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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1384847
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-28 
確定日 2022-04-28 
事件の表示 特願2019−229519「偏光板および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月20日出願公開、特開2020−126226〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019−229519号(以下「本件出願」という。)は、令和元年12月19日(先の出願に基づく優先権主張 平成31年2月4日)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 6月26日付け:拒絶理由通知書
令和2年 8月25日提出:意見書
令和2年 8月25日提出:手続補正書
令和2年 9月30日付け:拒絶理由通知書
令和2年12月 1日提出:意見書
令和2年12月 1日提出:手続補正書
令和3年 1月26日付け:補正の却下の決定
令和3年 1月26日付け:拒絶査定
令和3年 4月28日提出:審判請求書
令和3年 4月28日提出:手続補正書
令和3年 9月 9日提出:上申書
令和3年 9月30日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和3年12月 2日提出:意見書
令和3年12月 2日提出:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜8に係る発明は、令和3年12月2日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明1」という。また、本件出願の請求項1〜8に係る発明を総称して「本願発明」という場合がある。)。

「接着層を介して積層される偏光板と位相差フィルムとを有する円偏光板であって、
前記偏光板は、偏光子と、前記偏光子の一方の面に貼合された保護フィルムとを含み、
前記偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素が吸着配向したフィルムであり、
前記偏光子のホウ素含有量は、2.76重量%以上であり、
前記保護フィルムの透湿度は、50g/m2・24hr以上であり、
前記位相差フィルムは、重合性液晶化合物が硬化した層からなる位相差層と、配向膜とを含み、前記位相差フィルムの偏光子側に前記配向膜が配置され、
前記配向膜の厚さは、10nm〜200nmの範囲内であり、
前記偏光子の前記位相差層とは反対側に前記保護フィルムを積層し、
前記偏光子の前記位相差層側には保護フィルムを有しない、
円偏光板。」

3 当審拒絶理由の概要
令和3年9月30日付け拒絶理由通知書において通知した、当合議体の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

理由1:(進歩性)本件出願の請求項1〜8に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献5:特開2009−104062号公報
引用文献6:特開2005−49698号公報
引用文献10:特開2009−230050号公報
引用文献12:国際公開第2015/016296号
引用文献13:国際公開第2018/070132号
引用文献14:特開2013−148806号公報
引用文献15:国際公開第2016/060087号
引用文献16:特開2013−50583号公報
(当合議体注:主引用文献は、引用文献12である。)


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献12の記載
当審拒絶理由で引用された、引用文献12(国際公開第2015/016296号)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、偏光板の製造方法に関する。本発明は特に、液晶化合物を含む組成物から形成された光学異方性層を有する偏光板の製造方法に関する。
背景技術
[0002] スマートフォンやタブレットPC等の市場の拡大により、ディスプレイにもますます、薄型化が求められている。この流れの中で、液晶表示装置の視野角補償のために利用される位相差フィルムにおいても薄型化が求められる。偏光板の保護フィルムとして所定の位相差を有するフィルムを用い、その位相差を液晶化合物の配向によって実現させた例が多く知られているが(例えば、特許文献1および2)、液晶化合物を含む組成物の光硬化等により形成した光学異方性層は、自己支持性が低いため、セルロースアシレート系ポリマーフィルム等の透明支持体上に形成されて、そのまま利用されることが通常であり、光学異方性層の薄膜化は、支持体を含む形態で検討する必要があった。一方、特許文献3においては、偏光膜の表面に直接液晶化合物を含む組成物を塗布して光学異方性層を形成し、薄い偏光板を実現したことが開示されている。」
・・・中略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0004] 本発明は膜厚が小さい偏光板の提供を課題とする。本発明は特に液晶化合物を含む組成物から形成された光学異方性層を有する偏光板の製造方法であって、上記光学異方性層を最小限の構成で偏光子と接着させることが可能である偏光板の製造方法の提供を課題とする。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者らが上記課題の解決のため、鋭意検討を重ねたところ、従来、欠陥なく剥離できないと考えられていた液晶化合物を含む組成物の光硬化により形成した仮支持体上の光学異方性層が、配向層との積層体として仮支持体から欠陥なく剥離できるとともに、この配向層側面の偏光子との接着性が良好であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記の[1]〜[12]を提供するものである。
・・・中略・・・
発明の効果
[0009] 本発明により、薄膜の偏光板の製造方法が提供される。本発明の製造方法により、液晶化合物を含む組成物から形成された光学異方性層を、液晶化合物の種類に関わらず、最小限の構成で、多様な偏光子と接着させて偏光板を製造することができる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0011] 以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。本明細書において「偏光板」とは、特に断らない限り、長尺の偏光板及び液晶表示装置に組み込まれる大きさに裁断された(本明細書において、「裁断」には「打ち抜き」及び「切り出し」等も含むものとする)偏光板の両者を含む意味で用いられる。また、本明細書では、「偏光子」(「偏光膜」という場合もある)及び「偏光板」を区別して用いるが、「偏光板」は「偏光子」の少なくとも片面にフィルムを有する積層体を意味するものとする。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との記載は、「アクリレート及びメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味を表す。「(メタ)アクリル酸」等も同様である。
[0012] 本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルタをマニュアルで交換するか、又は測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
[0013] 測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)はRe(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
[0014] 上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
・・・中略・・・
[0020][偏光板]
本発明の製造方法により製造される偏光板は、光学異方性層および偏光子を含む。偏光子のいずれか一方の面、または両方の面に光学異方性層が配置されていればよい。偏光板は、さらに、光学異方性層の形成の際の液晶化合物の配向のための配向層を含むことが好ましい。偏光板はさらに、偏光子または光学異方性層の表面の保護のための保護フィルムなどの他の層を含んでいてもよい。
本発明の製造方法により製造される偏光板の層構成の例を図1に示す。なお図においては、接着層は省略されている。
偏光板の膜厚は、特に限定されないが、50μm〜500μm程度であればよい。特に、本発明の製造方法によっては、偏光板を200μm以下、150μm以下、120μm以下、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下等の薄膜で形成することが可能である。
[0021][転写材料]
本発明の製造方法においては、仮支持体と配向層と光学異方性層とをこの順に含む転写材料が用いられる。本発明の製造方法においては、光学異方性層を偏光子を含むフィルムに転写材料から転写する工程を経ることにより、塗布形成される光学異方性層を、偏光子を含むフィルムの種類または性質に依存させずに形成することが可能であり、また、様々な液晶化合物を用いた様々な液晶化合物の配向形態の光学異方性層を形成することができる。例えば、光学異方性層の形成の際に必要な加熱工程は偏光子の性質に影響を与える可能性があるが、転写材料を用いた製造方法により、偏光子に影響を与えることなく、光学異方性層の作製が可能である。
[0022] 転写材料は、仮支持体を剥離して光学異方性層を提供することができる材料である。本明細書においては、偏光子を含むフィルムに転写される対象、すなわち、偏光子を含むフィルムに接着される対象を「転写体」と呼ぶことがある。本発明において、転写体は、転写材料から仮支持体を剥離して得られる、光学異方性層と配向層とを含むフィルムである。
転写材料において、配向層と光学異方性層とは互いに接触していることが好ましい。仮支持体と配向層とは互いに接触していてもよく、仮支持体と配向層との間に、剥離層、離型層などの他の層があってもよい。
[0023] 転写材料は、配向層を有する仮支持体の配向層表面に直接液晶化合物を含む重合性組成物を塗布し、得られた塗布層を光照射して、液晶化合物を含む重合性組成物を硬化させ光学異方性層を形成することによって製造することができる。
以下、偏光板または転写材料に含まれる各層について詳細に説明する。
[0024][光学異方性層]
光学異方性層は、レターデーションを測定したときにレターデーションが実質的に0でない入射方向が一つでもある層であり、等方性でない光学特性を有する層である。本発明で用いられる光学異方性層は、液晶化合物を含む重合性組成物から形成される層である。例えば光学異方性層は液晶化合物を含む重合性組成物を光照射または加熱等に付して液晶化合物を重合させることにより形成されていればよい。重合性組成物は、少なくとも1つの重合性基を有する液晶化合物を含んでおり、光照射または加熱により液晶化合物が重合性基により重合するものであればよい。重合性組成物は仮支持体上に設けられた配向層に直接、塗布されることが好ましい。塗布層をさらに、室温等により乾燥させる、または加熱(例えば 50℃〜150℃、好ましくは80℃〜120℃の加熱)することにより、層中の液晶化合物分子を配向させることができる。これを重合固定化することにより、光学異方性層が形成されていればよい。
[0025] 光学異方性層の膜厚は、10μm以下、8μm未満、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1.9μm以下、1.8μm以下、1.7μm以下、1.6μm以下、1.5μm以下、1.4μm以下、1.3μm以下、1.2μm以下、1.1μm以下または1μm以下であってもよくまた、0.2μm以上、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上、0.9μm以上であってもよい。光学異方性層は透明(例えば、光透過率が80%以上)であることも好ましい。
[0026][2層以上の光学異方性層]
偏光板は光学異方性層を2層以上含んでいてもよい。2層以上の光学異方性層は法線方向に互いに直接接していてもよいし、間に配向層等の他の層を挟んでいてもよい。2層以上の層を形成する重合性組成物は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば2層の光学異方性層の組み合わせにおいて、棒状液晶化合物を含む組成物から形成された層同士、または円盤状液晶化合物を含む組成物から形成された層同士の組み合わせであってもよく、棒状液晶化合物を含む組成物から形成された層と円盤状液晶化合物を含む組成物から形成された層との組み合わせであってもよい。偏光板が2層以上の光学異方性層を含むとき、先に作製された光学異方性層が後に形成される光学異方性層の配向層として機能していてもよい。このとき先に作製された光学異方性層はラビングされてもよい。光学異方性層を2層以上含むときは、光学異方性層の膜厚の総計が上記の膜厚であることが好ましい。
[0027] 2層の光学異方性層は、例えば、合わせてλ/4位相差板としての機能を有していてもよい。λ/4位相差板は偏光子(直線偏光子)と組み合わされて円偏光板として機能する。
位相差板は、非常に多くの用途を有しており、既に反射型LCD、半透過型LCD、輝度向上膜、有機EL表示装置、タッチパネル等に使用されている。例えば、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)素子は、屈折率の異なる層を積層する構造や、金属電極を用いる構造を有するため、外光が各層の界面で反射し、コントラスト低下や映り込みの問題などを生じることがある。そこで、従来から、外光反射による悪影響を抑制するために、位相差板と偏光膜とから構成される円偏光板が有機EL表示装置やLCD表示装置などに使用されている」
・・・中略・・・
[0067][配向層]
配向層は、仮支持体もしくは仮支持体上に塗設された下塗層の表面に設けられていればよい。配向層は、その上に設けられる重合性組成物中の液晶化合物の配向を規定するように機能する。配向層は、光学異方性層に配向性を付与できるものであれば、どのような層でもよい。垂直配向膜として公知の材料のみならず、水平配向膜として公知の材料から選択することもできる。配向層の例としては、有機化合物(好ましくはポリマー)からなる層、アゾベンゼンポリマーやポリビニルシンナメートに代表される偏光照射により液晶の配向性を発現する光配向層、無機化合物の斜方蒸着層、およびマイクログルーブを有する層、さらにω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等のラングミュア・ブロジェット法(LB膜)により形成される累積膜、あるいは電場あるいは磁場の付与により誘電体を配向させた層を挙げることができる。配向層としてはポリマー層が好ましく、変性又は未変性のポリビニルアルコールを含むポリマー層が特に好ましい。変性又は未変性ポリビニルアルコールは、水平配向膜としても用いられているが、オニウム化合物を光学異方性層形成用組成物中に添加することで、オニウム化合物と当該配向膜との作用、及びオニウム化合物と液晶性化合物との作用等により、液晶分子を配向膜界面で高い平均チルト角の傾斜配向状態、又は垂直配向状態に配向させることができる。変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの少なくとも一個のヒドロキシル基が官能基で修飾されたものであり、例えば、ポリビニルアルコールが、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等で修飾されたものを含む。配向膜としては、重合性基を有する単位を含む変性ポリビニルアルコールを含有する配向膜を用いることが好ましい。光学異方性層との密着性をさらに改善できるからである。さらにビニル部分、オキシラニル部分またはアジリジニル部分を有する基で、少なくとも一個のヒドロキシル基が置換されたポリビニルアルコールが好ましく、例えば、特許第3907735号公報の段落番号[0071]〜[0095]に記載の変性ポリビニルアルコールが好ましい。
配向層の厚さは0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがさらに好ましい。
・・・中略・・・
[0076][偏光子]
偏光子としては、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子があげられる。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造される。本発明の製造方法においては、いずれの偏光子を用いてもよい。例えば偏光子は変性又は未変性のポリビニルアルコールと二色性分子とから構成することが好ましい。変性又は未変性のポリビニルアルコールと二色性分子とから構成される偏光子については例えば特開2009−237376号公報の記載を参照することができる。偏光子の膜厚は50μm以下であればよく、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。また、偏光子の膜厚は、通常、1μm以上、5μm以上、または10μm以上であればよい。
[0077][偏光板の作製方法]
本発明の製造法においては、上述の転写材料の仮支持体と配向層との間で仮支持体を剥離し、その後、転写材料から仮支持体を剥離して得られる転写体の仮支持体剥離後の面を偏光子を含むフィルムに接着させればよい。
仮支持体の剥離方法は特に限定されない。仮支持体の剥離は転写体に破損が生じない速度で行うことが好ましい。
・・・中略・・・
[0083][保護フィルム(保護層)]
偏光板は保護フィルムを含むことが好ましい。例えば、偏光子のいずれか一方または両方の面に保護フィルムを設けて、上記の偏光子を含むフィルムとしてもよい。また、転写材料において、予め、配向層から見て仮支持体側と反対側の、好ましくは最外面に、保護フィルムを設けておいてもよい。または、転写体と偏光子を含むフィルムとを接着させた後に、いずれか片方、または双方の面に保護フィルムを設けてもよい。
保護フィルムは、例えば、保護フィルムが設けられる表面に保護フィルム形成用組成物を直接塗布乾燥させるなどの方法によって、他の層と直接接するように設けてもよいが、通常は接着剤または粘着剤を用いて、上記表面に接着させればよい。接着剤または粘着剤としては、転写体と偏光子を含むフィルムとの接着に用いられる接着剤または粘着剤と同様のものを用いればよい。
[0084] 保護フィルムとしては、セルロースアシレ―ト系ポリマーフィルム、アクリル系ポリマーフィルム、またはシクロオレフィン系ポリマーフィルムを用いることができる。セルロースアシレ―ト系ポリマーに関しては特開2011−237474号公報のセルロースアシレ―ト系樹脂に関する記載を参照できる。シクロオレフィン系ポリマーフィルムとしては、特開2009−175222号および特開2009−237376号公報の記載を参照できる。シクロオレフィン系ポリマーフィルムを含むことにより、偏光板に透湿性を付与することができる。透湿性とは水は通さないが、水蒸気は通す性質を意味する。
保護フィルムの膜厚は、100μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下であればよく、1μm以上、5μm以上、10μm以上であればよい。
[0085][ハードコート層]
偏光板はハードコート層を含んでいてもよい。ハードコート層は偏光板の最外層として含まれていればよく、偏光子からみて、光学異方性層側の最外層に含まれていることが好ましい。
本明細書において、ハードコート層とは、該層を形成することで透明支持体の鉛筆硬度が上昇する層をいう。実用的には、ハードコート層積層後の鉛筆硬度(JISK5400)はH以上が好ましく、更に好ましくは2H以上であり、最も好ましくは3H以上である。ハードコート層の厚みは、0.4〜35μmが好ましく、更に好ましくは1〜30μmであり、最も好ましくは1.5〜20μmである。
具体的な組成については特開2012−103689号公報の記載を参照することができる。」

ウ 「実施例
[0086] 以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
[0087]<支持体1(セルロースアセテートフィルムT1)の作製>
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
[0088]セルロースアセテート溶液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――
酢化度60.7〜61.1%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 29質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
[0089] 別のミキシングタンクに、下記の添加剤(A)16質量部、メチレンクロライド92質量部及びメタノール8質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、添加剤(A)溶液を調製した。セルロースアセテート溶液474質量部に添加剤(A)溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した添加剤(A)の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、6.0質量部であった。
[0090][化8]

[0091] 得られたドープを、バンド延伸機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、70℃の温風で1分乾燥し、バンドからフィルムを140℃の乾燥風で10分乾燥し、残留溶剤量が0.3質量%のセルロースアセテートフィルムT1(支持体1)を作製した。
[0092] 得られた長尺状のセルロースアセテートフィルムT1の幅は1490mmであり、厚さは80μmであった。また、面内レターデーション(Re)は8nm、厚み方向のレターデーション(Rth)は78nmであった。
[0093]<転写材料1の作製>
(配向膜1の形成)
上記で作製した支持体上に、下記組成の配向層塗布液を#14のワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒、更に100℃の温風で120秒乾燥した。使用した変性ポリビニルアルコールの鹸化度は96.8%であった。得られた配向膜の膜厚は0.5μmであった。
[0094]配向層1の塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――
変性ポリビニルアルコール(A) 10質量部
水 308質量部
メタノール 70質量部
イソプロパノール 29質量部
光重合開始剤(イルガキュアー2959、BASF社製) 0.8質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
[0095][化9]

[0096](配向処理)
配向層を塗設した支持体に対して、搬送方向に対して平行に配向するように配向層設置表面にラビング処理を施した。ラビングロールは450rpmで回転させた。
[0097](光学異方性層1の塗設)
下記の組成物を、270質量部のメチルエチルケトンに溶解して塗布液を調製した。
(光学異方性層1形成用組成物)
ディスコティック液晶化合物(A) 80.0質量部
ディスコティック液晶化合物(B) 20.0質量部
フルオロ脂肪族基含有ポリマー(1) 0.6質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、BASF社製) 3.0質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1.0質量部
化合物A 0.25質量部
化合物AA 1.0質量部
[0098]
[化10]

[0099] 調製した塗布液を、♯2.8ワイヤーバーを用いて配向層2のラビング面に塗布した。塗布量は4.8mL/m2であった。その後、120℃の恒温槽中で300秒間加熱し、ディスコティック液晶化合物を配向させた。次に、80℃で160W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間紫外線照射し架橋反応を進行させて、ディスコティック液晶化合物を重合させて固定化、光学異方性層を形成し、転写材料1を作製した。光学異方性層の膜厚は0.8μm、支持体側の液晶ダイレクタ角度は0°、空気界面側の液晶ダイレクタ角度は75°であった。
フィルムコントラストは10000、配向不良もなく、密着性も良好であった。フィルムコントラスト、配向不良、密着性は以下のように測定・評価した。なお、光学異方性層の液晶化合物は逆ハイブリッド配向していた。」

エ 「[0113]<転写材料5の作製>
以下の光学異方性層5−1および光学異方性層5−2により光学異方性層5を作製した。
上記転写材料1の作製の際と同様に、支持体1および配向層1の積層体を作製し、配向層1に連続的にラビング処理を施した。このとき、長尺状のフィルムの長手方向と搬送方向は平行であり、フィルム長手方向とラビングローラーの回転軸とのなす角度が75°(時計回り)とした(フィルム長手方向を90°とすると、ラビングローラーの回転軸は15°)。
[0114](光学異方性層5−1の形成)
下記の組成のディスコティック液晶化合物を含む光学異方性層5−1の塗布液を上記の配向層1のラビング面に#5のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗布液の溶媒の乾燥およびディスコティック液晶化合物の配向熟成のために、115℃の温風で90秒間、続いて、80℃の温風で60秒間加熱し、80℃にてUV照射を行い、液晶化合物の配向を固定化した。得られた光学異方性層5−1の厚みは2.0μmであった。ディスコティック液晶化合物の円盤面のフィルム面に対する平均傾斜角は90°であり、ディスコティック液晶化合物がフィルム面に対して、垂直に配向していることを確認した。また、遅相軸の角度はラビングローラーの回転軸と平行で、フィルム長手方向を90°(フィルム幅方向を0°)とすると、15°であった。
[0115] 光学異方性層5−1の塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ディスコティック液晶化合物(A) 80質量部
ディスコティック液晶化合物(B) 20質量部
エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 10質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、BASF社製) 3質量部
ピリジニウム塩(B) 0.9質量部
下記のボロン酸含有化合物 0.08質量部
ポリマー(A) 1.2質量部
フッ素系ポリマー(FP1−2) 0.3質量部
メチルエチルケトン 183質量部
シクロヘキサノン 40質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
[0116]
[化15]

[0117](光学異方性層5−2の形成)
作製した光学異方性層5−1に連続的にラビング処理を施した。このとき、長尺状のフィルムの長手方向と搬送方向は平行であり、フィルム長手方向とラビングローラーの回転軸とのなす角度が−75°(反時計回り)とした(フィルム長手方向を90°とすると、ラビングローラーの回転軸は165°)。
[0118] 下記の組成の塗布液を、上記ラビング処理を施した光学異方性層5−1上に#2.2のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗布液の溶媒の乾燥および棒状液晶化合物の配向熟成のために、60℃の温風で60秒間加熱し、60℃にてUV照射を行い、液晶化合物の配向を固定化した。得られた光学異方性層5−2の厚みは0.8μmであった。光学異方性層5−1と光学異方性層5−2との積層体を光学異方性層5とした。棒状液晶化合物の長軸のフィルム面に対する平均傾斜角は0°であり、液晶化合物がフィルム面に対して、水平に配向していることを確認した。また、遅相軸の角度はラビングローラーの回転軸と直交で、フィルム長手方向を90°(フィルム幅方向を0°)とすると、75°であった。
[0119]光学異方性層5−2の塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――
重合性液晶化合物(LC−1−1) 80質量部
重合性液晶化合物(LC−2) 20質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、BASF社製) 3質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
フッ素系ポリマー(FP4) 0.3質量部
メチルエチルケトン 193質量部
シクロヘキサノン 50質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
[0120]
[化16]



オ 「[0124]<偏光板1〜12の作製>
(偏光子の作製)
厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光膜(偏光子)を得た。
[0125](アクリル樹脂シートT2の作製)
下記に記載のアクリル樹脂を使用した。このアクリル樹脂は市販品で入手可能である。
・ダイヤナールBR88(商品名)、三菱レイヨン(株)製、質量平均分子量1500000(以降アクリル樹脂AC−1とする)。
(紫外線吸収剤)
下記の紫外線吸収剤を使用した。
・UV剤1:チヌビン328(BASF社製)
[0126](ドープB調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、ドープBを調製した。
(ドープB組成)
アクリル樹脂AC−1 100質量部
紫外線吸収剤 UV剤1 2質量部
ジクロロメタン 300質量部
エタノール 40質量部
[0127] バンド流延装置を用い、調製したドープを2000mm幅でステンレス製のエンドレスバンド(流延支持体)に流延ダイから均一に流延した。ドープ中の残留溶媒量が40質量%になった時点で流延支持体から高分子膜として剥離し、延伸をせずに搬送し、乾燥ゾーンで130℃で乾燥を行った。得られたアクリル樹脂シートT2の膜厚は40μmであった。
[0128] このように得られた樹脂シートT2の片面にコロナ処理を行い、コロナ処理面においてPVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて偏光子の片側面と貼り合わせた。
[0129](セルロースアシレートフィルム)
市販のセルロースアシレートフィルム(フジタック ZRD40、富士フイルム(株)製)を、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、更に水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
[0130] このようにして得た鹸化後のセルロースアシレートフィルムZRD40を偏光子の、アクリル樹脂シートが貼り合われた面の反対側の面にPVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、作製した偏光子のロールの長手方向と上記セルロースアシレートフィルムZRD40のロールの長手方向とが、平行になるように貼り合わせた。
[0131] 転写材料1〜12を150mm四方にカットし、上記支持体T1または上記PETを配向層との界面でゆっくりと剥離して転写体を得た。上記で得た偏光板(偏光子を含むフィルム)のZRD40面にコロナ処理を行ってから、ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて上記転写体と配向層面と貼り合わせて光学異方性層付き偏光板を得た。いずれの転写材料を用いた例でも、転写体を問題なく、偏光子を含むフィルム貼り合わせることができた。得られた偏光板をそれぞれ偏光板1〜12とした。」

カ 「[0136]<偏光板37〜48>
上記の偏光板1〜12において、ZRD40がないこと以外は偏光板1〜12と同様の方法で偏光板37〜48を得た。すなわち、偏光板37〜48においては光学異方性層と偏光子とを上記と同様の接着剤を用いて直接接着させた。
・・・中略・・・」

キ 「[0141]
[表3]



(2)引用発明12
引用文献12に記載される「偏光板41」は、同文献[0113]〜[0120]、[0124]〜[0131]、[0136]、[0141][表3]等の記載に従って作製されるものである。
特に、同文献の[0125]、[0128]には、「アクリル樹脂シートT2」の「片面にコロナ処理を行い、コロナ処理面においてPVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて偏光子の片側面と貼り合わせ」ることが記載されており、同文献の[0113]〜[0120]からは、「支持体1および配向層1の積層体」に「ディスコティック液晶化合物」を含む「光学異方性層5−1を形成し」、「光学異方性層5−1上に」「重合性液晶化合物」を含む「光学異方性層5−2を形成」することで、「支持体1」の「配向層1」上に「光学異方性層5−1および光学異方性層5−2」を有する「光学異方性層5」を含む「転写材料5」が作製されることが把握できる。ここで、「支持体1および配向層1の積層体」は、「上記転写材料1の作製の際と同様に、」作製されることから、「配向層1」の厚さは「0.5μm」であることが理解できる(特に同文献[0093]、[0113]参照。)。
また、同文献[0130]〜[0131]、[0136]の記載より、「偏光板41」は、「転写材料5を150mm四方にカットし、上記支持体T1」「を配向層との界面でゆっくりと剥離して転写体を得」た後に、「偏光板(偏光子を含むフィルム)」の「アクリル樹脂シートが貼り合われた面の反対側の面に」「ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として」用いて「貼り合わせた」ものである。ここで、「支持体T1」を剥離した後、「配向層」は「転写体」に含まれることから、[0131]の「上記転写体と配向層面と貼り合わせて」という記載は、「上記転写体の配向層面と貼り合わせて」等の誤記であることが明らかであり、「偏光板(偏光子を含むフィルム)」の「アクリル樹脂シートが貼り合われた面の反対側の面」(偏光子)と「転写体」の「配向層面」とが直接貼り合わされていることが理解できる。
以上によれば、引用文献12には、次の「偏光板41」の発明(以下「引用発明12」という。)が記載されていると認められる。なお、「配向膜」、「配向膜1」及び「配向層1」は「配向膜」に用語を統一した。また、「支持体1」及び「支持体T1」は「支持体」に、「アクリル樹脂シートT2」及び「樹脂シートT2」は「アクリル樹脂シートT2」に用語を統一した。

「支持体1および配向膜(厚さ0.5μm)の積層体を作製し、配向膜に連続的にラビング処理を施し、
ディスコティック液晶化合物を含む光学異方性層5−1の塗布液を上記の配向膜のラビング面にワイヤーバーで連続的に塗布し、塗布液の溶媒の乾燥およびディスコティック液晶化合物の配向熟成のために、115℃の温風で90秒間、続いて、80℃の温風で60秒間加熱し、80℃にてUV照射を行い、液晶化合物の配向を固定化し、厚み2.0μmの光学異方性層5−1を形成し、
作製した光学異方性層5−1に連続的にラビング処理を施し、
重合性液晶化合物を含む塗布液を、上記ラビング処理を施した光学異方性層5−1上にワイヤーバーで連続的に塗布し、塗布液の溶媒の乾燥および棒状液晶化合物の配向熟成のために、60℃の温風で60秒間加熱し、60℃にてUV照射を行い、液晶化合物の配向を固定化して、厚み0.8μmの光学異方性層5−2を形成することで、支持体上の配向膜上に光学異方性層5−1および光学異方性層5−2を有する光学異方性層5を含む転写材料5を作製し、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得て、
アクリル樹脂シートT2の片面にコロナ処理を行い、コロナ処理面においてPVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて偏光子の片側面と貼り合わせ、
転写材料5を150mm四方にカットし、上記支持体を配向膜との界面でゆっくりと剥離して転写体を得て、上記で得た偏光板(偏光子を含むフィルム)のアクリル樹脂シートT2が貼り合われた面の反対側の面(偏光子)と転写体の配向層面とを、ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて直接貼り合わせた、
偏光板41。」

2 対比
本願発明1と引用発明12とを対比する。
(1)偏光子、偏光板、保護フィルム
引用発明12の「偏光子」は、「厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して」得られるものであり、その文言が意味するとおり、本願発明1の「偏光子」に相当し、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素が吸着配向したフィルムであ」るという要件を満たす。
また、引用発明12の「偏光板(偏光子を含むフィルム)」は、その文言の意味するとおり、本願発明1の「偏光板」に相当する。
引用発明12の「アクリル樹脂シートT2」は、「PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて偏光子の片側面と貼り合わせ」るシートであり、その構成からみて、本願発明1の「保護フィルム」に相当する(当合議体注:「アクリル樹脂シートT2」が「保護フィルム」として用いられていることは、引用文献12の[0083]〜[0084]の記載からも理解できる。)。
そして、引用発明12の「偏光板(偏光子を含むフィルム)」と本願発明1の「偏光板」は、「偏光子と、前記偏光子の一方の面に貼合された保護フィルムとを含」むという要件を満たす点で共通する。

(2)位相差層、配向膜、位相差フィルム
引用発明12の「光学異方性層5」は、「配向膜のラビング面」に「ディスコティック液晶化合物を含む光学異方性層5−1の塗布液を上記の配向層1のラビング面にワイヤーバーで連続的に塗布し、塗布液の溶媒の乾燥およびディスコティック液晶化合物の配向熟成のために、115℃の温風で90秒間、続いて、80℃の温風で60秒間加熱し、80℃にてUV照射を行い、液晶化合物の配向を固定化し」て得られた「光学異方性層5−1」及び「ラビング処理を施した光学異方性層5−1上にワイヤーバーで連続的に塗布し」、「塗布液の溶媒の乾燥および棒状液晶化合物の配向熟成のために、60℃の温風で60秒間加熱し、60℃にてUV照射を行い、液晶化合物の配向を固定化して」得られた「光学異方性層5−2」を含むものであり、技術的にみて、位相差層として機能することは明らかである(当合議体注:本件出願の明細書【0003】の記載からみても、引用発明12の「光学異方性層5」が位相差層として機能するものであることが理解できる。)。
また、引用発明12は、「支持体の配向膜上に光学異方性層5−1および光学異方性層5−2を有する光学異方性層5を含む転写材料5」から、「上記支持体を配向膜との界面でゆっくりと剥離して転写体を得て」、「上記で得た偏光板(偏光子を含むフィルム)のアクリル樹脂シートT2が貼り合われた面の反対側の面(偏光子)と転写体の配向層面とを、ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いて直接貼り合わせた」ものである。さらに、引用発明12の「光学異方性層5」及び「配向膜」を含む「転写体」がフィルム状であることも明らかである。
以上より、引用発明12の「配向膜」、「光学異方性層5」は、それぞれ、本願発明1の「配向膜」、「位相差層」に相当する。
さらに、引用発明12の「配向膜」及び「光学異方性層5」を含む「転写体」は、本願発明1の「位相差フィルム」に相当し、「重合性液晶化合物が硬化した層からなる位相差層と、配向膜とを含み、前記位相差フィルムの偏光子側に前記配向膜が配置され」るという要件を満たす点で本願発明1と共通する。

(3)接着層、円偏光板
引用発明12の「支持体を配向膜との界面でゆっくりと剥離し」た「転写体」と「偏光板(偏光子を含むフィルム)」とを「貼り合わせ」る「ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液」の「接着剤」の層は、その構成からみて、本願発明1の「接着層」に相当する。
上記(1)〜(2)の機能及び構成より、引用発明12の「偏光板41」は、本願発明1と「偏光板積層体」である点で共通する(以下、本願発明1の「偏光板」と区別するため「偏光板積層体」という)。
また、両者は、「接着層を介して積層される偏光板と位相差フィルムとを有する」という要件及び「前記偏光子の前記位相差層とは反対側に前記保護フィルムを積層し、前記偏光子の前記位相差層側には保護フィルムを有しない」という要件を満たす点で共通する。

3 一致点及び相違点
(1)一致点
上記2によれば、本願発明1と引用発明12は、次の点で一致する。
「接着層を介して積層される偏光板と位相差フィルムとを有する偏光板積層体であって、
前記偏光板は、偏光子と、前記偏光子の一方の面に貼合された保護フィルムとを含み、
前記偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素が吸着配向したフィルムであり、
前記位相差フィルムは、重合性液晶化合物が硬化した層からなる位相差層と、配向膜とを含み、前記位相差フィルムの偏光子側に前記配向膜が配置され、
前記偏光子の前記位相差層とは反対側に前記保護フィルムを積層し、
前記偏光子の前記位相差層側には保護フィルムを有しない、
偏光板積層体。」

(2)相違点
上記2によれば、本願発明1と引用発明12は、次の点で相違する。

(相違点1)
「偏光子のホウ素含有量」が、本願発明1では、「2.76重量%以上であ」るのに対して、引用発明12では、そのように特定されていない点。

(相違点2)
「保護フィルムの透湿度」が、本願発明1では、「50g/m2・24hr以上であ」るのに対して、引用発明12では、そのように特定されていない点。

(相違点3)
「配向膜の厚さ」が、本願発明1では、「10nm〜200nmの範囲内であ」るのに対して、引用発明12では、0.5μmである点。

(相違点4)
「偏光板積層体」が、本願発明1では、「円偏光板」であるのに対して、引用発明12では、そのように特定されていない点。

4 判断
(1)相違点1について
PVA偏光子の製造において、フィルムの染色、延伸後にホウ酸処理を施すことによってPVA分子鎖同士がホウ素を介して結合(架橋)し、ヨウ素分子がPVA分子鎖から脱離しにくくなり、結果としてPVA偏光子の耐水性が向上することは技術常識である(当合議体注:当該技術常識に関し、例えば、特開2013−148806号公報(引用文献14)の【0009】、国際公開第2016/060087号(引用文献15)の[0055]〜[0057]等を参照。)。
また、特に、湿熱環境下において、偏光子のヨウ素が脱離するという問題や偏光子のヨウ素が硬化性液晶組成物からなる層に移動すると問題が生じることも、先の出願時において公知の事項である(当合議体注:例えば、国際公開第2016/060087号(引用文献15)の[0057]、特開2013−50583号公報(引用文献16)の【0003】、【0005】等を参照。)。
そうしてみると、引用発明12において、上記技術常識及び上記問題を考慮して、湿熱環境下におけるPVA偏光子におけるヨウ素の脱離防止のために、架橋度を高める(偏光子中のホウ素の含有量を増やす)ことは、当業者であれば容易に想到し得たことである(当合議体注:ホウ素を介して架橋する場合に架橋度が高くなればホウ素含有量が増えることは自明である。)。
さらに、偏光板の技術分野において、PVA偏光子中のホウ素の含有量を2.76重量%以上にすることは、通常行われていることであり(当合議体注:例えば、特開2009−104062号公報(引用文献5)の【0016】、【0068】、国際公開第2016/060087号(引用文献15)の[0115][表2]、国際公開第2018/164196号の[0092]等参照。)、ホウ素の含有量を2.76重量%以上とすることが格別な技術的事項であるともいえないから、この点に鑑みても、引用発明12において、ホウ素含有量を2.76重量%以上とすることは当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のものであるといえる。

(2)相違点2について
引用発明12の「アクリル樹脂シートT2」は、透湿度が50g/m2・24hr以上である蓋然性が高い(当合議体注:例えば、国際公開第2018/070132号(引用文献13)の[0202]の記載から透湿度が50g/m2・24hr以上のアクリル樹脂は一般的であることが推測される。)。また、仮にそうでないとしても、引用文献12の[0084]の「シクロオレフィン系ポリマーフィルムを含むことにより、偏光板に透湿性を付与することができる。」という記載に基づいて偏光板に透湿性を付与するために、保護フィルムの透湿度を高めることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
引用文献12の[0067]には、「配向層の厚さは0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがさらに好ましい。」と記載されており、好ましいとされる配向膜の厚さの範囲は、本願発明1で特定される「10nm〜200nm」という範囲と部分的に重複している。また、例えば、国際公開第2014/168258号の[0025]、[0106]に記載されているように配向膜の厚みが10nm〜200nmの範囲にあるものは周知であり、このような厚みとすることが格別困難であるともいえない。
さらに、引用文献12の[0002]、[0020]等に記載されているように、偏光板を薄くすることが好ましいことは一般的な課題である。
そうしてみると、引用発明12において、上記の一般的な課題を解決するために、配向膜の厚みを薄くし、10nm〜200nmの範囲となるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について
引用文献12の[0027]に記載されているように、偏光子と位相差層を組み合わせた積層体を「円偏光板」として用いることは通常行われていることにすぎず、引用発明12の「偏光板積層体」を「円偏光板」とすることは当業者であれば適宜なし得た程度のことである。

5 引用文献12に記載される他の実施例を主引用発明とした場合
引用発明12(偏光板41)と同様の構成を有する引用文献12の偏光板42、47、48等を主引用発明として認定した場合も上記4(1)〜(4)と同様の判断となる。

6 発明の効果について
本願発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0007】には、「本発明によれば、重合性液晶化合物を使用した位相差フィルムを備える円偏光板であって、高温高湿環境下に置く前後で位相差フィルムの面内位相差値が上昇しにくい円偏光板を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、当該効果は、引用発明1及び周知技術等から容易に推考される発明が具備する効果である。

7 審判請求人の令和3年12月2日提出の意見書における主張
審判請求人は、令和3年12月2日提出の意見書において、
「・・・しかしながら、引用文献15に記載の発明は、優れた耐熱性および偏光度を有する偏光子を提供することを目的とするものであって(引用文献15の段落[0006])、引用文献15は、偏光子の偏光度や色相変化との関係においてホウ素元素の含量を論じているに過ぎません。また、引用文献14においても同様に、偏光子の偏光度との関係においてホウ素含有量を論じているに過ぎず、これらの引用文献のいずれにも偏光子中のホウ素含有量と位相差フィルムの面内位相差値の関係について教示や示唆する記載は存在しません。
さらに、拒絶理由通知書においては、引用文献16に基づき「偏光子のヨウ素が硬化性液晶組成物からなる層に移動すると問題が生じること」が公知であった、と指摘した上で、偏光子中のホウ素の含有量を高めた偏光板であれば、偏光子のヨウ素が移動する問題がそもそも生じないことは当業者に明らかであると認定されています。
しかしながら、拒絶理由通知書でいう上記「問題」とは、引用文献16でいう「ブリスター欠陥」なる現象です。引用文献16の記載および「ブリスター(blister)」なる用語から、前記「ブリスター欠陥」は高温高湿環境下で偏光板の面内に点々と生じる水膨れ状の剥離欠陥を意味するものと理解され、かかる現象は本願発明の課題である位相差フィルムの面内位相差値の上昇とは全く関係のない現象です。拒絶理由通知書においては、面内位相差値の上昇とは全く異なるこのような現象を「問題」と表現して、本願発明において解決しようとする面内位相差値の上昇も、引用文献16で教示される「問題」の一つであったかのような指摘となっていますが、引用文献16には、偏光子中のホウ素含有量と位相差フィルムの面内位相差値の関係について教示または示唆する記載は何ら存在しません。
すなわち、引用文献14や15においては、湿熱環境下、偏光子からヨウ素が脱離することがあり、これが偏光子自体の特性に影響を及ぼし得ることを教示しているに過ぎず、引用文献16も、高温高湿環境下で面内位相差値の上昇とは全く関係のない「ブリスター欠陥」なる現象が生じ得ることを教示しているに過ぎません。そうであるならば、高温高湿環境下において位相差フィルムの面内位相差値が上昇するという課題に当業者が接したとしても、上記引用文献の記載からは面内位相差値の上昇が何に起因するのかさえ認識し得ないのであるから、引用発明12に対して、引用文献14〜16等に記載の技術を採用すれば位相差フィルムの面内位相差値の上昇を抑制するという課題を解決し得るとは、如何にしても予測し得るものではありません。
・・・中略・・・
すなわち、上記引用文献14および15や5および10の関係が示す通り、偏光子における課題(偏光度の低下や色相変化の抑制等)に対処するために個々の発明においては好適といえるホウ素含有量であっても、これとは異なる発明においては同じホウ素含有量がマイナスの作用を及ぼし得ることは明らかです。そして、引用文献5、10、14および15に記載のホウ素含有量は、いずれも偏光子における課題(偏光度の低下や色相変化の抑制等)に対処するために必須または好適とされる量であるにも関わらず、それらの量には明らかに大きな違いがあるため、例えば、偏光子の偏光度の低下を抑制する目的に対してでさえも、ホウ素含有量を如何なる範囲に制御すればよいかを導き出すことは容易ではないと考えます。
そうであるならば、高温高湿環境下において位相差フィルムの面内位相差値が上昇するという現象が如何にして生じるかも不明であった本願出願当時において、位相差フィルムの面内位相差値の上昇を抑制するために、偏光子中のホウ素含有量を制御するに至ること自体容易ではないのであるから、偏光子中のホウ素含有量を2.76重量%以上という特定の範囲に制御することにより得られる本願発明の効果(位相差フィルムの面内位相差値の上昇抑制効果)は、引用発明12と引用文献5、10、14〜16に記載の発明を如何に組み合わせたとしても推測し得ない格別な効果であると思料します。」と主張している。

上記主張について検討する。
審判請求人は特開2013−50583号公報(引用文献16)に記載される「ブリスター欠陥」が本願発明の課題である位相差フィルムの面内位相差値の上昇とは全く関係のない現象である旨、主張しているが、全く関係ないといえる根拠について説明はない。そして、ブリスター欠陥について検討すると、硬化層(硬化性液晶組成物からなる層)に二色性色素であるヨウ素が移動すれば、硬化層の光学特性に何らかの影響を与えることは技術的に明らかであり、結果として位相差が変動することが考えられる。すなわち、ブリスター欠陥が生じた結果として位相差フィルムの面内位相差が変化することは十分に予測され得る。そして、上記4(1)に記載したとおり、PVA分子鎖の架橋度を高める(ホウ素含有量を高める)ことでヨウ素の移動を抑制できることが技術常識であることに鑑みて、審判請求人の主張する上記効果は、当業者であれば予測可能なものであるといえる。
よって、審判請求人の主張する上記効果が新たな効果であるとはいえない。あるいは、上記効果は当業者の予測の範囲内のものである。
また、審判請求人は、当審拒絶理由で提示した引用文献におけるホウ素含有量の好適な範囲が相互に異なることに言及しつつ、本願発明で特定されるホウ素含有量の範囲を導き出すことは容易ではない旨主張しているが、ホウ素含有量の好適といえる範囲は、その他の製造過程における条件(例えば、偏光子のケン化度、染色工程、延伸工程等の相違)によっても変化し得ることは当業者にとって明らかであり、そのような条件を考慮した上で最適化することは当業者が通常行うことであるといえる。さらに、上記4(1)に記載したように、本願発明1で特定されるホウ素の含有量は通常の偏光子におけるホウ素含有量と大きく異なるものでもないから、この点に鑑みても本願発明における上記効果が格別顕著なものであるとはいえない。
以上のことから、審判請求人の上記主張は、採用することができない。


第3 むすび
本願発明1は、引用文献12に記載された発明及び周知技術等に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-28 
結審通知日 2022-03-01 
審決日 2022-03-14 
出願番号 P2019-229519
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
下村 一石
発明の名称 偏光板および表示装置  
代理人 松谷 道子  
代理人 森住 憲一  
代理人 梶田 真理奈  

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