可能であるため、顕微鏡システムは、対象物に対する顕微鏡システムの位置、対象物に対する顕微鏡システムの向き、対象物に対する観察者の位置、および/または対象物に対する観察者の向きに関して、適合可能であってもよい。さらに、観察ビーム経路の輝度および/または焦点深度が調整可能であってもよい。」と記載されている。
ここで、立体像を観察する顕微鏡の技術分野において、立体像の解像度を調整することは当業者に自明な課題であるところ、上記のとおり、同【0011】には、観察ビーム経路の焦点深度を調整することが記載されているが、焦点深度を調整すれば解像度も調整されることは技術常識である。
そうすると、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明1において、立体像の解像度を調整するとの課題を認識できると認められる。

(イ)他方、引用文献2には、上記1(2)イに認定したとおりの技術的事項であって、要するに、対物レンズの入射瞳に設置された開口絞りの面を、光変調器LMによって左眼と右眼で観察するチャネルに時限で分割した立体観察装置において、立体像の解像度を調整するために、光変調器LM自体の中で、不透明な直角絞りZBを実現するとの技術的事項が記載されているといえる。
ところで、引用文献2には、請求項12に「対物レンズの出射瞳面または近傍、もしくは出射瞳と光学的に共役に絞りを有する」と特定されており、【0007】にもこれと同旨が記載されている。そうすると、上記技術的事項は、光変調器LM(及びそれ自体の中で実現される不透明な直角絞りZB)を、入射瞳の位置に代えて、出射瞳の位置に設置した場合にも妥当するといえる。

(ウ)そして、引用発明1の「開口絞り」は、引用文献2に記載された開口絞りと構成的及び機能的に共通するものである。すなわち、引用発明1の「開口絞り」は、「ひとみの位置に配置されてもよく」、「LCDマトリックスを含」むものである。さらに、当該「開口絞り」は、その「中心に光軸OAが存在」し、「左側および右側の立体的な半分の画像」を得るための「左側および右側ステレオチャネルを含」む「観察ビーム経路が」「選択可能であるように構成され」るものである。

(エ)そうすると、引用発明1において、立体像の解像度を調節するために、引用発明1の「開口絞り」に対して引用文献2に記載された技術的事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであって、そのように構成することにより、当業者は、相違点1に係る構成に至る。
すなわち、当該採用による構成は、引用発明1のLCDマトリックスからなる「開口絞り」自体の中に、可変中央絞りZBを不透明な直角絞りとして実現したものである。そして、引用発明1の「開口絞り」は、「半円の形状を有する」「エリア要素61b」(左側ステレオチャネルを選択するものである。)と「エリア要素62b」(右側ステレオチャネルを選択するものである。)「とを合わせて形成される円の中心に光軸OAが存在」するものであった。
よって、当該採用により、引用発明1の「開口絞り」の上記「エリア要素61b」及び「エリア要素62b」は、ともに、光軸OAを含まないものとなるから、それらに対応する左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネルは、いずれも、本願発明でいう「前記光軸(26)に対して水平方向にシフトされるように」構成されているとともに、「非中央の光チャネル」となっているといえる。

(オ)また、引用発明1において、左側ステレオチャネル及び右側ステレオチャネルにより、「左側及び右側の立体的な半分の画像」が得られるところ、これらのステレオチャネルをどのような位置関係で配置するかは、観察される立体像に求められる立体感の程度に応じて当業者が適宜設計できたことともいえるから、この点からみても、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることに格別の技術的困難性があるとはいえない。

(カ)以上によれば、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 上記相違点2について検討する。

引用発明1では、「開口絞りは、立体画像の左半分の画像および右半分の画像が得られるように、2つの画像間で観察ビーム経路を変動させる」ものである。
一方、立体像を観察する顕微鏡の技術分野において、立体像を観察する際に、左眼で観察する画像が得られるチャネルと右眼で観察する画像が得られるチャネルとを、左眼及び右眼へと時限的に交互に送ること、は周知技術(例えば、引用文献2の【0004】、【0009】を参照)である。
してみると、引用発明1において、立体画像を得るための、左側及び右側の観察ビーム経路の変動を実現すべく、上記周知技術にならい、左側及び右側の観察ビーム経路を、左眼及び右眼へと時限的に交互に送ることで、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本願発明の奏する効果について
本願明細書等に記載された、上記各相違点に係る本願発明の奏する効果を総合しても、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術が奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)審判請求人の主張について

ア 審判請求人は、令和3年8月13日提出の意見書において、
「一方、引例1では、瞳制限は、機械的なダイアフラム要素の巨視的な機械式動作によって、すなわち、シャッターまたはダイアフラムおよびその部分面によって達成されます。・・・本願発明は、巨視的な機械式動作なしの開口制限器により、引例1に記載の機械的なダイアフラム要素にはない有利な効果を有」すると主張する。

しかしながら、上記(1)エにて説示したとおり、引用発明1の「開口絞り」は、「LCDマトリックスを含」むから、引用発明1は、本願発明と同じく、巨視的な機械式動作なしの開口制限器を備える。

イ また、審判請求人は、同意見書において、
「引例1の図4aの開口絞り60bでは、左目用のエリア要素61bおよび右目用のエリア要素62bは、それぞれ半円の形状を有します。
仮に、引例1において、立体像の解像度を調整しようとするならば、図4bの開口絞り60cにおいて、左目用のエリア要素63c、64cのうちの一方を開くことにより、図4aにおける半円形状の開口部の半分の面積を開口部とすると考えられます。
同様に、図4cの開口絞り60dにおいて、左目用のエリア要素65d、66d、67d、68dのうちの1つまたは複数を開くことにより、開口部の面積を調整し、立体像の解像度を調整することができます。
このように、引例1の装置にはすでに、開口部の面積を調整する構成が設けられているので、引例1の図4aの開口絞り60bにおいて、引例2の図7cに記載の可変中央絞りZBという追加の部材を設置して、本願発明の構成とすることは審判官の後知恵であるといえます。」と主張する。

しかしながら、引用文献1には、審判請求人が主張するところの「開口絞り60cにおいて、左目用のエリア要素63c、64cのうちの一方を開くことにより、図4aにおける半円形状の開口部の半分の面積を開口部とする」ことは記載されていない。むしろ、引用文献1には、図4bに示される開口絞り60cに、4つのエリア要素61c、62c、63c及び64cを構成した目的について、同【0144】を参照すると、左側及び右側ステレオチャネルの開口を+90°、−90°または180°回転させるためであること、が記載されている。
したがって、引用文献1において、開口絞り60cに4つのエリア要素を設けたことは、審判請求人が主張するような「立体像の解像度を調整する」ことを目的としたものとはいえない。
図4cに示される開口絞り60dについても、同【0147】を参照すると、開口絞り60cについて示したことと同じことがいえる。

ウ さらに、審判請求人は、同意見書において、「引例1の目的は、コンパクトなサイズの多用途顕微鏡システムを提供することであるため(段落0007参照)、引例1において、可変中央絞りZBという追加の部材を設置するとは考えられません。」と主張する。

しかしながら、上記(3)ア(エ)において説示したとおり、引用発明1の「開口絞り」に対して、引用文献2に記載された技術的事項を採用して得られる構成は、引用発明1のLCDマトリックスからなる「開口絞り」自体の中に、不透明な直角絞りを実現したものとなるのであって、不透明な直角絞りは、「開口絞り」に対して「追加の部材」となるものではない。
また、引用文献1においては、LCDマトリックスのある領域を、光透過しない領域として絞りを形成することが記載されているのだから(同【0019】)、引用発明1において、LCDマトリックスからなる「開口絞り」自体の中で不透明な直角絞りを実現することは、当業者が適宜なし得たことに過ぎないともいえる。

エ よって、審判請求人の主張は、いずれも採用できない。

(6)進歩性欠如についてのまとめ

したがって、本願発明は、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 山村 浩
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-12-09 
結審通知日 2021-12-14 
審決日 2022-01-06 
出願番号 P2017-518470
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 井上 徹
瀬川 勝久
発明の名称 開口制限器を有する顕微鏡  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
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