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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1385153
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-07 
確定日 2022-03-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6778306号発明「脂質膜構造体形成用組成物およびその製造方法、脂質膜構造体含有組成物およびその製造方法、脂質膜構造体含有組成物を配合してなる化粧料、皮膚外用剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6778306号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9、11〜13、15〜16〕、10、14について訂正することを認める。 特許第6778306号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6778306号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2019−170649号)は、令和1年9月19日に出願され、令和2年10月13日にその特許権の設定の登録(請求項の数:16)がなされ、同年10月28日に特許掲載公報が発行された。

その後、令和3年4月7日に、特許異議申立人 上田剛士(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1〜16に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがされた。

本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。

令和3年 4月 7日 :特許異議申立書及び甲第1〜13号証の提出
(申立人)
同年 7月30日付け:取消理由通知書
同年 8月30日 :上申書(応答期間延長の求め)の提出(特許
権者)
同年 9月 3日付け:通知書(応答期間延長)
同年11月 4日 :訂正請求書、意見書及び乙第1〜7号証の
提出(特許権者)
同年12月 7日 :意見書及び参考資料1、2の提出(申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

令和3年11月4日提出の訂正請求書により特許権者が請求している訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜16について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、」と記載されているのを、「(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、」と記載されているのを、「(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「脂質膜構造体形成用組成物」と記載されているのを、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する、脂質膜構造体形成用組成物」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「脂質膜構造体形成用組成物」と記載されているのを、「脂質膜構造体形成用組成物(ただし、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびフェノキシエタノールを含むもの、20%ルテイン含有油およびフェノキシエタノールを含むもの、γ−オリザノール、グリセリンおよびマルチトールを含むもの、並びに、フィトステロールを含むものを除く)」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3〜9、11〜13、15〜16も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「からなる群より選択される少なくとも1種である」と記載されているのを、「からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、300質量部以上である」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4〜9、11〜13、15〜16も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、」と記載されているのを、「(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に「選択される1種以上を混合することを有し、」と記載されているのを、「選択される1種以上を混合することを有する脂質膜構造体形成用組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に「脂質膜構造体形成用組成物の製造方法」と記載されているのを、「前記脂質膜構造体形成用組成物は、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する、製造方法」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13に「脂質膜構造体形成用組成物を水相中に分散させる」と記載されているのを、「脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14に「(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質、」と記載されているのを、「(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質、」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に「脂質膜構造体形成用組成物を水相中に分散させることと、」と記載されているのを、「脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることと、」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14に「を有し、」と記載されているのを、「を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、」に訂正する。

(13)一群の請求項について
訂正事項1〜3に係る訂正前の請求項1〜9、11〜13、15〜16について、請求項1の記載を請求項2〜9、11〜13、15〜16がそれぞれ直接的又は間接的に引用しているから、請求項2〜9、11〜13、15〜16は、訂正事項1〜3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、請求項1〜9、11〜13、15〜16は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の適否の判断

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的
訂正事項1は、請求項1及びその記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「水素添加リン脂質」の種類を具体的に特定するものであり、当該「水素添加リン脂質」を、これに包含される「水素添加大豆リン脂質」に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0021】には、「水素添加リン脂質は、従来公知の方法により、リン脂質の不飽和炭素結合に水素原子を付加することで、得ることができる。リン脂質の由来については、特に制限されないが、天然由来であり、化粧品や皮膚外用剤に好適に使用できることから、レシチンが特に好ましい。したがって、本発明の一実施形態において、(A)成分は、水素添加レシチンである。なお、レシチンは、大豆由来、卵黄由来、菜種由来、ヒマワリ由来、トウモロコシ由来等であってもよく、大豆由来、菜種由来、ヒマワリ由来、トウモコシ由来等の植物由来であることが好ましく、入手の容易性や品質安定性から大豆由来であることがより好ましい。」(下線は当審が付した。以下、本件明細書の摘記について同じ。)との記載があり、実施例においても「大豆由来水素添加レシチン」(【0087】)が使用されており、これは「水素添加大豆リン脂質」に該当するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項1は、請求項1及びその記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「水素添加リン脂質」を、「水素添加大豆リン脂質」に限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項1及びその記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項であって、それぞれの含有量の範囲が特定されていなかった「(A)成分」及び「(B)成分」について、「(A)成分の含有量が5〜40質量%」であり、「(B)成分の含有量が30〜90質量%」であることを具体的に特定し、さらに限定を加えるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0024】には、「本発明の脂質膜構造体形成剤における(A)成分の含有量は、好ましくは5〜40質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。」との記載があり、同【0035】には、「本発明の脂質膜構造体形成剤における(B)成分の含有量は、好ましくは30〜90質量%であり、より好ましくは40〜80質量%であり、さらにより好ましくは50〜70質量%である。」との記載があるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項2は、請求項1及びその記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「(A)成分」及び「(B)成分」について、それぞれの含有量を特定し、さらに限定を加えるものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について

ア 訂正の目的
訂正事項3は、請求項1及びその記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項であって、水相中での分散の性質が特定されていなかった「脂質膜構造体形成用組成物」について、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」ことを特定し、さらに限定を加えるものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0015】には、「そこで、本発明者らは、水素添加リン脂質を用いて微細な脂質膜構造体を簡便に形成する手段について、鋭意検討した。その結果、驚くべきことに、(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)上記式1で表されるポリオール化合物とを、当該(A)成分100質量部に対して当該(B)成分が100質量部を超えるように配合して脂質膜構造体形成用組成物を調製し、これを水相中に分散させることで、微細化手段を要することなく、微細な(例えば、平均粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を形成できることを見出した。」との記載があり、同【0019】には、「本発明に係る脂質膜構造体形成用組成物(以下、「脂質膜構造体形成剤」または「形成剤」とも称する)」との記載があり、同【0077】には、「脂質膜構造体形成剤の水相中への分散は、当該脂質膜構造体形成剤が実質的な機械的剪断力が無くとも自発的に微細な脂質膜構造体を形成することから、水相を撹拌しない状態で行って(脂質膜構造体形成剤を水相に)添加してもよいし、水相を撹拌させながら行ってもよい。」との記載がある。
これらの本件明細書の記載から、上記「脂質膜構造体形成用組成物」は、水相を撹拌しない状態で、水相中への分散を行っても自発的に微細な脂質膜構造体を形成する性質のものであること、そして、微細な脂質膜構造体として平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体があることが、当業者であれば理解できる。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項3は、請求項1及びその記載を引用する請求項2〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「脂質膜構造体形成用組成物」について、水相中での分散の性質を特定し、さらに限定を加えるものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について

ア 訂正の目的
訂正事項4は、請求項2及びその記載を引用する請求項3〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「脂質膜構造体形成用組成物」から、「ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびフェノキシエタノールを含むもの、20%ルテイン含有油およびフェノキシエタノールを含むもの、γ−オリザノール、グリセリンおよびマルチトールを含むもの、並びに、フィトステロールを含むもの」を「除く」という、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であって、これらの請求項に記載した事項の表現を残したままで、これらの請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを、これらの請求項に記載した事項から除外するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アで説示したように、訂正事項4は、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であって、請求項2及びその記載を引用する請求項3〜9、11〜13、15〜16に記載した事項の表現を残したままで、これらの請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを、これらの請求項に記載した事項から除外するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項4は、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であって、請求項2及びその記載を引用する請求項3〜9、11〜13、15〜16に記載した事項の表現を残したままで、これらの請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを、これらの請求項に記載した事項から除外するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5について

ア 訂正の目的
訂正事項5は、請求項3及びその記載を引用する請求項4〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「(A)成分」及び「(B)成分」について、訂正前は、請求項3が引用する請求項1において「(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える」とされ、請求項3が引用する請求項2において「(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、1600質量部以下である」とされていたのを、それらの範囲内である、「(A)成分100質量部に対して、300質量部以上である」ことを具体的に特定し、さらに限定を加えるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0036】には、「さらに、より微細な脂質膜構造体を得る観点から、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは200質量部以上であり、より好ましくは250質量部以上であり、さらに好ましくは300質量部以上であり、さらにより好ましくは350質量部以上であり、特に好ましくは400質量部以上である。」との記載があるから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項5は、請求項3及びその記載を引用する請求項4〜9、11〜13、15〜16において、これらの請求項に係る発明を特定する事項である「(A)成分」及び「(B)成分」について、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量の比率をさらに特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項6について

ア 訂正の目的
訂正事項6は、請求項10において、同請求項に係る発明を特定する事項である「水素添加リン脂質」の種類を具体的に特定する訂正をするものであり、当該「水素添加リン脂質」を、これに包含される「水素添加大豆リン脂質」に限定するものである
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0021】には、上記(1)イで摘記した事項が記載されており、実施例においても「大豆由来水素添加レシチン」(【0087】)が使用されており、これは「水素添加大豆リン脂質」に該当するものであるから、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項6は、請求項10に係る発明を特定する事項である「水素添加リン脂質」を、「水素添加大豆リン脂質」に限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項7について

ア 訂正の目的
訂正事項7は、請求項10において、同請求項に係る発明の製造方法の目的物である「脂質膜構造体形成用組成物」を構成する成分であり、それぞれの含有量の範囲が特定されていなかった「(A)成分」及び「(B)成分」について、「(A)成分の含有量が5〜40質量%」であり、「(B)成分の含有量が30〜90質量%」であることを具体的に特定し、さらに限定を加えるものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0024】及び【0035】には、上記(2)イで摘記した事項が記載されているから、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項7は、請求項10に係る発明の製造方法の目的物である「脂質膜構造体形成用組成物」を構成する「(A)成分」及び「(B)成分」について、それぞれの含有量を特定し、さらに限定をするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(8)訂正事項8について

ア 訂正の目的
訂正事項8は、請求項10において、同請求項に係る発明の製造方法の目的物であって、水相中での分散の性質が特定されていなかった「脂質膜構造体形成用組成物」について、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」ことを特定し、さらに限定を加えるものである。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0015】、【0019】及び【0077】には、上記(3)イで摘記した事項が記載されており、これらの本件明細書の記載から、「脂質膜構造体形成用組成物」は、水相を撹拌しない状態で、水相中への分散を行っても自発的に微細な脂質膜構造体を形成する性質のものであること、そして、微細な脂質膜構造体として平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体があることが、当業者であれば理解できる。
したがって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項8は、請求項10に係る発明の製造方法の目的物である「脂質膜構造体形成用組成物」について、水相中での分散の性質を特定し、さらに限定を加えるものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(9)訂正事項9について

ア 訂正の目的
訂正事項9は、請求項13において、同請求項に係る発明の製造方法を特定する事項であって、条件が付されていなかった脂質膜構造体形成用組成物を「水相中へ分散させる」工程について、「微細化手段を用いることなく水相中へ分散させる」と具体的な条件を特定し、さらに限定するものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0013】には、「本発明に係る脂質膜構造体形成用組成物によれば、マイクロフルイダイザー等の微細化手段を要することなく、微細な(例えば、平均粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を形成することができる。」との記載があり、同【0015】には、上記(3)イで摘記した事項が記載されている。これらの記載から、脂質膜構造体形成用組成物を「微細化手段を要することなく水相中へ分散させる」ことにより製造できることが、当業者であれば理解できる。
したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項9は、請求項13に係る発明の製造方法を特定する事項である「水相中へ分散させる」工程を特定し、さらに限定するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(10)訂正事項10について

ア 訂正の目的
訂正事項10は、請求項14において、同請求項に係る発明を特定する事項である「水素添加リン脂質」の種類を具体的に特定するものであり、当該「水素添加リン脂質」を、これに包含される「水素添加大豆リン脂質」に限定するものである
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0021】には、上記(1)イで摘記した事項が記載されており、実施例においても「大豆由来水素添加レシチン」(【0087】)が使用されており、これは「水素添加大豆リン脂質」に該当するものであるから、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項10は、請求項14に係る発明を特定する事項である「水素添加リン脂質」を、「水素添加大豆リン脂質」に限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(11)訂正事項11について

ア 訂正の目的
訂正事項11は、請求項14において、同請求項に係る発明を特定する事項であって、訂正前は条件が付されていなかった、脂質膜構造体形成用組成物を「水相中へ分散させる」工程について、「微細化手段を用いることなく水相中へ分散させる」との条件を特定し、さらに限定するものである。
したがって、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0013】及び【0015】には、上記(9)イ及び上記(3)イで摘記した事項が記載されており、これらの記載から、脂質膜構造体形成用組成物を「微細化手段を要することなく水相中へ分散させる」ことにより製造できることが、当業者であれば理解できる。
したがって、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項11は、請求項14に係る発明を特定する事項である「水相中へ分散させる」工程を特定し、さらに限定するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(12)訂正事項12について

ア 訂正の目的
訂正事項12は、請求項14において、同請求項に係る発明の製造方法を特定する事項である「脂質膜構造体形成用組成物」を構成する成分であり、それぞれの含有量の範囲が特定されていなかった「(A)成分」及び「(B)成分」について、「(A)成分の含有量が5〜40質量%」であり、「(B)成分の含有量が30〜90質量%」であることを具体的に特定し、さらに限定を加えるものである。
したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書の【0024】及び【0035】には、上記イ(イ)で摘記した事項が記載されているから、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで説示したように、訂正事項12は、請求項14に係る発明の製造方法の目的物である「脂質膜構造体形成用組成物」の構成成分である(A)成分」及び「(B)成分」について、それぞれの含有量を特定し、さらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(13)独立特許要件について

本件特許異議申立事件においては、訂正前のすべての請求項1〜16に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1〜12による訂正については、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、同法同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。

3 訂正の適否についての小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9、11〜13、15〜16〕、10、14について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件特許に係る発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の請求項1〜16(以下「本件請求項1」〜「本件請求項16」という。)に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下「本件発明1」〜「本件発明16」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。なお、下線は本件訂正による訂正箇所である。)。

「【請求項1】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する、脂質膜構造体形成用組成物:
【化1】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。

【請求項2】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、1600質量部以下である、請求項1に記載の脂質膜構造体形成用組成物(ただし、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびフェノキシエタノールを含むもの、20%ルテイン含有油およびフェノキシエタノールを含むもの、γ−オリザノール、グリセリンおよびマルチトールを含むもの、並びに、フィトステロールを含むものを除く)。

【請求項3】
前記(B)成分が、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、シクロヘキシルグリセリンおよびヘキシルグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、300質量部以上である、請求項1または2に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項4】
(C)水をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項5】
前記(B)成分および前記(C)成分の質量比が、6:1〜1:1である、請求項4に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項6】
(D)塩基性化合物および(E)酸性化合物のうち少なくとも1種をさらに含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項7】
前記(E)成分を含有し、前記(E)成分が有機酸である、請求項6に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項8】
(F)脂溶性化合物をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項9】
水相中に分散させた際のpHが4.0〜10.0である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。

【請求項10】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合することを有する脂質膜構造体形成用組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、前記脂質膜構造体形成用組成物は、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する、製造方法:
【化2】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。

【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物を用いてなる脂質膜構造体含有組成物。

【請求項12】
前記脂質膜構造体が単層ラメラ構造体である、請求項11に記載の脂質膜構造体含有組成物。

【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることを有する脂質膜構造体含有組成物の製造方法。

【請求項14】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合して、脂質膜構造体形成用組成物を得ることと、
前記脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることと、
を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、脂質膜構造体含有組成物の製造方法:
【化3】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。

【請求項15】
請求項11または12に記載の脂質膜構造体含有組成物を配合してなる化粧料。

【請求項16】
請求項11または12に記載の脂質膜構造体含有組成物を配合してなる皮膚外用剤。 」

第4 当審が通知した取消理由の概要

本件訂正前の本件請求項1〜16に係る発明の特許について、当審が令和3年7月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりであり、下記の引用文献1〜15は、いずれも、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものである。

[取消理由1](新規性欠如)
本件発明1〜3、9〜16は、下記の引用文献1に記載された発明であり、本件発明1〜3、8〜16は、下記の引用文献2〜4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1〜3、8〜16についての特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

[取消理由2](進歩性欠如)
本件発明1〜16は、下記の引用文献1〜4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜16についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

[取消理由3](サポート要件違反)
本件発明1〜16は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件発明1〜16についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであり、取り消されるべきものである。

<引用文献一覧>
引用文献1:特開2004−051495号公報(申立人の提出した甲第2号証)
引用文献2:特開2008−120712号公報(申立人の提出した甲第3号証)
引用文献3:特開2018−087148号公報(申立人の提出した甲第1号証)
引用文献4:特開2011−195527号公報(申立人の提出した甲第4号証)
引用文献5:特開昭60−007932号公報(申立人の提出した甲第5号証)
引用文献6:特開昭60−153938号公報(申立人の提出した甲第6号証)
引用文献7:フレグランスジャーナル,1987, No.87(Vol.15,No.6)pp.68−76(申立人の提出した甲第7号証)
引用文献8:化粧品開発とナノテクノロジー,2007,pp.111−116,シーエムシー出版(申立人の提出した甲第8号証)
引用文献9:レシチン その基礎と応用,1991年7月25日,pp.82−100,pp.134−159,幸書房(申立人の提出した甲第9号証)
引用文献10:卵黄レシチンPL−100Pのパンフレット,2018年10月,キューピー株式会社(申立人の提出した甲第10号証)
引用文献11:香粧品原料便覧 第5版,2005年7月25日,p.374,有限会社フレグランスジャーナル社(申立人の提出した甲第11号証)
引用文献12:日本化粧品原料集2007,2007年6月28日,p.69, 株式会社薬事日報社(申立人の提出した甲第12号証)
引用文献13:C&T Beauty Science,2019年10月号,pp.34−35(申立人の提出した甲第13号証)
引用文献14:色材、2004,Vol.77,No.10,pp.462−469
引用文献15:標準化学用語辞典第2版,平成17年3月31日発行,編者 社団法人 日本化学会,発行所 丸善株式会社,625頁,722頁

第5 引用文献の記載事項及び引用発明

以下に、上記第4に示した引用文献1〜15の記載事項について、当審の判断に必要な範囲で摘記し、引用文献1〜4については、記載されていると認められる引用発明を示す。なお、下線は当審による。

1 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明

引用文献1には、以下の事項が記載されている。

摘記1(1)
「【請求項1】
水素添加レシチンを用いた水性化粧料において、ペンチレングリコールおよび/またはイソプレングリコールを含有していることを特徴とする水性化粧料。」

摘記1(2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、長期間にわたり沈殿物等を生じ難く安定性に優れ、しかも保湿感および使用感に優れた水性化粧料に関する。
【0002】
【従来の技術】
リン脂質は、脂肪酸残基を2つ有する両親媒性の界面活性剤であることから、乳化剤や乳化補助剤として、また、水に分散させるとラメラ構造を有したリポソームを形成することからリポソーム基材として使用されている。一方、化粧品分野においても同様な用途に応用されており、酸化による異臭や褐変等の問題から、リン脂質としては、水素添加処理を施した精製レシチン(以下、単に「水素添加レシチン」という)が一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、化粧水、美容液等の水性化粧料に水素添加レシチンを使用すると、製造後数日程度で水素添加レシチンの沈殿を生じ、安定性に問題があった。また、水素添加レシチンではないが、精製レシチンを用いた水性化粧料が特開昭61−167610号公報の実施例6に開示されているが、精製レシチンに換えて水素添加レシチンを用いた場合、保存中に沈殿物を生じ、その保湿感および使用感においても満足できるものではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況下、本発明は原料として水素添加レシチンを用いても長時間にわたり沈殿等を生じ難く安定性に優れ、しかも保湿感および使用感に優れた水性化粧料を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この目的は、
(1)水素添加レシチンを用いた水性化粧料において、ペンチレングリコールおよび/またはイソプレングリコールを含有していることを特徴とする水性化粧料、
(2)ペンチレングリコールおよび/またはイソプレングリコールを1〜30%、好ましくは5〜20%含有している(1)記載の水性化粧料、によって達成される。」

摘記1(3)
「【0006】
・・・。なお、本発明において「%」は質量%、「部」は質量部を意味する。本発明において水性化粧料とは、クリーム、乳液以外の例えば、整肌化粧水、柔軟化粧水、美容液、アクネトリートメントローション、アフターシェーブローション、クレンジングローション等の水溶液原料を主成分とした化粧料である。その性状は、透明乃至半透明の液状乃至ジェル状を呈している。」

摘記1(4)
「【0007】
本発明の水性化粧料には、原料の一つとして水素添加レシチンを用いている。化粧料は通常、室温で長期間使用されることから、その原料としてレシチンを用いるときは、酸化による異臭や褐変が起き難い水素添加レシチンが使用されている。水素添加レシチンとは、卵黄、大豆等の天然物から抽出精製あるいは分画した精製レシチン(ジアシル型のリン脂質を主成分としたもの)に水素添加処理を施しリン脂質の構成脂肪酸を飽和型となるように処理したものである。具体的には、不飽和の度合いを示すヨウ素価が30以下(化粧品原料基準第二版「ヨウ素価測定法」)のものであり、上述の酸化安定性の点でヨウ素価が10以下のものが好ましい。また、水素添加レシチンのヨウ素価が低くなるにつれ、沈殿物を生じやすいことから、本発明が好適である。
【0008】
水素添加レシチンの含有量は、化粧料に含有させた場合の使用感や保湿感の点で0.01〜5%が好ましく、0.05〜3%がより好ましい。本発明で使用する水素添加レシチンとしては、塩の影響を受け難く安定性が優れた卵黄由来の水素添加レシチンが好ましい。」

摘記1(5)
「【0010】
ペンチレングリコールおよび/またはイソプレングリコールの含有量は、保存安定性、保湿感および使用感の点で、その合計量で1〜30%が好ましく、5〜20%がより好ましい。下限値より低いと保存安定性に優れた水性化粧料が得られ難く、一方、上限値より高いと保湿感および使用感に優れたものが得られ難い。」

摘記1(6)
「【0013】
本発明の水性化粧料を製造するには、従来のレシチンを用いた水性化粧料の調製方法に従って製造すれば良く、例えば、各成分を精製水等の水に均一に分散あるいは溶解、さらに必要に応じ加熱した後、高圧ホモゲナイザーで処理する方法等が挙げられる。
【0014】
【実施例】
[実施例1],[比較例1]および[比較例2]
表1に示す原料と配合割合でそれぞれ比較例1、比較例2および実施例1の水性化粧料を試作した。
具体的には、まずA相の各原料とB相の各原料とを別個にそれぞれ混合し、70℃に加温し、次にA相が溶けたらA相の溶液にB相の溶液を加えて粗分散させ、最後に、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理して水性化粧料を得た。
なお、原料の水素添加精製卵黄レシチン(キユーピー(株)製、商品名:卵黄レシチンPL−100P)は、ヨウ素価が10以下であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルはHLBが10以上のものを使用した。
【0015】
上記各水性化粧料について製造直後の性状を観察した。また各水性化粧料をガラスびんに充填・密封し同じサンプルについて3びんずつ作成し、これをそれぞれ4℃,40℃および室温(20℃)に60日間保存した後、各サンプルについて安定性を観察し、また保湿感および使用感を評価したところ表1の結果が得られた。
【0016】
【表1】



摘記1(7)
「【0017】
※表中の記号
[安定性];4℃、40℃および室温に保存し、60日後の状態を観察し以下の基準で判定した。
◎:いずれの温度帯においも60日後、分離およびもしくは沈殿を認めない。
○:1温度帯において60日後、分離およびもしくは沈殿を認める。
△:2温度帯において60日後、分離およびもしくは沈殿を認める。
×:いずれの温度帯においも60日後、分離およびもしくは沈殿を認める。
【0018】
[保湿感];専門パネル5名に使用させ、保湿感(しっとり感)を以下のように点数をつけ、総和を評価点として求めた。それを基に以下の基準で判定した。
《点数》
非常に良好 3点
やや良好 2点
普通 1点
悪い 0点
《判定基準》
○:総計15〜10点
△: 10〜5点
×: 5点以下
【0019】
[使用感];専門パネル5名に使用させ、使用感を以下のように点数をつけ、総和を評価点として求めた。それを基に以下の基準で判定した。
《点数》
非常に良好 3点
やや良好 2点
普通 1点
悪い 0点
《判定基準》
○:総計15〜10点
△: 10〜5点
×: 5点以下」

摘記1(8)
「【0021】
[実施例2]
表2に示す原料と配合割合で、実施例1と同じ方法で水性化粧料を試作した。なお、原料の水素添加精製卵黄レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルは実施例1と同じものを使用した。
上記水性化粧料について実施例1と同じテストをしたところ、表2の結果が得られた。
【0022】
【表2】


【0023】
表2より、ペンチレングリコールを含有した実施例2は、水性化粧料の原料として水素添加レシチンを用いても、長時間にわたり分離や沈殿がなく安定であり、しかも保湿感と使用感に優れたものが得られることが理解できる。
・・・」

上記の摘記1(1)〜摘記1(8)、特に、摘記1(3)、摘記1(6)及び摘記1(8)からみて、引用文献1には、実施例2として、以下の発明(以下、「引用発明1−1」、「引用発明1−2」、「引用発明1−4」という。)が記載されていると認められる。

引用発明1−1
「水性化粧料の製造に使用されるA相であって、
A相は、水性化粧料全量に対する質量%で、
水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」) 1.0質量%
ペンチレングリコール 10.0質量%
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.5質量%
フェノキシエタノール 0.8質量% からなり、
当該A相の各原料と、水性化粧料全量に対する質量%で酵母抽出液10.0質量%及び残余(77.7質量%)の水からなるB相の各原料とが、別個にそれぞれ混合され、70℃に加温され、次にA相が溶けたらA相の溶液にB相の溶液を加えて粗分散され、最後に、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理することにより、水性化粧料が得られる、A相。」

引用発明1−2
「水性化粧料の製造に使用されるA相の製造方法であって、
A相は、水性化粧料全量に対する質量%で、
水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」) 1.0質量%
ペンチレングリコール 10.0質量%
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.5質量%
フェノキシエタノール 0.8質量% からなり、
当該A相の各原料を混合することを有し、
原料が混合されたA相と、水性化粧料全量に対する質量%で酵母抽出液10.0質量%及び残余(77.7質量%)の水からなる原料が混合されたB相とが、それぞれ70℃に加温され、次にA相が溶けたらA相の溶液にB相の溶液を加えて粗分散され、最後に、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理することにより、水性化粧料が得られる、A相の製造方法。」

引用発明1−4
「水性化粧料の製造方法であって、
水性化粧料全量に対する質量%で、
水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」) 1.0質量%
ペンチレングリコール 10.0質量%
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.5質量%
フェノキシエタノール 0.8質量%
からなるA相の各原料と、
水性化粧料全量に対する質量%で酵母抽出液10.0質量%及び残余(77.7質量%)の水からなるB相の各原料とを、
それぞれ別個に混合し、70℃に加温し、次にA相が溶けたらA相の溶液にB相の溶液を加えて粗分散し、最後に、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理することにより、水性化粧料を製造する方法。」

2 引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された発明

引用文献2には、以下の事項が記載されている。

摘記2(1)
「【請求項1】
ビタミンA効力を実質的に有さないカロテノイドと、炭素数5以上の二価アルコールとを含有する、化粧料用水系分散体。
・・・
【請求項3】
前記キサントフィルはルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、およびカンタキサンチンから選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載の化粧料用水系分散体。
・・・
【請求項6】
前記二価アルコールは、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、およびジプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至5いずれかに記載の化粧料用水系分散体。
【請求項7】
乳化材をさらに含有する、請求項1乃至6いずれかに記載の化粧料用水系分散体。
【請求項8】
前記乳化材は卵黄リン脂質である、請求項7記載の化粧料用水系分散体。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の化粧料用水系分散体が配合された化粧料。」

摘記2(2)
「【0003】
・・・。また、特許文献2には、油溶性成分、リン脂質類、多価アルコール等を用いてリポソーム水溶液を調製したのち、該リポソーム水溶液を凍結乾燥することにより、皮膚用化粧料基材を製造する方法が開示されている。」

摘記2(3)
「【0016】
・・・。なお、本実施形態および後述する実施例において、「%」は「質量%」を意味する。」

摘記2(4)
「【0048】
4.1.試験例1
実施例1〜3および比較例1、2の水系分散体を以下の方法により調製した。本試験例においては、成分(I)としてルテインを使用し、成分(II)として表1に示す二価アルコールをそれぞれ使用した。なお、ルテインは、ルテインを20%含有する油(商品名「フローラGLOルテイン20%懸濁液」)として配合した。なお、このルテイン含有油は通常、約1%のゼアキサンチンを含む。また、乳化材として、水素添加卵黄リン脂質(レシチン)(商品名「卵黄レシチンPL−100P」、キユーピー(株)製)を使用した。
【0049】
下記表1に示すA相の構成成分およびB相の構成成分をそれぞれ別々に混合し、70℃に加温して、A相およびB相を得た。A相の構成成分が溶解したら、B相を添加することにより粗分散液を製した。この粗分散液を高圧乳化機(ジェット水流反転型高圧乳化機)を用いて圧力150〜250MPaで均質化することにより、水系分散体を製した。
【0050】
得られた水系分散体を3つに分け、4℃、40℃、および室温にそれぞれ保存して、7日後の状態を観察し、以下の基準で安定性を判定した。
【0051】
S:いずれの温度帯においても、分離および沈殿のいずれも認められなかった。
【0052】
B:いずれの温度帯においても、分離および沈殿のうち少なくとも一方が認められた。
【0053】
なお、実施例1、2においては、30日後の状態を観察したところ、いずれも温度帯においても、分離および沈殿のいずれも認められなかった。また、実施例1においては、60日後の状態を観察したところ、分離および沈殿のいずれも認められなかった。
【0054】



摘記2(5)
「【0055】
4.2.試験例2
試験例1と同様の方法にて、実施例4〜6および比較例3、4の水系分散体を調製した。なお、リコペンは、リコペンを15%含有する抽出物(商品名「Lyc-O-Mato 15%オレオレジン」)として配合した。また、乳化材として、試験例1で使用した水素添加卵黄リン脂質(レシチン)を使用した。
【0056】
得られた水系分散体を3つに分け、4℃、40℃、および室温にそれぞれ保存して、7日後の状態を観察し、以下の基準で判定した。
【0057】
S:いずれの温度帯においても、分離および沈殿のいずれも認められなかった。
【0058】
B:いずれの温度帯においても、分離および沈殿のうち少なくとも一方が認められた。
【0059】



摘記2(6)
「【0032】
成分(II)としては、例えば、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、イソペンチルジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールが挙げられ、このうちペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、およびジプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。成分(II)として上記二価アルコールを使用することにより、本実施形態に係る水系分散体の安定性をより高めることができる。
【0033】
成分(II)の配合量は、成分(I)1質量部に対して2〜50000質量部であることが好ましく、200〜2000質量部であることがより好ましい。」

摘記2(7)
「【0035】
1.3.乳化材
本発明の一実施形態に係る化粧料用水系分散体は、乳化材をさらに含有することができる。
【0036】
乳化材としては、保湿性に優れる点で卵黄リン脂質が好ましい。ここで、「卵黄リン脂質」とは、卵黄の構成脂質であるホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、およびこれらのリゾ体の総称であり、これらを主成分とする脂質組成物をいう。卵黄リン脂質中のリン脂質含量は精製度合いにもよるが、化粧料として用いる場合、70%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。卵黄リン脂質中のリン脂質組成は、原料である卵黄に由来するが、精製により特定のリン脂質を除去したり、高めたりすることができる。また、ホスフォリパーゼA等を卵黄リン脂質に作用させることにより、卵黄リン脂質のリゾ化率を調整することができる。
【0037】
また、化粧料に配合するにつき、酸化に対して安定である点で、卵黄リン脂質は水素添加されたものが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る化粧料用水系分散体において、乳化材として卵黄リン脂質を用いる場合、卵黄リン脂質の配合量は、成分(I)1質量部に対して1〜1000質量部であることが好ましく、5〜100質量部であることがさらに好ましい。」

摘記2(8)
「【0043】
3.化粧料用水系分散体の製造方法
本発明の一実施形態に係る化粧料用水系分散体の製造方法は、ビタミンA効力を実質的に有さないカロテノイドおよび炭素数5以上の二価アルコールを水に分散させて粗分散液を調製する工程と、この粗分散液を高圧処理する工程とを含む。」

上記の摘記2(1)〜摘記2(8)、特に、摘記2(1)及び摘記2(4)からみて、引用文献2には、実施例3として、以下の発明(以下、「引用発明2−1」、「引用発明2−2」、「引用発明2−4」という。)が記載されていると認められる。

引用発明2−1
「化粧料用水系分散体の製造に使用されるA相であって、
A相は、水系分散体全量に対する質量%で、
水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製) 1.00質量%
ペンチレングリコール 5.00質量%
20%ルテイン含有油 0.25質量%(ルテイン0.05質量%)
フェノキシエタノール 0.80質量% からなり、
当該A相の構成成分と、水系分散体全量に対する質量%で92.95質量%の精製水からなるB相の構成成分とが、それぞれ別々に混合され、70℃に加温され、A相の構成成分が溶解したら、B相を添加することにより粗分散液が製され、この粗分散液を高圧乳化機を用いて圧力150〜250MPaで均質化することにより、水系分散体が製される、A相。」

引用発明2−2
「化粧料用水系分散体の製造に使用されるA相の製造方法であって、
A相は、水系分散体全量に対する質量%で、
水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製) 1.00質量%
ペンチレングリコール 5.00質量%
20%ルテイン含有油 0.25質量%(ルテイン0.05質量%)
フェノキシエタノール 0.80質量% からなり、
当該A相の構成成分を混合することを有し、
当該混合されたA相と、水系分散体全量に対する質量%で92.95質量%の精製水からなる構成成分が混合されたB相とが、それぞれ70℃に加温され、A相の構成成分が溶解したら、B相を添加することにより粗分散液が製され、この粗分散液を高圧乳化機を用いて圧力150〜250MPaで均質化することにより、水系分散体が製される、A相の製造方法。」

引用発明2−4
「化粧料用水系分散体の製造方法であって、
水系分散体全量に対する質量%で、
水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製) 1.00質量%
ペンチレングリコール 5.00質量%
20%ルテイン含有油 0.25質量%(ルテイン0.05質量%)
フェノキシエタノール 0.80質量%
からなるA相の構成成分と、
水系分散体全量に対する質量%で92.95質量%の精製水からなるB相の構成成分とを、
それぞれ別々に混合し、70℃に加温し、A相の構成成分が溶解したら、B相を添加することにより粗分散液を製し、この粗分散液を高圧乳化機を用いて圧力150〜250MPaで均質化することにより、化粧料用水系分散体を製造する方法。」

3 引用文献3の記載事項及び引用文献3に記載された発明

引用文献3には、以下の事項が記載されている。

摘記3(1)
「【請求項1】
以下の成分(A)及び(B);
(A)γ−オリザノール
(B)リン脂質
が有機溶媒中に均一に溶解している溶液から有機溶媒を除去して、成分(A)(B)を同時に析出せしめて得られる乳化又は可溶化組成物の調製に使用される化粧料又は皮膚外用剤用のγ−オリザノール−リン脂質複合体において、(A)の含有量が20〜40重量%、(B)の含有量が60〜80重量%であることを特徴とする複合体。
【請求項2】
成分(B)のリン脂質が、ホスファチジルコリン(PC)含量50〜90重量%のレシチンであることを特徴とする請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合体を含有することを特徴とする化粧料又は皮膚外用剤。」

摘記3(2)
「【実施例】
【0044】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0045】
複合体の製造
表1の組成でγ−オリザノールと水添大豆レシチンの合計10gをt−ブチルアルコール80gに溶解させた後、液体窒素にて瞬時に凍結し、凍結乾燥装置(東京理化器械製、FDU−2200型)にて凍結乾燥を行った。圧力は10Pa以下、トラップ温度は−80℃とした。このようにして得られた複合体は、いずれも均質な白色の粉末であった。なお、実施例1〜3は本発明の組成の範囲内の複合体であり、比較例1〜2は本発明の組成の範囲外の複合体、比較例3〜4は本発明の組成の範囲内の複合体であるが、水添大豆レシチンのPC純度が実施例とは異なる複合体である。
【0046】
【表1】



摘記3(3)
「【0063】
実施例22 スカルプローション
このローションは透明度の高い製剤であり、頭皮を柔軟にし、頭皮のべたつきやカサつきなどの改善が可能である。


(調製方法)
A部、B部を各70℃に加温し、B部をホモミキサー(7000rpm)で攪拌しながらA部を加え、ナノベシクル液を調製した。さらに冷却後あらかじめ混合したC部を添加し、均一な液とした。」

摘記3(4)
「【0064】
実施例23スカルプローション
このローションは透明度の高い製剤であり、頭皮を柔軟にし、頭皮のべたつきやカサつきなどの改善が可能である。

(調製方法)
A部、B部を各70℃に加温し、B部をホモミキサー(7000rpm)で攪拌しながらA部を加え、ナノベシクル液を調製した。さらに冷却後あらかじめ混合したC部を添加し、均一な液とした。」

摘記3(5)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、リン脂質を用いてγ−オリザノールを高濃度に配合した乳化又は可溶化組成物を作製することを目的に、特許文献2の複合体(製造例3)を使用して種々検討したところ、γ−オリザノールを高濃度に配合するべく、乳化又は可溶化組成物への複合体の配合量を多くすると、得られる乳化又は可溶化組成物の外観に透明性がなくなり、かつ、分散安定性が不十分となることを見出した。したがって本発明の課題は、γ−オリザノールを簡便かつ高濃度に乳化又は可溶化させることができ、かつ、外観に透明感があり、分散安定性が良好な乳化又は可溶化組成物が得られる複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、成分(A)γ−オリザノールと、成分(B)リン脂質が有機溶媒中に均一に溶解している溶液から、有機溶媒を除去して、γ−オリザノールとリン脂質を同時に析出せしめて得られるγ−オリザノール−リン脂質複合体で、成分(A)の含有量が20〜40%、成分(B)の含有量が60〜80%であることを特徴とする複合体を用いることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合体を用いることにより、水中にγ−オリザノールを簡便かつ高濃度に乳化又は可溶化させることができる。また、得られる乳化又は可溶化組成物は外観に透明感があり、その分散安定性は良好である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明でいう複合体とは、複数の物質の混合物が単体個々の化学的性質を維持しつつ、複合体としてひとつの物理化学的性質を示すものをいう。例えば、複合化により温度に対する挙動が変化したり、溶媒に対する溶解性や分散性が変化することが挙げられる。
【0010】
本発明の複合体は、γ−オリザノールとリン脂質が有機溶媒中に均一に溶解している溶液から、有機溶媒を除去して、γ−オリザノールとリン脂質を同時に析出させることにより得られる。
【0011】
本発明の複合体の製造方法は以下の通りである。まずγ−オリザノールとリン脂質を有機溶媒に均一に溶解又は分散させる。このとき、加温、攪拌等の手段を用いると効率よく行うことができる。次に、上記有機溶媒溶液から有機溶媒を除去して、γ−オリザノールとリン脂質を同時に析出させる。この方法としては、例えば、上記有機溶媒溶液を加温又は/及び減圧下で有機溶媒を留去する方法や、上記有機溶媒溶液を噴霧乾燥する方法、上記有機溶媒を液体窒素等により瞬時に凍結後、凍結乾燥する方法等が挙げられる。このような方法により目的の複合体を半固体、固体、粉末の状態で得ることができるが、水に分散させる際の膨潤速度の観点から粉末状で得ることが好ましい。このことより、製造方法としては噴霧乾燥及び凍結乾燥を用いることが好ましく、さらに噴霧乾燥として、上記有機溶媒溶液を管状加熱器に一定速度で供給し、該加熱器内で加温して有機溶媒を蒸発させて実質的に固形分と有機溶媒の蒸気との混合物とし、この混合物を高速で真空室に導入し、瞬間的に有機溶媒を揮散させる装置(瞬間真空乾燥機)を用いることが最も好ましい。・・・
【0012】
本発明の複合体の製造に用いられる有機溶媒としては、複合化させる全成分を均一に溶解または分散させるものであれば特に制限はなく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、あるいは2種類以上を混合して使用してもよい。これらのうち、溶解性及び安全性等の観点から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール類が好ましいものとして挙げられる。
【0013】
本発明の複合体の製造に用いられる有機溶媒の使用量は、複合化させる全成分が均一に溶解又は分散していればよく、特に制限はないが、複合化させる成分の溶解性に応じて使用量を適宜変化させることができる。一般的には複合化させる全成分に対して1〜100重量倍、好ましくは3〜50重量倍使用するとよい。
・・・
【0015】
本発明で使用される成分(B)リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸等の極性基を有するジアシルグリセロリン脂質;大豆、なたね、ひまわり、サフラワー、落花生、綿実、トウモロコシ、米、大麦などの植物や卵黄から得られる天然レシチン及びこれらの水素添加物が例示できる。さらにこれらはポリエチレングリコール等のポリオキシアルキレン基で修飾された誘導体であっても良い。これらのリン脂質は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのうち、入手性や本発明の効果を発揮させる観点から、天然レシチン及びこれらの水素添加物が好ましいものとして挙げられる。さらに天然のレシチンとしては、その精製度合いによりホスファチジルコリン(以下、PC)の含量が異なるものが市販されているが、本発明にはPC含有量が50〜90重量%ものを使用するのが好ましく、より好ましくは60〜90重量%である。
【0016】
本発明の複合体は、前述の成分(A)γ−オリザノールと成分(B)リン脂質からなり、成分(A)の含有量が20〜40重量%、成分(B)の含有量が60〜80重量%であることを特徴とする。また、より好ましくは、成分(A)の含有量が30〜40重量%、成分(B)の含有量が60〜70%重量である。このようにして得られる複合体を用いることで、γ−オリザノールを簡便かつ高濃度に乳化又は可溶化させることができる。・・・。
また、本発明の複合体を使用して得られる乳化又は可溶化組成物は外観に透明感があり、その分散安定性は良好である。本発明において外観に透明感があるとは、直径3.5cmのガラス瓶に試料を入れて横から観察した際に、液の背後が透けて見える程度の透明感を言う。分光光度計にて濁度を測定する場合、厚さ1cmのセルに試料を入れて、波長600nmで測定した際の透過率が20%以上である。
複合体中の成分(A)の含有量が20重量%より少ないと、γ−オリザノールを高濃度に配合した場合、得られる乳化又は可溶化組成物の外観に透明感がなくなり、かつ、分散安定性も悪くなる。逆に成分(A)の含有量が40重量%より多いと、γ−オリザノールが水中に分散できなくなってしまう。」

上記の摘記3(1)〜摘記3(5)、特に、摘記3(2)及び摘記3(4)からみて、引用文献3には、実施例23として、以下の発明(以下、「引用発明3−1」、「引用発明3−2」、「引用発明3−4」という。)が記載されていると認められる。

引用発明3−1
「スカルプローション用ナノベシクル液の調製に使用されるA部であって、
A部は、スカルプローション全量に対する重量%で、
γ−オリザノール20重量%及び水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)80重量%の合計10gを80gに溶解させた後、液体窒素にて瞬時に凍結し、凍結乾燥装置にて凍結乾燥を行って得られた、複合体 0.3重量%
ペンチレングリコール 2.0重量%
PEG−60水添ヒマシ油 0.3重量% からなり、
当該A部と、スカルプローション全量に対する重量%で50.0重量%の精製水からなるB部とが、各70℃に加温され、B部をホモミキサー(7000rpm)で攪拌しながらA部を加えることにより、ナノベシクル液が調製される、A部。」

引用発明3−2
「スカルプローション用のナノベシクル液の調製に使用されるA部の製造方法であって、
A部を、スカルプローション全量に対する重量%で、
γ−オリザノール20重量%及び水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)80重量%の合計10gをt−ブチルアルコール80gに溶解させた後、液体窒素にて瞬時に凍結し、凍結乾燥装置にて凍結乾燥を行って得られた、複合体 0.3重量%
ペンチレングリコール 2.0重量%
PEG−60水添ヒマシ油 0.3重量% から構成し、
当該A部と、スカルプローション全量に対する重量%で50.0重量%の精製水からなるB部とが、各70℃に加温され、B部をホモミキサー(7000rpm)で攪拌しながらA部を加えることにより、ナノベシクル液が調製される、A部の製造方法。」

引用発明3−4
「ナノベシクル液の調製方法であって、
スカルプローション全量に対する重量%で、
γ−オリザノール20重量%及び水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)80重量%の合計10gをt−ブチルアルコール80gに溶解させた後、液体窒素にて瞬時に凍結し、凍結乾燥装置にて凍結乾燥を行って得られた、複合体 0.3重量%
ペンチレングリコール 2.0重量%
PEG−60水添ヒマシ油 0.3重量% から構成されるA部と、
スカルプローション全量に対する重量%で50.0重量%の精製水からなるB部とを、各70℃に加温し、B部をホモミキサー(7000rpm)で攪拌しながらA部を加えることにより、ナノベシクル液を調製する方法。」

4 引用文献4の記載事項及び引用文献4に記載された発明

引用文献4には、以下の事項が記載されている。

摘記4(1)
「(水分散物調製方法)
A部を約80℃で攪拌混合した。予め80℃に加温したA部をB部に加え、ホモミキサーを用いて攪拌(8000rpm、30分)後、室温まで冷却した。
【0057】
【表3】



摘記4(2)
「【0059】
皮膚保湿能評価
表3の水分散物1、水分散物2及び水分散物4を用いて、表5の組成で実施例1、実施例2及び比較例1の皮膚化粧料を作製した。・・・
【0060】
【表5】



摘記4(3)
「【0017】
本発明に用いるリン脂質としては、大豆レシチン、卵黄レシチン等の天然レシチン、及び、これらの水素添加物又は/及びリゾ体;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸等の極性基を有するジアシルグリセロリン脂質、及び 、これらの水素添加物又は/及びリゾ体;スフィンゴエミリン、スフィンゴエタノールアミン等のスフィンゴリン脂質及びこれらの水素添加物等が挙げられる。さらにこれらはポリエチレングリコール等のポリオキシアルキレン基で修飾された誘導体であってもよい。これらのリン脂質は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、入手性や安定性等の観点から、大豆レシチン、卵黄レシチン及びこれらの水素添加物が好ましいものとして挙げられる。大豆レシチンや卵黄レシチンは、その精製度合いによりホスファチジルコリン純度の異なるものが市販されているが、いずれの純度のものを用いてもよい。化粧料への配合量は特に限定されないが、通常0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。」

上記の摘記4(1)〜摘記4(3)、特に、摘記4(1)からみて、引用文献4には、水分散物4として、以下の発明(以下、「引用発明4−1」、「引用発明4−2」、「引用発明4−4」という。)が記載されていると認められる。

引用発明4−1
「水分散物の調製に使用されるA部であって、
A部は、水分散物全量に対する重量%で、
水添大豆レシチン 2.0重量%
ペンチレングリコール 5.0重量%
フィトステロール 0.3重量% からなり、
予め約80℃で攪拌混合した当該A部を、水分散物全量に対する重量%で92.7重量%の精製水からなるB部に加え、ホモミキサーを用いて攪拌(8000rpm、30分)後、室温まで冷却することにより、水分散物が調製される、A部。」

引用発明4−2
「水分散物の調製に使用されるA部の製造方法であって、
水分散物全量に対する重量%で、
水添大豆レシチン 2.0重量%
ペンチレングリコール 5.0重量%
フィトステロール 0.3重量%
からなるA部を約80℃で攪拌混合することを有し、
当該A部は、水分散物全量に対する重量%で92.7重量%の精製水からなるB部に加え、ホモミキサーを用いて攪拌(8000rpm、30分)後、室温まで冷却することにより、水分散物が調製される、A部の製造方法。」

引用発明4−4
「水分散物の調製方法であって、
水分散物全量に対する重量%で、
水添大豆レシチン 2.0重量%
ペンチレングリコール 5.0重量%
フィトステロール 0.3重量%
から構成されるA部を、予め80℃で攪拌混合し、水分散物全量に対する重量% で92.7重量%の精製水からなるB部に加え、ホモミキサーを用いて攪拌(8000rpm、30分)後、室温まで冷却することにより、水分散物を調製する方法。」

5 引用文献5の記載事項

引用文献5には、以下の事項が記載されている。

摘記5(1)
「2.特許請求の範囲
リポソーム膜成分物質を水溶性の非揮発性有機溶媒と混合し,次いでこのものを水性溶液に分散せしめることを特徴とするリポソームの製法。」

摘記5(2)
「本発明において使用される膜成分物質は,例えばホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミン,ホスファチジルセリン,ホスファチジルイノシトール,リゾホスファチジルコリン,スフィンゴミエリン,卵黄レシチン,大豆レシチン等に代表されるリン脂質の他,糖脂質,ジアルキル型合成界面活性剤等の一種又は二種以上の混合物が主体となる。なお,これに膜安定化剤としてコレステロール,コレスタノール等のステロール類を,荷電物質としてジセチルホスフェート,ホスファチジン酸,ガングリオシド,ステアリルアミン等を,更に酸化防止剤としてα−トコフェロール等を加えて膜成分物質を形成させてもよい。これらリポソームの膜成分物質の比率は何ら限定されるべきものではないが,好ましくは脂質1重量部に対しステロール類を0〜2重量部程度,荷電物質を0.1重量部程度加えるのが適している。
又,本発明で使用される水溶性の非揮発性有機溶媒としてはグリセリン,ポリグリセリン,プロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコール,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,1,3−ブチレングリコール,マルチトール等の多価アルコール類,モノアセチン,ジアセチン,グリセロリン酸等のグリセリンエステル類,ベンジルアルコール等の単独又は混合物が挙げられる。これ等有機溶媒の使用量は膜成分物質に対し約1〜100重量倍,水性溶液に対しては約0.001〜2重量倍程度となるよう使用するのが好ましい。」(2頁左下欄4行〜右下欄15行)

摘記5(3)
「e 同−処方内で薬剤のリポソームへの保持率を高めるには保持させる 薬剤をできるだけ少量の水性溶媒に溶かしこみ,これを有機溶媒に膜成分物質を溶解又は膨潤せしめたものと混合し,残りの水性溶媒は希釈に用いた方がよい。」(3頁左下欄下から1行〜右下欄5行)

摘記5(4)
「これ等薬剤は前述した如く一般には水性溶媒に溶解して用いるが,クロロフィル,グラミシジンS,ビタミンA等に代表される膜親和性薬剤は膜成分物質と一緒に濃グリセリン,プロピレングリコール等の水溶性有機溶媒に混合せしめた方が効率は良い。」(3頁右下欄15行〜20行)

摘記5(5)
「実施例2
プロピレングリコール7.2gを水浴上にて92℃に加温した。ここに部分水添精製卵黄レシチン(IV=20,リン脂質99%以上,Tc=5〜50℃,Tmax=35℃)8.9g及びステアリルアミン320mgを加え澄明に溶解せしめた。このものを60℃に放置しても試料は無色澄明のままであった。この無色澄明液にあらかじめ55℃に保温しておいた1%デキストランT40水溶液300mlを加え,そのまま50〜55℃でプロペラミキサーにより3分間攪拌し室温に戻したところ,デキストランT40を保持した乳白色のリポソーム懸濁液が得られた。
・・・
実施例3
実施例2と同一の処方で行ったが,デキストランT40は高濃度水溶液で添加し膜成分物質と練合の後水を加えて攪拌した。即ち,実施例2と同様にまずプロピレングリコール7.2g,部分水添精製卵黄レシチン8.9g及びステアリルアミン320mgの無色澄明液を製した。別に3gのデキストランT40を40mlの水に溶解させた液を作り,60℃にて上記無色澄明液に添加し,攪拌俸でよく攪拌したところ白色の粘稠液が得られた。次いでこの粘稠液にあらかじめ55℃に保温しておいた水260mlを加え,プロペラミキサーにより3分間攪拌し室温に戻したところ,デキストランT40を保持した乳白色のリポソーム懸濁液が得られた。
・・・
実施例4
実施例2及び実施例3と同一の処方で行ったが,デキストランT40は更に高濃度水溶液で添加した。即ち,3gのデキストランT40を6mlの水に溶解し,これを60℃にて膜成分物質の無色澄明液に添加,練合したところ白色のペーストが得られた。次いでこのペーストにあらかじめ55℃に保温しておいた水294mlを加え,プロペラミキサーにより3分間攪拌し室温に戻したところ,実施例3と同様の乳白色リポソーム懸濁液が得られた。」(4頁左下欄13行〜5頁右上欄5行)

摘記5(6)
「実施例8
濃グリセリン9.4gを160℃に加温した。ここにまずコレステロール1.47gを入れて溶融せしめ,攪拌し充分膨潤せしめた。次に完全水添精製卵黄レシチン6.7g及びジセチルホスフェート490mgを加えよく練合した。160℃においては無色半透明のペーストであった試料は,60℃にすることにより白色不透明のペーストに変化した。このペーストにあらかじめ65℃に保温しておいた0.5%サリチル酸ナトリウム水溶液300mlを加え60〜65℃でホモミキサーにより3分間攪拌後室温に戻した。かくしてサリチル酸ナトリウムを保持した乳白色のリポソーム懸濁液が得られた。」(6頁左上欄4行〜17行)

6 引用文献6の記載事項

引用文献6には、以下の事項が記載されている。

摘記6(1)
「2.特許請求の範囲
リン脂質と、ポリオールの1種又は2種以上もしくは該ポリオールと低級脂肪族アルコールとを加熱溶解した後、水相成分を加えて、リン脂質を振盪攪拌してリポソームを形成させることを特徴とするリポソームの作製法。」

摘記6(2)
「本発明に係るリポソームの作製法において、使用されるリン脂質としてはフオスフアチジルコリン、フオスフアチジルイノシトール、フオスフアチジルエタノールアミン、フオスフアチジルセリン、スフインゴミエリン等の大豆、卵黄その他動植物の組織に由来する物質(例、大豆レシチン、卵黄レシチン等〕及びこれらの精製物、水素添加物などがあり、又、合成リン脂質としては、ジステアロイルフオスフアジルコリン、ジパルミトイルフオスフアジルコリン等が挙げられる。
次に、本発明方法において使用されるポリオールとしては、例えば、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジクリセリン、トリグリセリン、ソルビトール等が挙げられる。」(2頁右上欄14行〜左下欄13行)

摘記6(3)
「本発明方法においてリポソームを作製するにあたつて使用する水相成分は水又は水溶性物質の水溶液である。この水溶液に配合される成分としての水溶性物質は、通常化粧品や皮膚外用剤に用いられているものであり、前記したポリオール、低級脂肪族アルコールの他、フイチン酸、尿素、各種アミノ酸、塩化ナトリウム、生薬、メゾイノシトール、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸ソーダ、ヒアルロン酸ナトリウム、パンテチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、可溶性コラーゲン、水浴性ビタミン類(ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンH等)、水溶性色素、香料等が挙げられる。」(2頁右下欄2行〜14行)

摘記6(4)
「また、本発明方法においてリン脂質とポリオールとを加熱溶解させる際には、少量の油溶性物質が系中に存在していてもよい。この油溶性物質は、低級脂肪族アルコールを媒体として、リン脂質と共に混合溶解せしめて用いられるものである。具体的な油浴性物質としては、通常化粧品や皮膚外用剤に用いられるものでよく、例えばビタミンA、D,E,Fなどのビタミン類、香料、防腐剤、抗酸化剤、色素、油脂、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、シリコーン油、各種薬剤等が挙げられ、これらを1種又は2種以上選択しあるいは混合物として用いるものである。」(3頁左上欄6行〜17行)

摘記6(5)
「実施例2


製法:γ−オリザノール、ビタミンAの油浴性物質を水添卵黄レシチンと共にエチルアルコールに60℃で加熱溶解してA相を作製する。これとB相とを60℃にて加熱溶解した後、C相の精製水1.0重線部を加えて液晶を形成させる。次いで残りのC相の精製水を加えて振盪攪拌せしめて液晶を分散しリポソーム溶液を得る。このものは濁りがあるので加圧ホモジナイザーで処理することにより250〜1000Åの微細なリポソーム滴となり、60℃まで冷却してD相を加え透明な化粧水を調製した。」(4頁右上欄5行〜左下欄7行)

摘記6(6)
「実施例4

製法:C相の成分のうち水添大豆レシチンとジグリセリンとを70℃にて加熱溶解した後、L−セリン、L−グリシンを溶解した水溶液を0.5重量部加えて液晶を形成させ、次いで残りのL−セリン、L−グリシン水浴液を加えて振盪攪拌せしめて液晶を分散しリポソーム溶液を得る。別にA相を80℃で溶解し、予め準備したB相を加えて乳化する。続いて上記リポソーム溶液(C相)を70℃で添加し、さらに50℃で香料(D)を添加し30℃まで冷却してリポソーム配合エモリエントクリームを調製した。」(4頁右下欄下から2行〜5頁右上欄6行)

7 引用文献7の記載事項

引用文献7には、以下の事項が記載されている。

摘記7(1)



」(69頁、表1)

摘記7(2)


」(70頁、表2)

摘記7(3)
「3−2−2.多価アルコール法
脂質を生体に投与可能な水溶性溶媒(グリセリン,プロピレングリコール等の多価アルコール)に膨潤または溶解させ,これと水溶液とを混合・攪拌することによりリポソームを得る。この多価アルコールは除去する必要がないところに特徴を有する。」(74頁右欄下から8行〜3行)

8 引用文献8の記載事項

引用文献8には、以下の事項が記載されている。

摘記8(1)
「2 リポソームの微細化に効果的な界面活性剤
・・・。一方化粧品業界で用いられている一般的なリポソーム調製法は多価アルコール法11)である。Bangham法と違ってリン脂質の溶解には多価アルコールを用いるため,安全性が高い方法であるが,親水性界面活性剤(微細化助剤)とリン脂質との親和性が親水性界面活性剤(微細化助剤)の膜中への配向,微細化効率を決定付けるため,親水性界面活性剤(微細化助剤)の選定が重要となってくる。
化粧品では,分子構造の異なった様々な界面活性剤が開発され,用いられている。その中でもリポソームの微細化に用いる親水性界面活性剤(微細化助剤)としては,リポソームの膜成分すなわちリン脂質との親和性が高く,効果的に微細化を促進させるような構造を有した成分が適している。HLBが等しく種々の構造を有した親水性界面活性剤(微細化助剤)を用い,多価アルコール法によってリポソームを調製し,親水性界面活性剤(微細化助剤)の構造と微細化効率の関係を評価した結果を示す(図1)12)。いずれの界面活性剤も配合組成比の増大とともにリポソーム粒子径を小さくするが,ステロール骨格を有するポリオキシエチレンフィトステロールエーテル系は特に効果的に粒子径を小さくしていることが示されている。すなわちリポソームの微細化に対しては,添加する親水性界面活性剤(微細化助剤)のHLBだけではなく,疎水基構造および親水基構造によって,その微細化効率に差異があることが考えられる。

」(112頁7行〜113頁8行)

9 引用文献9の記載事項

引用文献9には、以下の事項が記載されている。

摘記9(1)


」(83頁、表6.1)

摘記9(2)


」(84頁、表6.2)

摘記9(3)
「6.3 水素添加
レシチンを触媒の存在下に水素と反応させると,脂肪酸部分の不飽和結合が水素添加され,・・・」(90頁5行〜8行)

摘記9(4)


」(98頁、表7.4)

摘記9(5)
「10.4 酸価
脂質中に存在する酸性脂質の含量を示す指標であり,試料1gに含まれる酸を中和するのに必要なカセイカリのmg数で表示される.・・・,カセイカリを消費する物質はすべて酸価として計算される.遊離脂肪酸以外に,リン脂質の種類によりアルカリを消費するものがある・・・
食品添加物規格では,レシチンは酸価40以下と規定されている.通常の油脂類に比べ酸価が高いが,大豆レシチンは大豆粗油から製造されるものであり,またレシチンの粘度を低く調製するため脂肪酸を添加しているからである.・・・」(143頁4行〜15行)

摘記9(6)




(154頁〜155頁)

10 引用文献10の記載事項

引用文献10には、以下の事項が記載されている。

摘記10(1)
「卵黄レシチンPL−100P
Egg Yolk Lecithin PL-100P
キューピー株式会社
キューピーの「卵黄レシチンPL−100P」は、鶏卵の卵黄を原料とし、独自の抽出技術により製造された「卵黄レシチン」を水素添加処理したものです。」(1頁目)

摘記10(2)


」(2頁目「規格及び分析値一例」の項)

11 引用文献11の記載事項

引用文献11には、以下の事項が記載されている。

摘記11(1)
「1,2−ペンタンジオール
[表示名]ペンチレングリコール」(374頁右欄「1,2−ペンタンジオール」の項)

12 引用文献12の記載事項

引用文献12には、以下の事項が記載されている。

摘記12(1)
「ペンチレングリコール
INCI:PENTHLENE GLYCOL
定義:本品は、次の化学式で表される二価アルコールである。

CAS:5343-92-0」(69頁左欄「ペンチレングリコール」の項)

13 引用文献13の記載事項

引用文献13には、以下の事項が記載されている。

摘記13(1)
「・・・天然由来のペンチレングリコール「Hydrolite(ハイドロライト)5 green」・・・

」(34頁左欄4〜5行、図1)

14 引用文献14の記載事項

引用文献14には、以下の事項が記載されている。

摘記14(1)
「一般にエマルションの粒子径は0.1〜数10μm程度であるが,0.1μm以下になると外観は半透明から透明になる。」(462頁右欄1〜2行)

摘記14(2)


」(462頁 表−1)

15 引用文献15の記載事項

引用文献15には、以下の事項が記載されている。

摘記15(1)
「ベシクル [vesicle] 小胞構造のこと.リポソームを見よ.」(625頁「ベシクル」の項目)

摘記15(2)
「リポソーム [Liposome] 脂質小胞(人工膜)のこと.レシチンのようなリン脂質を塩類水溶液中で懸濁させると多重層リポソームを生じ,これを超音波処理すると,二分子膜からなる小胞が得られる.・・・」(722頁「リポソーム」の項目)


第6 取消理由についての当審の判断

1 引用文献1を主引例とした新規性進歩性の欠如(取消理由1及び2の 一部)について

当審は、本件発明1〜3、9〜16は、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献1に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないと判断する。その理由は、以下のとおりである。

(1)本件発明1について

ア 引用発明1−1との対比

本件発明1と引用発明1−1を対比する。

引用発明1−1における「水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)」は、本件発明1における「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」と、少なくとも「水素添加リン脂質」である点において共通する。
引用発明1−1における「ペンチレングリコール」は、引用文献11〜13の記載事項、すなわち、上記第5の摘記11(1)、摘記12(1)及び摘記13(1)によれば、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、これは、本件請求項1に記載の式1において、Rが非置換の炭素数2のアルキル基であり、nが0である場合の化合物に該当するから、本件発明1における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明1−1のA相において、水性化粧料全量に対する質量%で、水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)は「1.0質量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「10質量%」が含まれているから、水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える1000重量部が含まれることになる。
引用発明1−1のA相は、水性化粧料全量に対する質量%で、1.0質量%の水素添加精製卵黄レシチン、10.0質量%のペンチレングリコール、0.5質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル、0.8質量%のフェノキシエタノール、から構成されているから、A相中の含有量に換算すると、8.1質量%の水素添加精製卵黄レシチン及び81.3質量%のペンチレングリコールが含まれるので、水素添加精製卵黄レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
さらに、引用発明1−1の「A相」は、「組成物」である。
また、本件発明1は、組成物が、(A)成分と(B)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明1−1のA相が「ポリグリセリン脂肪酸エステル」及び「フェノキシエタノール」も含むことは、本件発明1との相違点にはならない。

そうすると、本件発明1と引用発明1−1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加リン脂質と、(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、組成物:
【化1】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明1においては、水素添加リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」を採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有する組成物とし、その用途を「脂質膜構造体形成用」に供するものとしているのに対し、引用発明1−1においては、水素添加リン脂質の酸価が特定されておらず、その種類も水素添加卵黄レシチンであって水素添加大豆リン脂質ではないうえ、組成物が上記の水相中での分散の性質を有することが特定されておらず、「脂質膜構造体形成用」との用途に供することも特定されていない点。

新規性の判断

本件発明1と引用発明1−1との上記アの相違点は、少なくとも水素添加リン脂質の種類が異なる点において実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

上記アの相違点について、さらに検討する。

(ア)
引用文献1は、水素添加レシチンを用いた水性化粧料に係るものであって(摘記1(1))、引用文献1には、水素添加レシチンとは、卵黄、大豆等の天然物から抽出精製あるいは分画した精製レシチンに水素添加処理を施しリン脂質の構成脂肪酸を飽和型となるように処理したものであることが記載され(摘記1(4))、水素添加レシチンとしては、卵黄由来のもののほかに、大豆由来のものも使用できることが記載されている。
そして、引用発明1−1における「水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)」は、引用文献10の記載によれば、酸価が14と認められるから(摘記10(1)〜(2))、酸価が5mgKOH/g以上である。

(イ)
しかしながら、引用文献1には、水素添加レシチンの酸価に着目し、これを特定の範囲とすべき旨の記載はなく、仮に、水素添加精製卵黄レシチンに代えて、大豆由来の水素添加レシチンを使用するとしても、その際に、酸価が5mgKOH/g以上のものを選択する動機付けとなるような記載も示唆もない。
また、水性化粧料の製造に使用されるリン脂質として、その酸価が5mgKOH/g以上のものが好適であるというような技術常識が本件特許出願前に存在したとも認められない。

(ウ)
さらに、引用発明1−1のA相は、水相であるB相と混合し、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理すると、半透明ジェルを形成するものであるところ(摘記1(8)【表2】)、特許権者が提出した乙第2号証(特開昭56−70826号公報)の次の記載:「すなわち油に溶解しない多価アルコールと、レシチンおよび必要に応じて非イオン界面活性剤を組み合わせ、これらに油相成分を加えることにより、多価アルコール中に油相成分が可溶化もしくはマイクロエマルジョンとして均一に分散した多価アルコール中油型乳化組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至つた。本発明により得られた多価アルコール中油型乳化組成物は、透明もしくは半透明の粘稠液体またはゲルである。さらにこの多価アルコール中油型乳化組成物を水で希釈または水を加えて混合することにより均一な微粒子の水中油型エマルジョンが得られる。」(2頁左上欄5〜17行。下線は当審が付した。以下、証拠の摘記について同じ。)に鑑みると、多価アルコール、レシチン、非イオン界面活性剤、油相成分を含む組成物を水に分散させた場合、エマルジョンを形成することもあり得ると理解されることから、引用発明1−1のA相が、上記の半透明ジェル中で「脂質膜構造体」を形成していると特定することはできない。なお、引用文献14の記載によれば、半透明の組成物においては分散粒子の粒子径は0.1μm以下であって0.05μmより大きいと認められる(摘記14(1)〜(2))。
そうすると、引用発明1−1のA相は、水相中に分散させたときに、脂質膜構造体を形成するかが定かでないうえ、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理して、ようやく半透明組成物を形成するものであるから、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を具備しているものとは認められない。

(エ)
そして、引用文献1〜15、特許権者が提出した乙第1〜7号証及び申立人が提出した参考資料1〜2の記載事項の全体をみても、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、本件請求項1に記載の式1で表される化合物を、特定の量比で含有させることにより、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する組成物が得られる、というような技術常識が本件特許出願前に存在したとは認められない。

(オ)
そうすると、引用発明1−1のA相において、水素添加レシチンを、卵黄由来のものから、酸価が5mgKOH/g以上の大豆由来のものに代えたうえ、A相を上記の水相中での分散の性質を有するものとし、その用途を「脂質膜構造体形成用」に特定することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(カ)
したがって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2〜9、11〜13、15〜16について

本件発明2〜9、11〜13、15〜16は、本件発明1を直接的に又は間接的に引用する本件発明1の従属発明であって、本件発明1を更に技術的に限定してなる発明である。
そして、上記(1)で説示したとおり、本件発明1は、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献1に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1を更に技術的に限定してなる、本件発明2〜9、11〜13、15〜16も、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献1に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明10について

ア 引用発明1−2との対比

本件発明10と引用発明1−2を対比する。

引用発明1−2における「水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)」は、本件発明10における「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」と、少なくとも「水素添加リン脂質」である点において共通する。
引用発明1−2における「ペンチレングリコール」は、上記(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明10における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明1−2の製造方法の目的物であるA相において、水性化粧料全量に対する質量%で、水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)は「1.0質量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「10質量%」が含まれているから、水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える1000重量部が含まれることになる。
引用発明1−2におけるA相は、水性化粧料全量に対する質量%で、1.0質量%の水素添加精製卵黄レシチン、10.0質量%のペンチレングリコール、0.5質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル、0.8質量%のフェノキシエタノール、から構成されているから、A相中の含有量に換算すると、8.1質量%の水素添加精製卵黄レシチン及び81.3質量%のペンチレングリコールが含まれるので、水素添加精製卵黄レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明1−2におけるA相に含まれる「フェノキシエタノール」は、特許権者提出した乙第1号証(再公表特許第2007/136067号)の次の記載:「logP値 1. 0以上の脂溶性薬剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、フェノキシエタノール、オクチルメトキシシンナメート等が挙げられる。」(【0094】])によれば、本件発明10における「(F)脂溶性化合物」に相当するものと認められる。
さらに、引用発明1−2における「A相」は、「組成物」である。
また、本件発明10は、組成物が、(A)〜(F)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明1−2におけるA相が「ポリグリセリン脂肪酸エステル」も含むことは、本件発明10との相違点にはならない。

そうすると、本件発明10と引用発明1−2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合することを有する組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、製造方法:
【化2】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明10は、水素添加リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」を採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものとした、「脂質膜構造体形成用」に供すると用途が特定された組成物を製造する方法であるのに対し、引用発明1−2は、水素添加リン脂質の酸価が特定されておらず、その種類も水素添加卵黄レシチンであって水素添加大豆リン脂質ではないうえ、組成物が上記の水相中での分散の性質を有することが特定されておらず、「脂質膜構造体形成用」との用途に供することも特定されていない組成物を製造する方法である点。

新規性の判断

本件発明10と引用発明1−2との上記アの相違点は、少なくとも水素添加リン脂質の種類が異なる点において実質的な相違点であるから、本件発明10は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

上記アの相違点について、さらに検討するに、当該相違点は、上記(1)アで説示した本件発明1と引用発明1−1との相違点と、実質的に同じであるといえる。
そして、上記(1)イで説示したとおり、当該相違点は実質的な相違点であって、上記(1)ウで検討したとおり、引用発明1−1のA相を、当該相違点に係る構成を備える脂質膜構造体形成用組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから、脂質膜構造体形成用組成物の製造方法に係る本件発明10も、上記(1)ウで本件発明1について述べたのと同様の理由により、引用文献1に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明14について

ア 引用発明1−4との対比

本件発明14と引用発明1−4を対比する。

引用発明1−4における「水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)」は、本件発明14における「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」と、少なくとも「水素添加リン脂質」である点において共通する。
引用発明1−4における「ペンチレングリコール」は、上記(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明14における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明1−4の水性化粧料の製造方法に用いるA相において、水性化粧料全量に対する質量%で、水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)は「1.0質量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「10質量%」が含まれているから、水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える1000重量部が含まれることになる。
引用発明1−4におけるA相は、水性化粧料全量に対する質量%で、1.0質量%の水素添加精製卵黄レシチン、10.0質量%のペンチレングリコール、0.5質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル、0.8質量%のフェノキシエタノール、から構成されていることから、A相中の含有量に換算すると、8.1質量%の水素添加精製卵黄レシチン及び81.3質量%のペンチレングリコールが含まれるので、水素添加精製卵黄レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明1−4におけるA相に含まれる「フェノキシエタノール」は、上記(3)アで説示したのと同様の理由により、本件発明14における「(F)脂溶性化合物」に相当するものと認められる。
さらに、引用発明1−4における「A相」は「組成物」であり、引用発明1−4における「B相」は「水相」である。
そして、本件発明14における「脂質膜構造体含有組成物」と、引用発明1−4における「水性化粧料」は、ともに「水含有組成物」である点で共通している。
また、本件発明14は、組成物が、(A)〜(F)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明1−4におけるA相が「ポリグリセリン脂肪酸エステル」も含むことは、本件発明14との相違点にはならない。

そうすると、本件発明14と引用発明1−4との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合して、組成物を得ることと、
前記組成物を、水相中に分散させることと、
を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、水含有組成物の製造方法:
【化3】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明14は、水素添加リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」を採用し、「脂質膜構造体形成用」と用途が特定された組成物を得ること、さらに、当該組成物を、「微細化手段を用いることなく水相中に分散させること」とを有する、「脂質膜構造体含有」組成物の製造方法であるのに対し、引用発明1−4は、水素添加リン脂質の酸価が特定されておらず、その種類も水素添加卵黄レシチンであって水素添加大豆リン脂質ではないうえ、A相である組成物の用途が「脂質膜構造体形成用」であるとは特定されておらず、A相である組成物をB相である水相に分散させる際に、「高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理」しており、得られた水含有組成物が「脂質膜構造体」を含有するとは特定されていない点。

新規性の判断

本件発明14と引用発明1−4との上記アの相違点は、少なくとも水素添加リン脂質の種類が異なる点において実質的な相違点であるから、本件発明14は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

上記アの相違点について、さらに検討する。

(ア)
引用文献1は、水素添加レシチンを用いた水性化粧料に係るものであって(摘記1(1))、引用文献1には、水素添加レシチンとは、卵黄、大豆等の天然物から抽出精製あるいは分画した精製レシチンに水素添加処理を施しリン脂質の構成脂肪酸を飽和型となるように処理したものであることが記載され(摘記1(4))、水素添加レシチンとしては、卵黄由来のもののほかに、大豆由来のものも使用できることが記載されている。
そして、引用発明1−4における「水素添加精製卵黄レシチン(キューピー(株)製「卵黄レシチンPL−100P」)」は、上記(1)ウ(ア)で説示したように、酸価が14と認められるから、酸価が5mgKOH/g以上である。

(イ)
しかしながら、引用文献1には、水素添加レシチンの酸価に着目し、これを特定の範囲とすべき旨の記載はなく、仮に、水素添加精製卵黄レシチンに代え、大豆由来の水素添加レシチンを使用するとしても、その際に、酸価が5mgKOH/g以上のものを選択する動機付けとなるような記載も示唆もない。
また、水性化粧料の製造に使用されるリン脂質として、その酸価が5mgKOH/g以上のものが好適であるというような技術常識が本件特許出願前に存在したとも認められない。

(ウ)
さらに、引用発明1−4は、A相を、水相であるB相と混合し、高圧乳化機を用いて圧力30,000psiで処理し、水性化粧料を製造する方法であるところ、引用文献1には、A相を水相であるB相に混合、分散させるための一般的な方法について、「【0013】本発明の水性化粧料を製造するには、従来のレシチンを用いた水性化粧料の調製方法に従って製造すれば良く、例えば、各成分を精製水等の水に均一に分散あるいは溶解、さらに必要に応じ加熱した後、高圧ホモゲナイザーで処理する方法等が挙げられる。」(摘記1(6))と記載されているだけで、高圧ホモゲナイザーのような微細化手段を要せずとも水性化粧料を製造できることは記載されていない。
加えて、上記(1)ウ(ウ)に示した乙第2号証の記載に鑑みると、多価アルコール、レシチン、非イオン界面活性剤、油相成分を含む組成物を水に分散させた場合、エマルジョンを形成することもあり得ると理解されることから、引用発明1−4における水性化粧料中でA相が「脂質膜構造体」を形成していると特定することもできない。

(エ)
そして、引用文献1〜15、特許権者が提出した乙第1〜7号証及び申立人が提出した参考資料1〜2の記載事項の全体をみても、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、本件請求項14に記載の式1で表される化合物を、特定の量比で混合して、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることにより、脂質膜構造体を含有する組成物が得られる、というような技術常識が本件特許出願前に存在したとは認められない。

(オ)
そうすると、引用発明1−4において、A相の水素添加レシチンを、卵黄由来のものから、酸価が5mgKOH/g以上の大豆由来のものに代えたうえで、A相を、微細化手段を要せず、水相であるB相中に分散させ、脂質膜構造体を含有する組成物を製造する方法とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(カ)
したがって、本件発明14は、引用文献1に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)引用文献1を主引例とした場合の取消理由1及び2のまとめ

以上のとおり、本件発明1〜3、9〜16は、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献1に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1〜16に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、引用文献1を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

2 引用文献2を主引例とした新規性進歩性の欠如(取消理由1及び2の 一部)について

当審は、本件発明1〜3、8〜16は、引用文献2に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献2に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないと

判断する。その理由は、以下のとおりである。

(1)本件発明1について

ア 引用発明2−1との対比

本件発明1と引用発明2−1を対比する。

引用発明2−1における「水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)」は、本件発明1における「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」と、少なくとも「水素添加リン脂質」である点において共通する。
引用発明2−1における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明1における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明2−1のA相において、水系分散体全量に対する質量%で、水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)は「1.00質量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「5.00質量%」が含まれているから、水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える500重量部が含まれることになる。
引用発明2−1のA相は、水系分散体全量に対する質量%で、1.00質量%の水素添加卵黄リン脂質、5.00質量%のペンチレングリコール、0.25質量%の20%ルテイン含有油、0.80質量%のフェノキシエタノール、から構成されているから、A相中の含有量に換算すると、14.2質量%の水素添加卵黄リン脂質及び70.9質量%のペンチレングリコールが含まれるので、水素添加卵黄リン脂質の含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
さらに、引用発明2−1の「A相」は、「組成物」である。
また、本件発明1は、組成物が、(A)成分と(B)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明2−1のA相が「20%ルテイン含有油」及び「フェノキシエタノール」も含むことは、本件発明1との相違点にはならない。

そうすると、本件発明1と引用発明2−1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加リン脂質と、(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、組成物:
【化1】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明1においては、水素添加リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」を採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有する組成物とし、その用途を「脂質膜構造体形成用」に供するものとしているのに対し、引用発明2−1においては、水素添加リン脂質の酸価が特定されておらず、その種類も水素添加卵黄リン脂質であって水素添加大豆リン脂質ではないうえ、組成物が上記の水相中での分散の性質を有することが特定されておらず、「脂質膜構造体形成用」との用途に供することも特定されていない点。

新規性の判断

本件発明1と引用発明2−1との上記アの相違点は、少なくとも水素添加リン脂質の種類が異なる点において実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

上記アの相違点について、さらに検討する。

(ア)
引用文献2には、化粧料用水系分散体が含有する乳化材として、卵黄リン脂質が保湿性に優れる点で好ましいと記載されているが(摘記2(7))、大豆リン脂質に関しては何も記載されていない。
また、引用発明2−1における「水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)」は、上記1(1)ウ(ア)で説示したように、酸価が14と認められるものの、引用文献2には、水素添加リン脂質の酸価に着目し、これを特定の範囲とすべき旨の記載はなく、水素添加卵黄リン脂質に代えて、大豆由来の水素添加リン脂質を用い、その酸価が5mgKOH/g以上のものを選択する動機付けとなるような記載も示唆もない。

(イ)
さらに、引用発明2−1のA相は、水相であるB相と混合し、高圧乳化機を用いて圧力150〜250MPaで均質化することにより、水系分散体が製されるものであるところ、上記1(1)ウ(ウ)で摘記した乙第2号証の記載に鑑みると、多価アルコール、レシチン、非イオン界面活性剤、油相成分を含む組成物を水に分散させた場合、エマルジョンを形成することもあり得ると理解されることから、引用発明2−1のA相が、上記の水系分散体中で「脂質膜構造体」を形成していると特定することはできない。
そうすると、引用発明2−1のA相は、水相中に分散させたときに、脂質膜構造体を形成するかが定かでないうえ、圧力150〜250MPaで均質化され、製造されるものであるから、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を具備しているものとは認めがたい。

(ウ)
そして、引用文献1〜15、特許権者が提出した乙第1〜7号証及び申立人が提出した参考資料1〜2の記載事項の全体をみても、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、本件請求項1に記載の式1で表される化合物を、特定の量比で含有させることにより、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する組成物が得られる、というような技術常識が本件特許出願前に存在したとは認められない。

(エ)
そうすると、引用発明2−1のA相において、水素添加リン脂質を、卵黄由来のものから、酸価が5mgKOH/g以上の大豆由来のものに代えたうえ、A相を上記の水相中での分散の性質を有するものとし、その用途を「脂質膜構造体形成用」に特定することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(オ)
したがって、本件発明1は、引用文献2に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2〜9、11〜13、15〜16について

本件発明2〜9、11〜13、15〜16は、本件発明1を直接的に又は間接的に引用する本件発明1の従属発明であって、本件発明1を更に技術的に限定してなる発明である。
そして、上記(1)で説示したとおり、本件発明1は、引用文献2に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献2に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1を更に技術的に限定してなる、本件発明2〜9、11〜13、15〜16も、引用文献2に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献2に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明10について

ア 引用発明2−2との対比

本件発明10と引用発明2−2を対比する。

引用発明2−2における「水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)」は、本件発明10における「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」と、少なくとも「水素添加リン脂質」である点において共通する。
引用発明2−2における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明10における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明2−2の製造方法の目的物であるA相において、水系分散体全量に対する質量%で、水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)は「1.00質量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「5.00質量%」が含まれているから、水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える500重量部が含まれることになる。
引用発明2−2におけるA相は、水系分散体全量に対する質量%で、1.00質量%の水素添加卵黄リン脂質、5.00質量%のペンチレングリコール、0.25質量%の20%ルテイン含有油、0.80質量%のフェノキシエタノール、から構成されているから、A相中の含有量に換算すると、14.2質量%の水素添加卵黄リン脂質及び70.9質量%のペンチレングリコールが含まれるので、水素添加卵黄リン脂質の含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明2−2におけるA相に含まれる「20%ルテイン含有油」は、本件発明10における「(F)脂溶性化合物」に相当するものと認められ、同「フェノキシエタノール」は、上記1(3)アで説示したのと同様の理由により、本件発明10における「(F)脂溶性化合物」に相当するものと認められる。
さらに、引用発明2−2における「A相」は、「組成物」である。

そうすると、本件発明10と引用発明2−2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合することを有する組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、製造方法:
【化2】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明10は、水素添加リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」を採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものとした、「脂質膜構造体形成用」に供すると用途が特定された組成物を製造する方法であるのに対し、引用発明2−2は、水素添加リン脂質の酸価が特定されておらず、その種類も水素添加卵黄リン脂質であって水素添加大豆リン脂質ではないうえ、組成物が上記の水相中での分散の性質を有することが特定されておらず、「脂質膜構造体形成用」との用途に供することも特定されていない組成物を製造する方法である点。

新規性の判断

本件発明10と引用発明2−2との上記アの相違点は、少なくとも水素添加リン脂質の種類が異なる点において実質的な相違点であるから、本件発明10は、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

上記アの相違点について、さらに検討するに、当該相違点は、上記(1)アで説示した本件発明1と引用発明2−1との相違点と実質的に同じであるといえる。
そして、上記(1)ウで検討したとおり、引用発明2−1のA相を、当該相違点に係る構成を備える脂質膜構造体形成用組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから、脂質膜構造体形成用組成物の製造方法に係る本件発明10も、上記(1)ウで本件発明1について述べたのと同様の理由により、引用文献2に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明14について

ア 引用発明2−4との対比

本件発明14と引用発明2−4を対比する。

引用発明2−4における「水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)」は、本件発明14における「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」と、少なくとも「水素添加リン脂質」である点において共通する。
引用発明2−4における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明14における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明2−4の化粧料用水系分散体の製造方法に用いるA相において、水系分散体全量に対する質量%で、水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)は「1.00質量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「5.00質量%」が含まれているから、水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える500重量部が含まれることになる。
引用発明2−4におけるA相は、水系分散体全量に対する質量%で、1.00質量%の水素添加卵黄リン脂質、5.00質量%のペンチレングリコール、0.25質量%の20%ルテイン含有油、0.80質量%のフェノキシエタノール、から構成されていることから、A相中の含有量に換算すると、14.2質量%の水素添加卵黄リン脂質及び70.9質量%のペンチレングリコールが含まれるので、水素添加卵黄リン脂質の含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明2−4におけるA相に含まれる「20%ルテイン含有油」は、本件発明14における「(F)脂溶性化合物」に相当するものと認められ、同「フェノキシエタノール」は、上記1(3)アで説示したのと同様の理由により、本件発明14における「(F)脂溶性化合物」に相当するものと認められる。
さらに、引用発明2−4における「A相」は「組成物」であり、引用発明2−4における「B相」は「水相」である。
そして、本件発明14における「脂質膜構造体含有組成物」と、引用発明2−4における「化粧料用水系分散体」は、ともに「水含有組成物」である点で共通している。

そうすると、本件発明14と引用発明2−4との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合して、組成物を得ることと、
前記組成物を、水相中に分散させることと、
を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、水含有組成物の製造方法:
【化3】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明14は、水素添加リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質」を採用し、「脂質膜構造体形成用」と用途が特定された組成物を得ること、さらに、当該組成物を、「微細化手段を用いることなく水相中に分散させること」とを有する、「脂質膜構造体含有」組成物の製造方法であるのに対し、引用発明2−4は、水素添加リン脂質の酸価が特定されておらず、その種類も水素添加卵黄リン脂質であって水素添加大豆リン脂質ではないうえ、A相である組成物の用途が「脂質膜構造体形成用」であるとは特定されておらず、A相である組成物をB相である水相に分散させる際に、「高圧乳化機を用いて圧力150〜250MPaで均質化」しており、得られた水含有組成物が「脂質膜構造体」を含有するとも特定されていない点。

新規性の判断

本件発明14と引用発明2−4との上記アの相違点は、少なくとも水素添加リン脂質の種類が異なる点において実質的な相違点であるから、本件発明14は、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

上記アの相違点について、さらに検討する。

(ア)
引用文献2には、化粧料用水系分散体が含有する乳化材として、卵黄リン脂質が保湿性に優れる点で好ましいと記載されているが(摘記2(7))、大豆リン脂質に関しては何も記載されていない。
また、引用発明2−4における「水素添加卵黄リン脂質(「卵黄レシチンPL−100P」、キューピー(株)製)」は、上記1(1)ウ(ア)で説示したように、酸価が14と認められるものの、引用文献2には、水素添加リン脂質の酸価に着目し、これを特定の範囲とすべき旨の記載はなく、水素添加卵黄リン脂質に代えて、大豆由来の水素添加レシチンを用い、その酸価が5mgKOH/g以上のものを選択する動機付けとなるような記載も示唆もない。

(イ)
さらに、引用発明2−4は、A相を、水相であるB相と混合し、高圧乳化機を用いて圧力150〜250MPaで均質化し、化粧料用水系分散体を製造する方法であるところ、引用文献2には、A相を水相であるB相に混合、分散させるための一般的な方法について、「【0043】 3.化粧料用水系分散体の製造方法 本発明の一実施形態に係る化粧料用水系分散体の製造方法は、ビタミンA効力を実質的に有さないカロテノイドおよび炭素数5以上の二価アルコールを水に分散させて粗分散液を調製する工程と、この粗分散液を高圧処理する工程とを含む。」(摘記2(8))と記載されており、高圧処理する工程を要せずとも化粧料用水系分散体を製造できることは記載されていない。
加えて、上記1(1)ウ(ウ)に示した乙第2号証の記載に鑑みると、多価アルコール、レシチン、油相成分を含む組成物を水に分散させた場合、エマルジョンを形成することもあり得ると理解されることから、引用発明2−4における化粧料用水系分散体中でA相が「脂質膜構造体」を形成していると特定することもできない。

(ウ)
そして、引用文献1〜15、特許権者が提出した乙第1〜7号証及び申立人が提出した参考資料1〜2の記載事項の全体をみても、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、本件請求項14に記載の式1で表される化合物を、特定の量比で混合して、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることにより、脂質膜構造体を含有する組成物が得られる、というような技術常識が本件特許出願前に存在したとは認められない。

(エ)
そうすると、引用発明2−4において、A相の水素添加リン脂質を、卵黄由来のものから、酸価が5mgKOH/g以上の大豆由来のものに代えたうえで、A相を、微細化手段を要せず、水相であるB相中に分散させ、脂質膜構造体を含有する組成物を製造する方法とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(オ)
したがって、本件発明14は、引用文献2に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)引用文献2を主引例とした場合の取消理由1及び2のまとめ

以上のとおり、本件発明1〜3、8〜16は、引用文献2に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献2に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1〜16に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、引用文献2を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

3 引用文献3を主引例とした新規性進歩性の欠如(取消理由1及び2の 一部)について

当審は、本件発明1〜3、8〜16は、引用文献3に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献3に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないと判断する。その理由は、以下のとおりである。

(1)本件発明1について

ア 引用発明3−1との対比

本件発明1と引用発明3−1を対比する。

引用発明3−1における「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」は、本件発明1における「水素添加大豆リン脂質」に相当する。
引用発明3−1における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明1における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明3−1のA部において、スカルプローション全量に対する重量%で、水添大豆レシチンは「0.24重量%」が含まれており(当審注:A部に含まれる「複合体」は、製造時に用いたt−ブチルアルコールが凍結乾燥によって除去されているので(摘記3(1)及び摘記3(5)【0010】〜【0012】)、20重量%のγ−オリザノールと80重量%の水添大豆レシチンとからなるものと認められるから、当該「複合体」0.3重量%中の80重量%が水添大豆レシチンであるとして算出した。)、ペンチレングリコールは「2.00重量%」が含まれている。そうすると、水添大豆レシチン100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える833重量部が含まれることになる。
引用発明3−1のA部は、スカルプローション全量に対する重量%で、0.3重量%の上記「複合体」、2.0重量%のペンチレングリコール、0.3重量%のPEG−60水添ヒマシ油、から構成されているから、A部中の含有量に換算すると、9.2重量%の水添大豆レシチン及び76.9重量%のペンチレングリコールが含まれており、「重量%」と「質量%」は割合を示す数値としては同じ値になるるので(以下、同様。)、水添大豆レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
さらに、「ベシクル」とは、引用文献15の記載(摘記15(1))によれば、リポソーム等の脂質二分子膜からなる小胞を意味するので、本件発明1における脂質膜構造体に相当するところ、引用発明3−1の「A部」は、ナノベシクル液の調製に使用される組成物であるから、本件発明1の「脂質膜構造体形成用組成物」に相当するものである。
また、本件発明1は、組成物が、(A)成分と(B)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明3−1のA部が「PEG−60水添ヒマシ油」も含むことは、本件発明1との相違点にはならない。

そうすると、本件発明1と引用発明3−1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加大豆リン脂質と、(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、脂質膜構造体形成用組成物:
【化1】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明1においては、水素添加大豆リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有する組成物としているのに対し、引用発明3−1においては、水素添加大豆リン脂質の酸価が特定されておらず、かつ、水素添加大豆リン脂質は、特定の製造方法を経て得られた、γ−オリザノールとの「複合体」(以下、「γ−オリザノール−リン脂質複合体」という。)として配合されており、さらに、脂質膜構造体形成用組成物が上記の水相中での分散の性質を有することも特定されていない点。

新規性の判断

上記アの相違点について検討する。

(ア)リン脂質の酸価について

引用発明3には、実施例で使用した水素添加大豆リン脂質について、PC含有量が82.8%であることは記載されているが、その酸価は記載されていない。

ここで、大豆リン脂質等の天然リン脂質中のPC含量と酸価(AV)との関係について、申立人が提出した参考資料1(特開平3−200723号公報)には、以下の記載がある。

摘記参考1(1)
「ホスファチジルコリン含量(以下PC含量と略記)・・・、ヨウ素価(以下IV値と略記)・・・及び酸価(以下AV値と略記)・・・のリン脂質で構成されたリポソームと・・・・」(2頁右上欄3〜6行)

摘記参考1(2)
「第1表に示すとおりPC含量、IV値又はAV値をそれぞれ異にする種々の天然レシチンを用い、・・・

」(3頁右下欄10〜11行、4頁右上欄「第1表」)

摘記参考1(3)
「第2表に示すとおりPC含量、IV又はAV値をそれぞれ異にする種々の大豆レシチンを用い、・・・

」(3頁左下欄2〜3行、4頁右下欄「第2表」)

参考資料1には、PC含有量が95%であり酸価が0.5又は1である天然レシチン(実施例4〜6、比較例2)、及び、PC含有量が75%であり酸価が20又は21である大豆レシチン等の天然レシチン(実施例16、比較例3、8)が記載されているものの、PC含有量が75%超〜95%未満である天然レシチンの酸価については記載がなく、PC含有量が82.8%である大豆リン脂質の酸価は不明である。
さらに、参考資料1には、PC含有量が95%以上であり酸価が1以下である大豆レシチン等の天然レシチン(実施例1〜2、4〜6、11〜15、比較例1〜2、6〜7)、及び、PC含有量が75%以下であり酸価が17以上である大豆レシチン等の天然レシチン(実施例7〜10、16〜19、比較例3〜5、8〜9)が記載されていることから、PC含有量と酸価との間に一定の関係があることは理解できるものの、その一方で、PC含有量が同じ67%であっても酸価が17〜22と異なる大豆レシチン(実施例17〜19)や、PC含有量が同じ65%であっても酸価が17〜20と異なる天然レシチン(実施例7〜10、比較例9)が記載されており、PC含有量が同じ天然レシチンであっても酸価が異なることが示されている。
これらの参考文献1の記載によれば、PC含有量からはリン脂質の酸価を一義的に特定できないことが理解される。

さらに、大豆リン脂質の精製方法と組成に関して、乙第4号証(フレグランスジャーナル臨時増刊,No.20(2007),pp.99〜106)には、以下の記載がある。

摘記乙4(1)
「2.高機能大豆レシチンの製造法
図1に大豆レシチンの主要成分の構造式と酵素分解に用いるホスホリパーゼ(PL)A2の作用部位を示す。従来からの油分約40%を含むペースト状大豆レシチンでは,有臭,有色,ハンドリングの悪さなどで化粧品素材としては用いることはできない。これを化粧品素材として仕上げるために大豆レシチンの分画と酵素分解が行われる。図2に分別レシチンの製造工程概要を示す。
リン脂質の溶解度が低いことを利用してペースト状レシチンのアセトン処理により大豆油や遊離脂肪酸の除去(脱油・精製)がなされ,高純度粉末レシチン(SLP-ホワイト)が得られる。化粧品素材としてはホスファチジルコリン(PC)が主素材となる。PCのエタノールに対する溶解度が高いことを利用して,エタノールによる溶剤分別が行われ,これとアセトン処理を組み合わせてPC含量が35%,55%,70%のSLP-PC35,同PC55,同PC70が生産される。PC70も化粧能品素材となるが,さらにPC含量が高い90%以上のものはPC70のクロマト処理によって製造され,水添後,化粧品分野以外に大豆油や脂溶性ビタミンの輸液用乳化剤として利用されている。
レシチンのエステル結合を加水分解する酵素としてPLA1,PLA2,PLC,PLDが知られているが,PLA2を用いたリゾレシチン(SLP-ペーストリゾ,同ホワイトリゾ,同LPC70)が商品化されている。」(100頁左欄1〜28行)

摘記乙4(2)


」(100頁「図2」)

摘記乙4(3)



(101頁「表2」)

上記の乙第4号証の記載から、化粧品用の大豆リン脂質は、PC含有量が35%、55%、70%のものは、エタノールによる溶剤分別とアセトン処理を組み合わせて製造されること、PC含有量が高い90%以上のものは、PC含有量が70%のものをクロマト処理することによって製造されること、及び、PC含有量が70%のSLP−PC70については、リン脂質含量(%)とリン脂質組成(%)が一定の範囲にあること、が知られていたことが理解される。
しかしながら、乙第4号証の記載をみても、PC含有量が82.8%である大豆リン脂質が、どのように精製、製造されることが一般的であったのかは不明であるし、そのリン脂質含量(%)やリン脂質組成(%)について、当業者に一般的に認識されている数値範囲が存在していたとの事実があるとも窺えない。
そうすると、やはり、引用発明3−1における「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」については、その酸価に影響を与える成分の含有量や条件等が不明であることから、酸価を特定することはできず、酸価が5以上であると推定することもできない。

(イ)新規性の判断のまとめ

以上のとおり、本件発明1と引用発明3−1との上記アの相違点については、少なくとも水素添加大豆リン脂質の酸価の異同が実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用文献3に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

(ア)リン脂質の酸価について

引用文献3には、リン脂質のPC含有量について、「天然のレシチンとしては、その精製度合いによりホスファチジルコリン(以下、PC)の含量が異なるものが市販されているが、本発明にはPC含有量が50〜90重量%ものを使用するのが好ましく、より好ましくは60〜90重量%である。」(摘記3(5)【0015】)との記載がある。
このうち、PC含有量が50〜75重量%の天然のレシチンについては、参考資料1の記載(摘記参考1(1)〜(3))をみるに、酸価が5以上であるものが多く存在していたと認められる。
その一方、乙第6号証(特開2011−153127号公報)の【0056】に記載されるとおり、PC含量が90%以上で酸価が3以下である精製大豆レシチン(SLP−PC92H、辻製油社製)が本件特許出願前に市販されていたことに鑑みると、PC含有量が90%である大豆リン脂質については、酸価が5未満であるものも、本願特許出願前に当業者に知られていたと理解される。
そうすると、引用文献3の上記記載に接した当業者は、PC含有量が50〜90重量%の天然レシチンであれば、酸価が5以上のものも、酸価が5未満のものも、同様な作用効果を有するものとして、ナノベシクル液の調製に使用できると、理解したといえる。

そして、引用文献3には、水添大豆レシチンの酸価に着目し、これを特定の範囲とすべき旨の記載はなく、その酸価が5mgKOH/g以上のものを選択する動機付けとなるような記載も示唆もない。
また、ナノベシクル液の調製のためのリン脂質として、その酸価が5mgKOH/g以上のものが好適であるというような技術常識が本件特許出願前に存在したとも認められない。

したがって、当業者が、引用発明3−1における「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」を、酸価が5mgKOH/g以上のものとする動機付けがあるとはいえない。

(イ)γ−オリザノール−リン脂質複合体について

次に、引用発明3−1のA部において、水素添加大豆リン脂質が、特定の製造方法を経て得られた「γ−オリザノール−リン脂質複合体」として配合されている点について検討する。

引用文献3において、γ−オリザノール(成分(A))とリン脂質(成分(B))が有機溶媒中に均一に溶解している溶液から有機溶媒を除去して、成分(A)及び(B)を同時に析出せしめて「γ−オリザノール−リン脂質複合体」を得ることは、発明の課題解決のために必須の構成であるから(摘記3(1)【請求項1】、摘記3(5)【0006】〜【0007】)、その具体例である実施例23を根拠として認定された引用発明3−1において、水添大豆レシチンを「γ−オリザノール−リン脂質複合体」ではない態様でA部に配合することを、引用文献3の記載に接した当業者が動機付けられるとはいえない。

また、引用文献3には、引用発明3−1の認定の根拠とした実施例23のスカルプローションの調製において、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとの「複合体」とペンチレングリコールとを含むA部を、ホモミキサー(7000rpm)で攪拌されている精製水からなるB部に加えて、分散させることによって、透明度の高いナノベシクル液を得た旨が記載されていることから、引用発明3−1のA部については、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものであると直ちに認めることはできない。
なお、引用文献3の記載によれば、「複合体」を使用して得られる乳化又は可溶化組成物は、外観に透明感があるとされているところ(摘記3(5)【0016】)、この「外観に透明感がある」とは、「直径3.5cmのガラス瓶に試料を入れて横から観察した際に、液の背後が透けて見える程度の透明感」(同【0016】)をいうものであり、実施例23で得られた透明度の高いナノベシクル液における分散物の平均粒子径が200nm以下であることを意味するものではない。

そして、引用文献3の記載(摘記3(5)【0009】)によれば、「本発明でいう複合体」とは、「複数の物質の混合物が単体個々の化学的性質を維持しつつ、複合体としてひとつの物理化学的性質を示すもの」であって、「例えば、複合化により温度に対する挙動が変化したり、溶媒に対する溶解性や分散性が変化する」ものであるとされている。
さらに、引用文献3には、「目的の複合体を半固体、固体、粉末の状態で得ることができるが、水に分散させる際の膨潤速度の観点から粉末状で得ることが好ましい。」(摘記3(5)【0011】)とも記載されていることから、「複合体」の性状は、水に分散させる際の挙動にも影響しているものと認められ、「複合体」の水への分散は、引用文献3に記載の全ての実施例で採用されているとおり、一旦、「複合体」をグリセリンやペンチレングリコール等の多価アルコールと混合した後に、水へ分散する方法が意図されていると解される。
加えて、引用文献3の次の記載:「複合体中の成分(A)の含有量が20重量%より少ないと、γ−オリザノールを高濃度に配合した場合、得られる乳化又は可溶化組成物の外観に透明感がなくなり、かつ、分散安定性も悪くなる。」(摘記3(5)【0016】)から、「複合体」の分散性や分散物の粒子径は、γ−オリザノールの含有量にも影響されることが理解できる。

これらの引用文献3の記載を総合的に考慮すると、引用発明3−1におけるγ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールとを含むA部を、水に分散させたときの分散性は、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物を、水に分散させたときの分散性とは、異なると解される。

さらに言えば、引用発明3−1におけるγ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールを含む組成物は、本件明細書において本件発明の態様として開示されている、γ−オリザノールと水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物とは、水への分散性という物性が異なると解されることから、両者は物としても異なると解される。

(ウ)本件発明1の想到容易性について

上記(ア)で検討したとおり、引用発明3−1において、「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」を、酸価が5以上のものとする動機付けがあるとはいえない。

また、上記(イ)で検討したとおり、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールとを含む、引用発明3−1のA部は、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物とは、物として異なると解されるから、仮に、引用発明3−1のA部において、水添大豆レシチンとして、PC含有量が50〜90重量%のものを選択した結果、その酸価が5以上のものが採用されたとしても、これをγ−オリザノールとの複合体としてペンチレングリコールとともに配合した組成物は、本件発明1における(A)成分である酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と(B)成分である式1の化合物とを含む組成物とは、構成が異なる物になるといえる。

仮に、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールを含む組成物が、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物と区別され得ない、すなわち、引用発明3−1と本件発明1の構成が、水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールを含む点において相違しないとしても、引用発明3−1におけるγ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールを含むA部は、本件明細書において本件発明の態様として開示されている、γ−オリザノールと水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物とは、水への分散性が異なると解されることから、引用発明3−1において、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質を採用したとしても、本件発明1と同様に「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものになるとはいえない。

そうすると、引用発明3−1のA部について、γ−オリザノールとの複合体を構成する水添大豆レシチンを「酸価が5mgKOH/g以上」のものとしたうえで、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、引用文献3に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立人の主張について

申立人は、意見書において、引用文献3による本件発明1〜3、8〜12、15〜16の新規性の欠如、及び、引用文献3を主引例とする本件発明1〜12、15〜16の進歩性の欠如について、まとめて主張しているところ、それらの主張の概要及びそれらに対する当審の判断を以下に示す。

(ア)申立人の主張の概要

申立人は、意見書において、概ね以下の主張をしている。

(a)引用文献3には、PC含有量が50〜90重量%のリン脂質を使用するのが好ましいと記載されていることから(【0015】)、引用文献3に記載の水添大豆レシチンの酸価は5未満である蓋然性が高いとの特許権者の主張は受け入れられず、むしろ当該酸価は5以上である蓋然性が高い。

(b)引用文献3の実施例23のA部は、組成物として本件特許の範囲内のものであり、当該A部が含有するPEG−60水添ヒマシ油はリポソームの微細化に使用される周知の界面活性剤である(引用文献8の図1参照)ことに鑑みると、当該A部が「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものであることは明らかである。また、当該実施例23で使用されるホモミキサーは、一般的な攪拌装置であり、ナノベシクル液の調製にホモミキサーを使用することは特段特殊な手法ではないから、ホモミキサーを使用していることのみをもって、当該A部が水相中に分散させたときに200nm以下に自発的に分散するものではない、とする特許権者の主張は適正でない。

(c)本件明細書の実施例1の記載から、水素添加大豆レシチンはペンチレングリコールに溶解するものと理解できる。そして、引用文献3に記載の複合体は、複合化によって溶媒に対する溶解性や分散性が変化するものであるから、引用文献3の実施例23のA部においては、水添大豆レシチン及びγ−オリザノールのペンチレングリコールへの溶解性が複合化によって変化したものと考えられる。しかし、溶解後の溶液中においては、複合化による物理化学的性質の変化は消失し、複合化されていない状態に戻って存在していると考えるのが妥当である。そうすると、ペンチレングリコールに溶解した後は、複合化したものを使用した場合も、複合化していないものを使用した場合も、水添大豆レシチンの状態に差はないことは明らかである。

(イ)申立人の主張に対する当審の判断

申立人の上記主張(a)〜(c)に対する当審の判断は、以下のとおりである。

(a)主張(a)について
引用文献3に、PC含有量が50〜90重量%のリン脂質を使用するのが好ましい旨の記載があるからといって、実施例23のA部が含有する「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」の酸価が5以上であるとの特定も推定もできないし、申立人は、PC含有量が82.8%である水添大豆レシチンの酸価が5以上であることを実際に確認できるような証拠の提示もしていない。
また、上記ウ(ア)で説示したように、当業者が当該A部おける水添大豆レシチンを酸価が5以上のものとする動機付けがあるともいえない。
したがって、申立人の上記主張(a)は採用できない。

(b)主張(b)について
上記ウ(イ)で説示したとおり、引用文献3に記載の実施例23におけるA部は、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとの「複合体」とペンチレングリコールとを含むものであり、γ−オリザノールと水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールとの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールとの単なる混合物とは、水への分散性という物性が異なり、物としても異なると解される。
当該A部が「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有する、という申立人の主張は、単なる推測に過ぎず、申立人は、そのような性質を当該A部が有するということを実際に確認した試験データ等の提示もしていない。
そして、上記ウ(イ)で説示したとおり、当該A部は、ホモミキサー(7000rpm)で攪拌することによってナノベシクル液が調製されるものであるから、水相中で自発的に分散するか否かは不明であり、ホモミキサーが一般的な攪拌装置であることは、当該A部が200nm以下に自発的に分散する性質を有することを何ら根拠付けるものではない。
したがって、申立人の上記主張(b)は採用できない。

(c)主張(c)について
上記ウ(イ)で説示したとおり、引用文献3に記載の実施例23におけるA部が含有する、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体は、ペンチレングリコールと混合した後も、複合体としての性質を保っているものと理解される。
一方、申立人は、ペンチレングリコールに溶解した後は、複合化したものを使用した場合も、複合化していないものを使用した場合も、水添大豆レシチンの状態に差がないことを実際に確認できるような試験データ等の提示もしていない。
したがって、申立人の上記主張(c)は採用できない。

(ウ)申立人の主張についてのまとめ

以上のとおり、意見書における申立人の上記主張(a)〜(c)は、いずれも採用できず、それら以外にも、申立人は縷々主張しているが、いずれも採用の限りではなく、引用文献3を主引例とした本件発明の新規性進歩性についての当審の判断を左右するものではない。

(2)本件発明2〜9、11〜13、15〜16について

本件発明2〜9、11〜13、15〜16は、本件発明1を直接的に又は間接的に引用する本件発明1の従属発明であって、本件発明1を更に技術的に限定してなる発明である。
そして、上記(1)で説示したとおり、本件発明1は、引用文献3に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献3に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1を更に技術的に限定してなる、本件発明2〜9、11〜13、15〜16も、引用文献3に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献3に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明10について

ア 引用発明3−2との対比

本件発明10と引用発明3−2を対比する。

引用発明3−2における「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」は、本件発明10における「水素添加大豆リン脂質」に相当する。
引用発明3−2における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明10における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明3−2の製造方法の目的物であるA部において、スカルプローション全量に対する重量%で、水添大豆レシチンは「0.24重量%」が含まれており(当審注:算出根拠は、上記(1)アで示したものと同じ。)、ペンチレングリコールは「2.00重量%」が含まれている。そうすると、水添大豆レシチン100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える833重量部が含まれることになる。
引用発明3−2におけるA部は、スカルプローション全量に対する重量%で、0.3重量%の「複合体」(20重量%のγ−オリザノールと80重量%の水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)とからなる。)、2.0重量%のペンチレングリコール、0.3重量%のPEG−60水添ヒマシ油、から構成されているから、A部中の含有量に換算すると、9.2質量%の水添大豆レシチン及び76.9重量%のペンチレングリコールが含まれることになるので、水添大豆レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
さらに、「ベシクル」とは、上記(1)アで説示したとおり、リポソーム等の脂質二分子膜からなる小胞を意味するので、本件発明10における脂質膜構造体に相当するところ、引用発明3−2における「A部」は、ナノベシクル液の調製に使用される組成物であるから、本件発明10における「脂質膜構造体形成用組成物」に相当するものである。
また、本件発明10は、脂質膜構造体形成用組成物が(A)〜(F)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明3−2におけるA部が「PEG−60水添ヒマシ油」も含むことは、本件発明10との相違点にならない。

そうすると、本件発明10と引用発明3−2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合することを有する脂質膜構造体形成用組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、製造方法:
【化2】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明10は、水素添加大豆リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有する脂質膜構造体形成用組成物の製造方法であるのに対し、引用発明3−2は、水素添加大豆リン脂質の酸価が特定されておらず、かつ、水素添加大豆リン脂質は、特定の製造方法を経て得られた、「γ−オリザノール−リン脂質複合体」として配合されており、さらに、脂質膜構造体形成用組成物が上記の水相中での分散の性質を有することも特定されていない製造方法である点。

新規性進歩性の判断

上記アの相違点について検討するに、当該相違点は、上記(1)アで説示した本件発明1と引用発明3−1との相違点と実質的に同じであるといえる。
そして、上記(1)イで説示したのと同様の理由により、本件発明10と引用発明3−2との上記アの相違点は、少なくとも水素添加大豆リン脂質の酸価の異同が実質的な相違点であるから、本件発明10は、引用文献3に記載された発明であるとはいえない。
また、上記(1)ウで検討したとおり、引用発明3−1のA部を、当該相違点に係る構成を備える脂質膜構造体形成用組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから、脂質膜構造体形成用組成物の製造方法に係る本件発明10も、上記(1)ウで本件発明1について述べたのと同様の理由により、引用文献3に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明14について

ア 引用発明3−4との対比

本件発明14と引用発明3−4を対比する。

引用発明3−4における「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」は、本件発明14における「水素添加大豆リン脂質」に相当する。
引用発明3−4における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明14における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明3−4のナノベシクル液の調製方法に用いるA部において、スカルプローション全量に対する重量%で、水添大豆レシチンは「0.24重量%」が含まれており(当審注:算出根拠は、上記(1)アで示したものと同じ。)、ペンチレングリコールは「2.00重量%」が含まれている。そうすると、水添大豆レシチン100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える833重量部が含まれることになる。
引用発明3−4におけるA部は、スカルプローション全量に対する重量%で、0.3重量%の「複合体」(20重量%のγ−オリザノールと80重量%の水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)とからなる。)、2.0重量%のペンチレングリコール、0.3重量%のPEG−60水添ヒマシ油、から構成されているから、A部中の含有量に換算すると、9.2質量%の水添大豆レシチン及び76.9重量%のペンチレングリコールが含まれることになるので、水添大豆レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
さらに、「ベシクル」とは、上記(1)アで説示したとおり、リポソーム等の脂質二分子膜からなる小胞を意味するので、本件発明14における脂質膜構造体に相当するところ、引用発明3−4における「A部」は、ナノベシクル液の調製に使用される組成物であるから、本件発明14における「脂質膜構造体形成用組成物」に相当し、引用発明3−4における「ナノベシクル液」は、本件発明14における「脂質膜構造体含有組成物」に相当する。
また、引用発明3−4における「精製水からなるB部」は、本件発明14における「水相」に相当する。
そして、本件発明14は、脂質膜構造体形成用組成物が(A)〜(F)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明3−4におけるA部が「PEG−60水添ヒマシ油」も含むことは、本件発明14との相違点にならない。

そうすると、本件発明14と引用発明3−4との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合して、脂質膜構造体形成用組成物を得ることと、
前記脂質膜構造体形成用組成物を、水相中に分散させることと、
を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、脂質膜構造体含有組成物の製造方法:
【化3】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明14は、水素添加大豆リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ことを有する、脂質膜構造体含有組成物の製造方法であるのに対し、引用発明3−4は、水素添加大豆リン脂質の酸価が特定されておらず、かつ、水素添加大豆リン脂質は、特定の製造方法を経て得られた「γ−オリザノール−リン脂質複合体」として脂質膜構造体形成用組成物であるA部に配合されており、さらに、脂質膜構造体形成用組成物であるA部を、ホモミキサー(7000rpm)で攪拌しながら、水相であるB部中に分散させ、脂質膜構造体含有組成物を調製する方法である点。

新規性の判断

上記(1)イ(ア)で説示したのと同様の理由により、本件発明14と引用発明3−4との上記アの相違点については、少なくとも水素添加大豆リン脂質の酸価の異同が実質的な相違点であるから、本件発明14は、引用文献3に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

(ア)リン脂質の酸価について

上記(1)ウ(ア)で説示したのと同様の理由により、当業者が、引用発明3−4における「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」を、酸価が5mgKOH/g以上のものとする動機付けがあるとはいえない。

(イ)γ−オリザノール−リン脂質複合体について

上記(1)ウ(イ)で説示したのと同様の理由により、引用発明3−4において、水添大豆レシチンを「γ−オリザノール−リン脂質複合体」ではない態様でA部に配合することを、当業者が動機付けられるとはいえないし、引用発明3−4におけるγ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールを含むA部を、水に分散させたときの分散性は、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物を、水に分散させたときの分散性とは、異なると理解され、当該物性が異なることから、引用発明3−4におけるγ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールを含む組成物は、本件明細書において本件発明の態様として開示されている、γ−オリザノールと水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水添大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物とは、物としても異なると解される。

(ウ)分散方法について

引用文献3には、γ−オリザノール−リン脂質複合体を使用して乳化又は可溶化組成物を調製する際の水相への分散方法の一般的な説明は記載されていないが、「微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ことが可能である旨の記載はないし、リン脂質を用いてリポソーム等の脂質膜構造体を含有する組成物を調製するに際し、「微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ことが可能であるという技術常識が本件特許出願前に存在したとも認められない。
そうすると、引用発明3−4のナノベシクル液の調製方法において、脂質膜構造体形成用組成物であるA部を、水相であるB部中に分散させる際に、ホモミキサー(7000rpm)を用いて攪拌しながら行うという手段を、あえて採用しないものとして、「微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ことを、当業者が動機付けられるとはいえない。

(エ)本件発明14の想到容易性について

上記(ア)で説示したとおり、引用発明3−4において、「水添大豆レシチン(PC含有量82.8%)」を、酸価が5以上のものとする動機付けがあるとはいえない。

また、上記(イ)で説示したとおり、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールを含む、引用発明3−4におけるA部は、γ−オリザノールと水添大豆レシチンとペンチレングリコールの単なる混合物とは、物として異なると解されるから、仮に、引用発明3−4において、水添大豆レシチンとして、PC含有量が50〜90重量%のものを選択した結果、その酸価が5以上のものが採用されたとしても、本件発明14における(A)成分である酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と(B)成分である式1の化合物とを含む組成物とは、構成が異なる物になるといえる。

仮に、引用発明3−4と本件発明14の間で、脂質膜構造体形成用組成物に関する構成が、水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールを含む点において相違しないとしても、引用発明3−4におけるγ−オリザノールと水添大豆レシチンとの複合体とペンチレングリコールとを含む組成物は、本件明細書に本件発明の態様として開示されている、γ−オリザノールと水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物、あるいは、γ−オリザノールを含まない水素添加大豆リン脂質とペンチレングリコールの単なる混合物とは、水への分散性が異なると解されることから、引用発明3−4において、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質を採用したとしても、本件発明14と同様に、脂質膜構造体形成用組成物を「微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ことができるとはいえない。

そうすると、引用発明3−4のナノベシクル液の調製方法において、A部に含まれるγ−オリザノールとの複合体を構成する水添大豆レシチンを「酸価が5mgKOH/g以上」のものとしたうえで、当該A部を「微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明14は、引用文献3に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)引用文献3を主引例とした場合の取消理由1及び2のまとめ

以上のとおり、本件発明1〜3、8〜16は、引用文献3に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献3に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1〜16に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、引用文献3を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

4 引用文献4を主引例とした新規性進歩性の欠如(取消理由1及び2の 一部)について

当審は、本件発明1〜3、8〜16は、引用文献4に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないと判断する。その理由は、以下のとおりである。

(1)本件発明1について

ア 引用発明4−1との対比

本件発明1と引用発明4−1を対比する。

引用発明4−1における「水添大豆レシチン」は、本件発明1における「水素添加大豆リン脂質」に相当する。
引用発明4−1における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明1における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明4−1のA部において、水分散物全量に対する重量%で、水添大豆レシチンは「2.0重量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「5.0重量%」が含まれているから、水添大豆レシチン100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える250重量部が含まれることになる。
引用発明4−1のA部は、水分散物全量に対する重量%で、2.0重量%の水添大豆レシチン、5.0重量%のペンチレングリコール、0.3重量%のフィトステロール、から構成されているから、A部中の含有量に換算すると、27.3重量%の水添大豆レシチン及び68.4重量%ペンチレングリコールが含まれることになるので、水添大豆レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明4−1の「A部」は、「組成物」である。
そして、本件発明1は、組成物が、(A)成分と(B)成分以外の成分を含むことを排除していないから、引用発明4−1のA部が「フィトステロール」も含むことは、本件発明1との相違点にはならない。

そうすると、本件発明1と引用発明4−1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加大豆リン脂質と、(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、組成物:
【化1】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明1においては、水素添加大豆リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有する組成物とし、その用途を「脂質膜構造体形成用」に供するものとしているのに対し、引用発明4−1においては、水素添加大豆リン脂質の酸価が特定されていないうえ、組成物が上記の水相中での分散の性質を有することが特定されておらず、「脂質膜構造体形成用」との用途に供することも特定されていない点。

新規性の判断

上記アの相違点について検討する。

(ア)リン脂質の酸価について

引用発明4−1のA部は、引用文献4において、「水分散物4」の調製に使用するものとして記載されているところ、「水分散物4」は「比較例1」の皮膚化粧料に配合されるものであるから(摘記4(1)〜(2))、「水分散物4」は化粧料用途に供されるものといえる。そして、「水分散物4」はセラミド誘導体を含有しない点において比較例とされているものであり、リン脂質である水添大豆レシチンは、その物性の詳細は不明であるものの、実施例と同じものが使用されている。また、引用文献4には、使用されるリン脂質について、「これらのうち、入手性や安定性等の観点から、大豆レシチン、卵黄レシチン及びこれらの水素添加物が好ましいものとして挙げられる。大豆レシチンや卵黄レシチンは、その精製度合いによりホスファチジルコリン純度の異なるものが市販されているが、いずれの純度のものを用いてもよい。」(摘記4(3)【0017】)と記載されているのみである。
ここで、上記3(1)イ(ア)で説示したように、乙第4号証によれば、化粧品分野においては、大豆レシチンとして、PC含量が24〜75%のもの(摘記乙4(3)「表2」)や、PC含量が90%以上のもの(摘記乙4(1))が使用されているところ、参考資料1の記載(摘記参考1(1)〜(2))及び上記3(1)ウ(ア)で引用した乙第6号証の記載(【0056】)にあるとおり、PC含量が90%以上の大豆レシチンとしては酸価が5未満のものが多数知られており、PC含量が24〜75%程度の大豆レシチンとしては酸価が5以上のものが多数知られている。
そうすると、引用発明4−1における水添大豆レシチンは、化粧料分野における一般的なものが使用されていると推測されるだけで、具体的な酸価やPC含量は不明であることから、その酸価を特定することはできず、酸価が5以上であると推定することもできない。

(イ)新規性の判断のまとめ

本件発明1と引用発明4−1との上記アの相違点については、少なくとも水素添加大豆リン脂質の酸価の異同が実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用文献4に記載された発明であるとはいえない。

進歩性の判断

引用発明4−1のA部は、上記イ(ア)で説示したとおり、比較例に使用するものとして引用文献4に記載されているところ、比較例に使用するための組成物を出発点として、水素添加大豆リン脂質に「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」という性質を有する組成物を得ようとする動機付けが、引用文献4の記載に接した当業者において生じるとはいいがたい。
したがって、本件発明1は、引用文献4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2〜9、11〜13、15〜16について

本件発明2〜9、11〜13、15〜16は、本件発明1を直接的に又は間接的に引用する本件発明1の従属発明であって、本件発明1を更に技術的に限定してなる発明である。
そして、上記(1)で説示したとおり、本件発明1は、引用文献4に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献4に記載された発明及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1を更に技術的に限定してなる、本件発明2〜9、11〜13、15〜16も、引用文献4に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明10について

ア 引用発明4−2との対比

本件発明10と引用発明4−2を対比する。

引用発明4−2における「水添大豆レシチン」は、本件発明10における「水素添加大豆リン脂質」に相当する。
引用発明4−2における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明10における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明4−2の製造方法の目的物であるA部において、水分散物全量に対する重量%で、水添大豆レシチンは「2.0重量%」が含まれて、ペンチレングリコールは「5.0重量%」が含まれているから、水添大豆レシチン100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える250重量部が含まれることになる。
引用発明4−2におけるA部は、水分散物全量に対する重量%で、2.0重量%の水添大豆レシチン、5.0重量%のペンチレングリコール、0.3重量%のフィトステロール、から構成されているから、A部中の含有量に換算すると、27.3質量%の水添大豆レシチン及び68.4質量%のペンチレングリコールが含まれることになるので、水添大豆レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明4−2における「A部」は、「組成物」である。
そして、引用発明4−2における「フィトステロール」は、本件発明10における「(F)脂溶性化合物」に相当する。

そうすると、本件発明10と引用発明4−2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合することを有する組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、製造方法:
【化2】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明10は、水素添加大豆リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」との性質を有するものとした、「脂質膜構造体形成用」に供すると用途が特定された組成物を製造する方法であるのに対し、引用発明4−2は、水素添加大豆リン脂質の酸価が特定されていないうえ、組成物が上記の水相中での分散の性質を有することが特定されておらず、「脂質膜構造体形成用」との用途に供することも特定されていない組成物を製造する方法である点。

新規性進歩性の判断

上記アの相違点について検討するに、当該相違点は、上記(1)アで説示した本件発明1と引用発明4−1との相違点と実質的に同じであるといえる。
そして、上記(1)イで説示したのと同様の理由により、本件発明10と引用発明3−2との上記アの相違点は、少なくとも水素添加大豆リン脂質の酸価の異同が実質的な相違点であるから、本件発明10は、引用文献4に記載された発明であるとはいえない。
また、上記(1)ウで検討したとおり、引用発明4−1のA部を、当該相違点に係る構成を備える脂質膜構造体形成用組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから、脂質膜構造体形成用組成物の製造方法に係る本件発明10も、上記(1)ウで本件発明1について述べたのと同様の理由により、引用文献4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明14について

ア 引用発明4−4との対比

本件発明14と引用発明4−4を対比する。

引用発明4−4における「水添大豆レシチン」は、本件発明14における「水素添加大豆リン脂質」に相当する。
引用発明4−4における「ペンチレングリコール」は、上記1(1)アで説示したとおり、「1,2−ペンタンジオール」を意味するものと認められ、本件発明14における「(B)式1で表される化合物」に相当する。
引用発明4−4の水分散物の調製方法に用いるA部において、水分散物全量に対する重量%で、水添大豆レシチンは「2.0重量%」が含まれ、ペンチレングリコールは「5.0重量%」が含まれているから、水添大豆レシチン100重量部に対して、ペンチレングリコールは100重量部を超える250重量部含まれることになる。
引用発明4−4におけるA部は、水分散物全量に対する重量%で、2.0重量%の水添大豆レシチン、5.0重量%のペンチレングリコール、0.3重量%のフィトステロール、から構成されているから、A部中の含有量に換算すると、27.3重量%の水添大豆レシチン及び68.4重量%のペンチレングリコールが含まれることになるので、水添大豆レシチンの含有量は「5〜40質量%」の範囲に、ペンチレングリコールの含有量は「30〜90質量%」の範囲に、それぞれ包含されることになる。
引用発明4−4における「A部」は、「組成物」であり、引用発明4−4における「精製水からなるB部」は、本件発明14における「水相」に相当する。
引用発明4−4における「水分散物」と本件発明14における「脂質膜構造体含有組成物」は、ともに「水含有組成物」である点で共通している。
また、引用発明4−4における「フィトステロール」は、本件発明14における「(F)脂溶性化合物」に相当する。

そうすると、本件発明14と引用発明4−4との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合して、組成物を得ることと、
前記組成物を、水相中に分散させることと、
を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、水含有組成物の製造方法:
【化3】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。」

<相違点>
本件発明14は、水素添加大豆リン脂質として「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」ことを有する、脂質膜構造体含有組成物の製造方法であるのに対し、引用発明4−4は、水素添加大豆リン脂質の酸価が特定されておらず、A部である組成物の用途も「脂質膜構造体形成用」とは特定されておらず、A部である組成物をB部である水相に分散させる際に、ホモミキサーを用いて攪拌(8000rpm、30分)しており、得られた水含有組成物が脂質膜構造体を含有するとも特定されていない点。

新規性進歩性の判断

上記アの相違点について検討するに、上記(1)イ(ア)で説示したのと同様の理由により、引用発明4−4における水添大豆レシチンは、その酸価を特定できず、酸価がが5以上であると推定することもできない。
また、上記(1)ウで説示したのと同様の理由により、比較例に使用するものとして引用文献4に記載されている水分散物の調製方法である引用発明4−4を出発点として、水素添加大豆リン脂質に「酸価5mgKOH/g以上」のものを採用し、「微細化手段を用いることなく水相中に分散させる」との工程を有する組成物の製造方法とする動機付けが、引用文献4の記載に接した当業者において生じるとはいいがたい。
したがって、本件発明14は、引用文献4に記載された発明であるとはいえず、また、引用文献4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)引用文献4を主引例とした場合の取消理由1及び2のまとめ

以上のとおり、本件発明1〜3、8〜16は、引用文献4に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明1〜16は、引用文献4に記載された発明、及び本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1〜16に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、引用文献4を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

5 サポート要件違反(取消理由3)について

(1)取消理由3の内容

当審が取消理由として通知した取消理由3の内容は、概ね以下のとおりである。

ア 本件発明の課題は、本件明細書の【0005】〜【0006】の記載からみて、「水素添加リン脂質を用いて脂質膜構造体を形成する技術において、微細な(例えば、平均粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を簡便に形成できる手段を提供すること」と認められる。

イ これに対して、

(ア)本件発明では、組成物中の(A)、(B)各成分の含有量や、(A)、(B)成分以外に、どのような成分がどれだけ入っていてよいかについても、何も特定していない点

(イ)本件明細書には、酸価が5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質を配合した場合には、どのような成分の働きによって、なぜ微細な脂質膜構造体の簡便な形成を可能となるのかについては、何も技術的な説明がない点

(ウ)本件特許出願時の技術常識から、水素添加されていること、及び、酸価が5mgKOH/g以上であることだけが特定されているリン脂質の全てが、同等のリポソーム形成能を有するとは認められない点

から、当業者が、(A)成分である水素添加リン脂質の酸価と、(A)、(B)等の成分の配合比しか特定していない本件発明が、本件発明の課題を解決できるとまでは認識することはできない。

(2)訂正後の本件発明について

本件訂正により、本件発明1〜16においては、(A)成分である水素添加リン脂質が、酸価が5mgKOH/g以上であることに加えて、大豆由来のものであることが特定され、さらに、脂質膜構造体形成用組成物の組成について、(B)成分である式1の化合物の含有量が、(A)成分100質量部に対して、100質量部を超えることに加えて、(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、(B)成分の含有量が30〜90質量%であることも特定された。

(3)サポート要件違反(取消理由3)についての当審の判断

ア 組成物中の(A)、(B)各成分の含有量、及び、(A)、(B)成分以外の成分を特定していない点(上記(1)イ(ア)で指摘した点)について

引用文献6〜8(摘記6(1)〜摘記8(1))に記載のとおり、リン脂質を用いて、多価アルコール法によりリポソームを形成する技術は、本件特許出願時の技術常識である。
そして、本件発明は、このような技術常識を踏まえたうえで、水素添加リン脂質を用いて脂質膜構造体を形成する技術において、微細な(例えば、平均粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を簡便に形成できる手段を提供することを課題とするものであり、その解決手段として、(A)成分の水素添加リン脂質、(B)成分の多価アルコールとして特定の成分を採用し、さらに、(A)、(B)成分の配合量を特定の範囲にすることが有効であることを見出したものである。
加えて、本件明細書の発明の詳細な説明には、(A)、(B)成分に加えて、(C)〜(F)成分を配合する場合の好ましい含有量についても記載されている(【0039】、【0044】、【0050】、【0059】)。
さらに、発明の詳細な説明には、(A)、(B)成分を本件発明1で特定される配合量とすれば、前記課題を解決できることが実施例として具体的に確認されており、さらに(C)〜(F)成分を前記好ましい含有量で配合した場合にも、前記課題を解決できることを実施例で確認している。

すなわち、発明の詳細な説明の【0106】(表1)に記載された「実施例1−1」〜「実施例1−3」の脂質膜構造体形成剤は、(A)成分と(B)成分を、様々な配合量、配合比で配合しているが、いずれも本件発明1で特定される含有量の範囲の条件を全て満たしており、100rpmとの低速攪拌条件下で水相に添加したときに、分散物の平均粒子径が39〜109nmである組成物を形成するものであることが確認されている。また、「実施例1−4」の脂質膜構造体形成剤は、(A)成分が20.0質量部、(B)成分が320.0質量部で構成され、(B)成分の配合量が94質量%と90質量%を超える点でのみ、本件発明1で特定される含有量の範囲の条件を満たしていないものの、100rpmとの低速攪拌条件下で水相に添加したときに、この脂質膜構造体形成剤も分散物の平均粒子径が31nmである組成物を形成するものであることが確認されている。

さらに、発明の詳細な説明の【0111】(表2C)に記載された「実施例2−1(c)」〜「実施例2−6(c)」では、(A)成分を15質量%、(B)成分を60質量%、(C)成分の水を24.4質量%、(D)成分の塩基性化合物であるアルギニンを0.45質量%、(E)成分の酸性化合物であるクエン酸を0.15質量%で含む脂質膜構造体形成剤が、100rpmとの低速攪拌条件下で水相に添加されたときに、分散物の平均粒子径が37nm〜82nmである組成物を形成することが確認されている。
発明の詳細な説明の【0112】(表2D)、【0115】(表3)に記載された「実施例2−4(b)」、「実施例3−1」〜「実施例3−5」では、(A)成分を15質量%、(B)成分を60質量%、(C)成分の水を25質量%含む脂質膜構造体形成剤が、100rpmとの低速攪拌条件下で水相に添加されたときに、分散物の平均粒子径が27nm〜134nmである組成物を形成することが確認されている。
発明の詳細な説明の【0118】(表4−1)、【0123】(表5)に記載された「実施例4−1」〜「実施例4−9」、「実施例5−1(a)」〜「実施例5−6(b)」では、成分(A)を15質量%、成分(B)を60質量%、成分(C)の水を22.4〜25質量%、成分(D)を0.044〜0.45質量%、成分(E)0.13〜0.17質量%、成分(F)2質量%を含む脂質膜構造体形成剤が、100rpmとの低速攪拌条件下で水相に添加されたときに、分散物の平均粒子径が70nm〜148nmである組成物を形成することが確認されている。
さらに、本件発明によって、脂質膜構造体が形成されることも、実施例4−1を例として確認している(【0104】)。
なお、発明の詳細な説明では、脂質膜構造体形成用組成物を水相に分散させるにあたって、水相を100rpmで攪拌しているけれども、このような低速攪拌であっても、平均粒子径が148nm以下である脂質膜構造体含有組成物が得られていることから、脂質膜構造体形成用組成物を水に自発的に分散させた場合にも、平均粒子径が200nm以下である脂質膜構造体含有組成物が得られると推認できる。

そうすると、発明の詳細な説明の記載内容に基づけば、(A)、(B)成分を、本件発明1〜16で特定される配合量とすることで、本件発明の課題を解決できると当業者は認識できるといえ、さらに、(C)〜(F)成分を配合する場合についても、発明の詳細な説明の記載から、当該課題を解決できるように、当業者は適宜、配合量を設定し得るというべきである。
さらに、(A)〜(F)成分以外の任意成分については、本件発明の課題の解決を明らかに妨げるような成分、例えば比較例として用いられた多価アルコールを多量に配合する態様の組成物は、本件発明には該当しないものと解するのが自然である。
また、当業者ならば、発明の詳細な説明において実際に本件発明の課題の解決の当否を認識できるように記載されている実施例及び比較例を参照することによって、当該課題を解決し得る種々の態様の本件発明の組成物とその製造方法を採用できることを理解し得るといえる。

イ 本件明細書には、微細な脂質膜構造体が簡便に形成されるメカニズムについて説明がない点(上記(1)イ(イ)で指摘した点)、及び、酸価が5mgKOH/g以上である水素添加リン脂質の全てが同等のリポソーム形成能を有するとは認められない点(上記(1)イ(ウ)で指摘した点)、について

訂正後の本件発明1では、酸価が5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質が水素添加大豆リン脂質であることが特定されている。

(ア)化粧品分野で利用される大豆リン脂質について

上記3(1)イ(ア)で摘記した乙第4号証の記載事項(摘記乙4(1)〜(3))によれば、化粧品分野で使用される大豆リン脂質は、ペースト状レシチンからアセトン処理により大豆油や遊離脂肪酸が除去され、高純度粉末レシチンとされたものであり、さらに化粧品素材としてはホスファチジルコリン(PC)が主素材となることから、エタノールによる溶剤分別やクロマト処理を行ってPC含量を高めたものも使用されていることが、本件特許出願時の技術常識であったと理解される。
そして、化粧品分野で利用される高純度粉末レシチンの一般的な組成は、リン脂質含量が90%以上であり、リン脂質は、PC、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、リゾホスファチジルコリン(LPC)で構成されると、当業者に認識されていたものと認められる。

(イ)酸価が5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質の脂質膜構造体形成能について

化粧品分野で利用される大豆リン脂質については、その組成が一定の範囲にあるものとして当業者に認識されていたことは、上記アで認定したとおりであるところ、水素添加大豆リン脂質は、大豆リン脂質を水素添加したものであるから、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸から対応する飽和脂肪酸になっているが、リン脂質の酸価に影響を与えるものではない。
そして、化粧品分野の大豆リン脂質の組成に鑑みれば、水素添加大豆リン脂質の酸価に影響を与えているのは、主に酸性脂質であるPAであり、さらにPIやPE、残存する脂肪酸も酸価に影響を与え得る要素となることを、当業者は理解するといえるし、上記3(1)イ(ア)で摘記した参考資料1の記載事項(摘記参考1(1)〜(2))や上記3(1)ウ(ア)に示した乙第6号証の記載事項(【0056】)に鑑みれば、酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質は、PC含量がそれほど高いレベルまで精製されていないものが該当することも、当業者は理解するといえる。
そうすると、化粧品分野で利用される酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質は、組成がある程度の範囲で定まっているといえる。
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明では、実施例2−1(a)〜実施例2−6(b)として、酸価がそれぞれ6.1、15.0、20.0、23.1、26.0、28.5である水素添加大豆リン脂質を配合した脂質膜構造体形成剤を調製し、これらが同様の脂質膜構造体形成能を有することを具体的に確認している(表2A、表2B、表2C)。
そうすると、発明の詳細な説明には、水素添加大豆リン脂質が微細な脂質膜構造体を簡便に形成するメカニズムこそ記載されていないものの、本件特許出願時の技術常識に照らして、発明の詳細な説明の記載をみれば、化粧品分野で利用される酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質であれば、脂質膜構造体の形成について同様の作用効果を示し、したがって、微細な脂質膜構造体を簡便に形成すると、当業者は認識するといえる。

ウ 小括

以上のとおり、取消理由3で指摘した点はいずれも理由がなく、本件発明1〜16は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、その課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるから、本件特許の請求項1〜16の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。

(4)申立人の主張について

ア 申立人は、意見書において、本件特許が訂正請求に付随した新たな取消理由を有することについて、概略、以下の主張をしている。

(ア)(実施可能要件違反)
本件特許は、任意成分を最大65質量%含むものであり、配合される任意成分によっては、脂質膜構造体を形成しない場合や、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散しない場合もあることが容易に推認されるところ、発明の詳細な説明には任意成分を含有する場合について特段の説明も記載されていないから、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(イ)(明確性要件違反)
(i)本件発明1は、「水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する」ことを発明特定事項とするものであり、発明の詳細な説明には「【0077】 脂質膜構造体形成剤の水相中への分散は、当該脂質膜構造体形成剤が実質的な機械的剪断力が無くとも自発的に微細な脂質膜構造体を形成することから、水相を撹拌しない状態で行って(脂質膜構造体形成剤を水相に)添加してもよいし、水相を撹拌させながら行ってもよい。この際、撹拌条件は特に制限されないが、例えば、公知の撹拌手段を用いて回転数10〜300rpmで行う。また、脂質膜構造体形成剤は、一括で添加してもよいし、分割して添加してもよいし、公知の滴下手段を用いて、任意の添加速度にて順次添加してもよい。」との記載があるけれど、攪拌の強弱や添加速度等の分散条件については特定されていないことから、どのような条件で水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として分散するものが、本件発明1に含まれるのかを、当業者は理解できない。

(ii)本件特許13,14には、発明特定事項として「微細化手段を用いることなく」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「マイクロフルイダイザー等の」(【0013】)と記載されている以外、微細化手段について具体的な記載がなく、一方で、【0077】の記載から「公知の撹拌手段を用いて回転数10〜300rpmで行う」方法は微細化手段に含まれないことが示唆されるにとどまるから、どのような手段が本件発明の「微細化手段」に含まれるのかを、当業者は理解できない。

(iii)したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

イ 上記ア(ア)(実施可能要件違反)について検討する。
上記5(3)ウで説示したとおり、本件発明1〜13,15、16には、脂質膜構造体形成用組成物について、成分(A)、(B)以外の成分の種類や配合量について特定はないものの、当業者ならば、本件明細書において実際に本件発明を実施できることが認識できるように記載されている実施例及び比較例を参照することにより、成分(A)、(B)以外の成分を配合する場合の、その種類や各含有量について、本件発明が実施できるように、適宜、設定し得るというべきである。
そして、本件発明が実施できないことが明らかであるような成分を配合する態様は、そもそも、本件発明には該当しないものと解するのが自然である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1〜16を実施することができるように記載されているといえるから、申立人の上記主張ア(ア)は採用できない。

ウ 上記ア(イ)(明確性要件違反)のうち(i)について検討する。
申立人は、本件発明の「自発的に分散する」との発明特定事項が不明確であると主張しているが、【0077】の記載から、水相を撹拌しない状態で行って(脂質膜構造体形成剤を水相に)添加しても分散することを意味していることは明らかである。
したがって、申立人の上記主張ア(イ)(i)は採用できない。

エ 上記ア(イ)(明確性)のうち(ii)について検討する。
申立人は、本件発明の「微細化手段」との発明特定事項に何が含まれるのかが不明確であると主張している。
しかし、本件明細書には、以下の記載がある。

「【0013】
本発明に係る脂質膜構造体形成用組成物によれば、マイクロフルイダイザー等の微細化手段を要することなく、微細な(例えば、平均粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を形成することができる。」

「【0077】
脂質膜構造体形成剤の水相中への分散は、当該脂質膜構造体形成剤が実質的な機械的剪断力が無くとも自発的に微細な脂質膜構造体を形成することから、水相を撹拌しない状態で行って(脂質膜構造体形成剤を水相に)添加してもよいし、水相を撹拌させながら行ってもよい。この際、撹拌条件は特に制限されないが、例えば、公知の撹拌手段を用いて回転数10〜300rpmで行う。」

「【0065】 当該製法において、混合温度は、特に制限されないが、好ましくは25〜120℃であり、より好ましくは40〜100℃であり、さらにより好ましくは60〜90℃である。また、混合時間も、特に制限されないが、好ましくは10〜60分である。混合方法は特に制限されないが、高度な機械的剪断力を必要としないことから、マグネチックスターラー(例えばホットスターラーなど)、パドルミキサー、プロペラミキサー、プラネタリーミキサーなどの公知の混合手段を用いて行うことができる。」

「【0067】
<脂質膜構造体形成用組成物の用途>
本発明に係る脂質膜構造体形成用組成物によれば、実質的な機械的剪断力が無くとも自発的に微細な脂質膜構造体を形成することができ、その際に水溶性成分や脂溶性成分を内包することができる。このことから、単に製造工場での製造コストを低減できるだけでなく、化粧品専門店などの店頭において、カウンセリングに基づいて任意の水溶性もしくは脂溶性の美容成分を内包した脂質膜構造体含有組成物を配合した化粧品や皮膚外用剤を要時調製するシステムも可能となり、脂質膜構造体の幅広い活用が期待できる。」

以上の記載から、本件発明の「微細化手段」とは、マイクロフルイダイザーのような、分散物の微細化のために高度な機械的剪断を行うことが目的の手段を意味しており、マグネチックスターラー(例えばホットスターラーなど)、パドルミキサー、プロペラミキサー、プラネタリーミキサーのように、単に混合・攪拌することが目的の手段を意味しないことは、当業者にとって明らかである。
したがって、申立人の上記主張ア(イ)(ii)も採用できない。

第7 特許異議の申立ての理由について

特許異議申立書(以下「申立書」という。)の記載全体からみて、申立人は、本件訂正前の請求項1〜16に係る本件特許を取り消すべき理由として、下記1に概要を示す申立理由1〜9を申し立てたものと認められる。また、申立人は、証拠方法として、下記2に示す甲第1〜13号証(以下、各甲号証を「甲1」等と略記することがある。)を提出した。

1 申立理由の概要

申立人が申し立てた申立理由1〜9の概要は、次のとおりのものと認められる。

[申立理由1](サポート要件違反)
本件特許の請求項1〜16に係る発明は、脂質膜構造形成用組成物中の成分(A)及び(B)の含有量が規定されていないため、発明の課題を解決できると合理的に判断できない組成物又は製造方法が包含されており、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているから、本件請求項1〜16に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由2](甲1による新規性欠如)
本件特許の請求項1〜3、8〜16に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1〜3、8〜16に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由3](甲1を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項4〜16に係る発明の特許は、甲1に記載された発明、甲5、6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4〜16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由4](甲2による新規性欠如)
本件特許の請求項1〜3、9〜16に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1〜3、9〜16に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由5](甲2を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項4〜16に係る発明の特許は、甲2に記載された発明、甲5、6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4〜16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由6](甲3による新規性欠如)
本件特許の請求項1〜3、9〜16に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1〜3、9〜16に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由7](甲3を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項4〜16に係る発明の特許は、甲3に記載された発明、甲5、6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4〜16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由8](甲4による新規性欠如)
本件特許の請求項1〜3、8〜16に係る発明は、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1〜3、8〜16に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

[申立理由9](甲4を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項4〜16に係る発明の特許は、甲4に記載された発明、甲5、6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4〜16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立人が提出した証拠(証拠方法)

申立人が申立書に添付して提出した甲第1〜13号証(以下、各甲号証を「甲1」等と略して示す。)は、次のとおりである。

甲1:特開2018−087148号公報(取消理由通知の引用文献3)
甲2:特開2004−051495号公報(取消理由通知の引用文献1)
甲3:特開2008−120712号公報(取消理由通知の引用文献2)
甲4:特開2011−195527号公報(取消理由通知の引用文献4)
甲5:特開昭60−007932号公報(取消理由通知の引用文献5)
甲6:特開昭60−153938号公報(取消理由通知の引用文献6)
甲7:フレグランスジャーナル,1987, No.87(Vol.15,No.6)pp.69−76(取消理由通知の引用文献7)
甲8:化粧品開発とナノテクノロジー,2007,pp.111−116,シーエムシー出版(取消理由通知の引用文献8)
甲9:レシチン その基礎と応用,1991年7月25日,pp.82−100,pp.134−159,幸書房(取消理由通知の引用文献9)
甲10:卵黄レシチンPL−100Pのパンフレット,2018年10月,キューピー株式会社(取消理由通知の引用文献10)
甲11:香粧品原料便覧 第5版,2005年7月25日,p.374,有限会社フレグランスジャーナル社(取消理由通知の引用文献11)
甲12:日本化粧品原料集2007,2007年6月28日,p.69,株式会社薬事日報社(取消理由通知の引用文献12)
甲13:C&T Beauty Science,2019年10月号,pp.34−35(取消理由通知の引用文献13)

3 申立理由に対する当審の判断

(1)申立理由1について
申立理由1は、上記第4に示した取消理由3のうち、上記第6の5(1)イ(ア)の点と同趣旨である。
そして、この点については、第6の5(3)アで当審の判断を説示したとおりであり、本件特許の請求項1〜16の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
したがって、本件請求項1〜16に係る発明の特許は、特許法第113条第4号に該当するものでないから、申立理由1によって取り消すことはできない。

(2)申立理由2及び3について
申立理由2及び3は、上記第4に示した取消理由1及び2のうち、引用文献3(甲1)を主引例とした理由と同趣旨である。
そして、上記第6の3で当審の判断を説示したとおり、本件請求項1〜3、8〜16に係る発明は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、本件請求項4〜16に係る発明は、甲1に記載された発明、甲5、6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、本件請求項1〜3、8〜16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、本件請求項1〜16に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、甲1を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

(3)申立理由4及び5について
申立理由4及び5は、上記第4に示した取消理由1及び2のうち、引用文献1(甲2)を主引例とした理由と同趣旨である。
そして、上記第6の1で当審の判断を説示したとおり、本件請求項1〜3、9〜16に係る発明は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、本件請求項4〜16に係る発明は、甲2に記載された発明、甲5、6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、本件請求項1〜3、9〜16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、本件請求項1〜16に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、いずれも同法第113条第2号に該当するものでないから、甲2を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

(4)申立理由6及び7について
申立理由6及び7は、上記第4に示した取消理由1及び2のうち、引用文献2(甲3)を主引例とした理由と同趣旨である。
そして、上記第6の2で当審の判断を説示したとおり、本件請求項1〜3、8〜16に係る発明は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、本件請求項4〜16に係る発明は、甲3に記載された発明、甲5,6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、本件請求項1〜3、8〜16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、本件請求項1〜16に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、いずれも同法第113条第2号に該当するものでないから、甲3を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

(5)申立理由8及び9について
申立理由8及び9は、上記第4に示した取消理由1及び2のうち、引用文献4(甲4)を主引例とした理由と同趣旨である。
そして、上記第6の4で当審の判断を説示したとおり、本件請求項1〜3、8〜16に係る発明は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、本件請求項4〜16に係る発明は、甲4に記載された発明、甲5,6に記載された事項、及び、甲7〜13に記載される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、本件請求項1〜3、8〜16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、本件請求項1〜16に係る特許は、同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、いずれも同法第113条第2号に該当するものでないから、甲4を主引例とした場合の取消理由1及び2によって取り消すことはできない。

4 小括

以上のとおり、本件請求項1〜16に係る特許は、申立理由1〜9によっても、取り消すことはできない。

第8 むすび

以上のとおりであるから、本件特許についての訂正の請求は、適法なものであり、これを認める。そして、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1〜16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質と、(B)下記式1で表される化合物と、を含有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する、脂質膜構造体形成用組成物。
【化1】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。
【請求項2】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、1600質量部以下である、請求項1に記載の脂質膜構造体形成用組成物(ただし、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびフェノキシエタノールを含むもの、20%ルテイン含有油およびフェノキシエタノールを含むもの、γ−オリザノール、グリセリンおよびマルチトールを含むもの、並びに、フィトステロールを含むものを除く)。
【請求項3】
前記(B)成分が、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、シクロヘキシルグリセリンおよびヘキシルグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、300質量部以上である、請求項1または2に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項4】
(C)水をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項5】
前記(B)成分および前記(C)成分の質量比が、6:1〜1:1である、請求項4に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項6】
(D)塩基性化合物および(E)酸性化合物のうち少なくとも1種をさらに含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項7】
前記(E)成分を含有し、前記(E)成分が有機酸である、請求項6に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項8】
(F)脂溶性化合物をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項9】
水相中に分散させた際のpHが4.0〜10.0である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物。
【請求項10】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合することを有する脂質膜構造体形成用組成物の製造方法であって、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、前記脂質膜構造体形成用組成物は、水相中に分散させたときに平均粒子径200nm以下の脂質膜構造体として自発的に分散する、製造方法:
【化2】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物を用いてなる脂質膜構造体含有組成物。
【請求項12】
前記脂質膜構造体が単層ラメラ構造体である、請求項11に記載の脂質膜構造体含有組成物。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることを有する脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【請求項14】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加大豆リン脂質、(B)下記式1で表される化合物、ならびに必要に応じて(C)水、(D)塩基性化合物、(E)酸性化合物および(F)脂溶性化合物からなる群より選択される1種以上を混合して、脂質膜構造体形成用組成物を得ることと、
前記脂質膜構造体形成用組成物を、微細化手段を用いることなく水相中に分散させることと、
を有し、前記(A)成分の含有量が5〜40質量%であり、前記(B)成分の含有量が30〜90質量%であり、前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超え、脂質膜構造体含有組成物の製造方法:
【化3】

上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2〜6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3〜6のシクロアルキル基であり、
Xは、−O−、−C(=O)O−または−O−C(=O)−であり、
nは、0または1である。
【請求項15】
請求項11または12に記載の脂質膜構造体含有組成物を配合してなる化粧料。
【請求項16】
請求項11または12に記載の脂質膜構造体含有組成物を配合してなる皮膚外用剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-28 
出願番号 P2019-170649
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 齋藤 恵
進士 千尋
登録日 2020-10-13 
登録番号 6778306
権利者 長谷川香料株式会社
発明の名称 脂質膜構造体形成用組成物およびその製造方法、脂質膜構造体含有組成物およびその製造方法、脂質膜構造体含有組成物を配合してなる化粧料、皮膚外用剤  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  

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