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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H02K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H02K |
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管理番号 | 1385143 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-02-09 |
確定日 | 2022-03-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6780857号発明「直流モータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6780857号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6780857号の請求項3及び5に係る特許を維持する。 特許第6780857号の請求項1、2及び4に対する特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6780857号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成29年4月14日に出願され、令和2年10月19日にその特許権の設定登録がされ、同年11月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年2月9日に特許異議申立人古畑麻希子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたところ、当審において同年8月4日に取消理由を通知した。その指定期間内である同年9月24日に特許権者は意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して特許異議申立人は同年11月18日に意見書を提出した。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 令和3年9月24日付けの訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6780857号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜5からなるものである(訂正箇所に下線を付す。)。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「前記エンドキャップを、前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとし、前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入される前記第2軸受保持部としたことを特徴とする請求項2に記載の直流モータ。」とあるのを、独立形式に改め、「一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケースと、前記開口を閉塞するエンドキャップと、前記モータケース内に収容され、中心に、前記モータケースの一端方向及び前記エンドキャップ方向に延出する回転軸を有するロータとを備え、前記モータケースの一端方向に延出する前記回転軸を第1の出力軸部とし、前記エンドキャップ方向に延出する前記回転軸を第2の出力軸部として、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、前記モータケースの一端部に形成された第1軸受保持部及び前記エンドキャップに形成された第2軸受保持部にそれぞれ設けた軸受部材により支持してなる直流モータにおいて、前記第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径を、互いに同径とし、かつこれら第1、第2軸受保持部の内部に、前記軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるようにし、前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状のボスをほぼ対称的に形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部とし、前記エンドキャップを、前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとし、前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入される前記第2軸受保持部としたことを特徴とする直流モータ。」に訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「前記直流モータは、前記第2の出力軸部に整流子が設けられるとともに、前記エンドキャップに前記整流子に摺接するブラシが設けられたブラシ付き直流モータであり、前記第1軸受保持部に前記スリーブベアリングを収容し、前記第2の出力軸部により被駆動部材を駆動するようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の直流モータ。」とあるのを、請求項3を引用する形式に改め、「前記直流モータは、前記第2の出力軸部に整流子が設けられるとともに、前記エンドキャップに前記整流子に摺接するブラシが設けられたブラシ付き直流モータであり、前記第1軸受保持部に前記スリーブベアリングを収容し、前記第2の出力軸部により被駆動部材を駆動するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の直流モータ。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1、2及び4について 訂正事項1、2及び4は、それぞれ、請求項1、2及び4を削除するというものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、本件は、訂正前の全ての請求項1〜5について特許異議申立てがされているので、訂正事項1、2及び4に関して独立特許要件は課されない。 イ 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1及び2の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項に改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、本件は、訂正前の全ての請求項1〜5について特許異議申立てがされているので、訂正事項3に関して独立特許要件は課されない。 ウ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1〜4の記載を引用する記載であったところ、請求項間の引用関係を変更して、請求項3のみを引用する記載に訂正するものであるから、特許請求の範囲の限縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、本件は、訂正前の全ての請求項1〜5について特許異議申立てがされているので、訂正事項5に関して独立特許要件は課されない。 エ 一群の請求項について 訂正事項1〜5に係る訂正前の請求項1〜5について、その請求項2〜5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜5に対応する訂正後の請求項1〜5は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 3 訂正後の本件発明 特許第6780857号の請求項1〜5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケースと、前記開口を閉塞するエンドキャップと、前記モータケース内に収容され、中心に、前記モータケースの一端方向及び前記エンドキャップ方向に延出する回転軸を有するロータとを備え、前記モータケースの一端方向に延出する前記回転軸を第1の出力軸部とし、前記エンドキャップ方向に延出する前記回転軸を第2の出力軸部として、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、前記モータケースの一端部に形成された第1軸受保持部及び前記エンドキャップに形成された第2軸受保持部にそれぞれ設けた軸受部材により支持してなる直流モータにおいて、 前記第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径を、互いに同径とし、かつこれら第1、第2軸受保持部の内部に、前記軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるようにし、 前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状のボスをほぼ対称的に形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部とし、 前記エンドキャップを、前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとし、前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入される前記第2軸受保持部としたことを特徴とする直流モータ。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 前記直流モータは、前記第2の出力軸部に整流子が設けられるとともに、前記エンドキャップに前記整流子に摺接するブラシが設けられたブラシ付き直流モータであり、前記第1軸受保持部に前記スリーブベアリングを収容し、前記第2の出力軸部により被駆動部材を駆動するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の直流モータ。」 4 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1、2及び4に係る特許に対して、当審が令和3年8月4日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア(新規性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証(特開2016−127797号公報。以下、「甲2」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、当該請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 イ(進歩性)本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明及び甲第1号証(特開2007−252130号公報。以下、「甲1」という。)に記載された事項により例示される周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、当該請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)甲2の記載 ア 甲2の記載事項 甲2には、「電気モータ」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。 (ア)「【0003】 永久磁石ロータを有する既知の内側ロータ式ブラシレスDCモータでは、ステータが、円筒形の外側ハウジングに取り付けられたステータコアに巻き回されたステータ巻線を有する。」 (イ)「【0021】 図1〜図8に、本発明の第1の例示的な実施形態によるステータ構造を組み込んだ電気モータを示す。図示のモータは、内側ロータ式BLDCモータであり、ステータ構造30及びロータ50を含む。ステータ構造は、ハウジング10に取り付けられた巻線形ステータ31を含む。ステータ31は、積層ステータコア35と、ステータコアの歯に巻き回されたステータ巻線37とを含む。ロータは永久磁石ロータであり、シャフト52と、シャフトに固定(接着剤の使用を避けるために締り嵌めとすることが好ましい)されたロータコア53と、ロータコアに取り付けられた1又はそれ以上の永久磁石54とを有する。」 (ウ)「【0023】 ハウジング10は、ハウジング本体12と、ハウジング本体12に接続されたエンドキャップ14とを含む。ハウジング本体12は、開放端及び閉鎖端を有する円筒形である。エンドカバー14は、開放端を閉じる。エンドキャップ14の中心は、軸方向外向きに突出して、軸受16の一方を支持する軸受ボス15を形成する。ハウジング本体の閉鎖端にも、他方の軸受16を支持する同様の軸受ボス13が形成される。この実施形態では、2つのボス13、15及び軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであるが、他の実施形態では、これらが異なっていてもよい。2つの軸受16は、同じものであっても、又は異なるものであってもよく、玉軸受、セラミック軸受及び油軸受などとすることができる。この実施形態では、2つの軸受16がいずれも玉軸受である。」 (エ)図1〜3の図示内容から、ロータ50は、ハウジング本体12内に収容され、その中心にハウジング本体12の閉鎖端の方向及びエンドキャップ14の方向に延出するシャフト52を有していることが看取できる。 (オ)図1及び2の図示内容から、他方の軸受16が、ハウジング本体12の閉鎖端の方向に延出するシャフト52を支持しており、一方の軸受16が、エンドキャップ14の方向に延出するシャフト52を支持していることが看取できる。 (カ)上記(ウ)の特に「2つの軸受16は、同じものであっても、又は異なるものであってもよく、玉軸受、セラミック軸受及び油軸受などとすることができる。」との記載から、甲2には、軸受ボス13と軸受ボス15は、軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであり、内部に玉軸受又は油軸受を支持するものであることが記載されていることが理解できる。 (キ)上記(ウ)の特に「エンドキャップ14の中心は、軸方向外向きに突出して、軸受16の一方を支持する軸受ボス15を形成する。ハウジング本体の閉鎖端にも、他方の軸受16を支持する同様の軸受ボス13が形成される。」との記載、「2つのボス13、15及び軸受穴の構造、形状及びサイズが同じである」との記載、及び、図2の図示内容から、ハウジング本体12の閉鎖端の外側面の中心とエンドキャップ14の外側面の中心とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状の軸受ボス13、軸受ボス15がほぼ対称的に形成されていることが理解できる。 イ 甲2発明 上記(ア)〜(カ)及び図面の図示内容を総合すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲2発明) 「閉鎖端及び開放端を有する円筒形のハウジング本体12と、前記開放端を閉じるエンドキャップ14と、前記ハウジング本体12内に収容され、中心に、前記ハウジング本体12の閉鎖端の方向及び前記エンドキャップ14の方向に延出するシャフト52を有するロータ50とを含み、前記ハウジング本体12の閉鎖端の方向に延出する前記シャフト52を前記ハウジング本体12の閉鎖端に形成された軸受ボス13に支持された他方の軸受16により支持し、前記エンドキャップ14の方向に延出する前記シャフト52を前記エンドキャップ14に形成された軸受ボス15に支持された一方の軸受16により支持してなる内側ロータ式BLDCモータにおいて、 前記軸受ボス13及び前記軸受ボス15は軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであり、かつこれら軸受ボス13、15の内部に、前記軸受16として玉軸受又は油軸受を支持するようにし、 前記ハウジング本体12の閉鎖端の外側面の中心と前記エンドキャップ14の外側面の中心とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状の前記軸受ボス13、前記軸受ボス15をほぼ対称的に形成した 内側ロータ式BLDCモータ。」 (3)甲4の記載 特許異議申立人が特許異議申立書において引用した甲第4号証(特開2015−27167号公報。以下、「甲4」という。)には、「回転電機及びその組立方法」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 ア 「【0022】 図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る回転電機10は、電機子12と、モータヨーク14と、エンドハウジング16と、金属プレートの一例であるノイズシールドカバー18とを備えている。」 イ 「【0025】 エンドハウジング16は、樹脂製とされている。このエンドハウジング16は、電機子12の軸方向にモータヨーク14と並んで設けられており、モータヨーク14の開口を塞いでいる。このエンドハウジング16の軸芯部には、シャフト20が貫通する貫通孔22が形成されており、このエンドハウジング16における貫通孔22の周囲部には、シャフト20を回転可能に支持する軸受を収容する軸受収容部24が形成されている。」 ウ 「【0031】 この一対の折曲片38と、上述の一対の固定部28と、モータヨーク14に形成された後述の一対のかしめ片56は、エンドハウジング16及びノイズシールドカバー18をモータヨーク14に固定するかしめ構造40を構成している。このかしめ構造40は、より具体的には、次のように構成されている。」 (4)甲5の記載 特許異議申立人が特許異議申立書において引用した甲第5号証(特開2005−110482号公報。以下、「甲5」という。)には、「回転電機及びその組立方法」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 ア 「【0016】 以下、本発明の第1の実施の形態を備えるモータを、図1〜図3を参照して説明する。 図1は、このモータ(M)の軸受部分の縦断正面図である。この図には、含油軸受(1)と、モータ(M)のケーシング(この例ではシールドキャップ)(10)と、このケーシング(10)に設けられたポケット(2)と、モータ(M)のシャフト(6)と、シャフト(6)に外嵌されたスラストワッシャ(4)(4)とが示されている。」 イ 「【0020】 この含油軸受(1)は、モータ(M)のケーシング(10)に、プレス加工や切削加工などにより設けられた、有底円形のポケット(2)に嵌挿されている。含油軸受(1)は、多孔質の金属より構成されているので、機械的な応力に比較的に弱い特性がある。そのため、含油軸受(1)をポケット(2)に嵌挿するには、両者のはめあい公差を、含油軸受(1)に変形が生じない程度に設定して嵌挿されている。」 (5)当審の判断 ア 本件発明1、2、4について 本件特許の請求項1、2、4係る特許は、上記2のとおり、本件訂正により削除されたから、当審が令和3年8月4日に特許権者に通知した取消理由は存在しないこととなった。 念のため、本件発明3及び5が、甲2発明に基いて容易になし得たものであるか否か検討する。 イ 本件発明3について (ア)対比・判断 本件発明3と甲2発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 a 甲2発明における「閉鎖端及び開放端を有する円筒形のハウジング本体12」あるいは「ハウジング本体12」は本件発明3における「一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケース」あるいは「モータケース」に相当する。 b 甲2発明における「開放端を閉じる」ことは本件発明3における「開口を閉塞する」ことに相当する。 c 甲2発明における「ハウジング本体12の閉鎖端の方向」は本件発明3における「モータケースの一端方向」に相当し、以下同様に、「エンドキャップ14の方向」は「エンドキャップ方向」に、「シャフト52」は「回転軸」に、「含」むことは「備え」ることにそれぞれ相当する。 d 甲2発明における「ハウジング本体12の閉鎖端の方向に延出する前記シャフト52」は本件発明3における「モータケースの一端方向に延出する回転軸である第1の出力軸部」に相当し、以下同様に、「エンドキャップ14の方向に延出する前記シャフト52」は「エンドキャップ方向に延出する前記回転軸を第2の出力軸部」に、「ハウジング本体12の閉鎖端に形成された」ことは「モータケースの一端部に形成された」ことに、「軸受ボス13」は「第1軸受保持部」に、「軸受ボス15」は「第2軸受保持部」に、「軸受ボス13に支持された他方の軸受16」は「第1軸受保持部に設けた軸受部材」に、「軸受ボス15に支持された一方の軸受16」は「第2軸受保持部に設けた軸受部材」に、「内側ロータ式BLDCモータ」は「直流モータ」にそれぞれ相当する。 e 甲2発明の「前記軸受ボス13及び前記軸受ボス15は軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであ」ることに関して、二つの軸受ボスの軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであることは、これら二つの軸受ボスの内径は互いに同径となることを意味するから、甲2発明における「前記軸受ボス13及び前記軸受ボス15は軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであ」ることは、本件発明3の「前記第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径を、互いに同径と」することに相当する。 f 甲2発明における「玉軸受」は本件発明3における「ボールベアリング」に相当し、同様に、「油軸受」は「スリーブベアリング」に相当する。また、甲2発明における「これら軸受ボス13、15の内部に、前記軸受16として玉軸受又は油軸受を支持する」ことに関して、甲2発明は、軸受ボス13、15は互いに軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであることが特定されていることから、外径の等しい玉軸受又は油軸受を選択的に内部に収容しうることは明らかであり、甲2発明における「これら軸受ボス13、15の内部に、前記軸受16として玉軸受又は油軸受を支持する」ことは本件発明3における「これら第1、第2軸受保持部の内部に、前記軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうる」ことに相当する。 g 甲2発明における「前記ハウジング本体12の閉鎖端の外側面の中心と前記エンドキャップ14の外側面の中心とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状の前記軸受ボス13、前記軸受ボス15をほぼ対称的に形成した」ことは本件発明3における「前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状のボスをほぼ対称的に形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部と」することに相当する。 したがって、両者は、 「一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケースと、前記開口を閉塞するエンドキャップと、前記モータケース内に収容され、中心に、前記モータケースの一端方向及び前記エンドキャップ方向に延出する回転軸を有するロータとを備え、前記モータケースの一端方向に延出する前記回転軸を第1の出力軸部とし、前記エンドキャップ方向に延出する前記回転軸を第2の出力軸部として、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、前記モータケースの一端部に形成された第1軸受保持部及び前記エンドキャップに形成された第2軸受保持部にそれぞれ設けた軸受部材により支持してなる直流モータにおいて、 前記第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径を、互いに同径とし、かつこれら第1、第2軸受保持部の内部に、前記軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるようにし、 前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状のボスをほぼ対称的に形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部とした直流モータ。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本件発明3においては、前記エンドキャップを、「前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとし」、「前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入される前記第2軸受保持部とした」ものであるのに対し、 甲2発明においては、エンドプレート2が、合成樹脂製のキャップ本体と金属製のシールドキャップとからなるものとされておらず、シールドキャップにボスを形成したものとはされていない点。 相違点1について判断する。 甲2には、エンドプレート2を、合成樹脂製のキャップ本体と金属製のシールドキャップとからなるものとし、当該シールドキャップに軸受を保持するボスを形成することの動機付けとなり得る記載も示唆も一切なく、また、甲2の特に段落【0003】(上記(2)ア(ア))の記載によれば、甲2発明の電気モータは「内側ロータ式ブラシレスDCモータ」であり、これ以外の形式のモータの具体的な実施例について記載がないところ、内側ロータ式ブラシレスDCモータにおいて、エンドキャップを、合成樹脂製のキャップ本体と金属製のシールドキャップとからなるものとし、当該シールドキャップに軸受を保持するボスを形成するとの技術常識あるいは周知技術が存在すると認めうる証拠も見当たらない。 そうすると、甲2発明において、エンドプレート2を、合成樹脂製のキャップ本体と金属製のシールドキャップとからなるものとし、当該シールドキャップに軸受を保持するボスを形成することは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。 そして、本件発明3は、相違点1に係る発明特定事項を備えることにより、「金属製のシールドキャップに形成されたボスを第2軸受保持部とすると、第2軸受保持部の強度、剛性も大となるので、それに収容されたスリーブベアリングまたはボールベアリングにラジアル方向の大きな荷重が作用しても、十分に対応することができる」(本件特許公報段落【0016】)という格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明3は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、令和3年11月18日提出の意見書において、モータケースの開口を塞ぐエンドキャップの構成を合成樹脂製のキャップ本体と金属製のシールドキャップとからなる構成とし、シールドキャップにボスを形成し、このボスに、スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入することは、国際公開第2013/168435号(以下、「周知例1」という。)及び特開2012−65512号公報(以下、「周知例2」という。)に記載されるようにブラシ付き直流モータにおいて周知の構成であり、本件発明3は、甲2発明に、エンドキャップの構成を単にブラシ付き直流モータの周知構造に限定したにすぎない旨主張している。(同意見書2ページ28行〜3ページ12行) しかしながら、甲2発明は、上記したとおり、「内側ロータ式ブラシレスDCモータ」の発明であり、モータケース側の軸受構造とエンドキャップ側の軸受構造の関係性は、直流モータがブラシレスであるかブラシ付きであるかには無関係であるとしても、特許異議申立人が、本件発明3の「合成樹脂製のキャップ本体」に相当すると主張する周知例1の「筒状の樹脂製のブラシホルダ18」や周知例2の「円筒状の樹脂製のブラシホルダ18」は、ブラシ付きモータ特有の構成であり、ブラシを持たないブラシレスモータに、ブラシ付きモータ特有の構成であるブラシホルダを設ける動機は存在しない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、エンドキャップを、モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにしてモータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとすることは、甲4に記載されるように公知の事項であり、シールドキャップにボスを形成して軸受保持部とすることは、甲5に記載されるように公知の事項である旨主張しているが(特許異議申立書14ページ19行〜15ページ5行)、甲4と甲5とは、いずれも「エンドキャップを、合成樹脂製のキャップ本体と金属製のシールドキャップとからなるものとし、当該シールドキャップに軸受を保持するボスを形成する」ことを開示するものではないから、当業者といえども、甲2発明に甲4及び甲5に記載された技術を適用して、本件特許3の相違点1に係る発明特定事項に至るものではない。 ウ 本件発明5について 本件発明5も、本件発明3の相違点1に係る発明特定事項と同一の構成を備えるものであるから、本件発明5と同じ理由により、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものである旨を主張する。 そこで、本件発明3及び5が、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて容易になし得たものであるか否か検討する。 (2)甲1の記載 ア 甲1の記載事項 甲1には、「直流モータ」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。 (ア)「【0001】 本願発明は、回転子の回転軸の両端部を軸受により軸支持する構成のブラシ付き直流モータに関する。 【背景技術】 【0002】 直流モータ、例えば、ブラシ付き直流モータは、外側のモータケースにマグネットを配置して固定子(ステータ)を構成し、この固定子の内側に所定の空隙(エアギャップ)をもって回転子(ロータ)を回転自在に配置する構造が一般的である。回転子は、回転軸となるモータ軸に整流子とコイルを巻回した積層コアとを固定して構成されており、モータ軸の両端部をモータケース等に配置した軸受によって軸支持されている。当該構造の直流モータでは、通常、負荷側(反整流子側)がモータケース外に延出して出力軸を成している。 【0003】 上記構造の直流モータで採用される軸受は、小型の玉軸受が一般的である。この玉軸受を採用した直流モータは、主に、モータ軸にある程度大きな側圧が作用する用途、例えば、プリンタの印字ヘッド用のベルト駆動に用いられていた。一方、モータ軸に大きな側圧が作用しない用途、例えば、スピンドルモータ若しくはギアドモータのピニオン駆動等では、玉軸受より低コストの焼結含油軸受が採用され、コスト低減が図られていた。 (略) 【0006】 しかしながら、焼結含油軸受を採用する特許文献1の直流モータは、以下の問題点があった。すなわち、特許文献1の直流モータは回転子の軸支持に焼結含油軸受を採用しているため、直流モータ自体の用途は大きな側圧が作用しないものに限定されることは上述の通りであり、汎用性に乏しいものであった。また、いずれの軸受にもモータ軸方向に予圧を付与する構成を採用していないため、モータ回転時の振動、共振、異音除去の根本的な解決には至らないものであった。 【0007】 特許文献2のステッピングモータは、ロータと焼結含油軸受間に板バネを配置しているため、これらの焼結含油軸受にもいわゆる定圧予圧が付与されているが、当該構成をそのまま直流モータに採用するには問題があった。すなわち、モータ軸の出力側にも焼結含油軸受を採用している点で、モータの用途は大きな側圧が作用しないものに限定されることは特許文献1と同様である。さらに、ワッシャを介した板バネ等によって焼結含油軸受の端面を押圧する構成であるため、経年使用によって潤滑油が漏れ易い状態を招いていた。漏れた潤滑油は、噴霧状となって直流モータの整流子やブラシに付着することとなり、その結果、直流モータの誤動作の原因となっていた。 【0008】 そこで、本願発明は上記問題に鑑み為されたものであり、低コストでありながら振動等を防止する定圧予圧を実現し、さらには大きな側圧が作用する対象物を回転させる用途にも対応可能な直流モータを提供する。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記課題を解決するために、本願発明の直流モータは、以下のように構成している。 すなわち、ブラシ付き直流モータにおいて、少なくとも、回転子(3)の反負荷側の軸端部を焼結含油軸受(6)にて軸支持すると共に、回転子(3)をその軸方向、例えば、負荷側に付勢する付勢手段(7)を配置したことを特徴としている。」 (イ)「【0022】 本実施例のモータ1は、主に、有底筒状を成すモータケース2(環状ヨーク)の内周面に界磁を形成する2個のマグネット21を配置すると共に、マグネット21と所定の空隙を持って回転自在に回転子3を配置し、モータケース2の開口側をエンドプレート22で閉塞する構成である。 【0023】 回転子3は、モータ軸31に整流子32とコイル34を巻回した積層コア33とを固定して構成している。前記の整流子32にはブラシ4を接触させて回転子3への通電を確保している。このブラシ4はエンドプレート22から延出する電極42と接続すると共にモータケース内部に配置したブラシホルダ41に対向状に固定されている。また、モータ軸31は、反エンドプレート側をモータケース2から所定長さにおいて突出させ、出力軸としている。通常、この出力軸は、回転対象物を接続して負荷を担うこととなる。以上の構成は従来技術と同様である。 【0024】 回転子3は、モータケース2及びエンドプレート22に配置した2つの軸受5、6によって軸支持されて回転自在にモータケース内に配置されている。モータ軸31の負荷側(出力軸側)はモータケース2に形成した軸受収納部23に配置した玉軸受5によって軸支持され、反負荷側(整流子側)はエンドプレート22に形成した軸受収納部24に配置した焼結含油軸受6によって軸支持されている。つまり、モータ軸31は、側圧の大きい側を玉軸受5で軸支持し、側圧の小さい側を焼結含油軸受6で軸支持されている。」 (ウ)図1の図示内容から、モータケース2は、一端が閉塞され、他端が開口している筒状であることが看取できるとともに、上記(イ)の記載、及び、図1の図示内容をあわせみると、回転子3は、モータケース2内に収容され、中心に、モータケース2の一端方向であるモータの負荷側及びエンドプレート22方向であるモータの反負荷側に延出するモータ軸31を有することが理解できる。 (エ)図1の図示内容から、モータ軸31における負荷側に延出する部位を第1の出力軸部、反負荷側に延出する部位を第2の出力軸部とみることができ、上記(イ)の記載と図1の図示内容をあわせみると、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、モータケース2の一端部に形成された軸受収納部23及びエンドプレート22に形成された軸受収納部24にそれぞれ設けた玉軸受5及び焼結含油軸受6により支持してなるものであることが理解できる。 (オ)図1の図示内容から、モータケース2の一端の外側面とエンドプレート22の外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する筒状のボスを形成されていること、及び、モータケース2側のボスが軸受収納部23とされており、エンドプレート22側のボスが軸受収納部24とされていることが看取できる。 (カ)前記エンドプレート22は、反負荷側(整流子側)に設けられており、モータケース2内部のエンドプレート22側には、整流子32に接触するブラシ4を固定するためのブラシホルダ41が配置されていることが看取できる。 イ 甲1発明 上記(ア)〜(カ)及び図面の図示内容を総合すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲1発明) 「一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケース2と、前記開口を閉塞するエンドプレート22と、前記モータケース2内に収容され、中心に、モータケース2の一端方向であるモータの負荷側及びエンドプレート22方向であるモータの反負荷側に延出するモータ軸31を有する回転子3とを備え、前記モータの負荷側に延出する前記モータ軸31を第1の出力軸部とし、前記モータの反負荷側に延出する前記モータ軸31を第2の出力軸部として、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、前記モータケース2の一端部に形成された軸受収納部23及び前記エンドプレート22に形成された軸受収納部24にそれぞれ設けた玉軸受5及び焼結含油軸受6により支持してなる直流モータにおいて、 前記モータケース2の一端の外側面と前記エンドプレート22の外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する筒状のボスを形成し、前記モータケース2側のボスを前記軸受収納部23とし、前記エンドプレート22側のボスを前記軸受収納部24とし、 前記エンドプレート22は、反負荷側(整流子側)に設けられており、前記モータケース2内部の前記エンドプレート22側には、整流子32に接触するブラシ4を固定するためのブラシホルダ41が配置されており、前記エンドプレート22にボスを形成し、このボスを、前記焼結含油軸受6を収納する軸受収納部24とした、直流モータ。」 (3)甲3の記載 ア 甲3の記載事項 甲第3号証(特開2007−252130号公報。以下、「甲3」という。)には、「軸受装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。 (ア)「4.図面の簡単な説明 第1図は回転機の断面図、第2図は第1図に示す回転機に使用するボールベアリングの断面図、第3図は同じ回転機に対しボールベアリングの代わりに装着可能な様に内・外径の寸法を同一にして製作したスリーブベアリングの断面図、第4図は軸受箱に直接ボールベアリングを装着した場合の詳細図、第5図はボールベアリングの代わりに、同一寸法のスリーブベアリングを装着した場合の詳細図、第6図は本考案軸受装置の断面図、第7図はその拡大図、第8図はその支持体のたわみ説明図、第9図は支持体に対するラジアル荷重の説明図、第10図は保油材の断面図、第11図a、b〜第13図a、bは夫々本考案の支持体の他の実施例説明用断面図及び側面図、第14図a、b〜第16図a、bは夫々保油材を挿入した状態の断面図及び側面図である。 1・・・鉄心、2・・・巻線、3・・・カバー、4・・・軸受箱、5・・・ボールベアリング、6・・・ロータ、7・・・ロータ軸、8・・・インロー部、9・・・支持体、10・・・スリーブベアリング、11・・・外筒、12・・・底面、13・・・内筒、14・・・保油材。」(9ページ3行〜10ページ6行) (イ)上記(ア)の記載及び第1図ないし第5図の図示内容から、甲3には、回転機において、軸の両端を軸支するボールベアリングに代わりに、内・外径の寸法を同一にしたスリーブベアリングを装着可能にした技術が記載されているといえる。 (4)当審の判断 ア 本件発明3について (ア)対比・判断 本件発明3と甲1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 甲1発明における「モータケース2」は本件発明3における「モータケース」に相当し、以下同様に、「エンドプレート22」は「エンドキャップ」に、「モータケース2の一端方向であるモータの負荷側」あるいは「モータの負荷側」は「モータケースの一端方向」に、「エンドプレート22方向であるモータの反負荷側」あるいは「モータの反負荷側」は「エンドキャップ方向」に、「モータ軸31」は「回転軸」に、「回転子3」は「ロータ」に、「軸受収納部23」は「第1軸受保持部」に、「軸受収納部24」は「第2軸受保持部」に、「玉軸受5及び焼結含油軸受6」は「軸受部材」に、「焼結含油軸受6」は「スリーブベアリングまたはボールベアリング」にそれぞれ相当する。 甲1発明における「前記モータケース2の一端の外側面と前記エンドプレート22の外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する筒状のボスを形成し、前記モータケース2側のボスを前記軸受収納部23とし、前記エンドプレート22側のボスを前記軸受収納部24と」することと本件発明3における「前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状のボスをほぼ対称的に形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部と」することとは、「前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する筒状のボスを形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部と」することという限りにおいて一致する。 甲1発明における「前記エンドプレート22は、反負荷側(整流子側)に設けられており、前記モータケース2内部の前記エンドプレート22側には、整流子32に接触するブラシ4を固定するためのブラシホルダ41が配置されており、前記エンドプレート22にボスを形成し、このボスを、前記焼結含油軸受6を収納する軸受収納部24とした」ことと本件発明3における「前記エンドキャップを、前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとし、前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入される前記第2軸受保持部としたこと」とは「前記エンドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが保持される前記第2軸受保持部とした」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、 「一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケースと、前記開口を閉塞するエンドキャップと、前記モータケース内に収容され、中心に、前記モータケースの一端方向及び前記エンドキャップ方向に延出する回転軸を有するロータとを備え、前記モータケースの一端方向に延出する前記回転軸を第1の出力軸部とし、前記エンドキャップ方向に延出する前記回転軸を第2の出力軸部として、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、前記モータケースの一端部に形成された第1軸受保持部及び前記エンドキャップに形成された第2軸受保持部にそれぞれ設けた軸受部材により支持してなる直流モータにおいて、 前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する筒状のボスを形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部とし、 前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが保持される前記第2軸受保持部とした、直流モータ。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点2> 本件発明3においては、前記第1軸受保持部及び第2軸受保持部の「内径を、互いに同径」とし、かつこれら第1、第2軸受保持部の内部に、前記軸受部材としての「外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容」しうるようにし、また、前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する「内径の等しい」筒状のボスを「ほぼ対称的に形成」しているのに対し、 甲1発明においては、第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径が互いに同径であるか否か不明であり、また、これら第1、第2軸受保持部の内部に、軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるか否か不明であり、さらに、モータケースの一端の外側面とエンドキャップの外側面とに形成されたボスの内径が等しく、ほぼ対称的に形成されているか不明である点。 <相違点3> 本件発明3においては、前記エンドキャップを、「前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるもの」とし、前記エンドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが保持される前記第2軸受保持部としたことに関して、「前記シールドキャップに」前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが「圧入される」前記第2軸受保持部としたものであるのに対し、 甲1発明においては、前記エンドプレート22は、反負荷側(整流子側)に設けられており、前記モータケース2内部の前記エンドプレート22側には、整流子32に接触するブラシ4を固定するためのブラシホルダ41が配置されており、前記エンドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが保持される前記第2軸受保持部としたことに関して、前記エンドプレート22にボスを形成し、このボスを、前記焼結含油軸受6を収納する軸受収納部24とした点。 相違点2について判断する。 まず、甲1の記載全体をみても、軸受収納部23及び軸受収納部24の内径を互いに同径にして、それらの内部に外径の等しい焼結含油軸受または玉軸受を選択的に収容する動機となり得る記載も示唆も見あたらない。 また、甲1に記載された発明の課題は、低コストでありながら振動等を防止する定圧予圧を実現し、さらには大きな側圧が作用する対象物を回転させる用途にも対応可能な直流モータを提供することであり(上記(2)ア(ア)段落【0008】)、この課題を解決するために、回転子(3)の反負荷側の軸端部を焼結含油軸受(6)にて軸支持すると共に、回転子(3)をその軸方向、例えば、負荷側に付勢する付勢手段(7)を配置した(上記(2)ア(ア)段落【0009】)ものである。そうすると、甲1に記載された発明は、少なくとも、反負荷側の軸端部には焼結含油軸受が採用されることを前提として、例えば、負荷側に付勢する付勢手段を設けるものであるから、少なくとも、反負荷側の軸端部、すなわち、甲1発明における軸受収納部24に、焼結含油軸受6に代えて玉軸受5を配置することはなく、軸受収納部23と軸受収納部24の内径を互いに同径にする必要も生じないことからも、甲1発明において、軸受収納部23及び軸受収納部24の内径を互いに同径にして、それらの内部に外径の等しい焼結含油軸受または玉軸受を選択的に収容する動機は存在しないといえる。 そうすると、甲2発明の電気モータが、軸受ボス13及び軸受ボス15は軸受穴の構造、形状及びサイズが同じであり、かつこれら軸受ボス13、15の内部に、軸受16として玉軸受又は油軸受を支持するようにしたものであるとしても、甲1発明において、反負荷側の軸受収納部24の焼結含油軸受6を玉軸受5に代えることはないから、当業者といえども、甲1発明に甲2発明を適用することは想到し得ず、本件発明3の相違点2に係る発明特定事項に至ることはない。 したがって、本件発明3は、相違点3について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)特許異議申立人の意見について これについて、特許異議申立人は、特許異議申立書において、モータケースとエンドキャップを備え、それぞれに軸受保持部を設ける直流モータにおいて、モータケース側の軸受保持部とエンドキャップ側の軸受保持部の内径を同径にすることは、甲2に記載されるように極一般的な設計態様であり、また、ある内径を有する円筒孔の軸受保持部に対して、外径の等しいボールベアリングとスリーブベアリングが選択的に収容できるということは、甲3に記載されるように極当然の技術常識であり、甲1発明において、第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径を、互いに同径とし、かつこれら第1、第2軸受保持部の内部に、軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるようにすることは、当業者が容易に想到できるものである旨主張している。(特許異議申立書13ページ7行〜14ページ10行) しかしながら、仮に、甲2や甲3に特許異議申立人が述べるような技術が記載されているとしても、上記(ア)の相違点2の判断において示したとおり、甲1発明において、軸受収納部23及び軸受収納部24の内径を互いに同径にして、それらの内部に外径の等しい焼結含油軸受または玉軸受を選択的に収容する動機は存在しないから、特許異議申立人のかかる主張は採用できない。 また、特許異議申立人は、令和3年11月18日提出の意見書において、周知例1として挙げた国際公開第2013/168135号に記載されたブラシ付き直流モータにおいて、左右の軸受保持部となるモータケース側のボスとエンドキャップ側のボスの内径を互いに同径にすることは設計事項であり、第1、第2軸受保持部の内部に、軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるようにすることは周知の事項であるから、公知のブラシ付き直流モータの構成に設計事項または周知事項を付加することで当業者が容易に想到できたものである旨主張している。(同意見書3ページ24行〜5ページ12行) しかしながら、周知例1の段落【0034】に「エンドプレート36のボス部39には上述した滑り軸受37が圧入され、シャフト22の挿通孔40近傍の部分を回転自在に軸支している。一方、金属ケース16のボス部17には、滑り軸受けであって外形形状が球形である球形滑り軸受け41が同軸状に内挿嵌合された有底筒状の軸受ホルダ42が配置されている。」と記載されるところ、ボス部39及びボス部17の内径が互いに同径であって、これらの内部に、内径の等しい滑り軸受37または球形滑り軸受け41を選択的に収容しうることも記載がなく、さらに、そのような構成を採用すべき動機付けとなり得る記載も示唆もない。 そうすると、本件発明3は、周知例1に記載されるような公知のブラシ付き直流モータに基いて当業者が容易になし得たものともいえない。 したがって、特許異議申立人のかかる主張は採用できない。 イ 本件発明5について 本件発明5も、本件発明3の相違点2に係る発明特定事項と同一の構成を備えるものであるから、本件発明3と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び甲2発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項3及び5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項1、2、4に係る特許は、以上のとおり、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 一端が閉塞され、他端が開口している筒状のモータケースと、前記開口を閉塞するエンドキャップと、前記モータケース内に収容され、中心に、前記モータケースの一端方向及び前記エンドキャップ方向に延出する回転軸を有するロータとを備え、前記モータケースの一端方向に延出する前記回転軸を第1の出力軸部とし、前記エンドキャップ方向に延出する前記回転軸を第2の出力軸部として、これら第1の出力軸部及び第2の出力軸部を、前記モータケースの一端部に形成された第1軸受保持部及び前記エンドキャップに形成された第2軸受保持部にそれぞれ設けた軸受部材により支持してなる直流モータにおいて、 前記第1軸受保持部及び第2軸受保持部の内径を、互いに同径とし、かつこれら第1、第2軸受保持部の内部に、前記軸受部材としての外径の等しいスリーブベアリングまたはボールベアリングを選択的に収容しうるようにし、 前記モータケースの一端の外側面と前記エンドキャップの外側面とに、それぞれ互いに反対方向に突出する内径の等しい筒状のボスをほぼ対称的に形成し、前記モータケース側のボスを前記第1軸受保持部とし、前記エンドキャップ側のボスを前記第2軸受保持部とし、 前記エンドキャップを、前記モータケースの開口端部に嵌合された合成樹脂製のキャップ本体と、その外側面を覆うようにして前記モータケースの開口端部に固定される金属製のシールドキャップとからなるものとし、前記シールドキャップに前記ボスを形成し、このボスを、前記スリーブベアリングまたはボールベアリングが圧入される前記第2軸受保持部としたことを特徴とする直流モータ。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 前記直流モータは、前記第2の出力軸部に整流子が設けられるとともに、前記エンドキャップに前記整流子に摺接するブラシが設けられたブラシ付き直流モータであり、前記第1軸受保持部に前記スリーブベアリングを収容し、前記第2の出力軸部により被駆動部材を駆動するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の直流モータ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-02-28 |
出願番号 | P2017-080176 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H02K)
P 1 651・ 113- YAA (H02K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
小川 恭司 |
特許庁審判官 |
佐々木 芳枝 塩澤 正和 |
登録日 | 2020-10-19 |
登録番号 | 6780857 |
権利者 | 株式会社 五十嵐電機製作所 |
発明の名称 | 直流モータ |
代理人 | 竹ノ内 勝 |
代理人 | 横堀 芳徳 |
代理人 | 横堀 芳徳 |
代理人 | 竹沢 荘一 |
代理人 | 竹ノ内 勝 |
代理人 | 竹沢 荘一 |