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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 A61F
管理番号 1384631
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-02 
確定日 2022-06-14 
事件の表示 特願2016−37105「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月7日出願公開、特開2017−153538、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成28年2月29日を出願日とする特許出願であって、令和元年12月25日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年2月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月30日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月10日付けで同年5月19日の手続補正書による補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ(当該拒絶査定の謄本の送達は同年6月23日)、これに対して、同年9月2日に本件拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和3年2月4日に上申書が提出され、令和3年10月29日付けで令和2年9月2日の手続補正書による補正の却下の決定がされるとともに拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
・ 令和2年2月14日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
・ 令和2年2月14日提出の手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
・ 本願の請求項1〜3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1 特開2011−177309号公報
引用文献2 特開2011−104021号公報(周知技術を示す文献)

4.本願発明
本願の請求項1〜3に係る発明は、令和3年12月16日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜3により特定される以下のとおりのものである(本願の請求項1〜3に係る発明を、以下「本願発明1」等という。)。

「【請求項1】
液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、を有する吸収性物品であって、
前記吸収体は、少なくとも2層の層状吸収体からなり、
前記吸収体は、吸収体の幅方向中心部において、長手方向に延在する中央スリットを有し、前記層状吸収体のうち、トップシート側の最上層に位置する層状吸収体においてのみ、前記中央スリットの両脇に、前記中央スリットと平行に配置された一対のサイドスリットが形成されており、
前記中央スリットの幅方向の寸法が20mm以上35mm以下であり、前記サイドスリットの幅方向の寸法が10mm以上20mm以下であり、
前記吸収体(23)に形成される中央スリット(24)の長手方向の寸法は、145mm以上315mm以下であり、上層吸収体(231)に形成されるサイドスリット(25)の長手方向の寸法は、95mm以上200mm以下である、
吸収性物品。
【請求項2】
前記中央スリットの長手方向の寸法が、前記サイドスリットの長手方向の寸法よりも大きい、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記吸収体が、3層以上の層状吸収体からなる、請求項1又は2に記載の吸収性物品。」

なお、本願発明において令和3年12月16日付け手続補正書による補正で新たに付加された発明特定事項は、「前記吸収体(23)に形成される中央スリット(24)の長手方向の寸法は、145mm以上315mm以下であり、上層吸収体(231)に形成されるサイドスリット(25)の長手方向の寸法は、95mm以上200mm以下である」ところ、当初明細書等の段落【0027】にそれと同様の記載が存在しているから、新規事項に当たるものではなく、本願発明の発明特定事項全体として、当初明細書等に記載されていた事項である。

5.引用発明
(1)当審拒絶理由に引用された特開2011−177309号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、吸収体を屈曲させる屈曲部が吸収体に形成された使い捨て着用物品に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上述した従来のパンツ型おむつは、吸収体を切り欠いたくびれ部が形成されているため吸収体の容量が減少する。このため、軽度の失禁に対しては特に問題にならないが、吸収量を向上させようとした場合、このくびれ部周辺における吸収面積を増大することが難しく、吸収量を容易に向上できない。
【0008】
特に、着用者が寝た姿勢の場合、股下領域の後ろ側に位置する背中側の中間股下領域からの漏れが多くなる。つまり、寝た姿勢の状態が長い着用者に対しては、股下領域の後ろ側に位置する背中側の中間股下領域における吸収力を増大させることができれば、中度以上の失禁に対しても排泄物の漏れ防止に大きく貢献する。
【0009】
そこで、本発明は、吸収体を屈曲させて着用者の装着感向上や排泄物の漏れ防止を確実に図りつつ、さらに吸収力を向上させたパンツ型おむつなどの使い捨て着用物品の提供を目的とする。」
「【発明の効果】
【0011】
本発明の特徴によれば、吸収体を屈曲させて着用者の装着感向上や排泄物の漏れ防止を図る場合において、さらに吸収力を向上させたパンツ型おむつなどの使い捨て着用物品を提供することができる。」
「【0018】
使い捨ておむつ1は、使い捨ておむつ1の外装部分を構成する外装トップシート70及び前側外装バックシート80F,後側外装バックシート80Rを備える。外装トップシート70の内側(肌当接面側)には、綿状パルプと高分子吸水性ポリマーから構成される吸収体40が設けられる。
【0019】
吸収体40には、複数のスリットが形成される。具体的には、吸収体40の幅方向における中央に中央スリット45が形成される。また、中央スリット45の両側方には、サイドスリット46L及びサイドスリット46Rが形成される。吸収体40に形成されたこれらのスリットによって、使い捨ておむつ1が着用された際に吸収体40が屈曲できるように構成されている。」
「【0028】
使い捨ておむつ1は、表面シート10、吸収体40、サイドシート60、外装トップシート70、前側外装バックシート80F及び後側外装バックシート80Rを備える。表面シート10、吸収体40、サイドシート60、外装トップシート70及び前側外装バックシート80F,80Rは、接着剤や熱融着などによって各々が接合されている。
【0029】
表面シート10は、着用者の肌に直接的に接し得る肌当接面を形成するシートである。表面シート10は、親水性不織布や織物、開口プラスチックフィルム、開口疎水性不織布などの液透過性のシートによって形成されている。」
「【0031】
吸収体裏面被覆シート30は、吸収体40を介して表面シート10や吸収体表面被覆シート20と逆側の面となる非肌当接面側に設けられている。吸収体裏面被覆シート30は、液不透過性フィルムなど(例えば、ポリエチレン)の防漏性シートによって形成されている。なお、図3では、図示を省略しているが、吸収体表面被覆シート20は、スリット(中央スリット45及びサイドスリット46L,46R)が形成された部分において、吸収体裏面被覆シート30と接合されている。なお、吸収体表面被覆シート20がなく、表面シート10がスリット(中央スリット45及びサイドスリット46L,46R)が形成された部分において、吸収体裏面被覆シート30と接合されている構成でもよい。」
「【0037】
中央スリット45は、内方向INに凸、つまり、吸収体40が着用者に向けて凸に屈曲できるように、長さ方向Lに沿って吸収体40に形成されている。本実施形態において、中央スリット45は、中央屈曲部を構成する。サイドスリット46L,サイドスリット46Rは、中央スリット45よりも幅方向Wの外側において、外方向OUTに凸、つまり吸収体40が中央スリット45と逆側に凸に屈曲できるように、長さ方向Lに沿って吸収体40に形成されている。本実施形態において、サイドスリット46L,サイドスリット46Rは、サイド屈曲部を構成する。
【0038】
中央スリット45の幅は約10mmであり、長さは、約200mmである。サイドスリット46L,サイドスリット46Rの幅は約10mmであり、長さは約120mmである。また、吸収体40の厚さは、約2.0mmである。なお、中央スリット45及びサイドスリット46L,46Rの幅は、5mm〜12mmであることが好ましい。」
「【0053】
・・・使い捨ておむつ1が着用されると、中央スリット45の部分は、着用者(内方向IN)に向けて凸となるように変形し頂面45aを形成する。一方、サイドスリット46L(サイドスリット46R)の部分は、非肌当接面側(外方向OUT)に凸となるように変形する。具体的には、中央スリット45の部分は、着用者の両脚に挟まれて着用者に向けて凸となる一方、サイドスリット46L(サイドスリット46R)の部分は、側縁部50Aの収縮によって着用者側に起き上がる。このため、吸収体40の幅方向Wに沿った断面がW字状に変形し、頂面45aは、着用者の股間部から離れずに密着し得る。」
「【0059】
本実施形態では、横断弾性材7Aは、中央スリット45及びサイドスリット46L,46Rのうち、中央スリット45のみと交差する。このため、吸収体40を横断弾性材7Aで収縮すれば、中央スリット45の幅に相当する吸収体40の幅を確実に狭くすることができる。」
「【0065】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る使い捨ておむつ1Yの構成について、図面を参照しながら説明する。なお、上述した第1実施形態に係る使い捨ておむつ1と同一部分には同一の符号を付して、相違する部分を主として説明する。
【0066】
図10は、第3実施形態に係る使い捨ておむつ1Yの展開平面図である。図11は、使い捨ておむつ1Yの断面図(図10のA−A線を基準)である。図12は、第3実施形態に係る吸収体40Xの斜視図である。図10〜図12に示すように、本実施形態に係る吸収体40Xは、2層構造である。
【0067】
具体的には、吸収体40Xは、第1層41と、第1層41と重ねられる第2層42とを有する。第1層41は、着用者との肌当接面側に位置し、第2層42は、着用者の非肌当接面側に位置する。第1層41には、長さ方向Lに沿って延びる中央スリット41Cと、長さ方向Lに沿って延びるサイドスリット41L,41Rとが形成される。サイドスリット41L,41Rは、サイドスリット46L,46Rと同様に股下領域S1に形成される。
【0068】
第2層42には、長さ方向Lに沿って延びる中央スリット42Cが形成される。中央スリット42Cは、中央スリット45などと同様に股下領域S1に形成される。
【0069】
第1層41には、幅方向Wにおける吸収体40Xの中央に向けてくびれた一対のくびれ部41Sが形成されている。また、第2層42は、くびれ部41Sの位置と重なり、幅方向Wの外側に向けて張り出した一対の張り出し部42Pを有する。
【0070】
なお、第2層42が着用者との肌当接面側に位置し、第1層41が着用者の非肌当接面側に位置するようにしてもよい。
【0071】
横断弾性材7Aは、一対のくびれ部41Sの部分において吸収体40Xを横断する。このため、張り出し部42Pは、横断弾性材7Aによって、幅方向Wにおける吸収体40Xの中央に向けて収縮させられている。張り出し部42Pの部分は、第2層42のみによって形成されているため、収縮し易い。
【0072】
また、本実施形態では、横断弾性材7Aは、中央スリット41C(中央屈曲部)及びサイドスリット41L,41R(サイド屈曲部)の何れとも交差しない位置において吸収体40Xを横断する。横断弾性材7Aの外側の後側中間股下領域S5には、スリットが形成されていないため、吸収体40Xが折れ曲がり難く、平坦になり易い。
【0073】
また、前胴回り領域S2(前側中間股下領域S4)及び後胴回り領域S3(後側中間股下領域S5)のうち、少なくとも後胴回り領域S3(後側中間股下領域S5)のフィット弾性体9Aが設けられる部分は、吸収体40X(具体的には吸収体本体50)と固定されることなく吸収体40Xと交差する。つまり、フィット弾性体9Aが設けられる部分において、吸収体本体50を構成する吸収体裏面被覆シート30と外装トップシート70とは接合されておらず、フィット弾性体9Aは、外装トップシート70と後側外装バックシート80Rとに接合されている。すなわち、吸収体40Xを交差する横断弾性材7A及びフィット弾性体9Aのうち、横断弾性材7Aのみが吸収体40Xに固定される。
【0074】
使い捨ておむつ1Yによれば、少なくとも後胴回り領域S3(後側中間股下領域S5)では、吸収体40Xを交差する横断弾性材7A及びフィット弾性体9Aのうち、横断弾性材7Aのみが吸収体40Xに固定されているため、横断弾性材7Aによって収縮されている吸収体40Xは、フィット弾性体9Aの収縮による影響を受けない。つまり、吸収体40Xは、フィット弾性体9Aの影響を受けずに横断弾性材7Aによって確実に収縮できる。なお、フィット弾性体9Aは、必ずしもこのように吸収体40Xから離れた状態にせず、例えば、前胴回り領域S2(前側中間股下領域S4)のフィット弾性体9Aは、吸収体40Xに固定しても構わない。」

「【図10】



「【図12】



(2)上記(1)の記載事項、特に図面の記載を伴って第3実施形態として説明された紙おむつの構成に着目すると、その中央スリット41C及びサイドスリット41は互いに平行に配置されていると把握できるから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認めることができる。

「液透過性のシートによって形成されている表面シートと、液不透過性フィルムなどの防漏性シートによって形成されている吸収体裏面被覆シートと、表面シート及び吸収体裏面被覆シートの間に配置された吸収体と、を有する使い捨ておむつであって、
前記吸収体は、第1層と第2層とからなり、
前記吸収体は、吸収体の幅方向中心部において、長手方向に延在する中央スリットを有し、前記層状吸収体のうち、表面シート側の最上層に位置する第1層においてのみ、前記中央スリットの両脇に、前記中央スリットと平行に配置された一対のサイドスリットが形成されており、
前記中央スリットは、幅方向の寸法が約10mmであり、長さ方向の寸法が約200mmであり、前記サイドスリットは、それぞれ、幅方向の寸法が約10mmであり、長さ方向の寸法が約120mmである、
使い捨ておむつ。」

6.当審拒絶理由についての判断
(1)特許法第17条の2第3項に規定する要件について
すでに上記3.で述べたように、令和2年2月14日の手続補正書による補正事項は、すべて令和3年12月16日の手続補正書により補正されており、この要件についての不備は解消している。
(2)特許法第29条第2項に規定する要件について
ア.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「液透過性のシートによって形成されている表面シート」、「液不透過性フィルムなどの防漏性シートによって形成されている吸収体裏面被覆シート」、「使い捨ておむつ」、「第1層と第2層」とからなる「吸収体」、「中央スリット」、「サイドスリット」は、それぞれ、本願発明の「液透過性のトップシート」、「液不透過性のバックシート」、「吸収性物品」、「2層の層状吸収体」からなる「吸収体」、「中央スリット」、「サイドスリット」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、トップシート及びバックシートの間に配置された吸収体と、を有する吸収性物品であって、
前記吸収体は、少なくとも2層の層状吸収体からなり、
前記吸収体は、吸収体の幅方向中心部において、長手方向に延在する中央スリットを有し、前記層状吸収体のうち、トップシート側の最上層に位置する層状吸収体においてのみ、前記中央スリットの両脇に、前記中央スリットと平行に配置された一対のサイドスリットが形成されている、
吸収性物品。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「前記中央スリットの幅方向の寸法が20mm以上35mm以下であり、前記サイドスリットの幅方向の寸法が10mm以上20mm以下であり、前記吸収体(23)に形成される中央スリット(24)の長手方向の寸法は、145mm以上315mm以下であり、上層吸収体(231)に形成されるサイドスリット(25)の長手方向の寸法は、95mm以上200mm以下である、」のに対して、引用発明では、中央スリットは、幅が約10mmであり、長さが約200mmであり、サイドスリットは、それぞれ、幅が約10mmであり、長さが約120mmである点。

イ.判断
(ア)引用発明のサイドスリットの幅、長さの方向の寸法は、いずれも、本願発明のサイドスリットの幅方向の寸法、長手方向の寸法に含まれている。
引用発明の中央スリットの長さ方向の寸法は、本願発明の中央スリットの長手方向の寸法に含まれているが、引用発明の中央スリットの幅方向の寸法は、「約10mm」であるので、本願発明の中央スリットの幅方向の寸法「20mm以上35mm以下」の範囲から外れている。
(イ)そこで、中央スリットの幅方向の寸法について検討する。
a.引用発明を開示する引用文献1には、中央スリットの幅方向の寸法に関する記載として、「なお、中央スリット45及びサイドスリット46L,46Rの幅は、5mm〜12mmであることが好ましい。」(段落【0038】)とある。
引用文献1にはまた、その背景技術において吸収体容量が減少することや、吸収面積を増大させて吸収量を容易に向上させることが難しいという認識が示されていて、発明の効果として吸収力を向上させたということが記載されている(段落【0007】〜【0009】、【0011】)。
さらに、引用発明の「中央スリット」は、着用者に向けて凸とするための屈曲部として設けられたものである(段落【0019】、【0053】)。
b.ここで、中央スリットの幅を増大させることが吸収体容量の減少、ひいては吸収力の減少につながることは、当業者にとって自明な事項というべきである。
引用発明の中央スリットの幅は、「約10mm」から変更し得ないというものではないが、そうであるからといって、好ましいとされた「5mm〜12mm」の範囲を大きく越えた「20mm以上35mm以下」の範囲としようとすれば、中央スリットは、屈曲部として十分に機能し得る幅の約2倍の寸法となり、吸収体容量、吸収力が減少することになるため、引用文献1の課題ないし効果でいう吸収力向上とは相反する変更である。そうすると、引用発明において、中央スリットの幅方向の寸法として「20mm以上35mm以下」とするための動機付けはない。また、中央スリットとその両脇に一対のサイドスリットが形成されている吸収性物品において、中央スリットの幅方向の寸法を「20mm以上35mm以下」とすることが、当業者に知られていた事実であったともいえない。
c.本願の明細書には、本願発明が「2回目以降の排泄による体液であっても、迅速に拡散させて吸収することができ、吸収性物品に圧力がかかった状態で体液が排泄された場合にも、体液の漏れを生じにくい吸収性物品を提供する」ことを課題あるいは目的としたものと記載されている(段落【0006】参照)。そして、本願発明の実施例による繰り返し吸収速度、荷重下での漏れ評価、車椅子使用者による装着時のべたつき官能評価の結果も記載されていて、上記目的の達成あるいは課題の解決がかなうことが示されているといえる。
本願発明1は、その中央スリットの幅寸法を「20mm以上35mm以下」としたことによって、
「吸収体23に形成される中央スリット24の幅方向の寸法は、20mm以上35mm以下であることが好ましく、上層吸収体231に形成されるサイドスリット25の幅方向の寸法は、10mm以上20mm以下であることが好ましい。中央スリット24及びサイドスリット25の幅方向の寸法を上記の範囲内のものとすることにより、体液の吸収速度を効果的に向上させつつ、中央スリット24及びサイドスリット25が過剰量の体液を保持することによる体液の漏れ等も効果的に防止することができる。」(本願明細書の段落【0028】)との格別な作用・効果を奏する。
すると、本願発明と引用発明とで得る効果は異なったものであり、中央スリットの幅方向の寸法の違いもそのような効果の違いに結びついたものといえる。
したがって、本願発明は、相違点に係る構成を備えたことによって、引用発明から予期される以上の効果をもたらすものと評価できる。
(ウ)以上を踏まえると、引用発明において中央スリットの幅方向の寸法が20mm以上35mm以下とすることが当業者にとって容易に想到し得たものではなく、そうすると、相違点に係る本願発明の構成が引用発明に基づいて当業者が容易に採用し得たものということはできない。

ウ.小括
本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

7.原査定についての判断
すでに「3.」で述べたように、令和2年2月14日の手続補正書による補正事項は、すべて当審拒絶理由の通知に応じて提出された令和3年12月16日の手続補正書により補正されており、この要件についての不備は解消している。
したがって、原査定を維持することはできない。

8.むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-05-31 
出願番号 P2016-037105
審決分類 P 1 8・ 561- WY (A61F)
P 1 8・ 121- WY (A61F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 久保 克彦
柳本 幸雄
発明の名称 吸収性物品  
代理人 特許業務法人坂本国際特許商標事務所  

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