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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
管理番号 1385134
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-18 
確定日 2022-03-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6734776号発明「抗ウイルス加工製品の製法およびそれによって得られる抗ウイルス加工製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6734776号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜13〕について訂正することを認める。 特許第6734776号の請求項1〜13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6734776号の請求項1〜13に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)7月9日(優先権主張 2014年(平成26年)7月18日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月14日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月5日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年12月18日 :特許異議申立人新井晶代(以下「申立人」という。)による請求項1〜13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年4月20日付け:取消理由通知書
令和3年6月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年6月24日 :特許権者による手続補正書の提出(以下、この手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)
なお、特許権者により提出された意見書、訂正請求書及び手続補正書の副本を申立人へ送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は応答しなかった。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正請求は「特許第6734776号の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜13について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「(A)分子量1500以下の第四級アンモニウムハロゲン化物」を、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2〜13も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に記載された「(A)分子量1500以下の第四級アンモニウムハロゲン化物」を、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物」に訂正する(請求項8の記載を直接的または間接的に引用する請求項9〜13も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
本件訂正前の明細書の【0008】及び【0011】に記載された「(A)分子量1500以下」を、いずれも「(A)分子量900以下」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の【0020】、【0030】、【0031】及び【0078】に記載された「分子量が1500以下」を、いずれも「分子量が900以下」に訂正する。

2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1〜13は、請求項2〜13が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1−13〕について請求されたものである。そして、請求項2〜13は、請求項1の記載を引用しているものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、本件訂正請求のうち明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1−13〕について請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1、2は、「(A)分子量」の上限を「1500」から「900」とし、「(A)分子量」の範囲を限定するものであるから、訂正事項1、2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1、2は、本件特許明細書等の【0054】に記載された「PDIEC1:ポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド(分子量:900)」に基づくものであるから、訂正事項1、2は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項1、2は、それぞれ本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項、請求項8に係る発明の発明特定事項及びこれらに関する発明の詳細な説明に記載された「(A)分子量」の範囲を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項3、4は、訂正事項1、2により請求項1、8の記載が訂正されることに伴い、請求項と明細書の記載との整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 小括
上記のとおり、訂正事項1〜4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜13について訂正することを認める。

第3 本件特許に係る発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明13」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、下記の抗ウイルス性化合物(A)を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させることを特徴とする抗ウイルス加工製品の製法。
(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物。
【請求項2】
上記抗ウイルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイド、クロライドのいずれかである請求項1記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項3】
上記処理液体が、被膜形成用化合物を含有しないものである請求項1または2記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項4】
上記樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項5】
上記樹脂成形品が、改質されていないポリエステル系樹脂を含有するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項6】
上記樹脂成形品に対し、処理液体をスプレー、浸漬、塗布のいずれかによって付着させた状態で加熱処理を行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項7】
上記樹脂成形品を処理液体中に浸漬し、浴中で加熱処理を行う請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の製法によって得られる抗ウイルス加工製品であって、少なくとも表面に下記の抗ウイルス性化合物(A)が、上記樹脂成形品と直接結合した状態で、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定され、抗ウイルス活性値が3以上である樹脂成形品が用いられていることを特徴とする抗ウイルス加工製品。
(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物。
【請求項9】
上記抗ウイルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイド、クロライドのいずれかである請求項8記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項10】
上記樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含有するものである請求項8または9記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項11】
上記樹脂成形品が、改質されていないポリエステル系樹脂を含有するものである請求項8〜10のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項12】
上記樹脂成形品が、繊維品である請求項8〜11のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項13】
上記樹脂成形品が、樹脂シート、樹脂フィルム、所定形状を有する樹脂硬化体のいずれかである請求項8〜11のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜13に係る特許に対して、当審が令和3年4月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものである。
本件特許の発明が解決しようとする課題(以下「本件特許の課題」という。)は「その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる、優れた抗ウイルス加工製品の製法と、それによって得られる抗ウイルス加工製品の提供」(本件特許明細書等【0007】)であるところ、本件特許の発明の詳細な説明には、分子量が900を超え1500以下の「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる」「抗ウイルス性化合物(A)」が記載されておらず、分子量が900を超え1500以下の「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる」「抗ウイルス性化合物(A)」が、本件特許の課題を解決するとの技術常識もないから、当業者が、本件特許の発明の詳細な説明をみても、分子量が900を超え1500以下の「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる」「抗ウイルス性化合物(A)」によって本件特許の課題を解決することを認識することはできず、本件特許に係る出願の出願時の技術常識に照らしても、本件発明1〜13の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1〜13は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献1:特開2012−92490号公報(甲第1号証)

第5 当審の判断
以下、下線は、当審が強調又は理解の便宜の為に付した。
1 取消理由1(サポート要件)について
本件特許明細書等には、実施例8の樹脂成形品の成分である「PDIEC1:ポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の分子量が900であることが記載され(【0054】)、その実施例8において、家庭洗濯10回後も抗ウイルス性化合物が繊維に残留し、固定されていることが確認されている(【0061】)。
そして、上記第2で述べたように、本件訂正により、本件発明1〜13の「抗ウイルス性化合物(A)」が「分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」となったため、当業者は、本件発明1〜13が、本件特許の課題を解決することを認識することができる。
したがって、本件発明1〜13は、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドを含有する繊維用抗ウイルス加工剤。
【請求項2】
(1)ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド及び(2)被膜を形成し得る化合物を含有する繊維用抗ウイルス加工剤。
【請求項3】
繊維又は繊維製品を請求項1又は請求項2に記載の繊維用抗ウイルス加工剤で処理し、次いでソーピングして得られる、抗ウイルス性を備えた繊維又は繊維製品。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性を備えた繊維又は繊維製品に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
繊維又は繊維製品に高い抗ウイルス性を付与し得る処理剤を提供することを課題とする。」
「【0009】
ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド(以下「PMIEC」という)は、抗菌活性を有することが知られており、そのため、PMIECの水溶液は、繊維の抗菌加工剤として使用されている(特開平5−310505号)。しかしながら、PMIECは、他の抗菌活性化合物と同様に、抗ウイルス性を有していることは全く知られていない。事実、PMIECで処理して得られる繊維又は繊維製品は、抗菌性を備えているものの、抗ウイルス性を備えていないことが、本発明者の研究により明らかになった(後記試験例1参照)。
・・・
【0012】
繊維用抗ウイルス加工剤
本発明の繊維用抗ウイルス加工剤は、PMIECを含有する。
・・・
【0015】
で表される繰り返し単位を有するポリカチオン化合物である。PMIECは、公知の化合物であり、低毒性で、皮膚及び眼に対する刺激性が低く、ヒトの肌に直接触れる繊維製品に使用しても安心して使用できる化合物である。PMIECの重量平均分子量は、1000〜10000程度である。
【0016】
PMIECは水溶性であるため、PMIECは、通常、水溶液の形態で用いられる。
【0017】
繊維用抗ウイルス加工剤に含まれるPMIECの量は、通常1〜80重量%程度、好ましくは10〜80重量%程度、より好ましくは30〜70重量%程度である。
【0018】
繊維用抗ウイルス加工剤には、被膜を形成し得る化合物が含まれていてもよい。
【0019】
被膜を形成し得る化合物としては、例えば、ポリカルボン酸、アルデヒド化合物、N−メチロール化合物、分子内にエポキシ基(グリシジル基)を有する化合物、分子内にビニル基を有する化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物等を挙げることができる。これらの中では、メラミン化合物が好適である。」
「【0065】
繊維又は繊維製品
本発明における繊維は、合成繊維、再生繊維及び天然繊維のいずれでもよい。
【0066】
合成繊維としては、公知のものを広く使用でき、例えばポリエステル、ナイロン、アクリル、アセテート、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等が挙げられる。
【0067】
再生繊維としては、公知のものを広く使用でき、例えばビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック等が挙げられる。
【0068】
天然繊維としては、公知のものを広く使用でき、例えば木綿、麻(亜麻、大麻、ラミー、マニラ麻、サイザル麻等)、ウール、カシミヤ、アルパカ、モヘヤ、絹、カポック、ケナフ、ハイビスカス繊維、サトウキビ繊維、バナナ繊維、竹繊維等が挙げられる。木綿や麻には、原綿そのものの他、苛性マーセル化した木綿や麻、液体アンモニアで処理した木綿や麻等が包含される。
【0069】
本発明の繊維は、上記各種繊維の混紡であってもよい。
【0070】
また、本発明の繊維には、上記繊維の一次加工品、例えば糸、紐、ロープ、織物、編物、不織布、紙等が包含される。
【0071】
本発明において、繊維製品とは、上記繊維を更に加工したもの、例えば外衣、中衣、内衣等の衣料、寝装品、インテリア等の製品を意味する。本発明の繊維製品としては、具体的にはコート、ジャケット、ズボン、スカート、ワイシャツ、ニットシャツ、ブラウス、セーター、カーディガン、ナイトウエア、肌着、サポーター、靴下、タイツ、帽子、スカーフ、マフラー、襟巻き、手袋、服の裏地、服の芯地、服の中綿、作業着、ユニフォーム、学童用制服等の衣料、カーテン、布団地、布団綿、枕カバー、シーツ、マット、カーペット、タオル、ハンカチ、マスク、フィルター等の製品を例示できる。また、本発明の繊維製品には、例えば壁布、壁紙、フロア外張り等の産業資材分野で使用される繊維製品の形態のものも包含される。
【0072】
抗ウイルス性を備えた繊維又は繊維製品の製造方法
抗ウイルス性を備えた繊維又は繊維製品は、処理されるべき繊維又は繊維製品に、本発明の繊維用抗ウイルス加工剤を付着及び/又は含浸させ、次いで熱処理し、ソーピングすることにより製造される。
【0073】
処理されるべき繊維又は繊維製品に、繊維用抗ウイルス加工剤を付着及び/又は含浸させるに当たっては、浸漬法、スプレー法、コーティング法等の公知の方法を広く適用することができる。
【0074】
本発明では、PMIEC及び被膜を形成し得る化合物を含有する処理液中に処理すべき繊維又は繊維製品を浸漬する、いわゆる、浸漬法を採用するのが好ましい。
【0075】
以下、浸漬法につき詳述する。
【0076】
処理液中のPMIEC濃度及び被膜を形成し得る化合物の濃度は、処理液の絞り率と必要とする担持量より算出した濃度に設定すればよい。
【0077】
本発明では、一つの処理液中に所定濃度のPMIEC及び被膜を形成し得る化合物が全て含有されていてもよいし、これらPMIEC及び被膜を形成し得る化合物が別個の処理液中に含有されていてもよい。
【0078】
上記処理液のpHは1〜9、好ましくは2〜7に調整されていることが好ましい。処理液のpHがこの範囲であれば、本発明で所望する繊維又は繊維製品を得ることができる。当該範囲のpHは処理液に対して中和剤、即ち適当なアルカリ又は塩を添加することにより調整できる。
【0079】
pHの調整に使用される中和剤として、例えば水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等が挙げられる。また、上記のナトリウム塩に代わり、カリウム塩、アンモニウム塩、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の揮発性の低級アミンの塩も使用できる。これらの中和剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
上記中和剤の添加量は、使用されるPMIEC及び被膜を形成し得る化合物の溶解量や種類にもよるが、処理液中の濃度として通常0.1〜10重量%程度とするのがよい。
【0081】
上記処理液を構成する溶媒としては有機溶媒でも差支えないが、安全、価格を考慮すれば水を溶媒にするのが好ましい。また処理液の形態は、所定の効果が得られる限り特に限定されるものではなく、溶液の形態であっても乳化液の形態であってもよいが、処理効率及び安全性の観点から水溶液であることが好ましい。
【0082】
上記処理液の繊維又は繊維製品に対する浸透速度は充分に速く、浸漬時間、浴温度に特に制限はない。通常、浸漬時間0.1〜300秒、浴温は10〜40℃で行われる。絞りは加工する製品によって異なり、夫々に適当な絞り方法、絞り率が採用できる。通常、絞り率は30〜200%で行うのが好ましい。
【0083】
浸漬、絞りを行った後、乾燥を行う。工業的には、乾燥温度は40〜150℃、時間は温度に応じて選定すればよい。
【0084】
本発明においては、PMIEC及び被膜を形成し得る化合物を付着及び/又は含浸させた繊維又は繊維製品を次いで加熱処理する。
【0085】
加熱処理の温度は、通常100〜250℃、好ましくは120〜200℃、処理時間は20秒〜1時間である。
【0086】
本発明では、加熱処理された繊維又は繊維製品をソーピング処理する。ソーピング処理により、繊維又は繊維製品に格段に優れた抗ウイルス作用を付与することができる。
【0087】
ソーピング処理の条件は、特に限定されない。」
「【0093】
実施例1
目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行った。次いで、処理後の綿織物を、ポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンクロライド1.5重量%、メラミン樹脂(リケンレジンMM65S、三木理研工業製)1重量%及び触媒(リケンフィクサーRC−3、三木理研工業製)0.5重量%を含む水溶液に浸漬し、マングルで絞り(絞り率60%)、100℃で乾燥し、160℃で2分間熱処理を行った。熱処理後の綿織物を、以下「綿織物A」という。更に、綿織物Aを、ノニオン界面活性剤(商品名:ソフタノール90、日本触媒製)0.05重量%を含む水溶液を使用して40℃で5分間ソーピングを行い、次に5分間水洗することにより、綿織物を得た。ソーピング及び水洗処理して得られる本発明の綿織物を、以下「綿織物B」という。
【0094】
綿織物Bを通常の洗濯条件下(洗濯方法:JISL0217103法)に50回洗濯を繰り返した。50回洗濯を繰り返して得られる綿織物を、以下「綿織物C」という。」
「【0100】
(2)試験に使用した綿織物
実施例1で得られた綿織物A、綿織物B及び綿織物C(各綿織物の大きさは18mm×18mm)を121℃のオートクレーブ中に20分間入れ、次に乾燥させた。3枚の綿織物Aを1組とし、2組(計6枚)を試験に使用した。また、上記と同様に、3枚の綿織物Bを1組、3枚の綿織物Cを1組とし、これら各々2組を試験に使用した。更に、比較のために、未処理の綿織物、比較例1〜4で得られた綿織物及び比較例1〜4で得られた綿織物を50回洗濯した綿織物についても、上記と同様にして試験に使用した。
【0101】
(3)感作方法各々の綿織物1組(3枚)をマイクロチューブに入れ、ウイルス液0.1mlを浸み込ませ、室温で10分間感作させた。感作後、直ちにマイクロチューブを1分間当たり5000回転の速度で30秒間回転させ、各々の綿織物から感作ウイルス液を回収した。
【0102】
(4)ウイルス感染価の測定回収した各感作ウイルス液を、直ちにPBSを用いて10倍段階希釈し、48穴マイクロプレートで培養した初代鶏腎細胞に接種し(0.1ml/ウエル、2ウエル)、37℃で1時間保持し、感作ウイルスを初代鶏腎細胞に吸着させた後、増殖培地(ダルベッコ変法イーグル培地に、10%牛血清、10%トリプトース・ホスフェート・ブロスを加えたもの)0.2mlを加え、37℃で培養し、翌日増殖培地を交換し、更に6日間(計7日間)培養を行った。
【0103】
ウイルス増殖の有無は、細胞変性と培養液の赤血球凝集性で判定し、Reed and Muench の方法に従って、ウイルス感染価を算出した。
【0104】
(5)試験結果 綿織物B及び綿織物Cで感作させた後に回収されたウイルス液中に残存するウイルス感染価は、いずれも検出限界以下10≦0.5であり、洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しないことが確認できた。
【0105】
一方、綿織物Aで感作させた後に回収されたウイルス液中に残存するウイルス感染価は、未処理の綿織物と同様に105.0/0.1mlであり、抗ウイルス効果を確認できなかった。比較例1〜4で得られた綿織物及び比較例1〜4で得られた綿織物を50回洗濯した綿織物についても、未処理の綿織物と同様に抗ウイルス効果を確認できなかった。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記の記載事項の、特に、請求項1,2の記載、及び【0009】,【0015】,【0066】,【0082】〜【0086】の記載に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1a」という。)が記載されている。
「重量平均分子量が1000〜10000程度であるポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドを30〜70重量%含有する繊維用抗ウイルス加工剤に、ポリエステル、ナイロン、アクリル、アセテート、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維又は合成繊維製品を、浸漬時間0.1〜300秒、浴温は10〜40℃で浸漬し、絞り率30〜200%で絞りを行った後、乾燥温度40〜150℃で乾燥を行い、120〜200℃、20秒〜1時間で加熱処理を行い、ソーピング処理する、抗ウイルス性を備えた繊維製品の製造方法。」
また、実施例1に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用文献1b」という。)が記載されている。
「目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行い、次いで、処理後の綿織物を、重量平均分子量が1000〜10000程度であるポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド1.5重量%、メラミン樹脂(リケンレジンMM65S、三木理研工業製)1重量%及び触媒(リケンフィクサーRC−3、三木理研工業製)0.5重量%を含む水溶液に浸漬し、マングルで絞り(絞り率60%)、100℃で乾燥し、160℃で2分間熱処理を行い、更に、ノニオン界面活性剤(商品名:ソフタノール90、日本触媒製)0.05重量%を含む水溶液を使用して40℃で5分間ソーピングを行い、次に5分間水洗する、抗ウイルス性を備えた綿織物の製造方法。」

(3)本件発明1について
ア 引用発明1aを主引用発明とする新規性及び進歩性の判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明1aとを対比する。
引用発明1aの「ポリエステル、ナイロン、アクリル、アセテート、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維及び合成繊維製品」は、本件発明1の「樹脂形成品」に相当する。
引用発明1aの「重量平均分子量が、1000〜10000程度であるポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドを30〜70重量%含有する繊維用抗ウイルス加工剤」と、本件発明1の「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」「を含有する処理液体」とは、「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体」の限りで一致する。
引用発明1aの「120〜200℃、20秒〜1時間で加熱処理を行」うことと、本件発明1の「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理」とは、「加熱」温度が「140〜200℃」の範囲で重複しているから、「140〜200℃のキュア処理を含む加熱処理」の限りで一致する。
引用発明1aの「重量平均分子量が、1000〜10000程度であるポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドを30〜70重量%含有する繊維用抗ウイルス加工剤に、ポリエステル、ナイロン、アクリル、アセテート、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維を、浸漬時間0.1〜300秒、浴温は10〜40℃で浸漬し、絞り率30〜200%で絞りを行った後、乾燥温度40〜150℃で乾燥を行い、120〜200℃、20秒〜1時間で加熱処理を行」うことと、本件発明1の「上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させること」とは、「上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」の限りで一致する。
引用発明1aの「抗ウイルス性を備えた繊維製品の製造方法」は、本件発明1の「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1aとは、次の一致点1aで一致し、相違点1a−1〜1a−3で相違する。
[一致点1a]
「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させる抗ウイルス加工製品の製法。」
[相違点1a−1]
「処理液体」に「含有」される「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」について、本件発明1は「分子量900以下」であるのに対し、引用発明1aは「重量平均分子量が1000〜10000程度である」である点。
[相違点1a−2]
「140〜200 ℃のキュア処理を含む加熱処理」について、本件発明1は「常圧または加圧下において」行うのに対し、引用発明1aはその点不明である点。
[相違点1a−3]
「上記抗ウイルス性化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」について、本件発明1は「樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させる」のに対し、引用発明1aはその点が不明である点。

(イ)判断
相違点1a−1について検討する。
引用発明1aの「重量平均分子量が1000〜10000程度であるポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」は、重量平均分子量が900を超えるものであるから、相違点1a−1は実質的な相違点である。
そこで、当該相違点について、さらに検討する。
引用発明1aが解決しようとする課題は「繊維又は繊維製品に高い抗ウイルス性を付与し得る処理剤を提供すること」(引用文献1の【0007】)であり、引用発明1aは「洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しないことが確認できた」(引用文献1の【0104】)ものであるところ、引用文献1には、「ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の重量平均分子量を900以下とすることにより、前記課題を解決することや、「洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しない」ようにすることは記載されていない。
また、「ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の重量平均分子量を900以下とすることにより、抗ウイルス性が高まるという技術常識又は周知技術や、「洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しない」という技術常識又は周知技術は存在しない。
そうすると、引用発明1aには、あえて「ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の重量平均分子量を900以下とする動機付けがない。
さらに、本件特許明細書等によれば、「実際に検証した結果、上記ハロゲン化物のなかでも、特に、その分子量が900以下の、比較的小さいものが、樹脂の非結晶領域内に取り込まれ、樹脂中の官能基と水素結合等によって結合し、固定化されることが判明し」(【0020】)、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」を採用することにより、「その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる」(【0007】)のであるから、本件発明1は、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」を採用したことにより、格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、引用発明1aにおいて、相違点1a−1に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1aではなく、また、引用発明1aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 引用発明1bを主引用発明とする進歩性の判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明1bとを対比する。
引用発明1bの「目付150g/m2の綿織物」と、本件発明1の「樹脂成形品」とは、「成形品」の限りで一致する。
引用発明1bの「重量平均分子量が1000〜10000程度であるポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド1.5重量%、メラミン樹脂(リケンレジンMM65S、三木理研工業製)1重量%及び触媒(リケンフィクサーRC−3、三木理研工業製)0.5重量%を含む水溶液」と、本件発明1の「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」「を含有する処理液体」とは、「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体」の限りで一致する。
引用発明1bの「160℃で2分間熱処理を行」うことと、本件発明1の「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理」とは、「140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理」の限りで一致する。
引用発明1bの「目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行い、次いで、処理後の綿織物を、重量平均分子量が1000〜10000程度であるポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド1.5重量%、メラミン樹脂(リケンレジンMM65S、三木理研工業製)1重量%及び触媒(リケンフィクサーRC−3、三木理研工業製)0.5重量%を含む水溶液に浸漬し、マングルで絞り(絞り率60%)、100℃で乾燥し、160℃で2分間熱処理を行」うことと、本件発明1の「上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させること」とは、「上記抗ウイルス性化合物を、上記成形品と直接結合させて上記成形品の少なくとも表面に固定させること」の限りで一致する。
引用発明1bの「抗ウイルス性を備えた綿織物の製造方法」は、本件発明1の「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1bとは、次の一致点1bで一致し、相違点1b−1〜1b−4で相違する。
[一致点1b]
「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、成形品に、第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記成形品の少なくとも表面に固定させる抗ウイルス加工製品の製法。」
[相違点1b−1]
「成形品」について、本件発明1は「樹脂成形品」であるのに対し、引用発明1bは「目付150g/m2の綿織物」である点。
[相違点1b−2]
「処理液体」に「含有」される「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」について、本件発明1は「分子量900以下」であるのに対し、引用発明1bは「重量平均分子量が1000〜10000程度である」である点。
[相違点1b−3]
「140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理」について、本件発明1は「常圧または加圧下において」行うのに対し、引用発明1bはその点が不明である点。
[相違点1b−4]
「上記抗ウイルス性化合物を、上記成形品と直接結合させて上記成形品の少なくとも表面に固定させること」について、本件発明1は「樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させる」のに対し、引用発明1bはその点が不明である点。

(イ)判断
まず、相違点1b−2について検討する。
引用発明1bの「重量平均分子量が1000〜10000程度であるポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」は、重量平均分子量が900を超えるものであるから、相違点1b−2は実質的な相違点である。
そこで、当該相違点について、さらに検討する。
引用発明1bが解決しようとする課題は「繊維又は繊維製品に高い抗ウイルス性を付与し得る処理剤を提供すること」(引用文献1の【0007】)であり、引用発明1bは「洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しないことが確認できた」(引用文献1の【0104】)ものであるところ、引用文献1には、「ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の重量平均分子量を900以下とすることにより、前記課題を解決することや、「洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しない」ようにすることは記載されていない。
また、「ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の重量平均分子量を900以下とすることにより、抗ウイルス性が高まるという技術常識又は周知技術や、「洗濯を50回繰り返してもその抗ウイルス効果が低下しない」という技術常識又は周知技術は存在しない。
そうすると、引用発明1bには、あえて「ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド」の重量平均分子量を900以下とする動機付けがない。
さらに、本件特許明細書等によれば、「実際に検証した結果、上記ハロゲン化物のなかでも、特に、その分子量が900以下の、比較的小さいものが、樹脂の非結晶領域内に取り込まれ、樹脂中の官能基と水素結合等によって結合し、固定化されることが判明し」(【0020】)、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」を採用することにより、「その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる」(【0007】)のであるから、本件発明1は、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」を採用したことにより、格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、引用発明1bにおいて、相違点1b−2に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明2〜13について
本件発明2〜13は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(3)で検討したことと同じ理由により、引用発明1a又は引用発明1bではなく、引用発明1a又は引用発明1bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3 小括
上記1のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
また、上記2のとおりであるから、本件特許の請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

第6 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
以下、下線は、当審が強調又は理解の便宜の為に付した。
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由の概要
本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証〜甲第5号証に記載された事項に基いて、甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、又は、甲第4号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第2号証:特開2005−23473号公報
甲第3号証:特開平4−57969号公報
甲第4号証:特開平11−61641号公報
甲第5号証:特開2001−303372号公報
以下、甲第2号証〜甲第5号証は、それぞれ「甲2」〜「甲5」という。

2 当審の判断
(1)甲2〜甲5に記載された事項
ア 甲2について
甲2には、次の事項が記載さている。
「【請求項1】
疎水性合成繊維及び親水性繊維を含む二重織又は多重織の構造組織の交織織物を含んでなり、該交織織物が、疎水性合成繊維糸条が主に表面側、親水性繊維を含む糸条が主に裏面側を形成し、親水性繊維を含む糸条の裏面浮き数の最大値が2〜5本であり、50回洗濯後の静菌活性値が2.5以上7.0以下であることを特徴とする快適白衣。
【請求項2】
疎水性合成繊維糸条がポリエステル系合成繊維糸条であり、親水性繊維を含む糸条が綿、レーヨン、ポリノジック、セルロースアセテート、ビニロン、アクリレートから選択される少なくとも1種類を含む紡績糸であることを特徴とする請求項1に記載の快適白衣。
・・・
【請求項5】
第4級アンモニウム塩系、フェノールアミド系、銅化合物系、銀化合物系、ピケアナイド系、ピリドン系、ピリジン系、ニトリル系、ハロアルキルチオ系、有機ヨード系、チアゾール系、ベンズイミダゾール系から選択される少なくとも1種類以上の抗菌剤が付与されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の快適白衣。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は着用快適性に優れ、取扱性が良好であり、抗菌制菌効果もある主に医療用の白衣及び予防衣に関する。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を鑑み発明に至ったものであり、その目的とするところは着用快適性及び抗菌性に優れた白衣及び予防衣の提供を課題とするものである。」
「【0021】
本発明の快適白衣及び予防衣は第4級アンモニウム塩系、フェノールアミド系、銅化合物系、銀化合物系、ピケアナイド系、ピリドン系、ピリジン系、二トリル系、ハロアルキルチオ系、有機ヨード系、チアゾール系、ベンズイミダゾール系から選択される少なくとも1種類以上の抗菌剤を付与して抗菌性を与えるものである。該抗菌加工は吸尽法、パッドスチーム法、パッドドライ法、スプレー法等々公知の方法によって実施することが出来る。耐久性を考慮すると吸尽法が望ましいが、パッドスチーム法、パッドドライ法等も薬剤コスト、処理コストを考慮すると好ましい選択である。勿論、効果効能を考慮し上記方法を適宜組合わせて処方することも可能である。」
【0023】
本発明の快適白衣及び予防衣は上記抗菌剤を繊維に付与し抗菌性を与えるものであるが、該抗菌性の指標として50回洗濯後の静菌活性値が2.5以上7.0以下であることが好ましい。静菌活性値が2.2以上を示すことが抗菌効果の基準(効果の目安)であるとされているが、繰り返し洗濯処理による薬剤脱落、抗菌効果低減を考慮すると2.5以上を保持することが望ましい。また該静菌活性値が7.0を超過する範囲は非常に高い制菌、殺菌効果を期待できるものとなるが、コスト的にも高価なものとなる上、人体に有益な菌種まで死滅させてしまう可能性があり好ましいとは言えない。
【0024】
パディングによる薬剤付与の場合は適当なバインダー樹脂を介して抗菌剤を繊維表面に固着されるが、風合いが粗硬となり易いため、適当な柔軟剤を併用することも可能である。バインダー樹脂は特に限定されるものでなくメラミン系、ウレタン系、酢酸ビニル系、アクリル酸エステル系、ポリエステル系、アクリル系等々公知のものを用いることが出来る。
「【0036】
(実施例1)
ポリエステルフルダル丸断面マルチフィラメントPOY(部分配向糸)を使用し公知の方法で仮撚施撚方向がS→Zの条件で延伸仮撚を実施し167デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を得た。引き続き、得られた仮撚加工糸をダブルツイスター(村田機械社製DT−308型)を用いてS撚方向に350回/mの追撚を加えた。以下、該撚糸条を疎水性合成繊維糸条Xと称する。
【0037】
導電性合成繊維フィラメント28デシテックス2フィラメント(クラレ社製 商品名クラカーボ(R))とポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸56デシテックス36フィラメントとを同率供給の条件で合撚機(石川製作所社製DTF型)を用いてZ撚方向に450回/mの加撚を行った。以下、該合撚糸条を導電性合成繊維糸条Yと称する。
【0038】
疎水性合成繊維糸条Xと導電性合成繊維糸条Yを同一のウィーバースビームに、導電性合成繊維糸条Yがストライプ状に配列させてなるように巻取り経糸ビームを得た。該経糸ビームをレピアルーム(津田駒工業社製R−200型)に設置し、図1に記載した織物組織を基本組織とし、緯糸としてアクリレート系繊維とポリエステルセミダル丸断面ステープルファイバーの混率が重量比換算で30:70のコーマ精紡糸(英式綿番手40番相当)と疎水性合成繊維Xが1本交互の構成になるように製織した。上記コーマ精紡糸の織物裏面浮き数の最大値は4本であり織物裏面に多く露出しており、織物表面には殆ど露出しない形態であった。
・・・
【0040】
次に得られた織物生機を浴温90℃のオープンソーパーでプレリラックスを実施した後、浴温120℃の液流精練を実施した。その後、乾熱190℃条件でピンテンターを用いた中間セットによって幅出し、布目矯正を行った。その後、液流染色機を用い蛍光増白剤併用にて分散染料による120℃高圧染色を実施した後、十分な還元洗浄、湯洗、水洗を実施し脱水、乾燥後に乾熱160℃の乾熱セットを実施して染色を完了した。
【0041】
その後、得られた染色生地をパッドドライキュア法によって下記の条件で抗菌加工を実施して仕上げた。50回洗濯後の静菌活性値は対肺炎かん菌5.8、対MRSA5.8、対黄色葡萄状球菌6.3であり十分な制菌性能を有するものであった。
(薬液処方)
抗菌剤;日華化学社製ニッカノン(R)RB
(水系第4級アンモニウム塩系) 1.2%owf.
バインダー;住友化学工業社製スミテックスレジン(R)M−6
(メチロールメラミン系樹脂) 0.5%owf.
バインダー架橋剤;住友化学社製アクセレレーターACX
0.3%owf.
柔軟剤;日華化学社製ニッカシリコン(R)AMZ
(アミノ変成シリコーンエマルション) 0.1%owf.
(処理条件)
パッダーでの薬液ピックアップ;95%
前乾燥温度;乾熱130℃
キュアリング温度;乾熱160℃
【0042】
得られた染色生地を身生地に使用し公知の方法によってワンピースの医療用白衣を縫製した。着用時の蒸れ感やべとつき感が感じられず快適なものとなり、物理的性能も白衣として支障のないものであった。得られた生地の一般物性を表1としてまとめた。」
「【0049】
【発明の効果】本発明によれば肌側に吸放湿性繊維を配置することによって蒸れ感やべとつき感を解消すると共に親水性繊維を含む糸条の裏面側浮き数を制限することにより耐ピリング性を向上させ、表面に強度的に優れた疎水性合成繊維を配置することによって耐久性を保持させることが可能となる。またJAFET基準を満たす抗菌、制菌性能を有しており、着用快適性と実用性を兼ね備えた快適白衣及び快適予防衣を得ることが出来る。」
以上の記載、特に実施例1に関する記載に着目すると、甲2には、次の発明(以下、それぞれ「甲2発明」又は「甲2に記載された事項」という。)が記載されている。
「ポリエステルフルダル丸断面マルチフィラメントPOY(部分配向糸)を使用し公知の方法で仮撚施撚方向がS→Zの条件で延伸仮撚を実施し167デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を得て、得られた仮撚加工糸をダブルツイスター(村田機械社製DT−308型)を用いてS撚方向に350回/mの追撚を加えた疎水性合成繊維糸条Xと、
導電性合成繊維フィラメント28デシテックス2フィラメント(クラレ社製 商品名クラカーボ(R))とポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸56デシテックス36フィラメントとを同率供給の条件で合撚機(石川製作所社製DTF型)を用いてZ撚方向に450回/mの加撚を行った導電性合成繊維糸条Yを、同一のウィーバースビームに、導電性合成繊維糸条Yがストライプ状に配列させてなるように巻取り経糸ビームを得て、
該経糸ビームをレピアルーム(津田駒工業社製R−200型)に設置し、緯糸としてアクリレート系繊維とポリエステルセミダル丸断面ステープルファイバーの混率が重量比換算で30:70のコーマ精紡糸(英式綿番手40番相当)と疎水性合成繊維Xが1本交互の構成になるように製織し、
得られた織物生機を浴温90℃のオープンソーパーでプレリラックスを実施した後、浴温120℃の液流精練を実施し、その後、乾熱190℃条件でピンテンターを用いた中間セットによって幅出し、布目矯正を行い、その後、液流染色機を用い蛍光増白剤併用にて分散染料による120℃高圧染色を実施した後、十分な還元洗浄、湯洗、水洗を実施し脱水、乾燥後に乾熱160℃の乾熱セットを実施して染色を完了し、
得られた染色生地をパッドドライキュア法によって下記の条件で抗菌加工を実施して仕上げた、
制菌性能を有する染色生地を得る方法。
(薬液処方)
抗菌剤;日華化学社製ニッカノン(R)RB
(水系第4級アンモニウム塩系) 1.2%owf.
バインダー;住友化学工業社製スミテックスレジン(R)M−6
(メチロールメラミン系樹脂) 0.5%owf.
バインダー架橋剤;住友化学社製アクセレレーターACX
0.3%owf.
柔軟剤;日華化学社製ニッカシリコン(R)AMZ
(アミノ変成シリコーンエマルション) 0.1%owf.
(処理条件)
パッダーでの薬液ピックアップ;95%
前乾燥温度;乾熱130℃
キュアリング温度;乾熱160℃」

イ 甲3について
甲3には、次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
(1) セルロース系繊維を少なくとも20重量%含有する布帛に第4級アンモニウム塩を分子末端に有する処理剤の水溶液をパデイングし、100〜150℃で熱処理することを特徴とする抗菌性布帛の製造方法。」
「本発明は、このような現状に鑑みて行われたもので、洗濯耐久性に優れた抗菌性布帛を製造することを目的とするものである。」(1ページ右欄11〜13行)
「本発明方法では、セルロース系繊維を少なくとも20重量%含有する布帛を被加工布帛として用いる。
ここでいうセルロース系繊維としては、綿、レーヨン、麻等があり、これは短繊維、長繊維のいずれでもよい。
布帛は、織物、編物、不織布等の形で用いることができる。布帛は、セルロース系繊維単独で構成されたものでもよく、また、セルロース系繊維と他の繊維を混合した形で構成された混合繊維布帛でもよい。この混合繊維布帛は、どのような方法で製造されたものでもよいが、例えば、セルロース系繊維と他の繊維とを混繊、混紡あるいは芯鞘構造の形成等により混合糸とし、この混合糸を用いて織物、編物、不織布等の混合繊維布帛を製造する。その他、この混合糸とセルロース系繊維または他の繊維を組み合わせて交編、交織により織物、編物あるいは不織布等の混合繊維布帛を製造する方法もある。
セルロース系繊維と混合する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、ポリアクリロニトリルに代表されるアクリル繊維等の合成繊維や羊毛、絹等の天然繊維がある。これらは、短繊維、長繊維等いずれの形態であってもよい。
セルロース系繊維を含む布帛におけるセルロース系繊維の混率は20重量%以上であることが必要であるが、好ましくは40重量%以上である。20重量%以下の混合率では、満足のいく抗菌性が得られない。
上述の布帛を被加工布帛として、本発明方法ではこれに第4級アンモニウム塩を分子末端に有する処理剤の水溶液をパデイングする。
ここでいう第4級アンモニウム塩を分子の末端に有する処理剤とは、第4級アンモニウム塩を分子の末端に有し、かつセルロース系繊維の分子側鎖の水酸基と反応し得るクロルヒドリン基、エポキシ基あるいはアミノ基を有する化合物をいい、具体的には、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
上述の処理剤を布帛に付与するに際しては、本発明では、簡単に実施できる点と連続工程が可能な点から、パデイング法によりこれを行う。
まず、上記処理剤の水溶液を用意し、これに布帛を浸漬し、20〜120%の絞り率でパデイングする。このときの水溶液の温度は常温から80℃、好ましくは40〜60℃に調整し、処理剤がセルロース重量当り5〜30%、好ましくは10〜20%になるように水溶液の濃度の調整を行う。必要に応じて、苛性ソーダを触媒として処理剤に対して10〜50%添加する。
処理剤を付与した布帛は、100〜150℃の温度で熱処理を行う。熱処理温度が100℃以下では、セルロースと処理剤の反応が十分に行われず、満足のいく洗濯耐久性を有する抗菌性が得られない。また、150℃以上の温度では、処理剤の分解や反応した布帛の黄変が発生する。
熱処理に要する時間は、30〜300秒程度で十分である。熱処理は1通常の熱処理機で行えばよく、例えば、ヒートセッターやローラー乾燥機等を用いて行うとよい。」(2ページ左上欄4行〜右下欄7行)
「実施例1
レーヨンフイラメント75d/30fとポリエステルフイラメント75d/36fを合糸しながら空気撹乱処理を行い、複合交絡糸を製造した。得られた複合交絡糸とポリエステルフイラメント150d/30fを用いて、ラツセル編機によりつづれ編組織で交編し、目付135g/m2の編地を得た。このときの交編は、複合交絡糸をレイインし、ポリエステルフイラメントを鎖編に用いて行った。得られた編地のセルロースの混率は40%であった。
次に、通常の精錬、乾燥後、抗菌剤(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)20%、苛性ソーダ2%を含む水溶液を用意し、この水溶液に上記編地を浸漬した後、マングルにて75%の絞り率で絞液し、ヒートセツターで120℃、150秒の熱処理を行い、本発明方法による抗菌性編物を得た。
・・・
第1表より明らかなごとく、本発明の抗菌性編地は、洗濯耐久性の優れた抗菌性能を有していることがわかる。」(3ページ右上欄5行〜左下欄末行)
以上の記載、特に実施例1に関する記載に着目すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」又は「甲3に記載された事項」という。)が記載されている。
「レーヨンフイラメント75d/30fとポリエステルフイラメント75d/36fを合糸しながら空気撹乱処理を行い、複合交絡糸を製造し、得られた複合交絡糸とポリエステルフイラメント150d/30fを用いて、ラツセル編機によりつづれ編組織で交編し、目付135g/m2の編地を得て、このときの交編は、複合交絡糸をレイインし、ポリエステルフイラメントを鎖編に用いて行い、得られた編地のセルロースの混率は40%であり、
次に、通常の精錬、乾燥後、抗菌剤(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)20%、苛性ソーダ2%を含む水溶液を用意し、この水溶液に上記編地を浸漬した後、マングルにて75%の絞り率で絞液し、ヒートセツターで120℃、150秒の熱処理を行う、
抗菌性布帛の製造方法。」

ウ 甲4について
甲4には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 カチオン染料可染型繊維又はセルロース繊維の染色浴又はその後の洗浄浴にカチオン基又はその塩を有する抗菌剤を添加して染色又は洗浄を行い、抗菌剤が繊維重量に対して0.1〜10重量%付着した抗菌性繊維を製造する方法。」
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、衣料用、インテリア用、産業用等の用途において、優れた抗菌性を有し、しかもこの効果を永続して有する抗菌性繊維の製造方法に関するものである。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、抗菌剤溶液処理工程の増加によるコスト高の問題点を解決し、実用的に十分な抗菌性能を有し、かつ耐久性に優れた抗菌性繊維を製造する方法の提供を目的とする。」
「【0009】これに反して、本発明の特定の繊維と抗菌剤を組み合わせて使用した場合、染色加工工程及び洗濯による脱落を考慮しても、なおかつ残留した抗菌剤により抗菌作用が発揮されるのである。このような性能を発揮させる為に、先ず繊維としては、セルロース系繊維、例えば、木綿、麻等の天然セルロース繊維、銅アンモニアレーヨン、ビスコ―スレーヨン及びセルロースの有機溶剤溶液を紡糸して製造されるセルロース繊維等の人造セルロース系繊維、又はカチオン染料可染型繊維を選択する必要がある。
【0010】カチオン染料可染型繊維とは、繊維中にカルボキシル基、スルホン酸基等の酸性基が0.01mol/kg以上、2.5mol/kg以下含有するカチオン染料で染色可能な繊維である。酸性基が0.01mol/kg未満ではカチオン基またはその塩を有する抗菌剤と酸性基との結合が不十分となり、洗濯により脱落しやすい。酸性基が2.5mol/kgを越えるときは繊維中の酸性基含有高分子化合物が洗濯、染色処理により容易に脱落する傾向がある。
【0011】このようなカチオン染料可染型繊維としては、例えば、羊毛等の天然繊維、上記ののような酸性基を有するアクリル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維等がある。これらの繊維のうち、カチオン染料可染型アクリル系合成繊維は他の繊維に比較して抗菌性能の洗濯耐久性が優れているので好ましい。
【0012】より好ましいアクリル系合成繊維は、アクリロニトリル(以下、ANという)を少なくとも35重量%と、65重量%までのANと共重合可能な不飽和ビニル化合物との共重合体からなる繊維である。ANと共重合可能な他の不飽和ビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、アクリルアミドまたはメタクリルアミド及びそれらのモノアルキル置換体、スチレン、ビニルアセテート、ビニルクロライド、ビニリデンクロライド、ビニルピリジン、そしてスチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、及びこれらのスルホン酸の塩類等である。
【0013】上記の繊維と組み合わせて使用する抗菌剤は、カチオン基又はその塩を有する抗菌剤である。カチオン基を有する抗菌剤としては、例えばジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムエトサルフェート、ジデシルメチルプロピルアンモニウムクロライド、ジデシルメチルブチルアンモニウムクロライド、ジデシルメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルエチルベンジルアンモニウムメトサルフェート、ジデシルメチルエチルアンモニウムクロライド、ジデシルジエチルアンモニウムクロライド、ジデシルメチル4−クロロベンジルアンモニウムクロライド、ジデシル3・4ジクロロベンジルアンモニウムクロライド、デシルオクチルジメチルアンモニウムクロライド、デシルオクチルベンジルメチルアンモニウムクロライド、デシルドデシルジメチルアンモニウムクロライド、デシルドデシルエチルメチルアンモニウムクロライド、ジノニルメチル2・4−ジメチルアンモニウムアンモニウムクロライド、ジウンデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジノニルヒドロキシエチルメチルクロライド、ジデシルヒドロキシプロピルメチルクロライド、ジウンデシルジヒドロキシエチルクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(3、4−ジクロルベンジル)ドデシルジメチルアンモニウムクロライド、3−(トリメトキシシル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、P−イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、臭化フェノドデシウム、アルキルジメチルアミンのアルキル燐酸塩、ジデシルジメチルアンモニウムの酸塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロルヘキシジン、ドデシルグアニジン塩酸塩、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩、α−ブロムシンナムアルデヒド、2−(3、5−ジメチルピラゾリル)4−ヒドロキシ−6−フェニルピリミジン等が挙げられる。
【0014】カチオン基を有する抗菌剤と塩を形成する酸としては、有機酸、無機酸特に限定はないが、特に多官能有機酸が好ましく、例えば、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、トリカルバリン酸、ベンゼントリカルボン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの多官能有機酸のうち、アジピン酸は特に抗菌剤の脱落を防止し、抗菌性能の洗濯耐久性を向上する点で好ましい。
【0015】これらの抗菌剤の中で、ジデシルジメチルアンモニウムの多官能有機酸塩は抗菌剤の脱落が少なく、洗濯耐久性に優れている為、好ましい。抗菌剤は、単独でも、混合物としても使用できる。抗菌剤は、黄色ブドウ状球菌、大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌等の細菌及び真菌に対して優れた効果を発揮する。特にブドウ状球菌に好適である。」
「【0023】
【実施例1〜4、比較例1〜5】
抗菌剤の製造
オートクレーブに、ジデシルメチルアミンとアジピン酸ジエステルとメタノール及びアジピン酸を導入し、加熱、振盪した。オートクレーブ内の温度が120℃に達した後、6時間その温度で反応を継続した。反応終了後、冷却し、オートクレーブ内を常圧に戻して約70重量%の抗菌剤を含有するジデシルジメチルアンモニウムアジペートの水溶液を調製した。
【0024】アクリル繊維、紡績糸及び編地の製造
AN93重量%、アクリル酸メチル6重量%及びメタリルスルホン酸ナトリウム1重量%を共重合した共重合体を硝酸水溶液に溶解して常法により湿式紡糸し、水洗、延伸、乾燥、湿熱セットし、単糸デニール1.5dのアクリル繊維を製造した。このアクリル繊維を紡績して1/40Nmの紡績糸を製造し、次いでこの紡績糸を用いて丸編地を作成した。
【0025】抗菌剤の付与
上記抗菌剤を所定量混合した染液中で、上記丸編地を下記の条件で染色後、80℃の熱風で乾燥し、抗菌剤を付与した丸編地を得た(実施例1〜4、比較例1及び2)・・・
・・・
【0027】
【表1】

【0028】表1から、繊維に染色工程で抗菌剤を付与した場合には、最終繊維製品の抗菌性能の洗濯耐久性が優れていることが分かる。一方、染色工程で抗菌剤を付与した場合でも抗菌剤の付着量が少ないと繊維の着色はないが、抗菌性能が低下し(比較例1)、多すぎると繊維製品の風合いが悪くなり、着色することが分かる(比較例2)。 」
以上の記載、特に実施例1〜4に関する記載に着目すると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」又は「甲4に記載された事項」という。)が記載されている。
「オートクレーブに、ジデシルメチルアミンとアジピン酸ジエステルとメタノール及びアジピン酸を導入し、加熱、振盪し、オートクレーブ内の温度が120℃に達した後、6時間その温度で反応を継続し、反応終了後、冷却し、オートクレーブ内を常圧に戻して約70重量%の抗菌剤を含有するジデシルジメチルアンモニウムアジペートの水溶液を調製し、
アクリロニトリル93重量%、アクリル酸メチル6重量%及びメタリルスルホン酸ナトリウム1重量%を共重合した共重合体を硝酸水溶液に溶解して常法により湿式紡糸し、水洗、延伸、乾燥、湿熱セットし、単糸デニール1.5dのアクリル繊維を製造し、このアクリル繊維を紡績して1/40Nmの紡績糸を製造し、次いでこの紡績糸を用いて丸編地を作成し、
上記抗菌剤を所定量混合した染液中で、上記丸編地を下記の条件で染色後、80℃の熱風で乾燥した、
抗菌剤付着量が0.15〜5.13(wt%)である丸編地を得る方法」

エ 甲5について
甲5には、次の事項が記載されている。
「【0022】本発明の抗菌性、抗ウイルス性アクリロニトリル系繊維は、ポリフェノールの洗濯耐久性向上、該繊維の柔軟性向上等のためポリフェノール及び4級アンモニウム塩の含有が必須である。4級アンモニウム塩を併用したことにより、本発明繊維は抗菌性、抗ウイルス性という機能の維持に重要なポリフェノールの洗濯耐久性の向上や、該繊維の柔軟性の向上等の効果を発現する。かかる4級アンモニウム塩は、一般式[1]または[2]で示されるが、一般式[1]の例としては、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジヒドロキシエチルデシルエチルアンモニウム、N−ヒドロキシエチルN,N−ジメチルN−ステアリルアミドエチルアンモニウムエチルスルホネート、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート等が挙げられる。
【0023】また、一般式[2]の例としては、ステアリル・アミド・プロピル・ジメチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムナイトレート、セチル・アミド・プロピル・ジメチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムナイトレート、ステアリル・アミド・プロピル・ジメチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムクロライド、セチル・アミド・プロピル・ジメチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムクロライド、ステアリル・アミド・プロピル・ジメチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムブロマイド、ステアリル・アミド・エチル・ジエチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムアセテート、ステアリル・アミド・エチル・ジエチル・ヒドロキシエチル・アンモニウムホスフェート、ステアリル・アミド・プロピル・ジメチル・エチル・アンモニウムエチルサルフェート、セチル・アミド・プロピル・ジメチル・エチル・アンモニウムエチルサルフェート、ステアリル・アミド・プロピル・ジエチル・メチル・アンモニウムメチルサルフェート、セチル・アミド・プロピル・ジエチル・メチル・アンモニウムメチルサルフェート、ステアリル・アミド・プロピル・トリメチル・アンモニウムメチルサルフェート、セチル・アミド・エチル・ジエチル・メチル・アンモニウムメチルサルフェート、ステアリル・アミド・エチル・トリメチル・アンモニウムメチルサルフェート等を挙げることできる。 該薬剤のアクリロニトリル系繊維への吸着量(付与量)は、0.2〜3.0%omfで、好ましくは0.3〜2.0%omfであり、上記した薬剤の1種とすることも、数種の薬剤を混用することもある。
【0024】次に、本発明の抗菌性、抗ウイルス性アクリロニトリル系繊維の製造法について述べる。製造法としては大別して3つあり、その第1はカチオン染料可染性アクリロニトリル系繊維の製造工程中一次緻密化工程を経た繊維に、ポリフェノールと一般式[1]または[2]で示される4級アンモニウム塩を接触せしめ、その後スチーム弛緩熱処理するというものであり、第2は同じく製造工程中一次緻密化工程を経た繊維に、一般式[1]または[2]で示される4級アンモニウム塩を接触せしめ、次いでスチーム弛緩熱処理した後、ポリフェノールと接触せしめるのであり、第3はカチオン染料可染性アクリロニトリル系繊維製品に、ポリフェノールと一般式[1]または[2]で示される4級アンモニウム塩を浸漬法またはパットスチーム法により接触せしめ、90℃以上の温度で処理するという方法である。」
「【0029】また本発明に記載のスチーム弛緩熱処理とは、キヤーまたはオートクレーブを使用して、本発明のトウをスチーム中でリラックスさせることをいう。また連続的にスチームリラックスさせてもよい。スチームとしては、飽和水蒸気,過熱水蒸気等制限はないが、飽和水蒸気中で105℃〜140℃で処理することが望ましい。リラックスさせる程度としては、被処理トウまたはフィラメントの原長に対し5〜30%が好ましい。」
「【0035】
【作用】本願に係る抗菌性、抗ウイルス性アクリロニトリル系繊維は、カチオン染料可染性アクリロニトリル系繊維に対して、合成樹脂等の固着剤を用いることなく、抗菌性、抗ウイルス性の高いポリフェノールを該繊維の製造工程中一次緻密化工程の後接触せしめ、その後スチーム弛緩熱処理するか、あるいは浸漬法またはパッドスチーム法により、アクリロニトリル系繊維の二次転位温度以上の90℃以上の温度で接触せしめることで該繊維表面だけでなく繊維内部までにも固定(繊維中のスルホン酸基或いはカルボン酸基と4級アンモニウム塩化合物を介して結合)または保持(繊維に付与した4級アンモニウム塩とゆるい結合またはその周辺に存在)されると考えられる。
【0036】その結果、抗菌性、抗ウイルス性という機能の維持に重要なポリフェノールが、繊維内部まで浸透、拡散しているため、一般的な繊維表面への付着または固着と異なり、繰り返し洗濯による脱落が少なく、抗菌性、抗ウイルス性能の低下がなく、さらにはまた、各種製品への加工工程あるいはその後において、光、熱、加工薬剤等による失効、変色、着色が少なくなるものと推察している。」
以上の記載、特に「抗菌性、抗ウイルス性」に関する記載に着目すると、甲5には、次の事項(以下「甲5に記載された事項」という。)が記載されている。
「4級アンモニウム塩を併用したことにより、抗菌性、抗ウイルス性という機能の維持に重要なポリフェノールの洗濯耐久性の向上や、該繊維の柔軟性の向上等の効果を発現する、抗菌性、抗ウイルス性アクリロニトリル系繊維。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ポリエステルフルダル丸断面マルチフィラメントPOY(部分配向糸)を使用し公知の方法で仮撚施撚方向がS→Zの条件で延伸仮撚を実施し167デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を得て、得られた仮撚加工糸をダブルツイスター(村田機械社製DT−308型)を用いてS撚方向に350回/mの追撚を加えた疎水性合成繊維糸条Xと、導電性合成繊維フィラメント28デシテックス2フィラメント(クラレ社製 商品名クラカーボ(R))とポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸56デシテックス36フィラメントとを同率供給の条件で合撚機(石川製作所社製DTF型)を用いてZ撚方向に450回/mの加撚を行った導電性合成繊維糸条Yを、同一のウィーバースビームに、導電性合成繊維糸条Yがストライプ状に配列させてなるように巻取り経糸ビームを得て、該経糸ビームをレピアルーム(津田駒工業社製R−200型)に設置し、緯糸としてアクリレート系繊維とポリエステルセミダル丸断面ステープルファイバーの混率が重量比換算で30:70のコーマ精紡糸(英式綿番手40番相当)と疎水性合成繊維Xが1本交互の構成になるように製織し、得られた織物生機を浴温90℃のオープンソーパーでプレリラックスを実施した後、浴温120℃の液流精練を実施し、その後、乾熱190℃条件でピンテンターを用いた中間セットによって幅出し、布目矯正を行い、その後、液流染色機を用い蛍光増白剤併用にて分散染料による120℃高圧染色を実施した後、十分な還元洗浄、湯洗、水洗を実施し脱水、乾燥後に乾熱160℃の乾熱セットを実施して染色を完了し、得られた染色生地」は、本件発明1の「樹脂成形品」に相当する。
甲2発明の「抗菌剤;日華化学社製ニッカノン(R)RB(水系第4級アンモニウム塩系)1.2%owf.」、「バインダー;住友化学工業社製スミテックスレジン(R)M−6(メチロールメラミン系樹脂) 0.5%owf.」、「バインダー架橋剤;住友化学社製アクセレレーターACX 0.3%owf.」及び「柔軟剤;日華化学社製ニッカシリコン(R)AMZ(アミノ変成シリコーンエマルション) 0.1%owf.」からなる「薬液」と、本件発明1の「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」「を含有する処理液体」とは、「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物を含有する処理液体」の限りで一致する。
甲2発明の「(処理条件)」の「キュアリング温度;乾熱160℃」であることと、本件発明1の「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うこと」とは、「140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理」の限りで一致する。
甲2発明の「得られた染色生地をパッドドライキュア法によって下記の条件で抗菌加工を実施して仕上げた」ことと、本件発明1の「上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させること」とは、「上記樹脂化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記成形品の少なくとも表面に固定させること」の限りで一致する。
甲2発明の「制菌性能を有する染色生地を得る方法」と、本件発明1の「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」とは、「加工製品を得る方法であって、」「加工製品の製法」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点2で一致し、相違点2−1〜2−4で相違する。
[一致点2]
「加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うことにより、上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させる加工製品の製法。」
[相違点2−1]
「処理液体」に「含有」される「第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物」について、本件発明1は「分子量900以下」であり「抗ウイルス性」であるに対し、甲2発明はその点が不明である点。
[相違点2−2]
「140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理」について、本件発明1は「常圧または加圧下において」行うのに対し、甲2発明はその点が不明である点。
[相違点2−3]
「上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」について、本件発明1は「樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させる」のに対し、甲2発明はその点が不明である点。
[相違点2−4]
「加工製品を得る方法であって、」「加工製品の製法」について、本件発明1は「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」であるのに対し、甲2発明は、「抗ウイルス性が付与された」ものであるか否かが不明である点。

(イ)判断
相違点2−1について検討する。
甲2発明が解決しようとする課題は「着用快適性及び抗菌性に優れた白衣及び予防衣の提供」(甲2の【0007】)であり、甲2発明は「JAFET基準を満たす抗菌、制菌性能を有しており、着用快適性と実用性を兼ね備えた快適白衣及び快適予防衣を得ることが出来る」(甲2の【0049】)ものであるから、甲2発目では、抗ウイルスという機能について着目して第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物である「抗菌剤;日華化学社製ニッカノン(R)RB(水系第4級アンモニウム塩系)1.2%owf.」を用いているわけではない。
また、「水系第4級アンモニウム塩」の重量平均分子量を900以下とすることにより、着用快適性及び抗菌性能が向上するという技術常識又は周知技術はない。
そうすると、甲2発明には、「水系第4級アンモニウム塩」の重量平均分子量を900以下とする動機付けがない。
さらに、本件特許明細書等によれば、「実際に検証した結果、上記ハロゲン化物のなかでも、特に、その分子量が900以下の、比較的小さいものが、樹脂の非結晶領域内に取り込まれ、樹脂中の官能基と水素結合等によって結合し、固定化されることが判明し」(【0020】)、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」を採用することにより、「その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる」(【0007】)のであるから、本件発明1は、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」を採用したことにより、格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲3〜5に記載された事項を勘案しても、甲2発明において、相違点2−1に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲3〜5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明1と甲3発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「レーヨンフイラメント75d/30fとポリエステルフイラメント75d/36fを合糸しながら空気撹乱処理を行い、複合交絡糸を製造し、得られた複合交絡糸とポリエステルフイラメント150d/30fを用いて、ラツセル編機によりつづれ編組織で」「複合交絡糸をレイインし、ポリエステルフイラメントを鎖編に用いて行い、得られた編地のセルロースの混率は40%で」「交編し」「得」た「目付135g/m2の編地」は、本件発明1の「樹脂成形品」に相当する。
甲3発明の「抗菌剤(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)20%、苛性ソーダ2%を含む水溶液」と、本件発明1の「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」「を含有する処理液体」とは、「分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物を含有する処理液体」の限りで一致する。
甲3発明の「ヒートセツターで120℃、150秒の熱処理を行う」ことと、本件発明1の「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うこと」とは、「キュア処理を含む加熱処理」の限りで一致する。
甲3発明の「抗菌剤(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)20%、苛性ソーダ2%を含む水溶液を用意し、この水溶液に上記編地を浸漬した後、マングルにて75%の絞り率で絞液し、ヒートセツターで120℃、150秒の熱処理を行う」ことと、本件発明1の「上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させること」とは、「上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」の限りで一致する。
甲3発明の「抗菌性布帛の製造方法」と、本件発明1の「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」とは、「加工製品を得る方法であって、」「加工製品の製法」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点3で一致し、相違点3−1〜3−4で相違する。
[一致点3]
「加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、キュア処理を含む加熱処理を行うことにより、上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させる加工製品の製法。」
[相違点3−1]
「処理液体」に「含有」される「分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物」について、本件発明1は「抗ウイルス性」であるに対し、甲3発明はその点が不明である点。
[相違点3−2]
「キュア処理を含む加熱処理」について、本件発明1は「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行」うのに対し、甲3発明は、「常圧または加圧下」であるか否かが不明であり、かつ120℃である点。
[相違点3−3]
「上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」について、本件発明1は「樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させる」のに対し、甲3発明はその点が不明である点。
[相違点3−4]
「加工製品を得る方法であって、」「加工製品の製法」について、本件発明1は「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」であるのに対し、甲3発明は、「抗ウイルス性が付与された」ものであるか否かが不明である点。

(イ)判断
相違点3−1及び相違点3−2について検討する。
甲3発明が解決しようとする課題は「洗濯耐久性に優れた抗菌性布帛を製造すること」(甲3の1ページ右欄12〜13行)であり、甲3発明は「洗濯耐久性の優れた抗菌性能を有している」(甲3の3ページ左下欄下から1行〜末行)ものであるから、甲3発明では、抗ウイルスという機能について着目して分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物である「抗菌剤(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)」を用いているわけではない。
そして、甲3発明の「ヒートセツターで120℃、150秒の熱処理を行う」ことは、「150℃以上の温度では、処理剤の分解や反応した布帛の黄変が発生する」(甲3の2ページ左下欄2〜3行)ことに基づくものである。
そうすると、甲3発明には、抗ウイルス性の付与を目的として、「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行」う動機付けがなく、かつ150〜230℃の範囲でキュア処理することについては、阻害要因もある。
さらに、本件特許明細書等によれば、「実際に検証した結果、上記ハロゲン化物のなかでも、特に、その分子量が900以下の、比較的小さいものが、樹脂の非結晶領域内に取り込まれ、樹脂中の官能基と水素結合等によって結合し、固定化されることが判明し」(【0020】)、「例えば、100〜130℃で、1〜3分乾燥(目付量が少ない場合は予備乾燥を実施しない場合がある)後、140〜230℃でキュアする」ものであり、「キュアの処理時間は、樹脂成形品の目付、物性により30秒〜1時間程度が好ましい」が、「処理温度、処理時間が不足すると抗ウイルス性が乏しくなるか、耐水性、洗濯耐久性が不充分になるおそれがある」(【0044】)ところ、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行う」ことにより、「その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる」(【0007】)のであるから、本件発明1は、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行う」を採用したことにより、格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲2、甲4〜5に記載された事項を勘案しても、甲3発明において、相違点3−1及び相違点3−2に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明並びに甲2、甲4〜5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件発明1と甲4発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「アクリロニトリル93重量%、アクリル酸メチル6重量%及びメタリルスルホン酸ナトリウム1重量%を共重合した共重合体を硝酸水溶液に溶解して常法により湿式紡糸し、水洗、延伸、乾燥、湿熱セットし、単糸デニール1.5dのアクリル繊維を製造し、このアクリル繊維を紡績して1/40Nmの紡績糸を製造し、次いでこの紡績糸を用いて」「作成」された「丸編地」は、本件発明1の「樹脂成形品」に相当する。
甲4発明の「オートクレーブに、ジデシルメチルアミンとアジピン酸ジエステルとメタノール及びアジピン酸を導入し、加熱、振盪し、オートクレーブ内の温度が120℃に達した後、6時間その温度で反応を継続し、反応終了後、冷却し、オートクレーブ内を常圧に戻して」「調製し」た「約70重量%の抗菌剤を含有するジデシルジメチルアンモニウムアジペートの水溶液」と、本件発明1の「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物」「を含有する処理液体」とは、「分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物を含有する処理液体」の限りで一致する。
甲4発明の「80℃の熱風で乾燥した」ことと、本件発明1の「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うこと」とは、「加熱処理」の限りで一致する。
甲4発明の「丸編地」が「上記抗菌剤を所定量混合した染液中で、上記丸編地を下記の条件で染色後、80℃の熱風で乾燥し」て「抗菌剤付着量が0.15〜5.13(wt%)である」ことと、本件発明1の「上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させること」とは、「上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」の限りで一致する。
甲4発明の「抗菌剤付着量が0.15〜5.13(wt%)である丸編地を得る方法」と、本件発明1の「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」とは、「加工製品を得る方法であって、」「加工製品の製法」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、次の一致点4で一致し、相違点4−1〜4−4で相違する。
[一致点4]
「加工製品を得る方法であって、成形品に、分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させる加工製品の製法。」
[相違点4−1]
「処理液体」に「含有」される「分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物」について、本件発明1は「抗ウイルス性」であるに対し、甲4発明はその点が不明である点。
[相違点4−2]
「加熱処理」について、本件発明1は「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む」のに対し、甲4発明は、「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含」まない点。
[相違点4−3]
「上記化合物を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させること」について、本件発明1は「樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させる」のに対し、甲4発明はその点が不明である点。
[相違点4−4]
「加工製品を得る方法であって、」「加工製品の製法」について、本件発明1は「抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、」「抗ウイルス加工製品の製法」であるのに対し、甲4発明は、「抗ウイルス性が付与された」ものであるか否かが不明である点。

(イ)判断
相違点4−1及び相違点4−2について検討する。
甲4発明が解決しようとする課題は「抗菌剤溶液処理工程の増加によるコスト高の問題点を解決し、実用的に十分な抗菌性能を有し、かつ耐久性に優れた抗菌性繊維を製造する方法の提供」(甲4の【0005】)であり、甲4発明は「抗菌性能の洗濯耐久性が優れている」(甲4の【0028】)ものであるから、甲4発明では、抗ウイルスという機能について着目して分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる化合物である「ジデシルジメチルアンモニウムアジペート」を用いているわけではない。
そうすると、甲4発明には、抗ウイルス性の付与を目的として、「常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行」う動機付けがない。
さらに、本件特許明細書等によれば、「実際に検証した結果、上記ハロゲン化物のなかでも、特に、その分子量が900以下の、比較的小さいものが、樹脂の非結晶領域内に取り込まれ、樹脂中の官能基と水素結合等によって結合し、固定化されることが判明し」(【0020】)、「例えば、100〜130℃で、1〜3分乾燥(目付量が少ない場合は予備乾燥を実施しない場合がある)後、140〜230℃でキュアする」ものであり、「キュアの処理時間は、樹脂成形品の目付、物性により30秒〜1時間程度が好ましい」が、「処理温度、処理時間が不足すると抗ウイルス性が乏しくなるか、耐水性、洗濯耐久性が不充分になるおそれがある」(【0044】)ところ、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行う」ことにより、「その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる」(【0007】)のであるから、本件発明1は、「(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行う」を採用したことにより、格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲2、甲3及び甲5に記載された事項を勘案しても、甲4発明において、相違点4−1及び相違点4−2に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明2〜13について
本件発明2〜13は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(2)で検討したことと同じ理由により、甲2発明及び甲3〜5に記載された事項に基いて、甲3発明並びに甲2、甲4〜5に記載された事項に基いて、又は、甲4発明並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
上記2のとおりであるから、申立人の上記1に記載した特許異議申立理由は、いずれも理由がなく、本件特許の請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1〜13に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1〜13に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】抗ウイルス加工製品の製法およびそれによって得られる抗ウイルス加工製品
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性、洗濯耐久性を備えた抗ウイルス加工製品の製法およびそれによって得られる抗ウイルス加工製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス(人インフルエンザウイルスと同属)、ノロウイルス、エボラ出血熱ウイルス、エイズウイルス等、ウイルスによる人、家畜の生命的、経済的損失は甚大である。近年、ノロウイルスは、冬季に集団食中毒を引きおこし、老人や免疫不全者の合併症による死亡例も報告されている。また、鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックの危険性がWHOにより指摘されている。
【0003】
このようなウイルスの脅威から人や家畜等を守るために、以前より、様々な抗ウイルス性消毒液が生活環境で用いられている。古くは、エンベロープ型ウイルス(人インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス等)に対し、次亜塩素酸ソーダ、ヨードホール(iodophor)やカチオン界面活性剤等を用いることが知られている。また、最近では、非エンベロープ型ウイルス(ノロウイルス等)に対し、ポリアルキレンビグアナイドハイドロクロライド(PHMB)と第四級アンモニウム塩化合物との複合剤による液体スプレーが有効であることが報告されている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、抗ウイルス性化合物を、手指や硬表面にスプレーしたり塗布したりして消毒を行う消毒液として用いるのではなく、衣料を含む各種の家庭用品や産業用資材に、直接抗ウイルス性化合物を付与して、その効果を持続させる方法についても、様々な検討がなされている。例えば、抗ウイルス性化合物とともにエポキシ系やメラミン系の被膜形成性化合物を用い、繊維表面や繊維間に樹脂被膜を形成することにより抗ウイルス性化合物を固定化する方法(特許文献2を参照)や、繊維品を、抗菌成分と特定のポリカルボン酸類と架橋剤で処理する方法(特許文献3を参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2013−14551号公報
【特許文献2】日本国特開2008−115506号公報
【特許文献3】日本国特開2003−105674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被膜形成性化合物を用い、樹脂被膜によって抗ウイルス性化合物を繊維に付着固定する方法では、樹脂被膜の形成によって繊維の通気性や手触りが悪くなり、衣料やインテリア用途に好ましくないという問題がある。また、摩擦等によって樹脂被膜が脱落するとともに抗ウイルス性が低下するため、その性能が長期間持続しないという問題もある。さらに、被膜形成に用いられるメラミン系化合物やグリオキザール系化合物は、ホルマリン放出による環境や人体への悪影響が懸念されるという問題もある。しかも、これらの方法で用いられる抗ウイルス性化合物は、繊維と充分に密着させる必要から、比較的分子量の大きいものが用いられるため、抗ウイルス性化合物の種類が限られるという問題もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その抗ウイルス性能が、耐水性、洗濯耐久性を備えたものとなる、優れた抗ウイルス加工製品の製法と、それによって得られる抗ウイルス加工製品の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、下記の抗ウイルス性化合物(A)を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下で加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品の少なくとも表面に固定させる抗ウイルス加工製品の製法を第1の要旨とする。
(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物。
【0009】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含有するものである抗ウイルス加工製品の製法を第2の要旨とする。
【0010】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記樹脂成形品に対し、処理液体をスプレー、浸漬、塗布のいずれかによって付着させた後、常圧または加圧下、70〜230℃の気体中で加熱処理を行う抗ウイルス加工製品の製法を第3の要旨とし、上記樹脂成形品を処理液体中に浸漬し、常圧または加圧下、70〜230℃の浴中で加熱処理を行う抗ウイルス加工製品の製法を第4の要旨とする。
【0011】
そして、本発明は、上記第1〜第4のいずれかの要旨である製法によって得られる抗ウイルス加工製品であって、少なくとも表面に下記の抗ウイルス性化合物(A)が固定され、抗ウイルス活性値が3以上である樹脂成形品が用いられている抗ウイルス加工製品を第5の要旨とする。
(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物。
【0012】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリ アミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種 の樹脂を含有するものである抗ウイルス加工製品を第6の要旨とする。
【0013】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記樹脂成形品が、繊維品である抗ウイルス加工製品を第7の要旨とし、上記樹脂成形品が、樹脂シート、樹脂フィルム、所定形状を有する樹脂硬化体のいずれかである抗ウイルス加工製品を第8の要旨とする。
【0014】
なお、本発明において、「樹脂成形品」とは、最終製品を得る前の段階の製品素材をいい、この製品素材を、形状的には何ら変更を加えることなくそのまま最終製品として用いる場合も、上記「樹脂成形品」に含む趣旨である。
【0015】
また、本発明において、「抗ウイルス性化合物(A)を固定する」とは、樹脂成形品と抗ウイルス性化合物(A)とを、化学結合によって結合させることをいう。なお、化学結合には、共有結合の他、イオン結合、水素結合、配位結合等、種々の結合がある。
【発明の効果】
【0016】
すなわち、本発明者らは、各種の産業用資材や家庭用品(衣料を含む)等に用いられる樹脂成形品に、耐水性および洗濯耐久性を有する抗ウイル性を付与する方法を開発すべく鋭意検討を重ねた。その結果、従来、抗菌剤として知られている第四級アンモニウム塩のなかでも特に、所定の大きさ以下の分子量を有する第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物(A)を、水等の溶媒中に溶解したり分散させたりした状態で含有させることによって処理液体を調製し、その処理液体を樹脂成形品に接触させて加熱処理すれば、わざわざ被膜形成性化合物を用いて樹脂被膜を形成しなくても、上記化合物(A)が樹脂の官能基と直接結合して固定化されることを見いだした。そして、樹脂成形品に固定化された上記化合物(A)が、エンベロープ型ウイルス(人インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザ等)に対しても、非エンベロープ型ウイルス(ノロウイルス、ネコカリシウイルス等)に対しても、優れた抗ウイルス性を発揮することから、各種の樹脂成形品に対して、耐水性、洗濯耐久性に優れた抗ウイルス性を付与することができることを見いだし、本発明に到達した。
【0017】
なお、抗菌剤として知られている化合物は多々あり、それらのなかには、特定のウイルスに対して抗ウイルス性能を発揮するものもいくつか知られているが、本発明の化合物(A)が、エンベロープ型ウイルスと非エンベロープ型ウイルスの両方に優れた抗ウイルス特性を示すことは、本発明者らが初めて得た知見である。
【0018】
すなわち、抗菌剤が対象とする細菌は、代謝系を有する微生物であり、この代謝系を阻害する化合物が、抗菌剤として好適に用いられる。一方、抗ウイルス剤が対象とするウイルスは、細菌とは異なり、蛋白質からなる物質であって代謝系を有していない。このため、抗ウイルス剤は、蛋白質に直接作用して変性させたり分解させたりする機能を有することが必要であり、抗菌剤をそのまま適用することはできない。そこで、本発明者らは、各種の物質を詳細に検討した結果、第四級アンモニウムハロゲン化物が、ウイルスの型にかかわらず、ウイルスを構成する蛋白質のアミノ酸に強く吸着して変性させる作用を有することを見いだしたのである。
【0019】
しかも、第四級アンモニウムハロゲン化物は、水溶性化合物であり、本来、そのままでは、耐水性や耐洗濯性を有する形で、疎水性の樹脂表面に固定することは困難とされてきたものである。このような水溶性化合物を合成繊維等の樹脂表面に固定するには、前述のとおり、被膜形成性化合物を用いて樹脂被膜中に閉じ込めて固定することが技術常識であった。なお、染色の分野では、疎水性のポリエステル繊維にスルホン基を導入して改質し、水溶性のカチオン染料を染着させる手法が知られているが、このような改質を行うことなく、疎水性の樹脂に直接水溶性化合物を固定する方法は知られていない。
【0020】
これに対し、本発明者らは、上記第四級アンモニウムハロゲン化物が、耐熱性に優れていることから、上記第四級アンモニウムハロゲン化物を付与しようとする樹脂成形品の樹脂成分をガラス転移温度以上に加熱し、その樹脂成分の非結晶領域における孔隙部分に第四級アンモニウムハロゲン化物を浸透させることができれば、樹脂中に残留する未反応官能基とこのハロゲン化物とを化学的に結合させることができるのではないかとの着想を得た。そして、実際に検証した結果、上記ハロゲン化物のなかでも、特に、その分子量が900以下の、比較的小さいものが、樹脂の非結晶領域内に取り込まれ、樹脂中の官能基と水素結合等によって結合し、固定化されることが判明したのである。
【0021】
このように、本発明の製法によれば、エンベロープ型、非エンベロープ型の両ウイルスに対してウイルス性能を発揮する特殊な抗ウイルス性化合物(A)を、樹脂被膜等によらず、樹脂成形品に、直接化学的に結合させて固定することができるため、耐水性、洗濯耐久性に優れた抗ウイルス加工製品を提供することができる。そして、その製造には、特殊な装置等を用いる必要がなく、樹脂成形品に対し、抗ウイルス性化合物(A)を含有する処理液体を接触させた状態で加熱処理する設備(繊維品に対する染色処理設備等)があれば、それをそのまま流用することができるため、製造コストを低く抑えることができる。また、抗ウイルス性化合物(A)を固定するための被膜形成用化合物(いわゆるバインダー樹脂)が不要であるため、余分な材料コストがかからないという利点も有する。
【0022】
そして、本発明の抗ウイルス加工製品は、エンベロープ型、非エンベロープ型の両ウイルスに対して優れた抗ウイルス性を示し、しかもその抗ウイルス性が耐水性、洗濯耐久性を備え、長く持続するという効果を奏する。また、抗ウイルス性を失うことなく、繰り返し水洗いや水拭き、洗濯が可能であることから、上記抗ウイルス加工製品を、長期にわたって清浄に保つことができるという利点を有する。
【0023】
なお、本発明の製法のなかでも、特に、樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含有するものであると、これらの樹脂には、未反応官能基が比較的多く残留しているため、抗ウイルス性化合物(A)の固定を、より強固に、安定した形で行うことができ、好適である。
【0024】
また、本発明の製法のなかでも、特に、樹脂成形品に対し、処理液体をスプレー、浸漬、塗布のいずれかによって付着させた後、常圧または加圧下、70〜230℃の気体中で加熱処理を行うようにした場合、あるいは、樹脂成形品を処理液体中に浸漬し、常圧または加圧下、70〜230℃の浴中で加熱処理を行うようにした場合、とりわけ優れた耐水性と耐洗濯性が得られるため、好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0026】
<抗ウイルス加工製品>
まず、本発明が抗ウイルス性を付与することを対象とする加工品は、樹脂成形品を用いたものであって、前述のとおり、その加工前に準備される樹脂成形品が、そのまま最終製品の形になっているものであってもよいし、樹脂成形品に変形を加えたり、他の部材を組み合わせて形状や構成を変えたりして、最終製品にするものであってもよい。
【0027】
このような加工品としては、各種産業用資材や家庭用品等があげられ、その樹脂成形品に用いられる樹脂の種類は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の合成樹脂、合成繊維、それらの複合物、混合物があげられる。また、それら合成樹脂に加えて、合成樹脂に合成樹脂以外の成分(金属や無機物質等)を混合したものや、繊維の場合、合成繊維と綿、レーヨン、羊毛、絹等天然繊維の混紡品等をあげることができる。
【0028】
これらの中でも、特に、抗ウイルス加工製品として需要が高く、しかもその洗濯耐久性が問題となる樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸樹脂等のポリエステル樹脂、およびこれらと他の樹脂との混合品(繊維の場合は混紡品)をあげることができ、これらを対象とすることが好適である。
【0029】
なお、本発明において、対象とする加工製品が繊維品からなるものである場合、その形態としては、糸、紐、ロープ、生地(織地、編地、不織布)等があげられる。具体的な家庭用品の例としては、寝装寝具(カーテン、シーツ、タオル、布団地、布団綿、マット、カーペット、枕カバー等)、衣料(コート、スーツ、セーター、ブラウス、ワイシャツ、肌着、帽子、マスク、靴下、手袋等)、ユニフォーム(白衣、作業着、学童服等)等があげられる。また、繊維品に限らず、樹脂シート、樹脂フィルム等の各種樹脂材料からなる家庭用品や産業用資材があげられる。これらの例としては、介護シート、シャワーカーテン、車シート、シートカバー、天井材等の内装材、テント、防虫・防鳥ネット、間仕切りシート、空調フィルタ、掃除機フィルタ、マスク、テーブルクロス、机下敷き、前掛け、壁紙、包装紙等があげられる。さらに、医療用品(医療ベッド、車椅子、滅菌袋等)や、衛生用品(便器、洗浄ブラシ、ダストボックス、使い捨て手袋、使い捨てマスク等)、調理用品(配膳台、トレー等)があげられる。もちろん、シート状やフィルム状のものだけでなく、一定の形状を有する樹脂硬化体(成形体)であっても、同様に抗ウイルス加工を施すことができ、本発明の対象とすることができる。
【0030】
<抗ウイルス性化合物(A)>
つぎに、本発明に用いられる抗ウイルス性化合物(A)は、分子量が900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物である。
【0031】
このような第四級アンモニウムハロゲン化物としては、テトラメチルアンモニウムヨーダイド、トリメチルデシルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムブロマイド(以下「DDAB」と略す)、ドデシルジメチル−2−フェノキシエチルアンモニウムブロマイド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(以下「DDAC」と略す)、トリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムブロマイド、アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、オクチルデシルジメチルアンモニウクロライド、オクチルデシルジメチルアンモニウムブロマイド、メチルベンゼトニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(以下「BAC」と略す)、アルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ジアルキルメチルベンジルアンモニウムクロライド等があげられる。また、ポリマーであるポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドや、ポリ〔オキシエチレン(ジメチルイミニオ)トリメチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド〕、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等も、その分子量が900以下であれば、用いることができる。
【0032】
これらのなかでも、特に、DDAB、DDAC、BAC等が、とりわけ好適に用いられる。これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
<処理液体>
また、本発明の製法において、上記第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物(A)は、これを含有する処理液体として調製される。処理液体は、一般に、抗ウイルス性化合物(A)を、水で溶解した水溶液が用いられるが、場合によっては、有機溶剤を溶媒とした溶液や、分散液等が用いられる。そして、上記処理液体には、対象とする樹脂成形品の種類や処理条件等に応じて、各種の助剤、添加剤を配合することができる。
【0034】
<処理液体に用いることのできる助剤・添加剤>
例えば、ポリエステル系繊維と綿、レーヨン、羊毛、絹等の天然繊維との混紡品を加工処理する際、またポリエステル系繊維とポリアミド系、アクリル系、ポリウレタン系の繊維との混紡品を加工処理する際、加工温度、時間によっては、ポリエステル系繊維以外の繊維が、抗ウイルス性化合物(A)のカチオンの作用によって変色、硬化、縮化等の異常を生じたり、抗ウイルス性の喪失が起きたりすることがある。そこで、このような事態を防止するために、助剤として、フィックス剤(Fixer)、緩染剤、蛍光増白剤等の繊維加工用薬剤を用いることが好ましい。同様に、ポリエステル系樹脂とポリアミド系、アクリル系、ポリウレタン系の樹脂とをブレンドした樹脂材料からなる樹脂成形品に加工処理を施す場合も、このような繊維加工用薬剤を用いることが好ましい。
【0035】
上記繊維加工用薬剤の具体例としては、無水炭酸ナトリウムで代表されるアルカリ塩化合物等;硫酸ナトリウム(芒硝)で代表される中性塩化合物等;アルキルエーテル型、多環フェニルエーテル型、ソルビタン誘導体、脂肪族ポリエーテル型等で代表される非イオン界面活性剤;第四級アンモニウム塩系で代表されるカチオン界面活性剤[抗ウイルス性化合物(A)として用いる第四級アンモニウムハロゲン化物を除く];ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等で代表されるアニオン界面活性剤;ビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体、ビススチリルビフェニル誘導体、クマリン誘導体やピラゾリン誘導体等で代表される蛍光増白剤等があげられる。これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、上記以外にも、必要に応じて、膨潤剤、浸透剤、乳化・分散剤、金属イオン封鎖剤、均染剤、柔軟剤、沈殿防止剤、マイグレーション防止剤、キャリアー、防染剤、防しわ剤、風合い加工剤等、各種の添加剤を配合することができる。
【0037】
さらに、処理液体において、使用する助剤や添加剤の種類、対象とする樹脂成形品の材質等によっては、水とともに、あるいは水に代えて、エタノール、n−プロパノール、エチレングリコール等の水溶性有機溶剤を用いることができる。場合によっては、非水系溶剤を用いることもできる。
【0038】
<抗ウイルス加工製品の製法>
つぎに、本発明の、抗ウイルス加工製品の製法について説明する。本発明の製法は、上記抗ウイルス性化合物(A)を含有する処理液体を、目的とする製品の樹脂成形品に接触させ、その状態で所定の加熱処理を行うというものである。樹脂成形品と処理液体とを接触させる方法、および両者を接触させた状態で加熱処理する方法については、対象とする樹脂成形品の種類や材質に応じて、好ましい方法を適宜選択することができる。
【0039】
例えば、樹脂成形品を、上記処理液体に浸漬し、その状態で、所定の温度、所定の圧力下で加熱処理する方法(第1の方法)をあげることができる。また、他の方法として、樹脂成形品に対し、上記処理液体を、常圧下で、浸漬(含浸)、スプレー、コーティング等によって付着させ、マングル、あるいは遠心分離等で所定の絞り率で絞った後、常圧または加圧下で、この樹脂成形品を加熱処理する方法(第2の方法)があげられる。
【0040】
上記第1の方法において、処理液体に含有させる抗ウイルス性化合物(A)の含有割合は、樹脂成形品が例えば繊維品の場合、0.005〜20.0%owf(on weight of fiber、樹脂成形品に対する重量。w/w)となるよう設定することが好ましく、0.01〜10.0%owfがより好ましい。浴比(対象素材に対する溶液量、重量比)は、1:5〜1:30が好ましく、1:5〜1:20がより好ましい。
【0041】
そして、樹脂成形品の処理液体への浸漬は、常圧もしくは加圧下で行われるが、浸漬した状態での加熱処理の温度、時間、圧力等の処理条件は、樹脂成形品の材質や形態に応じて適宜設定される。通常、70〜230℃、0.1分〜60分の範囲内に設定され、高温、高圧になるほど、加工時間は短く設定される。したがって、高温・長時間加熱が好ましくない樹脂材料を処理する場合は、圧力をかけて加熱条件を緩和することが好適である。また、樹脂材料を連続的に処理する場合は、設備上、常圧で処理を行うことが好ましく、バッチ式で処理を行う場合は、加圧処理によって処理時間の短縮を図ることが好ましい。なお、樹脂材料を加圧する際の圧力に制限はなく、例えば密閉系で加熱した際に生じる圧力の範囲であっても差し支えない。
【0042】
なお、抗ウイルス性化合物(A)の含有割合が低すぎると、得られる抗ウイルス加工製品の抗ウイルス性が乏しくなるおそれがあり、逆に、含有割合が高すぎると、樹脂成形品の異常(硬化、縮み、変色等)を引き起こすおそれがあり、好ましくない。また、処理温度、処理時間の不足および高浴比条件下では、樹脂成形品に抗ウイルス性化合物(A)の固定が不充分となり、やはり抗ウイルス性が乏しくなるおそれがある。また、処理温度、処理時間が上記の範囲を超えた場合も、樹脂成形品の異常(硬化、縮み、変色等)を引き起こすおそれがあり、好ましくない。
【0043】
また、第2の方法において、樹脂成形品に対し、上記処理液体を、常圧下で、浸漬(含浸)、スプレー、コーティング等によって付着させる場合、用いる処理液体に対する抗ウイルス性化合物(A)の割合は、樹脂成形品が例えば繊維品の場合、0.005〜20.0%ows(on weight of solution、処理液体中の抗ウイルス性化合物(A)濃度。w/w)であることが好ましく、0.01〜10.0%owsがより好ましい。そして、絞り率は、樹脂成形品の種類によって異なるが、通常、30〜200 %で実施するのが好ましい。
【0044】
そして、上記処理液体を樹脂成形品に付着させた後の加熱処理は、常圧もしくは加圧下、例えば、70〜230℃の処理温度で行われる。より具体的には、例えば、100〜130℃で、1〜3分乾燥(目付量が少ない場合は予備乾燥を実施しない場合がある)後、140〜230℃でキュアする。キュアの処理時間は、樹脂成形品の目付、物性により30秒〜1時間程度が好ましい。この方法においても、抗ウイルス性化合物(A)の含有割合が低いと、得られる抗ウイルス加工製品の抗ウイルス性が乏しくなるおそれがある。また、処理温度、処理時間が不足すると抗ウイルス性が乏しくなるか、耐水性、洗濯耐久性が不充分になるおそれがある。一方、抗ウイルス性化合物(A)の含有割合、処理温度、処理時間が上記の範囲を超えると、樹脂成形品の異常(硬化、縮み、変色等)を引き起こすおそれがあり、やはり好ましくない。
【0045】
<抗ウイルス加工製品の性能とその評価>
上記製法によって得られる、本発明の抗ウイルス加工製品は、先にも述べたとおり、エンベロープ型ウイルスに対しても、非エンベロープ型ウイルスに対しても、優れた抗ウイルス性を示し、広範なウイルスの種類に対して効果を奏する。そして、この優れた抗ウイルス性は、耐水性、洗濯耐久性を備え、長く持続するため、この加工製品に対し、繰り返し水洗いや水拭き、洗濯を施すことにより、長期にわたって清浄に使用することができる。
【0046】
本発明の抗ウイルス加工製品が効果を奏するウイルスの種類をより詳しく述べると、ポックスウイルス、オルソミクソウイルス(代表例として、人インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス)、カリシウイルス(代表例としてノロウイルス、ネコカリシウイルス)、パラミクソウイルス、アレナウイルス、ラブドウイルス、コロナウイルス、レトロウイルス、ブニヤウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、レオウイルス、トガウイルス、パポーバウイルス、ピコルナウイルス、パルボウイルス、フィロウイルス等があげられる。
【0047】
つぎに、本発明において、抗ウイルス性を評価するための試験方法について説明する。
[耐洗濯性評価のための試験方法]
まず、耐洗濯性については、下記の「家庭洗濯」における洗濯耐久性と、「工業洗濯」における洗濯耐久性のいずれかを、対象とする抗ウイルス加工製品の種類に応じて、適用することができる。
(1)家庭洗濯(40℃)
JIS L0217、103号に準拠した洗濯方法により40℃、10回の洗濯を実施する。
(2)工業洗濯(80℃)
JTETCが認証する特定制菌加工による洗濯方法により80℃、10〜50回の洗濯を実施する(厚労省令第13号に準拠した簡略法)。
【0048】
そして、対象となる抗ウイルス加工製品に対し、上記の家庭洗濯10回、あるいは、工業洗濯10回または50回の洗濯を実施した後、その5g分を、100gのイオン交換水に浸漬した状態で耐圧性のステンレス容器に入れ、130℃、30分間の抽出を実施する。そして、各抽出液について抗ウイルス性化合物(A)の定量分析を行う(界面活性剤ハンドブック:工学図書刊、1968年10月1日初版、「陽イオン界面活性剤の定量分析法、フェノールブルー錯塩光電比色法」に準拠し、紫外可視分光光度計により測定する。ただし、フェノールブルー錯塩に代えてエオシン錯塩を用いる)。
【0049】
[抗ウイルス性評価のための試験方法]
そして、本発明における抗ウイルス性の評価は、ウイルスの種類に応じて、以下に示すプラック測定法(一般社団法人 繊維評価技術協議会、抗ウイルス加工準備委員会の提案による)と、発育鶏卵培養法(鳥取大学 鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの提案による)と、犬腎臓細胞培養法、ネコ腎臓細胞培養法(財団法人 日本食品分析センターの提案による)の、いずれかの測定法によって求められる抗ウイルス活性値が3以上であることをもって有効とする。なお、犬腎臓細胞培養法とネコ腎臓細胞培養法については、説明を省略する。
【0050】
(1)プラック測定法
対象ウイルスは、インフルエンザウイルス(エンベロープ型、人インフルエンザウイルスを含む)、またはネコカリシウイルス(ノロウイルスは人工培養が不可能であり、同科のネコカリシウイルスで代替する。本科のウイルスは非エンベロープ型)とする。なお、インフルエンザウイルスは、犬腎臓由来細胞を用い、ネコカリシウイルスは、ネコ腎臓由来細胞を用いる。そして、対象素材とウイルス液を25℃、2時間接触後、ウイルス液と各腎臓由来細胞で後培養し、培養細胞でウイルスの増減(感染価)を算出し、ブランク(未処理素材)との対数値差を算定して抗ウイルス活性値を求める。この抗ウイルス活性値が3以上であることをもって有効とする。
【0051】
(2)発育鶏卵培養法
対象素材とウイルス液を室温で1時間接触後、ウイルス液を発育鶏卵で後培養後に発育鶏卵でのウイルスの増減(感染価)を算出し、ブランク(未処理素材)との対数値差を算定して抗ウイルス活性値とする。この抗ウイルス活性値が3以上であることをもって有効とする。
【実施例】
【0052】
つぎに、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
なお、実施例、比較例において、残存量の定量分析は、前述の[耐洗濯性評価のための試験方法]に基づいて行った。すなわち、まず、対象となる抗ウイルス加工製品に対し、所定の家庭洗濯もしくは工業洗濯を実施した後、その5g分を、100gのイオン交換水に浸漬した状態で耐圧性のステンレス容器に入れ、130℃、30分間の抽出を実施した。そして、各抽出液について、抗ウイルス性化合物(A)もしくは(A)以外の対照物質の定量分析を行った。
また、その評価基準は、ウイルスの種類によって異なるが、インフルエンザウイルスに対し有効な残存量を基準として、以下のとおり評価した。
○:化合物の残存量が、150ppm以上。
△:化合物の残存量が、150ppm未満100ppm以上。
×:化合物の残存量が、100ppm未満。
【0054】
また、実施例、比較例における各成分の略称は、以下のとおりである。
DDAC:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド
BAC:アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
DDAB:ジデシルジメチルアンモニウムブロマイド
PDIEC1:ポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド(分子量:900)
PDIEC2:同上(分子量:2000)
DDAA:ジデシルジメチルアンモニウムアジペート
DDAP:N,N−ジデシル−N−ポリ(オキシエチレン)アンモニウムプロピオネート(分子量:2000)
PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニジンクロライド(分子量:2000)
【0055】
〔実施例1〜4〕
ポリエステル標準布(帝人社製、商品名:トロピカル、以下同じ)を、DDACまたはBACのそれぞれ0.32および0.16重量%水溶液に浸漬後、マングルで100%絞りとし、各々を130℃で1分間乾燥後[170℃、2分間]/[180℃、1分間]/[200℃、30秒間]の3種類の異なる条件で、キュアリングを実施した。なお、加工時の圧力は、いずれの段階においても常圧(加圧も減圧もしていない状態)である(以下の例においても、特に記載がない場合は常圧である)。そして、各試料について、40℃の家庭洗濯10回後に各化合物の残存量を定量分析し、前述の基準にしたがって評価した。その結果を下記の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
上記の結果から、ポリエステル標準布に抗ウイルス性化合物(A)を接触させた後、所定の条件で加熱処理を行うことにより、抗ウイルス性化合物(A)が繊維に残留し、固定されていることが確認された。
【0058】
〔実施例5〜8〕
ポリエステル標準布を、DDAC、BAC、DDAB、PDIEC1(分子量:900)のそれぞれ0.32重量%水溶液に浸漬後、マングルで100%の絞り率とし、各々を180℃で1分間キュアリングした。そして、各試料について、40℃の家庭洗濯10回後、または80℃の工業洗濯50回後に、各化合物の残存量を定量分析し、前述の基準にしたがって評価した。その結果を後記の表2に示す。
【0059】
〔比較例1〜3〕
ポリエステル標準布を、PDIEC2(分子量:2000)の0.36重量%水溶液、DDAP(分子量:2000)の0.32重量%水溶液、およびPHMB(アンモニウム塩ではない)の0.40重量%水溶液にそれぞれ浸漬後、実施例5〜8と同様、マングルで100%の絞り率とし、各々を180℃で1分間キュアリングした。そして、各試料について、40℃の家庭洗濯10回後、または80℃の工業洗濯50回後に各化合物の残存量を定量分析し、前述の基準にしたがって評価した。その結果を下記の表2に併せて示す 。
【0060】
【表2】

【0061】
上記の結果から、ポリエステル標準布に抗ウイルス性化合物(A)を接触させた後、所定の条件で加熱処理を行うことにより、実施例5〜8品は家庭洗濯10回後も(実施例5品は工業洗濯50回後も)抗ウイルス性化合物が繊維に残留し、固定されていることが確認された。また、抗ウイルス性化合物(A)とは異なる化合物を接触させたものは、所定の条件で加熱処理を行っても、繊維への残留が不充分になることが確認された。
【0062】
〔実施例9〕
ポリエステルと綿の混紡品(ポリエステル80重量%、綿20重量%)を、ジアミノスチルベンスルホン酸系蛍光増白剤0.5%owsで染色、乾燥を実施した。得られた生地を試料とし、DDACの0.32重量%水溶液に浸漬後、マングルで100%絞り率とし、130℃で1分乾燥後、170℃で2分間キュアリングした。この試料について、40℃の家庭洗濯10回を実施後、上記化合物の残存量を定量分析し、前述の基準にしたがって評価した。その結果を後記の表3に示す。
【0063】
〔比較例4、5〕
ポリエステルと綿の混紡品(ポリエステル80重量%、綿20重量%)を、ジアミノスチルベンスルホン酸系増白剤0.5%owsで染色、乾燥を実施した。得られた生地を試料とし、DDAAの0.40重量%水溶液、DDAPの0.40重量%水溶液のそれぞれに浸漬後、マングルで100%の絞り率とし、130℃で1分乾燥後、170℃で2分間キュアリングした。これらの試料について、40℃の家庭洗濯10回を実施後、各化合物の残存量を定量分析し、前述の基準にしたがって評価した。その結果を下記の表3に併せて示す。
【0064】
【表3】
<家庭洗濯(40℃)10回後の抗ウイルス性化合物(A)の残存量>

【0065】
上記の結果から、ポリエステル布と綿の混紡品(ポリエステル80重量%、綿20重量%)に抗ウイルス性化合物(A)を接触させた後、所定の条件で加熱処理を行うことにより、家庭洗濯10回後も抗ウイルス性化合物が繊維に残留し、固定されていることが確認された。また、抗ウイルス性化合物(A)とは異なる化合物を接触させたものは、所定の条件で加熱処理を行っても、繊維への残留が不充分になることが確認された。
【0066】
〔実施例10〕
ポリアミド繊維(ナイロン6)のサンプル生地(色染社製、商品名:ナイロン6ジャージ)を、DDACの0.32重量%水溶液に浸漬後、85℃で45分間の加熱処理を行った。この試料について、40℃の家庭洗濯10回後、上記化合物の残存量を定量分析し、前述の基準にしたがって評価した。その結果を下記の表4に示す。
【0067】
【表4】
<家庭洗濯(40℃)10回後の抗ウイルス性化合物(A)の残存量>

【0068】
上記の結果から、ポリアミド繊維のサンプル生地に抗ウイルス性化合物(A)を接触させた後、所定の条件で加熱処理を行うことにより、家庭洗濯10回後も抗ウイルス性化合物が繊維に残留し、固定されていることが確認された。
【0069】
〔実施例11〜13〕
ポリエステル標準布を、DDACの0.40、0.20および0.10重量%水溶液にそれぞれ浸漬後、180℃で1分間キュアリングした。これらの試料について、40℃の家庭洗濯10回後、または80℃の工業洗濯50回後、人インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性と、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの代用)に対する抗ウイルス性について、前述のプラック測定法により評価した。なお、DDACの0.10重量%水溶液に浸漬後キュアリングした試料(実施例13)については、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性の評価を実施していない。これらの結果を後記の表5に示す。
【0070】
〔比較例6〕
ポリエステル標準布を、DDAAの0.32重量%水溶液に浸漬後、マングルで100%絞り率とし、180℃で1分間キュアリングした。この本試料について、40℃の家庭洗濯10回後、または80℃の工業洗濯50回後、実施例11〜13と同様にして、人インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。その結果を下記の表5に併せて示す。
【0071】
【表5】

【0072】
上記の結果から、ポリエステル標準布に抗ウイルス性化合物(A)を接触させた後、所定の条件で加熱処理を行うことにより、実施例11〜13品は家庭洗濯10回後も(実施例12品は工業洗濯50回後も)抗ウイルス性化合物が繊維に残留し、抗ウイルス活性を示すことが確認された。また、抗ウイルス性化合物(A)とは異なる化合物を接触させたものは、所定の条件で加熱処理を行っても、抗ウイルス活性は不充分であることが確認された。
【0073】
〔比較例7〕
綿サテン(目付125g/m2、色染社製)を試料とし、PHMBの0.20重量%水溶液に浸漬後、マングルで100%絞り率とし、130℃で2分間乾燥した。この試料について、40℃の家庭洗濯10回後、前述のプラック測定法によって、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの代替)および鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。これらの結果を後記の表6に示す。
【0074】
〔比較例8〕
綿サテン(目付125g/m2、色染社製)を試料とし、DDAAの2.00重量%水溶液に浸漬後、マングルで100%絞り率とし、130℃で2分間乾燥した。この試料について、40℃の家庭洗濯10回後、上記比較例7と同様にして、人インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。これらの結果を下記の表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
上記の結果から、綿サテンに抗ウイルス性化合物(A)とは異なる化合物を接触させた後、所定の条件で加熱処理を行っても、抗ウイルス活性は不充分であることが確認された。
【0077】
以上、表1〜表6の結果から、各種の合成繊維、もしくは合成繊維と天然繊維の混紡品からなる生地に本発明の抗ウイルス性化合物(A)を浸漬させ、加熱処理を施した実施例品は、その抗ウイルス性化合物(A)が生地に固定され、家庭洗濯10回後、あるいは工業洗濯50回後も、上記抗ウイルス性化合物(A)が残留して、充分な抗ウイルス性を発揮することがわかる。
【0078】
これに対し、本発明の抗ウイルス性化合物(A)に用いられる第四級アンモニウムハロゲン化物とは異なる化合物(DDAA、DDAP、PHMBや、第四級アンモニウムハロゲン化物であっても分子量が900を超えるPDIEC2)を用いた比較例品は、いずれもその化合物が生地に固定されず、抗ウイルス性が不充分であることがわかる。
【0079】
なお、上記一連の実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、これらの実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、全て本発明の範囲内であることが企図されている。そして、本出願は2014年7月18日出願の日本特許出願(特願2014−147749)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、広範な抗ウイルス性を有し、しかもその抗ウイルス性が耐水性、耐洗濯性に優れた抗ウイルス加工製品の提供に利用することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウイルス性が付与された抗ウイルス加工製品を得る方法であって、樹脂成形品に、下記の抗ウイルス性化合物(A)を含有する処理液体を接触させた状態で、常圧または加圧下において、140〜230℃のキュア処理を含む加熱処理を行うことにより、上記抗ウイルス性化合物(A)を、上記樹脂成形品と直接結合させて上記樹脂成形品の少なくとも表面に、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定させることを特徴とする抗ウイルス加工製品の製法。
(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物。
【請求項2】
上記抗ウイルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイド、クロライドのいずれかである請求項1記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項3】
上記処理液体が、被膜形成用化合物を含有しないものである請求項1または2記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項4】
上記樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含有するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項5】
上記樹脂成形品が、改質されていないポリエステル系樹脂を含有するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項6】
上記樹脂成形品に対し、処理液体をスプレー、浸漬、塗布のいずれかによって付着させた状態で加熱処理を行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項7】
上記樹脂成形品を処理液体中に浸漬し、浴中で加熱処理を行う請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品の製法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の製法によって得られる抗ウイルス加工製品であって、少なくとも表面に下記の抗ウイルス性化合物(A)が、上記樹脂成形品と直接結合した状態で、上記樹脂成形品100重量部に対し0.1〜0.32重量部の割合で固定され、抗ウイルス活性値が3以上である樹脂成形品が用いられていることを特徴とする抗ウイルス加工製品。
(A)分子量900以下の第四級アンモニウムハロゲン化物からなる抗ウイルス性化合物。
【請求項9】
上記抗ウイルス性化合物(A)の第四級アンモニウムハロゲン化物を構成するアニオン種が、ヨーダイド、ブロマイド、クロライドのいずれかである請求項8記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項10】
上記樹脂成形品が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含有するものである請求項8または9記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項11】
上記樹脂成形品が、改質されていないポリエステル系樹脂を含有するものである請求項8〜10のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項12】
上記樹脂成形品が、繊維品である請求項8〜11のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品。
【請求項13】
上記樹脂成形品が、樹脂シート、樹脂フィルム、所定形状を有する樹脂硬化体のいずれかである請求項8〜11のいずれか一項に記載の抗ウイルス加工製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-09 
出願番号 P2016-534393
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 537- YAA (D06M)
P 1 651・ 113- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 塩治 雅也
石井 孝明
登録日 2020-07-14 
登録番号 6734776
権利者 大阪化成株式会社
発明の名称 抗ウイルス加工製品の製法およびそれによって得られる抗ウイルス加工製品  
代理人 西藤 優子  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 征彦  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 優子  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  

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