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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1384675
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-16 
確定日 2022-05-19 
事件の表示 特願2019− 22668「偏光板および偏光板ロール」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月14日出願公開、特開2019−197206〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019−22668号(以下「本件出願」という。)は、平成30年5月7日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年9月13日、平成30年4月25日)に出願された、特願2018−89241号の一部を平成30年6月26日に新たな特許出願とした特願2018−120367号の一部を平成31年2月12日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年 5月24日付け:手続補正書
令和元年 5月24日付け:上申書
令和元年 7月29日付け:拒絶理由通知書
令和元年12月 2日付け:意見書
令和元年12月 2日付け:手続補正書
令和2年 2月27日付け:拒絶理由通知書
令和2年 6月30日付け:意見書
令和2年 6月30日付け:手続補正書
令和2年 8月12日付け:拒絶査定
令和2年11月16日付け:審判請求書
令和2年11月16日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年11月16日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年6月30日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおりである。
「 ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
幅が1000mm以上であり、
幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下である、偏光板。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
幅が1000mm以上であり、
幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であり、
長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる、偏光板。」

(3) 本件補正について
ア 請求項2についてした本件補正は、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「偏光板」について、「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる」ものに限定(「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む」製造方法により得られる「生産物自体」に限定)する補正である。
また、本件補正前の請求項2に係る発明と、本件補正後の請求項2に係る発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0004】。)。

イ してみると、請求項2についてした本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。

ウ そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下「本件補正後発明2」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

2 独立特許要件(明確性要件、サポート要件及び進歩性)についての判断
(1) 特許法第36条第6項第2号明確性要件)について
明確性要件について
(ア) 上記1(2)より、本件補正後発明2は、(A1)「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり」、(A2)「単体透過率が45%〜46%であり」、(A3)「偏光度が97%〜99%である」、(A4)「偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板」、(B)「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であり」、(C)「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる」との発明特定事項を具備する(当合議体注:項目(A1)〜(A4)、(B)及び(C)は、当合議体が付与したものである。)。
ここで、本件補正後発明2における発明特定事項(C)は、物の製造方法により物の発明(「偏光板」)を特定しようとするものである(本件補正後発明2は、いわゆる、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」(「PBPクレーム」)である。)。

(イ) 特許法第36条第6項第2号において、発明の明確性を要件とする趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合の結果を防止することにある。そして、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に最初に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当初における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断される。
特に、PBPクレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されているあらゆる場合に、その特許権の効力が当該「製造方法」により製造された物と構造、特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば、その「当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」が不明であることなどから、第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによる。
これを本件補正後発明2について当てはめて、願書に最初に添付した明細書の記載及び図面並びに当業者の出願当時における技術常識を考慮したとしても、第三者の利益が不当に害されることが生じないほどに、上記発明特定事項(C)に係る「当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」が不明確であるか否かについて検討すると、以下のとおりである。
(当合議体注:以下、製造方法に係る発明特定事項(C)の、「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること」、「前記積層体に、空中補助延伸処理」を「施す」こと、「染色処理」を「施す」こと、「水中延伸処理」を「施す」こと、及び、「長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理」を「施す」ことを、それぞれ「処理(C1)」、「処理(C2)」、「処理(C3)」、「処理(C4)」及び「処理(C5)」と便宜上呼ぶこととする。)

イ 明細書の記載及び図面
本件出願の願書に最初に添付した明細書及び図面には、次の記載がある(当合議体注:下線は、当合議体が付したものである。)。
(ア) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板および偏光板ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
・・・略・・・偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている・・・略・・・。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかしながら、上記のような従来の薄型偏光膜は光学特性が不十分であり、薄型偏光膜の光学特性のさらなる向上が求められている。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性を有する偏光板および偏光板ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光板は、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する。この偏光板は、50cm2の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差が0.2%以下である。本発明の別の偏光板は、幅が1000mm以上であり、幅方向に沿った位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.5%以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜の単体透過率は46%以下であり、偏光度は99%以下である。
本発明の別の局面によれば、偏光板ロールが提供される。この偏光板ロールは、上記偏光板がロール状に巻回されてなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である、優れた光学特性を有する偏光膜が提供され得る。」

(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光膜
本発明の1つの実施形態による偏光膜は、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である。・・・略・・・本発明の1つの実施形態による偏光膜は、上記のとおり、単体透過率が45%以上であり、かつ、偏光度が97%以上であるという優れた光学特性を有している。さらに、本実施形態の偏光膜を用いることにより、光学特性のバラつきが抑制された偏光板を実現することができる。このような薄型の偏光膜(偏光板)を実現したことが、本発明の成果の一つである。このような偏光膜(偏光板)は、画像表示装置に用いられ得、特に、有機EL表示装置用の円偏光板に好適に用いられる。
・・・略・・・
【0011】
偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは46%以下である。偏光膜の偏光度は、好ましくは97.5%以上であり、より好ましくは98%以上である。一方で、偏光度の上限は、好ましくは99%である。
・・・略・・・
【0013】
・・・略・・・偏光膜は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。
【0014】
積層体を用いて得られる偏光膜の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光膜とすること;により作製され得る。本実施形態においては、延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。
・・・略・・・
【0015】
本発明の偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、上記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。これにより、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である、優れた光学特性を有するとともに光学特性のバラつきが抑制された偏光膜が提供され得る。すなわち、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。
【0016】
B.偏光板
・・・略・・・
【0021】
C.偏光膜の製造方法
本発明の1つの実施形態による偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは、60℃〜120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは、2%以上である。このような製造方法によれば、上記A項で説明した偏光膜が得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有するとともに、光学特性のバラつきが抑制された偏光膜を得ることができる。具体的には、乾燥収縮処理工程において加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら、積層体全体に亘って均一に収縮することができる。これにより、得られる偏光膜の光学特性を高めることができるだけでなく、光学特性に優れる偏光膜を安定して生産することができ、偏光膜の光学特性(特に、単体透過率)のバラつきを抑制することができる。
【0022】
C−1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である。
・・・略・・・
【0026】
C−1−1.熱可塑性樹脂基材
・・・略・・・
【0027】
熱可塑性樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。熱可塑性樹脂基材は、水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することができる。一方、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、製造時に熱可塑性樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、熱可塑性樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。
・・・略・・・
【0028】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、100℃以下、さらには90℃以下であることがより好ましい。一方、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。
・・・略・・・
【0029】
熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂・・・略・・・等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0030】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。
・・・略・・・
【0031】
好ましい実施形態においては、熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸ユニットを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂で構成される。このような熱可塑性樹脂基材は延伸性に極めて優れるとともに、延伸時の結晶化が抑制され得るからである。・・・略・・・延伸性に極めて優れた熱可塑性樹脂基材が得られるからである。一方、イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。このような含有割合に設定することで、後述の乾燥収縮処理において結晶化度を良好に増加させることができる。
・・・略・・・
【0035】
C−1−2.塗布液
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、・・・略・・・が挙げられる。・・・略・・・これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
・・・略・・・
【0037】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。・・・略・・・PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。・・・略・・・このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。
・・・略・・・
【0039】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0040】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部〜15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光膜が白濁する場合がある。
【0041】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A−PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。
【0042】
C−2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができ、後のホウ酸水中延伸において熱可塑性樹脂基材の過度の結晶化により延伸性が低下するという問題を解決し、積層体をより高倍率に延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
【0043】
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用されうる。1つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定されうる。自由端延伸の場合、 幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
・・・略・・・
【0045】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは2.0倍〜3.5倍である。空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
・・・略・・・
【0046】
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0047】
C−3.不溶化処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、水に浸漬した時のPVAの配向低下を防止することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。
【0048】
C−4.染色処理
上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層をヨウ素で染色することにより行う。具体的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法・・・略・・・等が挙げられる。好ましくは、染色液(染色浴)に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0049】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜10重量部、より好ましくは0.3重量部〜5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分であり、より好ましくは30秒〜90秒である。
【0050】
染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の単体透過率が45%以上であり、かつ、偏光度が97%以上となるように設定することができる。このような染色条件としては、好ましくは、染色液としてヨウ素水溶液を用い、ヨウ素水溶液におけるヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比を、1:5〜1:20とする。ヨウ素水溶液におけるヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比は、好ましくは1:5〜1:10である。これにより、上記のような光学特性を有する偏光膜が得られ得る。
【0051】
ホウ酸を含有する処理浴に積層体を浸漬する処理(代表的には、不溶化処理)の後に連続して染色処理を行う場合、当該処理浴に含まれるホウ酸が染色浴に混入することにより染色浴のホウ酸濃度が経時的に変化し、その結果、染色性が不安定になる場合がある。上記のような染色性の不安定化を抑制するために、染色浴のホウ酸濃度の上限は、水100重量部に対して、好ましくは4重量部、より好ましくは2重量部となるように調整される。一方で、染色浴のホウ酸濃度の下限は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部であり、より好ましくは0.2重量部であり、さらに好ましくは0.5重量部である。1つの実施形態においては、予めホウ酸が配合された染色浴を用いて染色処理を行う。これにより、上記処理浴のホウ酸が染色浴に混入した場合のホウ酸濃度の変化の割合を低減し得る。予め染色浴に配合されるホウ酸の配合量(すなわち、上記処理浴に由来しないホウ酸の含有量)は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜2重量部であり、より好ましくは0.5重量部〜1.5重量部である。
【0052】
C−5.架橋処理
必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、後の水中延伸で、高温の水中へ浸漬した際のPVAの配向低下を防止することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。
【0053】
C−6.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0054】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。
・・・略・・・
【0055】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
【0056】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部であり、より好ましくは3重量部〜6.5重量部であり、特に好ましくは3.5重量部〜5.5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を製造することができる。
・・・略・・・
【0057】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0058】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは60℃〜75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
【0059】
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上である。積層体の総延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上であり、さらに好ましくは5.5倍以上である。このような高い延伸倍率を達成することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を製造することができる。このような高い延伸倍率は、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。
【0060】
C−7.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%〜10%であり、より好ましくは2%〜8%であり、特に好ましくは4%〜6%である。加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら連続的に幅方向に収縮させることができ、高い生産性を実現することができる。
【0061】
図2は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1〜R6と、ガイドロールG1〜G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1〜R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1〜R6を配置してもよい。
【0062】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃〜120℃であり、さらに好ましくは65℃〜100℃であり、特に好ましくは70℃〜80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個〜40個、好ましくは4個〜30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒〜300秒であり、より好ましくは1〜20秒であり、さらに好ましくは1〜10秒である。
【0063】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。
・・・略・・・
【0064】
C−8.その他の処理
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。」

(ウ) 「【図1】


【図2】



明確性要件についての判断
(ア) 発明特定事項(C)の意義
a 発明の詳細な説明の【0004】には、【発明が解決しようとする課題】として、「優れた光学特性を有する偏光板および偏光板ロールを提供することにある。」こと、同【0015】には、【発明を実施するための形態】として、「A.偏光膜」に関して、「本発明の偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、上記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む」こと「により、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である、優れた光学特性を有するとともに光学特性のバラつきが抑制された偏光膜が提供され得る」ことが記載されている。
また、同【0015】には、「補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる」こと、「同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる」こと、「PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る」ことにより「染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る」こと、及び、「乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる」ことが記載されている。
さらに、「乾燥収縮処理」及び「バラつき」に関し、【0021】には、「延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有するとともに、光学特性のバラつきが抑制された偏光膜を得ることができる。」、「具体的には、乾燥収縮処理工程において加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら、積層体全体に亘って均一に収縮することができる。」、「これにより、得られる偏光膜の光学特性を高めることができるだけでなく、光学特性に優れる偏光膜を安定して生産することができ、偏光膜の光学特性(特に、単体透過率)のバラつきを抑制することができる。」(下線部に注意。)と記載され、【0060】には、「この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%〜10%であり、より好ましくは2%〜8%であり、特に好ましくは4%〜6%である。」と記載されている。
また、上記の【0015】に記載された「補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる」ことに関し、特許第4691205号公報の【0047】には、「空中補助延伸を高温にするかまたは高倍率にするほど、・・・略・・・空中補助延伸後のPVAの配向性が向上する。これは、高温または高倍率であるほどPVAの結晶化が進みながら延伸されるため、部分的に架橋点ができながら延伸されることが要因であると推定される。結果としてPVAの配向性が向上していることになる。予めホウ酸水中延伸前に空中補助延伸によりPVAの配向性を向上させておくことで、ホウ酸水溶液に浸漬した時に、ホウ酸がPVAと架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となりながら延伸されるものと推定される。結果としてホウ酸水中延伸後もPVAの配向性が高くなる。」ことが記載されており、当業者は当該特許公報の内容を当然に心得ている。

b 上記aの明細書の記載(及び上記特許公報の【0047】記載)から、ハロゲン化物を含ませる(積層体を形成する)処理(C1)の意義は、ハロゲン化物によりPVAの配向の乱れ、および配向性の低下を抑制できることから、PVA系樹脂層において高いPVAの配向性を有するものが得られることにあり、(空中補助延伸)処理(C2)の意義は、事前に高いPVAの結晶性、高いPVAの配向性が得られ、後の染色工程((C3)処理)や延伸工程((4)処理)で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止できることから、PVA系樹脂層においてPVAの高い配向性を有するものが得られることにあり、(乾燥収縮)処理(C5)の意義は、積層体の幅を収縮させることにより、PVA及びPVA/ヨウ素錯体の配向性を高めることができることから、PVA系樹脂層においてPVA及びPVA/ヨウ素錯体の高い配向性のものが得られることにあることが一応理解できる。
一方、本件補正後発明2の(乾燥収縮)処理(C5)において、「加熱ロール」を用いることは特定されていない。そうすると、【0021】によれば、加熱ロールにより「積層体全体に亘って均一に収縮することができる」ことから、偏光膜の光学特性(単体透過率)のバラつきを抑制できるとのことであるから、処理(C5)の意義として、光学特性のバラつきが抑制された偏光膜が得られることまでは理解できない。

(イ) ここで、偏光板(偏光膜)の単体透過率及び偏光度等の偏光性能は、偏光膜の厚みの他、偏光膜を構成するPVA分子の配向状態(配向度)、偏光膜中に含まれるヨウ素分子(I2)、ヨウ素イオン(I−)、ポリヨウ素イオン(I3−、I5−)の含有量及びそれらのバランス(平衡状態)、特に、PVAとポリヨウ素イオンとの錯体である(470nm付近に吸光ピークを持つ)PVA−I3−錯体及び(600nm付近に吸光ピークを持つ)PVA−I5−錯体の含有量及び配向状態に依存することは当業者の出願時の技術常識である(例えば、原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2015/137514号(以下、「引用文献5」という。)の[0107]、特開2015−36729号公報の【0020】〜【0022】、特開2016−148724号公報の【0022】〜【0023】等を参照。)。

(ウ) そうすると、上記(ア)で述べた明細書の記載から理解される発明特定事項(C)(処理(C1)〜処理(C5))の意義及び上記(イ)で述べた当業者の技術常識を考慮すると、物(「偏光板」)の製造方法に係る発明特定事項(C)は、「偏光膜」を構成するPVA系樹脂層が、高いPVAの配向性及び高いPVAと染色材(ポリヨウ素イオン等)の錯体の配向性を有するものであることを表しているとまず理解できる。
また、処理(C1)及び処理(C3)より、物(「偏光板」)の製造方法に係る発明特定事項(C)は、「偏光膜」を構成するPVA系樹脂層がヨウ化物又は塩化ナトリウム、染色材(イオンやPVAと染色材との錯体を含む)を含有するものであることを表していると容易に理解できる。

しかしながら、発明特定事項(C)においては、処理(C5)を除き、処理(C1)〜処理(C4)の各処理の詳細が何ら特定されていない。例えば、処理(C1)におけるヨウ化物又は塩化ナトリウムの含有割合、処理(C2)における延伸温度、延伸速度、延伸倍率等の空中補助延伸条件、処理(C3)における染色液濃度、染色温度、染色時間等の染色条件、処理(C4)における延伸温度、延伸速度、延伸倍率等の水中延伸条件は特定されていない。
加えて、発明特定事項(C)においては、処理(C1)〜処理(C5)以外の処理、例えば、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理等の有無や処理条件について特定されていない(当合議体注:不溶化処理、架橋処理、洗浄処理については、本件出願明細書【0047】、【0052】、【0064】等の記載からも理解できる。)。
また、処理(C1)〜処理(C5)からなる偏光膜の製造方法において、各処理の処理条件の組み合わせをどのようなものとするかの技術常識があるわけでもない。
そして、処理(C1)〜処理(C4)の各処理の処理条件により、処理(C5)後に得られる、PVA系樹脂層における高いPVAの配向性及び高いPVAと染色材(ポリヨウ素イオン)の錯体の配向性の程度が変化する。また、PVA系樹脂層中のヨウ化物又は塩化ナトリウムの含有量、あるいは染色材(PVAと染色材との錯体を含む)の含有量も、処理(C1)〜処理(C4)処理の各処理の処理条件により変化する。加えて、これらは、処理(C1)〜処理(C5)以外の各処理の有無、処理条件によっても変化する。

そうすると、発明特定事項(C)が「当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」に関し、発明特定事項(C)が表す高いPVAの配向性の程度、範囲、高いPVAと染色材(ポリヨウ素イオン等)の錯体の配向性の程度、範囲が明らかであるとはいえない。同様に、発明特定事項(C)が「当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」に関して、発明特定事項(C)が表すPVA系樹脂層が含有するヨウ化物又は塩化ナトリウムの含有量の程度、範囲、染色材(PVAと染色材との錯体を含む)の含有量の程度、範囲が明らかであるとはいえない。

そして、仮に、第三者が、発明特定事項(C)の製造方法によらずに、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である偏光膜」を有する、「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」る「偏光板」を製造した場合、第三者は、発明特定事項(C)の製造方法により得られた偏光板と、自身が製造した偏光板の両者を、構造等を比較して、物として同一であるか否かを確認するには、処理(C1)〜処理(C5)の各処理の処理条件に加え、処理(C1)〜処理(C5)以外の不溶化処理、架橋処理、洗浄処理等の各処理の有無及び各処理条件を種々変更し、組み合わせて、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である偏光膜」を有する、「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」る「偏光板」を多数製造して、両者を比較し、PVA及びPVA−染色材(ポリヨウ素イオン)錯体の(高い)配向性が同一であるか否かを確認する、あるいは、PVA系樹脂層に含まれるヨウ化物又は塩化ナトリウムや染色材(PVAと染色材との錯体を含む)の含有量に関して、同一であるか否かを確認することが必要となる。
してみると、発明特定事項(C)が「当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」に関し、第三者の利益が不当に害されるおそれが生じかねないほどに不明確であるということができる。

(エ) 他の発明特定事項(A1)〜(A3)及び(B)も合わせて考慮に入れて上記発明特定事項(C)に係る物の製造方法が、「当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」を検討しても同様である。
すなわち、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下」の偏光膜において、「単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%であ」り、及び、「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下」となるように、「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる」とのことが、「偏光膜」を構成するPVA系樹脂層について、PVA系樹脂層中のPVA分子の高い配向性及びその分布、PVA−染色材錯体(PVA−I3−錯体、PVA−I5−錯体)の高い配向性及びその分布や、染色材(ヨウ素分子(I2)、ヨウ素イオン(I−)、ポリヨウ素イオン(I3−、I5−))の含有量、その分布及びバランスや、ヨウ化物又は塩化ナトリウム、PVA−I3−錯体及びPVA−I5−錯体の含有量及びその分布を表すと一応理解できるとしても、処理(C5)を除き、処理(C1)〜処理(C4)の処理条件が特定されず、加えて、処理(C1)〜処理(C5)以外の処理等の有無や処理条件が特定されていないため、やはり、それらの高い配向性やその分布の程度、範囲や、各含有量及びその分布の程度、範囲がやはり明らかでない。

そうすると、発明特定事項(C)の製造方法によらずに、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって」、「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」る「偏光板」を製造した第三者は、発明特定事項(C)の製造方法により得られた偏光板と、自身が製造した偏光板の両者を、構造等を比較して、物として同一であるか否かを確認するには、上記(ウ)で述べたと同様に、処理(C1)〜処理(C5)の各処理の処理条件、処理(C1)〜処理(C5)以外の不溶化処理、架橋処理、洗浄処理等の処理の有無及び各処理条件を種々変更し、組み合わせて、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である偏光膜」を有する、「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」る「偏光板」を多数製造して、両者を比較し、PVA及びPVA−染色材(ポリヨウ素イオン)錯体の(高い)配向性が同一であるか否かを確認する、あるいは、PVA系樹脂層に含まれるヨウ化物又は塩化ナトリウムや染色材(PVAと染色材との錯体を含む)の含有量に関して、同一であるか否かを確認することが必要となる。
してみると、発明特定事項(C)が「当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」に関し、第三者の利益が不当に害されるおそれが生じかねないほどに不明確であるということができる。

(オ) 審判請求書の主張について
ア 請求人は、「3.本願発明が特許されるべき理由」「(2)PBPクレームに関する非実際的事情について」において、「請求項1および2に係る発明は、従来は両立が困難であった高い単体透過率と高い偏光度とを有し、かつ、単体透過率のばらつきが小さい偏光板(実質的には、偏光膜)に関する発明です。このような新規なTP特性および単体透過率のばらつきは、代表的には、偏光膜を構成するポリビニルアルコール(PVA)分子の配向状態、偏光膜中に含まれるヨウ素含有量、形態の異なるヨウ素(代表的には、I2、I−、I3−、I5−)の含有量のバランス、PVAへのヨウ素の吸着状態(例えば、PVA/ヨウ素錯体の状態)等が有機的に組み合わされて実現されます。偏光膜としてのこのような新規な構造、構成、状態および/または組成は、請求項1または2に規定する製造方法により実現され得ます。」、「一方で、ご理解いただいているとおり、高分子化学または高分子成形加工という技術分野において、フィルムを構成するポリマー分子の配向状態、当該ポリマー分子への他の物質の吸着、結合、絡み合い等の状態を明確に特定することは実質的に不可能です。また、フィルムにおいて特定形態をとる特定物質の含有量を定量的に特定することはきわめて困難であり、本件において偏光膜中のI2、I−、I3−およびI5−を定量化することは実質的に不可能です。」、「したがって、本件の請求項1および2に係る発明における新規なTP特性および単体透過率のばらつきを、偏光膜中のPVA、ヨウ素等の構造、構成、状態および/または組成で特定することは、実際的ではありません。」と主張する。

この点について検討すると、非実際的事情の存在を請求人が主張するということは、とりもなおさず、発明特定事項(A1)〜(A4)及び(B)を満たす物の範囲のうちに、発明特定事項(C)を満たす物と、満たさない物とが存在する故に、本件補正後発明2の範囲から後者を除外し、前者のみに限定する趣旨と理解される。ここで、先に説示したとおりPBPクレームの範囲は、その製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物に及ぶとされる。
しかしながら、発明が解決しようとする課題や発明の効果の記載も含めた本願当初明細書等の説明からは、発明特定事項(C)の製造方法によって発明特定事項(A1)〜(A4)及び(B)で特定される範囲の物が製造できることは理解できるとしても、発明特定事項(A1)〜(A4)及び(B)で特定される範囲内にはさらに、物の構成として区別すべき物、あるいは、機能や特性等として区別すべき物があるということ、そして、本件補正後発明2はそのうちの特定の範囲の物に限定されているということを当業者は理解することができないし、それらを区別する技術的な観点や指標を読み取ることもできない。
そうすると、当業者は、発明特定事項(A1)〜(A4)及び(B)を満たす物について、さらにその物が、発明特定事項(C)の製造方法により製造された物と構造、特性等が同一であるか、あるいは異なっているかを判断する技術的な観点や指標を有していないし、技術常識等に基づいて判断できる事項とも認められない上に、本願当初明細書等に徴しても、発明特定事項(A1)〜(A4)及び(B)に関わる技術的な観点や指標(高い配向性や、それに基づく単体透過率や偏光度)とは別に、さらに物を区別してその範囲を限定しようとする認識が看取できないことから、上記判断のための技術的な観点や指標を本願当初明細書等から理解し、ある物が本件補正後発明2の範囲に入っているか否かの判断ができるとは認められない。
してみると、やはり、本件補正後発明2については、第三者の利益が不当に害されることが生じかねないほどに、上記発明特定事項(C)に係る物の「当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか」が不明確であるといわざるをえない。

(カ) 小括
本件補正後発明2は明確であるということはできない(あるいは、本件補正後発明2は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。)。

(2) 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件補正後発明2についてみると以下のとおりとなる。

イ 本件補正後発明2及び発明の詳細な説明
本件補正後発明2及び発明の詳細説明の記載については、既に述べたとおりである。

ウ サポート要件についての判断
(ア) 発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の【0004】には、「本発明・・・略・・・その主たる目的は、優れた光学特性を有する偏光板および偏光板ロールを提供することにある。」と記載されている。
また、同【0009】の記載には、「本実施形態の偏光膜を用いることにより、光学特性のバラつきが抑制された偏光板を実現することができる。」とも記載されている。

(イ) 課題を解決するための手段
発明の詳細な説明の【0005】には、【課題を解決するための手段】として、「本発明の偏光板は、厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する。この偏光板は、50cm2の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差が0.2%以下である。本発明の別の偏光板は、幅が1000mm以上であり、幅方向に沿った位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.5%以下である。」、「1つの実施形態においては、上記偏光膜の単体透過率は46%以下であり、偏光度は99%以下である。」と記載されている。

(ウ) ここで、本件補正後発明2における、発明特定事項(A2)「単体透過率が45%〜46%であり」、(A3)「偏光度が97%〜99%である」及び、(B)「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であり」について、これらの記載は、上記(ア)の課題に係る「優れた光学特性を有する」及び「光学特性のバラつきが抑制された」との定性的な記載を達成すべき結果として数値限定を用いて定量的に単に言い換えたにすぎず、課題を解決するための手段であると認めることはできない。
本件補正後発明2における、発明特定事項(A1)「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり」、及び、(A4)「偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板」との記載についても、当該記載事項のみによって発明の課題を解決できないことも明らかである。
そして、本件補正後発明2における発明特定事項(C)「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる」との記載は、上記(1)ウ(ア)〜(エ)で述べたとおり、「偏光膜」を構成するPVA系樹脂層が、高いPVAの配向性及び高いPVAと染色材(ポリヨウ素イオン等)の錯体の配向性を有し、ヨウ化物又は塩化ナトリウム、及び、染色材(イオンやPVAと染色材との錯体を含む)を含有するものであることを表していると容易に理解できるものの、その高いPVAの配向性の程度、範囲、その高いPVA及び染色材(ポリヨウ素イオン等)の錯体の配向性の程度、範囲、あるいはそのヨウ化物又は塩化ナトリウムの含有量の程度、範囲、染色材(イオン、PVAと染色材との錯体を含む)の含有量の程度、範囲が明らかであるとはいえない。
そして、「偏光膜」を構成するPVA系樹脂層が、高いPVAの配向性及び高いPVAと染色材(ポリヨウ素イオン等)の錯体の配向性を有し、ヨウ化物又は塩化ナトリウム、染色材(イオンやPVAと染色材との錯体を含む)を含有するということだけでは、技術常識を参酌したとしても、「優れた光学特性」(「単体透過率が45%〜46%であり」、「偏光度が97%〜99%である」)の偏光板を得るとの課題が解決できるとは限らないことは明らかである。

同様に、「優れた光学特性」(「単体透過率が45%〜46%であり」、「偏光度が97%〜99%である」)の偏光板を得ることに加え、「光学特性のバラつきが抑制された」(「1000mm以上」の「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」る)偏光板を実現するとの課題が解決できるとは限らないことは明らかである。単体透過率のバラつきの低減は、加熱ローラを用いて、積層体全体に亘って均一に収縮することによるものと理解される(【0021】等)ところ、発明特定事項(C)は、積層体全体に亘って均一に収縮された状態を表すものではないからである。
してみると、本件補正後発明2には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件補正後発明2は、当該手段を用いない場合についても特許を請求することになるから、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えることとなる。
よって、本件補正後発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

(エ) 審判請求書の主張について
請求人は、「3.本願発明が特許されるべき理由」「(1)拒絶査定に対する対処」において、「具体的には、請求項1および2に係る発明をそれぞれ、製造方法によりさらに特定しました。すなわち、請求項1および2を、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)としました。これらの補正は、例えば明細書の[0021]〜[0064]で明確にサポートされており、新規事項の追加ではありません。さらに、これらの補正は、請求項1および2で規定される偏光板の単体透過率と偏光度との関係(以下、当該関係全般をTP特性と称します)および単体透過率のばらつきを実現する技術的手段を特定するものですから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的限縮に該当する適法な補正です。」と主張するとともに、同「(3)本願発明が特許されるべき理由について」「(b)サポート要件(原査定の理由2)について」において、「上記のとおり、請求項1および2をPBPクレームとすることにより、「TP特性および単体透過率のばらつきを実現する技術的手段」を特定いたしました。これにより、原査定のサポート要件違反の拒絶理由は解消しました。また、上記のとおり、PBPクレームについては明確な非実際的事情が存在しますので、請求項1および2に係る発明は明確です。」と主張する。

しかしながら、製造方法に係る発明特定事項(C)によっては、「優れた光学特性」(「単体透過率が45%〜46%であり」、「偏光度が97%〜99%である」)の偏光板を得るとの課題が解決できるとは限らないこと、あるいは、製造方法に係る発明特定事項(C)によっては、「優れた光学特性」(「単体透過率が45%〜46%であり」、「偏光度が97%〜99%である」)の偏光板を得ることに加え、「光学特性のバラつきが抑制された」(「1000mm以上」の「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」る)偏光板を実現するとの課題が解決できるとは限らないことは、既に述べたとおりである。
してみると、請求人の上記主張を採用することはできない。

(オ) 小括
以上のとおであるから、本件補正後発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできない。

(3) 特許法第29条第2項進歩性)について
ア 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由2において引用された特開2015−191224号公報(以下「引用文献2」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、
該積層体を長手方向に搬送しながら、空中延伸して延伸積層体を作製する工程と、を含み、
該延伸積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが15μm以下であり、該ポリビニルアルコール系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向における最大値と最小値との差が0.6×10−3以下である、
延伸積層体の製造方法。
【請求項2】
前記空中延伸が熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含み、該熱ロールの幅方向の温度のばらつきが3℃以下である、請求項1に記載の延伸積層体の製造方法。
【請求項3】
前記熱ロールの温度が120℃以上である、請求項2に記載の延伸積層体の製造方法。
【請求項4】
前記熱ロールの加熱が、該熱ロール内の配管に熱媒を通すことにより行われ、ロールの外周部に内接して配置されたらせん状の配管に熱媒を通すことを含む、請求項2または3に記載の延伸積層体の製造方法。
【請求項5】
熱ロール中の熱媒体積と熱媒の流量との比が、2倍/分以上である、請求項4に記載の延伸積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法により製造される、延伸積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の延伸積層体を染色する工程を含む、偏光膜の製造方法。
【請求項8】
前記染色工程の後、前記延伸積層体をホウ酸水溶液中で延伸する工程をさらに含む、請求項7に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の製造方法により製造される、厚みが10μm以下である、偏光膜。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸積層体の製造方法およびそのような製造方法により得られる延伸積層体、ならびに、偏光膜の製造方法およびそのような製造方法により得られる偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置は、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。近年、偏光膜の薄膜化が望まれていることから、例えば、特定の熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層との積層体を空中延伸および染色した後、さらにホウ酸水溶液中で延伸することにより偏光膜を得る方法が提案されている・・・略・・・。しかし、このような製造方法により得られる偏光膜は、透過率のばらつきが発生する場合がある。
・・・省略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、透過率のばらつきが抑制された偏光膜が得られ得る延伸積層体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の延伸積層体の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、該積層体を長手方向に搬送しながら、空中延伸して延伸積層体を作製する工程と、を含む。延伸積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは15μm以下であり、該ポリビニルアルコール系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向における最大値と最小値との差は0.6×10−3以下である。
1つの実施形態においては、上記空中延伸は熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含み、該熱ロールの幅方向の温度のばらつきは3℃以下である。
1つの実施形態においては、上記熱ロールの温度は120℃以上である。
1つの実施形態においては、上記熱ロールの加熱は、該熱ロール内の配管に熱媒を通すことにより行われ、ロールの外周部に内接して配置されたらせん状の配管に熱媒を通すことを含む。
1つの実施形態においては、熱ロール中の熱媒体積と熱媒の流量との比は、2倍/分以上である。
本発明の別の局面によれば、延伸積層体が提供される。この延伸積層体は、上記製造方法により製造される。
本発明のさらに別の局面によれば、偏光膜の製造方法が提供される。この偏光膜の製造方法は、上記延伸積層体を染色する工程を含む。
1つの実施形態においては、上記偏光膜の製造方法は、上記染色工程の後、上記延伸積層体をホウ酸水溶液中で延伸する工程をさらに含む。
本発明のさらに別の局面によれば、偏光膜が提供される。この偏光膜は、上記製造方法により製造され、その厚みが10μm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薄型(例えば、10μm以下の)偏光膜の中間体である延伸積層体のポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向における最大値と最小値との差が0.6×10−3以下となるように延伸積層体を製造することにより、当該延伸積層体の染色後の透過率のばらつきを抑制することができる。その結果、得られる偏光膜の透過率のばらつきを抑制することができる。1つの実施形態においては、複屈折Δnxyの幅方向のばらつき(幅方向における最大値と最小値との差)は、空中延伸に用いられる熱ロールの幅方向の温度のばらつきを所定値以下に調整することにより制御することができる。
・・・省略・・・
【発明を実施するための形態】
【0008】
・・・略・・・
A.延伸積層体の製造方法
本発明の延伸積層体の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、該積層体を長手方向に搬送しながら、空中延伸して延伸積層体を作製する工程と、を含む。以下、各々の工程について説明する。
【0009】
A−1.積層体の作製工程
図1は、本発明の1つの実施形態による延伸積層体の製造方法に用いられ得る積層体の部分断面図である。積層体10は、熱可塑性樹脂基材11とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層12とを有する。積層体10は、長尺状の熱可塑性樹脂基材にPVA系樹脂層12を形成することにより作製される。・・・略・・・好ましくは、PVA系樹脂基材11上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
【0010】
熱可塑性樹脂基材の形成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂・・・略・・・等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、・・・略・・・非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0011】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0012】
上記熱可塑性樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0013】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。一方、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。
・・・略・・・
【0017】
上記PVA系樹脂層を形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール・・・略・・・が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。・・・略・・・PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。・・・略・・・このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0018】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。
・・・略・・・
【0019】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、・・・略・・・が挙げられる。・・・略・・・これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0020】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0023】
PVA系樹脂層の延伸前の厚みは、好ましくは3μm〜25μmであり、より好ましくは5μm〜20μmである。
・・・略・・・
【0027】
A−2.空中延伸工程
空中延伸工程は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含む。空中延伸工程は、代表的には、ゾーン延伸工程と熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および熱ロール延伸工程がこの順に行われる。
・・・略・・・
【0028】
A−2−1.ゾーン延伸工程
ゾーン延伸工程では、離間して2つのロールを配置し、該2つのロールの間に加熱ゾーンを設けて、当該加熱ゾーン内で積層体を延伸する。図2は、ゾーン延伸工程の一例を示す概略図であり、(a)は正面から見た図であり、(b)は上から見た図である。
・・・略・・・
【0031】
積層体の幅Wは、代表的には、500mm〜6000mmであり、好ましくは1000mm〜5000mmである。
【0032】
ゾーン延伸の延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは1.1倍〜3.0倍であり、より好ましくは1.3倍〜2.0倍である。
【0033】
上記のように、所定の温度で自由端延伸することにより、収縮を抑制しながら、PVA系樹脂の配向性を向上させることができる。PVA系樹脂の配向性を向上させることにより、後述の偏光膜の製造方法におけるホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、本工程によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0034】
A−2−2.熱ロール延伸工程
熱ロール延伸工程では、積層体10の搬送方向に沿って直列に配置された、それぞれが温度制御可能な複数(代表的には少なくとも3つ)の熱ロールを用いる。複数の熱ロールの回転により熱ロールに接した積層体10を搬送させながら、複数の熱ロールの周速差により積層体10を延伸する。図3は、熱ロール延伸工程の一例を示す概略図である。図示例では、それぞれが温度制御可能な第1のロールR1から第7のロールR7が搬送方向に沿って所定の間隔をあけて設けられている。・・・略・・・図示例では、積層体10は、その一方の面(例えば、PVA系樹脂層12側)が奇数番号のロール(第1のロールR1、第3のロールR3、第5のロールR5および第7のロールR7)と接触し、もう一方の面(例えば、熱可塑性樹脂基材11側)が偶数番号のロール(第2のロールR2、第4のロールR4および第6のロールR6)と接触して搬送されている。第1のロールR1から第5のロールR5は、それぞれ、所定の温度に加熱されて熱ロールとされており、積層体10は上側からも下側からも加熱される。
【0035】
熱ロールの温度は、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは125℃〜150℃である。積層体をこのような温度で加熱することにより、PVA系樹脂の結晶性を向上させることができる。必要に応じてゾーン延伸を組み合わせることにより、PVA系樹脂の結晶性をさらに向上させることができる。結晶性を向上させることにより、後述の水中延伸において、PVA系樹脂層が水に溶解して配向性が低下するのを防止することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0036】
それぞれの熱ロールの温度は、同一であってもよく異なっていてもよい。・・・略・・・図示例では第6および第7のロールR6およびR7は、任意の適切な温度に設定され得、例えば、積層体のガラス転移温度(Tg)以下に設定されて、積層体を冷却する。このように冷却することで、積層体にシワが発生する(例えば、トタン状に波打った状態となる)のを抑制することができる。冷却ロールの温度は、例えば30℃〜50℃である。熱ロール延伸工程における周囲温度(熱ロール延伸区間の雰囲気温度)は、例えば40℃〜60℃である。
【0037】
なお、図示例では、7本のロールを用いているが、用いるロールの総数、熱ロールおよび/または冷却ロールの数、熱ロールおよび/または冷却ロールの配置順序等の各種条件は、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0038】
熱ロール延伸工程においては、上記のロール群R1〜R7における隣接するロール間の周速差により積層体10に張力を付与し、積層体10を長手方向に一軸延伸する。より具体的には、下流側のロールほど周速度を高くすることにより延伸が行われる。熱ロール延伸工程においては、例えば1.2倍〜1.5倍にゾーン延伸された積層体を好ましくは1.1倍〜3.0倍さらに延伸する。
【0039】
A−2−3.空中延伸工程全体
空中延伸(熱ロール延伸およびゾーン延伸)による延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは1.5倍〜4.0倍であり、より好ましくは1.8倍〜3.0倍である。空中延伸による延伸倍率は、ゾーン延伸による延伸倍率と熱ロール延伸による延伸倍率との積である。空中延伸が熱ロール延伸のみである場合、熱ロール延伸の延伸倍率が上記のような範囲となる。
【0040】
本発明においては、得られる延伸積層体におけるPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向における最大値と最小値との差(以下、単に複屈折のばらつきともいう)が0.6×10−3以下、好ましくは0.4×10−3以下、より好ましくは0.2×10−3以下となるように空中延伸が行われる。
・・・略・・・
【0041】
複屈折のばらつきを上記のような範囲に制御することにより、延伸積層体を用いて得られる偏光膜の透過率(代表的には、単体透過率)のばらつきを顕著に抑制することができる。すなわち、PVA系樹脂層の複屈折が変化する場合、PVA系樹脂の結晶状態が変化し、後述する染色工程での染色性が変化する(具体的には、Δnが大きくなると染色性が低くなる)。結果として、PVA系樹脂層の幅方向の複屈折のばらつきが大きいと、得られる偏光膜の幅方向の透過率のばらつきが大きくなる。したがって、複屈折のばらつきを所定値以下に制御することにより、偏光膜の透過率のばらつきを顕著に抑制することができる。以下、詳細を説明する。
表示ムラは、液晶表示装置の輝度のばらつきに起因して認識される。逆に言えば、輝度のばらつきが所定値以下であれば、表示ムラは、視認者には認識されない。ここで、輝度のばらつきΔL*をx、表示ムラをyとすると、その関係は下記式(1)の1次関数に近似できることが知られている・・・略・・・。
y=2.75x−1.54 ・・・(1)
式(1)から、x(すなわち、ΔL*)を0.56未満とすればy=0となり、表示ムラが視認されなくなるといえる。ここで、液晶表示装置の輝度L*は、偏光板2枚を互いの吸収軸が平行となるよう配置した時のL*//で表され、偏光板の特性は、単体透過率(偏光板1枚での透過率)Y値:Tsで表される。偏光板の単体透過率を広範囲に変化させてL*//とTsとの相関関係を調べたところ、輝度のばらつきΔL*//と単体透過率のばらつきΔTsとは、式(2)の1次関数で表されることが確認された。
ΔL*//=1.289×ΔTs ・・・(2)
式(2)より、輝度のばらつきL*//(L*に対応する)を表示ムラが視認されなくなる閾値である0.56未満とするためには、ΔTsは0.43未満とすればよいことがわかる。
一方、本発明者らは、薄型(例えば、10μm以下)の偏光膜を作製するための延伸積層体において、PVA系樹脂層の複屈折に起因して偏光膜の透過率が変化し得ることを発見し、実験による試行錯誤の結果、PVA系樹脂層の複屈折Δnxyのばらつきと単体透過率のばらつきΔTsとの間に下記式(3)で表される相関関係があることを確認した。
ΔTs=9.53×10−5×(Δnxyのばらつき)2+117×(Δnxyのばらつき)・・・(3)
式(3)より、得られる延伸積層体におけるPVA系樹脂層の複屈折Δnxyのばらつきが0.6×10−3以下となるように空中延伸を行うことにより、ΔTsを0.43以下とすることができ、その結果、表示ムラが視認されなくなるようにすることができる。
【0042】
さらに、本発明者らは、空中延伸工程において特に熱ロール延伸の条件を制御することにより、得られる延伸積層体のPVA系樹脂層において上記所望の複屈折のばらつきを実現できることを見出した。具体的には、熱ロールの幅方向の温度のばらつき(幅方向の温度の最大値と最小値との差)を制御することにより、上記所望の複屈折のばらつきを実現することができる。より詳細には、実験による試行錯誤の結果、熱ロールの幅方向の温度のばらつきと複屈折Δnxyとの間には、下記式(4)のような相関関係が認められた。
(熱ロールの幅方向の温度のばらつき)
=2770×{1000×(Δnxyのばらつき)2+(Δnxyのばらつき)}・・・(4)
式(4)を用いれば、得られる延伸積層体におけるPVA系樹脂層の複屈折Δnxyのばらつきが0.6×10−3以下となるように熱ロールの幅方向の温度のばらつきを制御することができる。具体的には、熱ロールの幅方向の温度のばらつきは、好ましくは3℃以下であり、より好ましくは2℃以下であり、さらに好ましくは1.5℃以下であり、特に好ましくは1℃以下であり、最も好ましくは0.5℃以下である。
【0043】
熱ロールの幅方向の温度のばらつきを制御する手段としては、例えば、ロールを加熱する熱媒(オイル)の循環経路を適切に設定すること、熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比(熱媒流量/熱ロール中の熱媒体積)を適切に設定すること、および、それらの組み合わせが挙げられる。熱媒の循環経路については、例えば、図4Aおよび図4Bに示すような構成が挙げられる。図4Aの構成は、ロール内に直線的な配管を設けて当該配管に熱媒を流し、その流れによる圧力でロール内の熱媒を循環させる。図4Bの構成は、図4Aの直線的な配管に連続してロールの内周に添うようにしてらせん状の配管を設け、当該らせん状の配管に熱媒を循環させる。図4Bのような構成が好ましい。より精密な温度制御が可能となるからである。なお、図4Bは見やすくするためにらせん状の配管をロール外周部から離れた位置(すなわち、内部)に記載し、および、らせんの間隔をあけて記載しているが、実際は、らせん状配管はロールの外周部に内接して配置され、らせんの間隔はできるだけ小さくなるようにして(らせん間にできるだけ隙間を形成しないようにして)設けられている。また、図4Bでは省略しているが、らせん状配管はロールの幅方向端部から外部に延びて熱媒を排出する(排出された熱媒は熱源を通って循環して、図示される直線的な配管からロール内部に戻される)。さらに、直線的な配管とらせん状の配管とは図4Bに示すように連続して構成されてもよく、直線的な配管とらせん状の配管とをそれぞれ別体として構成してもよい(図示せず)。直線的な配管とらせん状の配管をそれぞれ別体として構成する場合には、らせん状の配管の所定の部分に開口部を設け、直線的な配管とらせん状の配管とが連通するようにして接続すればよい。熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比(熱媒流量/熱ロール中の熱媒体積)は、好ましくは2倍/分以上であり、より好ましくは2倍/分〜20倍/分であり、さらに好ましくは2倍/分〜10倍/分である。なお、熱ロール中の熱媒体積とは、熱ロール中を流れる(熱ロール中の配管に存在する)熱媒の総体積(本実施形態における単位はリットル)をいう。例えば熱ロールの温度を130℃に設定する場合、図4Bに示すようならせん状の配管を設け、熱媒の温度を130℃、熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比を10倍/分とすれば、熱ロールの幅方向の温度のばらつきを0.1℃程度ときわめて精密に制御することができる。
【0044】
B.延伸積層体
本発明の実施形態による延伸積層体は、上記A項に記載の製造方法により得られる。延伸積層体は、上記A−2−2項で空中延伸の延伸倍率について説明したとおり、積層体の元長に対して好ましくは1.5倍〜4.0倍であり、より好ましくは1.8倍〜3.0倍に延伸されている。上記A項に記載の製造方法により得られる延伸積層体を用いることにより、例えば、空中延伸しない積層体を後述の水中延伸のみで延伸するよりも、最終的により高い延伸倍率を達成することができる。具体的には、延伸積層体の熱可塑性樹脂基材は、配向を抑制しながら延伸されている。配向性が高いほど延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、樹脂基材が破断したりするが、配向が抑制されていることで、最終的により高い延伸倍率を達成することができる。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
【0045】
延伸積層体のPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向におけるばらつきは、上記のとおり、0.6×10−3以下であり、好ましくは0.4×10−3以下であり、より好ましくは0.2×10−3以下である。複屈折Δnxyのばらつきの下限は、例えば0.1×10−3である。複屈折のばらつきがこのような範囲であれば、上記のとおり、延伸積層体を用いて得られる偏光膜の透過率(代表的には、単体透過率)のばらつきを顕著に抑制することができる。
・・・略・・・
【0047】
C.使用方法
上記B項に記載の延伸積層体は、代表的には、偏光膜の製造に供される。具体的には、当該延伸積層体は、そのPVA系樹脂層を偏光膜とするための処理が、適宜施される。偏光膜とするための処理としては、例えば、延伸処理、染色処理、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。なお、これらの処理の回数、順序等は、特に限定されない。
【0048】
C−1.水中延伸
好ましい実施形態においては、上記延伸積層体を水中延伸(ホウ酸水中延伸)する。具体的には、上記積層体の延伸方向と平行な方向に水中延伸する。水中延伸によれば、上記樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
・・・略・・・
【0050】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に延伸積層体を浸漬して行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
【0051】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を作製することができる。
・・・略・・・
【0052】
後述の染色処理により、予め、PVA系樹脂層に二色性物質(代表的には、ヨウ素)が吸着されている場合、好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、・・・略・・・等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0053】
水中延伸の延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは50℃〜85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。延伸積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
【0054】
上記熱可塑性樹脂基材と水中延伸(ホウ酸水中延伸)とを組み合わせることにより、高倍率に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。具体的には、最大延伸倍率は、上記積層体の元長に対して(延伸積層体の延伸倍率を含めて)、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、延伸積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、延伸積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。なお、上記熱可塑性樹脂基材を用いた積層体の最大延伸倍率は、水中延伸を経た方が空中延伸のみで延伸するよりも高くなり得る。
【0055】
C−2.その他
上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質で染色する処理である。好ましくは、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂層(延伸積層体)を浸漬する方法、・・・略・・・等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液に延伸積層体を浸漬する方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。
【0056】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料が挙げられる。好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部〜20重量部、より好ましくは0.1重量部〜10重量部、さらに好ましくは0.7重量部〜3.5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬する場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0057】
好ましくは、染色処理は上記水中延伸の前に行う。
【0058】
上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、不溶化処理は、上記水中延伸や上記染色処理の前に行う。
【0059】
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。
【0060】
上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記乾燥処理における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0061】
図5は、偏光膜の製造方法の一例を示す概略図である。延伸積層体10’を、繰り出し部101から繰り出し、ロール111および112によってホウ酸水溶液の浴110中に浸漬した後(不溶化処理)、ロール121および122によって二色性物質(ヨウ素)およびヨウ化カリウムの水溶液の浴120中に浸漬する(染色処理)。次いで、ロール131および132によってホウ酸およびヨウ化カリウムの水溶液の浴130中に浸漬する(架橋処理)。その後、延伸積層体10’を、ホウ酸水溶液の浴140中に浸漬しながら、速比の異なるロール141および142で縦方向(長手方向)に張力を付与して延伸する(水中延伸)。水中延伸した延伸積層体10’を、ロール151および152によってヨウ化カリウム水溶液の浴150中に浸漬し(洗浄処理)、乾燥処理に供する(図示せず)。その後、延伸積層体10’を巻き取り部160にて巻き取る。
【0062】
C.偏光膜
上述のとおり、本発明の延伸積層体に上記各処理を施すことにより上記樹脂基材上に偏光膜が形成される。この偏光膜は、実質的には、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
・・・略・・・
【0064】
D.光学フィルム積層体および光学機能フィルム積層体
上記偏光膜は、光学フィルム積層体および/または光学機能フィルム積層体に用いられ得る。図6(a)は、偏光膜が用いられ得る光学フィルム積層体の概略断面図であり、図6(b)は、偏光膜が用いられ得る光学機能フィルム積層体の概略断面図である。光学フィルム積層体100は、樹脂基材11’と偏光膜12’と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。光学機能フィルム積層体200は、樹脂基材11’と偏光膜12’と接着剤層15と光学機能フィルム16と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。これらの実施形態では、上記樹脂基材を得られた偏光膜12’から剥離せずに、そのまま光学部材として用いている。樹脂基材11’は、例えば、偏光膜12’の保護フィルムとして機能し得る。」

(ウ) 「【実施例】
【0067】
・・・略・・・なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
(1)厚み
・・・略・・・
(2)ガラス転移温度(Tg)
・・・略・・・
(3)ロール温度のばらつき
ロールの幅方向に沿って100mm間隔で、接触式温度計を用いて測定した。測定値の最大値と最小値との差をばらつきとした。
(4)複屈折のばらつき
PVA系樹脂層の上記(1)で厚みを測定した部分を、位相差を有しない粘着剤付のガラスに転写し、王子計測機器社製、KOBRA−WPRを用いて正面位相差を測定した。得られた正面位相差値を上記(1)で得られたPVA系樹脂層の厚みで割って、複屈折を算出した。算出した複屈折の最大値と最小値との差をばらつきとした。
(5)単体透過率のばらつき
偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて、実施例および比較例で得られた偏光板の単体透過率Tsを測定した。測定値の最大値と最小値との差をばらつきとした。なお、単体透過率Tsは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。
・・・略・・・
【0068】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。
熱可塑性樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m2)を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)90重量部およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)10重量部を含む水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0069】
温度調節可能なオーブンの入口と出口のそれぞれに設けられたロール対に得られた積層体を挟持させ、これらのロール間に周速差を持たせて長手方向に1.5倍に延伸した(ゾーン延伸工程)。ゾーン延伸された積層体を、130℃に加熱された複数のロール間で1.3倍さらに延伸した(熱ロール延伸工程)。このようにして、総延伸倍率2.0倍で積層体の空中延伸を行った。なお、ロールには図4Bに示すようならせん状の配管を設け、当該配管に熱媒を流すことによりロールを加熱した。熱ロール中の熱媒体積は40リットルであり、熱媒の流量は400リットル/分であり、したがって、熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比(熱媒流量/熱ロール中の熱媒体積)は10倍/分であった。ロールの幅方向の温度のばらつき(最大値と最小値との差)は0.1℃であった。得られた延伸積層体(幅2500mm)のPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向におけるばらつきは、0.13×10−3であった。複屈折Δnxyの中心値は16.6×10−3であった。
【0070】
次いで、延伸積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、延伸積層体を、液温30℃の染色浴に、得られる偏光膜の透過率が42.6%となるように、ヨウ素濃度および浸漬時間を調整して浸漬した。本実施例では、染色浴として水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液を用い、当該染色浴に延伸積層体を60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、延伸積層体を、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、延伸積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを5重量部配合し、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、延伸積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
このようにして、熱可塑性樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成した。
【0071】
続いて、上記のようにして得られた積層体の偏光膜表面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z−200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、トリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm)を貼り合わせ、60℃に維持したオーブンで5分間加熱し、厚み5μmの偏光膜を有する光学機能フィルム積層体(偏光板)を作製した。続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離し、片面に保護フィルムを有する構成の偏光板を得た。
【0072】
得られた偏光板の透過率(単体透過率)は42.6%であった。単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%であった。さらに、得られた偏光板の表示ムラを上記(6)のようにして観察したところ、表示ムラは認められなかった。
・・・略・・・
【0077】
【表1】

【0078】
[評価]
表1から明らかなように、延伸積層体のPVA系樹脂層の複屈折Δnxyのばらつきを小さくすることにより、得られる偏光板の単体透過率のばらつきを小さくすることができる。その結果、表示ムラを小さくすることができる。さらに、表1から明らかなように、複屈折のばらつきは、空中延伸における熱ロール延伸の熱ロール温度のばらつきを調整することにより制御できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の延伸積層体は、偏光膜の製造に好適に用いられる。得られる偏光膜は、透過率のばらつきが抑制され、例えば、液晶パネルや有機ELパネルに好適に用いられ得る。」

(エ) 「【図1】


【図2】


【図3】


【図4A】


【図4B】


【図5】


【図6】





イ 引用文献2に記載された発明
引用文献2には、請求項1〜7を引用する請求項8に係る「偏光膜の製造方法」が記載されている。また、引用文献2の【0067】〜【0072】及び【0077】【表1】には、「実施例1」として、上記「偏光膜の製造方法」を具体的に適用して得られた「偏光板」が記載されている。
したがって、引用文献2には、次の「偏光板」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「 熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用い、
熱可塑性樹脂基材の片面に、ポリビニルアルコール90重量部およびアセトアセチル変性PVA10重量部を含む水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製し、
温度調節可能なオーブンの入口と出口のそれぞれに設けられたロール対に得られた積層体を挟持させ、これらのロール間に周速差を持たせて長手方向に1.5倍に延伸し(ゾーン延伸工程)、
延伸された積層体を、130℃に加熱された複数のロール間で1.3倍さらに延伸し(熱ロール延伸工程)、総延伸倍率2.0倍で積層体の空中延伸を行い、
ここで、(熱ロール延伸工程)における熱ロールにはらせん状の配管を設け、当該配管に熱媒を流すことにより熱ロールを加熱し、熱ロール中の熱媒体積は40リットルであり、熱媒の流量は400リットル/分であり、したがって、熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比(熱媒流量/熱ロール中の熱媒体積)は10倍/分であり、熱ロールの幅方向の温度のばらつき(最大値と最小値との差)は0.1℃であり、得られた延伸積層体(幅2500mm)のPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δnxyの幅方向におけるばらつきは、0.13×10−3であり、
次いで、延伸積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させ(不溶化処理)、
次いで、延伸積層体を、液温30℃の染色浴に、得られる偏光膜の透過率が42.6%となるように、ヨウ素濃度および浸漬時間を調整して浸漬し、ここで、染色浴として水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液を用い、当該染色浴に延伸積層体を60秒間浸漬させ(染色処理)、
次いで、延伸積層体を、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させ(架橋処理)、
その後、延伸積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを5重量部配合し、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行い(水中延伸)、
その後、延伸積層体を、液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させ(洗浄処理)、
前記熱可塑性樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成し、
続いて、得られた積層体の偏光膜表面に、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせ、厚み5μmの偏光膜を有する偏光板を作製し、続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離して得た、片面に保護フィルムを有する構成の偏光板であって、
偏光板の透過率(単体透過率)は42.6%であり、単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%である、偏光板。
ここで、単体透過率のばらつきは、偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて測定した偏光板の単体透過率Tsの測定値の最大値と最小値との差であり、単体透過率Tsは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。」
(当合議体注:「熱ロール延伸工程」に関して、「ロール」及び「熱ロール」との記載を、「熱ロール」に統一した。)

ウ 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由2において周知技術を示すために引用された、特開2017−68282号公報(以下、同じく「引用文献3」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。
(ア) 「【発明を実施するための形態】
【0064】
(偏光膜に関連する技術的背景)
偏光膜の背景技術として、本発明に用いられる熱可塑性樹脂基材の材料特性と偏光膜の偏光性能によって表される光学特性について説明する。
・・・略・・・
【0068】
次に、有機EL表示素子に用いることができる偏光膜の光学特性を概説する。
偏光膜の光学特性とは、端的には、偏光度Pと単体透過率Tとで表す偏光性能のことである。一般に、偏光膜の偏光度Pと単体透過率Tとはトレード・オフの関係にある。この2つの光学特性値は、T−Pグラフにより表すことができる。T−Pグラフにおいて、プロットしたラインが単体透過率の高い方向にあり、かつ偏光度の高い方向にあるほど、偏光膜の偏光性能が優れていることになる。
【0069】
ここでT−Pグラフを示す図3を参照すると、理想的光学特性は、T=50%で、P=100%の場合である。図から分かるように、T値が低ければP値を上げやすく、T値が高いほどP値を上げにくい、という傾向にある。さらに、偏光膜の偏光性能を透過率Tと偏光度Pの関数を示す図4を参照すると、偏光膜の単体透過率T及び偏光度Pについて、図4にライン1(T=42.5)及びライン2(P=99.5)より上の領域として定められた範囲が、有機EL表示装置の偏光膜性能として求められる光学特性と考えられる性能である。単体透過率TはT≧43.0であることがより好ましい。なお、単体透過率Tの理想値は、T=50%であるが、光が偏光膜を透過する際に、偏光膜と空気との界面で一部の光が反射する現象が起こる。この反射現象を考慮すると、反射に相当する量だけ単体透過率Tが減少するので、現実的に達成可能なT値の最大値は45〜46%程度である。」

(イ)「【0079】
〔偏光膜の製造に関する実施例〕
本発明の有機EL表示装置に使用される偏光膜の実施例として、実施例1〜25を示す。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。これらの実施例のうち実施例1〜18において製造される偏光膜の製造条件を、図27及び図28に示す。さらに、対比される例として、参考例及び比較例も作成した。・・・略・・・また、以下に厚み、透過率、偏光度の測定方法、PETの配向関数、PVAの配向関数、PVAの結晶化度の評価方法を示す。
・・・略・・・
【0081】
(透過率及び偏光度の測定方法)
偏光膜の単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tcは、紫外可視分光光度計(日本分光社製V7100)を用いて測定した。これらのT、Tp、Tcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
・・・略・・・
【0085】
[実施例1]
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。非晶性PETのガラス転移温度は75℃である。連続ウェブの非晶性PET基材とポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)層からなる積層体を以下のように作製した。ちなみにPVAのガラス転移温度は80℃である。
【0086】
厚み200μmの非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。・・・略・・・
次に、上記した厚み200μmの非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材上に厚み7μmのPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」又は「7μm厚のPVA層を含む積層体」又は単に「積層体」という。
【0087】
7μm厚のPVA層を含む積層体を、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、3μm厚の偏光膜を製造した。
・・・略・・・
【0088】
次に、染色工程によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。以下、これを「着色積層体」という。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。
・・・略・・・
【0089】
ちなみに、ヨウ素を水に溶解するにはヨウ化カリウムを必要とする。・・・略・・・実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%でヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液への延伸積層体の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体を生成した。
【0090】
さらに、第2段のホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体を非晶性PET基材と一体にさらに延伸し、3μm厚の偏光膜を構成するPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。以下、これを「光学フィルム積層体」という。
・・・略・・・
【0091】
本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体をまず5〜10秒間ホウ酸水溶液に浸漬した。しかる後に、その着色積層体をそのまま処理装置に配備された延伸装置である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体の偏光膜を構成する。
【0092】
以上のように実施例1は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。
【0093】
光学フィルム積層体の製造に必須の工程ではないが、洗浄工程によって、光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄した。しかる後に、洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥した。なお洗浄工程は、ホウ酸析出などの外観不良を解消するための工程である。」

(ウ)「【0104】
[実施例4]
実施例4は、実施例1の製造工程に実施例3の不溶化工程と実施例2の架橋工程を加えた製造工程によって生成した光学フィルム積層体である。まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。実施例4は、実施例3の場合と同様に、生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬する不溶化工程によって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化した。実施例4はさらに、不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を、実施例3の場合と同様に、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによってヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。
【0105】
実施例4は、実施例2の場合と同様に、生成された着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬する架橋工程によって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。実施例4はさらに、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に5〜10秒間浸漬し、実施例2の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例4の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1から3の場合と同様である。
【0106】
また実施例4は、実施例3の場合と同様に、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することはない。実施例4においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度及びヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0107】
以上のように実施例4は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。架橋されたPVA層を含む着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶に5〜10秒間浸漬し、しかる後に、ホウ酸水中延伸によって倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した光学フィルム積層体を生成した。
【0108】
実施例4は、このように空中高温延伸及びホウ酸水中延伸からなる2段延伸と染色浴への浸漬に先立つ不溶化及びホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理とによって、非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を安定的に生成することができた。
・・・略・・・
【0116】
[実施例12]
実施例12は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例12の場合、空中補助延伸の延伸温度を150℃としたことにある。
・・・略・・・
【0123】
[実施例19]
実施例19は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に製膜されたPVA層の厚みと総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例4は、7μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3μm厚であった。これに対して、実施例19は、9μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3.5μm厚であった。また、実施例4は、空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍および3.3倍とした。これに対して、実施例19は、それぞれの延伸倍率が2.0倍および3.0倍とした。
・・・略・・・
【0143】
実施例4、8、12、19〜25及び比較例1、4の製造方法により得られた偏光膜のうちの特定の偏光膜を選び、各偏光膜について、以下に示すようにして各種評価を行った。評価の対象とした偏光膜の光学特性を図30に、光学特性を含む各種特性と評価結果を表2に示す。ここで、各偏光膜の実施例の番号は、製造方法の実施例番号に枝番を付す形とした。
【0144】
【表2】

(当合議体注:便宜のため、90°回転し、また、縦横比を調整した。)
・・・略・・・
【0234】
[様々な製造条件による偏光膜の光学特性]
(1)不溶化工程による偏光膜の光学特性の向上(実施例1〜4)
すでに図7を用いて説明した通り、実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜は、いずれも上述した技術的課題を克服するものであり、これらの光学特性は、有機EL表示装置として求められる要求性能を満たすものである。さらに、図7から明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、第1不溶化処理及び/又は第2不溶化処理が施された実施例2〜4の偏光膜の光学特性のいずれよりも低い。それぞれの光学特性を比較すると、(実施例1)<(第1不溶化処理のみが施された実施例3)<(第2不溶化処理のみが施された実施例2)<(第1及び第2不溶化処理が施された実施例4)の順に光学特性が高くなる。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程に加えて、第1及び/又は第2不溶化工程を有する製造方法によって製造された偏光膜は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
・・・略・・・
【0238】
(4)空中補助延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例7〜9)
・・・略・・・
【0239】
図14を参照すると、実施例7〜9による偏光膜は、いずれも、実施例4の場合と同様に、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要な要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例7<実施例8<実施例4<実施例9の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸の延伸倍率が1.2倍から2.5倍の範囲内で設定された場合に、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同程度に設定されたとしても、第1段の空中補助延伸が高延伸倍率に設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸を高延伸倍率に設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0240】
(5)空中補助延伸温度による偏光膜の光学特性の向上(実施例10〜12)
実施例4においては空中補助延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10〜12においては、それぞれの空中補助延伸温度を95℃、110℃、150℃に設定した。いずれもPVAのガラス転移温度Tgより高い温度である。これらの実施例においては、この点を除き、例えば空中補助延伸倍率を1.8倍とする点、ホウ酸水中延伸における延伸倍率を3.3倍とする点を含み、実施例4と同様の条件で偏光膜を製造した。実施例4の空中補助延伸温度は130℃である。実施例4を含め、これらの実施例は、延伸温度を95℃、110℃、130℃、及び150℃とすることの違いを除くと、製造条件は全て同じである。
【0241】
図15を参照すると、実施例4、10〜12による偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例10<実施例11<実施例4<実施例12の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸温度をガラス転移温度より高く、95℃倍から150℃へと順次高くなるように温度環境を設定した場合には、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同じに設定されたとしても、第1段の空中補助延伸温度がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸温度をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0242】
(6)総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例13〜15)
・・・略・・・
【0243】
図16を参照すると、実施例4、13〜15の偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例13<実施例14<実施例4<実施例15の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。」

(エ) 「【図3】



(オ) 「【図7】


(当合議体注:便宜のため、90°回転した。以下同じ。)

(カ) 「【図13】



(キ) 「【図14】



(ク) 「【図15】




(ケ) 「【図16】



(コ) 「【図27】



(サ) 「【図28】



(シ) 「【図30】




エ 対比
(ア) 対比
本件補正後発明2と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
a 偏光膜
(a) 引用発明の製造工程からみて、引用発明の「偏光膜」は、「PVA系樹脂層」により「形成」される。
そうすると、引用発明の「偏光膜」は、ポリビニルアルコール系樹脂のフィルムで構成されているということができる。
また、引用発明の製造工程(特に、「染色処理」)からみて、引用発明の「偏光膜は、ヨウ素を含むということができる。

(b) 引用発明の「偏光膜」は、「厚み5μm」である。

(c) 引用発明の「偏光膜」は、その文言が示すとおりのものである。
そうすると、引用発明の「偏光膜」は、本件補正後発明2の「偏光膜」に相当する。
また、上記(a)と(b)より、引用発明の「偏光膜」は、本件補正後発明2の「偏光膜」の、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり」との要件を具備する。

b 保護層
引用発明の「偏光板」は、「偏光膜表面に、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせ」、「続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離して得た、片面に保護フィルムを有する構成」である。
引用発明の当該構成からみて、引用発明の「保護フィルム」は、「偏光板」における重なりをなすものの一つ(層)といえる。また、その文言からみて、引用発明の「保護フィルム」は、「偏光膜」を保護する機能を有する。
そうすると、引用発明の「保護フィルム」は、本件補正後発明2の「保護層」に相当する。

c 偏光板
引用発明の「偏光板」は、「厚み5μmの偏光膜を有する偏光板を作製し、続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離して得た、片面に保護フィルムを有する構成の偏光板」である。ここで、引用発明の「偏光板」は、その文言が示すとおりのものであって、本件補正後発明2の「偏光板」に相当する。
そうすると、上記aとbより、引用発明の「偏光板」は、本件補正後発明2の「偏光板」における、「偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する」という要件を満たす。

d 幅方向寸法
引用発明の「偏光板」は、「総延伸倍率2.0倍で積層体の空中延伸を行い」「得られた延伸積層体(幅2500mm)」を、「周速の異なるロール間で縦方向に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行い(水中延伸)」得られたものである。
そうすると、最終的に得られる偏光板の幅は、1500mm程度となることが分かる(引用発明の「偏光板」の幅方向寸法は、自由端縦一軸延伸と理解される水中延伸倍率2.75倍(=5.5(倍)÷2.0(倍))及び水中延伸前の幅方向寸法「2500mm」から見積ることができる(2500/√(2.75)≒1508mm)。)。
そうすると、引用発明の「偏光板」は、本件補正後発明2の「偏光板」における、「幅が1000mm以上であり」という要件を満たす。

(イ) 一致点及び相違点
a 一致点
本件補正後発明2と引用発明は、次の構成で一致する。
「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
幅が1000mm以上である、偏光板。」

b 相違点
本件補正後発明2と引用発明とは、次の点で相違する。
(相違点1)
「偏光膜」が、本件補正後発明2は、「単体透過率が45%〜46%であり、偏光度が97%〜99%である」のに対して、引用発明は、「偏光板の透過率(単体透過率)は42.6%であり」、偏光度は特定されていない点。

(相違点2)
「単体透過率」が、本件補正後発明2は、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下であ」るのに対して、引用発明は、「偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で」「測定した偏光板の単体透過率Tsの測定値の最大値と最小値との差であ」る、「偏光板の」「単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%である」点。

(相違点3)
本件補正後発明2は、「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる」のに対して、引用発明は、そのようなものであるかどうか不明である点。

オ 判断
上記相違点について検討する。
(ア) 相違点1について
a 引用文献2でいう「本発明」の解決しようとする課題は、「透過率のばらつきが抑制された偏光膜が得られ得る延伸積層体を製造する方法を提供する」(【0004】)ことである。
上記課題からみて、引用文献2の偏光膜(偏光板)は、単体透過率のばらつきが抑制されたものであればよく、引用発明における単体透過率及び偏光度は、「液晶パネルや有機ELパネルに好適に用いられ得る」(【0079】)範囲であれば制限はないと理解できる(引用文献2の特許請求の範囲の請求項1〜請求項9の記載や課題を解決するための手段(【0005】〜【0009】)の記載からも理解できることである。)。
引用文献2の【0056】には、「1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。」、【0062】には、「偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。」との記載があるが、これらの記載は、一実施形態、あるいは、好ましい範囲の例示と当業者は理解する。

b ここで、偏光膜の単体透過率と偏光度がトレードオフの関係にあり、染色時間、染色温度、染料濃度等の染色条件を変更することによって、単体透過率を相対的に高くし、偏光度を相対的に低く調整したり、または、単体透過率を相対的に低くし、偏光度を相対的に高く調整することが可能であることは、当業者の技術常識である(当合議体注:例えば、引用文献2の【0056】、引用文献3の【0068】〜【0069】、【0089】、【0106】、【0144】 【表2】、【図3】や【図7】、【図13】〜【図16】及び【図30】の各実施例のT−Pグラフ等参照。)。
また、より高い光学性能(引用文献3の【0069】及び【図3】でいうT−Pグラフの右上領域)の偏光膜を所望する場合、偏光膜の光学性能の制御のため、染色条件以外に延伸倍率(空中補助延伸倍率、水中延伸倍率、総延伸倍率)、不溶化処理の有無、空中補助延伸温度等を変化させることにより、T−Pグラフがより右上の領域に位置する、光学特性がより高い偏光膜となるように調整することが可能であることを当業者は心得ている(例えば、引用文献3の【0144】【表2】、【図15】及び【図30】の実施例4−1及び実施例23−1の記載、【0239】、【0243】、【図14】及び【図16】の記載や、【0234】及び【図7】の記載、【0241】及び【図15】の記載、【図27】及び【図28】の左から2列目の「目的」欄の記載等を参照。)。
さらに、原査定の拒絶の理由2において周知技術を示すために引用された国際公開第2015/137514号(以下、同じく「引用文献5」という。)に記載されているように、偏光膜のPVA系樹脂層を形成する際、ヨウ化カリウム等のヨウ化物や塩化ナトリウム等のハロゲン化物を含ませることにより、延伸された積層体のPVA系樹脂の結晶化を促進し、液体浸漬時の配向乱れ、配向度の低下を抑制し、光学特性がより高い偏光膜とする調整(例えば、T−Pグラフをより右上の領域とする調整)が可能であることを当業者は心得ている(例えば、引用文献5の特許請求の範囲、[0006]、[0103]、[0151][表1]、[0154]、[図1]及び[図2]等。)。

c 所望の偏光特性(単体透過率及び偏光度)の偏光膜を得ようとする当業者は、当該偏光特性に近い偏光特性が得られた(あるいは得られると期待できる)偏光膜のT−Pグラフ及びその製造条件を参考にできる。
ここで、引用文献3の【0116】には、「実施例12」として、「空中補助延伸の延伸温度を150℃としたこと」を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体」が記載され、【0144】【表2】には、単体透過率44%、偏光度99.9%の実施例12−1が示され、【図15】には、「実施例12」による偏光膜の偏光性能(T−Pグラフ)が示されている。これら実施例12の記載に接した当業者は、【図15】の実施例12のT−Pグラフ及びその延長線に基づき、実施例12の製造条件における染色条件を変更して、(実施例12−1の)単体透過率を相対的に高く、偏光度を相対的に低く調整することにより、45.0%程度の高い単体透過率及び99%程度の偏光度が達成可能であると理解できる。
さらに、当業者は、引用文献3の【0241】の記載を参考にして、【図15】の実施例4のT−Pグラフ及びその延長線と、実施例4と実施例12の空中補助延伸の延伸温度に関係(それぞれ130°及び150°)とに基づき、実施例4を前提として、その空中延伸の処理温度を実施例12の150°に近づけていくことにより、例えば、45.0%の単体透過率、(99%より少し低い)98.5%等の偏光度を持つ偏光膜を得ることが可能であると理解できる。
そうしてみると、引用発明において、偏光膜の光学特性として、例えば、単体透過率45%、偏光度99%(あるいは、単体透過率45%、偏光度97%〜99%)が得られるように偏光膜の製造条件を調整し、相違点1に係る本件補正後発明2の単体透過率及び偏光度を満たすものとすることは、上記技術常識及び引用文献2、3、5の各記載事項に基づき、引用発明の偏光板の光学特性(単体透過率及び偏光度)の変更、改善を試みる当業者が容易に想到し得たことである(当合議体注:本件補正後発明2の「単体透過率」及び「偏光度」は、「偏光膜」のものであるのに対して、引用発明の「単体透過率」等は、「偏光板」のものである。しかしながら、本願明細書の【0012】、【0065】及び【0073】等の記載からも理解できるとおり、両者は同一視できるものである。すなわち、【0065】の記載より、本件補正後発明2の「偏光膜」の「単体透過率」及び「偏光度」は、「偏光板(保護フィルム/偏光膜)」について、「紫外可視分光光度計(日本分光社製V−7100)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光膜のTs、TpおよびTcと」し、「Ts、TpおよびTc」を「JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値」として求めたものと理解できる。引用発明の「偏光板の透過率(単体透過率)」も、「紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて」、「JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である」。)

(イ) 相違点2について
a 引用発明は、「偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で」「測定した偏光板の単体透過率Tsの測定値の最大値と最小値との差であ」る「単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%」である。この「単体透過率のばらつき」の、「100mm間隔で」「測定」し、「最大値と最小値との差の値」が「0.02%」であるとの条件は、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差」が「0.30%以下」とされる本件補正後発明2の上限値「0.30%」との要件と比較して、相当厳しい条件である。
そうすると、引用発明は、相違点2に係る本件補正後発明2の要件を満たすと認められる。そして、上記(ア)に係る製造条件の変更を考慮に入れても、「0.02%」とされる引用発明の「単体透過率のばらつき」が、本件補正後発明2における測定条件において「0.30%」を超える程度にまで悪化するとは考えにくい。
してみると、相違点2は相違点を構成しない。

b あるいは、引用文献2には、単体透過率のばらつきを抑制する手段として、引用発明のように、「熱ロール延伸工程」における「熱ロールの幅方向の温度のばらつき(最大値と最小値との差)」を小さくする手段(具体的には、引用文献2の【0043】、【図4A】、【図4B】等)が記載されている。また、引用文献2の【0019】や【0020】には、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成できるよう、水溶液中のPVA系樹脂濃度を最適化することや、PVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させるように、塗布液に可塑剤、界面活性剤等を配合することが記載されている。さらにいうと、長尺の偏光板の幅方向中央部が端部と比較して、単体透過率が落ち込まず安定しているという知見(例えば、特開2006−227604号公報(以下「引用文献6」という。)の【0005】、【0069】及び【図1】等参照。)を、当業者は心得ている。
そして、当業者であれば、上記(ア)で述べたとおり引用発明の偏光板の光学特性(単体透過率及び偏光度)を変更、改善し、相違点1の数値範囲に調整した場合であっても、引用文献2の上記記載、示唆や上記知見に基づいて、引き続き「単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)」を「0.02%」とすることは、当業者の設計上のことである(あるいは、引用文献2の実施例2の「単体透過率のばらつき」「0.17%」(【0077】【表1】)を目標として設計することもできる。)。例えば、当業者は、単体透過率が落ち込み不安定な両端を除き、光学特性が相対的に安定している幅方向中央部の1000mm以上の領域のみを「偏光板」として着目して、使用することもできる。
してみると、引用発明において、相違点2に係る本件補正後発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ) 相違点3について
a 上記(1)において述べたとおり、相違点3に係る「長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ヨウ化物または塩化ナトリウムとポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、前記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法により得られる」との発明特定事項は、偏光膜を構成するPVA系樹脂層のPVA分子及びPVA−染色材(ポリヨウ素イオン)錯体が高い配向性を有するものであること、ヨウ化物又は塩化ナトリウムと染色材を含有するものであること、を表していると理解できる。しかしながら、これらの配向性の高さの程度、範囲、あるいはこれらの含有量の程度、範囲が明確とはいえない。

一方、空中延伸を用いて製造された引用発明は、偏光膜のPVA分子及びPVA−ポリヨウ素イオン錯体の配向性は高いといえる。
また、引用発明は、明示がないものの、「洗浄処理」後に、「乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃」とされる「乾燥処理」を、「長尺状」の「延伸積層体」を長手方向に搬送しながら加熱することにより行っている(引用文献2の【0060】、【0061】等)と理解されるところ、PVA系樹脂層及び熱可塑性樹脂(「吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム」)からの水分除去に伴い「延伸積層体」の幅が収縮するから、偏光膜のPVA分子及びPVA−ポリヨウ素イオン錯体の配向性は高いといえる(乾燥によりPVA系樹脂層の幅が収縮し、PVA分子及びPVA−ポリヨウ素イオン錯体の配向が高まることは、例えば、特表2015−536485号公報(以下「引用文献7」という。)の【0088】の「本発明の薄型偏光子の製造方法は、上記積層体を延伸した後に、・・・略・・・上記延伸積層体を乾燥するステップを行うことができる。このとき、上記乾燥は、これに限定されるものではないが、偏光子の光学特性を考慮するとき、20℃ないし100℃、より好ましくは40℃ないし90℃程度の温度で行われることが好ましく、上記乾燥時間は、1分ないし10分程度であることが好ましい。乾燥工程は、ポリビニルアルコールの表面及び内部の水分除去を通じて偏光板の製造工程中で水分によるポリビニルアルコール系偏光子の物性低下を防止し、乾燥過程で延伸されたポリビニルアルコール系フィルムの幅収縮を円滑に誘導して、ポリビニルアルコール及びヨウ素から構成された錯体の配向性を増大させて偏光子の偏光度を向上する役割をする。」との記載や、【0103】の「延伸後、5wt%のヨウ化カリウム(KI)溶液で補色工程を経た後、80℃のオーブンで5分間乾燥工程を進行した。」との記載から理解されることである。)。
また、引用発明は、その製造工程中の染色処理、架橋処理、水中延伸及び洗浄処理のいずれにおいても、ヨウ化カリウムを配合した水溶液を用いているから、引用発明の偏光膜(PVA系樹脂層)はヨウ化物及び染色材を含むといえる。
してみると、相違点3は、実質的な相違点を構成しない。あるいは、引用発明は、相違点3に係る本件補正後発明2の構成を満たしているということができる。

b あるいは、引用発明において、「洗浄処理」後に「乾燥処理」を「長尺状」の「延伸積層体」を長手方向に搬送しながら加熱することにより行うことは、引用文献2が示唆することであるところ、高い光学特性(偏光度)の偏光膜が得られるよう、乾燥処理条件(乾燥温度及び乾燥時間)を調整し、積層体を幅方向に十分収縮させ、例えば、幅方向に2%以上収縮させて、PVA分子及びPVA−ポリヨウ素イオン錯体の配向性をより高いものとすることは、引用文献7の【0088】、【0103】等の記載に接した当業者の設計上のことである。
してみると、引用発明において、相違点3に係る本件補正後発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

c あるいは、特開2013−122518号公報(以下「引用文献8」という。)には、非晶質の熱可塑樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成した積層体を加熱乾燥し、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を増加させ、剛性を増加させ、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得るようにして積層体のカールを抑制すること、搬送ロールとして熱ロール(例えば、【0062】の「乾燥処理において、搬送ロールR3〜R6の温度を90℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして偏光膜を作製した。」との記載等)を用いて積層体を平らな状態に維持しながら乾燥(例えば、全乾燥時間101秒間のうち熱ロールとの接触時間を54秒(全乾燥時間の1/2)(【0060】)とする)することにより、シワの発生を抑制することが記載されている(例えば、引用文献8の【0003】、【0007】、【0011】、【0012】、【0039】、【0042】〜【0043】、【0059】〜【0062】等参照。)。また、特開2016−122040号公報(以下「引用文献9」という。)には、非晶質の熱可塑樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成した積層体の乾燥処理において、熱ロールを用いて、その温度(例えば、80℃〜140℃)、その数や熱ロールとの接触時間等を調整し、乾燥条件を制御して、熱可塑性樹脂基材の結晶化度や積層体のカールを良好に制御すること、熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御できることが記載されている(引用文献9の【0048】〜【0049】、【0058】、【0062】等参照。)。
さらに、国際公開第2012/033153号(以下「引用文献10」という。)や特開2015−169677号公報(以下「引用文献11」という。)には、PVA系樹脂層が形成された積層体を加熱乾燥させながら延伸することにより、当該延伸方向と略直交する方向(例えば、幅方向)に積層体をより収縮(ネックイン)させて、PVA系樹脂層の配向性をより高め、光学特性(例えば、偏光度)に極めて優れた薄型偏光膜を作製することが記載されている(例えば、引用文献10の[0006]、[0030]、[0032]〜[0033]、[0056]、[0058]、[0066][表1]等、引用文献11の【0261】〜【0265】、【0299】等参照。)。
そうすると、引用発明において、引用文献8、9の記載に基づき、相違点3に係る本件補正後発明2の構成とすることは、引用発明の熱可塑性樹脂基材の結晶化度の調整、カールの抑制を考慮する当業者が容易になし得たことである。
あるいは、引用発明において、引用文献10、11の記載に基づき、相違点3に係る本件補正後発明2の構成とすることは、引用発明のPVA系樹脂層の配向性をより高め、優れた光学特性(例えば偏光度)のものとすることを考慮する当業者が容易になし得たことである。具体的には、乾燥処理として引用文献8、9あるいは引用文献10、11に記載の技術を採用してなる引用発明は、PVA系樹脂層の高い配向性を有するものとなるから、相違点3に係る本件補正後発明2の構成を具備するといえる。
さらに言うと、上記(ア)bで述べたとおり、偏光膜のPVA系樹脂層を形成する際、ヨウ化物や塩化ナトリウム等のハロゲン化物を含ませることにより、延伸された積層体のPVA系樹脂の結晶化を促進し、液体浸漬時の配向乱れ、配向度の低下を抑制し、光学特性がより高い偏光膜とする調整(例えば、T−Pグラフをより右上の領域とする調整)を行う技術は周知であるところ、当該周知技術を採用してなる引用発明のPVA系樹脂層は、高い配向性を有し、かつヨウ化物又は塩化ナトリウム及び染色材を含有するものとなるから、相違点3に係る本件補正後発明2の構成を具備するといえる。

d 引用文献6〜11に記載された各技術や引用文献5に記載された上記周知技術をまとめて採用してなる引用発明も同様、相違点3に係る本件補正後発明2の構成を具備するといえる。

e 相違点1に係る設計変更及び相違点2に係る設計変更を含めて検討しても同様である。

(エ) 本件補正後発明2の効果について
a 本件出願の明細書の【0006】には、【発明の効果】として、「厚みが8μm以下であり、単体透過率が45%以上であり、偏光度が97%以上である、優れた光学特性を有する偏光膜が提供され得る。」と記載されている。
また、「光学特性のバラつきが抑制された偏光板を実現することができる」(【0009】)とのことが、本件補正後発明2の効果として理解可能である。

b しかしながら、上記のいずれの効果も、上記相違点1〜3に係る設計変更を施してなる引用発明において、引用文献2、3及び5の記載に基づき当業者が予測し得る効果である。
付け加えるならば、引用文献8、9によれば、乾燥処理において、熱ロールを用いて加熱収縮することにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥することができ、シワの発生を抑制できること、熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御できることから、シワの発生が抑制された均一に幅収縮した積層体が得られることが理解できる。してみると、これらの乾燥処理技術を採用してなる引用発明の偏光膜の単体透過率が幅方向で相当程度均一のものとなることは、引用文献2の記載に基づき当業者が予測、期待できる効果である。

(オ) 審判請求書の主張について
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」「(3)本願発明が特許されるべき理由について」「(a)進歩性(原査定の理由1)について」において、「上記補正により、原査定における進歩性の拒絶理由は解消しました。引用文献2、3および5のいずれにも、請求項1または2に規定される製造方法により得られる偏光膜を含む偏光板は開示も示唆もされていません。その結果、引用文献2、3および5に記載のいずれの発明によっても、請求項1または2に規定されるTP特性および単体透過率のばらつきは実現できません。」、「以上のように、請求項1および2に係る発明は、引用文献2に記載された発明と引用文献3および5に例示される周知技術とから容易にできた発明ではなく、特許法第29条第2項には該当しません。」と主張する。
しかしながら、「請求項1または2に規定される製造方法により得られる」偏光膜を含む偏光板の構成とすることは、上記(ウ)において述べたとおりである。また、「請求項1または2に規定されるTP特性及び単体透過率のばらつき」が得られることについても、前記(ア)及び(イ)(あるいは(ウ))において述べたとおりである。
してみると、請求人の上記の主張を採用することはできない。

(カ) 小括
本件補正後発明2は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5等に記載された周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件補正後発明2は、引用文献2に記載された発明、引用文献3、5等に記載された周知技術及び引用文献6〜11等に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、理由1(進歩性)本願発明は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、理由2(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。
(引用文献等一覧)
引用文献2:特開2015−191224号公報
引用文献3:特開2017−68282号公報
引用文献5:国際公開第2015/137514号
(当合議体注:引用文献2は主引用例であり、引用文献3及び引用文献5は、周知技術を示すために引用されたものである。)

3 理由2(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))について
(1) 発明が解決しようとする課題
本願発明が解決しようとする課題は、上記「第2」[理由]2(2)ウ(ア)で述べたとおりである。

(2) 判断
本件補正後発明2における、「単体透過率が45%〜46%であ」るとのこと、「偏光度が97%〜99%である」とのこと、「幅が1000mm以上であり」、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.30%以下である」とのことは、本願発明が解決しようとする課題に係る「優れた光学特性を有する」及び「光学特性のバラつきが抑制された」との定性的な記載を達成すべき結果として数値限定を用いて定量的に単に言い換えたにすぎず、課題を解決するための手段であると認めることはできない。
本願発明における、「ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であ」るとの記載、及び、「偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板」との記載についても、当該記載事項のみによって発明の課題を解決できないことも明らかである。
してみると、本願発明には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本願発明は、当該手段を用いない場合についても特許を請求することになるから、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えることとなる。
よって、本件補正後発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

4 理由1(特許法第29条第2項進歩性))について
(1) 引用文献2及び引用発明
引用文献2の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(3)ア及びイに記載したとおりである。

(2) 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2(3)で検討した本件補正後発明から、同1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明2は、前記「第2」[理由]2(3)エ及びオで述べたとおり、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5等に記載された周知技術、あるいは引用文献2に記載された発明、引用文献3、5等に記載された周知技術及び引用文献6〜11等に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明は、前記「第2」[理由]2(3)エ及びオで述べた理由と同様の理由により、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5等に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件出願の特許請求の範囲の請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
してみると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-14 
結審通知日 2022-03-15 
審決日 2022-03-30 
出願番号 P2019-022668
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 下村 一石
河原 正
発明の名称 偏光板および偏光板ロール  
代理人 籾井 孝文  

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