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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録(定型) H01M 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) H01M |
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管理番号 | 1384642 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-24 |
確定日 | 2022-06-14 |
事件の表示 | 特願2018−521962「二次電池及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月26日国際公開、WO2017/084538、平成31年 1月17日国内公表、特表2019−501480、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年11月12日(パリ条約による優先権主張2015年11月18日 中国)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。 令和 1年 5月31日付け:拒絶理由通知 令和 1年 8月21日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年10月11日付け:拒絶理由通知 令和 2年 1月17日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 5月21日付け:拒絶査定 令和 2年 9月24日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 3年12月10日付け:当審による拒絶理由通知 令和 4年 4月11日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、令和4年4月11日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし3は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 電池負極、電解液、セパレータ、電池正極及び電池を封止するためのケースを含み、 電池負極は、アルミニウム箔からなる負極集電体であり、負極活物質を含んでおらず、 電解液は、ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであり、さらに添加量が2%wtである負極集電体表面に固体電解質膜を形成できるビニレンカーボネートを含み、 電池正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層はアニオンを可逆的に脱離または挿入できる正極活物質を含み、前記正極活物質は、層状結晶構造を有するグラファイト系材料を含み、 充電時、電解液におけるカチオンが負極集電体に挿入され合金材料を形成し、同時に電解液におけるアニオンが層状結晶構造の正極活物質に挿入され、放電時、カチオンが合金材料から脱離され、電解液に再度戻り、同時に正極活物質に挿入されたアニオンが脱離され、電解液に戻ることを特徴とする、二次電池。 【請求項2】 前記正極活物質における前記グラファイト系材料は、天然グラファイト、人造グラファイトまたはグラファイトシートから選択して使用することを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。 【請求項3】 負極活物質を含むことなく電池負極を製造するステップと、 電解液を調製するステップと、 セパレータを製造するステップと、 電池正極を製造するステップと、 前記電池負極、電解液、セパレータ、電池正極を用いて新型二次電池の組み立てを行うステップと、を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の新型二次電池を製造する二次電池の製造方法。」 第3 令和3年12月10日付け当審の拒絶理由通知について 1 概要 [理由1]本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (1)引用文献1を主引用文献とした場合 ・請求項 1ないし10 ・引用文献等 1−3 (2)引用文献4を主引用文献とした場合 ・請求項 1ないし3、5ないし10 ・引用文献等 4、2、3 <引用文献等一覧> 1.特開2015−130324号公報 2.特開2003−331927号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2006−202529号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2005−259378号公報 [理由2]本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項 1ないし10 ・備考 請求項1には「3gのヘキサフルオロリン酸リチウムを秤量し、5mlのエチルメチルカーボネートに加え、ヘキサフルオロリン酸リチウムが完全に溶解するまで攪拌し、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lである電解液が調製され」と記載され、「電解液」は「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」を「5mlのエチルメチルカーボネート」に加えたものであり、「ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/L」であることが規定されている。 しかし、請求項1には、「電解液は溶媒と電解質を更に含み、前記溶媒は、エステル系、スルホン系またはエーテル系有機溶媒、例えばジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルスルホンまたはジメチルエーテルであり、前記電解質はリチウム塩、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムまたは過塩素酸リチウムである」と記載されていることから、請求項1に係る発明は、「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」以外に更に他の電解質を含み、「5mlのエチルメチルカーボネート」以外に更に他の溶媒を含む、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lである電解液を含むといえる。 ここで、本願明細書の段落【0065】には「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム(Lithium hexafluorophosphate)を秤量し、5mlのエチルメチルカーボネート(Ethyl methyl carbonate)に加え、ヘキサフルオロリン酸リチウム(Lithium hexafluorophosphate)が完全に溶解するまで攪拌し、ヘキサフルオロリン酸リチウム(Lithium hexafluorophosphate)濃度が4mol/Lである電解液を調製」と記載されているものの、「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」以外に更に他の電解質を含み、「5mlのエチルメチルカーボネート」以外に更に他の溶媒を含む、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lである電解液を調製することは何ら記載されていない。 [理由3]本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項 1ないし10 ・備考 (1)請求項1及び請求項2に「同時に挿入在正極活物質におけるアニオンが脱離され」と記載されているが、「挿入在正極活物質」とは日本語として意味が不明である。 (2)請求項1の「前記電解液は溶媒と電解質を更に含み、前記溶媒は、エステル系、スルホン系またはエーテル系有機溶媒、例えばジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルスルホンまたはジメチルエーテルであり、前記電解質はリチウム塩、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムまたは過塩素酸リチウムである」の記載(以下、「記載A」という。)について ア 請求項1の記載によれば、「電解液」は「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」を「5mlのエチルメチルカーボネート」に加えたものであり、「ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/L」であることが規定されている。 しかし、請求項1には記載Aが存在するため、請求項1に係る発明では、電解液に含まれる溶媒は「5mlのエチルメチルカーボネート」以外に他の溶媒も含まれることになり、電解液の量は「5ml」を越えることから、「ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度」は「4mol/L」とはならない。 イ 請求項1には、「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」を「5mlのエチルメチルカーボネートに加え」て「ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lである電解液」を調製することが記載されているところ、請求項1の記載Aは、電解液に「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」以外の溶媒及び「5mlのエチルメチルカーボネート」以外の電解質を更に加えることを意図しているのか否か不明である。 また、記載Aは、溶媒が「ジエチルカーボネート」、「ジメチルカーボネート」、「エチルメチルカーボネート」、「ジメチルスルホン」、「ジメチルエーテル」のうち一つ、又は、全てを含むことを意図しているのか不明であり、また、電解質が「ヘキサフルオロリン酸リチウム」、「四フッ化ホウ酸リチウム」、「過塩素酸リチウム」のうち一つ、又は、全てを含むことを意図しているのか不明である。 ウ 記載Aには、「溶媒」が「エチルメチルカーボネート」、「電解質」が「ヘキサフルオロリン酸リチウム」の場合が含まれ、この場合記載Aは、「電解液はエチルメチルカーボネートとヘキサフルオロリン酸リチウムを更に含」むと解釈されるところ、請求項1で規定されている「3gのヘキサフルオロリン酸リチウム」と「5mlのエチルメチルカーボネート」を含む「電解液」と構成上何等変わらない。 してみると、記載Aにおいて「溶媒」が「エチルメチルカーボネート」、「電解質」が「ヘキサフルオロリン酸リチウム」の場合、記載Aが構成上何を限定しているのか不明である。 2 当審の判断 (1)[理由1]について ア 引用文献、引用発明等 (ア)引用文献1について a 当審の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。) 「【0001】 本発明は、非水電解液二次電池に関する。 ・・・(中略)・・・ 【0004】 その2種類目は、導電性高分子や炭素質材料のような、正極において、主としてアニオンのみが挿入・脱離されるものであり、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、黒鉛等が挙げられる。 この2種類目の正極活物質を使用する電池では、電解液中から、正極に例えばPF6−等のアニオンが、負極にLi+が挿入されることにより充電が行われ、正極からPF6−等、負極からLi+が脱離することにより放電が行われる。 このような電池の例として、正極に黒鉛、負極にピッチコークス、電解液にプロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒に過塩素酸リチウムを溶解させたものを用いたものが、デュアルカーボンセルとして知られている。 ・・・(中略)・・・ 【0012】 <正極> <<正極材>> 本発明で用いる正極材としては特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、少なくとも正極活物質を含み、必要に応じて結着剤、増粘剤、導電剤などを含むものが挙げられる。 【0013】 −正極活物質− 前記正極活物質としては、アニオンを挿入及び脱離可能な物質であれば特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素質材料、導電性高分子などが挙げられる。これらの中でも、エネルギー密度が高い点から炭素質材料が好ましい。 前記導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレンなどが挙げられる。 前記炭素質材料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物などが挙げられる。これらの中でも人造黒鉛、天然黒鉛が特に好ましい。また、炭素質材料としては、結晶性が高い炭素質材料が好ましい。この結晶性はX線回折やラマン分光分析などで評価することができ、例えば、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、I2θ=22.3とI2θ=26.4の比(I2θ=22.3/I2θ=26.4)が0.4以下であることが好ましい。 なお、I2θ=22.3は、2θ=22.3°における回折ピーク強度であり、 I2θ=26.4は、2θ=26.4°における回折ピーク強度である。 前記炭素質材料の窒素吸着によるBET比表面積は、1〜100m2/gが好ましく、レーザー回折・散乱法により求めた平均粒径(メジアン径)は、0.1〜100μmが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0031】 −正極の製造方法− 前記正極は、前記正極活物質に、必要に応じて結着剤、増粘剤、導電剤、溶媒等を加えてスラリー状とした正極材を、正極集電体上に塗布し乾燥することにより製造することができる。 前記溶媒としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水系溶媒でも有機系溶媒でも構わない。前記水系溶媒としては、例えば、水、アルコールなどが挙げられる。前記有機系溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、トルエンなどが挙げられる。 なお、前記正極活物質をそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極とすることもできる。 【0032】 <負極> 前記負極は、負極活物質を含んでいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、負極集電体上に負極活物質を含有する負極材を備えたものなどが挙げられる。 前記負極の形状には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。 【0033】 <<負極材>> 前記負極材は、負極活物質の他に必要に応じて結着剤、導電剤等を含んでいてもよい。 −負極活物質− 前記負極活物質は、金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。その例としては、炭素質材料、酸化錫、酸化アンチモン錫、一酸化珪素、酸化バナジウム等のリチウムを吸蔵・放出可能な金属酸化物;アルミニウム、錫、珪素、アンチモン、鉛、ヒ素、亜鉛、ビスマス、銅、ニッケル、カドミウム、銀、金、白金、パラジウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、ステンレス等のリチウムと合金化可能な金属;前記金属を含む合金(金属間化合物を含む);リチウムと合金化可能な金属と該金属を含む合金とリチウムとの複合合金化合物;窒化コバルトリチウム等の窒化金属リチウムなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、安全性とコストの点から、炭素質材料が特に好ましい。 前記炭素質材料としては、例えば、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物などが挙げられる。これらの中でも人造黒鉛、天然黒鉛が特に好ましい。負極材料として用いられる黒鉛等の炭素質材料のBET比表面積は、通常0.5〜25.0m2/gであり、レーザー回折・散乱法により求めたメジアン径は、通常1〜100μmであることが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0036】 <<負極集電体>> 前記負極集電体の材質、形状、大きさ、構造は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。 前記負極集電体の材質としては、導電性材料で形成されたものであればよく、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、銅などが挙げられる。これらの中でも、ステンレス、銅が特に好ましい。 前記集電体の形状としては、シート状、メッシュ状などが挙げられる。 前記集電体の大きさは、非水電解液二次電池に使用可能な大きさであればよい。 ・・・(中略)・・・ 【0041】 <非水電解液> 前記非水電解液は、非水溶媒に電解質塩を溶解させた電解液である。 −非水溶媒− 前記非水溶媒としては、非プロトン性有機溶媒を用いるが、低粘度な溶媒が好ましく、例えば鎖状又は環状のカーボネート系溶媒、鎖状又は環状のエーテル系溶媒、鎖状又は環状のエステル系溶媒などが挙げられる。 前記鎖状カーボネート系溶媒としては、例えばジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。 前記環状カーボネート系溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などが挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 【0043】 −電解質塩− 電解質塩としては、非水溶媒に溶解し、高いイオン伝導度を示すものが用いられる。 例えば下記のカチオン、アニオンを組み合わせたものが挙げられるが、非水溶媒に溶解可能な様々な電解質塩が使用可能である。 カチオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、スピロ系4級アンモニウムイオンなどが挙げられる。 アニオンとしてはCl−、Br−、I−、SCN−、ClO4−、BF4−、PF6−、SbF6−、CF3SO3−、(CF3SO2)2N−、(C2F5SO2)2N−、(C6H5)4B−などが挙げられる。 【0044】 容量を向上させる面からは、リチウムカチオンを有するリチウム塩が好ましい。 リチウム塩には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。その例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、塩化リチウム(LiCl)、ホウ弗化リチウム(LiBF4)、LiB(C6H5)4、六弗化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド〔LiN(C2F5SO2)2〕、リチウムビスファーフルオロエチルスルホニルイミド〔LiN(CF2F5SO2)2〕などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特にLiPF6、LiBF4が好ましい。 前記リチウム塩の非水溶媒中の濃度は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜6mol/Lが好ましく、2〜4mol/L前後が電池の容量と出力の両立の点から特に好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0046】 <非水電解液二次電池の製造方法> 本発明の二次電池は、前記正極、負極及び非水電解液と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて電池外装ケース等の他の構成部材を用いることも可能である。電池を組み立てる方法には特に制限はなく、通常採用されている方法の中から適宜選択することができる。」 b 引用文献1の上記記載から以下のことがいえる。 (a)段落【0001】によれば、引用文献1には非水電解液二次電池が記載されている。 (b)段落【0046】の「二次電池は、前記正極、負極及び非水電解液と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて電池外装ケース等の他の構成部材を用いることも可能である。」との記載によれば、「非水電解液二次電池」は、正極、負極、非水電解液、セパレータおよび電池外装ケースを含めて構成することができる。 (c)段落【0032】によれば、負極は、負極集電体上に負極活物質を備えたものであり、段落【0033】によれば、負極活物質は、金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であってリチウムと合金化可能な金属で構成することができる。 また、段落【0036】によれば、負極集電体の形状はシート状である。 よって、引用文献1の「負極」は、シート状の負極集電体上に金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を備えたものといえる。 (d)段落【0041】によれば、非水電解液は、非水溶媒に電解質塩を溶解させた電解液であり、非水溶媒としてエチルメチルカーボネート(EMC)が記載され、段落【0043】、【0044】には、電解質塩として、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が記載され、電解質塩の非水溶媒中の濃度を2〜4mol/Lとすることも記載されている。 よって、引用文献1には、「非水電解液」が、エチルメチルカーボネート(EMC)とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)とからなり、電解質塩の非水溶媒中の濃度が2〜4mol/Lであることが記載されているといえる。 (e)段落【0031】によれば、正極は、正極活物質をスラリー状とした正極材を正極集電体上に塗布し乾燥したものであり、段落【0013】によれば、正極活物質はアニオンを挿入及び脱離可能な物質であって黒鉛(グラファイト)を含むことが記載されている。 そして、「黒鉛(グラファイト)」が層状の結晶構造を有することは技術常識である。 よって、引用文献1の「正極」は、正極活物質をスラリー状とした正極材を正極集電体上に塗布し乾燥したものであり、正極活物質はアニオンを挿入及び脱離可能な物質であって層状の結晶構造を有する黒鉛(グラファイト)を含むといえる。 (f)上記(e)で述べたように、引用文献1の「正極活物質はアニオンを挿入及び脱離可能な物質であって層状の結晶構造を有」し、上記(d)で述べたように、引用文献1には、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が記載されている。また、上記cで述べたように、引用文献1の「負極活物質」は「金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であってリチウムと合金化可能な金属」である。 そして、段落【0004】の「その2種類目は、導電性高分子や炭素質材料のような、正極において、主としてアニオンのみが挿入・脱離されるものであり、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、黒鉛等が挙げられる。この2種類目の正極活物質を使用する電池では、電解液中から、正極に例えばPF6−等のアニオンが、負極にLi+が挿入されることにより充電が行われ、正極からPF6−等、負極からLi+が脱離することにより放電が行われる。」との記載を考慮すれば、引用文献1に記載された非水電解二次電池においても、「非水電解液中」から、「層状の結晶構造を有」する「正極活物質」に「PF6−」が「挿入」され、「負極活物質」に「Li+」が「挿入」されて「合金」が形成されることにより「充電が行われ」、「正極活物質」から「PF6−」が「脱離」し、「合金」から「Li+」が脱離することにより「放電が行われる」といえ、「脱離」した「PF6−」及び「Li+」が「電解液」に戻ることは明らかである。 よって、引用文献1には、非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離し、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることにより放電が行われることが記載されているといえる。 c 上記(a)ないし(f)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「正極、負極、非水電解液、セパレータおよび電池外装ケースを含む非水電解液二次電池において、 負極は、シート状の負極集電体上に金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を備えたものであり、 非水電解液は、エチルメチルカーボネート(EMC)とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)とからなり、電解質塩の非水溶媒中の濃度が2〜4mol/Lであり、 正極は、正極活物質をスラリー状とした正極材を正極集電体上に塗布し乾燥したものであり、正極活物質はアニオンを挿入及び脱離可能な物質であって層状の結晶構造を有する黒鉛(グラファイト)を含み、 非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離し、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることにより放電が行われる、非水電解二次電池。」 (イ)引用文献2について 当審の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。) 「【0003】このような非水電解質二次電池では、一般に、負極活物質に炭素材料、正極活物質にリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、そして、非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)等の溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液が使用されている。 【0004】さらに、非水電解液にビニレンカーボネート(炭酸ビニレン)を添加する技術が知られている。この技術は、ビニレンカーボネートを添加して、初回の充放電によって、負極上に安定なSEI被膜(solid electrolyte interface)を形成し、この被膜により電解液の分解を抑制して、サイクル特性を向上させるというものである。」 上記記載によれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「非水電解質としてエチレンカーボネート(EC)等の溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液を含む非水電解質二次電池において、非水電解液にビニレンカーボネート(炭酸ビニレン)を添加し、負極上に安定なSEI被膜(solid electrolyte interface)を形成し、この被膜により電解液の分解を抑制して、サイクル特性を向上させること。」 (ウ)引用文献3について 当審の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。) 「【0023】 本発明の上記目的は以下の構成により達成し得る。すなわち、請求項1に係る非水電解質二次電池の発明は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質とを備える非水電解質二次電池において、 前記正極活物質は、少なくともジルコニウムとマグネシウムの両方が添加されたリチウムコバルト複合酸化物と、層状構造を有する少なくともマンガンとニッケルの両方を含有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物とを混合したものであり、 前記正極活物質の電位がリチウム基準で4.4V〜4.6Vであり、かつ、 前記負極中にバインダーとしてカルボキシメチルセルロース−アンモニウム(NH4−CMC)からアンモニアが脱離したH−CMCが含まれていることを特徴とする。 ・・・(中略)・・・ 【0060】 また、電解質溶媒中には、必要に応じて有機溶媒の還元分解を抑制するための添加剤として慣用的に使用されているビニレンカーボネート(VC)を電解液全体に対して、0.5〜5質量%、好ましくは1〜3質量%添加することもできる。このVCの添加によって最初の充電による負極へのリチウムの挿入前に負極活物質層上に不動態化層とも称される負極表面被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)が形成し、このSEIがリチウムイオンの周囲の溶媒分子の挿入を阻止するバリアーとして機能するため、負極活物質が有機溶媒と直接反応しないようになるので、よりサイクル特性の向上効果が見られ、長寿命の非水電解質二次電池が得られる。VCの添加量が0.5質量%未満ではサイクル特性向上効果が少なく、また3質量%を越えると初期容量の低下と高温時に電池の膨れをまねくので好ましくない。」 上記記載によれば、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質とを備える非水電解質二次電池において、電解質溶媒中にビニレンカーボネート(VC)を電解液全体に対して、1〜3質量%添加することによって負極活物質層上に負極表面被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)を形成し、このSEIがリチウムイオンの周囲の溶媒分子の挿入を阻止するバリアーとして機能し、負極活物質が有機溶媒と直接反応しないようになるので、よりサイクル特性の向上効果が得られること。」 (エ)引用文献4について a 当審の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。) 「【0001】 本発明は、非水電解液二次電池の正極活物質用炭素材料と、この炭素材料を含む非水電解液二次電池正極と、この正極を用いた非水電解液二次電池に関する。 ・・・(中略)・・・ 【0007】 その2種類目は、導電性高分子や炭素質材料のような、正極において、主としてアニオンのみが挿入・脱離されるものであり、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、黒鉛等が使用できることが知られている。 【0008】 この2種類目の正極活物質を使用する電池においては、電解液中から、正極に例えばPF6−等のアニオンが、負極にLi+が挿入されることにより充電が行われ、正極からPF6−等、負極からLi+が脱離することにより放電が行われる。このような電池の例として、正極に黒鉛、負極にピッチコークス、電解液にプロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒に過塩素酸リチウムを溶解させたものを用いたものが、デュアルカーボンセルとして知られている。 ・・・(中略)・・・ 【0022】 [非水電解液二次電池の構成] (1)正極 本発明において、正極活物質として用いられる炭素質材料は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=22.3°における回折強度I2θ=22.3と、2θ=26.4°における回折強度I2θ=26.4の強度比I2θ=22.3/I2θ=26.4が0.15以下の高い結晶性を有する。 【0023】 前述の如く、CuKα線によるX線回折強度比I2θ=22.3/I2θ=26.4(以下単に「回折強度比I2θ=22.3/I2θ=26.4」と記す。)が0.15以下であるということは、非晶質炭素の含有割合が少ないことを意味するが、このように、非晶質炭素の含有割合が少ない炭素材料は、石炭ピッチコークス、石油ピッチコークス、ニードルコークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、カーボンブラック、サーマルブラック、縮合性多環多核芳香族炭化水素などの中から選ばれた炭化物を、不活性雰囲気下又は真空中で約2500℃以上で熱処理することによって得られる人造黒鉛及び/又は天然黒鉛から選ばれる。また、これらの人造黒鉛及び/又は天然黒鉛を酸素含有雰囲気下で熱処理することにより非晶質炭素の含有割合を更に少なくしたものも用いることができる。 【0024】 また、本発明の非水電解液二次電池正極活物質用炭素材料は、黒鉛結晶の002面の面間隔d(002)を、通常3.34オングストローム以上、好ましくは3.341オングストローム以上、更に好ましくは3.342オングストローム以上で、通常3.38オングストローム以下、好ましくは3.375オングストローム以下、更に好ましくは3.37オングストローム以下とすることにより、更に良好な性能を示す。この原因は明らかではないが、上記で規定されるd(002)の値を有する炭素材料は、アニオンの挿入・脱離に際し、有効な黒鉛の層間を有するためであると推察される。 ・・・(中略)・・・ 【0027】 このような炭素材料を用いて正極を製造する方法については、特に限定されない。例えば、上述の炭素材料に、必要に応じて結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状とし、集電体の基板に塗布し、乾燥することにより製造することができる。また、該炭素材料をそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極とすることもできる。 ・・・(中略)・・・ 【0033】 (2)負極 負極材料(負極活物質)としては、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものが用いられる。例えば、 (1) 金属リチウム (2) 炭素質材料 (3) リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属及び金属化合物 が挙げられる。このうち、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属及び金属化合物としては、より具体的には次のようなものが挙げられる。 (3)-1 酸化錫、酸化アンチモン錫、一酸化珪素、酸化バナジウム等のリチウムを吸蔵・放出可能な金属酸化物 (3)-2 アルミニウム、珪素、錫、アンチモン、鉛、ヒ素、亜鉛、ビスマス、銅、カドミウム、銀、金、白金、パラジウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等のリチウムと合金化可能な金属 (3)-3 前記金属を含む合金(金属間化合物を含む) (3)-4 リチウムと合金化可能な金属及び該金属を含む合金とリチウムとの複合合金化合物 (3)-5 窒化コバルトリチウム等の窒化金属リチウム これらの負極材料は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。 ・・・(中略)・・・ 【0037】 このような負極材料を用いて負極を製造する方法は特に限定されない。例えば、上記負極材料に、必要に応じて結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状とし、集電体の基板に塗布し、乾燥することにより負極を製造することができる。この場合には、上述するような正極の製造方法と同様に製造することができる。 【0038】 また、該負極材料に結着剤や導電材などを加えたものをそのままロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としたり、蒸着・スパッタ・メッキ等の手法で集電体上に負極材料の薄膜を形成することもできる。 【0039】 負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス等の金属が使用され、これらの中で薄膜に加工しやすいという点とコストの点から銅箔が好ましい。 【0040】 (3)非水電解液 非水電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が使用され、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等を使用することができる。これらの代表的なものを列挙すると、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルホルメート、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、エチルメチルカーボネート、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2−ジクロロエタン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良いが、比誘電率が20以上である高誘電率溶媒を含むことが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0042】 溶質としてのリチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiB(C6H5)、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO3CF3)2等を使用することができ、これらの電解質も1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。 【0043】 充電により電解液中の溶質濃度が低下し、溶質濃度が0になると、それ以上充電ができなくなるため、正極、負極の容量に見合う量の溶質を電解液中に含有させておく必要がある。溶質濃度が低い場合、電池中に多量の電解液が必要となるため、電解液中の溶質濃度は高い方が好ましい。場合によっては、放電状態において溶質が溶媒中に析出した状態とすることも可能である。このような点から、非水電解液中のリチウム塩の濃度の下限は通常0.05mol/L以上、好ましくは0.5mol/L以上、特に好ましくは1mol/L以上で、上限は通常5mol/L以下、好ましくは4mol/L以下、特に好ましくは3mol/L以下である。この下限を下回ると、伝導度が低下したり、正極、負極の容量に見合う溶質を確保するために多量の電解液を必要とするため、電池の重量当たり又は体積当たりのエネルギー密度が低下しやすい。また、上限を上回ると、溶質が析出したり、伝導度が低下する可能性がある。 ・・・(中略)・・・ 【0045】 (5)電池の製造法 本発明の非水電解液二次電池は、上述した正極、負極及び非水電解液と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装ケース等の他の構成要素を用いることも可能である。電池を組み立てる方法は特に限定されず、通常採用されている方法の中から適宜選択すれば良い。」 b 引用文献4の上記記載から以下のことがいえる。 (a)段落【0001】によれば、引用文献1には非水電解液二次電池が記載されている。 (b)段落【0045】の「非水電解液二次電池は、上述した正極、負極及び非水電解液と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装ケース等の他の構成要素を用いることも可能である。」との記載によれば、「非水電解液二次電池」は、正極、負極、非水電解液、セパレータおよび外装ケースを含めて構成することができる。 (c)段落【0037】、【0038】によれば、負極は、集電体上に負極活物質を形成したものであり、段落【0033】によれば、負極活物質は、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであってリチウムと合金化可能な金属である。 また、同段落【0039】によれば、負極用集電体は銅箔である。 よって、引用文献4の「負極」は、銅箔である負極集電体上に金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を形成したものである。 (d)段落【0040】に、非水電解液の溶媒としてエチルメチルカーボネートが記載され、段落【0042】に、溶質としてLiPF6が記載され、【0043】には、非水電解液中のリチウム塩の濃度の上限が4mol/L以下であることも記載されている。 よって、引用文献4には、「非水電解液」が、エチルメチルカーボネートとLiPF6とからなり、非水電解液中のリチウム塩の濃度の上限が4mol/L以下であることが記載されているといえる。 (e)段落【0022】、【0027】によれば、正極は、正極活物質をスラリー状とし集電体に塗布し乾燥したものであり、段落【0023】、【0024】によれば、正極活物質は、アニオンを挿入・脱離するものであって人造黒鉛/又は天然黒鉛を含むことが記載されている。 そして、黒鉛が層状の結晶構造を有することは技術常識である。 よって、引用文献4の「正極」は、正極活物質をスラリー状とし集電体に塗布し乾燥したものであり、正極活物質はアニオンを挿入・脱離するものであって層状の結晶構造を有する人造黒鉛/又は天然黒鉛を含むといえる。 (f)上記(e)で述べたように、引用文献4の「正極活物質はアニオンを挿入・脱離するものであって層状の結晶構造を有」し、上記(d)で述べたように、引用文献1には、溶質としてLiPF6が記載されている。また、上記cで述べたように、引用文献1の「負極活物質」は「金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであってリチウムと合金化可能な金属」である。 そして、段落【0007】の「その2種類目は、導電性高分子や炭素質材料のような、正極において、主としてアニオンのみが挿入・脱離されるものであり、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、黒鉛等が使用できることが知られている。」、同段落【0008】の「この2種類目の正極活物質を使用する電池では、電解液中から、正極に例えばPF6−等のアニオンが、負極にLi+が挿入されることにより充電が行われ、正極からPF6−等、負極からLi+が脱離することにより放電が行われる。」との記載を考慮すれば、引用文献4に記載された非水電解二次電池においても、非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離することにより放電が行われるといえ、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることは明らかである。 よって、引用文献4の非水電解二次電池においても、非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離することにより放電が行われるといえ、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることが記載されているといえる。 c 上記(a)ないし(f)によれば、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。 「正極、負極、非水電解液、セパレータおよび外装ケースを含む非水電解液二次電池において、 負極は、銅箔である負極集電体上に金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を形成したものであり、 非水電解液は、エチルメチルカーボネートとLiPF6とからなり、非水電解液中のリチウム塩の濃度の上限が4mol/L以下であり、 正極は、正極活物質をスラリー状とし集電体に塗布し乾燥したものであり、正極活物質はアニオンを挿入・脱離するものであって層状の結晶構造を有する人造黒鉛/又は天然黒鉛を含み、 非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離し、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることにより放電が行われる、非水電解二次電池。」 イ 引用文献1を主引用文献とした場合の対比・判断 (ア)請求項1について a 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 (a)引用発明1の「負極」、「非水電解液」、「セパレータ」、「正極」、「電池外装ケース」は、本願発明1の「電池負極」、「電解液」、「セパレータ」、「電池正極」、「電池を封止するためのケース」にそれぞれ相当する。 (b)電池負極に関し、本願発明1は「アルミニウム箔からなる負極集電体であり、負極活物質を含んで」いないのに対し、引用発明1は「シート状の負極集電体上に金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を備えたもの」である点で相違する。 (c)引用発明1の「非水電解液は、エチルメチルカーボネート(EMC)とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)とからなり、電解質塩の非水溶媒中の濃度が2〜4mol/Lであ」るから、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の濃度は2〜4mol/Lであるといえ、本願発明1の「ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであ」ることに相当する。 よって、引用発明1の「非水電解液」と本願発明1の「電解液」とは、「ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであ」る点で共通する。 ただし、電解液において、本願発明1は「添加量が2%wtである負極集電体表面に固体電解質膜を形成できるビニレンカーボネート」を含むのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。 (d)引用発明1の「正極は、正極活物質をスラリー状とした正極材を正極集電体上に塗布し乾燥したものであ」る。 ここで、本願発明1の「正極活物質層」に関し、本願明細書段落【0060】には、「 具体的に、製造過程は、一定の割合で活物質、導電剤、バインダーを秤量し、適切な溶媒に加え、均一なスラリーになるように十分に研磨して、その後、正極集電体表面に均一に塗布し、即ち、正極集電体表面に正極活物質層を形成する。スラリーが完全に乾燥された後切断することで、所望のサイズの電池正極を取得する。」と記載されていることから、本願発明1の「正極活物質層」は、活物質、導電剤、バインダー及び溶媒からなるスラリーを正極集電体表面に均一に塗布し乾燥したものを含むものである。してみれば、引用発明1の「正極活物質をスラリー状とした正極材を正極集電体上に塗布し乾燥した」「正極」は、本願発明1の「正極活物質層」に相当する。 よって、引用発明1の「正極は、正極活物質をスラリー状とした正極材を正極集電体上に塗布し乾燥したもの」であり、「正極活物質はアニオンを挿入及び脱離可能な物質であって層状の結晶構造を有する黒鉛(グラファイト)を含」むことは、本願発明1の「電池正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層はアニオンを可逆的に脱離または挿入できる正極活物質を含み、前記正極活物質は、層状結晶構造を有するグラファイト系材料を含」ことに相当する。 (e)引用発明1の「PF6−」、「Li+」は、本願発明1の「アニオン」、「カチオン」にそれぞれ相当する。 よって、引用発明1の「非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離し、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることにより放電が行われる」ことと本願発明1とは、「充電時、電解液におけるカチオンが負極に挿入され合金材料を形成し、同時に電解液におけるアニオンが層状結晶構造の正極活物質に挿入され、放電時、カチオンが合金材料から脱離され、電解液に再度戻り、同時に正極活物質に挿入されたアニオンが脱離され、電解液に戻る」点で共通する。 ただし、合金材料の形成に関し、本願発明1は「カチオンが負極集電体に挿入され」合金材料が形成されるのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。 (f)引用発明1の「非水電解二次電池」は、本願発明1の「二次電池」に相当する。 上記(a)ないし(f)によれば、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「電池負極、電解液、セパレータ、電池正極及び電池を封止するためのケースを含み、 電解液は、ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであり、 電池正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層はアニオンを可逆的に脱離または挿入できる正極活物質を含み、前記正極活物質は、層状結晶構造を有するグラファイト系材料を含み、 充電時、電解液におけるカチオンが負極に挿入され合金材料を形成し、同時に電解液におけるアニオンが層状結晶構造の正極活物質に挿入され、放電時、カチオンが合金材料から脱離され、電解液に再度戻り、同時に正極活物質に挿入されたアニオンが脱離され、電解液に戻ることを特徴とする、二次電池。」 (相違点1) 電池負極に関し、本願発明1は「アルミニウム箔からなる負極集電体であり、負極活物質を含んで」いないのに対し、引用発明1は「シート状の負極集電体上に金属リチウム及び/又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を備えたもの」である点。 (相違点2) 電解液において、本願発明1は「添加量が2%wtである負極集電体表面に固体電解質膜を形成できるビニレンカーボネート」を含むのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。 (相違点3) 合金材料の形成に関し、本願発明1は「カチオンが負極集電体に挿入され」合金材料が形成されるのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。 b 相違点1についての判断 (a)引用文献1の段落【0036】には、負極集電体の材質として「ステンレス、ニッケル、アルミニウム、銅」から選択できることが記載され、同段落【0033】には、リチウムと合金化可能な金属である負極活物質として「アルミニウム、錫、珪素、アンチモン、鉛、ヒ素、亜鉛、ビスマス、銅、ニッケル、カドミウム、銀、金、白金、パラジウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、ステンレス」から選択できることが記載され、さらに、同段落【0040】には、蒸着、スパッタ、メッキ等の手法で負極集電体上に負極活物質の薄膜を形成することも記載されていることから、引用発明1において「アルミニウム」からなるシート状の負極集電体上に「アルミニウム」の薄膜を形成することは当業者が適宜なし得ることである。 しかし、本願発明1の「負極」は「アルミニウム箔からなる負極集電体であり、負極活物質を含」まないものであるから、本願発明1の「負極」は「アルミニウム箔」の一層構造であるのに対し、引用発明1において「アルミニウム」からなるシート状の負極集電体上に「アルミニウム」の薄膜を形成したものは、「アルミニウム」からなるシート上に「アルミニウム薄膜」が形成された二層構造であるといえる。 してみると、本願発明1の「負極」と、引用発明1において「アルミニウム」からなるシート状の負極集電体上に「アルミニウム」の薄膜を形成した「負極」とは、両者とも「アルミニウム」という同じ材質で構成されているものの、それらの層構造は同じであるといはいえない。 (b)また、引用文献1には、「負極活物質」を含まないようにすることの記載や示唆は見当たらず、引用文献1の段落【0032】の「負極は、負極活物質を含んでいれば特に制限はなく」との記載によれば、引用発明1は「負極活物質」を含むことを前提とするものであるから、引用発明において「負極活物質」を含まないよう構成することには当業者に動機づけられないことである。 さらに、上記相違点1に係る構成は、引用文献2、3に記載された技術に示されておらず、また周知の技術事項でもない。 (c)よって、相違点1に係る構成は、引用発明1、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 c 小括 以上のとおり、相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (イ)本願発明2、3について 本願発明2、3に係る請求項2、3は、いずれも請求項1を引用している。 よって、本願発明2、3も上記相違点1に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 ウ 引用文献4を主引用文献とした場合の対比・判断 (ア)請求項1について a 対比 本願発明1と引用発明4とを対比する。 (a)引用発明4の「負極」、「非水電解液」、「セパレータ」、「正極」、「外装ケース」は、本願発明1の「電池負極」、「電解液」、「セパレータ」、「電池正極」、「電池を封止するためのケース」にそれぞれ相当する。 (b)電池負極に関し、本願発明1は「アルミニウム箔からなる負極集電体であり、負極活物質を含んで」いないのに対し、引用発明4は「銅箔である負極集電体上に金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を形成したものである」である点で相違する。 (c)引用発明4の「非水電解液は、エチルメチルカーボネートとLiPF6とからなり、非水電解液中のリチウム塩の濃度の上限が4mol/L以下であ」るから、LiPF6の濃度は4mol/L以下であるといえ、本願発明1の「ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであ」ることに相当する。 よって、引用発明1の「非水電解液」と本願発明1の「電解液」とは、「ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであ」る点で共通する。 ただし、電解液において、本願発明1は「添加量が2%wtである負極集電体表面に固体電解質膜を形成できるビニレンカーボネート」を含むのに対し、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。 (d)引用発明4の「正極は、正極活物質をスラリー状とし集電体に塗布し乾燥したもの」である。 ここで、本願発明1の「正極活物質層」に関し、本願明細書段落【0060】には、「 具体的に、製造過程は、一定の割合で活物質、導電剤、バインダーを秤量し、適切な溶媒に加え、均一なスラリーになるように十分に研磨して、その後、正極集電体表面に均一に塗布し、即ち、正極集電体表面に正極活物質層を形成する。スラリーが完全に乾燥された後切断することで、所望のサイズの電池正極を取得する。」と記載されていることから、本願発明1の「正極活物質層」は、活物質、導電剤、バインダー及び溶媒からなるスラリーを正極集電体表面に均一に塗布し乾燥したものを含むものである。してみると、引用発明4の「正極活物質をスラリー状とし集電体に塗布し乾燥した」「正極」は、本願発明1の「正極活物質層」に相当する。 よって、引用発明4の「正極は、正極活物質をスラリー状とし集電体に塗布し乾燥したもの」であり、「正極活物質はアニオンを挿入・脱離するものであって層状の結晶構造を有する人造黒鉛/又は天然黒鉛を含」むことは、本願発明1の「電池正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層はアニオンを可逆的に脱離または挿入できる正極活物質を含み、前記正極活物質は、層状結晶構造を有するグラファイト系材料を含」むことに相当する。 (e)引用発明4の「PF6−」、「Li+」は、本願発明1の「アニオン」、「カチオン」にそれぞれ相当する。 よって、引用発明4の「非水電解液中から、層状の結晶構造を有する正極活物質にPF6−が挿入され、負極活物質にLi+が挿入されて合金が形成されることにより充電が行われ、正極活物質からPF6−が脱離し、合金からLi+が脱離し、脱離したPF6−及びLi+が電解液に戻ることにより放電が行われる」ことと本願発明1とは、「充電時、電解液におけるカチオンが負極に挿入され合金材料を形成し、同時に電解液におけるアニオンが層状結晶構造の正極活物質に挿入され、放電時、カチオンが合金材料から脱離され、電解液に再度戻り、同時に正極活物質に挿入されたアニオンが脱離され、電解液に戻る」点で共通する。 ただし、合金材料の形成に関し、本願発明1は「カチオンが負極集電体に挿入され」合金材料が形成されるのに対し、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。 (f)引用発明4の「非水電解二次電池」は、本願発明1の「二次電池」に相当する。 上記(a)ないし(f)によれば、本願発明1と引用発明4との一致点、相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「電池負極、電解液、セパレータ、電池正極及び電池を封止するためのケースを含み、 電解液は、ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであり、 電池正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層はアニオンを可逆的に脱離または挿入できる正極活物質を含み、前記正極活物質は、層状結晶構造を有するグラファイト系材料を含み、 充電時、電解液におけるカチオンが負極に挿入され合金材料を形成し、同時に電解液におけるアニオンが層状結晶構造の正極活物質に挿入され、放電時、カチオンが合金材料から脱離され、電解液に再度戻り、同時に正極活物質に挿入されたアニオンが脱離され、電解液に戻ることを特徴とする、二次電池。」 (相違点4) 電池負極に関し、本願発明1は「アルミニウム箔からなる負極集電体であり、負極活物質を含んで」いないのに対し、引用発明4は「銅箔である負極集電体上に金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであってリチウムと合金化可能な金属である負極活物質を形成したもの」である点。 (相違点5) 電解液において、本願発明1は「添加量が2%wtである負極集電体表面に固体電解質膜を形成できるビニレンカーボネート」を含むのに対し、引用発明4はその旨特定されていない点。 (相違点6) 合金材料の形成に関し、本願発明1は「カチオンが負極集電体に挿入され」合金材料が形成されるのに対し、引用発明4はその旨特定されていない点。 b 相違点4についての判断 (a)引用発明4の「負極集電体」は「銅箔」であるところ、引用文献4には「負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス等の金属が使用され、これらの中で薄膜に加工しやすいという点とコストの点から銅箔が好ましい。」と記載されており、負極集電体としてアルミニウム箔を用いることの記載や示唆は見当たらないから、引用発明4の「負極集電体」としてアルミニウム箔を用いることを当業者が動機づけることはない。 (b)仮に負極集電体としてアルミニウム箔を用いることが周知の技術事項であって、引用発明4に該周知の技術事項を採用することが当業者にとって容易に相当することであったとしても、引用発明4は「負極集電体上」に「リチウムと合金化可能な金属である負極活物質を形成したもの」である。 してみると、上記「イ(ア)b(a)」で述べたように、本願発明1の「負極」は「アルミニウム箔」の一層構造であるのに対し、引用発明4の「負極集電体」に「アルミニウム箔」を採用したものは、アルミニウム箔の負極集電体上に負極活物質が形成された二層構造であるから、本願発明1の「負極」と、引用発明4において「負極集電体」に「アルミニウム箔」を採用したもの「負極」とは、それらの層構造が同じであるとはいえない。 (c)そして、引用文献4には、「負極活物質」を含まないようにすることの記載や示唆は見当たらず、また、引用文献2、3に記載された技術にも示されていない。 よって、相違点1に係る構成は、引用発明1、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。 c 小括 以上のとおり、相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明4、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (イ)本願発明2、3について 本願発明2、3に係る請求項2、3は、いずれも請求項1を引用している。 よって、本願発明2、3も上記相違点1に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用文献4に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 エ まとめ 以上から、請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項、又は、引用文献4に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)理由2について 令和4年4月11日にされた補正により、独立請求項2が削除され、また、補正前の請求項1に記載された「3gのヘキサフルオロリン酸リチウムを秤量し、5mlのエチルメチルカーボネートに加え、ヘキサフルオロリン酸リチウムが完全に溶解するまで攪拌し、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lである電解液が調製され」、及び、「前記電解液は溶媒と電解質を更に含み、前記溶媒は、エステル系、スルホン系またはエーテル系有機溶媒、例えばジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルスルホンまたはジメチルエーテルであり、前記電解質はリチウム塩、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムまたは過塩素酸リチウムであること」との各記載が削除され、「電解液」について「ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであり」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。 (3)理由3について ア 「[理由3](1)」について 令和4年4月11日にされた補正により、独立請求項2が削除され、また、補正前の請求項1に記載された「挿入在正極活物質における」を「正極活物質に挿入された」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。 イ 「[理由3](2)」について 令和4年4月11日にされた補正により、独立請求項2が削除され、また、補正前の請求項1に記載された「3gのヘキサフルオロリン酸リチウムを秤量し、5mlのエチルメチルカーボネートに加え、ヘキサフルオロリン酸リチウムが完全に溶解するまで攪拌し、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lである電解液が調製され」、及び、「前記電解液は溶媒と電解質を更に含み、前記溶媒は、エステル系、スルホン系またはエーテル系有機溶媒、例えばジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルスルホンまたはジメチルエーテルであり、前記電解質はリチウム塩、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムまたは過塩素酸リチウムであること」との各記載が削除され、「電解液」について「ヘキサフルオロリン酸リチウムとエチルメチルカーボネートとを含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃度が4mol/Lであり」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。 第4 原査定の概要 原査定(令和2年5月21日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。 (サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項 1ないし8、10ないし12 ・備考 明細書の段落0010等の記載から、請求項1、2に係る発明の課題は、電池の動作電圧及びエネルギー密度の向上であると把握される。 そして、明細書の段落0015、0030、0038等の記載、及び表8の結果等を考慮すると、本願発明は、アニオンを可逆的に脱離または挿入できる正極活物質を使用することを前提としており、さらに負極集電体表面に安定なSEIを形成可能な添加剤(具体的には、本願請求項9に規定される添加剤)を使用することで、はじめて安定して動作する電池を構成でき、動作電圧及びエネルギー密度の向上が達成されるものと解される。 しかしながら、請求項1では、有機添加剤について、「エステル系、…オレフィン系」に特定されるのみ(例えば、通常溶媒として使用されるカーボネート類等を含み得る。)であるところ、出願時における技術常識を参酌しても、請求項1、2に係る発明が、上記課題を解決できる態様に限定されているとは認識することができない。 第5 原査定についての判断 令和4年4月11日にされた補正により、補正前の請求項2は削除され、補正前の請求項1において、「電解液」が「負極集電体表面に固体電解質膜を形成できるビニレンカーボネートを含」むとの技術的事項を有するものとなったため、上記「第4」で指摘された拒絶理由は解消した。 よって、原査定を維持することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願の拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-06-02 |
出願番号 | P2018-521962 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WYF
(H01M)
P 1 8・ 121- WYF (H01M) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 畑中 博幸 |
発明の名称 | 二次電池及びその製造方法 |
代理人 | TRY国際特許業務法人 |
代理人 | 崔 海龍 |