• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特29条の2  C08L
管理番号 1385154
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-08 
確定日 2022-03-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6768901号発明「熱可塑性エラストマー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6768901号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6768901号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許異議申立の経緯
特許第6768901号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成27年11月16日の特許出願(特願2015−224223号)の一部を令和1年8月29日に新たな特許出願(特願2019−157201号)としたものであって、令和2年9月25日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年10月14日である。)。
その後、令和3年4月8日に、本件特許の請求項1〜4に係る特許に対して、特許異議申立人である三菱ケミカル株式会社(以下、「申立人A」という。)により、特許異議申立書が提出され、また、令和3年4月8日に、本件特許の請求項1〜4に係る特許に対して、特許異議申立人である福井隆一(以下、「申立人B」という。)により、特許異議申立書が提出された。

特許異議申立て以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 4月 8日 特許異議申立書(申立人A)
同日 特許異議申立書(申立人B)
同年 8月19日付け 取消理由通知書
同年10月20日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 同月28日付け 通知書(申立人A及びB宛て)
同年11月29日 意見書(申立人A)
同年12月 3日 意見書(申立人B)

2 証拠方法
(1)申立人Aが提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 特許異議申立書に添付した証拠
・甲第1号証 特開平10−130451号公報
・甲第2号証 特開2016−6159号公報(特願2015−59678号)
・甲第3号証 特開2006−36812号公報
・甲第4号証 特開2014−205781号公報
・甲第5号証 特開平1−193352号公報
・甲第6号証 特開2001−207037号公報
・参考文献1 西原康浩著、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの最近の技術動向、日本ゴム協会誌、2003年、第76巻、第8号、第299〜303頁
・参考文献2 熱可塑性エラストマー、化学工業日報社、1991年2月15日 初版第1刷発行、第185〜194頁
・参考文献3 Junji MAYUMI 外5名著、Material Design and Manufacture of a New Thermoplastic Polyester Elastomer、The Society of Polymer Science,Japan、Polymer Journal Vol.40 No.1(2008年) 第1〜9頁
・参考資料4 真弓順次 外4名著、新規ポリエステル系熱可塑性エラストマーの材料設計とその工業化、Polymer Preprints,Japan(2007)Vol.56 No.1 第58〜60頁
・参考資料5 高橋英樹著、ポリエステル系エラストマー「プリマロイ」の技術開発、JETI(2002)Vol.50 No.12 第106〜107頁
・参考資料6 高橋英樹著、ポリエステル系エラストマー、工業調査会、平成13年3月1日発行、プラスチックス(2001年)Vol.52 No.3 第76〜80頁
・実験成績証明書1 盛弘之著 令和3年4月1日
・実験成績証明書2 盛弘之著 令和3年4月1日
(以下、「甲第1号証」〜「甲第6号証」を「甲1A」〜「甲6A」といい、上記「参考文献1」〜「参考文献6」を「参1−1A」〜「参6−1A」という。)
なお、申立人Aは、下記「第4 2(1)ウ」で示したように、甲2Aを申立理由3A(拡大先願)の証拠として提出しているところ、甲2Aは特開2016−6159号公報であるので、申立人Aが提出した証拠方法は、上記のように記載した。

イ 令和3年11月29日に提出した意見書に添付した証拠
・参考文献1 Ryohei TAKAHASHI 外6名著、Rheology of Polystyrene−block−poly[ethylene−co−(ethylene−propylene)]−block−polystyrene Tri−block Copolymer/Paraffinic Oil Blends −Effect of Oil Molecular Weight on the Order−Disorder Transition−、Nihon Reoroji Gakkaishi 2012年 Vol.40 No.4、第171〜177頁、
・参考文献2 西岡昭博著、高分子の伸張レオロジー、京都大学化学研究所 共同利用・共同研究拠点 化学関連分野の深化・連携を基軸とする先端・学際研究拠点 平成22年度成果報告書、第114〜115頁
(以下、上記「参考文献1」〜「参考文献2」を「参1−2A」〜「参2−2A」という。)

(2)申立人Bが提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 特許異議申立書に添付した証拠
・甲第1号証 特開平1−193352号公報
・甲第2号証 株式会社 日東分析センター 分析結果報告書 2021年3月25日
・参考資料1 特願2015−224223号に関する平成30年11月16日付の拒絶理由通知書
・参考資料2 特願2015−224223号に関する令和1年6月17日付の拒絶査定
・参考資料3 特開2001−279067号公報
・参考資料4 三橋健八著、加硫ゴムの物理試験法 新JISのポイントとISO規格との対比、日本ゴム協会誌(1995)第68巻 第1号 第47〜60頁
・参考資料5 株式会社テクロック デュロメータ/IRHD硬さ計のパンフレット 第96〜108頁
・参考資料6 山名吉浩著、新規ブロック化エラストマー「TU−ポリマー」、JETI(2002)Vol.50 No.12 第90〜92頁、株式会社ジェティ、平成14年11月1日発行
・参考資料7 特開平11−323073号公報
・参考資料8 特開2004−155824号公報
・参考資料9 特開2004−346109号公報
(以下、「甲第1号証」〜「甲第2号証」を「甲1B」〜「甲2B」といい、「参考資料1」〜「参考資料9」を「参1−1B」〜「参9−1B」という。)

イ 令和3年12月3日に提出した意見書に添付した証拠
・参考資料1 井手文雄著 実用ポリマーアロイ設計、株式会社工業調査会 1996年9月1日初版第1刷発行、第16〜21頁
・参考資料2 堀田巌著、新規ビニルエーテル系ポリオール、日本接着学会誌 2004年 Vol.40 No.6、第275〜277頁
・参考資料3 中村賢一著 粘着剤ベースポリマーとタッキファイヤーの混和性評価、東亞合成グループ研究年報 第16号 2013年、第24〜30頁
(以下、「参考資料1」〜「参考資料3」を「参1−2B」〜「参3−2B」という。)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを20〜200質量部、」とあるのを、「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み、」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを60〜200質量部含み」とあるのを、「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含み」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の明細書の段落【0007】に「本発明は、・・・(略)・・・に関する。」とあるのを、「本発明は、
〔1〕 熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、
前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、
前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含み、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)、
〔2〕 前記〔1〕記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に融着してなる、複合成形体
に関する。」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0093】に記載の「実施例1〜12及び比較例1〜6(実施例9は参考例である)」を、「実施例1〜12及び比較例1〜6(実施例3〜6、8、及び9は参考例である)」に訂正する。

(5)明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項3〜4は、訂正前の請求項1〜4に関連して請求されたものである。

(6)一群の請求項
訂正事項1〜4に係る訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における熱可塑性スチレン系エラストマーA100質量部に対する軟化剤Bの配合量について、「20〜200質量部」とあるのを「50〜150質量部」と限定し、また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を「熱可塑性スチレン系エラストマーA100質量部に対して、」「200〜300質量部含み」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正前の明細書の段落【0023】には、「軟化剤Bの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、・・・より好ましくは50質量部以上であり、・・・より好ましくは150質量部以下である。」と記載され、また、同【0030】には、「熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、・・・さらに好ましくは200質量部以上であり、・・・さらに好ましくは300質量部以下・・・である。」と記載されているから、訂正事項1による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項1における熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量について、「60〜200質量部」とあるのを「120〜200質量部」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正前の明細書の【0030】には、「熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対して、・・・より好ましくは120質量部以上であり、」と記載されているから、訂正事項2による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3による訂正は、訂正事項1及び2により訂正された特許請求の範囲の記載内容を整合させるために、明細書の段落【0007】の記載を訂正後の請求項1と同様に訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
上記(1)及び(2)で述べたように、訂正事項1及び2による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかであるから、訂正事項3による訂正も訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4による訂正は、訂正事項1及び2により特許請求の範囲の記載が減縮されたため、明細書の段落【0080】〜【0115】に記載された実施例のうち、実施例3〜6及び8が特許請求の範囲に記載された発明の具体例である実施例でなくなったことに整合させるために、明細書の段落【0093】の記載を訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正事項4による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1〜4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6768901号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1〜4に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の明細書及び特許請求の範囲を「本件訂正明細書等」という。)

「【請求項1】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、
前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、
前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含み、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。
【請求項2】
A硬度が70以下である、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
さらに、相溶化剤Dを、熱可塑性スチレン系エラストマーAの100質量部に対して、1〜30質量部含む、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に融着してなる、複合成形体。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1
本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲3A〜甲4Aに記載された発明であり、また、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲5Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由2
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1A、甲3A〜甲4Aに記載された発明に基いて、また、本件訂正前の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲5Aに記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願(特願2015−59678号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
(1)申立人A
申立人Aの申立理由の概要は以下のとおりである。
ア 申立理由1A(新規性
本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1A、甲3A〜甲4Aに記載された発明であり、また、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲5Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由2A(進歩性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1Aに記載された発明並びに甲4A及び甲6Aに記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3A(拡大先願)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

特願2015−59678号
なお、申立人Aが提出した甲2Aは、上記出願(以下「先願」という。)の公開公報である。

(2)申立人B
申立人Bの申立理由の概要は以下のとおりである。
ア 申立理由1B(新規性
本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

イ 申立理由2B(進歩性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1Bに記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由1〜3及び申立人がした申立理由1A〜3A及び申立理由1B〜2Bによっては、いずれも、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、甲5Aと甲1Bは同じ特許文献(特開平1−193352号公報)であるので、以下では甲5Aと記載する。
また、取消理由1〜2と申立理由1A〜1B及び申立理由1B〜2Bは、甲1A、甲3A〜甲5Aを主引用例とする新規性及び進歩性の理由であるので併せて検討する。
さらに、取消理由3と申立理由3Aは、同じ特許出願(特願2015−59678号)を引用先願とする拡大先願の理由であるので併せて検討する。

1 取消理由1〜2、申立理由1A〜1B及び申立理由1B〜2Bについて
(1)甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
ア 甲1A
甲1Aの請求項1〜5、8、15や段落【0005】、【0010】、【0012】〜【0013】、【0016】〜【0017】、【0021】〜【0022】、【0025】〜【0026】、【0030】、【0040】〜【0043】、【0063】及び【0064】以降に記載された実施例の記載、特に実施例3に着目すると、甲1Aには以下の発明が記載されていると認められる。

「成分(a)として、ブロック共重合体の水素添加誘導体(a1−1)である、水添S−B−S(1,2−ミクロ構造が72重量%、重量平均分子量が231,000、スチレン含有量が30重量%)を100重量部、
炭化水素系ゴム用軟化剤(a2−1)である、パラフィン系オイル(40℃動粘度が381.6cst、流動度が−15℃、引火点が300℃、重量平均分子量が746、環分析が0%)を150重量部、及び、
オレフィン系樹脂(a4−1)である、ポリプロピレン単独重合体(MFRが11g/10分(230℃、2.16kg加重)、結晶化度が60%)を20重量部からなる組成物を50重量%、
成分(b)として、ジメチルテレフタレート32重量部、1,4−ブタンジオール20重量部、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均重量分子量2000)70重量部に対し、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマーに対して200ppm添加し、150〜230℃で3.5時間エステル交換反応を行い、ついで、次亜リン酸ナトリウム・一水塩を、生成するポリマーに対し、50ppm、ヒンダードフェノール系酸化安定剤〔チバ・ガイギー(株)製品、商品名:Irganox1010〕0.18重量部を加え、3torr以下の減圧下、230〜245℃で溶融重縮合を行い製造したポリエステルポリエーテルブロック共重合体(ポリエステルポリエーテルブロック共重合体:密度1.05g/cm3 、ショアーD硬度29、MFR(245℃、2.16kg荷重)45g/10分、JIS−K7203による曲げ弾性率28MPa、DSCによる融解終了温度163℃)を50重量%からなる、JIS−A硬度が55である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲1A発明」という。)

イ 甲3A
甲3Aの請求項1、2、5や段落【0001】、【0008】、【0020】、【0022】、【0035】、【0067】、【0082】及び【0083】以降に記載された実施例の記載、特に比較例1に着目すると、甲3Aには以下の発明が記載されていると認められる。

「成分(イ)として、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体(ポリテトラメチレングリコール数平均分子量:2000、ポリテトラメチレングリコール含有量:72重量%)を59重量部、
成分(ハ)である軟化剤として、パラフィン系オイル(重量平均分子量:540、40℃の動粘度:95.54cst、流動点:−15℃、引火点:270℃)を12.3重量部、及び、
成分(ニ)として、スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物(スチレンブロック含有量:32重量%、水素添加率:98%以上、重量平均分子量:230,000、ブタジエンの1,2−ビニル結合量:70%)を28.7重量部からなる、
硬度が68である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲3A発明」という。)

ウ 甲4A
甲4Aの請求項1、6や段落【0001】、【0010】、【0014】〜【0015】、【0017】、【0020】、【0022】〜【0027】、【0030】、【0042】〜【0052】、【0058】、【0071】、【0083】及び【0084】以降に記載された実施例の記載、特に比較例6に着目すると、甲4Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「熱可塑性スチレン系エラストマーとして、SEBS-A(G1651(クレイトンポリマー社製)、スチレン系単量体の含有量33質量%、Mw29万)を50質量部、
軟化剤として、パラフィンオイル(PW90(出光興産社製)、動粘度(40℃)95.54mm2/s)を50質量部、
熱可塑性ポリエステル系エラストマーとして、TPEE-A((ポリエステルポリエーテルブロックコポリマー):ペルプレンP-30B(東洋紡社製)、テトラメチレングリコール・ポリブチレングリコール・テレフタル酸重縮合物、D硬さ29、融点160℃)を160質量部、
エポキシ化合物として、エポキシ化合物E(ボンドファーストE(住友化学社製)、エポキシ価0.08meq/g、Et-GMA共重合体、GMA含有量12質量%、Mw26万、MFR(190℃×21.2N)3g/10min)を1.6質量部、
相溶化剤として、酸変性SEBS(FG1901X(クレイトンポリマー社製)、無水マレイン酸変性SEBS、スチレン系単量体含有量30質量%、A硬さ71、無水マレイン酸含有量1.7質量%)を20質量部、及び、
ポリプロピレン(PX600N(サンアロマー社製)、曲げ弾性率1650MPa)を10質量部からなる、
A硬さが62である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲4A発明1」という。)

また、比較例7に着目すると、甲4Aには以下の発明が記載されていると認められる。

「熱可塑性スチレン系エラストマーとして、SEBS-A(G1651(クレイトンポリマー社製)、スチレン系単量体の含有量33質量%、Mw29万)を50質量部、
軟化剤として、パラフィンオイル(PW90(出光興産社製)、動粘度(40℃)95.54mm2/s)を50質量部、
熱可塑性ポリエステル系エラストマーとして、TPEE-A((ポリエステルポリエーテルブロックコポリマー):ペルプレンP-30B(東洋紡社製)、テトラメチレングリコール・ポリブチレングリコール・テレフタル酸重縮合物、D硬さ29、融点160℃)を160質量部、
相溶化剤として、酸変性SEBS(FG1901X(クレイトンポリマー社製)、無水マレイン酸変性SEBS、スチレン系単量体含有量30質量%、A硬さ71、無水マレイン酸含有量1.7質量%)を20質量部、及び、
ポリプロピレン(PX600N(サンアロマー社製)、曲げ弾性率1650MPa)を10質量部からなる、
A硬さが60である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲4A発明2」という。)

エ 甲5A
甲5Aの特許請求の範囲、第2頁右上欄第18〜20行、同頁左下欄第15行〜右下欄第19行、第3頁右上欄第7〜9行、第4頁左上欄第10行〜右上欄第3行、同頁左下欄第4〜6行、及び、同頁左下欄第7行以降に記載された実施例の記載、特に比較例4に着目すると、甲5Aには以下の発明が記載されていると認められる。

「成分Aとして、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体である、シェルケミカル社製「KRATON−G 1651」(Brookfield粘度;20重量%トルエン溶液で2000cps、77°F)を75重量%、及び、
成分Bとして、ゴム用軟化剤である、出光興産社製「PW380」(40℃動粘度381.6cSt)を25重量%の合計100重量部に対し、
成分Cとして、ポリエステル系エラストマーである、東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P−30B(JIS−A硬度 70(−)、結晶融点160(℃))を100重量部配合した、
JIS−A硬度が65である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲5A発明」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲1A発明との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲1A発明の「水添S−B−S」は、水素添加されたスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の略称であることは明らかであり、1,2−ミクロ構造が72重量%であるから、1,4−ミクロ構造は28重量%であり、これらの構造を水素添加するとエチレン・ブチレン構造となるといえるから、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が231,000、スチレン含有量が30重量%である。そうすると、甲1A発明の「水添S−B−S」は、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲1A発明の「炭化水素系ゴム用軟化剤(a2−1)」である「パラフィン系オイル」は、40℃動粘度が381.6cstであり、この「cst(センチストークス)」を単位として示される数値は、「mm2/s」を単位として示される数値と同じであることは技術常識であるといえ、381.6mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/s」に相当する。
甲1A発明の「ポリエステルポリエーテルブロック共重合体」は、原料として、ジメチルテレフタレート32重量部、1,4−ブタンジオール20重量部及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均重量分子量2000)70重量部から製造され、ジメチルテレフタレート及び1,4−ブタンジオールから生成されるポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均重量分子量2000)からなるソフトセグメントを有することは明らかであるから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを含む」に相当する。
甲1A発明の「ポリエステルポリエーテルブロック共重合体」におけるハードセグメントとソフトセグメントの重量比を計算すると、ハードセグメントは52重量部(=32+20)と算出されるが、メタノールが留去されることを考慮すると、40重量部(=52×(284−64)/284)と算出される。ソフトセグメントが70重量部であるから、ハードセグメント/ソフトセグメントの重量比は、40/70=36/64と算出される。

(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲1A発明は、「水添S−B−S」100重量部に対し、「パラフィン系オイル」を150重量部含むから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部」に相当する。
甲1A発明は、「水添S−B−S」を100重量部、「パラフィン系オイル」を150重量部及び「ポリプロピレン単独重合体」を20重量部有する成分(a)を50重量%、並びに、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を50重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物であり、これは、「水添S−B−S」と「パラフィン系オイル」の合計量100質量部に対して、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を108質量部(=50×100×(270/(50×250)))と算出される。
甲1A発明は、「水添S−B−S」を100重量部、「パラフィン系オイル」を150重量部及び「ポリプロピレン単独重合体」を20重量部有する成分(a)を50重量%、並びに、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を50重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物であり、「水添S−B−S」を100重量部に対して、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を270質量部(=50×100×(270/(50×100)))と算出されるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、」「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み」に相当する。
そして、甲1A発明が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。

そうすると、甲1A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」

<相違点1>
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCのハードセグメントとソフトセグメントとが、本件発明1では「10/90〜30/70の質量比」であるのに対し、甲1A発明では36/64の重量比である点

<相違点2>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲1A発明では明らかでない点

<相違点3>
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では「120〜200質量部含む」のに対して、甲1A発明では、108重量部である点

b 判断
事案に鑑み相違点3から検討する。
まず、相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、相違点3が実質的な相違点であることは明らかである。
次に、相違点3の容易想到性について検討するが、本件発明1は、本件訂正明細書等の段落【0006】によれば、柔軟性、極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れる熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供することを課題とし、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明である。そして、本件訂正明細書等の段落【0080】〜【0115】に記載された実施例をみてみると、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1の特定である「120〜200質量部」よりも少ない、本件訂正により参考例となった実施例3(熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が101質量部)、実施例5(同102質量部)及び実施例6(同72質量部)では、表面のベタツキ性については、「○」という「目視ではぬれ光沢はなく、指で触ると貼りつきはしないがすべりが良くない」という効果にとどまるものであるところ、本件発明1の具体例である実施例1は、上記表面のベタツキ性は「◎」であって「目視ではぬれ光沢はなく、表面がさらっとしてよく指が滑る」という具体的に優れた効果を示すことに加えて、上記した他の課題に関しても優れた効果を奏することが具体的なデータと共に記載されている。

一方、甲1Aには、段落【0005】に、発明の課題として、「本発明の目的は、柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、耐候性、耐摩耗性及び成形加工性に優れ、かつポリカーボネート、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂などの硬質樹脂に対する熱融着性に優れた熱可塑性エラストマー組成物及びその複合成形体を提供すること」が記載され、その特許請求の範囲の請求項1に「【請求項1】(a)一般式 A(B−A)nおよび/または(A−B)n〔ただし、式中のAはモノビニル置換芳香族炭化水素の重合体ブロック、Bは1,2−ビニル結合の割合が50超過〜90重量%の共役ジエン重合体ブロック、nは1〜5の整数である〕で表されるブロック共重合体の水素添加誘導体であって、重合体ブロックB中のオレフィン型二重結合の80%以上が水素添加された水添ブロック共重合体5〜95重量%
(b)ポリエステル系共重合体エラストマー95〜5重量%からなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。」が記載され、請求項4に、「【請求項4】成分(a)が、水添ブロック共重合体及びその100重量部に対して炭化水素系ゴム用軟化剤0〜200重量部、無機フィラー0〜200重量部、オレフィン系樹脂0〜100重量部、オレフィン系エラストマー0〜200重量部を含有するものである、請求項1に記載の組成物。」が記載され、炭化水素系ゴム用軟化剤の配合割合については、段落【0017】に「炭化水素系ゴム用軟化剤は、成分(a)の必須成分である水添ブロック共重合体100重量部に対して、好ましくは0〜200重量部、より好ましくは10〜180重量部、特に好ましくは50〜160重量部配合することができる。炭化水素系ゴム用軟化剤は、硬度調整及び成形時の溶融流動性を調節するために重要である」と記載され、成分(a)と成分(b)との配合割合については、段落【0040】及び【0041】に、
「【0040】(d)配合比
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する各成分の配合割合は、成分(a)が成分(a)と成分(b)の合計量のうち5〜95重量%、・・・特に好ましくは5〜50重量%である。上記成分(a)の配合割合が上記範囲を越えるものは得られる熱可塑性エラストマーの組成物の非オレフィン系樹脂に対する熱融着性が劣り、一方、上記範囲未満のものは柔軟性が悪化する。
【0041】また、成分(b)が成分(a)と成分(b)の合計量のうち95〜5重量%、・・・特に好ましくは95〜50重量%である。上記成分(b)の配合割合が上記範囲未満のものは得られる熱可塑性エラストマー組成物の非オレフィン系樹脂に対する熱融着性が劣り、上記範囲を越えるものは柔軟性が悪化する。」と記載されている。
そして、具体例である実施例3では、上記「(1)ア」で示した内容が記載され、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量は、上記aで示した<相違点3>のように、108重量部である。
また、実施例2では、「水添S−B−S」を100重量部、「パラフィン系オイル」を150重量部及び「ポリプロピレン単独重合体」を20重量部有する成分(a)を30重量%、並びに、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を70重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物であり、これは、「水添S−B−S」と「パラフィン系オイル」の合計量100質量部に対して、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を252質量部(=70×100×(270/(30×250))と算出される。

以上のように、甲1Aには、一般的な記載として、(a)水添ブロック共重合体の配合割合は、5〜95重量%、特に好ましくは5〜50重量%であること、(b)ポリエステル系共重合体エラストマーの配合割合は、95〜5重量%、特に好ましくは95〜50重量%であることが記載されているところ、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量の具体例としては、108重量部(実施例3)と252重量部(実施例2)の例が記載されているだけであり、これらの実施例は、本件発明1における熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量の下限及び上限を満足しない例であるといえる。
そして、本件発明1は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を「120〜200質量部」とすることにより表面のベタツキ性が優れることが具体的に示されているところ、甲1Aには、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を本件発明1で特定する「120〜200質量部」とすることにより、表面のベタツキ性に優れることについては何も記載がなく、また、これが技術常識であるともいえない。

そうすると、いくら甲1Aに、(a)水添ブロック共重合体の配合割合は、5〜50重量%が特に好ましく、(b)ポリエステル系共重合体エラストマーの配合割合は、95〜50重量%が特に好ましいと記載があるとしても、これらの記載は、あくまで甲1Aに記載された課題(柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、耐候性、耐摩耗性及び成形加工性に優れ、かつポリカーボネート、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂などの硬質樹脂に対する熱融着性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供すること)を解決するために好ましい範囲が記載されているにすぎず、これらの記載から、優れた表面のベタツキ性のために、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を「120〜200質量部」とすることが当業者にとり容易になし得たとすることはできない。

さらに、効果について検討すると、本件訂正明細書等の記載、特に実施例の記載をみると、本件発明1とすることにより、柔軟性、極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れることが具体的に示されているところ、甲1Aには、柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、耐候性、耐摩耗性及び成形加工性に優れ、ポリカーボネートなどの硬質樹脂に対する熱融着性に優れることが記載されているにとどまり、表面のベタツキ性については記載も示唆もされていないから、本件発明1は当業者が予測できない顕著な効果を奏するといえる。

c 申立人A及びBの主張の検討
申立人Aは、令和3年11月29日に提出した意見書にて、申立人Bは、令和3年12月3日に提出した意見書において、甲1Aの実施例を含めた全体の記載をみれば、相違点3を本件発明1のように「120〜200質量部」とすることは容易に想到し得るし、また、顕著な効果を奏さない旨を主張する。
しかしながら、甲1Aの実施例を含めた全体の記載をみても、相違点3は当業者が容易になし得たとすることができないことは、上記bで述べたとおりであるから、申立人A及びBの主張は採用できない。

d 小括
以上のとおりであるから、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Aに記載された発明ではなく、また、甲1Aに記載された発明及び甲1Aに記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たとはいえない。

(イ)甲3A発明との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲3A発明の「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」は、ブタジエンの1,2−ビニル結合量が70%ということから、1,4−ビニル結合量は30%であり、これらの構造を水素添加するとエチレン・ブチレン構造となるといえるから、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であるといえ、そして、重量平均分子量が230,000、スチレンブロック含有量が32重量%である。そうすると、甲3A発明の「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」は、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲3A発明の「軟化剤」である「パラフィン系オイル」は、40℃動粘度が95.54cstであり、上記(ア)a(a)で述べたとおり、95.54mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/s」に相当する。
甲3A発明の「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールを72重量%含むから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。

(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲3A発明は、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」を28.7重量部に対し、「パラフィン系オイル」を12.3重量部含み、これは、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」100質量部に対し、「パラフィン系オイル」を42.9重量部(=12.3×100/28.7)と算出される。

甲3A発明は、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」を28.7重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を59重量部含む熱可塑性エラストマー組成物であり、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」100質量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を206重量部(=59×100/28.7)と算出されるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、」「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み」に相当する。

甲3A発明は、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水素添加物」を28.7重量部、及び、「パラフィン系オイル」を12.3重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を59重量部からなる熱可塑性エラストマー組成物であるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含」むことに相当する。
そして、甲3A発明が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。

そうすると、甲3A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」

<相違点4>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲3A発明では明らかでない点

<相違点5>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する軟化剤Bの配合量が、本件発明1では、「50〜150質量部」であるのに対して、甲3A発明では、42.9重量部である点

b 判断
事案に鑑み相違点5から検討する。
相違点5は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する軟化剤Bの配合量が、本件発明1では、「50〜150質量部」であるのに対して、甲3A発明では、42.9重量部であり、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲3A発明ではない。
そうすると、本件発明1は、甲3Aに記載された発明ではない。
そして、甲3A発明は、甲3Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例1であるから、軟化剤Bの配合割合を本件発明1のように代える動機付けはない。
よって、本件発明1は甲3A発明に基づいて当業者が容易になし得たともいえない。

(ウ)甲4A発明1及び甲4A発明2との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲4A発明1及び2の「熱可塑性スチレン系エラストマー」である「SEBS-Aの(G1651(クレイトンポリマー社製)・・・)」は、本件明細書の段落【0096】に実施例で用いる「SEBS」として記載される本件発明の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」の具体例の1つであることからすれば、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が25万、スチレンブロック含有量が33質量%であるから、これは、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲4A発明1及び2の「軟化剤」である「パラフィン系オイル」は、40℃動粘度が95.54mm2/sであるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/s」に相当する。
甲4A発明1及び2の「ペルプレンP-30B(東洋紡社製)、テトラメチレングリコール・ポリブチレングリコール・テレフタル酸重縮合物」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、また、甲2B(分析結果報告書)には、ペルプレンP−30Bのハードセグメントは16質量%、ソフトセグメントは84質量%であると記載されているから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。

(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲4A発明1及び2は、「SEBS-A」50質量部に対し、「パラフィン系オイル」を50質量部含むから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部」に相当する。
甲4A発明1及び2は、「SEBS-A」を50質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーとしての「TPEE-A」を160質量部含む熱可塑性エラストマー組成物であり、「SEBS-A」を100質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーとしての「TPEE-A」を320質量部(=160×100/50)と算出される。
甲4A発明1及び2は、「SEBS-A」を50質量部、及び、「パラフィン系オイル」を50質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーとしての「TPEE-A」を160質量部含む熱可塑性エラストマー組成物であるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含」むことに相当する。
ここで、甲4A発明1は、「エポキシ化合物E(ボンドファーストE(住友化学社製)、エポキシ価0.08meq/g、Et-GMA共重合体、GMA含有量12質量%、Mw26万、MFR(190℃×21.2N)3g/10min)」を1.6質量部含むが、これは、グリシジルメチルアクリレートを12質量%含むエチレンとグリシジルメタアクリレートとの共重合体であるといえ、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。また、甲4A発明2は、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。

そうすると、甲4A発明1及び2と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」

<相違点6>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲4A発明1及び2では明らかでない点

<相違点7>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200〜300質量部」であるのに対して、甲4A発明1及び2では、320質量部である点

b 判断
事案に鑑み相違点7から検討する。
相違点7は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200〜300質量部」であるのに対して、甲4A発明1及び2では、320重量部であり、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲4A発明1及び2ではない。
そうすると、本件発明1は、甲4Aに記載された発明ではない。
そして、甲4A発明1及び2は、甲4Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例6及び7であるから、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合割合を本件発明1のように代える動機付けはない。
よって、本件発明1は甲4A発明1及び2に基づいて当業者が容易になし得たともいえない。

(エ)甲5A発明との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲5A発明の「スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体」である「KRATON−G 1651(シェルケミカル社製)」は、本件明細書の段落【0096】に実施例で用いる「SEBS」として記載される本件発明の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」の具体例の1つであることからすれば、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が25万、スチレンブロック含有量が33質量%であるから、これは、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲5A発明の「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」は、40℃動粘度が381.6cStであり、上記「(ア)a(a)」で述べたとおり、381.6mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/s」に相当する。
甲5A発明の「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P−30B」は、上記(ウ)a(a)で述べたとおり、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。

(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲5A発明は、「KRATON−G 1651」75重量%に対し、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を25重量%含むから、「KRATON−G 1651」100重量部に対し、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を33重量部(=25×100/75)と算出される。
甲5A発明は、「KRATON−G 1651」75重量%、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を25重量%の合計100重量部に対して、「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P−30B」を100質量部含む熱可塑性エラストマー組成物であり、「KRATON−G 1651」100重量部に対し、「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P−30B」を133重量部(=100×100/75)と算出される。
甲5A発明は、「KRATON−G 1651」75重量%、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を25重量%の合計100重量部に対して、「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P−30B」を100重量部含む熱可塑性エラストマー組成物である。
そして、甲5A発明が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。

そうすると、甲5A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」

<相違点8>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲5A発明では明らかでない点

<相違点9>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する軟化剤Bの配合量が、本件発明1では、「50〜150質量部」であるのに対して、甲5A発明では、33重量部である点

<相違点10>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200〜300質量部」であるのに対して、甲4A発明1及び2では、133質量部である点

<相違点11>
熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「120〜200質量部」であるのに対して、甲5A発明では「100重量部」である点

b 判断
事案に鑑み相違点10から検討する。
相違点10は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200〜300質量部」であるのに対して、甲5A発明では、133質量部であり、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲5A発明ではない。
そうすると、本件発明1は、甲5Aに記載された発明ではない。
そして、甲5A発明は、甲5Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例4であるから、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合割合を本件発明1のように代える動機付けはない。
よって、本件発明1は甲5A発明に基づいて当業者が容易になし得たともいえない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜4は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲1A、甲3A〜甲5Aに記載された発明であるといえず、また、甲1A、甲3A〜甲5Aに記載された発明及び甲1A、甲3A〜甲5Aに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1〜2、申立理由1A〜1B及び申立理由1B〜2Bによっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由3及び申立理由3Aについて
上記「第1 2(1)」で示したとおり、甲2Aは特願2015−59678号の公開公報(特開2016−6159号公報)であり、当該公報には、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の内容(以下「先願明細書等」という。)が記載されている。
ここでは、甲2Aの記載事項から、特許出願(特願2015−59678号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲または図面に記載された発明を認定する。

(1)甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
ア 甲2A
甲2Aの請求項1や段落【0006】、【0024】、【0075】及び【0076】以降に記載された実施例の記載、特に比較例2に着目すると、甲2Aには以下の発明が記載されていると認められる。

「成分(A)として、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体(ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:2,000、ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:77重量%、デュロ硬度A:80、MFR(230℃,21N):25g/10分)を35重量部(53.8重量%)、
成分(C)として、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物(旭化成ケミカルズ社製「タフテック(登録商標)N504」、前記式(1)におけるm:1、スチレン重合体ブロックの含有量:30重量%、重量平均分子量:250,000、1,2−付加構造割合:30重量%)を30重量部(46.2重量%)、
成分(D)として、炭化水素系ゴム用軟化剤(出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」、動粘度(40℃):90センチストークス、引火点(COC法):266℃)を15重量部(23.1重量%)、及び、
成分(E)として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製「ソフトン1200」、平均粒子径:1.80μm(カタログ値(空気透過法)))を20重量部(30.8重量%)からなる、
デュロ硬度Aが67である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲2A発明1」という。)

また、比較例5に着目すると、甲2Aには以下の発明が記載されていると認められる。

「成分(A)として、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体(ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:2,000、ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:72重量%、デュロ硬度A:84、MFR(230℃,21N):25g/10分)を35重量部(53.8重量%)、
成分(C)として、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物(旭化成ケミカルズ社製「タフテック(登録商標)N504」、前記式(1)におけるm:1、スチレン重合体ブロックの含有量:30重量%、重量平均分子量:250,000、1,2−付加構造割合:30重量%)を30重量部(46.2重量%)、
成分(D)として、炭化水素系ゴム用軟化剤(出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」、動粘度(40℃):90センチストークス、引火点(COC法):266℃)を15重量部(23.1重量%)、及び、
成分(E)として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製「ソフトン1200」、平均粒子径:1.80μm(カタログ値(空気透過法)))を20重量部(30.8重量%)からなる、
デュロ硬度Aが72である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲2A発明2」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲2A発明1及び甲2A発明2との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲2A発明1及び2の「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」は、1,2−付加構造割合が30重量%ということから、1,4−付加構造割合は70重量%であり、これらの構造を水素添加するとエチレン・ブチレン構造となるといえるから、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が250,000、スチレンブロック含有量が30重量%である。そうすると、甲2A発明1及び2の「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」は、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲2A発明1及び2の「炭化水素系ゴム用軟化剤」である「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」は、40℃動粘度が90センチストークスであり、上記「1(2)ア(ア)a(a)」で述べたとおり、90mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/s」に相当する。
甲2A発明1の「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールを77重量%含むから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。また、甲2A発明2の「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールを72重量%含むから、これも、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。

(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲2A発明1及び2は、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」を30重量部に対し、「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」を15重量部含むから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部」に相当する。
甲2A発明1及び2は、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」を30重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を35重量部含み、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」を100重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を117重量部(=35×100/30)含むと算出される。
甲2A発明1及び2は、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」を30重量部、及び、「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」を15重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を35重量部含み、「スチレン−ブタジエン−スチレンのブロック共重合体の水添物」と「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」100重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を78重量部(=35×100/45)含むと算出される。
そして、甲2A発明1及び2が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。

そうすると、甲2A発明1及び2と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で一応相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」

<相違点12>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲2A発明1及び2では明らかでない点

<相違点13>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200〜300質量部」であるのに対して、甲2A発明1及び2では、117質量部である点

<相違点14>
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では「120〜200質量部含む」のに対して、甲2A発明1及び2では、78重量部である点

b 判断
事案に鑑み相違点13から検討する。
相違点13は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200〜300質量部」であるのに対して、甲2A発明1及び2では、117重量部であり、この相違点は実質的な相違点である。そして、甲2A発明1及び2が、甲2Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例2及び5であることからすれば、上記相違点が課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
そうすると、本件発明1は甲2A発明1及び2と同一ではない。

イ 本件発明2及び4について
本件発明2及び4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2及び4は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲2Aに記載された発明と同一ではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由3、申立理由1Cによっては、本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
特許第6768901号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜4]について訂正することを認める。
当審が通知した取消理由及び特許異議申立人がした申立理由によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に有用な熱可塑性エラストマー組成物、及び該組成物が部材に融着した複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・工具・雑貨用品等の各種成形品に有用な組成物として、ポリエステル系エラストマーとスチレン系エラストマーとを含む熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。この熱可塑性エラストマー組成物は、成形品の用途に応じて種々の物性が求められる。例えば、ペングリップや電動工具グリップ等のグリップラバーに用いるためには、良好な成形性をはじめとして、複合材料本体を構成するポリカーボネート等の極性樹脂への融着性、良好な触感を得るための柔軟性、繰り返し握っても摩耗しないための耐摩耗性等が求められる。
【0003】
特許文献1には、モノビニル置換芳香族炭化水素の重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックからなるブロック共重合体の水素添加誘導体と、ポリエステル系共重合体エラストマーを含み、さらに、炭化水素系ゴム用軟化剤を含有してもよい熱可塑性エラストマー組成物に関する発明が開示されている。かかる組成物は硬質樹脂に対する熱融着性が良好であるとされているが、軟化剤については硬度調整及び成形時の溶融流動性の調節に重要であることが開示されているのみで、融着性に対して軟化剤が及ぼす効果については明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−130451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性エラストマー組成物は従来から知られており、ポリカーボネート樹脂等の極性樹脂と融着できることも知られているが、その作用機構は明らかではなく、融着強度が高く、柔軟性に優れ、表面ベタツキなどの問題を回避する組成物を選択することは困難である。
【0006】
本発明の課題は、柔軟性と極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れる熱可塑性エラストマー樹脂組成物、該組成物が部材に融着した複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕 熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、
前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、
前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含み、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)、
〔2〕 前記〔1〕記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に融着してなる、複合成形体 に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性と極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例4で得られた熱可塑性エラストマー組成物の断面の電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた熱可塑性エラストマー組成物の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有するものである。
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、極性樹脂への融着性、耐摩耗性、及び表面のベタツキ抑制に優れるが、これは、熱可塑性エラストマー組成物の相構造によるところが大きいと推察される。即ち、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に熱可塑性スチレン系エラストマーA及び軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有しており、強度が高く、極性樹脂との相溶性の高い熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが表面に露出する連続相となることにより、耐摩耗性及び極性樹脂への融着性が向上し、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bとの相溶体が分散相となって周囲が連続相に囲まれることにより、軟化剤Bのブリードアウトが阻害され、表面のベタツキが抑制される。
そこで、本発明では、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが連続相となるように、3成分の組成比を設定し、さらに、溶融粘度の高い方が分散相となりやすいため、熱可塑性スチレン系エラストマーAの分子量を高めに設定している。また、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bとが相溶するように、熱可塑性スチレン系エラストマーAにおいて、ハードセグメントであるスチレンブロックの割合を低めに設定している。
【0012】
熱可塑性スチレン系エラストマーAは、柔軟性と成形性の観点から、スチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(s1)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(b1)とからなるブロック共重合体(Z1)であることが好ましい。
【0013】
ブロック単位(s1)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0014】
ブロック共重合体(Z1)は、ブロック単位(s1)からなる硬い部分(ハードセグメント)と、ブロック単位(b1)とからなる柔らかい部分(ソフトセグメント)とからなり、全体の物性を決定する観点から、ブロック共重合体(Z1)におけるスチレン系単量体単位の含有量は、10〜50質量%であり、15〜40質量%がより好ましい。
【0015】
ブロック単位(b1)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。
【0016】
ブロック共重合体(Z1)は、水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が向上することから、その一部又は全部が水素添加されていることが好ましい。水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。本発明において、水素添加率は、ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来する炭素−炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、1H−NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることができる。
【0017】
ブロック共重合体(Z1)の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、(α−メチルスチレン)−エチレン・ブチレンブロック共重合体、(α−メチルスチレン)−エチレン・ブチレン−(α−メチルスチレン)ブロック共重合体等が挙げられる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び作業性の観点から、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、SEBS及び/又はSEEPSがより好ましい。
【0018】
熱可塑性スチレン系エラストマーAは、さまざまな特性のものが工業的に大量に生産されていて入手しやすい観点から、酸変性されていないことが好ましい。
【0019】
熱可塑性スチレン系エラストマーAの重量平均分子量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAを分散相とし、また耐摩耗性及び極性樹脂への融着性が向上する観点から、200,000以上、好ましくは300,000以上であり、成形性の観点から、500,000以下、好ましくは450,000以下である。熱可塑性エラストマーAが複数のエラストマーからなる場合は、各エラストマーの重量平均分子量の加重平均値が上記範囲内で入るものとする。
【0020】
熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性スチレン系エラストマーAの含有量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜35質量%である。
【0021】
軟化剤Bは、例えばパラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族系オイル等のゴム用軟化剤が挙げられるが、これらのなかでは、熱可塑性スチレン系エラストマーとの親和性が良好で、ブリードが起きにくいという観点から、パラフィンオイルが好ましい。
【0022】
軟化剤Bの40℃での動粘度は、高い方が、加熱溶融時の揮発を防ぎ、耐ブリード性も良くなることから、30mm2/s以上、好ましくは60mm2/s以上、より好ましくは80mm2/s以上であり、極性樹脂への融着性向上の観点から、より好ましくは150mm2/s以上であり、低い方が取扱いが容易であることから、500mm2/s以下、好ましくは450mm2/s以下、より好ましくは400mm2/s以下であり、耐摩耗性向上の観点から、より好ましくは200mm2/s以下である。
【0023】
軟化剤Bの含有量としては、軟化剤Bが少なすぎると組成物の柔軟性が低下し、各種配合成分の分散性が低下する。また、軟化剤Bが多すぎると、オイルブリードが生じやすく、極性樹脂への融着性が低下する。これらの観点から、軟化剤Bの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、20質量部以上、好ましくは35質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、200質量部以下、好ましくは175質量部以下、より好ましくは150質量部以下である。
【0024】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の軟化剤Bの含有量は、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜35質量%である。
【0025】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCは、ハードセグメント(硬い部分)とソフトセグメント(柔らかい部分)とを含むことが好ましく、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルブロックを有し、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロックを有するポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体であることがより好ましい。
【0026】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のハードセグメントである芳香族ポリエステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−又は2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルの1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4,4’−ジヒドロキシジビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの1種又は2種以上との重縮合体であることが好ましい。市販品としては、例えば、「Keyflex」(LGケミカル社製、商品名)、「ペルプレン」(東洋紡績株式会社製、商品名)、「ハイトレル」(東レ・デュポン株式会社製、商品名)、「フレクマー」(日本合成化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0027】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなることが好ましい。ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックの重量平均分子量は、400〜60,000が好ましい。脂肪族ポリエーテルブロックの重量平均分子量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0028】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCは、ソフトセグメントが多い方が融着性の面では有利になるが、摩耗性の面からはハードセグメントが多い方が好ましい。かかる観点から、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCにおけるハードセグメントとソフトセグメントとの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、10/90〜30/70、好ましくは13/87〜28/72、より好ましくは15/85〜25/75である。
【0029】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCのA硬度は、好ましくは50〜98、より好ましくは60〜95、さらに好ましくは70〜90である。なお、本発明において、A硬度はデュロメータタイプA硬度である。
【0030】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量としては、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが多いほど熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを連続相、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bとを島相とする相分離構造をとりやすく、その結果極性樹脂との融着性が良くなる。また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが少ない方が柔軟性に優れる。これらの観点から、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対して、60質量部以上、好ましくは100質量部以上、より好ましくは120質量部以上であり、300質量部以下、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下である。また、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、好ましくは100質量部以上、より好ましくは110質量部以上、さらに好ましくは150質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上であり、好ましくは500質量部以下、より好ましくは450質量部以下、さらに好ましくは350質量部以下、さらに好ましくは300質量部以下、さらに好ましくは250質量部以下である。
【0031】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、好ましくは40〜85質量%、より好ましくは55〜75質量%である。
【0032】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの総含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、相溶化剤D、ポリオレフィンE等を含有していてもよい。これらは、それぞれ単独であっても、併用されていてもよい。
【0034】
相溶化剤Dは、配合することで、極性樹脂との融着性が向上する。
【0035】
相溶化剤Dは、融着性向上効果に優れることから、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1、酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2、及びスチレン系エラストマーとウレタン系エラストマーのグラフトポリマーD3からなる群より選ばれた少なくとも1種のエラストマーが好ましい。
【0036】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1としては、スチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(s2)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(b2)とからなるブロック共重合体(Z2)の水素添加物を酸変性させたものが好ましい。
【0037】
ブロック単位(s2)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0038】
ブロック単位(b2)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。
【0039】
ブロック共重合体(Z2)は、ブロック単位(s2)からなる硬い部分(ハードセグメント)と、ブロック単位(b2)とからなる柔らかい部分(ソフトセグメント)とからなり、全体の物性を決定する観点から、ブロック共重合体(Z2)におけるスチレン系単量体単位の含有量は、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%である。
【0040】
ブロック共重合体(Z2)の水素添加は、一部であっても、全部であってもよいが、水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が得られる。それらの観点から、水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0041】
ブロック共重合体(Z2)の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン(スチレン制御分布)−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−クロロプレンゴム等が挙げられる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び作業性の観点から、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン・ブチレン(スチレン制御分布)−スチレンブロック共重合体(SEB(S)S)及びスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
ブロック共重合体(Z2)の水素添加物の酸変性は、特に限定されるものではないが、例えば、水素添加物にカルボキシル基又は酸無水物基を導入することによって行うことができる。上記のカルボキシル基又は酸無水物基の導入は、それ自体公知の方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、水素添加物と、アクリル酸、メタクリル酸等で例示される不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマール酸、ハイミック酸、イタコン酸等で例示される不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸等で例示される不飽和ジカルボン酸の無水物とを、有機過酸化物の存在下に、溶媒の存在下又は非存在下に加熱して、グラフト反応させることにより得ることができる。また、商業的に入手することもできる。
【0043】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の酸変性量は、相溶性及び作業性の観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%、さらに好ましくは0.5〜3.0質量%である。
【0044】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の重量平均分子量は、耐熱性の観点から、50,000以上が好ましく、溶融物の流動性及びゴム弾性の観点から、400,000以下が好ましい。これらの観点から、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の重量平均分子量は、好ましくは50,000〜400,000である。酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1は、1種のみが用いられていてもよく、重量平均分子量や1,2−ビニル結合量等が異なる2種以上が併用されていてもよい。2種以上が併用されている場合は、それらの加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれが上記範囲内であることがより好ましい。
【0045】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1のA硬度は、好ましくは30〜97、より好ましくは50〜93、さらに好ましくは70〜90である。
【0046】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン共重合体エラストマー、これらと非共役ジエンとの共重合エラストマー、これらの2種以上の混合物等が挙げられ、これらのものの少なくとも一部が酸変性されたものである。これらの中では、エチレン−α−オレフィン共重合体の酸変性物及びプロピレン−α−オレフィン共重合体の酸変性物が好ましい。
【0047】
酸変性処理は、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1と同様に行うことができる。
【0048】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2の酸変性量は、相溶性及び作業性の観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%である。
【0049】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2のA硬度は、好ましくは95以下、より好ましくは10〜90、さらに好ましくは20〜90である。
【0050】
スチレン系エラストマーとウレタン系エラストマーのグラフトポリマーD3としては、1個のスチレン系エラストマーブロックと1個のポリウレタンエラストマーブロックを有するジブロック共重合体であっても、スチレン系エラストマーとポリウレタンエラストマーブロックが合計で3個又は4個以上結合したポリブロック共重合体であってもよいが、耐熱性に優れ、加熱溶融時に悪臭を放出しない観点から、1個のスチレン系エラストマーと1個のポリウレタンエラストマーブロックが結合したジブロック共重合体が好ましい。市販品としては、(株)クラレ社製のクラミロン(登録商標)TUポリマー等が挙げられる。
【0051】
相溶化剤Dは、多すぎると相分離が形成し難くなるため、相溶化剤を用いる場合は、相分離構造を損なうことなく融着性を向上させる観点から、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0052】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の相溶化剤Dの含有量は、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0053】
ポリオレフィンEは、成形性の観点から、含んでいてもよい。
【0054】
ポリオレフィンEとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。
【0055】
ポリオレフィンEの含有量は、少ない方が柔軟性を保つことができることから、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0056】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、増粘剤を含有していてもよい。増粘剤を配合することで、熱可塑性エラストマー組成物を溶融成形後、金型内での冷却時に樹脂のコシが向上するため、短い冷却時間でも成形品を金型から取り出すことができるようになり、成形サイクル時間を短縮することができる。
【0057】
増粘剤としては、熱可塑性樹脂の成型加工の際に溶融張力を増大させる効果のあるものであればいずれでも用いることができるが、なかでもエポキシ系増粘剤、アクリル系増粘剤等が好ましい。
【0058】
エポキシ系増粘剤としては、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物が好ましい。
【0059】
エポキシ化合物の市販品としては、東亞合成(株)製のアルフォンUGシリーズ、日油(株)製のマープルーフGシリーズ、BASF製のジョンクリルADRシリーズ等が挙げられる。
【0060】
アクリル系増粘剤としては、アクリル高分子性加工助剤や、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン等が知られているが、本発明においては、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンは、アクリル変性によって熱可塑性樹脂との相溶性を向上させたポリテトラフルオロエチレンが、溶融混練で繊維化(フィブリル化)して繊維状のネットワークを形成するため、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度を増大させて成形性を向上させることができる。
【0061】
増粘剤を含む場合、熱可塑性エラストマー組成物中の増粘剤の含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%である。
【0062】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。なかでも極性エラストマーは、連続相である熱可塑性ポリエステル系エラストマーCに取り込まれ、組成物全体の柔軟性や融着性を向上させることができる。極性エラストマーとしては、特に制限されないが、例えばNBR(ニトリルゴム)、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維等の補強剤、無機充填剤、絶縁性熱伝導性フィラー、顔料、水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン等の難燃剤、帯電防止剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋助剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、熱可塑性ポリエステル系エラストマーC、さらに必要に応じて相溶化剤D、ポリオレフィンE等を含む原料を混合し、冷却により固化させて得られる。
【0065】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混合してもよいが、原料の混合は、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが溶融する条件下で行うことが好ましい。
【0066】
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが溶融する条件下とは、例えば、粘弾性測定によって決定できる熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの融点を基に定義することができ、静置状態で融点以上であれば溶融する条件であるが、溶融混練法では必ずしも静置状態で測定された融点ではなく、融点よりも低い温度で溶融することもあり、温度が高いほど溶融粘度が小さくなって混合しやすくなるが、あまり高いと熱分解が起きる恐れがある。これらの観点から、混練を伴うときの好ましい溶融温度範囲は、融点に対して−30℃〜+100℃であり、より好ましくは融点に対して−20℃〜+50℃である。
【0067】
溶融混練する場合には、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、予めヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0068】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する原料を混合して得られる生成物は、用途に応じて、ペレット、粉体、シート等の形状とすることができる。例えば、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定のシート状成形品や金型成形品とする。また、溶融混練物をルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。シート状の熱可塑性エラストマー組成物に、台紙等を貼付した中間製品としてもよい。
【0069】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、好ましくは70以下、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。また、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上である。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、複合成形用材料としても用いることができ、様々な材料に融着するため、異種材料からなる部材の張り合わせにも好適に用いることができる。例えば、金属、セラミック、ガラス及び極性樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の部材に融着させるために用いられ、特に極性樹脂等に対して良好な接着性を示す。
【0073】
金属としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、鉄、銅、亜鉛めっき鋼、マグネシウム、マグネシウム合金等、また各種めっき処理品等が挙げられる。
【0074】
極性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリプロピレンオキサイド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、LCP(液晶ポリマー)、アイオノマー等の極性樹脂、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、極性樹脂に融着させた場合、該極性樹脂からの剥離強度は、接着特性の観点から、120N/25mm以上が好ましい。
【0076】
本発明において、融着は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点以上の熱を加えて、融液にした後、融点以下の温度にして固化することで、融着対象の界面に固着する現象をいう。熱を加えるには、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、加熱蒸気、超音波ウェルダー、高周波ウェルダー、レーザー等を用いることができる。従って、融着部の界面が複雑な立体形状であっても、複雑な立体形状にうまくなじみ成形一体化することができる。
【0077】
従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は部材と一体となって複合成形体とすることもできる。これにより、複雑な接合面を有する部材や、互いに異なる形状の接合面を有する部材の複合化も可能となる。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体は、射出成形、射出圧縮成形、インサート成形、多色成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、熱プレス成形、発泡成形、レーザー融着成形、押出成形等の方法により、成形加工して得ることができるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接着剤のように自身が粘着性を有するものではなく、取り扱いが容易であるため、射出成形にも適用することができる。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体としては、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に極性樹脂がインサートされたインサート成形体、熱可塑性エラストマー組成物と、極性樹脂とを多色成形して得られる複合成形体等が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0081】
<成分A(熱可塑性スチレン系エラストマー)及び成分A’>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX−400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。
【0082】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0083】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光株式会社)製、PU−980
・カラムオーブン:昭和電工株式会社製、AO−50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器L−3300
・カラム種類:昭和電工株式会社製「K−805L(8.0×300mm)」及び「K−804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K−G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工株式会社製ポリスチレン
【0084】
<成分B(軟化剤)及び成分B’>
〔動粘度〕
JIS Z 8803に従って、40℃の温度で測定する。
【0085】
<成分C(熱可塑性ポリエステル系エラストマー)及び成分C’>
〔ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)〕
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX−400)を用いて、重クロロホルム溶媒中、3〜5vol%濃度、25℃でプロトンNMR測定を行い、分子構造中の各種酸素に隣接するメチレンピークのシグナル強度比から算出する。
【0086】
〔A硬度〕
JIS K 6253 タイプAにて測定をする。
【0087】
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/minで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
【0088】
<成分D(相溶化剤)及び成分D’>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX−400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。
【0089】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0090】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光株式会社)製、PU−980
・カラムオーブン:昭和電工株式会社製、AO−50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器L−3300
・カラム種類:昭和電工株式会社製「K−805L(8.0×300mm)」及び「K−804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K−G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/分
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工株式会社製ポリスチレン
【0091】
〔A硬度〕
JIS K 6253で規定される方法に準拠して測定する。
【0092】
〔酸変性量〕
変性する前のベース材料と有機酸のブレンド物を0.1mmのスペーサーを用いてプレスしIRを測定し、特徴的なカルボニル(1600〜1900cm−1)の吸収量と有機酸の仕込量から検量線を作成し、酸変性体のプレス板のIR測定(IR測定器:堀場製作所製FT−210)を行い、変性量(酸含有量)を決定する。
【0093】
実施例1〜12及び比較例1〜6(実施例3〜6、8、及び9は参考例である)
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の作製
パラフィンオイル以外の表5〜7に示す材料をドライブレンドし、これにパラフィンオイルを含浸させて混合物を作製した。その後、混合物を下記の条件で、押出機で溶融混練して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、厚さ3mm程度に切断し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0094】
〔溶融混練条件〕
押出機:KZW32TW−60MG−NH(商品名、(株)テクノベル製)
シリンダー温度:180〜220℃
スクリュー回転数:300r/min
【0095】
実施例及び比較例で使用した表5〜7に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレートを作製した。
【0101】
〔射出成形条件〕
射出成形機:100MSIII−10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度:200℃
射出圧力:30%
射出時間:3sec
金型温度:40℃
【0102】
実施例及び比較例で得られた組成物について、下記の評価を行った。なお、結果を表5〜7に示す。
【0103】
〔柔軟性〕
射出成形から1日経過したプレート(125mm角プレート)を用い、JIS K 6253で規定される方法に準拠してデュロメータA硬度を測定した。A硬度は、70以下が好ましい。
【0104】
〔熱融着性〕
厚さ4mm×幅25mm×長さ125mmの金型内に下記の極性樹脂をインサートし、下記条件で、実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形し、短冊状の融着試験片を作製した。
【0105】
<インサート材(極性樹脂)>
(1) サイズ:厚さ2mm×幅25mm×長さ120mm
(2) 種類:PC(ポリカーボネート):三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンH−3000
【0106】
<射出成形条件>
射出成形機:三菱重工業(株)製、100MSIII−10E
射出成形温度:240℃
射出圧力:98MPa、射出速度:50%、保持圧:20%、保持時間:10sec
射出時間:2sec
金型温度:40℃
【0107】
得られた融着試験片を用い、雰囲気温度23℃で熱可塑性エラストマー層と極性樹脂層とを180°方向に50mm/minで引張試験を行い、表皮材層と基材層の剥離強度(単位:N/25mm)を測定した。剥離強度は、120N/25mm以上が好ましい。
【0108】
〔耐摩耗性(テーバー摩耗試験)〕
射出成形したプレート(125mm角プレート)を用い、JIS K 7204に準拠し、23℃、摩耗輪;H−22、回転速度;72r/min、回転回数;1000回、荷重;1000gで摩耗損失量(mg)を測定した。摩耗損失量は、300mg以下が好ましい。
【0109】
〔表面ベタツキ性〕
射出成形したプレート(125mm角プレート)を雰囲気温度23℃で24時間静置した後、表面を目視により観察するとともに指で触り、以下の評価基準に従って、表面ベタツキ性を評価した。
<評価基準>
◎:目視ではぬれ光沢はなく、表面がさらっとしてよく指が滑る。
○:目視ではぬれ光沢はなく、指で触ると貼りつきはしないがすべりが良くない。
△:目視ではぬれ光沢はないが、指で触ると貼りつくようなタックのある。
×:表面にぬれ光沢があって、指で触ると貼りつくようなタックのある。
【0110】
〔相分離構造〕
射出成形したプレート(125mm角プレート)の断面方向に、端から10mmまで切削した切削面をミクロトームで0.1mm削って平面出しをした後、切削面をルテニウム塩溶液で1時間染色した。走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズS4800型)で切断面を撮影して、相分離構造を確認し、「海島」、「共連続」、「海島/共連続」のいずれの構造であるかを判断した。なお、「海島/共連続」は、全体的には海島構造であるが、一部に分散相の連続性がみられる共連続相が存在していることを示す。
【0111】
実施例4と比較例1の電子顕微鏡写真を図1、2に示す。黒い箇所が熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bからなる分散相であり、実施例4(図1)では、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを連続相とする海島構造を形成している。これに対し、比較例1(図2)では、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bからなる相が連続相となっており、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの連続相と共連続構造を形成している。
【0112】
【表5】

【0113】
【表6】

【0114】
【表7】

【0115】
以上の結果より、実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、極性樹脂への融着性、及び耐摩耗性に優れており、表面ベタツキが起き難く、射出成形による成形材料としても有用であることが分かる。
これに対し、熱可塑性スチレン系エラストマーの重量平均分子量が小さすぎる比較例1、2では、少なくとも一部で共連続構造が見られ、極性樹脂への融着性に欠けている上、テーバー摩耗の値も大きくて耐摩耗性が劣るものである。また、射出成型したプレートを23℃で24時間静置した後の表面を目視により観察したところ、ぬれ光沢はないが、指で触ると貼りついてプレートが持ち上がってくるようなタックがある。
軟化剤の量が少なすぎる比較例3は、柔軟性が不十分であり、触感が劣るものである。軟化剤の量が多すぎる比較例4は、共連続構造となっており、極性樹脂への融着性及び耐摩耗性に欠けているうえ、射出成型したプレートには目視でわかるほどのぬれ光沢があり、指で触ると貼りつくようなタックがあり、表面のベタツキが生じている。
熱可塑性ポリエステル系エラストマーの量が少なすぎる比較例5は、共連続構造となっており、極性樹脂への融着性が不十分であり、耐摩耗性も劣っているうえ、射出成型したプレートには、指で触るとタックがある。熱可塑性ポリエステル系エラストマーの量が多すぎる比較例6は、柔軟性に欠けており、触感が劣るものである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に有用であり、さらにはグリップ、チューブ、パッキン、ガスケット、クッション体、フィルム、シート等の各種部材に用いられる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10〜50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000〜500,000のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体であり、
前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30〜500mm2/sであり、
前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90〜30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50〜150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200〜300質量部含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120〜200質量部含み、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。
【請求項2】
A硬度が70以下である、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
さらに、相溶化剤Dを、熱可塑性スチレン系エラストマーAの100質量部に対して、1〜30質量部含む、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に融着してなる、複合成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-28 
出願番号 P2019-157201
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 16- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 土橋 敬介
佐藤 健史
登録日 2020-09-25 
登録番号 6768901
権利者 アロン化成株式会社
発明の名称 熱可塑性エラストマー組成物  
代理人 細田 芳徳  
代理人 細田 芳徳  
代理人 重野 剛  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ